説明

多孔体、ガス浄化材およびこれらの製造方法

【課題】多様な孔径を有し、特にミクロ孔を多く有することで微小な粒子を吸着する能力が高い多孔体、ガス浄化材およびこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】ミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔といった大きさの異なる細孔を有するガス浄化用の多孔体であって、多孔質の非晶質シリカと、前記非晶質シリカの表面に生成した第二リン酸カルシウムとからなる。多孔体は、すべての孔径領域に細孔を有し、特にハイドロキシアパタイトに比べると微小な孔が多いため、ゼオライトや汎用活性炭、ケイ酸アルカリから作製するシリカゲルのように、特定のサイズの細孔だけが抜きん出て多いものに比べると、吸着性能が高い上に吸着速度が速く、多種の物質の吸着に対応できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔といった大きさの異なる細孔を有するガス浄化用の多孔体、ガス浄化材およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ酸カルシウム化合物を利用した吸着剤は古くから知られており、特にケイ酸カルシウム化合物を酸処理して得た非晶質シリカ多孔体(シリカゲル)が広く知られている。この製法は、ケイ酸カルシウム化合物を酸処理することにより、元のケイ酸カルシウム化合物の結晶形態が保持されたまま、含有カルシウム分だけが溶出することを利用したものである。そして、得られた非晶質シリカ多孔体には、ケイ酸カルシウム化合物が元々持っている大きめの細孔と、カルシウムが抜けて生じた微細孔の両方が存在するため、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔のすべての領域に幅広い細孔を有するという特徴がある。
【0003】
このようなケイ酸カルシウム化合物を酸処理する方法に関して、従来、種々の吸着剤が提案されている(たとえば、特許文献1〜4参照)。特許文献1には、ケイ酸カルシウム化合物に塩酸または硝酸を添加し、含有カルシウム分を溶解除去した吸着剤について記されている。また、特許文献2には、炭酸ガスの溶解した液中にケイ酸カルシウム化合物を入れて炭酸化させ、含有カルシウム分を炭酸カルシウムとして表層に析出させた吸着剤について記されている。また、特許文献3には、ケイ酸カルシウム化合物を気中で炭酸ガスと接触させて炭酸化させ、含有カルシウム分を炭酸カルシウムとして表層に析出させた吸着剤について記されている。また、特許文献4には、ケイ酸カルシウム化合物にリン酸を添加し、含有カルシウム分をハイドロキシアパタイトとして表層に析出させた吸着剤について記されている。
【0004】
こうした吸着剤は、主にファンデルワールス結合や水素結合などの物理吸着を利用したものであるが、これらと化学吸着剤または化学反応剤(分解剤)を混合し、吸着性能を向上させることも行われている。特許文献5には、気中で炭酸化させたケイ酸カルシウム化合物をビドラジド化合物に固着させることで、特にアルデヒド系ガスの吸着性能を向上させる方法について記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−41712号公報
【特許文献2】特開平6−144944号公報
【特許文献3】特開2008−105886号公報
【特許文献4】特開平11−180705号公報
【特許文献5】特開2008−227729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の吸着剤の生成方法では、酸処理によりカルシウム分を可溶性のカルシウム塩にして除去するため吸着剤の収率が低い。ケイ酸カルシウム化合物のCaO/SiOモル比などにもよるが、カルシウム分はケイ酸カルシウム化合物全体の20〜60wt%を占めており、そのすべてが溶解除去されてしまうため、コスト高になってしまう。また生成する塩は潮解性を有している物質が多く、完全に除去するには入念な洗浄が必要となる。さらに塩が残存すると本発明の目的のひとつである化学吸着剤を劣化させる原因となる。また金属の発錆を促進したり、皮革品の表面が侵されたりするため注意を要する。
【0007】
特許文献2記載の吸着剤の生成方法では、水中に溶解させた炭酸ガスと反応させるが、化学大辞典等の文献によれば1気圧10℃の水に溶ける炭酸ガスは、水1容に対し約1.2容であり、また温度が上がるほど溶解量が減る。しかし、溶解した炭酸分では反応に要する量としては少なく、常に補充する必要がある。また、炭酸カルシウム生成は発熱反応であるため、水温が上がり炭酸ガスの溶解量が減るため効率が悪くなる。また、水中に溶解した炭酸ガスは不安定で容易に気体に戻るため、水面から出るガスの対策をしないと、作業員に炭酸ガス中毒の危険が生じる。反応層を密閉容器にすれば上記問題は解決されるが、ケイ酸カルシウム化合物を均一に効率よく反応させるためには攪拌が必要であるため、耐圧の攪拌容器が必要となり、多額の設備費がかかってしまう。
【0008】
特許文献3および特許文献4記載の吸着剤の生成方法では、カルシウム分を溶解除去せずに、炭酸カルシウムやハイドロキシアパタイトとして表層に析出させているため、吸着剤の収率は高い。しかし、特許文献3記載の吸着剤の生成方法では、粉粒体に炭酸ガスを接触させる方法であるため、固結したり、炭酸化により生じた水が炭酸ガスの浸透を妨げたりすると、炭酸化が十分に進行せず、アルカリが残存する可能性がある。
【0009】
特許文献4記載の吸着剤の生成方法も同様に、pH7以上の雰囲気で反応させるため、アルカリが残存しやすい。このように、アルカリが残存した場合、アルカリに弱い化学吸着剤または反応剤との併用が困難となる。たとえば、特許文献5に記載されるように、ケイ酸カルシウム吸着剤に、アルデヒド系ガスの除去に有効であるヒドラジド化合物を固着させた場合、ヒドラジド化合物がアルカリによって徐々に分解されていき、アルデヒド系ガスの除去機能が経時的に劣化してしまうという問題がある。
