説明

変圧器の流動帯電診断装置

【課題】流動帯電の弱点部位となる巻線下部の絶縁性液体の導入部における流動帯電の電荷蓄積量を評価することにより、電荷蓄積の増大を早期に把握して、機器の保守管理に関する信頼性を向上させる変圧器の流動帯電診断装置を提供する。
【解決手段】静電気発生部22において、金属容器12内部には、電極埋め込みプレスボード13が金属容器12の内壁と一定間隔を開けて設置され、その間隙に絶縁油51が流れるダクト52が形成されている。静電気発生部22への絶縁油51の導入に際しては、油入口部配管11aから電極埋め込みプレスボード13の面に対して垂直方向から絶縁油51を流入させて、その流れを電極埋め込みプレスボード13に衝突させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁油に代表される絶縁性液体が流動している変圧器において、絶縁性液体における流動帯電を診断して、流動帯電による静電気蓄積を評価する変圧器の流動帯電診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、大容量の電力用油入変圧器では、変圧器本体と冷却器の間をポンプ等によって絶縁油を循環させており、変圧器本体である巻線や鉄心の冷却を行っている。これにより、巻線や鉄心で発生する熱による過熱を抑えるようになっている。
【0003】
ところで、絶縁油に代表される絶縁性液体が固体絶縁物上を流れると、静電気が発生する。この現象は、流動帯電現象として知られている。例えば、油入変圧器においては、絶縁性液体として鉱油系の絶縁油が使用されているが、この絶縁油とプレスボード等のセルロース系の固体絶縁物との間で、流動帯電が発生することになる。
【0004】
この時、絶縁油は正に帯電し、固体絶縁物は負に帯電する。静電気の帯電極性は、絶縁性液体と固体絶縁物の材質の組み合わせに依存し、静電気発生量は絶縁性液体や固体絶縁物の材質や温度、絶縁性液体の流速等に依存する。また、油入変圧器において機器の経年によって絶縁油及び固体絶縁物が劣化すると、一般的に静電気発生量が増加することになる。
【0005】
この静電気発生量増加に伴い、電荷蓄積が増大すると、放電が発生し、火災や機器を破損させるといった重大な被害を招くことがある。そのため、油入変圧器において、流動帯電を診断して流動帯電による静電気の蓄積を評価することは、機器の保守管理において非常に重要である。
【0006】
油入変圧器の場合、流動帯電現象を評価する方法として、変圧器の巻線漏れ電流測定や絶縁油の帯電度測定が一般的に行われている。変圧器の巻線漏れ電流測定では、通常、変圧器のポンプを起動させ変圧器巻線の中性点に流れる直流電流を測定するものである。この方法は、変圧器巻線とその近傍での流動帯電によって発生する静電気発生量のおおよその値を一括評価するものである。一方、絶縁油の帯電度測定は、変圧器より絶縁油を採取し、その油を分析することによって絶縁油単体における帯電し易さを評価するものである。
【0007】
しかし、これらの測定のみで変圧器の流動帯電を診断することは、次に述べるような問題点が発生する。すなわち、変圧器内の絶縁油の流路構造は一様でなく、流路の曲がり、分岐、拡大、縮小等があり、流速も場所ごとに変化する。したがって、流動帯電による静電気発生も流路中において一様ではなく、変圧器の流動帯電診断においては、静電気発生が最も高くなる弱点部位の静電気発生を把握する必要がある。
【0008】
これは、このような弱点部位のうち、1箇所でも部分的に静電気放電が発生すれば、機器全体の絶縁破壊に繋がるためである。特に、内鉄形変圧器の場合、変圧器巻線の導油口部が弱点と言われており、実際の流動帯電における事故事例においても、多くが同部位における静電気放電が発端となっている。
【0009】
図6に、変圧器の巻線下部導油口付近の構成図の例を示す。図6において、1a、1bは変圧器の低圧巻線と高圧巻線であり、2aは低圧巻線1aの端部シールド、2bは高圧巻線1bの端部シールドである。低圧巻線1aの内側には円筒状の内部絶縁筒3を配置している。また、高圧巻線1bの外周を取り囲むようにして巻付バーリア4を設けている。
