変位計測システム
【課題】計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを得る。
【解決手段】1台以上の発信機からの電波を複数台の受信機で受信し、受信信号の受信位相の組合せから算出した受信位相差の変化から発信機の変位を計測する変位計測部(60)と、あらかじめ取得した受信信号に基づく基準データと、変位計測時に取得した受信信号に基づく観測データとの相関係数が所定の閾値よりも低い場合には、計測環境の変化が発生したことを検出する環境変化検出部(40)と、計測環境の変化が検出された場合には、受信信号に対して計測環境が変化したことによる位相誤差を校正する校正処理部(50)とを備え、変位計測部は、計測環境の変化が検出された場合には、校正後の受信信号の受信位相の組合せから受信位相差を算出することで発信機の変位を計測する。
【解決手段】1台以上の発信機からの電波を複数台の受信機で受信し、受信信号の受信位相の組合せから算出した受信位相差の変化から発信機の変位を計測する変位計測部(60)と、あらかじめ取得した受信信号に基づく基準データと、変位計測時に取得した受信信号に基づく観測データとの相関係数が所定の閾値よりも低い場合には、計測環境の変化が発生したことを検出する環境変化検出部(40)と、計測環境の変化が検出された場合には、受信信号に対して計測環境が変化したことによる位相誤差を校正する校正処理部(50)とを備え、変位計測部は、計測環境の変化が検出された場合には、校正後の受信信号の受信位相の組合せから受信位相差を算出することで発信機の変位を計測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測環境が変化したことによる計測精度の劣化を抑制した変位計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
変位を計測したい地点に設置した発信機からの受信位相を利用して、発信機変位を観測する従来技術としては、次のようなものがある。この従来技術では、位置が既知である固定点に設置された受信機で受信した信号をそのまま用い、発信機位置が変位すれば、複数の受信機間での受信位相差も変化するという性質を利用して、発信機変位を計測している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−202964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1のような従来技術では、例えば、降雨等の影響で計測環境が変化したことにより受信信号に位相誤差が発生し、受信位相が変化すると、実際には、発信機が変位していない場合であっても、システムとして変位を観測してしまう課題があった。
【0005】
従って、発信機が変位したことにより受信位相に変化が起こったのか(すなわち、本来、検出したい変位が発生したのか)、あるいは、計測環境が変化したことにより受信位相に変化が起こったのか(すなわち、本来、検出したくない誤検出要因により変位が発生したのか)をシステマッティックに判断(検出)する必要があった。
【0006】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る変位計測システムは、変位を観測したい地点に設置された1台以上の発信機からの電波を、設置箇所が変位しない場所に設置された複数台の受信機で受信し、複数台の受信機による受信信号の受信位相の組合せから受信位相差を算出し、受信位相差の変化から1台以上の発信機の変位を計測する変位計測部を備えた変位計測システムにおいて、あらかじめ取得した受信信号に基づく基準データと、変位計測時に取得した受信信号に基づく観測データとの相関係数を算出し、算出した相関係数が所定の閾値よりも低い場合には、計測環境の変化が発生したことを検出する環境変化検出部と、環境変化検出部により計測環境の変化が検出された場合には、変位計測時に取得した受信信号に対して、計測環境が変化したことによる位相誤差を校正する校正処理部とをさらに備え、変位計測部は、環境変化検出部により計測環境の変化が検出された場合には、校正処理部による校正後の受信信号の受信位相の組合せから受信位相差を算出することで、1台以上の発信機の変位を計測するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る変位計測システムによれば、受信信号に基づく基準データと観測データとの相関関係に着目し、所定の閾値よりも低い相関関係である場合には、受信データの校正を行った後に変位計測を行うことにより、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1における変位計測システムの基本的な構成を例示する全体図である。
【図2】本発明の実施の形態1における変位計測システムの構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態1における受信データとリファレンスデータとの位相差算出結果の時系列データを示した図である。
【図5】本発明の実施の形態1における変位計測部60が発信機変位を計測するために用いる受信データに関する説明図である。
【図6】本発明の実施の形態2における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態3における変位計測システムの基本的な構成を例示する全体図である。
【図8】本発明の実施の形態3における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態4における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態5における変位計測システムの基本的な構成を例示する全体図である。
【図11】本発明の実施の形態5における変位計測システムの構成図である。
【図12】本発明の実施の形態5における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず始めに、本発明の基本概念について説明する。
本発明は、以下の2つの仮定に基づき、変位計測の外乱要因となる環境変化検出を行うものである。
(仮定1)発信機に変位が生じた場合の発信機の変位は、数ミリ程度の大きさであり、発信機と受信機間の距離に比べると微小であることから、発信機変位のみでは、受信位相が変化したとしても、波形そのものは、ほぼ変化しない。
(仮定2)計測環境に変化が生じた場合、例えば、降雨により雨粒の付着等が起こった場合には、発信機と受信機間のマルチパスの状態が変化し、受信位相が変化するとともに、受信波形そのものが変化する。
【0011】
本発明は、これらの2つの仮定に着目し、基準とする計測環境の受信信号あるいはその受信信号を得るための伝達関数(基準データ)と、実際に判定を行う受信信号あるいはその受信信号を得るための伝達関数(観測データ)との類似性から環境変化を検出する。換言すると、本発明は、受信信号に基づく基準データと観測データとの類似度を求めることで、類似性が小さい場合には、基準に対して波形そのものが変化した、すなわち、環境変化が起こったことを検出する。
【0012】
また、計測環境の伝達関数の変化についても、同様の性質があると考えられるため、送信信号が既知の場合には、伝達関数を用いた環境変化の検出についても提案する。さらに、環境検出を検出した際には、検出結果に基づく校正後のデータを用いて変位計測を行うことで、変位計測精度の向上を図っている。そこで、本発明の変位計測システムの好適な実施の形態につき、図面を用いて以下に説明する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における変位計測システムの基本的な構成を例示する全体図である。図1に示した変位計測システムは、変位を観測したい地点に設置された1台の発信機1(1)と、設置箇所が変位しない場所に設置されたm個の受信機2(1)〜2(m)で構成される。本実施の形態1では、発信機1(1)からの送信信号が未知である場合について説明する。
【0014】
次に、本実施の形態1における変位計測システムの動作について説明する。本実施の形態1では、外乱要因として、例えば、降雨が発生したことによる位相ずれを補償する動作について、具体的に説明する。図2は、本発明の実施の形態1における変位計測システムの構成図である。本実施の形態1における変位計測システムは、受信データ取得部10、データ記憶部20、リファレンスデータ抽出部30、環境変化検出部40、校正処理部50、および変位計測部60を備えて構成されている。
【0015】
また、図3は、本発明の実施の形態1における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。そこで、図1〜図3に基づいて、本実施の形態1における変位計測システムの一連処理について、詳細に説明する。
【0016】
まず始めに、受信データ取得部10は、システム運用開始前に、m個の受信機2(1)〜2(m)からの基準となるべき受信データ(受信信号)を、全ての発信機と受信機の組合せに対して(すなわち、本実施の形態1では、1個の発信機1(1)に対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれの組合せに対して)収集する。
【0017】
より具体的には、受信データ取得部10は、外乱要因がないシステム導入環境下での種々の受信データ(例えば、春夏秋冬、昼夜等により異なる日射・温度条件下での晴天時の種々の受信データ)を取得し、データ記憶部20に記憶させ、基準データをあらかじめデータベース化しておく(ステップS301)。
【0018】
次に、システム運用開始後、リファレンスデータ抽出部30は、計測を行っている時期および時間帯に応じた基準となる受信データをデータ記憶部20から読み出し、リファレンスデータとして登録しておく(ステップS302)。このときのリファレンスデータrref(i)(i=1、2、・・・、m)は、送信信号をs、伝達関数をh(i)(i=1、2、・・・、m)とすると、下式(1)となる。
【0019】
【数1】
【0020】
なお、ステップS302によるこのようなリファレンスデータの登録は、1日の内の日射の影響による位相ずれや温度変化による位相ずれの影響を軽減するために、計測を行っている時間帯に応じて、データベース化されたデータ記憶部20の中から最も近い条件での受信データを読み出すことで、順次更新される。また、リファレンスデータの登録は、日、月、年単位でも、必要に応じて、順次更新される。
【0021】
一方、受信データ取得部10は、変位計測を行うため、発信機からの信号の受信を開始する(ステップS303)。このときの各受信機での受信信号r(i)(i=1、2、・・・m)は、送信信号をs、伝達関数をh(i)(i=1、2、・・・、m)とすると、下式(2)となる。
【0022】
【数2】
【0023】
次に、環境変化検出部40は、以降の信号処理を簡単化するために、上式(1)のリファレンスデータrref(i)(i=1、2、・・・、m)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるRref(i)と、上式(2)の受信信号r(i)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるR(i)(i=1、2、・・・、m)を、それぞれ下式(3)、(4)として算出する(ステップS304)。
【0024】
【数3】
【0025】
次に、環境変化検出部40は、リファレンスデータrref(i)をFFTした信号Rref(i)と、受信信号r(i)をFFTした信号R(i)との相関係数を、下式(5)により算出する(ステップS305)。
【0026】
【数4】
【0027】
次に、環境変化検出部40は、全ての送受信機間の組合せ(すなわち、本実施の形態1では、1個の発信機1(1)に対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれ)に対して、個別に、先のステップS305で算出した相関係数が、事前に設定した閾値以上であるかを判断する(ステップS306)。本実施の形態1では、ステップS302〜ステップS306の一連の処理を、所定の時間間隔(所定のサンプリング時刻)で順次行うことで、変位計測を行うこととなる。
【0028】
そして、環境変化検出部40は、上述した仮定1、2に基づいて、少なくともいすれか1つの受信機における受信データに関する相関係数が、所定の閾値よりも低い結果となった場合には、計測環境に変化が生じたことで受信波形そのものが変化したと判断し、アラームを発生する。
【0029】
そして、先のステップS306の判断結果によりアラームが発生していない場合には、変位計測部60は、先の特許文献1に記載されているような従来技術により、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する(ステップS307)。
【0030】
一方、先のステップS306の判断結果によりアラームが発生した場合には、校正処理部50により、外乱要因による位相変化を補償するための校正処理を行う(ステップS308)。そこで、この校正処理について、以下に詳細に説明する。
【0031】
校正処理部50は、あるサンプリング時刻でのステップS306による判断結果によりアラームが発生した場合には、そのサンプリング時刻よりも1つ前のサンプリング時刻に受信したデータrt−1(i)(i=1、2、・・・、m)と、リファレンスデータとの位相差θdispを算出する。同様に、校正処理部50は、アラームが発生したサンプリング時刻で受信したデータrt(i)(i=1、2、・・・、m)と、リファレンスデータとの位相差θmeanを算出する。
【0032】
そして、校正処理部50は、位相差θmeasから位相差θdispを減算した値であるθcalを下式(6)により求め、位相補正データとする。
【0033】
【数5】
【0034】
図4は、本発明の実施の形態1における受信データとリファレンスデータとの位相差算出結果の時系列データを示した図である。図4における時刻βは、降雨が発生したことに起因してアラームが発生した際のサンプリング時刻に相当し、時刻αは、時刻βよりも1つ前の降雨が発生していないサンプリング時刻に相当する。
【0035】
また、図4における位相差A、B、Cは、次の内容を意味する位相差である。
位相差A:リファレンスデータと降雨検知前の受信データとの位相差であり、上述した位相差θdispに相当する。
位相差B:位相差Cから位相差Aを減算した位相差に相当し、上述した位相補正データθcalに相当する。
位相差C:リファレンスデータと降雨検知後の受信データとの位相差であり、上述した位相差θmeanに相当する値である。
【0036】
従って、アラームが発生した場合には、先の図4、および上式(6)に示したように、アラームが発生する前後で算出された位相差の差分から、位相補正データθcalを得ることができる。そして、その後のサンプリング時刻において、アラームが発生する状態が続く場合には、位相補正データθcalを用いて実際の受信データr(i)の位相を校正処理する。その後、先のステップS307に進む。
【0037】
そして、ステップS307において、変位計測部60は、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データに対して、先のステップS308による位相の校正処理を施した後の受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する。
【0038】
図5は、本発明の実施の形態1における変位計測部60が発信機変位を計測するために用いる受信データに関する説明図である。この図5に示すように、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、相関係数が所定の閾値以上であった場合には、受信データr(i)をそのまま使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0039】
一方、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、相関係数が所定の閾値よりも小さく、アラームが生成された場合には、そのアラームが継続して発生している間は、校正処理部50で生成された位相補正データθcalによる位相補正後の受信データを使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0040】
以上のように、実施の形態1によれば、リファレンスデータと受信データとの相関係数が所定の閾値よりも小さい場合には、外乱の影響による位相変化が生じていると判断し、外乱要因の発生前後の位相差算出結果から、位相補正データを算出している。そして、外乱要因の発生が継続していると判断した間は、位相補正データを用いて受信データの位相を校正し、校正後の受信データに基づいて変位計測を行っている。
【0041】
このような校正処理を施して変位計測を行うことで、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを実現できる。
【0042】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、発信機からの送信信号が未知であり、基準とする計測環境の受信信号と、実際に判定を行う受信信号との類似性に着目し、環境変化の検出を行う場合について説明した。これに対して、本実施の形態2では、発信機からの送信信号が既知であり、基準とする計測環境の受信信号を得るための伝達関数と、実際に判定を行う受信信号を得るための伝達関数との類似性に着目し、環境変化の検出を行う場合について説明する。
【0043】
