説明

多孔質合成樹脂製造方法

【課題】合成樹脂の成形過程で水溶性の粒状物を混入し、硬化後溶かし出すことで、多孔質合成樹脂とする場合において、界面活性剤等の不純物を混入することなく、厚みのある多孔質合成樹脂を得られるようにすることを課題とする。
【解決手段】モノマー又は又はプレポリマーと、これらの重合反応を開始させる反応開始剤と、水溶性の粒状物とを混合した混合液を硬化して得られた合成樹脂を水に晒すことで前記粒状物を溶かし出して多孔質の合成樹脂を得る多孔質合成樹脂製造方法において、前記混合液に、前記結晶体が溶解してしまわない程度の水を混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成樹脂を硬化させる前に水溶性の粒状物を混入し、硬化後粒状物を溶かしだすことで多孔質合成樹脂体を得る製造方法、当該製造方法で得られた多孔質合成樹脂及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質合成樹脂の製造方法のひとつとして、合成樹脂を硬化させる前に合成樹脂に水溶性の粒状物を混入させておき、合成樹脂が硬化した後に、粒状物を水で溶かし出すことで空隙を作り、合成樹脂を多孔質とする方法がある。この方法は、空隙の大きさや空隙部分の密度を調節しやすいという利点がある。
しかし、単に水溶性の粒状物を合成樹脂に混入した場合、合成樹脂の内部に混入した粒状物を水で溶かし出すことは容易ではなく、通常はシート体しか製造することができない。これに対して、下記特許文献には、粒状物に加えて界面活性剤又は多価アルコールを混入することで、粒状物の溶出を容易にし、シート体でない厚みのあるの多孔質合成樹脂体を得る方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭52-32971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、多孔質合成樹脂は、水槽などの浄化に用いる吸着材や、植物の栽培床、土壌改良材に利用することができる。しかしながら、多孔質合成樹脂の製造過程で、界面活性材や多価アルコールを含有させると、これらを水で完全には溶出させることが困難であり、界面活性剤や多価アルコールが生物に影響を与える恐れが生じる。
本発明は、このような問題に鑑みて、合成樹脂の成形過程で水溶性の粒状物を混入し、硬化後溶かし出すことで、多孔質合成樹脂とする場合において、界面活性剤等の不純物を混入することなく、厚みのある多孔質合成樹脂を得られるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は次のような構成を有する。
請求項1に記載の発明は、モノマー又は又はプレポリマーと、これらの重合反応を開始させる反応開始剤と、水溶性の粒状物とを混合した混合液を硬化して得られた合成樹脂を水に晒すことで前記粒状物を溶かし出して多孔質の合成樹脂を得る多孔質合成樹脂製造方法において、前記混合液に、前記結晶体が溶解してしまわない程度の水を混合することを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、前記多孔質合成樹脂製造方法において、前記混合液はモノマーとしてメタクリル酸メチルを含有し、前記粒状物として塩化ナトリウム結晶を含有するものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の多孔質合成樹脂製造方法において、前記混合液は、メタクリル酸メチルに対し塩化ナトリウム結晶を質量比で3〜4倍の割合で混合したものである。
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の多孔質合成樹脂製造方法において、前記混合液は、塩化ナトリウム結晶に対して水を質量比で0.03〜0.05倍の割合で混合したものである。
請求項5に記載の発明は、前記多孔質合成樹脂製造方法により得られた多孔質合成樹脂である。
請求項6に記載の発明は、前記多孔質合成樹脂を用いた吸着材である。
請求項7に記載の発明は、前記多孔質合成樹脂を用いた土壌改良材である。
請求項8に記載の発明は、前記多孔質合成樹脂を用いた植物培地である。
請求項9に記載の発明は、前記多孔質合成樹脂を用いた建築用内外装材である。
