説明

多孔質金属体と支持体との接合部の接合構造およびその製造方法

【課題】本発明は、改善された多孔質金属体と支持体の接合部の接合構造及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の一態様は、多孔質金属体と該多孔質金属体を支持する金属製の支持体を備えた部材の前記多孔質金属体と前記支持体が溶融接合されてなる接合部の接合構造であって、前記接合部は、閉じられた領域を形成するように配設されているとともに支持体の側から溶融接合されている多孔質金属体と支持体との接合部の接合構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質金属体と支持体との接合部の接合構造及びその製造方法に係り、特に、フィルターとしての多孔質金属体と該多孔質金属体を支持する金属製の支持体とを具備してなる濾過用として好適な部材の該多孔質金属体と支持体との接合部の接合構造及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境を保全するための種々の法的規制や対策が行われており、その一つとして自動車の排気ガスの規制強化が推進されている。排気ガスの規制強化に対する技術として、ディーゼルエンジン車などに組み込まれ微細粒子などを除去して排気ガスを浄化する黒煙除去装置(以下、DPF(Diesel Particulate Filter)と称する。)がある。
【0003】
DPF1は、図1に示すように、排気ガスの流入口111と微細粒子などが除去された排気ガスの排出口112を有する略円筒形の金属容器11と濾過用部材12から構成されている。濾過用部材12は、フィルターとして機能する平板状の多孔質金属体122と多孔質金属体122を保持するとともに排気ガスが流通する流通口である開口部124を有する金属製の支持体121からなり、支持体121の開口部124を塞ぐように多孔質金属体122が支持体121に接合されている。DPF1は、この濾過用部材12が金属容器11の内部に複数個積層された構造となっている。ここで、排気ガス中の微小粒子を漏れなく除去するためには、多孔質金属体122と支持体121の接合部に隙間がないようにする必要がある。
【0004】
環境保全対策の一つとして太陽光エネルギーやバイオマス等のクリーンなエネルギーを生み出す技術の開発が進められている。その技術の一つとして燃料電池がある。燃料電池には、固体電解質型燃料電池(SOFC)、溶融炭酸塩型燃料電池、(MCFC)、直接メタノール型燃料電池(DMFC)等がある。DMFCで水素とメタノールを化学反応させるセルの構造を図2に示す。セル2は、燃料としてのメタノールを吸収保持するアノード(燃料極)22aと、酸素を供給するカソード(空気極)22bと、メタノールから分離された水素が移動する電解質膜29とを有し、該電解質膜29を介してアノード22aとカソード22bが組合わされ、さらに、アノード22aやカソード22bはセル2の組立性を考慮し支持体21に接合された構成となっている。ここで、メタノールの保持性及び機械的強度の面から有利な多孔質金属体をアノード22aやカソード22bとして使用することが検討されている。この場合、燃料となる水素やメタノールが漏れてアノード22aに保持された触媒等を害しないように多孔質金属体であるアノード22aやカソード22bと支持体21とを接合する必要がある。
【0005】
この、多孔質金属体と支持体の接合技術の一例が、下記特許文献1(特開2004−139827号公報)、特許文献2(特開2002−289166号公報)に開示されている。
【0006】
特許文献1の接合方法は、図3に示すように、燃料電池の拡散層とセパレータを一体化し軽量化を測るために、多孔質金属体32と支持体である金属の平板31を重ね合せ、多孔質金属体32の側からレーザーを照射して、多孔質金属体32と平板31とを接合するものである。この方法によれば、燃料または酸化剤の通過する開口部34の周囲にレーザー光を照射して多孔質金属体32と平板31とを接合し開口部34の周囲に連続して接合部33を形成することにより、開口部34から流入した流体は接合部33から漏れることなく多孔質金属体32のみを流通するという利点があるが、レーザーが照射された接合部33が溶融してしまう。したがって、この技術を上記構成の部材に適用した場合には多孔質金属体の有効体積が減少するとともに、使用中の応力等で接合部から破損する問題が生じる。
