説明

変色性インキ組成物および筆記具

【課題】40℃〜120℃程度に加熱することにより、不可逆的に消去可能な、変色性インキ組成物であって、所定の温度(特に55℃程度)まで変色が開始しないインキ組成物を提供する。
【解決手段】 電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の群と、融点40〜120℃の芳香族化合物とを混合して有色粒子を形成し、電子受容性化合物により発色した電子供与性呈色性有機化合物を消色剤から分離して発色状態を保ち、加熱により芳香族化合物を液化させて、消色剤を電子受容性化合物に作用させることにより、電子供与性呈色性有機化合物を消色状態にする、変色性インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙に筆記または印字等した文字および塗膜等を、加熱することにより変色することが可能であり、かつ変色した文字等が元の色に戻りにくい、変色性インキ組成物およびそれを用いた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
紙に筆記又は印字した筆跡もしくは塗膜を、加熱により、あるいは有機溶剤を用いて、消色できる変色性インキ組成物が、これまでに種々提案されている。変色性インキ組成物は、紙の再利用に資するものとして、または書き誤りを容易に訂正できるものとして、有用である。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平9−165537号公報)では、ロイコ染料に顕色剤を反応させて発色してなる着色剤と消色剤とを水に分散してなる熱消去性インキ組成物が提案されている。特許文献2(特開2001−123084号公報)では、顕色剤、呈色性化合物および消去剤からなる可消色性色素組成物であって、発色状態の組成物中では、消色剤の主要成分がその形状を球で近似したときの平均直径が1nm乃至100μmの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、消色状態の組成物中では、消色剤の主要成分が分子分散されて存在する、可消色性色素組成物が提案されている。
【0004】
特許文献3(特公平5−87105号公報)は、融点または軟化点が60〜180℃の熱溶融性水不溶樹脂、カラーフォーマ、揮発性顕色剤を少なくとも含有する樹脂組成物と、融点または軟化点が60〜180℃の不揮発性消色剤あるいは該不揮発性消色剤を含有する樹脂組成物が、別々の微粒子として水を主体とする媒体中に混合分散されている、加熱消色性インクジェットインク組成物が提案されている。特許文献4(特開2005−89548号公報)は、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする媒体として、特定のエステル化合物の均質相溶体からなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包したマイクロカプセル顔料と、樹脂を含むビヒクルとからなる感温変色性色彩記憶性液状組成物を提案している。
【0005】
特許文献5は、前記特許文献1〜4に記載の組成物において見られる、後述の不都合を解消ないしは軽減するために、1)電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物とを含むワックス粒子、消色剤、および水を含む、変色性インキ組成物、および2)電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物とを含むワックス粒子、消色剤を含むワックス粒子、および水を含む、変色性インキ組成物を提案している。特許文献5は、また、ワックスとして、40℃〜120℃の範囲内にある融点を有する脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸無水物、アシルグリセリン、および脂肪酸アミド等を使用することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−165537号公報
【特許文献2】特開2001−123084号公報
【特許文献3】特公平5−87105号公報
【特許文献4】特開2005−89548号公報
【特許文献5】国際公開WO/2009/060972パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献に記載の組成物は、いずれも消色性インキ組成物として使用するには、なお改善の余地を有している。例えば、特許文献1に記載の熱消去性インキ組成物は、着色剤と消色剤とが合わせて水に分散されるため、着色剤が消色剤と接触する確率が高く、熱が加わらなくても、消色が生じる可能性がある。そのような可能性を低くして、着色剤の安定性を高くするには、消色剤を、より高い温度で作用するように選択する必要がある。そのことは、消色に必要な熱量を大きくし、消色作業のコストを高くする、および/または消色のための加熱装置を要し、誰もが簡易に消色作業を行うこと難しくする。
【0008】
特許文献2に記載の可消色性色素組成物は、発色状態における消色剤自体の寸法を制御する必要があり、このことは、組成物の調製を困難にする。また、特許文献2において、消色状態にするために、温度を190℃、200℃とすることが例示されており、このように高い温度を達成するには、大量の熱を要し、また、消色作業に何らかの加熱装置を必ず用いなければならない。
【0009】
特許文献3に記載のインク組成物は、布帛類に裁断や縫製のための位置情報や部材名や使用部分などの情報を付与するために用いられるものであり、紙に筆記または印字するためのインキ組成物ではない。また、同文献の実施例で採用されている消色温度は、160℃および150℃と高く、同文献に記載のインク組成物は、特許文献1および2に関連して指摘した問題と同様の問題を有する。
【0010】
特許文献4に記載の感温変色性色彩記憶性組成物は、同文献の図1および図2に記載のように、高温となると色濃度が低下し(即ち、消色され)、その後、冷却されると、色濃度は低いままであるが、ある温度まで冷却されると、色濃度が再び高くなる。そのため、この組成物で筆記または印字した文字等を消去しても、温度によっては、消去した文字等が「戻る」ことがある。このような「戻り」は、例えば、文字を消去した紙を再び利用する場合、あるいは文字を消去した部分にさらに文字を書く場合には、避ける必要がある。
【0011】
特許文献5に記載の変色性インキ組成物は、筆記または印字された文字等の発色が安定して維持されるとともに、紙面を擦るときに生じる摩擦熱程度の熱を加えることにより消色可能であり、かつ消色の安定性が良好なものである。しかし、同文献に記載の脂肪族系化合物またはその誘導体をワックスとして用いた組成物は、高温(例えば、50〜55℃程度)で保管したときに、若干の変色を生じることがあることがわかった。また、同文献に記載の脂肪族系化合物またはその誘導体をワックスとして用いた組成物の幾つかは、消色が開始してから終了するまでの温度範囲が比較的広くなることもわかった。ここで、消色が終了してから開始するまでの温度範囲とは、色が薄くなりはじめる温度から、色が所望のように薄くなるまでの温度範囲をいい、所望のように薄くなったことは、例えば後述する色差計で測定される色差(ΔE*)によって判断され得る。そのような変色性インキ組成物は、所望のように変色するまでに、長い時間または大きな加熱速度を要する。
【0012】
