説明

多孔性吸着フィルム

【課題】調湿用途にも好適な好ましい水蒸気吸着特性を有する吸着材を用いた多孔性吸着フィルムであって、吸着材が脱離することが無く、また吸着材量を容易にコントロールすることができると共に、吸着材本来の吸着能力を十分に発揮させることができる高性能多孔性吸着フィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも1種の熱可塑性樹脂(A)と吸着材(B)とを含む混合組成物を主成分として含有するフィルムを、少なくとも一軸方向に延伸して得られる多孔性吸着フィルム。吸着材(B)は、ALPO系ゼオライトであり、かつ25℃で測定した水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.01以上0.5以下の範囲で相対蒸気圧が0.15変化したときの吸着量変化が0.1g/g以上である相対蒸気圧域を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着材によって水分やその他の吸着質を吸着する多孔性吸着フィルムに関するものである。
なお、本発明において、「フィルム」とは「シート」を包含する広義の膜状物をさす。
【背景技術】
【0002】
吸着ヒートポンプは補助動力を用いることなく、低質熱エネルギーを熱源として作動させうる最も優れた排熱回収再生法のひとつであり、環境共生型熱エネルギー利用システムへの導入有力候補とされている。この作動過程においては、吸着質、例えば水を吸着した吸着材を再生するために、吸着材を加熱して吸着質を脱着させ、乾燥した吸着材を吸着質の吸着に使用する温度まで冷却して再度吸着質の吸着に使用する。
【0003】
従来、比較的高温(120℃以上)の排熱・温熱を、吸着材の再生熱源として利用する吸収式ヒートポンプが、熱電併給プラント(コジェネレーションシステム)の一部として導入されるといった形で既に実用化されている。しかし、一般にコジェネレーション機器や燃料電池では、最終的に排熱・温熱の温度が100℃以下、現実的には80℃以下と比較的低温であるため、現在実用化されている吸収式ヒートポンプの駆動熱源としては利用できない。また、この低温熱エネルギーはエネルギー密度が小さく、そのため回収利用コストが高くつくなどの点からも、現状ではほとんどが未利用のまま環境へ廃棄されている。しかし、この廃棄される低温熱エネルギーの総熱量は全排熱の90%以上を占め、このことが総合的なエネルギー利用率の向上を妨げていることから、100℃以下、更には60℃〜80℃の低温排熱の有効利用が求められている。
【0004】
吸着ヒートポンプや調湿空調装置においては、それぞれ動作原理が同じでも、利用可能な熱源温度によって吸着材に求められる吸着特性が異なる。例えば、高温側の熱源として用いられるガスエンジンコージェネレーションや固体高分子型燃料電池の排熱温度は60℃〜80℃である。これらの高温熱源を用いる際に使用する冷却側の熱源温度は、装置の設置可能な場所温度の制約によって決まる。例えば、工場や住宅などでは建物の外気温度となる。つまり、吸着ヒートポンプや調湿装置の操作温度範囲は、ビルなどに設置する場合には低温側が30℃〜35℃、高温側が60℃〜80℃程度である。また、冷熱需要が増大する夏季には、外気温度の上昇が予想され、低温側の温度は上記温度以上となる可能性が高い。
【0005】
従って、排熱を有効利用するためには、適用場所の低温側熱源と高温側熱源の温度差が小さく、かつ低温側熱源が30℃以上、高温側熱源が80℃以下でも駆動できる装置が望まれている。
【0006】
このような排熱利用を可能とするためには、例えば水と各種の吸着材料を想定し、処理空気の含水率が相対湿度P/Psで表して0.5であり、再生空気の含水率が0.1であると想定すると、水分の吸着平衡特性においてP/Psが少なくとも0.1〜0.5の間でなるべく大きな吸着量変化を有する材料が必要となる。
【0007】
図1は、各種吸着材の相対湿度に対する吸湿量の変化を示したものである。図1に示すように、従来の代表的吸着材であるゼオライトでは水蒸気圧力の低いところで吸着量が大きく、目的相対湿度範囲(0.1〜0.5)の吸着量変化はあまり大きくない。同様に、既存のシリカゲルは、リニアな特性を示し、ゼオライトに比べると優れていると考えられるが、目的相対湿度範囲の吸着量変化は未だ十分に大きいとはいえない。理想的には、S字型の吸着平衡特性を有し、目的相対湿度範囲で大きな吸着量変化が得られるような吸着材料が望ましい。
【0008】
このような排熱利用等の調湿用途に理想的な吸着材料として、具体的には、特許文献1〜4等に記載されたような特定の水蒸気吸着等温線性能を有するアルミノフォスフェート系吸着材が知られている。
【0009】
一方、吸着材を調湿用途に使用するために、吸着材を分散したエマルジョンをネット材、織物、不織布等に含浸させる手法や、吸着材をネット材、フォーム材、不織布等の多孔性基材上に固定させる手法等、吸着材を各種基材に担持する手段が既に知られている(例えば、特許文献5〜7)。
【0010】
しかしながら、これらの手法は、例えば以下の(1)〜(5)のような場合、基材に固定された吸着材が脱落(粉落ち)し、性能が低下したり、周囲に飛散するという問題が生じることがある。
(1) デシカントロータのような、吸着質(例えば水蒸気)を運ぶガス(例えば空気)
と基材に担持された吸着材との接触
(2) デシカントロータの回転運動で見られるような、吸着素子として駆動させた際の
振動
(3) 吸着ヒートポンプ用途で見られるような、吸着素子自体が熱伸縮することで発現
する体積変化の結果起きる吸着材への応力
(4) 物品の包装や保存用途で見られるような、物品との擦れや、運搬時の振動
(5) (1)〜(4)の用途向けへの組み立てや部材加工時に見られるような、接触、摩擦、
衝撃、振動など
また、実際に上記手法を用いてフィルムを生産する場合、吸着材の分散性、エマルジョン濃度を一定に保つことが困難であるため、吸着材の基材への担持量をコントロールすることが難しく、安定した性能を持つフィルムが得られにくいなどの問題も生じる場合がある。
【0011】
そこで、前記吸着材を熱可塑性樹脂と混練して製膜することで、吸着フィルムとする試みも従来よりなされている(例えば、特許文献8〜10)。
【0012】
しかし、このように熱可塑性樹脂に吸着材を練り込んだフィルムにおいては、吸着材が熱可塑性樹脂からなる薄膜層に被覆されることで、水分やその他の吸着質との接触が妨げられ、吸着材本来の吸着性能を十分に発揮できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−372332号公報
【特許文献2】特開2004−132690号公報
【特許文献3】特開2004−136269号公報
【特許文献4】特開2007−144417号公報
【特許文献5】特開2006−111871号公報
【特許文献6】特開2007−190546号公報
【特許文献7】特開2007−245025号公報
【特許文献8】特表2004−526569号公報
【特許文献9】特開2006−116501号公報
【特許文献10】特開2006−346888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、調湿用途にも好適な好ましい水蒸気吸着特性を有する吸着材を用いた多孔性吸着フィルムであって、吸着材が脱離することが無く、また吸着材量を容易にコントロールすることができると共に、吸着材本来の吸着能力を十分に発現させることができる高性能多孔性吸着フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、吸着材としてALPO(アルミノフォスフェート)系ゼオライトを用い、熱可塑性樹脂とALPO系ゼオライト粒子との混合組成物を主成分とするフィルムを少なくとも一軸方向に延伸して得られる多孔性吸湿フィルムが、上記課題を解決し得ること、即ち、熱可塑性樹脂をALPO系ゼオライト粒子の基材として用いてフィルム成形することによりALPO系ゼオライト粒子を安定的に担持し、その後の延伸操作で、ALPO系ゼオライト粒子を起点としてフィルムが開孔することによりフィルム表面にALPO系ゼオライト粒子が表出し、この結果、ALPO系ゼオライトの吸着性能が有効に発揮されること、を見出した。
