説明

多層すき合わせ紙及びその製造方法

【課題】 不織布自体の繊維間の結合強度の向上、長網抄紙機におけるワイヤ上での不織布層と紙層との繊維間の絡み合いによる結合強化の向上、さらに長網抄紙機における加熱乾燥時での不織布層と紙層間での結合強化の向上、これらの相乗効果による剥離防止効果の優れた多層すき合わせ紙の製造方法及び多層すき合わせ紙に関する。
【解決手段】 あらかじめ不織布の少なくとも一方の面にバインダーを塗布し、塗布したバインダーを乾燥させ、バインダーを塗布した不織布を抄紙機上で上層紙料と下層紙料との間にすき合わせ、上層紙料層、不織布層及び下層紙料層を有する多層すき合わせ紙を形成させ、抄紙機の乾燥部において多層すき合わせ紙を加熱乾燥させてなる多層すき合わせ紙及びその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あらかじめバインダーを塗布した不織布を乾燥させ、その不織布を長網抄紙機上ですき合わせる多層すき合わせ紙及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層すき合わせ紙の一般的な製造方法としては、水と繊維を含む原料が貯えられた原料槽を、すき合わせる層数に応じて用意し、原料槽内にメッシュ状の円網を設け、円網で原料槽内の繊維がすくい上げられて繊維ウエブが形成され、ワイヤ等の網状の搬送帯にウエブを転写し、順次他の原料槽と円網により形成された繊維ウエブ同士を重ねて多層すき合わせ紙を製造する方法が知られている。
【0003】
前述した方法では、すき合わせる層数分の原料槽と円網が必要となる問題があった。この問題は、単一の長網を用いて長網上に吐出整流するスライスを設置し、順次複数の原料を長網上で積層することで解決されている。しかしながら、この方法では、原料が長網上で流動性を失うまで搾水され、ウエブを形成した後に積層されるため、層間での繊維同士の水素結合が弱くなり、抄紙後の紙が剥離しやすいという層間剥離の問題があった。
【0004】
このような紙の層間剥離を防止する手段として、複数の円網抄紙機で多層すき合わせ紙を製造する場合、円網抄紙機と長網抄紙機を組み合わせて多層すき合わせ紙を製造する場合及び長網抄紙機と長網抄紙機を組み合わせて多層すき合わせ紙を製造する場合において、すき合わせの段階でスプレー装置やロールコーター装置などで各層に対して接着剤を塗布する方法が提案されている。
【0005】
また、単一の長網抄紙機で多層すき合わせ紙を製造する場合は、周回する無端抄紙網の上に、水と繊維とを含む原料を貯留した複数の槽と、無端抄紙網のすき幅以下で任意の幅のシートを繰り出すシート繰り出し部とを少なくとも一つ以上設置した長網抄紙機において、複数の槽のうち無端抄紙網の周回工程に対して先行する位置に配置された槽内の原料を無端抄紙網の上に吐出し、少なくとも一層以上の原料層流を無端抄紙網の上に形成した後、層流の上にシートを走行させ、さらにシートの上に複数の槽のうち無端抄紙網の周回工程に対して後の位置に配置された槽内の原料を吐出し、無端抄紙網の上でウエットウエブを形成する多層すき合わせ紙が提案されている。この多層すき合わせ紙のシートとは、レーヨンなどの天然繊維を用いた不織布であり、このような天然繊維の不織布をすき合わせることで水素結合(繊維間結合)を起こし、層間接着力を得て層間剥離を防止する手段である(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、他には芯鞘構造を有しその鞘部が芯部より低融点の熱融着性樹脂の繊維を含有するスパンボンド不織布と、その不織布面に湿式抄紙によって連続または不連続に積層形成される抄紙層とからなり、抄紙層は抄紙機のウエットパートで形成されたウエットシートの状態で不織布に積層され、抄紙層と不織布とは、不織布の鞘部の低融点熱溶融性樹脂を介して熱溶融により結合させる多層すき合わせ紙が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維などを用いて作製した不織布を、湿紙と湿紙の間に挟み、熱融着により作製する多層紙も提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−13395号公報
