説明

多孔質樹脂シート及びその製造方法

【課題】 1mm以上の厚膜で誘電率および誘電正接が低く、弾性率の高い多孔質誘電シート、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂を含む単層の多孔質樹脂シートであって、厚みが1.0mm以上であり、1GHzにおける誘電率が2.00以下であり、誘電正接が0.0050以下であり、弾性率が200MPa以上であることを特徴とする多孔質樹脂シートを提供する。また多孔質樹脂シートの製造方法であって、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に非反応性ガスを加圧下で含浸させるガス含浸工程、ガス含浸工程後に圧力を減少させて熱可塑性樹脂組成物を発泡させる発泡工程を含む多孔質樹脂シートの製造方法を提供する。本発明の多孔質樹脂シートは、特に携帯電話用アンテナなどに用いられているパッチアンテナとして賞用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い誘電率および誘電正接を有する多孔質樹脂シートとその製造方法に関する。この多孔質樹脂シートは、回路用基板、帯電話用アンテナなどの高周波回路に使用される低誘電率材料、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、断熱材等の広範囲な基板材料として利用可能である。
【背景技術】
【0002】
携帯電話用アンテナなどの高周波用回路基板として、信号伝送損失を低減するために低誘電材料を使用した回路基板が必要とされており、例えばセラミックスを用いた回路基板が使用されている。
【0003】
セラミックス基板としてはアルミナを原料としたアルミナ基板が使われており、ハンダリフローに対する耐熱性を有しているが、重量が重く、割れやすいといった課題があり、樹脂による代替化が進んでいる。さらに、信号伝送の向上のため高周波領域での使用が望まれるが、その際、伝送損失低減のために低誘電材料を使用した回路基板が必要となる。一般に誘電損失は下式に示されるように誘電率、誘電正接が小さいほど小さくなり、伝送損失低減に効果がある。
Ad=27.3×f/C×tanδ×√ε
Ad:誘電損失
f :周波数(Hz)
ε :誘電率
C :光速度
tanδ:誘電正接
【0004】
また、携帯電話用アンテナなどに用いられているパッチアンテナは、多機能で軽量、小型、低価格で製作が容易であるため、通信や工学的応用において重要なアンテナになってきている。現在では一つのアンテナでいくつかのアプリケーションを使用する多周波共用アンテナが必要となってきており、この多周波共用アンテナは周波数帯の帯域幅を広帯域化することで実現することができるが、パッチアンテナには一般的に周波数特性が狭いといった難点があった。
【0005】
このため、パッチアンテナではアンテナ構成において、無給電放射パッチ素子をマイクロストリップ放射素子の上部に配置結合した構成であったり、給電線に広帯域化整合回路を付加したりする方法が広帯域化する手段として検討されている。また、パッチアンテナに使用される基板材料でも広帯域化が可能であり、その手法としては基板厚さを厚くする方法や低誘電の基板を使用する方法がある。しかしながら基板厚さを厚くした場合、セラミックス基板などの高誘電基板では誘電体損失が大きく、共振の鋭さを表すQ値が高くなるために帯域幅が狭くなるという問題がある。一方、高周波基板として誘電特性の優れるフッ素基板はパッチアンテナの基板材料として有用であるが、材料費が高いうえ、メッキ等の回路加工においても特殊な薬品を使うなど加工性に問題があった。そこで、フッ素基板に替わる低誘電で低損失な基板材料が要望されていた。
【0006】
一方、低誘電性を保持するため、基板フィルムを多孔化することで誘電率を低下させることが知られている。空孔を有するフィルムとしてポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂を用いた多孔質フィルムがあり、低誘電化とシート厚手化を達成しているが、耐熱性が十分でなく、強度も十分でない。また高耐熱ポリマーを用いた多孔フィルムが検討されているが、誘電率は十分に低いものの、シートの厚手化が困難であった(特許文献1、特許文献2参照)。すなわち特許文献1においては、耐熱性ポリマーに二酸化炭素などの非反応性ガスを超臨界状態で含浸させた後、圧力を減少させ、次いで120℃を超える温度で加熱して発泡させる耐熱性ポリマー発泡体の製造方法が開示されているが、含浸時の温度が低いため1mm以上の厚膜化を実現する程度の発泡は達成されていない。また特許文献2においては、湿式凝固法により連続気泡多孔質体を得ることが開示されているが、1mm以上の厚さの多孔質体を得るとの開示はない。
