説明

壁掛け便器の壁への取付け構造

【課題】壁掛け便器の壁への取付け構造であって、便器の姿勢を適正に保ったままトイレに簡単に設置できる壁掛け便器の壁への取付け構造を提供する。
【解決手段】壁掛け便器10と、壁掛け便器を支えるフレーム30と、フレームをトイレ床面に立設させるベース板20を備え、フレームはトイレの壁面に固定具を介して固定されるようになった壁掛け便器の壁への取付け構造であって、固定具100は、フレーム30とトイレ壁面との間隔を調整可能な間隔調整手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁掛け便器の壁への取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からトイレ内に既に設置された既存の便器を取り去って壁掛け便器を後付け設置することで便器とトイレ床面との間の空間を確保し清掃性を向上することが行われている(例えば、特許文献1参照)。ここで、特許文献1に開示された壁掛け便器は、トイレ壁において室内壁面と外壁面間に空間が形成されてその空間内に洗浄水を溜める洗浄タンクが隠蔽された状態で内蔵されている。そして、この洗浄タンクは、その下部に設けられた配管フレームの上面フレーム上に設置されている。また、配管フレームは、縦フレームの下端に床の躯体に固定される補強用の固定フレームを備えている。
【0003】
また、このような縦フレームをトイレの壁面に固定する固定構造も配管ユニットの固定構造として知られている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0004】
この特許文献2に記載の固定構造は、枠状のフレーム内に配管類を収納支持し、このフレームの前面に前面板を取付け、前面板に大便器、小便器、洗面器等の衛生設備を取付けるようになっている。そして、フレームの壁固定用横材に壁固定用部材のアンカーボルトを貫通させる穴と調整用部材のボルトを貫通させる穴とを兼用する角穴を複数配設している。
【0005】
また、特許文献3に記載の固定構造は、内部に配管を収納するフレームとフレームに着脱可能に取付けられる化粧板とからなる配管ユニットにおいて、複数の穴を有する長辺の壁固定部材を設け、壁固定部材の一つの穴をフレームに固定し、他の穴を壁に固定するようになっている。
【特許文献1】特開2003−96885号公報(2頁、図1)
【特許文献2】特開2003−278258号公報(3頁、図1)
【特許文献3】特開2005−264619号公報(4−5頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば木造住宅や施工の不十分な鉄筋コンクリート住宅の場合、トイレの壁を構成する躯体がしっかりしていないため、上述した従来の後付けタイプの壁掛け便器を後付け設置した場合には、様々な問題が生じてしまう。
【0007】
具体的には、上述した特許文献1に記載の壁掛け便器では、躯体に接する補強用フレームの長さが便器の先端まで達しない短い構造となっている。そのため、使用者が便座に座ったときにフレームに生じる曲げモーメントによってフレームが躯体から乖離するのを防止するために、補強用フレームを躯体にボルト等でしっかりと固定すると共に、曲げモーメントによる縦フレームの倒れ及び便器の前方への傾斜を防止するために、縦フレームをトイレ後方の壁の躯体に固定する必要がある。
【0008】
しかしながら、このようなボルト締めを必要とする構成では、そもそも躯体自体が十分な強度を有さない木造住宅である場合、従来例の壁掛け便器をこの躯体に設置することは困難である。
【0009】
また、仮にこのような壁掛け便器を木造住宅に設置する場合であっても、躯体の経年変化によりトイレの壁面が局所的に傾いていたり撓んでいたり微妙に歪んでいたりするため、このような従来の縦フレームをトイレの壁面に取付ける固定構造では縦フレームを床面に対して垂直に立設して便器の姿勢を正しく保つことは難しい。そのため、使用者がトイレの着座時に姿勢が前のめりになったり一方の側に傾いたりしてトイレ使用中に使用者に不快感を与えてしまう。
【0010】
一方、鉄筋コンクリート住宅のように上述の長さの短い補強用フレームをボルト締めすることができる強度を躯体が有する場合であっても、トイレの壁の躯体の施工が不十分な場合にこの問題が生じる。
【0011】
