説明

多孔質炭素材料の製造方法

【課題】無給油ベアリングなどのカーボン摺動材、搬送装置のエア噴出し用部材などとして好適な気孔性状を備えた多孔質炭素材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】平均粒子径70〜300μmの炭素質粉末Aが40〜70重量部、平均粒子径10〜45μmの炭素質粉末Bが20〜50重量部、平均粒子径1〜30μmのピッチ粉末が10〜30重量部の組成比に混合した混合原料粉末100重量部を、分散剤0.5〜5重量部と熱硬化性樹脂を水または有機溶剤に溶解して樹脂固形分濃度が40〜70重量%に調整した樹脂溶液に加えて攪拌および脱泡処理して、粘度(25℃)が0.5〜8Pa・sのスラリーを調製し、次いで、該スラリーを成形濾過容器に流し込み、加圧濾過してケーキ状の成形体を作製し、該ケーキ状成形体を乾燥した後、熱硬化性樹脂成分を加熱硬化し、非酸化性雰囲気中で800〜3000℃の温度で焼成することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば無給油ベアリングなどのカーボン摺動材、搬送装置のエア噴出し用部材、内部加湿型燃料電池の加湿部材、空気清浄や水質浄化などのフィルター材、あるいは触媒担持体などとして好適に使用される多孔質炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は非酸化性雰囲気においては優れた耐熱性や高温強度および耐蝕性を有しており、また導電性や熱伝導性も高く、工業材料として広い分野で有用されている。また、炭素材料を多孔質化した多孔質炭素材料は軽量であり、その気孔性状により各種フィルター材や触媒担持体、更に、無給油ベアリング用カーボン摺動材や搬送装置のエア噴出し用部材などとしても用いられている。
【0003】
多孔質炭素材料の製造技術としては、炭素繊維をパルプとともに抄紙して得たシートに熱硬化性樹脂溶液を含浸して積層成形し、焼成炭化する方法が知られている(例えば、特許文献1など)。しかし、この方法は高価な炭素繊維を使用するので製造コストが高くなり、また気孔性状の制御が難しいという難点がある。
【0004】
そこで、安価なα−セルロースを主成分とする有機物質の抄紙シートに熱硬化性樹脂溶液を含浸し、樹脂含浸シートを積層して熱圧成形する方法が開発されている。例えば特許文献2にはα−セルロースを主成分とする熱揮散性物質を抄紙してシート化する工程と、
シートに熱硬化性樹脂溶液を含浸する工程と、含浸シートを加熱して半硬化する工程と、半硬化シートを積層し加熱しながら圧縮する工程と、焼成炭化する工程とからなる多孔質炭素材の製造方法が開示されている。
【0005】
しかし、これらの方法では繊維が絡み合った空隙により多孔質体が形成されるので、板状成形体の面方向と厚さ方向では気孔構造が異なり、また曲げ強度などの強度特性も異方性が生じ、層間剥離し易くなるなどの欠点がある。更に、気孔率の高いものを得ようとすると強度が低くなり、気孔径の大きいものを得ることも困難である。
【0006】
また、炭素多孔体を製造する方法として、メラミン、ウレタン、フェノール樹脂などの樹脂発泡体を焼成、炭化する方法も知られているが強度が低い難点がある。そこで、特許文献3には、連続気孔を有するとともにポリカルボジイミド樹脂が含浸したメラミン樹脂発泡体、ウレタン樹脂発泡体、フェノール樹脂発泡体などの樹脂発泡体を炭化した炭素多孔体が提案されている。
【0007】
しかし、この炭素多孔体の気孔性状は、上記したフィルター材、触媒担持体、無給油ベアリング用カーボン摺動材や搬送装置のエア噴出し用部材などに使用するには強度や気孔性状の面で十分なものではない。
【特許文献1】特開昭61−236664号公報
【特許文献2】特開平03−183672号公報
【特許文献3】特開平06−032677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、発明者らはこれらの用途に適した多孔質炭素材料の開発について鋭意研究を行った結果、粒度調整した炭素質粉末および粒子径の小さいピッチ粉末を特定の割合で混合した混合原料粉末を熱硬化性樹脂溶液に分散させてスラリーを調製し、このスラリーを加圧濾過して成形体を作製し、加熱硬化・焼成すると、微細でシャープな気孔性状を有し、これらの用途に好適な多孔質炭素材が得られることを確認した。