【0007】
さらに薄手のシートを厚手化する方法として、シートと接着剤層を介して積層化することが知られている(特許文献3参照)。これにより多孔フィルム単体の誘電率、誘電正接よりも、積層して厚手化したシートは誘電率、誘電正接が高い値を示す結果になるが、接着剤の誘電率がポリマーの誘電率と大きく異なる場合は、積層時の加圧によって生じる厚みばらつきにより、高周波領域の伝送特性がばらついてしまう問題と、積層化により弾性率が弱く基板加工時に変形しやすいといった欠点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−55464号公報
【特許文献2】特開2004−87638号公報
【特許文献3】特開2000−269616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、厚膜で誘電率および誘電正接が低く、弾性率の高い単層の多孔質誘電シート、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂を含む単層の多孔質樹脂シートであって、厚みが1.0mm以上であり、1GHzにおける誘電率が2.00以下であり、誘電正接が0.0050以下であり、弾性率が200MPa以上であることを特徴とする多孔質樹脂シートを提供する。
【0011】
また本発明の多孔質樹脂シートは、平均気泡径が5.0μm以下であり、空孔率が40%以上となる気泡を有することが好適であり、厚みばらつきが10μm以下であることが好適である。
【0012】
また本発明の多孔質樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂は、ポリイミドまたはポリエーテルイミドから選ばれるいずれか1種であることが好適である。
【0013】
また本発明は、前記多孔質樹脂シートの製造方法であって、
少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に非反応性ガスを加圧下で含浸させるガス含浸工程、ガス含浸工程後に圧力を減少させて熱可塑性樹脂組成物を発泡させる発泡工程を含む多孔質樹脂シートの製造方法を提供する。
【0014】
また本発明の多孔質樹脂シートの製造方法は、前記発泡工程後に、150℃以上の温度で多孔質樹脂シートを加熱する加熱工程を設けることが好適である。
【0015】
また本発明の多孔質樹脂シートの製造方法は、非反応性ガスとして二酸化炭素を用いることが好適である。
【0016】
また本発明の多孔質樹脂シートの製造方法は、非反応性ガスを超臨界状態で含浸させることが好適である。
【0017】
また本発明は、前記多孔質樹脂シートの少なくとも一面に金属箔層を設けた多孔体基板を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の多孔質樹脂シートは、厚膜で誘電率および誘電正接が低く、弾性率の高いという特性を生かし、回路用基板、帯電話用アンテナなどの高周波回路に使用される低誘電率材料、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、断熱材等の広範囲な基板材料として利用可能である。本発明の多孔質樹脂シートは、特に広い帯域幅と高いアンテナ特性を有するパッチアンテナ素子基板材料として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の多孔質樹脂シートをパッチアンテナに適用した場合のシミュレーションを行う解析モデルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の多孔質樹脂シートは、熱可塑性樹脂を含む単層の多孔質樹脂シートであって、厚みが1.0mm以上であり、1GHzにおける誘電率が2.00以下であり、誘電正接が0.0050以下であり、弾性率が200MPa以上であることを特徴とする。
【0021】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、耐熱性を有する熱可塑性樹脂であることが好ましく、特にガラス転移温度が150℃以上の耐熱性を有するものが好適に使用される。このような熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどが挙げられる。熱可塑性樹脂は単独で又は2種以上混合して使用できる。