また、高齢者や下肢に障害を持たれている方へ便器への立ち座り補助機能として、壁掛け便器を昇降させる機能を追加するタイプのものである場合、例えば壁掛け便器を縦フレームに沿って垂直方向に昇降させる必要があるが、この場合も躯体が木造住宅であろうが鉄筋住宅であろうが上記と同様の問題が生じる。具体的には、従来例の壁掛け便器及び縦フレームをトイレの壁面に固定する固定構造では、上述したように縦フレームを床面に対して垂直に立設するのが難しいため、便器昇降中に昇降ガイドの一部にせりや磨耗が生じて昇降中に異音を発生したりガタついて使用者に不快感を与えたりすることがある。また、このようなせりや摩耗により昇降装置の耐久性が低下する。
【0012】
本発明の目的は、壁掛け便器の壁への取付け構造であって、便器の姿勢を適正に保ったままトイレに簡単に設置できる壁掛け便器の壁への取付け構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明にかかる壁掛け便器の壁への取付け構造は、
壁掛け便器と、前記壁掛け便器を支えるフレームと、前記フレームをトイレ床面に立設させるベース板を備え、前記フレームはトイレの壁面に固定具を介して固定されるようになった壁掛け便器の壁への取付け構造において、
前記固定具は、前記フレームと前記トイレ壁面との間隔を調整可能な間隔調整手段を備えたことを特徴としている。
【0014】
壁掛け便器の固定具がこのような間隔調整手段を有することで、トイレ壁面の状態の如何にかかわらず、フレームとトイレの壁面との間隔を調整することで、壁掛け便器を支えるフレームを床面に対して垂直に立設することができる。
【0015】
また、住宅側排水管の設置誤差があった場合に、住宅側排水管の位置を基準としてフレームを取付けないといけないので、フレームと壁との間隔が一義的に決まった壁掛け便器の場合、フレームを壁に取付けることができないが、本発明における壁掛け便器の場合、本発明特有の間隔調整手段を有することで、このような状況にも対応できる。
【0016】
また、本発明の請求項2に記載の壁掛け便器の壁への取付け構造は、
壁掛け便器と、前記壁掛け便器を支えるフレームと、前記フレームをトイレ床面に立設させるベース板を備え、前記フレームはトイレの壁面に固定具を介して固定されるようになった壁掛け便器の壁への取付け構造において、
前記固定具は、前記トイレ壁面の状態の如何にかかわらず前記フレームを前記トイレ壁面に対して引っ張る力を常に所定の方向に向かせる調芯手段を備えたことを特徴としている。
【0017】
壁掛け便器の固定具がこのような調芯手段を有することで、トイレ壁面の状態の如何に関わらず、フレームをトイレの壁面に対して引っ張る力を所定の方向に向かせることができる。その結果、トイレの壁が傾いている場合であっても壁掛け便器をトイレに正しく取付けることができる。
【0018】
また、例えばフレームに備わった調芯手段が独立した2つの調芯手段からなる場合、左右の取付け板がばらばらの方向へ向くような歪みをトイレの壁が有していてもこれに対応できる。
【0019】
また、本発明の請求項3に記載の壁掛け便器の壁への取付け構造は、請求項1に記載の壁掛け便器の壁への取付け構造において、
前記固定具は、前記フレーム側に取付けられたアームと、前記トイレ壁面に締結具を介して取付けられ一部に凹み部を有する取付け板と、前記アームと取付け板を結合する結合部からなり、前記結合部は、ネジ部が前記アーム及び取付け板をそれぞれ貫通するボルトと、前記ボルトを前記アームの両側からそれぞれ締結するダブルナット及びナットからなり、前記ボルトとダブルナット及びナットとアームが協働して前記間隔調整手段を構成することを特徴としている。
【0020】
固定具がこのような構成を有することで固定具の間隔調整手段を少ない部品で低コストに実現できる。
【0021】
また、本発明の請求項4に記載の壁掛け便器の壁への取付け構造は、請求項2に記載の壁掛け便器の壁への取付け構造において、
前記固定具は、前記フレーム側に取付けられたアームと、前記トイレ壁面に締結具を介して取付けられ一部に凹み部を有する取付け板と、前記アームと取付け板を結合する結合部からなり、前記結合部は、ネジ部が前記アーム及び取付け板をそれぞれ貫通するボルトと、前記ボルトの頭を内側に収容すると共に外側が前記取付け板の凹み部に収容されるカップ状の調芯具とからなり、前記調芯具とボルトと取付け板とが協働して前記調芯手段を構成することを特徴としている。
【0022】
固定具がこのような構成を有することで固定具の調芯手段を少ない部品で低コストに実現できる。
【0023】
また、本発明の請求項5に記載の壁掛け便器の壁への取付け構造は、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の壁掛け便器の壁への取付け構造において、