【0016】
即ち、本発明(請求項1)の多孔性吸着フィルムは、少なくとも1種の熱可塑性樹脂(A)と吸着材(B)とを含む混合組成物を主成分として含有するフィルムを、少なくとも一軸方向に延伸して得られる多孔性吸着フィルムであって、吸着材(B)が、ALPO系ゼオライトであり、かつ25℃で測定した水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.01以上0.5以下の範囲で相対蒸気圧が0.15変化したときの吸着量変化が0.1g/g以上である相対蒸気圧域を有することを特徴とする。
【0017】
請求項2の多孔性吸着フィルムは、請求項1において、前記混合組成物中に、吸着材(B)が熱可塑性樹脂(A)に対して1〜80重量%含まれることを特徴とする。
【0018】
請求項3の多孔性吸着フィルムは、請求項1または2において、透気抵抗が1〜10000秒/100mlであることを特徴とする。
【0019】
請求項4の多孔性吸着フィルムは、請求項1ないし3のいずれか1項において、吸着材(B)が平均粒径0.3〜100μmのALPO系ゼオライト粒子であることを特徴とする。
【0020】
請求項5の多孔性吸着フィルムは、請求項1ないし4のいずれか1項において、調湿用途に使用されることを特徴とする。
【0021】
請求項6の多孔性吸着フィルムは、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)であることを特徴とする。
【0022】
請求項7の多孔性吸着フィルムは、請求項6において、前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)が、結晶性ポリプロピレン中にエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムが微分散した海島構造を有するポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−4)であることを特徴とする。
【0023】
請求項8の多孔性吸着フィルムは、請求項1ないし7のいずれか1項において、透気抵抗が1〜5000秒/100mlであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の多孔性吸着フィルムは、吸着材が吸着フィルムから脱離することが無く、また吸着材量を容易にコントロールすることが可能であり、更に、吸着材が熱可塑性樹脂に完全に被覆されることが無いので、フィルム中の吸着材の吸着能力を十分に発揮させて高い吸着性能を得ることができる。しかも、吸着材として、特定の水蒸気吸着特性を有するALPO系ゼオライト粒子を使用することにより、調湿空調装置等の調湿用途にも好適な多孔性吸着フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】各種吸着材の相対湿度に対する吸湿量の変化を示すグラフである。
【図2】実施例で使用した吸着材(B−1)及び(B−2)の25℃における水蒸気吸着等温線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0027】
なお、本発明において、「主成分」と表記した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含し、特に当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分(2成分以上が主成分である場合には、これらの合計量)は全成分中の50重量%以上、好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上(100%含む)を占める意を包含するものである。
【0028】
また、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」を意図し、「Xより大きくYよりも小さいことが好ましい」旨の意図も包含する。なお、本発明における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものである。
【0029】
本発明の多孔性吸着フィルムは、少なくとも1種の熱可塑性樹脂(A)と吸着材(B)とを含む混合組成物を主成分として含有するフィルムを、少なくとも一軸方向に延伸して得られる多孔性吸着フィルムであって、吸着材(B)が、ALPO(アルミノフォスフェート)系ゼオライトであり、かつ25℃で測定した水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.01以上0.5以下の範囲で相対蒸気圧が0.15変化したときの吸着量変化が0.1g/g以上である相対蒸気圧域を有することを特徴とするものである。
【0030】
本発明の多孔性吸着フィルムは、具体的には、後述のように、熱可塑性樹脂(A)及び吸着材(B)と必要に応じて用いられるその他の成分を混合してなる製膜原料混合物を溶融押出成形して得たフィルムを、少なくとも一軸方向に延伸することにより製造される。以下において、このフィルム成形に用いる製膜原料混合物を「製膜材料」と称す場合がある。
【0031】
以下、本発明の多孔性吸着フィルムを構成する熱可塑性樹脂(A)及び吸着材(B)について説明し、その後、製造方法および特性値についてこの順に説明する。
【0032】
<熱可塑性樹脂(A)>
本発明の多孔性吸着フィルムにおいて、熱可塑性樹脂(A)は吸着材(B)を担持するための基材であり、本発明においては、熱可塑性樹脂(A)と吸着材(B)を主成分とする製膜材料よりなるフィルムが延伸加工されることにより、吸着材(B)を起点として開孔し、これにより多孔性フィルムとなると共に、吸着材(B)がフィルム表面に表出するようになる。
かかる観点から、熱可塑性樹脂(A)としては、製膜時の成形加工安定性、特に延伸加工における安定性を有する熱可塑性樹脂(A−1)が好ましく用いられる。
【0033】
かかる熱可塑性樹脂(A−1)としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、アクリロニトリル・ブタンジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂などが挙げられ、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
熱可塑性樹脂(A−1)は、上記の中から目的に応じて適宜選択使用されるが、例えば耐熱性を重視する場合には、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等の中から選択することが好ましい。
【0035】
本発明の多孔性吸着フィルムにおいては、機械的強度、化学的安定性、耐薬品性に優れ、さらに成形性やコスト面(工業的に比較的安価に入手できる)を重視する点で、熱可塑性樹脂(A−1)としてはポリオレフィン樹脂を選択することが好ましい。
【0036】
ポリオレフィン樹脂とは、例えば、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレンの中から選ばれる1種のエチレン系重合体またはこれら2種類以上の組み合わせからなる混合樹脂、或いは、エチレンを主成分とする共重合体、すなわち、エチレンと、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1などの炭素数3〜10のα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピレン酸ビニルなどのビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸エステル;共役ジエンや非共役ジエン;のような不飽和化合物の中から選ばれる1種または2種以上のコモノマーとの共重合体或いは多元共重合体、または、前記エチレン系重合体、前記共重合体、前記多元共重合体のうちの2種類以上の組み合わせからなる混合樹脂を挙げることができる。これらエチレン系重合体のエチレン単位の含有量は通常50重量%を超えるものである。
