説明

多層の膜電極接合体の製造方法及びリチウムイオン二次電池

【課題】本発明は、正極板及び負極板の積層が容易で安全性の高い多層の膜電極接合体の製造方法及びリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】本発明は、基材2に電解液3を含浸させて粘着性のフィルム状の電解質膜1を形成する工程と、電解質膜1を形成する工程の後に、電解質膜1を一平面上に延在させるとともに、該電解質膜1に区画線L1,L1・・を設定し、該区画線L1,L1・・により区画された一の単位区画Sに正極板4及び負極板5のいずれか又は双方を接合させて電極接合シート6を形成する工程と、電極接合シート6を形成する工程の後に、電極接合シート6を区画線L1に沿って切断又は折曲して形成された単位区画Sを順次積層する工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等に用いられる多層の膜電極接合体の製造方法及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リチウムイオン二次電池は、正極活物質が正極集電体に塗布された正極板と、負極活物質が負極集電体に塗布された負極板とを、これらの間にセパレータを介在させて積層し、これら正極板、セパレータ及び負極板を積層させた該積層体を電解液と共にケース内に密封するとともに、積層体の正極板と負極板のそれぞれに接続された電極端子をケースから突出させて概略構成されたものであり、前記積層体の製造方法としては、従来より下記特許文献1に開示された方法が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載された積層体の製造方法は、ロール状に巻回された不織布等の電気絶縁性のシートからなるセパレータを、積層ステージ上でつづら折りになるようにジグザグに折り畳むとともに、折り畳むたび毎に正極板及び負極板を該セパレータ上に交互に配置して挟み込むというものである。
また、上記方法により製造された積層体は、該積層体を電解液と共に可撓性のあるシート状外装体等のケースに封止してリチウムイオン二次電池とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−102871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の積層体の製造方法によれば、積層ステージ上でセパレータをつづら折りに折り畳むという工程と、正極板又は負極板を配置するという工程とを交互に行っているため、積層体の製造工程が複雑となり作業効率が悪いという問題があった。
また、積層時、セパレータに電解液が含まれておらず前記正極板及び負極板がセパレータに固定されないため、セパレータの間に配置され上下方向に積層された正極板及び負極板が位置ずれすることがあり、所定の位置に正極板及び負極板が確実に積層された積層体を得難く、該積層体の製造効率が悪いという問題があった。
【0006】
また、前記積層体によりリチウムイオン二次電池を製造する場合には、ケース内に電解液を充填する必要があるため、電解液として用いられる有機溶媒の液漏れに伴う充放電サイクル寿命の低下の可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を提供している。
請求項1の発明は、基材に電解液を含浸させて粘着性のフィルム状の電解質膜を形成する工程と、前記電解質膜を形成する工程の後に、前記電解質膜を一平面上に延在させるとともに、該電解質膜に区画線を設定し、該区画線により区画された一の単位区画に正極板及び負極板のいずれか又は双方を接合させて電極接合シートを形成する工程と、前記電極接合シートを形成する工程の後に、前記電極接合シートを前記区画線に沿って切断又は折曲して形成された前記単位区画を順次積層する工程とを有することを特徴とする。
本発明では、フィルム状の電解質膜を形成し、その後、該電解質膜を一平面上に延在させて正極板及び負極板を接合し、更にその後、単位区画を積層するものであるため、各工程の作業が集中して効率的に行われる。
また、粘着性の電解質膜に正極板及び負極板を配するため、この粘着性により正極板と負極板とを電解質膜の所定の単位区画に確実に接合することができ、位置ずれが生じにくい。
【0008】
請求項2の発明は、前記正極板及び前記負極板は、該正極板及び該負極板のいずれか一方又は双方に前記電解液を塗布した後に前記電解質膜に接合されることを特徴とする。
本発明では、正極板及び負極板のいずれか一方又は双方に前記電解液が塗布されるため、リチウム塩を正極板または負極板の表面に十分に付着させることができる。
