多層光記録媒体
【課題】多層光記録媒体において、層間・共焦点クロストークを抑制しながらも、多層光記録媒体の設計を簡潔化する。また、記録再生装置側の記録再生制御の簡潔化も図る。
を提供する。
【解決手段】光照射によって情報が再生され得る記録再生層が、中間層を介して少なくとも3層以上積層される多層光記録媒体10であって、中間層の膜厚は2種類以下となっており、光入射面から最も遠い記録再生層を除いた残りの全ての記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一となるようにした。
を提供する。
【解決手段】光照射によって情報が再生され得る記録再生層が、中間層を介して少なくとも3層以上積層される多層光記録媒体10であって、中間層の膜厚は2種類以下となっており、光入射面から最も遠い記録再生層を除いた残りの全ての記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一となるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によって情報が再生され得る記録再生層が複数積層される多層光記録媒体に関に関する。
【背景技術】
【0002】
光記録媒体の分野では、レーザー光源の短波長化や光学系の高NA化によって、記録密度を高めてきている。例えばBlu−ray Disc(BD)規格の光記録媒体では、レーザーの波長を405nm、開口数を0.85とし、1層当たり25GBの容量の記録再生を可能にしている。しかし、これらの光源や光学系による努力は限界に達してきており、記録容量を更に増大させる為には、光軸方向へ多重に情報を記録していく体積記録が求められている。例えばBlu−ray Disc(BD)規格の光記録媒体では、記録再生層を8層(非特許文献1参照)、または6層(非特許文献2参照)を備える多層光記録媒体が提案されている。
【0003】
多層光記録媒体では、記録再生層の情報を再生する際に、他の記録再生層の信号が漏れ込んだり、他の記録再生層の影響によって生じるノイズが漏れ込んだりする、いわゆるクロストークが問題となる。このクロストークはサーボ信号や記録信号の劣化につながる。
【0004】
このクロストークには、層間クロストークと共焦点クロストークの2種類が存在する。層間クロストークとは、再生中の記録再生層に隣接する記録再生層で反射した光が、再生光に漏れ込むことで生じる現象である。従って、2層以上の記録再生層を有する多層光記録媒体では必ず問題となる。層間距離を大きくすれば、この層間クロストークは小さくなる。
【0005】
共焦点クロストークは、3層以上の記録再生層を有する多層光記録媒体に特有な現象であり、再生中の記録再生層で1回だけ反射した本来の再生光と、他の記録再生層で複数回反射した迷光との間で、互いの光路長が一致してしまうことによって生じる現象である。
【0006】
共焦点クロストークの発生原理について図11〜図14を用いて説明する。図11のような多層光記録媒体40において、再生または記録のためにL0記録再生層40dに集光されたビーム70は、記録再生層の半透過性により複数の光ビームに分岐してしまう。図12では、L0記録再生層40dの記録再生目的のビームから分岐したビーム71が、L1記録再生層40cで反射してL2記録再生層40bで焦点を結び、この反射光が再びL1記録再生層40cで反射して検出される現象が示されている。
【0007】
図13では、L0記録再生層40dの記録再生目的のビームから分岐したビーム72が、L2記録再生層40bで反射して光入射面40zで焦点を結び、この反射光が再びL2記録再生層40bで反射して検出される現象が示されている。図14では、L0記録再生層40dの記録再生目的のビームから分岐したビーム73が、他の記録再生層で焦点を結ばないが、L1記録再生層40c、L3記録再生層40a、L2記録再生層40bの順で反射して検出される現象が示されている。
【0008】
ビーム70と比較して、迷光であるビーム71〜73の光量は小さいが、等しい光路長と等しい光束径で光検出器に入射するため干渉による影響は大きく、光検出器で受光した光量が、微少な層間厚みの変化で大きく変動し、安定な信号を検出することが困難となる。一方、迷光に関しては反射の回数が多いほど、各記録再生層の反射率の積となって光量が減少していくので、実用的には3回の多面反射の迷光を考慮すれば十分である。
【0009】
これら図11〜図14で示す現象において、例えば、T1=T2に設定すると、ビーム70とビーム71の光路長と光束径が一致してしまい、同時に光検出器(フォトディテクタ)に入射して検出される。同様に、T1+T2=T3+TCに設定するとビーム70とビーム72光路長と光束径が一致してしまい、またT3=T1に設定するとビーム70とビーム73の光路長と光束径が一致してしまう。従って、共焦点クロストークを避ける為には、全ての層間距離を異ならせる手法を採用するのが一般的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】I. Ichimura et. al., Appl. Opt., 45, 1794-1803 (2006)
【非特許文献2】K. Mishima et. al., Proc. of SPIE, 6282, 62820I (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記説明から分かるとおり、層間クロストークを避ける為に層間距離を広げようとすると、限れた厚みの中で記録再生層の積層数を増大させることが困難となる。また、共焦点クロストークを避ける為に全ての層間距離を異ならせながら、記録再生層の積層数を増大させると、様々な膜厚の中間層を用意する必要があるため、結局、層間距離が大きくなるという問題が生じる。この結果、光入射面から最も遠い記録再生層が、光入射面から離れてしまい、チルト等におけるコマ収差に対して不利に作用するという問題があった。
【0012】
更に、各記録再生層には、グルーブ/ランド等のトラッキング制御用の凹凸を形成しなければならない場合がある。この際、各中間層にスタンパを利用して凹凸を形成する必要が生じるので、中間層の膜厚には誤差が生じやすい。従って、この成膜誤差の影響を予め考慮して、各中間層の膜厚を互いに異ならせようとすると、膜厚差を大きめに設定する必要が生じるので、益々、多層光記録媒体の厚みが増大するという問題があった。
【0013】
また、記録再生装置側の制御を容易にするためには、多層光記録媒体において、記録再生層における積層状態の反射率(即ち、完成した多層光記録媒体の各記録再生層に光を照射した際に、入射光と反射光の比率から求められる反射率)を各記録再生層間で互いに揃えたり、記録時のレーザーパワーの値を、記録再生層間で互いに近づけたりするのが一般的となっている。このため、各記録再生層を構成する膜材料、膜構成、膜厚等を各層で最適化する必要があり、これに応じて記録再生装置側における記録条件(例えば記録ストラテジや照射パルス波形)も、各層で最適化しなければならない。いずれにしろ、従来の思想の下では、記録再生層の積層数を増大させる程、多層光記録媒体の製造側と、記録再生装置の設計側の双方の負担が懸念されていた。
【0014】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、記録再生層を多層化する際に、クロストークによる信号品質の劣化を抑制しつつ、多層光記録媒体の設計を簡潔化でき、更に、記録再生装置側の記録再生制御を簡略化できる多層光記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らの鋭意研究により、上記目的は以下の手段によって達成される。
【0016】
即ち、上記目的を達成する本発明は、光照射によって情報が再生され得る記録再生層が、中間層を介して少なくとも3層以上積層される多層光記録媒体であって、前記中間層の膜厚は2種類以下となっており、光入射面から最も遠い前記記録再生層を除いた残りの全ての前記記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一であることを特徴とする多層光記録媒体である。
【0017】
上記目的を達成する多層光記録媒体は、上記発明に関連して、前記光入射面から最も遠い前記記録再生層を含んだ全ての前記記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一であることを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成する多層光記録媒体は、上記発明に関連して、前記光学定数が互いに実質的に同一となる前記記録再生層を構成する材料組成及び膜厚が、実質的に同一であることを特徴とする。
【0019】
上記目的を達成する多層光記録媒体は、上記発明に関連して、第1膜厚となる第1中間層と、前記第1膜厚よりも大きい第2膜厚となる第2中間層が、前記記録再生層を挟んで交互に積層されることを特徴とする。
【0020】
