説明

変位抑制機構付きの免震床装置および免震床用のショックアブソーバ

【課題】可動床の所定以上の大きな変位を抑制するショックアブソーバの設置の容易化および保守管理の省略化
【解決手段】床スラブU上に水平方向に変位可能として設置された可動床1の周囲に、ショックアブソーバ6が固定設置される。可動床1が水平方向に所定以上大きく変位したときに、可動床1がショックアブソーバ6に当接されて、当接の衝撃が吸収されつつ可動床1の変位が抑制される。ショックアブソーバ6は、床スラブUに固定されたケーシング52と、ケーシング52に対して所定方向に変位可能な変位部材51と、変位部材51に摩擦係合されると共に上記所定方向に変位不能とされた係合部材53と、係合部材53を変位部材51に押しつけるスプリング54とを有する。変位部材51と係合部材53との摩擦係合面は傾斜面とされて、変位部材51がケーシング52に対して押し込まれるほど、スプリング54が大きく圧縮される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、変位抑制機構付きの免震床装置および免震床用のショックアブソーバに関するものである。
【0002】
【従来の技術】2重床式の免震床構造にあっては、床スラブに対して可動床が水平方向に変位可能に支承されており、例えば特公平8−19758号公報に示すようなものがある。すなわち、上面が低摩擦とされた中心支承部材が、床スラブ上に縦、横に互いに所定間隔あけて複数設置され、各中心支承部材に対してそれぞれ中心支承部材を覆うようにスライドパネルが配置されて、スライドパネルが中心支承部材に対して水平方向に滑動可能とされている。各スライドパネルからはそれぞれ支柱が立設されて、この支柱によって、室内の床面を構成する床パネルが支持される。そして、隣接するスライドパネル同士を、ジョイントビ−ムによって相互に連結、一体化してある。このようなスライドパネル、支柱、床パネル、ジョイントビームの組立体が可動床を構成して、床スラブに対して水平方向に変位可能とされている。
【0003】上記可動床は、室内の壁面に対して所定距離離間して設置され、可動床と床スラブとの間に架設されたリタ−ンスプリングによって、各壁面から可動床が所定距離離間した原点位置に保持されるのが一般的である。さらに、地震が発生して可動床が水平方向に変位されたとき、その変位量を壁面からの所定距離内におさめるとともに振動を早期に収束させるための減衰手段としてのダンパが設けられる。このダンパとしては、通常、シリンダ装置の形式のもの、つまり油圧式のものが用いられて、その一端が可動床に連結されると共に、他端が床スラブに連結される。そして、この連結は、可動床がシリンダ装置の軸線に対して斜めに変位されることをも勘案して、少なくとも水平方向に回動可能な回動継手を用いた連結とされる。
【0004】上述のようなダンパに加えて、可動床が壁面との所定距離を越えて変位するような大きな振動エネルギが加えられた際に、壁面に可動床が衝突するのを防止するため、つまり壁面に大きな衝撃が加わるのを防止するために、壁面と可動床との間にショックアブソーバを設けることも提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、ダンパおよびショックアブソーバとして油圧式のものを用いた場合、油漏れの点検や油の劣化による交換のために、保守管理を定期的に行わなければならない、という問題がある。また、ダンパをそのまま利用してショックアブソーバの機能を得ようとすることも考えられるが、この場合は回動継手を利用しつつ床スラブと可動床とに連結するので施工が面倒であり、しかもダンパとして極めて大型となり、さらには小さい変位と大きい変位とで所望の減衰作用を得ることが困難であり、事実上採用しがたいものである。
