説明

多孔質成形体用収縮性繊維

【課題】多孔質成形体、特に、多孔質焼成体を製造するに当たり、焼成体の成形性および生産性を低下させることなく、適度なサイズの気孔を効率よく発現させることができる、焼成体素地への添加材を提供する。
【解決手段】多孔質成形体、特に、多孔質焼成体の素地に分散させるための繊維であって、繊維径が10〜40μmであり、繊維長が1〜20mmであり、80℃、5minの熱処理による乾熱収縮率が8%以上である、熱可塑性樹脂からなる収縮性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質成形体を得るために好適に用いられる収縮性繊維に関する。さらに詳しくは、特に、多孔質焼成体用の焼成体素地に分散させるための繊維に関し、焼成体素地への繊維の添加による成形性の低下が少なく、かつ、適度な熱収縮特性を有していることから、焼成前の乾燥工程、および焼成工程での孔形成性に優れる収縮性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器やセラミック、耐火物などの焼成体は、日用品用途や工業資材用途など、広範に用いられている。昨今、日用品用途では持ち運び性や操作性を向上させるために、また、工業資材用途では、焼成体の大型化に伴う質量増加を抑制するために、焼成体の更なる軽量化が求められている。
【0003】
従来から焼成体の多孔化に関する技術は数多く見られ、例えば特許文献1には球状中空の樹脂粉末を陶器素地に添加し、これを焼失させることで気孔を有する陶器が得られることが記載されている。また、特許文献2には有機質繊維を耐火物原料に含有させ、これを焼成によって焼き飛ばして多孔質の耐火物を得ることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−130073号公報
【特許文献2】特開昭61−10079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、焼成体の素地に焼失しうる成分を添加することで、多孔性の焼成体を得ようとする検討が実施されているが、大きなサイズの気孔を得ようとして、大きなサイズの添加材を用いると、流動性が低下して成形が困難になったり、また、なるべく成形性が低下しないように、添加材の大きさを制限すると、満足できる多孔を形成できなかったりして、未だ満足できる結果は得られていない。
よって、本発明の目的は、多孔質成形体、特に、多孔質焼成体を製造するに当たり、焼成体の成形性および生産性を低下させることなく、適度なサイズの気孔を効率よく発現させることができる、焼成体素地への添加材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、熱収縮特性を有する繊維が、多孔質成形体、特に、焼成体素地の添加材として適しており、この収縮性繊維含有焼成体素地は成形性に優れ、かつこれを焼成した際には、加熱による収縮性繊維の収縮力が焼成体素地にも作用し、焼成体素地を巻き込むように変形して、焼成体素地に気孔を形成するので、焼成過程における水分の蒸発がスムーズに進行するようになり、ひび割れなどがない、外観の優れた多孔質焼成体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は以下の構成を有する。
(1)多孔質成形体の素地に分散させるための繊維であって、繊維径が10〜40μmであり、繊維長が1〜20mmであり、80℃、5minの熱処理による乾熱収縮率が8%以上である、熱可塑性樹脂からなる収縮性繊維。
(2)500℃で加熱した際の重量残存率が10%以下である前記(1)に記載の収縮性繊維。
(3)熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも高融点の熱可塑性樹脂からなる第2成分を複合した複合繊維であって、該複合繊維を500℃で加熱した際の重量残存率が10%以下である前記(1)に記載の収縮性繊維。
(4)第1成分が2種類以上の熱可塑性樹脂の混合物からなり、少なくとも1種類以上の熱可塑性樹脂の融点が100℃以下である前記(3)記載の収縮性繊維。
(5)繊維断面において、複合成分の重心がお互いに異なる前記(3)または(4)に記載の収縮性繊維。
(6)繊維集合体の水分率が5〜50%である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の収縮性繊維。
(7)繊維の公定水分率が2%以下である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の収縮性繊維。
【発明の効果】
【0008】
本発明による収縮性繊維は、多孔質成形体、特に多孔質焼成体を得るために焼成体素地に分散するに当たり、焼成体素地原料との混練性に優れており、かつ焼成体素地の成形性も損なわない。そして、本発明による収縮性繊維は、成形体素地、特に焼成体素地が可塑性を呈する低温域での収縮性に優れているので、繊維の収縮力が焼成体素地に作用し、繊維周辺の素地を巻き込むように変形して、適度なサイズの気孔を効率よく形成させることができる。こうして形成された気孔は、成形体素地、特に焼成体素地からの水分の蒸発をスムーズに進行させる効果をも発揮し、焼成過程でのひび割れ発生を抑制し、乾燥もしくは素焼き、焼成工程での生産性をも向上させる。また、こうして得られた成形体、特に焼成体は、多孔質であり、軽量で断熱性に優れるなどの特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の収縮性繊維は、当該収縮性繊維を分散する段階では可塑性を有し、乾燥または加熱することによって硬化するような成形体素地に好適に用いられる。
以下、本発明につき、その「成形体」または「成形体素地」が、特に、「焼成体」または「焼成体素地」である場合を例に用いて、詳細に説明するが、本発明は当該形態に限定されるものではない。
