説明

多孔質中空糸膜の製造方法

【課題】中空状の補強支持体の外側に多孔質膜層が形成された多孔質中空糸膜を製造する際に、紡糸ノズルから吐出された製膜原液が補強支持体の外側にコブ状に付与されることを抑制でき、優れた工程安定性で高品質な多孔質中空糸膜を製造できる多孔質中空糸膜の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】紡糸ノズル1によって、製膜原液を前記補強支持体の外側に付与し、該製膜原液を凝固液で凝固させる紡糸凝固工程を有し、紡糸開始時に紡糸ノズル1の原液流路15、16に供給する製膜原液の供給量の設定値Waを、定常状態における設定値Wbよりも多くして紡糸を開始した後、前記製膜原液の供給量を前記設定値Wbにする、多孔質中空糸膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質中空糸膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染に対する関心の高まりや、規制の強化により、分離性、コンパクト性などに優れた濾過膜を用いた水処理が注目を集めている。水処理における濾過膜としては、中空状の多孔質膜層を有する中空糸膜が好適に使用されている(例えば、特許文献1)。このような中空糸膜の製造には、例えば、図12〜14に例示した紡糸ノズル101が用いられる。
【0003】
紡糸ノズル101は、第1のノズル111と第2のノズル112とを有している。また、紡糸ノズル101は、内部に、中空状の補強支持体(以下、単に「補強支持体」と記すこともある。)を通過させる支持体通路113と、多孔質膜層を形成する製膜原液を流通させる原液流路114とを有している。原液流路114は、製膜原液が導入される導入部115と、製膜原液を断面円環状として貯液する貯液部116と、製膜原液を円筒状に賦形する賦形部117とを有している。紡糸ノズル101は、中空状の補強支持体が支持体供給口113aから供給されて支持体導出口113bから導出され、製膜原液が原液供給口114aから供給されて吐出口114bから前記補強支持体の周りに円筒状に吐出されるようになっている。
紡糸ノズル101による多孔質中空糸膜の紡糸では、紡糸ノズル101の吐出口114bから吐出した製膜原液が、支持体導出口113bから同時に導出される中空状の補強支持体の外側に付与される。その後、凝固浴で製膜原液が凝固されて多孔質膜層が形成され、洗浄、乾燥などの工程を経て多孔質中空糸膜が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−50766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、紡糸ノズル101を使用する多孔質中空糸膜の製造では、紡糸ノズルから吐出された製膜原液が補強支持体の外側にコブ状に付与されることで、工程安定性の低下および品質の低下を招くことがある。
【0006】
本発明は、中空状の補強支持体の外側に多孔質膜層が形成された多孔質中空糸膜を製造する際に、紡糸ノズルから吐出された製膜原液が補強支持体の外側にコブ状に付与されることを抑制でき、優れた工程安定性で高品質な多孔質中空糸膜を製造できる多孔質中空糸膜の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多孔質中空糸膜の製造方法は、中空状の補強支持体の外側に多孔質膜層が形成された多孔質中空糸膜の製造方法であって、
紡糸ノズルによる紡糸によって、前記多孔質膜層を形成する製膜原液を前記補強支持体の外側に付与し、該製膜原液を凝固液で凝固させる紡糸凝固工程を有し、
紡糸開始時に前記紡糸ノズルに供給する前記製膜原液の供給量の設定値Waを、定常状態における設定値Wbよりも多くして紡糸を開始した後、前記製膜原液の供給量を前記設定値Wbにする方法である。
また、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法は、前記設定値Waと設定値Wbの比Wa/Wbを1.2〜3.0とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多孔質中空糸膜の製造方法によれば、中空状の補強支持体の外側に多孔質膜層が形成された多孔質中空糸膜を製造する際に、紡糸ノズルから吐出された製膜原液が補強支持体の外側にコブ状に付与されることを抑制でき、優れた工程安定性で高品質な多孔質中空糸膜を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】紡糸ノズルの一例を示した平面図である。
【図2】図1の紡糸ノズルを直線I−I’で切断したときの断面図である。
【図3】図2の紡糸ノズルを直線II−II’で切断したときの断面図である。
【図4】紡糸初期の不具合を説明する断面図である。
【図5】紡糸ノズルの他の例を示した断面図である。
【図6】紡糸ノズルの他の例を示した断面図である。
【図7】紡糸ノズルの他の例を示した断面図である。
【図8】支持体製造装置の一例を示した概略構成図である。
【図9】中空状編紐の構造を示した図である。
【図10】中空状編紐の網目を示した拡大図である。
【図11】多孔質中空糸膜製造装置の一例を示した概略構成図である。
【図12】紡糸ノズルの一例を示した平面図である。
