説明

変形検出センサ

【課題】圧電センサによる変形検出の検出精度および信頼性を向上させる。
【解決手段】基準信号発生部12はセンサ本体11に基準信号βを入力し、LPF31はセンサ本体11の出力信号(つまり合成信号γ)から、変形に起因するひずみ速度検知信号αを抽出し、BPF32は基準信号βを抽出する。電圧評価部41は圧電フィルムの変形に係る情報を検知し、静電容量評価部42は圧電フィルムの温度状態に係る情報を検知する。変形量信号補正部43はひずみ速度検知信号αに基づく圧電フィルムの変形に係る情報を、基準信号βに基づく圧電フィルムの温度状態に応じて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、変形検出センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば圧電センサの温度を検出するサーミスタ等の温度センサを備え、この温度センサの出力に応じて、圧電センサの出力特性の温度依存性を補正するセンサ(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【特許文献1】特開2006−112858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来技術に係るセンサでは、圧電センサに加えて温度センサを備える必要があることから、センサの構成が複雑化してしまうという問題が生じる。しかも、圧電センサに付加される温度センサでは、圧電センサの温度状態を直接的に精度良く検出することが困難となる虞がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、圧電センサによる変形検出の検出精度および信頼性を向上させることが可能な変形検出センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、請求項1に記載の本発明の変形検出センサは、変形に起因して出力信号を発する圧電素子(例えば、実施の形態でのセンサ本体11)と、前記圧電素子に所定周期の基準信号(例えば、実施の形態での基準信号β)を入力する基準信号入力手段(例えば、実施の形態での基準信号発生部12)と、前記圧電素子の出力信号(例えば、実施の形態での合成信号γ)から前記圧電素子の変形に起因する第1出力信号(例えば、実施の形態でのひずみ速度検知信号α)を抽出する第1信号抽出手段(例えば、実施の形態での低域通過フィルタ(LPF)31)と、前記圧電素子の出力信号から前記基準信号に起因する第2出力信号(例えば、実施の形態での基準信号β)を抽出する第2信号抽出手段(例えば、実施の形態での帯域通過フィルタ(BPF)32)と、前記第1信号抽出手段により抽出した前記第1出力信号を評価する第1評価手段(例えば、実施の形態での電圧評価部41)と、前記第2信号抽出手段により抽出した前記第2出力信号を評価する第2評価手段(例えば、実施の形態での静電容量評価部42)とを備えることを特徴としている。
【0005】
上記構成の変形検出センサによれば、圧電素子に基準信号を入力し、圧電素子の出力信号から、変形に起因する第1出力信号と、基準信号に起因する第2出力信号とを、それぞれ評価することにより、圧電素子の変形に係る情報に加えて、圧電素子の温度等の状態量に係る情報を取得することができる。
【0006】
さらに、請求項2に記載の本発明の変形検出センサは、前記第2評価手段の評価結果を基に、前記第1評価手段の評価結果を調整する調整手段(例えば、実施の形態での変形量信号補正部43)を備えることを特徴としている。
【0007】
上記構成の変形検出センサによれば、第1出力信号に基づく圧電素子の変形に係る情報を、第2出力信号に基づく圧電素子の温度等の状態量に応じて調整することができ、圧電素子の変形に係る情報の検知精度および信頼性を向上させることができる。
【0008】
さらに、請求項3に記載の本発明の変形検出センサでは、前記第2評価手段は、前記圧電素子の静電容量または誘電率を評価することを特徴としている。
【0009】
上記構成の変形検出センサによれば、第1出力信号に基づく圧電素子の変形に係る情報を、第2出力信号に基づく圧電素子の静電容量または誘電率に応じて調整することができ、圧電素子の変形に係る情報の検知精度および信頼性を向上させることができる。
【0010】
