説明

多層抄き板紙

【課題】クッション性、防滑性、表面強度に優れ、また、段ボールシート、段ボール包装容器、内装包装容器などへの加工、貼合、製函適性に優れた多層抄き板紙を提供する。
【解決手段】熱発泡粒子とパルプとバインダとを含有する塗工液を少なくとも表層及び裏層からなる基紙の少なくとも片面に塗布することにより、クッション性及び防滑性の優れた多層抄き板紙を作る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層抄き板紙に関し、さらに詳細には、クッション性、防滑性、表面強度に優れ、また、段ボールシート、段ボール包装容器、内装包装容器などへの加工、貼合、製函適性に優れた多層抄き板紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば電化製品などの梱包には、内部の製品の擦れや衝撃などを緩和させるため、成形性が良く安価で軽量な発泡スチロールが用いられて製品が固定され、不織布等により製品が包装されているのが一般的である。
【0003】
しかしながら、このような発泡スチロールは、廃棄に際し環境への負荷が大きいといった問題がある。周知のように、発泡スチロールを焼却処理によって廃棄するとなると、燃焼カロリーが高いことから焼却炉を損傷させることになり、また黒煙や汚染物質となって大気汚染を引き起こすことにもなる。一方、発泡スチロールを埋立て処理によって廃棄するとなると、この発泡スチロールは難分解性で嵩高であることから、そのまま土壌中に残留し、埋立て処分場の寿命を短縮させることになる。そこで、最近、このような発泡スチロールの分別回収やリサイクル等が検討されているが、回収やリサイクルには多額のコストを要する等の理由により、根本的な対策を構築するまでに至っていないのが実情である。
【0004】
これに対し、紙は燃焼カロリーが低く、燃焼による煤煙や有害物質の発生が少なく、易分解性なことから、発泡スチロールに代えて、断熱性や保温性を有する紙を開発する試みがなされてきている。
【0005】
とくに、クッション性及び防滑性の優れた紙として、熱により発泡する発泡性マイクロカプセルを使用した発泡紙が各種提案されている。この発泡性マイクロカプセルは、例えば特許文献1に記載されているように、メタクリン酸とスチレンの共重合体、アクリロニトリルとスチレンの共重合体、塩化ビニリデン等の熱可塑性合成樹脂の微細粒子外殻内にブタンガス等の低沸点剤を封入したものであり、加熱により外殻が軟化しブタンガス等の低沸点溶剤が気化して膨張することで、中空の独立気泡であるマイクロバルーンを形成するものである。
【0006】
従来、このような発泡性マイクロカプセルを使用して、紙にクッション性及び防滑性をもたせる方法として、熱発泡性粒子をパルプ原料に混合して紙を抄造する内添抄紙方法や、紙製造工程途中で多くの水分を保有する湿潤状態の湿紙に熱発泡性粒子をスプレーする又は含浸させる方法等が知られている。
【0007】
熱発泡性粒子を内添する方法として、例えば特許文献2には、パルプに5〜30μmの発泡性マイクロカプセルを混抄し、加熱発泡前の水分量を一般の抄紙における水分量よりも相当に多くして、加熱乾燥することにより発泡性マイクロカプセルを発泡させて、軽量な紙を得る方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、紙用パルプを主材とした製紙用原料に、発泡性マイクロカプセルを配合して抄紙した水分50〜60重量%の紙匹に、主として発泡性マイクロカプセルとゴムラテックス及び、または合成樹脂エマルジョンからなる含浸液を湿式含浸法により製紙用原料に対して5〜40重量%含浸し、次いで加熱することによって発泡性マイクロカプセルを発泡させることを特徴とする低密度紙の製造方法が開示されている。
【0009】
しかし、特許文献2及び3に記載の発泡紙は、いずれも発泡性マイクロカプセルが発泡して紙層全体がポーラスとなっており、マイクロカプセルが発泡したマイクロバルーンによりパルプ繊維間結合が妨げられため、紙力や紙層間の剥離強度が大きく低下し、これにより紙が破れたり裂けたりし易いという問題がある。
【0010】
すなわち、上記により得られた紙を加工してクッション・防滑用の包装容器として用いた場合、
(a)発泡したマイクロバルーンは繊維間の結合を阻害し、包装容器としての圧縮強度や破裂強度が弱いものとなり、包装容器として必要な強度を確保できないため包装容器が潰れてしまう。
