変色効果を有するインキ及びその印刷物
【課題】セキュリティ性を要求される各種証明書及び有価証券類に対し、印刷物に印字された文字、消印又は割印等を有機溶剤等により消去し、改ざん行為を行うことを確実に検出するため、改ざん行為時の色変化の著しい変色効果インキ及びその印刷物を提供すること。
【解決手段】基材の一部又は全部に、少なくとも水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料、着色顔料及びワニスを含み、有機溶剤への浸漬により、変色効果を有するインキを用いた変色効果領域を少なくとも一つ有する変色効果印刷物を作製する。この変色効果インキは、少なくとも一種類以上の油溶性染料を1〜20重量%と、少なくとも一種類以上の着色顔料を1〜20重量%と、ワニスを50〜90重量%含有するものであり、油溶性染料は、着色顔料の配合重量と比較して、0.85倍以上であることを特徴とする変色効果を有するインキ及びその印刷物である。
【解決手段】基材の一部又は全部に、少なくとも水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料、着色顔料及びワニスを含み、有機溶剤への浸漬により、変色効果を有するインキを用いた変色効果領域を少なくとも一つ有する変色効果印刷物を作製する。この変色効果インキは、少なくとも一種類以上の油溶性染料を1〜20重量%と、少なくとも一種類以上の着色顔料を1〜20重量%と、ワニスを50〜90重量%含有するものであり、油溶性染料は、着色顔料の配合重量と比較して、0.85倍以上であることを特徴とする変色効果を有するインキ及びその印刷物である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物等に印字及び記入した文字、消印、割印等を消去して印刷物等を再使用する化学的改ざん行為に対する抵抗力を付与するための印刷インキ及び印刷物であって、インキは、油溶性染料、着色顔料、ワニス、体質顔料及び添加剤等の助剤で構成されており、セキュリティ性を要求される有価証券類及び各種証明書類等の改ざん防止性に優れたインキ及び印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セキュリティ性を要求される各種証明書及び有価証券類に対し、印刷物等に印字及び記入した文字、消印、割印等を有機溶剤等により消去し、改ざんする行為を防止するために用紙やインキ等に変色効果等の有る材料を改ざん防止のために配合し、当該印刷物が有機溶剤等に接触した場合には印刷物に使用した用紙やインキ等が変色することによって改ざんを防止する方法がある。
【0003】
しかしながら、有機溶剤を使用した改ざん行為の防止に対し、インキ及び印刷物を変色させようとすると、色がにじむ程度又はやや退色する程度で、顕著な変色効果を有するものではなかった。
【0004】
例えば、水不溶性でかつ有機溶剤可溶性の蛍光染料粒子を用紙に内添又は塗工した用紙であって、通常の照明下では染料粒子の存在を確認できず、有機溶剤で改ざんを試みた箇所に紫外線を照射することにより特定の発光が現れることを特徴とする偽造防止用紙がある(特許文献1参照)。
【0005】
また、結合剤マトリックスを形成することのできる少なくとも1つの化合物と、有機溶媒及び他の化学物質に対して感受性を有する少なくとも1つの染料とを含み、前述の結合剤マトリックスを形成する化合物から選択されることを特徴とする滲出性インクがある(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2000−129596号公報
【特許文献2】特表平11−5105448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は、水不溶性で有機溶剤に可溶な蛍光染料を用紙に分散しているため、紫外線を照射しなければ改ざんの有無を確認することができないという問題があった。
【0008】
また、特許文献2は、染料や樹脂を三次元状に架橋させ、架橋内に溶剤が浸透することによって滲みが生じることを特徴とするものであり、印刷物を有機溶剤等に5分ほど浸漬させなければ改ざんの有無を確認できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題を解決するための手段として、少なくとも水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料、着色顔料及びワニスを含む変色効果を有する変色効果インキであって、変色効果インキは、少なくとも一種類以上の油溶性染料を1〜20重量%と、少なくとも一種類以上の着色顔料を1〜20重量%と、ワニスを50〜90重量%含有するものであり、油溶性染料は、着色顔料の配合重量と比較して、0.85倍以上であって、前述の変色効果インキの変色前後の色差が、JIS表色系に基づくΔE20以上の色差であることを特徴とする変色効果を有するインキであることを特徴としている。
【0010】
また、変色効果インキに用いる少なくとも一種類以上の着色顔料は、油溶性染料の色相と色差がΔE30以上の色相となる少なくとも一種類以上の着色顔料を用いる変色効果を有するインキであることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の変色効果を有するインキは、酸化重合型オフセットインキであることを特徴としている。
【0012】
また、基材の一部又は全部に、変色効果を有するインキにより印刷された少なくとも一つの変色効果領域を有する変色効果印刷物であって、変色効果領域は、有機溶剤を塗布又は浸漬させることにより、塗布又は浸漬前後の色差がJIS表色系に基づくΔE20以上の色差の変色効果を有する印刷物であることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の変色効果を有する印刷物は、水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料を用いた変色効果領域として、少なくとも第一の領域及び第二の領域を有し、第一の領域と第二の領域の色差がΔE20以上の色差であって、第一の領域及び第二の領域は、変色後の色相が等色となる変色効果を有する印刷物であることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の変色効果を有する印刷物は、水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料を用いた変色効果領域として、少なくとも第一の領域及び第二の領域を有し、第一の領域と第二の領域が等色であって、第一の領域及び第二の領域は、変色後の色差がΔE30以上の色差である変色効果を有する印刷物であることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の変色効果を有する印刷物は、水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料を用いた変色効果領域として、第一の領域及び第二の領域と、油溶性染料を含まないインキにより印刷された第三の領域を有し、第一の領域、第二の領域及び第三の領域から選択される少なくとも二つ以上の領域の色相が等色の変色効果を有する印刷物であることを特徴している。
