説明

変性ノボラック系樹脂の製造方法及び変性ノボラック系樹脂

【課題】硬化時のガス発生がなくその硬化物の色合いが極めて淡色である変性ノボラック系樹脂の製造方法及び変性ノボラック系樹脂を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの水酸基を置換基として有する水酸基含有芳香族炭化水素と、エチレン尿素又はプロピレン尿素とがメチレン結合を介して交互に繰り返した構造を有する窒素含有樹脂に、グリシジルアクリレート及び/又はグリシジルメタクリレートを付加反応させる変性ノボラック系樹脂の製造方法、並びに、その製造方法により得られる変性ノボラック系樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ノボラック系樹脂の製造方法及び変性ノボラック系樹脂に関し、特に、耐熱性が高く、硬化時のガス発生がなくその硬化物の色合いが極めて淡色であり、液晶ディスプレイ部材のような高い透明性が求められる分野の材料として好適である変性ノボラック系樹脂の製造方法及び変性ノボラック系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フェノール樹脂は、機械的強度、耐熱性、寸法安定性、電気絶縁性、耐酸性、難燃性などの特性に優れ様々な分野に使用されている。しかし、フェノール樹脂は容易に酸化され黄褐色〜赤褐色に着色する。さらに加熱硬化させた製品は、色調が濃化して濃黄褐色〜濃赤褐色となる。また、硬化物は経時により着色が濃くなる。フェノール樹脂が濃色に着色する原因は、フェノール性水酸基の水素原子が引抜かれ、フェノキシラジカルが生成し、キノン由来のトリフェニルメタン構造が主原因と考えられている。特許文献1には、これらを解決する目的で着色の少ないフェノールモノマーとして、ビスフェノールAモノマーを使用することが記載されているが、硬化物の着色は少なくなるもののビスフェノールAは、近年、環境保護のため、市場の要請もあり使用を控える傾向にある。
【0003】
また、フェノール樹脂の着色を抑える目的で、メラミン樹脂等のアミノ樹脂変性が特許文献2に開示されているが、アルデヒドに対する反応性はフェノール類とアミノ樹脂では異なるため共重合体はできず、経時によるフェノール類の着色がある。また、硬化の際に発生するアルデヒドは多くなり、環境面においても好ましくない。
特許文献3には、フェノール樹脂の硬化時に発生するガスをなくす目的で、ノボラック樹脂の水酸基にグリシジル(メタ)アクリレートと反応して得られる(メタ)アクリロイル化ノボラック樹脂が記載されているが、不飽和基を導入することにより、硬化時のガスは発生しないが、通常のノボラック樹脂をベースにしていることから、硬化物は濃く着色する。
【特許文献1】特開平6−345838号公報
【特許文献2】特開平4−32847号公報
【特許文献3】特開平8−311137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、硬化時のガス発生がなくその硬化物の色合いが極めて淡色である変性ノボラック系樹脂の製造方法及び変性ノボラック系樹脂を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、少なくとも1つの水酸基を置換基として有する水酸基含有芳香族炭化水素とエチレン尿素又はプロピレン尿素とがメチレン結合を介して交互に繰り返した構造を有する窒素含有樹脂を原料として用いることにより、フェノール樹脂の着色原因と言われるトリフェニルメタン構造を生成し難くなり、不飽和基を含有することにより硬化時のガス発生がなく硬化後の色合いが極めて淡色である変性ノボラック系樹脂が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、少なくとも1つの水酸基を置換基として有する水酸基含有芳香族炭化水素と、エチレン尿素又はプロピレン尿素とがメチレン結合を介して交互に繰り返した構造を有する窒素含有樹脂に、グリシジルアクリレート及び/又はグリシジルメタクリレートを付加反応させる変性ノボラック系樹脂の製造方法、並びに、その製造方法により得られる変性ノボラック系樹脂を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法により得られる変性ノボラック系樹脂は、耐熱性が高く、硬化時のガス発生がなくその硬化物の色合いが極めて淡色である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の変性ノボラック系樹脂の製造方法は、少なくとも1つの水酸基を置換基として有する水酸基含有芳香族炭化水素と、エチレン尿素又はプロピレン尿素とがメチレン結合を介して交互に繰り返した構造を有する窒素含有樹脂に、グリシジル(メタ)アクリレートを付加反応させる。
前記グリシジル(メタ)アクリレートは、グリシジルアクリレート及び/又はグリシジルメタクリレートを示す。
【0008】
水酸基含有芳香族炭化水素としては、環を構成する炭素数が6〜18であると好ましく、6〜12であるとさらに好ましい。水酸基以外の置換基を有していても良い。また、含有する水酸基は、1〜2個が好ましい。
