説明

多方向入力装置

【課題】所要の操作量を確保しつつ薄型化が容易に促進でき、例えば2段階の傾動操作が薄型化を犠牲にせずに実現できる多方向入力装置を提供すること。
【解決手段】操作体4の駆動板部41の外周縁から突出する各第2接点部42と、操作体4を包囲するように基台1に外装された枠状の固定接点体5の各第3接点部52とが係合して、操作体4の上動が規制されるようになっている。駆動板部41を可動接点体3の弾性片32の付勢力に抗して傾動させると、操作体4の径方向一端側で係合する第2および第3接点部42,52が傾動支点となり、径方向他端側で駆動板部41が第1接点部31に接触するため、第1接点部31や導電性の操作体4や反転ばね2等を介して、傾動支点に位置する第3接点部52と導通部11とが導通される。この状態で駆動板部41をさらに傾動させると、反転ばね2が反転して中央固定接点12を第3接点部52と導通させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器のリモコンや携帯電話機などに使用して好適な多方向入力装置に係り、特に、操作体の傾動角度に応じて異なる2種類の信号が得られるように構成された多方向入力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の多方向入力装置の従来例として、軸部の周囲に鍔部を有して該鍔部に可動接点が設けられた操作体(操作部材)と、可動接点と接離可能に対向する固定接点を有して操作体の鍔部を覆うように配置された支持板と、基台上に載置されて操作体の軸部を搭載しているドーム状の反転ばねとを備え、反転ばねの付勢力で鍔部の内周部を支持板の当接部に弾接させることによって操作体を傾動操作可能に支持するという構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかる従来の多方向入力装置は、当接部に当接している鍔部の内周部を傾動支点として操作体を所定角度傾動させると、鍔部の外周部に存する可動接点が上方の固定接点に接触して第1のオン信号が出力されるようになっている。この傾動操作時に可動接点と接触する固定接点は傾動操作方向に応じて異なるため、第1のオン信号に基づいて、操作体がどの方向へ傾動操作されたのかを判定することができる。また、この状態でさらに同方向へ傾動操作すると、固定接点に当接している可動接点を傾動支点として操作体が傾動するため、鍔部の内周部は当接部から離れ、軸部が反転ばねを強く押し込んで反転させる。反転ばねの下方には基台に配設された中央固定接点が存するため、反転ばねが反転するとクリック感が生起されると共に、反転ばねと中央固定接点とが接触して第2のオン信号が出力されるようになっている。このように操作体の傾動角度に応じて異なる2種類の信号が得られるように構成されている多方向入力装置にあっては、例えばスクロール画面の移動速度をノーマルスピードまたはハイスピードに随時切り替える等の調整が簡単に行えるようになる。
【特許文献1】特開2002−304929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来の多方向入力装置では、傾動操作時にまず、操作体をその鍔部の内周部を傾動支点として傾動させなければならないため、誤作動を防止するうえで必要な所要の操作量を確保すると操作体が大きく傾動してしまい、それゆえ鍔部の傾動スペースの高さ寸法が増大して装置の薄型化が図りにくいという問題があった。なお、可動接点を固定接点に接触させるまでに必要な操作体の傾動角度を小さく設定して装置の薄型化を図ることは可能であるが、その場合、僅かな操作量で第1のオン信号が出力されることになるため、意図せず操作体に触れただけで簡単に誤作動してしまう等の不具合が起こりやすくなり、使い勝手が非常に悪くなる。
【0005】
また、前述した従来例にあっては、可動接点を固定接点に接触させた状態でさらに傾動操作すると、反転ばねが反転して第2のオン信号が出力されるようになっているため、操作体の鍔部の傾動スペースとして十分な高さ寸法を確保する必要がある。したがって、かかる従来構成で2段階の傾動操作を実現しようとすると、装置の薄型化を促進することは一層困難となる。
