説明

多段式プレス装置

【課題】複数種のプレス型を多段に有し、前記プレス型を切り換えてプレス加工する多段式プレス装置において、フットプリント及び高さ方向の省スペース化を実現し、且つコストを低減する。
【解決手段】第一のプレス型2と第二のプレス型3とが上下に隣り合う配置となされた支持フレーム10と、前記支持フレーム10内に昇降自在に設けられると共に、前記第一のプレス型2と第二のプレス型3との間に介設され、前記第一のプレス型2の下型Bが上面側に、前記第二のプレス型3の上型Cが下面側に配置されたベース部材15と、前記ベース部材15を昇降移動させる昇降駆動手段25,26とを備え、前記昇降駆動手段25,26が前記ベース部材15を上昇移動または下降移動させることにより、前記第一のプレス型2と第二のプレス型3のいずれかにおいてプレス成形処理がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ドア等の車種によって異なるワークのプレス型を複数有し、前記プレス型を切り換えてプレス加工する多段式プレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のドアを製造する場合、アウターパネルとインナーパネルとを重ね合わせ、プレス加工してヘミング結合することにより一体形成される。このプレス加工にあっては、各パネルに対応する一対の上型と下型とからなるプレス型が用いられる。前記プレス型は、車種によって形状が異なり、型毎にプレス装置を設けると、スペースを要する上、コストが嵩張るという問題があった。
【0003】
このため、異なるプレス型を入れ換えることにより、複数種のプレス型を1機のプレス装置で使用可能な多段式プレス装置が提案されている。例えば、図5に示すように特許文献1に開示される多段式プレス装置は、4品種のドアのヘミング結合に対応するものである。図示するように、プレス機50の下方には、一対の上型51と下型52とからなる(2種の)プレス型53、54が上下2段に重ねられ、型ユニット55を構成している。また、その型ユニット55は、別途設けられた(2種の)プレス型56,57が上下2段に重ねられてなる型ユニット58と容易に入れ換え可能となされている。
【0004】
前記プレス機50は油圧ユニット60を有し、この油圧ユニット60は油圧シリンダ61を駆動し、ラム62を上型51と共に上下動させることによってプレス処理を行うようになされている。
ここで、上方のプレス型53を用いてプレス加工を行う場合、図示するように、プレス型53を一体に連結するための連結部材63を連結解除し、ラム62を上下動させることにより実現される。
一方、下方のプレス型54を用いてプレス加工を行う場合、図6に示すように、プレス型53を連結部材により一体に連結すると共にプレス型54の連結部材54を連結解除し、ラム62を上下動させることにより実現される。
【特許文献1】特開平6−277771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示のプレス装置のように、複数のプレス型を多段に配置することにより、複数種のプレス型に対応可能な上、フットプリントを小さくすることができる。
しかしながら、特許文献1に開示された多段式プレス装置にあっては、油圧シリンダ61がラム62の上方に突出する上、油圧シリンダを駆動する油圧ユニットをラム62より上方のアッパベース上に配置する必要があるため、高さが嵩張り天井方向のスペースが圧迫されるという課題があった。
【0006】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、複数種のプレス型を多段に有し、前記プレス型を切り換えてプレス加工する多段式プレス装置において、フットプリント及び高さ方向の省スペース化を実現し、且つコストを低減することのできる多段式プレス装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明に係る多段式プレス装置は、一対の上型と下型とをそれぞれ有する第一のプレス型と第二のプレス型とを少なくとも具備し、各プレス型の上型と下型とを押し合わせることによりプレス成形処理を行う多段式プレス装置であって、前記プレス型を段状に支持し、前記第一のプレス型と第二のプレス型とが上下に隣り合う配置となされた支持フレームと、前記支持フレーム内に昇降自在に設けられると共に、前記第一のプレス型と第二のプレス型との間に介設され、前記第一のプレス型の下型が上面側に、前記第二のプレス型の上型が下面側に配置されたベース部材と、前記ベース部材を昇降移動させる昇降駆動手段とを備え、前記昇降駆動手段が前記ベース部材を上昇移動または下降移動させることにより、前記第一のプレス型と第二のプレス型のいずれかにおいてプレス成形処理がなされることに特徴を有する。
【0008】
尚、前記昇降駆動手段により昇降移動する前記ベース部材の移動方向に位置する前記第一のプレス型の上型または前記第二のプレス型の下型は、前記フレーム内において固定配置されることが望ましい。
また、前記フレームは、該フレームの高さ方向に沿って歯切り面が形成されたラック部材を有し、前記昇降駆動手段は、前記ラック部材と噛み合うピニオンと、前記ピニオンを回転駆動させる駆動部とを有し、前記昇降駆動手段は前記ベース部材に設けられ、前記駆動部が前記ピニオンを所定方向に回転駆動することにより、前記ベース部材が前記フレーム内を昇降移動することが望ましい。また、前記駆動手段の駆動部はサーボモータであることが好ましい。
【0009】
