多発性硬化症を診断するための方法
【課題】MSを診断するための客観的に評価されたマーカーを使用する方法およびMSを被った患者における発作の発症を予測する方法を提供すること。
【解決手段】多発性硬化症を診断するための方法を開示し、より詳細には、生物学的サンプル中のグリカンに対する抗体のレベルを測定することによる多発性硬化症を診断するための方法を開示する。被験体からの試験サンプル中の抗体のレベルと多発性硬化症症状を有し、かつ公知の多発性硬化症状態を有する1以上の個体および多発性硬化症症状を示さない1以上の個体からなる群から選択したコントロールサンプルから検出した抗体のレベルとを比較することにより、被験体の多発性硬化症を診断する方法を開示する。好ましくは、抗体は、抗マルトースIgMである。特定の実施形態において、一連の種々のグリカンに対する抗体のレベルは、炭水化物−チップによって、測定される。
【解決手段】多発性硬化症を診断するための方法を開示し、より詳細には、生物学的サンプル中のグリカンに対する抗体のレベルを測定することによる多発性硬化症を診断するための方法を開示する。被験体からの試験サンプル中の抗体のレベルと多発性硬化症症状を有し、かつ公知の多発性硬化症状態を有する1以上の個体および多発性硬化症症状を示さない1以上の個体からなる群から選択したコントロールサンプルから検出した抗体のレベルとを比較することにより、被験体の多発性硬化症を診断する方法を開示する。好ましくは、抗体は、抗マルトースIgMである。特定の実施形態において、一連の種々のグリカンに対する抗体のレベルは、炭水化物−チップによって、測定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に、多発性硬化症を診断する方法に関連し、より詳細には、生物学的サンプル中のグリカンに対する抗体のレベルを測定することによって多発性硬化症を診断する方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の慢性自己免疫疾患である。多発性硬化症は、若年成体の持続性障害の一般的な原因である。MSを被った患者において、免疫系は脳および脊髄の軸索のミエリン鞘(myelin sheet)を破壊し、それにより種々の神経学的病理を引き起こす。MSの最も一般的な形態、再発−寛解型では、神経機能の急性悪化(悪化、発作)の発症後、疾患の進行のない(安定な)部分的または完全な回復期(回復)が続く。MS患者の90%は、視神経、脳幹または脊髄における炎症性脱髄性損傷による臨床的に分離された症候群を始めに示す。臨床的に分離された症候群を有するそれらの患者の約30%は、症状後12ヶ月以内に臨床的に明確なMSへと進行する。疾患の後の進行は、患者によって顕著に変動し得る。その進行は、良性の経過から標準的な再発−寛解型、慢性進行性またはまれに劇症性に及び得る。
【0003】
臨床的に明確なMSの初期の検出を容易にするMS診断の方法は、疾患を管理するためおよび患者に助言を提供するための両方において有用である。例えば、臨床的に明確なMSを有する初期であると診断された患者は、初期MSにおいて有益であることが最近示された疾患を緩和する処置を提供し得る。
【0004】
MSの進行を評価し、追跡する現在の方法は、発作における患者の機能および発作の間に蓄積した障害の評価および点数化に基づく。MSを評価するために使用される1つの評価は、一般的に使用される拡大障害状態尺度(Expanded Disability
Status Scale:EDSS)である。しかし、EDSSは、患者の機能の主観的な評価に基づいている。
【0005】
診断のための方法はまた、磁気共鳴映像法(MRI)による、またはオリゴクローナルバンド(OCB)について脳脊髄液(CSF)を試験することによる脳損傷の追跡を含み得る。MRIは、脳損傷の評価のための物理的な方法であって、かつ日常的に使用するには費用がかかる。さらに、MRIの結果と疾患活性との関係は、不十分である。脳脊髄の穿刺は、日常的に使用するには適さない不快な侵襲性手順である。さらに、両方の方法とも障害が生じた後しか障害を評価できない;両方の方法とも発作の発症を予測し得ない。MSを診断するための方法としてのCSFにおけるOCBおよびMRIに対する試験でのさらなる不都合は、ネガティブなOCBまたはMRIがMSの存在を除外しないことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MSを診断するための客観的に評価されたマーカーを使用する方法に対する必要性およびMSを被った患者における発作の発症を予測することに対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、健常な個体のIgG、IgA、IgMの自己抗体の血清レベルと比較して、MS患者の、グリカン構造Glc(α)またはGlc(α1−4)Glc(α)またはGlc(α1−4)Glc(β)に結合するこれらの自己抗体の血清レベルが増加するという発見に一部基づく。さらに、これらのグリカン構造に特異的な同一の自己抗体は、悪化状態の間に、回復期の患者および健常な個体において観察されるレベルと比較して増加される。雌性におけるIgM抗Glc(α)抗体血清レベルと臨床的に診断された(再発−寛解型)MS患者と女性のEDSS(拡大障害状態尺度)スコアとの間で高い相関もまた観察されている。この高い相関は、血清中のIgM抗αグルコースのレベルが、疾患の活性に関して臨床代理終点マーカーとして、および臨床試験における薬物化合物の有効性を追跡する方法として作用し得ることを示す。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
被験体の多発性硬化症を診断する方法であって、ここで該方法は以下、
被験体から試験サンプルを提供する工程;
抗Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(β)抗体、抗Glc(β)抗体、抗Gal(β)抗体;抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体、抗−GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)抗体、抗L−Araf(α)抗体、抗L−Rha(α)抗体、抗Gal(β1−3)[GlcNAc(β1−6)]GalNAc(α)抗体、抗Gal(β1−4)GlcNAc(α)抗体、抗Gal(β1−3)GalNAc(α)抗体、抗Gal(β1−3)GlcNAc(β)抗体、抗GlcA(β)抗体、抗GlcA(β)抗体および抗Xyl(α)抗体からなる群から選択される少なくとも1つの抗体を、該試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該少なくとも1つの抗体のレベルを、コントロールサンプル中の該少なくとも1つの抗体のレベルと比較する工程であって、ここで、該コントロールサンプルが、多発性硬化症症状を有し、かつ公知の多発性硬化症状態を有する1以上の個体および多発性硬化症症状を示さない1以上の個体からなる群から選択される工程、
それによって、該被験体の多発性硬化症を診断する工程
を包含する、方法。
(項目2)
項目1に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
前記試験サンプル中の抗Glc(α)抗体を検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを、前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目3)
項目1に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
前記試験サンプル中の抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体を検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを、前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目4)
項目1に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
前記試験サンプル中の抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体および抗Glc(α)抗体を検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを、前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目5)
項目1に記載の方法であって、ここで前記コントロールサンプルが、本質的に、既知の多発性硬化症状態を含む多発性硬化症症状を有する1以上の個体の集団からなる、方法。
(項目6)
前記試験サンプルが生物学的液体である、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記生物学的液体が、全血、血清、血漿、脊髄液、尿または唾液である、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記生物学的液体が血清である、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記被験体が雌性である、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記被験体が雄性である、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記少なくとも1つの抗体がIgM型抗体である、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記少なくとも1つの抗体がIgA型抗体である、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記少なくとも1つの抗体がIgG型抗体である、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記抗Glc(α)抗体がIgM型抗体である、項目2に記載の方法。
(項目15)
前記抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体がIgM型抗体である、項目3に記載の方法。
(項目16)
前記診断が多発性硬化症の初期診断である、項目1に記載の方法。
(項目17)
前記コントロールサンプルが、拡大障害状態尺度(EDSS)評価または磁気共鳴映像法(MRI)評価を使用して決定される、項目1に記載の方法。
(項目18)
前記コントロールサンプルが、拡大障害状態尺度(EDSS)評価を使用して決定される、項目1に記載の方法。
(項目19)
前記方法が、少なくとも2つの前記抗体を検出する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目20)
前記方法が、少なくとも4つの前記抗体を検出する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記方法が、少なくとも6つの前記抗体を検出する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目22)
被験体の多発性硬化症の悪化を診断する方法であって、ここで該方法は以下、
被験体から試験サンプルを提供する工程;
抗Glc(α)IgM型抗体または抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体を該試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルをコントロールサンプルと比較する工程であって、ここで、該コントロールサンプルが、多発性硬化症状態が公知である1以上の被験体に由来する工程、
それによって、該被験体の多発性硬化症の悪化を診断する工程
を包含する、方法。
(項目23)
項目22に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
抗Glc(α)IgM型抗体を前記試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目24)
項目22に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