ポリオレフィン樹脂としては、その他にポリプロピレン、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体、α−オレフィンと一酸化炭素との共重合体、α−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、またはこれらの水添化樹脂等が挙げられる。
【0037】
これらのポリオレフィン樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
中でも、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体の中から選ばれる1種のポリオレフィン系樹脂、或いはこれらの2種類以上の組み合わせからなる混合樹脂が特に好ましい。
【0039】
ポリオレフィン樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合法等が挙げられる。
【0040】
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、2万〜50万の範囲が好ましく、さらに好ましくは重量平均分子量15万〜25万の範囲である。重量平均分子量が2万より小さいと機械的強度等の実用物性が十分に得られず、重量平均分子量が50万を越えると成形加工性に劣る問題がある。ここで、ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、加温したo−ジクロロベンゼンなどの溶剤に試料を溶かした後、カラムに注入し、溶出時間を測定する、いわゆるゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(高温GPC法)により測定される値である。
【0041】
また、ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)は、特に制限されるものではないが、通常、MFR(JISK7210、温度:190℃、荷重:2.16kg)が、0.2g/10分以上、好ましくは、0.5〜18g/10分であり、1〜15g/10分であることがより好ましい。ポリオレフィン樹脂を2種以上混合使用する場合は、その混合樹脂のMFRが上記範囲となればよい。
【0042】
また、本発明の熱可塑性樹脂(A)は、上記の熱可塑性樹脂(A−1)に、該熱可塑性樹脂(A−1)とは非相溶性の熱可塑性樹脂(以下、「非相溶性熱可塑性樹脂」と称す場合がある。)(A−2)を混合または共重合したものであっても良い。非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)を含むことにより、吸着材(B)の添加量に関わらず、延伸時にマトリックスである熱可塑性樹脂(A−1)と非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)との界面で剥離が生じ、微細な連通孔を形成させることができ、結果として、得られる多孔性吸着フィルムの透気抵抗の値を小さくすることができる。
【0043】
非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)としては、特に制限されず、使用する熱可塑性樹脂(A−1)の種類に応じて適宜選択すればよく、熱可塑性樹脂(A−1)の種類によっては、前述の熱可塑性樹脂(A−1)の中から非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)が選択使用される場合もある。
【0044】
熱可塑性樹脂(A−1)が上述のポリオレフィン樹脂であれば、それに対する非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)として、例えば汎用ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体のようなスチレン系ポリマー;ポリメチルメタクリレート;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド;ポリカーボネート;ポリアクリロニトリル;並びにこれらの変性物及び誘導体の中から少なくとも1種類以上を選んで用いることができる。
【0045】
非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)は、熱可塑性樹脂(A−1)との組成物とした際に、熱可塑性樹脂(A−1)のマトリックス中において、非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)が、平均粒径が好ましくは50μm以下、更に好ましくは0.05〜30μmの範囲、特に好ましくは0.1〜10μmの範囲の分散粒子として分散されるように、製造条件やその非相溶性の程度を調整することが望ましい。非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)の分散粒子の平均粒径が上記上限を超える場合には、得られる多孔性吸着フィルムの孔の緻密性が低下し、平均粒子径が上記下限未満の場合には、延伸ムラが生じ易く、良好な多孔性吸着フィルムが得られない。なお、ここで、非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)の分散粒子の平均粒径とは、SEM像の解析結果から求められる値である。
【0046】
熱可塑性樹脂(A−1)と共に、非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)を併用する場合、熱可塑性樹脂(A−1)と非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)との配合割合は、熱可塑性樹脂(A−1)に対して非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)が3〜50重量%、特に10〜50重量%となるように用いることが好ましい。非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)の配合割合が上記下限未満では、非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)を併用することによる透気性の向上効果を十分に得ることができず、非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)の配合割合が上記上限を超えると、得られる多孔性吸着フィルムのマトリックス相と分散相とが相反転するために好ましくない。
【0047】
このように非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)を用いる場合、熱可塑性エラストマー、例えばスチレン系ポリマー、ポリオレフィン類、ポリウレタン類、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリ(1,2−ブタジエン)、ポリ(トランス−1,4−イソプレン)等から選択される1種またはそれ以上のポリマーを添加することにより、非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)の分散性を容易にコントロールできる。
このような熱可塑性エラストマーを添加する場合、その添加量は、使用する熱可塑性樹脂(A−1)や非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)の種類により異なるが、熱可塑性樹脂(A−1)と非相溶性熱可塑性樹脂(A−2)の合計に対して1〜40重量%、特に1〜25重量%とすることが、多孔性吸着フィルムに要求される物性に大きく影響する熱可塑性樹脂(A−1)よりなるマトリックスの要求特性を満たした上で、分散性のコントロール効果を得る点において好ましい。
【0048】
また、熱可塑性樹脂(A−1)が上述のポリオレフィン樹脂である場合には、フィルムを延伸した際の孔の大きさや数をコントロールするために、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル共重合体、及びエチレン−無水マレイン酸−アクリル酸エステル共重合体から選ばれる1種または2種以上のエチレン系共重合体を添加することもできる。