前記壁掛け便器は、固定フレームと固定フレームに対して昇降可能な可動フレームとからなり、前記便器は前記可動フレームに取付けられて前記固定フレームに対して昇降可能となったことを特徴としている。
【0024】
壁掛け便器の固定具が、間隔調整手段又は調芯手段の少なくとも何れか一方を有することで、トイレ壁面の状態の如何にかかわらず、壁掛け便器を支えるフレームの固定フレームを床面に対して垂直に立設することができるため、容易に昇降可能にすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、壁掛け便器の壁への取付け構造であって、便器の姿勢を適正に保ったままトイレに簡単に後付け設置できる壁掛け便器の壁への取付け構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態にかかる壁掛け便器の壁への取付け構造について図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる壁掛け便器の壁への取付け構造を斜め前方から見た全体斜視図であり、図2は、図1に示した壁掛け便器の壁への取付け構造を斜め後方から見た斜視図である。また、図3は、図1に示した壁掛け便器の壁への取付け構造を、便器を外した状態で示す側面図であり、図4は、図1に示した壁掛け便器の壁への取付け構造を、便器を外した状態で示す斜視図である。また、図5は、図1に示した壁掛け便器のベース板とフレームの寸法関係の一例を示す斜視図であり、図6は、図1に示した壁掛け便器のフレームとベース板のトイレ躯体への取付け構造を示す部分的斜視図である。また、図7は、図1乃至図4に示した壁掛け便器の固定具を分解して示す斜視図であり、図8は図4に示した固定具100を一部組立てて示す斜視図である。また、図9は、木造住宅の床の躯体を示す斜視図であり、図10は、図1に示した壁掛け便器の壁への取付け構造をトイレブースに適用した場合の側面図である。
【0027】
本発明の一実施形態にかかる壁掛け便器の壁への取付け構造1は、木造住宅又は鉄筋コンクリート住宅に設置するタイプのもので、図1乃至図4に示すように、便器10と、トイレ床面Fの部分的補強層をなすベース板20(21,22)と、ベース板20に垂設されたフレーム30とを有し、便器10は、図1及び図2に示すように便器底部11とベース板20との間で所定の清掃用空間が形成されるように便器10の背面がフレーム30に取付けられている。そして、フレーム30は、その上部において固定具100によってトイレの便器後方の壁面W(図3及び図10参照)に固定されている。
【0028】
また、便器背面13にはここでは図示しない汚物排出孔が形成され、この汚物排水孔には図2に一部を示す伸縮自在なテレスコタイプの排水管70が接続され、この排水管70は、トイレ床面の排水用開口部を通ってトイレ下方の排水管に接続されている。また、便器10の汚物排出孔に一端が接続した伸縮自在なテレスコタイプの排水管70は例えばゴムでできた蛇腹管71で覆われてその排水管の伸縮時に排水管から漏れ出る臭気がトイレ内に拡散するのを防止している。
【0029】
また、便器10は、図2に示すロータンク50を介して便器自体の洗浄を行うようになっている。
【0030】
一方、便器10を支持するフレーム30は、本実施形態ではトイレの床面Fの一部をなすベース板20に対して便器10の底部11が所定間隔を保って対向配置するように便器10を支持している。
【0031】
なお、フレーム30は、図4に示すように、ベース板20から所定間隔隔てて垂直に立設した2本の固定フレーム31と、この2本の固定フレーム31に沿って上下にスライド可能な可動フレーム32を備えている。可動フレーム32は、固定フレーム31に沿ってスライドする2本のスライド部32aと、この2本のスライド部32aを連結する2本の連結部32bからなり、それぞれのスライド部32aに便器10の背面に向かってスタッドボルト33(図3及び図4参照)が突出し、図示しないネジ等で可動フレーム32に便器10の背面をしっかりと固定している。また、固定フレーム31の上端は、固定具100によってトイレの便器後方の壁面に固定されている。なお、固定具100の詳細な構造については後述する。
【0032】
また、可動フレーム32の上端にはロータンク50(図2参照)を載せる載置部32c(図1参照)が設けられ、図1では図示しない便器洗浄用のロータンク50がこの上に載置されるようになっている。
