説明

変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体、その製造方法、及びその共重合体組成物

【課題】無機充填剤を含む加硫物としたときに低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れ、実用上十分な耐摩耗性や破壊強度をも満足する、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体、その製造方法、及びその変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物を提供すること。
【解決手段】共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物からなる共重合体であって、
前記共重合体の共役ジエン結合量が50〜85質量%、芳香族ビニル結合量が15〜50質量%であり、
重合体鎖の一方の末端部に1つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を含む官能基を有し、
重合体鎖の他方の端部に、前記共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックであって、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって求められるポリスチレン換算の重量平均分子量が2,000〜50,000の重合体ブロックを有する、
変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体、その製造方法、及びその共重合体を含有する組成物に関する。
詳しくは、重合体鎖の一方の末端部に1つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を含む官能基を有し、重合体鎖の他方の端部に共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックを有する、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体、その製造方法、及びその共重合体を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出量の抑制等、環境に対する配慮が社会的要請となっている。具体的には自動車に対する低燃費化要求が高まってきている。このような現状から、自動車用タイヤ、特に地面と接するタイヤトレッドの材料として、転がり抵抗が小さい材料の開発が求められてきている。一方、安全性の観点からは、ウェットスキッド抵抗に優れ、実用上十分な耐摩耗性、破壊特性を有する材料の開発が求められている。
従来、タイヤトレッドの補強性充填剤としては、カーボンブラック、シリカ等が使用されている。シリカを用いると、低ヒステリシスロス性及びウェットスキッド抵抗性の向上が図ることができるという利点を有している。しかし一方において、疎水性表面のカーボンブラックに対して、親水性表面のシリカは、共役ジエン系ゴムとの親和性が低く、カーボンブラックに比較して分散性が悪いという欠点を有していることから、分散性を改良させたり、シリカ−ゴム間の結合付与を行ったりするため、別途シランカップリング剤等を含有させる必要がある。
さらに近年においては、運動性の高いゴム分子末端部に、シリカとの親和性や反応性を有する官能基を導入することによって、ゴム材中におけるシリカの分散性を改良し、さらにはゴム分子末端部をシリカ粒子との結合で封じることによって、ヒステリシスロスを低減化する試みがなされている。例えば、特許文献1には、グリシジルアミノ基を有する変性剤を重合体末端に反応させて得られる変性ジエン系ゴムが、特許文献2には、グリシドキシアルコキシシランを重合体末端に反応させて得られる変性ジエン系ゴムが開示されている。さらに、特許文献3及び4には、アミノ基を含有するアルコキシシラン類を重合体末端に反応させて得られる変性ジエン系ゴム、及びこれらとシリカとの組成物についての提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開01/23467号パンフレット
【特許文献2】特開平07−233217号公報
【特許文献3】特開2001−158834号公報
【特許文献4】特開2003−171418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年における低燃費化の要求のさらなる高まりとともに、一層、ヒステリシスロスを低減化させたゴム組成物の開発が要求されるようになっている。
上記事情に鑑み、本発明は、無機充填剤を含む加硫物としたときに低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れ、実用上十分な耐摩耗性や破壊強度をも満足する、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体、その製造方法、及びその変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究検討した結果、共役ジエン結合量及び芳香族ビニル結合量が特定範囲に調整され、重合体鎖の一方の末端部に1つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を含む官能基を有し、重合体鎖の他方の端部に前記共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックであって、重量平均分子量が特定範囲に調整された重合体ブロックを有する、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体に、無機充填剤、特にシリカ系無機充填剤を含有させ、さらに加硫物とした場合に、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れ、実用上十分な耐摩耗性や破壊強度をも満足することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]
共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物からなる共重合体であって、
前記共重合体の共役ジエン結合量が50〜85質量%、芳香族ビニル結合量が15〜50質量%であり、
重合体鎖の一方の末端部に1つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を含む官能基を有し、
重合体鎖の他方の端部に、前記共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックであって、ゲル浸透クロマトグラフィーによって求められるポリスチレン換算の重量平均分子量が2,000〜50,000の重合体ブロックを有する、
変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体。
[2]
前記共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロック中の共役ジエン結合量が95質量%以上、芳香族ビニル結合量が5質量%以下である、上記[1]記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体。
[3]
前記共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロック中の共役ジエン結合単位中のビニル結合量が5〜25モル%である、上記[1]又は[2]記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体。
[4]
前記変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の末端の官能部が下記式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式(1)中、Polymは共重合体鎖であり、R1、R2は、各々独立して炭素数1〜20のアルキル基、又はアリール基であり、R3は炭素数1〜20のアルキレン基であり、R4、R5は同一であっても異なっていてもよい炭素数1〜6の炭化水素基であって隣接する2つのNとともに5員環以上の環構造をなし、R6は炭素数1〜20の炭化水素基、又は3有機置換シリル基であり、m、nは、1又は2で、m+nが3以下となる整数である。)
又は下記式(2)
【0009】
【化2】

【0010】
(式(2)中、Polym、R1〜R6、m、nは、前記式(1)と同義であり、R7は炭素数1〜20の炭化水素基、又は3有機置換シリル基である。)
で表される、上記[1]〜[3]のいずれか記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体。
[5]
上記[1]〜[4]のいずれか記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法であって、
アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として用い、第1段階として主に共役ジエン化合物を重合して、共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックであって、ポリスチレン換算の重量平均分子量が2,000〜50,000の重合体ブロックを形成した後に、第2段階として共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物をランダムに共重合することで活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を得る重合工程と、
前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の活性末端に、2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する化合物を反応させる変性工程と、
を含む、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法。
[6]
単量体として共役ジエン化合物のみが存在する状態で重合工程の第1段階を実施して、共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックであって、ポリスチレン換算の重量平均分子量が2,000〜50,000の重合体ブロックを形成した後に、芳香族ビニル化合物又は芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の両方を重合系内に添加することで第2段階の共重合反応を実施する、上記[5]記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法。
[7]
第2段階の共重合反応を実施する際に極性化合物を添加する工程を含む、上記[6]記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法。
[8]
単量体として共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物の存在下で重合工程の第1段階を実施して、共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックであって、ポリスチレン換算分子量の重量平均分子量が2,000〜50,000の重合体ブロックを形成した後に、極性化合物を添加することで第2段階の共重合反応を実施する、上記[5]記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法。
[9]
前記2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する化合物が下記式(3)
【0011】
【化3】

【0012】
(式(3)中、R1、R2は、各々独立して炭素数1〜20のアルキル基、又はアリール基であり、R3は炭素数1〜20のアルキレン基であり、R4、R5は同一であっても異なっていてもよい炭素数1〜6の炭化水素基であって隣接する2つのNとともに5員環以上の環構造をなし、R6は炭素数1〜20の炭化水素基、又は3有機置換シリル基であり、pは、2又は3の整数である。)
又は下記式(4)
【0013】
【化4】

【0014】
(式(4)中、R1〜R6、pは、前記式(3)と同義であり、R7は炭素数1〜20の炭化水素基、又は3有機置換シリル基である。)
で表される、上記[5]〜[8]いずれか記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法。
[10]
上記[1]〜[4]のいずれか記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を20質量部以上含むゴム成分100質量部に対して、シリカ系無機充填剤0.5〜300質量部を配合してなる変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無機充填剤を含む加硫物としたときに低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れ、実用上十分な耐摩耗性や破壊強度をも満足する、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体、その製造方法、及び変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体は、
共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物からなる共重合体であって、
前記共重合体の共役ジエン結合量が50〜85質量%、芳香族ビニル結合量が15〜50質量%であり、
重合体鎖の一方の末端部に1つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を含む官能基を有し、
重合体鎖の他方の端部に、前記共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックであって、ゲル浸透クロマトグラフィーによって求められるポリスチレン換算の重量平均分子量が2,000〜50,000の重合体ブロックを有する。
【0018】
本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体中の共役ジエン結合量は50〜85質量%であり、60〜80質量%であることが好ましい。また、芳香族ビニル結合量は15〜50質量%であり、20〜40質量%であることが好ましい。共役ジエン結合量及び芳香族ビニル結合量が上記範囲であると、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性のバランスに優れ、耐摩耗性や破壊強度も満足する加硫物を得ることができる。
【0019】
ここで、芳香族ビニル結合量は、フェニル基の紫外吸光によって測定できる。具体的には、後述する実施例に従った方法により測定することができる。
【0020】
また、共役ジエン結合単位中のビニル結合量は30〜75モル%であることが好ましく、35〜65モル%であることがより好ましい。ビニル結合量が上記範囲であると、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性のバランスに優れ、耐摩耗性や破壊強度も満足する加硫物を得ることができる。
【0021】
ここで、ビニル結合量は、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体がブタジエンとスチレンの共重合体である場合には、ハンプトンの方法(R.R.Hampton,Analytical Chemistry,21,923(1949))によりブタジエン結合単位中のビニル結合量(1,2−結合量)を求めることができる。
【0022】
ミクロ構造(上記共重合体中の各結合量)が上記範囲にあり、さらに共重合体のガラス転移温度が−45〜−15℃の範囲にあるときに、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性のバランスにより一層優れた加硫物を得ることができる。
【0023】
ガラス転移温度については、ISO22768:2006に従い、所定の温度範囲で昇温しながらDSC曲線を記録し、DSC微分曲線のピークトップ(Inflection point)をガラス転移温度とする。
【0024】
本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体は、その一方の末端部に1つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を含む官能基を有する。1つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を含む官能基は重合開始末端、或いは重合終了末端のいずれに結合していてもよいが、製造の容易性から重合終了末端に結合していることが好ましい。
【0025】
また、シリカ、カーボンブラック等の無機充填剤との親和性の観点から、その構造は、下記式(1)
【0026】
【化5】