【0007】
また、特許文献2の接合方法は、図4に示すように、接合体の変形を抑え、接合強度を上げるために多孔質金属体42と支持体である金属の平板41を重ね合せ、金属の平板41の側からレーザーでスポット溶接する方法である。この接合方法によれば、多孔質金属体42には必要最小の熱のみが伝わるため、多孔質金属体42が溶融し難く、多孔質金属体42にダメージを与えることなく多孔質金属体42と平板41とを接合することができる。しかしながら、多孔質金属体42と平板41の接合部43はスポット溶接で間欠的に形成されたものであるため、多孔質金属体42と平板41の間に隙間48ができてしまう。したがって、本技術を上記構成の部材に適用した場合には、隙間から流体が漏れ、多孔質金属体を通過しない流体が生じる可能性がある。
【特許文献1】特開2004−139827号公報
【特許文献2】特開2002−289166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の技術の問題点を鑑みてなされたものであり、多孔質金属体と該多孔質金属体を支持する金属製の支持体を備えた部材の多孔質金属体と支持体が溶融接合されてなる接合部の接合構造であって、上記のように保持すべき又は濾過すべき流体が接合部から漏れることのなく、多孔質金属体のダメージの少ない改善された多孔質金属体と支持体の接合部の接合構造及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、多孔質金属体と該多孔質金属体を支持する金属製の支持体を備えた部材の前記多孔質金属体と前記支持体が溶融接合されてなる接合部の接合構造であって、前記接合部は、閉じられた領域を形成するように配設されているとともに支持体の側から溶融接合されている多孔質金属体と支持体との接合部の接合構造である。ここで、前記支持体に流体が流通する開口部が形成されている場合には、開口部の周囲に接合部が配設されていれば好ましい。かかる態様の接合部を有する多孔質金属体と支持体が接合されてなる部材によれば、多孔質金属体と支持体との接合部は閉じられた領域を形成するように配設されているので、流体は、該領域に直接浸入せず、全て多孔質金属体を通ることになる。また、該接合部は支持体の側から接合されてなる構成であるので多孔質金属体の損傷が少ない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記構成とすることにより、多孔質金属体と支持体が接合されてなる部材の該接合部から漏れることなく流体は全て多孔質金属体を通る。したがって、その部材を、例えば濾過用部材として使用する場合には濾過精度を高めることができ、またDMFCのセルとして用いる場合には漏れたエタノールによる触媒の損害を防止できる。また、多孔質金属体の損傷が少ないので流体の濾過能力や保持能力を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明について、その実施の態様に基づき図面を参照しつつ説明する。図5は、本発明の第1態様の多孔質金属体と金属製支持体とが接合されてなるDPFで使用される濾過用の部材の正面から見た断面図および平面図、図6は本発明の第2態様の多孔質金属体と金属製支持体とが接合されてなるDMFCで使用される電極用の部材の一部断面を表示した斜視図、図7は本発明の第3態様の多孔質金属体と金属製支持体とが接合されてなる浄水器で使用される濾過用の部材の斜視図、図8は図5の部材の製造方法を説明するための図である。なお、上記で説明した構成要素と同様なものについては同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0012】
[実施態様1]
本発明の第1態様の部材62は、図1を用いて説明したDFP1に組込まれるものであり、図6に示すように、フィルターとしての略平板状の多孔質金属体122と、該多孔質金属体122を支持するとともに中央部に排気ガスが流通する開口部124とを備えた略平板状の金属製の支持体121と、多孔質金属体122と支持体121とが接合されてなる接合部623とを有している。
【0013】
