説明

多孔質樹脂粒子の製造方法及び多孔質樹脂粒子

【課題】反応性官能基が導入されたポリスチレン系樹脂粒子の表面が多孔質であるポリスチレン系樹脂粒子の製造方法及び該製造方法により得られたポリスチレン系樹脂粒子を提供する。
【解決手段】ハロアルキルスチレン系モノマーと芳香族多官能ビニル系モノマー、及び重合開始剤を含むモノマー混合物を、分散安定剤を含有する水中で懸濁重合させることによって得られる多孔質樹脂粒子の製造方法であって、樹脂粒子表面に細孔を有し、その平均孔径が0.1〜50μmであリ、かつ反応性のハロゲン基を持つ多孔質樹脂粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロアルキルスチレン系モノマーと芳香族多官能ビニル系モノマーとの重合体からなる多孔質樹脂粒子と、多孔質樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系多孔質樹脂粒子は、イオン交換樹脂、吸着剤、トナー樹脂粒子、分離剤、触媒の担体、研磨パッド、機能性有機フィラー、光反射材、光拡散材等に用いられている。
【0003】
なかでも一般的なスチレン系イオン交換樹脂の製造法としては、スチレンの懸濁重合を行い、膨潤剤により粒子を膨潤させハロアルキル化し各種官能基の導入が行われる。その際に、粒子の比表面積を大きくするために重合時に多孔質化剤を用いたり、懸濁造粒後ハロアルキル基の架橋反応による微細孔形成等が行われる(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、これらの手法による多孔質化では、前者の場合、懸濁造粒時に多孔質化剤が必要となり、相の不均―化、油相の粘度変化による粒度分布の変化が生じる等の問題が発生する。また、ハロアルキル化に際し、ルイス酸触媒存在下で行うため反応終了後、ルイス酸触媒の除去工程を要したり、除去しきれずにルイス酸触媒が粒子に担持され残留する場合がある。後者の場合に至っては、微細孔形成工程が必要となり製造コストが上がってしまう等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−93801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、煩雑な工程を必要としない、反応性官能基が導入されたポリスチレン系樹脂粒子の表面が多孔質であるポリスチレン系樹脂粒子の製造方法及び該製造方法により得られたポリスチレン系樹脂粒子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を進めた結果、粒子内部に反応性官能基を持ち、かつ表面に細孔を有する樹脂粒子を製造する際に、ハロアルキルスチレン系モノマー、芳香族多官能ビニル系モノマー、及び重合開始剤を含むモノマー混合物を、分散安定剤を有する水中で懸濁重合させることによって、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の多孔質樹脂粒子の製造方法及び多孔質樹脂粒子を提供するものである。
(1)ハロアルキルスチレン系モノマーと芳香族多官能ビニル系モノマー、及び重合開始
剤を含むモノマー混合物を、分散安定剤を有する水中で懸濁重合させることによって得られる多孔質樹脂粒子の製造方法であって、樹脂粒子表面に細孔を有し、その平均孔径が0.1〜50μmであリ、かつ反応性のハロゲン基を持つ多孔質樹脂粒子の製造方法。
(2)前記モノマー混合物において、芳香族多官能ビニル系モノマー単位をハロアルキルスチレン系モノマー単位と芳香族多官能ビニル系モノマー単位との合計質量に対して0.1〜50質量%含有する前記(1)記載の多孔質樹脂粒子の製造方法。
(3)多孔質化剤の存在下に懸濁重合させる前記(1)又は(2)記載の多孔質樹脂粒子の製造方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法により得られる多孔質樹脂粒子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、多孔質化剤の使用を必須とせず、多孔質化工程を経ずに、粒子中に反応性官能基を保持したまま、表面が多孔質である樹脂粒子を効率よく製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)、(b)は実施例1で得られた樹脂粒子のSEM写真である。
【図2】(a)、(b)は実施例2で得られた樹脂粒子のSEM写真である。
【図3】(a)、(b)は比較例1で得られた樹脂粒子のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
尚、本発明の多孔質樹脂粒子とは粒子内部に反応性官能基を持ち、樹脂粒子表面には、平均孔径が0.1〜50μmの微細な細孔をもつ樹脂粒子を意味する。
【0011】
本発明の多孔質粒子の製造方法は、ハロアルキルスチレン系モノマーと芳香族多官能ビニル系モノマー、及び重合開始剤を含むモノマー混合物を、分散安定剤を有する水中で懸濁重合させることによって得られる多孔質樹脂粒子の製造方法であって、樹脂粒子表面に細孔を有し、その平均孔径が0.1〜50μmであリ、かつ反応性のハロゲン基を持つ多孔質樹脂粒子の製造方法である。
【0012】
本発明の樹脂粒子の形状は、破砕状、球状、その他限定されないが、吸着剤粒子、顔料添加剤用途としては球状が好ましい。その粒子径は、通常1〜1000μm、好ましくは100〜1000μm、さらに好ましくは100〜500μmである。
