説明

変圧器の磁束制御装置

【課題】変圧器の残留磁束を効果的に低減するための磁束制御装置を提供する。
【解決手段】磁束制御装置4は変圧器3の二次側に接続される。磁束制御装置4は、変圧器3を停止する際に、変圧器3の残留磁束を低減する。磁束制御装置4はインバータ10および制御装置11を備える。変圧器3の停止時に、インバータ10は、時間の経過にしたがって減衰する交流電圧を変圧器3の二次側に与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変圧器の磁束制御装置に関し、特に変圧器の残留磁束を低減するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変電所には、電圧を変換するための変圧器や遮断器等の設備が設けられている。たとえば、非特許文献1にはガス遮断器の開閉サージを抑制するための制御方法について開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「ガス遮断器の開閉極位相制御による開閉サージの抑制」、香山 治彦、伊藤 弘基、浅井 順、日高 幹雄、電学論B、124巻2号、2004年、267頁−273頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使用中の変圧器の電源を遮断器によって一気に遮断すると、変圧器の鉄心に磁束が残留する。変圧器の起動の際に、変圧器の残留磁束を考慮することなく変圧器を励磁した場合、残留磁束の方向と起動時の磁束方向とが異なることが起こりうる。この場合には、励磁に要する電流が増大するという問題が発生する。
【0005】
本発明の目的は、変圧器の残留磁束を効果的に低減するための磁束制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある局面に係る磁束制御装置は、遮断器を介して交流電源に一次側が接続された変圧器の磁束を制御するための磁束制御装置であって、変圧器の二次側に接続されたインバータと、インバータを制御する制御回路とを備える。制御回路は、遮断器によって変圧器が交流電源から切離された場合には、時間の経過にしたがって減衰する交流電圧が変圧器の二次側に与えられるように、インバータを制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、変圧器の停止時に変圧器の残留磁束を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る変圧器の磁束制御装置を示した図である。
【図2】使用中の変圧器の電源を遮断器によって一気に遮断したときに変圧器に残留する磁束を説明した図である。
【図3】残留磁束を考慮することなく変圧器を励磁した場合に生じうる変圧器の電流の変化を示した図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態による残留磁束の低減方法を示した図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る変圧器の磁束制御装置を示した図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る変圧器の磁束制御装置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0010】
[実施の形態1]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る変圧器の磁束制御装置を示した図である。図1を参照して、商用周波数(たとえば60Hz)の交流電源1から遮断器2を介して変圧器3の1次側に交流が供給される。
【0011】
磁束制御装置4は変圧器3の二次側に接続される。磁束制御装置4は、変圧器3を停止する際に、変圧器3の残留磁束を低減する。
【0012】
磁束制御装置4はインバータ10および制御装置11を備える。インバータ10は、たとえば半導体スイッチング素子と、インダクタンス成分を持つリアクトルや変圧器とにより構成され、変圧器3の二次側電圧に同期した交流を発生し、上記インダクタンス成分を介して変圧器3の二次側に接続される。制御装置11は、たとえばPWM(Pulse Width Modulation)方式に従って、インバータ10の半導体スイッチング素子をオンオフ制御する。なお、インバータ10の構成は種々の公知の構成を適用できるので、ここでは詳細な説明を繰り返さない。
【0013】
図2は、使用中の変圧器の電源を遮断器によって一気に遮断したときに変圧器に残留する磁束を説明した図である。図2を参照して、変圧器3の鉄心の内部の磁束は、B(磁束密度)とH(磁場)との関係を示すB−H曲線に従って決定される。使用中の変圧器3の電源を遮断器2によって一気に遮断したときには、そのときのB−H曲線上の磁束密度に従って鉄心の残留磁束が決定される。
【0014】
図3は、残留磁束を考慮することなく変圧器を励磁した場合に生じうる変圧器の電流の変化を示した図である。図3を参照して、変圧器3の起動の際に、インバータ10は交流電圧の振幅を次第に増大させて変圧器3を励磁する。しかしながら、変圧器3の起動時に磁束が残留していた場合、その残留磁束の方向と、インバータ10の起動時の磁束方向とが異なることが起こりうる。この場合には、変圧器3の励磁突入電流が過大となり、たとえば遮断器2が電源を遮断する可能性がある。
【0015】
一方、本発明の実施の形態によれば、変圧器3の停止時、すなわち遮断器2によって変圧器3の電源が遮断されたときに、インバータ10は制御装置11の制御により、変圧器3の残留磁束を低減させる。これにより、変圧器3の励磁突入電流を抑制できる。
【0016】
図4は、本発明の第1の実施の形態による残留磁束の低減方法を示した図である。図4(a)は、B−H曲線の時間変化を模式的に示した図である。図4(b)は、インバータ10による変圧器3の二次側の電圧の制御を示した図である。
【0017】
図4を参照して、インバータ10は、所定の時定数τで減衰する交流電圧を変圧器3の二次側に与える。これにより、変圧器3の鉄心の内部の磁束を示すB−H曲線が次第に小さくなり、残留磁束を0にすることができる。時定数τは、たとえば予め決定された値を用いることができる。この場合、制御装置11は、その値に従って、インバータ10が発生させる交流電圧の振幅を制御する。時定数τは、変圧器の磁束が減少する程度の時間に設定される。また、時間の経過にしたがって減衰する波形であればよく、所定の減衰率で減衰させてもよい。
【0018】
このように本発明の第1の実施の形態によれば、変圧器の停止時に、インバータは、時間の経過にしたがって減衰する交流電圧を変圧器の二次側に与える。これにより、変圧器の残留磁束を効果的に低減することができる。