(b)紙層間の剥離強度が低く、紙の層間剥離により包装容器のジョイント部分やフラップ部分で剥れが発生する。
(c)表面強度が弱く、輸送、移動時の擦れにより、包装容器の表面に紙剥け、破れが発生する。
(d)熱発泡性粒子が紙層全体に分布したポーラスな性状となっているため、貼合、製函時に接着剤を多く吸収してしまう。そのため、接着剤が必要以上に消費され、コスト高に繁がる。
(e)紙層内に多量に吸収された接着剤によって、発泡紙本来の断熱性が阻害され、低下する。
などの問題が生じるため、クッション・防滑用の包装容器に用いる紙としては適性がない。
【0011】
また、特許文献2に記載された発泡紙では、原料パルプに発泡性マイクロカプセルを混合し抄紙するが、発泡性マイクロカプセルは、パルプ繊維状に物理的にとどまるだけであるため、抄紙機ワイヤー上での歩留まりが非常に悪く、原料パルプに過剰に高価な発泡性マイクロカプセルを混合しなければならないという問題が生じる。
【0012】
また、例えば特許文献4には、抄紙機ワイヤーパートにおいて、パルプを抄紙して得た湿紙に発泡性マイクロカプセルの分散液をスプレー外添する発泡紙の製造方法が、さらにまた、特許文献5には、木材パルプを主原料として抄紙された湿紙に、発泡性マイクロカプセルの分散液をスプレー塗布し、発泡性マイクロカプセルを紙層に分布させ、さらにサイズ度を一定範囲に調整したインクジェット記録用発泡原紙が開示されている。
【0013】
しかし、特許文献4及び特許文献5に記載の発泡紙は、いずれも紙製造工程の途中で多くの水分を保有する湿潤状態の湿紙に、発泡性マイクロカプセルの分散液をスプレー塗布し、発泡性マイクロカプセルを紙表面ではなく、紙層に分布させる製造方法やインクジェット記録用発泡原紙であり、上記同様に、マイクロカプセルが発泡したマイクロバルーンによりパルプ繊維間結合が妨げられるため、紙力や紙層間の剥離強度が低く、これにより紙が破れたり裂けたりし易いものとなっているので包装容器としての適性がない。
【0014】
なお、先行技術文献は見当たらないものの、紙表面に熱発泡性粒子を含有した塗工液をオフマシンまたはオンマシン上で塗工することで、発泡紙を得ることも考えられる。このような熱発泡性粒子の紙への塗工による発泡紙の製造は、熱発泡性粒子単体では紙に定着しないため、熱発泡性粒子とバインダとからなる塗工液を塗工機により紙へ塗工した後、加熱発泡させることにより行わなければならない。
【0015】
しかしながら、この方法は、バインダを使用することになり、前記バインダにより熱発泡性粒子の発泡倍率が抑制され、熱発泡性粒子が適切に発泡することによって発現するクッション性、防滑性が低下することになる。
【0016】
また、熱発泡性粒子の添加率を多くした場合には、発泡紙のコストが高くなるばかりか、熱発泡性粒子により、紙の表面強度、印刷適性が低下することになる。
【0017】
さらに、紙表面に熱発泡性粒子を含有した塗工液を塗工する方法は塗工量が一定量以下に制限されることから、熱発泡性粒子の塗工量が制限され、塗工層の厚みも薄いことから、クッション性、防滑性という点では、前述の内添法、含浸法よりも劣ると考えられるため、実用化には至っていないものと考えられる。
【0018】
【特許文献1】特公昭44−7344号公報
【特許文献2】特開平10−88495号公報
【特許文献3】特開平8−226097号公報
【特許文献4】特開2001−98494号公報
【特許文献5】特開2002−46342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、クッション性、防滑性、表面強度に優れ、また、段ボールシート、段ボール包装容器、内装包装容器などへの加工、貼合、製函適性に優れた多層抄き板紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の上記目的は、熱発泡粒子とパルプとバインダとを含有する塗工液を少なくとも表層及び裏層からなる基紙の少なくとも片面に塗布し、クッション性及び防滑性を付与したことを特徴とする多層抄き板紙を提供することにより達成される。
【0021】