【0016】
また、本発明の変色効果を有する印刷物は、水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料を用いた変色効果領域として、第一の領域及び第二の領域と、油溶性染料を含まないインキにより印刷された第三の領域を有し、第一の領域と第二の領域の色差がΔE10以上であって、第一の領域と第三の領域の色差がΔE20以上であって、第二の領域と第三の領域の色差がΔE20以上であって、第一の領域及び第二の領域は、変色後の色相が第三の領域と等色となる変色効果を有する印刷物であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の変色効果を有するインキは、化学的改ざん行為に使用される特定薬品、有機溶剤及びその他の化学物質に接触した時に瞬時または30秒以内に色相が変化するため、印刷物の改ざんを防止できるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明の印刷物は、化学的改ざん行為に使用される特定薬品、有機溶剤及びその他の化学物質に接触した時には、色相変化が顕著に生ずるため、改ざん行為を躊躇させる抑止効果及び容易に改ざん行為の痕跡の有無を確認することができる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を基に説明する。図1は、CIE色相環の色相を示す図を、図2は本発明のインキにて印刷した印刷領域の溶剤浸漬前後の色相変化を示す図を、図3は本発明のインキを用いた印刷物の一例を示す図を、図4は灰色から青色に色相が変化するインキの変色前後をCIE色相環により示す図を、図5は暗緑色から橙色に色相が変化するインキの変色前後をCIE色相環による図をそれぞれ示す。
【0020】
なお、以下に述べる発明を実施するための最良の形態については一例であり、何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の色々な実施の形態に含まれる。
【0021】
本発明の変色効果を有するインキに使用する着色剤は、有機溶剤に不溶性であり、かつ、堅ろう度の高い顔料と有機溶剤可溶性である油溶性染料を組み合わせて使用するものであり、その組合せは、好ましくは着色顔料の色に対して、補色の関係にある油溶性染料を使用するものである。
【0022】
本発明の改ざん防止インキの色変化について図1を基に説明する。図1は一般的に公知であるCIE色度図であるが、横軸に図1の左側からx(0〜1)、縦軸に図1の下側からy(0〜1)をとり、図1の中心部(1)は無彩色を示し、右下(3)は赤色系で、x0.551、y0.281の数値で、左下(4)は青色系で、x0.156、y0.226の数値で、上部(2)は緑色系で、xが0.224、y0.503の数値となっている。
【0023】
CIE色度図を参照し、R(赤色)の顔料を使用する場合には、色度図の反対方向にあるBG(青緑色)の油溶性染料を組み合わせることが望ましいが、色度図のY(黄色)からP(紫色)の補色に隣接した色相の油溶性染料を使用することでも変色効果を示すことができる。
【0024】
本発明は、着色剤、ワニス、体質顔料及び添加剤等の助剤で構成されるインキにおいて、着色剤は0.1〜20重量%の有機溶剤可溶型の油溶性染料と1〜20重量%の着色顔料であって、油溶性染料は着色顔料とΔE30以上の色差であることを特徴とする変色効果を有するインキである。
【0025】
本発明は、着色剤、ワニス、体質顔料及び添加剤等の助剤で構成されるインキにおいて、着色剤は二種類以上の着色顔料で構成され、少なくとも一つは1〜20重量%の着色顔料であって、顔料と使用する顔料より堅ろう度の低い材料、例えば油溶性染料を使用し一般的に公知であるCIE色度図で反対位置にある色、補色同士の関係を用いて求める色相を作製し、有機溶剤を滴下及び浸漬した場合、瞬時に堅ろう度の高い顔料の色が残り、堅ろう度の低い材料は有機溶剤に溶け出すことで、顔料の色だけが残り大きく変色する。
【0026】
本発明の変色効果を有するインキで使用する油溶性染料は、有機溶剤可溶型であれば公知のものを使用できるが、好ましくは、ケトン類及びエステル類等の有機溶剤に対して溶解性を示すものである。
【0027】
なお、油溶性染料とは、主として有機溶剤、合成樹脂、油脂等の着色に用いられる染料であって、多くの場合単なる溶解現象により目的物を着色する点に特徴がある。また、ここでいう油溶とは、油脂類に溶解するという狭義の意味だけではなく、水以外の多くの有機溶剤に溶解性をもつ意味も含んでいる。すなわち、水溶性基がなく、油脂類や炭化水素類に可溶な染料であり、油脂、ガソリン、セッケン、バター、クツ墨及びプラスチック等の着色に用いられるものである。
【0028】
なお、有機溶剤としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール及びブチルアルコール等といったアルコール類のような極性溶剤、ベンゼン、トルエン及びキシレン等といった芳香族炭化水素類のような非極性溶剤、ガソリン、石油、ベンジン、ミネラルスプリット等の脂肪族炭化水素類、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、クロロホルム等といったハロゲン化炭化水素類、アセトン、アセトニトリル、ジイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン等といったケトン類、酢酸エチル及び酢酸ブチル等の酢酸エステル類等の公知の有機溶剤が挙げられる。
【0029】
本発明の変色効果を有するインキに使用する着色顔料は、特に限定されず、公知の顔料を使用することができる。例えば、有機顔料としては酸性染料系レーキ及び塩基性染料系レーキ等といった染付けレーキ顔料、モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、β−ナフトール系、ナフトールAS系、ピラゾロン系及びベンズイミダゾロン系等といった不溶性アゾ顔料をはじめ、縮合アゾ顔料及びアゾレーキ顔料等のアゾ系顔料、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、インジゴ系、ジオキサジン系、キノフタロン系、イソインドリノン系及びジケトピロロピロール系等といった縮合多環系顔料等を使用することができる。