【図13】図12の紡糸ノズルを直線III−III’で切断したときの断面図である。
【図14】図13の紡糸ノズルを直線IV−IV’で切断したときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多孔質中空糸膜の製造方法は、後述する紡糸ノズルを使用して、中空状の補強支持体の外側に多孔質膜層が形成された多孔質中空糸膜を製造する方法である。
本発明の多孔質中空糸膜の製造方法により製造する多孔質中空糸膜は、補強支持体の外側に単層の多孔質膜層が形成された多孔質中空糸膜であってもよく、補強支持体の外側に複数の多孔質膜層が積層された多孔質中空糸膜であってもよい。
【0011】
補強支持体としては、例えば、各種の繊維で製紐された中空状の編紐、組紐などが挙げられる。また、各種素材を単独で使用したものであってもよく、組み合わせたものであってもよい。中空状の編紐や組紐に使用される繊維としては、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、天然繊維などが挙げられる。繊維の形態としては、モノフィラメント、マルチフィラメント、紡績糸のいずれであってもよい。
【0012】
多孔質膜層の形成には製膜原液を使用する。製膜原液は、膜形成性樹脂、及び相分離の制御を目的とした開孔剤を両者の良溶媒となる有機溶媒に溶解した溶液である。
膜形成性樹脂としては、多孔質中空糸膜の形成に使用される通常の樹脂が使用でき、例えば、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、スルホン化ポリスルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂などが挙げられる。これらは必要に応じて適宜選択して使用することができ、中でも耐薬品性に優れることから、ポリフッ化ビニリデン樹脂が好ましい。
開孔剤としては、例えば、ポリエチレングリコールによって代表されるモノオール系、ジオール系、トリオール系、ポリビニルピロリドンなどの親水性高分子樹脂を使用することができる。これらは必要に応じて適宜選択して使用することができ、中でも増粘効果に優れることから、ポリビニルピロリドンが好ましい。
有機溶媒としては、上述の膜形成性樹脂及び開孔剤をいずれも溶解できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどを用いることができる。
なお、ここで用いる製膜原液には、相分離の制御を阻害しない範囲で、任意成分として開孔剤以外のその他の添加剤を用いることもできる。
【0013】
以下、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法に使用する紡糸ノズルの一例を示して説明する。
図1〜3は、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法に使用する紡糸ノズルの一例である紡糸ノズル1を示した概略図である。紡糸ノズル1は、中空状の補強支持体の外側に2層の多孔質膜層が積層された多孔質中空糸膜を製造する紡糸ノズルである。
以下、紡糸ノズル1を用いて製造する多孔質中空糸膜における内側の多孔質膜層を第1の多孔質膜層、外側の多孔質膜層を第2の多孔質膜層という。また、第1の多孔質膜層を形成する製膜原液を第1の製膜原液、第2の多孔質膜層を形成する製膜原液を第2の製膜原液という。
【0014】
紡糸ノズル1は、図1〜3に示すように、第1のノズル11と第2のノズル12と第3のノズル13を有している。紡糸ノズル1の内部には、図2に示すように、中空状の補強支持体を通過させる支持体通路14と、第1の製膜原液を流通させる原液流路15と、第2の製膜原液を流通させる原液流路16が形成されている。
原液流路15は、図2及び図3に示すように、第1のノズル11と第2のノズル12の部分に、第1の製膜原液が導入される導入部17と、支持体通路14の外周で第1の製膜原液を断面円環状にして貯液する第1の貯液部18と、支持体通路14の外周で第1の製膜原液を円筒状に賦形する第1の賦形部19とを有している。また、原液流路16は、第2の製膜原液が導入される導入部20と、支持体通路14の外周で第2の製膜原液を断面円環状にして貯液する第2の貯液部21と、支持体通路14の外周で第2の製膜原液を円筒状に賦形する第2の賦形部22とを有している。また、この例では、第2の賦形部22と第1の賦形部19により複合部23が形成されている。つまり、第2の賦形部22で第2の製膜原液を円筒状に賦形すると同時に、その第2の製膜原液を、第1の賦形部19を流通してきた第1の製膜原液の外側に積層複合するようになっている。支持体通路14、第1の貯液部18、第1の賦形部19、第2の貯液部21、第2の賦形部22及び複合部23は、それぞれ中心軸が一致している。
また、紡糸ノズル1は、第1の貯液部18の内部と、第2の貯液部21の内部のそれぞれに、第1の製膜原液と第2の製膜原液が各々、側面から通過する多孔エレメント31、32が設けられている。
【0015】
第1のノズル11、第2のノズル12及び第3のノズル13の材質は、多孔質中空糸膜の紡糸ノズルとして通常使用されるものが使用でき、耐熱性、耐食性、強度などの点から、ステンレス鋼材(SUS)が好ましい。
【0016】
支持体通路14の断面形状は、円形状である。
支持体通路14の内径は、使用する中空状の補強支持体の外径に応じて適宜設定すればよい。