本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維は、繊維径が10〜40μmであり、好ましくは20〜30μmの範囲である。例えば、多孔質焼成体を得るためには、まずは焼成体素地となる組成物を調合し、これに水分等を添加して流動性を付与して素地とし、任意の形状に成形するが、素地に添加する収縮性繊維の繊維径が40μm以下である場合には、成形体の表面に繊維が突き出して、外観を悪化させることがないので好ましい。また、収縮性繊維の繊維径が10μm以上の場合には、繊維同士が絡まって素地原料と均一に混ざりにくくなったり、素地の流動性を低下させて成形性を悪化させたりするといった問題が生じないので好ましい。収縮性繊維の繊維径が20〜30μmの範囲である場合には、素地を任意の形状に成形する際の成形性および生産性に優れ、かつ、外観を悪化させることがないので、より好ましい。
【0010】
本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維は、繊維長が1〜20mmであり、より好ましくは3〜10mmの範囲である。繊維長が1mm以上である場合には、該収縮性繊維を収縮させた際の収縮長さ(繊維長×収縮率(%)÷100)が十分に大きくなり、繊維の周囲の成形体素地を巻き込むように変形して、サイズの大きい気孔を形成するので好ましい。また、繊維長が20mm以下の場合には、素地原料との均一な混和性が得られ、また十分な成形性が得られる素地流動性となるので好ましい。繊維長が3〜10mmの範囲である場合には、繊維の収縮による気孔形成性と、成形体を得る際の操業性および生産性のバランスに優れるので、より好ましい。
【0011】
本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維は、80℃、5minの熱処理による乾熱収縮率が8%以上であり、より好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上である。収縮性繊維の熱収縮によって成形体素地に気孔を形成させるためには、100℃以下の低温域で大きな収縮率を示すことが重要になる。水分を含み、小さな力で変形しうる状態の成形体素地は、任意の形状に成形された後に、乾燥もしくは素焼きの工程において、最終焼成温度よりも低温で熱処理される。この熱処理工程において、成形体素地は水分を失って流動性が低下する。つまり、成形体素地に含まれる水分の多くが蒸発する前、すなわち十分な可塑性を有している状態で、繊維が熱収縮することによって、繊維の収縮力が成形体素地に作用し、周囲の成形体素地を巻き込むように繊維が収縮するので、大きなサイズの気孔を形成するのである。80℃における乾熱収縮率が8%以上であるような収縮性繊維であれば、成形体素地の加熱を伴う乾燥の過程において、繊維の収縮力によって適度なサイズの気孔を形成し、多孔質成形体を得るという本発明の効果が得られるので好ましい。80℃における乾熱収縮率が10%以上、より好ましくは15%以上であれば、より大きなサイズの気孔を効率よく形成するので、更に好ましい。本発明の収縮性繊維の乾熱収縮率は、大きければ大きいほど効果があるため、上限は限定されるものではない。
なお、本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維の乾熱収縮率は、1〜20mmの繊維長に切断された後に測定してもよく、切断前の連続トウを任意の長さに切断して測定してもよい。前記の2つの方法で測定した乾熱収縮率は、誤差範囲内で同等である。
【0012】
本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維を構成する熱可塑性樹脂の融点は、特に制限されるものではないが、低融点である方が収縮率を高めることができるので、165℃以下である事が好ましく、より好ましくは130℃以下、更に好ましくは125℃以下である。このような融点範囲の熱可塑性樹脂としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリレート共重合体などのエチレン系共重合体、ポリ-アルファ-オレフィン、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体などのエラストマー樹脂、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-プロピレン共重合体などのプロピレン系共重合体が例示できる。中でも、繊維形成性や樹脂コストを考慮すると、エチレン-酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン系共重合体、エチレン-ブテン-プロピレン系共重合体、ポリプロピレンなどが好適に用いられる。更には、これらの熱可塑性樹脂は単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよく、求める生産性や繊維収縮特性に応じて、適宜選択することができる。
【0013】
本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維を構成する熱可塑性樹脂には、本発明の効果を妨げない範囲内で、必要に応じて種々の性能を発揮させるための添加剤、例えば酸化防止剤や光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、滑剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤などを適宜添加してもよい。
【0014】
本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維は、1成分の熱可塑性樹脂からなる単成分繊維であってもよく、2成分以上の熱可塑性樹脂を複合した多成分繊維であってもよいが、繊維の熱収縮性を高めるため、および高収縮性繊維を高い生産性で得るためには、熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも低融点の熱可塑性樹脂からなる第2成分を複合した複合繊維であることが望ましい。高収縮性繊維を得るためには、低融点の熱可塑性樹脂を繊維化することが有効であるが、低融点の熱可塑性樹脂は一般的に結晶化速度が遅く、紡糸時に断糸が多発する傾向にあり、操業性の低下、生産性の低下を招く。また、低融点の熱可塑性樹脂からなる繊維は、樹脂強度が低いがゆえに、繊維の剛直性に劣り、素地に収縮性繊維を添加して混練する際に、繊維同士の絡まりを生じやすくなる問題もある。