本実施の形態2における基本的な構成を例示する全体図は、先の実施の形態1における図1の全体図と同じである。また、本実施の形態2における変位計測システムの構成図は、先の実施の形態1における図2の構成図と同じである。ただし、本実施の形態2において、環境変化検出部40は、伝達関数の類似性に着目して、環境変化の検出を行い、校正処理部50は、伝達関数に基づいて受信データr(i)の校正を行う点が、先の実施の形態1とは異なっている。
【0044】
図6は、本発明の実施の形態2における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。そこで、図1、図2、図6に基づいて、本実施の形態2における変位計測システムの一連処理について、詳細に説明する。
【0045】
まず始めに、受信データ取得部10は、システム運用開始前に、m個の受信機2(1)〜2(m)からの基準となるべき受信データを、全ての発信機と受信機の組合せに対して(すなわち、本実施の形態2では、1個の発信機1(1)に対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれの組合せに対して)収集する。
【0046】
より具体的には、受信データ取得部10は、外乱要因がないシステム導入環境下での種々の受信データ(例えば、春夏秋冬、昼夜等により異なる日射・温度条件下での晴天時の種々の受信データ)を取得し、データ記憶部20に記憶させ、基準データをあらかじめデータベース化しておく(ステップS601)。
【0047】
次に、システム運用開始後、リファレンスデータ抽出部30は、計測を行っている時期および時間帯に応じた基準となる受信データをデータ記憶部20から読み出し、リファレンスデータとして登録しておく(ステップS602)。このときのリファレンスデータrref(i)(i=1、2、・・・、m)は、送信信号をs、伝達関数をhref(i)(i=1、2、・・・、m)とすると、下式(7)となる。
【0048】
【数6】
【0049】
なお、ステップS602によるこのようなリファレンスデータの登録は、1日の内の日射の影響による位相ずれや温度変化による位相ずれの影響を軽減するために、計測を行っている時間帯に応じて、データベース化されたデータ記憶部20の中から最も近い条件での受信データを読み出すことで、順次更新される。また、リファレンスデータの登録は、日、月、年単位でも、必要に応じて、順次更新される。
【0050】
一方、受信データ取得部10は、変位計測を行うため、発信機からの信号の受信を開始する(ステップS603)。このときの各受信機での受信信号r(i)(i=1、2、・・・m)は、送信信号をs、伝達関数をh(i)(i=1、2、・・・、m)とすると、下式(8)となる。
【0051】
【数7】
【0052】
次に、環境変化検出部40は、以降の信号処理を簡単化するために、上式(7)のリファレンスデータrref(i)(i=1、2、・・・、m)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるRref(i)と、上式(8)の受信信号r(i)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるR(i)(i=1、2、・・・、m)を、それぞれ下式(9)、(10)として算出する(ステップS604)。
【0053】
【数8】
【0054】
さらに、本実施の形態2では、送信信号sが既知であることを前提としており、高速フーリエ変換した結果であるSも既知である。従って、上式(9)、(10)のそれぞれに関し、伝達関数Href(i)およびH(i)を求めると、下式(11)、(12)を得ることができる(ステップS605)。
【0055】
【数9】
【0056】
次に、環境変化検出部40は、リファレンスデータrref(i)に関するFFT後の伝達関数Href(i)と、受信信号r(i)に関するFFT後の伝達関数H(i)との相関係数を、下式(13)により算出する(ステップS606)。
【0057】
【数10】
【0058】
次に、環境変化検出部40は、全ての送受信機間の組合せ(すなわち、本実施の形態2では、1個の発信機1(1)に対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれ)に対して、個別に、先のステップS606で算出した相関係数が、事前に設定した閾値以上であるかを判断する(ステップS607)。本実施の形態2では、ステップS602〜ステップS607の一連の処理を、所定の時間間隔(所定のサンプリング時刻)で順次行うことで、変位計測を行うこととなる。
【0059】
そして、環境変化検出部40は、上述した仮定1、2に基づいて、少なくとも何れか1つの受信機における伝達関数に関する相関係数が、所定の閾値よりも低い結果となった場合には、計測環境に変化が生じたことで受信波形そのものが変化したと判断し、アラームを発生する。
【0060】
そして、先のステップS607の判断結果によりアラームが発生していない場合には、変位計測部60は、先の特許文献1に記載されているような従来技術により、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する(ステップS608)。
【0061】
一方、先のステップS607の判断結果によりアラームが発生した場合には、校正処理部50により、外乱要因による位相変化を補償するための校正処理を行う(ステップS609)。そこで、この校正処理について、以下に詳細に説明する。
【0062】
校正処理部50は、あるサンプリング時刻でのステップS607による判断結果によりアラームが発生した場合には、そのサンプリング時刻におけるリファレンスの伝達関数Href(i)と受信データの伝達関数H(i)との差分を計算し、既知である送信信号sを乗算した値φ(i)(i=1、2、・・・、m)を求める。さらに、受信データr(i)からφ(i)を減算した値r´(i)を校正後の受信データとして、下式(14)により求める。
【0063】
【数11】
【0064】
その後、先のステップS608に進む。そして、ステップS608において、変位計測部60は、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データに対して、先のステップS609による校正処理を施した後の受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する。なお、アラームが発生してない状態での受信データは、上式(14)において、φ(i)=0とした場合に相当する。
【0065】
このようなステップS607〜S609の処理をまとめると、次のようになる。先の実施の形態1における図5に示したように、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、伝達関数に関する相関係数が所定の閾値以上であった場合には、受信データr(i)をそのまま使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0066】
一方、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、伝達関数に関する相関係数が所定の閾値よりも小さく、アラームが生成された場合には、そのアラームが継続して発生している間は、アラームを最初に検知したサンプリング時刻において、校正処理部50で生成されたφ(i)を用いた補正後の受信データr´(i)を使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0067】
以上のように、実施の形態2によれば、送信信号sが既知であることを前提に、リファレンスデータと受信データに関するそれぞれの伝達関数の相関係数が所定の閾値よりも小さい場合には、外乱の影響による位相変化が生じていると判断し、外乱要因の発生時の両伝達関数の差分に対して既知の送信信号を乗算することで得られるφ値を算出している。そして、外乱要因の発生が継続していると判断した間は、φ値を用いて受信データを校正し、校正後の受信データに基づいて変位計測を行っている。
【0068】
このような校正処理を施して変位計測を行うことで、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを実現できる。
【0069】
実施の形態3.
先の実施の形態1では、1個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成され、送信信号が未知の場合について説明した。これに対して、本実施の形態3では、n個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成され、送信信号が未知の場合について説明する。
【0070】
図7は、本発明の実施の形態3における変位計測システムの基本的な構成を例示する全体図である。図7に示した変位計測システムは、変位を観測したい地点に設置されたn台の発信機1(1)〜1(n)と、設置箇所が変位しない場所に設置されたm個の受信機2(1)〜2(m)で構成される。本実施の形態3では、発信機1(1)〜1(n)からの送信信号が未知である場合について説明する。
【0071】
本実施の形態3における変位計測システムの構成図は、先の実施の形態1における図2の構成図と同じである。そして、本実施の形態3においても、先の実施の形態1と同様に、受信データの類似性に着目して、環境変化の検出を行うが、発信機が1台ではなくn台で構成されている点が、先の実施の形態1とは異なっている。
【0072】
図8は、本発明の実施の形態3における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。そこで、図2、図7、図8に基づいて、本実施の形態3における変位計測システムの一連処理について、詳細に説明する。
【0073】
まず始めに、受信データ取得部10は、システム運用開始前に、m個の受信機2(1)〜2(m)からの基準となるべき受信データを、全ての発信機と受信機の組合せに対して(すなわち、本実施の形態3では、n個の発信機1(1)〜1(n)のそれぞれに対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれの組合せに対して)収集する。
【0074】
より具体的には、受信データ取得部10は、外乱要因がないシステム導入環境下での種々の受信データ(例えば、春夏秋冬、昼夜等により異なる日射・温度条件下での晴天時の種々の受信データ)を取得し、データ記憶部20に記憶させ、基準データをあらかじめデータベース化しておく(ステップS801)。
【0075】
次に、システム運用開始後、リファレンスデータ抽出部30は、計測を行っている時期および時間帯に応じた基準となる受信データをデータ記憶部20から読み出し、リファレンスデータとして登録しておく(ステップS802)。このときのリファレンスデータrref(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、n)は、送信信号をs(j)(j=1、2、・・・、n)、伝達関数をh(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、n)とすると、下式(15)となる。
【0076】
【数12】
【0077】
なお、ステップS802によるこのようなリファレンスデータの登録は、1日の内の日射の影響による位相ずれや温度変化による位相ずれの影響を軽減するために、計測を行っている時間帯に応じて、データベース化されたデータ記憶部20の中から最も近い条件での受信データを読み出すことで、順次更新される。また、リファレンスデータの登録は、日、月、年単位でも、必要に応じて、順次更新される。
【0078】
一方、受信データ取得部10は、変位計測を行うため、発信機からの信号の受信を開始する(ステップS803)。このときの各受信機での受信信号r(i、j)(i=1、2、・・・m、j=1、2、・・・、n)は、送信信号をs(j)(j=1、2、・・・、n)、伝達関数をh(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、n)とすると、下式(16)となる。
【0079】
【数13】
【0080】
次に、環境変化検出部40は、以降の信号処理を簡単化するために、上式(15)のリファレンスデータrref(i、j)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるRref(i、j)と、上式(16)の受信信号r(i、j)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるR(i、j)を、それぞれ下式(17)、(18)として算出する(ステップS804)。
【0081】
【数14】
【0082】
次に、環境変化検出部40は、リファレンスデータrref(i、j)をFFTした信号Rref(i、j)と、受信信号r(i、j)をFFTした信号R(i、j)との相関係数を、下式(19)により算出する(ステップS805)。
【0083】
【数15】
【0084】
次に、環境変化検出部40は、全ての送受信機間の組合せ(すなわち、本実施の形態3では、n個の発信機1(1)〜1(n)のそれぞれに対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれ)に対して、個別に、先のステップS805で算出した相関係数が、事前に設定した閾値以上であるかを判断する(ステップS806)。本実施の形態3では、ステップS802〜ステップS806の一連の処理を、所定の時間間隔(所定のサンプリング時刻)で順次行うことで、変位計測を行うこととなる。
【0085】
そして、環境変化検出部40は、上述した仮定1、2に基づいて、少なくとも何れか1つの受信機における受信データに関する相関係数が、所定の閾値よりも低い結果となった場合には、計測環境に変化が生じたことで受信波形そのものが変化したと判断し、アラームを発生する。
【0086】
そして、先のステップS806の判断結果によりアラームが発生していない場合には、変位計測部60は、先の特許文献1に記載されているような従来技術により、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する(ステップS807)。
【0087】
一方、先のステップS806の判断結果によりアラームが発生した場合には、校正処理部50により、外乱要因による位相変化を補償するための校正処理を行う(ステップS808)。そこで、この校正処理について、以下に詳細に説明する。
【0088】
校正処理部50は、あるサンプリング時刻でのステップS806による判断結果によりアラームが発生した場合には、そのサンプリング時刻よりも1つ前のサンプリング時刻に受信したデータrt−1(i)(i=1、2、・・・、m)と、リファレンスデータとの位相差θdispを算出する。同様に、校正処理部50は、アラームが発生したサンプリング時刻で受信したデータrt(i)(i=1、2、・・・、m)と、リファレンスデータとの位相差θmeanを算出する。
【0089】
そして、校正処理部50は、位相差θmeasから位相差θdispを減算した値であるθcalを下式(20)により求め、位相補正データとする。
【0090】
【数16】
【0091】
アラームが発生した場合には、先の実施の形態1において詳述した図4、および上式(20)に示したように、アラームが発生する前後で算出された位相差の差分から、位相補正データθcalを得ることができる。そして、その後のサンプリング時刻において、アラームが発生する状態が続く場合には、位相補正データθcalを用いて実際の受信データr(i)の位相を校正処理する。その後、先のステップS807に進む。
【0092】
そして、ステップS807において、変位計測部60は、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データに対して、先のステップS808による位相の校正処理を施した後の受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する。
【0093】
このようなステップS806〜S808の処理をまとめると、次のようになる。先の実施の形態1における図5に示したように、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、相関係数が所定の閾値以上であった場合には、受信データr(i、j)をそのまま使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0094】
一方、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、相関係数が所定の閾値よりも小さく、アラームが生成された場合には、そのアラームが継続して発生している間は、校正処理部50で生成された位相補正データθcalによる位相補正後の受信データを使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0095】
以上のように、実施の形態3によれば、n個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成される場合においても、先の実施の形態1と同様に、リファレンスデータと受信データとの相関係数が所定の閾値よりも小さい場合には、外乱の影響による位相変化が生じていると判断し、外乱要因の発生前後の位相差算出結果から、位相補正データを算出している。そして、外乱要因の発生が継続していると判断した間は、位相補正データを用いて受信データの位相を校正し、校正後の受信データに基づいて変位計測を行っている。
【0096】
このような校正処理を施して変位計測を行うことで、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを実現できる。
【0097】
実施の形態4.