請求項10に記載の発明は、前記多孔質合成樹脂を用いた建築用断熱材である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の発明は、水溶性の粒状物を溶かし出しやすくするために、硬化前の
混合液に少量の水を加えるものであるので、得られる多孔質合成樹脂に前記粒状物以外の不純物を含有しないようにすることができる。
請求項2に記載の発明は、塩化ナトリウムを用いることで、安価かつ安全に、多孔質の
アクリル材を得ることができる。
請求項3に記載の発明は、多孔質合成樹脂の形状を保持しながら、ほとんどの塩化ナトリウムを溶出することができる。また、この範囲より塩化ナトリウムが多いと、多孔質合成樹脂の形状を保持することが困難であり、この範囲より塩化ナトリウムが少ないと、塩化ナトリウムの溶出が困難になる。
請求項4に記載の発明は、混合液中における塩化ナトリウム結晶の形状を保持しながら、塩化ナトリウム結晶の溶出時においては、塩化ナトリウム結晶を含有した厚みのある合成樹脂から中心部分に存在する塩化ナトリウムまでを溶出することができる。また、この範囲より水が少ないと塩化ナトリウムの溶出が困難になり、この範囲より水が多いと、塩化ナトリウムの多くが水に溶け、ほとんど孔が形成されなくなる。
請求項5に記載の発明は、製造過程で界面活性剤などを入れないので、不純物を少なくでき、また、厚みがあっても内部の粒状物が溶出するので、立体的な形状にすることができる。
請求項6に記載の発明は、不純物が少ないので、特に水の浄化に用いる場合に、不要な物質を溶出することがない。
請求項7に記載の発明は、不純物が少ないので、土壌を不要な物質で汚染する恐れが少ない。
請求項8に記載の発明は、不純物が少ないので、植物に不要な物質を与えることがほとんどない。
請求項9に記載の発明は、建築用の内外装材として用いた場合、不要な物質が少ないのでより安全なものとすることができる。
請求項10に記載の発明は、建築用の断熱材として用いた場合、やはり、不要な物質が少ないのでより安全なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施形態に係る多孔質合成樹脂体の顕微鏡写真である。
【図2】本実施形態に係る多孔質合成樹脂体による板厚5mmの場合の吸着能力試験結果を示す図である。
【図3】本実施形態に係る多孔質合成樹脂体による板厚8mmの場合の吸着能力試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。
まず、多孔質合成樹脂の材料となる高分子材料は塊状重合により合成樹脂の固体を形成する非水溶性のものであれば、種々のものを採用でき、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル類等などを用いることができる。
水溶性の粒状物としては、水溶性で一定の大きさを保持できるものであれば足り、塩化ナトリウム結晶、炭酸カルシウム結晶、酸化マグネシウム結晶などが例示される。また、これらの混合物を用いることも可能である。粒状物は、高分子材料のモノマー又はプレポリマーに対して質量比3〜4倍添加することが望ましい。
粒状物の溶出を促進するためにモノマー又はプレポリマーに加える水は、粒状物が溶けてしまわない程度の量を加えることが必要であり、例えば塩化ナトリウムの場合は質量比で、0.03〜0.05倍とすることが望ましい。
【0009】
(実施例)
以下、本実施例に係る多孔質合成樹脂の製造方法を用いてアクリル樹脂の多孔質体を得る方法について説明する。
(1)モノマーとしてメタクリル酸メチル300g、水30g、重合反応開始剤としてV-70(和光純薬(株)製)1gを容器に入れ均等になるよう攪拌し混合した。
(2)さらに水溶性の粒状物として塩化ナトリウム1000gを加え攪拌し混合し混合液を得た。加えた塩化ナトリウムの平均径は約530μm(80%以上が355〜710μmの範囲)である。
(3)次に、得られた混合液を型に流し込んで約5時間放置し硬化させた。これにより、約80%がポリマーとなり硬化した。
型として、ポリプロピレンの容器(内寸230×240×12mm)、ステンレスの容器(内寸220×220×12)、2枚の強化ガラス(内寸300×300×5mm)の間にスペーサー(形成したい厚みに合わせて変える)を入れたもの、市販の500mlのペットボトルを用いた。型は混合液注入後、上面に蓋をして密閉した。
