説明

外壁版取付け方法および外壁版取付け構造

【課題】躯体側のファスナーの施工性を向上できる外壁版取付け方法を提供すること。
【解決手段】外壁版取付け方法は、まず、第n(nは整数)層の床4が構築されて、床4に第1床躯体ファスナー21および第2床躯体ファスナー22が設けられた状態で、カーテンウォール1を用意し、このカーテンウォール1の第2外壁版ファスナー12に第2床躯体ファスナー22を仮固定する。次に、カーテンウォール1の第1外壁版ファスナー11が第n層の第1床躯体ファスナー21の上面に当接するように、カーテンウォール1を第n層に建て込む。次に、第(n+1)層の床の型枠を建て込んで、この型枠内にカーテンウォール1の第2外壁版ファスナー12に仮固定された第2床躯体ファスナー22を位置させるとともに、型枠内に第1床躯体ファスナーを取り付ける。次に、型枠内に配筋してコンクリートを打設することで、第(n+1)層の床を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁版取付け方法および外壁版取付け構造に関する。詳しくは、複数の床躯体が積層配置された鉄筋コンクリート造構造物の外周部分に、外壁版を取り付ける外壁版取付け方法および外壁版取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プレキャストコンクリート製の外壁版が取り付けられた建物がある。この外壁版は、例えば、ファスナーを介して梁や床などの躯体に支持される。ファスナーは、外壁版に固定された外壁側ファスナーと、躯体に固定された躯体側ファスナーと、で構成され、外壁側ファスナーと躯体側ファスナーとを連結することにより、外壁版が躯体に支持される。
【0003】
この建物は、例えば、以下のような手順で構築される(特許文献1参照)。
すなわち、所定階の床躯体が構築された状態で、この所定階に外壁版を建て込んで、押し引きサポートやチェーンなどを用いて、外壁版を所定階に仮固定する。次に、所定階の上階の床躯体を構築し、その後、この上階の床躯体に外壁版を支持させる。このような手順を繰り返すことで、下層から上層に向かって建物を構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−106174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、以上のような手法では、床躯体を構築する際、躯体側ファスナーを所定位置に配置して、床躯体の型枠や鉄筋材に固定する必要がある。しかしながら、躯体側ファスナーを所定位置に配置しようとすると、既に設置してある外壁版や外壁側ファスナーが躯体側ファスナーの固定作業の障害となって、施工性が低下する、という問題があった。
特に、躯体側ファスナーが大型の金物である場合には、躯体側ファスナーの運搬や配置にかなりの手間がかかってしまい、施工性が大きく低下する、という問題があった。
【0006】
本発明は、躯体側のファスナーの施工性を向上できる外壁版取付け方法および外壁版取付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の外壁版取付け方法は、複数の床躯体が積層配置された鉄筋コンクリート造構造物の外周部分に、外壁版を取り付ける外壁版取付け方法であって、前記外壁版は、板状の外壁版本体と、当該外壁版本体の下端側に設けられた第1外壁版ファスナーと、前記外壁版本体の上端側に設けられた第2外壁版ファスナーと、を備え、第n(nは整数)層の床躯体が構築されて、当該床躯体に第1床躯体ファスナーおよび第2床躯体ファスナーが設けられた状態で、前記外壁版を用意し、当該外壁版の第2外壁版ファスナーに第(n+1)層の床躯体のための第2床躯体ファスナーを仮固定する工程と、前記外壁版の第1外壁版ファスナーが前記第n層の前記第1床躯体ファスナーの上面に当接するように、前記外壁版を当該第n層に建て込む工程と、第(n+1)層の床躯体の型枠を建て込んで、当該型枠内に前記外壁版の第2外壁版ファスナーに仮固定された第2床躯体ファスナーを位置させるとともに、前記型枠内に前記第1床躯体ファスナーを取り付ける工程と、前記型枠内に配筋してコンクリートを打設することで、当該第(n+1)層の床躯体を構築する工程と、を繰り返すことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