これらの問題を解決するためには、熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも高融点の熱可塑性樹脂からなる第2成分を複合した複合繊維とすることが好ましい。複合繊維の第2成分の融点は特に制限されるものではないが、十分な紡糸性を維持し、繊維に適度な剛直性を付与するためには、第1成分の融点よりも高温で、120〜180℃の範囲であることが好ましく、更に好ましくは155〜165℃の範囲である。また、複合繊維の第1成分の融点は特に制限されるものではないが、第1成分の融点よりも低温で、60〜130℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは70〜110℃の範囲である。第1成分の融点が130℃以下であれば、複合繊維の低温域での収縮性を高めることができ、第1成分の融点が60℃以上であれば、低融点樹脂のベタツキによる操業性の低下を抑制することができる。第1成分の融点が70〜110℃の範囲であれば、低温域での収縮性と操業性のバランスに優れるので、より好ましい。第1成分と第2成分の熱可塑性樹脂の組み合わせは、特に限定されるものではなく、求める収縮特性と紡糸性、操業性、繊維の剛直性などのバランスを鑑みて適宜選択することができ、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体/ポリプロピレン、エチレン-メタクリル酸共重合体/ポリプロピレン、プロピレン系共重合体/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/プロピレン系共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体/プロピレン系共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体/プロピレン系共重合体などの組み合わせが例示できる。
【0015】
本発明の収縮性繊維が、熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも高融点の熱可塑性樹脂からなる第2成分を複合した複合繊維である場合、特に制限されるわけではないが、第1成分は2種類以上の熱可塑性樹脂の混合物であり、少なくとも1種類以上の熱可塑性樹脂の融点が100℃以下であることが望ましい。熱可塑性樹脂からなる繊維は、その樹脂融点付近の温度で大きく熱収縮することが知られている。更には、本発明の収縮性繊維は、例えば、焼成体素地に含まれる水分の多くが蒸発する前、すなわち焼成体素地が十分な可塑性を有している状態の、100℃以下の低温域で大きく収縮し、その収縮力を繊維周辺の焼成体素地に及ぼして、気孔を形成させることが重要である。かかる観点からは、本発明の収縮性繊維は、融点が100℃以下の熱可塑性樹脂を含み、低温で収縮しやすいことが望ましい。第1成分が100℃以下の融点の熱可塑性樹脂のみで構成されていても何ら問題ないが、融点が100〜130℃、より好ましくは100〜110℃の範囲の熱可塑性樹脂と、融点が60〜100℃、より好ましくは70〜90℃の範囲の熱可塑性樹脂との混合物である場合には、低融点樹脂のベタツキに由来する製糸工程での操業性、生産性低下を招かなくなるので望ましい。この場合、第1成分における、融点が100℃以下の熱可塑性樹脂の構成比率は特に制限されるものではないが、10〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜40質量%の範囲である。融点が100℃以下の熱可塑性樹脂の構成比率が10質量%以上であれば、収縮性繊維の収縮率を高めるという効果が十分に得られ、また構成比率が60%以下であれば、繊維表面が過度にベタツクことがなくなり、満足できる操業性、生産性となる。構成比率が20〜40質量%の範囲である場合には、繊維の収縮特性と生産性のバランスに優れるので、特に好適である。
【0016】
本発明の収縮性繊維が、熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも高融点の熱可塑性樹脂からなる第2成分を複合した複合繊維である場合、その複合形態は特に制限されるものではなく、同心鞘芯、偏心鞘芯、並列、分割型、海島型などのあらゆる断面構造にすることができるが、繊維の熱収縮性を高めるためには、これらの中でも、繊維断面において複合成分の重心がお互いに異なる複合形態であることが好ましく、偏心鞘芯や並列の複合形態などが例示できる。繊維断面において複合成分の重心がお互いに異なる複合形態である場合には、それぞれの複合成分間の熱収縮率差に起因して、スパイラル形状やΩ型などの立体捲縮を生じる。このことは、繊維実長の収縮以外に繊維見かけ長の収縮をも生じることを意味し、繊維の立体的な形状変化は繊維の周囲の焼成体素地に作用し、周囲の焼成体素地を巻き込むように繊維が収縮するので、気孔サイズが大きくなり、また効率的に気孔を形成することに繋がるので好ましい。
【0017】
本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維が、熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも高融点の熱可塑性樹脂からなる第2成分を複合した複合繊維である場合、その第1成分/第2成分の複合面積比は特に制限されるものではないが、70/30〜40/60の範囲であることが好ましく、より好ましくは65/35〜55/45の範囲である。第2成分の比率が30%以上であれば、紡糸時の糸切れ回数が少なくなり、高い生産性が得られる。また、第1成分の比率が40%以上であれば、複合繊維の収縮率が大きくなり、適度なサイズの気孔を効率よく形成することができる。複合繊維の複合面積比が65/35〜55/45の範囲である場合には、繊維の生産性と収縮率のバランスに優れるので、更に好ましい。
【0018】
本発明の収縮性繊維の繊維断面形状は特に限定されるものではなく、円及び楕円などの丸型、三角及び四角などの角型、鍵型及び八葉型などの異型、または中空型などのいずれをも用いることができる。
【0019】
