説明

多層構造を有するバイオセンサ

【課題】保存安定性に優れた、試料中の中性脂肪等の特定成分の濃度を測定できるバイオセンサを提供する。
【解決手段】本発明によれば、絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成されてなる、少なくとも作用極および対極を含む電極系と、前記電極系上に形成されてなる試料供給部と、を有するバイオセンサであって、前記試料供給部が、前記電極系上に形成される中間層と、前記中間層上に形成される反応層と、を含み、前記中間層は、界面活性剤を含む界面活性剤層および親水性高分子を含む親水性高分子層を含み、前記反応層は、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素と、脂質分解酵素と、を含む、バイオセンサが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサ、生体試料等の特定の試料中の特定成分の濃度を酵素反応を利用して定量するバイオセンサに関する。特に本発明は、中性脂肪濃度測定用バイオセンサに関し、保存安定性に優れた中性脂肪濃度測定用バイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオセンサが医療等の分野において応用されている。バイオセンサの測定対象は低分子から高分子に至るまでの様々な化学物質であり、測定対象に応じて、種々の機能を有するバイオセンサの開発が進められている。
【0003】
従来、生体試料および食品中に含まれる特定成分(基質)を希釈や撹拌等を行うことなく簡易に定量することができるバイオセンサが知られている。例えば、絶縁性の基板上に少なくとも作用極および対極を有する電極系を形成し、この電極系上に酸化還元酵素および電子受容体を親水性ポリマー等の固定化剤で固定化させた酵素反応層を設け、次いでこの酵素反応層の上に濾過層(血球除去層)を設け、さらにこの濾過層の上からカバーを被せて一体化したバイオセンサが提案されている。
【0004】
このバイオセンサは、以下の方法により試料中の基質濃度を定量する。まず、濾過層に血液等の試料溶液を滴下し、その濾過液が酵素反応層に浸透する。これにより、酸化還元酵素および電子受容体が試料溶液中に溶解し、基質と酵素との間で酵素反応が進行する。この酵素反応によって基質が酸化され、同時に電子受容体が還元される。酵素反応の終了後、還元された電子受容体を電気化学的に酸化し、このとき得られる酸化電流値から試料溶液中の基質濃度を求めるものである。
【0005】
例えば、中性脂肪をバイオセンサで測定する方法としては、以下のように試料中の中性脂肪を定量する方法が知られている。まず、試料溶液に含まれる中性脂肪は、例えば、リポプロテインリパーゼ(LPL)により遊離脂肪酸とグリセロールとに分解される。ここで生じたグリセロールは、下記式(1)および式(2)で示すように、グリセロールキナーゼ(GK)とグリセロール−3−リン酸オキシダーゼ(GPO)またはグリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)とを用いることにより定量することができる。すなわち、下記式に示される、酸化型電子受容体の減少、還元型電子受容体の増加またはジヒドロキシアセトンリン酸の量を測定することによって、グリセロールを定量することができる。特に還元型電子受容体の増加量を電気化学的に測定することによって、グリセロールを定量することが可能である。
【0006】
【化1】

【0007】
しかしながら、上記中性脂肪測定に用いられるリポプロテインリパーゼ(LPL)、グリセロールキナーゼ(GK)、およびグリセロール−3−リン酸オキシダーゼ(GPO)の3種の酵素はいずれも高価である。
【0008】
このような問題を解決するために、中性脂肪分解反応に用いる酵素として、中性脂肪分解酵素とグリセロールデヒドロゲナーゼ(GLDH)との2種類を用いることで、酵素のコストを低下させたバイオセンサが開示されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1のバイオセンサは、測定時間および精度が十分であるとはいえず、より一層の高精度化および測定の迅速化が望まれている。
【0009】
一方、溶存酸素の影響を受けず、1種類の酵素を用いる方法としては、下記式(3)で示すようにNAD+依存性グリセロールデヒドロゲナーゼ(NAD−GLDH)を用いる方法が知られている。
【0010】
【化2】

【0011】
しかしながら、この反応は、高価なNAD+を添加する必要がある。
【0012】
より安価で簡便にグリセロールを定量する方法としては、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオールデヒドロゲナーゼ(PQQ−PDH)を用いる方法がある。
この方法は、下記式(4)の反応によって行われるため、溶存酸素の影響を受けない、反応が簡便で複数の酵素を用いる必要がない、高価なNAD+を添加する必要がない等のメリットがある。
【0013】
【化3】

【0014】
上記を考慮して、短時間かつ高精度で中性脂肪を測定できるバイオセンサを目的として、中性脂肪分解酵素とグリセロールデヒドロゲナーゼとを異なる層に配置したバイオセンサが報告された(特許文献2、3)。ここで、特許文献2のバイオセンサは、電極上に、GLDHおよび親水性高分子を含むポリマー層と、濾紙に中性脂肪分解酵素を担持した濾紙層との2反応層を順次積層する構造を有する。また、特許文献3のバイオセンサは、電極上に、GLDHおよび親水性高分子を含むポリマー層と、不織布に中性脂肪分解酵素を担持した不織布層との2反応層を順次積層する構造を有することを特徴とする。
【0015】
しかしながら、上記のようなバイオセンサは、例えば、使用方法が簡便であることから、ディスポーザブルな形態で製造される場合がある。このようなバイオセンサは、酵素を含んだ状態で長期間保存される場合があるため、保存安定性が求められる。したがって、長期保存の後も十分な測定精度を発揮するために、バイオセンサのさらなる保存安定性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開2006/104077号パンフレット
【特許文献2】特開2009−244013号公報
【特許文献3】特開2009−244014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載されるバイオセンサは、保存安定性についてはばらつきがあり、いまだ改善の余地があった。
【0018】
したがって、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、長期間の保存に耐え得る、優れた保存安定性を示すバイオセンサ、特に中性脂肪濃度測定に有用な、保存安定性に優れたバイオセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、バイオセンサが、電極系上に、中間層と、反応層とを順に積層した構造を有することにより、すなわち、電極と酵素を含む反応層との間に中間層を介在させることにより、保存安定性が向上することを見出した。このような知見に基づき、本発明者らは、本発明を完成した。
【0020】
すなわち、上記目的は、絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成されてなる、少なくとも作用極および対極を含む電極系と、前記電極系上に形成されてなる試料供給部と、を有するバイオセンサであって、
前記試料供給部が、
前記電極系上に形成される中間層と、前記中間層上に形成される反応層と、を含み、
前記中間層が、界面活性剤を含む界面活性剤層および親水性高分子を含む親水性高分子層を含み、
前記反応層が、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素と、脂質分解酵素と、を含む、バイオセンサによって達成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明のバイオセンサは、長期保存の後も優れた保存安定性を示す。保存安定性の向上により、保存によって失活する酵素を考慮して酵素配合量を増やす等の必要がなくなり、バイオセンサ製造の際のコスト低減も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のバイオセンサの一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】図1のバイオセンサの2−2方向の断面図である。
【図3】本発明のバイオセンサの別の実施形態を示す分解斜視図である。
【図4】図3のバイオセンサの4−4方向の断面図である。
【図5】本発明のバイオセンサのさらに別の実施形態を示す分解斜視図である。
【図6】図5のバイオセンサの6−6方向の断面図である。
【図7】実施例1、比較例1および比較例2の、酸化還元酵素の保存後の酵素活性を示すグラフである。
【図8】実施例1、比較例1および比較例2の、脂質分解酵素の保存後の酵素活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成されてなる、少なくとも作用極および対極を含む電極系と、前記電極系上に形成されてなる試料供給部と、を有するバイオセンサであって、前記試料供給部が、前記電極系上に形成される中間層と、前記中間層上に形成される反応層と、を含み、前記中間層が、界面活性剤を含む界面活性剤層および親水性高分子を含む親水性高分子層を含み、前記反応層が、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素と、脂質分解酵素と、を含む、バイオセンサを提供する。
【0024】
バイオセンサが長期保存によって劣化する原因は様々であり、かつ複雑であって単純に捉えることは困難である。本発明者らは、酵素を含む反応層と電極との間に、界面活性剤層と親水性高分子層とを含む中間層を介在させることで、バイオセンサの保存安定性を向上させることに成功した。このことは、後述する実施例で具体的に示すように、酵素の残存活性が向上することに反映されている。酵素は一般的に環境変化に敏感であり、熱やpH、接触する他の化合物によって失活し易く、バイオセンサで正確な測定を行うためには、ある程度の量の酵素量が必要とされている。本発明のバイオセンサにおいて、保存安定性が実現されるメカニズムについては、詳細は明らかではないが、電極との間に、中間層として界面活性剤層を設けることにより、酸化還元酵素が電極に固着することを有意に抑制・防止でき、これにより電極の不動態化および固着した酵素の失活を抑制・防止でき、その結果、バイオセンサの保存安定性がさらに向上したためと考えられる。その際、中間層は、界面活性剤層と親水性高分子層とを含むことが重要であり、この二層の積層順は、どちらが上でも保存安定性の効果を得ることができる。また、酵素を含む反応層中に、親水性高分子、糖およびタンパク質を添加させることにより、酵素の保存安定性が向上し、しいてはバイオセンサの保存安定性が向上する。これら添加剤による保存安定性向上のメカニズムとしては、親水性高分子は酵素を包括的に固定化することにより酵素の立体構造を維持することで失活を防ぎ、糖は酵素近傍に存在する水が乾燥工程中に除去される際、代理水として酵素の立体構造を維持することで失活を防ぎ、タンパク質は系全体のタンパク質濃度を濃くすることで、水分子やその他の夾雑物による酵素への失活作用を緩和させることで酵素の失活を防いでいると考えられる。
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明のバイオセンサの実施形態を具体的に説明する。なお、本発明は、下記特許請求の範囲で規定される概念から逸脱しない限り、下記実施形態に限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0026】
図1は、本発明のバイオセンサの一実施形態(以下、第一実施形態とも称する)を示す分解斜視図である。図2は、図1のバイオセンサの2−2方向の断面図である。
