説明

多心ケーブル

【課題】平行2心のコア電線を複数本撚り合わせて集合し、シールドテープの巻き付けでシールドしてなる多心ケーブルで、全てのコア電線の減衰特性が均一である多心ケーブルを提供する。
【解決手段】2本の絶縁電線が平行に並列してなるコア電線2を、複数本撚り合せて絶縁テープ3で押え巻きし、その外側に金属テープ4を巻き付けてシールド層とした多心ケーブルであって、金属テープ4は、コア電線2の撚り合せ方向と同方向に巻き付けられている。また、金属テープの巻きピッチに対するコア電線の撚りピッチの比を10〜14とし、コア電線2の撚りピッチが50mm〜700mmであり、金属テープ4の巻きピッチが3mm〜60mとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2心平行の対電線の複数本を、共通のシールドテープでシールドした多心ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
2心の信号導体を電気的に絶縁した対信号線は、高速デジタル信号を伝送するのに用いる信号線としてよく知られている。この対信号線を用いた信号伝送方法は、位相を180度反転させた信号を2心の信号導体に同時に入力して送信し、受信側で差分合成するので、差動伝送とも言われていて受信側で信号出力を2倍にすることができる。また、信号の伝送経路中で受けたノイズは、2心の導体に等しく加えられているので、受信側で差動信号として出力したときにキャンセルされ、ノイズ除去機能も有している。
【0003】
上述した対信号線(以下、コア線という)は、複数本を集合させて多心ケーブルとされ、電子機器や車両内の配線に用いられる。例えば、特許文献1には、コア線として対撚り電線を使用し、複数のコア線を撚り合わせてコア集合体とし、その外周に絶縁テープを螺旋状に重ね巻きして内部シース層とした後、金属箔テープを巻付けてシールド層とし、その外側に押出し成形等でシース層を設けた構成のものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−241632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に開示の多心ケーブルは、複数本のコア電線の撚り合せ方向、絶縁テープの巻き付け方向、金属箔テープの巻き付け方向についての記載はなく、また、コア電線は1対の信号線を撚り合わせた対撚り線を用いたもので、コア集合体としては外周面が円形に近い状態である。このため、金属箔テープの巻き付けも、比較的均一な力で巻付けることができる。
【0006】
しかしながら、スキューの発生を小さくするために、コア電線に2心の信号導体を撚らずに平行に並べた対信号線を用いた場合、これを撚り合せた時のコア集合体の外形は不定形となる。このため、コア集合体の外面に絶縁テープおよび金属テープを巻付けたときに、撚り合わされているコア電線に力がかかるが、これらのテープ、特に金属テープの巻き付け方向によってコア電線にかかる力の状態が異なる。また、複数のコア電線に対して異なる力が加わるとその歪みの受け方も異なり、伝送信号の減衰量変化に差が生じるという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、平行2心のコア電線を複数本撚り合わせて集合し、シールドテープの巻き付けでシールドしてなる多心ケーブルで、全てのコア電線の減衰特性が均一である多心ケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による多心ケーブルは、2本の絶縁電線が平行に並列してなるコア電線を、複数本撚り合せて絶縁テープで押え巻きし、その外側に金属テープを巻き付けてシールド層とした多心ケーブルであって、金属テープは、コア電線の撚り合せ方向と同方向に巻き付けられていることを特徴とする。また、金属テープの巻きピッチに対するコア電線の撚りピッチの比を10〜14とし、コア電線の撚りピッチが50mm〜700mmであり、金属テープの巻きピッチが3mm〜60mとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、平行2心の信号導体からなるコア電線の複数本を、共通の金属テープの巻き付けでシールドした場合に、複数本のコア電線間での信号減衰量変化に差がない均一な特性とすることができる。特に、数GHz〜数十GHzの高周波信号を伝送するときに、複数本のコア電線間で信号の減衰量変化に差がないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による多心ケーブルの概略を説明する図である。
【図2】多心ケーブルの製造例を説明する図である。
【図3】多心ケーブルのコア電線の撚り合せ方向とテープの巻き付け方向の形態を示す図である。
【図4】多心ケーブルの信号減衰特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図により本発明の実施の形態を説明する。図中、1は多心ケーブル、2は対信号線(コア電線)、2aは信号導体、2bは絶縁体、2cは樹脂テープ、3は押え巻きテープ、4は金属テープ(シールドテープ)、5はシース、10はコア集合体を示す。
本発明による多心ケーブル1は、図1に示すように、信号導体2aを絶縁体2bで被覆した電線を2本平行に並べて樹脂テープ2cで一括した対信号線2(以下、コア電線という)の複数本を集合させ、全体を共通のシールド導体でシールドした構成のケーブルを対象とする。
【0012】
平行2心のコア電線2は、複数本が一括撚り合されて集合され、この撚り合された状態をコア集合体10とする。なお、本発明の実施形態の説明では、8本のコア電線2からなる多心ケーブルの例で説明する。コア集合体10の外周は、電気絶縁性の押え巻きテープ3を螺旋状に巻き付けて、コア集合体の集合状態を保持させる。押え巻きテープ3を巻き付けた外側には、金属テープ4(以下、シールドテープという)を螺旋状に巻き付けて共通のシールド層とする。また、シールドテープ4を巻き付けた外側は、押出し成形等によりシース5で覆い、全体を保護する。
【0013】
コア電線2の信号導体2aは、軟銅または錫メッキ軟銅線でAWG22〜36(好ましくはAWG24〜32)相当の単線または撚り線が用いられる。信号導体2aを絶縁体2bで被覆した電線2本を平行に保持し、樹脂テープ2cを螺旋巻きしてコア電線とする。絶縁する絶縁体2bは、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂やフッ素系樹脂が用いられる。また、コア電線2は、2本の信号導体2aを平行に並べて一体成形で被覆してもよい。その場合、コア電線は、長辺と短辺を有する長円状、楕円状、めがね状、8の字状などの外形断面で形成される。
【0014】
コア電線2のサイズとしては、AWG22を用いた場合で、短辺が2.0mmで長辺が4.0mm程度であり、AWG36を用いた場合は短辺が0.3mmで長辺が0.6mm程度となる。コア電線2をコア集合体10として撚り合せる本数としては、特に制限はないが、2〜48心(本)程度で、偶数心で撚り合される。撚り合せのピッチは50mm〜700mmピッチで、ほぼ円形となるように撚り合されるが、その形状・配列は不確定であり不安定なものとなる。
【0015】
押え巻きテープ3は、多心ケーブル1を曲げたときなどでバラケたりしないように、コア集合体10の形状を保持するもので、電気絶縁性のある紙テープまたは樹脂テープが用いられる。樹脂テープとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)テープを用いることができ、また、柔軟性に優れた多孔性フッ素樹脂テープなどを用いることもできる。なお、この押え巻きテープ3の厚さは、例えば、0.01mm〜0.05mm程度のものを用いることができる。
【0016】
押え巻きテープ3の外側に巻き付けられるシールドテープ4は、樹脂フィルムにアルミ箔または銅箔を貼り付けたもの、あるいは、樹脂フィルムにアルミまたは銅を蒸着したものを用いることができる。このテープ厚さは、アルミまたは銅の金属部分は0.007mm〜0.025mmで、PETフィルム部分は0.007mm〜0.025mmで、全体の厚さは0.014mm〜0.05mmのものが用いられる。
なお、シールドテープ4は、押え巻きテープ3の上から、重なり部分がテープ幅の1/8〜2/3程度で螺旋状に巻き付けられ、その巻きピッチは3mm〜60mmとされる。また、シールドテープ4の巻きピッチに対するコア電線2の撚りピッチの比は、10〜14が好ましい。
【0017】
シールドテープ4の外周面には、編組からなるシールド導体を配して、シールド層を補強するようにしてもよい。この編組シールド導体の導電材としては、コア電線に用いたのと同様、軟銅または錫メッキ軟銅線を用いることができる。
シールド層の外側は、押出し成形等によりシース5で覆って保護される。このシース5としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリウレタンなどの樹脂を用いることができる。
【0018】
図2は、上述した多心ケーブルの製造方法の一例を説明する図である。図中、11はコア電線供給リール、12は目板、13はダイス、14,15はテープ巻き付け装置、16は案内ローラ、17はキャプスタン、18はケーブル巻取りリール、19は撚線ローラを示す。
【0019】
複数本のコア電線2は、それぞれ個別にコア電線供給リール11から繰り出されて、ケーブル製造ラインに供給される。複数本のコア電線2は、目板12の挿通孔に通され、ダイス13で集合されコア集合体10とされる。キャプスタン17とケーブル巻取りリール18が回転して、複数本のコア電線2が互いに撚り合され、撚線ローラ19によりコア電線2が撚られるときにコア集合体10のパスラインが固定され、撚りが逃げないようにされる。
【0020】
コア集合体10の外周には、第1のテープ巻き付け装置14により押え巻きテープが所定の方向で巻き付けられる。なお、この第1のテープ巻き付け装置14が押え巻きテープを巻き付ける方向は任意である。次いで、押え巻きテープが巻かれたコア集合体10は、第2のテープ巻き付け装置15によりシールドテープが所定の方向で巻き付けられる。この後、キャプスタン17により引取られ、案内ローラ16により案内されて、ケーブル巻取りリール18に巻き取られる。
【0021】
第2のテープ巻き付け装置15が、シールドテープを巻き付ける方向は、コア電線の撚り方向とする。図2の装置では、第2のテープ巻き付け装置15でシールドテープを、押え巻きテープが巻かれたコア集合体10に添えるだけでシールドテープの巻き方向は、コア電線の撚り方向と同じになる。しかし、それではシールドテープの巻きピッチとコア電線の撚りピッチが同じになる。したがって、第2のテープ巻き付け装置15がシールドテープを押え巻きテープが巻かれたコア集合体に巻き付けるとし、このときに、巻き付けピッチをコア電線の撚りピッチと変える。
この後、ケーブル巻取りリール18に巻き取られたシールドテープが巻かれたコア集合体を再度繰り出して、押出し成形機によりシースが施される。
【0022】
図3は、上述した多心ケーブルの、コア電線2の撚り合せ方向、押え巻きテープ3の巻き付け方向、シールドテープ4の巻き付け方向の組み合わせ形態を示す図である。
図3(A)は、コア電線2の撚り合せ方向を(右)方向、押え巻きテープ3の巻き付け方向を(右)方向、シールドテープ4の巻き付け方向を(右)方向、すなわち、全てを同じ右方向として撚り合せ、テープ巻きした例である。
【0023】
図3(B)は、コア電線2の撚り合せ方向を(右)方向、押え巻きテープ3の巻き付け方向を(左)方向、シールドテープ4の巻き付け方向を(右)方向、すなわち、押え巻きテープ3の巻き付け方向をコア電線2の撚り合せ方向と異ならせた例である。
図3(C)は、コア電線2の撚り合せ方向を(右)方向、押え巻きテープ3の巻き付け方向を(右)方向、シールドテープ4の巻き付け方向を(左)方向、すなわち、シールドテープ4の巻き付け方向をコア電線2の撚り合せ方向と異ならせた例である。
【0024】
図4は、図3のテープ巻方向による伝送信号の周波数と信号減衰量の関係を示す図で、縦軸に減衰量(dB)、横軸に周波数(GHz)で示してある。該減衰量データは、8本のコア電線2を、撚りピッチを250mmで撚り合せ、シールドテープ4は全体の金属部分とPET部分の厚さの合計が0.025mmで、巻きピッチ22mmm、テープ幅の1/4の重なりをもたせて巻き付け、シールドテープ4の巻きピッチに対するコア電線2の撚りピッチの比を11.4とした多心ケーブルによるものである。
なお、コア電線2は、2本の絶縁電線を平行に並べたものである。各絶縁電線は、AWG26の導体を厚さ0.4mmの発泡ポリエチレンテープあるいは厚さ0.5mmのポリエチレンテープで被覆したものである。
【0025】
図4(A)のデータは、図3(A)の押え巻きテープ3、シールドテープ4の巻き付け方向を、コア電線2の撚り合せ方向(右方向)と同じ、右方向としたもので、各コア電線での減衰量はほぼ一致し、コア電線間での減衰特性の差はなく良好であった。
図4(B)のデータは、図3(B)の押え巻きテープ3の巻き付け方向を、コア電線2の撚り合せ方向(右方向)とシールドテープ4の巻き付け方向(右方向)と、反対の左方向としたものである。しかし、この場合も、各コア電線での減衰量はほぼ一致し、コア電線間での減衰特性の差はなく問題はなかった。
【0026】
図4(C)のデータは、図3(C)のシールドテープ4の巻き付け方向を、コア電線2の撚り合せ方向(右方向)と押え巻きテープ3の巻き付け方向(右方向)と、反対の左方向としたものである。この場合は、各コア電線での数心で減衰量のバラツキが生じ、コア電線間での減衰特性に差があり、不合格品とされた。
この他、屈曲試験を行って断線状態を確認したが、上記図3の各例の何れも合格はしたが、図3(A)の形態が最もよかった。
【0027】
また、4本のコア電線(上記の例と同じ)を、撚りピッチを300mmで撚り合せ、シールドテープ4は全体の金属部分とPET部分の厚さの合計が0.025mmで、巻きピッチ24mmm、テープ幅の1/3の重なりをもたせて巻き付け、シールドテープ4のまきピッチに対するコア電線2の撚りピッチの比を12.5とした多心ケーブルについても試験したが、上記と同様な結果が得られた。
【0028】
上記のデータを勘案すると、シールドテープは、複数本のコア電線を集合させる撚り合せ方向と巻き付け方向が同じであれば、高周波伝送において各線の減衰量のバラツキがなく、優れた伝送特性であることが判明した。
【符号の説明】
【0029】
1…多心ケーブル、2…対信号線(コア電線)、2a…信号導体、2b…絶縁体、2c…樹脂テープ、3…押え巻きテープ、4…金属テープ(シールドテープ)、5…シース、10…コア集合体、11…コア電線供給リール、12…目板、13はダイス、14,15…テープ巻き付け装置、16…案内ローラ、17…キャプスタン、18…ケーブル巻取りリール、19…撚線ローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の絶縁電線が平行に並列してなるコア電線を、複数本撚り合せて絶縁テープで押え巻きし、その外側に金属テープを巻き付けてシールド層とした多心ケーブルであって、
前記金属テープは、前記コア電線の撚り合せ方向と同方向に巻き付けられていることを特徴とする多心ケーブル。
【請求項2】
前記金属テープの巻きピッチに対する前記コア電線の撚りピッチの比が10〜14であることを特徴とする請求項1に記載の多心ケーブル。
【請求項3】
前記コア電線の撚りピッチが50mm〜700mmであり、前記金属テープの巻きピッチが3mm〜60mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の多心ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−142070(P2011−142070A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272567(P2010−272567)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】