抗Glc(α1−4)Glc(α)αIgM型抗体を前記試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目25)
項目22に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
抗α−グルコースIgM型抗体および抗Glc(α1−4)Glc(α)αIgM型抗体を前記試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目26)
項目22に記載の方法であって、ここで前記コントロールサンプルが本質的に、多発性硬化症の悪化症状を示さない回復多発性硬化症状態の1以上の個体の集団からなり、抗Glc(α)抗体または抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体が、該コントロールサンプルより前記試験サンプル中により多く存在する場合、前記被験体の多発性硬化症の悪化が診断される、方法。
(項目27)
項目22に記載の方法であって、ここで前記コントロールサンプルが本質的に、多発性硬化症状態が悪化し、多発性硬化症悪化の症状を示す1以上の個体の集団からなり、類似した抗Glc(α)抗体または抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体レベルが前記試験サンプルおよび前記コントロールサンプル中に存在する場合、前記被験体の多発性硬化症の悪化が診断される、方法。
(項目28)
前記試験サンプルが生物学的液体である、項目22に記載の方法。
(項目29)
前記生物学的液体が、全血、血清、血漿、脊髄液、尿または唾液である、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記生物学的液体が血清である、項目28に記載の方法。
(項目31)
前記被験体が雌性である、項目22に記載の方法。
(項目32)
前記被験体が雄性である、項目22に記載の方法。
(項目33)
前記診断が多発性硬化症悪化の初期診断である、項目22に記載の方法。
(項目34)
前記被験体がインターフェロンβの皮下投与により処置される、項目22に記載の方法。
(項目35)
前記被験体が酢酸グラチラマーの皮下投与により処置される、項目22に記載の方法。
(項目36)
被験体の多発性硬化症疾患の重篤度を評価するための方法であって、ここで該方法は以下、
被験体から試験サンプルを提供する工程;
該試験サンプルが、抗αグルコースIgM型抗体または抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体を含有するか否かを決定する工程;および
該試験サンプル中の該少なくとも1つの抗体のレベルをコントロールサンプルと比較する工程であって、ここで、該コントロールサンプルが、多発性硬化症疾患の重篤度が既知である1以上の被験体に由来する工程、
その結果、該被験体の多発性硬化症の重篤度を評価する工程
を包含する、方法。
(項目37)
項目36に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
抗Glc(α)IgM型抗体を前記試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目38)
項目35に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体を前記試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目39)
項目35に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体および抗Glc(α)IgM型抗体を前記試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目40)
項目36に記載の方法であって、ここで前記コントロールサンプルが本質的に、多発性硬化症疾患の重篤度が拡大障害状態尺度(EDSS)、EDSS評点の変化または磁気共鳴影像法(MRI)評価によって定義される1以上の個体の集団からなる、方法。
(項目41)
前記試験サンプルが生物学的液体である、項目36に記載の方法。
(項目42)
前記生物学的液体が、全血、血清、血漿、脊髄液、尿または唾液である、項目41に記載の方法。
(項目43)
前記生物学的液体が血清である、項目41に記載の方法。
(項目44)
前記被験体が雌性である、項目36に記載の方法。
(項目45)
前記被験体が雄性である、項目36に記載の方法。
(項目46)
項目36に記載の方法であって、さらに、多発性硬化症を処置する治療薬剤を選択する工程を包含し、該方法は、以下;
前記試験サンプルが抗グルコースα抗体を含有するか否かを決定する工程;および
前記被験体サンプルおよび前記コントロールサンプル中の該抗体の相対レベルに基いて治療薬剤および投与計画を選択する工程
を包含する、方法。
(項目47)
項目46に記載の方法であって、ここで前記方法がさらに以下、
前記試験サンプルが抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体を含有するか否かを決定する工程;および
該試験サンプル中の該抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体のレベルを、本質的に多発性硬化症状態が公知である1以上の個体からなるコントロールサンプル中の抗体のレベルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目48)
多発性硬化症と関連する症状を診断するためのキットであって、該キットは以下:
抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体を特異的に検出する第一薬剤
抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体を特異的に検出する第二薬剤;および
該キットを使用するための指示書
を含む、キット。
(項目49)
IgM型抗体を特異的に検出する薬剤をさらに含む、項目48に記載のキット。
【0008】
MSと疑われる患者の血液におけるこれらの抗体のレベルをモニタリングすることは、MS患者の迅速かつ費用効果的な初期診断および疾患緩和薬物の初期の処方を容易にする。明確なMS患者の血液中のこれらの抗体をモニタリングすることはまた、所定の薬物の効果の迅速かつ費用効果的なモニタリングならびに初期の予防的な処置を可能にする発作の早期検出を可能にする。
【0009】
本発明のさらなる利点には、患者の症状が他の多くのMS様疾患に似ている場合、患者におけるMSの存在が疾患の初期段階と決定され得ることが挙げられる。初期診断は、医師が疾患の経過の初期でMSを処置することを可能にし、その結果、ミエリンの破壊によって引き起こされる損傷およびこの破壊によってもたらされる障害を最小化するかまたは予防する。さらに、本明細書中で開示された方法は、疾患の重篤度を評価するため、治療をモニタリングするため、および発作が起きる徴候が見られたら処置を変更するために、医師がMS患者を定期的に追跡することを可能にする。例えば、MS発作を示す生物マーカーにおける増加は、メチルプレドニゾロン(methylpredisone)(これは、発作の間に一般的に投与される一般的な抗炎症剤である)の患者への投与を保証し得る。
【0010】
本明細書中で開示された方法はまた、特定の患者に対する最も良い薬物処置を選択するために使用され得る。例えば、患者は、特定の薬物を用いる処置過程を開始し得、そしてマーカーのレベルにおける変化は、薬物の有効性を示す。マーカーレベルの減少状態への逆転は、薬物が効果を失ったことを示し、この薬物は短時間後に第2薬物で置換され得る。さもなければ、薬物がその特定の患者に対して有効である場合、医師は、決定するために次の発作を待たなければならない。
【0011】
本明細書で開示された生物マーカーはさらに、費用効果的な方法における試験薬物に対する患者の反応を評価するための代理終点として作用し得る。血清学試験に基づいた代理終点は、新規の潜在的なMS薬物の有効な試験を容易にする。
【0012】
1つの局面では、本発明は被験体の多発性硬化症を診断する方法を特徴とする。この方法は、被験体から試験サンプルを提供する工程および試験サンプル中のグリカン構造に特異的に結合する抗体である少なくとも1つの生物マーカーを検出する工程を包含する。その抗体は、例えば、抗Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(β)抗体、抗Glc(β)抗体、抗Gal(β)抗体;抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体、抗GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)抗体、抗L−Araf(α)抗体、抗L−Rha(α)抗体、抗Gal(β1−3)[GlcNAc(β1−6)]GalNAc(α)抗体、抗Gal(β1−4)GlcNAc(α)抗体、抗Gal(β1−3)GalNAc(α)、抗Gal(β1−3)GlcNAc(β)、抗GlcA(β)抗体または抗GlcA(β)抗体または抗Xyl(α)抗体であり得る。試験サンプル中の抗体のレベルは、コントロールサンプルと比較され、このコントロールサンプルは、多発性硬化症症状を示し、かつ公知の多発性硬化症状態を伴う多発性硬化症症状を有する1以上の個体に由来するか、または多発性硬化症症状を示さない個体に由来する。MS状態は例えば、悪化、発作、回復および疾患の安定な段階を含み得る。
【0013】
種々の実施形態では、これらの抗体の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18個が検出される。いくつかの実施形態において、試験サンプル中で検出される抗体は、抗Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体または、抗Glc(α)抗体と抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体の両方である。
【0014】
いくつかの実施形態において、コントロールサンプルは、多発性硬化症の症状を示さない1以上の個体の集団から本質的になる。他の実施形態において、コントロールサンプルは、多発性硬化症の症状を示す集団から本質的になる。コントロールサンプル中のMSの存在は、当該分野で公知の技術(例えば、拡大障害状態尺度(EDSS)評価もしくは磁気共鳴映像法(MRI)評価またはその両方)を使用して決定され得る。
【0015】
試験サンプルは、例えば、生物学的液体であり得る。生物学的液体の例としては、例えば、全血、血清、血漿、脊髄液、尿または唾液が挙げられる。
【0016】
被験体は、雌性または雄性のいずれかであり得る。
【0017】
検出された抗体は、例えば、IgM型抗体またはIgA型抗体またはIgG型抗体であり得る。
【0018】
いくつかの実施形態において、検出された多発性硬化症の型は、初期多発性硬化症である。
【0019】
被験体の多発性硬化症の悪化を診断する方法もまた、本発明により提供される。本方法は、被験体由来の試験サンプルを提供する工程、ならびに抗Glc(α)IgM型抗体および/または抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体を試験サンプル中で検出する工程を包含する。試験サンプル中の抗体レベルは、コントロールサンプルと比較され、そのコントロールサンプルはその多発性硬化症状態が既知である1以上の個体に由来する。
【0020】
いくつかの実施形態において、コントロールサンプルは、多発性硬化症の悪化症状を示さず、かつその多発性硬化症状態が回復状態にある1以上の個体の集団から本質的になる。コントロールサンプルより試験サンプルに、抗Glc(α)抗体または抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体が多く存在する場合、多発性硬化症の悪化が被験体で診断される。他の実施形態では、コントロールサンプルは、多発性硬化症の悪化の症状を示す1以上の個体の集団から本質的になり、そして、抗Glc(α)IgM型抗体および/または抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体のレベルが試験サンプル中およびコントロールサンプル中で類似した量で存在する場合、多発性硬化症の悪化は、被験体において診断される。
【0021】