【0010】
図6中、5は変圧器の鉄心、6は低圧巻線1a、高圧巻線1b間を絶縁する巻線間絶縁物である。7は巻線締め付け板であって、この巻線締め付け板7は巻線下部絶縁物8を介して低圧巻線1a、高圧巻線1bを押さえつけて固定している。また、巻線締め付け板7には絶縁油51を導入する導油口9が開けられており、図6中の矢印に沿って絶縁油51が巻線1a、1bへ流れるようになっている。
【0011】
図6で示されるように、巻線締め付け板7の導油口9より流れ込んだ絶縁油51は、巻線下部絶縁物8に衝突して左右に分岐し、更に内部絶縁筒3、巻付バーリア4によって曲げられながら流れる。これら流れの変化部では、絶縁油51が直線的にスムーズに流れる場所と比べて、局所的に絶縁油51の流速が増大している。以上のような流れ構造の場合、一部の流速の大きい部位の絶縁物表面で流動帯電による静電気発生と電荷蓄積が進行することが問題となるので、この部位における流動帯電特性を、ピンポイントで評価することが要請されている。
【0012】
従来の研究事例としては、例えば、非特許文献1がある。これは、直線的な流路構造中で流動帯電特性の分布を測定した事例である。
【非特許文献1】本田、池田、大久保:「大容量変圧器における流動帯電現象」静電気学会誌,3,5(1979),p258〜p265,図13
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述したように、巻線漏れ電流測定では巻線部で発生する静電電気発生を一括した値を測定している。そのため、変圧器巻線の導油口部位の静電気発生に異常があったとしても、その影響は巻線漏れ電流の一括した値の中に埋没して見逃す可能性があり、それのみでは変圧器の流動帯電の診断として不十分であるという課題があった。
【0014】
また、絶縁油の帯電度測定は、その絶縁油が帯電し易いものか否かを評価するものである。そのため、この方法によっても上述の導油口部のような特性部位での静電気発生を評価することが困難であった。さらに、非特許文献1は直線的な流路構造中で流動帯電特性の分布を測定した事例であって、図6で示した導油口9のように、絶縁性液体の流れが直線的でない構造での局所的な流動帯電による静電気発生を定量評価した事例はなかった。
【0015】
本発明は、上記の課題を解消するために提案されたものであり、絶縁油に代表される絶縁性液体が固体絶縁物上を流動している変圧器において、流動帯電の弱点部位となる巻線下部の絶縁性液体の導入部における流動帯電の電荷蓄積量を評価することにより、電荷蓄積の増大を早期に把握して、機器の保守管理に関する信頼性を向上させる変圧器の流動帯電診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記目的を達成するために、変圧器に循環させる絶縁性液体の流動帯電を診断する装置であって、前記絶縁性液体が充填されるタンク容器と、前記絶縁性液体を流動させる液送ポンプと、前記変圧器における前記絶縁性液体の流れ構造を模擬した静電気発生部を有し、これらを配管で接続して前記絶縁性液体の循環系を構成し、前記静電気発生部は、接地された金属容器内に、該金属容器の内壁と一定の間隙を開けて固体絶縁物板を設置することで、前記間隙に前記絶縁性液体が流れるダクトを形成し、前記ダクトへの前記絶縁性液体の導入を、前記固体絶縁物板の板面に対して垂直方向から行うように前記絶縁性液体の流路を配置し、前記固体絶縁物板には平板電極を埋め込み、前記平板電極に該平板電極の電位を測定する電位測定部を接続したことを特徴としている。
【0017】