【0027】
(式(1)中、Polymは共重合体鎖であり、R1、R2は、各々独立して炭素数1〜20のアルキル基、又はアリール基であり、R3は炭素数1〜20のアルキレン基であり、R4、R5は同一であっても異なっていてもよい炭素数1〜6の炭化水素基であって隣接する2つのNとともに5員環以上の環構造をなし、R6は炭素数1〜20の炭化水素基、又は3有機置換シリル基であり、m、nは、1又は2で、m+nが3以下となる整数である。)
又は下記式(2)
【0028】
【化6】

【0029】
(式(2)中、Polym、R1〜R6、m、nは、前記式(1)と同義であり、R7は炭素数1〜20の炭化水素基、又は3有機置換シリル基である。)
で表される構造であることが好ましい。
【0030】
本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体は、重合体鎖の上記官能基が結合している末端部と反対側の端部に、共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックを有している。この重合体ブロックは、好ましくは共役ジエン結合量が95質量%以上で且つ芳香族ビニル結合量が5質量%以下であり、より好ましくは共役ジエン結合量が97質量%以上で且つ芳香族ビニル結合量が3質量%以下である。共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックを端部に有することによって、重合体鎖端部に優先的に加硫される部位が形成されるため、加硫物としたときにヒステリシスロスが低くなる。また、後述するシランカップリング剤と重合体二重結合部との反応が優先的に起こるため、ヒステリシスロスが低下することも考えられる。上記観点から、該重合体ブロックは、共役ジエン単独重合体ブロックであることが特に好ましい。
【0031】
共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロック中の共役ジエン結合単位中のビニル結合量は5〜25モル%であることが好ましく、7〜20モル%であることがより好ましい。共役ジエン結合単位中のビニル結合量の下限(5モル%)は、アニオン重合におけるビニル結合生成量の下限値で決定され、上限は加硫特性の観点から25モル%以下であることが好ましい。
【0032】
共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって求められるポリスチレン換算分子量で2,000〜50,000であり、5,000〜20,000であることが好ましい。重合体ブロックの重量平均分子量は、十分な確率で加硫サイトが形成される観点から2,000以上であり、重合体ブロックが共重合体中で明確に相分離することを防止する観点から50,000以下である。
【0033】
共重合体全体の分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量で200,000〜2,000,000の範囲にあることが好ましく、300,000〜1,000,000の範囲にあることがより好ましい。共重合体全体の重量平均分子量は、低ヒステリシスロス性、耐摩耗性、耐破壊特性等の十分な物性を得る観点から200,000以上であることが好ましく、加工性の観点から2,000,000以下であることが好ましい。
【0034】
本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法としては、特に限定されないが、有機溶媒中で共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物をアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤としてアニオン重合することによって製造することができる。
【0035】
本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体は、例えば、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として用い、第1段階として主に共役ジエン化合物を重合して、共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックであって、ポリスチレン換算の重量平均分子量が2,000〜50,000の重合体ブロックを形成した後に、第2段階として共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物をランダムに共重合することで活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を得る重合工程と、前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の活性末端に、2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する化合物を反応させる変性工程と、を含む方法により製造することができる。
【0036】
アルカリ金属化合物としては、特に有機リチウム化合物が好適である。有機リチウム化合物としては、低分子量の化合物、可溶化したオリゴマーの有機リチウム化合物、有機基とリチウムの結合様式において炭素−リチウム結合からなる化合物、窒素−リチウム結合からなる化合物、錫−リチウム結合からなる化合物等が挙げられる。
【0037】
具体的には、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−ヘキシルリチウム、ベンジルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等が挙げられる。また、窒素−リチウム結合からなる化合物としては、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジ−n−ヘキシルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムヘプタメチレンイミド、リチウムモルホリド等が挙げられる。
【0038】
また、上記のモノ有機リチウム化合物に加え、多官能有機リチウム化合物を併用させて重合することもできる。多官能有機リチウム化合物としては、1,4−ジリチオブタン、sec−ブチルリチウムとジイソプロペニルベンゼンの反応物、1,3,5−トリリチオベンゼン、n−ブチルリチウムと1,3−ブタジエン及びジビニルベンゼンの反応物、n−ブチルリチウムとポリアセチレン化合物の反応物等が挙げられる。さらに、米国特許第5,708,092号明細書、英国特許第2,241,239号明細書、米国特許第5,527,753号明細書等に開示されている有機アルカリ金属化合物も使用することができる。
【0039】
有機リチウム化合物として特に好ましいものは、工業的入手の容易さ、重合反応のコントロールの容易さの観点から、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムである。
これらの有機リチウム化合物は1種のみならず2種以上の混合物として用いてもよい。
【0040】
他の有機アルカリ金属化合物としては有機ナトリウム化合物、有機カリウム化合物、有機ルビジウム化合物、有機セシウム化合物等が挙げられる。具体的には、ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン等が挙げられ、その他にも、リチウム、ナトリウム、カリウムのアルコキサイド、スルフォネート、カーボネート、アミド等を用いてよい。また他の有機金属化合物と併用して用いてもよい。
【0041】
一方、アルカリ土類金属化合物としては、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機ストロンチウム化合物が代表的なものとして挙げられる。具体的には、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウム、プロピルブチルマグネシウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属のアルコキサイド、スルフォネート、カーボネート、アミド等の化合物を用いてもよい。これらの有機アルカリ土類金属化合物は、アルカリ金属化合物や、その他有機金属化合物と併用して用いてもよい。
【0042】
本実施形態において、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体は、上述したアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として重合され、アニオン重合反応で成長して得られることが好ましく、特にリビングアニオン重合による成長反応によって得られる活性末端を有する重合体であることが好ましい。重合様式としては、特に限定されないが、回分式、又は2個以上の連結された反応器での連続式等の重合様式で行うことができる。
【0043】
共役ジエン化合物としては、特に限定されず、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、特に、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0044】
共役ジエン化合物中に不純物として、アレン類、アセチレン類が含有されていると、後述する変性反応を阻害するおそれがあるため、これらの濃度の合計は、200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましい。
【0045】
芳香族ビニル化合物としては、特に限定されず、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、特に、スチレンが好ましい。
【0046】
共役ジエン化合物−芳香族ビニル共重合体の重合反応においては、芳香族ビニル化合物を共役ジエン化合物とランダムに共重合する目的で、また共役ジエン部のミクロ構造を制御するためのビニル化剤として、更には重合速度の改善等の目的で、少量の極性化合物を添加することも可能である。
【0047】
極性化合物としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジメトキシベンゼン、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン等のエーテル類;テトラメチルエチレンジアミン、ジピペリジノエタン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、キヌクリジン等の第三級アミン化合物;カリウム−t−アミラート、カリウム−t−ブチラート、ナトリウム−t−ブチラート、ナトリウムアミラート等のアルカリ金属アルコキシド化合物;トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物等を用いることができる。これらの極性化合物は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
極性化合物の使用量は、目的と効果の程度に応じて選択される。通常、重合開始剤1モルに対して0.01〜100モルが好ましい。このような極性化合物(ビニル化剤)は重合体共役ジエン部分のミクロ構造調節剤として、所望のビニル結合量に応じて、適量使用できる。多くの極性化合物は、同時に共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合において有効なランダム化効果を有し、芳香族ビニル化合物の分布の調整やスチレンブロック量の調整剤として使用することができる。共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とをランダム化する方法としては、特開昭59−140211号公報に記載されているような、共重合の途中に1,3−ブタジエンの一部を断続的に添加する方法を用いてもよい。
【0049】
重合温度はリビングアニオン重合が進行する温度であれば特に制限はないが、生産性の観点から0℃以上であることが好ましく、また重合終了後の活性末端に対する変性剤の反応量を充分に確保する観点から120℃以下であることが好ましい。
【0050】
また、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体のコールドフローを防止する観点から、分岐をコントロールするためのジビニルベンゼン等の多官能芳香族ビニル化合物を使用することもできる。
【0051】
重合に用いられる溶媒としては、例えば、飽和炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素系溶媒が用いられる。具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素及びそれらの混合物からなる炭化水素が挙げられる。共役ジエン化合物や芳香族ビニル化合物、及び炭化水素系溶媒において、それぞれ単独で又はそれぞれの混合液を重合反応に供する前に、不純物であるアレン類やアセチレン類を有機金属化合物で処理することは、高濃度の活性末端を有する重合体が得られる傾向にあり、更には高い変性率が達成される傾向にあるため好ましい。
【0052】
本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の重合工程においては、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として用い、第1段階として主に共役ジエン化合物を重合して、共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量が多く、且つ、ポリスチレン換算の重量平均分子量2,000〜50,000である重合体ブロックを形成した後に、第2段階として共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物をランダムに共重合することで共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を得ることができる。ここで、「主に」とは、重合する全単量体中の共役ジエン化合物の割合が、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上であることを言う。
【0053】
第1段階の重合体端部に共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックを形成するための第1の方法としては、共役ジエン化合物のみが存在する状態で第1段階の重合反応を実施する方法が挙げられる。その後、芳香族ビニル化合物、或いは芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物を重合系内に添加して第2段階の共重合反応を進行させる。このとき第1段階の重合反応時に重合系内に存在する共役ジエン化合物は、全重合工程で用いる共役ジエン化合物の一部であっても全量であってもよい。重合当初に共役ジエン化合物を全量仕込む場合には、重合反応が進行してポリスチレン換算の重量平均分子量が2,000〜50,000の共役ジエン重合体ブロックを形成した後に、芳香族ビニル化合物を添加して重合系内に残存している共役ジエン化合物と共重合させることで、重合開始端部に共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックが形成された共重合体を得ることができる。また、重合当初に重合系内に添加する共役ジエン化合物が重合に用いる共役ジエン化合物の一部である場合には、重合当初に系内にある共役ジエン化合物の一部、或いは実質的に全量が重合した時点で残りの共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を添加することで重合開始端部に共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックが形成された共重合体を得ることができる。上記の中でも、まず共役ジエン化合物の一部を重合系内に導入して重合を開始し、その重合が実質的に完了した後に残りの共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を系内に添加して重合を継続させ共重合体を得る方法が、共重合体構造の制御が容易となる観点から特に好ましい。
【0054】
これらの方法において、共重合体のランダム化やミクロ構造の制御、或いは反応の促進のために重合系内に極性化合物を添加することができる。この場合、重合初期には極性化合物を添加しないか、少量の添加にとどめ、後段の重合時に極性化合物を必要量添加する方法が、重合開始端部のブロック中の共役ジエン結合単位中のビニル結合量が低い共重合体を得ることができるため好ましい。
【0055】
第1段階の重合体端部に共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックを形成するための第2の方法としては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物のそれぞれ全量の存在下でアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として主に共役ジエン化合物を重合する方法が挙げられる。重合が進行してポリスチレン換算の重量平均分子量が2,000〜50,000の共役ジエン重合体ブロックを形成した後に、極性化合物を添加することで第2段階の共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合を行う。非極性溶媒中のアニオン重合においては、共役ジエン化合物が選択的に重合されるため、極性化合物を添加していない段階では共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックが形成され、極性化合物の添加により共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物がランダム性よく共重合された重合体ブロックが形成される。
【0056】
これらの方法で重合工程を実施する場合、重合工程の第2段階において単量体や極性物質、溶剤の添加が行われるが、その中には微量の重合反応阻害物質が含まれるため、重合体の重合活性末端の一部が不活性化して重合停止することによって低分子量成分が微量生成し、最終的に得られる共重合体中に残存する。変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の分子量分布をRI検出器と芳香族ビニル化合物のフェニル基の紫外吸収を観測するUV検出器を有するGPCによって測定すると、RI検出器では検出されるもののUV検出器では検出されない或いは検出強度の低い低分子量成分が存在することから、本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体に共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックが存在することを確認できる。
【0057】
本実施形態の共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の共重合ブロック部は、芳香族ビニル単位が30以上連鎖しているブロックが少ないか又は無いものであることが好ましい。具体的には、共重合体がブタジエン−スチレン共重合体の場合、Kolthoffの方法(I.M.KOLTHOFF,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)により重合体を分解し、メタノールに不溶なポリスチレン量を分析する公知の方法において、芳香族ビニル単位が30以上連鎖しているブロックが、重合体量に対して好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0058】
以上のような方法で、活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を得た後、2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する化合物(変性剤)を反応させる変性工程を経ることで、本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を得ることができる。変性剤としては、下記式(3)
【0059】
【化7】