また、本発明の上記目的は、前記塗工液に含有する前記熱発泡粒子と前記パルプの配合比率は、熱発泡性粒子95.0〜99.9%(Dry%)に対しパルプ5.0〜0.1%(Dry%)であること、前記塗工液に含有する熱発泡粒子は、粒子径が15〜20μm、発泡開始温度が75〜85°C、最高膨張温度が105〜120°Cであること、前記塗工液に含有するバインダはスチレン・ブタジエン共重合ラテックス(SBR)であること、前記塗工液の塗工量は、前記基紙片面当り固形分で0.4〜10g/mであることを夫々特徴とする多層抄き板紙を提供することにより効果的に達成される。
【発明の効果】
【0022】
上記のとおりの構成からなる本発明によれば、優れたクッション性、防滑性、表面強度を有する多層抄き板紙を得ることができ、これにより、段ボールシート、段ボール包装容器、内装包装容器などへの加工、貼合、製函適性に優れた多層抄き板紙を得ることができる。また、本発明に係る多層抄き板紙は、例えば板紙と発泡紙とを貼り合わせることなく、クッション性、防滑性に優れるものであるので、工程の簡略化が図れる。さらにまた、表面強度も優れているので、従来の発泡紙では表面強度が弱いために用いることができなかった輸送、保管、保護のために用いられるクッション性、防滑性に優れた段ボール包装容器、内装包装容器等の包装容器に用いることができ、このような包装容器に用いても罫線割れ等の問題を発生することがない。
【0023】
とくに、塗工液の塗工量を基紙片面当り固形分で0.4〜10g/mとすることにより、表面硬度を低くすることができ、クッション性及び防滑性をさらに向上した多層抄き板紙を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る多層抄き板紙について、基紙が表層、中層、及び裏層の3層の紙層から成る場合を例に、詳細に説明する。なお、本発明に係る多層抄き板紙は、以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲内において、その構成を適宜変更できることはいうまでもない。
【0025】
本発明に係る多層抄き板紙(以下、「本板紙」という。)は、表層と、裏層と、これら表裏層の間に配置される1層の中層との3層の紙層により基紙を構成し、この基紙の少なくとも片面に、少なくとも熱発泡性粒子とパルプとバインダとを含有した塗工液を塗布して塗工層が設けられている。
【0026】
本板紙の基紙に塗布される塗工液には、熱発泡性粒子を含有する。これにより、本板紙にクッション性及び防滑性を付与することができる。
【0027】
本板紙に塗布される塗工液に用いられる熱発泡性粒子は、熱可塑性合成樹脂で構成される微細粒子外殻内に低沸点溶剤を封入したもので、熱発泡性粒子の平均粒径は5〜30μmのものである。
【0028】
熱発泡性粒子の外殻を構成する熱可塑性合成樹脂としては、例えば、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリル酸エステル等の共重合体を挙げることができる。また、かかる外殻内に封入される低沸点溶剤としては、例えば、イソブタン、ペンタン、石油エーテル、ヘキサン、低沸点ハロゲン化炭化水素、メチルシラン等を挙げることができる。
【0029】
このような熱発泡性粒子は、80〜200°Cでの加熱により、封入されている低沸点溶剤が気化し蒸気圧が上昇し、外殻が膨張して独立気泡を形成し、直径が4〜5倍、体積が50〜130倍に膨張する。なお、抄紙工程中及び紙加工工程中の紙乾燥工程の温度が80〜200°Cであることから、本発明における熱発泡性粒子は、粒子径が15〜20μm、発泡開始温度が75〜85°Cであること、また、最高膨張温度が105〜120°Cであることが好ましい。
【0030】
熱発泡性粒子の粒子径が15μm未満であると、クッション層の厚みが十分に確保できず、このため荷傷を防止できなくなり、20μmを超えると、クッション層の厚みにバラツキを生じ、また必要以上にクッション層の厚みが増すため折り加工に適さなくなるので、好ましくない。また、発泡開始温度が75°C未満、最高膨張温度が105°C未満であると、熱発泡性粒子が熱により急激に膨張し、これによりドライヤーの表面を汚すという操作上のトラブルが発生する。発泡開始温度が85°C、最高膨張温度が120°Cを超えると、熱発泡性粒子が十分に膨張せず、このためクッション性が阻害されてしまうので、好ましくない。
【0031】
この熱発泡性粒子を、乾燥工程において、ドライヤーにより発泡させて膨張させ、本板紙を嵩高にすることでクッション性及び防滑性を付与する。なお、この熱発泡性粒子を膨張させるための加熱は、一回の加熱で本板紙の所望とする大きさまで発泡させて膨張させることが好ましい。