本発明の収縮性繊維を添加した成形体素地、例えば焼成体素地は、任意の形状に成形され、比較的低温の乾燥もしくは素焼き工程を経た後に、更に高温で焼成される。本発明の収縮性繊維は、乾燥もしくは素焼き工程における昇温過程において熱収縮し、繊維周辺の焼成体素地を巻き込むように変形して気孔を発現させる。気孔を形成した後は、繊維は特に必要なく、むしろ高温での焼成工程において焼失することが望ましい。かかる観点からは、特に制限されるわけではないが、本発明の収縮性繊維を500℃で加熱した際の重量残存率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下である。重量残存率が10%以下である場合には、繊維の炭化物が最終製品に残り、異臭が発生したり、外観を損なったりするといった問題がなくなる。重量残存率が5%以下である場合には、より高いレベルでこれらの問題を解消できるので望ましい。このような重量残存率を達成するためには、燃焼時に炭化しにくく、熱分解しやすい熱可塑性樹脂が望ましい。このような熱可塑性樹脂としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリレート共重合体などのエチレン系共重合体、ポリ-アルファ-オレフィン、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体などのエラストマー樹脂、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン系共重合体、エチレン-ブテン-プロピレン系共重合体などのオレフィン系重合体が例示できる。
【0020】
本発明の収縮性繊維は、成形体素地、例えば焼成体素地となる組成物に添加された後に均一に混練される。収縮性繊維の集合体は、乾燥状態であるよりは、分散繊維処理剤などを付着させて濡れた状態である方が、繊維1本1本が分散して混練性が向上するので望ましい。よって、繊維集合体の水分率は、特に制限されるものではないが、繊維に付着させる分散繊維処理剤の量を調整して、5〜50%、より好ましくは15〜40%の範囲とすることが望ましい。ここで、繊維集合体の水分率とは、繊維自体が含有する水分ではなく、繊維表面や繊維間の空隙で保持している水分の質量分率を意味する。繊維集合体の水分率が5%以上である場合には、焼成体素地に繊維を添加する際に繊維が飛散するといった問題を生じなくなり、更には繊維の開繊性が良好となるので、焼成体素地と均一に混ざり、効率的に均質な多孔質焼成体が得られるようになる。また、繊維集合体の水分率が50%以下である場合には、水分による質量増に伴うハンドリング性、操業性の低下を招くことがなくなる。繊維集合体の水分率が15〜40%の範囲であれば、混練性向上効果とハンドリング性、操業性のバランスに優れるので、より好適である。
【0021】
成形した成形体素地、例えば焼成体素地を乾燥もしくは素焼きする工程において、その温度および昇温速度は重要であり、温度が高すぎたり昇温速度が速すぎたりする場合には、水分が急激に蒸発して多量の水蒸気が発生し、成形した焼成体素地にひび割れや大きな穴ができたりするという問題が生じる。言い換えると、焼成体素地に過剰な水分が含まれていると、温和な条件で乾燥もしくは素焼きを実施しないと製品にひび割れや大きな穴ができることになり、生産性の低下や製品品質の低下を招くことになる。焼成体素地に添加する前の段階の繊維集合体に含まれる水分は、混練工程の操業性向上効果を発揮するのでよく、また、繊維集合体に含まれる水分量を考慮して、焼成体素地に添加する水分量を決定することで、過剰な水分量となることはならない。しかし、繊維自体が含有する水分、すなわち公定水分率で表現される水分は、混練工程の操業性向上に寄与することはなく、乾燥もしくは素焼き工程における水分の蒸発を遅らせ、生産性を低下させるばかりである。かかる観点からは、本発明の収縮性繊維の公定水分率は、特に制限されるわけではないが、2%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下である。公定水分率が2%以下である場合には、乾燥もしくは素焼き工程における設定温度を高くし、または昇温速度を速くして、短時間で工程を終えることができるので、高生産性に繋がる。工程水分率が1%以下である場合には、更に高い生産性が得られるので好ましい。
【0022】
本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維は、通常の溶融紡糸装置を用いて紡糸することができる。紡糸温度や引き取り速度などの紡糸条件は、原料として用いている熱可塑性樹脂の特性や、求める繊維物性に応じて適宜選択可能であるが、紡糸温度は180〜350℃の範囲、引き取り速度は300〜1500m/minの範囲が例示できる。紡糸口金から吐出された繊維状の樹脂をワインダーで引き取る際には、空気、水、グリセリン等の媒体中で冷却することで、紡糸工程が安定化するので好ましい。中でも、空気を用いて冷却する方法が、最も簡略な装置で冷却を実施できるので好適である。
【0023】
原料として用いる熱可塑性樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるわけではないが、230℃におけるMFRが5〜100g/10minであることが好ましく、より好ましくは10〜60g/10min、更に好ましくは15〜40g/10minの範囲である。熱可塑性樹脂のMFRが5g/10min以上である場合には、溶融紡糸に適した樹脂流動性となるので、紡糸口金からの樹脂の吐出が均一になって紡糸工程が安定化する。また、MFRが100g/10min以下である場合には、繊維の引き取り過程で適度な張力が働くので、糸切れ回数が減少して紡糸工程が安定化する。MFRが10〜60g/10minであれば満足しうる安定性が得られ、15〜40g/10minの範囲であれば十分な安定性が得られるので好適である。
【0024】
次に、本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維の延伸方法について説明する。延伸方法についても特に限定されるものではなく、公知のいずれの延伸方法を採用してもよく、金属加熱ロール、金属加熱板を用いた接触加熱による延伸、もしくは温水、沸水、加圧飽和水蒸気、熱風、遠赤外線、マイクロ波、炭酸ガスレーザーを用いた非接触加熱による延伸などを例示できる。中でも、装置の簡便性や操業の容易性、生産性などを考慮すると、金属加熱ロールや温水による延伸が好ましい。