試験サンプルは、例えば、生物学的液体であり得る。生物学的液体の例としては、例えば、全血、血清、血漿、脊髄液、尿または唾液が挙げられる。
【0022】
被験体は、雌性または雄性のいずれかであり得る。
【0023】
検出された抗体は、例えば、IgM型抗体またはIgA型抗体またはIgG型抗体であり得る。
【0024】
いくつかの実施形態において、診断は、多発性硬化症の悪化の初期診断である。
【0025】
いくつかの実施形態において、被験体は皮下投与されるMS治療薬剤(例えば、インターフェロンβまたは酢酸グラチラマー(glitamerer acetate))を用いて処置されている。
【0026】
被験体の多発性硬化症の重篤度を評価するための方法もまた本発明の範囲内である。その方法は、被験体由来の試験サンプルを提供する工程、および試験サンプルが抗Glc(α)IgM型抗体および/または抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体を含有するか否かを決定する工程を包含する。試験サンプル中の抗体の量は、コントロールサンプル中の抗体の量と比較され、このコントロールサンプルは、多発性硬化症疾患の重篤度が既知である1以上の個体に由来する。
【0027】
いくつかの実施形態において、コントロールサンプルは、1以上の個体の集団から本質的になり、その個体の多発性硬化症疾患の重篤度は、拡大障害状態尺度(EDSS)、EDSSスコアの変化または磁気共鳴映像法(MRI)評価によって規定される。
【0028】
試験サンプルは、例えば、生物学的液体であり得る。生物学的液体の例としては、例えば、全血、血清、血漿、脊髄液、尿または唾液が挙げられる。
【0029】
所望の場合、この方法はさらに、試験サンプルおよびコントロールサンプル中の抗体の相対レベルに基づいて、治療剤および投薬レジメンを選択することによって、多発性硬化症を処置するための治療剤を選択する工程を包含し得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、コントロールサンプルと比較して、より高い試験サンプルの抗体レベルは、治療剤および投薬レジメンの選択(すなわち、インターフェロンβ(BETAFERON(登録商標)、AVONEX(登録商標)、REBIF(登録商標))の皮下投与または酢酸グラチラマー(glitamerer acetate)(COPAXONE(登録商標)の皮下投与)を示す。
【0031】
被験体は、雌性または雄性のいずれかであり得る。
【0032】
多発性硬化症に付随する症状を診断するためのキットがまた、本発明により提供される。このキットは、抗Glc(α)抗体を特異的に検出する第1試薬、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体を特異的に検出する第2試薬およびこのキットを使用するための指示書を備える。このキットは、必要に応じて、IgM型抗体を特異的に検出する試薬を備える。
【0033】
本明細書で開示される抗体(例えば、抗Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(β)抗体、抗Glc(β)抗体、抗Gal(β)抗体;抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体、抗GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)抗体、抗L−Araf(α)抗体、抗L−Rha(α)抗体、抗Gal(β1−3)[GlcNAc(β1−6)]GalNAc(α)抗体、抗Gal(β1−4)GlcNAc(α)抗体、抗Gal(β1−3)GalNAc(α)、抗Gal(β1−3)GlcNAc(β)、抗GlcA(β)抗体または抗GlcA(β)抗体または抗Xyl(α)抗体)を特異的に検出する試薬を含む基板もまた本発明の範囲内である。その基板は、例えば、平面であり得る。
【0034】
さらなる局面では、本発明は、多発性硬化症を処置するための治療剤を選択する方法を提供する。この方法は、多発性硬化症を診断される被験体または多発性硬化症の危険性のある被験体から試験サンプルを提供する工程および試験サンプルが抗Glc(α)抗体を含有するか否かを決定する工程を包含する。試験サンプルの抗体レベルをコントロールサンプルの抗体レベルと比較し、このコントロールサンプルは、多発性硬化症疾患の重篤度が既知である1以上の個体から本質的になる。治療剤および投薬レジメンは、被験体サンプルおよびコントロールサンプル中の抗体の相対レベルに基づいて選択される。
【0035】
いくつかの実施形態において、この方法はさらに、試験サンプルが抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体を含有するか否かを決定する工程および試験サンプル中の抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体のレベルをコントロールサンプル中の抗体のレベルと比較する工程を包含し、ここでこのコントロールサンプルは、多発性硬化症疾患の重篤度が既知である1以上の個体から本質的になる。
【0036】
いくつかの実施形態において、コントロールサンプルは、その状態が多発性硬化症ではないかまたは安定な多発性硬化症である1以上の個体から本質的になる。
【0037】
他に定義されない場合、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で記載される方法および材料と類似しているかまたはそれらと等価なものが、本発明の実施および試験において使用され得るが、適切な方法および材料は以下に記載される。全ての出版物、特許出願、特許および本明細書で述べた他の参考文献は、参考としてその全体が援用される。抵触する場合には、定義を含む本明細書が制御する。さらに、材料、方法および実施例は、例示的なもののみであって、制限することを意図しない。
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、MSが疑われる患者が実際にMSを有することを決定するための決定樹を示す。
【図2】図2は、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体またはGlc(α)抗体のレベルに基づいて、MS患者に対する薬物および投薬量を選択するための決定樹を示す。
【図3】図3は、MS患者における発作の予測および初期診断のための決定樹を示す。
【図4】図4は、MS患者ならびに正常な個体の種々の抗グリカン抗体の結合に由来する相対的な蛍光を示す表である。グリカン構造は、表の上部の行に、LINEARCODE(登録商標)シンタックスに示される。
【図5】図5は、MS患者から抽出される血清対正常なコントロール血清に由来する種々のグリカンに対する抗グリカン抗体の平均シグナルおよび中央値シグナルを示す。グリカン構造は、LINEARCODE(登録商標)シンタックスに示される。
【図6】図6は、MS個体と健常な個体との間の平均シグナルの違いを示すグラフであって、線は、標準偏差を示す。グリカン構造は、LINEARCODE(登録商標)シンタックスに示される。
【図7】図7Aは、MS集団および健常な集団における抗Glc(α)、(グリカン#11)とGlc(α1−4)Glc(α)、(グリカン#12)IgMとの結合に由来する平均シグナルを示すグラフである。図7Bは、発作状態のMS患者集団、安定なMS患者集団および健常な集団における抗Glc(α)グリカン#11とGlc(α1−4)Glc(α)グリカン#12IgMとの結合に由来する平均シグナルを示すグラフである。
【図8】図8は、抗Glc(α)ポジティブMS患者(左の囲み)サンプルおよびネガティブMS患者(右の囲み)サンプルにおける抗グルコースαIgM抗体の接着に由来する相対的な蛍光とそれらのEDSSレベルとの間の関係を示すグラフである。
【図9】図9は、7の健常な個体における13週にわたるIgM抗グリカン抗体、IgGグリカン抗体およびIgA抗グリカン抗体の結合に由来するシグナルの一時的な安定性を示すグラフである。
【図10】図10A〜10Eは、グリカンアレイ、化学構造、レクチン相互作用の特異性および再現性を示す。図10Aは、リンカーを介してその還元末端で固体表面に共有結合したp−アミノフェニルP−サッカライドを示す。 図10Bは、グリカンアレイに対するビオチン化WGAの結合のバッチ間の再現性を示す。アレイの3つの別のバッチを、ビオチン化WGAを使用して同時にアッセイした。 図10Cは、Man(α)に結合するConAを用いた競合アッセイを示す。可溶性マンノースまたはGal(β1−4)Glcの濃度を増加させて、ビオチン化ConA(1.5μg/ml)とともに1時間インキュベートし、ユーロピウムに結合したストレプトアビジンを使用して検出した。 図10Dは、種々のアノマーに結合するレクチンの特異性を示す。ConAは、ネガティブコントロールであるGlycerol(19)、Man(α)(26)およびMan(β)(27)に結合する。GSIは、Gal(α)(1)、Gal(β)(2)、GalNAc(α)(7)およびGalNac(β)(8)に結合する。 図10Eは、グリカンアレイのプレート間の再現性を示す。GlcNac(β)を示す5つの同一のプレートを、ビオチン化WGAでプローブした。
【図11】図11は、健常なヒト集団のグリカン結合プロフィールを示す。72個体に由来する血清サンプル中の類別されたグリカン(グリカン構造については、表5を参照のこと)に結合する抗炭水化物抗体を、ビオチン化タンパク質Aで測定した。各点は、2つの実験の平均を示し、それぞれは、4連でなされた。この四角は、集団の50%のシグナルを含む。四角中の太い線および細い線は、それぞれ平均値および中央値を表す。最も0に近い四角の境目は、25%の点を示し、0から最も遠い四角の境目は、75%の点を示す。四角の上のひげおよび下のひげは、90%の点および10%の点を示す。測定した非特異的なシグナルのレベルを、実験的に規定した。抗体のレベルが比較的低く、実験間で大きく変動することが見出されたグリカンを、バックグランドレベルを定義するために指定した(示さず)。これらのグリカンに対する平均シグナル値を、各血清サンプルおよび特定のグリカンから得たシグナルから計算し、減算した。平均バックグランドは、3×105RFUであった。TBSTは、Tween−20を含むTris緩衝生理食塩水である(実験プロトコルを参照のこと。)。
【図12】図12は、一連のグリカンに対する個々の血清のシグナルを示す。相対蛍光単位(RFU)で測定した抗グリカン抗体結合を、単調で、非直線的なマッピングを用いるヒストグラム均等化様の方法(histogram equalization−like method)を使用して変換した。この方法で、RFU値を0(青)と255(赤)との間の範囲で再評価した。このデータを、シミュレートしたアニーリングアルゴリズムを使用して、クラスター形成した。
【図13】図13A〜13Cは、(A)精製された抗L−Rha(α)抗体の、33グリカンのアレイに対する親和性の結合プロフィール、(B)精製された抗GlcNAc(α)および抗GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)の、33グリカンのアレイに対する親和性の結合プロフィール、ならびに(C)精製された抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体および抗GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)抗体の、33グリカンアレイに対する親和性の結合プロフィールを示す。
【図14A】図14Aは、抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体の特異性を示す。(A)抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体結合の競合阻害。親和性の結合の阻害は、Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc濃度またはGal(β1−4)Glc濃度の関数としての、ウェル表面に固定化されたp−アミノフェニル−β−Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)に対する精製抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体の結合親和性の阻害であった。ビオチン化ヤギ抗ヒトIgG抗体を使用して、結合した抗体の量を測定した。
