説明

多孔性ポリプロピレンフィルムおよび蓄電デバイス用セパレータ

【課題】幅方向の強度が高く、厚み方向の電解液吸液性に優れ、セパレータとして用いた際に優れた電池特性および安全性を示す多孔性ポリプロピレンフィルムを提供すること。
【解決手段】幅方向の破断強度PTDが80MPa以上200MPa以下であり、かつ幅方向の破断強度PTDと長手方向の破断強度PMDとの比(PTD/PMD)が1〜2であり、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が0.01〜10秒/20μmである多孔性ポリプロピレンフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性ポリプロピレンフィルムおよび蓄電デバイス用セパレータに関する。さらに詳しくは、非水溶媒電池、またはキャパシタに用いられるセパレータに好適に使用できる、幅方向の強度が高く、電解液の吸液性に優れ、セパレータとして用いた際に優れた電池特性および安全性を示す多孔性ポリプロピレンフィルムおよびそれをセパレータとして用いた蓄電デバイス用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池やリチウムイオン電池などの非水溶媒電池は、使用する電解液が有機溶媒であり、水系電池の水溶液溶媒と比較して電池の発熱に対して安全性に劣るという問題がある。そのため、従来、非水溶媒電池、中でもエネルギー密度の大きなリチウムイオン電池の安全性を改善するために、ポリエチレンを主とするオレフィン系材料の微孔性多孔膜を用いたセパレータが使用されてきた。
【0003】
近年、ハイブリッド自動車(HEV)用電池、工具用電池等のような大型電池は、高出力化が進んでおり、130℃より高い温度に急激に上昇するため適切な温度(130℃前後)でシャットダウンする機能が必ずしも求められず、高安全性が求められる。さらに、HEV用電池では、10年以上もの長寿命と、さらに厳しい安全性を保障できることも重要となる。
【0004】
ポリプロピレンの多孔性膜を用いたセパレータがリチウムイオン電池などの非水溶媒電池用セパレータに提案されている(例えば特許文献1,2)。しかし、ポリプロピレンは表面自由エネルギーが低く、厚み方向の電解液吸液性が悪い。そのため、従来の製造方法で作られたポリプロピレン多孔性膜は、特に大型電池では吸液ムラが生じるために、局部的に抵抗が増大し、初期容量や長期安定性に劣る可能性がある。
【0005】
ポリエチレンを用いたセパレータ(例えば特許文献3、4、5)では、厚み方向の電解液吸液性はよいが、120℃以下の温度で収縮が生じ易く電極間の短絡による発熱が生じるなど耐熱性に劣ることが問題であった。
【0006】
また、吸液性、耐熱性に優れ、大型電池のような高出力用途に適しているポリプロピレン不織布をセパレータに用いる提案もされている(例えば特許文献6)。しかし、この場合には、繊維を構成材料とした不織布を基材としているために数μm程度の大きな平均孔径を有していることから、貫通孔に起因する欠点を有している可能性が非常に高く、微短絡が起こりやすいことが示唆され、電池巻取時の初期不良が起こりやすく、HEV用電池のような長寿命、またさらに厳しい安全性に対しては十分に補償できない。さらに、不織布を用いる限り膜厚が大きくなり体積増加は必至であり、電池の小型軽量化という時代の流れに逆行してしまう問題点もある。
【0007】
また、ポリオレフィン系多孔性フィルムと高軟化点の樹脂を用いた多孔性フィルムを積層する提案がなされている(たとえば特許文献7)。しかし、吸液性が低く、電解質の注液時間が長くなり、電池組立加工性が低下する場合があり、また、2種類のフィルムを積層するため、厚みが厚くなる、もしくは加工コストが高くなる場合がある。
【0008】
また、多孔質基材の表面に高軟化点の有機粒子または無機粒子層を塗布する提案がなされている(たとえば特許文献8)。この場合には有機粒子または無機粒子層によって吸液性が向上するが、空孔率、透気性が低く、HEV用電池のような高出力用電池に適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平01−103634号公報
【特許文献2】特開2008−248231号公報
【特許文献3】特開平11−130899号公報
【特許文献4】特開平11−130900号公報
【特許文献5】特開2001−19791号公報
【特許文献6】特開昭60−52号公報
【特許文献7】特開2006−269359号公報