【0009】
請求項3の発明は、前記フィルム状の電解質膜を形成する工程、前記電極接合シートを形成する工程、又は前記単位区画を順次積層する工程の少なくとも一の工程において電解質膜を加温することを特徴とする。
本発明では、前記フィルム状の電解質膜を形成する工程、前記電極接合シートを形成する工程、又は前記単位区画を順次積層する工程の少なくとも一の工程において電解質膜を加温するため、電解液が基材に含浸され易くなり、又は電解質膜の粘着性が高まるため該電解質膜と正負の電極板との接合が容易になる。
【0010】
請求項4の発明は、前記電極接合シートを前記区画線に沿って切断又は折曲して形成された前記単位区画を順次積層する工程により得られた積層体を積層方向に加熱プレスすることを特徴とする。
本発明では、正極板及び負極板と電解質膜との界面をより一層強固に接着することができるため、界面でのリチウム授受の抵抗が小さくなり、サイクル特性・レート特性が向上する。
【0011】
請求項5の発明は、前記電極接合シートは、前記電解質膜の一方の面に前記一の単位区画おきに前記正極板を接合し、前記正極板を接合した前記単位区画の他方の面に前記負極板を接合して形成されることを特徴とする。
本発明では、電極接合シートは、正極板と負極板とが電解質膜を挟んで一の単位区画おきに貼り合わされ、正極板が電解質膜の一の面側に、負極板が同他の面側に接合されているため、区画線に沿って電極接合シートを切断し、切断された単位区画をそのままの向きで順に積層するか、又は区画線に沿って電極接合シートをつづら折りにするだけで、正極板と負極板とが交互に配されるとともにこれら正極板と負極板との間に電解質膜を配した多層の膜電極接合体が得られる。
【0012】
請求項6の発明は、前記電極接合シートは、前記正極板を前記電解質膜において前記延在する方向に設定された前記単位区画に連続して該電解質膜の一方の面に接合し、前記負極板を前記電解質膜において前記延在する方向に設定された前記単位区画に連続して前記電解質膜の他方の面に接合するとともに、前記正極板及び前記負極板のいずれか一方の面上に前記正極板及び前記負極板のいずれも有しない前記電解質膜を接合して形成されることを特徴とする。
本発明では、正極板と負極板が電解質膜を挟んで一方及び他方の面にそれぞれ連続して接合されるとともに、正極板と負極板のいずれか一方にこれら正極板及び負極板のいずれも有しない電解質膜が配されているため、区画線に沿って電極接合シートを切断し、切断された単位区画をそのままの向きで順に積層するだけで、正極板と負極板との間に電解質膜を介在させた多層の膜電極接合体が得られる。
【0013】
請求項7の発明は、前記電解質膜は、該電解質膜の前記延在する方向に沿って形成された第一単位区画列と、前記延在する方向に直交する側に前記第一単位区画列と隣接するように形成された第二単位区画列とを有し、前記電極接合シートは、前記正極板を前記第一単位区画列の一方の面に前記延在する方向に連続して接合するとともに、前記負極板を前記第二単位区画列の他方の面に前記延在する方向に連続して接合し、前記第一単位区画列と、前記第二単位区画列との間の前記区画線で折曲して形成されることを特徴とする。
本発明では、電極接合シートが、正極板が電解質膜の一方の面に前記延在する方向に連続して接合された第一単位区画列と、負極板が電解質膜の他方の面に前記延在する方向に連続して接合された第二単位区画列との間の区画線で折曲して形成されているため、区画線に沿って電極接合シートを折曲し、折曲することで形成された電極接合シートを区画線に沿って切断し、その切断片である単位区画をそのままの向きで順に積層するだけで、正極板と負極板とが交互に配されるとともにこれら正極板と負極板との間に電解質膜を配した多層の膜電極接合体が得られる。
【0014】
請求項8の発明は、リチウムイオン二次電池に関する発明であって、請求項1〜7のいずれか一項に記載の多層の膜電極接合体の製造方法により製造された多層の膜電極接合体を用いて形成されたことを特徴とする。
本発明では、液洩れのしない多層の膜電極接合体がリチウムイオン二次電池に用いられるため、リチウムイオン二次電池の液漏れが発生しなくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る多層の膜電極接合体の製造方法によれば、上記した解決手段によって以下の効果を奏する。