【0033】
また、固定フレーム31の下方部分には、図2に示すように、DCモータなどのモータ61が配置され、可動フレーム32の一部にはこのモータ61で駆動され伸縮自在に延在する例えばボールネジ63からなる伸縮シャフト62の端部が結合されている。そして、トイレの使用者や清掃者がトイレに備わった昇降スイッチ80(図10参照)を操作することでモータ61の駆動力を介して可動フレーム32を固定フレーム31に対して所定量だけ昇降させるようになっている。
【0034】
固定フレーム20の下端は、図1乃至図4に示すように、便器側方から見て便器後方に折曲した断面略L型の鋼板からなる取付け板36を介してベース板20に固定されている。なお、この固定に際しては、図示しないボルト等の締結具を用いても良く、溶接によって固定しても良い。
【0035】
なお、図1及び図2は可動フレーム32及びこれに取付けられた便器10が固定フレーム31の上端に位置するようにモータ61を駆動制御した状態を示し、図10は可動フレーム32及びこれに取付けられた便器10が固定フレーム31の下端に位置するようにモータ61を駆動制御した状態を示している。
【0036】
固定フレーム31を支持するベース板20は、厚さ9mmの鋼板でできており、図1に示すように、ベース板21,22がフレーム30の2本の固定フレーム31の下端から便器10の前方に向かってそれぞれ便器10の若干先まで延在している。このベース板20は例えば厚さ9mmの鋼板からなり、ベース板20が嵌り合う細長の切り欠きを有した例えば厚さ96mmのパネルの凹み部(図1では図示せず)と組み合わさってトイレ床面を形成するようになっている。なお、このベース板20は必ずしもトイレ床面のパネルの凹み部と組み合わせる必要はなく、図1に示す躯体の耐水合板230上にベース板20を載置する構造であっても良い。
【0037】
図5は、図1に示した壁掛け便器のフレーム30とベース板20のトイレ躯体への取付け構造を示す部分的斜視図である。ベース板21,22は、フレーム30の2本の固定フレーム31の下端から便器10の前方に向かってそれぞれ便器10の若干先まで延在している。このベース板21,22は例えば厚さ9mmの鋼板からなり、ベース板21,22が嵌り合う細長の切り欠きを有した例えば厚さ9mmのパネルと組み合わさってトイレ床面を形成するようになっている。
【0038】
また、ベース板21,22の全長は、ベース板21のトイレ壁側とベース板22のトイレ壁側間の距離よりも長くなっている。また、ベース板21,22の長さは、ベース板21,22から可動フレーム32の便器固定穴32dまでの高さよりも長くなっている。即ち、便器10が上昇して可動フレーム32の便器固定穴32dが上限位置にある場合のこの便器固定穴32bのベース板21,22からの高さよりもベース板21,22の全長が長くなっている。また、フレーム30がトイレ壁面に取付けられる部分の高さ、即ちベース板21,22からブラケット35の端面35aまでの高さはベース板21,22の長さとほぼ同等となっている。
【0039】
このように、トイレ床に延出して補強層をなすベース板21,22の長さが固定フレーム31の、便器10を固定している便器上昇時、下降時、一般時全て位置の高さ寸法より長くなっているので、特別な作用効果を生じる。具体的には、固定フレーム31を支持するベース板21,22がトイレ床面の少なくとも一部をなすようになるので、従来のような長さの短い補強フレームをボルトでトイレ床の躯体にしっかりと固定する必要が無くなり、本実施形態の便器使用時に補強用フレームをなすベース板21,22に作用する曲げモーメントを躯体が有するボルトの引き抜き強度で耐える必要はなく、この壁掛け便器をトイレに容易に設置することができるようになる。
【0040】
このようなベース板21,22はトイレ床面の一部をなすので、従来例の補強フレームをトイレの床に取付ける場合のような大きいサイズのボルト(締結具)を用いることなく、小さなサイズのボルトを用いて床基礎部に対してずれないように固定すれば良いので、突出部を従来例に比べてかなり小さくすることができる。
【0041】
図6はこのボルトサイズの小型化を視覚的に理解し易いように示した図面である。同図でボルト361〜364は固定フレーム31の取付け板36及びベース板21,22をトイレの躯体に取付けるボルトで、固定フレーム31の取付け板36及びベース板21,22を貫通して躯体側のここでは図示しない雌ねじにねじ込まれている。また、ナット365〜369は、ベース板21,22から上向きに突出したスタットボルトに螺合されるナットで、ベース板21,22と固定フレーム31の取付け板36とをしっかり固定するようになっている。この図からも明らかなように、本発明における壁掛け便器をトイレの躯体に取付けるボルト361〜364が小さなサイズのボルトで済むことが明らかである。
