説明

変性疾患の処置のための神経内分泌因子

本発明は、変性疾患等の疾患を処置する医薬組成物を製造するための忌避因子および/またはポリペプチドを使用すること、特にそのためのSLIT3タンパク質またはNETRIN1タンパク質の使用に関する。本発明は、さらに、SLIT3のポリペプチド断片、このポリペプチドを含む医薬組成物およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性疾患、特に軟骨欠損を処置または防止する医薬組成物を製造するための忌避因子および/またはポリペプチド、特にNETRIN1、SLIT3タンパク質もしくはその断片の使用に関する。本発明はさらに、SLIT3のポリペプチド断片、このポリペプチドを含む医薬組成物およびその使用に関する。
【0002】
外傷性疾患および変性関節疾患において軟骨修復ならびに再生は、整形外科では依然として大きな課題のままである。軟骨損傷および変性障害は、成人集団において、著しい疼痛を引き起こし、かつ身体障害および不動をともなう関節機能の漸進的な喪失を生じる主因である。軟骨の内在性修復能は、コンドロサイトのin vivo有糸分裂の可能性が低いために限定され、および成体では結果として生じる生成組織は一般的に、正常な軟骨に劣る。軟骨(例えば関節軟骨)には脈管構造がないために、損傷を受けた軟骨は修復反応を誘導するための十分な刺激を受けないと一般的に考えられている。軟骨組織内のコンドロサイトは通常、損傷を受けた血管新生化組織に存在する成長因子およびフィブリン塊等の十分な量の修復刺激物質にさらされない。
【0003】
関節の機能的統合性は、その区画境界が完全に分離することに依存する。関節区画の境界の交差および軟骨区画の破壊は、炎症および変性関節疾患(例えば関節リウマチ(RA)および変形性関節症(OA))で見られる。
【0004】
軟骨障害(例えば関節リウマチ)は、周辺細胞の区画からの細胞集団の侵襲的で破壊的な挙動(例えば滑膜組織から内部に遊走する滑膜組織線維芽細胞(SF))によって特徴づけられるまたは悪化することが多い。滑膜線維芽細胞(SF)を介して関節の関節組織(軟骨および骨等)が破壊されることは、RAおよびOAでは重大な事象である(Pap,2003;Pap,2007;Yasuda,2006;Huber,et al.,2006)。
【0005】
破壊された軟骨を修復する可能性を有する新しい薬剤の発見を含む罹患軟骨の再生処置によって破壊的な構造変化のさらなる進行を抑制する多数の戦略、ならびにこの疾患を逆転させる新規の取り組みが行われてきたが、その成功の程度は様々であった。これらの戦略としては、骨髄刺激法、自家および同種移植術、自家コンドロサイト移植術、骨膜移植術、Pridie骨穿孔術、磨耗軟骨形成術(マイクロフラクチャー術および自家骨軟骨柱移植術を含む)が挙げられる。しかしながら、これらの術式は確実なものではなく、かつ小規模および中規模病巣の軟骨欠損ならびに骨軟骨欠損に限定される。ドナー部位に欠損を生じる必要によって、不十分な修復結果によって、および関節の元の湾曲表面を修復する際の技術的困難によって、自家骨軟骨柱移植術は限定される(Kuroda,et al.,2007)。自家コンドロサイト移植技術には、十分な数のコンドロサイトの欠如、ドナー部位に欠損を生じる必要性、低い効果および高い処置費を含むいくつかの不利点がある。
【0006】
いくつかの成長因子(例えばTGF−β1、FGF−2、IGF−1、TP−508、OP−1もしくはGDFを含む他のBMPまたはその組み合わせ)は、前駆細胞の機能骨および/または軟骨組織への増殖分化を誘導することが確認されてきた。特に、TGF−β1は、前駆細胞の軟骨形成分化を促進し、およびコンドロサイト分化を増強することが明らかにされてきた。IGF−1は、主にタンパク質同化様式で作用し、プロテオグリカンおよびII型コラーゲンの合成を増加させる。しかしながら、これらの成長因子は、ある程度非特異的であり、望ましくない副作用のリスクを有する。BMP等の他の成長因子は、骨形成遺伝子を誘導する潜在能力を有しており、したがって望ましくない骨形成を誘導する。この成長因子の技術を利用する別の限定は、その送達後に一過性の生物学的効果だけを可能にする外因性成長因子の生物学的半減期が比較的短いことである。
【0007】
炎症促進性サイトカイン、プロテアーゼおよびメタロプロテイナーゼは、OA患者およびRA患者に存在する一部の徴候と症状ならびに構造変化の原因である可能性がある。OAおよびRAに対する処置としてこれらの酵素の合成/活性を抑制することは、集中的研究の焦点であった。
【0008】
現在まで、最も有望な戦略は依然として、MMPの活性を遮断できる低分子化学物質を用いることである。しかしながら、MMP阻害剤は副作用を生じる可能性があり、この疾患の進行において大きな減少をいまだに示していない。
【0009】
さらに、他の新たな戦略は現在開発下にあり、以下に挙げる。
【0010】
米国特許出願公開第20030068705号は、プロポリペプチドをコードする305の核酸を開示している。そのうちの一部(例えばIL−17相同ポリペプチドまたは関連ポリペプチド)は、コンドロサイトの増殖または分化を刺激するのに有用である推定されており、したがってスポーツ損傷または関節炎等の骨および/または軟骨の種々の障害の処置に使用されることが可能である。
【0011】
国際公開第2001090357は、発育障害、炎症性疾患の処置、または免疫応答を調節するためのタンパク質を提供する。
【0012】
米国特許出願公開第20030044917は、コンドロサイトの増殖および分化を刺激するためのヒトプロポリペプチド、および関節炎およびスポーツ損傷等の骨および/または軟骨の種々の疾患の処置におけるこれらの使用に関する。しかしながら、配列6029だけが検査で陽性を示した。
【0013】
軸策ガイダンス分子(例えばNETRIN、SLIT)等の別のクラスのタンパク質は、炎症性細胞運動を調節することが示唆されてきた(国際公開第WO01064837号、第WO05074556号、第WO00055321号、第WO01090357号)。国際公開第WO01064837号、第WO03075860号、第WO06019904号および米国特許出願公開第2006/0153840号は、神経障害および癌の処置のために血管新生、増殖を促進するおよび/または細胞の遊走を促進する方法を開示する。
【0014】
国際公開第WO2002081745号は、骨粗鬆症/骨疾患の診断、骨形成の促進および/または骨粗鬆症/骨疾患の予防のためのSLIT3の使用を教示する。
【0015】
国際公開第WO99/023219、特開平第JP11164690号および特開平第JP11075846号は、ヒトSLIT3ポリペプチドの配列を開示する。
【0016】
国際公開第WO00/055321は、脊椎動物のSLIT DNA配列(すなわちツメガエルおよびヒトのSLIT2)、タンパク質およびその使用を開示する。
【0017】
しかしながら、当技術分野で開示された方法および組成物のどれも、破壊的なプロセスの消滅および軟骨組織の実際の修復と置換をもたらさずまたは副作用を生じさせずに、処置される疾患の進行において大きな減少を示さない。
【0018】
したがって、進行性軟骨破壊、特に外傷の後および慢性疾患(全層欠損および表層欠損ならびに関節炎(例えば変形性関節症、関節リウマチ))の場合は半月板断裂、前十字靭帯(ACL)損傷に関して、現在利用できる方法および組成物に付随する諸問題を克服する改良された処置および/または予防のための組成物およびその使用が求められている。
【0019】
したがって、本発明の目的は、軟骨欠損の修復もしくは再生および/または軟骨疾患または障害(例えば関節炎およびスポーツ損傷)の病状悪化の抑制のための手段を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、滑膜細胞遊走の抑制およびしたがって軟骨破壊の抑制のための手段を提供することである。
【0021】
本発明の別の目的は、軟骨疾患、より具体的には炎症性軟骨疾患、および滑膜線維芽細胞の浸潤またはパンヌス形成を伴う疾患の処置に適する手段を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、軟骨再生のために、その周辺からの間葉系幹細胞の誘引/走化性のための組成物およびその使用を提供することである。
【0023】
本発明の別の目的は、軟骨形成を誘導するためおよび/またはコンドロサイトの増殖もしくは分化を刺激するための組成物およびその使用を提供することである。
【0024】
本発明の基礎をなす問題は、軟骨欠損の予防よび/または処置のための医薬組成物を製造するための忌避因子を用いることで解決される。本発明は、特に、変性疾患(a)好ましくは関節軟骨もしくは非関節軟骨への滑膜線維芽細胞の浸潤または遊走に付随した、および/またはパンヌス形成に付随した、またはb)細胞(好ましくは線維芽細胞もしくは滑膜線維芽細胞)の関節軟骨もしくは非関節軟骨への接着が減少することに付随した、好ましくは変性軟骨疾患)の予防および/または処置のための医薬組成物を製造するために忌避因子を使用することに関する。特に、この忌避因子は、滑膜線維芽細胞等の線維芽細胞様細胞の遊走、滑膜細胞過形成の抑制を調節もしくは抑制し、ならびに/または軟骨の誘導および/もしくは再生のために間葉系幹細胞および/もしくはコンドロサイトの遊走、増殖および/もしくは分化を促進し、かつそれによって前述の変性疾患の進行を変える、抑制する、予防するおよび/または処置する。特に、この忌避因子は、好ましくは患者における骨棘の形成を抑制する、変える、または予防する。
【0025】
特に、本発明は、軟骨欠損の予防および/または処置のための医薬組成物の製造で、SLIT3(配列番号1)の断片である忌避因子を使用することに関する。この断片は、好ましくは≦1523AA、好ましくは≦1200AA、より好ましくは≦1000AA、最も好ましくは≦800AA、および特に≧20AA、好ましくは≧50AA、より好ましくは≧100AAの長さを有する。好ましくは、SLIT3のこの断片は、配列番号1の34位〜917位、47位〜863位、66位〜857位、279位〜863位、279位〜857位、279位〜724位、279位〜504位、311位〜432位、335位〜432位または312位〜437位の配列を含む。本発明によれば、忌避因子(特にSLIT3)は、関節軟骨の完全性を維持する軟骨区画の境界で発現することが判明している。さらに、忌避因子は、関節軟骨への線維芽細胞、神経線維および血管の遊走を抑制する。慢性関節疾患ではパンヌス組織の軟骨への浸潤は、忌避因子の発現が変化した後のみに可能であるため、この浸潤は忌避因子によって、特にSLIT3によって調節することが可能であり、したがってそれに付随する変性疾患は処置することができる。