【0006】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、所要の操作量を確保しつつ薄型化が容易に促進でき、例えば2段階の傾動操作が薄型化を犠牲にせずに実現できる多方向入力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の多方向入力装置は、内底面を露出させた絶縁性の基台と、前記内底面に配設された導通部と、前記内底面上に載置されて前記導通部と常時導通される導電性の弾性復帰部材と、この弾性復帰部材と常時導通される周方向に所定間隔を存して設けられた複数の第1接点部を有して該弾性復帰部材上に傾動可能に搭載された可動接点体と、前記第1接点部と接離可能に対向する駆動板部および該駆動板部の外周縁の複数箇所から突出する第2接点部を有し、前記可動接点体上に搭載されて傾動操作が可能な導電性の操作体と、前記各第2接点部が個別に係脱可能な複数の第3接点部を有して前記操作体を包囲するように前記基台に外装された枠状の固定接点体とを備え、前記可動接点体に前記駆動板部を上方へ弾性付勢する複数の弾性片を放射状に設けると共に、前記操作体の上動が前記第2および第3接点部どうしの係合によって規制されるようになし、かつ、傾動操作時に前記操作体の径方向一端側で前記第2および第3接点部が傾動支点となると共、径方向他端側で前記駆動板部が前記第1接点部と接触するようになし、これら第1接点部と前記弾性復帰部材および前記操作体を介して、傾動支点に位置する前記第3接点部と前記導通部とが導通されるよう構成した。
【0008】
このように構成された多方向入力装置では、操作体の駆動板部の外周縁から突出する各第2接点部と、操作体を包囲するように基台に外装された枠状の固定接点体の各第3接点部とが係合して、操作体の上動が規制されるようになっており、駆動板部を可動接点体の弾性片の付勢力に抗して所定角度傾動させると、この駆動板部が第1接点部に接触して、導電性の弾性復帰部材および操作体が第1接点部等を介して導通された状態となる。かかる傾動操作時には、操作体の径方向一端側で係合する第2および第3接点部が傾動支点となるため、操作体の径方向他端側を、誤作動を防止するうえで必要な所要の操作量が確保できる程度に下動させても、駆動板部の傾動角度は比較的小さく抑えることができ、よって装置の薄型化が容易に促進できる。また、かかる傾動操作によって、傾動支点に位置する第3接点部と基台の内底面に配設された導通部とが、操作体や第1接点部および弾性復帰部材等を介して導通された状態となるため、所定のオン信号を出力させることができる。
【0009】
上記の構成において、枠状の固定接点体が隣り合う第3接点部どうしを電気的に絶縁させつつ機械的に連結する絶縁性の連結部を有しており、この連結部と第3接点部とが周方向に沿って交互に配設されていると、組立時に各第3接点部が基台に対し位置決めしやすくなって固定接点体の取り扱い性が向上するため好ましい。この場合において、固定接点体の連結部の内壁面の近傍に可動接点体の弾性片の先端部を配置させ、この連結部によって可動接点体の径方向への移動が規制されるようにしてあると、より好ましい。
【0010】
また、上記の構成において、可動接点体が各弾性片の先端部に絶縁性の当接部を付設しており、この当接部を駆動板部の裏面に弾接させていると、傾動操作されていないときに当接部の厚みを利用して駆動板部と第1接点部とを確実に離隔させておくことができる。しかも、傾動操作時には駆動板部が当接部を介して弾性片を押し撓めることになり、駆動板部と各弾性片は常に非接触な状態に保たれるため、第1接点部や各弾性片を連続した1枚の金属板に分散して形成することができて可動接点体の部品コストが抑えやすくなる。
【0011】
また、上記の構成において、基台の外壁部に複数の第2接点部が個別に配置される複数の切欠き部を設け、この切欠き部上に固定接点体の第3接点部を配置させると、操作体や固定接点体の外径寸法を基台と略同等に抑えることができるため装置の小型化に有利である。
【0012】
また、上記の構成において、可動接点体の弾性片は基端側が幅広な先窄まり形状に形成されていることが好ましく、こうすることにより、弾性片の先端側が撓みやすくなると共に、弾性変形に伴う応力が分散できるため弾性片の長寿命化が図れる。
【0013】
また、上記の構成において、弾性復帰部材が反転ばねであり、この反転ばねの外周部を基台の内底面に配設された導通部上に搭載すると共に、可動接点体の中央部底面に第1接点部から導出された常閉接点部を設け、この常閉接点部を反転ばねに当接させた状態で該反転ばねの中央部上に可動接点体を搭載しておけば、反転ばねを介して第1接点部と導通部とを安定的に導通させておくことができる。
【0014】