【0006】本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その第1の目的は、ショックアブソーバ設置の施工が容易であり、しかもショックアブソーバの保守管理が不用にすることのできるようにした変位抑制機構付きの免震床装置を提供することにある。本発明の第2の目的は、上記第1の目的を達成するために用いて好適な免震床用のショックアブソーバを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記第1の目的を達成するため、本発明はその解決手法として次のようにしてある。すなわち、床スラブに対して免震床を水平方向に変位可能として支承し、室内壁面に対して免震床の外周縁部を所定距離離間させてなる免震床装置において、前記免震床の外周縁部と室内壁面との間に、免震床が室内壁面に接近したときに当接されて、摩擦によって当接の衝撃を吸収する摩擦式のショックアブソーバが配置されている、ようにしてある。上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2および請求項3に記載のとおりである。
【0008】前記第2の目的を達成するため、本発明はその解決手法として次のようにしてある。すなわち、床スラブに固定されるベースと、前記ベースに対して所定方向に直線状に変位可能に保持された変位部材と、前記ベースに保持され、前記変位部材の側面に摩擦係合するように配置された係合部材と、前記ベースに保持され、前記係合部材を前記変位部材に対して押圧するスプリングと、を備え、前記変位部材と前記係合部材との摩擦係合面が、前記所定方向に対して傾斜された傾斜面とされていて、該変位部材が該所定方向において前記ベースに対して押し込まれるように変位されるほど前記スプリングの付勢力が大きくなるように該傾斜面の傾斜方向が設定されている、ようにしてある。上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項5以下に記載のとおりである。
【0009】
【発明の効果】請求項1によれば、可動床の水平方向の変位を抑制するためのショックアブソーバとして、摩擦によって衝撃を吸収する摩擦式のものを用いてあるので、一旦設置した後は、大きな地震が発生した後の保守点検を除けば、事実上その保守点検を行うことが不用となる。また、ショックアブソーバは、床スラブに対してのみ固定設置すればよくて可動床には連結する必要がなく、しかも別途回動継ぎ手のようなものを用いる必要もないので、施工が容易である。
【0010】請求項2によれば、摩擦式ショックアブソーバのより具体的なものが提供される。特に、変位部材の変位量が大きくなるほどスプリングの付勢力が大きくなるようにしてあるので、可動床が当接されたときのショックつまり衝撃力を有効に吸収することができる。請求項3によれば、変位部材の変位方向とは斜め方向に可動床が変位しても、変位部材と可動床との間に介在される低摩擦部材による滑り作用によって、変位部材に対して可動床からの斜めの大きな力が作用することが防止され、ショックアブソーバによる変位抑制作用を常に適切に得る上で好ましいものとなる。
【0011】請求項4によれば、免震床に用いる摩擦式のショックアブソーバを提供することができる。特に、変位部材の変位量が大きくなるほどスプリングの付勢力が大きくなるようにしてあるので、可動床が当接されたときのショックつまり衝撃力を有効に吸収することができる。また、ベ−スに対して変位部材、係合部材、スプリングがあらかじめ組み込まれたセット体を、ベ−スを利用して床スラブに容易に固定設置することができる。
【0012】請求項5によれば、請求項3に対応した効果と同様の効果を得ることのできるショックアブソーバを提供することができる。請求項6によれば、ロッド部材を利用してコイルスプリングの倒れを防止すると共に、係合部材を該ロッド部材の軸線方向にのみ変位するように案内することによって係合部材と変位部材との安定した摩擦係合状態を確保する上で好ましいものとなる。請求項7によれば、ロッド部材を利用して、変位部材を所定方向にのみ変位するように案内することにより、変位部材と係合部材との安定した摩擦係合状態を確保する上で好ましいものとなる。
【0013】請求項8によれば、変位部材に対して係合部材、コイルスプリングを左右両方向に設定して、摩擦係合面を極力大きく確保する上で好ましいものとなる。さらに、ベ−スの上壁部によって摩擦係合面を覆って、当該摩擦係合面に塵埃等の異物が付着するのを防止する上で好ましいものとなる。以上に加えて、請求項6および請求項7に対応した効果も得ることができる。