すなわち、本発明によれば、フィルム状の電解質膜を形成し、その後、該電解質膜を一平面上に延在させて正極板及び負極板を前記電解質膜に接合し、更にその後、単位区画を積層している。すなわち、各工程の作業を分離して集中的に行うため、多層の膜電極接合体の製造が効率的となるという効果を奏する。また、多層の膜電極接合体の製造の各工程が単純化され、多層の膜電極接合体が的確かつ確実に製造され得るという効果を奏する。
【0016】
また、粘着性の電解質膜に正極板又は負極板を配するため、この粘着性により正極板と負極板とを電解質膜の所定の単位区画に確実に接合することができる。したがって、正極板及び負極板の位置ずれを生じさせ難く、所定の位置に確実に積層された多層の膜電極接合体の製造効率が高められるという効果を奏する。
【0017】
また、正極板と負極板が接合された電極接合シートを区画線に沿って切断又は折曲して単位区画毎に積層するというシンプルな構成であるため、製造設備の単純化及び低コスト化が図られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】は、本発明の第1の実施形態として示した多層の膜電極接合体の製造方法の概略を示した説明図であり、(a)は製造工程の全体を側面視した図であり、(b)は製造工程の一部を平面視した図である。
【図2】は、本発明の第1の実施形態として示した多層の膜電極接合体の製造方法の変形例を示した図であり、(a)は該製造工程の一部を側面視した図であり、(b)は該製造工程の一部を平面視した図である。
【図3】は、本発明の第2の実施形態として示した多層の膜電極接合体の製造方法を示した図であり、(a)は該製造工程の一部を側面視した図であり、(b)は該製造工程の一部を平面視した図である。
【図4】は、本発明の第3の実施形態として示した多層の膜電極接合体の製造方法を示した図であり、(a)は該製造工程の一部を側面視した図であり、(b)は該製造工程の一部を平面視した図である。
【図5】は、本発明の第4の実施形態として示した多層の膜電極接合体の製造方法を示した図であり、(a)は該製造工程の一部を側面視した図であり、(b)は該製造工程の一部を平面視した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態の多層の膜電極接合体の製造工程を示した概略説明図である。
【0020】
図1(a),(b)に示すように、第1の実施形態の多層の膜電極接合体の製造は、(I)フィルム状の電解質膜を形成する工程と、(II)電極接合シートを形成する工程と、(III)単位区画を順次積層する工程とを備えている。
【0021】
(I)フィルム状の電解質膜1を形成する工程においては、ロール状に巻回された不織布等のセパレータよりなる基材2と、電解液3とを備えた電解質膜1を形成する。
【0022】
セパレータの材質としては、特に限定されないがポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン等)やポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂等が用いられる。
【0023】
電解液3は、高分子マトリックス及び非水電解質液(すなわち、非水溶媒及び電解質塩)からなり、ゲル化されて表面に粘着性を生じるものである(電解質が溶媒に完全に溶けていないものを含む)。なお、電解液3は、高分子マトリックス及び非水溶媒からなり、固体電解質となるものであってもよい。いずれの電解液3であっても、該電解液3が基材2に塗布又は含浸された際に粘着性を有するものが用いられる。また、電解液3は、基材2の表面から分離しない自立膜を形成するものであることが好ましい。
【0024】
高分子マトリックスとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシド等のアルキレンエーテルをはじめ、ポリエステル、ポリアミン、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン等が用いられる。
【0025】
非水溶媒は、γ−ブチロラクトン等のラクトン化合物;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の炭酸エステル化合物;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル化合物;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;スルホラン等のスルホン化合物、ジメチルホルムアミド等のアミド化合物等、単独または2種類以上を混合して調整される。
なお、電解液3を固体電解質膜にする場合には、アセトニトリル等のニトリル化合物;テトラヒドロフラン等のエーテル化合物:ジメチルホルムアミド等のアミド系化合物を単独または2種類以上を混合して調製される。