上記目的を達成する多層光記録媒体は、上記発明に関連して、前記第1膜厚が略12μm、前記第2膜厚が略16μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、多層光記録媒体において、層間・共焦点クロストークを抑制しながらも、多層光記録媒体の設計を簡潔化できる。また、記録再生装置側の記録再生制御も簡潔化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る多層光記録媒体とこれを記録再生する光ピックアップの概略構成を示す図である。
【図2】同多層光記録媒体の積層構造を示す断面図である。
【図3】同多層光記録媒体の反射率と吸収率を示す図表及びグラフである。
【図4】同多層光記録媒体の膜厚構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る多層光記録媒体に再生光を照射した際の反射光の波形を示す図である。
【図6】本発明の比較例に係る多層光記録媒体に再生光を照射した際の反射光の波形を示す図である。
【図7】本発明の多層光記録媒体の基本概念を説明するための再生光の状態を示す図である。
【図8】本発明の多層光記録媒体の基本概念を説明するための迷光の状態を示す図である。
【図9】本発明の多層光記録媒体の基本概念を説明するための積層反射率の変化を示す図である。
【図10】本発明の多層光記録媒体の基本概念を説明するための積層反射率の変化を示す図である。
【図11】多層光記録媒体における再生光と迷光の状態を示す図である。
【図12】多層光記録媒体における再生光と迷光の状態を示す図である。
【図13】多層光記録媒体における再生光と迷光の状態を示す図である。
【図14】多層光記録媒体における再生光と迷光の状態を示す図である。
【図15】参考例となる多層光記録媒体の反射率と吸収率を示す図表及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明の実施の形態に係る多層光記録媒体の基本思想について説明する。
【0024】
多層光記録媒体において、記録再生層の間に配置される中間層の厚さが2種類(T1、T2)となり、これらが交互に積層される場合を考える。図5には、第a番目の記録再生層を再生した場合に、この記録再生層で直接反射した再生光(本光)の経路が示されている。また図8には、この本光と光路長が一致する迷光の経路の一例が示されている。なお、ここでは、第k番目の記録再生層を構成している材料に関して、その単層状態の反射率と透過率を各々rk、tkと定義する。
【0025】
第a番目の記録再生層に「1」の強度の再生光を入射させたときの本光の強度をIa、迷光の強度をIa'とすると、Ia及びIa'は以下の[式1]、[式2]で示される。
[式1] Ia=(ta+1×ta+2×ta+3×…×ta+n)2×ra
[式2] Ia'=(ta+2×ta+3×…×ta+n)×ra+1×ta+2×ra+3×ra+2×(ta+3×…×ta+n)
=(ta+2×ta+3×…×ta+n)2×ra+1×ra+2×ra+3
【0026】
従って,本光に対する迷光の強度比Ia'/Iaは式3で表現できる。
[式3]Ia'/Ia= (ta+2×ta+3×…×ta+n)2×ra+1×ra+2×ra+3/(ta+1×ta+2×ta+3×…×ta+n)2×ra
=(ra+1×ra+2×ra+3)/(ta+12×ra)
【0027】
以上の通り、中間層の厚さが交互に2種類となるような多層記録媒体では、第a番目の記録再生層における共焦点クロストークの影響を減らすため、即ち[式3]の迷光の強度比を小さくするために、以下の3つの考えが有効であることが分かる。
(1)第a層の反射率raを高くすること。
(2)第a+1層、第a+2層、第a+3層(第a層の光入射面(手前)側に隣接する3層)の反射率ra+1、ra+2、ra+3を低くすること。
(3)第a+1層(第a番目の記録再生層の手前に隣接する1層)の透過率ta+1を高くすること。
【0028】
更に、この考え方が全ての記録再生層で成り立つためには、他の記録再生層に対して手前の層になり得ない記録再生層、即ち、光入射面から最も遠い(奥)側の記録再生層を除いた残りの全ての記録再生層の反射率を低くし、透過率を高くすればよい。これを実現するためには、最奥の記録再生層を除いた残りの全記録再生層の単層状態の反射率rと透過率tを同一にすることが、媒体設計上では極めて簡便である。この際、各記録再生層の反射率rは低く、透過率tは高くようにする。勿論、最奥の記録再生層も含めた、全ての記録再生層の反射率rと透過率tを同一にすれば、最奥の記録再生層における迷光低減効果は減ずるものの、媒体設計上では最も簡略化できる。
【0029】
上述の通り、異なる記録再生層の間で光学定数を一致させる、即ち反射率rと透過率tを同一にすると、多層光記録媒では、奥側の記録再生層であるほど、積層状態の反射率R(以下、積層反射率という)が低く観測される。従って、仮に全ての記録再生層の反射率rと透過率tを同一にする場合を考えると、積層反射率Rは、手前側の記録再生層から奥側の記録再生層にかけて、単調に減少することになる。なお、積層状態の反射率とは、完成後の多層光記録媒体の特定の記録再生層に光を照射した際に、入射光と反射光の比率から求められる反射率のことを意味している。
【0030】
複数の記録再生層の光学定数を一致させるためには、記録再生層を構成する記録材料の組成と、その膜厚を一致させることが便利である。このようにすると、媒体設計上においても、製造上においても負担が合理的に軽減される。結果、本発明に係る多層光記録媒体の概念思想を実現するためには、複数の記録再生層を構成している記録材料の組成と、その膜厚を同一にすることが望ましい。より好ましくは、光入射面から最も奥側の記録再生層を含めた全ての記録再生層において、材料組成と膜厚を実質的に同一にし、結果、光学定数も互いに一致させる。
【0031】
なお、多層光記録媒体において、各記録再生層の組成と膜厚が実質的に同一であるという意味は、例えばミクロトームでディスクを断面方向に切断した試料を、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、あるいは走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)にて膜厚を測長し、更に、これらの顕微鏡に付属するエネルギー分散型分光法(Energy Dispersive Spectroscopy)などによって組成を分析した結果が、各記録再生層間で実質的に殆ど同一であることと同義である。このような状態であれば、各記録再生層の間で材料組成と膜厚が同一と考えてよい。勿論その結果として、各記録再生層の間では、光学定数が互いに一致する。
【0032】
ところで透過率tkは0より大きく1よりも小さな値を取るので、記録再生層の層数n+1が増えるほど、反射光強度Iaが減少する。反射光強度Iaがあまりに低いと、SNR(signal-noise ratio)が小さくなってしまい、光ピックアップのフォトディテクタの感度限界に達する。記録再生層の層数は、原則、この感度限界が上限となる。
【0033】
具体的に設計段階では、光入射面側から奥側に向かって、同一の光学定数となる記録再生層を順番に積層させていき、その積層反射率Rが、光ピックアップで扱うことができる感度限界に達するまでを、最大の積層数とする。
【0034】
上記概念思想に基づいて、多層光記録媒体を構成する例を図9に示す。最も光入射面側に位置する記録再生層(Ln-1層)から、途中の記録再生層(Lk+1層、Lk層、Lk-1層)を経て、最も奥側に位置する記録再生層(L0)に向かって、積層反射率Rは単調に減少する。
【0035】
最も光入射面側に位置する記録再生層(Ln-1層)と、最も奥側に位置する記録再生層(L0層)の各々の積層反射率(Rn-1、R0)の比率は、一般的な光ピックアップが扱うことのできる同反射率のダイナミックレンジの制限から決定され、5:1以内であることが好ましく、4:1以内であることが望ましい。即ち、R0/Rn-1≧(1/5)にすることが好ましく、R0/Rn-1≧(1/4)にすることが望ましい。
【0036】
なお、図9では、全ての記録再生層の光学定数を一致させる概念を例示したが、図10に示されるように、最も奥側に位置する記録再生層(L0層)に関しては、残りの記録再生層と異なる材料組成や膜厚を採用することによって、光学定数を一致させなくても良い。なぜなら、このL0層は、更に奥側に記録再生層が存在しないため、光透過率を配慮する必要が無いからである。
【0037】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0038】
図1には、第1実施形態に係る多層光記録媒体10と、この多層光記録媒体10の記録再生に用いられる光ピックアップ700の構成が示されている。
【0039】
