説明

多層シート及びその真偽判別方法

【課題】 不織布上に異なる複数の透明材料を用いて不可視画像を形成し、そのシートを中層として抄造した多層シート及びその多層シートを赤外分光法による透過イメージングに基づき真偽判別する方法に関するものである。
【解決手段】 不織布の少なくとも一方の面に、少なくとも2種類以上の異なる透明材料によって不可視情報を施し、不可視情報を施した不織布を抄紙機上で上層紙料と下層紙料との間にすき合わせ、上層紙料層、不織布層及び下層紙料層を有する多層シートを形成させ、抄紙機の乾燥部において多層シートを加熱乾燥させて成る多層シート及びその多層シートを赤外分光法による透過イメージングに基づき真偽判別する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布上に異なる複数の透明材料を用いて不可視画像を形成し、そのシートを中間層として抄造した多層シート及びその多層シートを赤外分光法における透過イメージングに基づき真偽判別する方法である。
【背景技術】
【0002】
銀行券や諸証券、パスポート等のセキュリティが必要な印刷物には、偽造を抑制するために真正品と偽造品を区別するための真偽判別要素が不可欠である。そのことから、複数の真偽判別要素が様々な方法で複合的な構成で付与された印刷物が多数提案されており、また、それらの印刷物を真偽判別するための手段の一つとして、特別な装置を用いて真偽判別する方法が多数提案されている。
【0003】
例として、紙から成るシートの少なくとも片面に通常インキにより絵柄印刷層を設け、その絵柄印刷層の表面に、複数の蛍光インキを用いた隠し絵柄や隠し文字等の蛍光インキを用いて印刷した印刷層を設ける。その際、各蛍光インキとしては、太陽光や蛍光灯等の白色光のような可視光領域では無色で、紫外線照射により色相の異なる有色にそれぞれ変化するインキを用いて印刷する偽造防止印刷物が提案されている。これは、複数の蛍光インキを用いて印刷した隠し絵柄や隠し文字等が、太陽光等の下では視認することができないが、紫外線ランプによって紫外線を照射することにより浮かび上がらせ、真偽判別を行うものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、シートを多層にした場合のシート内面に文字や図柄を形成する印刷物が提案されている。これは、下層ウエブ全体又は表面に、紫外線により発色する蛍光発色粒子を含ませ、上層となるウエブに紙層の一部が薄くなるすき入れを施し積層する。得られた紙の上層側から紫外線を照射すると紙層が薄いすき入れ部が蛍光発色し、すき入れの図柄を浮かび上がらせることで真偽判別を行うものである(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、抄紙機の無端抄紙網上で中層にシートを挿入して上下を複数の原料層流で挟み込み、無端抄紙網上で多層のウエットウエブを構成し、中層のシートにはあらかじめ光学的、電気的又は磁気的な特性を持つ特定物質のいずれか一つ以上を用いて混抄又は印刷により文字や図柄を形成し、又は中層のシートに微細な孔を開け、孔の大きさや配置により文字や図柄を形成した多層すき合わせ紙が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、ナトリウムからウランまでの特定の元素を用いてあらかじめ文字や数字などの画像情報を付与し、その付与した上に任意の方法を用いて画像情報を覆い隠した画像形成物が提案されている。これは、蛍光X線分析装置を用いることによって、特定元素の蛍光X線スペクトルによりマッピングを行い、覆い隠した部分に隠された文字や数字などの画像情報を像として認識することで真偽判別を行うものである(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
【特許文献1】実用新案第2595770号公報
【特許文献2】特開2001−81698号公報
【特許文献3】特開2003−13395号公報
【特許文献4】特開2000−218920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、実用新案第2595770号公報で提案されているようにシートの表面に印刷を施した場合、使用するインキが無色透明であってもシートの光沢値とインキの光沢値に差が生じ、隠し絵柄としての隠蔽力に欠けるという問題がある。