【0060】
(式(3)中、R1、R2は、各々独立して炭素数1〜20のアルキル基、又はアリール基であり、R3は炭素数1〜20のアルキレン基であり、R4、R5は同一であっても異なっていてもよい炭素数1〜6の炭化水素基であって隣接する2つのNとともに5員環以上の環構造をなし、R6は炭素数1〜20の炭化水素基、又は3有機置換シリル基であり、pは、2又は3の整数である。)又は下記式(4)
【0061】
【化8】

【0062】
(式(4)中、R1〜R6、pは、前記式(3)と同義であり、R7は炭素数1〜20の炭化水素基、又は3有機置換シリル基である。)
で表される2つ以上の窒素原子を含む環状アミノ基を有するヒドロカルビルオキシシランや、その他の環状アミン、非環状アミン、イミン、イソシアネート等の官能基を含有するヒドロカルビルオキシシラン、環状アザシラン等が挙げられる。
【0063】
上記式(3)で表される環状アミノ基を有するヒドロカルビルオキシシランの具体例を下記に示す。
例えば、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジン、1−[3−(ジエトキシエチルシリル)プロピル]−4−メチルピペラジン、1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−3−メチルイミダゾリジン、1−[3−(ジエトキシエチルシリル)プロピル]−3−エチルイミダゾリジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−メチルヘキサヒドロピリミジン、1−[3−(ジメトキシメチルシリル)プロピル]−3−メチルヘキサヒドロピリミジン、3−[3−(トリブトキシシリル)プロピル]−1−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロピリミジン、3−[3−(ジメトキシメチルシリル)プロピル]−1−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロピリミジン、1−(2−エトキシエチル)−3−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]イミダゾリジン、(2−{3−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]テトラヒドロピリミジン−1−イル}エチル)ジメチルアミン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジン、1−[3−(ジメトキシメチルシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジン、1−[3−(トリブトキシシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジン、1−[3−(ジエトキシエチルシリル)プロピル]−3−(トリエチルシリル)イミダゾリジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−(トリメチルシリル)イミダゾリジン、1−[3−(ジメトキシメチルシリル)プロピル]−3−(トリメチルシリル)ヘキサヒドロピリミジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−(トリメチルシリル)ヘキサヒドロピリミジン、1−[4−(トリエトキシシリル)ブチル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジン等が挙げられる。
【0064】
これらの中でも、官能基とシリカ等の無機充填剤との反応性、相互作用性の観点から、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジン、1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−3−メチルイミダゾリジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−メチルヘキサヒドロピリミジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−(トリメチルシリル)イミダゾリジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−(トリメチルシリル)ヘキサヒドロピリミジンが好ましく、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジンがより好ましい。
【0065】
上記式(4)で表される環状アミノ基を有するヒドロカルビルオキシシランの具体例を下記に示す。
例えば、2−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,3−ジメチルイミダゾリジン、2−(ジエトキシエチルシリル)−1,3−ジエチルイミダゾリジン、2−(トリエトキシシリル)―1,4−ジエチルピペラジン、2−(ジメトキシメチルシリル)−1,4−ジメチルピペラジン、5−(トリエトキシシリル)−1,3−ジプロピルヘキサヒドロピリミジン、5−(ジエトキシエチルシリル)−1,3−ジエチルヘキサヒドロピリミジン、{2−[3−(2−ジメチルアミノエチル)−2−(エチルジメトキシシリル)−イミダゾリジン−1−イル]−エチル}−ジメチルアミン、5−(トリメトキシシリル)−1,3−ビス−(2−メトキシエチル)−ヘキサヒドロピリミジン、5−(エチルジメトキシシリル)−1,3−ビス−(2−トリメチルシリルエチル)−ヘキサヒドロピリミジンル)−1,3−ジメチルイミダゾリジン、2−(3−ジエトキシエチルシリル−プロピル)−1,3−ジエチルイミダゾリジン、2−(3−トリエトキシシリル−プロピル)−1,4−ジエチルピペラジン、2−(3−ジメトキシメチルシリル−プロピル)−1,4−ジメチルピペラジン、5−(3−トリエトキシシリル−プロピル)−1,3−ジプロピルヘキサヒドロピリミジン、5−(3−ジエトキシエチルシリル−プロピル)−1,3−ジエチルヘキサヒドロピリミジン、{2−[3−(2−ジメチルアミノエチル)−2−(3−エチルジメトキシシリル−プロピル)−イミダゾリジン−1−イル]−エチル}−ジメチルアミン、5−(3−トリメトキシシリル−プロピル)−1,3−ビス−(2−メトキシエチル)−ヘキサヒドロピリミジン、5−(3−エチルジメトキシシリル−プロピル)−1,3−ビス−(2−トリメチルシリルエチル)−ヘキサヒドロピリミジン、2−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,3−ビス(トリメチルシリル)イミダゾリジン、2−(ジエトキシエチルシリル)−1,3−ビス(トリエチルシリル)イミダゾリジン、2−(トリエトキシシリル)−1,4−ビス(トリメチルシリル)ピペラジン、2−(ジメトキシメチルシリル)−1,4−ビス(トリメチルシリル)ピペラジン、5−(トリエトキシシリル)−1,3−ビス(トリプロピルシリル)ヘキサヒドロピリミジン等が挙げられる。
【0066】
これらの中でも、官能基とシリカ等の無機充填剤との反応性、相互作用性の観点から、2−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,3−ジメチルイミダゾリジン、2−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,3−(ビストリメチルシリル)イミダゾリジンが好ましい。
【0067】
前記式(3)、(4)で表される化合物以外の、環状アミノ基を有するヒドロカルビルオキシシランの具体例を下記に示す。
例えば、[3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[2−(1−ヘキサメチレンイミノ)エチル]トリエトキシシラン、[2−(1−ヘキサメチレンイミノ)エチル]トリメトキシシラン、[3−(1−ピロリジニル)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(1−ピロリジニル)プロピル]トリメトキシシラン、[3−(1−ヘプタメチレンイミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(1−ドデカメチレンイミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル]ジエトキシメチルシラン、[3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル]ジエトキシエチルシラン等が挙げられる。
【0068】
非環状アミノ基を有するヒドロカルビルオキシシランの具体例を下記に示す。
例えば、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[2−(ジメチルアミノ)エチル]トリエトキシシラン、[2−(ジメチルアミノ)エチル]トリメトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]ジエトキシメチルシラン,[3−ジブチルアミノプロピル]トリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルメチルジメトキシシラン及びN,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0069】
イミノ基を含有するヒドロカルビルオキシシランの具体例を下記に示す。
例えば、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1−メチルエチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−エチリデン−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1−メチルプロピリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(4−N,N−ジメチルアミノベンジリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(シクロヘキシリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4,5−ジヒドロイミダゾール、1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−(3−イソプロポキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール,N−(3−メチルジエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール等が挙げられる。
【0070】
イソシアネート基を有するヒドロカルビルオキシシランの具体例を下記に示す。
例えば、3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリイソプロポキシシラン、トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0071】
環状アザシラン化合物の具体例を下記に示す。
例えば、N−n−ブチル−アザ−2,2−ジメトキシシラシクロペンタン、N−エチル−アザ−2,2−ジエトキシ−4−メチルシラシクロペンタン、N−アリル−アザ−2,2−ジメトキシシラシクロペンタン、1−トリメチルシリル−2,2−ジメトキシ−1−アザ−2−シラシクロペンタン等が挙げられる。
【0072】
上述した変性剤の中でも、上記式(3)又は式(4)で表される化合物が好ましく、特に、上記式(3)で表される化合物が好ましい。変性剤として上記式(3)で表される化合物を用いると、シリカ等の無機充填剤との反応性、相互作用性に優れた共重合体が得られ、低ヒステリシスロス性が達成される傾向にある。
これらの変性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
上述した変性剤を、重合活性末端に反応させる際の、反応温度、反応時間等については、特に制限されるものではないが、0℃以上120℃以下で30秒以上反応させることが好ましい。
【0074】
上述した変性剤は、化合物中のシリル基に結合したアルコキシ基の合計モル数が、重合開始剤のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の添加モル数の1〜5倍となるような範囲で添加することが好ましく、1.5〜3倍となるような範囲で添加することがより好ましく、1.5〜2.5倍となるような範囲で添加することがさらに好ましい。上記数値範囲は、所定の変性率を得て、且つ、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体分子鎖末端部に1つ以上のアルコキシ基を残存させる観点から1倍以上とすることが好ましく、コスト的な観点から5倍以下とすることが好ましい。
【0075】
本発明の優れた効果が特に発揮されるためには、官能基成分を有する重合体が好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上含有する重合体となるように、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を製造することが好ましい。官能基成分を有する重合体の定量方法としては、官能基含有の変性成分と非変性成分を分離できるクロマトグラフィーによって測定可能である。このクロマトグラフィーを用いた方法としては、官能基成分を吸着するシリカ等の極性物質を充填剤としたGPCカラムを使用し、非吸着成分の内部標準を比較に用いて定量する方法が好適である。
【0076】
共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を共重合させた後、その活性末端と2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する変性剤を反応させる前又は後に、共重合体の活性末端と多官能性変性剤を反応させることもできる。これにより、2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する変性剤で反応させた変性基を有し、且つ、多官能性変性剤でカップリングされた共重合体を含む組成物とすることができる。共重合体の活性末端に多官能性変性剤を反応させることにより、コールドフロー性及び加工性が改良される傾向にある。
【0077】
多官能性変性剤としては、好適には、エポキシ基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、酸無水物基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、エピチオ基、チオカルボニル基、チオカルボン酸エステル基、ジチオカルボン酸エステル基、チオカルボン酸アミド基、イミノ基、エチレンイミノ基、ハロゲン基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、共役ジエン基、アリールビニル基から選択される1種以上の官能基を有する化合物が用いられる。
【0078】
なお、官能基のモル数の計算において、エポキシ基、カルボニル基、エピチオ基、チオカルボニル基、イミノ基、エチレンイミノ基、ハロゲン基、共役ジエン基、アリールビニル基、アルコキシシリル基の1個当たりのアルコキシ基は1官能として、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、酸無水物基、チオカルボン酸エステル基、ジチオカルボン酸エステル基、チオカルボン酸アミド基、イソシアネート基、チオイソシアネート基は2官能として、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基は3官能として計算される。本実施形態において好ましく用いることのできる多官能性変性剤は、1分子中の上記の官能基の官能数の和が2以上のものである。より好ましくは官能数の和が3以上の多官能性変性剤である。
【0079】
多官能性変性剤としては、具体的には、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル;ジグリシジル化ビスフェノールA等の2個以上のフェニル基を有する芳香族化合物のポリグリシジルエーテル;1,4―ジグリシジルベンゼン、1,3,5−トリグリシジルベンゼン、ポリエポキシ化液状ポリブタジエン等のポリエポキシ化合物;4,4’−ジグリシジル−ジフェニルメチルアミン、4,4’−ジグリシジル−ジベンジルメチルアミン等のエポキシ基含有3級アミン;ジグリシジルアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル−p−フェニレンジアミン、ジグリシジルアミノメチルシクロヘキサン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミノ化合物;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、エポキシ変性シリコーン、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ基と他の官能基を有する化合物が挙げられる。
【0080】