原液流路15の導入部17、及び原液流路16の導入部20の断面形状は、この例のように円形状が好ましい。ただし、導入部17と導入部20の断面形状は、円形状には限定されない。
導入部17と導入部20の直径は、特に限定されない。
【0017】
第1の貯液部18は、導入部17を流通してきた第1の製膜原液を断面円環状にして貯液する部分である。
第1の貯液部18の断面形状は、図3に示すように円環状であり、第1の貯液部18の中心と支持体通路14の中心が一致している。第1の貯液部18においては、第1の製膜原液が導入部17側から二手に分岐して円弧状に流通し、導入部17と反対側の合流部分18aで合流するようになっている。
また、図2に示すように、第1の貯液部18における第1の賦形部19近傍には、スリット部18bを設けてもよい。特に、第1の製膜原液が後述する多孔エレメント31の外周面から内周面に向かって通過するだけでは、周方向の吐出均一性が所望のレベルとならない場合、スリット部18bで流動抵抗を付与することは、周方向における吐出の均一性向上の面から好ましい。
【0018】
第1の賦形部19は、第1の貯液部18内の第1の製膜原液を、支持体通路14を通過させる補強支持体と同心円状の円筒状に賦形する部分である。
第1の賦形部19の幅(内壁と外壁の距離)は、形成する第1の多孔質膜層の厚みに応じて適宜設定できる。
【0019】
第2の貯液部21は、導入部20を流通してきた第2の製膜原液を断面円環状にして貯液する部分である。
第2の貯液部21の断面形状は、第1の貯液部18と同様に円環状であり、第2の貯液部21の中心と支持体通路14の中心が一致している。第2の貯液部21においては、第2の製膜原液が導入部20の側から二手に分岐して円弧状に流通し、導入部20と反対側の合流部分21aで合流するようになっている。
また、図2に示すように、第2の貯液部21における第2の賦形部22近傍には、スリット部21bを設けてもよい。特に、第2の製膜原液が後述する多孔エレメント32の外側面から内側面に向かって通過するだけでは、周方向の吐出均一性が所望のレベルとならない場合、スリット部21bで流動抵抗を付与することは、周方向における吐出の均一性向上の面から好ましい。
【0020】
第2の賦形部22は、第2の貯液部21内の第2の製膜原液を、支持体通路14を通過させる補強支持体と同心円状の円筒状に賦形する部分である。また、この例では、第1の賦形部19と第2の賦形部22により複合部23が形成されている。つまり、第2の賦形部22において円筒状に賦形する第2の製膜原液は、同時に、第1の賦形部19を流通してきた第1の製膜原液の外側に同心円状に積層複合されるようになっている。複合部23において、各々の製膜原液をノズル内部で積層複合させることで、それらをノズル外部で積層複合させる場合に比べて、形成される各多孔質膜層の接合強度が向上する。また、ノズル構造の簡素化、加工簡易化の点でも有利である。また、各々の製膜原液を複合部23で積層複合させても、それら溶液における溶媒相互拡散による各多孔質膜層の構造への悪影響はほとんどない。
複合部23の幅(内壁と外壁の距離)は、形成する第2の多孔質膜層の厚みに応じて適宜設定できる。
【0021】
紡糸ノズル1では、第1の貯液部18と第2の貯液部21のそれぞれの内部に、製膜原液が側面から通過する多孔エレメント31、32が設けられている。この例の多孔エレメント31、32は円筒状であり、第1の貯液部18と第2の貯液部21内において、製膜原液は多孔エレメント31、32の外周面から内周面に向かって通過する。
【0022】
多孔エレメント31、32としては、製膜原液が外周面から内周面に向かって通過する微小孔を有するものが使用でき、例えば、製膜原液を濾過するフィルタなどが使用される。なかでも、強度、熱伝導性、耐薬品性、構造均一性の点から、金属微粒子の焼結体が好ましい。ただし、多孔エレメント31、32は金属微粒子の焼結体には限定されず、金属繊維の焼結体、金属メッシュの積層体や焼結積層体、セラミック多孔体、多孔板の積層体や焼結積層体、金属微粒子の充填体などであってもよい。
【0023】
紡糸ノズル1では、多孔エレメント31、32を設けることで、製膜原液により形成される多孔質膜層に、軸方向に沿った割れの起点が形成されることが抑制される。多孔エレメント31、32によって前記効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように考えられる。
図12〜14に例示した紡糸ノズル101のように、多孔エレメントを設けない場合、紡糸速度を高めると、多孔質膜層に軸方向に沿った割れの起点が形成され、多孔質中空糸膜が扁平状に変形した際などに割れが発生することがある。この割れの起点は、貯液部116の内部において二手に分かれた製膜原液が合流する合流部分116a(図14)に相当する位置に形成される。この合流部分116aでは、合流部分116a以外の部分に比べて膜形成性樹脂同士の絡み合いが小さくなる傾向があり、これが扁平などの負荷発生時に応力集中点となって軸方向に沿った割れの起点が形成される要因になっていると考えられる。
