説明

壁状構造物の施工方法

【課題】 底版上に壁部を立設して壁状構造物を形成する際に、壁部にひび割れを生じることがなく、施工が容易であり、さらにコストを低減することが可能な壁状構造物の施工方法を提供する。
【解決手段】 底版10上に壁基部21となるプレキャスト埋設型枠30を設置すると共に、当該プレキャスト埋設型枠30に凝結遅延剤を添加したコンクリートを打ち込むことにより壁基部21を施工し、壁基部21の上部に凝結遅延剤が添加されていないコンクリートを打ち込むことにより壁本体部22を施工して壁部20を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁状構造物の施工方法に関するものであり、詳しくは、底版上に壁部を立設して形成する壁状構造物の施工方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、壁式橋台の堅壁、ボックスカルバートの側壁、橋梁上部工の地覆・高欄などの壁状構造物を構築するには、フーチング、底版や床版などの既設コンクリート(底版)を施工し、この底版上に壁部コンクリートを打ち込む。この際、底版が拘束体となって壁部コンクリートの体積変化を拘束するため、壁部に温度ひび割れが生じる。すなわち、マスコンクリートは、セメントの水和熱が断面内に蓄積されることで、初期材齢時に膨張と収縮の体積変化が生じる。これらの体積変化において、収縮変形が拘束されると、ひび割れが発生しやすい。このようなひび割れは断面を貫通し幅も大きくなることが多く、漏水などの使用性低下や耐久性低下を招くことが多い。
【0003】
このような不都合を回避するため、底板の上部に拘束の小さい先行壁体部を形成し、先行壁体部の上部に壁部となるコンクリートを打ち込む工法が開発されている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載された技術は、底版の上面に、壁部に相当する厚みを有する突条部(先行壁体部)を上方へ向かって形成し、この突条部上にコンクリートを打ち込むことにより上部壁体(壁部)を形成するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−291494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載された技術は、底版上に直接、コンクリートを打ち込むことにより壁部を構築する場合と比較して、底版からの拘束が弱まり、発生する温度応力が小さくなるため、ひび割れの発生が抑制されるという優れた効果を有している。しかし、この技術は、底版の上部の先行壁体部に特徴を有するが、先行壁体部の構築(形成)には浮き型枠、あるいは壁部の分割打込みが必要となるので、作業の手間及び施工費用を低減するために、さらなる工夫が求められていた。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、底版上に壁部を立設して壁状構造物を形成する際に、壁部にひび割れを生じることがなく、施工が容易であり、さらにコストを低減することが可能な壁状構造物の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の壁状構造物の施工方法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明の壁状構造物の施工方法は、底版上に壁部を構築する壁状構造物の施工方法であって、底版上に壁基部となるプレキャスト埋設型枠を設置すると共に、当該プレキャスト埋設型枠に凝結遅延剤を添加したコンクリートを打ち込むことにより壁基部を施工し、壁基部の上部に凝結遅延剤が添加されていないコンクリートを打ち込むことにより壁本体部を施工することを特徴とするものである。
【0008】
このような工程からなる壁状構造物の施工方法では、底版上において、下部に凝結遅延剤を添加したコンクリートを、さらにその上部に凝結遅延剤が添加されていないコンクリートをそれぞれ打ち込むことにより、底版に接する壁基部におけるコンクリートの凝結を遅延させる。なお、凝結遅延性コンクリートを打ち込む部分には、通常型枠の内部にプレキャスト埋設型枠を設置し、初期材齢時において上部のコンクリートとプレキャスト埋設型枠で周囲を拘束することにより、壁基部のコンクリートを強度発現前でも安定した状態に保つ。
【0009】
また、この壁状構造物の施工方法において、凝結遅延剤による強度発現を2日以上遅延させることが望ましい。このような工程からなる壁状構造物の施工方法では、壁基部におけるコンクリートの遅延効果を十分に確保することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の壁状構造物の施工方法によれば、底版上に壁部を施工する際に、壁基部(壁下部)に凝結遅延剤を添加したコンクリートを打ち込むことにより、初期材齢時に、壁基部で膨張と収縮の体積変化が生じたとしても、底版からの拘束が弱まり、発生する温度応力が小さくなるため、ひび割れの発生が抑制される。また、壁基部と、その上部に連続する壁本体部を一気に施工することができるので、施工が容易であるだけではなく、作業時間が短縮されるので、施工コストの低減が可能となる。
【0011】
また、壁基部において、凝結遅延剤による強度発現を適切に管理することにより、温度上昇時における圧縮応力及び温度降下時における引張応力の増加割合を低下させることができ、施工品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る施工方法を用いた壁状構造物の厚さ方向の断面模式図。
【図2】本発明の実施形態に係る施工方法を用いた壁状構造物の長さ方向の断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る壁状構造物の施工方法の実施形態を説明する。図1及び図2は、本発明の実施形態に係る施工方法を用いた壁状構造物を示すもので、図1は厚さ方向の断面模式図、図2は長さ方向の断面模式図である。
【0014】
本発明の実施形態に係る施工方法を用いて施工する壁状構造物は、図1及び図2に示すように、底版10の上部に壁部20を形成したものであり、壁部20は、壁基部21と、この壁基部21上に連接して施工した壁本体部22とからなる。また、壁基部21は、凝結遅延剤を添加したコンクリートを打ち込むことにより形成し、壁本体部22は凝結遅延剤が添加されていないコンクリートを打ち込むことにより形成する。
【0015】
すなわち、本実施形態では、底版10上に壁部20を形成するための型枠を設置し、この型枠内に配筋を行う。この際、壁基部21となる部分には、プレキャスト埋設型枠30を設置する。そして、プレキャスト埋設型枠30を設置した部分に、凝結遅延剤を添加したコンクリートを打ち込むことにより壁基部21を施工する。続いて、壁基部21の上部に、凝結遅延剤が添加されていないコンクリートを打ち込むことにより壁本体部22を施工する。
【0016】
また、凝結遅延剤を添加したコンクリートを用いて施工する壁基部21の高さは、壁部20の厚さや使用鉄筋の径等に応じて適宜変更して決定される。一般的に、この高さは200〜900mmで、壁部20の両側にはプレキャスト埋設型枠30のみ、あるいは型枠内部にプレキャスト埋設型枠30を設置し、底板10の上面から400mm程度まで、凝結遅延剤を添加したコンクリートを打ち込むことにより壁基部21とする。
【0017】
発明者らが行った実験では、壁基部21において凝結遅延剤によりコンクリートの強度発現を7日程度遅らせることで、壁部20において発生する温度応力が50%以上低減することを確認している。したがって、壁基部21を施工する際に、壁部20のコンクリートの温度が外気温程度に低下する材齢まで凝結遅延剤により遅延させることが望ましい。例えば、厚さ500mm程度の壁体では強度発現を5日以上遅延させることが望ましい。なお、一般的には、強度発現を2日以上遅延させることにより、ひび割れの発生を効果的に抑制することができる。また、使用する凝結遅延剤は特に限定されるものではないが、凝結遅延後の強度発現や製品品質を考慮すると、例えば、グルコン酸系の凝結遅延剤を用いることが望ましい。
【0018】
また、凝結遅延剤を添加したコンクリート層の温度特性と強度発現特性が正確に7日遅れたと仮定した場合の事前解析を行ったところ、凝結遅延剤を添加しないコンクリート層の試験体(標準供試体)と、凝結遅延剤を添加したコンクリート層の試験体(遅延剤使用供試体)とでは、下記表1に示すような解析結果を得ることができた。なお、標準供試体は、打込み温度30.7℃、最高温度58.6℃、温度上昇27.9℃とし、遅延剤使用供試体では、打込み温度30.7℃、最高温度57.9℃、温度上昇27.2℃として解析を行った。
【0019】
【表1】