【0027】
図1および2が示すとおり、絶縁性基板1(本明細書中、単に「基板」とも称する)の上に、作用極2、参照極3および対極4を含む電極系が形成されている。なお、上記電極系は、少なくとも作用極および対極を含むものであればよい。このため、参照極3は省略することができる。また、接着剤6が、絶縁性基板1上の端部に設置される。作用極2、参照極3および対極4は、バイオセンサを電気的に接続するための手段として機能している。作用極2、参照極3および対極4は、例えば、スクリーン印刷・スパッタリング法等の従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合わせて、所望のパターンの電極を形成することができる。
【0028】
そして、絶縁性基板1上に形成された作用極2、参照極3および対極4には電極系を露出するように、絶縁層5が形成されている。絶縁層5は、各電極間の短絡を防止するための絶縁手段として機能する。絶縁層の形成方法についても特に制限はなく、スクリーン印刷法や接着法等の従来公知の手法により形成されうる。
【0029】
また、絶縁層5を挟むように、作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1が形成されている。そして、電極系を構成する、作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1上には、中間層13が形成されている。中間層13は、界面活性剤層11と親水性高分子層12とで構成される。さらに、中間層13上には、測定に関与する酵素を含む反応層10が形成される。図1の実施形態では、中間層13と、反応層10と、反応層10とカバー7との間に位置する空間部Sとが試料供給部を形成する。
【0030】
中間層13のうち、界面活性剤層11は界面活性剤を含み、作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1を覆って形成されている。親水性高分子層12は、親水性高分子を含み、界面活性剤層11上に形成されている。図1および2に示す実施形態では、中間層13は、電極系上に界面活性剤層11、親水性高分子層12の順に積層される構成を有するが、界面活性剤層11と親水性高分子層12とは逆に積層されていてもよい。
【0031】
反応層10は、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素(以下、「本発明の酸化還元酵素」とも称する)、および、脂質分解酵素を含む。
【0032】
本実施形態のバイオセンサにおいて、試料供給部は、さらに電子伝達体を含むことが好ましい。電子伝達体は、いずれの形態で試料供給部中に存在してもよい。具体的には、反応層10中に電子伝達体が含まれてもよいし、電子伝達体を含む層を反応層10と分離してカバー7側に設けてもよい。このうち、保存時に電子伝達体が酸化還元酵素に接触し還元される可能性があるため、電子伝達体が反応層10と分離して試料供給部に配置される、すなわち、電子伝達体を含む層を反応層10と分離してカバー7側に設けることが好ましい。
【0033】
上記作用部分(2−1、3−1、4−1)は、バイオセンサの使用時に、反応層10中の試料に電位を印加するための電位印加手段および試料中に流れる電流を検出するための電流検出手段として機能する。なお、作用部分(2−1、3−1、4−1)を含めて作用極2、参照極3および対極4と称する場合もある。作用極2および対極4は、バイオセンサの使用時に一対となって、反応層10中の試料に電位を印加した際に流れる酸化電流(応答電流)を測定するための電流測定手段として機能する。バイオセンサの使用時には、参照極3を基準として、対極4と、作用極2との間に所定の電位が印加される。
【0034】
本実施形態のバイオセンサは、基板1に設置された接着剤(両面テープ)6を介して、反応層10を覆うようにカバー7が接着されることにより構成される。なお、接着剤(両面テープ)6は、電極側に設置してもよいし、カバー7側のみに設置してもよいし、両方に設置してもよい。第一実施形態のバイオセンサは、簡便に製造できる利点がある。
【0035】
図3は、本発明のバイオセンサの他の実施形態(以下、第二実施形態とも称する)を示す分解斜視図である。図4は、図3のバイオセンサの4−4方向の断面図である。第二実施形態は、
反応層10を第一の反応層8および第二の反応層9で構成した以外は、図1、2に示す実施形態と同様である。本実施形態では、反応層10のうち、電極側から順次第一の反応層8および第二の反応層9と称する。本実施形態では、反応層10を構成する第一の反応層8および第二の反応層9と、第二の反応層9とカバー7との間に位置する空間部Sと、が試料供給部を形成する。反応層10のうち、第一の反応層8は酸化還元酵素を含み、第二の反応層9は脂質分解酵素を含む。
【0036】
第一の反応層8は、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素(以下、「本発明の酸化還元酵素」とも称する)を含む。
【0037】
第二の反応層9は、前記第一の反応層8上に形成され、少なくとも、脂質分解酵素を含む溶液を塗布することによって形成される。なお、本明細書中、「第二の反応層が脂質分解酵素を含む溶液を塗布することによって形成される」とは、脂質分解酵素を濾紙や不織布等の担持体に担持させることなく、脂質分解酵素を含む溶液を直接第一の反応層に塗布し、乾燥することによって、塗膜を形成することを意味する。
【0038】
本実施形態のバイオセンサでは、酸化還元酵素を含む第一の反応層上に、脂質分解酵素を含む溶液を塗布して第二の反応層を直接形成する。通常は、脂質分解酵素は、酸化還元酵素に比較して溶解性が高い。したがって、中性脂肪等の脂肪を含む試料が試料供給部を通過すると、第二の反応層中の脂質分解酵素は、試料との接触によりすばやく溶解して、試料中の脂肪を分解して遊離脂肪酸およびグリセロールを生成する。この反応は、脂質分解酵素の溶解が完了するのとほぼ同じ所要時間で完了する。次に、酸化還元酵素は、第二の反応層と電極との間に第一の反応層として存在するため、第二の反応層中の脂質分解酵素が溶解完了後、溶解をし始める。脂質が分解された試料は第一の反応層にすばやく浸透して、酸化還元酵素を溶解するとともに、生成したグリセロールから還元型電子伝達体を生成する。バイオセンサは、当該還元型電子伝達体の増加量を電気化学的に測定する。したがって、本実施形態のバイオセンサは、試料中の脂肪をより短時間で定量できる。
【0039】
本実施形態のバイオセンサにおいても、試料供給部は、さらに電子伝達体を含むことが好ましい。本実施形態における電子伝達体は、いずれの形態で試料供給部中に存在してもよい。具体的には、(ア)第一の反応層8が電子伝達体を含む形態、(イ)第二の反応層9が電子伝達体を含む形態、(ウ)電子伝達体を含む層を反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)と分離してカバー7側に設ける形態、が挙げられる。これらの形態(ア)〜(ウ)のいずれかが適用されても、あるいは上記形態(ア)〜(ウ)の2以上が組み合わせて適用されてもよい。このうち、保存時に電子伝達体が酸化還元酵素に接触し還元される可能性があるため、電子伝達体と酸化還元酵素とが同一の層に含まれない形態、すなわち(イ)または(ウ)がより好ましい。このような形態によれば、保存時に電子伝達体が酸化還元酵素に接触し還元されることを防止することができ、バイオセンサの保存安定性に寄与し得る。
【0040】
本実施形態のバイオセンサは、基板1に設置された接着剤(両面テープ)6を介して、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)を覆うようにカバー7が接着されることにより構成される。なお、接着剤(両面テープ)6は、電極側に設置してもよいし、カバー7側のみに設置してもよいし、両方に設置してもよい。
【0041】
図5は、本発明のバイオセンサの他の好ましい実施形態(以下、第三実施形態とも称する)を示す分解斜視図である。図6は、図5のバイオセンサの6−6方向の断面図である。
【0042】
第三実施形態のバイオセンサは、図5、6に示されるとおり、上部界面活性剤層14を設けた以外の基本的な構造は図3、4で示されるバイオセンサと同様である。本実施形態では、中間層13と、第一の反応層8と、第二の反応層9と、上部界面活性剤層14と、前記第二の反応層9および上部界面活性剤層14の間に配置される空間部Sと、が試料供給部を形成する。
【0043】
本実施形態のバイオセンサは、上部界面活性剤層14が、第一の反応層8および第二の反応層9と分離されてカバー7側の、試料供給部に形成されている。なお、上部界面活性剤層14は、両端に接着剤(両面テープ)6aが設置されたカバー7上の両端の隙間に形成されてなる。上部界面活性剤層14がカバー7側に形成されていると、カバー7が直接試料に触れる場合よりも、全血等の試料との広がりや濡れ性の観点からなじみがよく、試料を試料供給部に素早く導入できるため好ましい。
【0044】
本実施形態のバイオセンサにおいても、試料供給部は、さらに電子伝達体を含むことが好ましい。本実施形態における電子伝達体は、いずれの形態で試料供給部中に存在してもよい。具体的には、(ア)第一の反応層8が電子伝達体を含む形態、(イ)第二の反応層9が電子伝達体を含む形態、(ウ)上部界面活性剤層14が電子伝達体を含むか、または、さらに電子伝達体を含む層を備える形態等が挙げられる。これらの形態(ア)〜(ウ)のいずれかが適用されても、あるいは上記形態(ア)〜(ウ)の2以上が組み合わせて適用されてもよい。上記形態のうち、(イ)または(ウ)がより好ましい。このうち、保存時に電子伝達体が酸化還元酵素に接触し還元される可能性があるため、電子伝達体と酸化還元酵素とが同一の層に含まれない形態、すなわち(イ)または(ウ)がより好ましい。このような形態によれば、保存時に電子伝達体が酸化還元酵素に接触し還元されることを防止することができ、バイオセンサの測定精度向上に寄与し得る。
【0045】
本実施形態のバイオセンサは、中間層13および反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)が形成されている基板1に接着された接着剤(両面テープ)6bと、上部界面活性剤層14が形成されているカバー7に接着した接着剤(両面テープ)6aと、が互いに貼り合わされることにより、構成されてなる。なお、接着剤(両面テープ)6は、基板1側のみに設置してもよいし、カバー7側のみに設置してもよい。
【0046】
以下、各構成要件を詳説する。なお、第一〜第三実施形態のバイオセンサに共通する構造または第二および第三実施形態に共通する構造については、特に明記しない限り、各構成要件の具体的な説明は、共通する構造を有する実施形態のバイオセンサにも適用される。
【0047】
また、各構成要件の含有量を説明する際に「1センサ」という用語を用いることがあるが、本明細書における「1センサ」とは、一般的なバイオセンサの大きさである、試料供給部に供給される試料が「0.1〜20μl(好ましくは1μl程度)」であるものを想定している。よって、それよりも小さかったり、大きかったりするバイオセンサにおいては、各構成要件の含有量を適宜調整することによって、本発明を適用することができる。
【0048】
<絶縁性基板>
本発明において使用される絶縁性基板1は、特に制限はなく従来公知のものを使用することができる。一例を挙げると、プラスチック、紙、ガラス、セラミックス等である。また、絶縁性基板1の形状やサイズについては、特に制限されない。
【0049】
プラスチックとしても、特に制限はなく従来公知のものを使用することができる。一例を挙げると、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、アクリル樹脂等が使用できる。
【0050】
<電極>
本発明の電極は、少なくとも作用極2と対極4とを含む。
【0051】