【0009】
すなわち、本発明の目的は、例えば無給油ベアリングなどのカーボン摺動材、搬送装置のエア噴出し用部材、内部加湿型燃料電池の加湿部材、空気清浄や水質浄化などのフィルター材、触媒担持体などとして好適な気孔性状を備えた多孔質炭素材料を容易に製造することのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法は、平均粒子径70〜300μmの炭素質粉末Aが40〜70重量部、平均粒子径10〜45μmの炭素質粉末Bが20〜50重量部、平均粒子径1〜30μmのピッチ粉末が10〜30重量部の組成比に混合した混合原料粉末100重量部を、分散剤0.5〜5重量部と熱硬化性樹脂を水または有機溶剤に溶解して樹脂固形分濃度が40〜70重量%に調整した樹脂溶液に加えて攪拌および脱泡処理して、粘度(25℃)が0.5〜8Pa・sのスラリーを調製し、次いで、該スラリーを成形濾過容器に流し込み、加圧濾過してケーキ状の成形体を作製し、該ケーキ状成形体を乾燥した後、熱硬化性樹脂成分を加熱硬化し、非酸化性雰囲気中で800〜3000℃の温度で焼成することを構成上の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比較的簡便な方法により、平均気孔径が0.5〜10μm、気孔率が10〜40%の気孔性状を有し、材質強度も良好で、無給油ベアリングなどのカーボン摺動材、搬送装置のエア噴出し用部材などを始めとして広い用途分野で有用な多孔質炭素材料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〔混合原料粉末〕
原料となる炭素質粉末には、人造黒鉛粉末や天然黒鉛粉末を始め、樹脂を炭化した炭素の粉砕品、コークスを仮焼した炭素の粉砕品など種々の炭素質粉末が用いられる。
【0013】
これらの炭素質粉末は適宜に粉砕して粒度調整し、炭素質粉末Aとしては平均粒子径が70〜300μmに、炭素質粉末Bとしては平均粒子径が10〜45μmに、粒度調整したものが用いられる。平均粒子径の大きい炭素質粉末Aと、平均粒子径の小さな炭素質粉末Bとを混合することにより、炭素質粉末Aの大きな粒子間に炭素質粉末Bの小さな粒子が入り込む形態となり、比較的に小さな気孔を形成しながら、ケーキ状の成形体の乾燥時の収縮が抑制されるようになり、乾燥時における成形体のひび割れの発生を防止できる。
【0014】
この炭素質粉末は、炭素質粉末Aを40〜70重量部、炭素質粉末Bを20〜50重量部の重量比に混合する。炭素質粉末Aが70重量部を越えると、製造した多孔質炭素材料の強度が低くなり、気孔径も大きくなる。また、炭素質粉末Aの重量比が40重量部を下回るとケーキ状成形体の乾燥収縮が大きくなり、ひび割れを起こすことになる。
【0015】
また、炭素質粉末Bの混合割合が50重量部を上回ると、ケーキ状成形体の乾燥収縮が大きくなってひび割れが生じ易くなり、一方、20重量部未満となると多孔質炭素材料の気孔径が大きくなり、強度も低下することになる。
【0016】
この炭素質粉末A、Bに、平均粒子径が1〜30μmのピッチ粉末を10〜30重量部の割合で添加、混合して混合原料粉末が作製される。ピッチ粉末には石油系ピッチ、石炭系ピッチ、合成ピッチ、コールタールピッチ、軟ピッチ、硬ピッチなど何れも用いることができる。
【0017】
粒子径の小さいピッチ粉末を炭素質粉末に混合することにより、安定したスラリーを調製することができ、また加圧濾過して作製したケーキ状成形体において大きな炭素質粉末の表面にまとわりついて焼成時には軟化してバインダーとして機能し、気孔を目詰まりさせることなく、強度の高い多孔質炭素材料が製造される。
【0018】