【図14B】図14Bは、抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体の特異性を示す。(B)結晶性セルロースまたは非晶質セルロースとインキュベーションした後の同系の糖類に対する抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)(A)抗体および抗L−Rha(α)(B)抗体の結合。ビオチン化したヤギ抗ヒトIgG抗体を使用して、結合した抗体の量を測定した。
【図15】図15A〜図15Cは、示したグリカンに対する健常な個体のIgGアイソタイプ、IgAアイソタイプおよびIgMアイソタイプの結合のグラフによる表示である。
【図16】図16Aは、不安定なアンギナまたは安定なアンギナを罹患したアテローム性動脈硬化症患者の血清を試験するために使用されたグリカンのマトリックス表示である。種々の患者群で測定した、対する抗体レベルが有意に異なるグリカンを、四角形にうめて標識した。グリカンは、表4に列挙する。図16Bは、3つの患者群:不安定なアテローム性動脈硬化症群、安定なアテローム性動脈硬化症群、および非アテローム性動脈硬化症群におけるグリカン#2およびグリカン#29に対する抗体のレベルを示すグラフによる表示である。四角は、集団の50%に由来するシグナルを含む。四角中の太い線および細い線は、それぞれ平均値および中央値を表す。0に最も近い四角の境目は、25%の点を示し、0から最も遠い四角の境目は、75%の点を示す。四角の上のひげおよび下のひげは、90%の点および10%の点を示す。
【図17】図17は、グリカン#2またはグリカン#29に対する抗IgA抗体に対してポジティブである3つの患者群のサンプルの数を示すヒストグラムである。
【図18A】図18Aは、3つの患者群におけるグリカン#2およびグリカン#15に対する抗体レベルの分布を示すヒストグラムである。四角は、集団の50%に由来するシグナルを含む。四角中の太い線および細い線は、それぞれ平均値および中央値を表す。0に最も近い四角の境目は、25%の点を示し、0から最も遠い四角の境目は、75%の点を示す。四角の上のひげおよび下のひげは、90%の点および10%の点を示す。
【図18B】図18Bは、グリカン#2またはグリカン#15に対する抗IgA抗体に対してポジティブである3つの患者群のサンプルの数を示すヒストグラムである。
【図19】図19は、グリカン#2、グリカン#15、グリカン#17およびグリカン#49に対する抗IgA抗体レベルに基づいた特異度および感度のグラフによる表示である。A−アテローム性動脈硬化症;S−安定;US;不安定;NA−非アテローム性動脈硬化症。
【図20】図20は、単一の個体に由来するCD4+細胞の種々のグリカンに対する結合プロフィールを示すヒストグラムである。グリカン構造は、LINEARCODE(登録商標)シンタックスに示される。
【図21A】図21Aは、LINEARCODE(登録商標)シンタックスに示されるグリカン構造に対する、7の個体のそれぞれに由来するCD4+細胞についての相対的な蛍光の中央値を示すグラフである。
【図21B】図21Bは、一連のグリカンに対する個々の血清のシグナルを示す。相対蛍光単位(RFU)で測定した抗グリカン抗体結合を、単調で、非直線的なマッピングを用いるヒストグラム均等化様の方法を使用して変換した。この方法で、RFU値を0(青)と255(赤)との間の範囲で再評価した。このデータを、シミュレートしたアニーリングアルゴリズムを使用して、クラスター形成した。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(発明の詳細な説明)
本明細書中に提供される方法は、客観的に評価された生物マーカーレベルを使用して、初期の多発性硬化症および再発性多発性硬化症の早期診断を可能にする。MSを有する患者を診断するための現在の決定樹は、図1に記載される。最初に神経性機能が急性的に悪化した患者は、明確なMS患者として診断された後に、疾患改変薬物で処置するために適格となるべきである。医師は、患者がMS様症状(例えば、若年性発作、狼瘡、ビタミンB−12欠損症、抗リン脂質症候群、重篤な偏頭痛)を有するか否か、または患者が実際にMSを有するか否かを決定しなければならない。患者は、MS患者として診断される前に、神経機能の第2急性悪化(発作)に直面しなければならず、そして、MS治療薬剤(例えば、インターフェロンβまたは酢酸グラチラマー(glatiramer acetate))で長期的な処置を開始し得る
現在、医師は、MRIを使用して脳傷害の存在を同定し、そして/または、オリゴクローナルバンド(OCB)について脳脊髄液(CSF)を試験する。MRIが、CSFにおける、脳傷害の存在またはOCBの存在に関して明確な結果を示す場合、医師は、無症状の脳傷害を予防するために、処置をただちに開始し得る。完全なMS診断の診断は現在、第2発作の後にのみ行なわれている。MRIが明確な結果を与えない場合、または患者CSFにOCBが存在しない場合、MSとは診断されず、第2発作が次に起こるまで処置が遅延する。
【0040】
本明細書で開示された方法は、神経学的機能が急に悪化し、MSを有すると疑われる患者から血液を抽出することにより行われ得る。この方法は、抗Glc(α)レベルおよび抗Glc(α1−4)Glc(α)IgMレベルを測定することにより、MSの存在を同定し得る。これらの抗体の少なくとも1つのレベルが、健常な個体の血清のこれらの抗体の平均レベルより有意に高い場合、その患者は、第2発作を待つ必要なく、MS患者と診断される。さらに、迅速な診断は、ただちに処置を開始することを可能にする。
【0041】
MSに対する一連の処置の第1は、インターフェロンB(例えば、INFβ−1aおよびINFβ−1b)である。現在の効果の評価および必要な薬物の投薬量は、いくつかの臨床スコアの継続したモニタリングに基づく。現在、EDSSスコアおよび時間の経過によるその変化(例えば、3〜6ヶ月毎に、EDSSの違いを比較することによる)は、疾患の管理についての主要な臨床パラメーターである。評価の重要な要素は、患者が経験した疲労のレベルおよびうつ状態のレベルである。疲労およびうつ状態は、(自己免疫疾患としての)MSの症状であり得るかまたはインターフェロンβの使用から生じる副作用であり得る。疲労の原因を同定することは、処置を管理するために重要である。例えば、疲労がインターフェロンの副作用の結果である場合、医師は投薬量を下げることを考え得るかまたは、別の薬物に交換することさえ考える。しかし、その疲労がMS症状に起因する場合、医師は薬物投薬量を増加させることを考えなければならない(図2を参照のこと)。
【0042】
患者の血液をスクリーニングすること、および本明細書で開示された生物マーカー(例えば、本明細書中のIgM抗体、抗Glc(α)および抗Glc(α1−4)Glc(α))のレベルを決定することは、治療の正確なモニタリングを可能にする。抗体レベルの有意な減少は、その患者が投与された薬物によく反応していることを示す。
【0043】
(発作の早期の検出)
現在、MS患者における発作の開始を予測する方法はない。MRIおよび患者の臨床的評価は、既に生じた損傷を明らかにし得るのみである。本明細書中に記載された方法に従って、患者の血液中の少数の抗グリカン抗体(例えば、抗Glc(α)IgMまたは抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM)のレベルを定期的に測定することは、医師がこれらの抗体のレベルの増加に基づいて、次の発作を同定することを可能にする。MS発作状態の患者の血液のこれらの抗体のレベルは、安定な状態の患者に対して有意に高い(図7を参照のこと)。これらの抗体の増加の検出に基づいて、炎症を軽減するためおよびミエリンに対する損傷を予防するために、医師は積極的なステロイド処置を開始し得る(図3を参照のこと)。
【0044】
グリカンに特異的な抗体生物マーカーを使用して、アテローム性動脈硬化の危険性のある個体を、安定なアンギナおよび不安定なアンギナに関して同定する方法、および評価する方法、ならびに目的の細胞を検出するための固定化したグリカンの使用もまた、本明細書中で提供される。
【0045】
種々のグリカン構造が、本出願中で議論される。グリカンは、糖質の表示についての国際純正および応用化学連合(IUPAC)の要約された形式か、またはLINEARCODE(登録商標)シンタックスのどちらかで表示される。ここで、LINEARCODEシンタックスの原理については、Banin E.Neuberger Y.Altshuler Y.Halevi A.Inbar O.Dotan N.およびDukler A.(2002) A Noval Liner Code Nomenclature for complex Carbohydrates.Trends in Glycoscience and Glycotechnology Vol.14 No.77 pp127〜137を参照のこと。LINEARCODE表示からIUPAC表示への変換は、表1に示す。本開示で議論される全てのグリカン構造は、他に言及しない限り、図10Aに記載されるように、リンカーを介して、示したアノマーαまたはアノマーβを区別して固相に結合する。
【0046】
本発明は、以下の非限定的な実施例に例証される。
【実施例】
【0047】
(実施例1.多発性硬化症(MS)患者集団と健常な集団との間の血清中の抗グリカン抗体の比較)
GlycoChip(登録商標)アレイ(Glycominds,Ltd.,Lod、Israel、カタログ番号9100)を使用して、抗グリカン抗体(Igs)プロフィールを得た。WO00/49412に記載される手順を使用して、アレイを構築した。40の多発性硬化症患者の抗グリカン抗体プロフィールと、性別および年齢の一致する40の健常な血液ドナーの抗グリカン抗体プロフィールとを比較した。
【0048】
GlycoChip(登録商標)プレート(Glycominds,Ltd.,Lod、Israel、カタログ番号9100)(これは、体積を減じた384ウェルマイクロタイタープレートに共有結合した単糖およびオリゴ糖のアレイである)を使用して、全ての血清サンプルを試験した。アレイ上に提示された単糖およびオリゴ糖を、図4に列挙する。グリカン構造を記載するために使用したLinearCode(登録商標)シンタックスの、IUPAC命名法への転換は、表1に見出され得る。
【0049】
インフォームドコンセントに署名した健常な志願者およびMS患者志願者の血清を、空にしたシリコーン被覆ゲル含有チューブ(Estar Technologies カタログ番号 616603 GLV)中に回収した。その血清を血液細胞から分離し、使用するまで、−25℃で凍結保存した。それらを2つの別々の実験で分析し、それぞれの試験は、別の日に2回繰り返した。
【0050】
Tecan Genesis Workstation 200 ロボットを使用して、志願者からの血清をTBSTに希釈(1:20)し、GlycoChip(登録商標)プレート中(10μL/ウェル)に分配し、25℃で30分間インキュベートした。プレート上の各グリカンおよび血清サンプルについて4回繰り返した。
【0051】
このプレートを、自動プレート洗浄器(Tecan、PowerWasherTM中で、250μL/ウェルの高塩濃度緩衝液(0.15M KNa pH7.2、NaCl 2M、MgSO4 0.085M、0.05% Tween20)を使用して洗浄した。10μl/ウェルのTBST中1μg/mlのビオチン化タンパク質A(ICN62−265)を、手動で分配し、このプレートを25℃で、30分間インキュベートした。このプレートを、高塩濃度緩衝液で再度洗浄した。
【0052】
ストレプトアビジン結合ユーロピウム(Wallac、AD0062、1μ/ml、10μl/ウェル)を手動で添加し、その後暗所で、25℃で30分間インキュベートした。このプレートの高塩濃度緩衝液での洗浄を繰り返した。DelfiaTM増強緩衝液(Wallac、730232、10μl/ウェル)をウェルに添加し、このプレートを暗所で、少なくとも30分間インキュベートした。発光612nmおよび励起340nmの時間分解蛍光設定を使用して、ウェルの蛍光をVictor1420(Wallac)で読み取った。
【0053】
試験した全ての患者のプロフィールを図4に示す。上部の40列(MS)は、MSサンプルの抗炭水化物レベルを表し、下部の40列(NC)は、健常なコントロール集団からのサンプルの抗炭水化物レベルを表す。示した値は、バックグラウンド減算を行なわない、絶対値である。結合した抗体の検出は、ビオチン化したタンパク質A(IgG、IgAおよびIgMに結合する)を用いて行なったので、このシグナルは、全てのサブタイプIgG、IgAおよびIgMからの抗体の総結合を表わす。