本発明の電極は、試料(測定対象物)と、本発明の酸化還元酵素との反応を電気化学的に検出できるものであれば特に制限されず、例えば、カーボン電極、金電極、銀電極、白金電極、パラジウム電極等が挙げられる。耐腐食性およびコストの観点からは、カーボン電極が好ましい。
【0052】
本発明においては、作用極2および対極4のみの二電極方式であっても、参照極3をさらに含む三電極方式であってもよい。なお、電位の制御がより高感度で行われるという観点からは、二電極方式よりも三電極方式が好ましく用いられうる。また、その他、液量を感知するための感知電極等を含んでいてもよい。
【0053】
また、試料供給部と接触する部分(作用部分)は、それ以外の電極部分と構成材料が異なってもよい。例えば、参照極3が、カーボンからなっている場合に、参照極作用部分3−1が、銀/塩化銀からなっていてもよい。なお、バイオセンサは、一般的に使い捨てであるため、電極としては、ディスポーザブル電極を用いるとよい。
【0054】
<絶縁層>
絶縁層5を構成する材料は特に制限されないが、例えば、レジストインク、PETやポリエチレン等の樹脂、ガラス、セラミックス、紙等により構成されうる。好ましくは、PETである。
【0055】
<試料供給部>
本発明の第一実施形態のバイオセンサにおいて、試料供給部は、界面活性剤層11および親水性高分子層12を含む中間層13と、反応層10と、試料が導入される空間部Sとで構成される。第二実施形態のバイオセンサにおいては、試料供給部は、界面活性剤層11および親水性高分子層12を含む中間層13と、酸化還元酵素を含む第一の反応層8と脂質分解酵素を含む第二の反応層9と空間部Sとを有する。第三実施形態のバイオセンサでは、試料供給部は、界面活性剤層11および親水性高分子層12を含む中間層13と、酸化還元酵素を含む第一の反応層8と、脂質分解酵素を含む第二の反応層9と、上部界面活性剤層14と、空間部Sとを有する。
【0056】
本発明のバイオセンサにおいて、中間層13(界面活性剤層11および親水性高分子層12)は、上記した電極系と、測定に関与する酵素を含む反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)との間に介在させる。すなわち、中間層13は、電極と測定に関わる酵素とを離隔し両者が直接接触することを防止する。中間層の存在によって、本発明のバイオセンサの保存安定性が向上する。
【0057】
中間層13は、親水性高分子を含む親水性高分子層12と、界面活性剤を含む界面活性剤層11とを含む。親水性高分子層12と界面活性剤層11とは積層順に制限はなく、どちらが電極側であってもよいが、界面活性剤層11が電極と親水性高分子層12の間に存在することがより好ましい。
【0058】
本発明のバイオセンサにおいては、界面活性剤層11および親水性高分子層12の厚みは、特に制限されず、互いに同一であっても異なってもよく、適宜選択できる。界面活性剤層11は、好ましくは0.01〜15μm、より好ましくは0.025〜10μm、特に好ましくは0.05〜8μmである。また、親水性高分子層12の厚みは、好ましくは0.01〜15μm、より好ましくは0.025〜10μm、特に好ましくは0.05〜8μmである。さらに、中間層全体厚みの合計厚みは、好ましくは0.02〜30μm、より好ましくは0.05〜20μm、特に好ましくは0.1〜16μmにするとよい。この際の、厚みの制御方法としても特に制限はないが、例えば、所定の成分を含む溶液の塗布量(例えば、滴下する量)を適宜調節することにより、制御することができる。
【0059】
第一実施形態のバイオセンサにおいて、反応層10の厚さには特に制限はないが、好ましくは0.01〜50μm、より好ましくは0.05〜40μm、特に好ましくは0.1〜25μmにするとよい。この際の、厚みの制御方法としても特に制限はないが、例えば、滴下する量を適宜調節することにより、制御することができる。第一実施形態のバイオセンサのような反応層を1つとする形態においては、簡便にバイオセンサを作製できる点で好ましい。また、大量生産時における製造コストが安くなる点で好ましい。
【0060】
第二および第三実施形態のバイオセンサにおいては、第一の反応層8、第二の反応層9の厚みは、特に制限されず、合計が通常の反応層の厚みとなるように適宜選択できる。第一の反応層8は、好ましくは0.01〜25μm、より好ましくは0.025〜10μm、特に好ましくは0.05〜8μmである。また、第二の反応層9の厚みは、好ましくは0.01〜25μm、より好ましくは0.025〜10μm、特に好ましくは0.05〜8μmである。さらに、第一の反応層8および第二の反応層9の厚みの合計厚みは、好ましくは0.02〜50μm、より好ましくは0.05〜20μm、特に好ましくは0.1〜16μmにするとよい。この際の、厚みの制御方法としても特に制限はないが、例えば、所定の成分を含む溶液の塗布量(例えば、滴下する量)を適宜調節することにより、制御することができる。
【0061】
また、第三実施形態のバイオセンサにおいて、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)と分離して、カバー7側に形成される上部界面活性剤層14は、その厚みには特に制限はないが、0.01〜25μmが好ましく、より好ましくは0.025〜10μm、さらに好ましくは0.05〜8μmである。反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)と、上部界面活性剤層14との離隔距離は好ましくは0.1〜250μm、より好ましくは1〜200μm、さらに好ましくは10〜150μmである。上記範囲であれば、毛細管現象が起こりやすく、試料が試料供給部に導入されやすい。離隔距離は、接着剤の厚みを制御することにより、制御することができる。つまり、接着剤は、第二の反応層9と上部界面活性剤層14とを離隔する、スペーサとしての役割をも担う。
【0062】
また、第一の実施形態のバイオセンサにおいて、反応層10と分離されてカバー7側に電子伝達体を含む層を形成する場合には、その厚みには特に制限はないが、0.01〜30μmが好ましく、より好ましくは0.025〜25μm、さらに好ましくは0.05〜8μmである。反応層10と電子伝達体を含む層との離隔距離は好ましくは0.1〜250μm、より好ましくは1〜200μm、さらに好ましくは10〜150μmである。上記範囲であれば、毛細管現象が起こりやすく、試料が試料供給部に導入されやすい。
【0063】
(界面活性剤)
本発明のバイオセンサにおいて、中間層13は、界面活性剤層を含む界面活性剤層12を含む。また、第一実施形態のバイオセンサでは、反応層10に界面活性剤が含有されてもよいし、反応層10と分離されて形成される電子伝達体を含む層に含有されてもよいし、界面活性剤を含む上部界面活性剤層14が反応層10と分離されてカバー7側に形成されていてもよい。第二および第三実施形態のバイオセンサでは、第一の反応層8および第二の反応層9の少なくとも一に界面活性剤が含有されていてもよい。また、第三実施形態においては、第二の反応層9と分離されて、上部界面活性剤層14がカバー7側に形成される。
【0064】
酵素はタンパク質から構成されているため、電極表面にそれが付着すると、電極表面が不動態化する虞があった。しかし、本発明では、反応層10(第一の反応層8)と電極との間に、中間層13として界面活性剤層11を設けることにより、酸化還元酵素が電極に固着することを有意に抑制・防止でき、これにより電極の不動態化および固着した酵素の失活を抑制・防止でき、その結果、バイオセンサの保存安定性がさらに向上する。さらに、電極近傍での、酸化還元酵素による酸化型電子伝達体の還元型電子伝達体への変換効率を向上できる、換言すれば、より試料液中の基質濃度との相関性を高くすることができる。また、カバー7側に上部界面活性剤層14が形成されていると、カバー7が直接試料に触れる場合よりも、全血等の試料との広がりや濡れ性の観点からなじみがよく、試料を試料供給部に素早く導入できるため好ましい。
【0065】
本発明に用いられる界面活性剤としては、使用する本発明の酸化還元酵素の酵素活性が低下しないものであれば、特に制限されないが、例えば、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、天然型界面活性剤等を適宜選択して使用することはできる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。好ましくは本発明の酸化還元酵素の酵素活性に影響を及ぼさないという観点から、非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤の少なくとも一方である。
【0066】
非イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、本発明の酸化還元酵素の酵素活性に影響を及ぼさないという観点から、ポリオキシエチレン系またはアルキルグリコシド系であることが好ましい。
【0067】
ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤としては、特に制限はないが、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(オキシエチレン数=9,10)[(polyoxyethylene−p−t−octylphenol;Triton(登録商標)X−100)]、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate;Tween 20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパリミテート(Polyoxyethylene Sorbitan Monopalmitate;Tween 40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(Polyoxyethylene Sorbitan Monostearate;Tween 60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Polyoxyethylene Sorbitan Monooleate;Tween80)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エマルゲンPP−290(花王株式会社製))、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステルおよびショ糖オレイン酸エステル(以上サーフホープ(登録商標)(三菱化学フーズ株式会社製))等が好ましい。中でも、本発明の酸化還元酵素の電極表面への吸着を有意に防止するという観点から、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステルおよびショ糖オレイン酸エステル(サーフホープ(登録商標)(三菱化学株式会社製))がより好ましく、また、本発明の酸化還元酵素の溶解性を上げるという観点から、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(オキシエチレン数=9,10)[(polyoxyethylene−p−t−octylphenol;Triton(登録商標)X−100)]がより好ましい。これらは、単独で用いても二種以上の混合物の形態で用いてもよい。
【0068】
アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤としては、特に制限はないが、炭素数7〜12のアルキル基を有するアルキルグリコシド、アルキルチオグリコシド等が好ましい。かかる炭素数については、より好ましくは7〜10であり、特に好ましくは炭素数8である。糖部分は、グルコース、マルトースが好ましく、より好ましくはグルコースである。より具体的には、n−オクチル−β−D−グルコシド、n−オクチル−β−D−チオグルコシドであると好ましい。アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤は、バイオセンサに使用する際、製造過程において、非常に塗りやすく、均一にできる。特に、n−オクチル−β−D−チオグルコシド)が反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に含有されると、試料溶液を滴下した際の広がりが非常によく、濡れ性がよい(表面張力を起こしにくくする。)。よって、広がりや濡れ性の観点で考えると、アルキルグリコシドよりもアルキルチオグリコシドが非常に好ましい。なお、これらは、単独で用いても混合物の形態で用いてもよい。