【特許文献8】特開2007−273443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は上記した問題点を解決することにある。すなわち、表面自由エネルギーの低いポリプロピレンを用いながらも、厚み方向の電解液吸液性に優れ、幅方向の強度が高いうえに、長手方向の強度とのバランスがよく、セパレータとして用いた際に優れた電池特性および安全性を示す多孔性ポリプロピレンフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明は、幅方向の破断強度PTDが80MPa以上200MPa以下であり、かつ幅方向の破断強度PTDと長手方向の破断強度PMDとの比(PTD/PMD)が1〜2であり、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が0.01〜10秒/20μmである多孔性ポリプロピレンフィルムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、幅方向の強度が高いうえに、長手方向の強度とのバランスがよく、厚み方向の電解液吸液性に優れ、セパレータとして用いた際に優れた電池特性および安全性を示す多孔性ポリプロピレンフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における多孔性ポリプロピレンフィルムとは、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する貫通孔を有しているポリプロピレンフィルムをいう。
【0014】
フィルム中に貫通孔を形成する方法としては、湿式法、乾式法どちらでも構わないが、工程を簡略化できることから乾式法が望ましく、中でもフィルムを二軸配向させ、物性均一化や薄膜でありながら高い強度を維持できるという観点からβ晶法を用いることが好ましい。
【0015】
β晶法を用いてフィルムに貫通孔を形成するためには、ポリプロピレン樹脂中にβ晶を多量に形成させることが重要となるが、そのためにはβ晶核剤と呼ばれる、ポリプロピレン樹脂中に添加することでβ晶を選択的に形成させる結晶化核剤を添加剤として用いることが好ましい。β晶核剤としては種々の顔料系化合物やアミド系化合物などを挙げることができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を好ましく用いることができる。β晶核剤の含有量としては、ポリプロピレン樹脂全体を100質量部とした場合、0.05〜0.5質量部であることが好ましく、0.1〜0.3質量部であればより好ましい。
【0016】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムに含有されるポリプロピレン樹脂は、メルトフローレート(以下、MFRと表記する、測定条件は230℃、2.16kg)が2〜30g/10分の範囲のアイソタクチックポリプロピレン樹脂であることが好ましい。MFRが上記した好ましい範囲を外れると二軸延伸フィルムを得ることが困難となる場合がある。より好ましくは、MFRが3〜20g/10分である。
【0017】
また、アイソタクチックポリプロピレン樹脂のアイソタクチックインデックスは90〜99.9%であれば好ましい。アイソタクチックインデックスが90%未満であると、樹脂の結晶性が低く、高い強度、加工性を達成するのが困難な場合がある。アイソタクチックポリプロピレン樹脂は市販されている樹脂を用いることができる。
【0018】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムにはホモポリプロピレン樹脂を用いることができるのはもちろんのこと、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレンにエチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を5質量%以下の範囲で共重合した樹脂を用いてもよい。なお、ポリプロピレンへのコモノマーの導入形態としては、ランダム共重合でもブロック共重合でもいずれでも構わない。
【0019】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂は、延伸時の空隙形成効率が向上し、孔径が拡大することで透気性が向上するため、ポリプロピレン80〜99質量%と、エチレン・α−オレフィン共重合体20〜1質量%との混合物とすることが好ましい。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体としては直鎖状低密度ポリエチレンや超低密度ポリエチレンを挙げることができ、中でも、オクテン−1を共重合したエチレン・オクテン−1共重合体を好ましく用いることができる。このエチレン・オクテン−1共重合体は市販されている樹脂、たとえば、ダウ・ケミカル製“Engage(エンゲージ)(登録商標)”(タイプ名:8411、8452、8100など)を挙げることができる。
【0020】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムはβ晶法により多孔化することが好ましいため、フィルムに含まれるポリプロピレン樹脂のβ晶形成能が50%以上であることが好ましい。β晶形成能が50%未満ではフィルム製造時にβ晶量が少ないためにα晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が少なくなり、その結果、透過性の低いフィルムしか得られない場合がある。好ましくは、β晶形成能が50%〜90%であることが好ましい。β晶形成能が90%を超えると、粗大孔が形成される場合があり、蓄電デバイス用のセパレータとしての機能を有さなくなる場合がある。β晶形成能を50〜90%の範囲内にするためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂を使用するのはもちろんのこと、上述のβ晶核剤を添加することが好ましい。β晶形成能としては60〜90%であればより好ましい。