【0054】
MS集団と健常な集団との間の抗炭水化物抗体の平均値および中央値の比較は、MS患者由来のサンプルと健常な集団由来のサンプルとの間の顕著な違いを明らかにする(表5を参照のこと)。2つの群間で観察された主要な差の一例は、グリカンGa4Gbに対する平均シグナルである。t検定は、この差が非常に統計的に有意である(α=0.05;p<0.001)ことを示す。別の例は、Ab3(GNb6)ANa(α=0.05;p<0.001)である。以下のグリカンに結合する抗体に関して、MS集団と健常な集団との間のシグナルの中央値に有意な差が存在する:Glc(α)、Glc(α1−4)Glc(α)、Glc(α1−4)Glc(β)、Glc(β)、Gal(β)、Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)、GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)、L−Araf(α)、L−Rha(α)、Gal(β1−3)[GlcNAc(β1−6)]GalNAc(α)、Gal(β1−4)GlcNAc(α)、Gal(β1−3)GalNAc(α)、Gal(β1−3)GlcNAc(β)、GlcA(β)、GlcA(β)、Xyl(α)。MS群における結合した抗体からのシグナルは、通常のコントロール群のシグナルより高い。
【0055】
図6は、集団間の抗グリカン抗体の平均結合値の間の差異を示す。
【0056】
(実施例2.発作状態のMS患者集団、安定なMS患者集団および健常な集団間の血清における抗Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体、IgM抗体のレベルの差異)
健常な集団と多発性硬化症(MS)患者の群との間を識別するため、および悪化したMS患者と回復段階のMS患者との間を識別するための生物マーカーを、ヒト血清グリカン結合抗体レパートリーの中から探索するために、グリカンアレイを使用した。この実施例は、2個のIgM抗体(抗Glc(α)および抗Glc(α1−4)Glc(α))が、健常な人に比べてMS患者で有意に高いレベルで見出され(それぞれ、60%の感度および93%の特異度)、回復段階の患者に比べて悪化状態の患者で有意に高いレベルで見出される(それぞれ、89%の感度および71%の特異度)。13週の休止期間の間の変動の範囲を含む健常な集団に対する抗グリカン抗体プロフィールもまた提供される。
【0057】
明らかに健康な個体における13週より長い抗グリカン抗体プロフィールの一時的な安定性は高かった。健常な集団の抗Glc(α)および抗Glc(α1−4)Glc(α)IgMの低いレベル、MS患者におけるそれらの高いレベルならびに抗グリカン抗体の一時的な高い安定性は、抗Glc(α)および抗Glc(α1−4)Glc(α)IgMが、早期診断、薬物の早期処方、薬物の効果のモニタリングおよび発作の早期検出に対する生物マーカーとしての役目を果たし得ることを示唆する。
【0058】
GlycoChip(登録商標)(Glycominds Ltd.、Lod、Israel)を使用して、全ての血清サンプルを試験した。グリカンは、以前に記載された(WO02/064556)ように、リンカーを介してプラスチック表面に共有結合していた。試験した単糖およびオリゴ糖を記載する一覧表は、表1に提供される。
【0059】
IsraelのTel−AvivのHelsinki Human Studies Ethical committees of the Belinson Medical CenterおよびIsraelのHaifaのCarmel Medical Centerによって承認されたインフォームドコンセントプロトコルの下で、明らかに健常な血液ドナーから血液サンプルを得た。IsraelのHaifaのCarmel Medical CenterのMultiple sclerosis Clinicに認められたMS患者から血液サンプルを回収した。凝血塊から血清を分離するために、血液サンプルを、空にしたシリコーン被覆ゲル含有チューブ中に回収した(Estar Technologies)。血液の凝固の後、血清を遠心により分離し、回収した。サンプルは使用するまで、−25℃で凍結保存した。
【0060】
グリカンアレイに添加した全容液の体積は、10μl/ウェルであった。血清を、1%BSA(Sigma)を含有する0.15M Tris−HCl pH7.2、0.085M Mg2SO4、0.05% Tween20(TBST)中に希釈(1:20;飽和濃度)し、Tecan Genesis Workstation 200自動処理システムを使用してグリカンアレイプレートに分配し、37℃で60分間インキュベートした。次いで、プレートを自動プレート洗浄器(Tecan、PowerWasherTM)中で、0.05%Tween20(PBST、Sigma)を含む250μL/ウェルのリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した。この時点で、1%BSAを含むTBSTに希釈した以下の試薬を、Multidrop384分配器(Thermo Labsystems)を使用して添加し、そして、37℃で60分間インキュベートした:IgG、IgAおよびIgMの決定については、それぞれのサブクラスの特定のビオチン化ヤギ抗ヒトIg抗体(Jackson、PA、USA)をそれぞれ2.8μg/ml、3μg/mlおよび0.9μg/ml;総Igの決定については、ビオチン化タンパク質A(1μg/ml、ICN Biomedicals)。PBSTで洗浄した後、1%BSAを含むTBST中に希釈したストレプトアビジン結合ユーロピウム(0.1μg/ml)を各ウェルに添加し、その後37℃で暗所で、30分間インキュベートし、そしてPBSTで洗浄した。次いで、DelfiaTM増強溶液を各ウェルに添加し、その後プレートを室温で暗所で、30〜45分間インキュベートした。ウェルの蛍光を、340/612nm(励起/発光)の時間分解蛍光設定を使用するVictor 1420(Wallac、Finland)プレートリーダーで読み取った。
【0061】
(抗Glc(α)IgM抗体および抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM抗体の血清中のレベルにおける、発作中のMS患者と安定MS患者と健常集団との間の相違)
血清サンプルを、定期試験のために外来診療所を訪れたMS患者から、彼らがインフォームドコンセント書類に署名した後で入手した。患者群は、80%が女性であった。これは、一般的なMS人口における男女比をほぼ反映している。公表されたデータ(Ritchieら,J.Clin.Lab.Anal.12:363−70,1998)に従い、男性と比較した場合、健常女性およびMS女性の両方由来の血清において、著しく高いレベルのIgM抗体が観察された(しかし、IgGまたはIgAでは観察されなかった)(示さず)。従って、分析を、MS女性部分集団および健常女性部分集団のみに限定した。MSとしての1つの急性脱髄性事象を有する患者を確認するマーカー、および疾患の悪化期にある患者と回復期にある患者とを識別するマーカーを同定する目的で、始めにMS患者の血清を、54のグリカン(表1)においてIgG抗グリカン抗体、IgM抗グリカン抗体およびIgA抗グリカン抗体の存在についてスクリーニングした。54のグリカンのうちの5つを用い、最初の回において見出された群の間の幾つかの相違について実験を2回繰り返した。
【0062】
これらの研究において、IgM抗Glc(α)抗体のレベルおよび抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体のレベルにおける再現性がありかつ統計的に有意な相違が、健常群とMS群との間に見出された(図7A)が、IgGレベルまたはIgAレベルにおいて有意な相違は見出されなかった(示さず)。MS患者の両群の血清において、IgM抗Glc(α)および抗Glc(α1−4)Glc(α)のレベルは、健常集団におけるより有意に高かった。抗体セット最適カットオフ値(「健常」集団のシグナルの百分率97%)を使用し、カットオフ値より上の陽性サンプルおよびカットオフ値より下の陰性サンプルを同定した。従って、抗Glc(α)結合シグナルは、42のMSサンプルから19(45%感度)を、および44の明らかに健常な血清サンプルから42(96%特異度)を、正確に同定した。抗マルトース結合の測定は、MS血清の48%および明らかに健常な血清サンプルの95%を正確に同定した。抗Glc(α)アッセイまたは抗Glc(α1−4)Glc(α)アッセイのどちらかにおいて、シグナルがカットオフ値を上回るサンプルを陽性と定義することにより、感度を60%まで改善し、かつ93%の特異度を保つ(表2)。疾患の悪化期および回復期にある患者における抗Glc(α)抗体および抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体の差次的分布は、前者の群において有意に高かった(図7B)。未処置患者とインターフェロンβで処置した患者との間に、相違は見出されなかった(示さず)。「安定」MS集団の百分率80%のカットオフ値として使用して、抗Glc(α)結合シグナルが、18の「発作」サンプルから15(83%感度)を、24の「安定な」サンプルから19(無徴候である安定に関して79%特異度)を、そして44の「健常」サンプルから42(95%特異度)を正確に同定したことを決定した。抗マルトース結合の測定は、発作血清の72%、「安定」血清の79%、および「健常血清」の97%を正確に同定した。Glc(α)アッセイまたはマルトースアッセイにおいてシグナルがカットオフ値を上回るサンプルを陽性と定義することにより、「安定」サンプルまたは「健常」サンプルに関連して、それぞれ89%の感度ならびに71%および95%の特異度を得る(表3)。抗Glc(α)IgM抗体および抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM抗体の高い特異度および感度は、これらの抗体を、MS患者の早期の診断および決定のための効率的なツールにする。MS発作状況におけるこれらの抗体のレベルが、安定状態より高いという事実は、これらの抗体を、再発回復MS患者における発作の早期の同定および予測のためのツールにする。
【0063】
IgM抗Glc(α)抗体の保有について陽性であると(上述のように)定義された、臨床的に診断された女性(再発−回復)MS患者におけるIgM抗Glc(α)抗体血清レベルと、女性のEDSS(拡大障害状態尺度)スコアとの間に、高い相関関係が観察された(図8、左側のボックスを参照)。EDSSと、IgM抗Glc(α)抗体の保有について陰性であると定義された、臨床的に診断された女性(再発−回復)MS患者の血清におけるIgM抗Glc(α)抗体レベルとの間に、相関関係はなかった(図8、左側のボックスを参照)。この高い相関関係は、血清におけるIgM抗Glc(α)のレベルが、疾患の活性の評価のための分子代替生物マーカー(molecular surrogate biomarker)として作用し得ることを示す。
【0064】
(抗グリカン抗体レベルの時間的な範囲)
代替の生物マーカーとして使用するためのなんらかの生物学的パラメータを考慮する場合、正常集団において生物マーカーが時間における変数ではないことは、明らかに必要条件である。従って、7人の健常な志願者における、IgG、IgAおよびIgMの抗−L−Rha(α)抗体、抗GlcNAc(α)抗体、および抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)(βセロトリオース(Cellotriose))抗体の血清レベルを、13週間にわたって追跡した(図9)。一般に、血清抗体濃度は、別々の個体間で異なるが、時間にわたって極めて安定であることが見出される。例えば、血清番号9161および番号9162は、それぞれIgA抗GlcNAc(α)抗体およびGlc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体の非常に高くかつ時間的に安定な相対レベルを有するが、IgA抗L−Rha(α)抗体ならびにIgG抗体およびIgM抗体の比較的正常なレベルを有する。抗体レベルにおける変化が起こる場合、これらは、しばしば漸進的であり、そして数週間にわたって続く(例えば、血清番号9162;IgA抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β))が、急激でもまたあり得る(例えば、4週目と5週目との間で急激に上昇し、次いで再びその基本レベルまでゆっくりと戻る、血清番号9172;IgM抗−L−Rha(α))。