先の実施の形態2では、1個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成され、送信信号が既知の場合について説明した。これに対して、本実施の形態4では、n個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成され、送信信号が既知の場合について説明する。
【0098】
本実施の形態4における基本的な構成を例示する全体図は、先の実施の形態3における図7の全体図と同じである。また、本実施の形態4における変位計測システムの構成図は、先の実施の形態1における図2の構成図と同じである。そして、本実施の形態4においても、先の実施の形態2と同様に、伝達関数の類似性に着目して、環境変化の検出を行うが、発信機が1台ではなくn台で構成されている点が、先の実施の形態2とは異なっている。
【0099】
図9は、本発明の実施の形態4における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。そこで、図2、図7、図9に基づいて、本実施の形態4における変位計測システムの一連処理について、詳細に説明する。
【0100】
まず始めに、受信データ取得部10は、システム運用開始前に、m個の受信機2(1)〜2(m)からの基準となるべき受信データを、全ての発信機と受信機の組合せに対して(すなわち、本実施の形態4では、n個の発信機1(1)〜1(n)のそれぞれに対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれの組合せに対して)収集する。
【0101】
より具体的には、受信データ取得部10は、外乱要因がないシステム導入環境下での種々の受信データ(例えば、春夏秋冬、昼夜等により異なる日射・温度条件下での晴天時の種々の受信データ)を取得し、データ記憶部20に記憶させ、基準データをあらかじめデータベース化しておく(ステップS901)。
【0102】
次に、システム運用開始後、リファレンスデータ抽出部30は、計測を行っている時期および時間帯に応じた基準となる受信データをデータ記憶部20から読み出し、リファレンスデータとして登録しておく(ステップS902)。このときのリファレンスデータrref(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、n)は、送信信号をs(j)(j=1、2、・・・、n)、伝達関数をhref(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、n)とすると、下式(21)となる。
【0103】
【数17】
【0104】
なお、ステップS902によるこのようなリファレンスデータの登録は、1日の内の日射の影響による位相ずれや温度変化による位相ずれの影響を軽減するために、計測を行っている時間帯に応じて、データベース化されたデータ記憶部20の中から最も近い条件での受信データを読み出すことで、順次更新される。また、リファレンスデータの登録は、日、月、年単位でも、必要に応じて、順次更新される。
【0105】
一方、受信データ取得部10は、変位計測を行うため、発信機からの信号の受信を開始する(ステップS903)。このときの各受信機での受信信号r(i、j)(i=1、2、・・・m、j=1、2、・・・、n)は、送信信号をs(j)(j=1、2、・・・、n)、伝達関数をh(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、n)とすると、下式(22)となる。
【0106】
【数18】
【0107】
次に、環境変化検出部40は、以降の信号処理を簡単化するために、上式(21)のリファレンスデータrref(i、j)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるRref(i、j)と、上式(22)の受信信号r(i、j)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるR(i、j)を、それぞれ下式(23)、(24)として算出する(ステップS904)。
【0108】
【数19】
【0109】
さらに、本実施の形態4では、送信信号s(j)が既知であることを前提としており、高速フーリエ変換した結果であるS(j)も既知である。従って、上式(23)、(24)のそれぞれに関し、伝達関数Href(i、j)およびH(i、j)を求めると、下式(25)、(26)を得ることができる(ステップS905)。
【0110】
【数20】
【0111】
次に、環境変化検出部40は、リファレンスデータrref(i、j)に関するFFT後の伝達関数Href(i、j)と、受信信号r(i、j)に関するFFT後の伝達関数H(i、j)との相関係数を、下式(27)により算出する(ステップS906)。
【0112】
【数21】
【0113】
次に、環境変化検出部40は、全ての送受信機間の組合せ(すなわち、本実施の形態4では、n個の発信機1(1)〜1(n)のそれぞれに対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれ)に対して、個別に、先のステップS906で算出した相関係数が、事前に設定した閾値以上であるかを判断する(ステップS907)。本実施の形態4では、ステップS902〜ステップS907の一連の処理を、所定の時間間隔(所定のサンプリング時刻)で順次行うことで、変位計測を行うこととなる。
【0114】
そして、環境変化検出部40は、上述した仮定1、2に基づいて、少なくともいすれか1つの受信機における伝達関数に関する相関係数が、所定の閾値よりも低い結果となった場合には、計測環境に変化が生じたことで受信波形そのものが変化したと判断し、アラームを発生する。
【0115】
そして、先のステップS907の判断結果によりアラームが発生していない場合には、変位計測部60は、先の特許文献1に記載されているような従来技術により、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する(ステップS908)。
【0116】
一方、先のステップS907の判断結果によりアラームが発生した場合には、校正処理部50により、外乱要因による位相変化を補償するための校正処理を行う(ステップS909)。そこで、この校正処理について、以下に詳細に説明する。
【0117】
校正処理部50は、あるサンプリング時刻でのステップS907による判断結果によりアラームが発生した場合には、そのサンプリング時刻におけるリファレンスの伝達関数Href(i、j)と受信データの伝達関数H(i、j)との差分を計算し、既知である送信信号s(j)を乗算した値φ(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、mnを求める。さらに、受信データr(i、j)からφ(i、j)を減算した値r´(i、j)を校正後の受信データとして、下式(28)により求める。
【0118】
【数22】
【0119】
その後、先のステップS908に進む。そして、ステップS908において、変位計測部60は、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データr(i、j)に対して、先のステップS909による校正処理を施した後の受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する。なお、アラームが発生してない状態での受信データは、上式(28)において、φ(i、j)=0とした場合に相当する。
【0120】
このようなステップS907〜S909の処理をまとめると、次のようになる。先の実施の形態1における図5に示したように、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、伝達関数に関する相関係数が所定の閾値以上であった場合には、受信データr(i、j)をそのまま使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0121】
一方、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、伝達関数に関する相関係数が所定の閾値よりも小さく、アラームが生成された場合には、そのアラームが継続して発生している間は、アラームを最初に検知したサンプリング時刻で、校正処理部50で生成されたφ(i、j)を用いた補正後の受信データr´(i、j)を使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0122】
以上のように、実施の形態4によれば、n個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成される場合においても、先の実施の形態2と同様に、送信信号s(i、j)が既知であることを前提に、リファレンスデータと受信データに関するそれぞれの伝達関数の相関係数が所定の閾値よりも小さい場合には、外乱の影響による位相変化が生じていると判断し、外乱要因の発生時の両伝達関数の差分に対して送信信号を乗算することで得られるφ値を算出している。そして、外乱要因の発生が継続していると判断した間は、φ値を用いて受信データを校正し、校正後の受信データに基づいて変位計測を行っている。
【0123】
このような校正処理を施して変位計測を行うことで、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを実現できる。
【0124】
なお、上述した実施の形態1〜4では、相関演算を行う基準データに関し、リファレンスデータ抽出部によりリファレンスデータを抽出した後にFFT処理を行う場合について説明した。しかしながら、基準データに関しては、FFT処理後のデータをリファレンスデータとして抽出することも可能である。
【0125】
また、データ記憶部20には、システム運用開始前に、種々の条件下で基準データをあらかじめ記憶させておく場合について説明した。しかしながら、システム運用開始後に、基準データの追加、更新をすることも可能である。
【0126】
実施の形態5.
先の実施の形態3では、n個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成され、受信信号との相関係数算出に用いるリファレンスデータは、外乱要因がないシステム導入環境下での種々の受信データをデータベース化してあらかじめ登録しておき、それらの中から、計測を行っている時期および時間帯に応じて適切なデータを選択する場合について説明した。これに対して、本実施の形態5では、送信信号が未知の場合において、リファレンスデータとして、受信信号と計測時間が近く、かつ、晴天時に取得したデータを選択する場合について説明する。
【0127】
図10は、本発明の実施の形態5における変位計測システムの基本的な構成を例示する全体図である。図10に示した変位計測システムは、変位を観測したい地点に設置されたn台の発信機1(1)〜1(n)と、発信機1付近の変位が発生しない固定点に設置されたp台の基準発信機3(1)〜3(p)と、設置箇所が変位しない場所に設置されたm個の受信機2(1)〜2(m)で構成される。先の実施の形態3における図7と比較すると、本実施の形態5における図10の構成は、p台の基準発信機3(1)〜3(p)をさらに備えている点が異なっている。
【0128】
次に、本実施の形態5における変位計測システムの動作について説明する。本実施の形態5では、外乱要因として、例えば、降雨が発生したことを検出し、それによる位相ずれを補償する動作について、具体的に説明する。
【0129】
図11は、本発明の実施の形態5における変位計測システムの構成図である。本実施の形態5における変位計測システムは、第2の受信データ取得部11、リファレンスデータ候補記憶部21、リファレンスデータ選択部31、第2の環境変化検出部41、校正処理部50、変位計測部60、およびパラメータ設定部70を備えて構成されている。
【0130】
先の実施の形態1〜4における図2の構成と比較すると、本実施の形態5における図11の構成は、受信データ取得部10、データ記憶部20、リファレンスデータ抽出部30、環境変化検出部40の代わりに、それぞれ第2の受信データ取得部11、リファレンスデータ候補記憶部21、リファレンスデータ選択部31、第2の環境変化検出部41を備えているとともに、パラメータ設定部70をさらに備えている点が異なっている。そこで、これらの相違点を中心に、本実施の形態5における変位計測システムの一連動作について、フローチャートを用いて説明する。
【0131】
図12は、本発明の実施の形態5における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。そこで、図10、図11、図12に基づいて、本実施の形態5における変位計測システムの一連処理について、詳細に説明する。
【0132】
まず始めに、パラメータ設定部70は、システム運用開始前に、以下のパラメータの設定を行う(ステップS1201)。
・リファレンス効果時間TTL1=TTL_default1
・リファレンス効果時間TTL2=TTL_default2
・フィルタ係数M1、M2、N(ただし、TTL_default2≫TTL_default1≧M2+1とする。)
・環境変化検出閾値Thre1
・環境変化検出閾値Thre2
【0133】
ここで、環境変化検出閾値としては、システム運用開始前の晴天時に取得した複数データ間での複数の相関係数に対する平均値をμ、標準偏差をσとした場合に、一例として、以下のような数式で設定される。
Thre1=μ+K1σ
Thre2=μ+K2σ
【0134】
次に、パラメータ設定部70は、システム運用開始前の晴天時に取得した、リファレンス効果時間TTL1に対応するリファレンスデータr_ref1=R(t1)、およびリファレンス効果時間TTL2に対応するリファレンスデータr_ref2=R(t2)を設定する(ステップS1202)。ただし、初期設定時は、t1=t2=1とする。
【0135】
次に、第2の受信データ取得部11は、変位を観測したい位置に設置したn個の発信機1(1)〜1(n)からの信号と、さらに、固定点に設置し、位置が動かないp個の基準発信機3(1)〜3(p)からの信号のそれぞれを、m個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれの組合せに対して収集する(ステップS1203)。
【0136】
このときの基準発信機3(1)〜3(p)からの観測信号は、m個の受信機とp個の基準発信機との組合せとして、rbasis(m、p、t)とする(ただし、tは各受信時系列を表す)。
【0137】
次に、このステップS1203において、リファレンスデータ候補記憶部21は、第2の受信データ取得部11で取得した基準発信機からの観測信号rbasis(m、p、t)を、最新の取得サンプルから過去tref1およびtref2サンプル分前まで、リファレンスデータ候補として保持する。ここで、tref1およびtref2は、それぞれ下式で表される。
tref1=M2、M2+1、・・・、M2+TTL_default1−1
tref2=M2、M2+1、・・・、M2+TTL_default2−1
【0138】
また、リファレンスデータ候補には、それぞれのリファレンスデータ候補取得時におけるリファレンスデータとの相関係数CORR1(t−tref1)およびCORR2(t−tref1)も同時に保持する。
【0139】
次に、リファレンスデータ選択部31は、最適なリファレンスデータを選択し、第2の環境変化検出部41へ登録する(ステップS1204)。具体的には、現在使用しているリファレンスデータr_ref1に対するリファレンス効果時間TTL1を確認する。
【0140】
TTL1が1より大きければ、r_ref1を引き続きリファレンスデータとして、第2の環境変化検出部41へ登録する。一方、TTL1が0であれば、条件1として、リファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref1)(ただし、tref1=M2、M2+1、・・・、M2+TTL_default1−1)取得時のそれぞれの相関係数CORR1(t−tref1)≧Thre1となるリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref1)が存在するか否かを確認する。
【0141】
そして、この条件1を満たすリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref1)が存在する場合には、条件1を満たすリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref1)の中で、対応する相関係数CORR1(t−tref1)が最大値となる場合のリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref1)を新たな最適なリファレンスデータr_ref1=rbasis(m、p、t−tref1)として選択し、リファレンス効果時間TTL1=TTL_default1に更新設定する。
【0142】