【0010】
また、上記のような従来の吸着剤は、いずれの吸着剤も多様な孔径を有しておらず多様な被吸着物に対する吸着能力を十分に有しているとはいえない。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の多孔体については多様な孔径を有し、微小な粒子を吸着する能力を高くすることを目的としている。また、本発明のガス浄化材については、ヒドラジド化合物を劣化させずに、長くガス浄化性能を維持させることを目的としている。また、本発明の多孔体またはガス浄化材の製造方法については、簡便な方法で多様な孔径を有する多孔体またはガス浄化材を製造することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の多孔体は、ミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔といった大きさの異なる細孔を有するガス浄化用の多孔体であって、多孔質の非晶質シリカと、前記非晶質シリカの表面に生成した第二リン酸カルシウムとからなり、前記ミクロ孔は、2nm以下の孔径を有し、前記細孔の全容積に対し2%以上を占め、前記メソ孔は、2nmを超え50nm以下の孔径を有し、前記細孔の全容積に対して70%以上を占め、前記マクロ孔は、50nmを超える孔径を有し、前記細孔の全容積に対して15%以上を占め、10m/g以上250m/g以下の比表面積を有することを特徴としている。
【0013】
このように本発明の多孔体は、ミクロ孔からマクロ孔までのすべての孔径領域に細孔を有し、ゼオライトや汎用活性炭のように、特定のサイズの細孔だけが抜きん出て多いものに比べると、吸着性能が高い上に吸着速度が速く、多種の粒子の吸着に対応できる。
【0014】
また、メソ孔やマクロ孔も多く存在するため、被吸着物がミクロ孔へと移動するための通路の役目も果たし、吸着速度を大きくすることができる。また、トリメチルアミンや2メチルイソボネオールなどの嵩高い分子の吸着に対しても高い性能が得られる。また、本発明の多孔体は、10m/g以上250m/g以下の比表面積を有する。比表面積が10m/g以下の場合、ガス中の被吸着物に対して十分な吸着性能が得られない。250m/g以上のものを得ようとすると、安定した品質の製品が得にくくコスト高になる。たとえば、出発原料であるCSHのCaO/SiOモル比を高くし、溶出するカルシウム量を多くしてミクロ孔を増やして比表面積を大きくしようとすると、非晶質シリカの量が少ないために、リン酸処理時にCSHの構造が破壊されやすくなる。
【0015】
(2)また、本発明の多孔体は、前記第二リン酸カルシウムが主にモネタイトからなることを特徴としている。モネタイト(CaHPO)はメソ孔が多く、BET比表面積は150m/g以上200m/g以下、細孔容積は0.4ml/g以上0.6ml/g以下で大きめであり、表面にモネタイトが形成された多孔体は多くの種類のガスに対応しやすい。主にモネタイトからなるとは、少なくともX線回折によってモネタイトのピークが最も顕著に観察される程度に存在することをいう。
【0016】
(3)また、本発明の多孔体は、前記第二リン酸カルシウムが主にブルシャイトからなることを特徴としている。ブルシャイト(CaHPO・2HO)はミクロ孔が多く、細孔容積は0.3ml/g以上0.5ml/g以下である。BET比表面積が200m/g以上250m/g以下で、大きめであり、特に微小な粒子の吸着に優れている。主にブルシャイトからなるとは、少なくともX線回折によってブルシャイトのピークが最も顕著に観察される程度に存在することをいう。
【0017】
(4)また、本発明のガス浄化材は、ヒドラジド化合物と、上記いずれかの多孔体とが混合されてなることを特徴としている。ヒドラジド化合物は、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドなどのアルデヒド系ガスの除去能力に優れており、物理吸着性能の高い上記多孔体と混合して用いると、ガス中の被除去物質に対して非常に高い除去能力と除去速度を示す。また、表面に第二リン酸カルシウムを形成させた多孔体は、酸性領域(pH3以上6以下)で生成可能であるため、アルカリは残存しにくく、ヒドラジド化合物を劣化させることはない。
【0018】
(5)また、本発明のガス浄化材は、前記多孔体が、前記ヒドラジド化合物に固着していることを特徴としている。これにより、アルデヒド系ガスをより効率良く除去することができる。なお、固着とは、一つのヒドラジド化合物粒子に多数の第二リン酸カルシウムを表面に有する非晶質シリカがその一部をめり込ませた状態であることを指す。
【0019】
(6)また、本発明の多孔体の製造方法は、ミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔といった大きさの異なる細孔を有するガス浄化用の多孔体の製造方法であって、CSHを分散させた分散液に、カルシウムイオン(Ca2+)/リン酸イオン(PO3−)のモル比を1.0以上1.5以下となるようにリン酸を加え、前記分散液中で前記CSHと前記リン酸を十分に反応させ、前記反応でカルシウム分がCSHから溶出することにより、非晶質シリカの表面に第二リン酸カルシウムを形成させた多孔体を生成することを特徴としている。これにより、ミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔といった大きさの異なる細孔を有する多孔体を簡便な方法により製造することができる。また、酸性領域で生成させるため、アルカリは残存し難い。なお、CSHとは、Calcium Silicate Hydrateをいう。
【0020】
(7)また、本発明の多孔体の製造方法は、前記分散液の温度を75℃以上95℃以下に維持することを特徴としている。このように分散液の温度を75℃以上に維持することで、非晶質シリカの表面にモネタイトを形成することができる。一方で、分散液の温度を95℃以下に抑えることで、溶液の蒸発を防止し、作業性を高めることができる。
【0021】