【0030】
また、無機顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、鉄黒等の金属酸化物系顔料、コバルトグリーン、コバルトブルー、コバルトブラック等の複合酸化物系顔料、群青及び紺青等の金属錯塩系顔料、アルミペースト、アルミフレークパウダー、ブロンズ粉及び亜鉛粉等の金属粉系顔料、カーボンブラック及び真珠光沢顔料等の公知の無機顔料を使用することができる。
【0031】
次に、本発明の変色効果インキの変色効果について図2を用いて説明する。インキについては、下記配合で灰色から青色に変色するインキ、暗緑色から橙色に変色するインキ、褐色から黄色に変色するインキ、暗青色から赤色に変色するインキ及び褐色から紫色に変色するインキを作製した。
【0032】
[灰色系から青色に変化するオフセットインキ]
油溶性染料YR(橙色) 15%
青色顔料 10%
黄色顔料 5%
ワニス 60%
助剤 10%
計 100%
【0033】
[暗緑色系から橙色に変化するオフセットインキ]
油溶性染料BK(黒色) 15%
橙色顔料 3%
黄色顔料 7%
青色顔料 1%
ワニス 64%
助剤 10%
計 100%
【0034】
[褐色系から黄色に変化するオフセットインキ]
油溶性染料B(青色) 10%
油溶性染料R(赤色) 5%
赤色顔料 1%
青色顔料 1%
黄色顔料 8%
ワニス 65%
助剤 10%
計 100%
【0035】
[暗青色色系から赤色に変化するオフセットインキ]
油溶性染料BK(黒色) 15%
青色顔料 1%
赤色顔料 7%
黄色顔料 1%
黒色顔料 1%
ワニス 65%
助剤 10%
計 100%
【0036】
[褐色系から紫色に変化するオフセットインキ]
油溶性染料Y(黄色) 15%
赤色顔料 8%
青色顔料 2%
黄色顔料 1%
ワニス 64%
助剤 10%
計 100%
【0037】
前述の変色効果インキについて、IGT・テスティングシステムズ・ジャパンのIGT展色機を用いた膜厚3μmの展色物を作成し、数日経過後、試薬特級アセトン(和光純薬工業(株)製)及び試薬特級酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)を用いて30秒間浸漬させ、印刷物の色相変化を目視並びに分光光度計で評価した。
【0038】
印刷物の色相及び色差は、GretagMacbeth分光光度計(SpectroEye グレタグ社製)を使用し印刷物の色相(L*、a*、b*)及び(X、Y、Z)を測定し、色差(ΔE)及びxyzを算出した。
【0039】
前述の試験結果について図2を基に説明する。灰色から青色に変色するインキは色差がΔE28〜29、暗緑色から橙色に変色するインキは色差がΔE58〜59、褐色から黄色に変色するインキは色差がΔE74〜76、暗青色から赤色に変色するインキは色差がΔE45〜48、褐色から紫色に変色するインキは色差がΔE22〜25であり、目視による評価でも、すべての水準が溶剤浸漬前と後とでは、異なる色相として認識されるものであった。
【0040】
前述の灰色から青色に変色するインキ及び褐色から紫色に変色するインキは、ΔEによる評価では、ΔE20〜30程度と他のインキと比較して顕著な色相変化ではないように感じるが、CIE色度図のx及びy軸の関係から評価すると、灰色から青色に変色するインキは、x0.352、y0.555の位置からx0.266、y0.278の位置に、褐色から紫色に変色するインキは、x0.402、y0.601の位置からx0.36、y0.28の位置に移動していることから、顕著な変色を示していることが分かる。
【0041】
次に、前述の灰色系から青色に変化するインキと暗緑色系から橙色に変化するインキをペアインキとして用いた印刷物について図3を用いて説明する。図3の印刷物(5)は、灰色系から青色に変化するインキを用いた第一の変化領域(6)と、暗緑色系から橙色に変化するインキを用いた第二の変化領域により構成されている。この印刷物(5)を溶剤に30秒間浸漬すると、第一の領域が青色に変色し、第二の領域が橙色に変色するため、双方の領域の色相が大幅に異なり、改ざんの痕跡を顕著に確認できる。
【0042】
図4及び図5は、前述の印刷物について、CIE色相環を用いて色相の変化を示した図であるが、図4の灰色から青色に変化するオフセットインキは、中心部分(1)から若干左方向にずれた位置(5)の色相であったものが、有機溶剤浸漬後には、右下方向の青色領域(4)又は左下の赤色領域(3)に近い部分に移動していることがわかる(6)。また、図5の暗緑色から橙色に変化するオフセットインキは、右下の青色領域(4)付近に位置(5)している色相であったものが、有機溶剤浸漬後には、緑色領域(2)と赤色領域(3)の間に移動(6)していることが分かる。
【0043】
前述のCIE色相環を用いた色相変化の評価から、有機溶剤への浸漬前と浸漬後では、著しく色相が変化していることが分かるが、変色前後をx及びy軸から数値で比較すると、灰色から青色に変色するインキは、変色前の数値が、x0.352、y0.555の値からx0.266、y0.278の値に、暗緑色から橙色に変化するインキは、x0.353、y0.568の値から、x0.47、y0.371数値に変化していることからも顕著な変色効果が確認できる。
【0044】
本発明の変色効果を有するインキは、印刷する基材は特に限定されず、紙、プラスチック、フイルム、金属板に印刷することができるとともに、本発明の変色効果を有するインキは、紙等の基材への印刷方式は特に限定されるものではなく、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、スクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式、凹版印刷方式等の公知の印刷方式を使用することができる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)本発明の実施例として、変色効果を有する二種類の領域を有するインキ及び印刷物について図6、図7及び図8を用いて説明する。図6に示す二種類の変色効果を有するインキは、以下の配合により作製した。
【0046】
[酸化重合乾燥型褐色系から青色に変色するオフセットインキ]
油溶性染料R(赤色) 15%
青色顔料 3%
黄色顔料 1%
赤色顔料 1%
体質顔料 5%
ワニス 65%
助剤 10%
計 100%
【0047】
[酸化重合乾燥型褐色系から黄色に変色する変色効果を有するインキ]
油溶性染料R(赤色) 7%
油溶性染料B(青色) 7%
黄色顔料 7%
赤色顔料 1%
青色顔料 1%
ワニス 67%
助剤 10%
計 100%
【0048】