【0049】
このようなエチレン系共重合体を添加する場合、その添加量は、熱可塑性樹脂(A−1)としてのポリオレフィン樹脂に対して、1〜40重量%、特に1〜25重量%とすることが、多孔性吸着フィルムに要求される物性に大きく影響する熱可塑性樹脂(A−1)よりなるマトリックスの要求特性を満たした上で、上記コントロール効果を得る点において好ましい。
【0050】
<ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)>
本発明の多孔性吸着フィルムのマトリックスを構成する熱可塑性樹脂(A)として、少なくとも1種のポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)を好ましく用いることもできる。
【0051】
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)を用いた場合、フィルムを延伸加工する際、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)のハードセグメントとソフトセグメントの界面で剥離が生じることにより、基材フィルムが開孔するため、吸着材(B)がフィルム表面に表出するようになる。それに加えて、吸着材(B)自体も開孔の起点となるため、さらに多孔性を増すことができる。
【0052】
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)は製造形態により、
(i)単純ブレンド法によるもの:バンバリーやプラストミル等の分散機で熱可塑性ポリオレフィン樹脂とエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)等のエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムのようなエラストマー性付与成分と物理的にブレンドし、ポリオレフィン樹脂マトリックス中にゴム成分を分散したもの
(ii)多段重合法:熱可塑性ポリオレフィン樹脂を2段階で重合することにより、リアクター中でハードセグメント部分とソフトセグメント部分とを順次形成しエラストマー性を付与したもの
(iii)動的架橋型熱可塑性ポリオレフィンエラストマー:バンバリーやプラストミル等の分散機で物理的混合するとともに、ゴム成分の架橋反応をさせたもので熱可塑性ポリオレフィンマトリックス中に架橋されたゴム成分が細かく分散しているもの
等がありいずれも好適に使用できる。
【0053】
本発明においては、フィルム基材であるポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)の延伸加工に際し、連通孔を形成するための開孔起点を得るという点において、ハードセグメント領域内にソフトセグメント部分が微細かつ均一に分散している海島構造を有するものが好ましく、かかる観点から上記(ii)多段重合法を用いたポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−4)を選択することが好ましい。
【0054】
前述のように、多段重合法によって得られるポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−4)は、反応器中でハードセグメント部分と、ソフトセグメント部分とが2段階以上で多段重合されてなる共重合体である。ハードセグメントとしては、プロピレン単独重合体ブロックや、あるいはプロピレンとα−オレフィンとの共重合体ブロック、例えば、プロピレン/エチレン、プロピレン/1−ブテン、プロピレン/エチレン/1−ブテン等の2元または3元共重合体ブロックが挙げられる。また、ソフトセグメントとしては、エチレン単独重合体ブロックや、エチレンとα−オレフィンとの共重合体ブロック、例えば、エチレン/プロピレン、エチレン/1−ブテン、エチレン/プロピレン/1−ブテン等の2元または3元共重合体ブロックが挙げられる。
【0055】
ポリオレフィン樹脂のマトリックス中にゴム成分が微分散したポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−4)等のポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)において、ポリオレフィン樹脂のマトリックス中において、ゴム成分が、平均粒径が好ましくは100μm以下、更に好ましくは0.01〜50μmの範囲、特に好ましくは0.01〜10μmの範囲の分散粒子として分散していることが好ましい。ゴム成分の分散粒子の平均粒径が上記上限を超える場合には、得られる多孔性吸着フィルムの孔の緻密性が低下し、平均粒子径が上記下限未満の場合には、延伸ムラが生じ易く、良好な多孔性吸着フィルムが得られない。なお、ここで、ゴム成分の分散粒子の平均粒径とは、SEM像の解析結果から求められる値である。
【0056】
また、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー中のポリオレフィン樹脂マトリックスとゴム成分との割合は、ポリオレフィン樹脂マトリックスに対してゴム成分が3〜60重量%、特に10〜60重量%であることが好ましい。ゴム成分の割合が上記下限未満では、透気性の向上効果を十分に得ることができず、上記上限を超えると、得られる多孔性吸着フィルムのマトリックス相と分散相とが相反転するために好ましくない。
【0057】
このような特定の重合法により共重合されたポリオレフィン系エラストマー(A−4)は、例えば特開平4−224809号公報に開示されているが、実際の市販品として、プライムポリマー社製(商品名=プライムTPO)、サンアロマー社製(商品名=キャタロイ)、三菱化学(株)製(商品名=ゼラス)等が挙げられる。
【0058】
また、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−4)等のポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)のメルトフローレート(MFR)は、特に限定されるものではないが、通常、MFR(JISK7210、温度:190℃、荷重:2.16kg)が、0.2g/10分以上、好ましくは、0.5〜18g/10分であり、1〜15g/10分であることがより好ましい。ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−4)等のポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)を2種以上混合使用する場合は、その混合樹脂のMFRが上記範囲となればよい。
【0059】
<吸着材(B)>
本発明の多孔性吸着フィルムにおける吸着材(B)は、ALPO(アルミノフォスフェート)系ゼオライトであり、かつ25℃で測定した水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.01以上0.5以下の範囲で相対蒸気圧が0.15変化したときの吸着量変化が0.1g/g以上である相対蒸気圧域を有することを特徴とするものである。
【0060】
本発明において、ALPO系ゼオライトとは、骨格構造を構成する原子がAl及びPである国際ゼオライト学会(IZA:International Zeolite Association)の定める結晶性アルミノフォスフェートであり、このAl及び/またはPの一部が他の原子(ヘテロ原子:Me)で置換されたヘテロ原子−アルミノフォスフェートを含む。中でも、以下のI)〜III)から選ばれるものが吸着特性の点から好ましい。
【0061】
I) Alがヘテロ原子(Me1:但し、Me1は周期表第3または第4周期に属し、2A族、7A族、8族、1B族、2B族、3B族(Alをのぞく)の元素から選ばれる少なくとも一種類の元素を示す。)で一部置換されたMe−アルミノフォスフェート
II) Pがヘテロ原子(Me2:但し、Me2は周期表第3または第4周期に属する4B族元素)で置換されたMe−アルミノフォスフェート
III) AlとPの両方がヘテロ原子(それぞれ上記Me1、Me2)で置換されたMe−アルミノフォスフェート
【0062】
