説明

多層構造液晶光学素子およびそれを用いた液晶レンズ

【課題】液晶の充填量を確保し、十分な光学的距離Lを確保することができると共に、応答速度を大幅に向上でき、かつ液晶を注入する際にガラス基板の変形がなく、均一な特性が得られる多層構造液晶光学素子およびそれを用いた液晶レンズを提供する。
【解決手段】多層構造液晶光学素子100は、コモン電極20が形成された基板10と、第一の駆動電極21および第二の駆動電極22が形成された基板11と、複数の薄い透明基板からなる多層構造体12と、液晶40とから構成されている。多層構造体12は、厚さ10〜50μmの複数の透明基板をスペーサーを介して積層して構成される。各層の間は液晶を充填する空間が形成されている。また、複数の透明基板にそれぞれ液晶注入孔13と、圧力バランス孔14とが設けられる。さらに、各透明基板の表面に配向膜を形成しないで、一定強度の磁場を印加し、液晶分子を透明基板の表面に対して水平に配向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セグメント電極が形成された第1の基板とコモン電極が形成された第2の基板との間に、複数の液晶層を有する多層構造液晶光学素子およびそれを用いた2重構造の液晶レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電極を形成した基板の間に液晶を挟んで構成される様々な液晶光学素子が知られている。例えば、情報記録媒体としてCD、DVD等の各種光ディスク装置があるが、これらの光ディスク装置は、回転することによる厚さずれや反り等によって、収差(集光スポットの歪)を生ずるため、この収差を補正して記録・再生の精度を確保する必要がある。そのため、同心円のリング状に電極を形成した基板で、液晶を挟み込んだ液晶収差補正素子が用いられ、これにより、光束の中央部と外縁部とで、異なる位相制御を行っている(特許文献1)。
【0003】
従来の液晶光学素子では、液晶の分子配列状態を電気的に制御し、それによって、光に対する屈折率などの性質を変化させている。二次元的あるいは三次元的に屈折率の分布を変化制御することによって、各光路における位相遅れ量や光路の屈折状態を制御できるので、電子的に焦点を可変できる液晶レンズや液晶収差補正素子などの、光学素子として有益な機能素子である。しかし、実応用に有用な光の屈折効果を最大限に引き出すためには、液晶光学セルの対応する両配向膜の間に、光路に沿って十分な量の液晶を保持する必要があり、このために液晶層の厚さ(両配向膜の間)dは、通常の液晶表示セルが数μm程度であるのに対して、30〜100μm程度と極めて厚くする必要がある。
【0004】
また、液晶の応答速度は、液晶層の厚さ(両配向膜の間)dの2乗に逆比例することが知られており、このように厚い液晶光学セルの場合には、応答時間は数100ms〜数分になる。即ち、従来の多くの液晶光学素子は、応答速度が遅いという問題点があった。
【0005】
機器を制御する際に応答速度が遅いことは、液晶光学素子を利用する焦点可変レンズ機能や収差補正機能にとって大きな制約であり、実用化への課題であった。
【0006】
近年、液晶レンズのパワーおよび応答速度を改善するために、2層の液晶層を有する光学素子が提案された(特許文献2)。
【0007】
特許文献2に記載の光学素子は、2層の液晶層を有する2つの液晶セルを重なって2重構造に構成したものである。各液晶セルにおいて、液晶層は絶縁層により2層に分割されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−237077号公報
【特許文献2】特開2006−91826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の液晶光学素子は、上述したように、応用上必要な屈折率変化を得るためには、厚い液晶層を透過させて十分な光学的距離Lを確保する必要がある。
【0010】
一般的に、液晶層が厚くなると応答時間τr、τdは液晶層の厚さ(両配向膜の間)dの二乗に比例して遅くなることが知られている。そのため、液晶層の厚さを厚くすると応答速度が低下する問題点があり、実用化に課題があった。
【0011】
また、特許文献2は、液晶レンズパワーの増大、応答速度の改善が限定的であり、レンズパワーをより大きく、さらに応答速度を速くすることが困難である。例えば、多層の液晶層にする場合、絶縁層が厚いため、液晶素子が厚くなる。そのため、応答速度が低下し、高い印加電圧が必要となる。
【0012】