前述の二種類の変色効果を有するインキは、変色前は等色で、変色後にはΔE50以上のインキである。このインキの色差を図6のCIE色相環を用いて説明する。褐色系から青色に変色するインキと褐色系から黄色に変色するインキは、変色前はともに変色前の領域(8)に存在し、x及びy軸の関係から評価すると、褐色系から青色に変色するインキ青色領域(4)に近い方向に移動し、xが0.375、yが0.345の値からxが0.244、yが0.525の値に移動し、褐色系から黄色に変色するインキは、緑色領域(2)方向に移動し、xが0.37、yが0.358の値からxが0.407、yが0.471の値に移動している。両インキの変色後の色差はΔE89の色差である。
【0049】
次に、前述のインキを用いた印刷物(14)について、図7及び図8を用いて説明する。図7は、褐色系から青色に変色するインキにより第一の印刷領域(15)を、褐色系から黄色に変色するインキにより第二の印刷領域を構成する印刷物(14)である。なお、両インキは等色であるため、通常は不正(16)の文字は視認されないが、図の説明上、不正(16)の文字が確認できる図面としている。
【0050】
この印刷物(14)の溶剤浸漬後を示すのが図8であり、第一の印刷領域が青色に変色し、第二の印刷領域が黄色に変色するため、青色で構成する背景部分(15)と黄色で構成する文字部分(16)の変色により、不正の文字を視認することができ、改ざんの痕跡を顕著に確認することができる。
【0051】
また、実施例1では褐色から青色及び褐色から黄色の変色効果を有するペアインキについて記載したが、その他の変色として褐色から赤色の等色インキも作製可能であることから、シアン、マゼンタ及びイエローの三原色に変色するインキを用いたフルカラーの模様を形成することも可能である。また、変色前の色相を褐色としているが、その他の色相として、暗緑色、灰色、暗青色、暗紫色及び黒色等の三原色を用いて作製できる色相であれば、すべての色相のインキを作製可能である(図示せず)。
【0052】
(実施例2)次に、実施例2として、異なる3色のインキを用いた印刷物が、有機溶剤への浸漬により等色に変色するインキ及び印刷物(17)について図9、図10及び図11を用いて説明する。
【0053】
実施例2の印刷物(17)に用いるインキは、灰色から青色に変色するインキ、褐色から青色に変色するインキ及び変色効果を有しない青色のインキの三種類とした。この三種類のインキの配合については以下に示す。
【0054】
[灰色系から青色に変化するオフセットインキ]
油溶性染料YR(橙色) 15%
青色顔料 10%
黄色顔料 5%
ワニス 60%
助剤 10%
計 100%
【0055】
[酸化重合乾燥型褐色系から青色に変色するオフセットインキ]
油溶性染料R(赤色) 15%
青色顔料 3%
黄色顔料 1%
赤色顔料 1%
体質顔料 5%
ワニス 65%
助剤 10%
計 100%
【0056】
[酸化重合乾燥型の変色効果を有さない青色オフセットインキ]
青色顔料 11%
赤色顔料 6%
黄色顔料 3%
ワニス 70%
助剤 10%
計 100%
【0057】
次に、前述の三種類のインキの色相について図9を用いて説明する。灰色から青色に変色するインキは、中心(1)からやや青色方向(4)の位置から青色(4)と赤色領域(3)の中心付近に変色し、褐色から青色に変色するインキは、中心(1)からやや赤色方向(3)の位置から青色(4)と赤色領域(3)の中心付近に変色し、変色効果を有さない青色インキは前述の二種類のインキの変色後の位置の色相である。これら三種類のインキは、変色後の色相がCIE色相環の同領域に位置するため、等色として視認される。
【0058】
次に、実施例2の印刷物(17)について図10及び図11を用いて説明する。図10の印刷物(17)は、灰色のインキにより第一の印刷領域として背景(18)を形成し、褐色のインキにより第二の印刷領域として証明書(19)という文字を形成し、青色のインキにより花びら模様(20)である第三の印刷領域を形成している。
【0059】
前述の印刷物(17)を溶剤に浸漬した後の図が図11であり、背景を形成する第一の印刷領域(18)及び証明書の文字を形成する第二の印刷領域(19)の色相が、花びらを形成する第三の領域(20)と等色となるため、すべての領域が青色の背景として花びら模様(20)と同化し、証明書の文字(19)及び花びら(20)による領域が消えることから青色一色の印刷物(17)となる。そのため、改ざんの痕跡を確実に確認することができる。なお、図の説明上、証明書(19)の文字及び花びら模様(20)が確認できる図面としている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】CIE色相環の色相を示す図
【図2】本発明のインキにて印刷した印刷領域の溶剤浸漬前後の色相変化を示す図
【図3】本発明のインキを用いた印刷物の一例を示す図
【図4】灰色色相可変インキ変化前後を示す図
【図5】暗緑色色相可変インキ変化前後を示す図
【図6】実施例1のペアインキにおける変色前後の色相を示す図
【図7】実施例1の印刷物を示す図
【図8】実施例1の印刷物の変色後を示す図
【図9】実施例2の三種類のインキにおける変色前後の色相を示す図
【図10】実施例2の印刷物を示す図
【図11】実施例2の印刷物の変色後を示す図
【符号の説明】
【0061】
1 CIE色度図の無彩色領域
2 CIE色度図の緑色系領域
3 CIE色度図の赤色系領域
4 CIE色度図の青色系領域
5 印刷物
6 第一の変色領域
7 第二の変色領域
8 第一のインキにおける色相変化前の色領域
9 第二のインキにおける色相変化前の色領域
10第三のインキにおける色相変化前の色領域
11第一のインキにおける色相変化後の色領域
12第二のインキにおける色相変化後の色領域
13第三のインキにおける色相変化後の色領域
14実施例1の印刷物
15実施例1の第一の印刷領域
16実施例1の第二の印刷領域
17実施例2の印刷物
18実施例2の印刷物における第一の印刷領域
19実施例2の印刷物における第二の印刷領域
20実施例2の印刷物における第三の印刷領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物等に印字及び記入した文字、消印、割印等を消去して印刷物等を再使用する化学的改ざん行為に対する抵抗力を付与するための印刷インキ及び印刷物であって、インキは、油溶性染料、着色顔料、ワニス、体質顔料及び添加剤等の助剤で構成されており、セキュリティ性を要求される有価証券類及び各種証明書類等の改ざん防止性に優れたインキ及び印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セキュリティ性を要求される各種証明書及び有価証券類に対し、印刷物等に印字及び記入した文字、消印、割印等を有機溶剤等により消去し、改ざんする行為を防止するために用紙やインキ等に変色効果等の有る材料を改ざん防止のために配合し、当該印刷物が有機溶剤等に接触した場合には印刷物に使用した用紙やインキ等が変色することによって改ざんを防止する方法がある。