一方、条件1を満たすリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref1)が存在しない場合には、現在使用しているリファレンスデータr_ref1を引き続き設定する。
【0143】
次に、第2の環境変化検出部41は、第2の受信データ取得部11から得た基準発信機からの観測信号rbasis(m、p、t)およびリファレンスデータ選択部31から得たリファレンスデータr_ref1のそれぞれを高速フーリエ変換(FFT)し、その絶対値を取った結果であるRbasis(m,p,t)およびR_ref1を算出する(ステップS1205)。
【0144】
次に、第2の環境変化検出部41は、Rbasis(m,p,t)およびR_ref1との相関係数CORR1(t)を算出する(ステップS1206)。
【0145】
さらに、第2の環境変化検出部41は、リファレンス効果時間TTL1を確認し、TTL1≧1であれば、TTL1=TTL1−1に更新する(ステップS1207)。
【0146】
次に、TTL2に対応するリファレンスデータr_ref2についても、先のステップS1204と同様の方法で、リファレンスデータ選択部31は、最適なリファレンスデータr_ref2を選択し、第2の環境変化検出部41へ登録する(ステップS1208)。具体的には、現在使用しているリファレンスデータr_ref2に対するリファレンス効果時間TTL2を確認する。
【0147】
TTL2が1より大きければ、r_ref2を引き続きリファレンスデータとして、第2の環境変化検出部41へ登録する。一方、TTL2が0であれば、条件2として、リファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref2)(ただし、tref2=M2、M2+1、・・・、M2+TTL_default2−1)取得時のそれぞれの相関係数CORR2(t−tref2)≧Thre2となるリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref2)が存在するか否かを確認する。
【0148】
そして、この条件2を満たすリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref2)が存在する場合には、条件2を満たすリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref2)の中で、対応する相関係数CORR2(t−tref2)が最大値となる場合のリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref2)を新たな最適なリファレンスデータr_ref2=rbasis(m、p、t−tref2)として選択し、リファレンス効果時間TTL2=TTL_default2に更新設定する。
【0149】
一方、条件2を満たすリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref2)が存在しない場合には、現在使用しているリファレンスデータr_ref2を引き続き設定する。
【0150】
次に、第2の環境変化検出部41は、ステップS1205と同様、第2の受信データ取得部11から得た基準発信機からの観測信号rbasis(m、p、t)およびリファレンスデータ選択部31から得たリファレンスデータr_ref2を高速フーリエ変換(FFT)し、その絶対値を取った結果であるRbasis(m,p,t)およびR_ref2を算出する(ステップS1209)。
【0151】
次に、第2の環境変化検出部41は、ステップS1206と同様、Rbasis(m,p,t)およびR_ref2との相関係数CORR2(t)を算出する(ステップS1210)。
【0152】
さらに、第2の環境変化検出部41は、ステップS1207と同様、リファレンス効果時間TTL2を確認し、TTL2≧1であれば、TTL2=TTL2−1に更新する(ステップS1211)。
【0153】
ここまでで得た相関係数CORR1(t)およびCORR2(t)、また、STATUS判定を行おうとしているサンプルtに対して時間的にM1個前までのサンプルについても同様に求めた相関係数CORR1(t−m1)およびCORR2(t−m1)(ここで、m1=1、・・・、M1)、さらに、STATUS判定を行おうとしているサンプルtに対して時間的にM2個後ろまでのサンプルについても同様に求めた相関係数CORR1(t+m2)およびCORR2(t+m2)(ここで、m2=1、・・・、M2)を用いて、基準発信機からの観測信号rbasis(m、p、t)取得時の計測環境の状態(本実施の形態5では、計測環境変化として降雨発生を仮定している)を検出し、STATUS判定を行う(ステップS1212)。
【0154】
具体的には、
CORR1(t)≧Thre1
CORR1(t−m1)≧Thre1
CORR1(t+m2)≧Thre1
の3式を満たすCORR1の数P1がN個以上、かつ、
CORR2(t)≧Thre2
CORR2(t−m1)≧Thre2
CORR2(t+m2)≧Thre2
の3式を満たすCORR2の数P2がN個以上の場合には、観測信号rbasis(m、p、t)取得時は晴天であった(環境変化の検出なし)とする。
【0155】
また、
CORR1(t)≧Thre1
CORR1(t−m1)≧Thre1
CORR1(t+m2)≧Thre1
の3式を満たすCORR1の数P1がN個以上、かつ、
CORR2(t)≧Thre2
CORR2(t−m1)≧Thre2
CORR2(t+m2)≧Thre2
の3式を満たすCORR2の数P2がN個未満の場合には、観測信号rbasis(m、p、t)取得時は、降雨状態であった(環境変化の検出あり)とする。
【0156】
ここで、TTL_default1を短く設定し、TTL_default2を長く設定することで、TTL_default1に対しては、短期的な環境変化を検出し、TTL_default2に対しては、長期的な環境変化を検出させることが可能となる。
【0157】
従って、このように設定した際には、短期的にリファレンスデータを変更した場合には変化を検出しづらいが、1つのリファレンスデータに対して長期的に相関係数を算出することで、例えば、緩やかに降雨状態に移行するような小雨状態の検出が可能となる。
【0158】
また、
CORR1(t)≧Thre1
CORR1(t−m1)≧Thre1
CORR1(t+m2)≧Thre1
の3式を満たすCORR1の数P1がN個未満、かつ、
CORR2(t)≧Thre2
CORR2(t−m1)≧Thre2
CORR2(t+m2)≧Thre2
の3式を満たすCORR2の数P2がN個以上の場合には、観測信号rbasis(m、p、t)取得時は、降雨状態であった(環境変化の検出あり)とする。
【0159】
また、
CORR1(t)≧Thre1
CORR1(t−m1)≧Thre1
CORR1(t+m2)≧Thre1
の3式を満たすCORR1の数P1がN個未満、かつ、
CORR2(t)≧Thre2
CORR2(t−m1)≧Thre2
CORR2(t+m2)≧Thre2
の3式を満たすCORR2の数P2がN個未満の場合には、観測信号rbasis(m、p、t)取得時は、降雨状態であった(環境変化の検出あり)とする。
【0160】
次に、第2の環境変化検出部41は、全ての基準発信機と受信機間(すなわち、p個の基準発信機3(1)〜3(p)のそれぞれに対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれ)の組み合わせpm通りに対して、上述した処理を実施し、pm/K個以上(ただし、Kは任意に設定)の組合せで環境変化を検出した場合には、最終的なシステムとして、環境変化を検出したと判断する。
【0161】
第2の環境変化検出部41は、システムとしての環境変化を検出したと判断した場合には、アラームを発生させ、さらに、校正処理部50で受信信号の校正を行う(ステップS1213)。具体的には、校正処理部50は、先の実施の形態3で記載した校正処理部50と同様の動作により、環境変化が発生した場合の受信位相変化を校正し、その後、ステップS1214へ進む。
【0162】
一方、第2の環境変化検出部41は、システムとしての環境変化を検出しないと判断した場合、あるいは、環境変化を検出しても校正処理が必要ないと判断した場合には、ただちに、ステップS1214へと進む。
【0163】
そして、ステップS1214において、変位計測部60は、発信機1(1)〜1(n)の変位計測を行う。具体的には、変位計測部60は、先の特許文献1に記載されているような従来技術により、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する。
【0164】
このような校正処理を施して変位計測を行うことで、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを実現できる。
【0165】
以上のように、実施の形態5によれば、発信機付近の変位が発生しない固定点に設置した1台以上の基準発信機を有することで、リファレンスデータとして、受信信号と計測時間が近く、かつ、晴天時に取得したデータを選択することを可能としている。この結果、晴天時に取得したデータに基づいた校正処理を施して変位計測を行うことができ、計測環境が変化したことに起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図ることができる。
【0166】
なお、上述した実施の形態5において、基準発信機3(1)〜3(p)が設置できない場合には、発信機1(1)〜1(n)の信号を用いて、実施の形態5と同様の手順で環境変化検出を行うことができる。
【符号の説明】
【0167】
1(1)〜1(n) 発信機、2(1)〜2(m) 受信機、基準発信機 3(1)〜3(p)、10 受信データ取得部、11 第2の受信データ取得部、20 データ記憶部、21 リファレンスデータ候補記憶部、30 リファレンスデータ抽出部、31 リファレンスデータ選択部、40 環境変化検出部、41 第2の環境変化検出部、50 校正処理部、60 変位計測部、70 パラメータ設定部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測環境が変化したことによる計測精度の劣化を抑制した変位計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
変位を計測したい地点に設置した発信機からの受信位相を利用して、発信機変位を観測する従来技術としては、次のようなものがある。この従来技術では、位置が既知である固定点に設置された受信機で受信した信号をそのまま用い、発信機位置が変位すれば、複数の受信機間での受信位相差も変化するという性質を利用して、発信機変位を計測している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−202964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1のような従来技術では、例えば、降雨等の影響で計測環境が変化したことにより受信信号に位相誤差が発生し、受信位相が変化すると、実際には、発信機が変位していない場合であっても、システムとして変位を観測してしまう課題があった。
【0005】
従って、発信機が変位したことにより受信位相に変化が起こったのか(すなわち、本来、検出したい変位が発生したのか)、あるいは、計測環境が変化したことにより受信位相に変化が起こったのか(すなわち、本来、検出したくない誤検出要因により変位が発生したのか)をシステマッティックに判断(検出)する必要があった。
【0006】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る変位計測システムは、変位を観測したい地点に設置された1台以上の発信機からの電波を、設置箇所が変位しない場所に設置された複数台の受信機で受信し、複数台の受信機による受信信号の受信位相の組合せから受信位相差を算出し、受信位相差の変化から1台以上の発信機の変位を計測する変位計測部を備えた変位計測システムにおいて、あらかじめ取得した受信信号に基づく基準データと、変位計測時に取得した受信信号に基づく観測データとの相関係数を算出し、算出した相関係数が所定の閾値よりも低い場合には、計測環境の変化が発生したことを検出する環境変化検出部と、環境変化検出部により計測環境の変化が検出された場合には、変位計測時に取得した受信信号に対して、計測環境が変化したことによる位相誤差を校正する校正処理部とをさらに備え、変位計測部は、環境変化検出部により計測環境の変化が検出された場合には、校正処理部による校正後の受信信号の受信位相の組合せから受信位相差を算出することで、1台以上の発信機の変位を計測するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る変位計測システムによれば、受信信号に基づく基準データと観測データとの相関関係に着目し、所定の閾値よりも低い相関関係である場合には、受信データの校正を行った後に変位計測を行うことにより、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1における変位計測システムの基本的な構成を例示する全体図である。
【図2】本発明の実施の形態1における変位計測システムの構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態1における受信データとリファレンスデータとの位相差算出結果の時系列データを示した図である。
【図5】本発明の実施の形態1における変位計測部60が発信機変位を計測するために用いる受信データに関する説明図である。
【図6】本発明の実施の形態2における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態3における変位計測システムの基本的な構成を例示する全体図である。
【図8】本発明の実施の形態3における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態4における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態5における変位計測システムの基本的な構成を例示する全体図である。
【図11】本発明の実施の形態5における変位計測システムの構成図である。
【図12】本発明の実施の形態5における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず始めに、本発明の基本概念について説明する。
本発明は、以下の2つの仮定に基づき、変位計測の外乱要因となる環境変化検出を行うものである。
(仮定1)発信機に変位が生じた場合の発信機の変位は、数ミリ程度の大きさであり、発信機と受信機間の距離に比べると微小であることから、発信機変位のみでは、受信位相が変化したとしても、波形そのものは、ほぼ変化しない。
(仮定2)計測環境に変化が生じた場合、例えば、降雨により雨粒の付着等が起こった場合には、発信機と受信機間のマルチパスの状態が変化し、受信位相が変化するとともに、受信波形そのものが変化する。
【0011】
本発明は、これらの2つの仮定に着目し、基準とする計測環境の受信信号あるいはその受信信号を得るための伝達関数(基準データ)と、実際に判定を行う受信信号あるいはその受信信号を得るための伝達関数(観測データ)との類似性から環境変化を検出する。換言すると、本発明は、受信信号に基づく基準データと観測データとの類似度を求めることで、類似性が小さい場合には、基準に対して波形そのものが変化した、すなわち、環境変化が起こったことを検出する。
【0012】
また、計測環境の伝達関数の変化についても、同様の性質があると考えられるため、送信信号が既知の場合には、伝達関数を用いた環境変化の検出についても提案する。さらに、環境検出を検出した際には、検出結果に基づく校正後のデータを用いて変位計測を行うことで、変位計測精度の向上を図っている。そこで、本発明の変位計測システムの好適な実施の形態につき、図面を用いて以下に説明する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における変位計測システムの基本的な構成を例示する全体図である。図1に示した変位計測システムは、変位を観測したい地点に設置された1台の発信機1(1)と、設置箇所が変位しない場所に設置されたm個の受信機2(1)〜2(m)で構成される。本実施の形態1では、発信機1(1)からの送信信号が未知である場合について説明する。
【0014】
次に、本実施の形態1における変位計測システムの動作について説明する。本実施の形態1では、外乱要因として、例えば、降雨が発生したことによる位相ずれを補償する動作について、具体的に説明する。図2は、本発明の実施の形態1における変位計測システムの構成図である。本実施の形態1における変位計測システムは、受信データ取得部10、データ記憶部20、リファレンスデータ抽出部30、環境変化検出部40、校正処理部50、および変位計測部60を備えて構成されている。
【0015】
また、図3は、本発明の実施の形態1における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。そこで、図1〜図3に基づいて、本実施の形態1における変位計測システムの一連処理について、詳細に説明する。