また、絶縁層を薄くすることが考えられるが、製造工程において、液晶を注入する際に、絶縁層が変形し、均一な特性が得られない問題点があった。また、液晶素子を薄くするために、液晶層を薄くすることが考えられるが、液晶層を薄くすることで、配向膜の形成による液晶の充填量が少なくなるという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、液晶光学セルの液晶層を複数の薄い透明基板により分割して複数の液晶層を形成し、かつ複数の透明基板にそれぞれ液晶注入孔と圧力バランス孔とを設けることによって、液晶の充填量を確保し、十分な光学的距離Lを確保することができると共に、応答速度を大幅に向上でき、かつ液晶を注入する際にガラス基板の変形がなく、均一な特性が得られる多層構造液晶光学素子およびそれを用いた液晶レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明に係る多層構造液晶光学素子は、セグメント電極が形成された第1の基板とコモン電極が形成された第2の基板との間に収容された液晶分子を配向させた液晶層を有する液晶光学素子において、前記第1の基板と第2の基板との間に、厚さ10〜50μmの複数の透明基板をスペーサーを介して積層してからなる多層構造体が設けられ、前記液晶層は複数の透明基板により分割されて複数の液晶層に形成され、前記複数の透明基板にそれぞれ液晶注入孔と、液晶を注入する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とが設けられ、前記第1の基板または第2の基板に前記液晶注入孔に対応する位置に液晶を注入する注入口が設けられることを特徴とする。
【0015】
例えば、前記多層構造液晶光学素子において、前記スペーサーは、前記液晶注入孔および圧力バランス孔に対応する部分を含む液晶を充填するための切り抜き部を有するガラス基板である。
【0016】
また例えば、前記多層構造液晶光学素子において、前記透明基板の表面に配向膜を形成しないで、前記複数の液晶層に対して一定強度の磁場を印加し、液晶分子を前記透明基板の表面に水平に配向させる。
【0017】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る液晶レンズは、電極が形成された基板と電極が形成されない基板との間に厚さ10〜50μmの複数の透明基板をスペーサーを介して積層してなる多層構造体が設けられて複数の液晶層を有する第1の多層構造液晶光学素子と、電極が形成された二つの基板の間に厚さ10〜50μmの複数の透明基板をスペーサーを介して積層してなる多層構造体が設けられて複数の液晶層を有する第2の多層構造液晶光学素子とを少なくとも一つずつ用いて重なった構造とし、前記複数の透明基板にそれぞれ液晶注入孔と、液晶を注入する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とが設けられ、前記第1の基板と第3の基板に前記液晶注入孔に対応する位置に液晶を注入する注入口が設けられることを特徴とする。
【0018】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る液晶レンズは、第1の電極が形成された第1の基板と電極が形成されない第2の基板との間に複数の厚さ10〜50μmの透明基板をスペーサーを介して積層してからなる多層構造体が設けられて複数の液晶層を有する第1の多層構造液晶光学素子と、第2の電極が形成された第3の基板と中央部に形成された第3の電極および該第3の電極の周辺に形成された第4の電極とを有する第4の基板との間に厚さ10〜50μmの複数の透明基板をスペーサーを介して積層してからなる多層構造体が設けられて複数の液晶層を有する第2の多層構造液晶光学素子とを備え、前記第1の多層構造液晶光学素子の第2の基板と前記第2の多層構造液晶光学素子の第4の基板とを接着して2重構造とし、前記複数の透明基板にそれぞれ液晶注入孔と、液晶を注入する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とが設けられ、前記第1の基板と第3の基板に前記液晶注入孔に対応する位置に液晶を注入する注入口が設けられることを特徴とする。
【0019】
例えば、前記液晶レンズにおいて、前記スペーサーは、前記液晶注入孔および圧力バランス孔に対応する部分を含む液晶を充填するための切り抜き部を有するスペーサーガラス基板である。
【0020】