また、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、アルキルトリフェノキシシラン等のアルコキシシラン化合物;N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリブトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1−メチルプロピリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−エチリデン−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール等のイミノ基とアルコキシシリル基を有する化合物が挙げられる。
【0081】
また、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルエタンジイソシアネート、1,3,5−ベンゼントリイソシアネート等のイソシアネート化合物が挙げられる。
【0082】
また、例えば、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四ヨウ化ケイ素、モノメチルトリクロロケイ素、モノエチルトリクロロケイ素、モノブチルトリクロロケイ素、モノヘキシルトリクロロケイ素、モノメチルトリブロモケイ素、ビストリクロロシリルエタン等のハロゲン化シラン化合物;モノクロロトリメトキシシラン、モノブロモトリメトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジブロモジメトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリブロモメトキシシラン等のアルコキシハロゲン化シラン化合物等が挙げられる。
【0083】
また、例えば、四塩化錫、四臭化錫、モノメチルトリクロロ錫、モノエチルトリクロロ錫、モノブチルトリクロロ錫、モノフェニルトリクロロ錫、ビストリクロロスタニルエタン等のハロゲン化錫化合物;トリクロルフォスフィン、トリブロモフォスフィン等のポリハロゲン化リン化合物;トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト等の亜リン酸エステル化合物;トリメチルフォスフェイト、トリエチルフォスフェイト等のリン酸エステル化合物が挙げられる。
【0084】
また、例えば、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル等のカルボン酸エステル化合物;無水ピロメリット酸、スチレン−無水マレイン酸共重合体等の酸無水物基含有化合物;アジピン酸ビスジメチルアミド、ポリメタクリル酸ジメチルアミド等のアミド基含有化合物;4,4’−ジアセチルベンゾフェノン、3−アセチルプロポキシトリメトキシシラン等のカルボニル基含有化合物;ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルベンゼンオリゴマー等のアリールビニル基含有化合物;トリクロロプロパン、トリブロモプロパン、テトラクロロブタン、3−クロロプロポキシトリメトキシシラン等のハロゲン化炭化水素基含有化合物が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0085】
さらに好ましい多官能性変性剤としては、シリカとの親和性の大きい官能基を有するものが挙げられ、またカップリングによる分子量の向上効果の大きい4〜6官能のポリエポキシ化合物又は合計で4〜6官能のエポキシ基とアルコキシシリル基の両方を有する化合物が挙げられる。特に好ましくは、分子中にアミノ基を含むグリシジル化合物、更には1分子中にジグリシジルアミノ基を2個又は3個有する化合物である。そのような化合物としては、例えば、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル−p−フェニレンジアミン、ジグリシジルアミノメチルシクロヘキサン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらの多官能性変性剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0086】
本実施形態の共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造において多官能性変性剤を使用する場合には、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の活性末端に、2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する化合物及び多官能性変性剤を反応させる順序は特に限定されず、多官能性変性剤でカップリング反応を行い、次いで残りの活性末端と2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する化合物を反応させてもよく、2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する化合物を反応させてから残りの活性末端と多官能性変性剤を反応させてもよく、これらを同時に反応させてもよい。特に、多官能性変性剤でカップリング反応を行い、次いで残りの活性末端と2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する化合物を反応させることが、官能基成分を有する重合体を高い割合で生成させる観点から好ましい。
【0087】
多官能変性剤は官能基の全モル数が、重合開始剤のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の添加モル数に対して、好ましくは0.05〜0.5倍、より好ましくは0.1〜0.3倍の範囲となるように添加する。上記数値範囲は、十分なコールドフロー耐性と加工性を発揮する観点から、0.05倍以上とすることが好ましく、2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する化合物の付加量を確保し、低ヒステリシスロス性が良好な加硫物を得る観点から、0.5倍以下とすることが好ましい。
【0088】
本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル重合体の製造方法においては、変性反応を行った後、共重合体溶液に、必要に応じて、失活剤、中和剤等を添加してもよい。失活剤としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類が挙げられ、中和剤としては、ステアリン酸、オレイン酸、バーサチック酸等のカルボン酸、無機酸の水溶液、炭酸ガス等が挙げられる。
【0089】
また、本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル重合体はそれ自体が高粘度であるため、重合後の仕上げ工程におけるゲル生成を防止するため、或いは、加工時の安定性向上のために、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェノール)プロピネート、2−メチル−4,6−ビス[(オクチルチオ)メチル]フェノール等の公知のゴム用安定剤を添加することが好ましい。
【0090】
また、本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の加工性を改良するために、必要に応じて伸展油を共重合体に添加することができる。この場合、伸展油を重合体溶液に加え、混合して、油展共重合体溶液としたものを脱溶媒することにより得ることが好ましい。伸展油としてはアロマ油、ナフテン油、パラフィン油、さらにIP346法による多環芳香族成分が3質量%以下であるアロマ代替油が好適に用いられる。この中でも、多環芳香族成分が3質量%以下であるアロマ代替油を用いることが、環境安全上の観点、及びオイルブリード防止、さらにウェットグリップ特性の観点から好ましい。アロマ代替油としては、Kautschuk Gummi Kunststoffe 52(12)799(1999)に示されるTDAE、MES等の他、RAE等が挙げられる。伸展油の使用量は任意であるが、通常は、重合体100質量部に対し、10〜60質量部であり、好ましくは20〜37.5重量部である。
【0091】
本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を、重合体溶液から取得する方法としては、従来公知の方法を適用できる。例えば、スチームストリッピング等で溶媒を分離した後、重合体を濾別し、さらにそれを脱水及び乾燥して重合体を取得する方法、フラッシングタンクで濃縮し、さらにベント押し出し機等で脱揮する方法、ドラムドライヤー等で直接脱揮する方法等が適用できる。
【0092】
本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体は、加硫物として好適に用いられる。加硫物は、例えば、本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を、必要に応じてシリカ系無機充填剤やカーボンブラック等の無機充填剤、本実施形態の共重合体以外のゴム、シランカップリング剤、ゴム用軟化剤、加硫剤、加硫促進剤・助剤等と混合して変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物とした後、加熱して加硫することにより得ることができる。
【0093】
共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物においては、上述した共役ジエン−芳香族ビニル共重合体以外のゴム状重合体を本実施形態の共役ジエン−芳香族ビニル共重合体と組み合わせて使用できる。
【0094】
このようなゴム状重合体としては、例えば、共役ジエン系重合体又はその水素添加物、共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物のランダム共重合体又はその水素添加物、共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物とのブロック共重合体又はその水素添加物、非ジエン系重合体、天然ゴム等が挙げられる。具体的には、ブタジエンゴム又はその水素添加物、イソプレンゴム又はその水素添加物、スチレン−ブタジエンゴム又はその水素添加物、スチレン−ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物、スチレン−イソプレンブロック共重合体又はその水素添加物等のスチレン系エラストマ−、アクリロニトリル−ブタジエンゴム又はその水素添加物等が挙げられる。
【0095】
また、非ジエン系重合体としては、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−ブテン−ジエンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−ヘキセンゴム、エチレン−オクテンゴム等のオレフィン系エラストマ−、ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、α、β−不飽和ニトリル−アクリル酸エステル−共役ジエン共重合ゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。
【0096】
上述した各種ゴム状重合体は、官能基を付与した変性ゴムであってもよい。またその重量平均分子量は、性能と加工特性のバランスの観点から、2,000〜2,000,000であることが好ましく、5,000〜1,5000,000であることがより好ましい。また、低分子量のいわゆる液状ゴムを用いることもできる。これらのゴム状重合体は、単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体に、上述したゴム状重合体を組み合わせて使用する場合、これらの比率は、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体/ゴム状重合体として、20/80〜100/0が好ましく、30/70〜90/10がより好ましく、50/50〜80/20がさらに好ましい。変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体/ゴム状重合体の比率が上記範囲であると、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性のバランスに優れ、耐摩耗性や破壊強度も満足する加硫物を得ることができる傾向にある。
【0098】
変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物中に好適に用いることのできるシリカ系無機充填剤としては、SiO2、又はSi3Alを構成単位の主成分とする固体粒子が挙げられる。例えば、シリカ、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、ウォラストナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、ガラス繊維等の無機繊維状物質等が挙げられる。また、表面を疎水化したシリカ系無機充填剤や、シリカ系無機充填剤とシリカ系以外の無機充填剤との混合物も使用できる。これらの中でも、補強性の観点から、シリカ及びガラス繊維が好ましく、シリカがより好ましい。
【0099】
シリカとしては、乾式シリカ、湿式シリカ、合成ケイ酸塩シリカ等が使用できるが、中でも、破壊特性の改良効果及びウェットスキッド抵抗性の両立効果が顕著となる傾向にあるため湿式シリカが好ましい。
【0100】
変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物において、実用上良好な耐摩耗性や破壊特性を得る観点から、シリカ系無機充填剤のBET吸着法で求められる窒素吸着比表面積は、100〜300m2/gであることが好ましく、170〜250m2/gであることがより好ましい。また必要に応じて、比較的比表面積が小さい、例えば比表面積が200m2/g以下のシリカ系無機充填剤と、比較的比表面積の大きい、例えば200m2/g以上のシリカ系無機充填剤とを組み合わせて用いることで、良好な耐摩耗性や破壊特性と低ヒステリシスロス性を高度にバランスさせることもできる。
【0101】
上記のように、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物におけるシリカ系無機充填剤の配合量は、本実施形態の共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を含むゴム成分100質量部に対し、0.5〜300質量部であることが好ましく、5〜200質量部がより好ましく、20〜100質量部がさらに好ましい。シリカ系無機充填剤の配合量は、無機充填剤の添加効果が発現する観点から、0.5質量部以上とすることが好ましく、一方、無機充填剤を十分に分散させ、組成物の加工性や機械強度を実用的に十分なものとする観点から、300質量部以下とすることが好ましい。
【0102】
変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物には、カーボンブラックを添加してもよい。
カーボンブラックは、SRF、FEF、HAF、ISAF、SAF等の各クラスのカーボンブラックが使用でき、窒素吸着比表面積が50m2/g以上、DBP吸油量が80mL/100gのカーボンブラックが好ましい。
【0103】
カーボンブラックの配合量は、本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を含むゴム成分100質量部に対し、0.5〜100質量部が好ましく、3〜100質量部がより好ましく、5〜50質量部がさらに好ましい。カーボンブラックの配合量は、ドライグリップ性能や導電性等のタイヤ等の用途に求められる性能を発現する観点から、0.5質量部以上とすることが好ましく、分散性の観点から、100質量部以下とすることが好ましい。
【0104】
また、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物には、シリカ系無機充填剤やカーボンブラック以外に、金属酸化物や金属水酸化物を添加してもよい。
【0105】
金属酸化物とは、化学式Mxy(Mは金属原子、x、yは各々1〜6の整数)を構成単位の主成分とする固体粒子のことをいい、例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等を用いることができる。また金属酸化物と金属酸化物以外の無機充填剤の混合物も使用できる。
【0106】
金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0107】
変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物には、シランカップリング剤を含有させてもよい。