【0003】
しかしながら、有機溶剤を使用した改ざん行為の防止に対し、インキ及び印刷物を変色させようとすると、色がにじむ程度又はやや退色する程度で、顕著な変色効果を有するものではなかった。
【0004】
例えば、水不溶性でかつ有機溶剤可溶性の蛍光染料粒子を用紙に内添又は塗工した用紙であって、通常の照明下では染料粒子の存在を確認できず、有機溶剤で改ざんを試みた箇所に紫外線を照射することにより特定の発光が現れることを特徴とする偽造防止用紙がある(特許文献1参照)。
【0005】
また、結合剤マトリックスを形成することのできる少なくとも1つの化合物と、有機溶媒及び他の化学物質に対して感受性を有する少なくとも1つの染料とを含み、前述の結合剤マトリックスを形成する化合物から選択されることを特徴とする滲出性インクがある(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2000−129596号公報
【特許文献2】特表平11−5105448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は、水不溶性で有機溶剤に可溶な蛍光染料を用紙に分散しているため、紫外線を照射しなければ改ざんの有無を確認することができないという問題があった。
【0008】
また、特許文献2は、染料や樹脂を三次元状に架橋させ、架橋内に溶剤が浸透することによって滲みが生じることを特徴とするものであり、印刷物を有機溶剤等に5分ほど浸漬させなければ改ざんの有無を確認できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題を解決するための手段として、少なくとも水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料、着色顔料及びワニスを含む変色効果を有する変色効果インキであって、変色効果インキは、少なくとも一種類以上の油溶性染料を1〜20重量%と、少なくとも一種類以上の着色顔料を1〜20重量%と、ワニスを50〜90重量%含有するものであり、油溶性染料は、着色顔料の配合重量と比較して、0.85倍以上であって、前述の変色効果インキの変色前後の色差が、JIS表色系に基づくΔE20以上の色差であることを特徴とする変色効果を有するインキであることを特徴としている。
【0010】
また、変色効果インキに用いる少なくとも一種類以上の着色顔料は、油溶性染料の色相と色差がΔE30以上の色相となる少なくとも一種類以上の着色顔料を用いる変色効果を有するインキであることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の変色効果を有するインキは、酸化重合型オフセットインキであることを特徴としている。
【0012】
また、基材の一部又は全部に、変色効果を有するインキにより印刷された少なくとも一つの変色効果領域を有する変色効果印刷物であって、変色効果領域は、有機溶剤を塗布又は浸漬させることにより、塗布又は浸漬前後の色差がJIS表色系に基づくΔE20以上の色差の変色効果を有する印刷物であることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の変色効果を有する印刷物は、水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料を用いた変色効果領域として、少なくとも第一の領域及び第二の領域を有し、第一の領域と第二の領域の色差がΔE20以上の色差であって、第一の領域及び第二の領域は、変色後の色相が等色となる変色効果を有する印刷物であることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の変色効果を有する印刷物は、水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料を用いた変色効果領域として、少なくとも第一の領域及び第二の領域を有し、第一の領域と第二の領域が等色であって、第一の領域及び第二の領域は、変色後の色差がΔE30以上の色差である変色効果を有する印刷物であることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の変色効果を有する印刷物は、水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料を用いた変色効果領域として、第一の領域及び第二の領域と、油溶性染料を含まないインキにより印刷された第三の領域を有し、第一の領域、第二の領域及び第三の領域から選択される少なくとも二つ以上の領域の色相が等色の変色効果を有する印刷物であることを特徴している。
【0016】
また、本発明の変色効果を有する印刷物は、水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料を用いた変色効果領域として、第一の領域及び第二の領域と、油溶性染料を含まないインキにより印刷された第三の領域を有し、第一の領域と第二の領域の色差がΔE10以上であって、第一の領域と第三の領域の色差がΔE20以上であって、第二の領域と第三の領域の色差がΔE20以上であって、第一の領域及び第二の領域は、変色後の色相が第三の領域と等色となる変色効果を有する印刷物であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の変色効果を有するインキは、化学的改ざん行為に使用される特定薬品、有機溶剤及びその他の化学物質に接触した時に瞬時または30秒以内に色相が変化するため、印刷物の改ざんを防止できるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明の印刷物は、化学的改ざん行為に使用される特定薬品、有機溶剤及びその他の化学物質に接触した時には、色相変化が顕著に生ずるため、改ざん行為を躊躇させる抑止効果及び容易に改ざん行為の痕跡の有無を確認することができる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を基に説明する。図1は、CIE色相環の色相を示す図を、図2は本発明のインキにて印刷した印刷領域の溶剤浸漬前後の色相変化を示す図を、図3は本発明のインキを用いた印刷物の一例を示す図を、図4は灰色から青色に色相が変化するインキの変色前後をCIE色相環により示す図を、図5は暗緑色から橙色に色相が変化するインキの変色前後をCIE色相環による図をそれぞれ示す。
【0020】
