説明

外把持ツール

【課題】内視鏡先端の屈曲動作の干渉を受けずに被験体内組織の把持し、切除部位の多角的な視野を確保するとともに、内視鏡と一緒に被験体内へ挿入可能な把持ツールを提供。また被験体内組織を損傷せずに、また被験体内組織が凹凸を有する複雑な形状であっても確実に、安定した把持が可能な把持ツールを提供する。また、比較的大きい病変組織であっても、一括切除可能な把持ツールを提供する。
【解決手段】本発明は、被験体内組織を吸着把持するための吸着ヘッドと、吸着ヘッドを先端に備え体内に挿入するための挿入パイプと、挿入パイプ内を吸引するための吸引ポンプと、を備え、挿入パイプが内視鏡に装着された把持鉗子にて把持されることで内視鏡とともに被験体内に挿入され、内視鏡とペアで利用される外把持ツールを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic Submucosal Dissection)などを行う際、内視鏡とともに被験体内に挿入し、被験体内組織を吸着把持する外把持ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ITナイフやフレックスナイフ、フックナイフなどの内視鏡治療処置具の進歩により、内視鏡手術の一つとしてESD治療が行われている。ESDとは、内視鏡を被験体内に挿入し、当該内視鏡の先端に配置されたナイフ等を用いて、粘膜下層を剥離し、病変部位を切除する方法である。この際、鉗子を用いて病変組織を引っ張り上げ、病変組織と
常組織との境界を内視鏡で観察しながら切除部位を確認する。ESDによる治療法は、従来より行われていた内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic Mucosal Resection)と比較して、一度の切除で安全により大きな病変の切除が可能で、病変組織の一括切除率が高い。従って、より短時間での治療が可能であり、また病変組織の遺残による再発を回避できるため、術者と患者双方に有効な治療法である。そこで、ESDに用いられる器具の改良、開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の内視鏡用処置具は、病変組織を引っ張り上げる把持鉗子を筒部に装着し、これを内視鏡の先端に装着して、当該把持鉗子にて粘膜をめくり上げ、内視鏡により粘膜下層を正面視するものである。把持鉗子は、鋏形状で鋏の刃に相当する一対の鉗子で病変組織を狭持する構成のものや、吸引源と連結されたチューブが病変組織に吸着し把持する構成のものなどが開示されている。当該内視鏡用処置具は、内視鏡と把持鉗子とを一体にして被験体内に挿入できるため、内視鏡を挿入する開口のほか、把持鉗子を挿入するための開口を設ける必要がなく、被験体への負担が極めて小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−173369
【特許文献2】特開2002−238913
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の内視鏡処置具の把持鉗子は筒部を介して内視鏡に装着されているため、把持鉗子の動作は内視鏡の動作の干渉を受ける。例えば、図6に示すように、把持鉗子(0601)と筒部(0602)は内視鏡(0604)と一体となって同じ方向にのみ動作し、内視鏡を移動させた場合、同時に把持鉗子も移動してしまう。よって、切除部位を多角的に観察することは難しく、術者に高度な技術が求められる。また、把持鉗子が図6に示すような鋏形状である場合、柔らかく、血液や体液などで濡れた状態にある病変組織を狭持しようとしても、滑りやすく、確実に安定して把持することは困難である。また確実に把持しようと強く狭持し、または何度も同じ箇所を狭持した場合、病変組織を損傷するおそれがある。
【0006】
また、特許文献2に記載の鉗子は内視鏡とは独立して利用するものであり、鉗子が内視鏡の動作に干渉されることはない。よって、術者が所望する生体内部位を内視鏡により観察できるが、腹腔内の鏡視下手術に際しては、内視鏡を被験体内に挿入するための開口のほかに、さらに鉗子を挿入するための開口を腹部に設けて当該開口から鉗子を挿入して使用するため、被験体への負担は極めて大きい。
そこで本発明は上記問題点を鑑み、内視鏡先端の屈曲動作の干渉を受けずに被験体内組織を把持し、切除部位の多角的な視野を確保するとともに、内視鏡と一緒に被験体内へ挿入可能な把持ツールを提供することを目的とする。また被験体内組織を損傷せずに確実に、安定した把持が可能な把持ツールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、被験体内組織を吸着把持するための吸着ヘッドと、吸着ヘッドを先端に備え体内に挿入するための挿入パイプと、挿入パイプ内を吸引するための吸引ポンプと、を備え、挿入パイプ又は吸着ヘッドが内視鏡に装着された把持鉗子にて把持されることで内視鏡とともに被験体内に挿入され、内視鏡とペアで利用されることを特徴とする外把持ツールを提供する。