【特許文献2】特許第2784292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したようなスプレー装置やロールコーター装置で接着剤を塗布する方法では、接着剤が乾燥する前にすき合わせるため、湿紙と不織布表面の接着強度は向上するが、不織布層内の強度が低い場合は不織布層内での層間剥離が発生する。
【0010】
また、特開2003−13395号公報のような、レーヨンなどの天然繊維を用いた不織布を用いる方法は、レーヨン繊維と湿紙繊維の繊維間結合だけでは十分な接着力が得られず、やはり層間剥離が発生してしまう。
【0011】
また、特許第2784292号公報のような、合成樹脂繊維からなるスパンボンド不織布を用いた作製された多層すき合わせ紙は、スパンボンド不織布そのものが地合の均一性に欠けることから、すき合わされた多層すき合わせ紙も均一性に欠け、外観、印刷適正及び用紙特性を悪化させることになる。
【0012】
また、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維などを用いて作製した不織布を用いる方法は、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレンが撥水性のある特性を持っていることから、不織布と上下層のパルプ繊維(湿紙)との親和性が悪く、層間剥離が発生してしまうこととなる。
【0013】
例えば、銀行券などの貴重印刷物の基材に多層すき合わせ紙を使用し、前述した問題点がある場合は、ATMや券売機などの現金処理機内の搬送により、層間剥離する恐れがあることから、大幅な耐久性の向上が望まれていた。
【0014】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、具体的には、あらかじめバインダーを塗布した不織布を乾燥させることによって、不織布表面及び不織布層内の繊維間結合を向上させ、さらに不織布を長網抄紙機上ですき合わせ乾燥させることによって、紙層と不織布層の層間結合を向上させ、不織布層内での剥離防止効果及び紙層と不織布層間の剥離防止効果を増大させた多層すき合わせ紙及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の多層すき合わせ紙の製造方法は、あらかじめ不織布の少なくとも一方の面にバインダーを塗布し、塗布したバインダーを乾燥して不織布の繊維間の結合強度を向上させ、バインダーを塗布した不織布を長網抄紙機上で上層紙料と下層紙料との間にすき合わせ、上層紙料のパルプ繊維と不織布の繊維と下層紙料のパルプ繊維とが絡み合うとともに、不織布内のバインダーの一部が上層紙料及び下層紙料の内部に浸透し、上層紙料層、不織布層及び下層紙料層を有する多層すき合わせ紙を形成させ、長網抄紙機の乾燥部において多層すき合わせ紙を加熱乾燥し、加熱乾燥の際に、上層紙料層及び下層紙料層の内部に浸透したバインダーの一部溶融により、上層紙料層と不織布層の層間及び不織布層と下層紙料層の層間の結合強度を向上させることを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明の多層すき合わせ紙の製造方法は、少なくとも、ワイヤ上で上層紙料供給槽により上層紙料を供給し、不織布供給装置により不織布を供給し、下層紙料供給槽により下層紙料を供給してすき合わせた多層すき合わせ紙を、搾水ボックス及びプレスロールで水分を除去し、加熱乾燥装置で乾燥させることを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明の多層すき合わせ紙の製造方法は、バインダーが不織布の繊維間に浸透して繊維と繊維とを固着して結合させるために、バインダーの乾燥温度を50℃〜150℃とすることを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明の多層すき合わせ紙の製造方法は、多層すき合わせ紙の加熱乾燥の乾燥温度が、バインダーの軟化点よりも高いことを特徴とする。