このように、従前の消色性インキ組成物は、消色に要する温度、発色の安定性、製造の容易さ、消色の安定性、高温保管性、および消色開始温度から終了温度までの範囲等の点から、用途によっては、なお改善の余地があった。本発明は、筆記または印字された文字等の発色が安定して維持されるとともに、紙面を擦るときに生じる摩擦熱程度の熱を加えることにより消色可能であり、かつ消色の安定性が良好であって、高温での保管性に優れる、変色性インキ組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記特性に加えて、消色が狭い温度範囲内で終了する特性を有する、変色性インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の変色性インキ組成物は、電子供与性呈色性有機化合物が電子受容性化合物により発色している状態で、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物の群を、融点が40℃〜120℃である芳香族化合物、好ましくは、一分子内にベンゼン環を2つ以上含む芳香族化合物を用いて、消色剤から分離することによって、上記課題を解決した。
【0014】
本発明は、第1の要旨において、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と融点が40℃〜120℃の芳香族化合物とを含む有色粒子、消色剤、および水を含む、変色性インキ組成物を提供する。
【0015】
本発明は、第2の要旨において、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と融点が40℃〜120℃の芳香族化合物とを含む有色粒子、消色剤と融点が40℃〜120℃の芳香族化合物とを含む消色用粒子、および水を含む、変色性インキ組成物を提供する。
【0016】
ここで、「変色」という用語は、色の色相、彩度および明度のうち、少なくともいずれか一つが変化することをいい、色が無色に変化すること(即ち、「消色」および「消去」)の概念を含む。また、「消色」および「消去」という用語は、色が全く認識できないようにすること(即ち、無色にすること)のみならず、色を薄くすること(より無色に近い状態にすること)をも含む意味で使用される。
【0017】
本発明の変色性インキ組成物は、加熱前、即ち、電子供与性呈色性有機化合物が電子受容性化合物により発色している状態において、少なくとも電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の群が、前記特定の融点を有する芳香族化合物とともに、粒子状物を形成することによって、電子供与性呈色性有機化合物の多く(具体的には、粒子の表面に存在しない電子供与性呈色性有機化合物)と消色剤が接触することを防止し、それにより電子供与性呈色性有機化合物の良好な発色を維持している。変色は、芳香族化合物を液化させることにより、消色剤を電子供与性呈色性有機化合物に接近させて、電子受容性化合物と消色剤とを相互作用させることにより行う。本発明の変色性インキ組成物は、発色成分として、電子供与性呈色性有機化合物のみを含む場合には、加熱により、消色されることとなる。
【0018】
有色粒子を構成する芳香族化合物は、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物を分散させる媒体として粒子を構成し、40℃〜120℃の範囲内にある融点を有する。この温度範囲内にある温度は、例えば、紙面に筆記または印字された文字および塗膜等を弾性体で擦るときに発生する摩擦熱により得られる温度である。よって、融点がこの温度範囲内にある芳香族化合物を用いれば、筆記または印字された文字等を、弾性体で擦ることにより、変色させることが可能である。
【0019】
また、本発明の変色性インキ組成物は、芳香族化合物の融点に応じて、所定の温度に達するまで、その発色を保つ。即ち、所定の温度に達するまで、その発色が変化しない、または発色の度合いが僅かに高くなるように変化する。このことは、発色の安定性を向上させ、前記所定の温度を例えば55℃程度となるように、芳香族化合物の融点を選択することによって、高温で、この変色性インキ組成物を保管することが可能となる。
【0020】
さらに、本発明の変色性インキ組成物は、消色が開始してから終了するまでの温度範囲が、より狭くなる傾向、および/または変色の度合いが大きい傾向を示す。このことは、迅速な変色性および/または明りょうな変色性を、変色性インキ組成物に与える。
【0021】
消色剤は、いずれの要旨の変色性インキ組成物においても、塩基性化合物であることが好ましい。ここで、塩基性化合物とは、電子対を供与する性質を有する化合物を指す。塩基性化合物は、具体的には、
脂肪族アミン、
脂肪族ジアミン、
アミノアルコール、
分子内にアミノ基を1つ以上含み、アミノ基と芳香環の間にアルキレン基を有する、芳香族化合物、
一般式NH−C−(NH−C−NH(n≧0)で表される化合物およびその誘導体、
イミダゾールおよびその誘導体、
ならびに一般的にヒンダードアミンと呼ばれる、ピペリジル基およびその誘導体を分子内に持つ化合物から選択されることが好ましい。これらの化合物は、電子受容性化合物と反応しやすく、良好な変色性をインキ組成物に付与する。
【0022】
本発明の変色性インキ組成物は、加熱により変色しない着色剤をさらに含んでよい。その場合、電子供与性呈色性有機化合物が消色剤の作用によって消色状態となったときに、当該着色剤の色が現れることとなる。
【0023】
本発明の変色性インキ組成物は、筆記具のインキとして用いることができる。本発明の変色性インキ組成物をインキとして用いる筆記具で筆記した筆跡等は、筆記した後で、例えば、消しゴム又は軟質の弾性樹脂のような弾性体で擦ることにより、変色させる(例えば、消色する)ことができる。あるいは、本発明の変色性インキ組成物は、インクジェットプリンタ用のインキとして用いることができる。あるいはまた、本発明の変色性インキ組成物は、温度インジケータとして用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の変色性インキ組成物は、電子受容性化合物により発色している電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と融点が40℃〜120℃の芳香族化合物とを含む、有色粒子を含み、場合により、消色剤と融点が40℃〜120℃の芳香族化合物とが別の粒子を形成している状態で、発色を呈し、加熱により芳香族化合物(消色剤が芳香族化合物と粒子を形成している場合には、加えて、当該芳香族化合物)が液状化すると、電子供与性呈色性有機化合物が消色状態になる。即ち、本発明の変色性インキ組成物は、室温では、融点が40℃〜120℃の芳香族化合物によって、発色した電子供与性呈色性有機化合物が消色剤から分離されて退色が防止され、加熱されると、液化した芳香族化合物が媒体となって、電子供与性呈色性有機化合物の消色が促進される。
【0025】
よって、本発明のインキ組成物は、発色成分として電子供与性呈色性有機化合物のみを含む場合には、良好な発色の維持と、確実な消色の実行が両立されたものとなる。本発明のインキ組成物が加熱により変色しない着色剤を含有する場合には、発色状態にある電子受容性化合物の色と着色剤の色との混色から、加熱により、その着色剤の色がより強く現れる色に変化するものとなり、加熱前後で異なる色を良好に呈する。
【0026】
本発明のインキ組成物は、融点が40℃〜120℃の範囲内にある芳香族化合物を用いて有色粒子を構成することにより、小さい熱量で消色が可能となり、また、芳香族化合物の融点を適宜選択することにより、所定の温度まで消色が開始しないものとなる。したがって、例えば、筆記した文字または塗膜を擦る等の比較的簡単な操作で、文字または塗膜を変色させることができるとともに、発色した状態を所定の温度まで、より良好に維持することが可能となる。さらに、前記所定の融点の芳香族系化合物を用いることにより、消色が開始してから終了するまでの温度範囲が狭いインキ組成物が得られることがあり、そのようなインキ組成物は、消色までの時間を短くすること、または消色に要する労力を小さくすることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例2で作製したインキ組成物の変色温度曲線を示すグラフである。