【0069】
両性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)、n−アルキル−N−N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸(Zwittergent(登録商標))等が挙げられる。なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。好ましくは、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)または3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)である。特にCHAPSが好ましい。その理由は、CHAPSは界面活性剤の中でも低溶血性のものだからである。
【0070】
陽イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、セチルピリジニウムクロリド、トリメチルアンモニウムブロミドが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0071】
陰イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0072】
天然型界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、リン脂質が挙げられ、好ましくは、卵黄レシチン、大豆レシチン、水添レシチン、高純度レシチン等のレシチン等が挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0073】
上記の界面活性剤のうち、バイオセンサの精度をより向上させる観点で、試料として全血を使用する場合、低溶血性の界面活性剤を使用することが好ましい。具体例を挙げると、上記のサーフホープ(登録商標)(三菱化学株式会社製)、CHAPSや、Tween、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)が好ましい。
【0074】
界面活性剤の含有量については特に制限はなく、試料の添加量等に応じて適宜調節されうる。
【0075】
界面活性剤は、両性のものを用いる場合、1センサあたり、本発明の酸化還元酵素の溶解性を上げ、且つ酵素活性を失活させず、また製造工程において塗布しやすいという観点から、好ましくは0.01〜100μg、より好ましくは0.05〜50μg、特に好ましくは0.1〜10μgが含まれるとよい。界面活性剤として、非イオン性界面活性剤のものを用いる場合、1センサあたり、本発明の酸化還元酵素の溶解性を上げ、且つ酵素活性を失活させず、また製造工程において塗布しやすいという観点から、好ましくは0.01〜100μg、より好ましくは0.05〜50μg、特に好ましくは0.1〜10μgが含まれるとよい。また、かような界面活性剤は、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。なお、界面活性剤が1センサに二種類以上含まれるとき、または二層以上に含有されるときは、その合計量を意味する。
【0076】
また、界面活性剤層を形成するには、酵素の電極表面への吸着を防止し、かつ過度に添加すると溶血の原因となり得ることを考慮し、好ましくは0.001〜100μg、より好ましくは0.025〜50μg、さらに好ましくは0.05〜10μgを使用することができる。
【0077】
また、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)が界面活性剤を含む場合および上部界面活性剤層14を設ける場合には、これらの層に含まれる各界面活性剤の種類は、同一であっても異なるものであってもよい。この際、界面活性剤層、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)、上部界面活性剤層14に含有される他の構成要件との相互作用を考慮して選択することが好ましい。界面活性剤層11および上部界面活性剤層14には、必要に応じて糖、塩、アミノ酸等の他の成分を含んでもよい。
【0078】
また、本発明のバイオセンサにおいては、酸化還元酵素が含まれる反応層10(第一の反応層8)に界面活性剤が含まれることが好ましい。界面活性剤を含むことにより、酸化還元酵素の溶解が促進されうる。例えば、酸化還元酵素としてPQQ依存性グリセロール脱水素酵素を含有させる場合、それらは疎水性が強いため、界面活性剤の添加が酸化還元酵素の溶解に有効である。
【0079】
また、試料供給部のうち電子伝達体が含まれる層には、電子伝達体の溶解促進のため界面活性剤が含まれることが好ましい。この場合にも、広がりや濡れ性の観点で考えると、上記した低溶血性の界面活性剤を使用することが好ましい。このような工夫を施すことによって、よりバイオセンサとしての精度が向上する。
【0080】
(親水性高分子)
本発明のバイオセンサにおける中間層13は、親水性高分子を含む親水性高分子層12を備える。また、第一実施形態のバイオセンサの場合には、反応層10が親水性高分子を含んでもよい。第二および第三実施形態のバイオセンサの場合には、親水性高分子は第一の反応層8および第二の反応層9のいずれかに含まれてもよく、両方に含まれてもよい。また、第三実施形態のバイオセンサの場合は、親水性高分子が上部界面活性剤層14に含まれていてもよい。
【0081】
酵素はタンパク質から構成されているため、電極表面にそれが付着すると、電極表面が不動態化する虞がある。本発明では、中間層13の一部として親水性高分子層12を電極と反応層10との間に介在させることにより、酵素が電極に固着することを有意に抑制・防止でき、酵素の電極への固着による電極の不動態化および酵素の失活を抑制・防止できる。その結果、保存安定性がさらに向上する。加えて、電極近傍での、酵素による酸化型電子伝達体の還元型電子伝達体への変換効率を向上できる、換言すれば、より試料液中の基質濃度との相関性を高くすることができる。また、親水性高分子層12は、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)と電極とのいわば接着層としての役割をも果たすため、親水性高分子層12を設けることにより、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)が電極から剥離しにくくなるという利点もある。このことは、バイオセンサの信頼性を高めるのに効果的である。また、親水性高分子が、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に含まれる場合には、それらの層が他の層と剥離することを防止し、かつ、表面の割れを防止することができる。
【0082】
本発明に用いることができる親水性高分子としては、従来公知のものを使用することができる。より具体的には、親水性高分子としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリスチレンスルホン酸、ゼラチンおよびその誘導体、アクリル酸の重合体またはその誘導体、無水マレイン酸の重合体またはその塩、スターチおよびその誘導体等が挙げられる。これらのうち、親水性高分子は本発明の酸化還元酵素の酵素活性を失活させず、且つ溶解性が高いという観点から、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールおよびその誘導体が特に好ましい。なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0083】
なお、このような親水性高分子の配合量は、1センサあたり、酵素の電極表面への吸着を防止し、かつ血液への速溶性の観点から、好ましくは0.01〜100μgであり、より好ましくは0.05〜50μgであり、特に好ましくは0.1〜10μgである。親水性高分子は、後述もするが、例えば、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。また、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)および上部界面活性剤層14が親水性高分子を含む場合には、これらの層に含まれる親水性高分子の種類は、同一であっても異なるものであってもよい。この際、親水性高分子は、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)および上部界面活性剤層14に含有される各構成要件との相互作用を考慮して選択することが好ましい。なお、親水性高分子が1センサに二種類以上含まれるとき、または二層以上に含有されるときは、上記はその合計量を意味する。
【0084】
また、親水性高分子層12を形成するには、親水性高分子は、酵素の電極表面への吸着を防止し、かつ血液への速溶性の観点から、好ましくは0.01〜100μgであり、より好ましくは0.05〜50μgであり、さらに好ましくは0.1〜10μgを使用することができる。親水性高分子層12には、必要に応じて糖、塩、アミノ酸等の他の成分を含んでもよい。
【0085】
(酸化還元酵素)
本発明における第一の反応層8は、補欠分子族(「補酵素」とも称する)としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素を含む。特に、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素が好ましい。なお、本発明においては、本発明の酸化還元酵素を単独で、または混合物の形態として使用してもよい。
【0086】
本発明において、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素としては、特に制限されず、試料の種類に依存するが、補欠分子族として、ピロロキノリンキノン(PQQ)を含む酸化還元酵素としては、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、マンニトールデヒドロゲナーゼ、アラビトールデヒドロゲナーゼ、ガラクチトールデヒドロゲナーゼ、キシリトールデヒドロゲナーゼ、アドニトールデヒドロゲナーゼ、エリスリトールデヒドロゲナーゼ、リビトールデヒドロゲナーゼ、プロピレングリコールデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2−ケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、5ケト−グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2,5−ジケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、環状アルコールデヒドロゲナーゼ、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ、アミンデヒドロゲナーゼ、シキミ酸デヒドロゲナーゼ、ガラクトースオキシダーゼ等が挙げられる。
【0087】
補欠分子族としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素としては、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、D−アミノ酸オキシダーゼ、コハク酸デヒドロゲナーゼ、モノアミンオキシダーゼ、サルコシンデヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、D−乳酸デヒドロゲナーゼ、コレステロールオキシダーゼ等が挙げられる。