【0019】
本発明の多層すき合わせ紙は、少なくとも、上層紙料層と、バインダーが浸透した不織布層と、下層紙料層とを有することを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明の多層すき合わせ紙は、バインダーがラテックス、溶液、樹脂、エマルジョン及びサスペンジョンからなることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明の多層すき合わせ紙は、不織布の厚みが、10〜200μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
あらかじめ不織布へバインダーを塗布し、乾燥することによる不織布自体の繊維間の結合強度の向上、長網抄紙機における抄紙時のワイヤ上での不織布層と紙層との繊維間の絡み合いによる結合強度の向上、さらに長網抄紙機での多層すき合わせ紙の加熱乾燥時における、不織布層と紙層間での結合強度の向上、これらの相乗効果により、剥離防止効果の優れた多層すき合わせ紙が製造される。
【0023】
長網抄紙機による抄紙法であるため、上層紙料のパルプ繊維と不織布の繊維及び不織布の繊維と下層紙料のパルプ繊維が絡み合って結合強度が向上し、一層剥離防止効果の優れた多層すき合わせ紙を製造することができる。
【0024】
不織布にバインダーを塗布し乾燥させることで、バインダーが長網抄紙機上で水中へ放出(流れ出し)することを防止でき、多くのバインダーが多層すき合わせ紙中に留まり、剥離防止効果が向上する。
【0025】
バインダー(接着剤)の塗布装置やロールコーター装置を設置する必要がなく、抄紙機の簡素化が図れる。
【0026】
不織布へのバインダー塗布をオフラインで行った場合、バインダーを塗布した不織布の品質チェックが可能となる。
【0027】
また、例えば、本発明による多層すき合わせ紙を銀行券などの基材として使用した場合、多層すき合わせ紙の層間剥離が生じないため、ATMや券売機などの現金処理機内の搬送や長期間の使用に対しても問題がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明における多層すき合わせ紙の断面図を示す。図2は、本発明を実施するための最良の形態の長網抄紙機の概略図を示す。図3は、本発明における多層すき合わせ紙の製造過程を示す。図4は、本発明の一実施例におけるラテックスの種類と特徴を示す。図5は、本発明における一実施例及び比較例の多層すき合わせ紙の剥離強度を示す。
【0029】
本発明は、以下に述べる発明を実施するための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の色々な実施の形態が含まれる。
【0030】
まず、多層すき合わせ紙について、図1を参照して説明する。
【0031】
図1は、多層すき合わせ紙の断面図を示す。多層すき合わせ紙(6)は、繊維から成る上部紙層(1)、不織布(2)から成る中間層及び繊維から成る下部紙層(3)を有して構成されている。不織布(2)は、ロールコーター装置等を用いて、あらかじめバインダー(4)を塗布し、熱風乾燥したバインダー塗布済みの不織布(2)である。
【0032】
本発明でいう不織布とは、織機を使わずに各種の繊維ウエブを機械的、化学的、熱的あるいはそれらの組合せによって処理し、接着剤あるいは繊維自身の融着力によって繊維を互いに接合して作った布のことをいう。
【0033】
バインダー(4)としては、熱融着性のものを用いる。本発明でいうバインダーとは、二つの固体を結合させる接着力を発現する接着剤のことをいい、ラテックス、エマルジョン、溶液、サスペンジョン(懸濁液)などのことをさす。バインダー(4)の軟化点としては、室温〜100℃程度のものが望ましい。ここでいう室温とは、使用するバインダーが溶融しない程度の温度のことであり、約30℃とする。
【0034】
軟化点とは、バインダーが急激に変形しやすくなる温度のことである。また、ガラス転移点とは、過冷却液体を経て、凍結された液体ともいえるガラス状態に固化することである。バインダーを構成する物質が、ガラス転移点を持つ高分子物質(例えば、ラテックス)であり、かつ1種類の高分子物質のみで構成されている場合には、軟化点はその高分子物質のガラス転移点とほぼ一致する。
