説明

多孔質メンブレンとその製造方法

【課題】 コロイド粒子やタンパク質の限外濾過若しくはナノ濾過に好適なメンブレンを費用対効果が高く容易に製造するメンブレンの製造方法を提供する。
【解決手段】 1種以上の溶媒からなるキャスト溶液か、又は1種以上の溶媒と1種以上の非溶媒の組み合わせからなるキャスト溶液中で、1種以上のブロック重合体を有する1種以上のポリマーを溶解させる第1のステップと、前記キャスト溶液中で溶解された1種以上のポリマーを拡散しフィルムとする第2のステップと、前記フィルムをブロック重合体とするための1種以上の非溶媒が入った沈殿槽に前記フィルムを浸す第3のステップとからなり、前記フィルムが沈殿するか、及び/又は、前記フィルムを沈殿させてメンブレンを形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンブレン、特にポリマーメンブレン、好ましくは限外濾過メンブレン又はナノ濾過メンブレンの製造方法に関し、本発明の製造方法によって製造されたこれらメンブレンの限外濾過又はナノ濾過への適用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔質メンブレン(多孔質膜)は限外濾過用途として主に相反転と呼ばれる製造方法にて製造される。これらメンブレンは、通常、ポアサイズ(細孔寸法)分布のばらつきに起因するサイズ不一致を有する(以下の非特許文献1を参照)。ポアサイズ分布のばらつきに起因して2つの問題点がある。第1にポアサイズ分布のばらつきがあるメンブレンは、混合物質を正確に分離することが出来ない。第2にポアサイズ分布のばらつきがあるメンブレンは、ファウリングと呼ばれる傾向がある。ファウリングとは、液体がメンブレンを通過するときに液体の大部分が大きなポアを速く通過するために大きなポアにて団塊化(目詰まり)する現象であると理解されている。それ故、ポアサイズ分布のばらつきが小さな多孔質メンブレンの製造が試みられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】S.Nunes,K.−V.Peinemann(編):化学工業におけるメンブレン技術,Wiley−VCH,ヴァインハイム2006,23−32頁
【非特許文献2】Sleytr、他:バクテリア細胞膜層から得られた多孔質限外濾過メンブレン,メンブレン科学ジャーナル36,1988
【非特許文献3】R.C.Furneaux、他:陽極酸化アルミニウムから得られた多孔性制御メンブレンの組織、ネイチャー337,1989,147−149頁
【非特許文献4】Kuiper、他:微小濾過高流束メンブレンの開発と応用,メンブレン科学ジャーナル150,1998,1−8頁
【非特許文献5】M.Srinivasaro、他:ポリマーフィルム中の気泡の三次元規則配列,サイエンス292,2001,79−83頁
【非特許文献6】T.P.Russel、他:ウイルス濾過のための極めて高い選択性と流束を備えたナノ多孔質メンブレン,アドバンスド マテリアル18,2006,709−712頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献2には、S−層と呼ばれるバクテリア膜を使用して多孔質メンブレンが製造できるとの記述がある。これらのメンブレンはその製造方法ゆえに大量生産が極めて困難であり、長期間に亘る安定性がない。
【0005】
非特許文献3には、アルミニウムの電界酸化によってポアサイズ分布のばらつきが小さなメンブレンが製造できるとの記述がある。これらのメンブレンは、例えば登録商標がアノポア(Anopore)という商品名で提供されている。これらのメンブレンは極めて壊れ易くて非常に高価であるという問題点を有する。
【0006】
非特許文献4には、干渉リソグラフィー等のリソグラフィーによって多孔質の微小濾過メンブレンを作り出すことができるとの記述がある。ここで、微小濾過メンブレンは微小ふるいとも呼ばれるが、上記方法では、ポア径が1μmを下回るメンブレンを作り出すことができない。この製造方法は複雑であり、メンブレンは高価なものとなる。
【0007】
非特許文献5には、呼気像と呼ばれる方法によって多孔質メンブレンを製造するとの記述がある。湿気のある制御されたガス流が溶媒を含有したポリマーフィルムを覆う。ポリマーフィルム表面の上に水滴の飛沫が付くことでポアが作り出される。しかしながらこの方法では、満足できる小さい径のポアを得ることができない。