【0014】請求項9によれば、変位部材の所定方向のみへの変位をより確実に確保する上で好ましいものとなる。請求項10によれば、変位部材を左右対称形状として、コイルスプリングや係合部材を含めた構造を全体的に左右対称構造とする上で好ましいものとなる。また、変位部材を、左右に分割された分割部材同士を組み立てることにより構成することにより、変位部材の製造も容易となる。
【0015】請求項11によれば、スプリングによって、変位部材を常時はもっともベ−スから進出した位置、つまり可動床が当接される直前の状態となる原点位置へ付勢する上で好ましいものとなる。このことはまた、可動床が繰り返し変位部材に当接、離間するときに、可動床が当接される毎にそ減衰力を発生させるつまり変位抑制する機能を得る上で好ましいものとなる。
【0016】
【発明の実施の形態】図1〜図3に示すように、床スラブU上に設置される室Sの床が、水平方向に変位可能な可動床1と、固定された固定床2とから構成されている。可動床1は、室Sの側壁3から所定間隔有するように設置されて、可動床1の全周囲に固定床2が位置されている。可動床1と固定床2とは、可動床1の周縁部に設けたオ−バパネル4を利用して互いにオ−バラップされていて、可動床1が水平方向に変位されたときにそのオ−バラップ量が変化する。
【0017】可動床1は、図4にも示すように、その周囲に設けたコイルスプリングからなるリタ−ンスプリング5によって、室Sのほぼ中心に位置するように保持されている。このリタ−ンスプリング5は、水平方向に伸びて、可動床1と床スラブUとの間に架設されている。また、可動床1の周囲には、可動床1から所定間隔有するようにして、ショックアブソーバ6が床スラブUに固定設置されている。可動床1が設計許容以上つまり所定距離を越えて平方向に大きく変位したとき、可動床1がショックアブソーバ6に当接されてその衝撃が吸収される(緩衝作用)。このショックアブソーバ6は、摩擦式とされており、その詳細については後述するが、基本的には、その変位部材51が床スラブUに固定された本体ケースとしてのベ−ス52に対して押し込まれるときに、大きな摩擦力を発生して減衰作用を行うようになっている。なお、図4では、後述する延長支承部材は略してある。
【0018】可動床1は、図1に示す実施形態では室Sの形状に合せて4角形、より具体的には正方形とされているが、可動床1の形状は適宜設定できるものである。また、可動床1の各辺についてそれぞれリタ−ンスプリング5とショックアブソーバ6とが複数設けられているが、リタ−ンスプリング5およびショックアブソーバ6の数は適宜設定できるものである。
【0019】図2に示すように、可動床1は、中心支承部材11を介して、床スラブUに対して水平方向に変位可能に支承されている。中心支承部材11は、縦および横に等間隔に、つまり互いに等間隔(例えば60cm)で設定された複数の縦線と複数の横線との交差する部分において、床スラブUに固定されていて、その上面が平坦かつ低摩擦とされている。
【0020】可動床1は複数のスライドパネル12を有し、このスライドパネル12は、中心支承部材11に対応して設けられている。すなわち、スライドパネル12も、縦および横に等間隔に位置されている(1つの中心支承部材11に対して1つのスライドパネル12が設定されている)。このスライドパネル12の底面は、平坦面な摺動面とされており、スライドパネル12(の摺動面)は、中心支承部材11よりも十分に大きな面積を有している。より具体的には、隣り合うスライドパネル同士が近接する程度にまで十分大きな面積とされている。可動床1が水平方向に変位するとき、スライドパネル12(の下面)が、中心支承部材11(の上面)に対して摺動される。比較的小さな地震に対しては、可動床1がスライドパネル12の範囲内で変位し、摺動時の摩擦力によって振動は減衰される。