【0026】
本発明者らは、この忌避因子およびその受容体のメンバーが変形性関節症および関節炎等の変性疾患を患っている患者の滑膜線維芽細胞で差次的に発現することを実証した。培養した一次ヒト滑膜線維芽細胞から分離したcDNAのLightcycler上で実行した遺伝子定量的RT−PCRによって、これを分析した。変形性関節症患者の滑膜線維芽細胞(OASF)および関節リウマチ患者の滑膜線維芽細胞(RASF)では、ROBOS3 mRNAのOASFでの極めて弱い発現と比較してRASFでは著しく増強した発現を除いて、ROBOおよびSLITは同様に発現する。SLIT1 mRNAのレベルは、SLIT2またはSLIT3と比較して明らかに低下するが、OASFでのSLIT群の発現は、RASFにおいてよりもおおむね高くなるようにみえる。
【0027】
ROBO1およびROBO2は、分化したコンドロサイトおよびOAコンドロサイトの両方で発現するが、OAコンドロサイトでの発現は、分化したコンドロサイトと比較して10倍(ROBO1)および100倍(ROBO2)も増加する。両細胞型では、いかなるROBO3の発現も測定されなかった。3種類のSLITのすべては、分化したコンドロサイトおよびOAコンドロサイトで発現し、ここでもOAコンドロサイトでは分化したコンドロサイトよりも高いレベルが見られた。
【0028】
UNC5BおよびUNC5Cを、OA患者およびRA患者の滑膜線維芽細胞で著しく上方調節した。
【0029】
さらに、滑膜線維芽細胞のより高い継代でRASF中のROBO3の発現が著しく減少することは、SLIT3に向かう反発活性を緩めることにおける重要な段階になり得ることがわかっている。本発明者らが提示するこれらの所見は、RA(およびOA)における滑膜線維芽細胞中のROBO3受容体の調節解除がこの線維芽細胞の悪性度と相関することを示唆している。
【0030】
さらに、本発明は、例えばNETRIN1、SLIT3ならびにその断片の忌避因子が、関節リウマチ等の変性疾患の主要な問題である、滑膜線維芽細胞等の細胞の悪性挙動および軟骨へのまたは軟骨内へのこれらの細胞の遊走を調節することに関与するという所見に基づく。特定の分子に限定されることなく、本発明は、例えばNETRIN1、SLIT3およびその断片の忌避因子がOASF細胞およびRASF細胞の遊走を抑制するという所見に基づく。この驚くべき所見のため、滑膜線維芽細胞等の線維芽細胞様細胞の遊走変容および/またはパンヌス形成を含む、細胞の遊走および浸潤を受けやすい種々の疾患の処置に忌避因子を使用することができる。この処置によって組織(関節軟骨もしくは非関節軟骨等)の破壊もしくは機能変容をその後に引き起こすことができない。本明細書に開示するこの驚くべき所見を考慮して、忌避因子は、本明細書に述べる種々の疾患および病状の予防および/または処置のための薬物として用いることができる。それぞれの疾患には、とりわけ変性疾患、好ましくは変性関節等の軟骨疾患および/またはさらに上述したものを含む椎間板疾患がある。特に、本発明によれば、この疾患は、変性椎間板疾患、半月板断裂、前十字靭帯(ACL)損傷、関節炎、変形性関節症、関節リウマチ、乾癬性関節炎、若年性関節リウマチ、肢根型偽性関節炎、リウマチ様多発性関節炎、滑膜炎または絨毛結節性滑膜炎から選択される。
【0031】
本発明によれば、軟骨欠損もしくは軟骨疾患は、予防または処置することができる。
【0032】
本発明の別の所見は、コンドロサイトに分化するその能力が公知のヒト間葉系幹細胞の遊走挙動に対する忌避因子の影響であった。NETRIN1等の因子を下段チャンバーに加えた後、Boyden Chamberアッセイを用いて、遊走が誘導されるのを観察し、忌避因子が滑膜または内層細胞等の間葉系幹細胞に対する化学誘引物質として作用することができることを示した。この所見を考慮すると、遊走細胞の破壊的な挙動を抑制することができるばかりでなく、破壊された組織を再生するための細胞も誘引することができる。したがって、忌避因子は、変性疾患の処置をさらに向上させる。
【0033】
さらなる所見は、軟骨形成細胞系譜に向かうヒト間葉系幹細胞のこの誘導分化が、SLIT3等の忌避因子が軟骨形成を誘導することができ、したがって軟骨疾患の再生および処置にとって有用であることを示したことであった。
【0034】
したがって、本発明は、細胞の遊走、増殖および/または軟骨への接着を調節する有効量の忌避因子を投与することによって悪性線維芽細胞に起因する患者において軟骨欠損、特に変性疾患を処置する医薬組成物を製造するために忌避因子を用いることを包含する。
【0035】
好ましくは、患者に投与する忌避因子の有効量は、0.001mg/kg(患者の体重)〜100mg/kg(患者の体重)、好ましくは0.01mg/kg(患者の体重)〜20mg/kg(患者の体重)、より好ましくは0.01mg/kg(患者の体重)〜10mg/kg(患者の体重)、最も好ましくは0.1mg/kg(患者の体重)〜1mg/kg(患者の体重)である。
【0036】
本発明の目的で、用語「忌避因子」とは、特定の濃度または濃度範囲で、軟骨境界等の組織境界を横切る細胞の遊走を抑制することができる活性薬剤を意味する。このように例えば、軟骨および/または骨への悪性滑膜線維芽細胞の遊走は、抑制するまたは変化させることができる。それは、パンヌス形成のさらなる進行の抑制または軟骨内へのパンヌス浸潤の抑制も含む。忌避因子は、軸索誘導キューとして、例えば忌避物質または誘引活性によって神経線維の出芽を変化させることができる。
【0037】
忌避因子は、神経系での軸索伸長を調節する軸索ガイダンス分子としても公知の多数の分子を含む。軸索ガイダンス分子としては、NETRIN、SLIT、SemaphorinおよびEphrinならびにその受容体であるNeuropilin、ROUNDABOUT(ROBO)、ならびにUNC5およびDCCのファミリーのメンバーが挙げられる(Klagsbrun and Eichmann,2005)。
【0038】
NETRINは、ラミニンドメインとの相同性を有する分泌タンパク質のファミリーである。このファミリーはNETRIN1、2、3および4からなる。NETRINは、ラミニン−VIドメイン、EGF様反復配列およびヘパリン結合C末端ドメインを含有する。NETRIN受容体は、deleted in colorectal cancer(大腸癌欠失)(DCC)受容体ファミリー(DCCおよびネオゲニンからなる)またはuncoordinated(非協調的な)−5(UNC5)ファミリー(UNC5A、5B、5C、5Dを含む)である。NETRINは、血管新生、および肺分枝と、乳腺の発生と、腫瘍形成等の形態形成時に関係してきた。DCCおよびネオゲニンに結合するNETRINが細胞誘引をもたらすのに対して、UNC受容体に結合するNETRINは反発性を調節することが示された。
【0039】
SLITは、軸索ガイダンス分子としてショウジョウバエ(Drosophila)で最初に確認された。哺乳類のSLIT1、SLIT2およびSLIT3のオルソログは、4個のロイシンに富む反復(LRR)ドメイン、9個のEGFドメイン、1個のラミニンG(LamG)ドメイン、およびC末端シスチンノットを有する巨大分泌タンパク質である。SLIT1 mRNAは、脳、退形成性乏突起膠腫、およびJurkat T細胞で発現する。SLIT2 mRNAおよびSLIT3mRNAは、胚様体形成を有する胚幹(ES)細胞で共発現する(Katoh and Katoh,2005;Vargesson,et al.,2001)。SLIT3は、ミトコンドリア内に局在しているが、SLIT2は局在していない。これはSLIT3が他のSLITタンパク質と共有しない固有の機能を潜在的に有することを意味する(Little,et al.,2001)。SLITはROUNDABOUT受容体に結合することによって作用する。ヒトRobo膜貫通受容体には4種類(ROBO1、ROBO2、ROBO3およびROBO4)あり、これらはフィブロネクチンIII型および免疫グロブリン様ドメイン(Ig)を共有するが、その細胞質ドメインの点では異なる(Itoh,et al.,1998;Howitt,et al.,2004;Hohenester,et al.,2006)。SLITタンパク質は、主に、胚発生時に遊走する細胞の細胞間の相互作用および細胞とマトリックスの相互作用を調節することに関与すること、および成長円錐の誘引または反発を介して軸索ガイダンスを媒介することが公知である。この10年間、ROBO−/SLITシステムは、細胞接着を媒介し、腫瘍血管新生を誘導するとも記述されてきた。SLITは、他の発生過程(ショウジョウバエにおける筋前駆細胞の遊走、白血球輸送および腎臓誘導等)にも関係する(Klagsbrun and Eichmann,2005)。
【0040】
Semaphorinは、相異なる表面受容体(例えばNeuropilin1およびNeuropilin2)を介して神経線維上で特異的な忌避作用を有する、表面型または局所分泌型の神経忌避因子である。クラスIIISemaphorinとしては、SEMA A、B、C、およびFが挙げられる。Ephrinおよびその受容体Ephは、神経系発生および血管新生を含む種々の発生過程に関係するリガンドおよびチロシンキナーゼ受容体を表す。Ephrin Aリガンド(Ephrin A1、A2、A3、A4、A5)は、EphA受容体に結合するGPIアンカー分子であるの対して、EphrinBタンパク質(Ephrin B1〜3)は、EphB受容体に結合する。Ephrinは、逆に、リガンドとしてEphによって結合される受容体としても機能できる。
【0041】