ALPO系ゼオライト中に、Meは1種でも、2種以上含まれていても良い。好ましいMe(Me1,Me2)は、周期表第3、第4周期に属する元素である。Me1は2価の状態でイオン半径が0.3nm以上、0.8nm以下であることが好ましく、更に好ましくは2価、4配位の状態でイオン半径が0.4以上、7nm以下のものである。Me1は上記の中でも、合成の容易さ、吸着特性の点から、Fe,Co,Mg,Znから選ばれる少なくとも一種類の元素であることが好ましく、特にFeであることが好ましい。また、Me2は、周期表第3または第4周期に属する4B族元素であり、好ましくはSiである。
【0063】
ここで、骨格構造を構成しているMe、Al及びPの構成割合(モル比)は、通常、下記式1−1〜3−1で表される範囲であり、好ましくは下記式1−2〜3−2で表される範囲である。
【0064】
0≦x≦0.3 …1−1
(xは、骨格構造中のMe、Al、及びPの合計に対するMeのモル比を示す)
0.2≦y≦0.6 …2−1
(yは、骨格構造中のMe、Al、及びPの合計に対するAlのモル比を示す)
0.3≦z≦0.6 …3−1
(zは、骨格構造中のMe、Al、及びPの合計に対するPのモル比を示す)
【0065】
0.01≦x≦0.3 …1−2
(xは、骨格構造中のMe、Al、及びPの合計に対するMeのモル比を示す)
0.3≦y≦0.5 …2−2
(yは、骨格構造中のMe、Al、及びPの合計に対するAlのモル比を示す)
0.4≦z≦0.5 …3−2
(zは、骨格構造中のMe、Al、及びPの合計に対するPのモル比を示す)
【0066】
xが上記範囲より小さいと、吸着質の圧力が低い領域での吸着量が小さくなったり、合成が困難となる傾向があり、上記範囲より大きいと、合成時に不純物が混入しやすい傾向がある。また、y、zが上記範囲外であると、合成が困難である。
【0067】
また、本発明に係るALPO系ゼオライトは、そのフレームワーク密度(FD)が、通常13T/nm以上、好ましくは13.5T/nm以上、更に好ましくは14T/nm以上であり、一方、通常20T/nm以下、好ましくは19T/nm以下である。ここで、T/nmは、単位体積nmあたりに存在するT原子(ゼオライトの1nm当たりの酸素以外の骨格を構成する元素の数)を意味し、フレームワーク密度:FDを示す単位である。FDが上記下限未満では、構造が不安定となる傾向があり、耐久性が低下する問題があり、一方、上記上限を超えると吸着容量が小さくなり、吸着材としての使用に適さなくなる傾向がある。
【0068】
また、本発明に係るALPO系ゼオライトの構造としては、International Zeolite Association(IZA)が定めるコードで、AEI、AEL、AET、AFI、AFN、AFR、AFS、AFT、AFX、ATO、ATS、CHA、ERI、LEV、VFIが挙げられるが、中でも、吸着特性、耐久性の点から、AEI、AEL、AFI、CHA、LEVから選ばれるいずれかであることが好ましく、特にAFI、CHAが好ましい。
【0069】
本発明で吸着材(B)として用いるALPO系ゼオライトが、調湿用途に特に適する理由は以下の通りである。
即ち、従来、吸着ヒートポンプや調湿空調用吸着材として検討されているY型ゼオライトは、相対蒸気圧がほぼ0に近い値であっても吸着物質を吸着するので、吸着物質を脱着させるには、相対蒸気圧をほぼ0にするために150℃〜200℃以上の高温が必要となる。従って、Y型ゼオライトは、低温廃熱を利用した吸着ヒートポンプや除湿・加湿を行うデシカントシステムに用いることが難しいという問題がある。
【0070】
同様に、従来検討されているA型シリカゲルや界面活性剤のミセル構造を鋳型として合成したメソポーラスシリカは、低い相対蒸気圧での吸着特性が充分でないため、燃料電池等の冷却水や太陽熱等により得られる熱を利用した吸着ヒートポンプや調湿空調装置を構成できないという問題がある。
【0071】
本発明においては、冷却熱源と加熱熱源の温度差が小さくても吸着ヒートポンプを駆動できるようにするため、狭い相対蒸気圧範囲で吸着量の変化が大きい材料を吸着材(B)として用いることが好ましく、特に、25℃で測定した水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.01以上0.5以下の範囲で相対蒸気圧が0.15変化したときの吸着量変化が0.1g/g以上である相対蒸気圧域を有するものであれば、100℃以下の温度でも脱着が可能であり、低温廃熱を利用した吸着ヒートポンプや除湿・加湿を行うデシカントシステムに有効に用いることができる。その特性を示すものとして、ALPO系ゼオライトが好適に選択される。
【0072】
特に、本発明で吸着材(B)として用いるALPO系ゼオライトは、25℃で測定した水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.01以上0.5以下の範囲で相対蒸気圧が0.15変化したときの吸着量変化が0.10g/g以上である相対蒸気圧域を有することが好ましく、この吸着量変化は0.12g/g以上であることがより好ましい。この吸着量変化は大きい方が好ましく、その上限には特に制限はないが、通常0.5g/g以下である。
【0073】
ALPO系ゼオライトは、例えば特公平1−57041号、特開2003−183020号、特開2004−136269号等の各号公報に記載された公知の合成法を利用して製造することが出来る。
【0074】
吸着材(B)は、熱可塑性樹脂(A)中に微分散され、延伸加工において開孔するための起点となる。よって、吸着材(B)のALPO系ゼオライト粒子の粒径は出来る限り小さくするのが望ましいが、一方で、吸着材としての性能を保つためには、ある程度の大きさの粒径が必要である。かかる観点から、吸着材(B)のALPO系ゼオライト粒子は、その平均粒径として0.3〜100μmであることが好ましく、0.5〜50μmであることが好ましく、0.7〜30μmであることが特に好ましい。
【0075】
ここでALPO系ゼオライトの平均粒径とは、重量比が50%にあたる粒径D50のことを指す。
【0076】
本発明において、ALPO系ゼオライトは、1種を単独で用いてもよく、組成やFD、構造や粒径の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0077】
本発明の多孔性吸着フィルムの主成分である熱可塑性樹脂(A)と吸着材(B)の混合組成物ないしは本発明の多孔性吸着フィルムの製膜に用いる製膜材料中の吸着材(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)に対して1〜80重量%であることが好ましく、10〜70重量%であることがより好ましく、30〜60重量%であることが更に好ましい。吸着材(B)の含有量が上記下限未満では、多孔性吸着フィルムとしての吸着性能を十分に得ることができないおそれがあり、上記上限を超えて多過ぎると、得られる多孔性吸着フィルムの開孔率が多くなりすぎ、相対的に基材である熱可塑性樹脂(A)の含有量が少なくなって、フィルムの機械的強度が損なわれ、また、吸着材(B)の担持能力が低減して吸着材(B)が脱落するおそれがある。
【0078】
上述のように、熱可塑性樹脂(A)に対する吸着材(B)の好適割合の範囲が存在するものの、本発明によれば、熱可塑性樹脂(A)に対して吸着材(B)を幅広い割合で混合使用することができるため、多孔性吸着フィルム中の吸着材量を容易にコントロールすることができる。
【0079】
<その他の無機粒子>
本発明の多孔性吸着フィルムの製膜には、本発明の目的を損なわない範囲において、製膜材料中に吸着材(B)のほかに、吸着材(B)以外の無機粒子を配合使用してもよく、このような他の無機粒子を用いることにより、得られる多孔性吸着フィルムの多孔度をコントロールしたり、孔の形状を制御したりすることができる。
【0080】
該吸着材(B)以外の無機粒子としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の炭酸塩;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物;硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、タルク等のケイ酸塩等が挙げられる。これらの中でも炭酸カルシウム、硫酸バリウム及び酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機粒子を使用するのが特に好適である。