このように高さ位置が固定された支持フレーム内において、ベース部材を昇降移動させることにより第一のプレス型と第二のプレス型のいずれかを用いたプレス成形処理を行うことができる。このとき、ベース部材を昇降移動させると共にプレス荷重の駆動源となる昇降駆動手段は、ベース部材に一体化させることでラックピニオン式に昇降移動させることができる。
したがって、従来の油圧シリンダのようなスペースを必要とせず、高さ方向及びフットプリントの省スペース化を実現することができる。さらに、それに伴い設備費のコスト低減という効果も得ることができる。
また、サーボモータを用いることにより、低音、低振動、低電力といった効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数種のプレス型を多段に有し、前記プレス型を切り換えてプレス加工する多段式プレス装置において、フットプリント及び高さ方向の省スペース化を実現し、且つコストを低減することのできる多段式プレス装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る多段式プレス装置の実施の形態について図面に基づき説明する。図1は本発明に係る多段式プレス装置の正面図である。
この多段式プレス装置1は、支持フレーム10内において複数種のプレス型を多段に支持する。本実施形態においては、第一のプレス型2と第二のプレス型3の2種のプレス型が上下に隣り合う配置とされ、段状に支持される。プレス型2は一対の上型Aと下型Bとからなり、プレス型3は一対の上型Cと下型Dとからなる。
支持フレーム10は、天板11及び底板12と、それらを左右両側でそれぞれ繋ぐ支柱13、14とを有する。また、図示しないが、支持フレーム10の補強のため、その他補強部材を設けてもよい。
【0012】
図示するように前記プレス型2の上型Aは天板11の下面側に固定され、プレス型3の下型Dは底板12の上面側に固定される。
また、フレーム10内を昇降移動自在に設けられた板状の昇降ベース15(ベース部材)を備え、この昇降ベース15の上面側にプレス型2の下型Bが固定され、下面側にプレス型3の上型Cが固定されている。
また、フレーム10内において、支柱13、14の近傍には、それら支柱と並行して例えば円柱棒状のガイドロッド18、19が設けられている。昇降ベース15には前記ガイドロッド18,19が挿通され、固定されたガイドロッド18,19に対し、上下に摺動自在となされている。
【0013】
尚、昇降ベース15の安定した昇降動作を実現するために、昇降ベース15に固定された下型Bの左右両側には、ガイドロッド18,19の所定長さ分をそれぞれ摺接する状態で覆うガイドパイプ21が設けられ、上型Cの左右両側には、同様にガイドパイプ22が設けられている。
また、天板11に固定された上型Aの左右両側には、ガイドロッド18,19の所定長さ分を覆うパイプ状のストッパ部材23が設けられ、底板12に固定された下型Dの左右両側には、同様にストッパ部材24が設けられている。
【0014】
そして、昇降ベース15が上昇移動され、ガイドロッド18,19に沿って摺動するガイドパイプ21の上端がストッパ部材23の下端に当接して停止すると、プレス型2における上型Aと下型Bとのプレス状態が完了するようになされている。
一方、昇降ベース15が下降し、ガイドロッド18,19に沿って摺動するガイドパイプ22の下端がストッパ部材24の上端に当接して停止すると、プレス型3における上型Cと下型Dとのプレス状態が完了するようになされている。
【0015】
また、前記昇降ベース15の昇降移動の駆動源として、その左右両端に昇降駆動部(昇降駆動手段)25,26が設けられ、これら昇降駆動部25,26の作用により昇降ベース15が支柱13、14に沿ってフレーム10内を昇降移動するようになされている。
より具体的に説明すると、昇降駆動部25、26はそれぞれ、サーボモータ27(駆動部)と、このサーボモータ27の回転数を検出するエンコーダ28とを備え、エンコーダ28の検出結果は、昇降ベース15の昇降制御を行う制御部30に出力される。
即ち、プレス成型のための位置制御及び、昇降ベース15の平衡状態を維持するために2機のサーボモータ27の回転駆動が制御部30によりフィードバック制御される。
【0016】
さらに図2のサーボモータ27の周辺拡大図に基づき説明すると、昇降ベース15の左右両側には、サーボモータ27を固定すると共に、支柱13(14)に沿って摺動自在に係合するブラケット29が設けられている。また支柱13(14)の一面は、歯切りされたラック面13a(14a)が形成され、そのラック面13a(14a)に、サーボモータ27のピニオン軸27aに設けられたピニオン27bが?み合うようになされている。
即ち、支柱13、14は、ラック部材として機能し、所謂ラックピニオン式により昇降ベース15は支柱13、14に沿って昇降移動する。また、昇降駆動部25、26は、昇降ベース15を昇降移動させることによって、プレス荷重の駆動源として機能する。
【0017】
したがって、サーボモータ27のピニオン軸27aが(軸周りに)いずれかの方向に回転駆動され、そのピニオン27bが支柱13(14)のラック面13a(14a)に噛み合うことによって、サーボモータ27と一体となされた昇降ベース15(即ち下型B、上型C)が昇降移動し、プレス成形がなされる。
【0018】
このような構成の多段式プレス装置1によりプレス型2を用いたプレス処理を行う場合、例えば図1に示すように上型Aと下型Bとを分離した状態でワークをセット後、制御部30の制御により昇降ベース15を上昇移動させる。
そして、ガイドロッド18,19に沿って摺動するガイドパイプ21の上端がストッパ部材23の下端に当接して停止すると、図3に示すようにプレス型2における上型Aと下型Bとのプレス状態が完了するようになされている。