【0032】
このような熱発泡性粒子としては、例えば、松本油脂製薬株式会社製造の「マツモトマイクロスフェアF−30D」、「同F−30GS」、「同F−20D」、「同F−50D」や、日本フィライト株式会社販売の「エクスパンセルWU」、「同DU」など、公知の種々のものを用いることができるが、膨張前の熱発泡性粒子の粒径、塗工適性、乾燥工程での発泡性などの観点からとくにアクリル系コポリマーからなる熱発泡性粒子が好ましい。
【0033】
また、本板紙の基紙に塗布される塗工液には、パルプを含有する。これにより、本板紙にクッション性を付与することができる。
【0034】
原料パルプとしては、例えば広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、または離解・脱墨・漂白古紙パルプ、あるいは、ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等、公知の種々のパルプを使用することができる。
【0035】
これらの原料パルプの中でも、とくに本板紙のクッション性の役割及び本板紙としての各種品質特性等をバランスよく、かつ効率的に達成するために、LBKP、NBKP、LUKP、NUKPから製造された古紙パルプを用いることが好ましい。
【0036】
NKPの含有量が5質量%を超えると、塗工むらによる強度のばらつき、クッション性の低下を招く。
【0037】
このように、熱発泡性粒子及びパルプを塗工液に含有させることで、塗工層に、より厚みをもたせることができ、これによりクッション性及び防滑性の相乗効果を得ることができる。
【0038】
さらにまた、本板紙の基紙に塗布される塗工液には、バインダも含有する。これにより、本板紙の表面強度を向上させることができ、本板紙が包装容器等に加工される際の罫線割れ等の発生、輸送、保管時等における内容物との擦れによる紙剥け、破れ等の発生を防止することができる。
【0039】
本板紙の塗工液に用いられるバインダとしては、例えば酢酸ビニル、アクリル、ポリビニールアルコール(PVA)、スチレン・ブタジエン共重合ラテックス(SBR)、澱粉、ポリアクリルアマイド(PAM)等、公知の種々のものを用いることができる。
【0040】
しかし、本板紙に塗工される塗工液には、上述したように熱発泡性粒子及びパルプも配合されているため、バインダの種類、性状によっては、本板紙の表面強度の低下を招くおそれがある。
【0041】
また、硬度の高いバインダは、表面強度の向上効果には優れるものの、熱発泡性粒子の膨張を阻害してしまう。すなわち、熱発泡性粒子は、上述したように、加熱して膨張させて発泡させることによりクッション性及び防滑性を発揮するため、熱発泡性粒子の膨張が阻害されてしまうと、このクッション性及び防滑性を得ることができなくなる。
【0042】
さらに、本板紙は、包装容器に加工されることが多いが、包装容器に加工され、罫線部(折り曲げ部)に強い折り曲げの力が加わった際に、塗工層が割れないことが要求される。
【0043】
このため、上述した種々のバインダの中でも、とくにSBRを用いることが好ましい。すなわち、SBRは、熱発泡性粒子、パルプとの接着性が良好であり、また、折り曲げ時の伸びに優れるため、熱発泡性粒子の膨張・発泡を阻害することがなく、また本板紙が包装容器に加工された場合の罫線割れの問題が発生しにくくなる。
【0044】
さらにまた、塗工液の塗工時の粘度が低く、折り曲げ適性に優れる柔らかい性状であり、しかも乾燥後は適度な表面強度向上効果を得ることができるガラス転移温度は−50〜30°C、より好ましくは−30〜20°Cあり、このようなバインダであると、熱発泡性粒子の発泡性、及び板紙の加工適性がさらに優れたものとなる。
【0045】
本板紙の基紙の表面に塗工される塗工液は、上述したように少なくとも熱発泡性粒子と、パルプと、バインダとが含有されている。
【0046】
なお、熱発泡性粒子は、基紙を構成する各層の原料パルプに内添することも可能ではあるが、熱発泡性粒子の比重は0.9〜1.2g/cmであるため、これらを内添すると、抄紙時に厚み方向に均一に分散させることが難しく、クッション性を効果的に得ることができない。
【0047】