【0016】
まず始めに、受信データ取得部10は、システム運用開始前に、m個の受信機2(1)〜2(m)からの基準となるべき受信データ(受信信号)を、全ての発信機と受信機の組合せに対して(すなわち、本実施の形態1では、1個の発信機1(1)に対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれの組合せに対して)収集する。
【0017】
より具体的には、受信データ取得部10は、外乱要因がないシステム導入環境下での種々の受信データ(例えば、春夏秋冬、昼夜等により異なる日射・温度条件下での晴天時の種々の受信データ)を取得し、データ記憶部20に記憶させ、基準データをあらかじめデータベース化しておく(ステップS301)。
【0018】
次に、システム運用開始後、リファレンスデータ抽出部30は、計測を行っている時期および時間帯に応じた基準となる受信データをデータ記憶部20から読み出し、リファレンスデータとして登録しておく(ステップS302)。このときのリファレンスデータrref(i)(i=1、2、・・・、m)は、送信信号をs、伝達関数をh(i)(i=1、2、・・・、m)とすると、下式(1)となる。
【0019】
【数1】
【0020】
なお、ステップS302によるこのようなリファレンスデータの登録は、1日の内の日射の影響による位相ずれや温度変化による位相ずれの影響を軽減するために、計測を行っている時間帯に応じて、データベース化されたデータ記憶部20の中から最も近い条件での受信データを読み出すことで、順次更新される。また、リファレンスデータの登録は、日、月、年単位でも、必要に応じて、順次更新される。
【0021】
一方、受信データ取得部10は、変位計測を行うため、発信機からの信号の受信を開始する(ステップS303)。このときの各受信機での受信信号r(i)(i=1、2、・・・m)は、送信信号をs、伝達関数をh(i)(i=1、2、・・・、m)とすると、下式(2)となる。
【0022】
【数2】
【0023】
次に、環境変化検出部40は、以降の信号処理を簡単化するために、上式(1)のリファレンスデータrref(i)(i=1、2、・・・、m)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるRref(i)と、上式(2)の受信信号r(i)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるR(i)(i=1、2、・・・、m)を、それぞれ下式(3)、(4)として算出する(ステップS304)。
【0024】
【数3】
【0025】
次に、環境変化検出部40は、リファレンスデータrref(i)をFFTした信号Rref(i)と、受信信号r(i)をFFTした信号R(i)との相関係数を、下式(5)により算出する(ステップS305)。
【0026】
【数4】
【0027】
次に、環境変化検出部40は、全ての送受信機間の組合せ(すなわち、本実施の形態1では、1個の発信機1(1)に対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれ)に対して、個別に、先のステップS305で算出した相関係数が、事前に設定した閾値以上であるかを判断する(ステップS306)。本実施の形態1では、ステップS302〜ステップS306の一連の処理を、所定の時間間隔(所定のサンプリング時刻)で順次行うことで、変位計測を行うこととなる。
【0028】
そして、環境変化検出部40は、上述した仮定1、2に基づいて、少なくともいすれか1つの受信機における受信データに関する相関係数が、所定の閾値よりも低い結果となった場合には、計測環境に変化が生じたことで受信波形そのものが変化したと判断し、アラームを発生する。
【0029】
そして、先のステップS306の判断結果によりアラームが発生していない場合には、変位計測部60は、先の特許文献1に記載されているような従来技術により、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する(ステップS307)。
【0030】
一方、先のステップS306の判断結果によりアラームが発生した場合には、校正処理部50により、外乱要因による位相変化を補償するための校正処理を行う(ステップS308)。そこで、この校正処理について、以下に詳細に説明する。
【0031】
校正処理部50は、あるサンプリング時刻でのステップS306による判断結果によりアラームが発生した場合には、そのサンプリング時刻よりも1つ前のサンプリング時刻に受信したデータrt−1(i)(i=1、2、・・・、m)と、リファレンスデータとの位相差θdispを算出する。同様に、校正処理部50は、アラームが発生したサンプリング時刻で受信したデータrt(i)(i=1、2、・・・、m)と、リファレンスデータとの位相差θmeanを算出する。
【0032】
そして、校正処理部50は、位相差θmeasから位相差θdispを減算した値であるθcalを下式(6)により求め、位相補正データとする。
【0033】
【数5】
【0034】
図4は、本発明の実施の形態1における受信データとリファレンスデータとの位相差算出結果の時系列データを示した図である。図4における時刻βは、降雨が発生したことに起因してアラームが発生した際のサンプリング時刻に相当し、時刻αは、時刻βよりも1つ前の降雨が発生していないサンプリング時刻に相当する。
【0035】
また、図4における位相差A、B、Cは、次の内容を意味する位相差である。
位相差A:リファレンスデータと降雨検知前の受信データとの位相差であり、上述した位相差θdispに相当する。
位相差B:位相差Cから位相差Aを減算した位相差に相当し、上述した位相補正データθcalに相当する。
位相差C:リファレンスデータと降雨検知後の受信データとの位相差であり、上述した位相差θmeanに相当する値である。
【0036】
従って、アラームが発生した場合には、先の図4、および上式(6)に示したように、アラームが発生する前後で算出された位相差の差分から、位相補正データθcalを得ることができる。そして、その後のサンプリング時刻において、アラームが発生する状態が続く場合には、位相補正データθcalを用いて実際の受信データr(i)の位相を校正処理する。その後、先のステップS307に進む。
【0037】
そして、ステップS307において、変位計測部60は、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データに対して、先のステップS308による位相の校正処理を施した後の受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する。
【0038】
図5は、本発明の実施の形態1における変位計測部60が発信機変位を計測するために用いる受信データに関する説明図である。この図5に示すように、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、相関係数が所定の閾値以上であった場合には、受信データr(i)をそのまま使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0039】
一方、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、相関係数が所定の閾値よりも小さく、アラームが生成された場合には、そのアラームが継続して発生している間は、校正処理部50で生成された位相補正データθcalによる位相補正後の受信データを使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0040】
以上のように、実施の形態1によれば、リファレンスデータと受信データとの相関係数が所定の閾値よりも小さい場合には、外乱の影響による位相変化が生じていると判断し、外乱要因の発生前後の位相差算出結果から、位相補正データを算出している。そして、外乱要因の発生が継続していると判断した間は、位相補正データを用いて受信データの位相を校正し、校正後の受信データに基づいて変位計測を行っている。
【0041】
このような校正処理を施して変位計測を行うことで、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを実現できる。
【0042】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、発信機からの送信信号が未知であり、基準とする計測環境の受信信号と、実際に判定を行う受信信号との類似性に着目し、環境変化の検出を行う場合について説明した。これに対して、本実施の形態2では、発信機からの送信信号が既知であり、基準とする計測環境の受信信号を得るための伝達関数と、実際に判定を行う受信信号を得るための伝達関数との類似性に着目し、環境変化の検出を行う場合について説明する。
【0043】
本実施の形態2における基本的な構成を例示する全体図は、先の実施の形態1における図1の全体図と同じである。また、本実施の形態2における変位計測システムの構成図は、先の実施の形態1における図2の構成図と同じである。ただし、本実施の形態2において、環境変化検出部40は、伝達関数の類似性に着目して、環境変化の検出を行い、校正処理部50は、伝達関数に基づいて受信データr(i)の校正を行う点が、先の実施の形態1とは異なっている。
【0044】
図6は、本発明の実施の形態2における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。そこで、図1、図2、図6に基づいて、本実施の形態2における変位計測システムの一連処理について、詳細に説明する。
【0045】
まず始めに、受信データ取得部10は、システム運用開始前に、m個の受信機2(1)〜2(m)からの基準となるべき受信データを、全ての発信機と受信機の組合せに対して(すなわち、本実施の形態2では、1個の発信機1(1)に対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれの組合せに対して)収集する。
【0046】
より具体的には、受信データ取得部10は、外乱要因がないシステム導入環境下での種々の受信データ(例えば、春夏秋冬、昼夜等により異なる日射・温度条件下での晴天時の種々の受信データ)を取得し、データ記憶部20に記憶させ、基準データをあらかじめデータベース化しておく(ステップS601)。
【0047】
次に、システム運用開始後、リファレンスデータ抽出部30は、計測を行っている時期および時間帯に応じた基準となる受信データをデータ記憶部20から読み出し、リファレンスデータとして登録しておく(ステップS602)。このときのリファレンスデータrref(i)(i=1、2、・・・、m)は、送信信号をs、伝達関数をhref(i)(i=1、2、・・・、m)とすると、下式(7)となる。
【0048】
【数6】
【0049】
なお、ステップS602によるこのようなリファレンスデータの登録は、1日の内の日射の影響による位相ずれや温度変化による位相ずれの影響を軽減するために、計測を行っている時間帯に応じて、データベース化されたデータ記憶部20の中から最も近い条件での受信データを読み出すことで、順次更新される。また、リファレンスデータの登録は、日、月、年単位でも、必要に応じて、順次更新される。
【0050】
一方、受信データ取得部10は、変位計測を行うため、発信機からの信号の受信を開始する(ステップS603)。このときの各受信機での受信信号r(i)(i=1、2、・・・m)は、送信信号をs、伝達関数をh(i)(i=1、2、・・・、m)とすると、下式(8)となる。
【0051】
【数7】
【0052】
次に、環境変化検出部40は、以降の信号処理を簡単化するために、上式(7)のリファレンスデータrref(i)(i=1、2、・・・、m)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるRref(i)と、上式(8)の受信信号r(i)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるR(i)(i=1、2、・・・、m)を、それぞれ下式(9)、(10)として算出する(ステップS604)。
【0053】
【数8】
【0054】
さらに、本実施の形態2では、送信信号sが既知であることを前提としており、高速フーリエ変換した結果であるSも既知である。従って、上式(9)、(10)のそれぞれに関し、伝達関数Href(i)およびH(i)を求めると、下式(11)、(12)を得ることができる(ステップS605)。
【0055】
【数9】
【0056】
次に、環境変化検出部40は、リファレンスデータrref(i)に関するFFT後の伝達関数Href(i)と、受信信号r(i)に関するFFT後の伝達関数H(i)との相関係数を、下式(13)により算出する(ステップS606)。
【0057】
【数10】
【0058】
次に、環境変化検出部40は、全ての送受信機間の組合せ(すなわち、本実施の形態2では、1個の発信機1(1)に対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれ)に対して、個別に、先のステップS606で算出した相関係数が、事前に設定した閾値以上であるかを判断する(ステップS607)。本実施の形態2では、ステップS602〜ステップS607の一連の処理を、所定の時間間隔(所定のサンプリング時刻)で順次行うことで、変位計測を行うこととなる。
【0059】
そして、環境変化検出部40は、上述した仮定1、2に基づいて、少なくとも何れか1つの受信機における伝達関数に関する相関係数が、所定の閾値よりも低い結果となった場合には、計測環境に変化が生じたことで受信波形そのものが変化したと判断し、アラームを発生する。
【0060】
そして、先のステップS607の判断結果によりアラームが発生していない場合には、変位計測部60は、先の特許文献1に記載されているような従来技術により、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する(ステップS608)。
【0061】
一方、先のステップS607の判断結果によりアラームが発生した場合には、校正処理部50により、外乱要因による位相変化を補償するための校正処理を行う(ステップS609)。そこで、この校正処理について、以下に詳細に説明する。
【0062】
校正処理部50は、あるサンプリング時刻でのステップS607による判断結果によりアラームが発生した場合には、そのサンプリング時刻におけるリファレンスの伝達関数Href(i)と受信データの伝達関数H(i)との差分を計算し、既知である送信信号sを乗算した値φ(i)(i=1、2、・・・、m)を求める。さらに、受信データr(i)からφ(i)を減算した値r´(i)を校正後の受信データとして、下式(14)により求める。
【0063】
【数11】
【0064】
その後、先のステップS608に進む。そして、ステップS608において、変位計測部60は、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データに対して、先のステップS609による校正処理を施した後の受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する。なお、アラームが発生してない状態での受信データは、上式(14)において、φ(i)=0とした場合に相当する。
【0065】
このようなステップS607〜S609の処理をまとめると、次のようになる。先の実施の形態1における図5に示したように、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、伝達関数に関する相関係数が所定の閾値以上であった場合には、受信データr(i)をそのまま使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0066】
一方、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、伝達関数に関する相関係数が所定の閾値よりも小さく、アラームが生成された場合には、そのアラームが継続して発生している間は、アラームを最初に検知したサンプリング時刻において、校正処理部50で生成されたφ(i)を用いた補正後の受信データr´(i)を使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0067】
以上のように、実施の形態2によれば、送信信号sが既知であることを前提に、リファレンスデータと受信データに関するそれぞれの伝達関数の相関係数が所定の閾値よりも小さい場合には、外乱の影響による位相変化が生じていると判断し、外乱要因の発生時の両伝達関数の差分に対して既知の送信信号を乗算することで得られるφ値を算出している。そして、外乱要因の発生が継続していると判断した間は、φ値を用いて受信データを校正し、校正後の受信データに基づいて変位計測を行っている。
【0068】
このような校正処理を施して変位計測を行うことで、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを実現できる。
【0069】
実施の形態3.