【0042】
これによって、ベース板21,22はトイレ床面の一部をなし、ベース板21,22とトイレの床パネルとが相補的に組み合わさることで略フラットなトイレ床面Fを形成し、便器10とトイレ床面Fとの間の空間の清掃性を上述した実施形態と同様に向上させることができる。このようにベース板21,22をトイレ床面Fの一部とすることでトイレ床面の補強層を分割することができ、補強層の精度を向上させることができる。具体的には、ベース板21,22をこのような床面の一部をなす補強層とすることで、躯体の影響を受けることなくベース板21,22の水平度を出し易くなり、これによって便器10の姿勢を適正に保つことができる。また、トイレ床面の補強層を分割することで補強層一枚あたりの重量が小さくなり、施工が容易になる。
【0043】
このように、木造住宅や鉄筋コンクリート住宅のトイレに本実施形態にかかる壁掛け便器を設置する場合であっても、ベース板21,22がトイレ床面の一部をなすことで、トイレ床面や壁面の基礎をなす躯体の影響を受けずに便器10を正しい姿勢でトイレに設置できる。
【0044】
続いて、固定具100の具体的構成について詳細に説明する。図7及び図8は一方の固定具100、即ち図1における手前側の固定具100を示す分解斜視図である。なお、図1における他方の固定具100は、図7、図8における一方の固定具100のアーム110が左右対称となっている点で異なり、他は同形態である。固定具100は、図7及び図8に示すように、便器固定フレーム側に取付けられたアーム110と、トイレ壁面に後述する締結具を介して取付けられ一部に凹み部121を有する取付け板120と、アーム110と取付け板120を結合する結合部からなる。そして、結合部は、ネジ部152がアーム110及び取付け板120をそれぞれ貫通するボルト150と、ボルト150の頭151を内側に収容すると共に外側が取付け板120の凹み部121に収容されるカップ状の調芯具160と、トイレ壁面からアーム110までの距離を規定しながらアーム110と取付け板120との間でボルト150に螺合するダブルナット171,172及びアーム110のダブルナット171,172と反対側からボルト150に螺合されるナット174からなる。
【0045】
そして、調芯具160には、ボルト150の頭151の外径よりは小さくネジ152の外径よりは或る程度大きいボルト挿通孔161が形成され、調芯具160の中心軸線とボルト150の中心軸線が一致する状態だけでなく、各中心軸線が互いに或る角度をなした状態でもボルト150の頭の外周縁を調芯具160の内周面で全体的に受け止め、調芯具160の中心軸線、即ち取付け板120の取付けられる壁面とボルト150の中心軸線、即ちアーム110の端部115とが平行でなくてもこれら法線(軸線)間のずれを吸収する調芯作用を有している。
【0046】
即ち、調芯具160とボルト150の頭151とが取付け板120の凹み部121と協働して調芯手段を構成している。
【0047】
また、調芯具160は、取付け板120の凹み部121に収容された状態で調芯具160の半割り面が取付け120の凹み部側の壁取付け面と面一となる寸法を有している。
【0048】
また、ボルト150とダブルナット171,172及びナット174とアーム110とはそのダブルナット171,172及びナット174のワッシャ173,175を介したボルト150のネジ部に対する締め付け位置でアーム110と取付け板120との間隔を調整でき、これら両者が協働して間隔調整手段を構成している。
【0049】
続いて、上述した実施形態における壁掛け便器の壁への具体的な取付けの仕方とこの壁掛け便器の壁への取付け構造の作用について説明する。
【0050】
本実施形態における壁掛け便器を例えば木造住宅に設置する場合、図9に示す躯体としての床基礎部200の上に補強層と共に、壁掛け便器20のベース板20を取付ける。この際、便器側の排水管70はフレーム30に取付けられ、フレーム30はベース板20に取付けられているため、便器側の排水管70を住宅側の排水管と同心をなすように取付けて円滑な排水を確保するためには、ベース板20は住宅側排水管の位置を基準として取付ける必要がある。従って、フレーム30の固定フレーム31とトイレの壁面との間隔が常に一定となるわけではない。なお、木造住宅の床側の躯体をなす床基礎部200は、図9に示すようにトイレ室内の長手方向に両端に延在する例えば90mm角以上でピッチ900mm以内の縦長の大引き210及びこの大引き上に交差して所定間隔隔てて載った45mm角以上でピッチ300mm以内の根太220とその上を全体的に覆った例えば厚さ12mm以上の耐水合板230からできている。