【0019】
[実施の形態2]
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る変圧器の磁束制御装置を示した図である。図5を参照して、実施の形態2では、交流電源1は三相交流電源である。変圧器3は交流電源1からの三相交流を第1および第2の単相交流へと変換する。変圧器3は例えばスコット結線変圧器であるがこれに限定されない。負荷7,9は単相負荷であり、変圧器3から出力される第1の単相交流および第2の単相交流をそれぞれ受ける。遮断器6は、負荷7と変圧器3の第1の出力との間に設けられる。遮断器8は、負荷9と変圧器3の第2の出力との間に設けられる。
【0020】
実施の形態2では、磁束制御装置は、電力補償装置41によって構成される。電力補償装置41は、単相インバータ21,22と、制御装置23,24とを含む。単相インバータ21の交流側は、変圧器3の第1の二次側出力に接続される。単相インバータ22の交流側は、変圧器3の第2の二次側出力に接続される。制御装置23,24は、単相インバータ21,22をそれぞれ制御する。なお、制御装置23,24が1つの制御装置に統合されていてもよい。
【0021】
電力補償装置41は、単相電源システムの電圧変動や無効電力を補償する。具体的に説明すると、単相インバータ21は、負荷7側の無効電力を打ち消すための無効電力を出力する。単相インバータ22は、負荷9側の電圧変動や無効電力を打ち消すための無効電力を出力する。
【0022】
さらに、単相インバータ21,22は、負荷7,9への送電の停止時に、変圧器3の残留磁束を低減する。負荷7,9への送電が停止される場合、遮断器6が開状態となることにより、負荷7への送電の電路が遮断されるとともに、遮断器8が開状態となることにより、負荷9への送電の電路が遮断される。次に、遮断器2が開状態となることにより、交流電源1(三相交流電源)からの電路が遮断される。その後、単相インバータ21,22は、時間の経過にともなって減衰する交流電圧を、変圧器3の二次側に与える。これにより実施の形態1と同様に、変圧器3の残留磁束を低減させることができる。なお、実施の形態1と同様に、時間の経過にともなって減衰する交流電圧は、所定の時定数τで減衰する交流電圧であってもよい。
【0023】
以上のように実施の形態2によれば、三相電源から2つの単相電源に変換して、2つの単相電源から2つの単相負荷へそれぞれ電力を供給する変電システムにおいて、変圧器の残留磁束を低減することができる。さらに、実施の形態2によれば、2つの単相電源システムの無効電力を補償するための電力補償装置によって、変圧器の残留磁束を低減することができる。
【0024】
[実施の形態3]
図6は、本発明の第3の実施の形態に係る変圧器の磁束制御装置を示した図である。図6を参照して、実施の形態3に係る磁束制御装置は、電力補償装置42によって構成される。電力補償装置42は、単相インバータ21,22と、制御装置23,24とを含む。単相インバータ21の直流側と単相インバータ22の直流側とが互いに接続される。この点で電力補償装置42の構成は、図5に示された電力補償装置41の構成と異なる。
【0025】
なお、図6の他の部分の構成は、図5に示された対応する部分の構成と同じであるので以後の説明は繰り返さない。
【0026】
実施の形態2と同じく、単相インバータ21,22は、負荷7,9への送電の停止時に変圧器3の残留磁束を低減する。さらに、この実施の形態によれば、電力補償装置42は、単相電源システムの有効電力および無効電力を補償する。
【0027】
有効電力の補償は、電力補償装置42が、負荷7側と負荷9側との間で有効電力を融通することにより実現される。具体的には、単相インバータ21,22の一方が、単相交流の電力の一部を直流に変換する。単相インバータ21,22の他方は、その直流電力を交流電力に変換して供給する。これにより、負荷7側と負荷9側との間で有効電力を等しくすることができる。なお、無効電力の補償は、実施の形態2で説明した方法と同じ方法により実現されるので、詳細な説明は以後繰り返さない。
【0028】
以上のように実施の形態3によれば、実施の形態2と同じく、三相電源から2つの単相電源に変換して、2つの単相電源から2つの単相負荷へそれぞれ電力を供給する変電システムにおいて、変圧器の残留磁束を低減することができる。さらに、実施の形態3によれば、2つの単相電源システムの有効電力および無効電力を補償するための電力補償装置によって、変圧器の残留磁束を低減することができる。
【0029】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0030】
1 交流電源、2,6,8 遮断器、3 変圧器、4 磁束制御装置、7,9 負荷、10 インバータ、11,23,24 制御装置、21,22 単相インバータ、41,42 電力補償装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮断器を介して交流電源に一次側が接続された変圧器の磁束を制御するための磁束制御装置であって、
前記変圧器の二次側に接続されたインバータと、
前記インバータを制御する制御回路とを備え、
前記制御回路は、前記遮断器によって前記変圧器が前記交流電源から切離された場合には、時間の経過にしたがって減衰する交流電圧が前記変圧器の二次側に与えられるように、前記インバータを制御する、磁束制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、所定の時定数で、前記インバータの交流電圧を減衰させる、請求項1に記載の磁束制御装置。
【請求項3】
前記交流電源は、三相交流電源であり、
前記変圧器は、前記三相交流電源からの三相交流を、第1および第2の単相負荷にそれぞれ供給される第1および第2の単相交流へと変換し、
前記インバータは、
前記変圧器における前記第1の単相交流の出力側に、その交流側が接続される第1の単相インバータと、
前記変圧器における前記第2の単相交流の出力側に、その交流側が接続される第2の単相インバータとを含む、請求項1または2に記載の磁束制御装置。
【請求項4】
前記第1の単相インバータの直流側と前記第2の単相インバータの直流側とは、互いに接続されている、請求項3に記載の磁束制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−196124(P2012−196124A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−40228(P2012−40228)
【出願日】平成24年2月27日(2012.2.27)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】