光ピックアップ700は光学系710を備える。この光学系710は、多層光記録媒体10の記録再生層群14に対して記録・再生を行う光学系となる。光源701から出射された比較的短い青色波長380〜450nm(ここでは405nm)となる発散性のビーム770は、球面収差補正手段793を備えたコリメートレンズ753を透過し、偏光ビームスプリッタ752に入射する。偏光ビームスプリッタ752に入射したビーム770は、偏光ビームスプリッタ752を透過して、更に4分の1波長板754の透過によって円偏光に変換された後、対物レンズ756で収束ビームに変換される。このビーム770は、多層光記録媒体10の内部に形成された複数の記録再生層群14のいずれか記録再生層の上に集光される。
【0040】
偏光ビームスプリッタ752で反射されたビーム770は、集光レンズ759を透過して収束光に変換され、シリンドリカルレンズ757を経て、光検出器732に入射する。ビーム770には、シリンドリカルレンズ757を透過する際、非点収差が付与される。光検出器732は、図示しない4つの受光部を有し、それぞれ受光した光量に応じた電流信号を出力する。これら電流信号から、非点収差法によるフォーカス誤差(以下FEとする)信号、再生時に限定されるプッシュプル法によるトラッキング誤差(以下TEとする)信号、多層光記録媒体10に記録された情報の再生信号等が生成される。FE信号およびTE信号は、所望のレベルに増幅および位相補償が行われた後、アクチュエータ791および792にフィードバック供給されて、フォーカス制御およびトラッキング制御がなされる。
【0041】
図2には、この多層光記録媒体10の断面構造が拡大して示されている。
【0042】
この多層光記録媒体10は、外径が約120mm、厚みが約1.2mmの円盤形状となっており、記録再生層を3層以上備える構成となっている。この多層光記録媒体10は、光入射面10A側から、カバー層11、10層構成となるL0〜L9記録再生層14A〜14J、このL0〜L9記録再生層14A〜14Jの間に介在する中間層群16、支持基板12を備えて構成される。
【0043】
支持基板12にはトラックピッチ0.32umのグルーブが設けられている。なお、支持基板12の材料としては種々の材料を用いることが可能であり、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂を利用できる。これらのうち、成型の容易性の観点からは樹脂が好ましい。樹脂としてはポリカーボネイト樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、加工性などの点からポリカーボネイト樹脂やオレフィン樹脂が特に好ましい。なお、支持基板12は、ビーム770の光路とならないことから、高い光透過性を有している必要はない。
【0044】
L0〜L9記録再生層14A〜14Jの積層反射率は、光入射面から奥側に向かって減少している。即ち光入射面に最も近いL9記録再生層14Jの積層反射率が最も高く、L0記録再生層13Aの積層反射率が最も低くなる。
【0045】
上述のような積層反射率を実現するための膜設計として、L0〜L9記録再生層14A〜14Jは、光学系100における青色波長領域のビーム770に対応させて、単層状態の光反射率・吸収率等が最適化されている。本実施形態では、全てのL0〜L9記録再生層14A〜14Jの間において光学定数が実質的に同一に設定され、そのためにも、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの間において材料組成及び膜厚が実質的に同一に設定されている。
【0046】
具体的には図3に示されるように、L0〜L9記録再生層14A〜14Jは、単層状態での反射率(以下、単層反射率という)が1.5%に設定され、単層状態での吸収率(以下、単層吸収率という)が4.5%に設定される。
【0047】
このように本実施形態では、L0〜L9記録再生層14A〜14Jにおいて、互いに略同じ単層反射率・単層吸収率に設定される。この結果、L0〜L9記録再生層14A〜14Jにおいて、光入射面側から順番に積層反射率が単調減少していくことになる。
【0048】
この膜設計を採用する結果、L0〜L9記録再生層14A〜14Jは、互いに殆ど同じ記録材料及び膜厚で形成することが可能となり、製造コストの大幅な削減が実現される。
【0049】
なお。L0〜L9記録再生層14A〜14Jは、それぞれ、追記型記録膜の両外側に誘電体膜等を積層した3〜5層構造となっている(図示省略)。各記録再生層の誘電体膜は、追記型記録膜を保護するという基本機能に加えて、記録マークの形成前後における光学特性の差を拡大させたり、記録感度を向上させたりする役割を果たす。
【0050】
なお、ビーム770を照射した場合に、誘電体膜に吸収されるエネルギーが大きいと記録感度が低下しやすい。従って、これを防止するためには、これらの誘電体膜の材料として、380nm〜450nm(特に405nm)の波長領域において低い吸収係数(k)を有する材料を選択することが好ましい。なお、本実施の形態においては、誘電体膜の材料としてTiO2を用いている。
【0051】
誘電体膜に挟まれる追記型記録膜は不可逆的な記録マークが形成される膜であり、記録マークが形成された部分とそれ以外の部分(ブランク領域)は、ビーム710に対する反射率が大きく異なる。この結果、データの記録・再生を行うことができる。
【0052】
追記型記録膜は、Bi及びOを含む材料を主成分として形成される。この追記型記録膜は、無機反応膜として機能し、レーザー光の熱による化学的又は物理的な変化で反射率が大きく異なるようになっている。具体的な材料としては、Bi−Oを主成分とするか、又は、Bi−M−O(ただしMは、Mg、Ca、Y、Dy、Ce、Tb、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Fe、Zn、Al、In、Si、Ge、Sn、Sb、Li、Na、K、Sr、Ba、Sc、La、Nd、Sm、Gd、Ho、Cr、Co、Ni、Cu、Ga、Pbの中から選択される少なくとも1種の元素)を主成分とすることが好ましい。なお、本実施形態では、追記型記録膜の材料として、Bi−Ge−Oを用いている。
【0053】
なお、ここではL0〜L9記録再生層14A〜14Jにおいて追記型記録膜を採用する場合を示したが、繰り返し記録が可能な相変化記録膜を採用することも可能である。この場合の相変化記録膜は、SbTeGeとすることが好ましい。
【0054】
図4に示されるように、中間層群16は、光入射面10Aの遠い側から順番に第1〜第9中間層16A〜16Iを有している。これらの第1〜第9中間層16A〜16Iは、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの間に積層される。各中間層16A〜16Iは、アクリル系またはエポキシ系の紫外線硬化型樹脂によって構成される。この中間層16A〜16Iの膜厚は、10μm以上となる第1距離T1と、この第1距離よりも3μm以上大きい第2距離T2が交互に設定されている。具体的に第1距離T1と第2距離T2は、3μm〜5μmの差を有していることが好ましく、更に好ましくは、4μm以上の差を有するようにする。
【0055】
この多層光記録媒体10では、第1距離T1として12μm、第2距離T2として16μmを採用しており、奥側から順に第1中間層16Aが12μm、第2中間層16Bが16μm、第3中間層16Cが12μm、第4中間層16Dが16μm、第5中間層16Eが12μm、第6中間層16Fが16μm、第7中間層16Gが12μm、第8中間層16Hが16μm、第9中間層16Iが12μmとなっている。つまり、2種類の膜厚(16μm、12μm)の中間層が交互に積層されている。詳細は後述するが、このようにすると層間クロストーク及び共焦点クロストークの双方を低減させることができる。
【0056】
カバー層11は、中間層群16と同様に光透過性のアクリル系の紫外線硬化型樹脂により構成されており、50μmの膜厚に設定されている。
【0057】
次に、この多層光記録媒体10の製造方法について説明する。まず、金属スタンパを用いることによる、ポリカーボネート樹脂の射出成型法により、グルーブおよびランドが形成された支持基板12を作製する。なお、支持基板12の作製は射出成型法に限られず、2P法や他の方法によって作製しても構わない。
【0058】
その後、支持基板12におけるグルーブ及びランドが設けられた側の表面にL0記録再生層14Aを形成する。
【0059】
具体的には、誘電体膜、追記型記録膜、誘電体膜の順に気相成長法を用いて形成する。中でもスパッタリング法を用いることが好ましい。その後、L0記録再生層14Aの上に第1中間層16Aを形成する。第1中間層16Aは、例えば、粘度調整された紫外線硬化型樹脂をスピンコート法等により皮膜し、その後、この紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射して硬化することにより形成する。この手順を繰り返すことで、L1記録再生層14B、第2中間層16B、L2記録再生層14C、第3中間層16C・・・と順番に積層していく。