【0009】
また、特開2001−81698号公報で提案されている方法で文字や図柄を形成する場合、シートの内面に印刷する文字や図柄がすき入れに依存することとなり、細かな文字や図柄が形成しづらいという問題がある。
【0010】
また、特定の光を照射し反射光で真偽判別を行う方法では、特殊インキや希少インキを使用しなければならず、さらに、それらのインキで多重印刷を行った場合、上に印刷した材料の影響を受けてしまい、下に印刷した画像のイメージが取得しづらいという問題がある。
【0011】
また、各種元素分析法(蛍光X線、SEM−EDX、FTIR−ATR)を用いた分析は、マッピングに時間を要し、前処理等が必要な場合が多いという問題がある。
【0012】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、具体的には、シート上に異なる複数の透明材料を用いて不可視画像を形成し、そのシートを中間層として抄造した多層シート及びその多層シートを赤外分光法における透過イメージングを用いて真偽判別する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の多層シートは、上層紙料層と、2種類以上の異なる透明材料が施された不織布層を少なくとも有する中間紙料層と、下層紙料層から成る多層シートである。
【0014】
本発明の多層シートは、2種類以上の異なる透明材料が、それぞれ化学組成が一部異なっており、透明材料により不織布に情報が施されて成る多層シートである。
【0015】
本発明の多層シートの真偽判別方法は、不織布の少なくとも一方の面に、少なくとも2種類以上の異なる透明材料によって不可視情報を施し、不可視情報を施した不織布を抄紙機上で上層紙料と下層紙料との間にすき合わせ、上層紙料層、不織布層及び下層紙料層を有する多層シートを形成させ、抄紙機の乾燥部において加熱乾燥させて成る多層シートの真偽判別方法であって、あらかじめ赤外分光法における分解能及びイメージピクセルサイズを選定して条件を決定し、選定した条件のもと、多層シートに対して透過イメージングにより平均吸光度イメージを取得し、取得した平均吸光度イメージに対して、異なる透明材料ごとに領域分けし、領域ごとに任意の点の赤外スペクトルをそれぞれ取得し、取得した赤外スペクトルから、少なくとも2種類の異なる透明材料ごとの官能基由来のピーク波数を選定し、選定したそれぞれのピーク波数ごとにケミカルイメージングを行い、ケミカルイメージングにより得られた少なくとも2種類の異なる透明材料によって施された情報のケミカルイメージング画像と、あらかじめ取得していた真正のケミカルイメージング画像とを比較することで真偽判別を行うことを特徴とする多層シートの真偽判別方法である。
【0016】
本発明の多層シートの分析方法は、異なる透明材料ごとに領域分けを行うため、多層シートを製造する段階において領域分けをし、あらかじめ記憶しておくことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
特殊インキや希少インキを用いる必要がなく、また、不可視画像をシートの中間層に形成するため、情報の隠蔽力が高まる。
【0018】
透過光による分析のため、複数の不可視画像を多重形成しても、上に形成した材料の影響を受けずに個々の画像を取得することが可能である。
【0019】
一度の赤外スペクトルの測定で、多重形成した何種類かの不可視画像イメージを一度に取得することが可能である。
【0020】
官能基による差別化が図れるため、光学的に同じような透明又は同色の材料を使用して形成しても、その構造の違いにより差別化が可能である。
【0021】
非破壊で不可視画像イメージを取得でき、複雑な前処理を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明における多層シートを示す。図2は、本発明における多層シートの製造装置を示す。図3は、FTIRイメージング法における赤外スペクトルを得る原理を示す。図4は、本発明における多層シートの真偽判別方法を示す。図5は、本発明の一実施例における多層シートの反射画像を示す。図6は、本発明の一実施例における平均吸光度イメージを示す。図7は、本発明の一実施例における赤外スペクトルを示す。図8は、本発明の一実施例における1705cm−1のシングル波数イメージを示す。
【0023】