このようにして、平均粒子径70〜300μmの炭素質粉末Aが40〜70重量部、平均粒子径10〜45μmの炭素質粉末Bが20〜50重量部、平均粒子径1〜30μmのピッチ粉末が10〜30重量部の組成比に混合して混合原料粉末が作製される。なお、これらの原料粉末の混合には、例えば万能混合攪拌機、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダーなどの適宜な混合機が用いられる。
【0019】
〔スラリーの調製〕
上記の組成比からなる混合原料粉末を、混合原料粉末100重量部に対して、分散剤0.5〜5重量部と熱硬化性樹脂を水または有機溶剤に溶解して樹脂固形分濃度が40〜70重量%に調整した樹脂溶液に加えて、攪拌する。
【0020】
熱硬化性樹脂は混合原料粉末のバインダーとなるもので、残炭率が40%以上のものを使用する。この樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、またはその混合樹脂などが用いられる。
【0021】
なお、残炭率は、磁製ルツボにサンプルを入れ、135℃で1時間加熱、さらに250℃で5時間加熱後、磁製ルツボに蓋をして非酸化性雰囲気中でさらに1000℃で30分間加熱し、1000℃で30分間加熱後のサンプルの重量を、磁製ルツボに投入したサンプルの重量で除することにより求められる。
残炭率(%)=(1000℃で30分間加熱後のサンプルの重量)/(磁製ルツボに投入したサンプルの重量)×100
【0022】
樹脂溶液は、熱硬化性樹脂を水又は有機溶媒に溶解して作製されるが、有機溶媒はピッチ粉末を溶解しないものが使用され、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、メチルエチルケトンなどのアルコール系やケトン系などの適宜な有機溶媒が使用される。
【0023】
この場合、樹脂溶液中の樹脂固形分濃度は、40〜70重量%になるように調製する。樹脂固形分濃度が40重量%を下回ると樹脂溶液粘度が下がり、加圧濾過時に大粒子が沈降してケーキ状成形体の下面側に大粒子が存在し不均一なケーキ状成形体になるとともに、加圧濾過後の成形体内への残留樹脂量が少なくなり、強度が低くなる。また、70重量%を上回ると樹脂溶液粘度が上昇し加圧濾過時間が非常に長くなるとともに、残留樹脂による気孔の閉塞が生じてしまう。
【0024】
また、スラリーの流動性および炭素質粉末などの分散安定性を図るために分散剤が添加される。分散剤は焼成時には消失することが必要であるが、消失による強度低下を考慮して混合原料粉末100重量部に対して0.5〜5重量部の割合で添加する。分散剤には陰イオン性、非イオン性、陽イオン性の界面活性剤が好適に用いられる。なお、分散剤は、予め樹脂溶液に分散させてから用いることが好ましい。
【0025】
スラリーは、所定の組成比に混合した混合原料粉末を樹脂溶液に加えて、攪拌機、万能混合機、捏合機などで十分に攪拌して調整されるが、攪拌時に空気を巻き込み、気泡を発生する場合があるので、攪拌後に脱泡処理される。
【0026】
このようにしてスラリーが調製されるが、その際、樹脂溶液量を調節してスラリーの粘度(25℃)を0.5〜8Pa・sに調整する。粘度が0.5Pa・s未満では粘度が低いためスラリー中での原料粉末の沈降が速くなり、スラリーの安定性が低下して成形体に密度差や気孔特性のばらつきが生じ易くなる。一方、粘度が8Pa・sより高くなると高粘度のスラリーに巻き込まれた空気を脱泡することが困難となり、成形体中に気泡が残り、シャープな気孔性状を作製することができなくなる。なお、粘度調整のための樹脂溶液は、混合粉末の粒子構成や樹脂固形分の分子量、含有量によって変化するが、概ね混合粉末100重量部に対して樹脂溶液を100〜300部添加することが好ましい。
【0027】
〔成形体の作製〕
スラリーは、金網、濾紙などの混合原料粉末を全量残留させる適宜な濾過材をセットした成形濾過容器に流し込み、加圧空気により加圧濾過してケーキ状の成形体を作製する。濾過容器は所望する成形型形状に作製され、加圧濾過することでケーキ状の成形体が作製されるが、この際、濾過速度が遅いとケーキ状成形体の面内方向の収縮が先に起こるため、ひび割れが発生し易くなる。すなわち、ある程度の濾過速度を維持するために、加圧濾過が適用される。