【0026】
電解質塩としては、特に限定されないが六フッ過リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩等が使用できる。
【0027】
(II)電極接合シート6を形成する工程においては、正極板4及び負極板5と電解質膜1とを備えた電極接合シート6を形成する。
【0028】
正極板4には、例えばアルミニウム箔からなる矩形の正極集電体の両面に正極活物質層が形成され、正極集電体の端縁から端子用タブを突出させたものが用いられる。正極集電体の大きさは、電解質膜1の表面内に納まるように設定されている。
正極の前記端子用タブの材質としては、例えばアルミニウムが挙げられる。
【0029】
正極活物質層は、例えば正極活物質と、導電助剤、バインダーとなる結着剤を溶媒に分散させてなる正極用スラリーを、正極集電体の片面又は両面に塗布し、該正極用スラリーを乾燥させて得られる。塗布後は、必要に応じてプレスを行ってもよい。
正極活物質としては、例えば一般式LiMxOy(ただし、Mは金属であり、x及びyは金属Mと酸素Oの組成比である)で表される金属酸リチウム化合物が用いられる。具体的には、金属酸リチウム化合物としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等が用いられる。
導電助剤としてはアセチレンブラック等が用いられ、結着剤としてはポリフッ化ビニリデン等が用いられる。
【0030】
負極板5は、例えば銅(Cu)からなる矩形の負極集電体に負極活物質層が形成され、負極集電体の端縁から端子用タブを突出させたものが用いられる。負極集電体の大きさは、電解質膜1の表面内に収まるように設定されている。
負極の前記端子用タブの材質としては、例えばニッケルが挙げられる。
【0031】
負極活物質層は、例えば炭素粉末や黒鉛粉末等からなる炭素材料と、ポリフッ化ビニリデンのような結着剤とを溶媒に分散させてなる負極用スラリーを、負極集電体の片面又は両面に塗布し、該負極用スラリーを乾燥させることによって得られる。塗布後は、必要に応じてプレスを行ってもよい。
【0032】
次に、多層の膜電極接合体の製造方法の工程(I)〜(III)について説明する。工程(I)〜(III)は、ロール状の基材2のロール側を上流側とし、ロールから引き出される基材2の先端側を下流側として、基材2の上流から下流に向かって一連の製造工程として連続的に行われる。
(I)フィルム状の電解質膜1を形成する工程
電解質膜1を形成するに当たっては、図1(a),(b)に示すように、まず、予め40℃〜120℃の範囲で加温して液状にされた希釈溶媒を含まない電解液3をロール状の基材2の下流側P1に用意しておき、該ロール状の基材2の下流側P1においてロールから繰り出される該基材2に該電解液3を塗布又は含浸させていく。そして、電解液3を塗布又は含浸させた基材2を常温に戻すことによってゲル化させフィルム状の電解質膜1を得る。この際、電解質膜1の表面には粘着性が生じている。
なお、塗布又は含浸する電解液3に希釈溶媒が含まれている場合には、該電解液3を基材2に塗布又は含浸した後、希釈溶媒を揮発させ、ゲル化させる。
電解液3の塗布又は含浸方法としては、例えば、ディッピングや、グラビアコーター、コンマコーター、リップコーター等を用いる各種コーター方式が挙げられる。
【0033】
電解液3が固体化されるものである場合には、該電解液3を基材1に塗布又は含浸させた後に粘着性が失われないようにして次工程に供する。
この際、電解液3の粘度は、10から100,000cpsであることが好ましく、100から10,000cpsがより好ましい。
【0034】
(II)電極接合シート6を形成する工程
上記のようにして電解質膜1が形成された後、該電解質膜1を一平面上に一方向に延在させた状態に配置し、該電解質膜1にその先端側から基端側に向けて区画線L1を設定し、一の正極板4又は負極板5を接合させる領域(単位区画)Sを定めながら正極板4及び負極板5を接合して電極接合シート6を形成していく。この際、正極板4及び負極板5の表面には、非水電解質液と同様の電解液3を塗布して、電解質膜1に接合することが好ましい。
電解液3が固体化されるものである場合には、電解質膜1の電解液3に含まれる溶媒が揮発しないよう、電解質膜1を乾燥せずに、速やかに正極板4及び負極板5を貼り付けるようにする。
【0035】