また、上記の構成において、基台の内底面で反転ばねと接離可能に対向する領域に、導通部とは導通されていない中央固定接点を設け、可動接点体を介して反転ばねを反転させることによって該反転ばねが中央固定接点と接触するようにしてあると、例えば、傾動操作によって駆動板部を第1接点部に接触させた後、さらなる傾動操作で反転ばねを反転させることによって導通部と中央固定接点とを導通させることができるため、操作体の傾動角度に応じて異なる2種類のオン信号が得られるようになる。この場合において、可動接点体の弾性片は反転ばねよりも撓みやすく形成してあることが好ましく、こうすることにより、傾動操作時にはまず、弾性片の付勢力に抗して駆動板部が第1接点部に当接して操作体と可動接点体とが一体化された状態となり、この状態でさらに傾動操作すれば、操作力が反転ばねに直接作用するため該反転ばねを確実に反転させることができる。つまり、かかる2段階の傾動操作を行う際に、1段階目の傾動操作時には比較的小さな操作力で弾性片を押し撓めることができ、かつ2段階目の傾動操作時には、より大きな操作力で反転ばねを反転させて明瞭なクリック感を得ることができるため、ユーザはこれら2種類の傾動操作を明確に区別することができる。
【0015】
また、上記の構成において、操作体の中央部に貫通孔を設けると共に、可動接点体の中央部に該貫通孔から露出する押圧駆動部を設け、この押圧駆動部をプッシュ操作することにより、可動接点体が反転ばねを反転させて該反転ばねが中央固定接点に接触するようにしてあると、操作体を傾動させるという多方向への傾動操作に加えて、操作体を傾動させずに可動接点体を直接押し込むというプッシュ操作が行なえることになるため、小型薄型化を犠牲にすることなく多機能な入力装置が実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多方向入力装置は、操作体の駆動板部を可動接点体の弾性片の付勢力に抗して所定角度傾動させることによって、この駆動板部を第1接点部に接触させるというものであるが、かかる傾動操作時には操作体の径方向一端側で係合する第2および第3接点部が傾動支点となるため、操作体の径方向他端側を、誤作動を防止するうえで必要な所要の操作量が確保できる程度に下動させても、駆動板部の傾動角度は比較的小さく抑えることができる。そのため、装置の薄型化を容易に促進できる。また、かかる傾動操作によって、傾動支点に位置する第3接点部と基台の内底面に配設された導通部とが、操作体や第1接点部および弾性復帰部材等を介して導通された状態となるため、所定のオン信号を出力させることができる。
【0017】
また、弾性復帰部材として用いた反転ばねが反転すると中央固定接点に接触するように構成されている本発明の多方向入力装置では、傾動操作によって駆動板部を第1接点部に接触させた後、さらなる傾動操作で反転ばねを反転させることによって導通部と中央固定接点とを導通させることができるため、装置の薄型化を犠牲にすることなく2段階の傾動操作が行えることになり、実用的価値が高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
発明の実施の形態を図面を用いて説明すると、図1は本発明の実施形態例に係る多方向入力装置の上面図、図2は該入力装置の側面図、図3は該入力装置の分解斜視図、図4は図1のA−A線に沿う断面図、図5は図1のB−B線に沿う断面図、図6は該入力装置の1段階目の傾動操作時の断面図、図7は該入力装置の2段階目の傾動操作時の断面図、図8は該入力装置の傾動操作時の操作力と操作量の関係を示す特性図、図9は該入力装置のプッシュ操作時の断面図である。
【0019】
これらの図に示す多方向入力装置は、内底面1aを露出させた絶縁性の基台1と、この内底面1aに配設された導通部11および中央固定接点12と、基台1の外方へ突設された端子13,14と、内底面1a上に載置されたドーム状の反転ばね2と、第1接点部31や弾性片32や当接部33等を有して反転ばね2上に傾動可能に搭載された可動接点体3と、当接部33上に搭載された駆動板部41の周囲に第2接点部42を有する導電性金属板からなり傾動操作が可能な操作体4と、連結部51と第3接点部52を交互に配設してなり操作体4を包囲するように基台1に外装された枠状の固定接点体5とによって主に構成されている。そして、この多方向入力装置は、操作体4を等間隔な4方向へ傾動させて傾動方向や傾動角度の大小に応じたオン信号を出力させるという傾動操作と、可動接点体3の中央部を押下してオン信号を出力させるというプッシュ操作とが行なえるようになっている。
【0020】