このような本発明では、静電気発生部の金属容器において、固体絶縁物板の板面に対し垂直方向から絶縁性液体を導入することで、診断対象となる変圧器での絶縁性液体の流れ構造を模擬し、固体絶縁物板に埋め込まれた平板電極の電位を測定することで、絶縁性液体の流れが直線的でない構造での局所的な流動帯電による静電気発生を評価することができる。したがって、変圧器巻線の導油口部位のような絶縁性液体の流れが乱れる場所でも、そこに静電気発生に異常があれば、これを見つけることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の変圧器の流動帯電診断装置によれば、流動帯電の弱点部位となる巻線下部の絶縁性液体の導入部における流動帯電の電荷蓄積量を評価し、変圧器における局所的な電荷蓄積の増大を確実に把握して、機器の保守管理に関する信頼性向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る代表的な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
[構成]
図1〜3を用いて、本発明における第1の実施形態を適用した変圧器の流動帯電診断装置の構成について説明する。
【0020】
図1は、油入変圧器の巻線下部導油口部の流れ構造を模擬した流動帯電診断装置の静電気発生部22の構成を示している。図1に示すように、静電気発生部22には、金属容器12が設けられている。金属容器12は、絶縁フランジ10a、10bによって油入口部配管11a、油出口部配管11bと絶縁、接続されている。
【0021】
金属容器12内部には、電極埋め込みプレスボード13が金属容器12の内壁と一定間隔を開けて設置され、その間隙に絶縁油51が流れるダクト52が形成されている。ただし、静電気発生部22への絶縁油51の導入に際しては、油入口部配管11aから電極埋め込みプレスボード13の面に対して垂直方向から絶縁油51を流入させて、その流れを電極埋め込みプレスボード13に衝突させている。
【0022】
つまり、図6に示した変圧器の巻線下部の導油口9付近の絶縁油51の流れの乱れを模擬するようになっている。しかも、プレスボード13表面上の絶縁油51の流速、特に最高流速やレイノルズ数が、実変圧器の巻線下部導油口部(図6の導油口9)付近のそれと同じになるように、静電気発生部22の流路寸法や、そこに導入する絶縁油51の流量が調整されている。
【0023】
電極埋め込みプレスボード13は、プレスボード板14a、14bを重ねて、その間に互いに絶縁された平板電極15a、15b、15c、15dが、油の流路方向に並べて配置されている。なお、金属容器12は微少電流計16を介して接地し、この電流測定によって静電気発生部22における電荷発生量を評価することができるようになっている。
【0024】
図2は、図1に示したX−X断面、すなわち電極埋め込みプレスボード13において、絶縁油51の流路方向に対して垂直方向の断面構成を示したものであり、平板電極15bの電位は、4フッ化エチレン等の絶縁物フランジ17を貫通する絶縁リード線18bによって外部電極19bまで引き出されており、この外部電極19bの電位を表面電位計20b等の高入力インピーダンスを有する電位計で測定を行うように構成されている。
【0025】
なお、図2では平板電極15bの電位の外部への引き出しについて説明しているが、図1にて示した他の平板電極15a、15c、15dも、同様の構成で独立して外部に電位を引き出して、電位測定を行う構成となっている。また、電極埋め込みプレスボード13と金属容器12の内壁との間には、油隙を構成するための絶縁スペーサ21a、21bが挿入されている。
【0026】
続いて、上述の静電気発生部22を用いて、流動帯電診断装置を構成した例を図3に示す。静電気発生部22は図1、図2と同様の構成で、絶縁油を流す液送ポンプ23、絶縁油を貯蔵する接地されたタンク容器24を循環配管25で接続して絶縁油の循環系を構成している。循環系にはポンプバルブ26a、ポンプバイパスバルブ26b及び流量計27が組み込まれており、循環系を流れる油流量は、流量計27を参照しながら、ポンプバルブ26a、ポンプバイパスバルブ26bの開度を調整可能となっている。
【0027】
タンク容器24には、絶縁油51の油温を調整するため、油温を計測する熱電対28、ヒータ29を有する油温調整器30が取り付けられている。また、静電気発生部22には同部をバイパスするバイパス配管31が取り付けられており、流路切換バルブ32a、32bによって、静電気発生部22を迂回する油循環を行うことが可能となっている。なお、タンク容器24は、液送ポンプ23を流れ出た絶縁油51が直接、静電気発生部22に流入することがないように、絶縁油51の循環方向から見て液送ポンプ23と静電気発生部22の間に設置されている。