(8)また、本発明の多孔体の製造方法は、前記分散液の温度を15℃以上70℃以下に維持することを特徴としている。これにより、非晶質シリカの表面にブルシャイトが形成される。カルシウムイオン/リン酸イオンモル比が適当な範囲にあるとき、分散液の温度を70℃以下に維持することで、非晶質シリカの表面に高純度のブルシャイトを形成することができる。また、分散液の温度が15℃より低くても高純度のブルシャイトは得られるものの、特に15℃未満にする効果はなく、エネルギー等が無駄になる。
【0022】
(9)また、本発明のガス浄化材の製造方法は、上記いずれかの多孔体の製造方法において、前記分散液のpHが3以上6以下となるように調整して得られた多孔体に、ヒドラジド化合物を混合することでガス浄化材を得ることを特徴としている。このようにヒドラジド化合物が混合されることで、アルデヒド系ガスを効率良く除去できる。また、多孔体の製造はpH3以上6以下で反応を進めるため、残留するアルカリによるヒドラジド化合物の分解を防止できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の多孔体は、微小な孔が多く孔径が多様であるため、吸着性能が高い上に吸着速度が速く、多種の物質の吸着に対応できる。また、本発明のガス浄化材は、ヒドラジド化合物を劣化させずに、長くガス浄化性能を維持させることができる。また、本発明の多孔体またはガス浄化材の製造方法は、簡便な方法で多様な孔径を有する多孔体またはガス浄化材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】各実施例および比較例の作製条件、結果および特性を示す表である。
【図2】各実施例および比較例の構成および試験結果を示す表である。
【図3】細孔径分布の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の多孔体とガス浄化材の実施形態を説明する。
【0026】
[1]多孔体
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、非晶質シリカの表面に第二リン酸カルシウムを形成させた多孔体が、上記の課題を解決することを見出した。本発明の多孔体は、多孔質の非晶質シリカと、その表面に形成された第二リン酸カルシウムとからなる。なお、第二リン酸カルシウムは、多孔質の非晶質シリカの表面に一様に分布する。ただし、必ずしも多孔体の表面をすべて被覆せず、多孔質の非晶質シリカが露出している部分もある。上記多孔体は、ミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔といった大きさの異なる細孔を有し、ガス浄化の用途に優れている。たとえば、VOC、硫化水素、アンモニア、酢酸、トリメチルアミン、2−メチルイソボルネオール等の有害ガスや空気中に浮遊する固体粒子を吸着できる。多孔体は、粒径1μm以上15μm未満の粉粒体であることが好ましい。多孔体は、粒径10μm以上15μm未満であればさらに好ましい。
【0027】
(細孔の構造等)
細孔は、非晶質シリカおよびその表面に生成した第二リン酸カルシウムにわたって形成され、ミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔からなる。ミクロ孔は直径2nm以下の細孔で、硫化水素やアンモニアなど小さな分子の吸着性能を高める。メソ孔は直径2nm以上50nm未満の細孔で、トリメチルアミンや2−メチルイソボネオールなど嵩高い分子の吸着性能を高める。更に、メソ孔は小さな分子がミクロ孔へと移動するための通路の役目も果たすため、吸着速度を向上させる効果も有している。マクロ孔は50nm以上の細孔で、粒子の吸着にはあまり効果がないが、分子が移動するための通路の役目を果たすため、吸着速度を向上させる。
【0028】
多孔体が有する細孔の全容積を100%としたとき、ミクロ孔は2%以上、メソ孔は70%以上、マクロ孔は15%以上をそれぞれ占めるのが好ましい(BJH法により測定される孔径分布、以下同様)。このように、ミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔のすべての孔径領域に細孔を持っているため、従来から吸着材として用いられるゼオライトや汎用活性炭、汎用シリカゲルのように、特定のサイズの細孔だけが抜きん出て多いものに比べると、粒子の吸着性能が高い上に吸着速度も速い。
【0029】
詳細な製造方法は後述するが、多孔体は、CSHを特定条件下でリン酸処理して得られる。ケイ酸カルシウム化合物を特定条件下でリン酸処理すると、元のCSHの構造形態を保持したまま、含有カルシウム分だけが溶出し、表面に第二リン酸カルシウムを形成する。そのため、CSHがもともと持っているメソ孔およびマクロ孔に、カルシウムが溶出した跡のミクロ孔が加わり、幅広い細孔分布が得られる。
【0030】
多孔体の比表面積は10m/g以上250m/g以下であることが好ましい。比表面積が10m/g未満の場合、有害ガスに対して十分な吸着性能が得られない。また、吸着性能については100m/g以上であればさらに好ましい。吸着性能だけを考えれば比表面積は大きい方が良いが、250m/gを超える比表面積の多孔体を得ようとすると、製造面での安定性を喪失する。比表面積を大きくするには、CSHをリン酸処理することにより溶出するカルシウム量を多くしてミクロ孔を増やす必要があるが、そのためにはリン酸処理を行なうCSHのCaO/SiOモル比を高くする必要がある。しかし、CaO/SiOモル比の高いCSHは、非晶質シリカの量が少ないために、リン酸処理時にCSHの構造が破壊されやすくなり、安定した製品が得られにくくなる。したがって、比表面積は最大でも250m/g以下であることが好ましい。
【0031】
(第二リン酸カルシウムの構成)