図3に示すように、基台1の内底面1aの外周部には一対の導通部11が配設されており、これら導通部11上に反転ばね2の外周部が搭載される。また、内底面1aの中央部には中央固定接点12が配設されており、この中央固定接点12を覆うように反転ばね2のドーム形状部2aが配置される。導通部11と中央固定接点12は非導通状態に保たれており、両導通部11から導出された端子13と中央固定接点12から導出された端子14が、それぞれ基台1の外方に突設されている。また、基台1の外壁部には等間隔な4箇所に凸部1bが突設されており、各凸部1bに隣接する両側部分が切欠き部1cとなっている。これら計8箇所の切欠き部1c内にはそれぞれ、操作体4の外周縁部に設けられたフック状の第2接点部42が配置されている。また、隣り合う切欠き部1cとの間は切欠かれた状態で連なった連結壁部1dとなっており、その連結壁部1dの外側に連結部51が配置されている。なお、導通部11や中央固定接点12や端子13,14等は、インサート成形によって基台1に一体化されている。
【0021】
反転ばね2は弾性に富む導電性金属板を所定形状にフォーミングして形成されており、そのドーム形状部2aは弾性的な反転時(座屈変形時)にクリック感を生起する。反転ばね2の外周部は一対の導通部11上に搭載されているため該導通部11と常時導通されており、ドーム形状部2aは中央固定接点12と接離可能に対向している。また、反転ばね2のドーム形状部2a上には、可動接点体3の支柱部34が搭載されており、この支柱部34はドーム形状部2aによって上方へ弾性付勢されている。なお、反転ばね2はドーム状で外周縁が連続するものに限らず、導通部11と接触し、クリック感を生起するものであれば、外周縁が不連続の形状のものであってもよい。
【0022】
可動接点体3は、比較的弾性に富む1枚の導電性金属板の周方向に所定間隔を存して各部に形成された第1接点部31や常閉接点部35および弾性片32と、インサート成形によって該金属板に一体化された絶縁性樹脂からなる当接部33および支柱部34とによって概略構成されている。弾性片32は支柱部34の周囲の等間隔な4箇所から放射状に突設されており、隣り合う弾性片32の基端部どうしの間にそれぞれ第1接点部31が配設されている。各弾性片32の先端部には当接部33が付設されており、各当接部33が支持部材である弾性片32の付勢力によって駆動板部41の裏面に弾接している。また、各弾性片32は基端側が幅広な先窄まり形状に形成されているため先端側が特に撓みやすく、当接部33を介して弾性片32を押し撓める際に要求される操作力は、反転ばね2を押し撓める際に要求される操作力に比して十分に小さい。常閉接点部35は第1接点部31から導出されて支柱部34の底面に配設されており、支柱部34が反転ばね2のドーム形状部2a上に搭載されるため、常閉接点部35は該ドーム形状部2aに圧接された状態に保たれる。なお、常閉接点部35と反転ばね2とが導通すればよいため、当接された状態で常閉接点部35が保持されてもよい。支柱部34の上端部にはプッシュ操作用の押圧駆動部34aが円環状に形成されており、この押圧駆動部34aは押圧可能に操作体4の貫通孔43から露出している。本実施形態例では、操作体4の貫通孔43に遊挿されて上方へ突出している。
【0023】
操作体4は導電性金属板に打ち抜き加工や曲げ加工を施して形成されたものである。この操作体4は、中央部に貫通孔43を有する略正方形な平板状の駆動板部41と、駆動板部41の外周縁の各辺から2個ずつフック状(鉤状)に突出している第2接点部42とからなる。この第2接点部42を詳述すると、駆動板部41の外周縁から下方へ向かう下方部42aとその下方部42aの下端から外方へ向かう水平先端部42bとを有するL字状とから成っている。貫通孔43には可動接点体3の押圧駆動部34aが遊挿されている。駆動板部41の裏面の四隅にはそれぞれ可動接点体3の当接部33が弾接しており、これら当接部33と反転ばね2の付勢力によって操作体4は上方へ弾性付勢されている。駆動板部41の各辺から下方および外方へ突出している第2接点部42は、それぞれ、基台1の対応する切欠き部1c内に上下動可能に配置されているが、並設されている2個の第2接点部42(水平先端部42b)が共通の第3接点部52に当接して上動が規制されるようになっている。すなわち、駆動板部41の四辺の外側にはそれぞれ固定接点体5の第3接点部52が配置されており、各第3接点部52は基台1の凸部1b上からその両側の切欠き部1c上まで延びて2個の第2接点部42の各先端部が掛止できるようになっているため、上方へ弾性付勢される操作体4の全ての第2接点部42の上動を固定接点体5の4個の第3接点部52によって規制することができる。しかも、操作体4は切欠き部1cの側壁、すなわち凸部1bの側壁によって径方向への移動も規制されているため、この操作体4は脱落する虞がなくガタも発生しにくい。また、図6と図7に示すように、操作体4を傾動操作したときには、傾動操作方向に応じて相異なる第2接点部42が対応する第3接点部52に掛止されて傾動支点となり、残余の第2接点部42は下動して対応する第3接点部52から離れるようになっている。
【0024】