【0008】
メンブレンの大規模な製造は特に困難であり高価なものとなる。非特許文献6には、共重合体ブロックの自己組織化に基づく多孔質メンブレンの製造方法の記述がある。ここでブロック共重合体とは、1種の重合体より大きな高分子からなり、ブロック内で直線的に関連した共重合体である。複数のブロックは直接相互連結されるか、又はブロックの一部を構成しない組織ユニットを介して相互連結される。この方法によって、A−Bジブロック共重合体が所定量のホモポリマーBと一緒に溶液に溶解される。
【0009】
固体表面、すなわちシリコンウエハーが置かれた上にて、規則正しく垂直に円筒が整列したブロックBとホモポリマーBからなる組織溶液の蒸発によって、フィルムが形成される。ホモポリマーBは、選択された溶液によってフィルムから外に溶かし出され、ナノ多孔質フィルムが作り出される。このフィルムは水によって多孔質キャリアに転換される。この方法は、非常に複雑で複数の段階を経る。この方法は、競争力のある価格のメンブレンを工業スケールで製造することにはならない。
【0010】
そこで本発明の目的は、コロイド粒子やタンパク質の限外濾過若しくはナノ濾過に好適なメンブレンとこのメンブレンを費用対効果が高く容易に製造するメンブレンの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のメンブレンの製造方法は、メンブレン、特にポリマーメンブレン、好ましくは限外濾過メンブレン又はナノ濾過メンブレンの製造方法であって、次の3つのステップ、
1種以上の溶媒からなるキャスト溶液か、又は1種以上の溶媒と1種以上の非溶媒の組み合わせからなるキャスト溶液中で、1種以上のブロック重合体を有する1種以上のポリマーを溶解させる第1のステップと、
前記キャスト溶液中で溶解された1種以上のポリマーを拡散しフィルムとする第2のステップと、
前記フィルムをブロック重合体とするための1種以上の非溶媒が入った沈殿槽に前記フィルムを浸す第3のステップとからなり、
前記フィルムが沈殿するか、及び/又は、前記フィルムを沈殿させてメンブレンを形成させることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る方法は、ブロック重合体の自己組織化(ミクロ相分離とも呼ばれる)に基づくものである。ブロック重合体は、溶媒若しくは添加物が添加された混合溶媒に溶解する。例えば、キャスト溶液は溶媒に加えて1種以上の非溶媒を含有する。
【0013】
フィルムは、キャスト溶液から拡散したものである。短い蒸発過程の後、前記フィルムが非溶媒に浸される。これにより、ポリマーフィルムの沈殿物が結果的に生じる。驚くべきことに、本発明に係る方法の実行の過程で、ポア(細孔)のサイズ分布のばらつきが小さい分離層として非対称のメンブレンが形成されることが分かった。
【0014】
ポア径分布のばらつきが小さいことは、ポアサイズ分布のばらつきが小さいことと同様に重要である。本明細書で多孔質メンブレンとは、主に同じ径のポアを有するメンブレンを呼ぶ。
【0015】
本発明に係る製造方法のユニークな点は、規則的に系統付けられたブロック共重合体の自己組織化に向かう傾向があることである。すなわち、非溶媒の添加によって、ミクロ相分離組織が分離するとともに、ブロック共重合体の自己組織化に向かう傾向がある。それ故、異なる複雑な熱力学的作用が同時に生じ、特別で非対称な組織を導く。メンブレンの分離活性面は、この非対称組織でのブロック共重合体特有のミクロ相形態か、若しくはこの非対称組織でのブロック共重合体との混合物特有のミクロ相形態に基づき、多孔質特有の対称な組織に連続的に移行する。この1連の工程で、分離する分離層と分離しない機械的な支持層との最適な相互連結が達成される。
【0016】
本発明に係る方法は単純であり、従来の製造設備から工業用メンブレン製造設備への転換が問題なくできる。
【0017】
本発明に係る方法の好ましい実施形態が本発明の請求の範囲での従属請求項となる。
【0018】