【0021】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、幅方向の破断強度PTDと長手方向の破断強度PMDとの比(PTD/PMD)が1〜2であることが重要である。PTD/PMDの値が1未満であると、長手方向と幅方向の強度バランスが悪くなり、たとえば捲回式電池(セパレータは長手方向に固定されているが、幅方向には固定されていない)の捲回軸に直角に直線状に衝撃が加わった際、セパレータの幅方向に大きく裂け、短絡してしまう可能性がある。PTD/PMDの値は、1〜1.7であることが、安全性の観点から好ましい。PTD/PMDの値が2を超えると、長手方向に過度に縮んだり、裂けやすくなったり、透過性能に劣る場合がある。
【0022】
また、強度そのものが低いと、上述した安全性に劣る可能性があるため、本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムの幅方向の破断強度は、80MPa以上であることが重要である。より好ましくは100MPa以上であることが、安全性の観点から好ましい。一方で、あまりに幅方向の破断強度が高すぎると、長手方向に過度に縮んだり、裂けやすくなったり、透過性能に劣る場合があるため、200MPa以下であることが重要である。上記した安全性は、例えば電極とセパレータの捲回物に局所的に大きな力を加え破壊形態を見る、所謂衝突試験によって判定することができる。
【0023】
破断強度は、ポリプロピレンの結晶性、得られる多孔性ポリプロピレンフィルムの透気抵抗、フィルム面内における結晶の配向状態などにより制御できる。透気抵抗を10〜1,000秒/100ml内で減少せしめることにより強くなり、増加せしめることにより弱くなる傾向がある。ここで、同じ透気抵抗でも、面配向を高くするほど当該強度を高くすることができるため、その配向状態の制御は重要である。多孔性フィルムの面配向は、例えば、その製膜工程において少なくとも一方向に延伸してフィルムを製造する場合、高倍率の延伸条件であるほど、高くできる。特に、縦−横逐次二軸延伸法を用いて製造する場合、PTD/PMDの値を1〜2とするためには、長手方向の延伸倍率を低く抑え、横延伸倍率を高くすることが有効である。具体的には、幅方向延伸倍率/長手方向延伸倍率の値を2以上とすることが好ましい(以下、幅方向を横、長手方向を縦ということがある)。より好ましくは、横延伸倍率/縦延伸倍率の値を3以上とする。また、幅方向の破断強度を高くするためには、横延伸倍率を高くすることが有効であり、具体的には横延伸倍率を8倍を超える値とすることが好ましい。より好ましくは10倍以上である。横延伸倍率が8倍以下であると、透気抵抗が高くなり、電池特性が悪化する場合があり、また生産性が低下する場合がある。横延伸倍率が20を超えて延伸すると、フィルム破れが起きやすくなってしまう場合がある。
【0024】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が0.01〜10秒/20μmであることが重要である。厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が10秒/20μmを超えると、電池加工性が悪くなり生産性が低下するとともに、セパレータとして用いた際、電解液が局部的に吸液され、部分的に電池の内部抵抗が増大し、初期放電容量が低下する場合がある。好ましくは0.01〜5秒/20μmである。
【0025】
本発明では、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度は速ければ速いほど好ましいが、実質的に0.01秒/20μm未満の値を測定することは困難である。なお、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度とは、プロピレンカーボネート液滴が、多孔性ポリプロピレンフィルム表面に接触してから裏面に浸透するまでの時間を、多孔性ポリプロピレンフィルム20μmあたりの時間に換算したものである。
【0026】
厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度は、その製膜工程において制御できる。特に、縦−横逐次二軸延伸法を用いて製造する場合、縦延伸倍率を低く抑え、横延伸倍率を高くし、さらに縦延伸または横延伸の温度を規定の範囲とすることが有効である。具体的には、横延伸倍率/縦延伸倍率の値を2以上とすることが好ましい。より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3以上とする。また、横延伸倍率を8倍を超える値とすることが好ましい。より好ましくは9倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上である。さらに、縦延伸温度は110〜135℃、より好ましくは120〜135℃とすることが有効であり、横延伸温度は140〜155℃、より好ましくは145〜153℃とすることが有効である。