固定接点体5は、駆動板部41の各辺に沿って配置される4片の第3接点部52を、絶縁性樹脂からなる4個の連結部51で連結した枠状体であり、基台1の外周縁に沿って設置されている。連結部51は、隣り合う第3接点部52どうしを電気的に絶縁させつつ機械的に連結している。この連結部51は平面視台形状であり、その両斜辺は図1に示すように第3接点部52の辺と直交するようになっている。また、各連結部51の内壁面の近傍には、その内壁面の形状に沿った凹形状の可動接点体3の各当接部33が配置されており、これら連結部51の内壁面と各当接部33の外壁面とによって可動接点体3の径方向への移動が規制されている。第3接点部52は基台1の凸部1bによって位置決めされており、この第3接点部52の内側へ折曲されている上端部分は、駆動板部41の同一辺に並設されている2個の第2接点部42を掛止してその上動を規制できるようになっている。また、第3接点部52の外側へ折曲されている下端部分は、この多方向入力装置が実装される配線基板10の図示せぬランドに半田付けされる端子部となっている。
【0025】
次に、このように構成された多方向入力装置の動作について説明する。図4と図5に示すように、非操作時には、反転ばね2のドーム形状部2aと可動接点体3の各弾性片32が操作体4の駆動板部41を上方へ弾性付勢して、操作体4の各第2接点部42を上方に存する第3接点部52に弾接させているため、操作体4は水平姿勢で安定的に保持されている。この状態で、可動接点体3は4個の当接部33が駆動板部41の裏面の四隅に当接しているため、これら当接部33の厚みによって各第1接点部31と駆動板部41との間にはクリアランスが確保されている。そのため、反転ばね2を介して導通部11と導通されている各第1接点部31と、操作体4および各第3接点部52との間の導通は遮断されている。
【0026】
かかる非操作状態でユーザが駆動板部41の一辺近傍を下動させる傾動操作を行うと、操作体4は径方向一端側で係合している第2および第3接点部42,52を支点として傾動するため、径方向他端側で駆動板部41が弾性片32を押し撓めながら第1接点部31に接近していく。そして、操作体4を第1の傾動角度まで傾動させた時点で、図6に示すように、操作体4の下動している側で駆動板部41が第1接点部31と接触する。その結果、第1接点部31や反転ばね2や操作体4等を介して、傾動支点に位置する第3接点部52と導通部11とが導通されるため、この1段階目の傾動操作によって、操作体4の傾動操作方向に応じた第1のオン信号を出力させることができる。なお、この後、傾動操作力が取り除かれると、弾性片32の弾性復帰力によって駆動板部41が元の水平姿勢へ押し戻されるため、図4と図5に示す非操作状態へ自動復帰する。
【0027】
また、図6に示す状態で操作体4の傾動角度を増大させるさらなる傾動操作が行なわれた場合には、駆動板部41が第1接点部31に当接しているため弾性片32がさらに押し撓められることはなく、可動接点体3が操作体4と一体的に傾動するようになり、傾動角度の増大に伴い支柱部34が反転ばね2のドーム形状部2aを押し込んでいく。そして、操作体4を第1の傾動角度よりも大きい第2の傾動角度まで傾動させた時点で、図7に示すように、ドーム形状部2aが反転(座屈変形)して中央固定接点12に接触するため、傾動支点に位置する第3接点部52と中央固定接点12とが反転ばね2等を介して導通されることになり、この2段階目の傾動操作によって第2のオン信号を出力させることができる。また、反転ばね2は反転時にクリック感を生起するため、ユーザは2段階目の傾動操作が確実に行なわれたことをクリック感によって明瞭に感得することができる。なお、後述するようにプッシュ操作時にも反転ばね2を反転させることによって導通部11と中央固定接点12とを導通させるが、本実施形態例では、図示せぬ外部の判定回路によって、導通部11が第3接点部52と導通されているときに中央固定接点12と導通されても、プッシュ操作用のオン信号は無効と判定(キャンセル)されるようになっている。また、反転ばね2を反転させた後に傾動操作力が取り除かれると、反転ばね2の弾性復帰力によって可動接点体3および操作体4が押し上げられると共に、弾性片32が駆動板部41を元の水平姿勢へ押し戻すため、図4と図5に示す非操作状態へ自動復帰する。
【0028】
このように操作体4の傾動角度に応じて異なる2種類の信号が得られるように構成されている多方向入力装置にあっては、例えばスクロール画面の移動速度をノーマルスピードまたはハイスピードに随時切り替える等の調整が簡単に行えるようになる。
【0029】