先の実施の形態1では、1個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成され、送信信号が未知の場合について説明した。これに対して、本実施の形態3では、n個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成され、送信信号が未知の場合について説明する。
【0070】
図7は、本発明の実施の形態3における変位計測システムの基本的な構成を例示する全体図である。図7に示した変位計測システムは、変位を観測したい地点に設置されたn台の発信機1(1)〜1(n)と、設置箇所が変位しない場所に設置されたm個の受信機2(1)〜2(m)で構成される。本実施の形態3では、発信機1(1)〜1(n)からの送信信号が未知である場合について説明する。
【0071】
本実施の形態3における変位計測システムの構成図は、先の実施の形態1における図2の構成図と同じである。そして、本実施の形態3においても、先の実施の形態1と同様に、受信データの類似性に着目して、環境変化の検出を行うが、発信機が1台ではなくn台で構成されている点が、先の実施の形態1とは異なっている。
【0072】
図8は、本発明の実施の形態3における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。そこで、図2、図7、図8に基づいて、本実施の形態3における変位計測システムの一連処理について、詳細に説明する。
【0073】
まず始めに、受信データ取得部10は、システム運用開始前に、m個の受信機2(1)〜2(m)からの基準となるべき受信データを、全ての発信機と受信機の組合せに対して(すなわち、本実施の形態3では、n個の発信機1(1)〜1(n)のそれぞれに対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれの組合せに対して)収集する。
【0074】
より具体的には、受信データ取得部10は、外乱要因がないシステム導入環境下での種々の受信データ(例えば、春夏秋冬、昼夜等により異なる日射・温度条件下での晴天時の種々の受信データ)を取得し、データ記憶部20に記憶させ、基準データをあらかじめデータベース化しておく(ステップS801)。
【0075】
次に、システム運用開始後、リファレンスデータ抽出部30は、計測を行っている時期および時間帯に応じた基準となる受信データをデータ記憶部20から読み出し、リファレンスデータとして登録しておく(ステップS802)。このときのリファレンスデータrref(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、n)は、送信信号をs(j)(j=1、2、・・・、n)、伝達関数をh(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、n)とすると、下式(15)となる。
【0076】
【数12】
【0077】
なお、ステップS802によるこのようなリファレンスデータの登録は、1日の内の日射の影響による位相ずれや温度変化による位相ずれの影響を軽減するために、計測を行っている時間帯に応じて、データベース化されたデータ記憶部20の中から最も近い条件での受信データを読み出すことで、順次更新される。また、リファレンスデータの登録は、日、月、年単位でも、必要に応じて、順次更新される。
【0078】
一方、受信データ取得部10は、変位計測を行うため、発信機からの信号の受信を開始する(ステップS803)。このときの各受信機での受信信号r(i、j)(i=1、2、・・・m、j=1、2、・・・、n)は、送信信号をs(j)(j=1、2、・・・、n)、伝達関数をh(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、n)とすると、下式(16)となる。
【0079】
【数13】
【0080】
次に、環境変化検出部40は、以降の信号処理を簡単化するために、上式(15)のリファレンスデータrref(i、j)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるRref(i、j)と、上式(16)の受信信号r(i、j)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるR(i、j)を、それぞれ下式(17)、(18)として算出する(ステップS804)。
【0081】
【数14】
【0082】
次に、環境変化検出部40は、リファレンスデータrref(i、j)をFFTした信号Rref(i、j)と、受信信号r(i、j)をFFTした信号R(i、j)との相関係数を、下式(19)により算出する(ステップS805)。
【0083】
【数15】
【0084】
次に、環境変化検出部40は、全ての送受信機間の組合せ(すなわち、本実施の形態3では、n個の発信機1(1)〜1(n)のそれぞれに対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれ)に対して、個別に、先のステップS805で算出した相関係数が、事前に設定した閾値以上であるかを判断する(ステップS806)。本実施の形態3では、ステップS802〜ステップS806の一連の処理を、所定の時間間隔(所定のサンプリング時刻)で順次行うことで、変位計測を行うこととなる。
【0085】
そして、環境変化検出部40は、上述した仮定1、2に基づいて、少なくとも何れか1つの受信機における受信データに関する相関係数が、所定の閾値よりも低い結果となった場合には、計測環境に変化が生じたことで受信波形そのものが変化したと判断し、アラームを発生する。
【0086】
そして、先のステップS806の判断結果によりアラームが発生していない場合には、変位計測部60は、先の特許文献1に記載されているような従来技術により、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する(ステップS807)。
【0087】
一方、先のステップS806の判断結果によりアラームが発生した場合には、校正処理部50により、外乱要因による位相変化を補償するための校正処理を行う(ステップS808)。そこで、この校正処理について、以下に詳細に説明する。
【0088】
校正処理部50は、あるサンプリング時刻でのステップS806による判断結果によりアラームが発生した場合には、そのサンプリング時刻よりも1つ前のサンプリング時刻に受信したデータrt−1(i)(i=1、2、・・・、m)と、リファレンスデータとの位相差θdispを算出する。同様に、校正処理部50は、アラームが発生したサンプリング時刻で受信したデータrt(i)(i=1、2、・・・、m)と、リファレンスデータとの位相差θmeanを算出する。
【0089】
そして、校正処理部50は、位相差θmeasから位相差θdispを減算した値であるθcalを下式(20)により求め、位相補正データとする。
【0090】
【数16】
【0091】
アラームが発生した場合には、先の実施の形態1において詳述した図4、および上式(20)に示したように、アラームが発生する前後で算出された位相差の差分から、位相補正データθcalを得ることができる。そして、その後のサンプリング時刻において、アラームが発生する状態が続く場合には、位相補正データθcalを用いて実際の受信データr(i)の位相を校正処理する。その後、先のステップS807に進む。
【0092】
そして、ステップS807において、変位計測部60は、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データに対して、先のステップS808による位相の校正処理を施した後の受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する。
【0093】
このようなステップS806〜S808の処理をまとめると、次のようになる。先の実施の形態1における図5に示したように、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、相関係数が所定の閾値以上であった場合には、受信データr(i、j)をそのまま使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0094】
一方、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、相関係数が所定の閾値よりも小さく、アラームが生成された場合には、そのアラームが継続して発生している間は、校正処理部50で生成された位相補正データθcalによる位相補正後の受信データを使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0095】
以上のように、実施の形態3によれば、n個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成される場合においても、先の実施の形態1と同様に、リファレンスデータと受信データとの相関係数が所定の閾値よりも小さい場合には、外乱の影響による位相変化が生じていると判断し、外乱要因の発生前後の位相差算出結果から、位相補正データを算出している。そして、外乱要因の発生が継続していると判断した間は、位相補正データを用いて受信データの位相を校正し、校正後の受信データに基づいて変位計測を行っている。
【0096】
このような校正処理を施して変位計測を行うことで、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを実現できる。
【0097】
実施の形態4.
先の実施の形態2では、1個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成され、送信信号が既知の場合について説明した。これに対して、本実施の形態4では、n個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成され、送信信号が既知の場合について説明する。
【0098】
本実施の形態4における基本的な構成を例示する全体図は、先の実施の形態3における図7の全体図と同じである。また、本実施の形態4における変位計測システムの構成図は、先の実施の形態1における図2の構成図と同じである。そして、本実施の形態4においても、先の実施の形態2と同様に、伝達関数の類似性に着目して、環境変化の検出を行うが、発信機が1台ではなくn台で構成されている点が、先の実施の形態2とは異なっている。
【0099】
図9は、本発明の実施の形態4における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。そこで、図2、図7、図9に基づいて、本実施の形態4における変位計測システムの一連処理について、詳細に説明する。
【0100】
まず始めに、受信データ取得部10は、システム運用開始前に、m個の受信機2(1)〜2(m)からの基準となるべき受信データを、全ての発信機と受信機の組合せに対して(すなわち、本実施の形態4では、n個の発信機1(1)〜1(n)のそれぞれに対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれの組合せに対して)収集する。
【0101】
より具体的には、受信データ取得部10は、外乱要因がないシステム導入環境下での種々の受信データ(例えば、春夏秋冬、昼夜等により異なる日射・温度条件下での晴天時の種々の受信データ)を取得し、データ記憶部20に記憶させ、基準データをあらかじめデータベース化しておく(ステップS901)。
【0102】
次に、システム運用開始後、リファレンスデータ抽出部30は、計測を行っている時期および時間帯に応じた基準となる受信データをデータ記憶部20から読み出し、リファレンスデータとして登録しておく(ステップS902)。このときのリファレンスデータrref(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、n)は、送信信号をs(j)(j=1、2、・・・、n)、伝達関数をhref(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、n)とすると、下式(21)となる。
【0103】
【数17】
【0104】
なお、ステップS902によるこのようなリファレンスデータの登録は、1日の内の日射の影響による位相ずれや温度変化による位相ずれの影響を軽減するために、計測を行っている時間帯に応じて、データベース化されたデータ記憶部20の中から最も近い条件での受信データを読み出すことで、順次更新される。また、リファレンスデータの登録は、日、月、年単位でも、必要に応じて、順次更新される。
【0105】
一方、受信データ取得部10は、変位計測を行うため、発信機からの信号の受信を開始する(ステップS903)。このときの各受信機での受信信号r(i、j)(i=1、2、・・・m、j=1、2、・・・、n)は、送信信号をs(j)(j=1、2、・・・、n)、伝達関数をh(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、n)とすると、下式(22)となる。
【0106】
【数18】
【0107】
次に、環境変化検出部40は、以降の信号処理を簡単化するために、上式(21)のリファレンスデータrref(i、j)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるRref(i、j)と、上式(22)の受信信号r(i、j)を高速フーリエ変換(FFT)した結果であるR(i、j)を、それぞれ下式(23)、(24)として算出する(ステップS904)。
【0108】
【数19】
【0109】
さらに、本実施の形態4では、送信信号s(j)が既知であることを前提としており、高速フーリエ変換した結果であるS(j)も既知である。従って、上式(23)、(24)のそれぞれに関し、伝達関数Href(i、j)およびH(i、j)を求めると、下式(25)、(26)を得ることができる(ステップS905)。
【0110】
【数20】
【0111】
次に、環境変化検出部40は、リファレンスデータrref(i、j)に関するFFT後の伝達関数Href(i、j)と、受信信号r(i、j)に関するFFT後の伝達関数H(i、j)との相関係数を、下式(27)により算出する(ステップS906)。
【0112】
【数21】
【0113】
次に、環境変化検出部40は、全ての送受信機間の組合せ(すなわち、本実施の形態4では、n個の発信機1(1)〜1(n)のそれぞれに対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれ)に対して、個別に、先のステップS906で算出した相関係数が、事前に設定した閾値以上であるかを判断する(ステップS907)。本実施の形態4では、ステップS902〜ステップS907の一連の処理を、所定の時間間隔(所定のサンプリング時刻)で順次行うことで、変位計測を行うこととなる。
【0114】
そして、環境変化検出部40は、上述した仮定1、2に基づいて、少なくともいすれか1つの受信機における伝達関数に関する相関係数が、所定の閾値よりも低い結果となった場合には、計測環境に変化が生じたことで受信波形そのものが変化したと判断し、アラームを発生する。
【0115】
そして、先のステップS907の判断結果によりアラームが発生していない場合には、変位計測部60は、先の特許文献1に記載されているような従来技術により、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する(ステップS908)。
【0116】
一方、先のステップS907の判断結果によりアラームが発生した場合には、校正処理部50により、外乱要因による位相変化を補償するための校正処理を行う(ステップS909)。そこで、この校正処理について、以下に詳細に説明する。
【0117】
校正処理部50は、あるサンプリング時刻でのステップS907による判断結果によりアラームが発生した場合には、そのサンプリング時刻におけるリファレンスの伝達関数Href(i、j)と受信データの伝達関数H(i、j)との差分を計算し、既知である送信信号s(j)を乗算した値φ(i、j)(i=1、2、・・・、m、j=1、2、・・・、mnを求める。さらに、受信データr(i、j)からφ(i、j)を減算した値r´(i、j)を校正後の受信データとして、下式(28)により求める。
【0118】
【数22】
【0119】
その後、先のステップS908に進む。そして、ステップS908において、変位計測部60は、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データr(i、j)に対して、先のステップS909による校正処理を施した後の受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する。なお、アラームが発生してない状態での受信データは、上式(28)において、φ(i、j)=0とした場合に相当する。
【0120】
このようなステップS907〜S909の処理をまとめると、次のようになる。先の実施の形態1における図5に示したように、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、伝達関数に関する相関係数が所定の閾値以上であった場合には、受信データr(i、j)をそのまま使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0121】
一方、環境変化検出部40による相関係数の閾値判定処理結果により、伝達関数に関する相関係数が所定の閾値よりも小さく、アラームが生成された場合には、そのアラームが継続して発生している間は、アラームを最初に検知したサンプリング時刻で、校正処理部50で生成されたφ(i、j)を用いた補正後の受信データr´(i、j)を使用して、変位計測部60による変位計測を行う。
【0122】
以上のように、実施の形態4によれば、n個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成される場合においても、先の実施の形態2と同様に、送信信号s(i、j)が既知であることを前提に、リファレンスデータと受信データに関するそれぞれの伝達関数の相関係数が所定の閾値よりも小さい場合には、外乱の影響による位相変化が生じていると判断し、外乱要因の発生時の両伝達関数の差分に対して送信信号を乗算することで得られるφ値を算出している。そして、外乱要因の発生が継続していると判断した間は、φ値を用いて受信データを校正し、校正後の受信データに基づいて変位計測を行っている。
【0123】
このような校正処理を施して変位計測を行うことで、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを実現できる。
【0124】
なお、上述した実施の形態1〜4では、相関演算を行う基準データに関し、リファレンスデータ抽出部によりリファレンスデータを抽出した後にFFT処理を行う場合について説明した。しかしながら、基準データに関しては、FFT処理後のデータをリファレンスデータとして抽出することも可能である。
【0125】
また、データ記憶部20には、システム運用開始前に、種々の条件下で基準データをあらかじめ記憶させておく場合について説明した。しかしながら、システム運用開始後に、基準データの追加、更新をすることも可能である。
【0126】
実施の形態5.