このとき、正極板4は、電解液3の塗布又は含浸位置P1よりも下流側P2において、電解質膜1の一方の面1aに先端から順に該電解質膜1の延在する方向に一方向に、かつ一単位区画Sおきに接合していく。また、正極板4の端子タブ4aは、正極板4を単位区画Sにおける所定の位置に配置することにより、単位区画Sにおける略同位置からフィルム状の電解質膜1の側縁1pの外方に向かって突出させておく。
【0036】
負極板5は、正極板4が接合された電解質膜1の単位区画Sの他方の面1bに、正極板4とで電解質膜1を挟み込むように接合する。また、負極板5の端子タブ5aは、正極板4の端子4aタブと同方向に突出させ、かつ正極板4の端子タブ4aと平面視した際に重ならないように配置する。
【0037】
なお、正極板4及び負極板5を電解質膜1に接合する際には、該電解質膜1を40℃〜120℃の範囲で加温し、電解質膜1においてゲル化された電解質を溶融しておくのが望ましい。
電解質膜1に含まれている電解質が半固体化されている場合にも同様に、電解質膜1を40℃〜120℃の範囲で加温しておくとよい。
【0038】
上記のようにして正極板4及び負極板5を電解質膜1に配置すると、電解質膜1はゲル化された状態又は溶融状態で粘着性を有しているため、これらの正極板4及び負極板5は、電解質膜1に貼着される。
電解質膜1を加温した場合には、その後、電解質膜1を再び常温におき、電解質膜1を再びゲル化する。
【0039】
なお、電解質膜1が固体化されるものである場合、正極板4及び負極板5を半乾きの電解質膜1上に接合した後、該電解質膜1の半固体化された電解液3を乾燥させて電解質膜1に含まれた溶媒を揮発させ、固体化する。
【0040】
(III)電極接合シート6を単位区画S毎に順次積層する工程
工程(III)においては、上記工程(II)よりも更に下流側P3の所定の位置において、電極接合シート6を該シートの幅方向に形成された区画線L1,L1・・に沿って切断し、一の単位区画Sを形成する。そして、切断された単位区画Sをそのままの向きで順に積み重ねた積層体Aを得る。この積層体Aにおける正極および負極の端子用タブ4a,5aを、それぞれ超音波溶接等の手法で溶接して一体化させ、さらに、タブの一端を外方に突出させた状態でアルミニウム製フィルム等の導電性フィルムでこの積層体Aを包み、ラミネート加工して封止することにより、多層の膜電極接合体(不図示)が得られる。
なお、単位区画Sを積層する際には、該積層される単位区画Sを該電解質膜1が40℃〜120℃の範囲で加温されていることが望ましい。
【0041】
なお、本実施形態においては、電極接合シート6を区画線L1に沿って切断し単位区画Sごとに積層したが、電極接合シート6を区画線L1において折曲してつづら折りにし、単位区画Sごとに正極板4、電解質膜1、及び負極板5を交互に積層してもよい。
【0042】
本実施形態による多層の膜電極接合体の製造方法によれば、フィルム状の電解質膜1を形成し、その後該電解質膜1を一平面上に延在させて正極板4及び負極板5を接合し、更にその後、単位区画Sを折曲又は切断して、積層している。すなわち、多層の膜電解質接合体の製造の各工程をそれぞれ集中的に行うため、該多層の膜電極接合体の製造が効率的となるという効果を奏する。また、製造の各工程が単純化されるため、多層の膜電極接合体が的確かつ確実に製造され得るという効果を奏する。
【0043】
また、電解質膜1が粘着性を有し、この粘着性が正極板4及び負極板5の電解質膜1への接合を確実にし、位置ずれを生じさせ難くするため、所定の位置に確実に積層された多層の膜電極接合体の生産性が高められるという効果を奏する。
【0044】
また、電解質膜1は、電解液3をゲル化又は固体化させるものであり、基材2に留まって流動しないため、多層の膜電極接合体をリチウムイオン二次電池に用いた際に、液漏れが生じず、該リチウムイオン二次電池の安全性が向上するという効果を奏する。
【0045】
また、正極板4及び負極板5の表面に電解液3が塗布されている場合には、積層体A及び多層の膜電極接合体の性能が高いという効果が得られる。
【0046】
また、各工程において、電解質膜1を加温しているため、電解液3の基材2への塗布又は含浸がなされやすくなり、また、電極接合シート6の形成時及び積層体Aの形成時において、電解質膜1への正極板4及び負極板5の接合が容易となるという効果が得られる。
【0047】
また更に、正極板4と負極板5が接合された電極接合シート6を区画線L1に沿って切断し、切断された単位区画Sから順に切断時の向きのまま積層するというシンプルな方法であるため、該多層の膜電極接合体の製造設備の単純化及び低コスト化が計られるという効果を奏する。
【実施例】
【0048】
<電解液>