【0088】
中でも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)またはフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の少なくとも一方を含むグリセロールデヒドロゲナーゼが好ましく、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むグリセロールデヒドロゲナーゼ(以下、「PQQ依存性グリセロール脱水素酵素」とも称する)が特に好ましい。
【0089】
上記の本発明の酸化還元酵素は、市販の商品を購入して用いてもよいし、自ら調製したものを用いてもよい。当該酸化還元酵素を自ら調製する手法としては、例えば、当該酸化還元酵素を産生する細菌を、栄養培地に培養し、該培養物から当該酸化還元酵素を抽出する公知の方法が挙げられる(例えば、特開2008−220367号公報参照)。
【0090】
具体的には、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を例に挙げると、当該グリセロールデヒドロゲナーゼを産生する細菌としては、例えば、グルコノバクター属、シュードモナス属等様々な属に属する細菌が挙げられる。特にグルコノバクター属に属する細菌の膜画分に存在するPQQ依存性グリセロール脱水素酵素が好ましく用いられうる。中でも、入手の容易さから、グルコノバクター・アルビダス(Gluconobacter albidus)NBRC 3250、3273、103509、103510、103516、103520、103521、103524;グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)NBRC 3267、3274、3275、3276;グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii)NBRC 3171、3251、3253、3262、3264、3265、3268、3270、3285、3286、3290、16669、103413、103421、103427、103428、103429、103437、103438、103439、103440、103441、103446、103453、103454、103456、103457、103458、103459、103461、103462、103465、103466、103467、103468、103469、103470、103471、103472、103473、103474、103475、103476、103477、103482、103487、103488、103490、103491、103493、103494、103499、103500、103501、103502、103503、103504、103506、103507、103515、103517、103518、103519、103523;グルコノバクター・ジャポニカス(Gluconobacter japonicus)NBRC 3260、3263、3269、3271、3272;グルコノバクター・カンチャナブリエンシス(Gluconobacter kanchanaburiensis)NBRC 103587,103588;グルコノバクター・コンドニ(Gluconobacter kondonii)NBRC 3266;グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)NBRC 3130、3189、3244、3287、3292、3293、3294、3462、12528、14819;グルコノバクター・ロセウス(Gluconobacter roseus)NBRC 3990;グルコノバクター・エスピー(Gluconobacter sp)NBRC 3259、103508;グルコノバクター・スファエリカス(Gluconobacter sphaericus)NBRC 12467;グルコノバクター・タイランディカス(Gluconobacter thailandicus)NBRC 3172、3254、3255、3256、3257、3258、3289、3291、100600、100601等を使用することができる。
【0091】
上記PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を培養する培地は、使用菌株が資化しうる炭素源、窒素源、無機物、その他必要な栄養素を適量含有するものであれば、合成培地であっても天然培地であってもよい。炭素源としては、例えば、グルコース、グリセロール、ソルビトール等が使用される。窒素源としては、例えば、ペプトン類、肉エキス、酵母エキス等の窒素含有天然物や、塩化アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の無機窒素含有物が使用される。無機物としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等が使用される。その他、特定のビタミン等が必要に応じて使用される。上記の炭素源、窒素源、無機物、およびその他の必要な栄養素は、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0092】
培養は、振とう培養あるいは通気撹拌培養で行うことが好ましい。培養温度は好ましくは20℃〜50℃、より好ましくは22℃〜40℃、最も好ましくは25℃〜35℃である。培養pHは好ましくは4〜9、より好ましくは5〜8である。これら以外の条件下でも、使用する菌株が生育すれば実施される。培養期間は通常0.5〜5日が好ましい。上記培養により、菌体内に酸化還元酵素が蓄積される。なお、これらの酸化還元酵素は、上記培養によって得られた酵素であっても、酸化還元酵素遺伝子を大腸菌等に形質導入して得られた組換え酵素であってもよい。
【0093】
次いで、得られたPQQ依存性グリセロール脱水素酵素を抽出する。抽出方法は一般に使用される抽出方法を用いることができ、例えば超音波破砕法、フレンチプレス法、有機溶媒法、リゾチーム法等を用いることができる。抽出した酸化還元酵素の精製方法は特に制限されず、例えば、硫安やぼう硝等の塩析法、塩化マグネシウムや塩化カルシウムを用いる金属凝集法、ストレプトマイシンやポリエチレンイミンを用いる除核酸、またはDEAE(ジエチルアミノエチル)−セファロース、CM(カルボキシメチル)−セファロース等のイオン交換クロマト法等を用いることができる。
【0094】
なお、これらの方法で得られる部分精製酵素や精製酵素液は、そのままの形態で使用しても、または化学修飾された形態で使用してもよい。本発明において、化学修飾された形態の酸化還元酵素を使用する場合には、上記の方法で得られる培養物由来の酸化還元酵素を、例えば、特開2006−271257号公報に記載されるような方法等を用いて適宜化学修飾して使用することができる。なお、化学修飾方法は、上記公報に記載の方法に限定されるものではない。
【0095】
本発明の酸化還元酵素の含有量については特に制限はなく、測定する試料の種類や試料の添加量、電子伝達体の種類や、後述する親水性高分子の量等によって適宜選択することができる。一例を挙げると、例えば、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を使用する場合には、1センサあたり、グリセロールの分解を迅速に行い、且つ反応層の溶解性を下げない酵素量(酵素活性量)という観点から、好ましくは0.01〜100U、より好ましくは0.05〜50U、特に好ましくは0.1〜10Uである。なお、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素の活性単位(U)の定義および測定方法は、特開2006−271257号公報に記載の方法による。また、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を含む酸化還元酵素は、後述もするが、例えば、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0096】
(脂質分解酵素)
本発明における反応層10(第二の反応層9)は、脂質を構成するエステル結合を加水分解する脂質分解酵素を含む。ゆえに、本発明のバイオセンサは、中性脂肪センサとして使用ことができる。かような脂質分解酵素として、特に制限されないが、具体的には、リポプロテインリパーゼ(LPL)、リパーゼ、エステラーゼが好適に挙げられる。特に、反応性の観点で、リポプロテインリパーゼ(LPL)が好ましい。
【0097】
LPLの含有量については特に制限はなく、測定する試料の種類や試料の添加量、使用する親水性高分子の量や電子伝達体の種類等によって適宜選択することができる。一例を挙げると、中性脂肪の分解を迅速に行い、且つ反応層の溶解性を下げない酵素量(酵素活性量)という観点から、1センサあたり、好ましくは0.1〜1000活性単位(U)、より好ましくは1〜500U、特に好ましくは10〜100Uである。なお、LPLの活性単位(U)の定義および測定方法は、国際公開第2006/104077号パンフレットに記載の方法による。また、LPLは、後述もするが、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0098】
第二および第三実施形態のバイオセンサでは、酸化分解酵素と脂質分解酵素とは、それぞれ、第一の反応層および第二の反応層という別の層に分かれて存在する。かような形態であれば、脂質分解酵素による加水分解反応が効率よく進行する。
【0099】
(電子伝達体)
本発明のバイオセンサは、電子伝達体(「電子受容体」とも称する場合がある)を含むことが好ましい。電子伝達体は、試料供給部を構成する層のいずれに含まれてもよい。すなわち、第一実施形態のバイオセンサにおいては反応層10に含まれるか、反応層10と分離されてカバー7側に電子伝達体を含む層を設けてもよい。第二実施形態のバイオセンサにおいては、第一の反応層8、第二の反応層9の少なくとも一に含まれ得るほか、第一および第二の反応層と分離されてカバー7側に電子伝達体を含む層を設けてもよい。第三実施形態のバイオセンサでは、第一の反応層8、第二の反応層9および上部界面活性剤層14の少なくとも一に含まれるか、カバー7側に電子伝達体を含む層をさらに設けることもできる。この際、電子伝達体は、電極とは離間して存在させることがより好ましい。これにより、局部電池のような現象により電子伝達体が自動的に還元されてしまうのを抑制・防止でき、精度がより向上したバイオセンサを提供することができるためである。しかし、上述した通り、電子伝達体は、酸化還元酵素と同一の層に含まれない形態が好ましい。
【0100】
電子伝達体は、バイオセンサの使用時において、酸化還元酵素の作用によって生成した電子を受け取る、すなわち還元される。そして、還元された電子伝達体は、酵素反応の終了後に電極への電位の印加によって電気化学的に酸化される。この際に流れる電流(以下、「酸化電流」とも称する)の大きさから、試料中の所望の成分の濃度が算出されうる。
【0101】
本発明において使用される電子伝達体としては、従来公知のものを使用することができ、試料や使用する酸化還元酵素に応じて適宜決定できる。なお、電子伝達体は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0102】
電子伝達体としては、より具体的には、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム、フェロセンおよびその誘導体、フェナジンメトサルフェートおよびその誘導体、p−ベンゾキノンおよびその誘導体、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、メチレンブルー、ニトロテトラゾリウムブルー、オスミウム錯体、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物等のルテニウム錯体等を好適に使用することができる。これらのうち、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物、フェリシアン化カリウムが好ましく、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物がより好ましく使用される。