【0021】隣り合うスライドパネル12同士は、鉄板等の金属板を加工してなるジョイントビ−ム13によって、互いに連結されている。これにより、各スライドパネル12同士は、ジョイントビ−ム13を介した強固な一体物として構成され、このような強固な一体物が偏平な下構造体を構成する。なお、スライドパネル12とジョイントビ−ム13との連結は、ボルト等の固定具を利用して行われる。
【0022】各スライドパネル12からはそれぞれ、支柱14が立設されており、各支柱14に対して、床パネル15が固定されている。床パネル15は、規格寸法(例えば60cm角)の正方形とされたパネル構成体15aを並設することにより構成されて、パネル構成体15aの角部分毎に支柱14に固定される。そして、床パネル15上に、コンピュ−タ等の振動を嫌う機器類が設置される。このように、パネル構成体15aの寸法に対応して、隣り合4本の支柱15の中心間隔が設定されている。換言すれば、中心支承部材11あるいはスライドパネル12の縦および横の等間隔の設置は、規格寸法の正方形とされたパネル構成体15aの寸法に応じて設定されたものとなっている。
【0023】床スラブU上には、各中心支承部材11の周囲に位置するようにして、細長い直線状の延長支承部材21が設置されている。延長支承部材21は、スライドパネル12が中心支承部材11から脱落したときに、当該スライドパネル12を支承するためのものであり、その上面が低摩擦とされている。すなわち、延長支承部材21は、中心支承部材11よりも若干低く設定されていて、スライドパネル12が中心支承部材11に支承されているときは、延長支承部材21に対してスライドパネル12がわずかにフロ−ティング状態となっている。延長支承部材21は、中心支承部材11に例えば凹凸嵌合形式で連結されるか、あるいは他の延長支承部材21に対して連結金具22を利用して連結されている。
【0024】前述した可動床1は、その周縁部低部において、つまりショックアブソーバ6(の変位部材51)の高さ位置に相当する部分において、長いアングル材からなる当接部材50が固定されている。この当接部材50は、可動床1の縦、横の各周縁部の各々について、そのほぼ全長に渡って伸びており、ショックアブソーバ6に対する当接面が平坦面となるようにされている。
【0025】次に、図5以下を参照しつつショックアブソーバ6の一例について説明するが、まず図5、図6に基づいて、ショックアブソーバ6の原理的な説明を行うこととする。ショックアブソーバ6は、前述のように、ベ−ス52と、該ベ−ス52に、所定方向に対してのみ変位可能としてベ−ス52に保持された変位部材51を有する。変位部材51は、上方から見たときに左右対称形状とされて、可動床1に近付くにつれて左右幅が徐々に大きくなるようにされたくさび形状とされている。このような変位部材51の左右には、それぞれ係合部材53が位置されている。係合部材53は、変位部材51の左右面にそれぞれ当接されて摩擦係合されるものとなっており、コイルスプリング54によって、常時変位部材51と当接するように押圧、付勢されている。
【0026】係合部材53は、後述するように、所定方向と直交する方向つまり変位部材51の左右方向にのみ変位可能なようにしてベ−ス52に保持されている。コイルスプリング54は、1つの係合部材53について、所定方向に複数(実施形態では4個)設けられ、かつそれぞれ上下方向に複数列(実施形態では2列)設けられている。1つの係合部材53では、コイルスプリング54が合計8個設けられ、全体としては(2つの係合部材53については)コイルスプリング54が合計16個設けられている。
【0027】コイルスプリング54によって互いに強く当接された係合部材53と変位部材51との当接面は、所定方向に対して傾斜した傾斜面51aあるいは53aとされている。変位部材51に所定方向の外力が作用しない状態が図5に示され、このとき変位部材51は、コイルスプリング54によって、可動床1にもっとも接近した位置、つまりベ−ス52からの可動床1方向への突出量がもっとも大きくなった原点位置(衝突待機位置)となるように付勢(押圧)されている。