これに対し紡糸ノズル1は、第1の貯液部18に多孔エレメント31が設けられていることで、第1の製膜原液により形成される第1の多孔質膜層に、軸方向に沿った割れの起点が形成されることが抑制される。これは、第1の製膜原液が多孔エレメント31を外周面から内周面に向かって通過するとき、第1の製膜原液が全体的に微視的に撹拌され、第1の製膜原液の膜形成性樹脂同士の絡み合いが均一化され、応力分散されるためであると考えられる。また、同様の理由から、第2の貯液部21に多孔エレメント32が設けられていることで、第2の製膜原液により形成される第2の多孔質膜層に、軸方向に沿った割れの起点が形成されることが抑制される。
【0024】
多孔エレメント31、32は、割れが発生し難い多孔質中空糸膜を得やすい点から、三次元網目構造を有する多孔質体であることが好ましい。三次元網目構造を有する多孔質体とは、製膜原液が外周面から内周面に向かって多孔エレメントの内部を通過する際に直線的には流れず、上下方向や周方向にも移動しながら内側へと通過するような三次元的な流路が形成された構造の多孔質体である。多孔エレメント31、32として、三次元網目構造を有する多孔質体を使用することで、製膜原液が全体的に微細な分岐合流を繰り返して均一化されやすくなり、紡糸速度を高めた場合でも多孔質膜層に軸方向に沿った割れの起点が形成され難くなると考えられる。また、同じ孔径で同じ厚みの多孔エレメントでは、圧力損失も小さくなる点で有利である。さらに、製膜原液中の異物除去やゲル細分化の点でも好ましい。
三次元網目構造を有する多孔エレメントとしては、ファイバーワインディング構造の多孔エレメント、樹脂又は金属微粒子を焼結一体化した構造の多孔エレメントなどが挙げられる。
【0025】
多孔エレメント31、32の形状は、製膜原液が外周面から内周面に向かって流れるものであればよく、環状のものが好ましい。なかでも、多孔エレメント31、32の形状としては、製膜原液を通過させる面積を大きくしやすく、紡糸速度の高速化が容易な点から、この例のように円筒状であることが好ましい。
【0026】
また、多孔エレメント31、32は、例えば一般的なキャンドルフィルタが有するような、平板状のエレメントを円筒状に巻いて接合部を溶接したような継目がないものが好ましい。このような継目を有さない多孔エレメントを使用することで、製膜原液の通過特性を均一にしやすくなる。このような継目のない多孔エレメントの構造としては、例えば、円筒型ファイバーワインディング構造、金属管のエッチング加工構造、金属管のレーザー孔加工構造、立体型ハニカム構造、外周と内周を連通する複数の微小孔を有する複数のドーナツ状円板を同心円状に積層一体化した構造、樹脂又は金属微粒子を円筒状に焼結一体化した構造などが挙げられる。
【0027】
第1の製膜原液が多孔エレメント31を通過する際の圧力損失は、第1の製膜原液が多孔エレメント31に到達するまでの圧力損失、及び第1の製膜原液が多孔エレメント31を通過した後から吐出口23aに到達するまでの圧力圧損よりも大きいことが好ましい。これにより、多孔エレメント31を通過する際の第1の製膜原液の流れが周方向に均一化されやすくなり、形成される第1の多孔質膜層の厚みの均一化が容易になる。同様に、第2の製膜原液が多孔エレメント32を通過する際の圧力損失は、第2の製膜原液が多孔エレメント32に到達するまでの圧力損失、及び第2の製膜原液が多孔エレメント32を通過した後から吐出口23aに到達するまでの圧力圧損よりも大きいことが好ましい。
製膜原液が多孔エレメント31、32を通過する際の圧力損失は、多孔エレメント31、32の構造、孔径などを調節することで調節できる。
【0028】
紡糸ノズル1による紡糸では、中空状の補強支持体が支持体供給口14aから支持体通路14に供給され、また製膜原液を定量供給する各原液供給装置によって第1の製膜原液と第2の製膜原液が原液供給口15a、16aから原液流路15、16にそれぞれ供給される。第1の製膜原液は、導入部17から第1の貯液部18内に流入し、第1の貯液部18において、多孔エレメント31の外側を二手に分岐して円弧状に流通して反対側の合流部分18aで合流し、多孔エレメント31を外周面から内周面に向かって通過し、第1の賦形部19に流入して円筒状に賦形される。第2の製膜原液は、導入部20から第2の貯液部21内に流入し、第2の貯液部21において、多孔エレメント32の外側を二手に分岐して円弧状に流通して反対側の合流部分21aで合流し、多孔エレメント32を外周面から内周面に向かって通過し、第2の賦形部22に流入して円筒状に賦形される。また、この例では、第1の賦形部19と第2の賦形部22とで複合部23が形成されているため、第2の製膜原液が円筒状に賦形されつつ、第1の賦形部19を流通してきた第1の製膜原液の外側に同心円状に積層複合される。そして、第1の製膜原液と第2の製膜原液が同心円状に積層複合された状態で吐出口23aから吐出され、同時に支持体導出口14bから導出されてきた補強支持体の外側に付与される。
【0029】
次に、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法の一例として、前記紡糸ノズル1を使用した多孔質中空糸膜の製造方法を説明する。該製造方法としては、例えば、下記の紡糸凝固工程、洗浄工程、除去工程、乾燥工程及び巻き取り工程を有する方法が挙げられる。
紡糸凝固工程:紡糸ノズル1により、製膜原液を中空状の補強支持体の外側に付与し、前記製膜原液を凝固液中で凝固させ、多孔質中空糸膜前駆体を形成する工程。
洗浄工程:前記紡糸凝固工程後の多孔質中空糸膜前駆体を洗浄して該多孔質中空糸膜前駆体に残留する溶媒を除去する工程。