【0013】
本発明の製造方法により得られる多孔質樹脂粒子の細孔径は、用途により適宜決定すればよいが、例えば、イオン交換樹脂のベースポリマーとして使用する場合、通常0.1〜50μmで用いられ、好ましくは1〜15μmである。
前記細孔径が0.1μm未満であると、細孔が閉塞されやすく、細孔内への物質の流入が阻害される点から好ましくない。
―方、50μmより大きい場合、粒子径とのバランスの観点から機械的強度が低下したり、粒子として取り扱いが出来ない。
尚、多孔質樹脂粒子の細孔径は、モノマー混合物中の芳香族多官能ビニルモノマーの含有量または多孔質化剤の種類等により、適宜制御し、製造することができる。
【0014】
本発明の多孔質樹脂粒子の平均粒径は、細孔の平均孔径に対し、10〜20倍の径であることが好ましい。10倍以上であれば、十分な機械的強度が得られ、粒子の変形や破壊が起こりにくく、一方、20倍以下であれば、細孔が閉塞されにくく、細孔内への物質の流入が阻害されにくくなる点から好ましい。
【0015】
この樹脂粒子は、ハロアルキルスチレン系モノマー単位と芳香族多官能ビニル系モノマー単位によって構成されている。上記のハロアルキルスチレン系モノマー単位を形成するモノマーには、クロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ヨードメチルステレン、クロロエチルスチレン、ブロモエチルスチレン、ヨードエチルスチレン等のハロアルキルスチレンが挙げられる。
【0016】
上記芳香族多官能ビニル系モノマー単位を形成するモノマーとしては、ジビニルべンゼン、トリビニルベンゼンが挙げられ、好ましくはジビニルべンゼンである。これらの量はハロアルキルスチレン系モノマー単位と芳香族多官能ビニル系モノマー単位との合計質量に対して通常0.1〜50質量%であり、好ましくは10〜30質量%である。
【0017】
上記懸濁重合の際には、多孔質化剤を共存させても良い。該多孔質化剤には、へキサン、ヘプタン、流動パラフィン等の脂訪族炭化水素溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、オクタノール及びベンジルアルコールなどの非水溶性アルコール類、メチルイソブチルケトンなどの非水溶性ケトン系溶剤、酢酸エチル及び酢酸ブチルなどの非水溶性エステル系溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤は単独または2種類以上の組み合わせで使用しても良い。多孔質化剤の使用量は、ハロアルキルスチレン系モノマーと芳香族多官能ビニル系モノマーとの混合物に対し、通常0.1〜200質量%、好ましくは10〜150質量%である。
【0018】
本発明における、ハロアルキルスチレン系モノマーと芳香族多官能ビニル系モノマーの懸濁重合には、水性媒体が用いられる。水性媒体として、通常、水を用い、好ましくは、イオン交換水、純水を用いる。水性媒体の使用量は、ハロアルキルスチレン系モノマーと芳香族多官能ビニル系モノマーとの混合物(多孔質化剤等を併用する場合はそれらを含む)に対して、通常150〜10000質量%、好ましくは200〜2000質量%である。
【0019】
水性媒体には懸濁状態を安定化させるために分散安定剤が使用される。分散安定剤には、ポリビニルアルコール、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。その使用量はハロアルキルスチレン系モノマーと芳香族多官能ビニル系モノマーとの混合物(多孔質化剤等を併用する場合はそれらを含む)に対して、通常0.01〜1質量%、好ましくは0.05〜0.1質量%である。分散安定剤の使用量が0.01質量%以上であれば、油相が安定化し、油滴同士の合一、粒子の凝集が発生しにくい。一方、使用量が1質量%以下であれば、微小の粒子の生成が抑制され、反応後のろ過、及び洗浄による分散安定剤の除去が容易になる。
【0020】
本発明の懸濁重合は、公知の方法により行うことが出来る。重合開姶剤には、アゾビス系や過酸化物系などを好ましく使用することができる。アゾビス系としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’一アゾビス(2,3,3−トリメチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−イソプロピルブチロニトリル)、1,1’一アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、4,4’ −アゾビス(4−シアノバレリン酸)、ジメチルー2,2’−アゾビスイソブチレートなどが挙げられる。
【0021】
過酸化物系としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独でもまたは2種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
重合温度は、重合開始剤に応じて適宜選ばれるが、通常30〜100℃、好ましくは50〜80℃である。重合時間も、重合開姶剤、反応温度に応じて適宜選ばれるが、通常2〜48時間、好ましく5〜12時間である。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において「部」は「質量部」を表わす。
【0024】
実施例及び比較例で得られた樹脂粒子の孔径及び比表面積の測定は以下の方法で実施した。
(1)孔径