【0027】
一般にポリプロピレンは表面自由エネルギーが低い。そのため、炭化水素構造を持つ流動パラフィンなどと違い、プロピレンカーボネートに代表される炭酸エステル類との親和性が悪く、従来の製法で作られた多孔性ポリプロピレンフィルムは、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が遅いものであった。一般に吸液性と破断強度とを両立させるためには相反する制御を行う必要があるが、本発明では上述する製法において、幅方向と長手方向の破断強度比および幅方向の破断強度を高く保ちつつ、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度を速くすることができた。このメカニズムは未だ明確ではないが、長手方向の延伸倍率に対し、幅方向の延伸倍率を高くすることにより、表面自由エネルギーの低いポリプロピレンといえども、プロピレンカーボネートが浸透しやすい構造になっているものと考えられる。
【0028】
また、上述した製造方法で作製された多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィブリル同士が絡み合い、3次元の網目構造を有していることから、扁平状の連続孔を有しており、電解液のたまる空洞を多く確保できる。そのため、厚み方向のプロピレンカーボネートの浸透速度が早いだけでなく、有機溶媒を好適に保持することが可能である。そのため、充放電を繰り返しても長期間の特性維持が可能である。
【0029】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムの厚みは10〜40μmが好ましい。厚みが10μmより薄い場合、負極からのデンドライトの成長を抑制できず、長期安定性、安全性が不十分であるとともに、組立時および電池としての使用時に正極、負極の短絡を起こす場合がある。厚みが40μmより厚い場合、セパレータ抵抗が高くなり、出力特性が不十分になる場合があるとともに、正極、負極活物質十分に電池内に充填することができず、エネルギー密度が減少する場合がある。
【0030】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは蓄電デバイスのセパレータ用途に好適に用いるため、透気抵抗が10〜1,000秒/100mlの範囲内であることが、電池の内部抵抗低減、さらには出力密度向上の観点から好ましい。透気抵抗が10秒/100ml未満では空孔率が高くなる、もしくは孔径が大きくなりすぎてしまい、強度が十分保てなくなる場合がある、または、セパレータとして用いたとき電池の長期安定性、安全性が短くなる場合がある。一方、1,000秒/100mlを超えるとセパレータとして用いた際の出力特性が不十分となる。より好ましくは10〜300秒/100mlであり、さらに好ましくは50〜200秒/100mlであることが、セパレータ特性の観点から好ましい。
【0031】
ここで、透気抵抗とは、シートの空気透過率の指標であり、JIS P 8117(1998)に示されるものである。透気抵抗は、延伸工程における延伸条件(延伸方向(縦もしくは横)、延伸方式(縦もしくは横の一軸延伸、縦−横もしくは横−縦逐次二軸延伸、同時二軸延伸、二軸延伸後の再延伸など)、延伸倍率、延伸速度、延伸温度など)などにより制御できる。一軸延伸で行う場合に比べ、二軸延伸で行う場合のほうが、透気抵抗が低くなり、延伸倍率を高くすると透気抵抗が低くなり、低くすると透気抵抗が高くなる。
【0032】
以下に本発明の多孔性フィルムの製造方法を具体的に説明する。なお、本発明のフィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0033】
まず、多孔性フィルムを構成するポリプロピレン樹脂として、MFR8g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂90〜99質量部、市販のMFR8g/10分超低密度ポリエチレン樹脂1〜10質量部にN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.1〜0.3質量部を混合し、二軸押出機を使用して予め所定の割合で混合した原料を準備する。この際、溶融温度は270〜300℃とすることが好ましい。二軸押出機の下流側に例えば20μm以上の異物を除去できる高精度フィルターを設けて異物を除去することが好ましい。
【0034】
次に、上述の混合原料を単軸の溶融押出機に供給し、200〜230℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸シートを得る。この際、例えば20μm以上の異物を除去できる高精度フィルターを設けて異物を除去することが好ましい。