【0028】
[診断方法]
以上の流動帯電診断装置における、診断方法について説明する。最初に、静電気発生部22側に絶縁油51を流さずに、バイパス配管31側に絶縁油51を流し、液送ポンプ23とタンク容器24の間のみで供試油となる絶縁油51を循環させる。このとき、温度調整器30にて絶縁油51の油温を実変圧器で想定される所定の値に設定する。
【0029】
絶縁油51の油温が、所定の値に達したら、静電気発生部22側に絶縁油51を導入し、バイパス配管31への油流れを止め、静電気発生部22のプレスボード13表面上の油流速、特に最高流速やレイノルズ数を、実変圧器の巻線下部の導油口9のそれと同じになるように調整している。具体的には、油流量をバルブ26a、バルブ26bの開度調整によって、予め設定された最高流速やレイノルズ数とする。この状態となった後、静電気発生部22において、表面電位計20bにより平板電極15bの電位測定を開始する。この測定では、図1の平板電極15a、15b、15c、15dにおける電位測定波形が、定常値に達するまで実施し、通常、数時間を要する。
【0030】
図1、図2に示した静電気発生部22において、供試油となる絶縁油51を導入した場合、電極埋め込みプレスボード13と金属容器12間のダクト52に絶縁油51が流れるので、プレスボード13の表面には流動帯電による電荷が発生し、蓄積している。
【0031】
また、電極埋め込みプレスボード13の表面近傍の絶縁油の流れは、静電気発生部22の油入口部の流れの乱れによって、ダクト52の流路方向に沿って一様とはならず、これを電子計算機によって流れ解析を行うと、ダクト52の途中で最大流速となり、その後、下流に行くに従って流れが整流されて一定になっていく流れ構造となる。なお、図1中のダクト52内に示した矢印の長さで、ダクト52流路中の絶縁油51の油流の大きさにおける、位置的な変化の概略を示している。
【0032】
すなわち、電極埋め込みプレスボード13の表面近傍の絶縁油51の流れの大きさは、その位置によって変化するので、流動帯電による電荷発生・蓄積量もまた変化し、電極埋め込みプレスボード13の蓄積電荷はダクト52の流路方向に分布を持つことになる。そこで、平板電極15a、15b、15c、15dの電位測定を行うことにより、電極埋め込みプレスボード13における蓄積電荷の分布を求めることができる。
【0033】
平板電極15a、15b、15c、15d近傍の、電極埋め込みプレスボード13表面に蓄積する電荷密度σの評価については、プレスボード板14a、14bの厚さをそれぞれA、B、ダクト52の高さをT、絶縁油51とプレスボード13の誘電率をぞれぞれεoil、εPB、測定された平板電極15a、15b、15c、15dの電位をVとすると、以下で求められる。
【0034】
【数1】

【0035】
よって、各平板電極15a、15b、15c、15dの電位Vをそれぞれ測定すれば、上記式(1)を用いて電極埋め込みプレスボード13表面の電荷密度分布を求めることができる。これにより、実変圧器の巻線下部導油口部の蓄積電荷密度の評価を行うことが可能である。
【0036】
すなわち、巻線漏れ電流測定のように、巻線部で発生する静電電気発生の一括値を測定しているのではなく、流動帯電の弱点部位となる巻線下部の絶縁性液体の導入部(図6の導油口9)における流動帯電の電荷蓄積量を評価することができる。このため、変圧器巻線の導油口部位等に静電気発生に異常があれば、それを早期に発見可能である。このように、変圧器における局所的な電荷蓄積の増大を確実に把握することにより、機器の保守管理に関する信頼性が大幅に向上する。
【0037】
実変圧器の巻線下部導油口部の蓄積電荷密度が分かれば、その値を使って電子計算機より変圧器運転時における巻線下部導油口部の電界解析を行うことが可能である。さらには、その電界解析結果より当該部位の電界が静電気放電を発生する値に対して、どの程度の安全率を有するかなどの診断を行うことが可能となる。
【0038】