シランカップリング剤は、ゴム成分とシリカ系無機充填剤との相互作用を緊密にする機能を有しており、ゴム成分及びシリカ系無機充填剤のそれぞれに対する親和性又は結合性の基を有しており、一般的には、硫黄結合部分とアルコキシシリル基、シラノール基部分を一分子中に有する化合物が用いられる。具体的には、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−テトラスルフィド、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−ジスルフィド、ビス−[2−(トリエトキシシリル)−エチル]−テトラスルフィド等が挙げられる。
【0108】
シランカップリング剤の配合量は、上述したシリカ系無機充填剤100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましく、1〜15質量部がさらに好ましい。シランカップリング剤の配合量が上記範囲であると、シランカップリング剤による上記効果を有効に得ることができる。
【0109】
変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物には、加工性の改良を図るために、ゴム用軟化剤を配合してもよい。ゴム用軟化剤としては、鉱物油、又は液状若しくは低分子量の合成軟化剤が好適である。
【0110】
ゴムの軟化、増容、加工性の向上を図るために使用されているプロセスオイル又はエクステンダーオイルと呼ばれる鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族環、ナフテン環、及びパラフィン鎖の混合物であり、パラフィン鎖の炭素数が全炭素中50%以上を占めるものがパラフィン系と呼ばれ、ナフテン環炭素数が30〜45%のものがナフテン系、芳香族炭素数が30%を超えるものが芳香族系と呼ばれている。本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体とともに用いるゴム用軟化剤としては、適度な芳香族含量を有するものが共重合体との馴染みがよい傾向にあるため好ましい。
【0111】
ゴム用軟化剤の配合量は、本実施形態の共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を含有するゴム成分100質量部に対して、0〜100質量部が好ましく、10〜90質量部がより好ましく、30〜90質量部がさらに好ましい。ゴム用軟化剤の配合量がゴム成分100質量部に対して100質量部を超えると、ブリードアウトを生じやすく、組成物表面にベタツキを生ずるおそれがある。
【0112】
本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体とその他のゴム状重合体、シリカ系無機充填剤、カーボンブラックやその他の充填剤、シランカップリング剤、ゴム用軟化剤等の添加剤を混合する方法については特に限定されるものではない。例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法、各成分を溶解混合後、溶剤を加熱除去する方法等が挙げられる。これらのうち、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機による溶融混練法が生産性、良混練性の観点から好ましい。
【0113】
また、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体と各種配合剤とを一度に混練する方法、複数の回数に分けて混合する方法のいずれも適用可能である。
【0114】
変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物は、加硫剤により加硫処理を施した加硫組成物としてもよい。
【0115】
加硫剤としては、例えば、有機過酸化物及びアゾ化合物等のラジカル発生剤、オキシム化合物、ニトロソ化合物、ポリアミン化合物、硫黄、硫黄化合物が使用できる。硫黄化合物には、一塩化硫黄、二塩化硫黄、ジスルフィド化合物、高分子多硫化合物等が含まれる。
【0116】
加硫剤の使用量は、通常は、本実施形態の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を含むゴム成分100質量部に対して0.01〜20質量部であり、0.1〜15質量部が好ましい。
【0117】
加硫方法としては、従来公知の方法を適用でき、加硫温度は、通常120〜200℃、であり、好ましくは140〜180℃である。
【0118】
また、加硫に際しては、必要に応じて加硫促進剤を用いてもよい。加硫促進剤としては、従来公知の材料を用いることができ、例えば、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系等の加硫促進剤が挙げられる。また、加硫助剤としては、亜鉛華、ステアリン酸等を使用できる。
【0119】
加硫促進剤の使用量は、通常、本実施形態の共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を含有するゴム成分100質量部に対して0.01〜20質量部であり、0.1〜15質量部が好ましい。
【0120】
変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、上述した以外のその他の軟化剤や充填剤、さらに、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、滑剤等の各種添加剤を用いてもよい。
【0121】
その他の軟化剤としては、公知の軟化剤を使用することができる。
【0122】
その他の充填剤としては、具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0123】
耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、潤滑剤としては、公知の材料を適用できる。
【実施例】
【0124】
以下、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、製造例における試料の分析は下記に示す方法により行った。
(1)結合スチレン量
試料をクロロホルム溶液とし、スチレンのフェニル基によるUV254nmの吸収により結合スチレン量(質量%)を測定した(島津製作所製:UV−2450)。
【0125】
(2)ブタジエン部分のミクロ構造(1,2−ビニル結合量)
試料を二硫化炭素溶液とし、溶液セルを用いて、赤外線スペクトルを600〜1000cm-1の範囲で測定して所定の波数における吸光度によりハンプトンの方法の計算式に従いブタジエン部分のミクロ構造を求めた(日本分光(株)製:FT−IR230)。
【0126】
(3)ムーニー粘度
JIS K 6300に従い、100℃で1分間余熱し、4分後の粘度を測定した。
【0127】
(4)重量平均分子量及び分子量分布
ポリスチレン系ゲルを充填剤としたカラムを3本連結して用いたGPCを使用して、クロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンを使用した検量線により重量平均分子量及び数平均分子量を求め、重量平均分子量と数平均分子量の比から分子量分布の指標(Mw/Mn)を計算した。
溶離液としてはテトラヒドロフラン(THF)を使用した。
カラムは、ガードカラム:東ソー TSKguardcolumn HHR−H、カラム:東ソー TSKgel G6000HHR、TSKgel G5000HHR、TSKgel G4000HHRを使用した。
オーブン温度40℃、THF流量1.0mL/分の条件で、東ソー製 HLC8020のRI検出器を用いて重量平均分子量の測定を行った。また共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックの存在の確認のためにUV検出器(波長:254nm)で得られるクロマトグラムとの比較を行った。
試料は20mLのTHFに対して10mgを溶解し、200μL注入して測定した。
【0128】
(5)変性率
シリカ系ゲルを充填剤としたGPCカラムに変性した成分が吸着する特性を応用し、試料及び重量平均分子量5000の標準ポリスチレン(ポリスチレンはカラムに吸着しない)を含む試料溶液を用いて、前記ポリスチレン系ゲルカラムのGPCと、シリカ系カラム(ガードカラム:DIOL 4.6×12.5mm 5micron、カラム:Zorbax PSM−1000S、PSM−300S、PSM−60S、オーブン温度40℃、THF流量0.5mL/分)のGPC(東ソー製CCP8020シリーズ ビルドアップ型GPCシステム:AS−8020、SD−8022、CCPS、CO−8020、RI−8021)の両クロマトグラムを、RI検出器を用いて測定し、それらの差分よりシリカカラムへの吸着量を測定し変性率を求めた。
試料は、20mLのTHFに対して10mgを標準ポリスチレン5mgとともに溶解し、200μL注入して測定した。
具体的な手順としては、ポリスチレン系カラムを用いたクロマトグラムのピーク面積の全体を100として、サンプルピーク面積をP1、標準ポリスチレンのピーク面積をP2とし、シリカ系カラムを用いたクロマトグラムのピーク面積の全体を100として、サンプルピーク面積をP3、標準ポリスチレンのピーク面積をP4として、変性率(%)を[1−(P2×P3)/(P1×P4)]×100の計算式により算出した。
【0129】
(6)ガラス転移温度(Tg)
ISO22768:2006に従い、マックサイエンス社製DSC3200Sを用い、ヘリウム50mL/minの流通下、−100℃から20℃/分で昇温しながらDSC曲線を記録し、DSC微分曲線のピークトップ(Inflection point)をガラス転移温度とした。
【0130】
[実施例1]
内容積10リットルで、撹拌機及びジャケットを具備する温度制御が可能なオートクレーブを反応器として使用し、予め不純物を除去したブタジエン53g、シクロヘキサン2474g反応器に入れ、内温を60℃に保持した。ここに重合開始剤としてn−ブチルリチウム9.3mmolを添加して重合を開始させ、15分間反応を継続した。その後、ジャケットの温度調節により反応器内温を42℃としたところで、反応器からメタノール約1mLとシクロヘキサン約30mLの混合溶液中に少量の重合体溶液を空気との接触が起こらないように十分に注意しながら抜き出した後、溶媒を除去して途中サンプリング重合体を得た。
その後、反応器内に極性物質として2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン1.03gを添加した後、ブタジエン724g、スチレン273g、シクロヘキサン2326gをそれぞれ一定の速度で20分かけて反応器に供給した。
重合反応開始後、重合による発熱で反応器内の温度は上昇を始め、最終的な反応器内の温度は76℃に達した。
重合反応終了後、反応器にテトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン0.35mmolを添加し、74℃で2分間攪拌して変性反応を実施した。その後、さらに1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジンを6.23mmol添加し、72℃で5分間変性反応を実施した。
この重合体溶液に、酸化防止剤(BHT)2.1gを添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、乾燥機により乾燥処理を施して、変性成分を有するスチレン−ブタジエン共重合体(試料A)を得た。
(試料A)を分析した結果、結合スチレン量は26質量%、結合ブタジエン量は74質量%であった。
重合体のムーニー粘度は57であった。
赤外分光光度計を用いた測定結果よりハンプトン法に準じて計算して求めたブタジエン結合単位中の1,2−ビニル結合量は55モル%であり、またシリカ系カラムを用いるGPCから求めた変性率は80%であった。
ポリスチレン系カラムを用いるGPCで求めたポリスチレン換算の重量平均分子量は32.4万、Mw/Mnは1.36であった。なおRI、UVの双方の検出器で検出されたクロマトグラムを変換し、横軸をポリスチレン換算の分子量の対数として、両検出器でのクロマトグラムの溶出面積が等しくなるように検出強度を規格化して得られたグラフを低分子量側から比較したところ、RI検出器では分子量約0.9万以上でグラフが立ち上がり始めるのに対してUV検出器では分子量約2万のところで立ち上がり始め、約6万以上では両者のグラフは5%以内で一致する様子が観察されることから、ポリブタジエンブロックの形成が確認された。
また、ポリブタジエンブロックの重合後の途中サンプリング重合体の1,2−ビニル結合量は9モル%でポリスチレン換算の重量平均分子量は0.9万であった。
【0131】
[実施例2]
変性剤を、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジンから1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジンに代えたこと以外は実施例1と同じ方法で(試料B)を得た。
(試料B)の分析結果を表1に示す。
【0132】
[実施例3]
内容積10リットルで、撹拌機及びジャケットを具備する温度制御が可能なオートクレーブを反応器として使用し、予め不純物を除去したブタジエン770g、スチレン273g、シクロヘキサン2350gを反応器に入れ、内温を60℃に保持した。ここに、重合開始剤としてn−ブチルリチウム9.3mmolを添加して重合を開始し、反応を15分継続させた。その後、ジャケットの温度調節により反応器内温を42℃としたところで、反応器からメタノール約1mLとシクロヘキサン約30mLの混合溶液中に少量の重合体溶液を空気との接触が起こらないように十分に注意しながら抜き出した後、溶媒を除去して途中サンプリング重合体を得た。
その後、反応器内に極性物質として2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン0.98gを添加したところ、重合による発熱で反応器内の温度は上昇を始め、最終的な反応器内の温度は75℃に達した。
重合反応終了後、反応器にテトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン0.35mmolを添加し、73℃で2分間攪拌して変性反応を実施した。その後、さらに2−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,3−ジメチルイミダゾリジンを6.23mmol添加し、71℃で5分間変性反応を実施した。
この重合体溶液に、酸化防止剤(BHT)2.1gを添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、乾燥機により乾燥処理を施して、変性成分を有するスチレン−ブタジエン共重合体(試料C)を得た。
(試料C)を分析した結果、結合スチレン量は26質量%、結合ブタジエン量は74質量%であった。
重合体のムーニー粘度は56であった。
赤外分光光度計を用いた測定結果よりハンプトン法に準じて計算して求めたブタジエン部分のミクロ構造の1,2−結合量は55モル%であり、またシリカ系吸着カラムを用いるGPCから求めた変性率は79%であった。
また、第1ブロック重合後の途中サンプリング重合体の結合スチレン量は2質量%、1,2−ビニル結合量は9モル%でポリスチレン換算の重量平均分子量は1.1万であった。
【0133】
[比較例1]
内容積10リットルで、撹拌機及びジャケットを具備する温度制御が可能なオートクレーブを反応器として使用し、予め不純物を除去したシクロヘキサン2350g、極性物質として2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン0.94g、重合開始剤としてn−ブチルリチウム9.3mmolを反応器に入れ、内温を42℃に保持した。ここに予め不純物を除去したブタジエン777g、スチレン273g、シクロヘキサン2450gをそれぞれ一定の速度で20分かけて反応器に供給した。
重合反応開始後、重合による発熱で反応器内の温度は上昇を始め、最終的な反応器内の温度は76℃に達した。
重合反応終了後、反応器にテトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン0.35mmolを添加し、74℃で2分間攪拌して変性反応を実施した。その後、さらに1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジンを6.23mmol添加し、72℃で5分間変性反応を実施した。
この重合体溶液に、酸化防止剤(BHT)2.1gを添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、乾燥機により乾燥処理を施して、変性成分を有するスチレン−ブタジエン共重合体(試料D)を得た。
(試料D)を分析した結果、結合スチレン量は26質量%、結合ブタジエン量は74質量%であった。
重合体のムーニー粘度は56であった。
赤外分光光度計を用いた測定結果よりハンプトン法に準じて計算して求めたブタジエン部分のミクロ構造の1,2−結合量は55モル%であり、またシリカ系吸着カラムを用いるGPCから求めた変性率は81%であった。
なお、RI、UVの双方の検出器で検出されたクロマトグラムを変換し、横軸をポリスチレン換算の分子量の対数として、両検出器でのクロマトグラムの溶出面積が等しくなるように検出強度を規格化して低分子量側から比較したところ、両検出器ともに分子量約1万からグラフが立ち上がり始め、実施例1で見られたようなポリブタジエンブロックが形成されなかったことを確認できた。
【0134】
【表1】