【0035】
また、未延伸シートを得る際のキャストドラムは表面温度が105〜130℃であることが、未延伸シート中のβ晶分率を高く制御する観点から好ましい。この際、特にシートの端部の成形が後の延伸性に影響するため、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。また、シート全体のドラム上への密着状態に基づき、必要に応じて全面にエアナイフを用いて空気を吹き付けてもよい。
【0036】
次に得られた未延伸シートを二軸延伸してフィルム中に貫通孔を形成する。二軸延伸の方法としては、フィルム長手方向に延伸後幅方向に延伸、あるいは幅方向に延伸後長手方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、高透気性フィルムを得やすいという点で逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。
【0037】
具体的な延伸条件としては、まず未延伸シートを長手方向に延伸可能な温度に制御する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としてはフィルム特性とその均一性の観点から、110〜135℃、さらに好ましくは120〜135℃の温度を採用することが好ましい。延伸倍率は2〜4.5倍であることが好ましく、より好ましくは2.5〜4倍である。延伸倍率が2倍未満であると透気抵抗が低下して電池特性が悪化する場合があり、また生産性が低下する場合がある。延伸倍率を高くするほど透気抵抗が低くなるが、4.5倍を超えて延伸すると、長手方向にフィブリルが過度に配向するので、幅方向に延伸したときにフィブリル配向度を充分に下げることができず、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が遅いフィルムになってしまう。
【0038】
次に、一軸延伸ポリプロピレンフィルムをテンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入し、幅方向に延伸して二軸延伸フィルムを得る。延伸温度は140〜155℃が好ましく、過度に横方向に配向することなく、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透性に優れ、透気抵抗が低いフィルムが得られることから145〜153℃がより好ましい。横方向延伸倍率/縦延伸倍率の値は2以上が好ましく、より好ましくは2.5以上であり、さらに好ましくは3以上である。横延伸倍率/縦延伸倍率の値が2未満であると透気抵抗が高くなり、電池特性が悪化する場合があり、また生産性が低下する場合がある。また、横延伸倍率/縦延伸倍率の値を高くするほど透気抵抗が低くなるが、横延伸倍率/縦延伸倍率の値が5を超えて延伸すると、フィルム破れが起きやすくなってしまう場合がある。なお、このときの横延伸速度は、一定であってもかまわないし、延伸前期・中期・後期で速度を変更してもかまわない。
【0039】
ついで、そのままステンター内で熱固定を行うが、その温度は横延伸温度以上160℃以下が好ましく、熱固定時間は5〜30秒間であることが好ましい。さらに、熱固定時にはフィルムの長手方向および/または幅方向に弛緩させながら行ってもよく、特に幅方向の弛緩率を5〜12%とすることが、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透性と熱寸法安定性の観点から好ましい。
【0040】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、高い透気度を有することからセパレータとしての抵抗が低くなり、上記蓄電デバイスの中でもリチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタに好ましく使用することができる。
【0041】
本発明の蓄電デバイスとしては、有機溶媒を使用する非水電解液二次電池や電気二重層キャパシタなどがある。特に電池容量と出力密度のバランスからリチウムイオン電池が好適である。充放電することにより繰り返し使用できることから、IT機器、生活機器、ハイブリット自動車、電気自動車などの電源に使用することができる。特に上記の用途には電池容量と出力密度のバランスからリチウムイオン電池が好適である。本発明の多孔性フィルムを用いた蓄電デバイスは、高い透気度を有することからハイブリット自動車、電気自動車などの電源に好適に使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0043】
(1)厚み測定
25℃、65%RHにて、(株)尾崎製作所製アプライトダイヤルゲージR1−A(測定子10mmφ、測定荷重50g)を用いて、0.1μm単位まで読み取った。評価に用いる部位周辺について、場所を変えて3回測定し、その平均値をフィルム厚みとした。