なお、以下に述べる発明を実施するための最良の形態については一例であり、何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の色々な実施の形態に含まれる。
【0021】
本発明の変色効果を有するインキに使用する着色剤は、有機溶剤に不溶性であり、かつ、堅ろう度の高い顔料と有機溶剤可溶性である油溶性染料を組み合わせて使用するものであり、その組合せは、好ましくは着色顔料の色に対して、補色の関係にある油溶性染料を使用するものである。
【0022】
本発明の改ざん防止インキの色変化について図1を基に説明する。図1は一般的に公知であるCIE色度図であるが、横軸に図1の左側からx(0〜1)、縦軸に図1の下側からy(0〜1)をとり、図1の中心部(1)は無彩色を示し、右下(3)は赤色系で、x0.551、y0.281の数値で、左下(4)は青色系で、x0.156、y0.226の数値で、上部(2)は緑色系で、xが0.224、y0.503の数値となっている。
【0023】
CIE色度図を参照し、R(赤色)の顔料を使用する場合には、色度図の反対方向にあるBG(青緑色)の油溶性染料を組み合わせることが望ましいが、色度図のY(黄色)からP(紫色)の補色に隣接した色相の油溶性染料を使用することでも変色効果を示すことができる。
【0024】
本発明は、着色剤、ワニス、体質顔料及び添加剤等の助剤で構成されるインキにおいて、着色剤は0.1〜20重量%の有機溶剤可溶型の油溶性染料と1〜20重量%の着色顔料であって、油溶性染料は着色顔料とΔE30以上の色差であることを特徴とする変色効果を有するインキである。
【0025】
本発明は、着色剤、ワニス、体質顔料及び添加剤等の助剤で構成されるインキにおいて、着色剤は二種類以上の着色顔料で構成され、少なくとも一つは1〜20重量%の着色顔料であって、顔料と使用する顔料より堅ろう度の低い材料、例えば油溶性染料を使用し一般的に公知であるCIE色度図で反対位置にある色、補色同士の関係を用いて求める色相を作製し、有機溶剤を滴下及び浸漬した場合、瞬時に堅ろう度の高い顔料の色が残り、堅ろう度の低い材料は有機溶剤に溶け出すことで、顔料の色だけが残り大きく変色する。
【0026】
本発明の変色効果を有するインキで使用する油溶性染料は、有機溶剤可溶型であれば公知のものを使用できるが、好ましくは、ケトン類及びエステル類等の有機溶剤に対して溶解性を示すものである。
【0027】
なお、油溶性染料とは、主として有機溶剤、合成樹脂、油脂等の着色に用いられる染料であって、多くの場合単なる溶解現象により目的物を着色する点に特徴がある。また、ここでいう油溶とは、油脂類に溶解するという狭義の意味だけではなく、水以外の多くの有機溶剤に溶解性をもつ意味も含んでいる。すなわち、水溶性基がなく、油脂類や炭化水素類に可溶な染料であり、油脂、ガソリン、セッケン、バター、クツ墨及びプラスチック等の着色に用いられるものである。
【0028】
なお、有機溶剤としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール及びブチルアルコール等といったアルコール類のような極性溶剤、ベンゼン、トルエン及びキシレン等といった芳香族炭化水素類のような非極性溶剤、ガソリン、石油、ベンジン、ミネラルスプリット等の脂肪族炭化水素類、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、クロロホルム等といったハロゲン化炭化水素類、アセトン、アセトニトリル、ジイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン等といったケトン類、酢酸エチル及び酢酸ブチル等の酢酸エステル類等の公知の有機溶剤が挙げられる。
【0029】
本発明の変色効果を有するインキに使用する着色顔料は、特に限定されず、公知の顔料を使用することができる。例えば、有機顔料としては酸性染料系レーキ及び塩基性染料系レーキ等といった染付けレーキ顔料、モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、β−ナフトール系、ナフトールAS系、ピラゾロン系及びベンズイミダゾロン系等といった不溶性アゾ顔料をはじめ、縮合アゾ顔料及びアゾレーキ顔料等のアゾ系顔料、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、インジゴ系、ジオキサジン系、キノフタロン系、イソインドリノン系及びジケトピロロピロール系等といった縮合多環系顔料等を使用することができる。
【0030】
また、無機顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、鉄黒等の金属酸化物系顔料、コバルトグリーン、コバルトブルー、コバルトブラック等の複合酸化物系顔料、群青及び紺青等の金属錯塩系顔料、アルミペースト、アルミフレークパウダー、ブロンズ粉及び亜鉛粉等の金属粉系顔料、カーボンブラック及び真珠光沢顔料等の公知の無機顔料を使用することができる。
【0031】
次に、本発明の変色効果インキの変色効果について図2を用いて説明する。インキについては、下記配合で灰色から青色に変色するインキ、暗緑色から橙色に変色するインキ、褐色から黄色に変色するインキ、暗青色から赤色に変色するインキ及び褐色から紫色に変色するインキを作製した。
【0032】
[灰色系から青色に変化するオフセットインキ]
油溶性染料YR(橙色) 15%
青色顔料 10%
黄色顔料 5%
ワニス 60%
助剤 10%
計 100%
【0033】
[暗緑色系から橙色に変化するオフセットインキ]
油溶性染料BK(黒色) 15%
橙色顔料 3%
黄色顔料 7%
青色顔料 1%
ワニス 64%
助剤 10%
計 100%
【0034】
[褐色系から黄色に変化するオフセットインキ]
油溶性染料B(青色) 10%
油溶性染料R(赤色) 5%
赤色顔料 1%
青色顔料 1%
黄色顔料 8%
ワニス 65%
助剤 10%
計 100%
【0035】
[暗青色色系から赤色に変化するオフセットインキ]
油溶性染料BK(黒色) 15%
青色顔料 1%
赤色顔料 7%
黄色顔料 1%
黒色顔料 1%
ワニス 65%
助剤 10%
計 100%
【0036】
[褐色系から紫色に変化するオフセットインキ]
油溶性染料Y(黄色) 15%
赤色顔料 8%
青色顔料 2%
黄色顔料 1%
ワニス 64%
助剤 10%
計 100%
【0037】
前述の変色効果インキについて、IGT・テスティングシステムズ・ジャパンのIGT展色機を用いた膜厚3μmの展色物を作成し、数日経過後、試薬特級アセトン(和光純薬工業(株)製)及び試薬特級酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)を用いて30秒間浸漬させ、印刷物の色相変化を目視並びに分光光度計で評価した。