また、所望とするクッション性及び防滑性を得るために、熱発泡性粒子を過剰に添加することが必要となる。このような熱発泡性粒子の過剰な添加は、製造コストの増加を招き、また品質面では表面強度の低下、圧縮強度や破裂強度、引張強度、印裂強度などの各種強度の低下、印刷適性の低下、表裏差によるカールの発生などの問題を生じるため、少なくとも熱発泡性粒子とパルプとバインダとを含有した塗工液を塗工して塗工層を形成することが好ましい。
【0048】
熱発泡性粒子とパルプの配合比率は、熱発泡性粒子:パルプ=95.0〜99.9%(Dry%):5.0〜0.1%(Dry%)が好ましく、熱発泡性粒子:パルプ=98.5〜99.5%(Dry%):1.5〜0.5%(Dry%)がより好ましい。
【0049】
パルプの含有量が0.1%未満であると、発泡粒子とパルプ繊維との絡みが悪くなって表面強度が弱くなり、パルプの含有量が5.0%を超えると、塗工液が増粘して塗工ができなくなる。
【0050】
バインダの含有量は、熱発泡性粒子及びパルプの混合物100重量部(Dry)に対し、20〜60重量部(Dry)含有させることが好ましく、40〜50重量部(Dry)含有させることがより好ましい。
【0051】
熱発泡性粒子及びパルプに対し、バインダの含有量が20重量部(Dry)未満であると、熱発泡性粒子、パルプの接着性が低下する。一方、バインダの含有量が60重量部(Dry)を超えると、熱発泡性粒子及びパルプの接着性及び熱発泡性粒子の発泡効果はほとんど向上せず、製造コストが高くなるだけである。
【0052】
このような塗工液は、基紙の少なくとも片面に、片面当り固形分で0.4〜10g/m、好ましくは1〜6g/m塗工される。塗工量が0.4g/m未満であると、クッション性が悪くなり、10g/mを超えると、クッション層が厚くなり、また熱発泡粒子の膨張にバラツキが生じるので、好ましくない。
【0053】
なお、塗工液を塗工する方法としては、バーコーター、ロッドコーター、エアナイフなどの公知の塗工手段により塗工することができる。また、グラビア印刷機、フレキソ印刷機等の公知の印刷手段により印刷することもできる。これらの中でもとくに、塗工液の塗工量を任意に変更できるロッドコーター、エアナイフなどの塗工機が好ましい。
【0054】
また、塗工液を塗工する前工程で、基紙にカレンダー処理を施すことが好ましい。これにより基紙表面が緻密になり、塗工液を基紙表面に効率よくとどめることができるようになるので、本板紙をよりクッション性に優れたものとすることができる。
【0055】
以下に、本板紙の基紙について説明する。
【0056】
本板紙の基紙は、上述したように、表層と、裏層と、これら表裏層間の間に配置される1層の中層との3層の紙層により構成されている。
【0057】
本板紙は、輸送、保管、保護のために用いられる断熱性、保温性に優れた段ボール包装容器、内装包装容器等の包装容器に加工され使用されるため、抜き加工適性や貼合・製函適性に優れ、かつ包装容器として適切な強い強度を有することが要求される。
【0058】
そのため、本板紙の表層は、(1)段ボール包装容器、内装包装容器等への加工時の罫線割れを防止する、(2)高い表面強度を有し、内容物を輸送、保管、保護する、(3)中空無機粒子と熱発泡性粒子とバインダを含有する塗工液に対する塗工適性を有する、(4)印刷適性を確保する、等の役目を担う層である。
【0059】
表層の原料パルプとしては、例えば広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、または離解・脱墨・漂白古紙パルプ、あるいは、ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等、公知の種々のパルプを使用することができる。
【0060】
これらの原料パルプの中でもとくに、本板紙の表層の役割、本板紙としての各種品質特性等をバランスよく、効率的に達成するために、LBKP、NBKP、LUKP、NUKP、あるいは上白古紙、ケント古紙、茶古紙、クラフト封筒古紙から製造された古紙パルプを用いることが好ましい。
【0061】
また、表層の原料パルプには、針葉樹クラフトパルプ(NKP)を5〜70質量%含有することが好ましく、さらにNKPの含有量が25〜70質量%であると、破裂強度の向上とともに罫線割れを効果的に防止することができるのでより好ましい。
【0062】
なお、表層におけるの原料パルプのNKPの含有量が5質量%未満であると、繊維長が長く、繊維が太いNKPの含有割合が少なくなるため、破裂強度の低下や、製函加工時に罫線割れが発生しやすくなる。
【0063】