下記電解液を高分子マトリックスであるPVDF−HFP(ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体、アルドリッチ製)10質量部と、非水電解液であるLiPF6 (キシダ化学製、リチウム塩濃度1mol/l、ジメチルカーボネート:エチレンカーボネート(2:1、体積比)混合溶媒)90質量部とを混合した。この混合溶液をディスパー(プライミクス(株)製 TKホモディスパー2.5型)で1時間攪拌した。
【0049】
<基材>
不織布(PP製、空孔率76%、厚み30μm 廣瀬製紙(株)製HOP6) 幅を100mmにカットしたものをロール状に巻いたものを用いた。
【0050】
<電極>
<正極> LiCoO2(コバルト酸リチウム 日本化学工業(株)セルシードC-5H)89質量部と、PVDF(ポリフッ化ビニリデン、(株)クレハ KFポリマーL♯1120)6質量部と、カーボンブラック(電気化学工業 デンカブラック5質量部と、N−メチルピロリドン(NMP)100質量部とを前記ディスパーで1時間混合し、20μmのアルミニウム箔に両面塗布し、更に減圧乾燥(100℃、−0.1MPa、10時間)してロールプレスした。
<負極>グラファイト(日本黒鉛工業(株)CGB−10)90質量部、PVDF(ポリフッ化ビニリデン、(株)クレハ KFポリマーL♯1120)10質量部、N−メチルピロリドン(NMP)120質量部を前記ディスパーで1時間混合し、20μmの銅箔に両面塗布し、減圧乾燥(100℃、−0.1MPa、10時間)してロールプレスした。
上記の正負の電極をあらかじめカットした。活物質層のある部分としては、負極は80×80mm、正極は78×78mmとした。活物質が被覆されていない部分(タブ部分)を2×5cm程度残してカットした。
【0051】
上記の電解液3を、ディッピング法により基材2に含浸させた。この際70℃で電解液1を加温した。
【0052】
そして、100mm間隔で、区画線L1を設定し、正極板4及び負極板5を配置する単位区画Sと、正極板4及び負極板5のいずれも配置しない単位区画Sとを設けた。正極板4及び負極板5は、ディッピングにより電解液3を塗布した上で、電解質膜1に貼り合わせた。この際、貼り合わせ直前に70℃で電解液1を加温した。
【0053】
上記のようにして得られた電極接合シート6を区画線L1で切断し、単位区画Sごとに重ね合わせ、積層体Aを得た。この際、積層直前の単位区画Sを70℃で加温した。
【0054】
上記の積層体Aを正極板4及び負極板5のそれぞれのタブ部分4a,5aを超音波溶接し、アルミラミネートフィルムで封止して多層の膜電極接合体を得ることができた。
【0055】
図2(a),(b)は、第1の実施の形態の変形例である。本実施形態の電極接合シート6は、上述した第1の実施形態の電極接合シート6を2列連設させて形成している。
この電極接合シート6を単位区画S毎に切断する場合には、2列に形成した電極接合シート6を電解質膜1の延在方向に1列ずつの電極接合シート6となるように区画線L2で電解質膜1を切断し、その後幅方向の区画線L1に沿って切断していく。
【0056】
この変形例によれば、一動作で形成される単位区画Sが増加するため、多層の膜電極接合体の製造効率を高めることができるという効果を奏する。
なお、本変形例では、上述した第1の実施形態の電極接合シート6を2列連設させたものとしたが、これに限られるものではなく、電極接合シート6の延在方向と直交する方向に複数列連接させたものとしてもよい。
【0057】
次に、本発明の第2〜第5の実施形態について、図3〜図5を用いて説明する。なお、第2〜第4の実施形態においては、第1の実施形態と電極接合シート6の作成の方法が異なっているが、それ以外の点については第1の実施形態と同様である。
【0058】
本発明の第2の実施形態について図3を用いて説明する。本実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付しその説明を省略する。
本実施形態においては、電解質膜1の下流側から上流側に向かって一方向かつ一平面上に延在させた単位区画Sに、正極板4を一方の面1aに、負極板5を他方の面1bにそれぞれ連続して貼り合わせ、更に正極板4(又は負極板5)の面上に正極板4及び負極板5のいずれも有しない電解質膜1を配置して電極接合シート6が形成されている。
【0059】
この場合、電極接合シート6の各単位区画Sが電解質膜1、正極板4、電解質膜1、負極板5の順に積層されたものとなるため、該単位区画Sを1つずつ切断して、切断されたままの向きで単位区画Sを上方に積層していくことにより、前述の第1の実施形態による場合と同様の効果が得られる。