【0008】
(2)本発明は、吸着ヘッドは、蛇腹状パイプからなり吸着口が被験体内にてフレキシブルに向きを変えられるようにできていることを特徴とする上記(1)に記載の外把持ツールを提供する。
【0009】
(3)本発明は、吸引ポンプの吸引を調節をするための真空レギュレータと、吸引ポンプが吸引した吸引物を収容する収容容器と、を更に備えることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の外把持ツールを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の外把持ツールによれば、内視鏡の動作に干渉を受けずに被験体内組織の吸着把持が可能であるため、術者が所望する生体内部位を内視鏡により観察できる。また、内視鏡に把持された状態で一つの開口から内視鏡と外把持ツールの両方を被験体内に挿入できる。また、損傷せず、かつ凹凸のある被験体内組織を確実に安定した把持が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の概要図
【図2】本発明の使用方法を示す概念図
【図3】吸着ヘッドの形状の例図
【図4】吸着ヘッドの蛇腹状パイプの吸着口のフレキシブル性を示す概念図
【図5】吸着ヘッドが剥離した病変組織を内部に取り込んだ状態を示す概念図
【図6】従来の内視鏡処置具の一例図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本件発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本件発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
<<実施形態1>>
<実施形態1:概要>
【0013】
図1に本発明の概念図を示す。本発明の外把持ツールは、吸着ヘッド(0101)と、挿入パイプ(0102)と、吸引ポンプ(0103)からなる。吸引ポンプの始動により、吸着ヘッドが被験体内組織を吸着把持する。
【0014】
また、図2は発明の使用方法を示す概念図である。図2(a)、(b)に示すように、外把持ツールの吸着ヘッド(0201)及び挿入パイプ(0202)は、挿入パイプ(0202)を内視鏡(0204)に挿入された把持鉗子(0205)にて把持された状態で被験体内に挿入され、術者による内視鏡及び把持鉗子の操作により外把持ツールが把持すべき被験体内組織まで誘導される。なお、図中の点線は視野範囲を示す。そして(c)に示すように、吸引ポンプ(図示せず)を始動して、外把持ツールの吸着ヘッドが被験体内組織を吸着把持し、把持鉗子は挿入パイプの把持を解く。当該把持鉗子は内視鏡から取り出され、代わりに病変組織の剥離・切除を行うナイフ(0206)が内視鏡に挿入される。続いて、(d)に示すように、内視鏡のみを移動させ、術者が所望する切除部位の視野を確保し、切除部位を観察しながら吸着把持されている被験体内組織の剥離、切除を行う。このように、外把持ツールが把持し、被験体内組織を引き上げる方向と、内視鏡により確保される視野方向が互いに干渉しないため、術者は所望の切除部位の視野を確保できる。なお、切除した病変組織は、挿入パイプで吸引し被験体の外へ取り出すか、又は吸着ヘッドが吸着した状態で挿入パイプとともに被験体の外へ取り出す。
<実施形態1:構成>
【0015】
本発明の外把持ツールは、挿入パイプ(0102)が内視鏡の把持鉗子にて把持された状態で内視鏡とともに被験体内に挿入され、内視鏡とペアで利用される把持ツールである。よって、内視鏡と外把持ツールを被験体内に挿入するための挿入口は一つあればよい。また、挿入先端で内視鏡と挿入パイプは互いに固定された関係にあるため、被験体内で両者がバラつくことはなく、内視鏡と外把持ツールの挿入パイプが常に近接した状態にあるため、被験体内の比較的細い領域内への挿入も可能である。また、内視鏡及び把持鉗子の操作のみで、内視鏡とともに外把持ツールの被験体内組織への誘導も同時に行える。
【0016】
「吸着ヘッド」(0101)とは、被験体内組織を吸着把持する機能を有する。後述する吸引ポンプにより、吸着ヘッドの吸着口に吸引が生じる。ここで、「被験体内組織」とは、被験体内の病変部位を剥離・切除するために外把持ツールが吸着把持すべき領域のことである。病変組織である場合のほか、病変組織の周辺の正常組織も含まれる。吸着ヘッドは、被験体内組織を直接把持するため、生体内に悪影響を与えない素材であれば特に限定しないが、被験体内組織への損傷を防止できる素材が好ましい。また、生体内は血液や体液などで常に濡れた状態にあるため、把持する際に滑りにくい素材が好ましい。これらの点を踏まえて、ゴムや樹脂など、比較的柔らかく、変形可能な素材がより好ましい。例えば、シリコンゴムやフッ素ゴム、ウレタンゴム、二トリルゴムなどである。また、吸着ヘッドは着脱可能で、吸着ヘッドのみを交換でき、また滅菌処理等を行い易い構造が好ましい。