先の実施の形態3では、n個の発信機とm個の受信機で送受信系が構成され、受信信号との相関係数算出に用いるリファレンスデータは、外乱要因がないシステム導入環境下での種々の受信データをデータベース化してあらかじめ登録しておき、それらの中から、計測を行っている時期および時間帯に応じて適切なデータを選択する場合について説明した。これに対して、本実施の形態5では、送信信号が未知の場合において、リファレンスデータとして、受信信号と計測時間が近く、かつ、晴天時に取得したデータを選択する場合について説明する。
【0127】
図10は、本発明の実施の形態5における変位計測システムの基本的な構成を例示する全体図である。図10に示した変位計測システムは、変位を観測したい地点に設置されたn台の発信機1(1)〜1(n)と、発信機1付近の変位が発生しない固定点に設置されたp台の基準発信機3(1)〜3(p)と、設置箇所が変位しない場所に設置されたm個の受信機2(1)〜2(m)で構成される。先の実施の形態3における図7と比較すると、本実施の形態5における図10の構成は、p台の基準発信機3(1)〜3(p)をさらに備えている点が異なっている。
【0128】
次に、本実施の形態5における変位計測システムの動作について説明する。本実施の形態5では、外乱要因として、例えば、降雨が発生したことを検出し、それによる位相ずれを補償する動作について、具体的に説明する。
【0129】
図11は、本発明の実施の形態5における変位計測システムの構成図である。本実施の形態5における変位計測システムは、第2の受信データ取得部11、リファレンスデータ候補記憶部21、リファレンスデータ選択部31、第2の環境変化検出部41、校正処理部50、変位計測部60、およびパラメータ設定部70を備えて構成されている。
【0130】
先の実施の形態1〜4における図2の構成と比較すると、本実施の形態5における図11の構成は、受信データ取得部10、データ記憶部20、リファレンスデータ抽出部30、環境変化検出部40の代わりに、それぞれ第2の受信データ取得部11、リファレンスデータ候補記憶部21、リファレンスデータ選択部31、第2の環境変化検出部41を備えているとともに、パラメータ設定部70をさらに備えている点が異なっている。そこで、これらの相違点を中心に、本実施の形態5における変位計測システムの一連動作について、フローチャートを用いて説明する。
【0131】
図12は、本発明の実施の形態5における変位計測システムの処理の流れを示すフローチャートである。そこで、図10、図11、図12に基づいて、本実施の形態5における変位計測システムの一連処理について、詳細に説明する。
【0132】
まず始めに、パラメータ設定部70は、システム運用開始前に、以下のパラメータの設定を行う(ステップS1201)。
・リファレンス効果時間TTL1=TTL_default1
・リファレンス効果時間TTL2=TTL_default2
・フィルタ係数M1、M2、N(ただし、TTL_default2≫TTL_default1≧M2+1とする。)
・環境変化検出閾値Thre1
・環境変化検出閾値Thre2
【0133】
ここで、環境変化検出閾値としては、システム運用開始前の晴天時に取得した複数データ間での複数の相関係数に対する平均値をμ、標準偏差をσとした場合に、一例として、以下のような数式で設定される。
Thre1=μ+K1σ
Thre2=μ+K2σ
【0134】
次に、パラメータ設定部70は、システム運用開始前の晴天時に取得した、リファレンス効果時間TTL1に対応するリファレンスデータr_ref1=R(t1)、およびリファレンス効果時間TTL2に対応するリファレンスデータr_ref2=R(t2)を設定する(ステップS1202)。ただし、初期設定時は、t1=t2=1とする。
【0135】
次に、第2の受信データ取得部11は、変位を観測したい位置に設置したn個の発信機1(1)〜1(n)からの信号と、さらに、固定点に設置し、位置が動かないp個の基準発信機3(1)〜3(p)からの信号のそれぞれを、m個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれの組合せに対して収集する(ステップS1203)。
【0136】
このときの基準発信機3(1)〜3(p)からの観測信号は、m個の受信機とp個の基準発信機との組合せとして、rbasis(m、p、t)とする(ただし、tは各受信時系列を表す)。
【0137】
次に、このステップS1203において、リファレンスデータ候補記憶部21は、第2の受信データ取得部11で取得した基準発信機からの観測信号rbasis(m、p、t)を、最新の取得サンプルから過去tref1およびtref2サンプル分前まで、リファレンスデータ候補として保持する。ここで、tref1およびtref2は、それぞれ下式で表される。
tref1=M2、M2+1、・・・、M2+TTL_default1−1
tref2=M2、M2+1、・・・、M2+TTL_default2−1
【0138】
また、リファレンスデータ候補には、それぞれのリファレンスデータ候補取得時におけるリファレンスデータとの相関係数CORR1(t−tref1)およびCORR2(t−tref1)も同時に保持する。
【0139】
次に、リファレンスデータ選択部31は、最適なリファレンスデータを選択し、第2の環境変化検出部41へ登録する(ステップS1204)。具体的には、現在使用しているリファレンスデータr_ref1に対するリファレンス効果時間TTL1を確認する。
【0140】
TTL1が1より大きければ、r_ref1を引き続きリファレンスデータとして、第2の環境変化検出部41へ登録する。一方、TTL1が0であれば、条件1として、リファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref1)(ただし、tref1=M2、M2+1、・・・、M2+TTL_default1−1)取得時のそれぞれの相関係数CORR1(t−tref1)≧Thre1となるリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref1)が存在するか否かを確認する。
【0141】
そして、この条件1を満たすリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref1)が存在する場合には、条件1を満たすリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref1)の中で、対応する相関係数CORR1(t−tref1)が最大値となる場合のリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref1)を新たな最適なリファレンスデータr_ref1=rbasis(m、p、t−tref1)として選択し、リファレンス効果時間TTL1=TTL_default1に更新設定する。
【0142】
一方、条件1を満たすリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref1)が存在しない場合には、現在使用しているリファレンスデータr_ref1を引き続き設定する。
【0143】
次に、第2の環境変化検出部41は、第2の受信データ取得部11から得た基準発信機からの観測信号rbasis(m、p、t)およびリファレンスデータ選択部31から得たリファレンスデータr_ref1のそれぞれを高速フーリエ変換(FFT)し、その絶対値を取った結果であるRbasis(m,p,t)およびR_ref1を算出する(ステップS1205)。
【0144】
次に、第2の環境変化検出部41は、Rbasis(m,p,t)およびR_ref1との相関係数CORR1(t)を算出する(ステップS1206)。
【0145】
さらに、第2の環境変化検出部41は、リファレンス効果時間TTL1を確認し、TTL1≧1であれば、TTL1=TTL1−1に更新する(ステップS1207)。
【0146】
次に、TTL2に対応するリファレンスデータr_ref2についても、先のステップS1204と同様の方法で、リファレンスデータ選択部31は、最適なリファレンスデータr_ref2を選択し、第2の環境変化検出部41へ登録する(ステップS1208)。具体的には、現在使用しているリファレンスデータr_ref2に対するリファレンス効果時間TTL2を確認する。
【0147】
TTL2が1より大きければ、r_ref2を引き続きリファレンスデータとして、第2の環境変化検出部41へ登録する。一方、TTL2が0であれば、条件2として、リファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref2)(ただし、tref2=M2、M2+1、・・・、M2+TTL_default2−1)取得時のそれぞれの相関係数CORR2(t−tref2)≧Thre2となるリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref2)が存在するか否かを確認する。
【0148】
そして、この条件2を満たすリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref2)が存在する場合には、条件2を満たすリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref2)の中で、対応する相関係数CORR2(t−tref2)が最大値となる場合のリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref2)を新たな最適なリファレンスデータr_ref2=rbasis(m、p、t−tref2)として選択し、リファレンス効果時間TTL2=TTL_default2に更新設定する。
【0149】
一方、条件2を満たすリファレンスデータ候補rbasis(m、p、t−tref2)が存在しない場合には、現在使用しているリファレンスデータr_ref2を引き続き設定する。
【0150】
次に、第2の環境変化検出部41は、ステップS1205と同様、第2の受信データ取得部11から得た基準発信機からの観測信号rbasis(m、p、t)およびリファレンスデータ選択部31から得たリファレンスデータr_ref2を高速フーリエ変換(FFT)し、その絶対値を取った結果であるRbasis(m,p,t)およびR_ref2を算出する(ステップS1209)。
【0151】
次に、第2の環境変化検出部41は、ステップS1206と同様、Rbasis(m,p,t)およびR_ref2との相関係数CORR2(t)を算出する(ステップS1210)。
【0152】
さらに、第2の環境変化検出部41は、ステップS1207と同様、リファレンス効果時間TTL2を確認し、TTL2≧1であれば、TTL2=TTL2−1に更新する(ステップS1211)。
【0153】
ここまでで得た相関係数CORR1(t)およびCORR2(t)、また、STATUS判定を行おうとしているサンプルtに対して時間的にM1個前までのサンプルについても同様に求めた相関係数CORR1(t−m1)およびCORR2(t−m1)(ここで、m1=1、・・・、M1)、さらに、STATUS判定を行おうとしているサンプルtに対して時間的にM2個後ろまでのサンプルについても同様に求めた相関係数CORR1(t+m2)およびCORR2(t+m2)(ここで、m2=1、・・・、M2)を用いて、基準発信機からの観測信号rbasis(m、p、t)取得時の計測環境の状態(本実施の形態5では、計測環境変化として降雨発生を仮定している)を検出し、STATUS判定を行う(ステップS1212)。
【0154】
具体的には、
CORR1(t)≧Thre1
CORR1(t−m1)≧Thre1
CORR1(t+m2)≧Thre1
の3式を満たすCORR1の数P1がN個以上、かつ、
CORR2(t)≧Thre2
CORR2(t−m1)≧Thre2
CORR2(t+m2)≧Thre2
の3式を満たすCORR2の数P2がN個以上の場合には、観測信号rbasis(m、p、t)取得時は晴天であった(環境変化の検出なし)とする。
【0155】
また、
CORR1(t)≧Thre1
CORR1(t−m1)≧Thre1
CORR1(t+m2)≧Thre1
の3式を満たすCORR1の数P1がN個以上、かつ、
CORR2(t)≧Thre2
CORR2(t−m1)≧Thre2
CORR2(t+m2)≧Thre2
の3式を満たすCORR2の数P2がN個未満の場合には、観測信号rbasis(m、p、t)取得時は、降雨状態であった(環境変化の検出あり)とする。
【0156】
ここで、TTL_default1を短く設定し、TTL_default2を長く設定することで、TTL_default1に対しては、短期的な環境変化を検出し、TTL_default2に対しては、長期的な環境変化を検出させることが可能となる。
【0157】
従って、このように設定した際には、短期的にリファレンスデータを変更した場合には変化を検出しづらいが、1つのリファレンスデータに対して長期的に相関係数を算出することで、例えば、緩やかに降雨状態に移行するような小雨状態の検出が可能となる。
【0158】
また、
CORR1(t)≧Thre1
CORR1(t−m1)≧Thre1
CORR1(t+m2)≧Thre1
の3式を満たすCORR1の数P1がN個未満、かつ、
CORR2(t)≧Thre2
CORR2(t−m1)≧Thre2
CORR2(t+m2)≧Thre2
の3式を満たすCORR2の数P2がN個以上の場合には、観測信号rbasis(m、p、t)取得時は、降雨状態であった(環境変化の検出あり)とする。
【0159】
また、
CORR1(t)≧Thre1
CORR1(t−m1)≧Thre1
CORR1(t+m2)≧Thre1
の3式を満たすCORR1の数P1がN個未満、かつ、
CORR2(t)≧Thre2
CORR2(t−m1)≧Thre2
CORR2(t+m2)≧Thre2
の3式を満たすCORR2の数P2がN個未満の場合には、観測信号rbasis(m、p、t)取得時は、降雨状態であった(環境変化の検出あり)とする。
【0160】
次に、第2の環境変化検出部41は、全ての基準発信機と受信機間(すなわち、p個の基準発信機3(1)〜3(p)のそれぞれに対するm個の受信機2(1)〜2(m)のそれぞれ)の組み合わせpm通りに対して、上述した処理を実施し、pm/K個以上(ただし、Kは任意に設定)の組合せで環境変化を検出した場合には、最終的なシステムとして、環境変化を検出したと判断する。
【0161】
第2の環境変化検出部41は、システムとしての環境変化を検出したと判断した場合には、アラームを発生させ、さらに、校正処理部50で受信信号の校正を行う(ステップS1213)。具体的には、校正処理部50は、先の実施の形態3で記載した校正処理部50と同様の動作により、環境変化が発生した場合の受信位相変化を校正し、その後、ステップS1214へ進む。
【0162】
一方、第2の環境変化検出部41は、システムとしての環境変化を検出しないと判断した場合、あるいは、環境変化を検出しても校正処理が必要ないと判断した場合には、ただちに、ステップS1214へと進む。
【0163】
そして、ステップS1214において、変位計測部60は、発信機1(1)〜1(n)の変位計測を行う。具体的には、変位計測部60は、先の特許文献1に記載されているような従来技術により、複数の受信機2(1)〜2(m)による受信データから算出された複数の受信機間での受信位相差の変化に基づいて、発信機変位を計測する。
【0164】
このような校正処理を施して変位計測を行うことで、計測環境が変化したこと(すなわち、マルチパス環境が変化したこと)に起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図った変位計測システムを実現できる。
【0165】
以上のように、実施の形態5によれば、発信機付近の変位が発生しない固定点に設置した1台以上の基準発信機を有することで、リファレンスデータとして、受信信号と計測時間が近く、かつ、晴天時に取得したデータを選択することを可能としている。この結果、晴天時に取得したデータに基づいた校正処理を施して変位計測を行うことができ、計測環境が変化したことに起因する変位の誤検出を抑制し、計測精度の向上を図ることができる。
【0166】