【0065】
(実施例4.正常ヒト集団における抗グリカン抗体プロフィール(AGAP))
34の単糖類およびオリゴ糖類への72の独立した血清の総Ig抗体の結合(タンパク質Aで検出される)(図11および表5)、ならびに6の単糖類および多糖類への200の血清のIgG、IgAおよびIgMの結合(図15A〜C)を、測定した。抗体について、GlcNAc(α)およびL−Rha(α)に対して最強のシグナルが記録され、一方で、グルコースのβ4連結多糖類、GlcNAc(β)、GlcNAC(β1−4)GlcNAC(β)、Gal(α)およびGal(α1−3)Gal(β1−4)GlcNAc(β)に対して、最低のレベルが観察された。これは、以前に公開されたデータとよく一致する。このデータは、市販のヒト血清プールにおける抗グリカン抗体の分布を示す(WO02/064556)。IgGサブクラスおよびIgAサブクラスのAGAPは、総Ig AGAPに類似し、一方で、IgMのAGAPは、より低くかつ異なったグリカンの間でより均一である。集団の抗グリカン抗体は、対数正規分布に適合する傾向があった(図15A〜15Cを参照)。試験した集団内の個体の間で抗グリカン抗体レベルのかなりの変動があることは明白であり、実際に独立したAGAPの存在を示唆するが、少量で存在する抗グリカン抗体に対するマーカーの検索を制限する。
【0066】
グリカンをビーズ上に固定化し、また、アフィニティビーズは、グルコースおよびL−Rha(α)のβ4連結オリゴ糖類に対する抗体を精製するために使用されている。これらの結合プロフィールおよび特異度を、図13、図14Aおよび図14Bに記載する。
【0067】
(実施例8.受攻(vulnerable)プラークを有する高危険度アテローム硬化症患者と安定プラークを有する低危険度アテローム硬化症患者との間を区別するための抗グリカン抗体の使用)
受攻プラークを有するアテローム硬化症患者の血清中の抗グリカン抗体のレベルを、安定プラークを有するアテローム硬化症患者の血清およびアテローム硬化症でない個体の血清中の抗グリカン抗体のレベルと比較した。
【0068】
アテローム硬化症は、先進国における有病率および死亡率の主要な原因である。これは、血管壁の全身性障害であり、血管壁上にアテローム硬化性プラークの発生をもたらす。これらのプラークの幾つかは、後に破裂しやすくなり(become vulnerable to rupture)、心臓発作や卒中をもたらす凝血塊を生じる。
【0069】
アテローム硬化性プラークの主成分は、プロテオグリカン、脂質、筋細胞および白血球(T細胞およびマクロファージ)である。さらに、アテローム硬化症は、自己免疫疾患として認知され、ここで、その発動因子の1つが細菌抗原に対する抗体と血管壁上の抗原との間で交差反応性である。
【0070】
アテローム硬化症の発達における重要な点は、低危険度を有する安定プラーク(SP)から、高危険度を有する炎症性受攻プラーク(VP)への転換である。SPとVPとの間の識別は、臨床的に不確かであり、決定的な区別は、死後の死体解剖によってのみ行われ得る。
【0071】
血清サンプルの入手は、Tel Aviv Medical Center(Israel)の循環器科のJacob George博士による。全ての患者は、30〜69の範囲の年齢の、非糖尿病男性であった。以下の型からの患者の39の血清サンプルを、試験した:
不安定アンギナ−急性冠動脈症候群(Q波心筋梗塞または非Q波心筋梗塞)を有すると特徴付けた13人のアテローム硬化症患者。両者は、受攻プラークの破裂から発達すると考えられる。不安定アンギナ群のメンバーに、胸部疼痛およびEGG変化または心臓マーカー上昇を有すると認めた急性冠動脈症候群患者を含めた。彼らは、アンギナの最近(<3日)の発症を訴え、入院の間に連続の心電図(ECG)遠隔測定モニタリングを受けた。静止アンギナの少なくとも1つの発症または最近の48時間の間に20分を超えて続く発症を、クレアチンキナーゼの上昇、MBレベルまたはトロポニンレベルと共に検出した。この群のメンバーは、冠動脈造影を受けており(カテーテル法)、これは、冠動脈アテローム硬化症の存在を実証した。
【0072】
安定アンギナ−13人のアテローム硬化症患者を、安定アンギナを有すると特徴付けた。安定アンギナ群のメンバーは、冠動脈造影を受けており(カテーテル法)、これは、冠動脈アテローム硬化症の存在を実証した。EGG変化もなく、クレアチンキナーゼの上昇、MBレベルまたはトロポニンレベルも検出されなかった。
【0073】
プラーク無し−正常な冠動脈を有する13人の患者。「プラーク無し」群のメンバーは、カテーテル後の冠動脈アテローム硬化症の証拠を示さなかった。
【0074】
GlycoChip(登録商標)アレイ(Glycominds,Ltd.,Lod,Israel,カタログ番号9100)を使用して、WO00/49412に記載の手順を用いて構築した抗グリカン抗体プロフィールを得た。単糖類およびオリゴ糖類に共有的に結合したアレイを含む、GlycoChip(登録商標)プレート(Glycominds,Ltd.,Lod,Israel,カタログ番号9100)を使用して、換算体積384ウェルマイクロタイタープレートで、全ての血清サンプルを試験した。アレイ上に提示した単糖類およびオリゴ糖類ならびにその整理番号のリストを、表4に示す。
【0075】
血清を、TBST中で希釈し(1:20)、Tecan Genesis Workstation 200ロボットを使用して、GlycoChip(登録商標)プレート中に分配し(10μL/ウェル)、そして摂氏25度で、30分間インキュベートした。プレート上の各グリカンサンプルおよび血清サンプルを、8回試験した。
【0076】
このプレートを、自動プレート洗浄機(Tecan,PowerWasherTM)中で、250μL/ウェルの高塩緩衝液(0.15M KNa(pH7.2)、NaCl 2M、MgSO4 0.085M、0.05% Tween20)で洗浄した。10μL/ウェルのビオチン標識ヤギ抗ヒトIgG、IgMまたはIgA(Jackson,PA,USA)(TBST中1μg/ml)を、手動で分配し、そしてプレートを、25℃で30分間インキュベートした。プレートを、高塩緩衝液で再び洗浄した。
【0077】
ストレプトアビジン結合ユーロピウム(Wallac,AD0062)(1μ/ml、10μl/ウェル)を手動で加え、その後、暗所で25℃で30分間インキュベートした。高塩緩衝液でのプレートの洗浄を繰り返した。DelfiaTM強化緩衝液(Wallac、730232、10μl/ウェル)をウェルに添加し、暗所で少なくとも30分間プレートをインキュベートした。ウェルの蛍光を、発光612nmおよび励起340nmの時間分解蛍光設定を用いて、Victor 1420(Wallac)で測定した。
【0078】
「プラーク無し」群について得られたグリカン結合シグナルを使用して、各グリカンについてのカットオフ値を計算した。このカットオフ値より上の患者を、陽性と見なした。これらのカットオフ値を、「プラーク無し」群+1または2標準偏差の平均シグナルとして定義した。この定義に従い、患者群間のある程度の分離力を有する多くのグリカンを同定した(以下を参照)。特定のグリカンに基づく「分離」を、「不安定アンギナ」群または「安定アンギナ」群における少なくとも50%(7/13)陽性のサンプルおよび「プラーク無し」群における2以下の陽性サンプルとして定義した。
【0079】
図16Aは、不安定アンギナまたは安定アンギナを罹患する患者の血清を試験するために使用されたグリカンの行列の図である。このグリカン構造を、表4に記載する。有意に異なる抗体レベルに対するグリカンを、別々の患者群において測定し、塗りつぶした四角(filled square)で印をつけた。平均+2標準偏差のカットオフレベルにおいて、「分離」は、IgAの2つの異なったグリカンへの結合によって達成された。IgG抗体間を分離し得たが、IgM抗体間を分離し得なかった。
【0080】
最高の分離を示した1つのグリカンを、以下に示す:
【0081】
【化1】
「分離」と定義されなかった幾つかのグリカンは、まだある程度の分離を示す。組み合わせて使用される場合、分離は、1つのグリカンの分離を超えて改善され得る。グリカンを以下に示す。
【0082】
【化2】
図16Bは、3患者群における、グリカン番号2および番号29に対する抗体のレベルを示すグラフの図である。ボックスは、集団の50%のシグナルを含む。ボックス内の太線および細線は、それぞれ平均および中央値を表す。0に最も近いボックスの境界は、25%を示し、そして0から最も遠いボックスの境界は、75%を示す。ボックスの上下のひげは、90%および10%を示す。
【0083】
図17は、3患者群におけるグリカン番号2またはグリカン番号29に対する抗IgA抗体について陽性な、サンプルの数を示す棒グラフである。
【0084】
図18Aは、3患者群における、グリカン番号2およびグリカン番号15に対する抗体レベルの分布を示す棒グラフである。ボックスは、集団の50%のシグナルを含む。ボックス内の太線および細線は、それぞれ平均および中央値を表す。0に最も近いボックスの境界は、25%を示し、そして0から最も遠いボックスの境界は、75%を示す。ボックスの上下のひげは、90%および10%を示す。
【0085】
図18Bは、3患者群における、グリカン番号2またはグリカン番号15に対する抗IgA抗体について陽性なサンプルの数を示す棒グラフである。平均+1標準偏差のカットオフレベルにおいて、「分離」は、IgAの6つの異なったグリカンへの結合によって達成された。IgGおよびIgM抗体レベルは、3群で異ならなかった。
【0086】
組み合わせで得られた分離を、以下に示す(「安定アンギナ」群における陽性サンプルの数はAbを用いるより低く、従って「不安定アンギナ」群に対する分離を改善するので、Aaを用いた):
【0087】
【化3】
従って、AaおよびGNb4GNbを用いて「不安定アンギナ」を検出する試験の特異度および感度は、それぞれ62%(8/13)および88%(23/26)であった。
【0088】
3つのグリカン(Aa、GNb4GNb、およびFb)の組み合わせにより、「安定アンギナ」群についてもまた、75%(9/13)の特異度を決定することが可能になった。これは、Fbが主に「安定アンギナ」を検出する事実に由来する。組み合わせアッセイの特異度および感度を、図19にまとめる。
【0089】
これらの結果は、グリカン(Gal(α)、GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)およびFu(β))の組み合わせを使用して、安定アンギナ集団と不安定アンギナ集団との間を、62%の特異度および88%の感度で首尾よく識別し得ることを実証する。この結果は、不安定アンギナ患者と安定アンギナ患者との間を識別するIgA抗体に結合するグリカンに基づく生物マーカーを開発し得ることを示す。
【0090】
(実施例9.受攻プラークを有する高危険度アテローム硬化症患者と安定プラークを有する低危険度アテローム硬化症患者との間を区別するための抗グリカン抗体の使用)
受攻プラークを有するアテローム硬化症患者の血清中の抗グリカン抗体のレベルを、安定プラークを有するアテローム硬化症患者の血清およびアテローム硬化症でない個体の血清中の抗グリカン抗体のレベルと比較した。
【0091】
アテローム硬化症は、先進国における有病率および死亡率の主要な原因である。これは、血管壁の全身性障害であり、血管壁上にアテローム硬化性プラークの発生をもたらす。これらのプラークの幾つかは、後に破裂しやすくなり(become vulnerable to rupture)、心臓発作や卒中をもたらす凝血塊を生じる。
【0092】
アテローム硬化性プラークの主成分は、プロテオグリカン、脂質、筋細胞および白血球(T細胞およびマクロファージ)である。さらに、アテローム硬化症は、自己免疫疾患として認知され、ここで、その発動因子の1つが細菌抗原に対する抗体と血管壁上の抗原との間で交差反応性である。
【0093】
アテローム硬化症の発達における重要な点は、低危険度を有する安定プラーク(SP)から、高危険度を有する炎症性受攻プラーク(VP)への転換である。SPとVPとの間の識別は、臨床的に不確かであり、決定的な区別は、死後の死体解剖によってのみ行われ得る。
【0094】