【0028】傾斜面51a(53a)の所定方向に対してなす角度θは、ラジアン角度で表示したときに、変位部材51と係合部材53との摩擦係数よりも若干大きくなるように設定されている。これにより、コイルスプリング54の付勢力(押圧力)のうち、変位部材51を図5R>5の原点位置へ復帰させる方向の分力が、変位部材51と係合部材53との間の摩擦力に打ち勝って、変位部材51を原点位置へ確実に復帰させる上で好ましいものとなる。この摩擦係数と角度との差をできるだけ小さくすることにより、変位部材51の復帰時間を長くして(ゆっくり復帰するようにして)、可動床1が反対方向へ変位する際に変位部材51が可動床1を押し戻すようなエネルギを伝えることのないようになっている。なお、変位部材51は鉄製の中空構造とされ、係合部材53は例えばナイロン、ポリアセタ−ル等の合成樹脂によって所定断面形状を有するブロック状として構成されている。
【0029】図5の状態から、可動床1が水平方向に大きく変位されて変位部材51に当接したとき、変位部材51がベ−ス52に対して押し込まれて、図6に示す状態とされる。すなわち、変位部材51がベ−ス52に対して押し込まれるとき、変位部材51が係合部材53に対して摩擦係合しつつ当該係合部材53に摺動され、この摺動によって減衰作用が行われる。変位部材51のベ−ス52に対する押し込み量が大きくなるほど、係合部材53の左右方向への変位量が大きくなって、つまりコイルスプリング54が大きく圧縮(縮長)されて押圧力が増大され、これに伴って大きな減衰力が発生される。
【0030】変位部材51の可動床1側の端面、つまり変位部材51の受圧面(当接面)には、ナイロン、ポリアセタタ−ル等の合成樹脂からなる低摩擦部材49が固定されている。この低摩擦部材49は、平坦面とされて、原点位置にある可動床1の当接部材50と平行とされている。これにより、可動床1から、変位部材51の所定方向への変位方向とは交差する方向において力を受けたときでも、当接部材50と低摩擦部材49との間での滑りによって、変位部材51は無理なく所定方向に変位することになる。
【0031】前述したようなショックアブソーバ6のより具体的な例について、図7〜図9をも参照しつつ説明する。まず、ベ−ス52は、鉄板等の金属板を加工することにより形成されて、左右一対の側壁部52aと、各側壁部52aの上端同士を連結する上壁部52bとを有する。また、ベ−ス52は、各側壁部52aの下端から、所定方向において上壁部52bよりも前後に突出した取付フランジ部52cを有し、この取付フランジ部52cが、固定具としての取付ボルト55を利用して床スラブUに固定される。
【0032】左右の側壁部52a間には、ロッド部材56が架設されており、このロッド部材56は、コイルスプリング54の軸線位置に対応して複数本設けられている(実施形態では、コイルスプリング54が合計16本設けられている関係上、合計8本設けられている)。各ロッド部材56は、例えば鋼棒等の金属棒等からなり、曲げ剛性が大きくしかも引っ張り強度も十分に大きいものとなっている。そそして、各ロッド部材56は、変位部材51の変位方向となる所定方向と直交する方向に伸びている。
【0033】各ロッド部材56の各端部は、側壁部52aを貫通して若干側壁部52aの外側に突出されており、この突出端部に抜け止め部材としてのナット57が螺合されている。これにより、左右側壁部52aにその間隔が大きくなるような外力を受けたときに、この外力はロッド部材56を伸長させる方向の力となるが、ロッド部材56によって上記外力がしっかりと受け止められて、左右側壁部52a間の間隔が大きくされるのが防止される。
【0034】前記コイルスプリング54内を、ロッド部材56が貫通している。つまり、コイルスプリング54は、ロッド部材56によって所定方向と直交する方向に伸びる姿勢位置を保持されて、その倒れが防止されるる。そして、コイルスプリング54は、その一端が係合部材53に着座される一方、その他端がベ−ス52の側壁部52aに着座されている。コイルスプリング54の付勢力は、左右側壁部52aの間隔を大きくする外力として作用することになるが、このような側壁部52aの間隔増大は、前述のように、ロッド部材56によって規制される。なお、係合部材53のうち、コイルスプリング54が着座される側面(傾斜面53aとは反対側の面)は、所定方向と平行に伸びるように、つまりコイルスプリング54の軸線と直角になるように設定されている。