【図2】実施例3で作製したインキ組成物の変色温度曲線を示すグラフである。
【図3】比較例1で作製したインキ組成物の変色温度曲線を示すグラフである。
【図4】比較例2で作製したインキ組成物の変色温度曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の変色性インキ組成物は、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、消色剤、および水を含み、1)電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物との組み合わせが、融点40℃〜120℃の芳香族化合物とともに有色粒子を形成している形態、および2)電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物との組み合わせが、融点40℃〜120℃の芳香族化合物とともに有色粒子を形成し、かつ消色剤が融点40℃〜120℃の芳香族化合物とともに消色用粒子を形成している形態のいずれかをとる。電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物が、前記所定の融点を有する芳香族化合物とともに粒子を形成することにより、安定した発色状態を得ることができる。さらに、消色剤が芳香族化合物とともに粒子を形成することにより、消色剤がインキ組成物中の添加剤と反応して、その消色機能が阻害されることを防止できる。以下、本発明の変色性インキ組成物(単に「インキ組成物」と呼ぶことがある)に含まれる成分を説明する。
【0029】
(電子供与性呈色性有機化合物)
本発明の変色性インキ組成物は、電子供与性呈色性有機化合物を含む。電子供与性呈色性有機化合物は、電子受容性化合物により呈色する化合物であり、発色成分ともいえる。電子供与性呈色性有機化合物は、特に限定されず、公知の電子供与性呈色性有機化合物(例えば、ロイコ染料)を任意に使用できる。具体的には、例えば、下記の化合物を電子供与性呈色性有機化合物として使用できる。
【0030】
・フルオラン類、例えば、1,2-ベンゾ-6-(N-エチル-N-イソアミルアミノ)フルオラン、2-アニリノ-3-メチル-5-(N-エチル-N-n-プロピルアミノ)フルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-(4-ジ-n-ブチルアミノアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-6-ベンジルオキシフルオラン、3,6−ジフェニルアミノフルオラン、3,6−ジフェニルアミノフルオラン、2'-[(2-クロロフェニル)アミノ]-6'-(ジブチルアミノ)スピロ[イソベンゾフルオラン-1(3H),9'-(9H)キサンテン]-3-オン、6'-[エチル(4-メチルフェニル)アミノ]-2'-メチル-スピロ[イソベンゾフルオラン-1(3H),9'-(9H)キサンテン]-3-オン、および6-(ジメチルアミノアミノ)-3,3-ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1(3H)-イソベンゾフルオラン
・フェノチアジン類、例えば、ベンゾイルロイコメチレンブルー、エチルロイコメチレンブルー、
・インドリン類、例えば、2-(フェニルイミノエチリデン)-3,3-ジメチルインドリン
【0031】
・スピロピラン類、例えば、1,3,3-トリメチル-インドリノ-7-クロル-β-ナフトスピロピラン、N-3,3-トリメチルインドリノベンゾスピロピラン;
・ロイコオーラミン類、例えば、N-アセチルオーラミン、N-フェニルオーラミン;
・ローダミンラクタム類、例えば、ローダミンBラクタム;
・ポリアリールカルビノール類、例えば、クリスタルバイオレットカルビノール、マラカイトグリーンカルビノール;
【0032】
・ジフェニルメタンフタリド類、例えば、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメ
チルアミノフタリド、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)フタリド;
・トリフェニルメタンフタリド類、例えば、クリスタルバイオレットラクトン、マラカイトグリーンラクトン;
・フェニルインドリルフタリド類、例えば、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(2-メチル-4-ジエチルアミノ)フェニル-3-(1-(2-メトキシエチル)-2-メチルインドール-3-イル)フタリド;
【0033】
・ジフェニルメタンアザフタリド類、例えば、3,3-ビス-(2-エトキシ-4-ジエチルアミノ
フェニル)-4-アザフタリド;
・フェニルインドリルアザフタリド類、例えば、3-(2-エトキシ-4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド;
・スチリルキノリン類、例えば、2-(3-メトキシ-4-ドデコキシスチリル)キノリン;
【0034】
・ピリジン類、例えば、2,6-ビス(6-n-ブトキシフェニル)-4-(4-ジメチルアミノフェニル)ピリジン;
・キナゾリン類、例えば、2-(4-ジメチルアミノフェニル)-4-メトキシキナゾリン、2-(4-ジメチルアミノフェニル)-4-(1-クロロフェニルオキシ)キナゾリン;
・ビスキナゾリン類、例えば、4,4'-(エチレンジオキシ)-ビス[2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン]、4,4'-(エチレンジオキシ)-ビス[2-(4-ピペリジノフェニル)キナゾリ
ン];
【0035】
・エチレノフタリド類、例えば、3,3-ビス[1,1-ビス-(p-ジメチルアミノフェニル)エチレノ-2]フタリド、3,3-ビス[1,1-ビス-(2-メチル-4-ジメチルアミノフェニル)エチレノ-2]フタリド;
・エチレノアザフタリド類、例えば、3,3-ビス[1,1-ビス-(p-ジメチルアミノフェニル)エチレノ-2]-4-アザフタリド、3,3-ビス[1,1-ビス-(p-ジメチルアミノフェニル)エチレノ-2]-4,7-ジアザフタリド;
・フルオレン類、例えば、3,6-ビス(ジメチルアミノ)フルオレンスピロ(9.3')-4'-アザフタリド、3,6-ビス(ジメチルアミノ)フルオレンスピロ(9.3')-7'-アザフタリド。
【0036】
好ましくは、電子供与性呈色性有機化合物として、フルオラン類である、2'-[(2-クロロフェニル)アミノ]-6'-(ジブチルアミノ)スピロ[イソベンゾフルオラン-1(3H),9'-(9H)キサンテン]-3-オン、3,6−ジフェニルアミノフルオラン、6'-[エチル(4-メチルフェニル)アミノ]-2'-メチル-スピロ[イソベンゾフルオラン−1(3H),9'-(9H)キサンテン]-3-オン、および6-(ジメチルアミノアミノ)-3,3-ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1(3H)-イソベンゾフルオランが用いられる。電子供与性呈色性有機化合物として、1種の化合物のみを用いてよく、あるいは複数の化合物を用いてよい。
【0037】
電子供与性呈色性有機化合物は、インキ組成物全体において、組成物全体の0.01〜40重量%の量で含まれることが好ましく、0.1〜20重量%の量で含まれることがより好ましい。電子供与性呈色性有機化合物が少なすぎると、発色濃度が低くなる。電子供与性呈色性有機化合物が多すぎると、電子供与性呈色性有機化合物が析出することがある。析出した電子供与性呈色性有機化合物は、有色粒子中の電子受容性化合物により発色されないことがあり、あるいは筆記具や印刷機(例えば、インクジェットプリンタ)のインキ吐出部で目詰まりを生じさせる。