多孔質金属体62は、SUS316を主体とした複数の金属粒子1221が焼結されてなる骨格の間に多数の空孔1222を有するものであり、DPF1の流入口111から多孔質金属体62に流入した排気ガスの中の微小粒子は該空孔1222で捕捉され、排気ガスから除去され、微小粒子が除去された排気ガスが排気口から排出されるという構成となっている。なお、多孔質金属体62の形状は図示に限られることなく、例えば円形状、楕円形状その他目的に合わせて種々の形状を採用することができる。
【0014】
ここで、多孔質金属体62は、焼結法、発泡法または加圧鋳造法などで製造される。例えば焼結法は、SUS316の金属粒子にパラフィンワックス粒子を混合し、目的の形状にプレス成型し、焼結することによりパラフィンワックス粒子を消失させて金属粒子1221からなる骨格と多数の空孔1222からなる多孔質金属体を得るというものである。焼結法によれば、ラメラー構造やハニカム構造等の複雑な構造を有する多孔質金属体であっても容易に形成できるという利点がある。なお、金属粒子の材質や大きさは、除去する物質や通過する流体などに応じ、耐久性やコスト等の条件に合わせて選択することが可能である。
【0015】
支持体121の材質は、SUS316で形成されている多孔質金属体122との熱的な接合性を考慮してSUS304を採用し、準備した平板状のSUS304からなる基体の中央部を例えば打抜きや機械加工等で除去して開口部124を形成した。なお、後述するように、多孔質金属体122と支持体121を接合する際には、支持体121の側(断面図において上方側)からレーザーを照射し支持体121を加熱し、厚み方向において支持体121を溶融するとともに多孔質金属体122と支持体121を溶融接合する。したがって、支持体121が速やかに溶融するように支持体121の厚みは多孔質金属体122の厚みより薄いことが望ましい。
【0016】
多孔質金属体122と支持体121の接合部623は、平面図に示すように、ハッチングで示す閉じられた領域625を形成するように開口部124の周囲に枠状に配設されているとともに、断面図に示すように、支持体121の側から溶融接合されている構成である。このような構成とすることにより、開口部124から流入した排気ガスは接合部623から漏れることなく、多孔質金属体122のみを通過するので微小粒子が除去されない排気ガスが排出されることを防止できる。さらに、接合部623は支持体121の側から溶融接合されているという構成をとったので、多孔質金属体122にダメージを与えることが少ない。なお、接合部623は、図示のように支持体121の表面から多孔質金属体122と支持体121との接合面まで連続的に溶融している必要はなく、支持体121の厚み方向において途中から溶融している状態であってもよい。
【0017】
[実施態様2]
本発明の第2態様の部材7は、図2を用いて説明したDMFC2に組込まれるものであり、図7に示すように、メタノールの保持させる多孔質金属体である略平板状のアノード72aと、供給された空気を通過させるとともに、空気中の酸素イオンと電解質膜を透過した水素イオンが反応した時に生成される水を通過させる多孔質金属体である略平板状のカソード72bと、アノード72a、カソード72bを支持するとともに中央部に電解質膜29が組み込まれる開口部74を備えた略平板状の金属製の支持体71と、アノード72a、カソード72bそれぞれと支持体71とが接合されてなる接合部723とを有している。支持体71は、アノード72a、カソード72bそれぞれを挟むように配置されている。ここで、接合部73は、図5の部材62と同様に、ハッチングで示す閉じられた領域75を形成するように配設されている。
【0018】
アノード72a、カソード72bを構成する多孔質金属体は、SUS316を主体とした複数の金属粒子が焼結されてなる骨格の間に多数の空孔を有するものである。支持体71の材質は、SUS316で形成されている多孔質金属体との接合性とエタノール等への耐久性を考慮してSUS310を採用し、準備した平板状のSUS310からなる基体の中央部を例えば打抜きや機械加工等で除去して開口部74を形成した。
【0019】
[実施態様3]
本発明の第3態様の部材8は、汚水を浄水化する浄水器のフィルターとして用いられる物であり、図8に示すように、水を濾過するための円柱状の多孔質金属体82と、該多孔質金属体82を支持するとともに中央部に濾過される水が通過する開口部84とを備えた円筒状の金属製の支持体81と、支持体81の両端において多孔質金属体82と支持体81とが接合されてなる接合部83とを有している。この接合部83も上記と同様に、ハッチングで示す閉じられた領域85を形成するように配設されている。したがって、この部材に供給された汚水は接合部83から漏れることなく全て多孔質金属体82を通り、汚水の中の異物は除去され浄水化されることとなる。