図1は、本発明における多層シートを示す。多層シート(5)は、繊維から成る上部紙層(1)、不織布(2)から成る中間層及び繊維から成る下部紙層(3)を有して構成されている。中間層(2)には、異なる複数の透明材料を用いて不可視画像(4)を印刷する。印刷方式は特に限定されるものではない。
【0024】
本発明でいう不織布とは、織機を使わずに各種の繊維ウエブを機械的、化学的、熱的又はそれらの組合せによって処理し、接着剤又は繊維自身の融着力によって構成繊維を互いに接合して作った布のことをいう。
【0025】
透明材料は、中間層の不織布に印刷することが可能で、上下層とすき合わせた後に視認しにくく、官能基等の化学組成が一部異なる材料であれば、ラテックス、無色蛍光材料、赤外吸収又は赤外反射特性を有する材料、マイクロカプセル等、特に限定されるものではない。
【0026】
透明材料に、熱融着性を有するラテックス、エマルジョン、溶液、サスペンジョン(懸濁液)などを用いることにより、多層シートの層間接合強度を向上させ、剥離防止効果の優れた多層シートを作製できる。熱融着性の材料を用いる場合、軟化点としては、室温〜100℃程度のものが望ましい。ここでいう室温とは、使用するバインダーが溶融しない程度の温度のことであり、約30℃とする。
【0027】
多層シート(5)の中間層に不織布(2)を用いることによって、抄紙の際に、下部紙層(3)、不織布(2)及び上部紙層(1)は、互いに繊維が絡み合って結合されるため、層間剥離防止効果に優れる。不織布を構成する繊維(5)は、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール(EVA)、レーヨン、PET等の繊維を用いることにより、より層間剥離防止効果が向上する可能性はあるが、特に限定されるものではなく、何を用いても良い。
【0028】
不織布の厚みは10μm〜200μm程度であり、10μm〜60μm程度が好ましい。不織布(2)の幅は特に限定されることなく、上部紙層(1)と下部紙層(3)の間に短冊状に設けても良い。短冊状に設ける場合は、複数本設けることも可能である。
【0029】
上部紙層(1)及び下部紙層(3)に使用される繊維は、特に限定されるものではなく、木材や木綿などの植物繊維を原料とするKP、SP等の化学パルプ、GP、TMP、CTMP等の機械パルプ又は古紙再生パルプ等のパルプを適宜選択して使用できる。
【0030】
また、本発明の多層シートにその他の偽造防止技術を施すことが可能であり、有色繊維又は細片、無色蛍光繊維又は細片、有色蛍光繊維又は細片、磁性繊維又は細片、金属細片、アルミ細片、赤外吸収特性を有する繊維又は細片、赤外反射特性を有する繊維又は細片及びサーモクロミック繊維又は細片等を少なくとも1種類を混抄することも可能であり、さらに、スレッド、すき入れ画像等を施すこともできる。ただし、混抄する材料は、中間層の不可視画像のイメージ取得を行う際に、阻害しない材料であることが望ましい。
【0031】
次に、多層シートの製造装置について、図2を参照して説明する。
【0032】
図2は、多層シートの製造装置である長網抄紙機(8)の全体構成を示す。長網抄紙機(8)は網帯から成り、循環するエンドレスな抄紙用のワイヤ(9)を有する。このワイヤ(9)は、従動用プーリ(10)と駆動用プーリ(11)との間に架け渡され、ワイヤ(9)に沿って内側に配置された図示しない複数のロールにより支持されながら案内されて循環移動する。
【0033】
ワイヤ(9)の上流部(ワイヤの上面における移動始端部)には、上流側から下流側に向けて、下層紙料供給槽(12)、不織布供給装置(13)、上層紙料供給槽(14)が、間隔をおいて順次、配設されている。
【0034】
下層紙料供給槽(12)及び上層紙料供給槽(14)内には、それぞれ下層紙料(15)及び上層紙料(16)が充填され、適宜、図示しない供給源から補給され、所定の液位を維持するように制御されている。下層紙料(15)及び上層紙料(16)は、下部紙層(3)及び上部紙層(1)の素材と成る材料であり、主にパルプ繊維、水及び添加剤から成る。
【0035】
下層紙料供給槽(12)及び上層紙料供給槽(14)の各下流部分には、下層紙料用目止め板(17)及び上層紙料用目止め板(18)が、それぞれ配置されている。下層紙料用目止め板(17)及び上層紙料用目止め板(18)とワイヤ(9)との間の透き間を通して、それぞれワイヤ(9)上に下層紙料及び上層紙料を供給し抄紙を可能とする。