【0022】
上記のポリマーの中でも、ポリイミド及びポリエーテルイミドが好適に使用される。本発明において熱可塑性樹脂としてポリイミドまたはポリエーテルイミドを用いる理由として、高温時の寸法安定性がよいことが挙げられる。ポリイミドは公知乃至慣用の方法により得ることができる。例えば、ポリイミドは、有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを反応させてポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を合成し、このポリイミド前駆体を脱水閉環することにより得ることができる。
【0023】
上記有機テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等が挙げられる。これらの有機テトラカルボン酸二無水物は単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0024】
上記ジアミノ化合物としては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノ−2,2′−ジメチルビフェニル、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
【0025】
なお本発明において用いられるポリイミドとしては、 有機テトラカルボン酸二無水物として、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミノ化合物としてp−フェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテルを用いることが好ましい。
【0026】
前記ポリイミド前駆体は、略等モルの有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを、通常、有機溶媒中、0〜90℃で1〜24時間程度反応させることにより得られる。前記有機溶媒として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒が挙げられる。
【0027】
ポリイミド前駆体の脱水閉環反応は、例えば、300〜400℃程度に加熱したり、無水酢酸とピリジンの混合物などの脱水環化剤を作用させることにより行われる。一般に、ポリイミドは有機溶媒に不溶であり、成形困難なポリマーである。そのため、ポリイミドからなる多孔質体を製造する場合、前記ミクロ相分離構造を有するポリマー組成物の調製には、ポリマーとして上記のポリイミド前駆体を用いるのが一般である。
【0028】
なお、ポリイミドは、上記方法のほか、有機テトラカルボン酸二無水物とN−シリル化ジアミンとを反応させて得られるポリアミド酸シリルエステルを加熱閉環させる方法などよっても得ることができる。
【0029】
前記ポリエーテルイミドは、前記ジアミノ化合物と、2,2,3,3−テトラカルボキシジフェニレンエーテル二無水物のような芳香族ビスエーテル無水物との脱水閉環反応により得ることができるが、市販品、例えば、ウルテム樹脂(SABIC社製)、スペリオ樹脂(三菱樹脂社製)などを用いてもよい。
【0030】
本発明において、多孔質樹脂シートには、熱可塑性樹脂のほか、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。この添加剤の種類は特に限定されず、通常発泡成形に使用される各種添加剤を用いることができる。
【0031】
例えば、前記添加剤として、気泡核剤、結晶核剤、可塑剤、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、補強材、難燃材、帯電防止剤等が挙げられる。その種類および添加量は特に限定されず、本発明の多孔質樹脂シートの特性を損なわない範囲内で用いることができる。
【0032】
本発明の、厚みが1.0mm以上であり、1GHzにおける誘電率が2.00以下であり、誘電正接が0.0050以下であり、弾性率が200MPa以上であることを特徴とする単層の多孔質樹脂シートを製造するには、前記した熱可塑性樹脂層を用い、これを多孔質化することにより製造することができる。特にその平均気泡径が5.0μm以下であり、空孔率が40%以上となる気泡を有する多孔質樹脂シートとすることで、絶縁性や機械強度を低下させることなく、誘電率や誘電正接をバラツキのなく低下させることができる。