【0081】
また、上記無機粒子を用いる場合、熱可塑性樹脂(A)中の無機粒子の分散性向上のため、表面処理剤で無機粒子の表面を被覆して疎水化してもよい。この表面処理剤としては、例えばステアリン酸もしくはラウリル酸等の高級脂肪酸またはそれらの金属塩を挙げることができる。
【0082】
この吸着材(B)以外の無機粒子も、延伸加工において開孔の起点となることから、その粒径は小さい方が望ましいが、粒径が過度に小さいことは望ましくない。従って、その平均粒径として、0.3〜100μmであることが好ましく、0.3〜50μmであることがより好ましく、0.3〜30μmであることが特に好ましい。
なお、この無機粒子の平均粒径の定義もALPO系ゼオライトにおけると同様である。
【0083】
本発明の多孔性吸着フィルムに上述のような吸着材(B)以外の無機粒子を用いる場合、その使用量は、熱可塑性樹脂(A)に対して、1〜40体積%、特に5〜30体積%とすることが好ましく、また、前述の吸着材(B)と無機粒子との合計の含有量として、熱可塑性樹脂(A)に対して10〜50体積%、特に20〜40体積%とすることが好ましい。吸着材(B)以外の無機粒子の使用量が少な過ぎるとこれを用いることによる前述の効果を十分に得ることができず、多過ぎるとフィルムの開孔率が高くなりすぎ、得られる多孔性吸着フィルムの機械的特性が損なわれる。
【0084】
<その他の添加剤>
本発明の多孔性吸着フィルムには、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、難燃剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、光安定剤、核剤、加水分解防止剤、消臭剤、顔料、着色剤、滑剤、可塑剤などの各種添加剤を使用することができる。
【0085】
<他の層>
上記したように、本発明の多孔性吸着フィルムは、少なくとも1種の熱可塑性樹脂(A)と吸着材(B)とを含む混合組成物を主成分として含有するフィルムを少なくとも一軸方向に延伸して得られる多孔質性吸着フィルムであるが、本発明の趣旨を超えない範囲で、力学特性の改良などの必要に応じて他の層を適宜導入しても良い。例えば、本多孔性吸着フィルムを中間層とし、表面層と裏面層を配することにより2種3層構成とすることができるが、層数及び層構成についてはこの限りではない。また、積層構成とするにあたり、各層の樹脂組成や厚み比に関しては同一であっても異なっていても良い。
【0086】
<製造方法>
以下に本発明の多孔性吸着フィルムの製造方法について説明するが、本発明の多孔性吸着フィルムの製造方法は、本発明の目的を満たす多孔性吸着フィルムを製造することができる方法であればよく、下記製造方法に限定されるものではない。
【0087】
フィルムの製膜にあたっては、先ず、熱可塑性樹脂(A)と吸着材(B)、必要に応じて用いられるその他の添加剤等からなる製膜材料を混合し、必要に応じてペレット化する。この際の混合方法としては、例えば、予め同方向二軸押出機、ニーダー、ヘンシェルミキサー等を用いてプレコンパウンドするようにしても良いし、又、各原料をドライブレンドして直接フィルム押出機に投入するようにしても良い。ただし、混合する吸着材や添加剤等が微粉状、液状のもので、各原料のドライブレンドが困難である場合には、別々のフィーダー等により所定量を熱可塑性樹脂(A)に添加することにより、混合樹脂組成物を得ることができる。いずれの混合方法においても、原料の分解による分子量の低下を考慮する必要があるが、均一に混合させるためにはプレコンパウンドすることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂(A)と、吸着材(B)、その他添加剤とを必要に応じて乾燥した後、それぞれを別々のフィーダーから二軸押出機に投入し、溶融混合の後にストランド形状に押出してペレットを作製すればよい。
【0088】
次に、上記により得られたペレットを、押出機に投入して溶融押出し、Tダイ成形またはインフレーション成形により製膜する。フィルムが積層構成の場合には、それぞれの構成原料を別々の押出機に投入し、Tダイまたはインフレーション成形用の共押出用口金から押出して製膜すればよい。
【0089】
フィルムの押出温度は、熱可塑性樹脂(A)の種類や、各樹脂の流動特性にもよるが、概ね180℃〜280℃が好ましく、200℃〜260℃の範囲にあることが好ましい。特に、熱可塑性樹脂(A)としてポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)を使用する場合は、フィルムの押出温度は180℃〜250℃の範囲が好ましく、180℃〜230℃の範囲であることがより好ましい。押出温度が180℃以上であれば、溶融樹脂の粘度が十分に低く成形性に優れ、一方、上限温度以下であれば、樹脂の劣化、ひいてはフィルムの機械的強度の低下を抑制できる。
【0090】
次いで、溶融押出されたフィルムを冷却ロールによって冷却固化した後、少なくとも一軸方向に延伸する。この延伸加工においては、延伸倍率等を適宜選択してフィルムを延伸することによって、フィルム内部に空隙が形成されるが、これは、延伸時に熱可塑性樹脂(A)と吸着材(B)との延伸挙動が異なり、熱可塑性樹脂(A)に適した延伸温度で延伸を行えば、マトリックスとなる熱可塑性樹脂(A)は延伸されるが、吸着材(B)はそのままの状態でとどまろうとするため、熱可塑性樹脂(A)と吸着材(B)との界面が剥離して、孔が形成される。さらに、フィルムの縦横両方向に逐次延伸及び/または同時二軸延伸した場合には、熱可塑性樹脂(A)と吸着材(B)との界面の剥離面積が増大し、より大きな孔が形成され、通気性を上げることができるため、より好ましい。さらに、フィルムをニ軸延伸することにより、フィルムの機械的強度を増加させる効果も得られる。
特に、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを使用した場合には、フィルムの延伸加工の際にポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)中のハードセグメントとソフトセグメントの界面に応力集中が起こり、界面で剥離が生じて孔が形成されるという効果もあるので、より大きな通気性の向上効果がある。
なお、縦方向への延伸は、ロール間の速度差を利用して延伸する公知の技術を用いれば良いが、その延伸条件に関しては各ロールの速度を適宜決定することにより、一段であっても二段以上の多段延伸であっても良い。
また、横方向への延伸は、これも公知の技術であるテンター法を用いれば良いが、必要に応じてその延伸回数は複数になっても良い。
また、二軸延伸を施す場合は、同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよいが、各延伸工程で延伸条件を選択でき、多孔構造を制御しやすい点で、逐次二軸延伸がより好ましい。
【0091】
逐次二軸延伸を用いる場合、延伸温度は熱可塑性樹脂(A)の種類や混合樹脂組成物の組成等によって適時選択する必要があり、例えば、熱可塑性樹脂(A)としてポリオレフィン樹脂を用いる場合には下記範囲の条件で延伸することが好ましい。
縦(MD)延伸での延伸温度は概ね20〜130℃、好ましくは40〜130℃、更に好ましくは60〜125℃の範囲で制御される。また、縦延伸倍率は好ましくは1.5〜10倍、より好ましくは2〜10倍、更に好ましくは3〜9倍である。前記範囲内で縦延伸を行うことで、延伸時の破断を抑制しつつ、適度な開孔起点を発現させることができる。一方、横(TD)延伸での延伸温度は概ね60〜130℃、好ましくは60〜125℃、更に好ましくは80〜125℃である。また、横延伸倍率は好ましくは1.5〜10倍、より好ましくは2〜8倍、更に好ましくは3〜8倍である。前記範囲内で横延伸することで、縦延伸により形成された開孔起点を適度に拡大させ、微細な多孔構造を発現させることができるため、結果として優れた透気特性を有する多孔性吸着フィルムを得ることができる。