【0135】
[実施例4〜6、比較例2]
上記表1に示す試料(試料A〜試料D)を原料ゴムとして、以下に示す配合に従い、それぞれの原料ゴムを含有するゴム組成物を得た。
変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体(試料A〜D) 70.0質量部
天然ゴム(素練りによりムーニー粘度を60に調整したもの) 30.0質量部
シリカ(デグサ社製 Ultrasil VN3) 75.0質量部
カーボンブラック(東海カーボン社製 N339) 5.0質量部シランカップリング剤(デグサ社製Si69) 7.5質量部
S−RAEオイル
(ジャパンエナジー社製JOMOプロセスNC140) 37.5質量部
亜鉛華 2.5質量部
ステアリン酸 2.0質量部
老化防止剤
(N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン) 2.0質量部
硫黄 1.7質量部
加硫促進剤(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフィンアミド)1.7質量部
加硫促進剤(ジフェニルグアニジン) 1.5質量部
合計 236.4質量部
【0136】
ゴム組成物は、下記の方法により混練を行った。
温度制御装置を具備する密閉混練機(内容量0.3リットル)を使用し、第一段の混練として、充填率65%、ローター回転数50/57rpmの条件で、原料ゴム(試料A〜D、天然ゴム)、充填剤(シリカ、カーボンブラック)、有機シランカップリング剤、プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸を混練した。
このとき、密閉混合機の温度を制御し、排出温度(配合物)は155〜160℃でゴム組成物を得た。
次に、第二段の混練として、上記で得た配合物を室温まで冷却後、老化防止剤を加え、シリカの分散を向上させるため再度混練した。この場合も、混合機の温度制御により排出温度(配合物)を155〜160℃に調整した。
冷却後、第三段の混練として、70℃に設定したオープンロールにて、硫黄、加硫促進剤を加えて混練した。
その後、成型し、160℃で20分間、加硫プレスにて加硫した。
加硫後、ゴム組成物の物性を測定した。物性測定結果を下記表2に示した。
【0137】
ゴム組成物の物性は、下記の方法により測定した。
(1)バウンドラバー量
第2段混練工程終了後の配合物:約0.2グラムを約1mm角状に裁断し、ハリスかご(100メッシュ金網製)へ入れ、質量を測定した。
その後、トルエン中に24時間浸せき後、乾燥処理を施し、質量を測定した。
非溶解成分の量から充填剤に結合したゴム(変性共役ジエン系重合体+天然ゴム)の量を計算し、最初の配合物中のゴム量に対する充填剤と結合したゴムの割合を求めた。
【0138】
(2)配合物ムーニー粘度
ムーニー粘度計を使用し、JIS K6300−1により、130℃で、予熱を1分間行った後に、ローターを毎分2回転で回転させ4分後の粘度を測定した。
【0139】
(3)引張強さ
JIS K6251の引張試験法により測定し、比較例2を100として指数化した。
【0140】
(4)粘弾性パラメータ
レオメトリックス・サイエンティフィック社製の粘弾性試験機(ARES)を使用し、ねじりモードで粘弾性パラメータを測定した。各々の測定値は比較例2を100として指数化した。
0℃において周波数10Hz、ひずみ1%で測定したtanδをウェットグリップ性能の指標とした。値が大きいほどウェットグリップ性能が良好であることを示す。
また50℃において周波数10Hz、ひずみ3%で測定したtanδを省燃費特性の指標とした。値が小さいほど省燃費性能が良好であることを示す。
【0141】
(5)耐摩耗性
アクロン摩耗試験機(安田精機製作所製)を使用し、JIS−K6264−2に従い、荷重44.1N、1000回転の摩耗量を測定し、比較例2を100として指数化した。指数が大きいほど耐摩耗性が優れることを示す。
【0142】
【表2】