【0033】
本発明の多孔質樹脂シートの製造方法においては、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に非反応性ガスを加圧下で含浸させるガス含浸工程、ガス含浸工程後に圧力を減少させて熱可塑性樹脂組成物を発泡させる発泡工程を含む。
【0034】
ガス含浸工程は、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に非反応性ガスを加圧下に含浸させる工程であり、非反応性ガスとしては、例えば二酸化炭素、窒素ガス、空気等が挙げられる。これらのガスは、単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。
【0035】
これらの非反応性ガスのうち、発泡体の素材として用いる熱可塑性樹脂への含浸量が多く、含浸速度も速い二酸化炭素の使用が特に好ましい。
【0036】
非反応性ガスを含浸させる際の圧力および温度は、非反応性ガスの種類、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物の種類、および目的とする多孔質樹脂シートの平均気泡径や空孔率によって適宜調整する必要がある。例えば非反応性ガスとして二酸化炭素を用い、熱可塑性樹脂としてポリイミドを用いた場合において、平均気泡径を5.0μm以下、空孔率を40%以上の多孔質樹脂シートを製造するためには、圧力は7.4〜100MPa程度、好ましくは20〜50MPaであり、温度は120〜350℃程度、好ましくは120〜300℃程度である。また例えば非反応性ガスとして二酸化炭素を用い、熱可塑性樹脂としてポリエーテルイミドを用いた場合において、平均気泡径を5.0μm以下、空孔率を40%以上の多孔質樹脂シートを製造するためには、圧力は7.4〜100MPa程度、好ましくは20〜50MPaであり、温度は120〜260℃程度、好ましくは120〜220℃程度である。
【0037】
また、ポリマー中への含浸速度を速めるという観点から、前記非反応性ガスは超臨界状態であることが好ましい。例えば、二酸化炭素の場合、臨界温度が31℃、臨界圧力が7.4MPaであり、温度31℃以上、圧力7.4MPa以上の超臨界状態にすると、ポリマーへの二酸化炭素の溶解度が著しく増大し、高濃度の混入が可能となる。また、超臨界状態でガスを含浸させるとポリマー中のガス濃度が高いため、急激に圧力を降下させると、気泡核が多量に発生し、その気泡核が成長してできる気泡の密度が気孔率が同じであっても大きくなり、非常に微細な気泡を得ることができる。
【0038】
本発明において発泡工程は、前記ガス含浸工程後に圧力を減少させて熱可塑性樹脂組成物を発泡させる工程である。圧力を減少させることにより、熱可塑性樹脂組成物中に気泡核が多量に発生する。圧力を減少させる程度(減圧速度)は特に制限されないが、5〜400MPa/秒程度である。
【0039】
本発明においては、発泡工程により気泡核が形成された熱可塑性樹脂組成物からなる多孔質樹脂シートを、150℃以上の温度で加熱する加熱工程を設けてもよい。気泡核が生じた多孔質樹脂シートを加熱することにより、気泡核が成長し、気泡が形成される。加熱温度は180℃以上であることが好ましく、より好ましくは200以上である。加熱温度が150℃未満では、空孔率の高い多孔質樹脂シートを得ることが困難な場合がある。なお加熱工程後には、多孔質樹脂シートを急冷して気泡の成長を防止したり、気泡形状を固定してもよい。
【0040】
本発明において、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に非反応性ガスを加圧下で含浸させるガス含浸工程と、ガス含浸工程後に圧力を減少させて熱可塑性樹脂組成物を発泡させる発泡工程は、バッチ方式、連続方式の何れの方式で行ってもよい。
【0041】
バッチ方式によれば、例えば以下のようにして発泡体を製造できる。すなわち、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用して押し出すことにより、熱可塑性樹脂を基材樹脂として含むシートが形成される。あるいは、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を、ローラ、カム、ニーダ、バンバリ型等の羽根を設けた混錬機を使用して均一に混錬しておき、熱板のプレスなどを用いて所定の厚みにプレス成形することにより、熱可塑性樹脂を基材樹脂として含むシートが形成される。こうして得られる未発泡シートを高圧容器中に入れて、二酸化炭素、窒素、空気などからなる非反応性ガスを注入し、前記未発泡シート中に非反応性ガスを含浸させる。十分に非反応性ガスを含浸させた時点で圧力を解放し(通常、大気圧まで)、基材樹脂中に気泡核を発生させる。そして、この気泡核を加熱することによって気泡を成長させた後、冷水などで急激に冷却し、気泡の成長を防止したり、形状を固定することにより耐熱性ポリマー発泡体が得られる。