また例えば、前記液晶レンズにおいて、前記透明基板の表面に配向膜を形成しないで、前記複数の液晶層に対して一定強度の磁場を印加し、液晶分子を前記透明基板の表面に水平に配向させ、前記第1の多層構造液晶光学素子と第2の多層構造液晶光学素子の液晶の配向方向は互いに垂直になるように配置される。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る多層構造液晶光学素子によれば、液晶光学セルを構成する基板間に、厚さ10〜50μmの複数の透明基板をスペーサーを介して積層してからなる多層構造体が設けられて複数の液晶層が形成され、かつ透明基板の表面に配向膜を塗布しないで、磁場配向法を用いて複数の液晶層の液晶分子が基板の表面に水平に配向されることで、十分な光学的距離Lを確保することができると共に、応答速度を大幅に向上することができ、かつ液晶の充填量を確保することができる。また、複数の透明基板にそれぞれ液晶注入孔と、圧力バランス孔とが設けられることで、液晶を注入する際に各層間の圧力を均一に保つことができ、液晶注入による各層の透明基板の変形を防止することができ、均一な光学特性が得られる。
【0022】
本発明に係る液晶レンズによれば、複数の液晶層を有する第1の多層構造液晶光学素子と第2の多層構造液晶光学素子とを接着して2重構造とすることで、応答速度を向上することができ、また、電極間に配置される厚さ10〜50μmの複数の透明基板からなる多層構造体の均一性、および多層構造体形成の再現性を向上することができ、光屈折などの光学特性を電気的に制御することが出来る焦点可変レンズ、または、光ピックアップでの記録・再生時に生ずる収差を補正するために用いる、液晶収差補正素子などとして実用化できるようになった。
【0023】
また、スペーサーとして、液晶注入孔および圧力バランス孔に対応する部分を含む液晶を充填するための切り抜き部を有するガラス基板を用いることで、透明基板の変形を防ぐことができると共に、積層加工が容易にできる。
【0024】
また、透明基板の表面に配向膜を形成しないで、磁場配向法を用いて複数の液晶層の液晶分子を透明基板の表面に水平に配向させることで、液晶の充填量を確保し、かつ安定した配向ができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施の形態の多層構造液晶光学素子100の構成を示す分解図である。
【図2】多層構造液晶光学素子100の構成を示すA−A断面図である。
【図3】多層構造液晶光学素子100の構成を示すB−B断面図である。
【図4】配向処理の説明図である。
【図5】実施形態の液晶レンズ200の構成を示す図である。
【図6】第2の実施の形態の多層構造液晶光学素子100Aの構成を示す分解図である。
【図7】多層構造液晶光学素子100Aの構成を示すA−A断面図である。
【図8】多層構造液晶光学素子100Aの構成を示すB−B断面図である。
【図9】ガラス基板50Aの構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る多層構造液晶光学素子およびそれを用いた液晶レンズを、実施するための最良の形態を、図を参照して説明する。ここで、あらかじめ特定の方向に配列してある液晶分子に、部分的に電界をかけ、この分子の配列を変え、液晶光学セル内に生じた屈折率分布の変化を利用して、レンズ効果を得る多層構造液晶光学素子の例を説明する。
【0027】
図1は、第1の実施の形態の多層構造液晶光学素子100の構成を示す分解図である。図2は、多層構造液晶光学素子100の構成を示すA−A断面図である。図3は、多層構造液晶光学素子100の構成を示すB−B断面図である。
【0028】
図1〜図3に示すように、多層構造液晶光学素子100は、コモン電極20が形成された基板10と、セグメント電極としての第一の駆動電極21および第二の駆動電極22が形成された基板11と、複数の薄い透明基板Gからなる多層構造体12と、液晶40とから構成されている。複数の薄い透明基板Gにより複数の薄い液晶層が形成されている。
【0029】
この例の場合は、基板10,11はガラス基板である。また、液晶40は電圧印加時に、分子の長軸が電界方向に向く誘電率異方性が正のネマチック液晶(Np液晶)である。
【0030】
ここで、コモン電極20、第一の駆動電極21および第二の駆動電極22と液晶40との間に、一般的に設けられる配向膜、透明絶縁層や、基板10,11上に設けられる反射防止膜等は図示を省略している。また、液晶40はスペーサーとしてのシール材50によって内側に封入されている。また、各端子には電圧を印加するためリード線等が接続される。
【0031】