【0060】
なお、本実施形態においては、該正極板4及び負極板5のいずれも有しない電解質膜1は、正極板4及び負極板5を貼り合わせた電解質膜1(「第1単位区画列7」とする)の端子タブ4a,5aを突出させた側縁1pと反対側の側縁1qに、第2単位区画列8として連設されたものとしてもよい。
電極接合シート6をかかる構成とすることにより、第2単位区画列8を第1単位区画列7側に折り返して簡便に切断前の上記積層状態、すなわち単位区画Sが電解質膜1、正極板4、電解質膜1、負極板5の順に積層された状態を形成することが可能となる。
【0061】
次に、本発明の第3の実施形態について、図4(a),(b)を用いて説明する。本実施形態において第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付しその説明を省略する。
本実施形態においては、正極板4を接合させた電解質膜1を、これとは別に形成された負極板5を接合させた電解質膜1上に配置することにより電極接合シート6を形成している。
この場合も、電極接合シート6の各単位区画Sが正極板4、電解質膜1、負極板5、電解質膜1の順に積層されたものとなるため、該単位区画Sを1つずつ切断して切断されたままの向きで単位区画Sを上方に積層していくことにより、前述の第1の実施形態による場合と同様の効果が得られる。
【0062】
次に、本発明の第4の実施形態について、図5(a),(b)を用いて説明する。本実施形態において第1又は第2の実施形態と同一の構成については同一の符号を付しその説明を省略する。
本実施形態において、電解質膜1は、単位区画Sが2つ設けられる幅寸法とし、該電解質膜1の一側縁1p側の第一単位区画列7に正極板4を接合させ、他側縁1q側の第二単位区画列8に負極板5を接合させる。
この場合、正極板4は、第一単位区画列7において電解質膜1の一方の面1bに連続して接合し、負極板5は、第二単位区画列8において電解質膜1の他方の面1aに連続して接合している。
そして、第一単位区画列7と、第二単位区画列8との間の区画線L2において電解質膜1を折曲し、第一単位区画列7と第二単位区画列8とを重ね合わせることにより、電極接合シート6を形成している。
【0063】
この場合、電極接合シート6の各単位区画Sが電解質膜1、負極板5、電解質膜1、正極板4の順に積層されたものとなるため、該単位区画Sを1つずつ切断して切断されたままの向きで単位区画Sを上方に積層していくことにより、前述の第1の実施形態による製造方法の場合と同様の効果が得られる。
【0064】
上記に述べた態様の電極接合シート6のほか、下流側から電解質膜1の一方の面1aに正極板4及び負極板5の双方を交互に接合し電極接合シート6を形成してもよい。
この場合、正極板4又は負極板5が接合された単位区画Sを電解質膜1の下流において順に切断し、切断したままの向きで順に積層していくだけで簡易に積層体Aが得られる。
【0065】
また、電解質膜1の一方の面1aに正極板4を1単位区画Sおきに接合するとともに、負極板5を電解質膜1の他方の面1bに、正極板4の接合された単位区画Sと単位区画Sを1つずらして1単位区画Sおきに接合して電極接合シート6を形成してもよい。この場合、電極接合シート6を下流の単位区画Sから順につづら折りにすることにより簡単に積層体Aが得られる。
【0066】
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。本実施形態において第1から第4の実施形態と相違する点についてのみ説明し、同一の構成についてはその説明を省略する。
本実施形態では、第1から第4の実施形態と異なり、単位区画Sを順次積層する工程(III)において積層体Aを積層方向に加熱プレスする構成としている。
加熱プレスは、熱ラミネータや熱ロール等を用いることができる。加熱の温度は、例えば50度から100度、より好ましくは60℃〜80℃で行われることが好ましい。
【0067】
上記の構成とすることにより、電極接合シート6を形成する工程(II)、及び単位区画Sを順次積層する工程(III)のいずれの工程で電解質膜1が加温されていない場合であっても、電解液3が正極板4および負極板5に含浸され易くなるとともに、電解質膜1の粘着性が高まって該電解質膜1と正負の電極板3,4との接合が容易になる。また、正極板3及び負極板4と電解質膜1との界面をより強固に接着することができるため、界面でのリチウム授受の抵抗が小さくなり、サイクル特性・レート特性が向上するという効果が得られる。