以上のようにして、既存の実変圧器の流動帯電に対する安全性が評価できるだけでなく、この診断を今後製作しようとする変圧器に適用すれば、変圧器の流動帯電に対する最適化設計にも利用でき、機器の信頼性向上や小型化にも貢献する効果が得られる。
【0039】
また、本実施形態では、タンク容器24を、液送ポンプ23と静電気発生部22の間に設置しているため、絶縁油51の循環によって静電気発生部22や液送ポンプ23を通過する際に、帯電した絶縁油51中の電荷を、タンク容器24において緩和させることができる。つまり、帯電していない絶縁油51を静電気発生部22に導入させることができる。このようにして、静電気発生部22に帯電緩和した絶縁油51が流入することで、絶縁油51の持つ電荷が蓄積電荷密度の評価に及ぼす影響を抑えることができ、電荷密度の評価の信頼性が向上する。
【0040】
なお、本実施形態では、タンク容器24の油量を次のようにすることで、確実な電荷緩和を実施している。すなわち、絶縁油51中の電荷を十分緩和させるために必要なタンク容器24の油量は、本装置内のタンク容器24の油量を含む全循環油量Vtotalを、循環油流量をF、絶縁油の電荷緩和時間をτとして、次の式(2)にて設定される。
【0041】
【数2】

通常Vtotal=3Fτとなるようにしておけば十分である。
【0042】
また、本実施形態において、循環油流量は、ポンプバルブ26a、バイパスバルブ26bの開度で調整を行っているが、液送ポンプ23の駆動電源をインバーター制御することでも、流量の制御は十分可能である。
【0043】
[作用効果]
上述したように第1の実施形態に係る流動帯電診断装置によれば、静電気発生部22において診断対象となる実変圧器での絶縁油51の流れ構造を模擬し、電極埋め込みプレスボード13に埋め込まれた平板電極15a、15b、15c、15dの電位を測定することで、絶縁油51の流動帯電による静電気発生を正確に評価することができる。
【0044】
しかも、変圧器の流動帯電診断を行う場合、供試油に実変圧器油を用いるだけでなく、プレスボード13表面上の絶縁油51の流速、特に最高流速やレイノルズ数を、実変圧器における巻線下部の導油口9付近のそれと同じになるように、静電気発生部22の流路寸法や、そこに導入する絶縁油51の流量を調整しておくことで、変圧器の巻線下部導油口部、すなわち流動帯電弱点部位の電荷蓄積量を評価でき、実変圧器の流動帯電診断が可能となる。
【0045】
(第2の実施形態)
[構成]
本発明における第2の実施形態を図4に示す。図4は、第2の実施形態における流動帯電診断装置の静電気発生部53の構成を示しており、第1の実施の形態で説明した静電気発生部22において、絶縁油51が流れるダクト54を2つにして、絶縁油51の流れを平板電極40a、40b、40c、40d設置面に対して対称としたことを特徴としている。
【0046】
静電気発生部53には金属容器37が設けられており、ここには絶縁フランジ33a、33b、34によって油入口部配管35a、35b、油出口部配管36が絶縁され、接続されている。金属容器37内部には、電極埋め込みプレスボード38の両面が金属容器37の内壁と一定間隔を開けて設置され、その間隙に絶縁油が流れる2つのダクト54、54が形成されている。ただし、静電気発生部53への絶縁油51の導入法については、導入箇所が2箇所になった他は図1と同様であり、電極埋め込みプレスボード38の板面に対して垂直方向から絶縁油51を流入させている。
【0047】
電極埋め込みプレスボード38は、同じ厚さのプレスボード板39a、39bを合わせたものであり、そのプレスボード板39a、39bの間に互いに絶縁された平板電極40a、40b、40c、40dが、絶縁油51の流路方向に並べて配置されている。
【0048】
本実施形態では、これら平板電極40a、40b、40c、40dの電位を第1の実施の形態の図2と同様の手法によって測定を行い、電極埋め込みプレスボード38上の蓄積電荷密度を求めるようになっている。ただし、この場合の電荷密度σは、各ダクト54の高さをT、絶縁油51の誘電率をεoil、測定された平板電極40a、40b、40c、40dの電位をVとすると、以下で求められる。
【0049】
【数3】