本発明に係る方法の好ましい実施形態としては、少なくとも1種のブロック共重合体がA−B型,A−B−A型,若しくはA−B−C型の組織を有し、A,B,又はCのいずれかが、ポリスチレン、ポリ−4−ビニルピリジン、ポリ−2−ビニルピリジン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(エチレン−スタット−ブチレン)、ポリ(エチレン−オルト−プロピレン)、ポリシロキサン、ポリアルキレンオキシド、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリラクチド、ポリアルキルメタアクリレート、ポリメタクリル酸、ポリアルキルアクリレート、ポリアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、若しくはポリ−N−アルキルアクリルアミドのいずれかである。
【0019】
ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランのうち1種以上で全種以下の組み合わせが好ましい溶媒として使用される。
【0020】
本発明に係る方法の別の好ましい実施形態としては、水、メタノール、エタノール、アセトンのうち1種以上で全部以下の組み合わせが沈殿槽に入れられる。
【0021】
前記流延溶液中で溶解された1種以上のポリマーの濃度は、前記キャスト溶液に対して5から30重量%であり、好ましくは10から25重量%である。
【0022】
本発明は、前記方法のいずれか1つによって製造されたメンブレン、特にポリマーメンブレン、好ましくは限外濾過メンブレン又はナノ濾過メンブレンである。
【0023】
本発明に係る上記各メンブレンの好ましい実施形態としては、メンブレンの表面ポア密度が少なくとも10ポア/cmである。
【0024】
本発明に係る上記各メンブレンの好適な実施形態としては、前記メンブレンの表面ポア径の最小径dminと最大径dmaxとの比が1対3より小さい値に前記表面ポア径がほぼ揃っていることである。
【0025】
本発明に係る上記各メンブレンの特に好適な実施形態としては、前記表面ポア径の最小径dminと最大径dmaxとの比が1対3より小さい値であるD値が選択される。D値は、例えば、1.1,1.2,1.3,1.4,1.5,1.6,1.7,1.8,1.9,又は2である。またD値は、2.1,2.2,2.3,2.4,2.5,2.6,2.7,2.8,又は2.9とすることができる。
【0026】
限外濾過若しくはナノ濾過、特にコロイド粒子やタンパク質の限外濾過若しくはナノ濾過のために本発明に係る製造方法で製造されたメンブレンが適用される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例であるフィルム断面の上側を拡大率20,000倍に拡大して示す図である。上側の表面付近に円筒状のポアがはっきりと見られる。
【図2】本発明の実施例であるメンブレンの表面を拡大率10,000倍に拡大して示す図である。
【図3】本発明の実施例であるメンブレンの表面を拡大率50,000倍に拡大して示す図である。図2と図3に示す表面のポアは高密度で同じ径のポアが見られる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明の趣旨は以下の実施例や図に基づいて限定されるものではない。また、上述の説明にてすでに明らかである事柄については、その詳細な説明を省略する。
【実施例】
【0029】
ポリスチレン−b−ポリ−4−ビニルピリジンからなるAブロック共重合体が、ジメチルホルムアミドとテトラヒドロフランの混合液に溶解された。溶液の組成は、20重量%のポリスチレン−b−ポリ−4−ビニルピリジン(PS−b−P4VP)、20重量%のテトラヒドロフラン(THT)、60重量%のジメチルホルムアミド(DMF)である。
【0030】
厚みが200μmのフィルムとするため前記溶液がドクターナイフにてガラス板上に拡散された。その10秒後、前記フィルムが水槽に浸された。その1時間後、前記フィルムが取り外されて空気中で乾燥(自然乾燥)された。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
メンブレン、特にポリマーメンブレン、好ましくは限外濾過メンブレン又はナノ濾過メンブレンの製造方法であって、次の3つのステップ、
1種以上の溶媒からなるキャスト溶液か、又は1種以上の溶媒と1種以上の非溶媒の組み合わせからなるキャスト溶液中で、1種以上のブロック重合体を有する1種以上のポリマーを溶解させる第1のステップと、
前記キャスト溶液中で溶解された1種以上のポリマーを拡散しフィルムとする第2のステップと、
前記フィルムをブロック重合体とするための1種以上の非溶媒が入った沈殿槽に前記フィルムを浸す第3のステップとからなり、