【0143】
上記表2に示す通り、実施例4〜6の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物は、シリカ配合組成物においてペイン効果が小さくシリカの分散性が優れており、高温のtanδが低くヒステリシスロスが少なく、タイヤの低転がり抵抗性が実現されているとともに、低温のtanδが高くウェットスキッド抵抗性に優れていた。さらに、耐摩耗性及び引張り強さも良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を含むゴム組成物は、タイヤトレッド用材料として用いられた場合、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れ、実用上十分な耐摩耗性や破壊特性をも満足するタイヤトレッドを得ることができる。また、履物、工業用品等の用途にも好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物からなる共重合体であって、
前記共重合体の共役ジエン結合量が50〜85質量%、芳香族ビニル結合量が15〜50質量%であり、
重合体鎖の一方の末端部に1つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を含む官能基を有し、
重合体鎖の他方の端部に、前記共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックであって、ゲル浸透クロマトグラフィーによって求められるポリスチレン換算の重量平均分子量が2,000〜50,000の重合体ブロックを有する、
変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体。
【請求項2】
前記共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロック中の共役ジエン結合量が95質量%以上、芳香族ビニル結合量が5質量%以下である、請求項1記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体。
【請求項3】
前記共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロック中の共役ジエン結合単位中のビニル結合量が5〜25モル%である、請求項1又は2記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体。
【請求項4】
前記変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の末端の官能部が下記式(1)
【化1】