下の基板10の厚さ方向に穴が穿たれ、この穴にはコモン電極20へ接続するためのアース端子V設けられている。また、上の基板11に第一の駆動端子V、第二の駆動端子Vが設けられている。各端子は、穴の内周面に沿ってスルーホール加工され、Cr−Au等の金属メッキ・導通材を充填して形成される。なお、下の基板10に多層構造液晶光学素子100の温度を制御するためのヒーター電極、ヒーター端子を設けても良い。
【0032】
また、基板10,11間に液晶40を注入するための注入口32が、上の基板11に形成されている。注入口32の形状は円形あるいは楕円形等であり、液晶40を注入した後に封止材33(図4参照)により適宜封止される。また、注入口32は、多層構造体12の液晶注入孔13に対応する位置に設けられる。これにより、液晶の注入がスムーズになり、液晶が各層へ均等に流入することが可能となる。
【0033】
また、図1に示すように、上の基板11の中心部に円形の第二の駆動電極22が配置され、その周辺に第一の駆動電極21が配置されている。第二の駆動電極22は、第二の駆動端子Vに接続されている。また、第一の駆動電極21は、第一の駆動端子Vに接続されている。また、基板10の中央部に円形のコモン電極20が配置されている。コモン電極20は、アース端子Vに接続されている。また、第一の駆動電極21および第二の駆動電極22に異なる電圧を印加することでレンズとしても利用できる。
【0034】
多層構造体12は、複数の薄い透明基板G(例えば、ガラス基板)を積層して構成される。各層の間はシール材50により液晶を充填する空間が形成される。ここで、各透明基板の厚さは、10〜50μmである。各液晶の厚さは、5〜20μmである。また、各透明基板Gの1つの角部に液晶を注入するための液晶注入孔13が形成され、該液晶注入孔13と対向する角部に、液晶を注入する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔14が形成されている。
【0035】
また、図1〜3に示すように、上の基板11と多層構造体12との間に液晶を充填する空間を有し、また、下の基板10と多層構造体12との間にも液晶を充填する空間を有する。即ち、基板10,11の内側の面と多層構造体12との間にも液晶が存在する。また、基板10,11の内側の面には、配向膜が形成されている。そのため、基板10,11の内側の液晶は、一定の方向(例えば、基板11に対して垂直方向)に配向される。この液晶は、光の進む方向に平行な液晶分子であり、上下の基板に垂直方向に働く電界変化には応答しない。
【0036】
各透明基板Gに圧力バランス孔14を設けることで、液晶を充填する際に、液晶が液晶注入孔から各層に流入し、各層の空気が透明基板の圧力バランス孔14を通して分散することにより各層間の圧力を均一に保つことができるため、薄い透明基板Gの凹凸変形をなくし、変形による液晶素子の光学特性の低下(ニュートンリングの発生等)を防ぐことができる。かつ液晶が各層に均一に充填することができる。
【0037】
以下、本発明の多層構造液晶光学素子100の製造方法を説明する。説明を分かりやすくするために1つの液晶セルのみを示している。
【0038】
多層構造液晶光学素子100の製造方法として、まず、下の基板10において、所定の位置に電極材を蒸着等によって形成する。ここで、一定の大きさを有する基板に複数の多層構造液晶光学素子100を形成する場合を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
次に、エッチング等によるパターンニング処理を行って電極20を作製する。電極20を形成する工程において、基板10にアース端子Vを設ける。
【0040】
次に、透明絶縁層を必要に応じて積層させた後、ポリイミド(PI:polyimide)等の液晶配向膜を形成する。さらに、液晶を封入するためのシール材50を、印刷等により電極20の周辺に設ける。
【0041】
一方、対向させる上の基板11については、上記と同様に母材となる基板に対して電極を形成し、パターンニングを行って、第一の駆動電極21および第二の駆動電極22とする。
【0042】
そして、予め形成された多層構造体12を配置する。ここで、多層構造体12の形成方法として、例えば、予め各透明基板Gの1つの角部に液晶を注入するための液晶注入孔13を形成し、液晶注入孔13と対向する角部に、液晶を注入する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔14を形成する。なお、液晶注入孔13と圧力バランス孔14は、透明基板Gの角部以外の位置に設けても良い。各透明基板Gにシール材を塗布して、液晶注入孔13と圧力バランス孔14をそれぞれ位置合わせて積層することで、多層構造体12が形成される。