また、本実施形態例に係る多方向入力装置では、図8に示すように、傾動操作を開始してから反転ばね2が反転する直前まで、操作力の大きさに応じて操作量が滑らかに増大するように設定してあるため、反転ばね2が反転時に生起するクリック感を極めて明瞭に感得することができる。それゆえ、1段階目の傾動操作と2段階目の傾動操作とが明確に区別できるようになっている。すなわち、傾動操作を開始するとまず駆動板部41が弾性片32を押し撓めていくが、弾性片32は反転ばね2に比して十分に撓みやすく形成されているため、駆動板部41が第1接点部31に当接するまでの傾動操作中に反転ばね2に生じる撓みは僅かであり、よって1段階目の傾動操作時には例えば0.4Nの軽い操作力で第1のオン信号を出力させることができる。一方、2段階目の傾動操作は駆動板部41を第1接点部31に当接させたまま行なわれるため、弾性片32をさらに押し撓める操作力は要求されず、操作力と操作量の相関関係は反転ばね2のばね特性に依存したものとなり、例えば1.5Nの操作力を加えると反転ばね2が反転してクリック感が生起される。したがって、0.4N以上で1.5N未満の操作力を加えると第1のオン信号を出力してオーバーストローク状態となり、1.5N以上の操作力を加えるとクリック感が生起されて第2のオン信号を出力するようになっている。
【0030】
なお、ユーザが駆動板部41の隅部を下動させる傾動操作を行なった場合には、傾動操作方向が駆動板部41の略対角線方向となるため、固定接点体5の隣り合う2片の第3接点部52が共に傾動支点となって導通部11と導通される。したがって、この場合も、出力されるオン信号に基づいて傾動操作方向を判定することは可能であり、よって傾動操作方向を8方向に設定することも可能である。
【0031】
また、非操作状態でユーザが可動接点体3の押圧駆動部34aを真下へ押し込んでプッシュ操作したときには、支柱部34が反転ばね2のドーム形状部2aを押し下げていくのに伴い、当接部33を介して駆動板部41を支えている弾性片32の撓みが減少していき、弾性片32の撓みがほぼ解消された後に操作体4が可動接点体3と一体的に下動していく。そして、支柱部34がドーム形状部2aを反転(座屈変形)させた時点でクリック感が生起されると共に、図9に示すように、ドーム形状部2aが中央固定接点12に接触するため、反転ばね2を介して中央固定接点12と導通部11とが導通されたことによるオン信号が出力される。この状態で操作体4の駆動板部41は当接部33によって第1接点部31から離隔されており、かつ第2接点部42は下動して第3接点部52から離隔しているため、第3接点部52と導通部11との間の導通路は完全に遮断されている。したがって、前述した判定回路はプッシュ操作用のオン信号を有効と判定する。また、ユーザはプッシュ操作が確実に行なわれたことをクリック感によって明瞭に感得することができる。なお、この後、プッシュ操作力が取り除かれると、反転ばね2の弾性復帰力によって可動接点体3および操作体4が押し上げられるため、図4と図5に示す非操作状態へ自動復帰する。
【0032】
以上説明したように本実施形態例に係る多方向入力装置は、操作体4の駆動板部41の外周縁からフック状に突出する各第2接点部42と、操作体4を包囲するように基台1に外装された枠状の固定接点体5の各第3接点部52とが係合して、操作体4の上動が規制されるようになっており、駆動板部41を可動接点体3の弾性片32の付勢力に抗して所定角度傾動させると、この駆動板部41が第1接点部31に接触して、導電性の操作体4および反転ばね2が第1接点部31等を介して導通された状態となる。かかる傾動操作時には、操作体4の径方向一端側で係合する第2および第3接点部42,52が傾動支点となるため、操作体4の径方向他端側を、誤作動を防止するうえで必要な所要の操作量が確保できる程度に下動させても、図6に示すように駆動板部41の傾動角度は比較的小さく抑えることができ、よって装置の薄型化が容易に促進できる。また、かかる傾動操作によって、傾動支点に位置する第3接点部52と基台1の内底面1aに配設された導通部11とが、操作体11や第1接点部31や反転ばね2等を介して導通された状態となるため、傾動操作方向に応じた所定のオン信号を出力させることができる。
【0033】
また、この多方向入力装置は、傾動操作によって駆動板部41を第1接点部31に接触させた後、さらなる傾動操作で反転ばね2を反転させることによって導通部11と中央固定接点12とを導通させることができるため、操作体4の傾動角度に応じて異なる2種類のオン信号が得られるようになっている。そして、可動接点体3の弾性片32が反転ばね2よりも撓みやすく形成してあるため、傾動操作時にはまず、弾性片32の付勢力に抗して駆動板部41が第1接点部31に当接して操作体4と可動接点体3とが一体化された状態となり、この状態でさらに傾動操作すれば、操作力が反転ばね2に直接作用するため該反転ばね2を確実に反転させることができる。つまり、かかる2段階の傾動操作を行う際に、1段階目の傾動操作時には比較的小さな操作力で弾性片32を押し撓めることができ、かつ2段階目の傾動操作時にはより大きな操作力で反転ばね2を反転させて明瞭なクリック感を得ることができるため、ユーザはこれら2種類の傾動操作を明確に区別することができて良好な操作性を期待できる。