【0044】
(2)厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度
25℃、65%RHにて行った。厚み(T:μm)既知のサンプルを長手方向50mm、幅方向50mmに切り出し、250Wのメタルハライド光源の15mm上に設置したガラス板の上に乗せる。このガラス板の250mm上には、ニコン社製カメラレンズAiMicro−Nikkor55mmF2.8Sを装着した検出器(エレクトロセンサリデバイス(株)社製CCDラインセンサカメラE7450D)が設置してある。この状態で、メタルハライド光源から照射された光の、フィルム部分の透過光量を検出器で検出した。マイクロピペットを用いてプロピレンカーボネート(ナカライテスク(株)製、Extra Pure Regent)を0.5ml採取し、サンプルの2cm上から滴下した。滴下と同時に時間計測を開始し、透過光量が、滴下前の3倍となった時間(S:秒)を、下の式に従って厚み20μmあたりの値に換算したものを、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度(秒/20μm)とした。
【0045】
厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度(秒/20μm)=S/T×20
(3)破断強度
JIS K 7127(1999、試験片タイプ2)に準じて、(株)オリエンテック製フィルム強伸度測定装置(AMF/RTA−100)を用いて、25℃、65%RHにて破断強度を測定した。
【0046】
幅方向の破断強度PTDは、厚み既知のサンプルを長手方向:1cm、幅方向:15cmのサイズに切り出し、原長50mm、引張り速度300mm/分で伸張して、破断強度(単位:MPa)を測定した。同様の測定を5回行い、得られた破断強度の平均値を当該サンプルの幅方向の強度とした。
【0047】
長手方向の破断強度PMDは、厚み既知のサンプルを幅方向:1cm、長手方向:15cmのサイズに切り出し、幅方向の破断強度PTDと同様の測定方法・解析方法にて長手方向の破断強度PMDを得た。
【0048】
(4)β晶形成能
多孔性フィルム5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から260℃まで10℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、20℃まで10℃/分で冷却した。5分保持後、再度10℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピークについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とした。
【0049】
なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
【0050】
β晶形成能(%) = 〔ΔHβ / (ΔHα + ΔHβ)〕 × 100
なお、ファーストランで観察される融解ピークから同様にβ晶の存在比率を算出することで、その試料の状態でのβ晶分率を算出することができる。
【0051】
(5)衝突試験
(株)皆藤製作所製のリチウムイオン電池自動巻取機を用い、本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムと厚み100μmのアルミニウム箔、厚み100μmの銅箔を、フィルム/銅箔/フィルム/アルミニウム箔となるように重ねて、多孔性ポリプロピレンフィルムの長手方向に1m、巻取り張力25N/mで巻き取り、円筒型積層体を作成した。丸棒を、この円筒型積層体の中央部を横切るように置いた。なお、丸棒は、セパレータの長手方向と平行となるようにして載置した。この丸棒上に60cmの高さから20kgもしくは30kgもしくは40kgの重量物を落下させた。円筒型積層体を解体し、多孔性ポリプロピレンフィルムの状態を、以下の基準で評価した。
【0052】
◎:20kgでも30kgでも40kgでも破れ無し
○:40kgで破れたが、20kgと30kgで破れ無し
△:40kgと30kgで破れたが、20kgで破れ無し
×:20kgでも30kgでも40kgでも破れた
(6)初期放電容量評価
正極は宝泉(株)製のリチウムコバルト酸化物(LiCoO)厚みが40μmの正極を使用し、一辺100mmの正方形となるように打ち抜き、作製した。
【0053】
負極は宝泉(株)製の厚みが50μmの黒鉛負極を使用し、一辺105mmの正方形となるように打ち抜き、作製した。
【0054】
電解質溶液には、有機溶媒としてプロピレンカーボネート(PC)を用い、これに指示塩としてLiPF 1.0mol/Lを溶解させて使用した。
【0055】
セパレータは、正極、負極電極のいずれよりも面積が広くなるように、一辺110mmの正方形となるように打ち抜き、作製した。ここでセパレータとしては、各実施例・比較例の多孔性ポリプロピレンフィルムを使用した。
【0056】