さらに、請求項4に記載の本発明の変形検出センサでは、前記第2評価手段は、前記圧電素子の温度状態を評価することを特徴としている。
【0011】
上記構成の変形検出センサによれば、第1出力信号に基づく圧電素子の変形に係る情報を、第2出力信号に基づく圧電素子の温度状態に応じて調整することができ、圧電素子の変形に係る情報の検知精度および信頼性を向上させることができる。
【0012】
さらに、請求項5に記載の本発明の変形検出センサは、前記第2評価手段により得られた前記圧電素子の温度状態と、前記第1評価手段により得られた前記圧電素子の変形状態とから、前記圧電素子の変形量を評価する変形量評価手段(例えば、実施の形態での変形量信号補正部43)を備えることを特徴としている。
【0013】
上記構成の変形検出センサによれば、第1出力信号に基づく圧電素子の変形状態と、第2出力信号に基づく圧電素子の温度状態とから、圧電素子の変形量の検知精度および信頼性を向上させることができる。
【0014】
さらに、請求項6に記載の本発明の変形検出センサでは、前記基準信号入力手段は前記基準信号を前記第1出力信号よりも高周波側の信号とし、前記第1信号抽出手段はローパスフィルタを備え、前記第2信号抽出手段はバンドパスフィルタまたは検波フィルタを備え、前記第1信号抽出手段の通過帯域と前記第2信号抽出手段の通過帯域とは互いに分離されていることを特徴としている。
【0015】
上記構成の変形検出センサによれば、互いに周波数帯域の異なる第1出力信号と第2出力信号とに基づき、圧電素子の変形に係る情報と、圧電素子の温度等の状態量に係る情報との検知精度および信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の変形検出センサによれば、圧電素子の変形に係る情報に加えて、圧電素子の温度等の状態量に係る情報を取得することができる。
さらに、請求項2に記載の本発明の変形検出センサによれば、第1出力信号に基づく圧電素子の変形に係る情報を、第2出力信号に基づく圧電素子の温度等の状態量に応じて調整することができ、圧電素子の変形に係る情報の検知精度および信頼性を向上させることができる。
さらに、請求項3に記載の本発明の変形検出センサによれば、第1出力信号に基づく圧電素子の変形に係る情報を、第2出力信号に基づく圧電素子の静電容量または誘電率に応じて調整することができ、圧電素子の変形に係る情報の検知精度および信頼性を向上させることができる。
【0017】
さらに、請求項4に記載の本発明の変形検出センサによれば、第1出力信号に基づく圧電素子の変形に係る情報を、第2出力信号に基づく圧電素子の温度状態に応じて調整することができ、圧電素子の変形に係る情報の検知精度および信頼性を向上させることができる。
さらに、請求項5に記載の本発明の変形検出センサによれば、第1出力信号に基づく圧電素子の変形状態と、第2出力信号に基づく圧電素子の温度状態とから、圧電素子の変形量の検知精度および信頼性を向上させることができる。
さらに、請求項6に記載の本発明の変形検出センサによれば、互いに周波数帯域の異なる第1出力信号と第2出力信号とに基づき、圧電素子の変形に係る情報と、圧電素子の温度等の状態量に係る情報との検知精度および信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る変形検出センサについて添付図面を参照しながら説明する。
本実施の形態による変形検出センサ10は、例えば車両の外表面と物体との接触および衝突に起因して車両の外表面に生じる変形等に係る変形状態量を検出するセンサ本体11と、基準信号発生部12と、制御部13とを備えて構成されている。
【0019】
センサ本体11は、例えば図1に示すように、圧電フィルム21上に形成された複数の電極22,…,22と、各電極22に接続された信号配線23とを備えて構成され、例えば車両の外表面近傍(車両前部のフロントバンパフェースの内面上等)に配置されている。
【0020】
圧電フィルム21は分極処理されたフッ化ビニリデン系樹脂等のポリマー圧電体がフィルム状に形成されて構成され、圧電フィルム21に生じる電荷を電圧として検出する複数の電極22,…,22は導電性の薄板あるいは金属ペーストあるいは蒸着金属等により形成されている。