【0035】ロッド部材56は、変位部材51および係合部材53をも貫通しており、このため変位部材51、係合部材53には、ロッド部材56が貫通される貫通孔60あるいは61が形成されている。変位部材51に形成される貫通孔60は、上下方向幅はロッド部材56の直径よりもわずかに大きい程度であるが、所定方向に長く伸びている。また、係合部材53に形成される貫通孔61は、ロッド部材56の外形よりもわずかに大き円形とされていて、係合部材53が所定方向には変位しないようにされている。つまり、ロッド部材56は、係合部材53がロッド部材56の軸線方向(コイルスプリング54の軸線方向)にのみ変位されるようガイドする。
【0036】なお、ロッド部材56を、例えば円筒形のスリ−ブと、該スリ−ブ内に挿入されると共に、スリ−ブの内径よりも十分小さい外形を有するロッド本体との内外2重構造として構成することもできる。この場合、スリ−ブの外形を、コイルスプリング54の内径よりも若干小さい程度とし、長さをベ−ス52の左右側壁部52a間の大きさに設定すればよい。そして、上記ロッド本体をスリ−ブよりも若干長くして、その各端部を側壁部52aの外側に若干突出されるようにして、この突出端部に抜け止めナット57を螺合するようにすればよい。
【0037】変位部材51の左右中心線を境として、変位部材51、係合部材53、コイルスプリング54、ロッド部材56、ベ−ス52が、実質的に左右対称となるように構成されている。そして、ベ−ス52の高さは十分低くされて、つまりショックアブソーバ6が全体的に上下方向が低くされた偏平形状とされており、これにより固定床2したがって可動床1の高さを十分低く設定できるようになっている。また、ベ−ス52の上壁部52bは、係合部材53を全体的に上方から覆っており、変位部材51との摩擦係合面に塵埃等が付着するのが極力防止されるようになっている。
【0038】ここで、変位部材51は、その左右中心線を境として、左右対称に形成された分割部材を互いに連結、一体化することにより構成するようにされている。この分割部材の一例が、図10〜図13に示される。すなわち、図10〜図13において、変位部材51の一方の分割部材51Aの詳細が示され、他方の分割部材51Bは、図10において一点鎖線で簡略的に示される。また、図12には、変位部材51に摩擦係合される係合部材53の断面構造が示される。
【0039】上記分割部材51Aは、鉄板等の金属板を加工することにより構成されて、他方の分割部材51Bとの連結側面に大きく開口されたボックス状として構成される。そして、他方の分割部材51Bへの連結側端縁部には、上縁部から上方へ短く伸びる上フランジ部71と、下縁部から下方へ短く伸びる下フランジ72とが形成されている。この上下のフランジ71、72を、他方の分割部材51Bに同様に形成された上下のフランジ部と突き合わせて溶接することにより、変位部材51が構成される。
【0040】上フランジ部71には、部分的に上方へさらに短く伸びるガイド突起部73が形成され、ベ−ス52の上壁部52bに形成されたガイド孔74に対してがたつきなく挿入されている。ガイド孔74は、所定方向に長くのびており、これにより変位部材51は、ロッド部材56による所定方向への案内に加えて、ガイド突起部73とガイド孔74を利用した所定方向へのガイドが行われることになる(図3をも参照)。
【0041】以上実施形態について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば次のような場合をも含むものである。変位部材51と係合部材53との摩擦係合面の数は、1つまたは3以上の複数設定することもできる。また、実施形態で示すように摩擦係合面を2つ設定したとき、一方の摩擦係合面を構成する1つの係合部材53はベ−ス52に対して例えばボルト固定する等の固定状態とし、この固定された係合部材53に対して変位部材51を挟んで反対側に位置する係合部材53を、実施形態で示すようにコイルスプリング54の軸線方向に変位可能に設けるようにすることもできる。また、摩擦係合面を複数設定するとき、一部の摩擦係合面を変位部材51の変位方向と平行に設定し、他の摩擦係合面を実施形態のような傾斜面として設定することもできる。なお、変位部材51と係合部材53との摩擦係合面を全て、変位部材51の変位方向となる所定方向と平行に設定することもでき、この場合は、変位部材51の変位位置にかかわらず減衰力は一定となる。