【0035】
さらに、バインダー(4)は不織布(2)を構成する繊維(5)の間に浸透し、不織布(2)の厚さ方向全体に定着していることが望ましい。また、バインダー(4)の塗布量は、剥離防止効果を発現し、製造時の搾水に問題を生じない程度の最適な塗布量であることとする。
【0036】
また、バインダー(4)にラテックス等の熱融着性材料に加えて、あらかじめ有色顔料、無色蛍光顔料、有色蛍光顔料、磁性顔料、赤外吸収又は赤外反射特性を有する顔料、マイクロカプセル等、機能性を有する材料を少なくとも一種類混ぜ込んでから、不織布(2)に塗布することも可能である。
【0037】
多層すき合わせ紙(6)の中間層に不織布(2)を用いることによって、抄紙の際に、下部紙層(3)、不織布(2)及び上部紙層(1)は、互いに繊維が絡み合って結合されるため、層間剥離防止効果に優れる。不織布を構成する繊維(5)は、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール(EVA)、レーヨン、PET等の繊維を用いることにより、層間剥離防止効果がより向上する可能性はあるが、特に限定されるものではなく、何を用いても良い。不織布の厚みは10〜200μm程度であり、10〜60μm程度が好ましい。不織布(2)の幅は特に限定されることなく、上部紙層(1)と下部紙層(3)の間に短冊状に設けても良い。短冊状に設ける場合は、複数本設けることも可能である。
【0038】
上部紙層(1)及び下部紙層(3)に使用される繊維は、特に限定されるものではなく、木材や木綿などの植物繊維を原料とするKP、SP等の化学パルプ、GP、TMP、CTMP等の機械パルプ、古紙再生パルプ等のパルプを適宜選択して使用できる。
【0039】
また、本発明を実施するための最良の形態の多層すき合わせ紙は、その他の偽造防止技術を施すことが可能である。例えば、有色繊維又は細片、無色蛍光繊維又は細片、有色蛍光繊維又は細片、磁性繊維又は細片、金属細片、アルミ細片、赤外吸収特性を有する繊維又は細片、赤外反射特性を有する繊維又は細片及びサーモクロミック繊維又は細片等を少なくとも一種類混抄することが可能であり、さらに、スレッド、すき入れ画像等を施すこともできる。
【0040】
上記の多層すき合わせ紙(6)は、上部紙層(1)、不織布(2)及び下部紙層(3)の3層構造で説明したが、不織布(2)を挟む上部紙層(1)及び下部紙層(3)が含まれていれば、4層、5層等の多層な構造でも良い。
【0041】
次に、多層すき合わせ紙の製造装置について、図2を参照して説明する。
【0042】
図2は、多層すき合わせ紙の製造装置の全体構成を示す。多層すき合わせ紙の製造装置は長網抄紙機(8)と言われ、網帯からなり、循環するエンドレスな抄紙用のワイヤ(9)を有する。このワイヤ(9)は、従動用プーリ(10)と駆動用プーリ(11)との間に架け渡され、ワイヤ(9)に沿って内側に配置された図示しない複数のロールにより支持され、案内されて循環移動する。
【0043】
ワイヤ(9)の上流部(ワイヤの上面における移動始端部)には、上流側から下流側に向けて、下層紙料供給槽(12)、不織布供給装置(13)、上層紙料供給槽(14)が、間隔をおいて順次配設されている。
【0044】
下層紙料供給槽(12)及び上層紙料供給槽(14)内には、それぞれ下層紙料(15)及び上層紙料(16)が充填され、適宜、図示しない供給源から補給され、所定の液位を維持するように制御されている。下層紙料(15)及び上層紙料(16)は、下部紙層(3)及び上部紙層(1)の素材と成る材料であり、主にパルプ繊維、水及び添加剤からなる。
【0045】
下層紙料供給槽(12)及び上層紙料供給槽(14)のそれぞれにおける下流部分には、下層紙料用目止め板(17)及び上層紙料用目止め板(18)が、それぞれ配置されている。下層紙料用目止め板(17)及び上層紙料用目止め板(18)のそれぞれとワイヤ(9)との間の隙間を通して、それぞれワイヤ(9)上に下層紙料及び上層紙料を供給し抄紙を可能とする。