【0028】
なお、加圧濾過してケーキ状の成形体を作製する際、あらかたの樹脂溶液が排出された後も10秒以上加圧空気を流すことによって、残留する樹脂溶液による気孔閉塞を抑制することが好ましい。
【0029】
このようにして、作製されたケーキ状成形体は、ひび割れおよび気孔閉塞が抑制されるので、強度および気孔性状に優れた多孔質炭素材を製造することができる。
【0030】
ケーキ状成形体は、乾燥して水又は有機溶媒を揮散除去した後、適宜な温度、例えば、150〜250℃の温度に加熱して樹脂成分を加熱硬化する。その後、非酸化性雰囲気中で800〜3000℃の温度で焼成することにより多孔質炭素材が製造される。
【0031】
このように特定の平均粒子径に粒度調整した炭素質粉末A、Bおよび粒子径の小さいピッチ粉末を特定の割合で混合した混合原料粉末を、分散剤と熱硬化性樹脂の樹脂固形分を特定の量比に溶解した樹脂溶液中に分散させたスラリーを加圧濾過して成形体を作製し、硬化焼成するという比較的簡便な方法により、平均気孔径が0.5〜10μmと微細で、気孔率が10〜40%の気孔性状を有し、強度特性も良好な多孔質炭素材を製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明するが、本発明はこの実施例により何ら制約されるものではない。
【0033】
実施例1〜6、比較例1〜6
〔炭素質粉末およびピッチ粉末の混合〕
炭素質粉末には等方性黒鉛材を粉砕した黒鉛粉末を用い、この黒鉛粉末を篩い分けして炭素質粉末Aには平均粒子径がそれぞれ50μm、75μm、200μm、300μm、500μmに、炭素質粉末Bには平均粒子径がそれぞれ8μm、10μm、30μm、45μm、70μmに粒度調整したものを用いた。また、ピッチ粉末には平均粒子径がそれぞれ3μm、13μm、25μmで軟化点約350℃の硬ピッチを使用した。これらの炭素質粉末A、Bおよびピッチ粉末をV型混合機により混合して、表1に示した組成比の異なる混合原料粉末を作製した。
【0034】
〔スラリーの調製〕
バインダーとなる熱硬化性樹脂には住友ベークライト社製のレゾールタイプの水溶性フェノール樹脂PR−50781を使用し、水を添加して表1の通り樹脂固形分濃度が30重量%、40重量%、55重量%、65重量%、75重量%の濃度になるように樹脂溶液を調製した。また、分散剤には非イオン性界面活性剤を使用して界面活性剤を混合原料粉100重量部に対して1重量部の割合で樹脂溶液に加え攪拌し、樹脂溶液を作製した。
【0035】
この樹脂溶液に混合原料粉末を異なる量比で加え、十分に攪拌したのち、攪拌脱泡機にて脱泡処理して樹脂固形分量および粘度の異なるスラリーを調製した。なお、スラリーの粘度は、単一円筒型回転粘度計(B型粘度計)を使用して、25℃における粘度を測定した。
【0036】
〔成形体の作製〕
内径75mmの円筒形状の成形濾過容器を用い、成形濾過容器に形成されたケーキ状成形体の肉厚が約10mmになる量のスラリーを流し込み、蓋をして0.1〜1MPaの圧力で加圧濾過してケーキ状成形体を作製した。また、比較例6は、実施例2と同じスラリーを同じ成形濾過容器に流し込み、アスピレーターを用いて吸引濾過(濾過時の差圧は0.05kPa)によりケーキ状成形体を作製した。
【0037】
〔多孔質炭素材料の製造〕
ケーキ状成形体を熱風循環式の乾燥器中で乾燥した後、220℃で5時間保持して加熱硬化させた。引き続き、硬化成形体を焼成炉に移し、窒素ガス雰囲気中で1000℃に5時間保持して焼成し、多孔質炭素材料を製造した。これらの製造条件を対比して、表1に示した。
【0038】
【表1】

【0039】
次に、これらの多孔質炭素材料について、下記の方法で嵩比重、気孔率、平均気孔径、曲げ強度、圧縮強度などを測定し、その結果を表2に示した。
【0040】
嵩比重;
長さ50mm×幅10mm×厚さ4mmの寸法をマイクロメータで測定し、その寸法と重量より求めた。
【0041】
気孔率(%);
島津製作所(株)製ポアサイザ9320を用い、水銀圧入法により下記の条件で測定した。
圧力範囲;0〜206.9MPa