【0103】
電子伝達体の含有量については特に制限はなく、試料の添加量等に応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、1センサあたり、基質量に対して十分量を含有させるという観点から、好ましくは1〜2000μg、より好ましくは5〜1000μg、特に好ましくは10〜500μgの電子伝達体が含まれるとよい。また、電子伝達体は、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0104】
(糖)
本発明のバイオセンサの反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)は、さらに糖を含んでもよい。糖は測定に関わる酵素反応に関与せず、また、自身が反応することもないものを適宜選択して使用することができる。糖は、酵素の周囲にある水和水と代替することで、あるいは周囲の水和水の外側を覆い結晶化することで、酸化還元酵素または脂質分解酵素の環境変化などによる失活を防止し、酵素を安定化させる効果を発揮する。すなわち、糖の添加によって本発明のバイオセンサの保存安定性は、さらに向上する。
【0105】
反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に含み得る糖としては、遊離性のアルデヒド基やケトン基を持たない、還元性を有していない非還元糖が好ましい。このような非還元糖としては、還元基同士の結合したトレハロース型小糖類、糖類の還元基および非糖類が結合した配糖体、糖類に水素添加して還元した糖アルコール等が挙げられる。より具体的には、スクロース、トレハロース、ラフィノース等のトレハロース型小糖類;アルキル配糖体、フェノール配糖体、カラシ油配糖体等の配糖体;およびアラビトール、キシリトール、ソルビトール等の糖アルコール等が挙げられる。これら非還元糖は、単独で用いてもよいし、二種以上の混合物の形態で用いてもよい。中でも、トレハロース、ラフィノースおよびスクロースが好ましく、特に保存安定性向上の効果が高いことからトレハロースおよびラフィノースが好ましい。
【0106】
反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に含まれる糖の配合量は、1センサあたり0.1〜500μg、好ましく0.5〜400μg、より好ましくは1〜300μgである。糖が二種以上の混合物の形態であれば、配合量は全成分の合計を意味する。上記の範囲であれば、十分な保存安定性効果が得られる。
【0107】
(タンパク質)
本発明のバイオセンサにおいて、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)は、さらにタンパク質を含んでもよい。タンパク質は測定に関わる酵素反応に関与せず、また、自身が反応することもない、生理活性を示さないものを適宜選択して使用することができる。酸化還元酵素および脂質分解酵素は、それら自身もタンパク質であるため、そのような反応に寄与しないタンパク質が周囲に存在することによって、反応層中でより安定化されて維持される。したがって、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)にタンパク質を添加することにより、本発明のバイオセンサの保存安定性はさらに向上しうる。
【0108】
反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に含み得るタンパク質としては、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、セリシン、およびそれらの加水分解物が挙げられる。これらのタンパク質は単独でも二種以上の混合物の形態で用いてもよい。このうち、入手し易く安価であるBSAが好ましい。好ましいタンパク質の分子量は、10〜1000kDa、より好ましくは25〜500kDa、さらに好ましくは50〜100kDaである。その際の分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー法を用いて測定した値を採用する。
【0109】
反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に含まれるタンパク質の配合量は、1センサあたり0.1〜200μg、好ましくは0.5〜100μg、より好ましくは1〜50μgである。タンパク質が二種以上の混合物の形態であれば、配合量は全成分の合計を意味する。上記の範囲であれば、センサの性能を低下させることなく各層の固定化や安定化に寄与できる。
【0110】
<バイオセンサの製造方法>
本発明のバイオセンサにおける中間層13(親水性高分子層12、界面活性剤層11)、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)および上部界面活性剤層14を形成する方法にも特に制限はない。以下では、第一〜第三実施形態のバイオセンサに共通する構造または第二および第三実施形態に共通する構造については、説明を省略する。
【0111】
本発明のバイオセンサにおいて、中間層13(親水性高分子層12、界面活性剤層11)、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)および上部界面活性剤層14は、いずれの方法によって形成されてもよいが、中間層13(親水性高分子層12、界面活性剤層11)、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)および上部界面活性剤層14の構成成分を含む溶液を塗布することによって形成されることが好ましい。ここで、塗布方法は、特に制限されず、各層の構成成分を含む溶液を、滴下により、あるいはスプレー装置、バーコーター、ダイコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ドクターナイフ等の塗布器具を用いて塗布する方法が使用できる。
【0112】
図1に示す第一実施形態のバイオセンサにおいては、まず、界面活性剤(例えば、サーフホープ(登録商標)(三菱化学株式会社))、必要に応じて塩や糖類を混合して、界面活性剤溶液を調製する。次いで、界面活性剤溶液を、電極系(作用部分)に所定量滴下する。滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させることにより、界面活性剤層11を電極系(作用部分)上に形成する。
【0113】
次に、以下のように親水性高分子層12を次に形成する。まず、親水性高分子(例えば、ポリビニルアルコール)、必要に応じて塩や糖類を混合して、親水性高分子溶液を調製する。次いで、親水性高分子溶液を、界面活性剤層11上に所定量滴下する。滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させることにより、親水性高分子層12を界面活性剤層11上に形成する。界面活性剤層11および親水性高分子層12の積層順は逆であってもよい。なお、予め基板1に接着剤を設置してもよい。
【0114】
上記の中間層13上に反応層10を以下のように形成する。酸化還元酵素(例えば、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素)、脂質分解酵素(例えば、リポプロテインリパーゼ(LPL))、ならびに必要に応じて界面活性剤(例えば、エマルゲンPP−290(花王株式会社製))およびグリシルグリシン緩衝液等の所望の成分を混合して、反応層溶液を調製する。必要に応じエタノール等の揮発性有機溶媒を添加しておいてもよい。揮発性有機溶媒を添加しておくことで、早く乾きやすく、結晶化が小さくて済む。この反応層溶液を、上記中間層13(図1および図2に示す例では親水性高分子層12)上に、所定量滴下する。滴下後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させることにより、反応層10を中間層13上に形成する。
【0115】
反応層10の形成方法は、特に制限されず、上記中間層13の形成方法と同等の方法が使用できる。この際、反応層10の形成方法は、中間層13と同一であっても異なるものであってもよい。しかし、作製のしやすさや製造コスト等を考慮すると、同様の方法を使用することが好ましく、所定の成分を含む溶液を滴下により塗布した後、塗膜を乾燥する方法が特に好ましい。このような方法は、簡便にバイオセンサを作製でき、また、大量生産時における製造コストを安く抑えることができる点で好ましい。
【0116】
第二実施形態においては、中間層13は、上記第一実施形態と同様にして、電極系上に形成することができる。そのため、中間層13の製法については説明を省略する。
【0117】
第一の反応層8は、中間層13上に、以下のように形成する。まず、酸化還元酵素(例えば、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素)、ならびに必要に応じて界面活性剤(例えば、エマルゲンPP−290(花王株式会社製))、糖類(例えば、トレハロースおよびラフィノース)、親水性高分子(例えば、ポリエチレングリコール)、タンパク質(例えば、BSA)およびグリシルグリシン緩衝液等の所望の成分を混合して、酸化還元酵素溶液を調製する。必要に応じエタノール等の揮発性有機溶媒を添加しておいてもよい。揮発性有機溶媒を添加しておくことで、早く乾きやすく、結晶化が小さくて済む。この酸化還元酵素溶液を、上記中間層13(図3および図4に示す例では親水性高分子層12)上に、所定量滴下する。滴下後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させることにより、第一の反応層8を中間層13上に形成する。
【0118】
次に、第二の反応層9を以下のようにして形成する。すなわち、脂質分解酵素(例えば、リポプロテインリパーゼ(LPL))を、必要に応じて、糖類(例えば、トレハロースおよびラフィノース)、親水性高分子(例えば、ポリエチレングリコール)、タンパク質(例えば、BSA)およびグリシルグリシン緩衝液等の所望の成分と混合して、脂質分解酵素溶液を調製する。この脂質分解酵素溶液を、上記の第一の反応層8上に、所定量滴下する。脂質分解酵素溶液を滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させることにより、第二の反応層9を第一の反応層8上に形成する。なお、必要に応じ上記した他の成分(例えば、界面活性剤、親水性高分子等)を添加してもよい。また、必要に応じエタノール等の揮発性有機溶媒を添加しておいてもよい。揮発性有機溶媒を添加しておくことで、早く乾きやすく、結晶化が小さくて済む。
【0119】
第一の反応層8、第二の反応層9の形成方法は、上記に制限されず、上記中間層13の形成方法と同等の方法が使用できる。この際、第一の反応層8および第二の反応層9の形成方法は、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。しかし、作製のしやすさや製造コスト等を考慮すると、中間層13と同様の方法を使用することが好ましく、所定の成分を含む溶液を滴下により塗布した後、塗膜を乾燥する方法が特に好ましい。このような方法は、簡便にバイオセンサを作製でき、また、大量生産時における製造コストを安く抑えることができる点で好ましい。
【0120】
最後に、中間層13、第一の反応層8および第二の反応層9が形成されている基板1と、カバー7を、接着剤6a、6bを介して張り合わせることにより、第二実施形態のバイオセンサを製造することができる。
【0121】