【0046】
不織布供給装置(13)による不織布供給部位は、下層紙料供給槽(12)の下流側であって上層紙料供給槽(14)の上流側に設けられており、ワイヤ(9)上に形成される下層紙料層(湿紙)(19)上に向け、不織布(2)を供給する。この不織布供給装置(13)は、不織布供給ドラム(20)及びテンションロール(21)を備えている。
【0047】
不織布供給装置(13)から供給される帯状の不織布(2)の横幅(w)は、下層紙料用目止め板(17)からワイヤ(9)の上面(搬送面)に供給されて形成される下層紙料層(下部湿紙)(19)の横幅とほぼ同じであり、さらに上層紙料用目止め板(18)から下層紙料層(19)の上面に供給されて形成される上層紙料層(上部湿紙)(22)の横幅ともほぼ同じである。
【0048】
不織布供給ドラム(20)は、その軸心の長手方向(図2において紙面に対して垂直の方向)、即ち不織布(2)の幅方向に、巻き付けてある不織布ごと移動して幅方向に位置を調整できるように、図示しない不織布供給ドラム幅方向位置調整装置で調整される構成となっている。
【0049】
ワイヤ(9)の下流部(ワイヤの上面の移動終端部)の下側には、搾水ボックス(23)が配置されている。この搾水ボックス(23)は、抄紙工程におけるワイヤ(9)の下流部において、下層紙料層(19)、不織布(2)及び上層紙料層(22)内に含まれている水を吸引して搾水するものである。
【0050】
ワイヤ(9)で形成された多層すき合わせ紙(6)は、図示しないガイドロールで案内され最終製品として巻取ロールで巻き取られるが、ワイヤ(9)と巻取ロールの間には、上流側から、プレスロール(24)及び乾燥装置(25)が配設されている。プレスロール(24)は、多層すき合わせ紙にすき入れを付与する場合に用いられる。
【0051】
プレスロール(24)は、多層すき合わせ紙(6)を挟持して下流の巻取ロール側に送る。すき入れは、周知のプレスロール(24)又はタンディロール(26)によって形成される。乾燥装置(25)は、周知の乾燥装置を利用する。
【0052】
次に、本発明における多層すき合わせ紙の製造方法について、図3を参照して説明する。
【0053】
第一に、ロールコーター装置を用いてウエブ状の不織布(2)にバインダー(4)を塗布する。塗布加工部での塗布方式は、グラビア方式、含浸方式もしくは不織布へ塗布可能な方式とする。
【0054】
第二に、バインダー(4)を塗布したウエブ状の不織布(2)を熱風乾燥装置(7)で乾燥し、リール装置で巻き取る。
【0055】
乾燥により不織布層内にバインダー(4)を固着させることで、バインダー塗布後乾燥せずに多層すき合わせ紙をすき合わせる場合と比べて、抄造時における水中へのバインダーの放出量(流れ出し量)が減り、多くのバインダーが用紙中に留まり、剥離防止効果が高まる。乾燥温度は、用いるバインダーの種類にもよるが、50〜150℃程度が望ましい。
【0056】
第三に、多層すき合わせ紙製造装置を用いて、バインダー塗布済の不織布を紙層内にすき合わせる。下層紙料供給槽(12)から下層紙料用目止め板(17)とワイヤ(9)の隙間を通して、下層紙料(15)を循環移動中のワイヤ(9)の上面に供給する。ワイヤ(9)上に供給された下層紙料(19)は、下層紙料層(19)として抄造方向に送られる。
【0057】
この下層紙料層(19)の上面に、不織布供給装置(13)からバインダー塗布済の帯状の不織布(2)を連続的に供給する。帯状の不織布(2)と下層紙料層(19)とはワイヤ(9)上で抄造方向に送られながら重なり、下層紙料(15)は不織布(2)の繊維間に入り込み、下層紙料(15)のパルプ繊維と不織布(2)の繊維が絡み合い両者の強固な結合が生成される。
【0058】
下層紙料(15)のパルプ繊維と重ねられた帯状の不織布(2)のさらに上面に、上層紙料供給槽(14)から上層紙料用目止め板(18)とワイヤ(9)の隙間を通して上層紙料(16)を供給する。上層紙料(16)は、ワイヤ(9)上で上層紙料層(22)として抄造方向に送られながら不織布(2)と重なり、上層紙料(16)は不織布(2)の繊維間に入り込む。このように、長網抄紙機により多層すき合わせ紙を製造することで、上層紙料(16)のパルプ繊維は、不織布(2)の繊維と絡み合うとともに、不織布(2)内にすでに入りこんでいる下層紙料(15)のパルプ繊維とも絡み合い、強固な結合が生成される。