【0051】
次いで、ベース板20を床基礎部200上に図示しないボルト等で横ずれしないように固定する。この際、ベース板20はある程度の面積を有しているので、従来例のように大きなボルトで躯体に取付ける必要はなく、横ずれ防止するのに十分な小さいボルトで床基礎部200に取付けるだけで良い。
【0052】
次いで、この状態でベース板20に垂設したフレーム30の上部をトイレの壁W(図3及び図10参照)に固定する。
【0053】
この壁掛け便器の壁への取付けに当たっては、最初に壁側の躯体からスタッドボルト190を突出させ、このスタッドボルト190に取付け板120を取付ける。なお、この取付けに際して、予め取付け板120の凹み部121に調芯具160を収容しておくと共に、調芯具160の内側にネジ部152が調芯具160の貫通孔161と取付け板120の貫通孔122とを貫通するようにボルト150を挿通させておく。
【0054】
次いで、取付け板120を壁側の躯体にワッシャ191及びナット192を介してしっかりと取付ける。この状態では、取付け板120の凹み部121に収容される調芯具160は、その半割り面が壁に当接して調芯具自体が凹み部121内に固定収容されている。
【0055】
次いで、ボルト150にダブルナット171,172を螺合させると共にワッシャ173を嵌め込み、フレーム30のアーム110の取付け孔111にボルト150のネジ部152を挿通させる。
【0056】
次いで、便器10が正しい姿勢を保つようにフレーム30と取付け板120との間隔を調整しながらダブルナット171,172を締結し、アーム110から突出したボルト150のネジ部152にワッシャ175を嵌め込むと共に、ナット174を螺合させる。
【0057】
なお、この間隔調整作業とダブルナット171,172の締結作業に伴い、ボルト150の頭が調芯具160の内周の適正な位置にずれてこの状態で固定具100の各構成要素が固定される。この固定に際しては、調芯手段の調芯作用、即ち調芯具160の中心軸線とボルト150の中心軸線が一致する状態だけでなく、各中心軸線が互いに或る角度をなした状態でもボルト150の頭の外周縁を調芯具160の内周面で全体的に受け止め、調芯具160の中心軸線、即ち取付け板120の取付けられる壁面とボルト150の中心軸線、即ちアーム110の端部115とが平行でなくてもこれら法線(軸線)間のずれを吸収する作用を奏する。これによって、トイレ壁面Wの状態の如何に関わらず、フレーム30をトイレの壁面Wに対して引っ張る力を所定の方向に向かせながらフレーム30とトイレの壁面Wとの間隔を調整することができる。
【0058】
即ち、本実施形態にかかる壁掛け便器の壁への取付け構造を実現することで、上述した間隔調整手段を有することにより、住宅側排水管の位置に多少ずれがあり、便器側の排水管70を住宅側の排水管と同心をなすように取付けて円滑な排水を確保するためにこの位置のずれた住宅側排水管に合わせて固定フレーム31を取付けねばならないとしても、間隔調整手段でずれを吸収できるため、固定フレーム31がトイレ床面に対して垂直を保ったまま壁掛け便器をトイレに設置できる。
【0059】
また、上述した調芯手段を有することにより、トイレの床と壁が不陸である場合にも調芯手段によって固定フレーム31が床と垂直を保ったまま取付け板120をトイレの壁と並行に調整できるため、固定フレーム31がトイレの床に対して垂直になった状態で壁掛け便器をトイレに固定することができる。
【0060】
また、トイレの壁が様々な方向へ歪んでいる場合にも、調芯手段によって取付け板120をトイレの壁の歪みに対して並行に調整できるため、固定フレーム31がトイレの床に対して垂直に保ったまま壁掛け便器をトイレに設置できる。そのため、便器10が前倒れしたり便器10の左右一方が傾いたりして使用者の着座姿勢が悪くなるのを防止することができる。
【0061】
なお、本実施形態における壁掛け便器の壁への取付け構造を鉄筋コンクリートに適用する場合、床側の躯体に補強層と共にベース板20を載せてこのベース板20が床に対してずれないように比較的小さいボルトやアンカー等の締結具で床に固定する。そして、フレーム30を固定具100によって上述と同様の工程で壁側の躯体に取付け、壁側の躯体に壁掛け便器の壁への取付けを行う。