【0042】図12で示すように、変位部材51と係合部材53との摩擦係合面(当接面)は、変位部材51の変位方向つまり所定方向に細長く伸びる凸部を利用した部分接触の形式とされているが、この凸部を設けることなく、全体的に大きな面積を有する1つの平坦面による接触とすることもできる。
【0043】変位部材51と係合部材53とを強く接触させるスプリングとしては、コイルスプリングに限らず、板ばね等適宜の形式のものを選択し得る。また、可動床1を床スラブUに対して水平方向に案内する機構は、既知の適宜のものを採択し得る。本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として記載されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用される2重床式免震床構造の全体的な様子を簡略的に示す上面図。
【図2】本発明が適用された免震床支承構造の一例を示す一部断面側面図。
【図3】図2の一部破断上面図。
【図4】スライドパネルとリタ−ンスプリングとジョイントビ−ムと床パネルとの様子を示すもので、延長支承部材を省略して示す斜視図。
【図5】本発明によるショックアブソーバの一例を示す簡略説明図。
【図6】図5の状態から変位部材がベ−スに対して押し込まれた状態を示す図。
【図7】本発明によるショックアブソーバの一例を詳細に示すもので、ベ−スの上壁部を半分省略して示す上面図。
【図8】図7の左側面図。
【図9】図7を矢印A方向から見た図。
【図10】変位部材を構成する分割部材を示す上面図。
【図11】図10を矢印B方向から見た図。
【図12】図11のX12−X12線相当断面図。
【図13】図10を矢印C方向から見た図。
【符号の説明】
U:床スラブ
S:室
1:可動床
2:固定床
3:室の側壁
6:ショックアブソーバ
11:中心支承部材
15:床パネル
21:延長支承部材
49:低摩擦部材
51:変位部材
51a:傾斜面(摩擦係合面)
51A、51B:分割部材(変位部材構成用)
52:ベ−ス
52a:側壁部
52b:上壁部
53:係合部材
53a:傾斜面(摩擦係合面)
54:コイルスプリング
56:ロッド部材
60:貫通孔(ロッド部材貫通用)
61:貫通孔(ロッド部材貫通用)
73:ガイド突起部
74:ガイド孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】床スラブに対して免震床を水平方向に変位可能として支承し、室内壁面に対して免震床の外周縁部を所定距離離間させてなる免震床装置において、前記免震床の外周縁部と室内壁面との間に、免震床が室内壁面に接近したときに当接されて、摩擦によって当接の衝撃を吸収する摩擦式のショックアブソーバが配置されている、ことを特徴とする変位抑制機構付きの免震床装置。
【請求項2】請求項1において、前記ショックアブソーバが、免震床に押圧されたときに所定方向に変位される変位部材と、前記変位部材に摩擦係合される係合部材と、前記係合部材を前記変位部材に対して押圧するスプリングと、を備え、前記変位部材と前記係合部材との摩擦係合面が、該変位部材の変位方向に対して傾斜された傾斜面とされていて、免震床から押圧される該変位部材の変位量が大きくなるほど前記スプリングの付勢力が大きくなるように該傾斜面の傾斜方向が設定されている、ことを特徴とする変位抑制機構付きの免震床装置。
【請求項3】請求項1において、前記変位部材の免震床に対する当接面に、低摩擦部材が取付けられている、ことを特徴とする変位抑制機構付きの免震床装置。