第二リン酸カルシウムは、結晶水の有無によりモネタイト(CaHPO)とブルシャイト(CaHPO・2HO)とに分類できる。どちらが形成された多孔体でも十分な吸着性能を有している。また、本発明の多孔体の製造方法を用いればヒドラジド化合物を混合させてもそれを劣化させることがない。主にモネタイトが形成されている多孔体にはメソ孔が多く、その細孔の全容積を100%としたときミクロ孔は2%以上、メソ孔は75%以上、マクロ孔は15%以上を占める。モネタイトが非晶質シリカの表面に形成された多孔体のBET比表面積は150m/g以上200m/g以下であるが、細孔容積も0.4ml/g以上0.6ml/g以下と大きめである。一方、主にブルシャイトが形成されている多孔体はミクロ孔が多く、その細孔の全容積を100%としたときミクロ孔は7%以上、メソ孔は70%以上、マクロ孔は15%以上を占める。ブルシャイトが非晶質シリカの表面に形成された多孔体の細孔容積は0.3ml/g以上0.5ml/g以下であるが、BET比表面積が200m/g以上250m/g以下と大きめである。
【0032】
目的とするガスの種類に応じて、モネタイトの形成された多孔体とブルシャイトの形成された多孔体とを使い分けると効果的であるが、概してメソ孔の多いモネタイトの形成された多孔体の方が多くの種類のガスに対応しやすい。なお、従来、知られているハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(HO))を有する多孔体には、本発明の多孔体に比べミクロ孔が1%以下と非常に少なく、そのBET比表面積も100m/g以上150m/g以下である。本発明の多孔体では第二リン酸カルシウムとして、製造時の条件により、主にモネタイトからなるもの、主にブルシャイトからなるもの、両者が混在するもの3種類が生成されうる。なお、これらは結晶質主体であれば非晶質のものが含まれていてもよい。
【0033】
[2]ガス浄化材
多孔体は、このままガス浄化材として用いることも可能であるが、アルデヒド系ガスの吸着性能を向上させるために、化学吸着剤または反応剤であるヒドラジド化合物と混合してガス浄化材として用いることが好ましい。ヒドラジド化合物は、ヒドラジド基の数によってモノヒドラジド化合物(1個)、ジヒドラジド化合物(2個)、ポリヒドラジド化合物(3個以上)がある。
【0034】
モノヒドラジド化合物の具体的な物質としてはラウリル酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、p―ハイドロキシ安息香酸ヒドラジド、ナフトエ酸ヒドラジド、3−ハイドロキシ2−ナフトエ酸ヒドラジド等が、ジヒドラジド化合物としては、アジピン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、カルボヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ダイマー酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド等が、ポリヒドラジド化合物としてはポリアクリル酸ヒドラジド等がある。ヒドラジド化合物粒子の平均粒径は30μm程度が好ましい。
【0035】
ヒドラジド化合物は、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドなどのアルデヒド系ガスの除去能力に優れており、物理吸着性能が高く、ヒドラジド化合物を劣化させない多孔体と混合して用いると、非常に高い除去能力と除去速度が発揮される。このように形成されたガス浄化材は、多孔体粒子が、ヒドラジド化合物粒子に固着していることが好ましい。固着とは、一つのヒドラジド化合物粒子に多数の多孔体がその一部をめり込ませた状態であることを指す。固着させるには、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、アイリッヒミキサー等の一般的な混合装置やボールミル、ジェットミル等の混合粉砕装置を用いればよい。このように構成されたガス浄化材は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類を含むVOC(揮発性有機化合物)に対して吸着能力が優れている。
【0036】
多孔体とヒドラジド化合物との混合比率は、全体を100%としたときにヒドラジド化合物が3重量%以上20重量%以下であることが好ましい。このような混合比率とすることでアルデヒド系ガスを効率良く除去できる。ヒドラジド化合物が3重量%未満の場合には、ヒドラジド化合物の量が少なすぎて性能を十分に発揮できない。また、ヒドラジド化合物が20重量%を超えると、物理吸着性能の高い多孔体の量が少なすぎ、吸着速度が低下するとともに多様な物質の吸着もし難くなる。混合方法は特に限定されないがビニール袋に入れて手揉み混合するだけでも良い。上記の通りボールミルなどを用いて混合しヒドラジド化合物と多孔体との少なくとも一部を固着状態にすると、アルデヒド系ガスをさらに効率良く除去することができる。なお、本発明のガス浄化材は、容器に入れて吸着対象となるガスまたは浮遊粒子が存在する場所に設置して用いることができる。また、不織布に付着させたものや、ガスが透過可能な袋に封入したものを設置して用いることもできる。また、必要に応じてペレット状にしたり、造粒したりして、さらに他の多孔物質と混合、成形して用いることもできる。
【0037】
[3]多孔体の製造方法
次に、本発明の多孔体の製造方法を説明する。まず、CSHを準備する。CSHは、ポゾラン反応性を有するケイ酸質原料と石灰質原料とを水熱合成して得る。この時、加圧して100℃以上の飽和水蒸気雰囲気、いわゆるオートクレーブ養生にしても良い。
【0038】
CSHの原料となるポゾラン反応性を有するケイ酸質原料としては、アエロジル、シリカヒューム、シラスバルーン、フライアッシュ、ガラス粉末、シリカゲル、ホワイトカーボン、パーライトなどを使用することができる。また、CSHの原料となる石灰質原料としては、試薬級消石灰、あるいは、JIS−R−9001に規定される工業用消石灰などを使用することができる。
【0039】
このようにして得られたCSHを分散させた分散液を所定の温度に調整し、カルシウムイオン/リン酸イオンのモル比を1.0以上1.5以下となるようにリン酸を加える。この場合のモル比は、分散液中のカルシウムイオンとリン酸イオンの比である。モル比は、CSHのカルシウム量は不定であるため、CSHの合成時に把握した量に基づいて計算される。そして分散液中でCSHとリン酸を十分に反応させる。その結果、反応でCSHからカルシウム分が溶出し、残った非晶質シリカの表面に第二リン酸カルシウムが形成される。このようにして本発明の多孔体を簡便に生成することができる。