また、上記工程(II)〜(III)のいずれか又は全ての工程において電解質膜1が加温された場合であっても、正極板4及び負極板5と電解質膜1との界面をより一層強固に接着することができる。そしてその結果、界面でのリチウム授受の抵抗が小さくなり、サイクル特性・レート特性が向上するという効果が得られる。
【符号の説明】
【0068】
1 電解質膜
1a 一方の面
1b 他方の面
2 基材
3 電解液
4 正極板
5 負極板
6 電極接合シート
7 第一単位区画列
8 第二単位区画列
A 積層体
L1,L2 区画線
S 単位区画

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に電解液を含浸させて粘着性のフィルム状の電解質膜を形成する工程と、
前記電解質膜を形成する工程の後に、前記電解質膜を一平面上に延在させるとともに、該電解質膜に区画線を設定し、該区画線により区画された一の単位区画に正極板及び負極板のいずれか又は双方を接合させて電極接合シートを形成する工程と、
前記電極接合シートを形成する工程の後に、前記電極接合シートを前記区画線に沿って切断又は折曲して形成された前記単位区画を順次積層する工程とを有することを特徴とする多層の膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多層の膜電極接合体の製造方法において、
前記正極板及び前記負極板は、該正極板及び該負極板のいずれか一方又は双方に前記電解液を塗布した後に前記電解質膜に接合されることを特徴とする多層の膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多層の膜電極接合体の製造方法において、
前記フィルム状の電解質膜を形成する工程、前記電極接合シートを形成する工程、又は前記単位区画を順次積層する工程の少なくとも一の工程において電解質膜を加温することを特徴とする多層の膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の多層の膜電極接合体の製造方法において、
前記電極接合シートを前記区画線に沿って切断又は折曲して形成された前記単位区画を順次積層する工程により得られた積層体を積層方向に加熱プレスすることを特徴とする多層の膜電極接合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の多層の膜電極接合体の製造方法において、
前記電極接合シートは、前記電解質膜の一方の面に前記一の単位区画おきに前記正極板を接合し、前記正極板を接合した前記単位区画の他方の面に前記負極板を接合して形成されることを特徴とする多層の膜電極接合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載の多層の膜電極接合体の製造方法において、
前記電極接合シートは、前記正極板を前記電解質膜において前記延在する方向に設定された前記単位区画に連続して該電解質膜の一方の面に接合し、前記負極板を前記電解質膜において前記延在する方向に設定された前記単位区画に連続して前記電解質膜の他方の面に接合するとともに、前記正極板及び前記負極板のいずれか一方の面上に前記正極板及び前記負極板のいずれも有しない前記電解質膜を接合して形成されることを特徴とする多層の膜電極接合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載の多層の膜電極接合体の製造方法において、
前記電解質膜は、該電解質膜の前記延在する方向に沿って形成された第一単位区画列と、前記延在する方向に直交する側に前記第一単位区画列と隣接するように形成された第二単位区画列とを有し、
前記電極接合シートは、前記正極板を前記第一単位区画列の一方の面に前記延在する方向に連続して接合するとともに、前記負極板を前記第二単位区画列の他方の面に前記延在する方向に連続して接合し、前記第一単位区画列と、前記第二単位区画列との間の前記区画線で折曲して形成されることを特徴とする多層の膜電極接合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の多層の膜電極接合体の製造方法により製造された多層の膜電極接合体を用いて形成されたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−156128(P2012−156128A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−289449(P2011−289449)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】