血清サンプルの入手は、Tel Aviv Medical Center(Israel)の循環器科のJacob George博士による。全ての患者は、30〜69の範囲の年齢の、非糖尿病男性であった。以下の型からの患者の72の血清サンプルを、試験した:
不安定アンギナ−急性冠動脈症候群(Q波心筋梗塞または非Q波心筋梗塞)を有すると特徴付けた24人のアテローム硬化症患者。両者は、受攻プラークの破裂から発達すると考えられる。不安定アンギナ群のメンバーに、胸部疼痛およびEGG変化または心臓マーカー上昇を有すると認めた急性冠動脈症候群患者を含めた。彼らは、アンギナの最近(<3日)の発症を訴え、入院の間に連続の心電図(ECG)遠隔測定モニタリングを受けた。静止アンギナの少なくとも1つの発症または最近の48時間の間に20分を超えて続く発症を、クレアチンキナーゼの上昇、MBレベルまたはトロポニンレベルと共に検出した。この群のメンバーは、冠動脈造影を受けており(カテーテル法)、これは、冠動脈アテローム硬化症の存在を実証した。
【0095】
安定アンギナ−24人のアテローム硬化症患者を、安定アンギナを有すると特徴付けた。安定アンギナ群のメンバーは、冠動脈造影を受けており(カテーテル法)、これは、冠動脈アテローム硬化症の存在を実証した。EGG変化もなく、クレアチンキナーゼの上昇、MBレベルまたはトロポニンレベルも検出されなかった。
【0096】
プラーク無し−正常な冠動脈を有する24人の患者。「プラーク無し」群のメンバーは、カテーテル後の冠動脈アテローム硬化症の証拠を示さなかった。
【0097】
GlycoChip(登録商標)アレイ(Glycominds,Ltd.,Lod,Israel,カタログ番号9100)を使用して、WO00/49412に記載の手順を用いて構築した抗グリカン抗体プロフィールを得た。単糖類およびオリゴ糖類に共有的に結合したアレイを含む、GlycoChip(登録商標)プレート(Glycominds,Ltd.,Lod,Israel,カタログ番号9100)を使用して、換算体積384ウェルマイクロタイタープレートで、全ての血清サンプルを試験した。アレイ上に提示した単糖類およびオリゴ糖類ならびにその整理番号のリストを、表4に示す。
【0098】
血清を、TBST中で希釈し(1:20)、Tecan Genesis Workstation 200ロボットを使用して、GlycoChip(登録商標)プレート中に分配し(10μL/ウェル)、そして摂氏25度で、30分間インキュベートした。プレート上の各グリカンサンプルおよび血清サンプルを、8回試験した。
【0099】
このプレートを、自動プレート洗浄機(Tecan,PowerWasherTM)中で、250μL/ウェルの高塩緩衝液(0.15M KNa(pH7.2)、NaCl 2M、MgSO4 0.085M、0.05% Tween20)で洗浄した。10μL/ウェルのビオチン標識ヤギ抗ヒトIgA(Jackson,PA,USA)(TBST中1μg/ml)を、手動で分配し、そしてプレートを、25℃で30分間インキュベートした。プレートを、高塩緩衝液で再び洗浄した。
【0100】
ストレプトアビジン結合ユーロピウム(Wallac,AD0062)(1μ/ml、10μl/ウェル)を手動で加え、その後、暗所で25℃で30分間インキュベートした。高塩緩衝液でのプレートの洗浄を繰り返した。DelfiaTM強化緩衝液(Wallac、730232、10μl/ウェル)をウェルに添加し、暗所で少なくとも30分間プレートをインキュベートした。ウェルの蛍光を、発光612nmおよび励起340nmの時間分解蛍光設定を用いて、Victor 1420(Wallac)で測定した。
【0101】
正常集団の80%から、カットオフを計算した。この区別に従い、患者群間のある程度の分離力を有する多くのグリカンを同定した(以下を参照)。特定のグリカンに基づく「分離」を、「不安定アンギナ」群または「安定アンギナ」群における少なくとも50%(12/24)陽性のサンプルおよび「プラーク無し」群における5以下の陽性サンプルとして定義した。
【0102】
【化4】
これらの結果は、Glc(α1−4)Glc(α)、Glc(β)、GalNAc(α)、GalNAc(β)、GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)およびキシロース(α)のグリカンの組み合わせを使用し、安定アンギナ集団と不安定アンギナ集団との間を首尾よく識別し得ることを実証する。この結果は、不安定アンギナ患者と安定アンギナ患者との間を識別するIgA抗体に結合するグリカンに基づく生物マーカーを開発し得ることを示す。
【0103】
(実施例10.固体基材に固定化された多数のグリカンへのCD4+細胞の結合)
7人の健常個体からのCD4+細胞の、マイクロアレイ上に固定化された47の異なったグリカンフラグメントへの結合を試験した。
【0104】
(材料および方法)
10ml EDTA−バキュテイナー(Vaccutainer)を使用して、7個体のそれぞれから20mlの新鮮血を採取した。抹消細胞サンプルを、遠心分離した(230×g、900RPM、室温で10分間)。次いで、血漿を分離し、そして細胞画分の上部2mlを15mlチューブに移した。CD4+細胞の富化のために、100μlのRosetteSep試薬をチューブに加え、室温で20分間インキュベートした。次いで、このサンプルをPBS/2% FCS中で2倍に希釈し、そしてガラスパスツール(Pasteur)ピペットを用いて、5mlのFicollを細胞懸濁液の下に層状に入れた。
【0105】
チューブを、遠心分離機のブレーキを切って、2400RPM(約700×g)で、30分間室温で遠心分離した。遠心分離後、遠心分離機からチューブを注意深く取り出した。滅菌したピペットを用いて上層をゆっくりと吸い出し、境界を乱さないようにリンパ球層を残した。滅菌ピペットを用い、白血球層を清潔なチューブに移し、そしてチューブをPBS/2% FCSで完全に満たした。細胞を、230×g(1000RPM)で10分間遠心分離することにより2回洗浄し、PBS/2% FSCに再懸濁した。遠心分離後、細胞を、500μl PRMI/1640 2% FCS中に再懸濁した。
【0106】
細胞を、Tuerk溶液中で1:10に希釈し、計数した。計数後、細胞を、RPMI/1640 2% FCS中5×106細胞/mlの濃度で希釈し、次いで、24ウェルプレート中に1ml/ウェルで入れた。細胞懸濁液を、95%湿度、37℃、5% CO2インキュベーター内で一晩インキュベートした。
【0107】
細胞分離効率(cell separation yield)をFACS分離によって決定するため、250,000個の細胞を1mlのFACS緩衝液中に懸濁し、次いで2000RPM、4℃で10分間遠心分離した。上清をデカントした。細胞を、50μlのFACS緩衝液中に再懸濁し、5μlの抗CD4抗体で標識した。細胞を、氷上で30分間インキュベートし、光から保護した。1mlの氷冷FACS緩衝液を添加し、そして2000RPM、4℃で10分間遠心分離した。次いで、細胞を、300μlのFACS緩衝液中に再懸濁し、氷上で保存し、そしてFACS機器でスコアを記録した。
【0108】
GlycoChipTMをスライドホルダーに置き、湿度を保つため、プラスチック容器内に湿らせた紙と共に入れた。細胞懸濁液を、GlycoChipTM上に1.2μl/ウェルで置き、次いで、5% CO2インキュベーター(95%湿度、37℃)内で1時間インキュベートした。インキュベートした後、PBS中に浸した遠心分離チャンバー内に、スライドをゆっくりと裏返して置いた。GlycoChipTMを、700RPM(最小g力、約50×g)で2分間遠心分離した。スライドを、顕微鏡で観察し、そしてPBS/3.7% ホルムアミド中で、室温で少なくとも30分間固定した。次いで、スライドを、DDW中でゆっくりと3回洗浄し、そして風乾した。
【0109】
ヨウ化プロピジウム溶液をPBS中で調製し、そして1.2μl/ウェルで入れた。GlycoChipTMを、湿潤条件下で15分間インキュベートし、次いで、DDW中に浸すことによって穏やかに3回リンスした。スライドを暗所で風乾し、ヨウ化プロピジウム設定(励起535nm、発光655nm)で、アレイスキャナでスキャンした。画像を分析し、細胞密度を決定した。
【0110】
(結果)
結合研究に使用したグリカンおよびコントロールを、以下の図20に示す。構造は、LinearCode(登録商標)シンタックスに記載される。変換については、表1を参照のこと。
【0111】
種々のグリカンに対する単一個体由来のCD4+細胞の結合プロフィールを示す棒グラフを、図20に示す。各グリカンまたはコントロールについて、結合をDLU/mm2で示す。グリカンまたはコントロールに結合する、7人の個体由来のCD4+細胞を、図21Aに示す。図21Aは、7人の各個体由来のCD4+細胞についての相対蛍光中央値を示す。
【0112】
これらの結果は、CD4+細胞の結合が、種々のグリカンの間で異なることを実証する。最強の結合は、以下のグリカンに対してその相対的親和性の順番で観察された:CD4+細胞は、LinearCode(登録商標)に提供された以下のグリカンを結合する;NNa3Ab4(Fa3)GNb>Mb4Gb>GNb4GNb>Ma3Ma>Ab6Ab。また、末端マンノース残基を有するグリカンまたはSialyl Lewis X残基を有するグリカンへのCD4+細胞の結合を、検出した。また、特定のグリカンへのCD4+結合の変動を、種々の個体間で検出した。
【0113】
(他の実施形態)
本発明はその詳細な記載に関連して記載されているが、上記の記載は例証を意図し、本発明の範囲を限定することを意図しないことが理解され、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲の範囲によって定義されることが理解される。他の局面、利点、および改変は、特許請求の範囲の範囲内である。
【0114】
【表1−1】
【0115】
【表1−2】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
【表4−1】
【0119】
【表4−2】
【0120】
【表5】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に、多発性硬化症を診断する方法に関連し、より詳細には、生物学的サンプル中のグリカンに対する抗体のレベルを測定することによって多発性硬化症を診断する方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の慢性自己免疫疾患である。多発性硬化症は、若年成体の持続性障害の一般的な原因である。MSを被った患者において、免疫系は脳および脊髄の軸索のミエリン鞘(myelin sheet)を破壊し、それにより種々の神経学的病理を引き起こす。MSの最も一般的な形態、再発−寛解型では、神経機能の急性悪化(悪化、発作)の発症後、疾患の進行のない(安定な)部分的または完全な回復期(回復)が続く。MS患者の90%は、視神経、脳幹または脊髄における炎症性脱髄性損傷による臨床的に分離された症候群を始めに示す。臨床的に分離された症候群を有するそれらの患者の約30%は、症状後12ヶ月以内に臨床的に明確なMSへと進行する。疾患の後の進行は、患者によって顕著に変動し得る。その進行は、良性の経過から標準的な再発−寛解型、慢性進行性またはまれに劇症性に及び得る。
【0003】
臨床的に明確なMSの初期の検出を容易にするMS診断の方法は、疾患を管理するためおよび患者に助言を提供するための両方において有用である。例えば、臨床的に明確なMSを有する初期であると診断された患者は、初期MSにおいて有益であることが最近示された疾患を緩和する処置を提供し得る。
【0004】
MSの進行を評価し、追跡する現在の方法は、発作における患者の機能および発作の間に蓄積した障害の評価および点数化に基づく。MSを評価するために使用される1つの評価は、一般的に使用される拡大障害状態尺度(Expanded Disability
Status Scale:EDSS)である。しかし、EDSSは、患者の機能の主観的な評価に基づいている。
【0005】