【0042】
一方、連続方式によれば、例えば、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用して混練しながら非反応性ガスを注入し、十分に非反応性ガスを樹脂中に含浸させた後、押し出すことにより圧力を解放(通常、大気圧まで)して気泡核を発生させる。そして、加熱することによって気泡を成長させた後、冷水などで急激に冷却し、気泡の成長を防止したり、形状を固定化することにより耐熱性ポリマー発泡体を得ることができる。
【0043】
本発明において、多孔質樹脂シートは単層であって、その厚さが1.0mm以上であることを特徴とする。本発明において単層の多孔質樹脂シートとは、シートの厚さ方向全体にわたって同一の熱可塑性樹脂組成物からなるものであり、例えば複数のシートを素材の異なる接着剤や粘着シートにより貼り合わせたものは含まない。
【0044】
本発明の多孔質樹脂シートの厚さは1.0mm以上であり、好ましくは1.2mm以上、さらに好ましくは1.3mm以上である(通常3.0mm以下)。多孔質樹脂シートの厚さが1.0mm以上であれば、例えば帯電話用アンテナに使用した場合、アンテナ特性において反射特性が低い方向にシフトし広帯域化するという利点があり、1.0mm未満であると反射特性の増大や広帯域化が得られない。
【0045】
なお本発明においては、多孔質樹脂シートの厚みのばらつきが10μm以下であることが好ましく、さらに8μm以下であることがより好ましい。多孔質樹脂シートの厚みのばらつきが10μmを超えると、多孔質樹脂シートに反りや歪みを生じやすくなる場合がある。
【0046】
本発明において、多孔質樹脂シートの厚みは、50mm×50mmのサンプルにおいて、その面内を1cm毎に分けた25点について、ダイヤルゲージで膜厚を測定し、その平均値を厚さとし、最大値と最小値の差をばらつきとする。
【0047】
また本発明の多孔質樹脂シートは、1GHzにおける誘電率が2.00以下であることを特徴とする。多孔質樹脂シートの誘電率が2.00以下であれば、同じ低誘電体の厚みで広帯域幅が広がるという利点があり、2.00を超えると広帯域幅が狭くなるためシートの厚みを厚くする必要がでてくる。本発明においては、多孔質樹脂シートの1GHzにおける誘電率は、1.90以下、さらに1.85以下であることが好ましい(通常1.40以上)。
【0048】
また本発明の多孔質樹脂シートは、誘電正接が0.0050以下であることを特徴とする。多孔質樹脂シートの誘電正接が0.0050以下であれば、高周波領域での誘電損失が低減できるという利点があり、0.0050を超えると単体の樹脂よりも悪くなる。本発明においては、多孔質樹脂シートの誘電正接は、0.0045以下、さらに0.0042以下であることが好ましい。
【0049】
本発明において多孔質樹脂シートの誘電率および誘電正接は、空洞共振器接動法により、周波数1GHzにおける誘電率、誘電正接を測定した。測定機器は、円筒空洞共振機(アジレント・テクノロジー社製「ネットワークアナライザ N5230C」、関東電子応用開発社製「空洞共振器1GHz」)によって、サンプルサイズφ2mm×70mm長さを用いて測定した。
【0050】
また本発明の多孔質樹脂シートは、弾性率が200MPa以上であることを特徴とする。弾性率が200MPa未満であると基板加工時に変形しやすいという不具合がある。本発明においては、多孔質樹脂シートの弾性率は、220MPa以上、さらに240MPa以上であることが好ましい(通常400MPa以下)。
【0051】
本発明において多孔質樹脂シートの弾性率は、IPC-TM-650、Number2.4.18.3に基づいて行い、引張速度50mm/minにおける応力曲線の傾きより算出する引張弾性率を用いる。
【0052】
本発明の多孔質樹脂シートに含まれる気泡の平均気泡径は、5.0μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは4.0μm以下である(通常0.01μm以上)。多孔質樹脂シートの平均気泡径が5.0μm以下であれば、絶縁性や機械強度を低下させることなく誘電率および誘電正接を低くすることができるという利点があり、5.0μmを超えると絶縁性や機械強度が低下する場合がある。