除去工程:前記洗浄工程後の多孔質中空糸膜前駆体に残留する開孔剤を除去し、多孔質中空糸膜を形成する工程。
乾燥工程:前記除去工程後の多孔質中空糸膜を乾燥する工程。
巻き取り工程:乾燥後の多孔質中空糸膜を巻き取る工程。
【0030】
紡糸凝固工程:
各原液供給装置によって第1の製膜原液と第2の製膜原液を紡糸ノズル1の原液流路15、16に供給し、補強支持体を紡糸ノズル1の支持体通路14に供給することで、第1の製膜原液と第2の製膜原液を積層複合して円筒状に吐出させ、支持体通路14を通過した前記補強支持体の外側に付与して、それら製膜原液を凝固液で凝固させて多孔質中空糸膜前駆体を形成する。このとき、補強支持体の外側に塗布された製膜原液中に凝固液が拡散し、膜形成性樹脂と開孔剤がそれぞれ相分離を起こしつつ凝固して、膜形成性樹脂と開孔剤とが相互に入り組んだ三次元網目構造の凝固膜層を形成する。前記凝固膜層の開孔剤が、後述する除去工程で除去されることで、該開孔剤が残存していた部分に孔が形成されて多孔質膜層が形成される。
【0031】
本実施形態の製造方法は、紡糸凝固工程において、紡糸開始時に紡糸ノズル1に供給する製膜原液の供給量(第1の製膜原液と第2の製膜原液を合計した供給量)の設定値Waを、定常状態において紡糸ノズル1に供給する製膜原液の供給量(第1の製膜原液と第2の製膜原液を合計した供給量)の設定値Wbよりも多くして紡糸を開始した後、前記製膜原液の供給量を前記設定値Wbにすることを特徴とする。
本発明において「定常状態」とは、紡糸ノズルの支持体通路を通過させる補強支持体の外側に、製膜原液が均一な厚みで連続的に付与され、外径が均一な多孔質中空糸膜前駆体が連続的に得られている状態を言う。つまり、前記設定値Wbは、紡糸ノズルへの製膜原液の供給量を、定常状態における補強支持体の走行速度と、製膜原液の吐出線速度とが同じになるように設定した値である。設定値Wbは、予め試験することにより決定できる。
【0032】
紡糸ノズルによる紡糸について検討したところ、紡糸ノズルに供給する製膜原液の供給量を、定常状態において製膜原液の吐出線速度と補強支持体の走行速度を対応させた設定値Wbに設定して紡糸を開始すると、紡糸初期において、補強支持体の外側への製膜原液の付与が不均一になることがあるのが判明した。具体的には、紡糸初期において、製膜原液の吐出線速度が補強支持体の走行速度よりも遅くなることで、図4に示すように、紡糸ノズル1の吐出口23aから吐出される製膜原液Yが補強支持体Xによって引っ張られて分断され、製膜原液Yが補強支持体Xに断続的に付与されてコブ状部分Zが複数形成されることがわかった。また、紡糸ノズル1のように貯液部に多孔エレメントを設けた場合、該多孔エレメントによる抵抗によって、紡糸開始時の製膜原液の吐出線速度がより遅くなりやすく、コブ状部分Zがさらに形成されやすいことがわかった。このようなコブ状部分Zは、後の工程において膜のガイド外れや合糸の要因となり得る。
本発明では、紡糸開始時に紡糸ノズルに供給する製膜原液の供給量の設定値Waを、定常状態における製膜原液の供給量の設定値Wbよりも多くして紡糸を開始することで、製膜原液の供給量を設定値Wbとして紡糸を開始する場合に比べて、紡糸初期における製膜原液の吐出線速度が補強支持体の走行速度により近くなる。そのため、ノズルから吐出される製膜原液が補強支持体によって引っ張られて分断されることを抑制でき、結果的に補強支持体の外側に製膜原液がコブ状に付与される頻度を低減できる。よって、より高い工程安定性で、高品質な多孔質中空糸膜を製造できる。
【0033】
具体的な操作としては、第1の製膜原液を原液流路15に供給する原液供給装置と、第2の製膜原液を原液流路16に供給する原液供給装置において、紡糸開始時における第1の製膜原液と第2の製膜原液の紡糸ノズル1への供給量の設定値Waを、定常状態における設定値Wbよりも多くして紡糸を開始した後、それらの供給量を設定値Wbにして紡糸を続ける。
【0034】
紡糸開始時における紡糸ノズル1への製膜原液の供給量(第1の製膜原液と第2の製膜原液の合計量)の設定値Waと、定常状態における紡糸ノズル1への製膜原液の供給量(第1の製膜原液と第2の製膜原液の合計量)の設定値Wbの比Wa/Wbは、1.2〜3.0が好ましく、1.5〜2.5がより好ましい。前記比Wa/Wbが下限値以上であれば、補強支持体の外側に製膜原液がコブ状に付与される頻度をより低減できる。前記比Wa/Wbが上限値以下であれば、使用される製膜原液量が過剰になり難く、膜厚が過剰に厚くなって原料を無駄にすることを抑制しやすくなるため、コストをより低減でき、工業的に有利である。
【0035】
紡糸開始後は、補強支持体の外側に付与される製膜原液の厚みが一定になった後に、紡糸ノズル1に供給する製膜原液の供給量の設定値を設定値Wbにする。つまり、製膜原液の吐出線速度が一定になった後に、紡糸ノズル1に供給する製膜原液の供給量の設定値を設定値Wbにする。
補強支持体の外側に付与される製膜原液の厚みが一定になったという判断基準は、紡糸速度等によっても異なるが、例えば、外径が均一な多孔質中空糸膜前駆体の形成が20m連続して形成された時点を製膜原液の厚みが一定になった時点とする基準などが挙げられる。前記判断は、多孔質中空糸膜前駆体の外径を測定することで行ってもよく、製膜原液の吐出線速度を測定することで行ってもよい。