(4)次に、上記型を100℃の湯に約2時間入れて硬化を促進し、完全に硬化させた。
(5)次に、硬化した合成樹脂体を型から取り出し、水に約3時間つけることで、塩化ナトリウムを溶出させ、多孔質合成樹脂体を得た。
【0010】
このようにして得られた多孔質合成樹脂体の顕微鏡写真を図1に示す。孔の平均径は、0.62mm、最大径は0.8mmであった。
多孔質合成体は型の形状によらず、内部まで孔が形成されており、厚みのある多孔質体でも形成することが可能であることがわかる。
【0011】
(吸着材としての使用)
上記の方法で得られた、多孔質合成樹脂体を吸着材として用い、吸着能力の試験を行った。以下に結果を示す。
(1)多孔質合成樹脂として、100mm×100mmの大きさで、厚さ5mmと8mmの2種類の板状体について試験を行った。
(2)吸着対象として5ppm、10ppmの硝酸塩を用いた。
試験結果を以下の表1、表2、及び図2、図3に示す。
【表1】


【表2】


4日目以降は、吸着量は増えず飽和した。また、濃度が高い場合は薄い多孔質合成樹脂体の方が吸着量が多く、濃度が低い場合は厚い多孔質合成樹脂体の方が吸着量が多いという結果となった。
水槽に入れる一般的なろ材は、硝酸塩をほとんど吸着せず、吸着する場合でも高濃度でなければ吸着をしない。これに比較し、本実施例に係る多孔質合成樹脂体では、低濃度でも硝酸塩を吸着することがわかる。また、水槽に利用する場合、細孔内に硝酸塩を分解するバクテリアが発生し、このバクテリアが吸着した硝酸塩を分解していくので、実際に水槽で利用する場合には多孔質合成樹脂体に吸着する硝酸塩は飽和に達することはないと考えられる。
【0012】
以上のように、本願発明に係る多孔質合成樹脂体は、吸着材として用いることが可能である。このほか、多孔質であることを利用して、乾燥した土地における土壌改良材として用いたり、壁面などに植物を取り付けるための植物培地として用いたりすることができる。
また、建築資材して、タイルやブロックの代わりに内外装部材として用いたり、壁面内や床下などに断熱材として用いたりすることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー又は又はプレポリマーと、これらの重合反応を開始させる反応開始剤と、水溶性の粒状物とを混合した混合液を硬化して得られた合成樹脂を水に晒すことで前記粒状物を溶かし出して多孔質の合成樹脂を得る多孔質合成樹脂製造方法において、
前記混合液に、前記結晶体が溶解してしまわない程度の水を混合することを特徴とする多孔質合成樹脂製造方法。
【請求項2】
前記混合液はモノマーとしてメタクリル酸メチルを含有し、前記粒状物として塩化ナトリウム結晶を含有する請求項1に記載の多孔質合成樹脂製造方法。
【請求項3】
前記混合液は、メタクリル酸メチルに対し塩化ナトリウム結晶を質量比で3〜4倍の割合で混合したものである請求項2に記載の多孔質合成樹脂製造方法。
【請求項4】
前記混合液は、塩化ナトリウム結晶に対し水を質量比で0.03〜0.05倍の割合で混合したものである請求項2又は3に記載の多孔質合成樹脂製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の多孔質合成樹脂製造方法により得られた多孔質合成樹脂。
【請求項6】
請求項5に記載の多孔質合成樹脂を用いた吸着材。
【請求項7】
請求項5に記載の多孔質合成樹脂を用いた土壌改良材。
【請求項8】
請求項5に記載の多孔質合成樹脂を用いた植物培地。
【請求項9】
請求項5に記載の多孔質合成樹脂を用いた建築用内外装材。
【請求項10】
請求項5に記載の多孔質合成樹脂を用いた建築用断熱材。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−84591(P2011−84591A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235939(P2009−235939)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(509283362)
【Fターム(参考)】