【0053】
本発明の多孔質樹脂シートに含まれる気泡の平均気泡径は、多孔質樹脂シートの切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所社製「S−3400N」)で観察したのち、その画像を画像処理ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)で二値化処理し、気泡部と樹脂部とに分離して気泡の最大垂直弦長を測定した。気泡径の大きいほうから50個の気泡について平均値をとり、平均気泡径とした。
【0054】
また本発明の多孔質樹脂シートの空孔率は、40%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50%以上であり、特に60%以上であることが好ましい(通常80%以下)。多孔質樹脂シートの空孔率が40%以上であればシート内に均等な空孔が存在する状態となり誘電特性のバラツキがなくなるという利点があり、40%未満であると空孔形成状態が偏より誘電特性のバラツキが発生しやすくなる場合がある。
【0055】
本発明の多孔質樹脂シートの空孔率は、発泡前の熱可塑性樹脂組成物、および発泡後の多孔質樹脂シートの比重を測定し、その比(発泡前の熱可塑性樹脂組成物の比重/発泡後の多孔質樹脂シートの比重)により算出する。
【0056】
また本発明の多孔質樹脂シートは、引張強度(破断強度)が8〜20MPa、好ましくは10〜15MPaであることが望ましい。引張強度が8〜20MPaの範囲であれば、本発明の多孔質樹脂シートを回路用基板、帯電話用アンテナ、電磁波制御材、断熱材等に使用する場合に十分な強度を有し、また安定した誘電特性を得ることができる。一方、引張強度が8MPa未満であると前記用途に用いる場合に十分な強度を得ることができない場合があり、また気泡径が大きくなるため誘電特性がばらつく場合がある。また引張強度が20MPaを超えると、十分に空孔形成が出来ておらず、低い誘電率、誘電正接が得られない場合がある。
【0057】
また本発明の多孔質樹脂シートは、引張伸び(破断伸度)が2.0〜4.0%、好ましくは2.5〜3.5%であることが望ましい。引張伸びが2.0〜4.0%の範囲であれば、本発明の多孔質樹脂シートを回路用基板、帯電話用アンテナ、電磁波制御材、断熱材等に使用する場合に、変形等のない十分な形状安定性を有し、また安定した誘電特性を得ることができる。引張伸びが2.0%未満であると、十分に空孔形成が出来ておらず、低い誘電率、誘電正接が得られない場合がある。また引張伸びが4.0%を超えると、前記用途に用いる場合に変形等の恐れがあり、また気泡径が大きくなるため誘電特性がばらつく場合がある。
【0058】
本発明において多孔質樹脂シートの引張強度および引張伸びは、IPC-TM-650、Number
2.4.18.3に基づいておこない、引張速度50mm/minにおける破断点の強度および伸びより求めた。
【0059】
本発明の多孔質樹脂シートは、耐熱性を有する熱可塑性樹脂を用いることで、ハンダ耐熱性を有することができる。ハンダ耐熱性は260℃に加熱したハンダリフロー中に多孔質樹脂シートを30秒間浮かべて変化の有無を観察することにより評価される。
【0060】
本発明の多孔質樹脂シートは、その少なくとも一面に金属箔層を形成することにより、多孔体基板とすることができる。多孔体基板は、携帯電話用のアンテナまたはアンテナ用基板、高周波用の回路基板や電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材として使用される。特に携帯電話用アンテナなどに用いられているパッチアンテナとして賞用される。
【0061】
金属箔としては特に限定されるものではないが、通常、ステンレス箔、銅箔、アルミニウム箔、銅−ベリリウム箔、リン青銅箔、鉄−ニッケル合金箔等が用いられる。金属箔層を形成する方法としては特に限定されないが、(1)金属箔からなる基材の上に発泡させる樹脂層を形成しておき、これを発泡させる方法、(2)発泡樹脂層を先に作製し、これにスパッタリング、電解メッキ、無電解メッキ等の公知の方法でメタライズする方法等が挙げられる。また、2つ以上の手法を組み合わせて用いることもできる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0063】
〔測定及び評価方法〕
(誘電率、誘電正接)