なお、ここでは多孔質膜層(凝固膜層)と補強支持体との位置関係を明確にするために補強支持体の外側と表現しているが、多孔質膜層(凝固膜層)が補強支持体の空隙を通じて支持体内部に合浸している場合も含まれる。この場合も、製膜原液の厚みが一定になったという判断基準は外径の均一性によって判断する。
【0036】
紡糸ノズル1に供給する製膜原液の供給量は、工程安定性がより向上する点から、補強支持体の外側に付与される製膜原液の厚みが一定になったと判断した時点で設定値Wbにすることが好ましい。
紡糸ノズル1に供給する製膜原液の供給量の設定値を設定値Wbにするタイミングについては、予め試験して決定しておいてもよく、工程中に多孔質中空糸膜の外径又は製膜原液の吐出線速度を測定しながら紡糸を行って決定してもよい。
【0037】
また、紡糸凝固工程においては、紡糸開始時に紡糸ノズル1の支持体通路14を通過させる補強支持体の走行速度Vaを、定常状態における走行速度Vbよりも遅くして紡糸を開始した後、補強支持体の走行速度を定常状態における走行速度Vbにすることが好ましい。これにより、製膜原液が補強支持体の外側にコブ状に塗布されることをさらに低減できる。
紡糸開始時における補強支持体の走行速度Vaと、定常状態における補強支持体の走行速度Vbとの比Va/Vbは、0.3〜0.8が好ましく、0.4〜0.6がより好ましい。前記比Va/Vbが下限値以上であれば、補強支持体の外側に製膜原液がコブ状に付与される頻度をより低減できる。前記比Va/Vbが上限値以下であれば、補強支持体の外側に製膜原液が均一に塗布されない、いわゆる塗り斑の発生を低減しやすい。
【0038】
洗浄工程:
紡糸凝固工程で形成された多孔質中空糸膜前駆体には、溶液状態の開孔剤や溶媒が残存している。多孔質中空糸膜前駆体の洗浄方法は、多孔質中空糸膜前駆体に残存する溶媒を除去する方法として通常使用される方法を採用できる。例えば、水などの洗浄液中に多孔質中空糸膜前駆体を走行させて洗浄することで、多孔質中空糸膜前駆体中に残存している溶媒を除去する方法などが挙げられる。
【0039】
除去工程:
開孔剤を除去する方法は、多孔質中空糸膜前駆体に残存する開孔剤を除去する方法として通常使用される方法を採用できる。例えば、次亜塩素酸塩などの酸化剤を含む薬液中に多孔質中空糸膜を走行させて、多孔質中空糸膜に薬液を保持させた後、気相中で加熱して開孔剤の酸化分解を行い、その後に多孔質中空糸膜を洗浄することで、低分子量化された開孔剤を除去する方法などが挙げられる。
多孔質中空糸膜前駆体の凝固膜層に残存する開孔剤を除去することで、該開孔剤が残存していた部分に孔が形成されて多孔質膜層が形成され、多孔質中空糸膜が得られる。
【0040】
乾燥工程、巻き取り工程:
多孔質中空糸膜の乾燥方法は、多孔質中空糸膜の乾燥に通常使用される方法を採用できる。例えば、熱風乾燥機などの乾燥機を用いて多孔質中空糸膜を乾燥する方法などが挙げられる。
乾燥後の多孔質中空糸膜は、ボビンなどの巻き取り手段によって巻き取る。
【0041】
以上説明した本発明の多孔質中空糸膜の製造方法によれば、紡糸開始時に紡糸ノズルに供給する製膜原液の供給量の設定値Waを、定常状態における設定値Wbよりも多くして紡糸を開始することで、紡糸初期において、補強支持体の外側に製膜原液がコブ状に付与されることを低減できる。そのため、高品質な多孔質中空糸膜を優れた工程安定性で製造できる。また、貯液部内に多孔エレメントを設けた紡糸ノズルを用いれば、補強支持体の外側に製膜原液がコブ状に付与されることを低減しつつ、さらに形成する多孔質膜層に軸方向に沿った割れの起点が形成されることも抑制でき、より高品質な多孔質中空糸膜を優れた工程安定性で製造できる。
【0042】
なお、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法は、前述した製造方法には限定されない。例えば、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法は、補強支持体の外側に1層の多孔質膜層を形成する方法であってもよい。
また、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法は、紡糸ノズル1のような紡糸ノズルを用いて、紡糸開始時に紡糸ノズルに供給する前記製膜原液の供給量の設定値Waを、定常状態における設定値Wbよりも多くして紡糸を開始した後、前記製膜原液の供給量を前記設定値Wbにする紡糸凝固工程を有するものであればよく、他の工程は特に限定されない。
【0043】
また、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法は、紡糸ノズル1を使用する方法には限定されない。ノズル内部に複合部を有さず、複数の多孔質膜層を形成する各々の製膜原液が、それぞれ別々に円筒状に吐出され、ノズル外部で積層複合されて補強支持体の外側に付与される紡糸ノズルを使用する方法であってもよい。具体的には、図5に例示した紡糸ノズル2を使用する方法であってもよい。紡糸ノズル2において紡糸ノズル1と同じ部分は同符号を付して説明を省略する。