【0040】
このように、多孔体は、CSHを所定の条件下でリン酸処理することで粉粒体として得られる。なお、粉粒体については更に粉砕等を行ってもよく、粒径を1μm以上15μm以下程度とするのが好ましい。あまり細かくなりすぎると、粉塵となり取り扱いにくいためである。リン酸処理条件により、リン酸カルシウムはハイドロキシアパタイトにもなりうるが、第二リン酸カルシウムの方がハイドロキシアパタイトよりミクロ孔が多く吸着性能に優れている。また、ヒドラジド合物と混合して利用する場合、ハイドロキシアパタイトは中性から弱アルカリ性の雰囲気で生成されるため、接触するヒドラジド化合物を経時的に劣化させる。なお、多孔体の製造時に、カルシウムイオン/リン酸イオンモル比、反応温度および反応時間を調整することで、モネタイトまたはブルシャイトを選択的に生成できる。以下に、モネタイトおよびブルシャイトの製造方法をそれぞれ詳細に説明する。
【0041】
(モネタイトが形成された多孔体の製造方法)
非晶質シリカの表面にモネタイトが形成された多孔体の製造方法を説明する。まず、CSHを水に分散させ、分散液の温度75℃以上95℃以下に調整する。そこに、カルシウムイオン/リン酸イオンモル比が1.0以上1.5以下となるようリン酸を加え、30分以上、好ましくは60分以上攪拌し、ろ過、乾燥する。モネタイトの生成条件は、以下の3条件を満たしていることが必要である。すなわち、(1)カルシウムイオン/リン酸イオンモル比が1.0以上1.5以下であること、(2)分散液の温度が75℃以上95℃以下であること、(3)攪拌時間(反応時間)が30分以上であることである。
【0042】
カルシウムイオン/リン酸イオンモル比を1.0以上1.5以下にする理由は、次の通りである。カルシウムイオン/リン酸イオンモル比が1.5を超えるようなカルシウムリッチの状態では、カルシウムイオン/リン酸イオンモル比が1:1であるモネタイトは生じにくく、カルシウムリッチなハイドロキシアパタイトが生じる。ハイドロキシアパタイトは、75℃以上の高温では単独で、75℃未満の低温ではブルシャイトの混合物として生成するが、いずれにしてもカルシウムイオン/リン酸イオンモル比が1.5を超える場合、モネタイトは生成しにくい。
【0043】
また、カルシウムイオン/リン酸イオンモル比が1.0に満たないようなリン酸リッチの条件では、カルシウム分が完全に溶解してしまい、ろ過時に溶液と一緒に流出してしまう。そのため、表面にリン酸カルシウム化合物は生成せず、塩酸や硝酸で処理した時と同様、多孔質の非晶質シリカのみ生成する。なお、分散液の温度を75℃以上95℃以下とすることで非晶質シリカ表面には主にモネタイトが形成される。主にモネタイトが形成されるとは、少なくともX線回折によってモネタイトのピークが最も顕著に観察される程度に存在することをいう。
【0044】
カルシウムイオン/リン酸イオンモル比が1.0以上1.5以下で、分散液の温度が75℃に満たない場合、ブルシャイトが生成され、モネタイトは生成し難くなる。モネタイトは、分散液の温度が75℃以上になると生成し始め、温度が高いほど短時間で生成する傾向にある。したがって、分散液の温度は75℃以上、好ましくは85℃以上とする。ただし、分散液の温度を高くしすぎると、溶液の蒸発量が多くなり、作業性などが悪化するため、上限は95℃とするのが望ましい。
【0045】
また、攪拌時間を30分以上とすることで、CSHとリン酸とを十分に反応させることができる。カルシウムイオン/リン酸イオンモル比を1.0以上1.5以下、分散液の温度を75℃以上95℃以下とした場合、初期段階ではブルシャイトを主としたモネタイトとの混合物が生成する。その後、時間の経過とともに、混合物はモネタイトを主としたブルシャイトとの混合物へと変わり、最終的には純度の高いモネタイトへと変化する。そのため、攪拌時間は30分以上とするのが好ましく、さらにモネタイトの純度を高くするには60分以上とするのが良い。ただし、あまり長くしすぎても生産性が低下するため、最長でも90分程度とするのが好ましい。このようにして、非晶質シリカの表面に主にモネタイトを形成する。
【0046】
水/CSHの比率は特に限定するものではないが、望ましくは重量比で4以上25以下、好ましくは8以上20以下とする。水/CSHの比率が4未満で水が少なすぎると、CSHがうまく分散せず、沈殿や固結が生じやすくなり、リン酸処理が十分に行われない。一方、水/CSHの比率が25以上になると、固形分が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0047】
攪拌方法および攪拌速度は特に限定されず、CSHの粒子が溶液内に適度に分散されれば十分である。攪拌方法および攪拌速度が与える反応への影響は小さく、生成物の種類や性状に大差はない。ただし、固形分が沈殿したり、固結したりするほど攪拌が弱いと、CSHとリン酸との接触が不十分となり、十分なリン酸処理が行えないため、沈殿や固結が生じない程度の最低限の攪拌は必要である。
【0048】
(ブルシャイトが形成された多孔体の製造方法)
多孔質の非晶質シリカの表面にブルシャイトが形成された多孔体の製造方法を説明する。CSHを水に分散させ、分散液の温度を15℃以上70℃以下に調整する。そこに、カルシウムイオン/リン酸イオンモル比が1.0以上1.5以下となるようリン酸を加え、30分以上攪拌した後、ろ過・乾燥する。このように、ブルシャイトの生成条件は、以下の3条件を満たしていることが必要である。すなわち、(1)カルシウムイオン/リン酸イオンモル比が1.0以上1.5以下であること、(2)分散液の温度が15℃以上70℃以下であること、(3)攪拌時間(反応時間)が30分以上であることである。
【0049】