【0060】
L9記録再生層14Jまで完成したら、その上にカバー層11を形成することで多層光記録媒体10が完成する。なおカバー層11は、例えば、粘度調整されたアクリル系またはエポキシ系の紫外線硬化型樹脂をスピンコート法等により皮膜し、これに対して紫外線を照射して硬化することにより形成する。なお、本実施形態では上記製造方法を説明したが、本発明は上記製造方法に特に限定されるものではなく、他の製造技術を採用することもできる。
【0061】
次に、この多層光記録媒体10の作用について説明する。
【0062】
この多層光記録媒体10は、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの積層反射率が手前から奥側に向かって減少するので、特定の記録再生層の再生中に、その奥側に隣接する記録再生層の反射光が再生光に漏れ込むことを抑制できる。この結果、中間層の厚さを小さくしても、クロストークを抑制することが可能となるので、結果として、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの積層数を10層にまで増大させることができる。
【0063】
一方、図15の参考例に示されるように、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの全てについて、積層反射率を1.0%近傍に互いに近似させようとすると、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの単層反射率や吸収率をばらばらに設定する必要があり、製造工程が極めて複雑化する。結果、製造誤差の影響も受けやすく、誤差を含めた余裕をもった設計が必要となり、積層数を増大させることが困難となる。
【0064】
また、本実施形態では、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの間で、同じ膜材料及び膜厚を採用しているので、記録再生層毎にばらばらの成膜条件が不要となり、設計負担、製造負担を大幅に軽減できる。結果として、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの間では光学定数が実質的に同一に設定される。このようにすると、記録再生装置側における記録再生条件のばらつきが小さくなり、記録再生制御(記録ストラテジ)を簡潔化することが可能になる。ちなみに、単層反射率・単層吸収率が異なるような様々な記録再生層が複雑に重なり合うと、最適な記録再生制御を経験的に見つけ出さなければならないので、相当の困難が伴う。
【0065】
更にこの多層光記録媒体10では、第1膜厚(12μm)となる中間層と、第1膜厚よりも大きい第2膜厚(16μm)となる中間層が、記録再生層14A〜14Jを挟んで交互に積層されている。
【0066】
また、図11〜図14で示したような共焦点クロストーク現象を利用して説明すると、例えば、ビーム70と比較して、多面反射光であるビーム71〜73の光量は小さいのが一般的であるが、等しい光路長と等しい光束径で光検出器に入射するため、干渉による影響は比較的大きい。従って、光検出器で受光される光量は、微少な層間厚みの変化で大きく変動するので、安定な信号を検出することが困難となる。
【0067】
次に、この多層光記録媒体10の設計手法について説明する。
【0068】
まず、最も光入射面に近い側となる記録再生層について特定の成膜条件を設計し、光入射面側から順番に積層していく。この記録再生層の積層数は、再生劣化が起きない程度の再生パワーを記録再生層に照射した際に、各記録再生層からの反射によって光検出器732に戻ってくる反射光量が、評価装置で取り扱うことができる限界値に近くなるまで、または、記録再生層における記録マークの形成(記録層の変性)に必要なレーザーパワーの限界値(即ち記録感度の限界値)に近くなるまで、増加させる。そして、奥側の記録再生層がこれらの反射光量と記録感度の限界値に達したら、これが積層数の上限となる。
【0069】
同じ構成の記録再生層を積層した場合、当然、積層された状態で各記録再生層から光検出器732へ戻る反射光量は、光入射面から奥側になる程、記録再生層の透過の2乗に比例して単調減少し、更に、各記録再生層に到達するレーザーパワーも透過に比例して減少する。
【0070】
この多層光記録媒体10では、10μm以上の範囲で2種類の膜厚となる中間層を交互に用い。これにより、層間クロストークと、共焦点クロストークの影響を同時に低減させる。
【0071】
<実施例及び比較例>
【0072】
本実施形態に係る多層光記録媒体10を実際に製造して記録再生特性を検証した。L0〜L9記録再生層14A〜14Jの単層状態での反射率を1.5%、吸収率を4.5%、透過率を94%とした。なお、全ての記録再生層の材料組成は、TiO2/Fe3O4/BiOx−GeOy/SiO2/TiO2とし、全ての記録再生層で膜厚を一致させた。基板の厚さは1.1mmとし、中間層の厚さは12μm、16μmを交互に設定し、カバー層の厚さは50μmとした。
【0073】
この多層光記録媒体10の光学特性を検証するために、光ピックアップ90を用いて、多層光記録媒体10のL0層(最も奥側の記録再生層)に対して再生ビームを照射し、その反射光の特性を評価した。L0層は最も共焦点クロストークの影響が顕著となるからである。
【0074】
一方、比較例とする多層光記録媒体については、従来通り、積層状態での光検出器732に戻る反射光量と、各記録再生層に到達するレーザーパワーが、各記録再生層でほぼ同じとなる様に、各記録再生層を設計した。なお、この比較例の積層反射率、積層吸収率の状態は、図15で示したものと同じように設定し、10層の記録再生層の間において、積層反射率が1%前後となるようにした。この比較例でもL0層(最も奥側の記録再生層)に対して再生ビームを照射し、その反射光の特性を評価した。
【0075】
実施例と比較例の反射光の信号写真を図5(実施例)及び図6(比較例)に示す。
【0076】
比較例の写真では、反射光の波形においてノイズが大きく現れており、共焦点クロストークによる反射率の変動が顕著に観測されることがわかる。
【0077】
一方、実施例の写真では、比較例で観測されるような反射率変動が大幅に抑制されていることが分かる。
【0078】
以上、本実施形態では、記録再生層が10層で構成される場合について説明したが、本発明はこれに限られない。記録再生層が3層以上となる場合には、本発明を適用することで設計負担が大幅に軽減される。この際、好ましくは記録再生層を4層以上有するようにし、より好ましくは5層以上にする。
【0079】
また、本発明では、評価機の制限、例えば球面収差補正範囲や、レーザーパワー等が許す限り、記録再生層の積層数を増やす事が可能であり、更に評価機上の制限に応じて、記録再生層の数を10層より増やす事も可能である。
【0080】
更に、本実施形態では2種の膜厚となる中間層を交互に積層する場合を示したが、本発明はこれに限定されず、交互でなくても良い。また更に、反射率変動の影響が、評価機で許される範囲である限り、中間層の膜厚を全て同じにしても良い。
【0081】
なお、2種類の膜厚の中間層を交互に配置する場合は、最も奥側の中間層の膜厚を、常に厚い膜厚にすることが好ましい。クロストークの影響を最も受けやすいからである。
【0082】
なお、本発明の多層光記録媒体は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の多層光記録媒体は、各種規格の光記録媒体に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0084】
10 多層光記録媒体
11 カバー層
12 支持基板
14A−14J L0−L9記録再生層
16A−16I 第1−第9中間層
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によって情報が再生され得る記録再生層が複数積層される多層光記録媒体に関に関する。
【背景技術】
【0002】
光記録媒体の分野では、レーザー光源の短波長化や光学系の高NA化によって、記録密度を高めてきている。例えばBlu−ray Disc(BD)規格の光記録媒体では、レーザーの波長を405nm、開口数を0.85とし、1層当たり25GBの容量の記録再生を可能にしている。しかし、これらの光源や光学系による努力は限界に達してきており、記録容量を更に増大させる為には、光軸方向へ多重に情報を記録していく体積記録が求められている。例えばBlu−ray Disc(BD)規格の光記録媒体では、記録再生層を8層(非特許文献1参照)、または6層(非特許文献2参照)を備える多層光記録媒体が提案されている。
【0003】
多層光記録媒体では、記録再生層の情報を再生する際に、他の記録再生層の信号が漏れ込んだり、他の記録再生層の影響によって生じるノイズが漏れ込んだりする、いわゆるクロストークが問題となる。このクロストークはサーボ信号や記録信号の劣化につながる。
【0004】