【0020】
図5の濾過用部材62の製造方法について図8を参照し説明する。図8において、符号5は多孔質金属体122と支持体121とを溶融接合するレーザー溶接装置であり、符号51はレーザー発振部、符号52はレーザー発振部51で発振されたレーザーを集光する光学レンズ等などが組込まれたレーザー照射部、符号53はレーザー照射部52から照射されたレーザーである。レーザー溶接装置5は、図示しないレーザー走査経路を制御する手段を有し、所定の経路でレーザーを走査することができる。なお、レーザー53としては、YAGレーザー、半導体レーザー、炭酸ガスレーザー等又はそれらの組み合わせを目的に合わせて適宜使用することができる。
【0021】
図8に示すように、開口部124がほぼ中央になるように多孔質金属体122と支持体121を重ね合わせ、支持体121の側すなわち上方から、多孔質金属体122の外周縁部において始点と終点が一致するように、開口部124の周囲に枠状に連続的にレーザー53を走査しながら照射する。レーザー53が照射された支持体121は、厚み方向において支持体121の表面から溶融し、最終的に多孔質金属体122との接合面も溶融し、支持体121と多孔質金属体122面とが接合される。このように、多孔質金属体122を直接レーザー53で加熱しないようにしているので、適宜な加熱条件を設定することにより極めて損傷の少ない状態で多孔質金属体122を支持体121に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】黒煙除去装置の概略構成図である。
【図2】DMFC型燃料電池のセルの概略構成図である。
【図3】従来の多孔質金属体と支持体の接合技術を説明する図である。
【図4】従来の別の多孔質金属体と支持体の接合技術を説明する図である。
【図5】本発明に係る第1態様の部材の概略構成図である。
【図6】本発明に係る第2態様の部材の概略構成図である。
【図7】本発明に係る第3態様の部材の概略構成図である。
【図8】図5の部材の製造方法を示した説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 黒煙除去装置
11 金属容器
12(62) 濾過用部材
111 流入口
112 流出口
121(621) 支持体
122(622) 多孔質金属体
623 接合部
124(624) 開口部
2(7) 燃料電池用セル
21(71) 支持体
22a(72a) アノード(多孔質金属体)
22b(72b) カソード(多孔質金属体)
73 接合部
29 電解質膜
8 浄水器用フィルター部材
81 支持体
82 多孔質金属体
83 接合部
84 開口部
5 レーザー加工機
51 レーザー発振部
52 レーザー光学系
53 レーザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質金属体と該多孔質金属体を支持する金属製の支持体とを備えた部材の前記多孔質金属体と前記支持体が溶融接合されてなる接合部の接合構造であって、前記接合部は、閉じられた領域を形成するように配設されているとともに支持体の側から溶融接合されている多孔質金属体と支持体との接合部の接合構造。
【請求項2】
前記支持体は流体が流通する開口部を備え、前記接合部は前記開口部の周囲に配設されている請求項1に記載の多孔質金属体と支持体との接合部の接合構造。
【請求項3】
多孔質金属体と該多孔質金属体を支持する金属製の支持体を備えた部材の前記多孔質金属体と前記支持体が溶融接合されてなる接合部の製造方法であって、多孔質金属体と金属製の支持体とを重ね合わせ、始点と終点が一致するように支持体の側から連続的にレーザーを照射する多孔質金属体と支持体との接合部の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−205093(P2006−205093A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22021(P2005−22021)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】