このような水酸基含有芳香族炭化水素としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール、o−イソプロピルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−sec−ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、p−クロロフェノール、o−ブロモフェノール、m−ブロモフェノール、p−ブロモフェノール等のフェノール類、α−ナフトール、β−ナフトール等のナフトール類、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール等のキシレノール類等の一価フェノール類;レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4'−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1'−ビス(ジヒドロキシフェニル)メタン、1,1'−ビス(ジヒドロキシナフチル)メタン、テトラメチルビフェノール、ビフェノール、ヘキサメチルビフェノール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のナフタレンジオール類等の二価フェノール類;トリスヒドロキシフェニルメタン等の三価フェノール類を挙げることができる。
これらの中でも、特に、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、ナフトール類、2,2−ビス(4'−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,6−キシレノール、レゾルシン、ハイドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレンが好ましい。
これらは、単独でもしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0009】
本発明で用いる窒素含有樹脂は、前記水酸基含有芳香族炭化水素と、エチレン尿素又はプロピレン尿素ジメチロール体とを酸性触媒下で合成すると好ましい。
酸性触媒としては、特に限定されないが、蓚酸、塩酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が挙げられる。
また、ジメチロール体を合成するためのアルデヒド類としては、例えば、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサン(メタホルムアルデヒド)等を挙げることができる。
これらは、単独でもしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0010】
本発明の製造方法において、窒素含有樹脂の水酸基当量1.0に対し、グリシジル(メタ)アクリレート0.2〜0.9当量を付加反応させると好ましく、0.3〜0.8当量を付加反応させるとさらに好ましい。グリシジル(メタ)アクリレートが0.2当量以上であれば、得られる変性ノボラック系樹脂の硬化性が良好であり、0.9当量以下であれば、得られる変性ノボラック系樹脂を硬化させてなる硬化物の基材に対する密着性が良好である。
また、本発明の製造方法においては、窒素含有樹脂とグリシジル(メタ)アクリレートを塩基性触媒存在下、50〜120℃、好ましくは60〜85℃の温度範囲で反応することにより得られる。50℃以上であれば、反応速度が十分で実用的であり、120℃以下であれば、合成中にゲル化する危険性が無い。なお、反応中にゲル化を防止する目的で重合禁止剤を加えても良い。また、反応中はエアーバブリングを行っても良い。
【0011】
窒素含有樹脂とグリシジル(メタ)アクリレートの反応に用いる塩基性触媒は、反応を促進するものであれば特に限定されず、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、イミダゾール類、リン系化合物等が使用できる。塩基性触媒の使用量は窒素含有樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。
また、重合禁止剤としては、特に限定されないが、例えば、キノン類、フェノール類、多価フェノール類、有機並びに無機の銅塩、アミン類、ニトロ化合物、オキシム類、硫黄類、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアルミニウム塩等が挙げられる。
窒素含有樹脂とグリシジル(メタ)アクリレートとの反応は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等の反応溶媒中で行うと好ましい。
本発明の変性ノボラック系樹脂は、上述した製造方法によって得られるものであり、紫外線露光によって硬化する際、光重合開始剤が必要である。
【実施例】
【0012】
以下、実施例によって本発明をさらに記述するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。以下、部及び%は質量基準である。
合成例1
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、エチレン尿素100部、25%水酸化ナトリウム8部を仕込み、内温50℃にして、37%ホルマリン188部を1時間かけて滴下した。その後、50℃で2時間反応し、燐酸6部を添加し中和することでエチレン尿素のジメチロール体を得た。次に、フェノール328部、蓚酸1.5部を仕込み、還流温度で4時間反応後、200℃、50mmHgの減圧下で未反応フェノールを除去した。GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による重量平均分子量370、軟化点80℃の窒素含有樹脂288部を得た。また、その水酸基当量は142であった。
得られた窒素含有樹脂は、1H−NMRスペクトルから、メチレン結合の化学シフトは4.2ppm付近のことより、エチレン尿素とフェノールがメチレン結合を介して交互に繰り返した構造のオリゴマーである。
【0013】
実施例1