なお、上述した実施の形態5において、基準発信機3(1)〜3(p)が設置できない場合には、発信機1(1)〜1(n)の信号を用いて、実施の形態5と同様の手順で環境変化検出を行うことができる。
【符号の説明】
【0167】
1(1)〜1(n) 発信機、2(1)〜2(m) 受信機、基準発信機 3(1)〜3(p)、10 受信データ取得部、11 第2の受信データ取得部、20 データ記憶部、21 リファレンスデータ候補記憶部、30 リファレンスデータ抽出部、31 リファレンスデータ選択部、40 環境変化検出部、41 第2の環境変化検出部、50 校正処理部、60 変位計測部、70 パラメータ設定部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変位を観測したい地点に設置された1台以上の発信機からの電波を、設置箇所が変位しない場所に設置された複数台の受信機で受信し、前記複数台の受信機による受信信号の受信位相の組合せから受信位相差を算出し、前記受信位相差の変化から前記1台以上の発信機の変位を計測する変位計測部を備えた変位計測システムにおいて、
あらかじめ取得した受信信号に基づく基準データと、変位計測時に取得した受信信号に基づく観測データとの相関係数を算出し、算出した前記相関係数が所定の閾値よりも低い場合には、計測環境の変化が発生したことを検出する環境変化検出部と、
前記環境変化検出部により前記計測環境の変化が検出された場合には、前記変位計測時に取得した受信信号に対して、前記計測環境が変化したことによる位相誤差を校正する校正処理部と
をさらに備え、
前記変位計測部は、前記環境変化検出部により前記計測環境の変化が検出された場合には、前記校正処理部による校正後の受信信号の受信位相の組合せから受信位相差を算出することで、前記1台以上の発信機の変位を計測する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の変位計測システムにおいて、
前記環境変化検出部は、前記1台以上の発信機からの送信信号が未知であり送信信号情報を利用できない場合には、あらかじめ取得した受信信号を前記基準データとし、変位計測時に取得した受信信号を前記観測データとし、受信信号同士の相関係数を算出することで前記計測環境の変化が発生したか否かを検出する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項3】
請求項1に記載の変位計測システムにおいて、
前記環境変化検出部は、前記1台以上の発信機からの送信信号が既知であり送信信号情報を利用できる場合には、あらかじめ取得した受信信号および前記送信信号情報に基づいて算出した計測環境の伝達関数を前記基準データとし、変位計測時に取得した受信信号および前記送信信号情報に基づいて算出した計測環境の伝達関数を前記観測データとし、伝達関数同士の相関係数を算出することで前記計測環境の変化が発生したか否かを検出する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項4】
請求項2に記載の変位計測システムにおいて、
前記校正処理部は、前記環境変化検出部により前記計測環境の変化が検出された場合には、前記計測環境の変化を検出する直前の前記複数台の受信機による受信信号の受信位相の組合せから算出した受信位相差と、前記計測環境の変化を検出した時点の前記複数台の受信機による受信信号の受信位相の組合せから算出した受信位相差との差分として位相補正データを算出し、前記環境変化検出部により前記計測環境の変化が検出された状態が継続する間は、前記位相補正データを用いて変位計測時に取得した受信信号の位相誤差を校正する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項5】
請求項3に記載の変位計測システムにおいて、
前記校正処理部は、前記環境変化検出部により前記計測環境の変化が検出された場合には、前記基準データとしての伝達関数と、前記計測環境の変化を検出した時点の前記観測データとしての伝達関数との差分に対して前記送信信号情報を乗算することで受信信号補正データを算出し、前記環境変化検出部により前記計測環境の変化が検出された状態が継続する間は、変位計測時に取得した受信信号から前記受信信号補正データを減算することで前記変位計測時に取得した受信信号の位相誤差を校正する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の変位計測システムにおいて、
季節や時間帯により異なる種々の日射・温度条件下であらかじめ取得した受信信号を、前記日射・温度条件と関連付けて複数の基準データとして記憶するデータ記憶部と、
変位計測時における前記日射・温度条件に応じた基準データを、前記データ記憶部から抽出し、変位計測に用いる前記基準データを順次更新するリファレンスデータ抽出部と
をさらに備えることを特徴とする変位計測システム。
【請求項7】
請求項2に記載の変位計測システムにおいて、
発信機付近の変位が発生しない固定点に設置した1台以上の基準発信機が存在する場合には、前記1台以上の基準発信機のそれぞれから送信され前記複数台の受信機のそれぞれで受信した各観測信号を基準データとし、あらかじめ定めたリファレンス効果時間が経過した場合には、前記観測データと近い時刻に取得した新たな基準データを選定するように基準データの更新処理を行う基準データ選択部をさらに備え、
前記環境変化検出部は、前記基準データ選択部により逐次更新される基準データと、前記観測データとの相関係数を算出することで前記計測環境の変化が発生したか否かを検出する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項8】
請求項7に記載の変位計測システムにおいて、
前記基準発信機が存在しない場合には、
前記基準データ選択部は、前記1台以上の基準発信機のそれぞれから送信される信号の代わりに前記1台以上の発信機から送信される信号を用いて前記基準データの更新処理を行う
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項9】
請求項7または8に記載の変位計測システムにおいて、
前記基準データ選択部は、前記リファレンス効果時間が経過したことにより前記新たな基準データを選定する際に、観測データ取得時刻から一定時間内に取得した基準データのうち、更新前の現状の基準データに対する相関係数が最も大きくなる基準データを前記新たな基準データとして更新処理を行う
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項に記載の変位計測システムにおいて、
前記環境変化検出部は、前記基準データ選択部により逐次更新される基準データに対して、時間的に数サンプル前後のデータに対する相関係数の値も加味して前記計測環境の変化が発生したか否かを検出する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれか1項に記載の変位計測システムにおいて、
前記基準データ選択部は、短期的な環境変化と長期的な環境変化の両方に対応できるように、時間長の異なる複数のリファレンス効果時間に対応する複数の基準データについて前記更新処理を行い、
前記環境変化検出部は、前記基準データ選択部により逐次更新される前記複数の基準データのそれぞれと、前記観測データとの相関係数を算出することで、前記短期的あるいは前記長期的な計測環境の変化が発生したか否かを検出する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項12】
請求項7に記載の変位計測システムにおいて、
前記環境変化検出部は、P台の基準発信機とM台の受信機が存在する場合に、前記基準発信機と前記受信機との総組合せ数PMに対して、一定数以上の組合せで計測環境の変化が発生したと判断することで、環境変化が発生したものと断定する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項13】
請求項8に記載の変位計測システムにおいて、
前記環境変化検出部は、N台の発信機とM台の受信機が存在する場合に、前記発信機と前記受信機との総組合せ数NMに対して、一定数以上の組合せで計測環境の変化が発生したと判断することで、環境変化が発生したものと断定する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項1】
変位を観測したい地点に設置された1台以上の発信機からの電波を、設置箇所が変位しない場所に設置された複数台の受信機で受信し、前記複数台の受信機による受信信号の受信位相の組合せから受信位相差を算出し、前記受信位相差の変化から前記1台以上の発信機の変位を計測する変位計測部を備えた変位計測システムにおいて、
あらかじめ取得した受信信号に基づく基準データと、変位計測時に取得した受信信号に基づく観測データとの相関係数を算出し、算出した前記相関係数が所定の閾値よりも低い場合には、計測環境の変化が発生したことを検出する環境変化検出部と、
前記環境変化検出部により前記計測環境の変化が検出された場合には、前記変位計測時に取得した受信信号に対して、前記計測環境が変化したことによる位相誤差を校正する校正処理部と
をさらに備え、
前記変位計測部は、前記環境変化検出部により前記計測環境の変化が検出された場合には、前記校正処理部による校正後の受信信号の受信位相の組合せから受信位相差を算出することで、前記1台以上の発信機の変位を計測する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の変位計測システムにおいて、
前記環境変化検出部は、前記1台以上の発信機からの送信信号が未知であり送信信号情報を利用できない場合には、あらかじめ取得した受信信号を前記基準データとし、変位計測時に取得した受信信号を前記観測データとし、受信信号同士の相関係数を算出することで前記計測環境の変化が発生したか否かを検出する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項3】
請求項1に記載の変位計測システムにおいて、
前記環境変化検出部は、前記1台以上の発信機からの送信信号が既知であり送信信号情報を利用できる場合には、あらかじめ取得した受信信号および前記送信信号情報に基づいて算出した計測環境の伝達関数を前記基準データとし、変位計測時に取得した受信信号および前記送信信号情報に基づいて算出した計測環境の伝達関数を前記観測データとし、伝達関数同士の相関係数を算出することで前記計測環境の変化が発生したか否かを検出する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項4】
請求項2に記載の変位計測システムにおいて、
前記校正処理部は、前記環境変化検出部により前記計測環境の変化が検出された場合には、前記計測環境の変化を検出する直前の前記複数台の受信機による受信信号の受信位相の組合せから算出した受信位相差と、前記計測環境の変化を検出した時点の前記複数台の受信機による受信信号の受信位相の組合せから算出した受信位相差との差分として位相補正データを算出し、前記環境変化検出部により前記計測環境の変化が検出された状態が継続する間は、前記位相補正データを用いて変位計測時に取得した受信信号の位相誤差を校正する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項5】
請求項3に記載の変位計測システムにおいて、
前記校正処理部は、前記環境変化検出部により前記計測環境の変化が検出された場合には、前記基準データとしての伝達関数と、前記計測環境の変化を検出した時点の前記観測データとしての伝達関数との差分に対して前記送信信号情報を乗算することで受信信号補正データを算出し、前記環境変化検出部により前記計測環境の変化が検出された状態が継続する間は、変位計測時に取得した受信信号から前記受信信号補正データを減算することで前記変位計測時に取得した受信信号の位相誤差を校正する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の変位計測システムにおいて、
季節や時間帯により異なる種々の日射・温度条件下であらかじめ取得した受信信号を、前記日射・温度条件と関連付けて複数の基準データとして記憶するデータ記憶部と、
変位計測時における前記日射・温度条件に応じた基準データを、前記データ記憶部から抽出し、変位計測に用いる前記基準データを順次更新するリファレンスデータ抽出部と
をさらに備えることを特徴とする変位計測システム。
【請求項7】
請求項2に記載の変位計測システムにおいて、
発信機付近の変位が発生しない固定点に設置した1台以上の基準発信機が存在する場合には、前記1台以上の基準発信機のそれぞれから送信され前記複数台の受信機のそれぞれで受信した各観測信号を基準データとし、あらかじめ定めたリファレンス効果時間が経過した場合には、前記観測データと近い時刻に取得した新たな基準データを選定するように基準データの更新処理を行う基準データ選択部をさらに備え、
前記環境変化検出部は、前記基準データ選択部により逐次更新される基準データと、前記観測データとの相関係数を算出することで前記計測環境の変化が発生したか否かを検出する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項8】
請求項7に記載の変位計測システムにおいて、
前記基準発信機が存在しない場合には、
前記基準データ選択部は、前記1台以上の基準発信機のそれぞれから送信される信号の代わりに前記1台以上の発信機から送信される信号を用いて前記基準データの更新処理を行う
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項9】
請求項7または8に記載の変位計測システムにおいて、
前記基準データ選択部は、前記リファレンス効果時間が経過したことにより前記新たな基準データを選定する際に、観測データ取得時刻から一定時間内に取得した基準データのうち、更新前の現状の基準データに対する相関係数が最も大きくなる基準データを前記新たな基準データとして更新処理を行う
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項に記載の変位計測システムにおいて、
前記環境変化検出部は、前記基準データ選択部により逐次更新される基準データに対して、時間的に数サンプル前後のデータに対する相関係数の値も加味して前記計測環境の変化が発生したか否かを検出する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれか1項に記載の変位計測システムにおいて、
前記基準データ選択部は、短期的な環境変化と長期的な環境変化の両方に対応できるように、時間長の異なる複数のリファレンス効果時間に対応する複数の基準データについて前記更新処理を行い、
前記環境変化検出部は、前記基準データ選択部により逐次更新される前記複数の基準データのそれぞれと、前記観測データとの相関係数を算出することで、前記短期的あるいは前記長期的な計測環境の変化が発生したか否かを検出する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項12】
請求項7に記載の変位計測システムにおいて、
前記環境変化検出部は、P台の基準発信機とM台の受信機が存在する場合に、前記基準発信機と前記受信機との総組合せ数PMに対して、一定数以上の組合せで計測環境の変化が発生したと判断することで、環境変化が発生したものと断定する
ことを特徴とする変位計測システム。
【請求項13】
請求項8に記載の変位計測システムにおいて、
前記環境変化検出部は、N台の発信機とM台の受信機が存在する場合に、前記発信機と前記受信機との総組合せ数NMに対して、一定数以上の組合せで計測環境の変化が発生したと判断することで、環境変化が発生したものと断定する
ことを特徴とする変位計測システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−8117(P2012−8117A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70882(P2011−70882)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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