【0025】
延伸倍率は特に制限されるものではないが、低倍率で延伸した方が繊維の収縮率が高くなる傾向があるので、2.5倍以下であることが好ましく、より好ましくは2.0倍以下である。延伸倍率が2.5倍以下である場合には満足しうる収縮性が得られ、2.0倍以下であれば十分な収縮性が得られる。また、延伸温度も特に制限されるものではないが、低温で延伸した方が繊維の収縮率が高くなる傾向があるので、80℃以下であることが好ましく、より好ましくは60℃以下である。延伸温度が80℃以下であれば満足しうる収縮性が得られ、60℃以下であれば十分な収縮性が得られる。なお、延伸温度があまりにも低温である場合には、延伸時に糸切れを生じやすくなるが、本発明の収縮性繊維の延伸倍率は低く設定されるので、延伸糸切れが問題になることはない。
【0026】
延伸速度は特に制限されるものではないが、生産性を考慮すると50m/min以上である事が好ましく、より好ましくは100m/min以上である。本発明の収縮性繊維の延伸倍率は比較的低倍率であるので、延伸速度を高速化しても、延伸糸切れが問題になることはない。また、延伸工程は1段延伸、2段以上の多段延伸のいずれであってもよく、多段延伸を行う場合には、前述の熱ロール延伸や温水延伸などの延伸方法を組み合わせて実施することも可能である。
【0027】
本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維の捲縮の有無は特に制限されないが、ジグザグの機械捲縮やΩ型もしくはスパイラル型の立体捲縮が付与されていない、ストレート繊維である方が好ましい。収縮性繊維が潜在捲縮を有しており、例えば焼成体素地に添加されて成形された後に、これが顕在化して気孔を形成するのは問題ないが、焼成体素地に添加される前の段階で捲縮が顕在化していると、焼成体素地と繊維を混練する工程で繊維同士が絡まりあいを生じてしまう傾向がある。従って、本発明の収縮性繊維は、顕在捲縮を有しないストレート繊維であることが望ましく、ストレート繊維であって、かつ潜在捲縮を有していることがより望ましい。
【0028】
本発明の収縮性繊維には、紡糸および延伸工程を安定化させるために、もしくは製品物性を満たすために、繊維表面に繊維処理剤を付着させることができる。繊維処理剤の種類は特に限定されるものではなく、例えば焼成体素地との相性などを考慮して適宜選択することができる。また、付着量についても特に制限されるものではなく、前述した繊維集合体の水分率を考慮して、繊維処理剤の純分濃度を調整して、所望の付着量にすることができる。付着方法は特に限定されるものではなく、公知の方法、例えばローラー法、浸漬法、噴霧法、パットドライ法などを適宜選択することができる。
【0029】
本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維は、延伸された後にカットされ、前述したように1〜20mmの繊維長となる。延伸された繊維をカットする方法は特に限定されるものではなく、公知の方法、例えばロータリーカット方式やギロチンカット方式などのいずれをも採用する事ができる。
【0030】
本発明の多孔質成形体を得るために用いられる収縮性繊維は、成形体の素地となる原料に添加され、適当な流動性となるように加水しながら混練され、均一に分散される。加水後の成形体素地の含水量は特に制限されるものではなく、使用する素地原料の種類や添加する収縮性繊維の種類、添加量に応じて適宜選択することが可能であり、所望する流動性に調整することができる。例えば、焼成体素地の流動特性も特に制限されるものではなく、例えば機械ろくろや手捻り、圧延成形、押し出し成形といった成形方法の違い、もしくは流し込みや吹付け、スタンプ等の施工方法の違いに応じて適宜選択することが可能である。種々の成形方法、もしくは施工方法に適した焼成体素地の水分率としては、3〜50%の範囲が例示できる。
成形体素地組成物における収縮性繊維の質量分率は特に制限されるものではなく、成形体素地原料の性質や、求める成形体の物性、収縮性繊維の繊維長などに応じて適宜選択可能である。ただ、あまりにも収縮性繊維の比率を高くしすぎると、繊維同士の絡まりを生じたり、繊維の分散不均一を招いたり、成形体素地の成形性が低下したりするので好ましくない。また、収縮性繊維の比率を低くしすぎると、本発明の効果、すなわち成形体素地を乾燥もしくは素焼きする際の加熱によって繊維が収縮し、この収縮力によって気孔を形成し、多孔性焼成体が得られるという効果が得られなくなるので好ましくない。かかる観点からは、成形体素地組成物における収縮性繊維の適当な質量分率としては、乾燥質量で0.05〜10%の範囲が例示できる。更には、成形体素地組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、収縮性繊維以外の気孔形成材を併用して添加しても何ら問題ない。
【0031】
成形体の素地となる原料の種類は特に限定されるものではなく、いかなる原料の組成物を用いてもよく、例えば粘土や有色土などを原料とした陶磁器類、アルミナなどを原料とした耐火物類などの焼成体が例示できる。更には、焼成工程を経ないので焼成体の範疇には入らないが、ポルトランドセメントなどを原料としたセメント成形体であっても、乾燥、養生工程、特に加熱を伴うようなそれらの工程においては更に好ましく、本発明の収縮性繊維を収縮させることができ、本発明の効果が得られた。更に、本発明の収縮性繊維を添加したセメント成形体の場合には、例えば特開2000−143322号公報に記載されているような、セメント成形体の火災による爆裂を防止するという効果をも発揮することが確認できた。火災時の高温で、本発明の収縮性繊維が消失し、セメント成形体の中に気孔を形成して、この気孔が火災で発生した水蒸気を外部に逃がすというメカニズムだと考えられる。本発明の収縮性繊維は、500℃で加熱した際の重量残存率が10%以下と低く、気孔を効率よく形成するので、高耐火性コンクリート成形体を得るために添加する繊維として、好適に用いることができる。
【0032】