紡糸ノズル2は、第1のノズル11、第2のノズル12A、第3のノズル13Aを有しており、第1の貯液部18から流入する第1の製膜原液を支持体通路14と同心円状の円筒状に賦形する第1の賦形部19Aと、第2の貯液部21から流入する第2の製膜原液を支持体通路14と同心円状の円筒状に賦形する第2の賦形部22Aを有している。第1の製膜原液は、原液供給口15aから原液流路15に供給され、第1の賦形部19Aで賦形された後に吐出口15bから吐出される。第2の製膜原液は、原液供給口16aから原液流路16に供給され、第2の賦形部22Aで賦形された後に吐出口16bから吐出される。吐出口15b、16bからそれぞれ吐出された第1の製膜原液と第2の製膜原液は、ノズル外部で積層複合され、支持体導出口14bから導出された補強支持体の外部に付与される。
【0044】
また、紡糸ノズル1は、製膜原液が外周面から内周面に向かって通過する多孔エレメント31、32を有していたが、本発明の製造方法に用いる紡糸ノズルにおける多孔エレメントは、製膜原液が側面から通過するものであればよい。例えば、図6に例示した紡糸ノズル3を使用する方法であってもよい。紡糸ノズル3は、単層の多孔質膜層を有する多孔質中空糸膜を紡糸するノズルである。
紡糸ノズル3は、第1のノズル41、第2のノズル42を有しており、中空状の補強支持体を通過させる支持体通路43と、多孔質膜層を形成する製膜原液を流通させる原液流路44を有している。また、原液流路44は、製膜原液を導入する導入部45と、製膜原液を断面円環状にして貯液する貯液部46と、貯液部46から流入する製膜原液を、支持体通路43を通過させる補強支持体と同心円状の円筒状に賦形する賦形部47とを有している。また、貯液部46の内部には、製膜原液が内周面から外周面に向かって通過する多孔エレメント51が設けられている。多孔エレメント51としては、多孔エレメント31、32で挙げたものと同じものが使用できる。
紡糸ノズル3による紡糸における製膜原液は、原液供給口44aから原液流路44に供給され、貯液部46における多孔エレメント51の内側に供給されて、二手に分岐して円弧状に流通して反対側で合流する。そして、その製膜原液が、多孔エレメント51を内周面から外周面に向かって通過し、賦形部47で円筒状に賦形されて吐出口44bから吐出され、同時に支持体導出口43aから導出されてきた補強支持体の外側に付与される。このように、製膜原液が内周面から外周面に向かって通過する多孔エレメント51を設けるようにしても、得られる多孔質中空糸膜の多孔質膜層に割れの起点が発生することを抑制できる。
【0045】
また、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法は、図7に例示した紡糸ノズル4を使用する方法であってもよい。紡糸ノズル4は、単層の多孔質膜層を有する多孔質中空糸膜を紡糸するノズルである。
紡糸ノズル4は、図7に示すように、第1のノズル81と第2のノズル82を有しており、内部に、中空状の支持体を通過させる支持体通路83と、多孔質膜層を形成する製膜原液を流通させる原液流路84とを有している。原液流路84は、製膜原液が導入される導入部85と、製膜原液を断面円環状にして貯液する貯液部86と、製膜原液を円筒状に賦形する賦形部87とを有している。貯液部86の内部には、粒子88が充填された充填層89が設けられている。紡糸ノズル4を用いることで、得られる多孔質中空糸膜の多孔質膜層に、軸方向に沿った割れの起点が形成されることが抑制されやすくなる。これは、充填層89における粒子88の隙間を通過する製膜原液が、三次元的な細かい分岐と合流を繰り返すので、製膜原液における膜形成性樹脂の絡み合いが結果的に全体的に小さくなって均一化され、応力分散されるためであると考えられる。
【0046】
また、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法は、多孔エレメントが設けられていない紡糸ノズルを使用する方法であってもよい。つまり、紡糸ノズル101を使用する方法であってもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[実施例1]
補強支持体の製造工程:
図8に示す支持体製造装置60を用いて、中空状編紐からなる補強支持体を製造した。支持体製造装置60は、ボビン61と、ボビン61から引き出された糸62を丸編する丸編機63と、丸編機63によって編成された中空状編紐64を一定の張力で引っ張る紐供給装置65と、中空状編紐64を熱処理する加熱ダイス66と、中空状編紐64が熱処理されて得られる補強支持体Xを引き取る引取り装置67と、補強支持体Xをボビンに巻き取る巻き取り機68とを具備する。
原糸としては、ポリエステル繊維(繊度:84dtex、フィラメント数:36)を用いた。ボビン61としては、前記ポリエステル繊維の5kgを巻いたものを5つ用意した。丸編機63としては、卓上型組編機(圓井繊維機械社製、メリヤス針数:12本、針サイズ116ゲージ、スピンドルの円周直径:8mm)を用いた。紐供給装置65及び引取り装置67としてはネルソンロールを用いた。加熱ダイス66としては、加熱手段を有するステンレス製のダイス(内径D(入口側):5mm、内径d(出口側):2.2mm、長さ:300mm)を用いた。
ボビン61から引き出されたポリエステル繊維を1つにまとめて糸62(合計繊度は420dtex)とした後、丸編機63によって丸編して中空状編紐64を編成し、前記中空状編紐64を195℃の加熱ダイス66に通し、熱処理された中空状編紐64を補強支持体Xとして巻き取り速度100m/hrで巻き取り装置68に巻き取った。ボビン61のポリエステル繊維がなくなるまで補強支持体Xの製造を続けた。