空洞共振器接動法により、周波数1GHzにおける誘電率、誘電正接を測定した。測定機器は、円筒空洞共振機(アジレント・テクノロジー社製「ネットワークアナライザ N5230C」、関東電子応用開発社製「空洞共振器1GHz」)によって、サンプルサイズφ2mm×70mm長さを用いて測定した。
【0064】
(厚さ、厚さのばらつき)
多孔質樹脂シートから50mm×50mmのサンプルを採取し、その面内を1cm毎に分けた25点について、ダイヤルゲージ(尾崎製作所社製「R1−205」)で膜厚を測定し、その平均値を厚さとし、最大値と最小値の差をばらつきとした。
【0065】
(平均気泡径)
多孔質樹脂シートを液体窒素で冷却し、刃物を用いてシート面に対して垂直に切断して評価サンプルを作製した。サンプルの切断面にAu蒸着処理を施し、該切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所社製「S−3400N」)で観察した。その画像を画像処理ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)で二値化処理し、気泡部と樹脂部とに分離して気泡の最大垂直弦長を測定した。気泡径の大きいほうから50個の気泡について平均値をとり、平均気泡径とした。
【0066】
(空孔率)
発泡前の熱可塑性樹脂組成物、および発泡後の多孔質樹脂シートの比重を比重計(Alfa Mirage社製「MD−300S」)により測定し、その比(発泡前の熱可塑性樹脂組成物の比重/多孔質樹脂シートの比重)により算出した。
【0067】
(機械物性)
多孔質樹脂シートの機械物性(弾性率、引張強度、引張伸び)は、IPC-TM-650, 2.4.18.3に準じ、引張圧縮試験機(ミネベア社製「テクノグラフ TG‐100kN」)により、引張速度50mm/minで得られる応力曲線より算出した。
【0068】
(ハンダ耐熱性)
ハンダ耐熱性は260℃に加熱したハンダリフロー中に多孔質樹脂シートを30秒間浮かべ、変化の有無を観察した。
○:変化なし、 ×:収縮や溶融などの外観・外形変化あり
【0069】
実施例1
ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg217℃ 比重1.27)を二軸押出機により厚さ0.8mmの単層シートとした。未発泡の単層シートを、500ccの耐圧容器に入れ、槽内を120℃、25MPaの二酸化炭素雰囲気中に5時間保持することにより、二酸化炭素を含浸させた。その後、300MPa/秒でこのシートを大気圧に戻した後、連続的に210℃のオイル浴中に60秒間通し、気泡を成長させ、すばやく取り出し、その後氷を入れた水により急激に冷却して、厚さ1.81mmのポリエーテルイミドからなる多孔質樹脂シートを得た。
【0070】
実施例2
ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」)を二軸押出機により厚さ0.8mmの単層シートとした。未発泡の単層シートを、500ccの耐圧容器に入れ、槽内を210℃、25MPaの二酸化炭素雰囲気中に1時間保持することに
より、二酸化炭素を含浸させた。その後、300MPa/秒でこのシートを大気圧に戻した後、厚さ1.55mmのポリエーテルイミドからなる多孔質樹脂シートを得た。
【0071】
比較例1
厚さが0.035mmである単層シートを用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ0.065mmのポリエーテルイミドからなる多孔質樹脂シートを得た。この多孔質樹脂シート10枚をエポキシ接着シート(日東シンコー社製、「B−EL10#40」)により積層し、オートクレーブにより150℃、15kg/cmの条件で3時間処理し、厚さ1.01mmの積層シートを作成した。
【0072】
【表1】

【0073】
実施例1、2では、接着層がない単層の多孔質樹脂シートであることから誘電率が2.00以下、誘電正接が0.0050以下の低誘電率を保持しており、高い剛性(弾性率)と厚みのばらつきがなく、さらにハンダ耐熱性をも維持するといった特性が達成できている。一方、比較例1では、誘電率は小さいながらも、接着層を介して積層することで剛性と誘電正接に劣る。
【0074】
(アンテナ特性のシミュレーション)