【0038】
電子供与性呈色性有機化合物は、有色粒子中、0.01重量%〜40重量%含まれることが好ましく、0.1重量%〜20重量%含まれることがより好ましい。電子供与性呈色性有機化合物が1つの有色粒子において、0.01重量%未満の量で含まれると、発色濃度が低下し、40重量%を超える量で含まれると、電子供与性呈色性有機化合物が析出するために粒子化が困難になる。
【0039】
(電子受容性化合物)
電子受容性化合物は、電子供与性呈色性有機化合物に作用して、電子供与性呈色性有機化合物を発色させる。電子受容性化合物は、活性プロトンを有する化合物、偽酸性化合物または電子空孔を有する化合物である。
【0040】
電子受容性化合物は、特に限定されない。例えば、フェノール性水酸基を有する化合物(例えば、フェノール、o−クレゾール、m−オクチルフェノール、n−ドデシルフェノール、n−ステアリルフェノール、カルボン酸類及びその金属塩(例えば、サリチル酸亜鉛、3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛)、酸性リン酸エステル類及びその金属塩、尿素・チオ尿素系化合物、および1,2,3−トリアゾール及びその誘導体を、電子受容性化合物として使用できる。
【0041】
電子受容性化合物は好ましくは不揮発性であって、昇華性を有しない。電子受容性化合物が揮発性または昇華性であると、筆記または印字した文字または塗膜の色濃度が経時的に変化することがある。
【0042】
好ましくは、電子受容性化合物として、サリチル酸亜鉛および3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛が用いられる。電子受容性化合物として、1種の化合物のみ用いてよく、あるいは複数の化合物を用いてよい。
【0043】
電子受容性化合物は、インキ組成物において、組成物全体の0.01〜50重量%の量で含まれることが好ましく、0.1〜20重量%の量で含まれることがより好ましい。電子受容性化合物が少なすぎると、発色濃度が低くなる。電子受容性化合物が多すぎると、電子受容性化合物が析出することがある。電子受容性化合物が析出すると、筆記具や印刷機(例えば、インクジェットプリンタ)の吐出部で目詰まりを生じさせる。
【0044】
電子受容性化合物は、有色粒子中、0.1重量%〜60重量%含まれることが好ましく、1重量%〜40重量%含まれることがより好ましい。1つの有色粒子において、電子受容性化合物が0.1重量%未満の量で含まれると、発色濃度が低下し、60重量%を超える量で含まれると、電子受容性化合物が析出するため、粒子化が困難になる。
【0045】
(消色剤)
消色剤は、電子受容性化合物による顕色作用を阻害する。したがって、消色剤は、消去操作を行うときに、電子供与性呈色性有機化合物の発色を無くす又は弱める役割を果たす。消色剤は、好ましくは塩基性化合物である。インキ組成物の変色性は、消色剤の塩基性の強さと関係すると考えられ、消色剤の塩基性が強いほど、発色状態の電子供与性呈色性有機化合物をより良好に消色状態にすることができ、インキ組成物の加熱による変色性を向上させる。本発明においては、消色剤として、下記の化合物から選択される化合物を使用することが好ましい。
脂肪族アミン、
脂肪族ジアミン、
アミノアルコール、
分子内にアミノ基を1つ以上含み、アミノ基と芳香環の間にアルキレン基を有する、芳香族化合物、
一般式NH−C−(NH−C−NH(n≧0)で表される化合物およびその誘導体、イミダゾールおよびその誘導体、ならびに
一般的にヒンダードアミンと呼ばれる、ピペリジル基およびその誘導体を分子内に持つ化合物。
【0046】
脂肪族アミンは、第1アミン、第2アミンまたは第3アミンである。脂肪族アミンは、好ましくは、第2アミンまたは第3アミンである。脂肪族アミンは、具体的には、オクチルアミン、デシルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミン、トリオクチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジステアリルアミン、およびビス(2−ヒドロキシエチル)オレイルアミン等である。
【0047】
脂肪族ジアミンは、脂肪族化合物の水素が2つのアミノ基で置換されている化合物である。脂肪族ジアミンは、炭素数の数が大きいほど、消色剤として、より高い消色性能が示す傾向にある。しかし、炭素数がある程度を超えると、消色性能はそれほど変化しない。よって、脂肪族ジアミンは、好ましくは、3〜30個の炭素原子を有する化合物であり、より好ましくは6〜22個の炭素原子を有する化合物である。脂肪族ジアミンは、具体的には、ジアミノデカン、ジアミノオクタン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノブタン、硬化牛脂ジアミン、および硬化牛脂プロピレンジアミン等である。
【0048】
アミノアルコールは、水酸基とアミノ基を有する化合物である。アミノアルコールは、消色剤の消色性能の観点からは、第2アルコールまたは第3アルコールであることが好ましい。アミノアルコールは、具体的には、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ベンジルエタノールアミン、およびトリイソプロパノールアミン等である。
【0049】
分子内にアミノ基を1つ以上含み、アミノ基と芳香環の間にアルキレン基を有する、芳香族化合物は、具体的には、キシリレンジアミン、ベンジルエタノールアミン、メタキシリレンジアミンとスチレンの共重合体等である。ベンジルエタノールアミンは、上述のように、アミノアルコールとして分類してよい。
【0050】
一般式NH−C−(NH−C−NH(n≧0)で表される化合物およびその誘導体は、分子量が大きいほど、消色剤としてより良好な消色性能を示す。この化合物は、例えば、分子量が100〜100000の範囲内にあるものであってよい。一般式NH−C−(NH−C−NH(n≧0)で表される化合物およびその誘導体は、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジエチレントリアミンエチレンオキサイド付加物、ジエチレントリアミンプロピレンオキサイド付加物、およびジエチレントリアミンブチレンオキサイド付加物などである。
【0051】
イミダゾールおよびその誘導体は、具体的には、イミダゾール、2−フェニルイミダゾール等である。
【0052】
一般的にヒンダードアミンと呼ばれる、ピペリジル基およびその誘導体を分子内に持つ化合物としては、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)=1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)=1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、N,N'−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミンと2,4−ジクロロ−6−(4−モルフォリニル)−1,3,5−トリアジンの共重合体、N,N'−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミンと2,4−ジクロロ−6−(4−モルフォニリル)−1,3,5−トリアジンの共重合体、2,2,4,4−テトラメチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ−[5.1.11.2]−ヘネイコサン−21−オン、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル} {2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]などである。