【0059】
多層にすき合わされた多層すき合わせ紙(6)は、搾水ボックス(23)を通過し、下層紙料(15)、不織布(2)及び上層紙料(16)の各繊維が互いに入り組んで絡み合い強固な結合層を形成する。さらに、不織布内の少量のバインダーも紙料中に移動(浸透)し、不織布と紙層間の結合強化につながる。
【0060】
第四に、乾燥装置(25)内を通過して乾燥される。この乾燥時に、不織布(2)に塗布されたバインダー(4)の一部溶融により、下層紙料層(15)と不織布(2)の層間及び不織布(2)と上層紙料層(22)の層間の結合強度が増し、剥離防止効果がさらに向上する。
【0061】
第五に、乾燥装置(25)で加熱乾燥された多層すき合わせ紙(6)は、リール装置(27)で巻き取り、最終製品として完成される。
【0062】
プレスロール(24)により、すき入れを施す場合は、搾水ボックス(23)を通過し、プレスロール31によりすき入れが施される。
【0063】
下層紙料供給槽(12)又は上層紙料供給槽(14)に貯留された原料の紙料特性を異ならせて、色、坪量又は繊維構成の異なる多層すき合わせ紙を作製することも可能である。色の調節については繊維の種類の違い、顔料、染料の混入、漂白か未漂白か等により可能であり、坪量の調節については原料濃度、原料吐出部の調整により可能であり、繊維構成の調節については繊維の種類、配合割合、繊維長、叩解度等を変化させることで可能である。
【0064】
以下に、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0065】
不織布は、坪量12g/m、厚さ35μmのポリビニルアルコール製のものを用いた。バインダーは、単一構造のラテックスとし、ガラス転移点85℃のスチレンブタジエン系ラテックスを用いた。
【0066】
まず、ロールコーター装置を用いて不織布へバインダーを塗布した。塗布方式としては含浸方式を採用し、塗布速度10m/min、熱風乾燥温度100℃の条件のもとで行った。熱風乾燥後、紙管に巻取りバインダー塗布済みの不織布を作製した。塗布量は、乾燥重量で5g/mとした。
【0067】
次に、図2に示した長網抄紙機(8)を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。下層紙料供給槽(12)から吐出される下層紙料(15)を、下層紙料用目止め板(17)とワイヤ(9)の隙間を通して、循環移動中のワイヤ(9)の上面に供給する。ワイヤ(9)上に供給された下層紙料(19)は、下層紙料層(下部湿紙)(19)として抄造方向に送られる。
【0068】
上記方法により作製したバインダー塗布済の不織布(2)を、不織布供給ドラム(20)にセットし、下層紙料層(19)の上面に、不織布供給装置(13)からバインダー塗布済みの不織布(2)を連続的に供給する。下層紙料(15)のパルプ繊維と重ねられた帯状の不織布(2)のさらに上面に、上層紙料供給槽(14)から吐出される上層紙料(16)を、上層紙料用目止め板(18)とワイヤ(9)の隙間を通して供給する。
【0069】
上層紙料(16)は、ワイヤ(9)上で上層紙料層(22)として抄造方向に送られながら不織布(2)と重なり、上層紙料(16)は不織布(2)の繊維間に入り込む。これにより、上層紙料(16)のパルプ繊維は、不織布(2)の繊維と絡み合うとともに、すでに不織布(2)内に入りこんでいる下層紙料(15)のパルプ繊維とも絡み合い生成される。
【0070】
多層にすき合わされた多層すき合わせ紙(6)は、搾水ボックス(23)を通過し、さらに50〜120℃の乾燥ドラム装置(25)を通過して加熱乾燥され、層間結合強度が増し、剥離防止効果の優れた多層すき合わせ紙が完成する。
【0071】