【0036】
不織布供給装置(13)の不織布供給部位は、下層紙料供給槽(12)の下流側、及び上層紙料供給槽(14)の上流側に設けられており、ワイヤ(9)上に形成される下層紙料層(湿紙)(19)上に向けて不織布(2)を供給する。この不織布供給装置(13)は、不織布供給ドラム(20)及びテンションロール(21)を備えている。
【0037】
不織布供給装置(13)から供給される帯状の不織布(2)の横幅(w)は、下層紙料用目止め板(17)からワイヤ(9)の上面(搬送面)に供給されて形成される下層紙料層(下部湿紙)(19)の横幅とほぼ同じであり、更に上層紙料用目止め板(18)から下層紙料層(19)の上面に供給されて形成される上層紙料層(上部湿紙)(22)の横幅ともほぼ同じである。
【0038】
不織布供給ドラム(20)は、その軸心の長手方向(図2において紙面に対して垂直の方向)、すなわち不織布(2)の幅方向に、巻き付けてある不織布ごと移動して幅方向に位置が調整できるように、図示しない不織布供給ドラム幅方向位置調整装置で調整される構成となっている。
【0039】
ワイヤ(9)の下流部(ワイヤの上面の移動終端部)の下側には、搾水ボックス(23)が配置されている。この搾水ボックス(23)は、抄紙工程におけるワイヤ(9)の下流部において、下層紙料層(19)、不織布(2)及び上層紙料層(22)内に含まれている水を吸引して搾水するものである。
【0040】
ワイヤ(9)で形成された多層シート(5)は、図示しないガイドロールで案内され最終製品として巻取ロールで巻き取られるが、ワイヤ(9)と巻取ロールの間には、上流側からプレスロール(24)及び乾燥装置(25)が配設されている。プレスロール(24)は、多層シートにすき入れを施す場合に用いられる。
【0041】
プレスロール(24)は、多層シート(5)を挟持し、更に下流の巻取ロール側に送る。すき入れは、周知のプレスロール(24)又はタンディロール(26)によって形成される。乾燥装置(25)は、周知の乾燥装置を利用する。
【0042】
次に、多層シートの製造方法について、図2及び図4を参照して説明する。
【0043】
不織布に、化学組成が一部異なる2種類以上の透明材料を用いて、不可視画像を印刷する(STEP1)。印刷方式は、フレキソ印刷、オフセット印刷又はインクジェット印刷等、不織布に印刷可能な方式であれば、特に限定されるものではない。
【0044】
長網抄紙機(8)を用いて、印刷済みの不織布を紙層内にすき合わせる。下層紙料供給槽(12)から下層紙料用目止め板(17)とワイヤ(9)の透き間を通して、下層紙料(15)を循環移動中のワイヤ(9)の上面に供給する(STEP2)。ワイヤ(9)上に供給された下層紙料(19)は、下層紙料層(19)として抄造方向に送られる。
【0045】
この下層紙料層(19)の上面に、不織布供給装置(13)から帯状の不織布(2)を連続的に供給する(STEP3)。帯状の不織布(2)と下層紙料層(19)とはワイヤ(9)上で抄造方向に送られながら重なり、下層紙料(15)は不織布(2)の繊維間に入り込み、下層紙料(15)のパルプ繊維と不織布(2)の繊維が絡み合い両者の強固な結合が生成される。
【0046】
下層紙料(15)のパルプ繊維と重ねられた帯状の不織布(2)の更に上面に、上層紙料供給槽(14)から上層紙料用目止め板(18)とワイヤ(9)の透き間を通して上層紙料(16)を供給する(STEP4)。上層紙料(16)は、ワイヤ(9)上で上層紙料層(22)として抄造方向に送られながら不織布(2)と重なり、上層紙料(16)は不織布(2)の繊維間に入り込む。このように、長網抄紙機により多層シートを製造することで、上層紙料(16)のパルプ繊維は、不織布(2)の繊維と絡み合うとともに、不織布(2)内にすでに入りこんでいる下層紙料(15)のパルプ繊維とも絡み合い、強固な結合が生成される。
【0047】
多層にすき合わされた多層シート(5)は、搾水ボックス(23)を通過して水分が搾水される(STEP5)。この際、下層紙料(15)、不織布(2)及び上層紙料(16)の各繊維が互いに入り組んで絡み合い、強固な結合層を形成する。
【0048】
水分が搾水された多層シートは、乾燥装置(25)内を通過して乾燥される(STEP6)。不織布へ熱融着性材料を印刷している場合には、この乾燥時に熱融着性材料の一部溶融により、不織布層と紙層間の接合強度がさらに増し、剥離防止効果が向上する。