一方、NKPの含有量が70質量%を超えると、地合いむらによる強度のばらつき、見栄えの低下を招く。また、熱発泡性粒子とパルプとバインダとを含有する塗工液を塗工する場合には、塗工液が基紙表面に非常に多く浸透してしまうため、クッション性、防滑性を有する塗工層を効率的に形成することができないという問題が生じてしまうおそれもある。
【0064】
また、本板紙の表層の付け量は15〜45g/mが好ましく、25〜40g/mであるとより好ましい。表層の付け量が15g/m未満であると、表層の強度が低下するため製函加工時に罫線割れ、角割れ等が発生しやすくなる。一方、表層の付け量が45g/mを超えると、中層に対し表層には高価な原料パルプを使用しているため、コストアップを招くことになる。
【0065】
なお、「付け量(g/m)」とは、以下により層剥離を行い、各層の坪量をJIS−P8124に記載の「紙及び板紙―坪量測定方法」に準拠して測定した値である。
【0066】
層剥離は以下の手順で行った。まず、各試料から得た各サンプルを室温の水に約1時間浸漬する。水に浸漬した各サンプルを、角を起点として10mmΦ程度の丸棒に巻き付けた後、丸棒を転がして各サンプルをしごく。この操作を各サンプルにおける四隅の全ての角を起点に繰り返し、各方向からサンプルにしごきの力を加える。これにより、各サンプルの層間の一部が剥離してくるので、これを利用して、各層に分離して層剥離を行う。層剥離を行った後、各サンプルの各層を熱風乾燥機などで十分に乾燥し、試験に使用した。
【0067】
さらに、表層の原料パルプのフリーネスは280〜530ccとすることが好ましく、320〜430ccとすることがより好ましい。
【0068】
すなわち、表層の原料パルプのフリーネスが280cc未満であると、原料パルプの繊維長が短くなるため、破裂強度の低下や、製函加工時に罫線割れ、角割れが発生しやすくなり、一方、フリーネスが530ccを超えると、繊維長が長く、塗工液に含有するバインダが、過剰に表層に浸透してしまい、熱発泡性粒子を表面に留めることが困難となり、熱発泡性粒子が剥れ落ちるおそれがある。
【0069】
なお、塗工液の塗工量を増やすことも可能ではあるが、過剰な塗工は生産効率が低下し、また、高価な熱発泡性粒子を多く塗工することになり、いずれにしても大幅なコストアップを生じるおそれがある。
【0070】
ここに、「フリーネス」とは、JIS−P8220に準拠して標準離解機にて試料を離解処理した後、JIS−P8121に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて濾水度を測定した値である。
【0071】
次に、本板紙の中層及び裏層の原料構成について説明する。
【0072】
本板紙の中層及び裏層の原料パルプとしては、表層と同様に公知の種々のパルプを使用することができる。これらの中でも、とくに、表層と同様に、本板紙の裏層の役割、各種品質特性等をバランスよく、効率的に達成するためにLBKP、NBKP、LUKP、NUKP、LSBKP、NSBKP、あるいは茶古紙、クラフト古紙から製造された古紙パルプを用いることが好ましい。
【0073】
また、本板紙の中層及び裏層には、その原料パルプにNKPを10〜80質量%含有することが好ましく、さらにNKPの含有量が40〜60質量%であると、破裂強度の向上及び、本板紙の容器包装加工時における罫線割れ、角割れを効果的に防止できるのでより好ましい。
【0074】
さらに、中層及び裏層の原料パルプのフリーネスは、表層同様に容器包装加工時に破裂、罫線割れ、角割れ等を効果的に防止するには280〜480ccとすることが好ましく、また、引張強度の低下防止には、300〜440ccとすることがより好ましい。
【0075】
なお、原料パルプを選択する場合には、古紙パルプを可能な限り多く配合することが、エネルギー原単位や環境に与える負荷の軽減から好ましい。
【0076】
古紙パルプとしては、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、または離解・脱墨・漂白古紙パルプ等を使用することができる。
【0077】
また、本板紙の坪量はとくに限定されるものではないが、例えば150〜400g/mが好ましく、170〜300g/mであるとより好ましい。なお、この「坪量」とは、JIS−P8113に準拠して測定した坪量の値である。坪量が100g/m未満であると、本板紙製造時の塗工適性不良及びの懸念がある。一方、坪量が400g/mを超えると、包装容器加工時、厚みが厚すぎるため加工し難く、好ましくない。