【0034】
なお、本実施形態例において、可動接点体3の弾性片32は基端側が幅広な先窄まり形状に形成されているため、弾性片32の先端側が撓みやすくなっていると共に、弾性変形に伴う応力が分散しやすい形状であることから、弾性片32はへたりにくく長寿命化が期待できる。また、この弾性片32の先端部に付設した絶縁性の当接部33を駆動板部41の裏面に弾接させているため、傾動操作されていないときに当接部33の厚みを利用して駆動板部41と第1接点部31とを確実に離隔させておくことができる。しかも、傾動操作時には駆動板部41が当接部33を介して弾性片32を押し撓めることになり、駆動板部41と各弾性片32は常に非接触な状態に保たれるため、第1接点部31や各弾性片32を連続した1枚の金属板に分散して形成することができ、可動接点体3の部品コストを抑えやすくなっている。
【0035】
また、この多方向入力装置では、枠状の固定接点体5が隣り合う第3接点部52どうしを電気的に絶縁させつつ機械的に連結する絶縁性の連結部51を有しており、この連結部51と第3接点部52とが周方向に沿って交互に配設されているため、組立時に各第3接点部52が基台1に対し位置決めしやすくなって固定接点体5の取り扱い性が良好である。しかも、固定接点体5の連結部51の内壁面の近傍に可動接点体3の弾性片32の先端部(当接部33)を配置させ、この連結部51によって可動接点体3の径方向への移動が規制されるようにしてあるため、可動接点体3の偏心が効果的に防止されている。
【0036】
また、この多方向入力装置では、基台1の外壁部に各第2接点部42が個別に配置される複数の切欠き部1cを設け、この切欠き部1c上に固定接点体5の第3接点部52を配置させているため、操作体4や固定接点体5の外径寸法を基台1と略同等に抑えることができ、装置の小型化が図りやすくなっている。
【0037】
また、この多方向入力装置では、可動接点体3の押圧駆動部34aをプッシュ操作することによって、支柱部34が反転ばね2を反転させて該反転ばね2が中央固定接点12に接触するように構成してあるため、操作体4を傾動させるという多方向への2段階の傾動操作に加えて、操作体4を傾動させずに可動接点体3を直接押し込むというプッシュ操作が行なえ、小型薄型でありながら多機能な入力装置となっている。ただし、プッシュ操作が不要な多方向入力装置であっても本発明を適用できることは言うまでもない。
【0038】
また、この多方向入力装置では、操作体4の駆動板部41の各辺にそれぞれ第2接点部42を2個ずつ設け、これら2個の第2接点部42が基台1の各辺に沿って延びる第3接点部52に掛止されるようにしてあるため、所望の傾動操作方向に対して実際の操作方向が若干ずれた場合にも、操作方向の逆側に存する幅広な第3接点部52を確実に傾動支点となすことができて誤作動しにくくなっている。それゆえ、この多方向入力装置は、4方向への傾動操作を行なう際の使い勝手が極めて良好である。ただし、駆動板部41の各辺に第2接点部42を1個ずつ設けるという構成も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態例に係る多方向入力装置の上面図である。
【図2】該入力装置の側面図である。
【図3】該入力装置の分解斜視図である。
【図4】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図5】図1のB−B線に沿う断面図である。
【図6】該入力装置の1段階目の傾動操作時の断面図である。
【図7】該入力装置の2段階目の傾動操作時の断面図である。
【図8】該入力装置の傾動操作時の操作力と操作量の関係を示す特性図である。
【図9】該入力装置のプッシュ操作時の断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 基台
1a 内底面
1c 切欠き部
2 反転ばね
2a ドーム形状部
3 可動接点体
4 操作体
5 固定接点体
11 導通部
12 中央固定接点
31 第1接点部
32 弾性片
33 当接部
34 支柱部
34a 押圧駆動部
35 常閉接点部
41 駆動板部
42 第2接点部
43 貫通孔