本発明を実施するための最良の形態で記載した軟化点とは、バインダーが急激に変形しやすくなる温度のことである。また、実施例で記載したガラス転移点とは、過冷却液体を経て、凍結された液体ともいえるガラス状態に固化することである。バインダーを構成する物質が、ガラス転移点を持つ高分子物質(例えば、ラテックス)であり、かつ1種類の高分子物質のみで構成されている場合には、軟化点はその高分子物質のガラス転移点とほぼ一致する。
【実施例2】
【0072】
不織布は、坪量12g/m、厚さ35μmのポリビニルアルコール製のものを用いた。バインダーは、単一構造のラテックスとし、ガラス転移点85℃のスチレンブタジエン系ラテックスを用いた。
【0073】
まず、ロールコーター装置を用いて不織布へバインダーを塗布した。塗布方式としてはグラビア方式を採用し、塗布速度10m/min、熱風乾燥温度100℃の条件の下行った。熱風乾燥後、紙管に巻取りバインダー塗布済みの不織布を作製した。塗布量は、乾燥重量で20g/mとした。
【0074】
次に、図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
【実施例3】
【0075】
不織布は、坪量12g/m、厚さ35μmのポリビニルアルコール製のものを用いた。バインダーは、コア・シェル構造のラテックスとし、ガラス転移点がコア部100℃、シェル部0℃のスチレンブタジエン系ラテックスを用いた。
【0076】
まず、ロールコーター装置を用いて不織布へバインダーを塗布した。塗布方式としては含浸方式を採用し、塗布速度10m/min、熱風乾燥温度100℃の条件のもと行った。熱風乾燥後、紙管に巻取りバインダー塗布済みの不織布を作製した。塗布量は、乾燥重量で5g/mとした。
【0077】
次に、図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
【実施例4】
【0078】
不織布は、坪量12g/m、厚さ35μmのポリビニルアルコール製のものを用いた。バインダーは、コア・シェル構造のラテックスとし、ガラス転移点がコア部100℃、シェル部0℃のスチレンブタジエン系ラテックスを用いた。
【0079】
まず、ロールコーター装置を用いて不織布へバインダーを塗布した。塗布方式としては含浸方式を採用し、塗布速度10m/min、熱風乾燥温度100℃の条件の下行った。熱風乾燥後、紙管に巻取りバインダー塗布済みの不織布を作製した。塗布量は、乾燥重量で10g/mとした。
【0080】
次に、図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
【実施例5】
【0081】
不織布は、坪量12g/m、厚さ35μmのポリビニルアルコール製のものを用いた。バインダーは、コア・シェル構造のラテックスとし、ガラス転移点がコア部85℃、シェル部25℃のアクリレート系ラテックスを用いた。
【0082】
まず、ロールコーター装置を用いて不織布へバインダーを塗布した。塗布方式としては含浸方式を採用し、塗布速度10m/min、熱風乾燥温度100℃の条件の下行った。熱風乾燥後、紙管に巻取りバインダー塗布済みの不織布を作製した。塗布量は、乾燥重量で5g/mとした。
【0083】
次に、図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
(比較例1)
【0084】
不織布は、坪量12g/m、厚さ35μmのポリビニルアルコール製のものを用いた。実施例1乃至実施例5においては、不織布にバインダーを塗布し、それを多層にすき合わせた例を示したのに対し、比較例ではバインダーを塗布しない不織布を多層にすき合わせた例を示す。
【0085】
図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
【0086】
図5に、実施例1乃至実施例5及び比較例1で抄造した多層すき合わせ紙についての剥離強度を示す。実施例1で抄造した多層すき合わせ紙を水準1とし、順に、実施例2で抄造した多層すき合わせ紙を水準2、実施例3で抄造した多層すき合わせ紙を水準3、実施例4で抄造した多層すき合わせ紙を水準4、実施例5で抄造した多層すき合わせ紙を水準5とする。また、比較例1で抄造した多層すき合わせ紙は水準0とする。
【0087】