本発明の多孔質樹脂シートをパッチアンテナに適用した場合の帯域幅とアンテナ特性について、CST社製の「MW STUDIO」によるシミュレーション解析を行った。パッチアンテナの解析モデルは図1に示す構成で行った。なお図1において側面図は、シュミレーションしたパッチアンテナの構成を側面から見た時の説明図である。また図1において立体図は、シュミレーションしたパッチアンテナの構成を斜め上方から見た斜視図であり、スロットの位置関係を分かりやすくするため、多孔質樹脂シートの部分で分断し上方に浮かせたイメージ図として示している。
【0075】
給電部分の影響をできるだけ同一にするため、シミュレーションモデルのパッチアンテナはスロットを介した2層構造としており、アンテナへの給電は直接給電ではなくスロットを介した電磁気的な結合で行っている。マイクロストリップ線路形成側の基板厚みは1.2mm、誘電率は4.3、誘電正接を0とした。各層の導体は、10μm厚のCuで形成している。
シミュレーションによる帯域幅とアンテナ特性の解析はパッチアンテナ素子側の基板材料を変更することで解析を実施した。各アンテナ素子側の基板材料に対して、パッチアンテナが2.4GHz付近で共振を生じるよう以下のように各サイズを調整している(表2参照)。参考のため、従来パッチアンテナの基板に用いられているフッ素樹脂およびセラミックスについてのシュミレーション結果についても、合わせて記載した。
【0076】
【表2】

【0077】
シミュレーションによりリターンロスから求めた−6dBでの帯域幅、及び各共振周波数でのアンテナ放射特性(1mでの指向性利得、絶対利得)を解析した。結果を表3に示した。
【0078】
【表3】

【0079】
この結果、本発明の多孔樹脂シートをパッチンテナ素子に適用することで広い帯域幅と高いアンテナ特性をもったパッチアンテナが作製できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む単層の多孔質樹脂シートであって、厚みが1.0mm以上であり、1GHzにおける誘電率が2.00以下であり、誘電正接が0.0050以下であり、弾性率が200MPa以上であることを特徴とする多孔質樹脂シート。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質樹脂シートであって、平均気泡径が5.0μm以下であり、空孔率が40%以上となる気泡を有することを特徴とする多孔質樹脂シート。
【請求項3】
厚みばらつきが10μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質樹
脂シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリイミドまたはポリエーテルイミドから選ばれるいずれか1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質樹脂シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質樹脂シートの製造方法であって、
少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に非反応性ガスを加圧下で含浸させるガス含浸工程、ガス含浸工程後に圧力を減少させて熱可塑性樹脂組成物を発泡させる発泡工程を含む多孔質樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
前記発泡工程後に、150℃以上の温度で多孔質樹脂シートを加熱する加熱工程を含む請求項5に記載の多孔質樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
非反応性ガスが二酸化炭素であることを特徴とする請求項5または6に記載の多孔質樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
非反応性ガスを超臨界状態で含浸させることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の多孔質樹脂シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質樹脂シートの少なくとも一面に金属箔層を設けた多孔体基板。






【図1】
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【公開番号】特開2012−77294(P2012−77294A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189696(P2011−189696)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】