カルシウムイオン/リン酸イオンモル比を1.0以上1.5以下にする理由は、基本的にはモネタイトが形成された多孔体の場合と同様である。すなわち、カルシウムリッチの場合、カルシウムイオン/リン酸イオンモル比が1:1であるブルシャイトが生じにくく、カルシウムリッチなハイドロキシアパタイトが生じる。リン酸リッチの条件では、CSHからカルシウム分が完全に溶出してしまい、非晶質シリカのみが生成される。
【0050】
分散液の温度を15℃以上70℃以下とすることで、ブルシャイトを形成することができる。カルシウムイオン/リン酸イオンモル比が1.0以上1.5以下で、分散液の温度が70℃を超える場合、純度の高いモネタイト、またはブルシャイトとの混合物が生成し、高純度のブルシャイトは得られない。ブルシャイトを高純度で生成させるには、分散液の温度を70℃以下にする必要がある。また、分散液の温度が15℃より低くても高純度のブルシャイトは得られるが、あえて15℃未満にする必要はない。
【0051】
また、攪拌時間を30分以上とすることで、CSHとリン酸を十分に反応させることができる。カルシウムイオン/リン酸イオンモル比を1.0以上1.5以下、分散液の温度を15℃以上70℃以下で反応させた場合でも、初期段階ではブルシャイトにハイドロキシアパタイトが混じりやすいからである。時間の経過とともに、ハイドロキシアパタイトはなくなり、純度の高いブルシャイトになる。そのため、攪拌時間は30分以上とするのが好ましい。長くしすぎても生産性が低下するため、最長でも90分程度とするのが望ましい。水/CSHの比率、攪拌方法および攪拌速度については、表面にモネタイトを有する多孔体の製造の場合と同様で良い。
【0052】
[4]ガス浄化材の製造方法
上記方法で得た多孔体粒子に、全重量の3重量%以上20重量%以下に相当する量のヒドラジド化合物粒子を混合することでガス浄化材の粉粒体を得ることができる。混合方法は特に限定されない。両者を袋に入れて揉み混ぜるだけでも混合するには十分であるが、両者の少なくとも一部が固着した状態になるとさらに好ましい。固着状態は、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフエアミキサー、アイリッヒミキサー、へンシェルミキサー、ハイブリダイゼイションシステム、ナウターミキサーまたはリボンブレンダーといった一般的な混合装置や、ボールミルまたはジエットミル等の粉砕および混合を同時に行なう混合粉砕装置等を用いることで実現できる。基材として本発明の多孔体を用いることでミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔のすべての孔径領域に幅広い細孔を有するガス浄化材が得られる。
【0053】
ヒドラジド化合物はアルカリで分解される性質を有する。そのため、アルカリを含む物理吸着剤と混合して用いると、物理吸着剤が空気中の水蒸気を吸着し、そこにアルカリが溶け込み、ヒドラジド化合物を分解・劣化させるという現象が起こる。したがって、ヒドラジド化合物との混合を考えた場合、相手方の物理吸着剤にはアルカリを含まないことが重要となる。
【0054】
ケイ酸カルシウム化合物をリン酸処理する場合、一般的にはハイドロキシアパタイトを生成させる方法が用いられる。しかし、ハイドロキシアパタイトを生成させようとすると、中性から弱アルカリ性雰囲気(pH7〜8程度)にしなければならないため、得られた非晶質シリカにアルカリが残存しうる。
【0055】
そのため、従来の表面にハイドロキシアパタイトの形成された非晶質シリカとヒドラジド化合物とを混合したアルデヒド系ガスのガス浄化材は、混合後にヒドラジド化合物が分解されて性能が得られないか、あるいは初期には高い性能が得られていても、すぐに経時劣化する。一方、本発明の多孔体は、非晶質シリカ表面に形成される第二リン酸カルシウムを酸性領域(pH3から6程度)で生成させているため、アルカリは残存しにくく、混合してもヒドラジド化合物を劣化させることはない。
【0056】
(多孔体の実施例)
作製条件を変えて多孔体を作製し、BET比表面積や細孔容積等の特性を測定した。図1は、各実施例および比較例の作製条件、結果および特性を示す表である。図1に示される生産性は、収率が90%以上あるか否かを判定した指標であり、「○」は収率が90%以上あることを、「×」は収率が90%未満であることを示している。また、「−」は反応が不十分等の理由で測定できないことを示している。
【0057】
[実施例1]
ビーカーに水1000mlを入れ、80℃に調整したウォーターバス内に設置した後、プロペラ式攪拌機を用いて回転速度600r.p.m.で攪拌した。そこに、あらかじめカルシウム原料のCaOと、シリカ原料のSiOとをモル比0.6で合成したCSH50gを添加し、分散液を30分間攪拌とした。その後、カルシウムイオン/リン酸イオンモル比が1.5となるようにリン酸(米山薬品工業製の試薬特級:純度85%でモル比を計算)を一気に分散液に添加し、60分間攪拌混合した。得られた生成物を吸引ろ過して固形分を採取し、105℃に調整した送風式乾燥機内で1日間乾燥させ、粉粒体を得た。
【0058】
そして、X線回折測定(製品名Multinex.リガク製)による組成物同定、並びに走査型電子顕微鏡(製品名JSM=820.日本電子製)による目視観察の結果、得られた粉粒体は多孔質のモネタイトを表面に有する非晶質シリカ(多孔体)であることが分かった。また、得られた粉粒体をメノウ乳鉢で粒径1μm以上15μm未満の粉状になるまで粉砕し、カンタクローム社製のオートソーブ−1を使用し、ガス吸着法により比表面積と細孔径分布を測定した。
【0059】
[実施例2]
カルシウムイオン/リン酸イオンモル比を1.0とした以外は、実施例1と同様の条件で多孔体を作製した。得られた粉粒体は、実施例1と同様に、多孔質のモネタイトを表面に有する非晶質シリカ(多孔体)であることが分かった。
【0060】
[実施例3]
分散液の温度を95℃とした以外、実施例1と同様の条件で多孔体を作製した。得られた粉粒体は、実施例1と同様に、多孔質のモネタイトを表面に有する非晶質シリカ(多孔体)であることが分かった。
【0061】
[実施例4]