【0049】
乾燥装置(25)で加熱乾燥された多層シート(5)は、リール装置(27)で巻き取り、最終製品として完成される(STEP7)。
【0050】
また、多層シート(5)にすき入れを施す場合は、搾水ボックス(23)を通過し、プレスロール(24)ですき入れを施す。
【0051】
下層紙料供給槽(12)又は上層紙料供給槽(14)に貯留された原料の紙料特性を異ならせて、色、坪量又は繊維構成の異なる多層シートを作製することも可能である。色の調節については繊維の種類の違い、顔料、染料の混入及び漂白又は未漂白か等により可能であり、坪量の調節については原料濃度、原料吐出部の調整により可能であり、繊維構成の調節については繊維の種類、配合割合、繊維長及び叩解度等を変化させることで可能である。
【0052】
多層シート(5)については、不織布の片面が露出している形態であっても可能であるが、不織布へ付与した不可視情報の隠蔽効果を高めるためには、露出部分はない方が好ましい。しかしながら、不可視画像を形成する材料に、光学特性の異なる2種類以上の材料を用いて不透明度の異なる画像を構成し、露出部での反射光画像と透過光画像が異なって目視される画像を形成することができる。また、不織布露出部分では触感も異なることから、このような偽造防止効果を合わせて付与する場合には、露出部分を設けることも可能である。
【0053】
露出部分を形成するための露出部形成器(28)は、液体吐出ノズル、エア吐出ノズル、プレスロール、ダンディーロール等から成る。抄造速度と合わせて一定間隔で噴出するように液体吐出ノズル、エア吐出ノズルが制御され、一定間隔で露出部が形成される。同様に、抄造速度と合わせて、プレスロール又はダンディーロールの回転速度が制御され、一定間隔で露出部が形成される。少なくとも一つ以上のエアノズルにより下層紙料層(19)及び/又は上層紙料層(22)に圧縮空気を噴射し、画像の少なくとも一部が露出する露出部を施しても良い。エアノズルの圧縮空気は、抄造速度に合わせて、位置、タイミング及び空気圧等を制御することができ、噴射する方向は下層紙料層(19)及び/又は上層紙料層(22)に対して直角方向が好ましい。また、エアノズルの代わりに液体噴出ノズルによって液体を噴出させ、露出部を形成することも可能である。圧力は0.5〜4.0Kg/cm程度で、噴射する方向は下層紙料層(19)及び/又は上層紙料層(22)に対して直角方向が好ましい。
【0054】
多層シートの真偽判別方法について、図3及び図4を参照して説明する。
【0055】
中間層に不可視画像を印刷した多層シートを、FTIR透過法により分析し、赤外スペクトルを得る。この赤外スペクトルから、不可視画像を構成する各材料の官能基等由来のピーク波数を決定し、マッピングを行うことにより、不可視画像のイメージを得るイメージング法である。
【0056】
第一に、透過イメージングで多層シートの分析を行い、平均吸光度イメージを取得する(STEP8)。その原理は、図3に示すように、分析対象試料(6)に赤外線(29)を照射して検出器(30)にてピクセル単位で測定し、測定したピクセルをもとに平均吸光度イメージを取得する方法である。検出器(30)で測定する方法には、1ピクセル(31)ずつ検出する方法、広範囲のピクセルのスペクトルを一度に測定する方法、複数のピクセルの測定とステージの動きをリンクさせてイメージング測定を行う方法が挙げられる。
【0057】
測定を行う前の選定条件として、分解能及びイメージピクセルサイズの選定を行う。イメージングピクセルサイズは、6.25μm×6.25μm又は25μm×25μmのどちらかから選定する。微小部位を高感度でイメージングする場合には6.25μm×6.25μmのイメージングピクセルサイズを、広範囲を高速でイメージングする場合には25μm×25μmのイメージングピクセルサイズを選定する。ただし、イメージングサイズは使用する機器によっても異なるため、これに限定することはなく、使用する機器に適合したイメージングピクセルサイズを選定することが望ましい。
【0058】
また、分解能は、光が透過しにくい紙等の基材では8cm−1、光を透過しやすい透明に近い基材の場合では4cm−1が望ましいが、これに限定することなく、分析の目的、用途、測定可能時間等により、最適条件と成る分解能を選定することが望ましい。
【0059】