(式(1)中、Polymは共重合体鎖であり、R1、R2は、各々独立して炭素数1〜20のアルキル基、又はアリール基であり、R3は炭素数1〜20のアルキレン基であり、R4、R5は同一であっても異なっていてもよい炭素数1〜6の炭化水素基であって隣接する2つのNとともに5員環以上の環構造をなし、R6は炭素数1〜20の炭化水素基、又は3有機置換シリル基であり、m、nは、1又は2で、m+nが3以下となる整数である。)
又は下記式(2)
【化2】

(式(2)中、Polym、R1〜R6、m、nは、前記式(1)と同義であり、R7は炭素数1〜20の炭化水素基、又は3有機置換シリル基である。)
で表される、請求項1〜3のいずれか1項記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法であって、
アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として用い、第1段階として主に共役ジエン化合物を重合して、共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックであって、ポリスチレン換算の重量平均分子量が2,000〜50,000の重合体ブロックを形成した後に、第2段階として共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物をランダムに共重合することで活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を得る重合工程と、
前記共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の活性末端に、2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する化合物を反応させる変性工程と、
を含む、変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法。
【請求項6】
単量体として共役ジエン化合物のみが存在する状態で重合工程の第1段階を実施して、共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックであって、ポリスチレン換算の重量平均分子量が2,000〜50,000の重合体ブロックを形成した後に、芳香族ビニル化合物又は芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の両方を重合系内に添加することで第2段階の共重合反応を実施する、請求項5記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法。
【請求項7】
第2段階の共重合反応を実施する際に極性化合物を添加する工程を含む、請求項6記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法。
【請求項8】
単量体として共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物の存在下で重合工程の第1段階を実施して、共重合体の平均組成よりも共役ジエン結合量の多い重合体ブロックであって、ポリスチレン換算分子量の重量平均分子量が2,000〜50,000の重合体ブロックを形成した後に、極性化合物を添加することで第2段階の共重合反応を実施する、請求項5記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基と1つ以上の窒素原子を有する化合物が下記式(3)
【化3】

(式(3)中、R1、R2は、各々独立して炭素数1〜20のアルキル基、又はアリール基であり、R3は炭素数1〜20のアルキレン基であり、R4、R5は同一であっても異なっていてもよい炭素数1〜6の炭化水素基であって隣接する2つのNとともに5員環以上の環構造をなし、R6は炭素数1〜20の炭化水素基、又は3有機置換シリル基であり、pは、2又は3の整数である。)
又は下記式(4)
【化4】

(式(4)中、R1〜R6、pは、前記式(3)と同義であり、R7は炭素数1〜20の炭化水素基、又は3有機置換シリル基である。)
で表される、請求項5〜8いずれか1項記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項記載の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を20質量部以上含むゴム成分100質量部に対して、シリカ系無機充填剤0.5〜300質量部を配合してなる変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体組成物。

【公開番号】特開2011−6543(P2011−6543A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149845(P2009−149845)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】