正極電極と負極電極とを、正極、負極の活物質層どうしが互いに対向するように配置し、両者の間にセパレータを挟み、さらに外装部にラミネートフィルムを配置し、三方シールした。各々のタブの先端がラミネートセルの外側に引き出されるようにし、次いでラミネートセル内に電解質溶液を充填した後、真空脱気してラミネートセルを密閉して、単層ラミネート型リチウムイオン二次電池を組み立てた。作製した各二次電池について、25℃の雰囲気下、0.5時間エージングした。その後、充電を300mAで4.2Vまで0.5時間、放電を300mAで2.7Vまでとする充放電操作を行い、放電容量を調べた。
【0057】
[(放電容量)/(充電容量)]×100の計算式で得られる値を以下の基準で評価した。なお、試験個数は5個測定し、その平均値で評価した。
【0058】
○:90%以上
△:80%以上90%未満
×:80%未満もしくは20%未満となる電池が1個以上
以下に実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0059】
(実施例1)
多孔性ポリプロピレンフィルムの原料樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFSX80E4(以下、PP−1と表記、MFR=8)を97質量部、エチレン−オクテン−1共重合体であるダウ・ケミカル製 Engage8411(メルトインデックス:18g/10分、以下、単にPEと表記)を3質量部に加えて、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、Nu−100、以下、単にβ晶核剤と表記)を0.3質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1、0.1質量部を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてチップ原料とした。
【0060】
このチップを単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、50μmカットのスクリーンフィルターを通し、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、125℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に3倍延伸を行った。次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、150℃で11.2倍に延伸した後、幅方向に10%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行った。その結果、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0061】
得られた多孔性ポリプロピレンフィルムは、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が速く、初期放電容量評価の結果が良好であった。また、高い強度とバランスのよい強度比を有し、衝突試験の結果が良好であった。
【0062】
(実施例2)
長手方向の延伸倍率を4倍とし、幅方向の延伸温度を154℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0063】
得られた多孔性ポリプロピレンフィルムは、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が速く、初期放電容量評価の結果が良好であった。また、高い強度とバランスのよい強度比を有し、衝突試験の結果が良好であった。
【0064】
(実施例3)
長手方向の延伸倍率を4倍とし、幅方向の延伸倍率を89.2倍とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0065】
得られた多孔性ポリプロピレンフィルムは、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が速く、初期放電容量評価の結果が良好であった。また、高い強度とバランスのよい強度比を有し、衝突試験の結果が良好であった。
【0066】
(比較例1)
長手方向の延伸倍率を4倍とし、幅方向の延伸倍率を6倍とし、熱処理の温度を160℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0067】
得られた多孔性ポリプロピレンフィルムは、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が遅く、初期放電容量評価の結果がやや不十分なものであった。また、幅方向の強度が低く、衝突試験の結果が不十分であった。
【0068】
(比較例2)
長手方向の延伸倍率を4.5倍とし、幅方向の延伸倍率を5倍とし、熱処理の温度を160℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0069】