本発明の収縮性繊維を成形体素地、例えば焼成体素地に添加した場合、加熱による収縮性繊維の収縮力が焼成体素地にも作用し、焼成体素地を巻き込むように変形して、焼成体素地に気孔を形成するが、収縮力によって焼成体素地に効率よく気孔を形成させるためには、焼成体素地の乾燥収縮率は繊維の収縮率に対して十分に小さいことが好ましく、かかる観点からは、収縮性繊維を添加していない焼成体素地を昇温速度1℃/minで150℃まで昇温し、30min保持した際の乾燥収縮率は10%以下であることが好ましく、より好ましくは7%以下である。焼成体素地の乾燥収縮率が10%以下であれば、本発明の収縮性繊維の収縮によって気孔を形成するのでよく、7%以下であれば、より効率的に気孔を形成するのでなおよい。更に言えば、収縮性繊維と焼成体素地の、熱処理に対する収縮率の差が大きいほど、効率的に気孔を形成する。熱処理条件が異なるので一概には比較できないが、80℃、5minの熱処理による本発明の収縮性繊維の収縮率は、焼成体素地の乾燥収縮率よりも大きいほうがよく、その差(収縮性繊維の収縮率−焼成体素地の乾燥収縮率)は大きいことが好ましい。
【0033】
本発明の収縮性繊維を添加した成形体素地、特に焼成体素地は、任意の形状に成形された後に、乾燥もしくは素焼きを経て、更に高温で焼成されるが、その際の温度条件等は特に制限されるものではなく、用いた焼成体素地原料の性質や、焼成体素地の水分率、求める焼成体の物性に応じて適宜選択可能である。本発明の収縮性繊維は低温域での収縮性に優れている。更には、焼成体素地は、水分を含んでいる状態では可塑性を示すが、水分が蒸発すると可塑性が低下していく。これらの観点からは、焼成体素地の可塑性が十分に高い状態で、本発明の収縮性繊維を収縮させることが、適度なサイズの気孔を効率的に形成させることに繋がるので好ましく、例えば80〜150℃といった比較的低温の領域での熱処理時間を長くすることが有効である。こうして得られた多孔質焼成体は、従来方法で得られた焼成体に比べて軽量でハンドリング性に優れ、また断熱性にも優れているので、例えば湯呑みなどに好適に用いることができる。
【0034】
焼成温度を高く設定し、かつ昇温速度を速くしすぎると、焼成体素地に含まれる水分が急激に蒸発し、これがひび割れや破裂を引き起こすことがあるが、本発明の収縮性繊維を添加した焼成体素地の場合には、収縮性繊維が収縮することによって気孔を形成し、これが水分の蒸発をスムーズに進行させるという効果が得られる。したがって、本発明の収縮性繊維を用いることで、水分の蒸発に起因するひび割れなどの発生による不良品発生を削減し、また、乾燥もしくは素焼きを経て焼成するという工程に要する時間を短縮し、生産性を高めることが可能となる。
【0035】
本発明の収縮性繊維を添加した焼成体素地の最終焼成温度は特に限定されるものではなく、用いた焼成体素地原料の性質や、求める焼成体の物性に応じて適宜選択可能であるが、少なくとも700℃以上、更には1000℃以上であることが好ましい。最終焼成温度が700℃以上であれば、本発明の収縮性繊維が炭化物などとして焼成体に残存し、外観を損なうといった問題が生じなくなる。最終焼成温度が1000℃以上の場合には、焼成体への残存量が更に少なくなるので、より好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
[実施例1〜7及び比較例1〜5]
各種の熱可塑性樹脂を用いて、様々な収縮性繊維を調製し、得られた収縮性繊維を成形体素地へ添加し、成形体を製造した。なお、実施例中に示した物性値の測定方法または定義、及び各例における操作を以下に示す。下記表1に条件、得られた物性値、及び結果を示す。
(1)紡糸性
熱可塑性樹脂を用いて繊維を調製する際の紡糸性を◎、○、△、×の4段階で評価した。
◎・・・6時間連続して紡糸した際の断糸回数が0回である。
○・・・6時間連続して紡糸した際の断糸回数が1〜6回である。
△・・・6時間連続して紡糸した際の断糸回数が7〜12回である。
×・・・6時間連続して紡糸した際の断糸回数が13回以上である。
(2)乾熱収縮率
収縮性繊維を80℃の循環オーブン中で5分間熱処理し、以下の式により算出した。検体数(N=20)とし、平均値を求めた。なお、繊維長が1〜20mmの短い収縮性繊維の場合には、熱処理前後の繊維の像を形VC2400−IMU 3Dデジタルファインスコープ(オムロン(株)製)を用いて取込み、熱処理前後の繊維長を測定した。
乾熱収縮率(%)=(熱処理前繊維長−熱処理後繊維長)÷熱処理前繊維長×100
(3)重量残存率
セイコーインスルメンツ社製の示査熱量同時測定装置(TG/DTA200)を用いて、サンプル質量6〜7mg、昇温速度10℃/minの条件で測定し、500℃における重量残存率を求めた。
【0037】
(4)繊維集合体の水分率
任意の長さにカットされた繊維の集合体を約100g採取し、これを80℃の循環オーブン中で3時間乾燥し、以下の式により算出した。
繊維集合体の水分率(%)=(乾燥前質量−乾燥後質量)/乾燥後質量×100
(5)繊維の公定水分率
JIS−L−1030の数値を採用し、算出した。
(6)熱可塑性樹脂のメルトフローレート(MFR)
試験温度230℃、試験荷重21.18Nで測定した。(JIS−K−7210「表1」の試験条件14)
【0038】
(7)繊維添加成形体素地の調製、及びその混練性と成形性
花崗岩粉末と木節粘度粉末を主体とする陶器焼成体素地原料の乾燥粉末に、繊維を乾燥質量で5質量%添加し、含水率が25%になるように加水しながら混練した後に、機械ろくろによって茶碗を成形した。成形体素地における繊維の分散状況、絡まりの数、均一性、および機械ろくろでの成形性を◎、○、△、×の4段階で評価した。
◎・・・十分に繊維が分散し、繊維絡まりは全くなく、均一性と成形性が特に優れていた。
○・・・満足できるレベルで繊維が分散し、繊維絡まりはほとんどなく、均一性と成形性が優れていた。
△・・・許容しうるレベルで繊維が分散し、繊維絡まりが僅かに存在するが、均一性と成形性は許容しうるレベルであった。
×・・・繊維分散が著しく偏っており、繊維の絡まりが多数存在し、均一性と成形性が劣っていた。
(8)焼成方法、及び焼成体の外観と気孔形成性
成形した茶碗を、電気炉を用いて昇温速度1℃/minで150℃まで昇温して30min保持して乾燥工程とし、その後に1℃/minで昇温して1200℃で焼成した。得られた焼成体の外観を◎、○、△、×の4段階で評価するとともに、煮沸法により吸水させ、アルキメデス法によりかさ比重を測定して、気孔形成性の指標とした。