【0053】
これらの化合物のうち、ジオクチルアミン、ジアミノデカン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、ベヘニルアミン、ジステアリルアミン、硬化牛脂プロピレンジアミン、ジエチレントリアミンブチレンオキサイド付加物、メタキシリレンジアミンとスチレンの共重合体、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)=1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラートが好ましく用いられる。
なお、消色剤として2以上の異なる化合物を使用しても良い。
【0054】
消色剤は、インキ組成物において、組成物全体の0.01〜50重量%の量で含まれることが好ましく、0.1〜20重量%の量で含まれることがより好ましい。消色剤が少なすぎると、電子供与性呈色性有機化合物を十分に消色できず、インキの変色効果が不十分となる。消色剤が多すぎると、インキ組成物の貯蔵安定性が悪化する。また、消色剤の量は、電子受容性化合物の量も考慮して選択することが好ましく、インキ組成物全体において、消色剤:電子受容性化合物=1:10〜10:1(重量比)の割合となるように選択することが好ましい。
【0055】
消色剤は、融点40〜120℃の芳香族化合物とともに消色用粒子を形成する場合には、粒子中、1重量%〜80重量%含まれることが好ましく、5重量%〜60重量%含まれることがより好ましい。消色剤が1つの消色用粒子において、1重量%未満の量で含まれると、加熱によりインキ組成物を変色させる際に十分な変色効果を得られないことがある。
なお、消色剤それ自体が、ワックスのような性質を有する、即ち、常温では固体状であり、加熱により液状体になる性質を有する場合には、そのまま使用して、消色用粒子としてインキ組成物中に分散させてよい。
【0056】
(芳香族化合物)
本発明のインキ組成物は、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と融点40〜120℃の芳香族化合物とを含む有色粒子を含む、場合により、消色剤と融点40〜120℃の芳香族化合物とを含む消色用粒子を含む。ここで、「芳香族化合物」とは、分子中に1または複数の芳香環を有する化合物を指す。芳香族化合物は、具体的には、ベンゼン、ナフタリンおよびアントラセン、ならびにこれらの誘導体である。
【0057】
融点が40℃〜120℃の範囲内にある芳香族化合物は、樹脂と比較して、液化が開始する温度から、液化が終了する温度までの温度範囲が狭いことから、変色温度の制御を容易にするという利点を有する。さらに、この範囲内の融点を有する芳香族化合物を使用すると、所定の温度(特に高温(例えば、55℃))まで消色が開始しないインキ組成物を得ることが容易となる。さらにまた、芳香族化合物は、一般に、消色が開始してから終了するまでの温度範囲が比較的狭いインキ組成物を与える。さらに、芳香族化合物は、一般に、変色の度合いが大きいインキ組成物を与える。芳香族化合物は、その融点(より正確には液化が開始する温度)が60℃〜120℃の範囲内にあることが好ましく、60℃〜100℃の範囲内にあることがより好ましく、65℃〜85℃の範囲内にあることがさらにより好ましい。
【0058】
融点がこの範囲内にある芳香族化合物は、例えば、紙面に筆記した筆跡または塗膜を、消しゴム又は軟質の弾性樹脂で擦ったときに、摩擦熱により液化する。よって、そのような芳香族化合物が固体として存在する粒子を含むインキ組成物は、消しゴムで擦って筆跡を消す感覚で、筆跡を変色させる(例えば、消去する)ことを可能にするインキ組成物を与える。融点が40℃未満であると、芳香族化合物が粒状にならないことがあるため、発色の安定性が低下して、十分な色濃度を得られないことがあり、あるいは経時的に色が薄くなることがある。融点が120℃を超えると、消しゴム又は軟質樹脂で擦っても芳香族化合物が液化せず、簡易な作業でインキ組成物を変色させることが困難となる。
【0059】
融点が40℃〜120℃の範囲内にある芳香族化合物は、好ましくは、一分子内にベンゼン環を2つ以上含む化合物である。ここで、ベンゼン環を2つ以上含む化合物には2つ以上のベンゼン環が連結されている化合物のほか、ナフタレンおよびアントラセンのように、ベンゼン環が2つ以上縮合した多環芳香環を含む化合物、およびそのような多環芳香環とベンゼン環とが連結されている化合物が含まれる。より具体的には、例えば、下記の化合物を、本発明において使用してよい。括弧内は融点を示す。
【0060】
1)少なくとも2つのベンゼン環がカルボキシル基を含む置換基により連結されている化合物:ベンゾフェノン(50℃)、ベンジル(96℃)、ベンジルフェニルケトン(57℃)、ベンゾインメチルエーテル(49℃)、ベンゾインイソプロピルエーテル(81℃)、2-ベンゾイル安息香酸メチル(54℃)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(68℃)、4-メトキシベンゾフェノン(63℃)、4-メチルベンゾフェノン(58℃)、4-メチルベンジルフェニルケトン(97℃)、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオン(79℃)。
【0061】
2)少なくとも2つのベンゼン環がエステル結合を含む置換基により連結されている化合物:安息香酸p-トリル(72℃)、安息香酸フェニル(70℃)、フェニル酢酸p-トリル(76℃)、安息香酸-2-ナフチル(107℃)、炭酸ジフェニル(79℃)、フタル酸ジフェニル(74℃)、サリチル酸-4-オクチルフェニル(74℃)。
【0062】
3)少なくとも2つのベンゼン環がエーテル結合を含む置換基により連結されている化合物:4-ベンジルオキシフェニル酢酸メチルエステル(61℃)、ベンジルフェニルエーテル(40℃)、3,5-ジベンジルオキシ安息香酸メチル(72℃)、1,3-ジフェノキシベンゼン(61℃)、1,4-ジフェノキシベンゼン(77℃)、ジ-p-トリルエーテル(49℃)。
【0063】
4)少なくとも2つのベンゼン環がアミド結合を含む置換基により連結されている化合物:N,N-ジフェニルアセトアミド(102℃)
5)ビフェニル系化合物:ビフェニル(71℃)、4,4'-ビスメトキシメチルビフェニル(54.5℃)、4-アセトキシビフェニル(80℃)、4-ブチリルビフェニル(95℃)
6)ナフタレン環を含む化合物:3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸メチル(71℃)
【0064】
これらの化合物は、2以上組み合わせて用いてよい。これらのうち、本発明においては、特に、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオン(79℃)、安息香酸フェニル(70℃)および4-アセトキシビフェニル(80℃)が好ましく用いられる。これらの芳香族化合物は、少なくとも55℃まで変色が実質的に開始せず、又は発色の濃度が高くなる方向に変色し、55℃よりも高い温度で消色剤との反応による変色を開始するインキ組成物を与える。したがって、これらの芳香族化合物を用いると、55℃程度の高温下で保管された場合でも変色が開始せず、かつ消しゴム等で紙面で擦ったときに発生する摩擦熱程度の熱で変色する、保管性が良好であり、かつ容易な操作で変色可能なインキ組成物が得られる。また、これらの芳香族化合物は、消色から変色までの温度範囲が比較的狭いインキ組成物を与える。さらに、これらの芳香族化合物は、変色の度合いが大きいインキ組成物を与える。
【0065】