51 連結部
52 第3接点部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内底面を露出させた絶縁性の基台と、前記内底面に配設された導通部と、前記内底面上に載置されて前記導通部と常時導通される導電性の弾性復帰部材と、この弾性復帰部材と常時導通される周方向に所定間隔を存して設けられた複数の第1接点部を有して該弾性復帰部材上に傾動可能に搭載された可動接点体と、前記第1接点部と接離可能に対向する駆動板部および該駆動板部の外周縁の複数箇所から突出する第2接点部を有し、前記可動接点体上に搭載されて傾動操作が可能な導電性の操作体と、前記各第2接点部が個別に係脱可能な複数の第3接点部を有して前記操作体を包囲するように前記基台に外装された枠状の固定接点体とを備え、
前記可動接点体に前記駆動板部を上方へ弾性付勢する複数の弾性片を放射状に設けると共に、前記操作体の上動が前記第2および第3接点部どうしの係合によって規制されるようになし、かつ、傾動操作時に前記操作体の径方向一端側で前記第2および第3接点部が傾動支点となると共、径方向他端側で前記駆動板部が前記第1接点部と接触するようになし、これら第1接点部と前記弾性復帰部材および前記操作体を介して、傾動支点に位置する前記第3接点部と前記導通部とが導通されるようにしたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記固定接点体が隣り合う前記第3接点部どうしを電気的に絶縁させつつ機械的に連結する絶縁性の連結部を有しており、この連結部と前記第3接点部とが周方向に沿って交互に配設されていることを特徴とする多方向入力装置。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記連結部の内壁面の近傍に前記弾性片の先端部を配置させ、この連結部によって前記可動接点体の径方向への移動が規制されるようにしたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項の記載において、前記可動接点体が前記各弾性片の先端部に絶縁性の当接部を付設しており、この当接部を前記駆動板部の裏面に弾接させていることを特徴とする多方向入力装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項の記載において、前記基台の外壁部に前記各第2接点部が個別に配置される複数の切欠き部を設け、この切欠き部上に前記固定接点体の前記第3接点部を配置させたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項の記載において、前記弾性片は基端側が幅広な先窄まり形状に形成されていることを特徴とする多方向入力装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項の記載において、前記弾性復帰部材が反転ばねであり、この反転ばねの外周部を前記導通部上に搭載すると共に、前記可動接点体の中央部底面に前記第1接点部から導出された常閉接点部を設け、この常閉接点部を前記反転ばねに当接させた状態で該反転ばねの中央部上に前記可動接点体を搭載したことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項8】
請求項7の記載において、前記基台の内底面で前記反転ばねと接離可能に対向する領域に、前記導通部とは導通されていない中央固定接点を設け、前記可動接点体を介して前記反転ばねを反転させることによって該反転ばねが前記中央固定接点と接触するようにしたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項9】
請求項8の記載において、前記弾性片が前記反転ばねよりも撓みやすく形成してあることを特徴とする多方向入力装置。
【請求項10】
請求項8または9の記載において、前記操作体の中央部に貫通孔を設けると共に、前記可動接点体の中央部に前記貫通孔から露出する押圧駆動部を設け、この押圧駆動部をプッシュ操作することにより、前記可動接点体が前記反転ばねを反転させて該反転ばねが前記中央固定接点に接触するようにしたことを特徴とする多方向入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−80331(P2010−80331A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248874(P2008−248874)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】