【0043】
多層構造体12を配置する際に、形成された多層構造体12を下の基板10に配置する。次に、下の基板10と上の基板11とを、対向させて組み合わせることで、液晶セルを形成する。
【0044】
続いて、注入口32から液晶セル内(シール材50の内側)に等方相状態の液晶を注入し、封止材33で封止して、配向処理を行う。ここで、図4に示すように、液晶注入、配向処理を行う際に、まず、形成した液晶セルをセル加熱用ヒーター(図示せず)の上に配置し、セル加熱用ヒーターで液晶セルを加熱する。このとき、例えば加熱温度は液晶材料の等方相温度TN1+5℃とする。次に、等方相状態にある液晶材料を液晶セルに注入する。次に、N磁極とS磁極からなる磁場内に設置して、磁場を印加する。このとき、磁場強度は20kGとし、磁場方向を基板と平行するように設置する。そして、液晶セルを磁場中に保持しながら徐々に冷却する。
【0045】
この場合、液晶セルの温度は、等方相温度TN1を経て室温まで徐冷する。また、冷却時間は5〜15minとする。好ましくは約10minである。これにより、液晶セル内の液晶が磁場方向に配向される。即ち、液晶は透明基板に対して水平方向に配向され、かつ安定した配向ができる。
【0046】
そして、母材となる基板10,11に配列した各端子を使用して、素子の動作検査を行う。検査が不合格であった箇所については、NGマーキングを行う。その後、母材となる基板の全面に反射防止膜(AR膜)を形成する。AR膜はガラス基板10側又は基板11側の、いずれか一方に形成しても良いし、両方に形成しても良い。
【0047】
最後に、母材となる基板を、スライサー等を用いて個々の多層構造液晶光学素子100に切り分け、単品の検査工程を経て完了する。
【0048】
以上のような製造方法によれば、多層構造液晶光学素子100の組立時に予め多層構造体12を形成して、得られた多層構造体12を基板10,11の間に配置する。そして、液晶セル内の複数の液晶層に対して磁場を印加し配向処理を行う。
【0049】
多層構造液晶光学素子100に所定の電圧を印加する際に、透明基板の表面に対して、水平方向に配向していた液晶は電界方向に力を受けて傾斜し、電界が強くなると電極面に対して垂直状態になる。これにより、光に対する屈折率を電気的に制御することができ、焦点可変レンズや収差補正素子として有益な機能素子となる。
【0050】
このように本実施の形態においては、多層構造液晶光学素子100は、コモン電極20が形成された基板10と、第一の駆動電極21および第二の駆動電極22が形成された基板11と、複数の薄い透明基板Gからなる多層構造体12と、液晶40とから構成されている。多層構造体12は、厚さ10〜50μmの複数の透明基板をシール材50を介して積層して構成される。各層の間は液晶を充填する空間が形成されている。また、複数の透明基板Gにそれぞれ液晶注入孔13と、圧力バランス孔14とが設けられる。さらに、各透明基板Gの表面に配向膜を形成しないで、複数の液晶層に対して一定強度の磁場を印加し、液晶分子を透明基板の表面に対して水平に配向させる。
【0051】
これにより、十分な光学的距離Lを確保することができると共に、応答速度を大幅に向上することができ、かつ液晶の充填量を確保することができる。
【0052】
また、複数の透明基板Gにそれぞれ液晶注入孔13と、圧力バランス孔14とが設けられることで、液晶を注入する際に各層間の圧力を均一に保つことができ、液晶注入による各層の透明基板Gの変形を防止することができ、均一な光学特性が得られる。
【0053】
また、複数の薄い透明基板からなる多層構造体12の各透明基板Gの表面に配向膜を形成しないで、磁場を用いて液晶を配向させることによって、液晶の充填量を確保し、かつ安定した配向ができる。
【0054】
上下の基板10,11に設けた電極間に電圧を印加することで、液晶の分子配向を制御することができ、光学特性を変化させることができる。したがって液晶光学素子としての応答時間を短縮することができ、光ピックアップでの記録・再生時に生ずる収差を補正するために用いる液晶収差補正素子として実用化できるようになる。
【0055】
図5は、液晶レンズ200の構成を示す図である。図5において、図5(a)は液晶レンズ200の構成を示す平面図であり、図5(b)は液晶レンズ200の構成を示すC−C断面図である。
【0056】