得られた補強支持体Xの外径は約2.1mmであり、内径は1.3mmであった。補強支持体Xを構成する中空状編紐64は、図9及び図10に示すように、糸62を湾曲させたループ62a(図10中の黒い部分)を螺旋状に連続して形成し、これらループ62aを上下につなげたものであり、図10に示すように、ループ62a内及びループ62a同士の接続部に網目64aを有する。ループ62aの数は、1周あたり12個、網目64aの最大開口幅Lは約0.05mmであった。補強支持体Xの長さは12000mであった。
【0048】
製膜原液の調製工程:
膜形成性樹脂(疎水性ポリマー)としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(アルケマ製、商品名カイナー301F)、及び開孔剤(親水性ポリマー)としてポリビニルピロリドン(PVP)(日本触媒製、商品名PVP−K79)を、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)中に投入して混錬溶解することにより、PVDFが20質量%、PVPが10質量%、DMAcが70質量%の質量比からなる第1の製膜原液を調製した。
また、第1のPVDF(アルケマ製、商品名カイナー301F)と第2のPVDF(アルケマ製、商品名カイナー9000HD)とを質量比1.1:1で混合したPVDFと、PVP(日本触媒製、商品名PVP−K79)とを、DMAc中に投入して混錬溶解することにより、PVDFが39質量%、PVPが19質量%、DMAcが42質量%の質量比からなる第2の製膜原液を調製した。
【0049】
紡糸凝固工程:
ついで、図11に示す多孔質中空糸膜製造装置70を用いて中空状多孔質膜Mを製造した。多孔質中空糸膜製造装置70は、巻き出し装置(図示略)から連続的に供給される補強支持体Xに連続的に製膜原液を塗布する紡糸ノズル1と、紡糸ノズル1に製膜原液を供給する原液供給装置71と、補強支持体Xに塗布された製膜原液を凝固させる凝固液が収容された凝固浴槽72と、製膜原液が塗布された補強支持体Xを凝固浴槽72に連続的に導入するガイドロール73と、を具備する。
30℃に保温した紡糸ノズル1の支持体通路14に補強支持体X、原液流路15に第1の製膜原液、原液流路16に第2の製膜原液をそれぞれ供給し、補強支持体Xの外周面に第1の製膜原液を塗布し、さらにその外側に第2の製膜原液を塗布した。この紡糸では、補強支持体Xの紡糸開始時の走行速度Vaは、定常状態における補強支持体Xの走行速度Vbの1/2(すなわちVa/Vb=0.5)となるように決定した。また、紡糸開始時における紡糸ノズル1への製膜原液の供給量(第1の製膜原液と第2の製膜原液の供給量の合計)の設定値Waが、定常状態において紡糸ノズル1に供給する製膜原液の供給量(第1の製膜原液と第2の製膜原液の供給量の合計)の設定値Wbの2倍(Wa/Wb=2.0)となるように、紡糸初期(約1分)において製膜原液の供給量の設定値の調整を定常状態になるまで順次行った。
ついで、第1の製膜原液及び第2の製膜原液が塗布された補強支持体Xを、80℃に保温した8質量%のDMAc水溶液が収容された凝固浴槽72内に通し、製膜原液を凝固させて多孔質中空糸膜前駆体Mを形成し、ガイドロール73にて方向転換して凝固浴槽72から引き上げた。
得られた多孔質中空糸膜前駆体について、形成されたコブ状部分の数を計測したところ1錘につき2個であった。
【0050】
[比較例1]
紡糸開始時の製膜原液の供給量の設定値Waを、定常状態における製膜原液の供給量の設定値Wbと同じ(Wa/Wb=1.0)にし、紡糸ノズル1への製膜原液の供給量を紡糸当初よりそのまま変化させなかった以外は、実施例1と同様にして多孔質中空糸膜前駆体を得た。
得られた多孔質中空糸膜前駆体について、形成されたコブ状部分の数を計測したところ1錘につき100個であった。
【符号の説明】
【0051】
1 紡糸ノズル
11 第1のノズル
12 第2のノズル
13 第3のノズル
14 支持体通路
15 原液流路
16 原液流路
18 第1の貯液部
19 第1の賦形部
21 第2の貯液部
22 第2の賦形部
31、32 多孔エレメント
X 補強支持体
Y 製膜原液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状の補強支持体の外側に多孔質膜層が形成された多孔質中空糸膜の製造方法であって、
紡糸ノズルによる紡糸によって、前記多孔質膜層を形成する製膜原液を前記補強支持体の外側に付与し、該製膜原液を凝固液で凝固させる紡糸凝固工程を有し、
紡糸開始時に前記紡糸ノズルに供給する前記製膜原液の供給量の設定値Waを、定常状態における設定値Wbよりも多くして紡糸を開始した後、前記製膜原液の供給量を前記設定値Wbにする、多孔質中空糸膜の製造方法。
【請求項2】
前記設定値Waと設定値Wbの比Wa/Wbを1.2〜3.0とする請求項1に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−619(P2013−619A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131361(P2011−131361)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】