【0038】
印刷物の色相及び色差は、GretagMacbeth分光光度計(SpectroEye グレタグ社製)を使用し印刷物の色相(L*、a*、b*)及び(X、Y、Z)を測定し、色差(ΔE)及びxyzを算出した。
【0039】
前述の試験結果について図2を基に説明する。灰色から青色に変色するインキは色差がΔE28〜29、暗緑色から橙色に変色するインキは色差がΔE58〜59、褐色から黄色に変色するインキは色差がΔE74〜76、暗青色から赤色に変色するインキは色差がΔE45〜48、褐色から紫色に変色するインキは色差がΔE22〜25であり、目視による評価でも、すべての水準が溶剤浸漬前と後とでは、異なる色相として認識されるものであった。
【0040】
前述の灰色から青色に変色するインキ及び褐色から紫色に変色するインキは、ΔEによる評価では、ΔE20〜30程度と他のインキと比較して顕著な色相変化ではないように感じるが、CIE色度図のx及びy軸の関係から評価すると、灰色から青色に変色するインキは、x0.352、y0.555の位置からx0.266、y0.278の位置に、褐色から紫色に変色するインキは、x0.402、y0.601の位置からx0.36、y0.28の位置に移動していることから、顕著な変色を示していることが分かる。
【0041】
次に、前述の灰色系から青色に変化するインキと暗緑色系から橙色に変化するインキをペアインキとして用いた印刷物について図3を用いて説明する。図3の印刷物(5)は、灰色系から青色に変化するインキを用いた第一の変化領域(6)と、暗緑色系から橙色に変化するインキを用いた第二の変化領域により構成されている。この印刷物(5)を溶剤に30秒間浸漬すると、第一の領域が青色に変色し、第二の領域が橙色に変色するため、双方の領域の色相が大幅に異なり、改ざんの痕跡を顕著に確認できる。
【0042】
図4及び図5は、前述の印刷物について、CIE色相環を用いて色相の変化を示した図であるが、図4の灰色から青色に変化するオフセットインキは、中心部分(1)から若干左方向にずれた位置(5)の色相であったものが、有機溶剤浸漬後には、右下方向の青色領域(4)又は左下の赤色領域(3)に近い部分に移動していることがわかる(6)。また、図5の暗緑色から橙色に変化するオフセットインキは、右下の青色領域(4)付近に位置(5)している色相であったものが、有機溶剤浸漬後には、緑色領域(2)と赤色領域(3)の間に移動(6)していることが分かる。
【0043】
前述のCIE色相環を用いた色相変化の評価から、有機溶剤への浸漬前と浸漬後では、著しく色相が変化していることが分かるが、変色前後をx及びy軸から数値で比較すると、灰色から青色に変色するインキは、変色前の数値が、x0.352、y0.555の値からx0.266、y0.278の値に、暗緑色から橙色に変化するインキは、x0.353、y0.568の値から、x0.47、y0.371数値に変化していることからも顕著な変色効果が確認できる。
【0044】
本発明の変色効果を有するインキは、印刷する基材は特に限定されず、紙、プラスチック、フイルム、金属板に印刷することができるとともに、本発明の変色効果を有するインキは、紙等の基材への印刷方式は特に限定されるものではなく、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、スクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式、凹版印刷方式等の公知の印刷方式を使用することができる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)本発明の実施例として、変色効果を有する二種類の領域を有するインキ及び印刷物について図6、図7及び図8を用いて説明する。図6に示す二種類の変色効果を有するインキは、以下の配合により作製した。
【0046】
[酸化重合乾燥型褐色系から青色に変色するオフセットインキ]
油溶性染料R(赤色) 15%
青色顔料 3%
黄色顔料 1%
赤色顔料 1%
体質顔料 5%
ワニス 65%
助剤 10%
計 100%
【0047】
[酸化重合乾燥型褐色系から黄色に変色する変色効果を有するインキ]
油溶性染料R(赤色) 7%
油溶性染料B(青色) 7%
黄色顔料 7%
赤色顔料 1%
青色顔料 1%
ワニス 67%
助剤 10%
計 100%
【0048】
前述の二種類の変色効果を有するインキは、変色前は等色で、変色後にはΔE50以上のインキである。このインキの色差を図6のCIE色相環を用いて説明する。褐色系から青色に変色するインキと褐色系から黄色に変色するインキは、変色前はともに変色前の領域(8)に存在し、x及びy軸の関係から評価すると、褐色系から青色に変色するインキ青色領域(4)に近い方向に移動し、xが0.375、yが0.345の値からxが0.244、yが0.525の値に移動し、褐色系から黄色に変色するインキは、緑色領域(2)方向に移動し、xが0.37、yが0.358の値からxが0.407、yが0.471の値に移動している。両インキの変色後の色差はΔE89の色差である。
【0049】
次に、前述のインキを用いた印刷物(14)について、図7及び図8を用いて説明する。図7は、褐色系から青色に変色するインキにより第一の印刷領域(15)を、褐色系から黄色に変色するインキにより第二の印刷領域を構成する印刷物(14)である。なお、両インキは等色であるため、通常は不正(16)の文字は視認されないが、図の説明上、不正(16)の文字が確認できる図面としている。
【0050】
この印刷物(14)の溶剤浸漬後を示すのが図8であり、第一の印刷領域が青色に変色し、第二の印刷領域が黄色に変色するため、青色で構成する背景部分(15)と黄色で構成する文字部分(16)の変色により、不正の文字を視認することができ、改ざんの痕跡を顕著に確認することができる。
【0051】
また、実施例1では褐色から青色及び褐色から黄色の変色効果を有するペアインキについて記載したが、その他の変色として褐色から赤色の等色インキも作製可能であることから、シアン、マゼンタ及びイエローの三原色に変色するインキを用いたフルカラーの模様を形成することも可能である。また、変色前の色相を褐色としているが、その他の色相として、暗緑色、灰色、暗青色、暗紫色及び黒色等の三原色を用いて作製できる色相であれば、すべての色相のインキを作製可能である(図示せず)。
【0052】
(実施例2)次に、実施例2として、異なる3色のインキを用いた印刷物が、有機溶剤への浸漬により等色に変色するインキ及び印刷物(17)について図9、図10及び図11を用いて説明する。
【0053】
実施例2の印刷物(17)に用いるインキは、灰色から青色に変色するインキ、褐色から青色に変色するインキ及び変色効果を有しない青色のインキの三種類とした。この三種類のインキの配合については以下に示す。