そして、この圧電フィルム21は、例えば図2に示すように、基準信号発生部12から所定の基準信号が入力される基準信号入力端子21aを介して接地されている。このため、圧電フィルム21上に形成された複数の電極22,…,22からは、圧電フィルム21を変形させる外力等の外部入力(例えば、数100Hz未満等)に応じたひずみ速度検知信号αと、基準信号発生部12から入力される基準信号β(例えば、数kHz以上等)とが合成された合成信号γが出力されるようになっている。
【0021】
なお、センサ本体11は、例えば図2に示すように、圧電フィルム21の静電容量Cと、接地された所定の抵抗R(例えば、100kΩ等)とを備えて構成されるセンサ素子等価回路として、等価的な微分回路24を備え、この微分回路24から各電極22に生じる電圧Vの時間微分値(dV/dt)が合成信号γとして外部に出力されるようになっている。
【0022】
基準信号発生部12は、センサ本体11において検知対象とされる電圧信号の周波数最大値(例えば、数100Hz等)よりも高い周波数(例えば、数kHz以上等)を有する基準信号βを発生させ、圧電フィルム21の基準信号入力端子21aに入力する。
【0023】
制御部13は、例えば図13に示すように、センサ本体11から出力される合成信号γに対して、ひずみ速度検知信号αに相当する所定の低周波成分(例えば、数100Hz未満等)を通過させる低域通過フィルタ(LPF)31と、合成信号γに対して、基準信号βに相当する所定の周波数成分(例えば、数kHz以上等)を通過させる帯域通過フィルタ(BPF)32と、変形量評価部33とを備えて構成され、さらに、変形量評価部33は、例えば電圧評価部41と、静電容量評価部42と、変形量信号補正部43とを備えて構成されている。
【0024】
変形量評価部33の電圧評価部41は、例えば図4に示すように、低域通過フィルタ(LPF)31から出力されるひずみ速度検知信号αを時間積分して変形量信号を生成し、変形量信号補正部43へ出力する。
静電容量評価部42は、帯域通過フィルタ(BPF)32から出力される基準信号βの出力を検出し、この検出値に基づき、例えば所定の静電容量マップをマップ検索し、静電容量を取得する。なお、所定の静電容量マップは、圧電フィルム21の静電容量の変化に応じた、所定出力の基準信号βの出力変化を示すマップであって、この静電容量マップでは、例えば静電容量の増大に伴い、基準信号βの出力が増大傾向に変化するようになっている。
【0025】
さらに、静電容量評価部42は、静電容量マップから検索して得た静電容量の検索値に基づき、例えば所定の温度マップをマップ検索し、温度を取得する。なお、所定の温度マップは、圧電フィルム21の温度の変化に応じた、静電容量の変化を示すマップであって、この温度マップでは、例えば温度の増大に伴い、静電容量が増大傾向に変化するようになっている。
そして、静電容量評価部42は、温度マップから検索して得た温度の検索値を圧電フィルム21の温度状態量として変形量信号補正部43へ出力する。
【0026】
変形量信号補正部43は、圧電フィルム21の温度状態に応じた出力変動を相殺するようにして、変形量評価部33から入力される変形量信号を、静電容量評価部42から入力される温度状態量に応じて補正し、補正後の変形量信号を出力する。
つまり、圧電フィルム21は温度状態に応じて電気的特性(例えば、静電容量等)が変動することから、例えば図5(a)に示すように、変形検出センサ10を衝突検知用のセンサとして車両に搭載した場合に、圧電フィルム21の衝突感度は温度に応じて変化する。ここで、圧電フィルム21から出力されるひずみ速度検知信号αとは干渉しない基準信号βを圧電フィルム21に通電し、圧電フィルム21の温度状態に応じた基準信号βの出力変動から圧電フィルム21の静電容量の変動および温度状態を検知し、この温度状態に応じて圧電フィルム21の出力変動を相殺することにより、例えば図5(b)に示すように、圧電フィルム21の衝突感度が温度に応じて変化することを抑制し、衝突状態の検知精度および信頼性を向上させることができる。
【0027】
上述したように、本実施の形態による変形検出センサ10によれば、圧電フィルム21に基準信号βを入力し、圧電フィルム21の出力信号(つまり合成信号γ)から、変形に起因するひずみ速度検知信号αと、基準信号βとを、それぞれ分離して検出することにより、圧電フィルム21の変形に係る情報に加えて、圧電フィルム21の温度状態に係る情報を取得することができ、ひずみ速度検知信号αに基づく圧電フィルム21の変形に係る情報を、基準信号βに基づく圧電フィルム21の温度状態に応じて補正することができ、圧電フィルム21の変形に係る情報の検知精度および信頼性を向上させることができる。