【0062】
このようにして壁掛け便器をトイレの床と壁に取付けた後、使用者は、図10に示す昇降スイッチ80の上昇ボタン81を押して便器10をフレーム30の上方まで上昇させる。これによって、使用者は、便座40に座る際に極端に屈むことなく腰掛ける感じで楽に座ることができる。
【0063】
そして、使用者は、昇降スイッチ80の下降ボタン82を押して便器10を図10に示すフレーム30の下方まで下げ、用を足した後、再び上昇ボタン81を押して便器10を上昇させて便座40から腰をあまり屈めることなく楽に立ち上がって用足しを終えることができる。このような使用者の一連の動作中、使用者が便座40に座る際にフレーム30に生じる曲げモーメントを床面Fの一部をなすベース板20及びフレーム30と壁面Wとを連結する固定部100で受け持つことができるので、壁の躯体の状態が反ったり、ゆがんだり、全体的に曲面状をなしていても便座40が前倒れしたり左右の一方に傾いたりすることなく使用者がトイレを快適に使用することができる。
【0064】
なお、壁掛け便器の固定具100がこのような間隔調整手段や調芯手段を有することで、壁掛け便器の昇降時においても、トイレ壁面の状態の如何にかかわらずフレーム30をトイレの壁面Wに対して引っ張る力を所定の方向に向かせながらフレーム30とトイレの壁面Wとの適正な間隔を保つことができる。
【0065】
その結果、トイレ壁における躯体の状態の如何に関わらず、壁掛け便器の昇降中常にフレーム30をベース板20に対して垂直に立設したままとすることができる。そのため、使用者が便器に着座中に便器を昇降させてもフレームの一部がせったり摩耗したりして便器10が昇降中にガタついたり異音を発生したりすることもない。これによって、壁掛け便器の昇降中に使用者に不快感を与えずに済む。また、便器10が常に滑らかに昇降することで昇降装置の耐久性を高めることができる。
【0066】
一方、清掃者がトイレを清掃する際は、便器10が図1に示すようにフレーム30の上方に上昇した状態で便器下方と本実施形態でいう床面Fの一部をなすベース板20との間の清掃を行う。この清掃を行うに際して本実施形態の構造によると、トイレの床面Fをなすベース板20に極端に大きなボルト等の無用な突起物が無いので、便器10とこの下方の床面Fを楽にかつ素早く清掃することができる。
【0067】
以上説明した実施形態に係る壁掛け便器の壁への取付け構造においては、昇降式壁掛け便器を用いて紹介したが、このような昇降式壁掛け便器ではなく便器固定フレームの所定の高さに便器が固定設置され、便器底部と床面との間に一定の清掃用空間が確保された固定式壁掛け便器に本発明を適用しても上述した特有の作用を十分発揮することは言うまでもない。
【0068】
しかしながら、昇降式壁掛け便器の場合、使用者が便座に着座して便器を昇降させている間中、便器固定フレームが床面の一部をなすベース板に対して常に垂直を保っているので、便器昇降中に便器固定フレームとの間のせりや磨耗が生じず、その結果、便器昇降中にガタツキや異音を発生せずに、トイレ使用者に常に快適な使用感を与えることができる。また、便器が常に滑らかに昇降することで昇降装置の耐久性を高めることができる。
【0069】
なお、上述した実施形態に係る壁掛け便器の壁への取付け構造は固定具が間隔調整手段と調芯手段の双方を備えていたが、それとは異なり何れか一方のみを備えていても本発明の作用を発揮し得る。具体的には、本発明にかかる壁掛け便器の壁への取付け構造が間隔調整手段を備えることで、トイレ壁面の状態の如何にかかわらず、フレームとトイレの壁面との間隔を調整することができるという作用を独自に発揮し、調芯手段を備えることでトイレ壁面の状態の如何に関わらずフレームをトイレの壁面に対して引っ張る力を所定の方向に向かせることができるという作用を独自に発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態にかかる壁掛け便器の壁への取付け構造を斜め前方から見た全体斜視図である。
【図2】図1に示した壁掛け便器の壁への取付け構造を斜め後方から見た斜視図である。
【図3】図1に示した壁掛け便器の壁への取付け構造を、便器を外した状態で示す側面図である。
【図4】図1に示した壁掛け便器の壁への取付け構造を、便器を外した状態で示す斜視図である。
【図5】図1に示した壁掛け便器のベース板とフレームの関係の一例を示す斜視図である。