このクロストークには、層間クロストークと共焦点クロストークの2種類が存在する。層間クロストークとは、再生中の記録再生層に隣接する記録再生層で反射した光が、再生光に漏れ込むことで生じる現象である。従って、2層以上の記録再生層を有する多層光記録媒体では必ず問題となる。層間距離を大きくすれば、この層間クロストークは小さくなる。
【0005】
共焦点クロストークは、3層以上の記録再生層を有する多層光記録媒体に特有な現象であり、再生中の記録再生層で1回だけ反射した本来の再生光と、他の記録再生層で複数回反射した迷光との間で、互いの光路長が一致してしまうことによって生じる現象である。
【0006】
共焦点クロストークの発生原理について図11〜図14を用いて説明する。図11のような多層光記録媒体40において、再生または記録のためにL0記録再生層40dに集光されたビーム70は、記録再生層の半透過性により複数の光ビームに分岐してしまう。図12では、L0記録再生層40dの記録再生目的のビームから分岐したビーム71が、L1記録再生層40cで反射してL2記録再生層40bで焦点を結び、この反射光が再びL1記録再生層40cで反射して検出される現象が示されている。
【0007】
図13では、L0記録再生層40dの記録再生目的のビームから分岐したビーム72が、L2記録再生層40bで反射して光入射面40zで焦点を結び、この反射光が再びL2記録再生層40bで反射して検出される現象が示されている。図14では、L0記録再生層40dの記録再生目的のビームから分岐したビーム73が、他の記録再生層で焦点を結ばないが、L1記録再生層40c、L3記録再生層40a、L2記録再生層40bの順で反射して検出される現象が示されている。
【0008】
ビーム70と比較して、迷光であるビーム71〜73の光量は小さいが、等しい光路長と等しい光束径で光検出器に入射するため干渉による影響は大きく、光検出器で受光した光量が、微少な層間厚みの変化で大きく変動し、安定な信号を検出することが困難となる。一方、迷光に関しては反射の回数が多いほど、各記録再生層の反射率の積となって光量が減少していくので、実用的には3回の多面反射の迷光を考慮すれば十分である。
【0009】
これら図11〜図14で示す現象において、例えば、T1=T2に設定すると、ビーム70とビーム71の光路長と光束径が一致してしまい、同時に光検出器(フォトディテクタ)に入射して検出される。同様に、T1+T2=T3+TCに設定するとビーム70とビーム72光路長と光束径が一致してしまい、またT3=T1に設定するとビーム70とビーム73の光路長と光束径が一致してしまう。従って、共焦点クロストークを避ける為には、全ての層間距離を異ならせる手法を採用するのが一般的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】I. Ichimura et. al., Appl. Opt., 45, 1794-1803 (2006)
【非特許文献2】K. Mishima et. al., Proc. of SPIE, 6282, 62820I (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記説明から分かるとおり、層間クロストークを避ける為に層間距離を広げようとすると、限れた厚みの中で記録再生層の積層数を増大させることが困難となる。また、共焦点クロストークを避ける為に全ての層間距離を異ならせながら、記録再生層の積層数を増大させると、様々な膜厚の中間層を用意する必要があるため、結局、層間距離が大きくなるという問題が生じる。この結果、光入射面から最も遠い記録再生層が、光入射面から離れてしまい、チルト等におけるコマ収差に対して不利に作用するという問題があった。
【0012】
更に、各記録再生層には、グルーブ/ランド等のトラッキング制御用の凹凸を形成しなければならない場合がある。この際、各中間層にスタンパを利用して凹凸を形成する必要が生じるので、中間層の膜厚には誤差が生じやすい。従って、この成膜誤差の影響を予め考慮して、各中間層の膜厚を互いに異ならせようとすると、膜厚差を大きめに設定する必要が生じるので、益々、多層光記録媒体の厚みが増大するという問題があった。
【0013】
また、記録再生装置側の制御を容易にするためには、多層光記録媒体において、記録再生層における積層状態の反射率(即ち、完成した多層光記録媒体の各記録再生層に光を照射した際に、入射光と反射光の比率から求められる反射率)を各記録再生層間で互いに揃えたり、記録時のレーザーパワーの値を、記録再生層間で互いに近づけたりするのが一般的となっている。このため、各記録再生層を構成する膜材料、膜構成、膜厚等を各層で最適化する必要があり、これに応じて記録再生装置側における記録条件(例えば記録ストラテジや照射パルス波形)も、各層で最適化しなければならない。いずれにしろ、従来の思想の下では、記録再生層の積層数を増大させる程、多層光記録媒体の製造側と、記録再生装置の設計側の双方の負担が懸念されていた。
【0014】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、記録再生層を多層化する際に、クロストークによる信号品質の劣化を抑制しつつ、多層光記録媒体の設計を簡潔化でき、更に、記録再生装置側の記録再生制御を簡略化できる多層光記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らの鋭意研究により、上記目的は以下の手段によって達成される。
【0016】
即ち、上記目的を達成する本発明は、光照射によって情報が再生され得る記録再生層が、中間層を介して少なくとも3層以上積層される多層光記録媒体であって、前記中間層の膜厚は2種類以下となっており、光入射面から最も遠い前記記録再生層を除いた残りの全ての前記記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一であることを特徴とする多層光記録媒体である。
【0017】
上記目的を達成する多層光記録媒体は、上記発明に関連して、前記光入射面から最も遠い前記記録再生層を含んだ全ての前記記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一であることを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成する多層光記録媒体は、上記発明に関連して、前記光学定数が互いに実質的に同一となる前記記録再生層を構成する材料組成及び膜厚が、実質的に同一であることを特徴とする。
【0019】
上記目的を達成する多層光記録媒体は、上記発明に関連して、第1膜厚となる第1中間層と、前記第1膜厚よりも大きい第2膜厚となる第2中間層が、前記記録再生層を挟んで交互に積層されることを特徴とする。
【0020】
上記目的を達成する多層光記録媒体は、上記発明に関連して、前記第1膜厚が略12μm、前記第2膜厚が略16μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、多層光記録媒体において、層間・共焦点クロストークを抑制しながらも、多層光記録媒体の設計を簡潔化できる。また、記録再生装置側の記録再生制御も簡潔化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る多層光記録媒体とこれを記録再生する光ピックアップの概略構成を示す図である。
【図2】同多層光記録媒体の積層構造を示す断面図である。
【図3】同多層光記録媒体の反射率と吸収率を示す図表及びグラフである。
【図4】同多層光記録媒体の膜厚構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る多層光記録媒体に再生光を照射した際の反射光の波形を示す図である。
【図6】本発明の比較例に係る多層光記録媒体に再生光を照射した際の反射光の波形を示す図である。
【図7】本発明の多層光記録媒体の基本概念を説明するための再生光の状態を示す図である。
【図8】本発明の多層光記録媒体の基本概念を説明するための迷光の状態を示す図である。
【図9】本発明の多層光記録媒体の基本概念を説明するための積層反射率の変化を示す図である。
【図10】本発明の多層光記録媒体の基本概念を説明するための積層反射率の変化を示す図である。
【図11】多層光記録媒体における再生光と迷光の状態を示す図である。
【図12】多層光記録媒体における再生光と迷光の状態を示す図である。
【図13】多層光記録媒体における再生光と迷光の状態を示す図である。
【図14】多層光記録媒体における再生光と迷光の状態を示す図である。
【図15】参考例となる多層光記録媒体の反射率と吸収率を示す図表及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明の実施の形態に係る多層光記録媒体の基本思想について説明する。
【0024】