分散液の温度を95℃とした以外、実施例2と同様の条件で多孔体を作製した。得られた粉粒体は、実施例2と同様に、多孔質のモネタイトを表面に有する非晶質シリカ(多孔体)であることが分かった。
【0062】
[実施例5]
分散液の温度を70℃とした以外、実施例1と同様の条件で多孔体を作製した。得られた粉粒体は、多孔質のブルシャイトを表面に有する非晶質シリカ(多孔体)であることが分かった。
【0063】
[実施例6]
分散液の温度を70℃とした以外、実施例2と同様の条件で多孔体を作製した。得られた粉粒体は、多孔質のブルシャイトを表面に有する非晶質シリカ(多孔体)であることが分かった。
【0064】
[実施例7]
分散液の温度を25℃とした以外、実施例1と同様の条件で多孔体を作製した。得られた粉粒体は、多孔質のブルシャイトを表面に有する非晶質シリカ(多孔体)であることが分かった。
【0065】
[実施例8]
分散液の温度を15℃とした以外、実施例2と同様の条件で多孔体を作製した。得られた粉粒体は、多孔質のブルシャイトを表面に有する非晶質シリカ(多孔体)であることが分かった。
【0066】
[実施例9]
攪拌時間を30分とした以外、実施例1と同様の条件で多孔体を作製した。得られた粉粒体は、多孔質のブルシャイトを表面に有する非晶質シリカ(多孔体)の中に、若干量の多孔質のモネタイトを表面に有する非晶質シリカ(多孔体)が混合したものであると分かった。なお、上記の実施例1〜9で得られた多孔体の平均粒径は10〜15μmであった。
【0067】
[比較例1]
カルシウムイオン/リン酸イオンモル比を2.0とした以外は、実施例1と同様としたところ、表面にハイドロキシアパタイトを有する非晶質シリカが得られた。比表面積は92m/gと小さく、第二リン酸カルシウムと比べて、ミクロ孔が0.7%と少なかった。
【0068】
[比較例2]
カルシウムイオン/リン酸イオンモル比を0.8とした以外は、実施例1と同様としたところ、非晶質シリカ表面にはリン酸カルシウムは生成せず、X線回折図は非晶質シリカのものと思われる20〜25°付近のブロード曲線しか認められなかった。
【0069】
[比較例3]
攪拌時間を15分とした以外は、実施例1と同様の条件としたところ、多孔質のブルシャイトを表面に有する非晶質シリカの中に、若干量のモネタイトを表面に有する非晶質シリカが混合した粉粒体が得られ、多孔質のモネタイトを表面に有する非晶質シリカは得られなかった。
【0070】
[比較例4]
攪拌時間を15分とした以外は、実施例5と同様としたところ、多孔質のブルシャイトを表面に有する非晶質シリカと多孔質のアパタイトを表面に有する非晶質シリカの混合物が得られ、多孔質のブルシャイトを主として表面に有する非晶質シリカ主体のものは得られなかった。
【0071】
(孔径分布の比較)
上記の実施例および比較例以外に、CSHおよびCSHを気中で炭酸化した試料についてもガス吸着法により細孔径分布を測定した。図2は、細孔径分布の測定結果を示すグラフである。図2に示すブルシャイトを表面に有する多孔体の細孔径分布moは、ミクロ孔が最も多いことが分かる(実施例1)。また、それに次いでモネタイトを表面に有する多孔体についてミクロ孔が最も多いことが分かる(実施例5)。
【0072】
一方、アパタイトを表面に有する多孔体の細孔径分布apは、メソ孔の孔径にピークは認められるもののミクロ孔は、上記のものに比べるとほとんどない(比較例1)。また、気中炭酸化試料の細孔径分布でも、ほとんどミクロ孔がないことが分かる。また、CSHには、孔径の小さい孔がなく、大きい孔径に分布が偏っていることが分かる。このように、本発明の多孔体が従来のものに比べ幅広い孔径領域を有しており、多種の粒子の吸着に優れていることが実証された。
【0073】
また、主にモネタイトを表面に有する多孔体(実施例1)および主にブルシャイトを表面に有する多孔体(実施例5)について細孔径分布を算出した。その結果、主にモネタイトを表面に有する多孔体では、その細孔の全容積を100%としたときミクロ孔は2%以上、メソ孔は75%以上、マクロ孔は15%以上を占めることが分かった。一方、主にブルシャイト表面に有する多孔体では、その細孔の全容積を100%としたときミクロ孔は7%以上、メソ孔は70%以上、マクロ孔は15%以上を占めることが分かった。
【0074】
(ガス浄化材の実施例)
本発明の多孔体や比較例としての気中炭酸化CSH等をヒドラジド化合物と混合してガス浄化材を作製し、その構成を測定した。また、作製直後とその一週間後でアセトアルデヒドの除去試験を行った。図3は、各実施例および比較例の構成および試験結果を示す表である。なお、アセトアルデヒドの除去については90%の除去率を維持できた場合に合格と判定した。
【0075】
[実施例10]
実施例1で得たモネタイトを表面に有する多孔体94重量部と、アジピン酸ジヒドラジド6重量部とを、ボールミル(TBRAOKA製BKF−200)で45分間粉砕混合し、両者の少なくとも一部が固着した状態のガス浄化材を得た。混合したアジピン酸ジヒドラジド粒子の平均粒径は30μmであり、アジピン酸ジヒドラジド粒子に多孔体が固着した粒子の最大粒径は100μmであった。ボールはアルミナ製で、直径20mm、30mm、35mmのものを重量比10:2:3となるように調整し、全容積の60%まで充填した。ミルの回転速度は80回転/分とした。
【0076】
得られたガス浄化材の0.2gを容積量2リットルの密閉空間に入れるとともに、この空間内に有害物質であるアセトアルデヒドを100ppmとなるように注入した。そして、3時間後のアセトアルデヒド濃度を、JIS K0804に準拠した検知管式ガス測定器(ガステック製)を使用して測定し、アセトアルデヒドの除去率を求めた。また、得られたガス浄化材を、アルデヒドの存在しない状態で、温度65℃、湿度85RH%に調整した環境試験機内に1週間静置し、促進劣化させた後、同様にアセトアルデヒドの除去性能試験を実施した。その結果、作製直後の除去率が100%、劣化促進後の除去率も100%と良好であった。
【0077】
[実施例11]
モネタイトを表面に有する本発明の多孔体を80重量部、アジピン酸ジヒドラジドを20重量部とした以外、実施例10と同様にしたところ、作製直後の除去率が98%、劣化促進後の除去率が98%とほぼ良好であった。