SEM(走査型電子顕微鏡)を使用し、樹脂粒子及び細孔写真を撮影した。孔径に関しては、倍率が500倍の写真を使用し、視野内にある各細孔の最大直径を10点測定し、単純平均することにより、平均孔径として算出した。
(2)比表面積
比表面積はガス吸着法(BET法)にて測定した。
【0025】
[実施例1]
ハロアルキルスチレン系モノマーとしてクロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル製CMS−P)20部、芳香族多官能ビニル系モノマーとしてジビニルベンゼン(新日鐵化学製DVB570)2.2部、及び重合開始剤として2、2’−アゾビス−2、4’−ジメチルバレロニトリル(大塚化学製)0.4部を混合して、25°Cで30分間の攪拌を行い、混合液とした。この混合液を、純水150部、分散剤として6.9質量%ポリビニルアルコール(日本合成化学製)水溶液0.12部からなる水性媒体中へ投入し、分散させ懸濁状態とし、58゜Cにて5時間懸濁重合反応を行い、樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子のSEM写真を図1(a)、(b)に示す。ここで(a)は、測定倍率100倍、(b)は、測定倍率500倍であり、以下、図2、図3も同様である。
【0026】
[実施例2]
ハロアルキルスチレン系モノマーとしてクロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル製CMS−P)20部、芳香族多官能ビニル系モノマーとしてジビニルベンゼン(新日鐵化学製DVB570)2.2部、多孔質化剤としてヘプタン10部、及び重合開始剤として2、2’−アゾビス−2、4’−ジメチルバレロニトリル(大塚化学製)0.4部を混合して、25°Cで30分間の攪拌を行い、混合液とした。この混合液を、純水150部、分散剤として6.9質量%ポリビニルアルコール(日本合成化学製)水溶液0.12部からなる水性媒体中へ投入し、分散させ懸濁状態とし、58゜Cにて5時間懸濁重合反応を行い、樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子のSEM写真を図2(a)、(b)に示す。
【0027】
[比較例1]
ハロアルキルスチレン系モノマーとしてクロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル製CMS−P)20部、及び重合開始剤として2、2’−アゾビス−2、4’−ジメチルバレロニトリル(大塚化学製)0.4部を混合して、25°Cで30分間の攪拌を行い、混合液とした。この混合液を、純水150部、分散剤として6.9質量%ポリビニルアルコール(日本合成化学製)水溶液0.12部からなる水性媒体中へ投入し、分散させ懸濁状態とし、58゜Cにて5時間懸濁重合反応を行い、樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子のSEM写真を図3(a)、(b)に示す。
【0028】
実施例1、2では、いずれも良好な多孔質樹脂粒子が得られ、実施例1では、平均孔径、比表面積がそれぞれ12.2μm、0.663m2/g、実施例2では、それぞれ7.8μm、0.229m2/gであった。これに対し、実施例1の芳香族多官能ビニル系モノマー(ジビニルベンゼン)のみが未添加の比較例1では、比表面積は0.233m2/gであったが、粒子表面に部分的に浅い凹部が生じたのみで、多孔質粒子が形成されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、主成分としてハロアルキルスチレン系モノマーと芳香族多官能ビニル系モノマーを用いることによリ、煩雑な工程を要せずとも、粒子に反応性官能基が導入され、かつ、粒子表面が多孔質である樹脂粒子を容易に製造できるので、特に、イオン交換樹脂、吸着剤、トナー樹脂粒子、分離剤、触媒の担体、研磨パッド、機能性有機フィラー、光反射材、光拡散材などへの幅広い用途に適用が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロアルキルスチレン系モノマーと芳香族多官能ビニル系モノマー、及び重合開始剤を含むモノマー混合物を、分散安定剤を含有する水中で懸濁重合させることによって得られる多孔質樹脂粒子の製造方法であって、樹脂粒子表面に細孔を有し、その平均孔径が0.1〜50μmであリ、かつ反応性のハロゲン基を持つ多孔質樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
前記モノマー混合物において、芳香族多官能ビニル系モノマー単位をハロアルキルスチレン系モノマー単位と芳香族多官能ビニル系モノマー単位との合計質量に対して0.1〜50質量%含有する請求項1記載の多孔質樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
多孔質化剤の存在下に懸濁重合させる請求項1又は2記載の多孔質樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られる多孔質樹脂粒子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−158680(P2012−158680A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18900(P2011−18900)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】