【0078】
なお、本板紙の抄紙方法については、とくに限定されるものではないので、酸性抄紙法、中性抄紙法、アルカリ性抄紙法のいずれであってもよい。また、抄紙機もとくに限定されるものではなく、例えば長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機等、公知の種々の抄紙機を使用することができる。
【0079】
以上、本板紙について、紙層が表層、裏層、及び中層の3層の紙層から成る場合について説明してきたが、本発明はこのような板紙に限らず、この他、例えば表層、2層の中層、及び裏層の4層の紙層を有する板紙、さらには中層の層数を増やして5層以上の紙層を有する板紙としてもよい。
【実施例】
【0080】
本発明に係る多層抄き板紙の効果を確認するため、以下のような各種の試料を作製し、これらの各試料に対する品質を評価する試験を行った。なお、本実施例において、配合、濃度等を示す数値は、固形分又は有効成分の重量基準の数値である。また、本実施例で示すパルプ・薬品等は一例にすぎないので、本発明はこれらの実施例によって制限を受けるものではなく、適宜選択可能であることはいうまでもない。
【0081】
本発明に係る28種類の多層抄き板紙(これを「実施例1」ないし「実施例28」とする)と、これらの実施例1ないし実施例28と比較検討するために、3種類の多層抄き板紙(これを「比較例1」ないし「比較例3」とする)を、表1に示すような構成で作成した。
【0082】
以下に、各試料の製造条件を示す。なお、とくに断りのない限り、表層、中層(3層)及び裏層の各層の原料配合、濾水度、薬品添加条件などは同一とする。
【0083】
[実施例1]
[基紙の製造]
<1>表層
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)30質量%と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)30質量%及び、上質古紙パルプ40質量%とを配合した後に、離解フリーネスを380ccに調整した原料パルプに、硫酸バンド4質量%、サイズ剤(近代化学工業株式会社製R50)を0.3質量%添加して表層用の原料スラリーを生成した。ここに、「離解フリーネス(cc)」とは、各試料を約3cmの大きさに裁断して約25gの重さの試験片とし、この試験片を1リットルの水に24時間浸漬した後、JIS−P8220に準拠して標準離解機で15分間離解処理し、試験片が完全に離解していることを目視で確認した後、JIS−P8121に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて測定した濾水度の値である。
<2>中層(1)
ケント古紙パルプ(NBKP)60質量%と上質古紙パルプ40質量%とを配合した後に、離解フリーネスを350ccに調整した原料パルプに、硫酸バンド4質量%、サイズ剤(近代化学工業株式会社製R50)を0.3質量%添加して原料スラリーを生成した。
<3>中層(2)、(3)及び裏層
地券古紙パルプ100質量%を、離解フリーネス230ccに調整し、硫酸バンド4質量%、サイズ剤(R50)を0.3質量%添加して原料スラリーを生成した。
【0084】
これらの原料スラリーを用い、ウルトラフォーマー(小林製作所株式会社製)にて、表層、中層(1)、中層(2)、中層(3)及び裏層の5層の紙層を抄き合わせて、付け量を表層が30g/m、中層(1)が40g/m、中層(2)、中層(3)、裏層が各50g/m、板紙全体の坪量を220g/mである基紙を得た。
【0085】
[塗工液の調整]
平均粒子径が20μmの熱発泡性粒子(マツモト油脂製薬株式会社製、マツモトマイクロスフェアF−46)とパルプの混合物を作成し、この混合物100重量部に対し、ガラス転移温度(Tg)が−5℃であるスチレン・ブタジエン共重合ラテックス(SBR)を50重量部配合した塗工液を調整した。
【0086】
[多層抄き板紙の製造]
抄紙機に設置したオンマシンロッドコーターにて基紙の片面に、上述したように調整した塗工液を片面に片面当り固形分で5g/m塗工した後、ドライヤーシリンダーの表面温度が約100℃のアフタードライヤーにて熱発泡性粒子を発泡させ、その後ソフトカレンダーで表面処理を行い、多層抄き板紙[実施例1]を得た。
【0087】
[実施例2〜28]