一部の実施形態において、本発明の忌避因子は、ROUNDABOUT受容体(例えばROBO1、2、3)、大腸癌欠失(例えばDCC)またはUNC(例えばUNC5A〜D)の受容体のアゴニストまたはアンタゴニストである。本明細書で用いるように、このアゴニストまたはアンタゴニストは、ROUNDABOUT受容体、DCCもしくはUNCの受容体の活性を活性化または抑制する。これは、好ましくはこの受容体とリガンドとの間の相互作用によって伝達されるシグナルまたはこのリガンドによって占有されないこの受容体によって伝達されるシグナルの抑制である。
【0042】
一部の好ましい実施形態において、本発明のアゴニスト、アンタゴニストおよび/または忌避因子は、NETRIN(例えば、NETRIN1、NETRIN2、NETRIN4、NETRIN G1)、SLIT(例えば、SLIT1、SLIT2、SLIT3)、Ephrin(例えば、Ephrin A2、A4、A5)およびSemaphorin(例えば、Semaphorin 3A、3B、3Cおよび3F)、その断片ならびにそのアミノ酸配列の群から選択される。
【0043】
本明細書に使用するように用語「処置することまたは処置」とは、障害もしくは疾患の軽減または障害もしくは疾患に付随する症状の軽減、その症状のさらなる進行もしくは悪化の停止を意味する。
【0044】
用語「予防」とは、疾患もしくは障害の阻止または防止を含む。
【0045】
用語「軟骨欠損」とは、軟骨疾患、例えば外傷または変性過程に起因する軟骨の変化を含む、いかなる軟骨異常をもいう。
【0046】
用語「変性疾患」とは、骨組織を含むもしくは含まない軟骨変性または破壊等の軟骨構造障害を伴う疾患または欠損を意味する。好ましくは、変性疾患は変性軟骨疾患である。変性疾患としては、顎関節症(TMD)、寛骨臼関節唇障害、関節炎、変形性関節症、関節リウマチ、乾癬性関節炎、若年性関節リウマチ、肢根型偽性関節炎、リウマチ様多発性関節炎、変性椎間板疾患、骨軟骨欠損、表層軟骨欠損、離断性骨軟骨炎、全層軟骨欠損、部分層軟骨欠損、半月板断裂、前十字靭帯損傷、滑膜骨軟骨腫症、強直性脊椎炎、滑膜炎、繊毛結節性滑膜炎が挙げられる。
【0047】
本明細書に用いるように用語「軟骨欠損および変性疾患」は、特に、骨粗鬆症を含まない。
【0048】
用語「変性椎間板疾患(DDD)」とは、1つ以上の椎間板の髄核内のプロテオグリカンおよび含水量が進行的に減少することによって一部特徴づけられる慢性的過程であり、この過程は、特発性腰痛症、椎間板ヘルニア、内部椎間板の破損もしくは椎間板亀裂、神経根症、脊柱管狭窄、髄核ヘルニアによる坐骨神経痛、坐骨神経痛、特発性脊柱側弯症および/または脊髄症等の複合障害で明らかになる。椎間板変性の段階は、術前MRIの分析によって位置付けることができる。
【0049】
用語「関節軟骨」とは、関節の骨部分の表面を覆い、2つの骨の間のクッションとして機能し関節の動きを可能にする。正常で健常な軟骨は、硝子軟骨と記述される。関節軟骨は、プロテオグリカン(主にアグリカン)に豊富な細胞内物質のマトリックスに埋め込まれた特殊化した細胞(コンドロサイト)、II型コラーゲン原線維、他のタンパク質および水からなる。このマトリックスは、内部に埋め込まれたコンドロサイトによって産生され維持される。軟骨組織は、下層組織によって神経支配されず、血管新生化して栄養を与えられる。
【0050】
非関節軟骨は、関節表面を覆わず、かつ線維軟骨(関節間線維軟骨(例えば半月板)および椎間板の線維軟骨を含む)ならびに弾性軟骨を含む。
【0051】
本明細書に用いるように、用語「滑膜細胞」、「滑膜」または「滑膜線維芽細胞」とは、滑膜に生理学的に結合したまたは滑膜腔に存在する細胞、関節滑膜または滑液から得た細胞をいう。また、この用語は滑膜関節の非軟骨表面を覆う細胞表層もいう。滑膜は、滑膜表層細胞および滑膜亜系統(下位滑膜)からなり、関節包に結合する。
【0052】
用語「パンヌス組織」とは、滑膜細胞の増殖および/または組織のびらん(軟骨(例えば関節軟骨)上の細胞もしくは物質の沈着等)、軟骨下の領域を含むもしくは含まない関節軟骨の浸潤もしくは破壊を意味する。また、軟骨下骨髄への細胞の浸潤も含まれる。
【0053】
好ましい実施形態において、本発明の基礎をなす問題は、好ましくは骨粗鬆症ではない変性疾患の予防および/または処置のための医薬組成物の製造で忌避因子を用いることによって解決される。ここで前述の忌避因子は、a)SLIT3(配列番号1)またはNETRIN1(配列番号10)のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性、好ましくは90%、95%の相同性、より好ましくは同一性を有する、b)SLIT3もしくはNETRIN1の活性断片である、またはc)b)の活性断片のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、95%の相同性を有する、配列を有するポリペプチドからなる群から選択される。
【0054】
用語「活性断片」とは、好ましくは、成熟した全長のポリペプチド(例えば成熟SLIT3ポリペプチド)として同一の受容体または結合パートナーに結合するポリペプチドの活性を意味する。例えば、結合することで、その受容体および下流カスケードを活性化するまたは抑制することが可能である。SLIT3断片の活性は、例えば、当技術分野で公知の方法(Biacore結合アッセイ、(Marlot et al.,2007)に記述されるようにin vitroプルダウンアッセイ、ELISAタンパク質結合アッセイまたは免疫沈降法等)を用いて、そのROBO受容体に結合させることによって決定することができる。この断片の活性は、また、本発明の実施例2、3、4、6、7または9に記述するようなアッセイ(例えば、Boyden Chamber遊走アッセイ、増殖アッセイ)または実施例6および7に記載するようなin vivo機能アッセイを用いて決定することもできる。
【0055】
2つのアミノ酸配列のパーセント相同性を決定するために、最適比較の目的でこれらの配列をアライメントさせる(例えば、もう一方のタンパク質または核酸との最適なアライメントのために、1つのタンパク質または核酸の配列に複数のギャップを導入することもできる)。次いで、対応するアミノ酸の位置でアミノ酸残基を比較する。1つの配列でのある位置が、もう一方の配列で対応する位置と同じアミノ酸残基によって占有されているときは、それらの分子はその位置で相同である。
【0056】
この2つの配列間のパーセント相同性は、これらの配列によって共有される同一位置の数の関数である(すなわち、%相同性=同一位置の数/位置の総数×100)。
【0057】
上述の方法に加えて、2つの配列間のパーセント相同性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。2つの配列の比較に利用される数学的アルゴリズムの好ましい、非限定的な例は、KarlinとAltschulによるアルゴリズムである(1990 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877)。このアルゴリズムは、Altschul,et al.(1990 J.Mol.Biol.215:403−410)のNBLASTおよびXBLASTのプログラムに組み入れられている。
【0058】
本発明のCCSRPと相同のアミノ酸配列を得るために、BLASTタンパク質の検索を、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて行うことができる。比較目的のためのギャップアライメントを得るために、Altschul et al.(1997 Nucleic Acids Res.25:3389−3402)に記述されているようにGapped BLASTを利用することができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。配列比較のために利用される数学的アルゴリズムの別の好ましい、非限定的な例は、MyersとMiller(CABIOS 1989)によるアルゴリズムである。このアルゴリズムは、GCG配列アライメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み入れられている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120質量残基表、12のギャップ長ペナルティー、および4のギャップペナルティーを用いて、本発明のCCSRPに相同のアミノ酸配列を得ることができる。比較目的のためのギャップアライメントを得るために、Altschul et al.(1997 Nucleic Acids Res.25:3389−3402)に記述されているようにGapped BLASTを利用することができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。配列比較のために利用される数学的アルゴリズムの別の好ましい、非限定的な例は、MyersとMiller(CABIOS 1989)によるアルゴリズムである。このアルゴリズムは、GCG配列アライメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み入れられている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120質量残基表、12のギャップ長ペナルティー、および4のギャップペナルティーを用いることができる。
【0059】
断片は、好ましくは、1523未満または1522のアミノ酸、好ましくは1491、900、500、400、300、200未満のアミノ酸、好ましくは少なくとも20、50、100のアミノ酸および100、200、300、400、500までのアミノ酸の長さを有する。好ましい実施形態において、本発明による忌避因子は、配列番号2、3、4、5、6、7、8および9から選択されたアミノ酸配列ならびに好ましくはポリペプチドを含み、そのアミノ酸配列は成熟SLIT3タンパク質よりも短い。好ましくは、そのアミノ酸配列は1523または1522よりも短い、好ましくは1491よりも短いまたは900の長さのアミノ酸よりも短い、好ましくは200〜900の長さのアミノ酸またはより好ましくは220〜760、240〜520、250〜300の長さのアミノ酸である。さらに好ましい実施形態において、本発明による忌避因子は、少なくとも配列番号6、7、8または9のアミノ酸配列を含み、かつそのアミノ酸配列は成熟SLIT3タンパク質よりも短い。