また、熱可塑性樹脂(A)として、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)を用いた場合の縦(MD)延伸での延伸温度は、概ね10〜100℃、好ましくは15〜90℃、更に好ましくは15〜80℃の範囲で制御される。また、縦延伸倍率は好ましくは1.5〜10倍、より好ましくは2〜10倍、更に好ましくは3〜9倍である。前記範囲内で縦延伸を行うことで、延伸時の破断を抑制しつつ、適度な開孔起点を発現させることができる。一方、横(TD)延伸での延伸温度は概ね60〜130℃、好ましくは60〜125℃、更に好ましくは80〜120℃である。また、横延伸倍率は好ましくは1.5〜10倍、より好ましくは2〜8倍、更に好ましくは3〜8倍である。前記範囲内で横延伸することで、縦延伸により形成された開孔起点を適度に拡大させ、微細な多孔構造を発現させることができるため、結果として優れた透気特性を有する多孔性吸着フィルムを得ることができる。
【0092】
このようにして得られたフィルムは、熱収縮率や自然収縮率の軽減、幅収縮の発生の抑制等の目的に応じて、必要に応じて加熱ロール間での縦延伸、各種の熱固定、エージング等の熱処理を行うようにしてもよい。
また、コロナ処理、印刷、コーティング等の表面処理や表面加工を行ってもよい。
【0093】
なお、一軸延伸を行う場合の延伸温度や延伸倍率は、上記の逐次二軸延伸の場合の、縦延伸または横延伸の条件を適用することができる。
【0094】
後述の好適物性値を満足する本発明の多孔性吸着フィルムは、上述のような製造方法において、例えば熱可塑性樹脂(A)の選択(主成分となる樹脂の種類、その分子量や融点(耐熱性)、主成分の配合割合)、吸着材(B)やその他の無機粒子の使用割合、厚み、製膜方法、加工条件(例えば延伸条件など)を適宜バランスよく調整することによって作製することができる。
【0095】
<厚み>
本発明の多孔性吸着フィルムの厚みはその用途に応じて選択され、特に限定されないが、好ましくは10〜500μm、より好ましくは20〜300μm、さらに好ましくは25〜200μmである。多孔性吸着フィルムの厚みが10μm未満では、フィルム強度が弱いことに加えて、担持される吸着材(B)の量も少ないため吸着フィルムとしての性能が得にくくなる。一方、多孔性吸着フィルムの厚みが500μmを超えると、延伸により多孔化されているとはいうものの、その厚みのためにフィルムの通気性が損なわれてしまう。
【0096】
<特性値>
本発明の多孔性吸着フィルムは、特に透気抵抗が1〜10000秒/100mlであることが好ましい。このような特性とすることにより、特に、通気性、吸着性能などを満足しうる吸着フィルムを提供することができ、デシカントロータ吸着素子や各種包装用の乾燥剤としても好適に機能させることができる。
【0097】
即ち、透気抵抗(ガーレ値)とは多孔フィルムの厚み方向の空気の通り抜け難さを表し、具体的には100mlの空気が面積1.0inch(平方インチ)(=645.16mm)の該多孔フィルムを通過するのに必要な秒数で表現されている。そのため、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方が多孔性吸着フィルムの厚み方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方が多孔性吸着フィルムの厚み方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とは吸着フィルムの厚み方向の孔のつながり度合いである。本発明において、多孔性吸着フィルムの透気抵抗が低いということは、孔の連通性が良く、空気の通り道が確保され、フィルム中の吸着材(B)がより多くの空気と接触し、吸着性能が高められるということであり、好ましい。
【0098】
本発明の多孔性吸着フィルムとして好適な透気抵抗は、より好ましくは1〜8000秒/100mlであり、さらに好ましくは1〜5000秒/100mlである。熱可塑性樹脂(A)としてポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)を使用した場合には、1〜3000秒/100mlの範囲も可能であり、さらに好ましくは1〜1000秒/100mlとすることもできる。透気抵抗が、10000秒/100mlより大きい値であると、測定上透気抵抗の数値は出るものの、実際には多孔化の度合いが乏しい場合が多く、フィルム中の吸着材の効果を発揮させにくい。一方、透気抵抗が1秒/100ml以上であれば、十分な多孔性が得られるため好ましい。
【0099】
なお、透気抵抗は具体的には後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0100】
<用途>
本発明の多孔性吸着フィルムの用途としては、特に調湿用途が挙げられ、デシカント空調や吸着ヒートポンプの吸着素子や吸着部材、各種調湿や乾燥が必要な物品の包装や保存用途等が挙げられる。これらの用途に用いるために、本発明の多孔性吸着フィルムは、そのままの形状のみならず、丸めたり、巻回したり、チューブ状にしたり、或いは前述のように積層構造にするなど、各種の形状に加工、成形して用いることができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例により何ら制限を受けるものではない。
【0102】
[物性の測定方法]
実施例及び比較例における各種物性の測定方法は以下の通りである。
【0103】
(1)水蒸気吸着等温線
吸着等温線測定装置(ベルソーブ18:日本ベル(株))を用いて、空気高温槽温度50℃、吸着温度25℃、初期導入圧力3.0torr、導入圧力設定点数0、飽和蒸気圧23.76mmHg、平衡時間500秒で測定を行った。
実施例及び比較例で用いた吸着材(B−1)であるALPO系ゼオライト(AQSOA−FAM−Z01)及び吸着材(B−2)であるALPO系ゼオライト(AQSOA−FAM−Z02)について測定された25℃における水蒸気吸着等温線を図2に示す。
【0104】
(2)透気抵抗(ガーレ値)
JISP8117に準拠して透気抵抗(秒/100ml)を測定した。
【0105】
(3)水蒸気吸着量
〈水蒸気吸着量−1〉
フィルムを真空下で70℃、3時間以上絶乾させた後、25℃、75%RH雰囲気下で24時間以上暴露させたときの水蒸気吸着量について、単位吸着材(B)当たりの水蒸気吸着量として、水蒸気吸着量(g)/フィルム中の吸着材(B)の含有量(g)を算出し、得られた値を以下の基準で評価した。
◎:単位吸着材(B)当たりの水蒸気吸着量が0.1以上
○:単位吸着材(B)当たりの水蒸気吸着量が0.05以上、0.1未満
×:単位吸着材(B)当たりの水蒸気吸着量が0.05未満
〈水蒸気吸着量−2〉
フィルムを真空下で70℃、3時間以上絶乾させた後、25℃、50%RH雰囲気下で24時間以上暴露させたときの水蒸気吸着量について、単位吸着材(B)当たりの水蒸気吸着量(g)/フィルム中の吸着材(B)の含有量(g)の値を算出し、得られた値を以下の基準で評価した。
◎:単位吸着材(B)当たりの水蒸気吸着量が0.2以上
○:単位吸着材(B)当たりの水蒸気吸着量が0.1以上、0.2未満
×:単位吸着材(B)当たりの水蒸気吸着量が0.1未満
【0106】
(4)水蒸気吸着速度
フィルムを真空下で70℃、3時間以上絶乾させた後、25℃、50%RH雰囲気下で暴露させた時の水蒸気吸着速度(吸着量が変化しなくなるまでの時間)について、以下の基準で評価した。
◎:平衝吸着量に達するまでの時間が30分未満
○:平衝吸着量に達するまでの時間が30分以上、60分未満
×:平衝吸着量に達するまでの時間が60分以上
【0107】
[製膜材料]
実施例及び比較例で使用した製膜材料は以下の通りである。
【0108】
<熱可塑性樹脂(A)>
(A−a):プライムポリマー社製 高密度ポリエチレン「商品名:Hi−zex3300F」(MFR:1.0g/10分)
(A−b):日本ポリエチレン社製 低密度ポリエチレン「商品名:ノバテックLD LF441」(MFR:2.0g/10分)
(A−c):日本ポリエチレン社製 直鎖状低密度ポリエチレン「商品名:ノバテックLL UJ960」(MFR:5.0g/10分)