前記フィルムが沈殿するか、及び/又は、前記フィルムを沈殿させてメンブレンを形成させることを特徴とするメンブレンの製造方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種のブロック共重合体がA−B型,A−B−A型,若しくはA−B−C型の組織を有し、A,B,又はCのいずれかが、ポリスチレン、ポリ−4−ビニルピリジン、ポリ−2−ビニルピリジン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(エチレン−スタット−ブチレン)、ポリ(エチレン−オルト−プロピレン)、ポリシロキサン、ポリアルキレンオキシド、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリラクチド、ポリアルキルメタアクリレート、ポリメタクリル酸、ポリアルキルアクリレート、ポリアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、若しくはポリ−N−アルキルアクリルアミドのいずれかであることを特徴とする請求項1記載のメンブレンの製造方法。
【請求項3】
前記溶媒として、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランのうち1種以上で全種以下の組み合わせが使用されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のメンブレンの製造方法。
【請求項4】
前記沈殿槽に、水、メタノール、エタノール、アセトンのうち1種以上で全種以下の組み合わせが入ることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のメンブレンの製造方法。
【請求項5】
前記キャスト溶液中で溶解された1種以上のポリマーの濃度が、前記キャスト溶液に対して5から30重量%であり、好ましくは10から25重量%であることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載のメンブレンの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちいずれか1項記載のメンブレンの製造方法によって製造されたメンブレン、特にポリマーメンブレン、好ましくは限外濾過メンブレン又はナノ濾過メンブレン。
【請求項7】
前記メンブレンの表面ポア密度が少なくとも10ポア/cmであることを特徴とする請求項6記載のメンブレン、特にポリマーメンブレン、好ましくは限外濾過メンブレン又はナノ濾過メンブレン。
【請求項8】
前記メンブレンの表面ポア径の最小径dminと最大径dmaxとの比が1対3より小さい値に前記表面ポア径がほぼ揃っていることを特徴とする請求項6又は7記載のメンブレン、特にポリマーメンブレン、好ましくは限外濾過メンブレン又はナノ濾過メンブレン。
【請求項9】
前記表面ポア径の最小径dminと最大径dmaxとの比が1対3より小さい値であるD値(1≦D値<3)が選択されることを特徴とする請求項8記載のメンブレン、特にポリマーメンブレン、好ましくは限外濾過メンブレン又はナノ濾過メンブレン。
【請求項10】
請求項6ないし9のうちいずれか1項記載のメンブレン、特にポリマーメンブレン、好ましくは限外濾過メンブレン又はナノ濾過メンブレンが、限外濾過若しくはナノ濾過、好ましくはコロイド粒子やタンパク質の限外濾過若しくはナノ濾過に適用されることを特徴とするメンブレン、特にポリマーメンブレン、好ましくは限外濾過メンブレン又はナノ濾過メンブレンの限外濾過又はナノ濾過への適用方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−504189(P2010−504189A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528606(P2009−528606)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006759
【国際公開番号】WO2008/034487
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(508368530)ゲーカーエスエス・フォルシュユングスツェントルウム ゲーエストハフト ゲーエムベーハー (7)
【Fターム(参考)】