【0017】
なお、吸着ヘッドの形状を図3に例示する。(a)の円筒形状や、(b)のラッパ口形状は、非常簡易な構造であるため、低コストでの生産が可能である。また、(b)は(a)と比較して吸着口の面積が大きいため、より安定した吸着把持を可能とする。また、(c)乃至(e)は伸縮可能な蛇腹形状である。吸着ヘッドが蛇腹形状のパイプからなる場合、図4に示すように、挿入パイプ(0402)の向きはそのままに、吸着ヘッド(0401)の吸着口(0403)が被験体内にてフレキシブルにその向きを変えられるため、操作性が極めて高い。かかる場合、蛇腹が多段であるほど、向きの変更可能範囲が広くより好ましい。
【0018】
更に、吸着ヘッドが多段式蛇腹形状の場合、図5に示すように切除部位が大きい場合でも、剥離した病変組織を吸着ヘッドの内部に取り込めるため、比較的大きい病変組織の一括切除が可能であり、病変組織の遺残を回避できる。
【0019】
「挿入パイプ」(0102)とは、吸着ヘッド(0101)を先端に備え体内に挿入するためのものである。生体内を移動するため、器官や組織に接触した場合に、それらに悪影響を与えない素材であれば特に限定しない。被験体内へ挿入する際は、内視鏡の把持鉗子で把持されるため、当該把持鉗子による繰り返し把持に耐えうる素材であればより好ましい。なお、挿入パイプの先端にアダプタを備え、当該アダプタに吸着ヘッドを取付けるような構成にすることで、吸着ヘッドの着脱を容易にするような構成でもよい。かかる場合、吸着ヘッド、アダプタ、挿入パイプの組立分解が可能であるため、滅菌消毒を容易に行える。また、吸着ヘッド、アダプタ、挿入パイプのうちいずれか一以上を使い捨て仕様にしてもよい。かかる場合、より生体への安全性を確保できる。
【0020】
「吸引ポンプ」(0103)とは、挿入パイプ内を吸引するためのものである。吸引ポンプのオンオフを制御するのみで、被験体内組織の吸着把持と非把持を操作できるため、例えば術者の足元に吸引ポンプのオンオフを制御するボタン等を配置した場合、術者は足でその操作ができる。なお、図1に示すように、吸引ポンプ(0103)の吸引を調節するために、真空レギュレータ(0104)を有していてもよい。例えば、被験体内組織が平面であれば、吸引を相対的に弱くし、確実に把持しながらも被験体内組織への損傷を極力抑えるように調節する。また被験体内組織が凹凸面であれば吸引を相対的に強くし、確実に吸着把持できるように調節する。
【0021】
また、本発明の外把持ツールは、挿入パイプ(0102)が吸引した吸引物を収容する収容容器(0105)を更に備えていてもよい。剥離・切除した病変組織を収容するほか、例えば、被験体内組織の周辺の血液や体液などを吸引して、吸着ヘッドの滑りを回避し、確実に、安定して被験体内組織を吸着把持する。
<実施形態1:効果>
【0022】
本発明の外把持ツールによれば、内視鏡の動作に干渉を受けずに病変組織の吸着把持が可能であるため、術者が所望する生体内部位を内視鏡により観察できる。また、内視鏡に把持された状態で一つの開口から内視鏡と外把持ツールの両方を被験体内に挿入できる。また、損傷せず、かつ凹凸のある被験体内組織を確実に安定した把持が可能である。
【符号の説明】
【0023】
0201 吸着ヘッド
0202 挿入パイプ
0203 病変組織
0204 内視鏡
0205 把持鉗子
0206 ナイフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体内組織を吸着把持するための吸着ヘッドと、
吸着ヘッドを先端に備え体内に挿入するための挿入パイプと、
挿入パイプ内を吸引するための吸引ポンプと、を備え、
挿入パイプ又は吸着ヘッドが内視鏡に装着された把持鉗子にて把持されることで内視鏡とともに被験体内に挿入され、内視鏡とペアで利用される外把持ツール。
【請求項2】
吸着ヘッドは、蛇腹状パイプからなり吸着口が被験体内にてフレキシブルに向きを変えられるようにできている請求項1に記載の外把持ツール。
【請求項3】
吸引ポンプの吸引を調節をするための真空レギュレータと、
吸引ポンプが吸引した吸引物を収容する収容容器と、を更に備える請求項1又は2に記載の外把持ツール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−263959(P2010−263959A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115874(P2009−115874)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】