【0028】
なお、上述した実施の形態において、静電容量評価部42は、帯域通過フィルタ(BPF)32から出力される基準信号βの出力に基づき、圧電フィルム21の静電容量を検出するとしたが、これに限定されず、圧電フィルム21の誘電率を検出してもよい。この場合、静電容量評価部42は、圧電フィルム21の誘電率の変化に応じた、所定出力の基準信号βの出力変化を示す誘電率マップと、圧電フィルム21の温度の変化に応じた、誘電率の変化を示す温度マップを備え、誘電率マップから検索して得た誘電率の検索値に基づき、温度マップをマップ検索し、圧電フィルム21の温度を取得する。
なお、上述した実施の形態においては、帯域通過フィルタ(BPF)32の代わりに検波フィルタを備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係るセンサ本体の要部構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るセンサ本体の構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る変形検出センサの構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係るセンサ本体から出力される合成信号から変形量信号を生成する一連の処理を模式的に示す図である。
【図5】図5(a)は比較例における衝突感度の温度変化の一例を示すグラフ図であり、図5(b)は実施例における衝突感度の温度変化の一例を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0030】
10 変形検出センサ
11 センサ本体(圧電素子)
31 低域通過フィルタ(第1信号抽出手段)
32 帯域通過フィルタ(第2信号抽出手段)
41 電圧評価部(第1評価手段)
42 静電容量評価部(第2評価手段)
43 変形量信号補正部(調整手段、変形量評価手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形に起因して出力信号を発する圧電素子と、
前記圧電素子に所定周期の基準信号を入力する基準信号入力手段と、
前記圧電素子の出力信号から前記圧電素子の変形に起因する第1出力信号を抽出する第1信号抽出手段と、
前記圧電素子の出力信号から前記基準信号に起因する第2出力信号を抽出する第2信号抽出手段と、
前記第1信号抽出手段により抽出した前記第1出力信号を評価する第1評価手段と、
前記第2信号抽出手段により抽出した前記第2出力信号を評価する第2評価手段とを備えることを特徴とする変形検出センサ。
【請求項2】
前記第2評価手段の評価結果を基に、前記第1評価手段の評価結果を調整する調整手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の変形検出センサ。
【請求項3】
前記第2評価手段は、前記圧電素子の静電容量または誘電率を評価することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の変形検出センサ。
【請求項4】
前記第2評価手段は、前記圧電素子の温度状態を評価することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1つに記載の変形検出センサ。
【請求項5】
前記第2評価手段により得られた前記圧電素子の温度状態と、前記第1評価手段により得られた前記圧電素子の変形状態とから、前記圧電素子の変形量を評価する変形量評価手段を備えることを特徴とする請求項4に記載の変形検出センサ。
【請求項6】
前記基準信号入力手段は前記基準信号を前記第1出力信号よりも高周波側の信号とし、
前記第1信号抽出手段はローパスフィルタを備え、
前記第2信号抽出手段はバンドパスフィルタまたは検波フィルタを備え、
前記第1信号抽出手段の通過帯域と前記第2信号抽出手段の通過帯域とは互いに分離されていることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1つに記載の変形検出センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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