第三実施形態のバイオセンサでは、第二実施形態と同様にして、中間層13、第一の反応層8および第二の反応層9を形成することができる。そのため、中間層13、第一の反応層8および第二の反応層9の製法については説明を省略する。
【0122】
上部界面活性剤層14は、以下のように形成できる。まず、界面活性剤(例えば、エマルゲンPP−290(花王株式会社製))、必要に応じてグリシルグリシン緩衝液の成分を混合して、上部界面活性剤溶液を調製する。次いで、上部界面活性剤溶液を、カバー7内面に所定量滴下する。滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させることにより、上部界面活性剤層14をカバー7側に形成する。なお、予めカバー7に接着剤を設置してもよい。
【0123】
最後に、中間層13、第一の反応層8および第二の反応層9が形成されている基板1と、上部界面活性剤層14が形成されているカバー7を、接着剤6a、6bを介して張り合わせることにより、第三実施形態のバイオセンサを製造することができる。
【0124】
第一の反応層8、第二の反応層9および上部界面活性剤層14の形成方法は、特に制限されず、上記中間層13の形成方法と同等の方法が使用できる。この際、第一の反応層8、第二の反応層9および上部界面活性剤層14の形成方法は、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。しかし、作製のしやすさや製造コスト等を考慮すると、中間層13と同様の方法を使用することが好ましく、所定の成分を含む溶液を滴下により塗布した後、塗膜を乾燥する方法が特に好ましい。このような方法は、簡便にバイオセンサを作製でき、また、大量生産時における製造コストを安く抑えることができる点で好ましい。
【0125】
<バイオセンサの適用>
本発明において使用される試料は、好ましくは、溶液形態である。溶液形態における溶媒としても特に制限されず、従来公知の溶媒を適宜参照し、あるいは組み合わせて適用することができる。
【0126】
試料としても、特に制限はされないが、例えば、全血、血漿、血清、唾液、尿、骨髄等の生体試料;ジュース等の飲料水、醤油、ソース等の食品類;排水、雨水、プール用水等が挙げられる。好ましくは、全血、血漿、血清、唾液、骨髄であり、より好ましくは全血である。
【0127】
なお、試料は原液がそのまま用いられてもよいし、粘度等を調節する目的で適当な溶媒で希釈された溶液が用いられてもよい。試料に含まれる基質についても特に制限はなく、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に含まれる各酵素と反応し、後述するように測定可能な電流を生じうる物質であればよい。
【0128】
試料中の所望の成分(基質)としては、例えば、グルコース等の糖類、グリセロール、ソルビトール、アラビトール等の多価アルコール、中性脂肪、コレステロール等の脂質、グルタミン酸や乳酸等の有機酸類、クレアチン、クレアチニン等が挙げられる。上記と同様の理由から、中性脂肪やコレステロール等の脂質が基質として選択されることが好ましい。
【0129】
試料を試料供給部へ供給する形態は特に制限されず、例えば、毛細管現象を利用して、反応層10に対して水平方向から試料を供給してもよい。
【0130】
反応層10へと試料が供給されると、試料中の所望の成分(基質)は、脂質分解酵素と酸化還元酵素の作用によって酸化され、自身の酸化と同時に電子を放出する。基質から放出された電子は、試料供給部に含まれる電子伝達体に捕捉され、これに伴って電子伝達体は酸化型から還元型へと変化する。試料の添加後、バイオセンサを所定時間放置することにより、脂質分解酵素と酸化還元酵素によって基質が完全に酸化され、一定量の電子伝達体が酸化型から還元型へと変換される。
【0131】
この際、基質と酵素との反応を完結させる反応時間(測定時間)は、特に制限されないが、試料添加後、通常は1秒〜120秒、好ましくは1秒〜90秒、より好ましくは1〜60秒、特に好ましくは1〜45秒である。特に第二および第三の実施形態のバイオセンサによると、反応層10を酸化還元酵素を含む第一の反応層8と脂質分解酵素を含む第二の反応層9とに分けたことにより、基質と酵素との反応を完結させる反応時間(即ち、測定時間)を有意に短縮できる。
【0132】
その後、還元型の電子伝達体を酸化する目的で、電極を介して、作用極2と対極4との間に、所定の電位を印加する。これにより、還元型の電子伝達体が電気化学的に酸化され、酸化型へと変換される。この際に測定される電流(以下、「酸化電流」とも称する)の値から、電位印加前の還元型の電子伝達体の量が算出され、さらに、酵素と反応した基質の量が定量されうる。酸化電流を流す際に印加される電位の値は特に制限されず、従来公知の知見を参照して適宜調節されうる。一例を挙げると、−200〜+700mV程度、好ましくは0〜+500mVの電位を、対極4と作用極2との間に印加すればよい。電位を印加するための電位印加手段についても特に制限はなく、従来公知の電位印加手段が適宜用いられうる。
【0133】
酸化電流値の測定、および当該電流値から基質濃度への換算の手法としては、所定の電位を印加してから一定時間後の電流値を測定するクロノアンペロメトリー法が用いられてもよいし、クロノアンペロメトリー法による電流応答を時間で積分して得られる電荷量を測定するクロノクーロメトリー法が用いられてもよい。簡単な装置系により測定されるという点で、クロノアンペロメトリー法が好ましく用いられうる。
【0134】
以上、還元型の電子伝達体を酸化する際の電流(酸化電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態を例に挙げて説明したが、場合によっては、還元されずに残存している酸化型の電子伝達体を還元する際の電流(還元電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態が採用されてもよい。
【0135】
本発明のバイオセンサは、いずれの形態で使用してもよく特に制限されない。例えば、使い捨て用途としてのディスポーザブルタイプのバイオセンサ、少なくとも電極部分を人体に埋め込んで連続的に所定の値を測定するためのバイオセンサ等、様々な用途に使用できる。
【0136】
本発明のバイオセンサは、中性脂肪センサ、コレステロールセンサ等の従来公知のセンサに適用することが可能である。
【0137】
本発明の効果を以下に纏める。
【0138】
本発明のバイオセンサにおいては、酸化還元酵素および脂質分解酵素を含む反応層と電極との間に、界面活性剤層および親水性高分子層を含む中間層が介在することにより、バイオセンサの保存安定性が向上する。したがって、バイオセンサを長期保存しても、測定値のばらつきの増加や制度の低下を防止でき、精度よく測定できる。さらに、保存による酵素の失活が低減されることにより、酵素の配合量を節減でき、製造コストも低減できる。
【実施例】
【0139】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0140】
<中性脂肪濃度測定用バイオセンサの製造>
(実施例1)
使用する電極には、独自に設計・製造した3電極系の電極を使用した。この電極は、絶縁性基板1の上に、それぞれカーボンからなる作用極2、参照極3、対極4が形成され、絶縁層5を挟んで、カーボンからなる作用極作用部分2−1、銀塩化銀からなる参照極作用部分3−1、カーボンからなる対極作用部分4−1が形成されている。
【0141】
電極系上に、中間層を構成する界面活性剤層を以下の手順で形成した。
【0142】
1センサ(供給される試料「全血」の量1μl)あたり、終濃度で、サーフホープ(三菱化学フーズ株式会社製)を0.01%(0.1μg)になるように蒸留水に溶解し、電極表面を被覆するように滴下後、40℃で10分間乾燥させ、第一の界面活性剤層を形成した。
【0143】
上記の界面活性剤層上に、以下の手順で界面活性剤層と共に中間層を構成する親水性高分子層を形成した。
【0144】
1センサ(供給される試料「全血」の量1μl)あたり、終濃度で、ポリビニルアルコール500完全けん化型(和光純薬工業株式会社製)を0.25%(2.5μg)になるように蒸留水に溶解し、第一の界面活性剤層を被覆するように滴下後、40℃で10分間乾燥させ、親水性高分子層を形成した。
【0145】
上記親水性高で分子層上に、第一の反応層(GLDH層)を以下の手順で形成した。
【0146】
1センサ(供給される試料「全血」の量1μl)あたり、終濃度で、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を1.0U、グリシルグリシン(和光純薬工業株式会社製)を5mM(0.65μg)、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)を0.025%(0.25μg)、トレハロース二水和物(和光純薬工業株式会社製)を5%(50μg)、BSApH7.0(和光純薬工業株式会社製)を0.5%(5μg)、ポリエチレングリコール6,000(和光純薬工業株式会社製)0.345%(3.45μg)、ラフィノース(和光純薬工業株式会社製)を1%(10μg)になるように混合し、溶液(GLDH溶液)を得た。得られたGLDH溶液を親水性高分子層を被覆するように滴下し、40℃で5分間乾燥させ、第一の反応層(GLDH層)を得た。
【0147】
第二の反応層(電子伝達体含有LPL層)は以下の手順で形成した。
【0148】
1センサ(供給される試料「全血」の量1μl)あたり、終濃度で、リポプロテインリパーゼ(LPL、旭化成株式会社製)を80U、グリシルグリシン(和光純薬工業株式会社製)を5mM(0.65μg)、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物(和光純薬工業株式会社製)を100mM(65μg)、トレハロース二水和物(和光純薬工業株式会社製)を5%(50μg)、BSApH7.0(和光純薬工業株式会社製)を0.5%(5μg)、ポリエチレングリコール6,000(和光純薬工業株式会社製)を0.345%(3.45μg)、ラフィノース(和光純薬工業株式会社製)を1%(10μg)になるように混合し、溶液(電子伝達体含有LPL溶液)を得た。得られた電子伝達体含有LPL溶液を、形成させたGLDH層の上に重層(被覆)するように滴下し、40℃で5分間乾燥させ、第二の反応層(電子伝達体含有LPL層)を得た。
【0149】
このようにして、第一の反応層であるGLDH層上に第二の反応層である電子伝達体含有LPL層を形成(重層)した。
【0150】
上部界面活性剤層は、以下の手順で形成した。
【0151】
1センサ(供給される試料「全血」の量1μl)あたり、終濃度で、グリシルグリシン(和光純薬株式会社製)を50mM(6.5μg)、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)を0.1%(1μg)になるように混合し、界面活性剤溶液を得た。得られた界面活性剤溶液を、PETからなるカバーに接着剤(両面テープ)を貼り合わせた隙間に滴下後、50℃で5分間乾燥させ、上部界面活性剤層を形成した。
【0152】
上部界面活性剤層が形成されているカバーと、界面活性剤層、親水性高分子層、第一の反応層および第二の反応層が形成されている基板に接着した接着剤(両面テープ)とを互いに貼り合わせることにより、中性脂肪センサを作製した。なお、この際、第一の界面活性剤層、親水性高分子層、第一の反応層、第二の反応層および第二の界面活性剤層の厚みはそれぞれ5μmであり、第二の反応層と界面活性剤層との離隔距離は0.075mmであった。
【0153】
このようにして製造された中性脂肪濃度測定用バイオセンサについて、以下の手順で保存安定性評価を行った。
【0154】
バイオセンサを、シリカゲルと共にラミジップに封入し40℃に保温した。一定日数後、保温したバイオセンサを、Triton(登録商標)X−100を0.1%含有した10mMのリン酸緩衝液(pH7.0)に浸漬することで、GLDHおよびLPLを溶解させた酵素溶解液を調製した。
【0155】