(A−d):三菱化学社製 ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー「商品名:ZELAS5053」(MFR:7.0g/10分、ゴム成分割合:50重量%、ゴム成分分散径:0.2〜1μm)
<吸着材(B)>
(B−1):三菱樹脂(株)製ALPO系ゼオライト(AQSOA−FAM−Z01、平均粒径4.0μm)
(B−2):三菱樹脂(株)製ALPO系ゼオライト(AQSOA−FAM−Z02、平均粒径2.7μm)
【0109】
[実施例1]
熱可塑性樹脂(A)と吸着材(B)(吸着材(B−1))とを質量比で(A)/(B)=70/30となるように、それぞれを別々のフィーダーから二軸押出機に投入し、溶融混合の後にストランド形状に押出してペレットを作製した。なお、熱可塑性樹脂(A)に関しては、予め重量比で(A−a)/(A−b)/(A−c)=52.5/3.5/1.4となるように、ドライブレンドした原料を用いた。
その後、得られた混合樹脂組成物を二軸押出機により、230℃でTダイより押し出し、冷却固化してフィルムを形成した。得られたフィルムを、延伸温度90℃、延伸倍率3倍にてMD方向に一軸延伸し、厚み65μmの多孔性吸着フィルムを得た。得られたフィルムについて評価した結果を表1に示す。
【0110】
[実施例2]
実施例1において、得られたフィルムの延伸工程において1段目でMD方向に3.0倍、2段目でMD方向に1.5倍とする計4.5倍の延伸倍率とした以外は同様にして厚み50μmのフィルムを得た。得られたフィルムについて評価した結果を表1に示す。
【0111】
[比較例1]
実施例1において、得られたフィルムを延伸しなかった以外は同様にして厚み100μmのフィルムを得た。得られたフィルムについて評価した結果を表1に示す。
【0112】
[比較例2]
比較例1と同様に延伸を行わずに厚み300μmのフィルムを得た。得られたフィルムについて評価した結果を表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
表1より明らかなように、実施例1および2で得たフィルムは、延伸加工を施すことによりフィルムの透気抵抗の値を小さくすることができ、結果としてフィルムの水蒸気吸着量を高めることができた。これに対して、フィルムの延伸加工を施さなかった場合(比較例1、2)には、フィルムの透気抵抗の値が大きく、フィルムの厚みを増した場合であっても(比較例2)所望の水蒸気吸着量を得ることができなかった。
【0115】
[実施例3]
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−d)と吸着材(B)(吸着材(B−1))とを質量比で(A−d)/(B)=70/30となるように、それぞれを別々のフィーダーから二軸押出機に投入し、溶融混合の後にストランド形状に押出してペレットを作製した。
その後、得られた樹脂組成物を二軸押出機により、200℃でTダイより押し出し、冷却固化してフィルムを形成した。得られたフィルムを、延伸温度25℃、延伸倍率3倍にてMD方向に一軸延伸し、厚み40μmの多孔性吸着フィルムを得た。得られたフィルムについて評価した結果を表2に示す。
【0116】
[実施例4]
実施例3と同様にして、厚み40μmのフィルムを得た後、テンター設備において延伸温度100℃、延伸倍率2倍にてTD方向に延伸し、厚み28μmの多孔性吸着フィルムを得た。得られたフィルムについて評価した結果を表2に示す。
【0117】
[実施例5]
実施例3において、吸着材(B−1)を吸着材(B−2)に変更した以外は同様にして厚み42μmの多孔性吸着フィルムを得た。得られたフィルムについて評価した結果を表2に示す。
【0118】
[実施例6]
実施例5において、厚み42μmのフィルムを得た後、テンター設備において延伸温度100℃、延伸倍率2倍にてTD方向に延伸し、厚み50μmの多孔性吸着フィルムを得た。得られたフィルムについて評価した結果を表2に示す。
【0119】
[比較例3]
実施例3において、得られたフィルムを延伸しなかった以外は同様にして厚み100μmのフィルムを得た。得られたフィルムについて評価した結果を表2に示す。
【0120】
[比較例4]
比較例3と同様に、延伸を行わずに厚み300μmのフィルムを得た。得られたフィルムについて評価した結果を表2に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
表2より、実施例3〜6で得たフィルムは、延伸加工を施すことによりフィルムの透気抵抗の値を小さくすることができ、結果としてフィルムの水蒸気吸着量を高めることができた。特に、実施例4においては、二軸延伸を施すことにより、良好な透気抵抗の値を得ることができた。さらに、実施例5〜6については、吸着材(B−2)の粒径が(B−1)の粒径よりも小さいため、吸着材がフィルム中に微分散し、延伸による開孔の起点が増えたことによって透気抵抗の値が向上したものと考えられる。
これに対して、フィルムの延伸加工を施さなかった場合(比較例3、4)には、フィルムの透気抵抗の値が大きく、フィルムの厚みを増した場合であっても(比較例4)、所望の水蒸気吸着量を得ることができなかった。
なお、実施例1,2と実施例3〜6の比較から明らかなように、熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを使用した場合が特に透気抵抗の性能が優れ、好ましいフィルムが得られることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の熱可塑性樹脂(A)と吸着材(B)とを含む混合組成物を主成分として含有するフィルムを、少なくとも一軸方向に延伸して得られる多孔性吸着フィルムであって、
吸着材(B)が、ALPO系ゼオライトであり、かつ25℃で測定した水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.01以上0.5以下の範囲で相対蒸気圧が0.15変化したときの吸着量変化が0.1g/g以上である相対蒸気圧域を有する
ことを特徴とする多孔性吸着フィルム。
【請求項2】
請求項1において、前記混合組成物中に、吸着材(B)が熱可塑性樹脂(A)に対して1〜80重量%含まれることを特徴とする多孔性吸着フィルム。
【請求項3】
請求項1または2において、透気抵抗が1〜10000秒/100mlであることを特徴とする多孔性吸着フィルム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、吸着材(B)が平均粒径0.3〜100μmのALPO系ゼオライト粒子であることを特徴とする多孔性吸着フィルム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、調湿用途に使用されることを特徴とする多孔性吸着フィルム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)であることを特徴とする多孔性吸着フィルム。
【請求項7】
請求項6において、前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−3)が、結晶性ポリプロピレン中にエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムが微分散した海島構造を有するポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A−4)であることを特徴とする多孔性吸着フィルム。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、透気抵抗が1〜5000秒/100mlであることを特徴とする多孔性吸着フィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−35256(P2012−35256A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45341(P2011−45341)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】