【0060】
用語「成熟SLIT3タンパク質」とは、シグナルペプチド配列を含まないヒトSLIT3タンパク質をいう。好ましくは、成熟SLIT3タンパク質は、配列番号1の33位もしくは34位から始まる、または配列番号2の1位もしくは2位から始まる。
【0061】
一部の実施形態において、この忌避因子は、配列番号1〜9から選択されたアミノ酸配列を含み、または配列番号1〜9のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を有し、このアミノ酸配列が成熟SLIT3タンパク質よりも短いことが好ましい。
【0062】
別の好ましい実施形態において、本発明による忌避因子は、少なくとも、配列番号1の34位〜917位、47位〜863位、66位〜857位、279位〜863位、279位〜857位、279位〜724位、279位〜504位、311位〜432位、335位〜432位または312位〜437のアミノ酸配列を含む。より好ましくは、本発明による忌避因子は、少なくとも、配列番号1の308位〜413位、308位〜317位、331位〜340位、344位〜352位、357位〜366位、380位〜389位、394位〜402位もしくは404位〜413位またはその組み合わせのアミノ酸配列を含む。
【0063】
1つ以上のCysが別のアミノ酸によって、特にAlaによって置換されている忌避因子がさらに好ましい。1つ以上のCysが別のアミノ酸によって、特にAlaによって置換され、配列番号1〜9から、特に配列番号2〜9から選択された配列を有する忌避因子が好ましい。この忌避因子の好ましい例は、85位でCysをAlaで置換することによる配列番号9に由来する配列番号21である。
【0064】
好ましい実施形態において、この忌避因子は、少なくとも、第2のロイシンが豊富な反復ドメインもしくは相同のロイシンが豊富な反復ドメインで非グリコシル化される。
【0065】
本発明の用語「第2のロイシンに富む反復ドメイン」とは、SLITタンパク質に存在するロイシンに富む保存アミノ酸配列をいう。SLIT3のロイシンに富む反復(LRR)ドメインは、アミノ末端側の保存領域とカルボキシ末端側の保存領域(LRLR−NRおよびLRR−CR)によって隣接される4つのLRR(LRR1〜4)からなる(Itoh,et al.,1998;Howitt,et al.,2004;Hohenester,et al.,2006)。この第2のロイシンに富むドメインは、配列番号1の248位と467位との間にアミノ酸配列を包含する。相同のロイシンに富む反復ドメインは、第2のロイシンに富む反復ドメインの保存アミノ酸の交換、SLIT1およびSLIT2等の他のSLITファミリーメンバーの相同領域ならびに/または配列番号1の248位と467位との間のアミノ酸配列と80%、85%、90%、95%の相同性を有するアミノ酸配列をいう。
【0066】
さらに好ましい実施形態において、本発明による忌避因子は、非グリコシル化され、より好ましくはこの忌避因子は組換え大腸菌(E.coli)由来のタンパク質である。
【0067】
さらに好ましい実施形態において、変性疾患、好ましくは変性軟骨疾患は、変性椎間板疾患、半月板断裂、前十字靭帯(ACL)損傷、関節炎、変形性関節症、関節リウマチ、乾癬性関節炎、若年性関節リウマチ、肢根型偽性関節炎、リウマチ様多発性関節炎、絨毛結節性滑膜炎または滑膜炎からなる群から選択される。
【0068】
別の好ましい実施形態において、関節軟骨は硝子関節軟骨である。
【0069】
好ましい実施形態において、非関節軟骨は、半月板および椎間板の群から選択される。
【0070】
一部の実施形態において、本発明の医薬組成物および/または本発明の実施形態のいずれかに記載の単離ポリペプチドを含む医薬組成物は、好ましくは欠損部近くに局所的にもしくは非全身的に注射する、またはさらに好ましくは関節腔内に、滑膜内におよび/または滑膜液中に投与する注射用製剤である。
【0071】
さらに好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物および/または本発明の実施形態のいずれかに記載の単離ポリペプチドを含む医薬組成物は、例えば静脈内投与によって全身的に投与する注射用製剤である。
【0072】
特定の実施形態において、この医薬組成物は、処置を必要とする部位に局所的に投与する。これは、例えば、外科手術時に局所注射、局所適用によって、注射によって、カテーテルを用いてまたはインプラントを用いて達成されてもよく、前述のインプラントは多孔質もしくは非多孔質である。
【0073】
本発明によって包含する医薬組成物を投与するための他の経路としては、皮内、筋肉内、腹腔内、皮下、鼻腔内または経口の経路がある。用いる用量範囲は、とりわけ、投与経路ならびに処置される患者の年齢、体重および状態に依存することとする。
【0074】
患者に投与するポリペプチドの適切量は、好ましくは0.001mg/kg(患者の体重)〜100mg/kg(患者の体重)、好ましくは0.01mg/kg(患者の体重)〜20mg/kg(患者の体重)、より好ましくは0.01mg/kg(患者の体重)〜10mg/kg(患者の体重)、最も好ましくは0.1mg/kg(患者の体重)〜1mg/kg(患者の体重)である。
【0075】
本発明の忌避因子を含む医薬組成物および/または下述および上述の本発明の実施形態のいずれかに記載の単離ポリペプチドを含む医薬組成物は、種々の剤形、例えば薬学的に許容される担体であってもよい。適切な医薬用担体の例は、‘‘Remington′s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,1990,ISBN #:0912734027,Mack Pub Co)に記述されている。この製剤は忌避因子を迅速に送達することも可能であり、または徐放性製剤であってもよい。このような組成物は、適切な投与のための形状を患者に提供するために適切量の担体と共に処置上有効量の忌避因子を含有してもよい。この剤形は投与様式に適合するべきである。投与経路に関係なく、この忌避因子は、医薬分野の当業者に公知の従来の方法によって許容される単位剤形に配合される。好ましい実施形態において、この忌避因子は人への静脈内投与用の医薬組成物として通常の製法に従って配合される。一般的に、静脈内投与用の医薬組成物は、溶解補助剤(例えば、リグノカイン等の局部麻酔剤を含むまたは含まない無菌等張水性緩衝液)を含む。通常、この成分は、例えば凍結乾燥した粉末としてまたは密封容器(アンプルもしくは小袋等)内の無水濃縮製剤として単位剤形で、別々にもしくは一緒に混合されて供給される。この医薬組成物を注射で投与する場合、溶解補助剤を含有する注射瓶に分散させることもできる。
【0076】
好ましい実施形態において、剤形としては、水性液体剤、食塩水剤、固形剤、半固形剤,液体剤、糊状剤、パテ状剤、分散剤、懸濁剤、ゲル剤、リポソーム剤形、マトリックス剤、形状安定剤、in situ硬化剤、組織接着性バイオマテリアル、注射剤および最小浸襲性のインプラント型の使用形態が挙げられる。
【0077】
一部の他の実施形態において、本発明の医薬組成物は、水性液体剤、固形剤、半固形剤,糊状剤、パテ状剤、リポソーム剤形、形状安定剤、マトリックス剤、in situ硬化剤、組織接着性バイオマテリアルからなる群から選択される。
【0078】
好ましい実施形態において、この医薬組成物は、忌避因子および/またはリポソームにカプセル化した忌避因子の単離ポリペプチドを含む。このリポソーム製剤は、処置薬の持続期間が長くなり、使用の部位でのクリアランスが遅くなることに加えて、タンパク質が生物学的環境内で分解から保護されるという点において液剤に対する利点を有する。
【0079】
リポソーム製剤は、通常、水性媒体中に化合物を一般的に含有するコアを有する封入された脂質滴を含む。いくつかの実施形態において、この化合物は脂質成分に化学的に結合されているまたはリポソームの水溶性の内部区画内に単純に含有されている。
【0080】
本発明により提供される医薬組成物は、再構成されて忌避因子および/またはポリペプチドをカプセル化するリポソームを生成することができる乾燥リポソーム組成物として好ましくは提供される。好ましくはこのリポソーム製剤は、乾燥した再構成されるベシクル(DRV)であり、水溶液中で再構成されるとタンパク質を封入したリポソームを形成する。本明細書に用いるリポソーム組成物は、例えば、乾燥顆粒状生成物であり、水を加えると分散して、生物学的活性成分を含む多重膜リポソーム製剤を形成する。有利なことに、凝集または酸化等の安定性の問題は乾燥リポソーム製剤を用いることで回避される。
【0081】
個別にまたは混合物中に存在する剤形で使用するのに適する脂質としては、中性脂肪または正の電荷を有する脂質、例えばコレステロール、ホスファチジルコリン、水素化ホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ジオレイル・ホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルグリセロール、ホスファチジルグリセロール、ジミリストイル・ホスファチジルコリン、ジパルミトイルコリン、ガングリオシド、セラミド、ホスファチジルイノシトール、リン酸、ジセチルホスフェート、ジミリストイル・ホスファチジルコリン、ステアリルアミン、ジパルミトイル・ホスファチジルグリセロールおよび他の同様の脂質が挙げられる。好ましくは、この脂質混合物は電荷を有する。リポソーム製剤は、一般的に、コレステロールとホスファチジルコリン等の少なくとも2つの脂質およびより通常には3つ以上の脂質の混合物である。
【0082】
本発明は、配列番号1〜9のアミノ酸配列と少なくとも85%のアミノ酸配列の相同性、好ましくは90%、より好ましくは95%の相同性を有する単離ポリペプチドをさらに提供し、このアミノ酸配列が成熟SLIT3タンパク質よりも短く、好ましくはこの単離ポリペプチドはアミノ酸の長さが1523よりも短い、好ましくは1491よりも短いまたは900よりも短い、好ましくはアミノ酸の長さが200〜900またはより好ましくは、200〜760、220〜520、200〜300である。
【0083】