多層光記録媒体において、記録再生層の間に配置される中間層の厚さが2種類(T1、T2)となり、これらが交互に積層される場合を考える。図5には、第a番目の記録再生層を再生した場合に、この記録再生層で直接反射した再生光(本光)の経路が示されている。また図8には、この本光と光路長が一致する迷光の経路の一例が示されている。なお、ここでは、第k番目の記録再生層を構成している材料に関して、その単層状態の反射率と透過率を各々rk、tkと定義する。
【0025】
第a番目の記録再生層に「1」の強度の再生光を入射させたときの本光の強度をIa、迷光の強度をIa'とすると、Ia及びIa'は以下の[式1]、[式2]で示される。
[式1] Ia=(ta+1×ta+2×ta+3×…×ta+n)2×ra
[式2] Ia'=(ta+2×ta+3×…×ta+n)×ra+1×ta+2×ra+3×ra+2×(ta+3×…×ta+n)
=(ta+2×ta+3×…×ta+n)2×ra+1×ra+2×ra+3
【0026】
従って,本光に対する迷光の強度比Ia'/Iaは式3で表現できる。
[式3]Ia'/Ia= (ta+2×ta+3×…×ta+n)2×ra+1×ra+2×ra+3/(ta+1×ta+2×ta+3×…×ta+n)2×ra
=(ra+1×ra+2×ra+3)/(ta+12×ra)
【0027】
以上の通り、中間層の厚さが交互に2種類となるような多層記録媒体では、第a番目の記録再生層における共焦点クロストークの影響を減らすため、即ち[式3]の迷光の強度比を小さくするために、以下の3つの考えが有効であることが分かる。
(1)第a層の反射率raを高くすること。
(2)第a+1層、第a+2層、第a+3層(第a層の光入射面(手前)側に隣接する3層)の反射率ra+1、ra+2、ra+3を低くすること。
(3)第a+1層(第a番目の記録再生層の手前に隣接する1層)の透過率ta+1を高くすること。
【0028】
更に、この考え方が全ての記録再生層で成り立つためには、他の記録再生層に対して手前の層になり得ない記録再生層、即ち、光入射面から最も遠い(奥)側の記録再生層を除いた残りの全ての記録再生層の反射率を低くし、透過率を高くすればよい。これを実現するためには、最奥の記録再生層を除いた残りの全記録再生層の単層状態の反射率rと透過率tを同一にすることが、媒体設計上では極めて簡便である。この際、各記録再生層の反射率rは低く、透過率tは高くようにする。勿論、最奥の記録再生層も含めた、全ての記録再生層の反射率rと透過率tを同一にすれば、最奥の記録再生層における迷光低減効果は減ずるものの、媒体設計上では最も簡略化できる。
【0029】
上述の通り、異なる記録再生層の間で光学定数を一致させる、即ち反射率rと透過率tを同一にすると、多層光記録媒では、奥側の記録再生層であるほど、積層状態の反射率R(以下、積層反射率という)が低く観測される。従って、仮に全ての記録再生層の反射率rと透過率tを同一にする場合を考えると、積層反射率Rは、手前側の記録再生層から奥側の記録再生層にかけて、単調に減少することになる。なお、積層状態の反射率とは、完成後の多層光記録媒体の特定の記録再生層に光を照射した際に、入射光と反射光の比率から求められる反射率のことを意味している。
【0030】
複数の記録再生層の光学定数を一致させるためには、記録再生層を構成する記録材料の組成と、その膜厚を一致させることが便利である。このようにすると、媒体設計上においても、製造上においても負担が合理的に軽減される。結果、本発明に係る多層光記録媒体の概念思想を実現するためには、複数の記録再生層を構成している記録材料の組成と、その膜厚を同一にすることが望ましい。より好ましくは、光入射面から最も奥側の記録再生層を含めた全ての記録再生層において、材料組成と膜厚を実質的に同一にし、結果、光学定数も互いに一致させる。
【0031】
なお、多層光記録媒体において、各記録再生層の組成と膜厚が実質的に同一であるという意味は、例えばミクロトームでディスクを断面方向に切断した試料を、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、あるいは走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)にて膜厚を測長し、更に、これらの顕微鏡に付属するエネルギー分散型分光法(Energy Dispersive Spectroscopy)などによって組成を分析した結果が、各記録再生層間で実質的に殆ど同一であることと同義である。このような状態であれば、各記録再生層の間で材料組成と膜厚が同一と考えてよい。勿論その結果として、各記録再生層の間では、光学定数が互いに一致する。
【0032】
ところで透過率tkは0より大きく1よりも小さな値を取るので、記録再生層の層数n+1が増えるほど、反射光強度Iaが減少する。反射光強度Iaがあまりに低いと、SNR(signal-noise ratio)が小さくなってしまい、光ピックアップのフォトディテクタの感度限界に達する。記録再生層の層数は、原則、この感度限界が上限となる。
【0033】
具体的に設計段階では、光入射面側から奥側に向かって、同一の光学定数となる記録再生層を順番に積層させていき、その積層反射率Rが、光ピックアップで扱うことができる感度限界に達するまでを、最大の積層数とする。
【0034】
上記概念思想に基づいて、多層光記録媒体を構成する例を図9に示す。最も光入射面側に位置する記録再生層(Ln-1層)から、途中の記録再生層(Lk+1層、Lk層、Lk-1層)を経て、最も奥側に位置する記録再生層(L0)に向かって、積層反射率Rは単調に減少する。
【0035】
最も光入射面側に位置する記録再生層(Ln-1層)と、最も奥側に位置する記録再生層(L0層)の各々の積層反射率(Rn-1、R0)の比率は、一般的な光ピックアップが扱うことのできる同反射率のダイナミックレンジの制限から決定され、5:1以内であることが好ましく、4:1以内であることが望ましい。即ち、R0/Rn-1≧(1/5)にすることが好ましく、R0/Rn-1≧(1/4)にすることが望ましい。
【0036】
なお、図9では、全ての記録再生層の光学定数を一致させる概念を例示したが、図10に示されるように、最も奥側に位置する記録再生層(L0層)に関しては、残りの記録再生層と異なる材料組成や膜厚を採用することによって、光学定数を一致させなくても良い。なぜなら、このL0層は、更に奥側に記録再生層が存在しないため、光透過率を配慮する必要が無いからである。
【0037】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0038】
図1には、第1実施形態に係る多層光記録媒体10と、この多層光記録媒体10の記録再生に用いられる光ピックアップ700の構成が示されている。
【0039】
光ピックアップ700は光学系710を備える。この光学系710は、多層光記録媒体10の記録再生層群14に対して記録・再生を行う光学系となる。光源701から出射された比較的短い青色波長380〜450nm(ここでは405nm)となる発散性のビーム770は、球面収差補正手段793を備えたコリメートレンズ753を透過し、偏光ビームスプリッタ752に入射する。偏光ビームスプリッタ752に入射したビーム770は、偏光ビームスプリッタ752を透過して、更に4分の1波長板754の透過によって円偏光に変換された後、対物レンズ756で収束ビームに変換される。このビーム770は、多層光記録媒体10の内部に形成された複数の記録再生層群14のいずれか記録再生層の上に集光される。
【0040】
偏光ビームスプリッタ752で反射されたビーム770は、集光レンズ759を透過して収束光に変換され、シリンドリカルレンズ757を経て、光検出器732に入射する。ビーム770には、シリンドリカルレンズ757を透過する際、非点収差が付与される。光検出器732は、図示しない4つの受光部を有し、それぞれ受光した光量に応じた電流信号を出力する。これら電流信号から、非点収差法によるフォーカス誤差(以下FEとする)信号、再生時に限定されるプッシュプル法によるトラッキング誤差(以下TEとする)信号、多層光記録媒体10に記録された情報の再生信号等が生成される。FE信号およびTE信号は、所望のレベルに増幅および位相補償が行われた後、アクチュエータ791および792にフィードバック供給されて、フォーカス制御およびトラッキング制御がなされる。
【0041】
図2には、この多層光記録媒体10の断面構造が拡大して示されている。
【0042】
この多層光記録媒体10は、外径が約120mm、厚みが約1.2mmの円盤形状となっており、記録再生層を3層以上備える構成となっている。この多層光記録媒体10は、光入射面10A側から、カバー層11、10層構成となるL0〜L9記録再生層14A〜14J、このL0〜L9記録再生層14A〜14Jの間に介在する中間層群16、支持基板12を備えて構成される。
【0043】