【0019】
一方、プレス型3を用いたプレス処理を行う場合、同様に上型Aと下型Bとを分離した状態でワークをセット後、制御部30の制御により昇降ベース15を下降移動させる。
そして、ガイドロッド18,19に沿って摺動するガイドパイプ22の下端がストッパ部材24の上端に当接して停止すると、図4に示すようにプレス型3における上型Cと下型Dとのプレス状態が完了するようになされている。
【0020】
以上のように、本実施の形態によれば、高さ位置が固定された支持フレーム10内において、昇降ベース15を昇降移動させることによりプレス型2とプレス型3のいずれかを用いたプレス成形処理を行うことができる。このとき、昇降ベース15を昇降移動させると共にプレス荷重の駆動源となる昇降駆動部25,26は、サーボモータ27を用いるため、昇降ベース15に一体化させることでラックピニオン式に昇降移動させることができる。
したがって、従来の油圧シリンダのようなスペースを必要とせず、高さ方向及びフットプリントの省スペース化を実現することができる。さらに、それに伴い設備費のコスト低減という効果も得ることができる。
また、サーボモータを用いることにより、低音、低振動、低電力といった効果を得ることができる。
【0021】
尚、前記実施の形態においては、支持フレーム内において、異なる2種類のプレス型のみを段状に支持した例を示したが、本発明にあっては、それに限定されず、フレーム内に複数種のプレス型を三段以上配置する構成にも適用することができる。その場合、多段に配置され、上下に隣り合うプレス型の間に、それぞれ昇降ベース15と同様のベース部材を介設し、各ベース部材において、その上面側に上方のプレス型の下型を配置し、下面側に下方のプレス型の上型を配置するようにすればよい。
そして、プレス成形のために昇降移動させるベース部材の移動方向に位置するプレス型の上型または下型が、他のベース部材に配置されたものである場合、そのベース部材を固定配置することにより、十分にプレス圧を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明に係る多段式プレス装置の正面図である。
【図2】図2は、図1の多段式プレス装置が備えるサーボモータの周辺拡大図である。
【図3】図3は、図1の多段式プレス装置において、上方のプレス型のプレス成型が完了した状態を示す図である。
【図4】図4は、図1の多段式プレス装置において、下方のプレス型のプレス成型が完了した状態を示す図である。
【図5】図5は、従来の多段式プレス装置を説明するための図である。
【図6】図6は、従来の多段式プレス装置を説明するための他の図である。
【符号の説明】
【0023】
1 多段式プレス装置
2 プレス型
3 プレス型
10 支持フレーム
13 支柱(ラック部材)
13a ラック面
14 支柱(ラック部材)
14a ラック面
15 昇降ベース(ベース部材)
18 ガイドロッド
19 ガイドロッド
21 ガイドパイプ
22 ガイドパイプ
25 昇降駆動部(昇降駆動手段)
26 昇降駆動部(昇降駆動手段)
27 サーボモータ
27b ピニオン
28 エンコーダ
30 制御部
A 上型
B 下型
C 上型
D 下型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の上型と下型とをそれぞれ有する第一のプレス型と第二のプレス型とを少なくとも具備し、各プレス型の上型と下型とを押し合わせることによりプレス成形処理を行う多段式プレス装置であって、
前記プレス型を段状に支持し、前記第一のプレス型と第二のプレス型とが上下に隣り合う配置となされた支持フレームと、
前記支持フレーム内に昇降自在に設けられると共に、前記第一のプレス型と第二のプレス型との間に介設され、前記第一のプレス型の下型が上面側に、前記第二のプレス型の上型が下面側に配置されたベース部材と、
前記ベース部材を昇降移動させる昇降駆動手段とを備え、
前記昇降駆動手段が前記ベース部材を上昇移動または下降移動させることにより、前記第一のプレス型と第二のプレス型のいずれかにおいてプレス成形処理がなされることを特徴とする多段式プレス装置。
【請求項2】
前記昇降駆動手段により昇降移動する前記ベース部材の移動方向に位置する前記第一のプレス型の上型または前記第二のプレス型の下型は、前記フレーム内において固定配置されることを特徴とする請求項1に記載された多段式プレス装置。
【請求項3】
前記フレームは、該フレームの高さ方向に沿って歯切り面が形成されたラック部材を有し、
前記昇降駆動手段は、前記ラック部材と噛み合うピニオンと、前記ピニオンを回転駆動させる駆動部とを有し、
前記昇降駆動手段は前記ベース部材に設けられ、前記駆動部が前記ピニオンを所定方向に回転駆動することにより、前記ベース部材が前記フレーム内を昇降移動することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された多段式プレス装置。
【請求項4】
前記駆動手段の駆動部はサーボモータであることを特徴とする請求項3に記載された多段式プレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−149154(P2010−149154A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330519(P2008−330519)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】