水銀表面張力;485mN/m
水銀接触角;130°
サンプル寸法;14mm×14mm×4mmt
【0042】
平均気孔径(μm);
気孔率と同じ方法、条件にて、水銀の浸入圧力と浸入量を測定して気孔径分布に換算し、体積基準の気孔径分布の最頻値(モード値)を平均気孔径とした。
【0043】
曲げ強度(MPa);
JIS R1601「ファインセラミックスの曲げ強さ試験方法」に準拠した3点曲げ強さを測定した。なお、サンプルサイズは、長さ50mm×幅10mm×厚さ4mmとし、支点間距離40mm、クロスヘッドスピード0.5mm/min.で測定した。
【0044】
圧縮強度(MPa);
JIS R1608「ファインセラミックスの圧縮強さ試験方法」に準拠した測定方法で測定した。なお、サンプルサイズは、直径10mm×厚さ4mmとし、クロスヘッドスピード0.1mm/min.で測定した。
【0045】
【表2】

【0046】
本発明の実施例1〜6では、炭素質粉末Aと炭素質粉末Bおよびピッチ粉末の適当な組成比で混合された混合原料粉末を、樹脂溶液に投入して適当な粘度のスラリーを調製し、このスラリーを加圧濾過してケーキ状成形体を作製して、このケーキ状成形体を焼成炭化処理して得られた多孔質炭素材は、ひび割れもなく良好な外観を有し、無給油ベアリング用カーボン摺動材や搬送装置用エア噴出部材、吸着用部材などに適当な気孔性状で、且つ曲げ強度、圧縮強度の高いものであることが確認された。
【0047】
これに対し、比較例1では、炭素質粉末Aが多く炭素質粉末Bが少ない配合であり、気孔径が18μmと大きくなり強度も低いものとなった。比較例2は、逆に炭素質粉末Aが少なく炭素質粉末Bが多い配合であり、加圧濾過後のケーキ状成形体の乾燥時にひび割れを生じ良好な外観の多孔質炭素材を得ることができなかった。
【0048】
比較例3では、炭素質粉末A、Bとも細かい黒鉛粉末の配合でスラリーを作り、加圧濾過してケーキ状成形体を作製したが、細かい粒子を配合しているため、加圧濾過時間が著しく長くなり、締まりがなく密度の低いケーキ状成形体となったため、気孔径が大きく強度の低いものとなった。比較例4では、大きな粒子の粉末を使用したことにより、濾過時の大粒子の沈降が起きケーキ状成形体表面に微細なひび割れを生じ、気孔径が大きく強度の低いものとなった。
【0049】
比較例5では、ピッチ粉末を添加していない混合原料粉末で、ピッチ粉末による焼成時の焼き締まりがなく、強度が低いものであった。比較例6においては、実施例2と同じスラリーを吸引濾過によってケーキ状成形体を作製したが、濾過時間が長いため、密度が低く強度が上がらないばかりか、濾過時の通気がなかったために気孔の閉塞が観測された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径70〜300μmの炭素質粉末Aが40〜70重量部、平均粒子径10〜45μmの炭素質粉末Bが20〜50重量部、平均粒子径1〜30μmのピッチ粉末が10〜30重量部の組成比に混合した混合原料粉末100重量部を、分散剤0.5〜5重量部と熱硬化性樹脂を水または有機溶剤に溶解して樹脂固形分濃度が40〜70重量%に調整した樹脂溶液に加えて攪拌および脱泡処理して、粘度(25℃)が0.5〜8Pa・sのスラリーを調製し、次いで、該スラリーを成形濾過容器に流し込み、加圧濾過してケーキ状の成形体を作製し、該ケーキ状成形体を乾燥した後、熱硬化性樹脂成分を加熱硬化し、非酸化性雰囲気中で800〜3000℃の温度で焼成することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項2】
多孔質炭素材が平均気孔径0.5〜10μm、気孔率10〜40%の気孔性状を有する請求項1記載の多孔質炭素材料の製造方法。

【公開番号】特開2009−40635(P2009−40635A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207423(P2007−207423)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】