【図6】図1に示した壁掛け便器の固定フレームとベース板のトイレ躯体への取付け構造を示す部分的斜視図である。
【図7】図1乃至図3に示した壁掛け便器の固定具を分解して示す斜視図である。
【図8】図4に示した固定具を一部組立てて示す斜視図である。
【図9】木造住宅の床の躯体を示す斜視図である。
【図10】図1に示した壁掛け便器の壁への取付け構造をトイレブースに施工した側面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 壁掛け便器
10 便器
11 便器底部
13 便器背面
20,21,22 ベース板
30 フレーム
31 固定フレーム
32 可動フレーム
32a スライド部
32b 連結部
32c 載置部
33 スタッドボルト
36 取付け板
40 局所洗浄便座
50 ロータンク
61 モータ
62 伸縮シャフト
63 ボールネジ
70 排水管
71 蛇腹管
80 昇降スイッチ
81 上昇ボタン
82 下降ボタン
100 固定具
110 アーム
111 取付孔
115 端部
120 取付け板
121 凹み部
122 貫通孔
150 ボルト
151 ボルトの頭
152 ネジ部
160 調芯具
161 ボルト挿通孔
171,172 ダブルナット
173 ワッシャ
174 ナット
175 ワッシャ
190 スタッドボルト
191 ワッシャ
192 ナット
200 床基礎部
210 大引き
220 根太
230 耐水合板
361〜364 ボルト
365〜369 ナット
F 床面
W トイレの壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁掛け便器と、前記壁掛け便器を支えるフレームと、前記フレームをトイレ床面に立設させるベース板を備え、前記フレームはトイレの壁面に固定具を介して固定されるようになった壁掛け便器の壁への取付け構造において、
前記固定具は、前記フレームと前記トイレ壁面との間隔を調整可能な間隔調整手段を備えたことを特徴とする壁掛け便器の壁への取付け構造。
【請求項2】
壁掛け便器と、前記壁掛け便器を支えるフレームと、前記フレームをトイレ床面に立設させるベース板を備え、前記フレームはトイレの壁面に固定具を介して固定されるようになった壁掛け便器の壁への取付け構造において、
前記固定具は、前記トイレ壁面の状態の如何にかかわらず前記フレームを前記トイレ壁面に対して引っ張る力を常に所定の方向に向かせる調芯手段を備えたことを特徴とする壁掛け便器の壁への取付け構造。
【請求項3】
前記固定具は、前記フレーム側に取付けられたアームと、前記トイレ壁面に締結具を介して取付けられ一部に凹み部を有する取付け板と、前記アームと取付け板を結合する結合部からなり、前記結合部は、ネジ部が前記アーム及び取付け板をそれぞれ貫通するボルトと、前記ボルトを前記アームの両側からそれぞれ締結するダブルナット及びナットからなり、前記ボルトとダブルナット及びナットとアームが協働して前記間隔調整手段を構成することを特徴とする請求項1に記載の壁掛け便器の壁への取付け構造。
【請求項4】
前記固定具は、前記フレーム側に取付けられたアームと、前記トイレ壁面に締結具を介して取付けられ一部に凹み部を有する取付け板と、前記アームと取付け板を結合する結合部からなり、前記結合部は、ネジ部が前記アーム及び取付け板をそれぞれ貫通するボルトと、前記ボルトの頭を内側に収容すると共に外側が前記取付け板の凹み部に収容されるカップ状の調芯具とからなり、前記調芯具とボルトと取付け板とが協働して前記調芯手段を構成することを特徴とする請求項2に記載の壁掛け便器の壁への取付け構造。
【請求項5】
前記壁掛け便器は、固定フレームと固定フレームに対して昇降可能な可動フレームとからなり、前記便器は前記可動フレームに取付けられて前記固定フレームに対して昇降可能となったことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の壁掛け便器の壁への取付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−240380(P2008−240380A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83075(P2007−83075)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【出願人】(390010054)小糸工業株式会社 (136)
【Fターム(参考)】