本発明のインキ組成物が、有色粒子および消色用粒子をともに含む場合、有色粒子を構成する芳香族化合物と消色用粒子を構成する芳香族化合物は、融点の近いものであることが好ましい。2種類の粒子において、液化する化合物の融点が近いと、それらの化合物が同じ温度で液化して、消色剤を電子受容性化合物に作用させ得るので、変色をスムーズに実施できる。あるいは、有色粒子と消色用粒子は、同じ化合物(即ち、同じ芳香族化合物)または互いに異なる化合物を含んでよい(例えば、消色用粒子が、有色粒子を構成する芳香族化合物とは異なる芳香族化合物)。あるいはまた、有色粒子のうち、一部の粒子の芳香族化合物と、他の粒子の芳香族化合物とが異なっていてもよい。同じことは、消色用粒子にもあてはまる。
【0066】
有色粒子において、芳香族化合物は、粒子の30重量%〜99重量%を構成することが好ましく、50重量%〜95重量%を構成することがより好ましい。有色粒子において、芳香族化合物の量が少ないと、加熱したときに、有色粒子と消色用粒子を結びつける液化した媒体が不足して、消色性が低下し、芳香族化合物の量が多いと、発色濃度が低下する。
【0067】
消色用粒子において、芳香族化合物は、粒子の20重量%〜99重量%を構成することが好ましく、40重量%〜95重量%を構成することがより好ましい。消色用粒子において、芳香族化合物の量が少ないと、固形分が少なくなって、粒子化が困難になり、芳香族化合物の量が多いと、消色剤の量が少なくなり、インキ組成物の変色効果が不十分となることがある。
【0068】
芳香族化合物は、インキ組成物全体の1〜70重量%の量で含まれることが好ましく、5〜50重量%の量で含まれることがより好ましい。本発明のインキ組成物においては、芳香族化合物の量が少ないと、消色性能が悪化する。また、本発明のインキ組成物においては電子供与性呈色性有機化合物が必ず有色粒子に含有されていることを考慮すると、芳香族化合物の量が多すぎると、発色濃度が低くなることがある。本発明のインキ組成物において、消色用粒子が含まれる場合には、発色粒子に含まれる芳香族化合物と消色用粒子に含まれる芳香族化合物とを合わせた量が、上記範囲内にあることが好ましい。
【0069】
(水)
本発明のインキ組成物は、分散媒として機能する、水を含む。水として、通常用いられる水、例えば、イオン交換水および蒸留水等を使用することができる。インキ組成物における水の含有量は特に限定されず、発色粒子および/または消色用粒子の含有量、および得ようとする粘度に応じて、適宜選択される。例えば、水の含有量は、95重量%〜40重量%の範囲内であってよく、好ましくは90重量%〜50重量%程度である。
【0070】
(非熱変色性着色剤)
本発明のインキ組成物は、さらに、上記の成分に加えて、加熱により色相が変化しない着色剤、即ち、非熱変色性着色剤を含んでよい。非熱変色性着色剤は、好ましくは電子受容性化合物および消色剤の影響を受けず、それらによって変色しないものである。本発明のインキ組成物が非熱変色性着色剤を含む場合、本発明のインキ組成物は、加熱前に、発色状態の電子供与性呈色性有機化合物が呈する色と、着色剤が呈する色とが混合された色を有し、加熱後に、電子供与性呈色性有機化合物の呈する色が無色化されて、着色剤の色が強く現れるインキ組成物となる。よって、そのような着色剤を含むインキ組成物は、例えば、ある色相から別の色相に変化する、変色性インキ組成物となる。
【0071】
非熱変色性着色剤は、例えば、酸性染料、直接染料、塩基性染料などの水溶性染料のほか、カーボンブラック、酸化チタン、アルミナのシリカ、タルクなどの無機顔料;アゾ系顔料、ナフトール系顔料、フタロシアニン系顔料、スレン系顔料、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサン系顔料、ジオキサジン系顔料、インジゴ系顔料、チオインジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、インドレノン系顔料、およびアゾメチン系顔料などの有機顔料;アルミニウム粉およびブロンズ粉等などの金属粉顔料;蛍光顔料;パール顔料;ならびに光輝性顔料等である。また、これらの着色剤は、顔料分散体として用いることもできる。また本発明のインキ組成物において、これらの着色剤は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
【0072】
あるいは、非熱変色性着色剤として、球状、偏平状、中空等の各種形状のプラスチックピグメント(合成樹脂粒子顔料)などを用いることができる。例えば本発明では100μm以下の樹脂粉末にして用いるか又は100μm以下の樹脂粉末を水中に分散させたものを用いることができる。上記樹脂粉末は顔料または染料で着色して、着色樹脂エマルジョンとして使用することができる。
【0073】
非熱変色性着色剤がインキ組成物に占める量は、特に限定されず、電子供与性呈色性有機化合物が呈色しなくなったときに、所望の色が得られるように、適宜選択される。非熱変色性着色剤の量は、好ましくはインキ組成物の0.001重量%〜30重量%であり、より好ましくはインキ組成物の0.01重量%〜15重量%である。
【0074】
本発明のインキ組成物は、上述の成分の他に、通常用いられる成分を含んでよい。以下、通常用いられる成分について説明する。
【0075】
本発明のインキ組成物は、乳化により有色粒子を作製する場合には、乳化剤を含んでよい。乳化剤は、有色粒子を分散させるために用いられる。乳化剤は、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、モノステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタンポリオキシエチレン誘導体、およびポリオキシエチレンステアリルエーテルである。
【0076】
本発明のインキ組成物は、必要に応じて、上記以外の成分を含んでよい。具体的には、潤滑剤、湿潤剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、消泡剤、レベリング剤、凝集防止剤、pH調整剤、水溶性有機溶剤および界面活性剤等を添加してよい。
【0077】
次に本発明のインキ組成物の製造方法を説明する。本発明のインキ組成物の製造においては、有色粒子を分散させた分散体(エマルション)、および必要に応じて消色用粒子を分散させた分散体(エマルション)を調製する。分散体は、公知の乳化による方法または粉砕による微粒化方法を用いて、調製することができる。以下に、乳化により有色粒子または消色用粒子を分散させた分散体の調製方法の一例を示す。
【0078】
有色粒子を分散させた分散体は、以下の手順で調製される。まず、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を、120〜160℃に加熱した芳香族化合物中に溶解させる。これを、冷却、固化させて、粉体(固形物)を得る。これとは別に、乳化剤(例えばポリビニルアルコール)を水に溶解させた乳化剤水溶液を用意し、この乳化剤水溶液を、中せん断撹拌しながら、この水溶液に、上記粉体を加える。粉体は、粉体:水溶液の重量比が、1:99〜90:10となるように加えることが好ましい。次いで、ビーズミル等を用いて撹拌を行い、粉体を分散させて、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と芳香族化合物とを含有する有色粒子の分散体を得る。
【0079】
消色用粒子を分散させた分散体は、以下の手順で調製される。まず、消色剤を、120〜160℃に加熱した芳香族化合物中に溶解させる。これを、冷却、固化させて、粉体(固形物)を得る。これとは別に、乳化剤(例えばポリビニルアルコール)を水に溶解させた乳化剤水溶液を用意し、この乳化剤水溶液を、中せん断撹拌しながら、この水溶液に、上記粉体を加える。粉体は、粉体:水溶液の重量比が、1:99〜90:10となるように加えることが好ましい。次いで、ビーズミル等を用いて撹拌を行い、粉体を分散させて、消色剤を含有する消色用粒子の分散体を得る。