◎・・・ひび割れや炭化物は全く見られず、均一であり、十分なレベルの外観であった。
○・・・極めて僅かにひび割れ、もしくは炭化物が存在するが、均一であり、満足できるレベルの外観であった。
△・・・小さいひび割れ、もしくは炭化物が存在し、繊維の偏りに起因する不均一性も見られるが、許容できるレベルの外観であった。
×・・・大きいひび割れが存在し、また著しい数の炭化物が存在し、極めて悪い外観であった。
【0039】
[実施例1]
融点が130℃、MFRが16g/10minであるエチレン-ブテン-プロピレン共重合体を溶融紡糸した。6時間の連続紡糸中の断糸回数は0回であり、十分な紡糸性であった。得られた未延伸糸を熱ロール延伸機を用いて30℃、2.4倍で延伸し、繊維径21μmの延伸糸を得た。これの重量残存率は2%、80℃における乾熱収縮率は12%であり、高収縮性を示した。この収縮性繊維を5mmにカットし、水分率26%の繊維集合体を得た。これの焼成体素地との混練性は良好であり、また茶碗への成形性も良好であった。成形した茶碗を前述の方法で焼成したところ、外観が非常に良好な多孔質の焼成体が得られ、かさ比重は1.4であった。下記の比較例1に示すように、収縮性繊維を添加せずに得た焼成体のかさ比重は2.1であったことから、収縮性繊維を添加したことによって多孔化したことが分かる。
【0040】
[比較例1]
繊維を添加せずに焼成体素地のみを混練、成形し、焼成体を得た。混練性と成形性は非常に良好であったが、得られた焼成体にはひび割れが生じており、外観は著しく悪いものであった。前述の焼成条件では焼成体素地に含まれていた水分が急速に蒸発しすぎ、これがひび割れを誘発したと考えられる。乾燥温度を低温にし、昇温速度を遅くすることで、このひび割れは生じなくなったが、これは乾燥、焼成工程の生産性低下を招いた。また、焼成体のかさ比重は2.1であり、手に持つと重たく感じた。
【0041】
[実施例2]
融点が102℃、MFRが23g/10minの低密度ポリエチレンを溶融紡糸した。紡糸時には糸切れが頻発し、6時間の連続紡糸中の断糸回数は8回であったが、許容しうる生産性で未延伸糸を得ることができた。この未延伸糸を、熱ロール延伸機を用いて50℃、2.0倍で延伸し、繊維径34μmの延伸糸を得た。これの重量残存率は4%、80℃における乾熱収縮率は37%であり、高収縮性を示した。この収縮性繊維を15mmにカットし、水分率0%の乾燥状態である繊維集合体を得た。これを焼成体素地に添加しようとしたところ、繊維の飛散が見られた。焼成体素地組成物の混練性は、繊維同士の絡まりが見られるものの許容しうるレベルであり、また茶碗への成形性も可塑性が若干低いものの、成形しうるレベルであった。成形した茶碗を前述の方法で焼成したところ、繊維分散の偏りに起因する不均一性が僅かに見られたが、かさ比重が1.0の非常に多孔質の焼成体が得られた。
【0042】
[実施例3]
融点が102℃、MFRが23g/10minの低密度ポリエチレンを第1成分に配し、融点が160℃、MFRが16g/10minのポリプロピレンを第2成分に配し、これを鞘/芯=第1成分/第2成分=40/60の複合形態で複合して溶融紡糸した。ポリプロピレンを芯成分に配したことで、紡糸性が著しく改善し、断糸回数は0回であり、十分な生産性で未延伸糸を得ることができた。この未延伸糸を、温水延伸機を用いて50℃、1.8倍で延伸し、繊維径25μmの延伸糸を得た。これの重量残存率は3%、80℃における乾熱収縮率は12%であり、高収縮性を示した。この収縮性繊維を5mmにカットし、水分率30%の繊維集合体を得た。これの焼成体素地との混練性は非常に良好であり、成形性も良好であった。成形した茶碗を前述の方法で焼成したところ、均質な多孔質の焼成体が得られ、かさ比重は1.2であった。
【0043】
[実施例4]
融点が102℃、MFRが35g/10minの低密度ポリエチレンを第1成分に配し、融点が160℃、MFRが16g/10minのポリプロピレンを第2成分に配し、これを鞘/芯=第1成分/第2成分=40/60の複合形態で複合して溶融紡糸した。断糸回数は0回であり、十分な生産性で未延伸糸を得ることができた。この未延伸糸を、熱ロール延伸機を用いて60℃、2.2倍で延伸し、繊維径23μmの延伸糸を得た。これの重量残存率は3%、80℃における乾熱収縮率は9%であった。この収縮性繊維を5mmにカットし、水分率30%の繊維集合体を得た。これの焼成体素地との混練性は非常に良好であり、成形性も良好であった。成形した茶碗を前述の方法で焼成したところ、均質な多孔質の焼成体が得られ、かさ比重は1.6であった。
【0044】
[実施例5]
融点が106℃、MFRが42g/10minの低密度ポリエチレンと、融点が83℃、酢酸ビニル含有率が20%、MFRが35g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体を、質量分率で75/25で混合したものを第1成分に配し、融点が160℃、MFRが16g/10minのポリプロピレンを第2成分に配し、これを鞘/芯=第1成分/第2成分=50/50の複合形態で複合して溶融紡糸した。断糸回数は5回であり、紡糸性は満足できるレベルであった。この未延伸糸を、温水延伸機を用いて50℃、1.8倍で延伸し、繊維径25μmの延伸糸を得た。これの重量残存率は4%、80℃における乾熱収縮率は16%であり、高収縮性を示した。この収縮性繊維を5mmにカットし、水分率25%の繊維集合体を得た。これの焼成体素地との混練性は非常に良好であり、成形性も良好であった。成形した茶碗を前述の方法で焼成したところ、均質な多孔質の焼成体が得られ、かさ比重は1.0であった。
【0045】
[実施例6]
融点が102℃、MFRが23g/10minの低密度ポリエチレンを第1成分に配し、融点が130℃、MFRが16g/10minのエチレン-ブテン-プロピレン共重合体を第2成分に配し、これを鞘/芯=第1成分/第2成分=50/50の複合形態で複合して溶融紡糸した。断糸回数は3回であり、紡糸性は満足できるレベルであった。この未延伸糸を、温水延伸機を用いて40℃、1.6倍で延伸し、繊維径38μmの延伸糸を得た。これの重量残存率は2%、80℃における乾熱収縮率は28%であり、高収縮性を示した。この収縮性繊維を3mmにカットし、水分率20%の繊維集合体を得た。これの焼成体素地との混練性は非常に良好であり、成形性もとても良好であった。成形した茶碗を前述の方法で焼成したところ、均質な多孔質の焼成体が得られ、かさ比重は1.0であった。