第二に、取得した平均吸光度イメージに対して、異なる透明材料ごとに領域分けし、領域分けした領域ごとの任意の点の赤外スペクトルをそれぞれ取得する(STEP9)。
【0060】
第三に、取得した赤外スペクトルから、印刷した各々の透明材料の官能基由来のピーク波数を選定して、このピーク波数ごとにケミカルイメージングを行い、各々のイメージング画像を得る(STEP10)。この際、ケミカルイメージングを行うピーク波数は、多層シートに含まれる材料及び多重印刷された他の材料に含まれる成分由来のピークと重ならない波数を選定する。波数が重なると、正確なイメージング画像が取得できない可能性がある。
【0061】
多層シート(5)については、不織布の片面が露出している形態であってもよく、分析方法の条件選定及び手順に変わりはない。露出部分の光学特性や触感の違い等による、他の偽造防止効果も合わせて付与する場合には、露出部分を設けることも可能である。
【0062】
得られた多層シートのケミカルイメージング画像と、あらかじめ取得してある真正の多層シートのケミカルイメージング画像とを比較することで、多層シートが真正品か否かを真偽判別する。
【0063】
なお、多層シートに含まれる各々の材料(繊維、てん料、添加剤等)及び印刷する材料の赤外スペクトルをあらかじめ測定し、取得した赤外スペクトルとあらかじめ測定したスペクトルとを比較認証することも可能である。
【0064】
本発明の実施例について、実際に多層シートを作製した際のデータ(シートの種類、使用した透明材料の種類、官能基由来のピーク波長の数値)を用い、作製手順及び真偽判別方法を説明する。
【実施例1】
【0065】
中間層となる不織布は、坪量12g/m、厚さ35μmのポリビニルアルコール製のものを用いた。
【0066】
透明材料として、2種類の変性スチレン・ブタジエン共重合体のラテックスを使用した。使用するラテックスとしては、ラテックス(A)と、ラテックス(A)と組成及び性状の異なるラテックス(B)を用いた。
【0067】
ラテックス(A)の組成は、スチレン・40ppm、1,3−ブタジエン・10ppm未満、アクリル酸・0.03%未満、メタクリル酸メチル・0.04%未満である。ラテックスの性状は、固形分濃度50%、pH8.5、粒子径320nm、ガラス転移温度85℃である。
【0068】
ラテックス(B)の組成は、スチレン・50ppm、1,3−ブタジエン・10ppm、アクリルアミド・30ppm、メタクリル酸メチル・30ppmである。ラテックスの性状は、固形分濃度50%、pH5.7、粒子径320nm、ガラス転移温度100℃である。
【0069】
コーター装置を用いて不織布へ2種類のラテックスを一部分ずらして、重ねて塗布した。グラビア方式により塗布速度10m/minで塗布し、熱風乾燥温度100℃で乾燥した。熱風乾燥後、紙管に巻き取り、バインダー塗布済みの不織布を作製した。塗布量は、各ラテックス5g/mずつ、合わせて10g/mとした。
【0070】
次に、図2に示した多層シートの製造装置を用いて、多層シートを抄造した。下層紙料供給槽(16)から吐出される下層紙料(19)を、下層紙料用目止め板(21)とワイヤ(12)の隙間を通して、循環移動中のワイヤ(12)の上面に供給する。ワイヤ(12)上に供給された下層紙料(23)は、下層紙料層(下部湿紙)(23)として抄造方向に送られる。
【0071】
上記方法により作製したバインダー塗布済の不織布(2)を、不織布供給ドラム(24)にセットし、下層紙料層(23)の上面に、不織布供給装置(17)からバインダー塗布済みの不織布(2)を連続的に供給する。下層紙料(19)のパルプ繊維と重ねられた帯状の不織布(2)の更に上面に、上層紙料供給槽(18)から吐出される上層紙料(20)を、上層紙料用目止め板(22)とワイヤ(12)の透き間を通して供給する。
【0072】
多層にすき合わされた多層シート(5)は、搾水ボックス(23)を通過し、更に50℃〜120℃の乾燥ドラム装置(32)を通過して乾燥され、多層シートが完成する。
【0073】
図5は、2種類のラテックスを、位置をずらして塗布した多層シートの反射画像と、各ラテックスを塗布した位置を示す。
【0074】
透過イメージングにより、分解能16cm−1、イメージングピクセルサイズ25μm×25μmの条件で分析を行い、取得した平均吸光度イメージを図6に示す。
【0075】