図5に示すように、液晶レンズ200は、多層構造液晶光学素子100aと、多層構造液晶光学素子100bとから構成されている。多層構造液晶光学素子100aの基板11aと多層構造液晶光学素子100bの基板11bを光学接着剤により接着して2重構造としている。
【0057】
また、多層構造液晶光学素子100aと多層構造液晶光学素子100bは、多層構造液晶光学素子100aの液晶40aの配向方向と多層構造液晶光学素子100bの液晶40bの配向方向が互いに直交するように配置されている。
【0058】
多層構造液晶光学素子100aは、コモン電極20a(第1の電極)が形成された基板10a(第1の基板)と、基板11a(第2の基板)と、複数の薄い透明基板Gからなる多層構造体12aと、液晶40aとから構成されている。
【0059】
多層構造液晶光学素子100bは、コモン電極20b(第2の電極)が形成された基板10b(第3の基板)と、第1の駆動電極21b(第3の電極)および第2の駆動電極22b(第4の電極)が形成された基板11b(第4の基板)と、複数の薄い透明基板からなる多層構造体12bと、液晶40bとから構成されている。この場合、多層構造液晶光学素子100aと多層構造液晶光学素子100bは、第1の駆動電極21bおよび第2の駆動電極22bを共用する。
【0060】
多層構造体12a,12bは、それぞれ複数の薄い透明基板G(例えば、ガラス基板)を積層して構成される。各層の間はシール材50a,50bにより液晶を充填する空間が形成されている。ここで、各透明基板Gの厚さは、10〜50μmである。各液晶の厚さは、5〜20μmである。また、各透明基板Gの1つの角部に液晶を注入するための液晶注入孔13a,13bが形成され、該液晶注入孔13a,13bと対向する側の角部に液晶を注入する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔14a,14bが形成されている。
【0061】
また、多層構造液晶光学素子100a,100bにおいて、各透明基板Gの表面に配向膜を形成しないで、一定強度の磁場を印加し、液晶分子を透明基板Gの表面に対して水平に配向させる。この場合、多層構造液晶光学素子100aの液晶40aの配向方向は、図5中の矢印に示すように紙面に平行する方向(左右方向)である。また、多層構造液晶光学素子100bの液晶40bの配向方向は、紙面に垂直する方向である。また、第一の駆動電極21bおよび第二の駆動電極22bに異なる電圧を印加する。
【0062】
このように本実施の形態においては、液晶レンズ200は、多層構造液晶光学素子100aと、多層構造液晶光学素子100bとから構成されている。多層構造液晶光学素子100aの基板11と、多層構造液晶光学素子100bの基板11bを光学接着剤により接着して2重構造としている。また、多層構造液晶光学素子100aと多層構造液晶光学素子100bは、多層構造液晶光学素子100aの液晶40aの配向方向と多層構造液晶光学素子100bの液晶40bの配向方向が互いに直交するように配置されている。
【0063】
これにより、十分な光学的距離Lを確保することができると共に、応答速度を向上することができる。また、多層構造液晶光学素子100a,100bにおいて、複数の透明基板Gにそれぞれ液晶注入孔13a,13bと、圧力バランス孔14a,14bとが設けられることで、液晶注入による各層の透明基板Gの変形を防止することができ、均一な光学特性が得られる。光屈折などの光学特性を電気的に制御することが出来る焦点可変レンズ、または、光ピックアップでの記録・再生時に生ずる収差を補正するために用いる、液晶収差補正素子などとして実用化できるようになった。
【0064】
また、透明基板Gの表面に配向膜を形成しないで、磁場配向法を用いて複数の液晶層の液晶分子を透明基板Gの表面に水平に配向させることで、液晶の充填量を確保し、かつ安定した配向ができる。
【0065】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図6は、第2の実施の形態の多層構造液晶光学素子100Aの構成を示す分解図である。図7は、多層構造液晶光学素子100Aの構成を示すA−A断面図である。図8は、多層構造液晶光学素子100Aの構成を示すB−B断面図である。図9は、ガラス基板50Aの構成を示す平面図である。
【0066】
図6〜9に示すように、多層構造液晶光学素子100Aは、コモン電極20が形成された基板10と、セグメント電極としての第一の駆動電極21および第二の駆動電極22が形成された基板11と、複数の薄い透明基板Gからなる多層構造体12Aと、液晶40とから構成されている。また、多層構造体の透明基板Gの間にスペーサーとしてのガラス基板50Aが配置されている。複数の薄い透明基板Gにより複数の液晶層が形成されている。