【請求項4】床スラブに固定されるベースと、前記ベースに対して所定方向に直線状に変位可能に保持された変位部材と、前記ベースに保持され、前記変位部材の側面に摩擦係合するように配置された係合部材と、前記ベースに保持され、前記係合部材を前記変位部材に対して押圧するスプリングと、を備え、前記変位部材と前記係合部材との摩擦係合面が、前記所定方向に対して傾斜された傾斜面とされていて、該変位部材が該所定方向において前記ベースに対して押し込まれるように変位されるほど前記スプリングの付勢力が大きくなるように該傾斜面の傾斜方向が設定されている、ことを特徴とする免震床用のショックアブソーバ。
【請求項5】請求項4において、前記変位部材の先端面に、低摩擦部材が取付けられている、ことを特徴とする免震床用のショックアブソーバ。
【請求項6】請求項4または請求項5において、前記ベースに、前記所定方向と略直交する方向に伸びるロッド部材が固定保持され、前記スプリングが前記ロッド部材の軸線方向に伸びるコイルスプリングとされて、前記ロッド部材が該コイルスプリング内に位置されて、該ロッド部材によって該コイルスプリングの倒れが防止されるように設定され、前記係合部材が前記ロッド部材によって該ロッド部材の軸線方向にのみ変位可能として保持されて、該ロッド部材によって前記係合部材が前記所定方向に変位しないように規制されている、ことを特徴とする免震床用のショックアブソーバ。
【請求項7】請求項4または請求項5において、前記ベースに、前記所定方向と略直交する方向に伸びるロッド部材が固定保持され、前記変位部材に、前記所定方向に細長く伸びるガイド孔が形成され、前記ロッド部材が前記ガイド孔を貫通していて、該ロッド部材によって該変位部材が前記所定方向にのみ変位するように案内される、ことを特徴とする免震床用のショックアブソーバ。
【請求項8】請求項4または請求項5において、前記ベースが、上壁部と左右一対の側壁部とを有すると共に少なくとも前記所定方向の一端側が開口された形状とされ、前記変位部材と係合部材とスプリングとがそれぞれ前記ベース内に収納されていて、該変位部材の一部が常時は前記ベースの一端開口より該ベースの外部へ突出されて、該変位部材が該ベースの一端開口からの突出量が小さくなるように変位したときに前記スプリングの付勢力が大きくなるように設定され、前記変位部材の左右に対してそれぞれ前記係合部材およびスプリングが配置されて、前記摩擦係合面となる傾斜面が左右一対設けられ、前記左右一対の側壁部に跨がるようにロッド部材が前記ベースに固定保持され、前記変位部材に、前記ロッド部材が貫通すると共に前記所定方向に細長く伸びるガイド孔が形成されて、該ロッド部材によって該変位部材が該所定方向にのみ変位可能として案内され、前記係合部材に、前記ロッド部材が貫通される貫通孔が形成されていて、該ロッド部材によって該係合部材が該ロッド部材の軸線方向にのみ変位可能とされ、前記スプリングが、前記ベースの左右の側壁部と前記係合部材との間に配置されると共に内部を前記ロッド部材が貫通されたコイルスプリングとされて、該ロッド部材によって該スプリングの倒れが防止されるように設定されている、ことを特徴とする免震床用のショックアブソーバ。
【請求項9】請求項8において、前記ベースの上壁部に、前記所定方向に細長く伸びる第2ガイド孔が形成され、前記変位部材の上面に、前記ガイド孔に摺動自在に嵌合されるガイド突起部が形成されている、ことを特徴とする免震床用のショックアブソーバ。
【請求項10】請求項8において、前記変位部材が、中空形状とされると共に、上方から見たときに左右対称形状のくさび形に形成され、前記変位部材が、左右中間位置において分割されて互いに別体に形成された左分割部材と右分割部材とを組立てることにより構成されている、ことを特徴とする免震床用のショックアブソーバ。
【請求項11】請求項4ないし請求項10のいずれか1項において、前記摩擦係合面となる傾斜面の前記所定方向に対するラジアンで示す傾斜角度が、前記変位部材と係合部材との間の摩擦係数よりも若干大きくなるように設定されている、ことを特徴とする免震床用のショックアブソーバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図7】
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