好ましい実施形態において、この単離ポリペプチドは、配列番号1〜9からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、より好ましくは単離ポリペプチドは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8または9のアミノ酸を含有し、このアミノ酸配列が成熟SLIT3タンパク質よりも短く、好ましくはこの単離ポリペプチドはアミノ酸の長さが1523よりも短い、好ましくは1491よりも短いまたは900よりも短い、好ましくはアミノ酸の長さが200〜900またはより好ましくは、220〜760、240〜520、250〜300である。
【0084】
好ましい実施形態において、本発明は、配列番号1の34位〜917位、47位〜863位、66位〜857位、279位〜863位、279位〜857位、279位〜724位、279位〜504位、311位〜432位、335位〜432位または312位〜437位のアミノ酸配列を少なくとも含む、単離ポリペプチドをさらに提供する。
【0085】
より好ましくは、本発明は、配列番号1の308位〜413位、308位〜317位、331位〜340位、344位〜352位、357位〜366位、380位〜389位、394位〜402位もしくは404位〜413位またはその組み合わせのアミノ酸配列を少なくとも含む、単離ポリペプチドを提供する。
【0086】
好ましい実施形態において、本発明の単離ポリペプチドおよび/または忌避因子をペグ化する。したがって修飾型ポリペプチドおよび/または忌避因子は、非修飾型薬剤よりも長い生物学的半減期を有し、従って変性障害の医学的処置のための薬剤の有効性を向上させる。さらに、タンパク質の凝集する傾向が減少する。
【0087】
ペグ化は、タンパク質上のアミノ基またはスルフヒドリル基と、ポリエチレングリコール(PEG)上の化学反応基(炭酸、エステル、アルデヒド、もしくはトレシレート)との間の安定な共有結合を介して達成することができる。結果として得る構造は、直鎖状または分枝状であってもよい。PEG試薬は、例えば、Roberts et al.(Roberts,et al.,2002)に記述されている。他のペグ化剤としては、メトヒシポリ(エチレングリコール)(mPEG)、メチルPEO12マレイミドPEG、アミン反応、メチルキャップしたポリエチレン・オキシド(PEO)を含有する修飾剤(メチル PEOn−NHSエステル、n=4、8、12)があるが、これらに限定されない。
【0088】
また、修飾型ペプチドおよび/または安定化ペプチドは、ペプチドの分解を阻止するために修飾された結合を有する安定化ペプチド等を使用することもできる。
【0089】
本発明は、上述の実施形態のいずれかに記載の単離ポリペプチドまたは忌避因子を含む医薬組成物をさらに提供する。
【0090】
別の好ましい実施形態において、本発明は、タンパク質を担体、インプラントまたは送達システムと組み合わせる実施形態のいずれかに記載の医薬組成物を提供する。
【0091】
本発明で用いる担体、インプラントまたは送達デバイスは、好ましくは、毒性がなく、かつ体内で炎症反応を誘導しないという点において生体適合性を有する。これらは、マトリックスまたはスキャフォールド構造を含むことができ、かつ固体剤、液体剤、ゲル剤、ペースト剤または他の注射用の形状であってもよい。好ましくは、この担体、インプラントまたは送達デバイスは、例えば国際公開第WO2005/113032に記述されているようにハイドロゲル、特に注射用ハイドロゲル、硫酸化ヒアルロン酸、高度に置換されたカルボキシメチルセルロースおよびその塩、アルギン酸、ヒドロキシプロピルアルギン酸、キトサン、ヒドロキシエチルデンプン、コラーゲン、ゼラチン、逆熱ゲル(例えばPluronic F128)、キトサンに基づく温度感受性コポリマー(例えばキトサン−Pluronic(登録商標)ハイドロゲル)、多孔性シルクスキャフォールド、複数のミクロスフェア、リポソーム製剤およびヒドロキシアパタイトファイバーメッシュを含む。
【0092】
好ましい実施形態において、本発明による担体は、多血小板血漿、生分解性ゼラチンハイドロゲルによる血小板濃縮血漿で構成されるフィブリンゲル、フィブリン/ヒアルロン酸の複合体、ゼラチン・ハイドロゲル・ミクロスフェアを封入した因子、例えば、オリゴ(ポリ(エチレングリコール)フマル酸、ポリ乳酸(PLA)/ポリグリコール酸(PGA)およびポリεカプロラクトン等のポリマーを含む注射用の生分解性ハイドロゲル複合体を含む。
【0093】
好ましくは、この担体は、キトサン−グリセロールリン酸またはキトサン−グリセロールリン酸溶液で安定化したin situ血餅を含む。
【0094】
別の実施形態において、この送達システムは、本発明の忌避因子および/または単離ポリペプチドの送達のための、分解性ハイドロゲル・スキャフォールド(ゼラチン微粒子、ポリマーを基にした生分解性で生体適合性のハイドロゲル等)、ポリマーを増強したハイブリッド血餅もしくは他のポリマーを基にした生分解性で生体適合性のインプラントまたは送達システムを含む。
【0095】
本発明の好ましいポリマーは、コラーゲン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、ヒアルロン酸エステル、ヒアルロン酸ベンジルエステル、オリゴ(ポリ)(エチレングリコール)フマル酸、キトサン、キトサングリセロールリン酸を含み、このポリマーにはトリコポリマー(ゼラチン/コンドロイチン−6−硫酸/ヒアルロン酸トリコポリマーまたはそのいずれかの組み合わせ等)が含まれる。
【0096】
さらなる実施形態において、この医薬組成物を徐放製剤として配合する。別の実施形態において、この医薬組成物を、間欠的な放出を提供する徐放製剤として配合する。
【0097】
変性疾患の処置は、血栓形成活性を有しかつ創傷の修復過程を刺激するポリマーを用いて、変性した組織の損傷部に形成される血餅を安定化させることによってさらに改善することができる。したがって、さらに好ましい実施形態において、この医薬組成物は、血栓形成活性を有する少なくとも1種類の物質、添加剤またはマトリックスをさらに含む。
【0098】
さらに好ましい実施形態において、このポリマーは血栓形成性があり、および/または血小板の凝集および脱顆粒を刺激する。
【0099】
別の好ましい実施形態において、このポリマーは止血性があり、より好ましくはこのポリマーは止血性があって、かつ創傷組織の血行再建および/または結合組織の修復を刺激する。
【0100】
別の実施形態において、このポリマーは生理的条件下で可溶化し、かつ全血と混合して固形のインプラントを形成する。これらのインプラントは、通常の血餅よりも組織の欠損部にさらに接着する利点を有し、したがって軟骨再生を改善する。
【0101】
一部の実施形態において、本発明のいずれかの実施形態に記載の医薬組成物は、さらに軟骨組織を含み、好ましくはこの散骨組織はコンドロサイトである。
【0102】
上述の実施形態またはその組み合わせのいずれかにおける、種々の組織(例えば、ヒトの耳部、鼻部、肋骨、内部半月板細胞(IMC)、脂肪パッド細胞(FPC)、滑膜細胞(SMC)、関節コンドロサイトもしくは他のコンドロサイト組織、間葉系幹細胞(MSC)および/または骨髄間質細胞由来のヒトコンドロサイトの同時カプセル化も、本発明の実施形態である。特に、これらの細胞は成長因子によってまたは成長因子によらず伸長して、相異なるコンドロサイト型の軟骨形成を増進させ、次いで移入後、軟骨組織を形成するように誘導する。
【0103】
本発明による間葉系幹細胞(MSC)は、未拘束の間葉系前駆細胞として多くの成熟した骨格組織に存在する原始細胞または休止細胞の集団である。MSCは柔軟性があり、かつこれらの休止細胞に与えられる環境および生物学的シグナルに依存して、軟骨、骨、脂肪および他の組織を含むいくつかの成熟細胞型に向かって分化する能力を有する。MSCは骨髄、血液、筋細胞および脂肪を含む多くの自家供給源から利用でき、ドナー部位に著しい罹患または免疫原性の可能性をもたらすことなくこれらの細胞を収集して分離することができる。
【0104】
さらに、本発明の基礎をなす問題は、変性疾患等の疾患の予防および/または処置のための医薬組成物を製造する上述の実施形態のいずれかに記載のポリペプチドを用いることによって解決される。好ましい実施形態において、この変性疾患は、上述の実施形態のいずれかに特定されるような変性疾患である。好ましくは、この変性疾患は、変形性関節症または慢性もしくは急性の関節リウマチを含む関節リウマチ等の関節炎である。
【0105】
別の実施形態において、本発明は、間葉系幹細胞の遊走挙動に影響を与えるための上述の実施形態のいずれかによって忌避因子を使用することに関する。
【0106】
さらに、本発明は、間葉系幹細胞の遊走または誘引を誘導するための上述の実施形態のいずれかによって忌避因子を使用することを包含する。
【0107】
好ましくは、本発明は、軟骨形成を誘導するためおよび/またはコンドロサイトの増殖もしくは分化を刺激するための上述の実施形態のいずれかによって忌避因子を使用することに関する。
【0108】
本発明は、コンセンサス配列C(Y)3CYC(Y)6C(Y)99C(Y)47CYC(Y)20C(Y)20C(Y)20C(Y)13-22Cを含む単離ポリペプチドをさらに含む。
【0109】
さらに、コンセンサス配列C(Y)3CYC(Y)6C(Y)99C(Y)47CYC(Y)20C(Y)20C(Y)20C(Y)13-22Cを含む単離ポリペプチドが好ましく、配列中、Cはシステインを示し、Yは任意のアミノ酸を示し、少なくとも1つのシステインが、システイン以外の任意の他のアミノ酸によって置換される。少なくとも1つのシステインを別のアミノ酸と置換することによって、配列の折り畳みおよび/または二量体形成は影響される。
【0110】
本発明は、変性疾患の予防および/または処置に対する遺伝子治療のための、忌避因子遺伝子またはその部分のDNAを含む医薬組成物を提供する。この忌避因子遺伝子は、忌避因子またはその活性断片をコードし、本発明の範囲内で説明する変性疾患等の変性疾患に処置効果をさらに有する。
【0111】