【0067】
多層構造液晶光学素子100Aは、多層構造体12A以外に多層構造液晶光学素子100の構成と同様である。ここで、多層構造体12A以外の構成について説明を省略する。
【0068】
多層構造体12Aは、複数の厚さ10〜50μmの透明基板Gをガラス基板50Aを介して積層してからなる。ここで、上述した多層構造液晶光学素子100のシール材50の代わりに、透明基板の間にガラス基板50Aが配置されている。
【0069】
図9に示すように、ガラス基板50Aは、液晶注入孔および圧力バランス孔に対応する部分51A,52Aを含む液晶を充填するための切り抜き部53Aが形成される。この切り抜き部53Aにより液晶を充填する空間が形成される。また、ガラス基板50Aの厚さは、所望の各液晶層の厚さ(5〜20μm)によって、適宜に設計される。
【0070】
また、ガラス基板50Aと透明基板は接着剤により接着され、また多層構造体12Aの表面のガラス基板50Aと基板10,11は接着剤により接着される。なお、多層構造体12Aの表面にガラス基板50Aを設けずに、上述したシール材50を塗布(印刷)して基板10,11と接着剤により接着するようにしてもよい。
【0071】
また、多層構造液晶光学素子100Aの製造方法は、上述した多層構造液晶光学素子100と同様、予め多層構造体12Aを形成して、得られた多層構造体12Aを基板10,11の間に配置する。そして、液晶セル内の複数の液晶層に対して磁場を印加し配向処理を行う。多層構造体12Aを形成する際に、上述したシール材50の代わりに、透明基板Gの間にガラス基板50Aを配置する。
【0072】
このように本実施の形態においては、多層構造液晶光学素子100Aは、コモン電極20が形成された基板10と、第一の駆動電極21および第二の駆動電極22が形成された基板11と、複数の薄い透明基板からなる多層構造体12Aと、液晶40とから構成されている。多層構造体12Aは、厚さ10〜50μmの複数の透明基板Gとガラス基板50Aとを積層して構成される。ガラス基板50Aに液晶を充填する空間が形成されている。また、複数の透明基板Gにそれぞれ液晶注入孔13と、圧力バランス孔14とが設けられる。さらに、各透明基板Gの表面に配向膜を形成しないで、複数の液晶層に対して一定強度の磁場を印加し、液晶分子を透明基板Gの表面に対して水平に配向させる。
【0073】
これにより、多層構造液晶光学素子100Aは、上述した多層構造液晶光学素子100と同様な効果が得られる。また、多層構造液晶光学素子100Aを用いて上述した液晶レンズ200のような2層構造の液晶レンズを構成することができる。
【0074】
また、スペーサーとして、液晶注入孔および圧力バランス孔に対応する部分51A,52Aを含む液晶を充填するための切り抜き部53Aを有するガラス基板50Aを用いることで、透明基板Gの変形を防ぐことができると共に、積層加工が容易にできる。
【0075】
なお、上述した実施の形態においては、多層構造液晶光学素子100,100a,100bの多層構造体12,12a,12bが4枚の透明基板Gから構成されるものについて説明したが、これに限定されるものではない。2枚、3枚、または5枚以上の透明基板から構成するようにしてもよい。
【0076】
また、上述した実施の形態において、液晶レンズ200は、多層構造液晶光学素子100aと多層構造液晶光学素子100bとを重なって2重構造のレンズについて説明したが、これに限定されるものではない。多重構造のレンズにもこの発明を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
この発明は、携帯電話機、携帯情報端末機(PDA)、デジタル機器等における超小型カメラに内蔵される、オートフォーカス機能やマクロ−ミクロ切替機能をもつ液晶光学素子、または、光ディスク装置において、光ピックアップでの記録・再生時に生ずる収差を補正するために用いる液晶光学素子など、広く利用することが期待できる。
【符号の説明】
【0078】
10,10a,10b,11,11a,11b 基板
12,12a,12b,12A 多層構造体
13,13a,13b 液晶注入孔
14,14a,14b 圧力バランス孔
20,20a,20b コモン電極
21,21b 第一の駆動電極(セグメント電極)
22,22b 第二の駆動電極(セグメント電極)
32,32a,32b 注入口
33 封止材
40,40a,40b 液晶
50,50a,50b シール材