【0078】
[実施例12]
実施例5で得たブルシャイトを表面に有する本発明の多孔体を94重量部と、アジピン酸ジヒドラジドを6重量部とした以外、実施例10と同様にしたところ、作製直後の除去率が100%、劣化促進後の除去率も100%と良好であった。
【0079】
[実施例13]
ブルシャイトを表面に有する本発明の多孔体を80重量部、アジピン酸ジヒドラジドを20重量部とした以外、実施例12と同様にしたところ、作製直後の除去率が98%、劣化促進後の除去率も98%とほぼ良好であった。
【0080】
[比較例5]
比較例1で得たハイドロキシアパタイト被覆多孔質非晶質シリカ94重量部と、アジピン酸ジヒドラジド6重量部とした以外、実施例10と同様にしたところ、作製直後の除去率が85%と比較的高いものの、劣化促進後の除去率が65%と著しく低下した。ミクロ孔が少ないためにアルデヒドガスの吸着能力が本発明のガス浄化材に比べ低い上に、アルカリによる劣化も起こしていると思われる。
【0081】
[比較例6]
カルシウム原料のCaOと、シリカ原料のSiOとをモル比0.6で合成した中間物質であるCSHを密閉容器内に入れ、真空ポンプで容器内を脱気した後、市販の純度99.5%の炭酸ガスを容器内に圧力0.2MPaとなるまで導入し、初期温度25℃で18時間保持して炭酸化反応を行わせ、粉粒体を得た。得られた粉粒体は、バテライト、アラゴナイト、カルサイトのいずれも含まれている炭酸カルシウムを有する非晶質シリカであった。上記の炭酸カルシウムを有する非晶質シリカ94重量部と、アジピン酸ジヒドラジド6重量部とを、実施例10と同様の方法で固着させ、ガス浄化材を得た。ガス浄化材のアセトアルデヒド除去性能を実施例10と同様に確認したところ、作製直後の除去率が98%と高いものの、劣化促進後の除去率が50%と著しく低下し、経時劣化が認められた。
【0082】
[比較例7]
ビーカーに水を入れ、25℃に調整したウォーターバス内に設置した後、プロペラ式攪拌機を用いて回転速度600r.p.m.で攪拌した。そこに、塩化カルシウム(米山薬品工業製の試薬特級)とリン酸(米山薬品工業製の試薬特級:純度85%でモル比を計算)を、カルシウムイオン/リン酸イオンモル比1.0の比率で添加し、4時間攪拌混合した。得られた生成物を吸引ろ過して固形分を採取し、105℃に調整した送風式乾燥機内で1日間乾燥させ、合成モネタイトを得た。
【0083】
得られたモネタイトと市阪のシリカゲル(富士シリシア製GRADEQ−50)をモル比0.6:1の割合で混合し、ガス浄化材の基材とした。この基材94重量部とアジピン酸ジヒドラジド6重量部を実施例10と同様の方法で混合し、同様の試験を行ったところ、作製直後の除去率が86%、劣化促進後の除去率が85%と本発明のガス浄化材に比べ劣るものの、著しい除去率の低下は認められなかった。
【符号の説明】
【0084】
mo モネタイトを表面に有する多孔体の細孔径分布
bu ブルシャイトを表面に有する多孔体の細孔径分布
ap アパタイトを表面に有する多孔体の細孔径分布
air 気中炭酸化試料の細孔径分布
CSH CSH試料の細孔径分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔といった大きさの異なる細孔を有するガス浄化用の多孔体であって、
多孔質の非晶質シリカと、前記非晶質シリカの表面に生成した第二リン酸カルシウムとからなり、
前記ミクロ孔は、2nm以下の孔径を有し、前記細孔の全容積に対し2%以上を占め、
前記メソ孔は、2nmを超え50nm以下の孔径を有し、前記細孔の全容積に対して70%以上を占め、
前記マクロ孔は、50nmを超える孔径を有し、前記細孔の全容積に対して15%以上を占め、
10m/g以上250m/g以下の比表面積を有することを特徴とする多孔体。
【請求項2】
前記第二リン酸カルシウムは主にモネタイトからなることを特徴とする請求項1記載の多孔体。
【請求項3】
前記第二リン酸カルシウムは主にブルシャイトからなることを特徴とする請求項1記載の多孔体。
【請求項4】
ヒドラジド化合物と、請求項1から請求項3のいずれかに記載の多孔体とが混合されてなることを特徴とするガス浄化材。
【請求項5】
前記多孔体が、前記ヒドラジド化合物に固着していることを特徴とする請求項4記載のガス浄化材。
【請求項6】
ミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔といった大きさの異なる細孔を有するガス浄化用の多孔体の製造方法であって、
CSHを分散させた分散液に、カルシウムイオン/リン酸イオンのモル比を1.0以上1.5以下となるようにリン酸を加え、
前記分散液中で前記CSHと前記リン酸を十分に反応させ、前記反応でカルシウム分が前記CSHから溶出することにより、非晶質シリカの表面に第二リン酸カルシウムを形成させた多孔体を生成することを特徴とする多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記分散液の温度を75℃以上95℃以下に維持することを特徴とする請求項6記載の多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記分散液の温度を15℃以上70℃以下に維持することを特徴とする請求項6記載の多孔体の製造方法。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれかに記載の多孔体の製造方法において、
前記分散液のpHが3以上6以下となるように調整して得られた多孔体に、ヒドラジド化合物を混合することでガス浄化材を得ることを特徴とするガス浄化材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−235363(P2010−235363A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83872(P2009−83872)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】