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、合成例1で得られた窒素含有樹脂100部、メチルエチルケトン40部、グリシジルメタクリレート75部、ハイドロキノン0.05部、トリエチルアミン2部を仕込み、内温80℃で6時間反応し変性ノボラック系樹脂210部を得た。なお、エポキシ基/水酸基の当量比=0.75であった。
実施例2
実施例1において、グリシジルメタクリレートを50部とした以外は同様に反応し、変性ノボラック系樹脂188部を得た。なお、エポキシ基/水酸基の当量比=0.5であった。
【0014】
比較例1
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、ノボラック樹脂(重量平均分子量440)100部、メチルエチルケトン40部、グリシジルメタクリレート102部、ハイドロキノン0.05部、トリエチルアミン2部を仕込み、内温80℃で6時間反応し変性ノボラック系樹脂235部を得た。
比較例2
比較例1において、グリシジルメタクリレートを68部とした以外は同様に反応し、変性ノボラック系樹脂202部を得た。
【0015】
比較例3
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、ビスフェノールAノボラック樹脂(重量平均分子量4600)100部、メチルエチルケトン40部、グリシジルメタクリレート18部、ハイドロキノン0.05部、トリエチルアミン2部を仕込み、内温80℃で6時間反応し変性ノボラック系樹脂150部を得た。
【0016】
<変性ノボラック系樹脂の評価>
実施例1〜2及び比較例1〜3で得られた変性ノボラック系樹脂のそれぞれに、不揮発分が50%になるようメチルエチルケトンを加えた100部に対して、光重合開始剤(ダロキュア1173(商品名):チバガイギー社製)を2.5部添加して光硬化性樹脂組成物を得た。
これをアルミニウム金属板(1150P 20mm×30mm×0.3mm)に♯24 バーコーターで塗布し、UV照射量500mJ/cm2で照射して硬化させて樹脂硬化物塗膜を形成し、これを試験片とした。
【0017】
(1)加熱減量
樹脂硬化物の加熱減量について、セイコー電子工業製TGA測定装置SSC/5200H(商品名)を用いて測定した。昇温速度:10℃/分。
(2)硬化物の色合い
樹脂硬化物の色合いについて、MINOLTA製色彩色差計CT−210(商品名)で測定した。
(3)密着性の評価
樹脂硬化物塗膜にカッターを用いて、碁盤目を作成し、セロハンテープにより剥離試験を行い、残った碁盤目の数を記載した。値が大きい程、密着性に優れる。
(4)硬化性
樹脂硬化物塗膜に、ガーゼ16枚を重ねメチルエチルケトンに浸した2ポンドのハンマーを往復させ、基材が表面に現れた回数を終点とする。また、最大往復数は100回とする。
【0018】
【表1】

表1に示すように、実施例1、2の変性ノボラック系樹脂を用いた樹脂硬化物は、加熱減量が少ないことから耐熱性が高く、密着性も優れており、硬化物の色合いは、ほぼ透明である。これに対し、比較例1、2は透明性が低く、比較例3は透明性が高いものの、硬化性が悪い。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の製造方法により得られる変性ノボラック系樹脂は、耐熱性が高く、硬化時のガス発生がなくその硬化物は極めて淡色である。このため、液晶ディスプレイ部材のような透明性の高いことが求められる分野の材料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの水酸基を置換基として有する水酸基含有芳香族炭化水素と、エチレン尿素又はプロピレン尿素とがメチレン結合を介して交互に繰り返した構造を有する窒素含有樹脂に、グリシジルアクリレート及び/又はグリシジルメタクリレートを付加反応させる変性ノボラック系樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記水酸基含有芳香族炭化水素の環を形成する炭素数が6〜18である請求項1に記載の変性ノボラック系樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記水酸基含有芳香族炭化水素がフェノールである請求項1に記載の変性ノボラック系樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記窒素含有樹脂が、前記水酸基含有芳香族炭化水素と、エチレン尿素ジメチロール体又はプロピレン尿素ジメチロール体とを、酸性触媒下で合成したものである請求項1に記載の変性ノボラック系樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記窒素含有樹脂の水酸基当量1.0に対し、前記グリシジルアクリレート及び/又はグリシジルメタクリレート0.2〜0.9当量を付加反応させる請求項1に記載の変性ノボラック系樹脂の製造方法。
【請求項6】
塩基性触媒存在下、50〜120℃で、前記窒素含有樹脂に、グリシジルアクリレート及び/又はグリシジルメタクリレートを付加反応させる請求項1に記載の変性ノボラック系樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られる変性ノボラック系樹脂。

【公開番号】特開2009−126886(P2009−126886A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300636(P2007−300636)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】