【0080】
有色粒子を分散させた分散体のみを調製した場合には、この分散体を、消色剤と混合する。その場合、消色剤を溶解させた水溶液または消色剤を乳化剤(例えばポリビニルアルコール)を用いて分散させた分散体を、有色粒子を含む分散体と混合してよい。有色粒子を分散させた分散体、および消色用粒子を分散させた分散体を調製した場合には、両者を混合する。混合は、公知の方法で、例えば撹拌しながら、実施する。いずれの場合も、混合は、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、消色剤および水が、前記した割合で含まれるように、分散体と水溶液の混合割合、または2種類の分散体の混合割合を適宜選択して、実施する。
【0081】
本発明のインキ組成物は、好ましくは、各種筆記具のインキとして用いられる。筆記具は、例えば、インキをペン先から滲出させる、マーカー及びサインペンのような中芯式筆記具、またはボールペンの形態であることが好ましい。ボールペンは、インキを装填したインキ収容管が軸内に設けられ、小さい球を装着したペン先から、インキを滲出させて筆記を行う筆記具である。中芯式筆記具は、インキ収容部として繊維束が収束された中芯、および中芯に貯蔵されたインキを流出するペン先(チップ)を有し、ペン先として、例えば、ボール、繊維、プラスチック芯、ブラシ状物、または筆状物を備える筆記具である。
【0082】
筆記具は、公知の部材を使用して、組み立てることができる。例えば、ボールペンは、公知の材料で公知の寸法に形成されたインキ収容管に、インキを装填して、公知の材料から成る公知の構造のボールペンチップとともに、公知の組立方法で組み立てて作製できる。インキ収容管は、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレン等の合成樹脂製パイプ、または金属製パイプである。ボールペンチップは、通常のものであってよく、ボール直径とボールハウス内径との差が、例えば、0.01mm以上のものを使用できる。
【0083】
あるいは、本発明のインキ組成物は、印刷インキ(特にインクジェットプリンタ用のインキ)、絵の具、または塗料として利用することもできる。
【0084】
本発明のインキ組成物を用いて筆跡又は塗膜を形成する媒体は、好ましくは紙である。あるいは媒体は、合成紙、布、プラスチックから成るフィルム、シートもしくは板、金属から成るシートもしくは板、またはガラスから成るシートもしくは板であってよい。本発明のインキ組成物をこれらの媒体に形成した筆跡または塗膜は、所定の雰囲気(例えば、ガスまたは液体中)において、温度インジケータ(当該雰囲気が所定の温度に達したことを変色により示すもの)として使用してよい。
【0085】
本発明のインキ組成物が発色成分として電子供与性呈色性有機化合物のみを含む場合には、インキ組成物の筆跡または塗膜は、芳香族化合物が融点以上の温度に加熱されたときに、消色される。より具体的には、芳香族化合物の液化により、芳香族化合物で隔てられていた有色粒子の内部にある電子受容性化合物と消色剤とが接近し、電子受容性化合物に、消色剤が作用して、インキ組成物が消色される。芳香族化合物の融点が40℃〜120℃である場合、加熱温度は、好ましくは芳香族化合物の融点以上であり、より好ましくは1℃〜5℃程度高い温度である。この範囲内の温度であれば、例えば、ゴム又は弾性樹脂で、筆跡または塗膜を擦ることによって、加熱を実施できる。消去用のゴムまたは樹脂は、筆記具の筆先とは反対側の端部に予め取り付けておいてよい。それにより、例えば、書き損じた文字等を消して修正することや、一度マーキングした箇所を、後で消すことが容易となる。消去用の樹脂は、紙面に対する摩擦抵抗の大きい樹脂(例えば、スチレン−ブチレン−スチレン共重合体又はスチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体)であることが好ましい。
【0086】
あるいは、加熱は、加熱したロールの上を通過させる、または熱風を吹き付ける等の方法により、実施してよい。ロールまたは熱風を用いると、比較的大きな面積内に筆記された筆跡または比較的大きな面積を有する塗膜等を、一度に消去できる。よって、本発明のインキ組成物と加熱装置を組み合わせて使用することにより、筆記または印刷された紙を繰り返し使用するための、リサイクルシステムを構築することが可能である。
【0087】
前述のとおり、「消去」および「消色」には、色を薄くすることも含まれ、用途によっては完全に無色化されなくても、変色性インキ組成物として実用可能である。例えば、筆記した文字であれば、完全に無色とならず、一部に色が残っていても、加熱後の筆跡が判読不能であれば、筆記した内容を機密上の理由から消去する目的で使用するうえでは十分である。本発明のインキ組成物は、消色の目的で用いる場合には、電子供与性呈色性有機化合物が黒色であり、加熱前に色差計で測定される色差(ΔE*)をΔE*’、加熱後に色差計で測定される色差(ΔE*)をΔE*”としたときに、ΔE*’−ΔE*”が5以上となる程度に、加熱により、その色が薄くなるものであることが好ましい。
【0088】
さらに、本発明のインキ組成物において、電子供与性呈色性有機化合物が黒色である場合には、10℃/min程度で昇温したときに、55℃で測定される色差(ΔE*(55℃)と、30℃で測定される色差(ΔE*(30℃))との差が1未満であるような耐高温性を有することが好ましい。ΔE*(30℃)−ΔE*(55℃)が1以上であると、例えば夏場の倉庫で保管している間にインキ組成物において変色が生じ、製品として提供できないことがある。
【0089】
本発明のインキ組成物が、前述のように非熱変色性着色剤を含み、加熱により非熱変色性着色剤の色が強く現れるように変色させる目的で用いられる場合も、上記と同様に、筆跡または塗膜は、弾性樹脂で擦って芳香族化合物を液化させることにより、変色する。あるいは、本発明のインキ組成物は、複数種類の電子供与性呈色性有機化合物と、それぞれ融点の異なる芳香族化合物と、電子受容性化合物とを用いて、複数種類の有色粒子を含むものであってよい。そのようなインキ組成物は、加熱温度を段階的に変化させたときに、それぞれ異なる色が現れる、多段階変色を示す。
【実施例】
【0090】
(分散体1〜6の調製)
電子供与性呈色性有機化合物として2'-[(2-クロロフェニル)アミノ]-6'-(ジブチルアミノ)スピロ[イソベンゾフルオラン-1(3H),9'-(9H)キサンテン]-3-オンを準備し、芳香族化合物および脂肪族化合物として、下記の5種類の化合物を準備し、電子受容性化合物として、3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩を準備し、乳化剤として、ポリビニルアルコールを準備した。
【0091】
芳香族化合物1:4−アセトキシビフェニル(融点80℃)
芳香族化合物3:安息香酸フェニル(融点70℃)
芳香族化合物3:1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン(融点79℃)
脂肪族化合物1:グリセリンモノ12ヒドロキシステアレート(融点74℃)
脂肪族化合物2:ソルビタントリベヘネート(融点68℃)
脂肪族化合物3:グリセリンジトリステアレート(融点60℃)
【0092】
電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を、160℃に加熱した芳香族化合物または脂肪族化合物中に溶解させた。これを、冷却、固化させて、粉体を得た。これとは別に、乳化剤(例えばポリビニルアルコール)を水に溶解させた乳化剤水溶液を用意し、この水溶液に、上記粉体を加えた。次いで、ビーズミルを用いて撹拌を行い、粉体を分散させて、有色粒子の分散体を得た。さらに、撹拌しながら、室温まで冷却して、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を含有する、芳香族化合物または脂肪族化合物が固体となっている有色粒子の分散体1〜6を得た。有色粒子および乳化剤水溶液は、最終的に得られる分散体が、下記表1に記載の組成を有するように、調製し、混合した。冷却後の分散体において、有色粒子は、約5〜50μmの粒子径を有していた。