【0020】
上記表1から明らかなように、標準供試体と遅延剤使用供試体とを比較すると、標準供試体では80.2%であったひび割れ発生確率が、遅延剤使用供試体では23.1%となり、遅延剤使用供試体において顕著なひび割れ防止効果を発揮することができるとの知見を得ている。
【0021】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る施工方法により構築した壁状構造物では、底版10の上面に直接接触する壁基部21を形成する際に、凝結遅延剤を添加したコンクリートを用いることにより、底版10による拘束力が小さくなるため、温度上昇時の圧縮応力及び温度降下時の引張応力の増加割合が低減する。このため、初期材齢時において、壁基部21に対する底版10からの拘束が弱まり、ひび割れの発生を効果的に抑制することができる。
【0022】
なお、上述した実施形態では、本発明を一般的な壁状構造物の施工に適用した例をモデルケースとして説明しているが、本発明は、底版10上に壁部20を構築する壁状構造物であれば、どのような壁状構造物にも適用することができる技術であり、例えばボックスカルバートを構築する際に適用することができる。
【符号の説明】
【0023】
10 底版
20 壁部
21 壁基部
22 壁本体部
30 プレキャスト埋設型枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底版上に壁部を構築する壁状構造物の施工方法であって、
前記底版上に壁基部となるプレキャスト埋設型枠を設置すると共に、当該プレキャスト埋設型枠に凝結遅延剤を添加したコンクリートを打ち込むことにより壁基部を施工し、
前記壁基部の上部に凝結遅延剤が添加されていないコンクリートを打ち込むことにより壁本体部を施工する、
ことを特徴とする壁状構造物の施工方法。
【請求項2】
前記壁基部は、前記凝結遅延剤により強度発現を2日以上遅延させることを特徴とする請求項1に記載の壁状構造物の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−19120(P2013−19120A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151418(P2011−151418)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(504167436)日本コンクリート技術株式会社 (7)
【Fターム(参考)】