得られた多孔性ポリプロピレンフィルムは、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が遅く、初期放電容量評価の結果がやや不十分なものであった。また、幅方向の強度が低く、衝突試験の結果が不十分であった。
【0070】
(比較例3)
長手方向の延伸倍率を5倍とし、幅方向の延伸倍率を4.5倍とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0071】
得られた多孔性ポリプロピレンフィルムは、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が遅く、初期放電容量評価の結果が不十分なものであった。また、幅方向の強度が低く、衝突試験の結果が不十分であった。
【0072】
(比較例4)
長手方向の延伸倍率を4倍とし、幅方向の延伸倍率を8.5倍とし、幅方向の延伸温度を135℃とし、幅方向のリラックス率を5%とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0073】
得られた多孔性ポリプロピレンフィルムは、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度がやや遅く、初期放電容量評価の結果がやや不十分なものであった。また、幅方向の強度は高いものの、長手方向の強度とのバランスが悪く、衝突試験の結果が不十分であった。
【0074】
(比較例5)
長手方向の延伸倍率を4倍とし、長手方向の延伸温度を105℃とし、幅方向の延伸倍率を8倍とし、幅方向のリラックス率を5%とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0075】
得られた多孔性ポリプロピレンフィルムは、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が遅く、初期放電容量評価の結果がやや不十分なものであった。また、幅方向の強度が低く、衝突試験の結果が不十分であった。
【0076】
(比較例6)
長手方向の延伸温度を140℃とした以外は、比較例6と同様の操作を行い、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0077】
得られた多孔性ポリプロピレンフィルムは強度が高く、衝突試験の結果は良好であった。しかしながら、透気性が悪いうえに厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が遅く、初期放電容量評価の結果が不十分なものであった。
【0078】
(比較例7)
市販のCelgard製“セルガード”2400を比較例37とした。なお、“セルガード”2400は、ラメラ延伸法を用いた微多孔ポリプロピレンフィルムである。
【0079】
該フィルムは、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が遅く、初期放電容量評価の結果が不十分なものであった。また、幅方向の強度が低く、衝突試験の結果が不十分であった。
【0080】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明による多孔性ポリプロピレンフィルムは、幅方向の強度が高いうえに、長手方向の強度とのバランスがよく、厚み方向の電解液吸液性に優れ、セパレータとして用いた際に優れた電池特性および安全性を示す多孔性ポリプロピレンフィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向の破断強度PTDが80MPa以上200MPa以下であり、かつ幅方向の破断強度PTDと長手方向の破断強度PMDとの比(PTD/PMD)が1〜2であり、厚み方向のプロピレンカーボネート浸透速度が0.01〜10秒/20μmである多孔性ポリプロピレンフィルム
【請求項2】
透気抵抗が10〜1,000秒/100mlである、請求項1に記載の多孔性ポリプロピレンフィルム
【請求項3】
蓄電デバイス用セパレータとして用いられる、請求項1または2に記載の多孔性ポリプロピレンフィルム
【請求項4】
2軸延伸による多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法であって、β晶形成能を有するポリプロピレン系樹脂からなる未延伸フィルムを延伸する際、幅方向の延伸倍率が8倍を超えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法。
【請求項5】
長手方向の延伸倍率よりも2倍以上の延伸倍率で幅方向に延伸することを特徴とする、請求項4に記載の多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−117047(P2012−117047A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236950(P2011−236950)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】