【0046】
[実施例7]
融点が102℃、MFRが31g/10minの低密度ポリエチレンを第1成分に配し、融点が160℃、MFRが16g/10minのポリプロピレンを第2成分に配し、並列ノズルを用いて、第1成分/第2成分=50/50の複合形態で複合して溶融紡糸した。繊維断面を確認したところ、高フローの第1成分が第2成分を包み込むような形状で、断糸回数は0回であり、紡糸性は十分なレベルであった。この未延伸糸を、温水延伸機を用いて40℃、1.6倍で延伸し、繊維径38μmの延伸糸を得た。これの重量残存率は2%、80℃における乾熱収縮率は28%であり、高収縮性を示した。熱処理時には成分間の収縮率差に起因して、スパイラル状の立体捲縮が発現していた。この収縮性繊維を3mmにカットし、水分率20%の繊維集合体を得た。これの焼成体素地との混練性は非常に良好であり、成形性もとても良好であった。成形した茶碗を前述の方法で焼成したところ、均質な多孔質の焼成体が得られ、かさ比重は0.9であった。収縮性繊維のスパイラル捲縮の発現力によって、気孔のサイズが大きくなったと推測される。
【0047】
[比較例2]
融点が260℃、IV値が0.64のポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸した。紡糸性は十分なレベルであった。この未延伸糸を、熱ロール延伸機を用いて80℃、2.5倍で延伸し、繊維径18μmの延伸糸を得た。これの重量残存率は15%、80℃における乾熱収縮率は3%であり、収縮率は低かった。この繊維を6mmにカットし、水分率28%の繊維集合体を得た。これの焼成体素地との混練性は良好であり、また茶碗への成形性も良好であった。成形した茶碗を前述の方法で焼成したところ、ひび割れが発生しており、また繊維の炭化物が多く見られ、表面外観を損なっていた。焼成体のかさ比重は1.9であり、やはり重たく感じた。
【0048】
[比較例3]
融点が240℃、繊維径が17μm、繊維長が6mmの市販のポリビニルアルコール繊維(ビニロン)を入手した。これの重量残存率は25%、80℃における乾熱収縮率は2%、繊維集合体の水分率は0%でほぼ乾燥状態であった。公定水分率は5%である。これを焼成体素地に添加して混練しようとしたが、繊維が飛散しやすく、操業性が悪かった。また茶碗への成形性も満足しうるレベルではなかった。成形した茶碗を前述の方法で焼成したところ、酢酸臭が発生した。得られた焼成体にはひび割れが発生しており、また繊維の炭化物が多く見られ、表面外観を損なっていた。焼成体のかさ比重は2.0であり、やはり重たく感じた。
【0049】
[比較例4]
融点が160℃、MFRが24g/10minであるポリプロピレンを溶融紡糸した。紡糸性は満足できるレベルであった。得られた未延伸糸は熱ロール延伸機を用いて80℃、4.0倍で延伸し、繊維径25μmの延伸糸を得た。これの重量残存率は2%、80℃における乾熱収縮率は4%であり、収縮率は低かった。この収縮性繊維を1mmにカットし、水分率26%の繊維集合体を得た。繊維長が1mmと短いために、焼成体素地との混練性は良好であり、また茶碗への成形性も良好であった。成形した茶碗を前述の方法で焼成したところ、ひび割れが発生しており、許容しうる外観ではなかった。かさ比重は2.0であり、重たく感じた。
【0050】
[比較例5]
融点が130℃、MFRが26g/10minの高密度ポリエチレンを第1成分に配し、融点が160℃、MFRが16g/10minのポリプロピレンを第2成分に配し、これを鞘/芯=第1成分/第2成分=50/50の複合形態で複合して溶融紡糸した。紡糸性は十分に満足できるレベルであった。この未延伸糸を、温水延伸機を用いて90℃、4.3倍で延伸し、繊維径16μmの延伸糸を得た。これの重量残存率は3%、80℃における乾熱収縮率は5%であり、収縮率は低かった。この収縮性繊維を5mmにカットし、水分率26%の繊維集合体を得た。これの焼成体素地との混練性は良好であり、成形性もまずまず良好であった。成形した茶碗を前述の方法で焼成したところ、ひび割れが生じており、許容しうる外観ではなかった。かさ比重は1.9であり、若干重たく感じた。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質成形体の素地に分散させるための繊維であって、繊維径が10〜40μmであり、繊維長が1〜20mmであり、80℃、5minの熱処理による乾熱収縮率が8%以上である、熱可塑性樹脂からなる収縮性繊維。
【請求項2】
500℃で加熱した際の重量残存率が10%以下である請求項1記載の収縮性繊維。
【請求項3】
熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分よりも高融点の熱可塑性樹脂からなる第2成分を複合した複合繊維であって、該複合繊維を500℃で加熱した際の重量残存率が10%以下である請求項1記載の収縮性繊維。
【請求項4】
第1成分が2種類以上の熱可塑性樹脂の混合物からなり、少なくとも1種類以上の熱可塑性樹脂の融点が100℃以下である請求項3記載の収縮性繊維。
【請求項5】
繊維断面において、複合成分の重心がお互いに異なる請求項3又は4記載の収縮性繊維。
【請求項6】
繊維集合体の水分率が5〜50%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の収縮性繊維。
【請求項7】
繊維の公定水分率が2%以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の収縮性繊維。

【公開番号】特開2009−74226(P2009−74226A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109077(P2008−109077)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】