これらの剥離強度から、バインダーを塗布した不織布を用いた多層すき合わせ紙は、バインダーを塗布していない不織布を用いた多層すき合わせ紙と比べて、高い剥離強度を示していることが分かる。
【0088】
さらに、同一のバインダーについては、バインダー塗布量が増えるとともに剥離強度が向上しており、バインダーの種類については、コア・シェル構造のラテックスを用いた多層すき合わせ紙の方が、単一構造のラテックスを用いた多層すき合わせ紙よりも剥離強度が高い。
【0089】
また、図には示さないが、引張強度及び耐折強度等の用紙強度に関しても、バインダーを塗布した不織布を用いた多層すき合わせ紙は、バインダーを塗布していない不織布を用いた多層すき合わせ紙よりも高くなる。この手法により、剥離防止効果に優れ、用紙強度も高い多層すき合わせ紙が作製された。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明における多層すき合わせ紙の断面図を示す。
【図2】本発明を実施するための最良の形態の長網抄紙機の概略図を示す。
【図3】本発明における多層すき合わせ紙の製造過程を示す。
【図4】本発明の一実施例におけるラテックスの種類と特徴を示す。
【図5】本発明における一実施例及び比較例の多層すき合わせ紙の剥離強度を示す。
【符号の説明】
【0091】
1 上部紙層
2 不織布
3 下部紙層
4 バインダー
5 不織布を構成する繊維
6 多層すき合わせ紙
7 熱風乾燥装置
8 長網抄紙機
9 抄紙用のワイヤ
10 従動用プーリ
11 駆動用プーリ
12 下層紙料供給槽
13 不織布供給装置
14 上層紙料供給槽
15 下層紙料
16 上層紙料
17 下層紙料用目止め板
18 上層紙料用目止め板
19 下層紙料層(下部湿紙)
20 不織布供給ドラム
21 テンションロール
22 上層紙料層(上部湿紙)
23 搾水ボックス
24 プレスロール
25 加熱乾燥装置
26 タンディロール
27 リール装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ不織布の少なくとも一方の面にバインダーを塗布し、塗布した前記バインダーを乾燥させ、前記バインダーを塗布した前記不織布を抄紙機上で上層紙料と下層紙料との間にすき合わせ、上層紙料層、不織布層及び下層紙料層を有する多層すき合わせ紙を形成させ、前記抄紙機の乾燥部において前記多層すき合わせ紙を加熱乾燥させることを特徴とする多層すき合わせ紙の製造方法。
【請求項2】
前記抄紙機は長網抄紙機であって、少なくとも、ワイヤ上で上層紙料供給槽により前記上層紙料を供給し、不織布供給装置により前記不織布を供給し、下層紙料供給槽により前記下層紙料を供給してすき合わせた前記多層すき合わせ紙を、搾水ボックス及びプレスロールで水分を除去し、加熱乾燥装置で乾燥させることを特徴とする請求項1記載の多層すき合わせ紙の製造方法。
【請求項3】
前記バインダーが、前記不織布の繊維間に浸透して繊維と繊維とを固着して結合させるため、前記バインダーの乾燥温度を50〜150℃とすることを特徴とする請求項1又は2記載の多層すき合わせ紙の製造方法。
【請求項4】
前記多層すき合わせ紙の加熱乾燥の温度が、前記バインダーの軟化点よりも高いことを特徴とする請求項1乃至3記載の多層すき合わせ紙の製造方法。
【請求項5】
少なくとも、上層紙料層と、バインダーを含有する不織布層と、下層紙料層とを有することを特徴とする多層すき合わせ紙。
【請求項6】
前記バインダーがラテックス、溶液、樹脂、エマルジョン又はサスペンジョンからなることを特徴とする請求項5記載の多層すき合わせ紙。
【請求項7】
前記不織布の厚みが、10〜200μmであることを特徴とする請求項5乃至6記載の多層すき合わせ紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−38267(P2008−38267A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210568(P2006−210568)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】