【0050】
[作用効果]
以上のような第2の実施形態に係る流動帯電診断装置によれば、第1の実施の形態と同様の手法で変圧器の流動帯電診断が可能であり、また第1の実施形態の作用効果に加えて、次のような作用効果がある。すなわち、本形態においては、電極埋め込みプレスボード38の両面とも金属容器37と接触しない構成となっている。
【0051】
図6で示したように、変圧器の巻線下部導油口9の絶縁物は、接地物に接触しておらず、絶縁物の蓄積電荷が漏洩しにくい構成となっている。よって、電極埋め込みプレスボード38の両面とも金属容器37と非接触である本実施形態は、絶縁物の蓄積電荷の漏洩形態が、実変圧器における巻線下部の導油口9のそれと近いものとなっており、変圧器の流動帯電診断の評価精度を、より高める効果が得られる。
【0052】
(第3の実施形態)
[構成]
本発明に係る第3の実施形態を図5に示す。第3の実施形態は、図3にて示した第1の実施形態でのバイパス配管31を除き、更にタンク容器24を実変圧器のタンクとし、実変圧器の絶縁油51を直接に流動帯電診断装置に導入して変圧器の流動帯電診断を行うようにしたものである。
【0053】
すなわち図5に示すように、変圧器タンク41の採油口42a、42bを、それぞれ配管43a,43bで液送ポンプ23、静電気発生部22と接続し、絶縁油51の循環系を構成している。この場合、絶縁油51循環の順序は、変圧器タンク41→静電気発生部22→液送ポンプ23→(変圧器タンク41)となり、図3にて示した第1の実施形態の流動帯電診断装置と同じく、電荷緩和された絶縁油51が静電気発生部22に流入するようになっている。また、静電気発生部22から液送ポンプ23に至る部分を一体化して、装置ユニット44が構成されている。
【0054】
[作用効果]
このような第3の実施形態によれば、流動帯電診断装置における絶縁油51の循環油量が変圧器の油量規模であれば、上記の式(2)を容易に満たすことが可能である。したがって、絶縁油51の電荷緩和を十分に行うことができ、蓄積電荷密度評価の信頼性低下を確実に防ぐことができる。
【0055】
さらに、本実施形態では変圧器タンク41と接続しているので、流動帯電診断装置にて使用した後の絶縁油51を変圧器タンク41に戻すことが可能であり、診断装置の使用に際して廃棄する絶縁油51の油量を、前記第1の実施形態に比べて大幅に削減でき、環境負荷低減に寄与するといった効果がある。
【0056】
また、静電気発生部22から液送ポンプ23に至る部分を一体化して、装置ユニット44としておくことで、容易に他の変圧器の取り付け可能となり、汎用性のある変圧器の流動帯電診断装置を実現することができる
【0057】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、次のような他の実施形態も包含する。例えば、電極埋め込みプレスボード13に使用するプレスボード板14a,14bとして、実変圧器より採取したものを使用したり、実変圧器と等価な経年結果を模擬した劣化処理を施したものを使用してもよい。これらの実施形態によれば、実変圧器のプレスボードの経年劣化も考慮した流動帯電診断が可能となり、診断結果の信頼性をより高めることが可能となる。
【0058】
なお、プレスボード板14a、14bの経年劣化処理の方法としては、プレスボード板14a、14bの重合度を、加熱処理によって実変圧器と同等となる様に調整する方法がある。また、実変圧器中の固体絶縁物の重合度については、直接、実変圧器から固体絶縁物を採取しなくても、劣化の際に絶縁油中に放出される分解生成物の分析することによっても、評価可能である。
【0059】
さらに、上記第1の実施形態では電極埋め込みプレスボード13に4個の平板電極15a、15b、15c、15dを配置したが、平板電極の配置数は適宜選択可能であり、最低1個あればよい。平板電極の数を減らせば、平板電極の電位測定に使用する計測器の数も低減すると共に、外部への電位引き出し構成も簡単となるため、静電気発生部22の簡便化が図れるといった効果がある。
【0060】