塗工液に含まれる熱発泡性粒子の粒子径、バインダの種類、Tgの値を固定し、塗工液における熱発泡性粒子の発泡開始温度、最高膨張温度、含有量、バインダの含有量、塗工液の塗工量を夫々表1に示すとおり変更し、実施例1と同様にして得た多層抄き板紙である。
【0088】
[比較例1〜2]
塗工液に含まれる熱発泡性粒子の粒子径を表1に示すとおりに変更したことを除くその他の点は実施例5ほかと同様にして得た多層抄き板紙である。
【0089】
[比較例3]
塗工液にパルプを含有させないように変更したことを除くその他の点は実施例5ほかと同様にして得た多層抄き板紙である。

これらの全実施例及び比較例について、坪量、表面強度、滑り角度の品質を評価する試験を行った結果は、表1に示すとおりであった。なお、この評価試験はJIS−P8111に準拠して温度23°C±1°C、湿度50±2%の環境条件の下で行った。
【0090】
なお、表1中の「坪量(g/m)」とは、各試料全層、すなわち多層抄き板紙の全体の坪量で、JIS−P8142に記載の「紙及び板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した
値である。
【0091】
なお、品質評価におけるクッション性、手触り感において、○印は良い、◎印は優れている、×印は悪いを表している。

【0092】
【表1】

表1の品質評価欄に示されるように、本発明に係る多層抄き板紙、すなわち実施例1〜実施例28に係る多層抄き板紙は、品質面において比較例1〜3に係る多層抄き板紙より優れていることが判明した。とくに、クッション性、手触り感に関しては、表1に◎印で示されるように、熱発泡粒子の発泡開始温度が75〜85°Cであり、最高膨張温度が105〜120°Cである場合、熱発泡粒子に対するパルプの含有量(配合比率)が99.9〜95.0:0.1〜5.0(Dry%)である場合、バインダの含有量が20〜60重量部である場合、塗工液の塗工量が0.4〜10g/mである場合に、夫々優れたものとなっている。すなわち、本発明に係る多層抄き板紙は、クッション性、防滑性に優れ、また表面強度にも優れているものであり、これにより従来の発泡紙では表面強度が弱いために用いることができなかった輸送、保管、保護のために用いられるクッション性、防滑性に優れた段ボールシート、段ボール包装容器、内装包装容器等の包装容器に用いることができ、実際に用いて包装容器を作製してみたところ、罫線割れ等の問題は全く発生しないことが確認された。






















【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱発泡粒子とパルプとバインダとを含有する塗工液を少なくとも表層及び裏層からなる基紙の少なくとも片面に塗布し、クッション性及び防滑性を付与したことを特徴とする多層抄き板紙。
【請求項2】
前記塗工液に含有する前記熱発泡粒子と前記パルプの配合比率は、熱発泡性粒子95.0〜99.9%(Dry%)に対しパルプ5.0〜0.1%(Dry%)であることを特徴とする請求項1記載の多層抄き板紙。
【請求項3】
前記塗工液に含有する熱発泡粒子は、粒子径が15〜20μm、発泡開始温度が75〜85°C、最高膨張温度が105〜120°Cであることを特徴とする請求項1又は2記載の多層抄き板紙。
【請求項4】
前記塗工液に含有するバインダはスチレン・ブタジエン共重合ラテックス(SBR)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多層抄き板紙。
【請求項5】
前記塗工液の塗工量は、前記基紙片面当り固形分で0.4〜10g/mであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多層抄き板紙。































【公開番号】特開2009−191372(P2009−191372A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30106(P2008−30106)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【特許番号】特許第4268995号(P4268995)
【特許公報発行日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】