本発明の医薬組成物によれば、忌避因子遺伝子のDNAまたはその部分は、好ましくは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクター、マウス白血病ウイルス(MLV)ベクター、レンチウイルスベクターまたはプラスミドと共に提供されることができる。これらは、ヒト細胞内または組換え細胞(障害された組織に局所的に(局所投与)、全身的にまたは連続的に忌避因子を適用するために、忌避因子またはその活性断片をコードするDNAを含む組換えベクターで形質転換されたまたは形質導入された)内で発現することができる。
【0112】
用語「DNA忌避因子遺伝子」とは、忌避因子またはその活性断片をコードするDNAを意味する。DNA忌避因子遺伝子は、自然に分離されたDNAに限定されず、天然のヌクレオチド配列のいかなる修飾形態をも含み、本発明のいずれかの実施形態に記述のポリペプチドを翻訳後に形成し、または好ましくは、本発明の目的に適した核酸に作用可能に連結した発現調節のための因子(例えば、誘導プロモータ因子および/またはエンハンサー因子)に加えて忌避因子の活性の維持下でポリペプチドを形成する。組換えベクターも、遺伝子による細胞からのポリペプチドの分泌に必要とされるシグナルペプチドのヌクレオチド配列を含むこともある。このベクターはさらに、1つ以上の選択マーカー遺伝子またはレポーター遺伝子を含むこともある。
【0113】
このDNAは、ヒト、マウス、ラットまたは他の脊椎動物の忌避因子に由来してもよい。これらのタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、当業者にとって容易に入手できるものである。好ましくは、このDNAは、ヒト忌避因子に由来する。この配列は、例えばGenBank、SwissProtおよび他のデータベースで見つけることができる。これらはcDNAまたはゲノムDNAおよびクローンであってもよく、ATCC等の保管所に由来し得る、またはPCRアプローチによってクローン化し得る、または化学合成し得る核酸配列を含む。このDNA配列を、コドンを使用するためにさらに最適化してもよい。忌避因子のDNA配列の例としては、GI4507060(SLIT1)、GI4759145(SLIT2)、GI11321570(SLIT3)、GI:148613883(NETRIN1)またはその核酸断片がある。
【0114】
好ましくは、この組換え細胞は、滑膜、皮膚、骨髄起源、リンパ球または樹状細胞の自家線維芽細胞である。最も好ましくは、この組換え細胞は、滑膜、皮膚、または樹状細胞の自家線維芽細胞である。
【0115】
忌避因子またはその活性断片をコードする核酸分子を、関節炎の関節等の患部組織に、特にリウマチ滑膜に局所的に送達するための医薬組成物およびその使用を提供することは、本発明の1つの実施形態である。特に、この医薬組成物およびその使用は、滑膜細胞等の組織細胞内の忌避因子をコードする核酸分子を、標的細胞内で治療用たんぱく質を好ましくは高度に発現させることにより、治療有効量で、および十分な期間にわたり、効率的なトランスフェクションまたは形質導入を可能にする。
【0116】
好ましくは、このベクターまたはプラスミドは、例えば染色体外の方法でタンパク質を発現させるために、形質導入細胞のゲノムに組み込まれない。
【0117】
好ましくは、このベクターまたはプラスミドは、形質導入細胞のゲノムに安定に組み込まれて、好ましくは、治療用たんぱく質を長期間および/または徐放でもたらす。
【0118】
この医薬組成物の患部組織(関節炎の関節等)への局所的投与とは、好ましくは、関節炎の滑膜へのin vivoまたはex vivo投与をいう。核酸のex vivo送達とは、自家滑膜細胞もしくは非自家滑膜細胞にウイルスベクターを形質導入するまたは忌避因子をコードする核酸もしくはその部分を含むプラスミドをトランスフェクトすることと、この形質導入細胞を選択することと、例えば被験者の関節への細胞の再移植、注射もしくは再注射によってこの形質導入細胞を被験者のリウマチ関節に投与することとを含む。in vivo投与とは、例えば関節内注射によって、忌避因子をコードする核酸もしくはその部分を含むベクターまたはプラスミドを被験者の関節に直接投与することをいう。局所投与の利点は、それぞれの関節を処置するために必要とされる遺伝子産物が少ない、したがってベクターが少ないことである。
【0119】
ベクターを全身的に送達する場合、単回もしくは反復注射または注入によって、例えば筋肉内、皮下もしくは静脈内注射でベクターを関節外部位に好ましくは導入する。
【0120】
好ましくは、上述の実施形態に記載の医薬組成物は、これらに限定されないが生理的液体、水、生理食塩水、緩衝液、乳化剤、安定剤、凍結乾燥剤等の付加的な薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。
【0121】
代案として、忌避因子またはその活性断片をコードする忌避因子遺伝子のDNAまたはその部分を含む、変性疾患の予防および/または処置のための遺伝子治療用の医薬組成物をリポソームに導入して、リポソームが滑膜細胞と融合する関節の領域に直接注射することで、上述の実施形態のいずれかに記載の忌避因子のin vivo発現をもたらす。
【0122】
好ましくは、上述の実施形態のいずれかに記載の医薬組成物を、ネイキッドDNAとして注射する。
【0123】
図および実施例によって本発明をさらに説明するが、これらは単に説明であって、本発明の範囲を限定するものとして構成されていない。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】NETRIN1の滑膜線維芽細胞遊走への抑制効果を示す。継代3および継代10におけるNETRIN1のOA(A)およびRA(B)の滑膜線維芽細胞への効果をBoyden Chamberアッセイで測定した。上段チャンバーまたは下段チャンバーのそれぞれにNETRIN1を加えた。
【図2】SLIT3を加えた後、Boyden Chamber遊走アッセイで分析したOASFおよびRASFの遊走を示す。SLIT3インキュベーション(0.1μg/ml)は、初期継代(P3とP4)でのOASFの遊走では、約60%(OASFと共に上段チャンバー内のSLIT3)まで、および対照群と比較して約40%(下段チャンバー内のSLIT3)まで減少した。RASF(P3/P4)では、SLIT3は、それぞれ約45%(上段チャンバー内のSLIT3)および50%(下段チャンバー内のSLIT3)、遊走を減少させた。
【図3】SLIT3の変形性関節症患者の滑膜線維芽細胞(OASF)および関節リウマチ患者の滑膜線維芽細胞(RASF)の増殖への影響を示す。OASFおよびRASFと共にSLIT3のインキュベーション(0.1μg/ml)は、OASFおよびRASFの増殖をわずかに減少させた。
【図4】SLIT3を添加した際のヒト間葉系幹細胞(HMSC)の分化を示す。A.処置から7日後、SLIT3はアグリカン発現を増加させた。B.コンドロサイトに向かうHMSCの分化を誘導したTGFβは、MIA発現を分析するSLIT3処置によってさらに増強された。
【図5】RTS500システム(Roche Molecular Biochemicals)を用いて発現したLRR2コンストラクトのSDS PAGE上での発現を示す。レーン1:対照としてRTS500の組換えタンパク質(Hisタグを含まない)10μl;レーン2:組換えSLIT3断片 LRR2 10μl;レーン3:組換えSLIT3断片 LRR2 1μl;レーン4:組換えマウスSLIT3(250ng;R&D Systems)。
【図6】SLIT3(R&D Systems)、LRR2、LRR2 dNCを用いて、Mel Im(R&D Systems)およびA375細胞の遊走について、SLIT3が媒介する抑制を示す。
【図7】Boyden Chamber遊走アッセイ(実施例2および5による)において、対照(レーン1)、SLIT3(R&D Systems、レーン2)、LRR2(レーン3)、LRR2 dNC(レーン4)を用いる処置の際の初期継代で、OASFおよびRASFの遊走が減少したことを示す。
【図8】Boyden Chamber遊走アッセイ(実施例2および5による)において、対照(レーン1)、SLIT3(R&D Systems、レーン2)、LRR2(レーン3)、LRR2 dNC(レーン4)、LRR2 dNCmut(レーン5)およびLRR3(レーン6)を用いる処置の際の初期継代で、OASFおよびRASFの遊走が減少したことを示す。
【図9】異なる忌避タンパク質との共培養後、OA滑膜線維芽細胞の上清中のGAGタンパク質レベルとして測定した軟骨破壊の抑制を示す。レーン1:軟骨対照(OA滑膜線維芽細胞を含まない);レーン2:OA滑膜線維芽細胞;レーン3:OA滑膜線維芽細胞+NETRIN1;レーン4:OA滑膜線維芽細胞+mSLIT3;レーン5:OA滑膜線維芽細胞+LRR2 dNCmut。
【0125】
実施例
実施例1:一次ヒト滑膜線維芽細胞の分離
説明と同意および地域の倫理委員会の承認を得た後、RA患者4名とOA患者4名から骨膜切除術および関節形成術の手術(Clinic of Orthopedic Surgery,Schulthess Clinics(スイス国チューリッヒ))から滑膜組織の試料を採取した。臨床基準および放射線学的基準に従って、OAの診断を行った。RA患者のすべては、RA診断のためのAmerican College of Rheumatology 1987基準を満たしていた。OA患者では、関節腔狭小化の最終段階を示している腰関節と膝関節から滑膜組織を採取し、RA患者では、鮮紅色の滑膜炎および/または関節炎破壊を示している関節を有する手関節または近位指節間関節から試料を採取した。滑膜組織を機械的に刻み、無菌リン酸緩衝食塩水(PBS)で十分に洗浄して、150mg/mlのDispase II(Boehringer Mannheim(ドイツ国マンハイム))を用いて、37℃で、連続攪拌下で1時間消化させた。結果として得た細胞験濁液を組織培養皿に播種して、10%ウシ胎仔血清と100μg/mlのストレプトマイシンあたり100U/mlのペニシリンとを含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Gibco Life Technologies(スイス国バセル))で、37℃の加湿雰囲気中に5%CO2を添加して培養した。第3、第5および第10の継代では、付着する線維芽細胞を洗浄し、トリプシン処理して、これをRNAの分離またはアッセイで用いた。対照として、皮膚線維芽細胞を使用した。