の外壁版取付け構造は、複数の床躯体が積層配置された鉄筋コンクリート造構造物の外周部分に、外壁版を取り付ける外壁版取付け構造であって、前記外壁版は、板状の外壁版本体と、当該外壁版本体の下端側に設けられた第1外壁版ファスナーと、前記外壁版本体の上端側に設けられた第2外壁版ファスナーと、を備え、各床躯体は、前記第1外壁版ファスナーが載置される第1床躯体ファスナーと、前記第2外壁版ファスナーを所定の自由度が確保された状態で支持する第2床躯体ファスナーと、を備え、前記外壁版を建て込む際、当該外壁版の第2外壁版ファスナーには、当該外壁版の上側の床躯体のための第2床躯体ファスナーが仮固定されていることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、外壁版を建て込む際、この外壁版の第2外壁版ファスナーに、この外壁版の上側の床躯体のための第2床躯体ファスナーを仮固定した。よって、外壁版を建て込むだけで、第2床躯体ファスナーが所定位置に配置されるから、上側の床躯体を構築する際、この床躯体に打ち込む第2床躯体ファスナーを床躯体の取付け場所まで運搬して配置する必要がなくなるので、躯体側のファスナーの施工性を向上できる。
特に、躯体側のファスナーが大型の金物である場合には、この躯体側のファスナーの運搬手間が増大するため、このような効果が顕著となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外壁版を建て込む際、この外壁版の第2外壁版ファスナーに、この外壁版の上側の床躯体のための第2床躯体ファスナーを仮固定した。よって、外壁版を建て込むだけで、第2床躯体ファスナーが所定位置に配置されるから、上側の床躯体を構築する際、この床躯体に打ち込む第2床躯体ファスナーを床躯体の取付け場所まで運搬して配置する必要がなくなるので、躯体側のファスナーの施工性を向上できる。特に、躯体側のファスナーが大型の金物である場合には、この躯体側のファスナーの運搬手間が増大するため、このような効果が顕著となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る外壁版取付け方法が適用されたカーテンウォールの背面図である。
【図2】前記実施形態に係るカーテンウォールのファスナー部分の横断面図である。
【図3】前記実施形態に係るカーテンウォールのファスナー部分の縦断面図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】図3のB−B断面図である。
【図6】前記実施形態に係る建物を構築する手順を説明するための図(その1)である。
【図7】前記実施形態に係る建物を構築する手順を説明するための図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る外壁版取付け方法が適用された外壁版としてのカーテンウォール1の背面図である。
カーテンウォール1は、鉄筋コンクリート造構造物としての建物2の外周部分に取り付けられる。
建物2は、梁3(図4、図5参照)、床躯体としての床4、および図示しない柱などで構成される。この建物2は、複数層のフロアを有しているため、床4は、上下に複数積層配置されている。
【0013】
カーテンウォール1は、プレキャストコンクリートである板状の外壁版本体10と、この外壁版本体10の下端側に設けられた一対の第1外壁版ファスナー11と、外壁版本体10の上端側に設けられた一対の第2外壁版ファスナー12と、を備える。
第2外壁版ファスナー12は、当該カーテンウォール1の直上に位置するカーテンウォール1まで延びて、この直上のカーテンウォール1に連結されている。
【0014】
各床4は、カーテンウォール1の第1外壁版ファスナー11が載置される第1床躯体ファスナー21と、カーテンウォール1の第2外壁版ファスナー12を所定の自由度が確保された状態で支持する第2床躯体ファスナー22と、を備える。
【0015】
図2および図3は、カーテンウォール1のファスナー部分の横断面図および縦断面図である。図4は、図3のA−A断面図であり、図5は、図3のB−B断面図である。
【0016】
第1床躯体ファスナー21は、床4の鉄筋コンクリート躯体に打ち込まれた略L字形状のファスナー本体211と、このファスナー本体211に接合されたシアー筋212と、を備える。