【0093】
【表1】

【0094】
(消色剤分散体1〜3)
消色剤として、下記の3種類の化合物を用意し、それぞれを、ポリビニルアルコールを用いてイオン交換水に分散させて、消色剤、ポリビニルアルコールおよびイオン交換水を下記表2に示す割合で含む消色剤分散体1〜3を得た。
消色剤A:2,2,4,4,-テトラメチル-7-6オキサ-3,20-ジアザジスピロ-[5,1,11,2]-ヘネイコサン-21-オン
消色剤B:ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル} {2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]
消色剤C:N,N'-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルニル)-1,3-ベンゼンジカルボキシアミド
【0095】
【表2】

【0096】
(実施例1)
有色粒子の分散体1と消色剤分散体1とを、重量比で70:30の割合で混合して、変色性インキ組成物を調製した。得られた変色性インキ組成物を、20μmのバーコータを用いて、ケント紙に塗布して塗膜を形成し、室温で乾燥させた。乾燥後、ケント紙を、温度調節プレート上に乗せ、30℃から90℃まで10℃/分の昇温速度で、プレート温度を変化させ、約2℃毎に測色した。
【0097】
測色は、旧ミノルタ株式会社製の色彩色差計CR−300を用いて、筆跡と用紙の色差(ΔE*)を求めることにより実施した。この差が小さくなるにつれて、筆跡がより消去されていることを示す。色差は、下記の式で表わされる。式中、L*は明度指数、a*およびb*はクロマティクネス指数を示す。
【0098】
【数1】

【0099】
得られた変色温度曲線から、(30℃におけるケント紙とのと色差)−(55℃におけるケント紙とのと色差)で55℃までの発色安定性を評価した。実施例1において、(30℃におけるケント紙とのと色差)−(55℃におけるケント紙とのと色差)は、表3に示すように−0.4であり、55℃まで優れた発色安定性を示した。また、90℃まで加熱した後のケント紙を、−25℃まで冷却した。冷却により、ケント紙に形成した塗膜の発色濃度が高くなる、即ち、再び発色することはなかった。このことは、本発明の変色性インキ組成物の消色が不可逆的であることを示している。
【0100】
(実施例2および3)
有色粒子の分散体2〜3から選択される1つの分散体を、消色剤分散体1〜3から選択される1つの分散体と、表3に示す割合で混合して、変色性インキ組成物を調製した。得られた変色性インキ組成物を、実施例1と同様にして、ケント紙に塗布して、塗膜を形成した。このケント紙に形成された塗膜を用いて、変色温度曲線を得、(30℃におけるケント紙とのと色差)−(55℃におけるケント紙とのと色差)を求めた。評価結果を表3に示す。また、これらの実施例について、変色温度曲線を図1および図2に示す。実施例2〜3において、90℃まで加熱した後のケント紙を−25℃まで冷却しても、発色濃度(ΔE)は高くならなかった。
【0101】
(比較例1〜3)
有色粒子の分散体4〜6から選択される1つの分散体、および消色剤分散体1〜3から選択される1つの分散体を、表3に示す割合で混合して、変色性インキ組成物を調製した。得られた変色性インキ組成物を、実施例1と同様にして、ケント紙に塗布して、塗膜を形成し、変色温度曲線を得、(30℃におけるケント紙とのと色差)−(55℃におけるケント紙とのと色差)を求めた。結果を表3に示す。さらに、比較例1および2の変色温度曲線を図3および図4に示す。いずれのインキ組成物も、加熱により変色性を示した。しかし、(30℃におけるケント紙とのと色差)−(55℃におけるケント紙とのと色差)がいずれも3よりも大きく、実施例1〜3と比較して、55℃までの発色安定性が劣っていた。また、比較例1および2の変色温度曲線を示すグラフ(図3および4)から明らかなように、消色が開始してから消色が終了する(具体的には、ケント紙との色差が、消色が開始したときのそれよりも5だけ小さくなるとき)までの温度範囲が、実施例2および3のそれよりも広かった。
【0102】
【表3】

【0103】
比較例1で用いた脂肪族化合物の融点(74℃)は、実施例2で用いた芳香族化合物の融点(70℃)よりも高いにもかかわらず、比較例1のインキ組成物は、55℃での変色の度合いが、実施例2のそれよりも大きかった。また、比較例2で用いた脂肪族化合物(68℃)と実施例2で用いた芳香族化合物の融点(70℃)の差、および比較例1で用いた脂肪族化合物(74℃)と実施例3(79℃)で用いた芳香族化合物の差はそれほど大きくないにもかかわらず、55℃での変色の度合いは、いずれも比較例の方が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の変色性インキ組成物は、所定の温度(特に55℃程度)までは変色せず、加熱により、実質的には不可逆的に、無色または他の色に変色可能であり、筆記具のインキとして、あるいは、インクジェットプリンタ用のインキのような印刷用インキ等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と融点が40℃〜120℃の芳香族化合物とを含む有色粒子、消色剤、および水を含む、変色性インキ組成物。
【請求項2】
芳香族化合物が、一分子内にベンゼン環を2つ以上含む化合物である、請求項1に記載の変色性組成物。
【請求項3】
芳香族化合物の融点が、65℃〜85℃である、請求項1に記載の変色性インキ組成物。
【請求項4】
芳香族化合物が、ベンゾインイソプロピルエーテル、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオン、安息香酸フェニル、フェニル酢酸p-トリル、1,4-ジフェノキシベンゼン、および4-アセトキシビフェニルから選択される1または複数の化合物である、請求項3に記載の変色性インキ組成物。
【請求項5】
消色剤が、塩基性化合物である、請求項1に記載の変色性インキ組成物。
【請求項6】
消色剤が、
脂肪族アミン、
脂肪族ジアミン、
アミノアルコール、
分子内にアミノ基を1つ以上含み、アミノ基と芳香環の間にアルキレン基を有する、芳香族化合物、
一般式NH−C−(NH−C−NH(n≧0)で表される化合物およびその誘導体、
イミダゾールおよびその誘導体、ならびに
一般的にヒンダードアミンと呼ばれる、ピペリジル基およびその誘導体を分子内に持つ化合物から選択される少なくとも1つの化合物である、
請求項5に記載の変色性インキ組成物。
【請求項7】
電子受容性化合物が不揮発性である、請求項1に記載の変色性インキ組成物。
【請求項8】
加熱により変色しない着色剤をさらに含む、請求項1に記載の変色性インキ組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の変色性インキ組成物を、インキとして用いる、筆記具。
【請求項10】
請求項1に記載の変色性インキ組成物から成る、インクジェットプリンタ用のインキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−102206(P2012−102206A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250624(P2010−250624)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】