【0126】
実施例2:RA患者およびOA患者に由来する一次ヒト滑膜線維芽細胞の遊走の抑制
変形性関節症患者および関節リウマチ患者に由来する滑膜線維芽細胞の遊走に関する忌避因子の抑制潜在能力を遊走アッセイで分析した。
【0127】
忌避因子の細胞遊走への効果を、8μmの孔径を有するポリカーボネート・フィルター(Costar(ドイツ国ボーデンハイム))を含有するBoyden Chamberアッセイを用いて、基本的には前述のように分析した(Jacob,et al.,1995)。フィルターをゼラチンでコーティングした。下段の区画には線維芽細胞ならし培地を充填し、化学誘引物質として用いた。2分間のトリプシン処理によって細胞を収集し、2×105細胞/mlの密度で、FCSを含まないDMEM中に再験濁させて、チャンバーの上段の区画内に配置した。37℃で4時間インキュベートしてから、フィルターを収集して、下段区画の表面に付着している細胞を固定し、染色して数えた。忌避因子(例えば組換えNETRIN1(HEK293細胞由来のヒト組換えNETRIN1タンパク質、アミノ酸28〜604、N末端Flag−tag、Alexis Biochemicals)、SLIT3(組換えマウスSLIT3タンパク質、Ser27−His901、R&D Systems))を、0.1μg/mlの濃度でこのシステムの上段または下段のチャンバーのいずれかに加えた。
【0128】
滑膜線維芽細胞内の表現型の変化はin vitro培養中に起こり、これらの細胞はin vitroで増殖する間にその悪性表現型を徐々に失うことが公知である(Zimmermann et al.,2001)。したがって、本発明者らは、in vivoで観察した立体配置にできるだけ近い表現型特性を有する、新鮮な分離滑膜線維芽細胞を得ることを望み、初期および後期の継代の細胞を用いて忌避因子の遊走への効果を分析した。
【0129】
これらの実験は、RAおよびOAの患者のヒト滑膜組織由来の新鮮な分離滑膜線維芽細胞の遊走へのこれらの因子の抑制を明確に立証した。
【0130】
その結果を図1および2に示す。
【0131】
図1(A)および図1(B)に示すように、初期継代(継代3)ではRAおよびOAの滑膜線維芽細胞の遊走は強く抑制されたが、健常なドナー由来または高い継代の線維芽細胞には作用しなかった。組換えNETRIN1をそれぞれ上段および下段のチャンバーに加えてから、効果がみられ、化学遊走ではなく遊走の分子過程がNETRIN1によって作用したことを示した。ここに提示するこれらの所見は、NETRINが細胞の遊走能力を、潜在的に細胞の反発によって減少させたことを示唆する。
【0132】
図2に示すように、OASFおよびRASFの遊走ならびに誘導キューSLIT3の細胞に対する影響を分析した。初期継代(P3およびP4)では、未処置細胞と比較して、SLIT3のOASFおよびRASF両方(n=2)への強い抑制効果を決定した。この効果は、上段チャンバー内にSFと共に存在するSLIT3においてだけでなく、下段チャンバー内の化学誘引物質としての線維芽細胞ならし培地とSLIT3との組み合わせにおいても明らかであった。
【0133】
実施例3:組換えSLIT3とNETRIN1のOASFおよびRASFの増殖への影響
細胞増殖キットII(Roche)を用いて、供給者の説明書に従って増殖を測定した。それは、4日間行った細胞増殖の非放射性定量化を測定した比色分析(XTT)に基づいている。組換えSLIT3またはNETRIN1を0.1μg/mlの濃度で加えた。細胞増殖アッセイは、OASFの場合約4.5日およびRASFの場合約3.5日の算出倍加時間を明らかにした。SLIT3処置は弱い増殖抑制をもたらし、SLIT3処置後、細胞増殖はOASFおよびRASFの場合約1日間減速した(図3)。細胞増殖の弱い抑制は、NETRIN1の処置後もみられたが、その効果は顕著でなかった。
【0134】
実施例4:ヒト間葉系幹細胞(HMSC)の分化
SLIT3の分化への効果を評価するために、HMSCをペレット培養法で培養して、それぞれSLIT3、TGFβまたはSLIT3/TGFβで処置した。TGFβによる誘導なしでSLIT3は、処置から7日後にアグリカンの発現を増加させ、および処置から21日後にMIAの発現を増加させた(図4)。TGFβ誘導によるコンドロサイトに向かうHMSCの分化は、MIA発現を分析するSLIT3処置によって若干増強された(図4B)。
【0135】
実施例5:RTSシステムにおけるSLIT3コンストラクトの発現
SLIT3断片も、RA処置のための医薬製品を製造する医薬的活性成分として用いることができるかどうかを分析するために、Mel Im細胞、A375細胞、一次ヒトRASF細胞とOASF細胞、およびHMSCを用いる実施例1〜4ならびに実施例9による機能アッセイで、種々のヒトSLIT3コンストラクトを生成して検査した。コンストラクトのすべては、複数のドナーからのヒトコンドロサイトまたは滑膜線維芽細胞から分離したRNAに由来するcDNAのPCR増殖によって作製した。コンストラクトLRR1〜4(配列番号7)はプライマー5′GAC CAT ATG GCC CCT GCC CCA CCA AGT GTA CC3′および5′GAC CCC GGG ATT GCA TTT GGC CAC AAT G3′を用いて、LRR2(配列番号8)はプライマー5′GAC CAT ATG ATC TCC TGC CCT TCG CCC TGC 3′および5′ GAC CCC GGG GAA GCA CTC GCT GCT GAA CC3′を用いて、LRR2 dNC(配列番号9)はプライマー5′GAC CAT ATG ATC GTC GAA ATA CGC CTA GAA C 3′および5′GAC CCC GGG TGG GTT TTG GGC TAA GTG GAG3′を用いて、ならびにLRR3はプライマー5′GAC CAT ATG GAC CTC GTG TGC CCC GAG AAG3′および5′GAC CCC GGG GCT CAG CTG GCA GCT ACT CTC3′を用いて増殖させた。残基CysをAlaと交換(Cys85Ala)したLRR2 dNCmut(配列番号21)を、QuickChange Site−Directed Mutagenesisキット(Stratagene(オランダ国アムステルダム)と、プライマー5′CCA ACA AGA TCA ACG CCC TGC GGG TTA ACA CGT TTC AGG3′および5′CCT GAA ACG TGT TAA CCC GCA GGG CGT TGA TCT TGT TGG3′とを用いる部位特異的変異誘導法によってクローニングした。断片を、発現ベクターplVEX2.3−MSCのNdelおよびSmal部位内にクローニングし、挿入配列を配列決定によって確認した。C末端にHISタグを付けたSLIT3タンパク質を、RTS500システム(Roche Molecular Biochemicals)内で発現させた。in vitro転写および翻訳を、製造者の説明書に従って行った。タンパク質発現を、RTS500発現システム(図5)で生成した異なる量(1μl、10μl)のタンパク質を使用してウエスタンブロット解析(SDS PAGE)によって分析した。RTS500システムで生成したタンパク質断片の活性を、a)Mel Im(Jacob,et al.,1995によって説明される)と、b)A375(CRL1619、ATCC)細胞と、c)RTS500システムにより生成したタンパク質1μlを同システムの上段または下段のいずれかのチャンバーに加えたことを除き、実施例2に説明するようにBoyden Chamberアッセイを用いる実施例2に記述のOASF細胞およびRASF細胞とを用いる遊走アッセイで分析した。図6AとB、図7および図8に示すように、SLIT3、LRR2、LRR2 dNCおよびLRR2 dNCmutを用いてすべての株細胞の遊走は抑制された。驚いたことに、SLIT3タンパク質配列のN末端およびC末端の安定化部分を欠くLRR2 dNCタンパク質ならびにLRR2 dNCmut(Cys85Ala変異体)も滑膜線維芽細胞の遊走を抑制した。これは、二次構造の部分を含むこのタンパク質の最小結合ドメインだけがこの抑制効果には十分であることを示している。
【0136】
実施例6:関節リウマチ(RA)の処置のための動物モデル
滑膜線維芽細胞の遊走および破壊的挙動ならびに本発明の忌避因子の影響を異なる動物モデルで分析することができる。関節リウマチ(RA)の処置のための新規の生物学的製剤を分析するための確立したモデルは、げっ歯類、例えばラットまたはマウスでのコラーゲン誘導関節炎(CIA)がある(Bendele et al.,2000)。フロイント不完全アジュバント中のウシII型コラーゲンを皮内/皮下に注射することによって雌ラットにRAを誘導する。ラットがこの疾患にかかると、この忌避因子を、例えば、リポソームまたは生理食塩水(PBS)媒体の持続送達系で皮下または腹腔内に投与する。処置は、足関節の腫れおよび炎症の程度の決定によってならびに脱灰後の関節の病理組織学的スコアリングによって分析することができる。
【0137】
別のモデルは、重症複合免疫不全マウス(SCID)共移入モデルである。ヒトRASFと新鮮なヒト軟骨を、SCIDマウスの腎被膜下に不活性スポンジ(例えばコラーゲンスポンジ)と共に共移入し、これらのマウスを60日間維持する(Huber,et al.,2006)。RASF細胞はヒト関節軟骨に侵入して、破壊する。
【0138】
使用する第3のモデルは、抗体誘導関節炎モデルであり、これは、LPS/PBS中の坑II型コラーゲンモノクローナル抗体の混合物を腹腔内に注射することでマウス(例えばBalb/cマウス)にRAを誘導する(Terato,et al.,1992)。
【0139】
第4のモデルは、ウサギの慢性OVA誘導関節炎もしくは抗原誘導関節炎モデルである(Podolin,et al.,2002)。2mlCFA中の10mgOVAを皮下注射することによって動物を感作し、IFA中のOVAを肩甲骨内に投与することによって3〜4週間の間隔で追加投与する。皮膚検査で陽性の動物に、PBS中のOVAをその膝関節に投与する。ウサギに、例えばSLIT断片の忌避因子または媒体を経口投与する。この化合物の効果を測定するために、総細胞数に対する滑液、ディファレンシャル細胞分析、エイコサノイド/サイトカインの測定およびノギスを用いての膝径を決定した。この化合物を投与する前後に血液試料を採血する。