支持基板12にはトラックピッチ0.32umのグルーブが設けられている。なお、支持基板12の材料としては種々の材料を用いることが可能であり、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂を利用できる。これらのうち、成型の容易性の観点からは樹脂が好ましい。樹脂としてはポリカーボネイト樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、加工性などの点からポリカーボネイト樹脂やオレフィン樹脂が特に好ましい。なお、支持基板12は、ビーム770の光路とならないことから、高い光透過性を有している必要はない。
【0044】
L0〜L9記録再生層14A〜14Jの積層反射率は、光入射面から奥側に向かって減少している。即ち光入射面に最も近いL9記録再生層14Jの積層反射率が最も高く、L0記録再生層13Aの積層反射率が最も低くなる。
【0045】
上述のような積層反射率を実現するための膜設計として、L0〜L9記録再生層14A〜14Jは、光学系100における青色波長領域のビーム770に対応させて、単層状態の光反射率・吸収率等が最適化されている。本実施形態では、全てのL0〜L9記録再生層14A〜14Jの間において光学定数が実質的に同一に設定され、そのためにも、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの間において材料組成及び膜厚が実質的に同一に設定されている。
【0046】
具体的には図3に示されるように、L0〜L9記録再生層14A〜14Jは、単層状態での反射率(以下、単層反射率という)が1.5%に設定され、単層状態での吸収率(以下、単層吸収率という)が4.5%に設定される。
【0047】
このように本実施形態では、L0〜L9記録再生層14A〜14Jにおいて、互いに略同じ単層反射率・単層吸収率に設定される。この結果、L0〜L9記録再生層14A〜14Jにおいて、光入射面側から順番に積層反射率が単調減少していくことになる。
【0048】
この膜設計を採用する結果、L0〜L9記録再生層14A〜14Jは、互いに殆ど同じ記録材料及び膜厚で形成することが可能となり、製造コストの大幅な削減が実現される。
【0049】
なお。L0〜L9記録再生層14A〜14Jは、それぞれ、追記型記録膜の両外側に誘電体膜等を積層した3〜5層構造となっている(図示省略)。各記録再生層の誘電体膜は、追記型記録膜を保護するという基本機能に加えて、記録マークの形成前後における光学特性の差を拡大させたり、記録感度を向上させたりする役割を果たす。
【0050】
なお、ビーム770を照射した場合に、誘電体膜に吸収されるエネルギーが大きいと記録感度が低下しやすい。従って、これを防止するためには、これらの誘電体膜の材料として、380nm〜450nm(特に405nm)の波長領域において低い吸収係数(k)を有する材料を選択することが好ましい。なお、本実施の形態においては、誘電体膜の材料としてTiO2を用いている。
【0051】
誘電体膜に挟まれる追記型記録膜は不可逆的な記録マークが形成される膜であり、記録マークが形成された部分とそれ以外の部分(ブランク領域)は、ビーム710に対する反射率が大きく異なる。この結果、データの記録・再生を行うことができる。
【0052】
追記型記録膜は、Bi及びOを含む材料を主成分として形成される。この追記型記録膜は、無機反応膜として機能し、レーザー光の熱による化学的又は物理的な変化で反射率が大きく異なるようになっている。具体的な材料としては、Bi−Oを主成分とするか、又は、Bi−M−O(ただしMは、Mg、Ca、Y、Dy、Ce、Tb、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Fe、Zn、Al、In、Si、Ge、Sn、Sb、Li、Na、K、Sr、Ba、Sc、La、Nd、Sm、Gd、Ho、Cr、Co、Ni、Cu、Ga、Pbの中から選択される少なくとも1種の元素)を主成分とすることが好ましい。なお、本実施形態では、追記型記録膜の材料として、Bi−Ge−Oを用いている。
【0053】
なお、ここではL0〜L9記録再生層14A〜14Jにおいて追記型記録膜を採用する場合を示したが、繰り返し記録が可能な相変化記録膜を採用することも可能である。この場合の相変化記録膜は、SbTeGeとすることが好ましい。
【0054】
図4に示されるように、中間層群16は、光入射面10Aの遠い側から順番に第1〜第9中間層16A〜16Iを有している。これらの第1〜第9中間層16A〜16Iは、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの間に積層される。各中間層16A〜16Iは、アクリル系またはエポキシ系の紫外線硬化型樹脂によって構成される。この中間層16A〜16Iの膜厚は、10μm以上となる第1距離T1と、この第1距離よりも3μm以上大きい第2距離T2が交互に設定されている。具体的に第1距離T1と第2距離T2は、3μm〜5μmの差を有していることが好ましく、更に好ましくは、4μm以上の差を有するようにする。
【0055】
この多層光記録媒体10では、第1距離T1として12μm、第2距離T2として16μmを採用しており、奥側から順に第1中間層16Aが12μm、第2中間層16Bが16μm、第3中間層16Cが12μm、第4中間層16Dが16μm、第5中間層16Eが12μm、第6中間層16Fが16μm、第7中間層16Gが12μm、第8中間層16Hが16μm、第9中間層16Iが12μmとなっている。つまり、2種類の膜厚(16μm、12μm)の中間層が交互に積層されている。詳細は後述するが、このようにすると層間クロストーク及び共焦点クロストークの双方を低減させることができる。
【0056】
カバー層11は、中間層群16と同様に光透過性のアクリル系の紫外線硬化型樹脂により構成されており、50μmの膜厚に設定されている。
【0057】
次に、この多層光記録媒体10の製造方法について説明する。まず、金属スタンパを用いることによる、ポリカーボネート樹脂の射出成型法により、グルーブおよびランドが形成された支持基板12を作製する。なお、支持基板12の作製は射出成型法に限られず、2P法や他の方法によって作製しても構わない。
【0058】
その後、支持基板12におけるグルーブ及びランドが設けられた側の表面にL0記録再生層14Aを形成する。
【0059】
具体的には、誘電体膜、追記型記録膜、誘電体膜の順に気相成長法を用いて形成する。中でもスパッタリング法を用いることが好ましい。その後、L0記録再生層14Aの上に第1中間層16Aを形成する。第1中間層16Aは、例えば、粘度調整された紫外線硬化型樹脂をスピンコート法等により皮膜し、その後、この紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射して硬化することにより形成する。この手順を繰り返すことで、L1記録再生層14B、第2中間層16B、L2記録再生層14C、第3中間層16C・・・と順番に積層していく。
【0060】
L9記録再生層14Jまで完成したら、その上にカバー層11を形成することで多層光記録媒体10が完成する。なおカバー層11は、例えば、粘度調整されたアクリル系またはエポキシ系の紫外線硬化型樹脂をスピンコート法等により皮膜し、これに対して紫外線を照射して硬化することにより形成する。なお、本実施形態では上記製造方法を説明したが、本発明は上記製造方法に特に限定されるものではなく、他の製造技術を採用することもできる。
【0061】
次に、この多層光記録媒体10の作用について説明する。
【0062】
この多層光記録媒体10は、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの積層反射率が手前から奥側に向かって減少するので、特定の記録再生層の再生中に、その奥側に隣接する記録再生層の反射光が再生光に漏れ込むことを抑制できる。この結果、中間層の厚さを小さくしても、クロストークを抑制することが可能となるので、結果として、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの積層数を10層にまで増大させることができる。
【0063】
一方、図15の参考例に示されるように、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの全てについて、積層反射率を1.0%近傍に互いに近似させようとすると、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの単層反射率や吸収率をばらばらに設定する必要があり、製造工程が極めて複雑化する。結果、製造誤差の影響も受けやすく、誤差を含めた余裕をもった設計が必要となり、積層数を増大させることが困難となる。
【0064】
また、本実施形態では、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの間で、同じ膜材料及び膜厚を採用しているので、記録再生層毎にばらばらの成膜条件が不要となり、設計負担、製造負担を大幅に軽減できる。結果として、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの間では光学定数が実質的に同一に設定される。このようにすると、記録再生装置側における記録再生条件のばらつきが小さくなり、記録再生制御(記録ストラテジ)を簡潔化することが可能になる。ちなみに、単層反射率・単層吸収率が異なるような様々な記録再生層が複雑に重なり合うと、最適な記録再生制御を経験的に見つけ出さなければならないので、相当の困難が伴う。