得られた酵素溶解液中のGLDHの活性測定は、DCIP(2,6−ジクロロフェノールインドフェノール)を50μM、PMS(5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート)を0.2mM、グリセロールを450mM、およびTriton(登録商標)X−100を0.1%含む10mM リン酸緩衝液(pH7.0)を基質溶液とし、これに酵素溶解液を一定量添加して37℃で反応、600nmにおける吸光度の減少を測定した。酵素活性単位は、上記条件下にて1分間に1μmolのDCIPを還元する酵素量とした。
【0156】
得られた酵素溶解液中のLPLの活性測定は、オリーブオイル(和光純薬工業株式会社製)を10%、及びTriton(登録商標)X−100を0.5%、BSA pH7.0(和光純薬工業株式会社製)を2%、リン酸緩衝液(pH7.0)を30mMとなるように調整したオリーブオイルエマルジョン溶液に、一定量の酵素溶解液を添加して37℃で反応、一定時間後、0.2Mのトリクロロ酢酸溶液を添加して反応を停止させた。その後、酵素と基質の反応によって生じたグリセロール量を、Free Glycerol Reagent(SIGMA ALDRICH製)を用いて測定した。酵素活性単位は、上記条件下にて1分間に1μmolのグリセロールを生成する酵素量とした。測定結果は、バイオセンサ作製時に使用した酵素の活性を100%として、下記表1および図5に示した。なお、図5および図6中、実施例の結果は、白抜き丸(○)で表わす。
【0157】
(比較例1)
電極は、上記実施例1と同様のものを使用した。
【0158】
第一の反応層(GLDH層)は以下の手順で形成した。
【0159】
1センサ(供給される試料「全血」の量1μl)あたり、終濃度で、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を1.0U、グリシルグリシン(和光純薬工業株式会社製)を5mM(0.65μg)、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)を0.025%(0.5μg)になるように混合し、溶液(GLDH溶液)を得た。得られたGLDH溶液を電極の作用極作用部分、参照極作用部分、および対極作用部分を被覆するように滴下し、40℃で5分間乾燥させ、第一の反応層(GLDH層)を得た。
【0160】
第二の反応層(電子伝達体含有LPL層)は、以下の手順で形成した。
【0161】
1センサ(試料液量1μl)あたり、リポプロテインリパーゼ(LPL、旭化成株式会社製)を80U、グリシルグリシン(和光純薬工業株式会社製)を5mM(0.65μg)、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物(和光純薬工業株式会社製)を200mM(65μg)になるように混合し、溶液(電子伝達体含有LPL溶液)を得た。得られた電子伝達体含有LPL溶液を、形成させたGLDH層の上に重層(被覆)するように滴下し、40℃で5分間乾燥させ、第二の反応層(電子伝達体含有LPL層)を得た。
【0162】
このようにして、第一の反応層であるGLDH層上に第二の反応層である電子伝達体含有LPL層を形成(重層)した。
【0163】
上部界面活性剤層は、実施例1と同様の手順で形成した。
【0164】
上部界面活性剤層が形成されているカバーと、第一の反応層および第二の反応層が形成されている基板に接着した接着剤(両面テープ)とを互いに貼り合わせることにより、中性脂肪センサを作製した。なお、この際、第一の反応層、第二の反応層および上部界面活性剤層の厚みはそれぞれ5μmであり、第二の反応層と上部界面活性剤層との離隔距離は0.085mmであった。
【0165】
上記のように製造したバイオセンサについて、実施例1と同様にして保存安定性の評価を行った。評価結果は、後掲の表1、図7および図8に示す。なお、図7および図8中、比較例1の結果は、黒塗り四角(◆)で表わす。
【0166】
(比較例2)
電極は、上記実施例1と同様のものを使用した。
【0167】
第一の反応層(GLDH層)は以下の手順で形成した。
【0168】
1センサ(供給される試料「全血」の量1μl)あたり、終濃度で、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を1.0U、グリシルグリシン(和光純薬工業株式会社製)を5mM(0.65μg)、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)を0.025%(0.25μg)、およびトレハロース二水和物(和光純薬工業株式会社製)を5%(50μg)になるように混合し、溶液(GLDH溶液)を得た。得られたGLDH溶液をEP−Nの作用極作用部分、参照極作用部分、および対極作用部分を被覆するように滴下し、40℃で5分間乾燥させ、第一の反応層(GLDH層)を得た。
【0169】
第二の反応層(電子伝達体含有LPL層)は、以下の手順で形成した。
【0170】
1センサ(供給される試料「全血」の量1μl)あたり、終濃度で、リポプロテインリパーゼ(LPL、旭化成株式会社製)を80U、グリシルグリシン(和光純薬工業株式会社製)を5mM(0.65μg)、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物(和光純薬工業株式会社製)を100mM(65μg)になるように混合し、溶液(電子伝達体含有LPL溶液)を得た。得られた電子伝達体含有LPL溶液を、形成させたGLDH層の上に重層(被覆)するように滴下し、40℃で5分間乾燥させ、第二の反応層(電子伝達体含有LPL層)を得た。
【0171】
このようにして、第一の反応層であるGLDH層上に第二の反応層である電子伝達体含有LPL層を形成(重層)した。
【0172】
上部界面活性剤層は、実施例1と同様の手順で形成した。
【0173】
上部界面活性剤層が形成されているカバーと、第一の反応層および第二の反応層が形成されている基板に接着した接着剤(両面テープ)とを互いに貼り合わせることにより、中性脂肪センサを作製した。なお、この際、第一の反応層、第二の反応層および上部界面活性剤層の厚みはそれぞれ5μmであり、第二の反応層と上部界面活性剤層との離隔距離は0.085mmであった。
【0174】
上記のように製造したバイオセンサについて、実施例1と同様にして保存安定性の評価を行った。評価結果は、後掲の表1、図7および図8に示す。なお、図7および図8中、比較例2の結果は、黒塗り三角(▲)で表わす。
【0175】
【表1】

【0176】
上記表1、図7および図8から明らかなように、本発明のバイオセンサは、保存日数が30日を過ぎても、90%を超える高い酵素活性が維持され、保存安定性に優れていることが分かる。特に、脂質分解酵素については、本発明のバイオセンサはほとんど失活が見られず、非常に優れた保存安定性が実現されている。これに対して、中間層を有していない比較例1および2は、酸化還元酵素においても脂質分解酵素においても、酵素は保存直後から失活をはじめ、保存安定性が十分ではないことが分かる。特に、酸化還元酵素において酵素の失活は大きく、比較例1では、30日保存後には酵素の残存活性は50%を下回る結果となっている。この比較例1と対比すると、実施例1のバイオセンサでは、保存安定性が大きく改善されていることが分かる。この結果は、本発明のバイオセンサにおいて、界面活性剤層と親水性高分子層とを含む中間層を設けたことよる保存安定性向上の効果を示すものである。さらに、第一および第二の反応層に親水性高分子、糖およびタンパク質を添加したことによっても保存安定性はさらに向上していると考えられる。
【0177】
また、比較例1と第一の反応層にトレハロースを添加した比較例2とを対比すると、比較例2の方の酵素の残存活性が改善されている。したがって、糖の添加は保存安定性に有効である。しかしながら、それだけでは保存安定性向上効果は十分ではなく、反応層と電極との間に中間層を設け、さらには反応層中に親水性高分子、糖およびタンパク質を添加することにより、保存安定性がさらに向上するものである。
【符号の説明】
【0178】
1 絶縁性基板、
2 作用極、
2−1 作用極作用部分、
3 参照極、
3−1 参照極作用部分、
4 対極、
4−1 対極作用部分、
5 絶縁層、
6(6a、6b) 接着剤、
7 カバー、
8 第一の反応層、
9 第二の反応層、
10 反応層、
11 界面活性剤層、
12 親水性高分子層、
13 中間層、
14 上部界面活性剤層、
S 空間部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成されてなる、少なくとも作用極および対極を含む電極系と、前記電極系上に形成されてなる試料供給部と、を有するバイオセンサであって、
前記試料供給部が、
前記電極系上に形成される中間層と、前記中間層上に形成される反応層と、を含み、
前記中間層が、界面活性剤を含む界面活性剤層および親水性高分子を含む親水性高分子層を含み、
前記反応層が、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素と、脂質分解酵素と、を含む、バイオセンサ。
【請求項2】
前記反応層は、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素含む第一の反応層と、
前記第一の反応層上に脂質分解酵素を含む溶液を塗布することによって形成される第二の反応層と、を含む、請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項3】
前記試料供給部が、さらに電子伝達体を含む、請求項1または2に記載のバイオセンサ。
【請求項4】
前記酸化還元酵素が、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオセンサ。
【請求項5】
前記親水性高分子が、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびその誘導体の少なくとも一種である請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオセンサ。
【請求項6】
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載のバイオセンサ。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤が、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステルおよびショ糖オレイン酸エステルの少なくとも一種である請求項6に記載のバイオセンサ。
【請求項8】
前記反応層が非還元糖を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のバイオセンサ。
【請求項9】
前記非還元糖が、トレハロース、ラフィノースおよびスクロースの少なくとも一種である請求項8に記載のバイオセンサ。
【請求項10】
前記反応層がタンパク質を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載のバイオセンサ。
【請求項11】
前記タンパク質が、BSA、カゼインおよびセリシンの少なくとも一種である請求項10に記載のバイオセンサ。
【請求項12】
前記試料供給部が、前記中間層および前記反応層と分離して、界面活性剤を含む上部界面活性剤層をさらに含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載のバイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−208101(P2012−208101A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76100(P2011−76100)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【出願人】(503195850)有限会社アルティザイム・インターナショナル (31)