ファスナー本体211の上面は、床4から露出して、床4と面一となっている。
【0017】
第1外壁版ファスナー11は、外壁版本体10の背面側に設けられた略L字形状のファスナー本体111と、このファスナー本体111に螺合されて先端で第1床躯体ファスナー21に当接するボルト112と、ファスナー本体111に接合されて外壁版本体10の内部に向かって延びる一対の平板状のプレート113と、これらプレート113に接合されて外壁版本体10の延出方向に沿って延びるシアー筋114と、を備える。
【0018】
ボルト112は、鉛直方向に延びており、このボルト112の先端は、第1床躯体ファスナー21のファスナー本体211の上面に当接している。
このボルト112を回転させて、第1床躯体ファスナー21のファスナー本体111からボルト112の先端までの距離を変化させることで、カーテンウォール1の床4の表面からの高さが調整可能となっている。
【0019】
第2床躯体ファスナー22は、床4の鉄筋コンクリート躯体に打ち込まれた平板状のプレート221と、このプレート221に接合されて水平方向に沿って延びるシアー筋222と、プレート221に接合されて床4の表面から突出して略鉛直方向に延びるボルト223と、を備える。
【0020】
第2外壁版ファスナー12は、外壁版本体10の背面側の表面に沿って設けられた平板状のプレート121と、このプレート121に接合されて床4の表面に略平行に延びるプレート122と、プレート121に接合されて外壁版本体10の内部まで延びる一対の平板状のプレート123と、これらプレート123に接合されて外壁版本体10の延出方向に沿って延びるシアー筋124と、を備える。
【0021】
プレート122には貫通孔125が形成され、この貫通孔125には、第2床躯体ファスナー22のボルト223が挿通されている。これにより、カーテンウォール1は、床4に対して鉛直方向にスライド可能となっている。
【0022】
また、プレート121の上部は、直上のカーテンウォール1まで延びて、この直上のカーテンウォール1の外壁版本体10に連結されている。
具体的には、プレート121の上部には、鉛直方向に延びるルーズホール126が形成されている。一方、カーテンウォール1の外壁版本体10の下部には、水平方向に突出するボルト101が設けられている。このボルト101は、プレート121のルーズホール126に挿通されて、ナット127が締め付けられている。これにより、直上のカーテンウォール1は、このカーテンウォール1に対して鉛直方向にスライド可能となっている。
【0023】
また、プレート121の上部には、水平方向に延びるボルト128が螺合され、このボルト128の先端は、直上のカーテンウォール1の外壁版本体10の表面に当接している。
このボルト128を回転させて、プレート121からボルト118の先端までの距離を変化させることで、カーテンウォール1の面外方向の突出寸法を調整可能となっている。
【0024】
以上の建物2を構築する手順について、図6および図7を参照しながら説明する。
初期状態として、図6に示すように、第n層の床4が構築されて、この床4の鉄筋コンクリート躯体には、第1床躯体ファスナー21および第2床躯体ファスナー22が打ち込まれているものとする。
また、(n−1)層のカーテンウォール1の第2外壁版ファスナー12は、床4に打ち込まれた第2床躯体ファスナー22に連結された状態である。
【0025】
まず、第n層のカーテンウォール1を用意し、このカーテンウォール1の第2外壁版ファスナー12に、第(n+1)層のための第2床躯体ファスナー22を仮固定する。
【0026】
次に、図7に示すように、この用意したカーテンウォール1を第n層に建て込んで、図示しない押し引きサポートやチェーンなどにより第n層の床4に仮支持させる。
このとき、カーテンウォール1の第1外壁版ファスナー11のボルト112を、第n層の床4の第1床躯体ファスナー21の上面に当接させる。また、カーテンウォール1のボルト101を第2外壁版ファスナー12のルーズホール126に挿通して、ナット127を締め付ける。
【0027】
次に、第(n+1)層の床4(図7中破線で示す)の型枠を建て込んで、この型枠内にカーテンウォール1の第2外壁版ファスナー12に仮固定された第2床躯体ファスナー22を位置させる。また、図示しないが、床4の型枠内に第(n+1)層のカーテンウォール1のための第1床躯体ファスナー21を取り付ける。