図7に、図6で取得した平均吸光度イメージの任意の点(+1〜+4)の赤外スペクトルを示す。+1及び+3の箇所から取得した赤外スペクトルで、1,705cm−1付近に強い(吸光度の高い)ピークが確認され、+4の箇所から取得した赤外スペクトルでは、1705cm−1付近に弱い(吸光度の低い)ピークが確認された。また、各々のラテックスのみの赤外スペクトルの測定から、ラテックス(A)は1,705cm−1付近に強い(吸光度の高い)ピークを示し、ラテックス(B)では、1,705cm−1付近に弱い(吸光度の低い)ピークしか示さないことを確認しており、+1及び+3の箇所から取得した赤外スペクトルはラテックス(A)に由来し、+4の箇所から取得した赤外スペクトルはラテックス(B)に由来するといえる。
【0076】
図8は、図7で取得した赤外スペクトルから、ラテックス中の成分に由来する1,705cm−1付近のピークにおいてシングル波数イメージングを行った図である。
【0077】
図8に示されるシングル波数イメージは、多層シートの中層を成す不織布へ塗布した各々のラテックスの分布画像といえる。さらに、ラテックスの種類による分離も行えたことから、多層シートの内面に形成された、異なる2種類のラテックスによる不可視画像を、IRイメージで可視化することができた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明における多層シートを示す。
【図2】本発明における多層シートの製造装置を示す。
【図3】FTIRイメージング法における赤外スペクトルを得る原理を示す。
【図4】本発明における多層シートの分析手順を示す。
【図5】本発明の一実施例における多層シートの反射画像を示す。
【図6】本発明の一実施例における平均吸光度イメージを示す。
【図7】本発明の一実施例における赤外スペクトルを示す。
【図8】本発明の一実施例における1,705cm−1のシングル波数イメージを示す。
【符号の説明】
【0079】
1 上部紙層
2 不織布
3 下部紙層
4 透明材料による画像
5 多層シート
6 分析対象試料
7 熱風乾燥装置
8 長網抄紙機
9 抄紙用のワイヤ
10 従動用プーリ
11 駆動用プーリ
12 下層紙料供給槽
13 不織布供給装置
14 上層紙料供給槽
15 下層紙料
16 上層紙料
17 下層紙料用目止め板
18 上層紙料用目止め板
19 下層紙料層(下部湿紙)
20 不織布供給ドラム
21 テンションロール
22 上層紙料層(上部湿紙)
23 搾水ボックス
24 プレスロール
25 加熱乾燥装置
26 タンディロール
27 リール装置
28 露出部形成器
29 赤外線
30 検出器
31 1ピクセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層紙料層と、2種類以上の異なる透明材料が施された不織布層を少なくとも有する中間紙料層と、下層紙料層から成る多層シート。
【請求項2】
前記2種類以上の異なる透明材料は、それぞれ化学組成が一部異なっており、前記透明材料により前記不織布に情報が施されて成る請求項1記載の多層シート。
【請求項3】
請求項1又は2記載の多層シートの真偽判別方法であって、
あらかじめ赤外分光法における分解能及びイメージピクセルサイズを選定して条件を決定し、前記選定した条件のもと、前記多層シートに対して透過イメージングにより平均吸光度イメージを取得し、取得した前記平均吸光度イメージに対して、前記異なる透明材料ごとに領域分けし、前記領域ごとに任意の点の赤外スペクトルをそれぞれ取得し、取得した前記赤外スペクトルから、前記少なくとも2種類の異なる透明材料ごとの官能基由来のピーク波数を選定し、選定したそれぞれのピーク波数ごとにケミカルイメージングを行い、前記ケミカルイメージングにより得られた前記少なくとも2種類の異なる透明材料によって施された前記情報のケミカルイメージング画像と、あらかじめ取得していた真正のケミカルイメージング画像とを比較することで真偽判別を行うことを特徴とする多層シートの真偽判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−45231(P2008−45231A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220795(P2006−220795)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】