【0054】
[灰色系から青色に変化するオフセットインキ]
油溶性染料YR(橙色) 15%
青色顔料 10%
黄色顔料 5%
ワニス 60%
助剤 10%
計 100%
【0055】
[酸化重合乾燥型褐色系から青色に変色するオフセットインキ]
油溶性染料R(赤色) 15%
青色顔料 3%
黄色顔料 1%
赤色顔料 1%
体質顔料 5%
ワニス 65%
助剤 10%
計 100%
【0056】
[酸化重合乾燥型の変色効果を有さない青色オフセットインキ]
青色顔料 11%
赤色顔料 6%
黄色顔料 3%
ワニス 70%
助剤 10%
計 100%
【0057】
次に、前述の三種類のインキの色相について図9を用いて説明する。灰色から青色に変色するインキは、中心(1)からやや青色方向(4)の位置から青色(4)と赤色領域(3)の中心付近に変色し、褐色から青色に変色するインキは、中心(1)からやや赤色方向(3)の位置から青色(4)と赤色領域(3)の中心付近に変色し、変色効果を有さない青色インキは前述の二種類のインキの変色後の位置の色相である。これら三種類のインキは、変色後の色相がCIE色相環の同領域に位置するため、等色として視認される。
【0058】
次に、実施例2の印刷物(17)について図10及び図11を用いて説明する。図10の印刷物(17)は、灰色のインキにより第一の印刷領域として背景(18)を形成し、褐色のインキにより第二の印刷領域として証明書(19)という文字を形成し、青色のインキにより花びら模様(20)である第三の印刷領域を形成している。
【0059】
前述の印刷物(17)を溶剤に浸漬した後の図が図11であり、背景を形成する第一の印刷領域(18)及び証明書の文字を形成する第二の印刷領域(19)の色相が、花びらを形成する第三の領域(20)と等色となるため、すべての領域が青色の背景として花びら模様(20)と同化し、証明書の文字(19)及び花びら(20)による領域が消えることから青色一色の印刷物(17)となる。そのため、改ざんの痕跡を確実に確認することができる。なお、図の説明上、証明書(19)の文字及び花びら模様(20)が確認できる図面としている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】CIE色相環の色相を示す図
【図2】本発明のインキにて印刷した印刷領域の溶剤浸漬前後の色相変化を示す図
【図3】本発明のインキを用いた印刷物の一例を示す図
【図4】灰色色相可変インキ変化前後を示す図
【図5】暗緑色色相可変インキ変化前後を示す図
【図6】実施例1のペアインキにおける変色前後の色相を示す図
【図7】実施例1の印刷物を示す図
【図8】実施例1の印刷物の変色後を示す図
【図9】実施例2の三種類のインキにおける変色前後の色相を示す図
【図10】実施例2の印刷物を示す図
【図11】実施例2の印刷物の変色後を示す図
【符号の説明】
【0061】
1 CIE色度図の無彩色領域
2 CIE色度図の緑色系領域
3 CIE色度図の赤色系領域
4 CIE色度図の青色系領域
5 印刷物
6 第一の変色領域
7 第二の変色領域
8 第一のインキにおける色相変化前の色領域
9 第二のインキにおける色相変化前の色領域
10第三のインキにおける色相変化前の色領域
11第一のインキにおける色相変化後の色領域
12第二のインキにおける色相変化後の色領域
13第三のインキにおける色相変化後の色領域
14実施例1の印刷物
15実施例1の第一の印刷領域
16実施例1の第二の印刷領域
17実施例2の印刷物
18実施例2の印刷物における第一の印刷領域
19実施例2の印刷物における第二の印刷領域
20実施例2の印刷物における第三の印刷領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料、着色顔料及びワニスを含む変色効果インキであって、前記変色効果インキは、少なくとも一種類以上の前記油溶性染料を1〜20重量%と、少なくとも一種類以上の前記着色顔料を1〜20重量%と、前記ワニスを50〜90重量%含有するものであり、前記油溶性染料は、前記着色顔料の配合重量と比較して、0.85倍以上であり、前記変色効果インキの変色前後の色差が、JIS表色系に基づくΔE20以上の色差であることを特徴とする変色効果インキ。
【請求項2】
前記変色効果インキに用いる少なくとも一種類以上の前記着色顔料は、前記油溶性染料の色相と色差がΔE50以上の色相となる少なくとも一種類以上の着色顔料を用いることを特徴とする請求項1記載の変色効果インキ。
【請求項3】
前記変色効果インキは、酸化重合型オフセットインキであることを特徴とする請求項1又は2記載の変色効果インキ。
【請求項4】
基材の一部又は全部に、前記請求項1から前記請求項3のいずれかに記載の変色効果インキにより印刷された少なくとも一つの変色効果領域を有することを特徴とする変色効果を有する印刷物。
【請求項5】
請求項4記載の印刷物の、偽造防止印刷物及び/又は真偽判別印刷物としての使用。
【請求項1】
少なくとも水不溶性有機溶剤可溶型の油溶性染料、着色顔料及びワニスを含む変色効果インキであって、前記変色効果インキは、少なくとも一種類以上の前記油溶性染料を1〜20重量%と、少なくとも一種類以上の前記着色顔料を1〜20重量%と、前記ワニスを50〜90重量%含有するものであり、前記油溶性染料は、前記着色顔料の配合重量と比較して、0.85倍以上であり、前記変色効果インキの変色前後の色差が、JIS表色系に基づくΔE20以上の色差であることを特徴とする変色効果インキ。
【請求項2】
前記変色効果インキに用いる少なくとも一種類以上の前記着色顔料は、前記油溶性染料の色相と色差がΔE50以上の色相となる少なくとも一種類以上の着色顔料を用いることを特徴とする請求項1記載の変色効果インキ。
【請求項3】
前記変色効果インキは、酸化重合型オフセットインキであることを特徴とする請求項1又は2記載の変色効果インキ。
【請求項4】
基材の一部又は全部に、前記請求項1から前記請求項3のいずれかに記載の変色効果インキにより印刷された少なくとも一つの変色効果領域を有することを特徴とする変色効果を有する印刷物。
【請求項5】
請求項4記載の印刷物の、偽造防止印刷物及び/又は真偽判別印刷物としての使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−149789(P2009−149789A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329662(P2007−329662)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】
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