【0028】
次に、床4の型枠内に配筋してコンクリートを打設して、第(n+1)層の床4を構築する。これにより、第(n+1)層の床4の鉄筋コンクリート躯体には、第1床躯体ファスナー21および第2床躯体ファスナー22が打ち込まれて、第n層のカーテンウォール1が支持される。
その後、押し引きサポートやチェーンなどを撤去する。
【0029】
以上の工程を、nを1ずつ増加しながら繰り返す。
【0030】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)カーテンウォール1を建て込む際、このカーテンウォール1の第2外壁版ファスナー12に、このカーテンウォール1の上側の床4のための第2床躯体ファスナー22を仮固定した。よって、カーテンウォール1を建て込むだけで、第2床躯体ファスナー22が所定位置に配置されるから、上側の床4を構築する際、この床4に打ち込む第2床躯体ファスナー22を床4の取付け箇所まで運搬して配置する必要がなくなる。したがって、第2床躯体ファスナー22の施工性を向上できる。
【0031】
(2)ボルト112によりカーテンウォール1の床4の表面からの高さを調整可能としたので、このボルト112を調整することにより、横目地の位置を床4の上面の付近まで下げることができる。
【0032】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0033】
1…カーテンウォール(外壁版)
2…建物(鉄筋コンクリート造構造物)
3…梁
4…床(床躯体)
10…外壁版本体
11…第1外壁版ファスナー
12…第2外壁版ファスナー
20…外壁版本体
21…第1床躯体ファスナー
22…第2床躯体ファスナー
111…ファスナー本体
112…ボルト
113…プレート
114…シアー筋
121…プレート
122…プレート
123…プレート
124…シアー筋
125…貫通孔
126…ルーズホール
127…ナット
128…ボルト
211…ファスナー本体
212…シアー筋
221…プレート
222…シアー筋
223…ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の床躯体が積層配置された鉄筋コンクリート造構造物の外周部分に、外壁版を取り付ける外壁版取付け方法であって、
前記外壁版は、板状の外壁版本体と、当該外壁版本体の下端側に設けられた第1外壁版ファスナーと、前記外壁版本体の上端側に設けられた第2外壁版ファスナーと、を備え、
第n(nは整数)層の床躯体が構築されて、当該床躯体に第1床躯体ファスナーおよび第2床躯体ファスナーが設けられた状態で、前記外壁版を用意し、当該外壁版の第2外壁版ファスナーに第(n+1)層の床躯体のための第2床躯体ファスナーを仮固定する工程と、
前記外壁版の第1外壁版ファスナーが前記第n層の前記第1床躯体ファスナーの上面に当接するように、前記外壁版を当該第n層に建て込む工程と、
第(n+1)層の床躯体の型枠を建て込んで、当該型枠内に前記外壁版の第2外壁版ファスナーに仮固定された第2床躯体ファスナーを位置させるとともに、前記型枠内に前記第1床躯体ファスナーを取り付ける工程と、
前記型枠内に配筋してコンクリートを打設することで、当該第(n+1)層の床躯体を構築する工程と、を繰り返すことを特徴とする外壁版取付け方法。
【請求項2】
複数の床躯体が積層配置された鉄筋コンクリート造構造物の外周部分に、外壁版を取り付ける外壁版取付け構造であって、
前記外壁版は、板状の外壁版本体と、
当該外壁版本体の下端側に設けられた第1外壁版ファスナーと、
前記外壁版本体の上端側に設けられた第2外壁版ファスナーと、を備え、
各床躯体は、前記第1外壁版ファスナーが載置される第1床躯体ファスナーと、前記第2外壁版ファスナーを所定の自由度が確保された状態で支持する第2床躯体ファスナーと、を備え、
前記外壁版を建て込む際、当該外壁版の第2外壁版ファスナーには、当該外壁版の上側の床躯体のための第2床躯体ファスナーが仮固定されていることを特徴とする外壁版取付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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