【0140】
滑膜線維芽細胞遊走の変化におけるその関与に対する化合物の検査および関節炎に対する処置オプションの検査の場合、前述の化合物を、生理食塩水溶液でまたはリポソーム製剤等の医薬製剤として場合によりこのシステムに加えることもできる。
【0141】
実施例7:変形性関節症(OA)の処置のための動物モデル
変形性関節症の処置のための動物モデルは、ウサギの前十字靭帯を切断したモデルである。全身麻酔および無菌条件下で、正中傍膝蓋骨切開(内側副靭帯と膝蓋靭帯との間)を経てウサギの膝関節にアプローチする。膝蓋骨を側方に動かして、膝蓋骨内の脂肪パッドを移動させ、収縮させて前十字靭帯全体を露出させる。
【0142】
手術および注射のスケジュールは以下の通りである。群(シャム、媒体および忌避因子)あたり6匹の動物。動物に、好ましくは10日ごとに、1回または複数回(例えば5回)の注射を投与する。最終の注射から10日後に動物を屠殺して、X線写真を撮る。
【0143】
続いて、サフラニンO−ファーストグリーンおよびヘマトキシリン・エオシンによる染色に際して組織学的検討のための試料を調製する(例えば、10%中性緩衝ホルマリンで固定して、EDTAで脱灰およびパラフィン包埋を行う)。
【0144】
実施例8:in vivo遺伝子送達
分子生物学の従来の方法を用いて、遺伝子治療ベクターを構築することができる。滑膜線維芽細胞の非ウイルスおよびウイルス形質導入は、例えばMeinecke et al.,2007に説明されており、これによって参考として援用する。局所関節内の遺伝子治療を、関節リウマチおよび変形性関節症の種々の動物モデル(これらに限定しないが実施例6と7で説明したもの等)で分析することができる。
【0145】
本明細書で引用するそれぞれの特許出願および特許ならびに本明細書で引用するそれぞれの文書または参照文献は、参考として本明細書で援用され、かつ本発明の実施に際して使用され得る(「ここでは引用文献」)。引用したそれぞれの文書または参考文献ならびに特許出願と特許および引用文献内で引用される特許は、参考として本明細書で援用される。
【0146】
好ましい実施形態を例証して説明してきたが、特許請求の範囲によって規定するように、そのより広い態様において本発明から逸脱することなく当業者によって修飾がなされ得ると理解されるべきである。
【0147】
実施例9:GAG放出の抑制
ヒト軟骨(立方体の辺の長さ5mm、各処置で4つの立方体(50mg))の試料を、OA滑膜線維芽細胞(50,000細胞)を含んでまたは含まずにインキュベートした。OASFを有する試料を、それぞれNETRIN1、mSLIT3またはLRR2 dNCmutのいずれかを用いてさらに処置した。共培養から6日後、上清を採取して、GAG濃度を市販のGAG−ELISA(Euro−Diagnostica(スウェーデン国マルメ);Wieslab sGAG定量キット)を用いて測定した。結果を図9に示す。
【0148】

【0149】

【0150】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨欠損の予防および/または処置のための医薬組成物を製造するための忌避因子の使用。
【請求項2】
前記忌避因子がSLIT、NETRIN、EphrinおよびSemaphorinからなる群から選択される、請求項1に記載の軟骨欠損の予防および/または処置のための医薬組成物を製造するための忌避因子の使用。
【請求項3】
前記忌避因子がa)SLIT3(配列番号1)もしくはNETRIN1(配列番号10)のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を有するか、b)SLIT3もしくはNETRIN1の活性断片であるか、またはc)b)の前記活性断片のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を有する、請求項1もしくは2に記載の軟骨欠損の予防および/または処置のための医薬組成物を製造するための忌避因子の使用。
【請求項4】
前記忌避因子が配列番号1〜9もしくは21からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、または配列番号1〜9もしくは21のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも85%の相同性を有し、および前記アミノ酸配列が成熟SLIT3タンパク質よりも短い、請求項1から3までのいずれか一項に記載の忌避因子の使用。
【請求項5】
前記忌避因子がSLIT3(配列番号1)の断片である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の軟骨欠損の予防および/または処置のための医薬組成物を製造するための忌避因子の使用。
【請求項6】
前記忌避因子がROBO受容体、DCCもしくはUNC受容体のアゴニストまたはアンタゴニストである、請求項1もしくは2に記載の軟骨欠損の予防および/または処置のための医薬組成物を製造するための忌避因子の使用。
【請求項7】
関節もしくは非関節軟骨への滑膜線維芽細胞の浸潤もしくは遊走に付随したおよび/またはパンヌス形成に付随した軟骨欠損の予防および/または処置のための医薬組成物を製造するための、請求項1から6までのいずれか一項に記載の忌避因子の使用。
【請求項8】
関節もしくは非関節軟骨への細胞の接着が低下したことに付随する変性疾患である軟骨欠損の予防および/または処置のための医薬組成物を製造するための、請求項1から7までのいずれか一項に記載の忌避因子の使用。
【請求項9】
前記疾患が変性椎間板疾患、半月板断裂、前十字靭帯(ACL)損傷、関節炎、変形性関節症、関節リウマチ、乾癬性関節炎、若年性関節リウマチ、肢根型偽性関節炎、リウマチ様多発性関節炎、滑膜炎または絨毛結節性滑膜炎からなる群から選択される、変性疾患である軟骨欠損の予防および/または処置のための医薬組成物を製造するための、請求項1から8までのいずれか一項に記載の忌避因子の使用。
【請求項10】
前記忌避因子が少なくとも、第2のロイシンに富む反復ドメインまたは相同のロイシンに富む反復ドメイン内でグリコシル化されていない、請求項1から9までのいずれか一項に記載の忌避因子の使用。
【請求項11】
配列番号1から9または21のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも85%のアミノ酸配列相同性を有する単離ポリペプチドであって、前記アミノ酸配列が、軟骨欠損の予防および/または処置のための成熟SLIT3タンパク質よりも短い単離ポリペプチド。
【請求項12】
軟骨欠損の予防および/または処置のための医薬組成物であって、請求項1から10までのいずれか一項に定義される忌避因子または請求項11に記載のポリペプチドを含む、医薬組成物。
【請求項13】
前記ポリペプチドが担体、インプラントまたは送達システムと組み合わせられる、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1から10までのいずれか一項に定義される忌避因子または請求項11に記載のポリペプチドを含む医薬組成物であって、少なくとも1種類の物質、添加剤または血栓形成活性を有するマトリックスをさらに含む医薬組成物。
【請求項15】
請求項1から10までのいずれか一項に明らかされたような忌避因子または請求項11に記載のポリペプチドを含む医薬組成物であって、さらに軟骨細胞を含む医薬組成物。
【請求項16】
前記軟骨細胞がコンドロサイトである、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記医薬組成物が注射用製剤である、請求項1から10までのいずれか一項に記載の忌避因子の使用または請求項12から16までのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記医薬組成物が関節内におよび/または滑膜内に投与するための注射用製剤である、請求項17に記載の忌避因子の使用または請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記医薬組成物が水性液体剤、固形剤、半固形剤,糊状剤、パテ状剤、リポソーム剤、形状安定材、マトリックス剤、in situ硬化材、または組織接着性バイオマテリアルからなる群から選択される、請求項1から10、17もしくは18のいずれか一項に記載の忌避因子の使用または請求項12から16までのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
コンセンサス配列:C(Y)3CYC(Y)6C(Y)99C(Y)47CYC(Y)20C(Y)20C(Y)20C(Y)13-22Cを含み、その配列中、Cはシステインを示し、ならびにYは1つのアミノ酸を示す、軟骨欠損の予防および/または処置のための単離ポリペプチド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2010−539123(P2010−539123A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524408(P2010−524408)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/007579
【国際公開番号】WO2009/033715
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(504439252)エスシーアイエル テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【氏名又は名称原語表記】Scil Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Fraunhoferstrasse 15, D−82152 Martinsried, Germany
【Fターム(参考)】