ただし、平板電極の数を減らす場合は電極埋め込みプレスボード13表面の電荷密度部分布の評価精度が低下することを考慮すると共に、予め静電気発生部22中の絶縁油51の流れ解析を行って、ダクト52中で最も絶縁油51の流速が早くなる部位近傍のプレスボード13内に、平板電極が埋め込まれるようにその位置を調整する必要がある。このように構成することで、平板電極の設置数を少なくしても、正確な流動帯電診断を実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る第1の実施形態における静電気発生部の構成図。
【図2】図1に示したX−X断面。
【図3】第1の実施形態の構成図。
【図4】本発明に係る第2実施形態における静電気発生部の構成図。
【図5】本発明に係る第3の実施形態の構成図。
【図6】従来の変圧器において絶縁油の流れを説明するための構成図。
【符号の説明】
【0062】
1a…低圧巻線
1b…高圧巻線
5…鉄心
7…巻線締め付け板
9…導油口
10a、10b…絶縁フランジ
11a…油入口部配管
11b…油出口部配管
12、37…金属容器
13、38…電極埋め込みプレスボード
14a、14b、39a、39b…プレスボード板
15a、15b、15c、15d、40a、40b、40c、40d…平板電極
16…微少電流計
17…絶縁物フランジ
18b…絶縁リード線
19b…外部電極
20b…表面電位計
22、53…静電気発生部
23…液送ポンプ
24…タンク容器
41…変圧器タンク
51…絶縁油
52、54…ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器に循環させる絶縁性液体の流動帯電を診断する装置であって、
前記絶縁性液体が充填されるタンク容器と、前記絶縁性液体を流動させる液送ポンプと、前記変圧器における前記絶縁性液体の流れ構造を模擬した静電気発生部を有し、これらを配管で接続して前記絶縁性液体の循環系を構成し、
前記静電気発生部は、接地された金属容器内に、該金属容器の内壁と一定の間隙を開けて固体絶縁物板を設置することで、前記間隙に前記絶縁性液体が流れるダクトを形成し、
前記ダクトへの前記絶縁性液体の導入を、前記固体絶縁物板の板面に対して垂直方向から行うように前記絶縁性液体の流路を配置し、
前記固体絶縁物板には平板電極を埋め込み、
前記平板電極に該平板電極の電位を測定する電位測定部を接続したことを特徴とする変圧器の流動帯電診断装置。
【請求項2】
前記固体絶縁物板の両面ともに前記金属容器の内壁と一定間隔を開けて2つのダクトを形成し、前記固体絶縁物板に埋め込まれた平板電極の設置面に対して前記2つのダクトを対称構造としたことを特徴とする請求項1に記載の変圧器の流動帯電診断装置。
【請求項3】
前記固体絶縁物板に平板電極を複数埋め込んだことを特徴とする請求項1又は2に記載の変圧器の流動帯電診断装置。
【請求項4】
前記静電気発生部は、前記ダクトに流れる前記絶縁性液体の流速を、診断対象となる実変圧器における前記絶縁性液体の導入部での前記絶縁性液体の流速と等価にするように構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の変圧器の流動帯電診断装置。
【請求項5】
前記絶縁性液体及び前記固体絶縁物板の少なくとも一方は、診断対象となる実変圧器より採取したもの、或いは、前記実変圧器で使用した場合と等価な経年劣化処理を施した材料からなることを特徴する請求項1〜4のいずれか1項に記載の変圧器の流動帯電診断装置。
【請求項6】
前記タンク容器を、前記液送ポンプと前記静電気発生部との間に設置し、
該タンク容器の容量は、前記液送ポンプ及び前記静電気発生部を通過した際に帯電した前記絶縁性液体中に電荷を緩和させる容量に設定したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の変圧器の流動帯電診断装置。
【請求項7】
前記タンク容器を変圧器タンクとし、診断対象となる実変圧器との間で油循環系を構成したことを特徴する請求項1〜6のいずれか1項に記載の変圧器の流動帯電診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate