説明

多打点スポット溶接機

【課題】装置の小型化及び低廉化を図るとともに、比較的短時間の間に、複数の溶接点を連続的に溶接することが可能な多打点スポット溶接機を提供する。
【解決手段】複数の上部電極と、複数の下部電極28と、両電極によって被溶接材料を挟持加圧する加圧装置17と、溶接電源と、加圧装置17及び溶接電源を電気的に接続する下部通電経路とを備える。また、下部通電経路には、下部電極28に夫々別々に接続された複数のブスバー29と、ブスバー29の一端側に夫々配置され、対応するブスバー29に接触する接触位置及び非接触位置の間で変位可能に支持された複数の可動部37と、夫々の可動部37と通電ケーブル38を繋ぐ複数の通電ケーブルと、回転可能な複数のカム51によって複数のブスバー29に対する可動部37の接触状態を順に切り替える通路切替機構40とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多打点スポット溶接機、特に、複数の溶接点に対して連続的に溶接することが可能な多打点スポット溶接機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、スポット溶接機には、被溶接材料を挟むように配置された上部電極及び下部電極と、両電極によって被溶接材料を挟んだ状態で加圧する加圧装置と、両電極の間に溶接電流を流すための溶接電源(交流トランス等)とが備えられている。この装置で行われる溶接は、被溶接材料を圧着しながら電流を流し、そのとき発生するジュール熱で金属を溶かして接合するものであり、自動車のドアパネル等の生産において多用されている。
【0003】
ところで、一般のスポット溶接機では電極が一組しか備えられていないため、この溶接機を用いて多点溶接を行う場合には、被溶接材料を移動させながら、夫々の溶接点を電極に合わせるという位置決め作業が必要となり、作業を高速化することができないばかりか作業者の負担が大きくなっていた。
【0004】
そこで、上部電極及び下部電極を複数組配設し、その間に送り込まれた被溶接材料に、複数組の電極を同時に加圧させながら通電を行うことで、複数の溶接点を同時に溶接する多打点スポット溶接機が実用化されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この種の溶接機によれば、複数組の電極に対して同時に通電する構成を採用しているため、一度に大電流を流す必要があり、ひいては大容量の溶接電源(トランス)や、夫々の電極に対して別々に接続された複数の溶接電源を備えなければならなかった。このため、装置が大掛かりとなるとともに、極めて高価なものとなっていた。
【0006】
なお、複数の溶接点に対し順に溶接を行うことが可能な多打点スポット溶接機も提案されている。具体的には、複数の上部電極及び複数の下部電極を夫々シリンダーのピストンロッドに連結し、溶接する箇所に対応した上部電極及び下部電極のみを被溶接材料に当接させ、溶接電流を生じさせるものである。つまり、複数のシリンダーを順に制御することで、複数の溶接点に順次溶接を行うものである。しかしながら、この溶接機によれば、複数のピストンロッドを順に出没させる必要があるため、一連の溶接時間が助長され、生産性が低下するおそれがあった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の実状に鑑み、装置の小型化及び低廉化を図るとともに、比較的短時間の間に、複数の溶接点を連続的に溶接することが可能な多打点スポット溶接機を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる多打点スポット溶接機は、「被溶接材料の上側に配置された複数の上部電極と、
該複数の上部電極に対向するように前記被溶接材料の下側に配置された複数の下部電極と、
前記複数の上部電極及び前記複数の下部電極によって前記被溶接材料を同時に挟持し加圧する加圧装置と、
前記上部電極及び前記下部電極の一方をプラス側電極とし、両電極の間に溶接電流を流すことが可能な一つの溶接電源と、
前記複数の上部電極及び前記溶接電源を電気的に接続する上部通電経路と、
前記複数の下部電極及び前記溶接電源を電気的に接続する下部通電経路と
を具備し、
前記上部通電経路または前記下部通電経路のうち前記プラス側電極を含む通電経路は、
前記複数のプラス側電極に夫々別々に接続された複数の給電部と、
該複数の給電部の一端側に夫々配置され、対応する前記給電部に接触する接触位置、及び該給電部から離間する非接触位置の間で夫々別々に変位可能に支持されるとともに、付勢手段によって前記非接触位置側に付勢された複数の可動部と、
一端が前記複数の可動部に夫々別々に接続されるとともに、他端が前記溶接電源に接続された複数の通電部と、
モータ、該モータによって回転する回転軸、及び該回転軸に取付けられ該回転軸が回転した際、回転角度に応じて夫々の前記可動部を順に押圧し前記複数の可動部を前記非接触位置側から前記接触位置側に向って順に変位させる複数のカム、を有し、前記複数の給電部に対する前記複数の可動部の接触状態が順に切り替わることで、各溶接点への電流の供給通路が順に切り替えられる通路切替機構と
を備える」ことを特徴とするものである。
【0009】
ここで、「上部電極」及び「下部電極」は、被溶接材料を挟んで対向しており、夫々の個数は互いに同数となっている。また、「加圧装置」としては、特に限定されるものではないが、内部の空気を給排出することで昇降加圧するエアシリンダまたは空気バネを例示することができる。なお、加圧装置は上部電極側に設けるようにしてもよく、下部電極側に設けるようにしてもよい。つまり、下部電極を固定した状態で上部電極を下降させることにより加圧してもよく、逆に、上部電極を固定した状態で下部電極を上昇させることにより加圧してもよい。
【0010】
また、「給電部」としては、所謂ブスバーといわれる銅製の板状部材を例示することができ、「通電部」としては、ケーブルを例示することができる。また「可動部」は、一端側を回動軸として回動(揺動)可能に支持されたものであってもよく、直線上で摺動するように支持されたものであってもよい。また、「付勢手段」は、可動部を非接触位置側に付勢するものであり、例えばコイルばねを用いることが可能である。
【0011】
さらに、「溶接電源」としては、直流を交流に変換する直流インバータ電源と、トランスとを組合わせて構成することができる。これによれば、高品質の溶接が可能になるとともに、チリやスパッタの発生が抑えられ、作業環境を改善することが可能になる。さらに、夫々の溶接における通電時間が短くなるため、一連の加工時間をさらに短縮することが可能になる。
【0012】
本発明の多打点スポット溶接機によれば、互いに対向して配置された複数の上部電極と複数の下部電極との間に、被溶接材料をセットした状態で、加圧装置が作動すると、複数の上部電極及び複数の下部電極によって被溶接材料が同時に挟持され加圧される。その後上部電極に接続された上部通電経路、及び下部電極に接続された下部通電経路がともに導通状態になると、上部電極及び下部電極が溶接電源に対して電気的に接続され、両電極間に溶接電流を流すこと、すなわちジュール熱によって被溶接材料同士を接合させることが可能になる。
【0013】
特に、プラス側電極を含む通電経路には、複数のプラス側電極に夫々別々に接続された複数の給電部と、夫々の給電部の一端側に配置された複数の可動部と、夫々の可動部及び溶接電源を電気的に接続する通電部とが備えられており、夫々の給電部に対する可動部の接触状態が順に切り替わることで、各溶接点への供給通路が順に切り替えられるようになっている。具体的には、複数の可動部は、対応する給電部に接触する接触位置、及び給電部から離間する非接触位置の間で変位可能に支持されており、また、ばね等の付勢手段によって非接触位置側に付勢されている。また、可動部を可動させる機構として、モータと、モータによって回転する回転軸と、回転軸に取付けられた複数のカムとが備えられている。特に、複数のカムは、個々の可動部に対応しており、回転軸が回転した際、回転角度に応じて夫々の可動部を順に押圧するようになっている。夫々の可動部は、カムによって押圧されると、付勢手段の付勢力に抗して非接触位置から接触位置側に向って順に変位し、給電部に対する可動部の接触状態が順に切り替わる。つまり、カムの動作によって各溶接点への電流の供給通路が順に切り替えられる。
【0014】
このように、複数の溶接点に対して順に溶接電流を流すことから、従来の装置に比べ、一度に流す電流が少なくなり、比較的小型である単一の溶接電源のみで多打点の溶接を行うことが可能となる。また、複数のカムによって電流の供給通路を切り替えることから、モータによって回転軸を一回転させるという、極めて短時間の間に、多打点溶接を行うことが可能になる。
【0015】
ところで、本発明の多打点スポット溶接機においては、「前記通路切替機構によって前記供給通路が切り替えられる毎に、所定時間の間、前記溶接電源から全ての前記通電部に電力を供給する電力供給制御手段をさらに具備する」ことができる。
【0016】
本発明の多打点スポット溶接機によれば、溶接電源を制御するための電力供給制御手段が備えられており、供給通路が切り替えられる毎に所定時間の間、全ての通電部に対し電力が供給されるようになっている。つまり、電力供給制御手段は、夫々の可動部の作動状態(すなわち回転軸の回転位置)に基づいて溶接電源の作動を制御しており、夫々の可動部が給電部に接触して通電経路が導通状態になった後、予め設定された所定時間だけ電力の供給を行う。したがって、両電極間に流れる溶接電流の通電時間を常に一定の時間とすることができ、通電時間のばらつきによって生じる品質の低下を抑制することが可能になる。
【0017】
また、本発明の多打点スポット溶接機においては、「前記通路切替機構を備える溶接機本体に対し、前記プラス側電極と前記給電部とを一体的に交換可能とするとともに、前記プラス側電極が各種の被溶接材料の溶接点に合致するように配置された複数種類の治具ユニットを備え、
前記給電部における前記可動部の接触位置は、使用される前記治具ユニットの種類が変わっても異なることのない、共通の位置に設定されている」構成とすることができる。
【0018】
ところで、溶接対象である被溶接材料の種類が変更されると、溶接箇所が異なるため、上部電極及び下部電極の配置を変更する必要がある。そこで、本発明の多打点スポット溶接機では、電極の位置が互いに異なる複数種類の治具ユニットを用意し、その中から被溶接材料に対応した治具ユニットを選択して溶接機本体に取付けるように構成されている。また、治具ユニットには、給電部も配設されており、給電部及び各電極が一体的に交換されるようになっている。ここで、可動部が接触し得る給電部の接触位置(すなわち給電部の一端側の位置)は、使用される治具ユニットの種類が変わっても、常に一定の位置になるように形成されているため、どの種類の治具ユニットがセットされた場合でも、溶接機本体に配設された可動部及びカム等の位置を調整することなく、その治具ユニットに設けられたプラス側電極に対して電力を供給することが可能になる。
【0019】
また、本発明の多打点スポット溶接機において、「前記可動部は、前記カムと前記給電部との間で押圧された際、弾性変形可能となる絶縁部材を積層して構成されている」ものとすることができる。
【0020】
本発明の多打点スポット溶接機によれば、可動部には、比較的大きな力で押圧された際に弾性変形可能なウレタン等の絶縁部材が積層されているため、可動部が給電部に当接した後も可動部の逃げを確保することができ、ひいては、カムを円滑に回転させることができるとともに、給電部と可動部との間に必要最小限の接触時間を確保することが可能になる。また、絶縁部材を積層することにより、譬えカムが導電性の部材から形成された場合でも、可動部からカムに電気が流れることを防止できる。
【発明の効果】
【0021】
このように、本発明によれば、複数の溶接点に対して順に溶接電流が流れるため、比較的小型である単一の溶接電源のみで多打点の溶接を行うことができ、溶接機の小型化及び低廉化が可能である。また、複数のカムによって電流の供給通路を順次切り替えることから、極めて短時間の間に、多打点溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態である多打点スポット溶接機の全体構成を示す斜視図である。
【図2】多打点スポット溶接機における要部の構成を示す拡大斜視図である。
【図3】多打点スポット溶接機の作動原理を模式的に示す模式図である。
【図4】多打点スポット溶接機の機能的構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態である多打点スポット溶接機(以下、単に「溶接機」と称す)について、図1乃至図4に基づき説明する。本例の溶接機1は、複数の溶接点に対して連続的に溶接することが可能なものであり、図1に示すように、架台を構成するメインフレーム3と、メインフレーム3の上段部5に回動可能に取設された上側フレーム8と、メインフレーム3の基部4及び上側フレーム8の間に配設された溶接ユニット9と、溶接ユニット9の後方に配設され上側フレーム8を回動させる上側フレーム駆動機構10とを、具備して構成されている。また、メインフレーム3の下部にはトランス11が配設され、メインフレーム3の天板部6上には、直流を交流に変換してトランス11に印加する直流インバータ電源12と、コントローラ65(図4参照)等を収容する制御盤13とが載置されている。ここで、トランス11及び直流インバータ12を組合わせたものが本発明の溶接電源に相当する。
【0024】
まず、溶接ユニット9の構成について詳細に説明する。溶接ユニット9は、基部4上にベース板7を介して配設された加圧装置17と、加圧装置17の上面の昇降板18に対して着脱可能に取付けられた下側治具ユニット20と、上側フレーム8の下面に着脱可能に取付けらた上側治具ユニット21と、下側治具ユニット20に対して電力を供給する下側通電部22(図2参照)と、上側治具ユニット21に対して電気的に接続される上側通電部23(図3参照)とを備えている。図2に示すように、加圧装置17は、空気バネ16を備えており、内部に空気が供給されることで下側治具ユニット20を上昇させ、一方、内部の空気を排出することで下側治具ユニット20を下降させるようになっている。なお、図示していないが、本例では加圧速度を速くするため、増圧機及び増圧タンクが設けられている。ここで、下側治具ユニット20が本発明の治具ユニットに相当する。
【0025】
下側治具ユニット20は、溶接対象である被溶接材料W(図3参照)の種類、すなわち溶接箇所に応じて互いに異なるように複数種類のものが用意されており、複数種類の下側治具ユニット20の中から被溶接材料Wに対応した下側治具ユニット20が選択され、昇降板18に取付けられるようになっている。なお、これらの下側治具ユニット20は後述する下部電極28等の配置が異なるだけであり、基本的な構成は互いに同一となっている。すなわち、図2及び図3に示すように、いずれの下側治具ユニット20も、略長方形の治具基板25と、治具基板25上に配置され被溶接材料Wを固定状態で支持する複数のワーク支持部26と、下側治具ユニット20に対して被溶接材料Wを位置決めするワーク位置決め部27と、被溶接材料Wの各溶接点に対応して配置された複数個(本例では6個)の下部電極28と、複数の下部電極28に夫々別々に接続された複数本のブスバー29とを備えて構成されている。ここで、ブスバー29とは銅製の板状部材であり、本発明の給電部に相当している。なお、ブスバー29は下部電極28に接続されているため、異なる種類の下側治具ユニット20において下部電極28の配置が互いに異なる場合には、ブスバー29の配置も同様に異なることとなる。ただし、ブスバー29の一端側、すなわち可動部37(後述する)が接触する側の端面位置は、下側治具ユニット20の種類が異なっても、変わることのない、共通の位置に設定されている。
【0026】
一方、上側治具ユニット21においても、複数種類のものが用意されており、これらの上側治具ユニット21の中から被溶接材料Wに対応した上側治具ユニット21が選択され、上側フレーム8の下面に取付けられるようになっている。図1及び図3に示すように、上側治具ユニット21は、上側フレーム8に対して着脱可能に取付けられる治具基板30と、各下部電極28に対向するように緩衝器34を介して配設された複数の上部電極31と、夫々の上部電極31に夫々別々に接続された複数本の第一ブスバー32と、全ての第一ブスバー32に対して電気的に接続された第二ブスバー33とを備えて構成されている。なお、第二ブスバー33の一端側、すなわちコンタクトガン53(後述する)が接触する側の端部の位置は、上側治具ユニット21の種類が異なっても、変わることのない、共通の位置に設定されている。ここで、第一ブスバー32、第二ブスバー33、及びコンタクトガン53を組合わせたものが本発明の上部通電経路に相当する。
【0027】
図2及び図3に示すように、下側通電部22は、夫々のブスバー29の一端側に対して選択的に電力を供給するためのものであり、変位可能に支持された複数の可動部37と、通電ケーブル38と、可動部37を順に変位させることで各溶接点への電流の供給通路を順に切り替える通路切替機構40とを備えている。ここで、ブスバー29、可動部37、及び通電ケーブル38を組合わせたものが本発明の下部通電経路に相当する。
【0028】
さらに詳しく説明すると、複数の可動部37は、夫々のブスバー29に対応するように支持台47に支持されており、ブスバー29の一端側に接触する接触位置、及びブスバー29の一端側から離間する非接触位置の間で夫々別々に変位させることが可能となっている。具体的には、図3に示すように、可動部37は、その下部に設けられた回動軸41を中心として前後方向(図3においては左右方向)に揺動するように支持されており、さらに付勢用ばね39によって非接触位置側に付勢されている。また、可動部37は、ブスバー29の一端側に向って突出した当接突起42を有する通電層43と、ウレタン等の絶縁部材からなりブスバー29と後述するカム51との間で押圧された際に弾性変形する絶縁層44と、カム51の外周面に摺接する摺接層45とから構成されたサイドイッチ構造となっている。ここで、付勢用ばね39が本発明の付勢手段に相当する。
【0029】
通電ケーブル38は、一端が複数の可動部37(特に通電層43)に夫々別々に接続されるとともに、他端がトランス11のプラス極に接続されており、トランス11から供給される電力が通電ケーブル38を介して可動部37に送られるようになっている。なお、前述したように、可動部37には絶縁層44が介在されており、通電層43に通電された電力が摺接層45を通してカム51に流れることが防止されるようになっている。ここで、通電ケーブル38が本発明の通電部に相当し、絶縁層44が本発明の絶縁部材に相当する。
【0030】
図2及び図3に示すように、通路切替機構40は、支持台47に取付けられており、一定方向に回転するサーボモータ48と、サーボモータ48に連結された回転軸49と、回転軸49の両端を回転可能に支持する一対の軸受50と、回転軸49に取付けられ回転軸49とともに回転する複数のカム51とを備えて構成されている。特に複数のカム51は、回転軸49が一回転した際、回転角度に応じて夫々の可動部37を順に押圧し、複数の可動部37を非接触位置側から接触位置側に向って順に変位させることが可能となっている。つまり、図3に示すようにカム51は側面視が略楕円形状を呈するとともに、回転軸49に対し偏芯して取付けられ、さらに夫々のカム51の向きが互いに所定角度ずつ周方向に異なるように設定されることにより、複数の可動部37を順番に押圧させることを可能にしている。そして、押圧された可動部37が接触位置に変位し、当接突起42がブスバー29の一端側に接触すると、可動部37とブスバー29とが電気的に導通した状態となり、トランス11から供給される電力を通電ケーブル38及び可動部37を通してブスバー29及び下部電極28に送られるようになっている。
【0031】
一方、上側通電部23は、図3に示すように、第二ブスバー33の一端側に接触することで第二ブスバー33をトランス11のマイナス極に導通させることが可能になるコンタクトガン53と、コンタクトガン53を前後方向(図3では左右方向)に可動させる上側接点用シリンダ54とを備えて構成されている。
【0032】
次に、上側フレーム8及びその作動機構について説明する。図1及び図3に示すように、上側フレーム8における下面後側の左右両端付近には、ヒンジ56が垂設されており、メインフレーム3の上段部5に配設された一対の支持金具57によって回動可能に支持されている。つまり、上側フレーム8は上限である開放位置と、下限である閉鎖位置との間で変位するように支持されている。そして、支持金具57を支点として上側フレーム8を開放位置まで回動させた状態(図1に示す状態)では、上側治具ユニット21が斜め上方に持ち上げられ、下側治具ユニット20と上側治具ユニット21との間に被溶接材料Wをセットすることが可能になる。一方、上側フレーム8を閉鎖位置まで回動させた状態では、図3に示すように上側フレーム8が水平状態となり、下部電極28と上部電極31とによって被溶接材料Wを挟持することが可能になる。
【0033】
上側フレーム駆動機構10は、上側フレーム8の後側にヒンジ接続された開閉用シリンダ59を備えており、開閉用シリンダ59のピストンロッドを伸長させることにより上側フレーム8を下向きに回動させ、一方、ピストンロッドを没入させることにより、上側フレーム8を上向きに回動させることが可能になっている。なお、開閉用シリンダ59の代わりにモータを用いることも可能であり、この場合には、モータの回転方向を切替えることにより、上側フレーム8を開閉することが可能になり、さらには任意の位置で停止させることも可能となり、利便性を一層高めることができる。
【0034】
また、本例では、上側フレーム8を開放位置及び閉鎖位置で保持することが可能な二組のロック機構部61を備えている。このため、上側フレーム8が自重によって自然に降下することを防止できるとともに、加圧装置17による加圧時に上側フレーム8が逃げてしまうことを防止することが可能になる。なお、本例のロック機構部61には、ロック用シリンダ60が備えられており、内部への給排気を制御することによりロック状態と解除状態とが任意に切り替えられるようになっている。
【0035】
続いて、溶接機1に備えられた制御装置について簡単に説明する。図4に示すように、溶接機1は、コントローラ65を備えている。コントローラ65は、演算及び制御を行う中央情報処理装置(CPU)と、読み出し専用メモリ(ROM)及びランダムアクセスメモリ(RAM)からなる補助記憶装置とを備えており、予め入力されたプログラムに従って、各機構部に指令を出力するようになっている。コントローラ65には、溶接条件を入力したり溶接の開始や停止を指示したりするための操作部66と、エンコーダ(図示しない)を含む各種センサ67とが接続されており、操作部66及び各種センサ67等の入力に基づいて制御されるようになっている。
【0036】
また、コントローラ65の出力側には、設定値や運転状況等を表示する表示器68と、通路切替機構40におけるサーボモータ48を制御し、回転軸49を所定の速度で一回転させるモータ駆動部69と、直流を交流に変換してトランス11に印加する直流インバータ電源12とが接続されている。また、コントローラ65は、本発明の電力供給制御手段として機能しており、通路切替機構40によって電力の供給通路が切り替えられる毎(例えば0.5秒毎)に、所定時間の間(例えば0.2秒間)、トランス11から全ての通電ケーブル38に対して電力を供給するように直流インバータ電源12を制御している。なお、電力供給制御手段は、通路切替機構40の動作に連動するように、サーボモータ48のエンコーダの出力によって認識される回転軸49の回転位置に基づいて直流インバータ電源12を制御している。
【0037】
また、コントローラ65の出力側には、上側接点用シリンダ54、開閉用シリンダ59、ロック用シリンダ60、及び空気バネ16への空気の給排出を切替えるための4つの電磁弁71,72,73、74も接続されている。
【0038】
続いて、溶接機1における被溶接材料Wの溶接方法について説明する。まず、加工対象である被溶接材料Wに対応した下側治具ユニット20及び上側治具ユニット21が選択され、下側治具ユニット20は昇降板18に装着され、上側治具ユニット21は上側フレーム8に装着される。なお、この作業は、上側フレーム8を閉鎖位置にした状態で行われ、下側治具ユニット20及び上側治具ユニット21が前方から差し込まれるように、昇降板18と上側フレーム8との間に挿入される。
【0039】
その後、開閉用シリンダ59の動作によって上側フレーム8を上昇させる。これにより、上側フレーム8は開放位置となり、下側治具ユニット20に対して被溶接材料Wをセットすることが可能になる。
【0040】
次に、運転ボタン(図示しない)が操作されると、上側フレーム8を下降させて閉鎖位置でロックさせるとともに、加圧装置17の空気バネ16に空気が供給され、昇降板18を上昇させる。すると、被溶接材料Wは、下部電極28及び上部電極31によって挟持される上下から加圧された状態となる。
【0041】
その後の溶接処理では、上側接点用シリンダ54を動作させ、コンタクトガン53を第二ブスバー33に接触させる。これにより、図4に示すように、コンタクトガン53、第一ブスバー32、及び第二ブスバー33を介して、上部電極31がトランス11のマイナス極に接続された状態となる。
【0042】
また、サーボモータ48によって回転軸49を基準位置から一回転させるとともに、直流インバータ電源12を制御することによってトランス11から電力を供給する。回転軸49には、複数の可動部37に夫々対応する複数のカム51が取付けられているため、夫々の可動部37は、カム51によって押圧され接触位置側に変位する。この状態では、図4に示すように、可動部37がブスバー29に接触することで、通電ケーブル38、可動部37、及びブスバー29を介して、下部電極28がトランス11のプラス極に接続された状態となる。
【0043】
したがってこの状態で、トランス11から電力が供給されると、下部電極28及び上部電極31の間の被溶接材料Wに溶接電流が流れ、ひいてはジュール熱によって被溶接材料W同士を接合させることが可能になる。
【0044】
特に、本例では、複数の可動部37を夫々対応するカム51によって順に変位させているため、複数のブスバー29に対する複数の可動部37の接触状態が順に切り替わることとなり、各溶接点に対して順に溶接電流が流れる。なお、本例では、トランス11から通電ケーブル38に供給される電力はコントローラ65によって制御され、夫々の可動部37がブスバー29に接触してから所定時間(例えば0.2秒)のみとなっているため、下部電極28及び上部電極31間に流れる溶接電流の通電時間は常に一定の時間となる。
【0045】
溶接処理の終了後、閉鎖位置での上側フレーム8のロック状態を解除するとともに、開閉用シリンダ59によって上側フレーム8を上昇させ、被溶接材料Wの取出しを可能にする。
【0046】
このように、本実施形態の溶接機1によれば、複数の溶接点に対して順に溶接電流が流がれるため、比較的小型である単一のトランス11のみで多打点の溶接を行うことができ、溶接機1の小型化及び低廉化が可能になる。また、複数のカム51によって電流の供給通路を順次切り替えることから、極めて短時間の間に、多打点溶接を行うことができる。
【0047】
また、本実施形態の溶接機1によれば、供給通路が切り替えられる毎に所定時間の間、全ての通電ケーブル38に対し電力が供給されるようになっているため、下部電極28及び上部電極31間に流れる溶接電流の通電時間を常に一定の時間とすることが可能となり、通電時間のばらつきによって生じる品質の低下を抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態の溶接機1によれば、直流インバータ電源12を採用することにより、高品質の溶接が可能になるとともに、チリやスパッタの発生を抑え、作業環境を改善することができる。さらに、夫々の溶接における通電時間が短くなるため、一連の加工時間をさらに短縮することができる。
【0049】
また、本実施形態の溶接機1によれば、可動部37が接触し得るブスバー29の接触位置は、使用される下側治具ユニット20の種類が変わっても、常に一定の位置になるように形成されているため、どの種類の下側治具ユニット20がセットされた場合でも、溶接機本体に配設された可動部37及びカム51等の位置を調整することなく、その下側治具ユニット20に設けられた下部電極28に対して電力を供給することが可能になる。
【0050】
また、本実施形態の溶接機1によれば、可動部37には弾性変形可能な絶縁層44が設けられているため、通電層43がブスバー29に当接した後も摺接層45の逃げを確保することが可能になり、ひいては、カム51を円滑に回転させることができるとともに、ブスバー29と通電層43との間に必要最小限の接触時間を確保することができる。また、絶縁層44を設けることにより、可動部37からカム51に電気が流れることを防止できる。
【0051】
また、本実施形態の溶接機1によれば、上側フレーム8の開閉機構として、後側が軸支された回動式の構成を採用したことにより、鉛直方向に沿って可動するものに比べ、速やかに開放させることが可能になるとともに、溶接機1の正面側で作業を行う作業者にとって、下側治具ユニット20が視認しやすくなり、ひいては被溶接材料Wの取付け及び取外しを容易に行わせることができる。
【0052】
さらに、本実施形態の溶接機1によれば、加圧装置17として空気バネ16を用いることにより、取付けスペースを小さくすることができ、しかも比較的大きな力(加圧力)を得ることできる。なお、加圧装置17を下側治具ユニット20側に配置し、上方に向って加圧するように構成したことにより、上側フレーム8の軽量化及び小型化が可能になり、上側フレーム8を比較的小さな力で容易に回動させることが可能になる。
【0053】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0054】
すなわち、上記実施形態では、下部電極28をプラス側電極とし、下部電極28から上部電極31に向って溶接電流を流すものを示したが、上部電極31をプラス側電極とし、上部電極31から下部電極28に向って溶接電流を流すように構成してもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、電流の供給通路を切替えるための可動部37及び通路切替機構40を、プラス側電極である下部電極28に対してのみ設けるものを示したが、マイナス側電極である上部電極31に対しても同様に設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 溶接機(多打点スポット溶接機)
11 トランス(溶接電源)
12 直流インバータ電源(溶接電源)
17 加圧装置
20 下側治具ユニット(治具ユニット)
28 下部電極(プラス側電極)
29 ブスバー(給電部,下部通電経路)
31 上部電極
32 第一ブスバー(上部通電経路)
33 第二ブスバー(上部通電経路)
37 可動部(下部通電経路)
38 通電ケーブル(通電部,下部通電経路)
39 付勢用ばね(付勢手段)
40 通路切替機構
44 絶縁層(絶縁部材)
48 サーボモータ(モータ)
49 回転軸
51 カム
53 コンタクトガン(上部通電経路)
65 コントローラ(電力供給制御手段)
W 被溶接材料
【先行技術文献】
【特許文献】
【0057】
【特許文献1】特開平9−10958号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接材料の上側に配置された複数の上部電極と、
該複数の上部電極に対向するように前記被溶接材料の下側に配置された複数の下部電極と、
前記複数の上部電極及び前記複数の下部電極によって前記被溶接材料を同時に挟持し加圧する加圧装置と、
前記上部電極及び前記下部電極の一方をプラス側電極とし、両電極の間に溶接電流を流すことが可能な一つの溶接電源と、
前記複数の上部電極及び前記溶接電源を電気的に接続する上部通電経路と、
前記複数の下部電極及び前記溶接電源を電気的に接続する下部通電経路と
を具備し、
前記上部通電経路または前記下部通電経路のうち前記プラス側電極を含む通電経路は、
前記複数のプラス側電極に夫々別々に接続された複数の給電部と、
該複数の給電部の一端側に夫々配置され、対応する前記給電部に接触する接触位置、及び該給電部から離間する非接触位置の間で夫々別々に変位可能に支持されるとともに、付勢手段によって前記非接触位置側に付勢された複数の可動部と、
一端が前記複数の可動部に夫々別々に接続されるとともに、他端が前記溶接電源に接続された複数の通電部と、
モータ、該モータによって回転する回転軸、及び該回転軸に取付けられ該回転軸が回転した際、回転角度に応じて夫々の前記可動部を順に押圧し前記複数の可動部を前記非接触位置側から前記接触位置側に向って順に変位させる複数のカム、を有し、前記複数の給電部に対する前記複数の可動部の接触状態が順に切り替わることで、各溶接点への電流の供給通路が順に切り替えられる通路切替機構と
を備えることを特徴とする多打点スポット溶接機。
【請求項2】
前記通路切替機構によって前記供給通路が切り替えられる毎に、所定時間の間、前記溶接電源から全ての前記通電部に電力を供給する電力供給制御手段をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の多打点スポット溶接機。
【請求項3】
前記通路切替機構を備える溶接機本体に対し、前記プラス側電極と前記給電部とを一体的に交換可能とするとともに、前記プラス側電極が各種の被溶接材料の溶接点に合致するように配置された複数種類の治具ユニットを備え、
前記給電部における前記可動部の接触位置は、使用される前記治具ユニットの種類が変わっても異なることのない、共通の位置に設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多打点スポット溶接機。
【請求項4】
前記可動部は、前記カムと前記給電部との間で押圧された際、弾性変形可能となる絶縁部材を積層して構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の多打点スポット溶接機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−247191(P2010−247191A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99732(P2009−99732)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(309011701)TEG株式会社 (1)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】