【0065】
更にこの多層光記録媒体10では、第1膜厚(12μm)となる中間層と、第1膜厚よりも大きい第2膜厚(16μm)となる中間層が、記録再生層14A〜14Jを挟んで交互に積層されている。
【0066】
また、図11〜図14で示したような共焦点クロストーク現象を利用して説明すると、例えば、ビーム70と比較して、多面反射光であるビーム71〜73の光量は小さいのが一般的であるが、等しい光路長と等しい光束径で光検出器に入射するため、干渉による影響は比較的大きい。従って、光検出器で受光される光量は、微少な層間厚みの変化で大きく変動するので、安定な信号を検出することが困難となる。
【0067】
次に、この多層光記録媒体10の設計手法について説明する。
【0068】
まず、最も光入射面に近い側となる記録再生層について特定の成膜条件を設計し、光入射面側から順番に積層していく。この記録再生層の積層数は、再生劣化が起きない程度の再生パワーを記録再生層に照射した際に、各記録再生層からの反射によって光検出器732に戻ってくる反射光量が、評価装置で取り扱うことができる限界値に近くなるまで、または、記録再生層における記録マークの形成(記録層の変性)に必要なレーザーパワーの限界値(即ち記録感度の限界値)に近くなるまで、増加させる。そして、奥側の記録再生層がこれらの反射光量と記録感度の限界値に達したら、これが積層数の上限となる。
【0069】
同じ構成の記録再生層を積層した場合、当然、積層された状態で各記録再生層から光検出器732へ戻る反射光量は、光入射面から奥側になる程、記録再生層の透過の2乗に比例して単調減少し、更に、各記録再生層に到達するレーザーパワーも透過に比例して減少する。
【0070】
この多層光記録媒体10では、10μm以上の範囲で2種類の膜厚となる中間層を交互に用い。これにより、層間クロストークと、共焦点クロストークの影響を同時に低減させる。
【0071】
<実施例及び比較例>
【0072】
本実施形態に係る多層光記録媒体10を実際に製造して記録再生特性を検証した。L0〜L9記録再生層14A〜14Jの単層状態での反射率を1.5%、吸収率を4.5%、透過率を94%とした。なお、全ての記録再生層の材料組成は、TiO2/Fe3O4/BiOx−GeOy/SiO2/TiO2とし、全ての記録再生層で膜厚を一致させた。基板の厚さは1.1mmとし、中間層の厚さは12μm、16μmを交互に設定し、カバー層の厚さは50μmとした。
【0073】
この多層光記録媒体10の光学特性を検証するために、光ピックアップ90を用いて、多層光記録媒体10のL0層(最も奥側の記録再生層)に対して再生ビームを照射し、その反射光の特性を評価した。L0層は最も共焦点クロストークの影響が顕著となるからである。
【0074】
一方、比較例とする多層光記録媒体については、従来通り、積層状態での光検出器732に戻る反射光量と、各記録再生層に到達するレーザーパワーが、各記録再生層でほぼ同じとなる様に、各記録再生層を設計した。なお、この比較例の積層反射率、積層吸収率の状態は、図15で示したものと同じように設定し、10層の記録再生層の間において、積層反射率が1%前後となるようにした。この比較例でもL0層(最も奥側の記録再生層)に対して再生ビームを照射し、その反射光の特性を評価した。
【0075】
実施例と比較例の反射光の信号写真を図5(実施例)及び図6(比較例)に示す。
【0076】
比較例の写真では、反射光の波形においてノイズが大きく現れており、共焦点クロストークによる反射率の変動が顕著に観測されることがわかる。
【0077】
一方、実施例の写真では、比較例で観測されるような反射率変動が大幅に抑制されていることが分かる。
【0078】
以上、本実施形態では、記録再生層が10層で構成される場合について説明したが、本発明はこれに限られない。記録再生層が3層以上となる場合には、本発明を適用することで設計負担が大幅に軽減される。この際、好ましくは記録再生層を4層以上有するようにし、より好ましくは5層以上にする。
【0079】
また、本発明では、評価機の制限、例えば球面収差補正範囲や、レーザーパワー等が許す限り、記録再生層の積層数を増やす事が可能であり、更に評価機上の制限に応じて、記録再生層の数を10層より増やす事も可能である。
【0080】
更に、本実施形態では2種の膜厚となる中間層を交互に積層する場合を示したが、本発明はこれに限定されず、交互でなくても良い。また更に、反射率変動の影響が、評価機で許される範囲である限り、中間層の膜厚を全て同じにしても良い。
【0081】
なお、2種類の膜厚の中間層を交互に配置する場合は、最も奥側の中間層の膜厚を、常に厚い膜厚にすることが好ましい。クロストークの影響を最も受けやすいからである。
【0082】
なお、本発明の多層光記録媒体は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の多層光記録媒体は、各種規格の光記録媒体に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0084】
10 多層光記録媒体
11 カバー層
12 支持基板
14A−14J L0−L9記録再生層
16A−16I 第1−第9中間層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射によって情報が再生され得る記録再生層が、中間層を介して少なくとも3層以上積層される多層光記録媒体であって、
前記中間層の膜厚は2種類以下となっており、
光入射面から最も遠い前記記録再生層を除いた残りの全ての前記記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一であることを特徴とする多層光記録媒体。
【請求項2】
前記光入射面から最も遠い前記記録再生層を含んだ全ての前記記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一であることを特徴とする請求項1に記載の多層光記録媒体。
【請求項3】
前記光学定数が互いに実質的に同一となる前記記録再生層を構成する材料組成及び膜厚が、実質的に同一であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層光記録媒体。
【請求項4】
第1膜厚となる第1中間層と、前記第1膜厚よりも大きい第2膜厚となる第2中間層が、前記記録再生層を挟んで交互に積層されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の多層光記録媒体。
【請求項5】
前記第1膜厚が略12μm、前記第2膜厚が略16μmであることを特徴とする請求項4に記載の多層光記録媒体。
【請求項1】
光照射によって情報が再生され得る記録再生層が、中間層を介して少なくとも3層以上積層される多層光記録媒体であって、
前記中間層の膜厚は2種類以下となっており、
光入射面から最も遠い前記記録再生層を除いた残りの全ての前記記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一であることを特徴とする多層光記録媒体。
【請求項2】
前記光入射面から最も遠い前記記録再生層を含んだ全ての前記記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一であることを特徴とする請求項1に記載の多層光記録媒体。
【請求項3】
前記光学定数が互いに実質的に同一となる前記記録再生層を構成する材料組成及び膜厚が、実質的に同一であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層光記録媒体。
【請求項4】
第1膜厚となる第1中間層と、前記第1膜厚よりも大きい第2膜厚となる第2中間層が、前記記録再生層を挟んで交互に積層されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の多層光記録媒体。
【請求項5】
前記第1膜厚が略12μm、前記第2膜厚が略16μmであることを特徴とする請求項4に記載の多層光記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2012−89211(P2012−89211A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236074(P2010−236074)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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