50A ガラス基板
53A 切り抜き部
100,100a,100b,100A 多層構造液晶光学素子
200 液晶レンズ
,Va,Vb アース端子
,Vb 第一の駆動端子
,Vb 第二の駆動端子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメント電極が形成された第1の基板とコモン電極が形成された第2の基板との間に収容された液晶層を有する液晶光学素子において、
前記第1の基板と第2の基板との間に、厚さ10〜50μmの複数の透明基板をスペーサーを介して積層してなる多層構造体が設けられ、収容される液晶は複数の透明基板により分割されて複数の液晶層に形成され、
前記複数の透明基板にそれぞれ液晶注入孔と、液晶を注入する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とが設けられ、前記第1の基板または第2の基板に前記液晶注入孔に対応する位置に液晶を注入する注入口が設けられることを特徴とする多層構造液晶光学素子。
【請求項2】
前記スペーサーは、前記液晶注入孔および圧力バランス孔に対応する部分を含む液晶を充填するための切り抜き部を有するガラス基板であることを特徴とする請求項1に記載の多層構造液晶光学素子。
【請求項3】
前記透明基板の表面に配向膜を形成しないで、前記複数の液晶層に対して一定強度の磁場を印加し、液晶分子を前記透明基板の表面に水平に配向させることを特徴とする請求項1または2に記載の多層構造液晶光学素子。
【請求項4】
電極が形成された基板と電極が形成されない基板との間に厚さ10〜50μmの複数の透明基板をスペーサーを介して積層してなる多層構造体が設けられて複数の液晶層を有する第1の多層構造液晶光学素子と、
電極が形成された二つの基板の間に厚さ10〜50μmの複数の透明基板をスペーサーを介して積層してなる多層構造体が設けられて複数の液晶層を有する第2の多層構造液晶光学素子とを少なくとも一つずつ用いて重なった構造とし、
前記複数の透明基板にそれぞれ液晶注入孔と、液晶を注入する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とが設けられ、前記第1の基板と第3の基板に前記液晶注入孔に対応する位置に液晶を注入する注入口が設けられることを特徴とする液晶レンズ。
【請求項5】
第1の電極が形成された第1の基板と電極が形成されない第2の基板との間に厚さ10〜50μmの複数の透明基板をスペーサーを介して積層してからなる多層構造体が設けられて複数の液晶層を有する第1の多層構造液晶光学素子と、
第2の電極が形成された第3の基板と中央部に形成された第3の電極および該第3の電極の周辺に形成された第4の電極とを有する第4の基板との間に厚さ10〜50μmの複数の透明基板をスペーサーを介して積層してからなる多層構造体が設けられて複数の液晶層を有する第2の多層構造液晶光学素子とを備え、
前記第1の多層構造液晶光学素子の第2の基板と前記第2の多層構造液晶光学素子の第4の基板とを接着して2重構造とし、
前記複数の透明基板にそれぞれ液晶注入孔と、液晶を注入する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とが設けられ、前記第1の基板と第3の基板に前記液晶注入孔に対応する位置に液晶を注入する注入口が設けられることを特徴とする液晶レンズ。
【請求項6】
前記スペーサーは、前記液晶注入孔および圧力バランス孔に対応する部分を含む液晶を充填するための切り抜き部を有するガラス基板であることを特徴とする請求項4または5に記載の液晶レンズ。
【請求項7】
前記透明基板の表面に配向膜を形成しないで、前記複数の液晶層に対して一定強度の磁場を印加し、液晶分子を前記透明基板の表面に水平に配向させ、
前記第1の多層構造液晶光学素子と第2の多層構造液晶光学素子の液晶の配向方向は互いに垂直するように配置されることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の液晶レンズ。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−164427(P2011−164427A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28190(P2010−28190)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(503376596)株式会社びにっと (13)
【Fターム(参考)】