診断のための方法はまた、磁気共鳴映像法(MRI)による、またはオリゴクローナルバンド(OCB)について脳脊髄液(CSF)を試験することによる脳損傷の追跡を含み得る。MRIは、脳損傷の評価のための物理的な方法であって、かつ日常的に使用するには費用がかかる。さらに、MRIの結果と疾患活性との関係は、不十分である。脳脊髄の穿刺は、日常的に使用するには適さない不快な侵襲性手順である。さらに、両方の方法とも障害が生じた後しか障害を評価できない;両方の方法とも発作の発症を予測し得ない。MSを診断するための方法としてのCSFにおけるOCBおよびMRIに対する試験でのさらなる不都合は、ネガティブなOCBまたはMRIがMSの存在を除外しないことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MSを診断するための客観的に評価されたマーカーを使用する方法に対する必要性およびMSを被った患者における発作の発症を予測することに対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、健常な個体のIgG、IgA、IgMの自己抗体の血清レベルと比較して、MS患者の、グリカン構造Glc(α)またはGlc(α1−4)Glc(α)またはGlc(α1−4)Glc(β)に結合するこれらの自己抗体の血清レベルが増加するという発見に一部基づく。さらに、これらのグリカン構造に特異的な同一の自己抗体は、悪化状態の間に、回復期の患者および健常な個体において観察されるレベルと比較して増加される。雌性におけるIgM抗Glc(α)抗体血清レベルと臨床的に診断された(再発−寛解型)MS患者と女性のEDSS(拡大障害状態尺度)スコアとの間で高い相関もまた観察されている。この高い相関は、血清中のIgM抗αグルコースのレベルが、疾患の活性に関して臨床代理終点マーカーとして、および臨床試験における薬物化合物の有効性を追跡する方法として作用し得ることを示す。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
被験体の多発性硬化症を診断する方法であって、ここで該方法は以下、
被験体から試験サンプルを提供する工程;
抗Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(β)抗体、抗Glc(β)抗体、抗Gal(β)抗体;抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体、抗−GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)抗体、抗L−Araf(α)抗体、抗L−Rha(α)抗体、抗Gal(β1−3)[GlcNAc(β1−6)]GalNAc(α)抗体、抗Gal(β1−4)GlcNAc(α)抗体、抗Gal(β1−3)GalNAc(α)抗体、抗Gal(β1−3)GlcNAc(β)抗体、抗GlcA(β)抗体、抗GlcA(β)抗体および抗Xyl(α)抗体からなる群から選択される少なくとも1つの抗体を、該試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該少なくとも1つの抗体のレベルを、コントロールサンプル中の該少なくとも1つの抗体のレベルと比較する工程であって、ここで、該コントロールサンプルが、多発性硬化症症状を有し、かつ公知の多発性硬化症状態を有する1以上の個体および多発性硬化症症状を示さない1以上の個体からなる群から選択される工程、
それによって、該被験体の多発性硬化症を診断する工程
を包含する、方法。
(項目2)
項目1に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
前記試験サンプル中の抗Glc(α)抗体を検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを、前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目3)
項目1に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
前記試験サンプル中の抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体を検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを、前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目4)
項目1に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
前記試験サンプル中の抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体および抗Glc(α)抗体を検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを、前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目5)
項目1に記載の方法であって、ここで前記コントロールサンプルが、本質的に、既知の多発性硬化症状態を含む多発性硬化症症状を有する1以上の個体の集団からなる、方法。
(項目6)
前記試験サンプルが生物学的液体である、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記生物学的液体が、全血、血清、血漿、脊髄液、尿または唾液である、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記生物学的液体が血清である、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記被験体が雌性である、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記被験体が雄性である、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記少なくとも1つの抗体がIgM型抗体である、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記少なくとも1つの抗体がIgA型抗体である、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記少なくとも1つの抗体がIgG型抗体である、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記抗Glc(α)抗体がIgM型抗体である、項目2に記載の方法。
(項目15)
前記抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体がIgM型抗体である、項目3に記載の方法。
(項目16)
前記診断が多発性硬化症の初期診断である、項目1に記載の方法。
(項目17)
前記コントロールサンプルが、拡大障害状態尺度(EDSS)評価または磁気共鳴映像法(MRI)評価を使用して決定される、項目1に記載の方法。
(項目18)
前記コントロールサンプルが、拡大障害状態尺度(EDSS)評価を使用して決定される、項目1に記載の方法。
(項目19)
前記方法が、少なくとも2つの前記抗体を検出する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目20)
前記方法が、少なくとも4つの前記抗体を検出する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記方法が、少なくとも6つの前記抗体を検出する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目22)
被験体の多発性硬化症の悪化を診断する方法であって、ここで該方法は以下、
被験体から試験サンプルを提供する工程;
抗Glc(α)IgM型抗体または抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体を該試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルをコントロールサンプルと比較する工程であって、ここで、該コントロールサンプルが、多発性硬化症状態が公知である1以上の被験体に由来する工程、
それによって、該被験体の多発性硬化症の悪化を診断する工程
を包含する、方法。
(項目23)
項目22に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
抗Glc(α)IgM型抗体を前記試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目24)
項目22に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
抗Glc(α1−4)Glc(α)αIgM型抗体を前記試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目25)
項目22に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
抗α−グルコースIgM型抗体および抗Glc(α1−4)Glc(α)αIgM型抗体を前記試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目26)
項目22に記載の方法であって、ここで前記コントロールサンプルが本質的に、多発性硬化症の悪化症状を示さない回復多発性硬化症状態の1以上の個体の集団からなり、抗Glc(α)抗体または抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体が、該コントロールサンプルより前記試験サンプル中により多く存在する場合、前記被験体の多発性硬化症の悪化が診断される、方法。
(項目27)
項目22に記載の方法であって、ここで前記コントロールサンプルが本質的に、多発性硬化症状態が悪化し、多発性硬化症悪化の症状を示す1以上の個体の集団からなり、類似した抗Glc(α)抗体または抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体レベルが前記試験サンプルおよび前記コントロールサンプル中に存在する場合、前記被験体の多発性硬化症の悪化が診断される、方法。
(項目28)
前記試験サンプルが生物学的液体である、項目22に記載の方法。
(項目29)
前記生物学的液体が、全血、血清、血漿、脊髄液、尿または唾液である、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記生物学的液体が血清である、項目28に記載の方法。
(項目31)
前記被験体が雌性である、項目22に記載の方法。
(項目32)
前記被験体が雄性である、項目22に記載の方法。
(項目33)
前記診断が多発性硬化症悪化の初期診断である、項目22に記載の方法。
(項目34)
前記被験体がインターフェロンβの皮下投与により処置される、項目22に記載の方法。
(項目35)
前記被験体が酢酸グラチラマーの皮下投与により処置される、項目22に記載の方法。
(項目36)
被験体の多発性硬化症疾患の重篤度を評価するための方法であって、ここで該方法は以下、
被験体から試験サンプルを提供する工程;
該試験サンプルが、抗αグルコースIgM型抗体または抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体を含有するか否かを決定する工程;および
該試験サンプル中の該少なくとも1つの抗体のレベルをコントロールサンプルと比較する工程であって、ここで、該コントロールサンプルが、多発性硬化症疾患の重篤度が既知である1以上の被験体に由来する工程、
その結果、該被験体の多発性硬化症の重篤度を評価する工程
を包含する、方法。
(項目37)
項目36に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
抗Glc(α)IgM型抗体を前記試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目38)
項目35に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体を前記試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目39)
項目35に記載の方法であって、ここで該方法は以下、
抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体および抗Glc(α)IgM型抗体を前記試験サンプル中に検出する工程;および
該試験サンプル中の該抗体のレベルを前記コントロールサンプルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目40)
項目36に記載の方法であって、ここで前記コントロールサンプルが本質的に、多発性硬化症疾患の重篤度が拡大障害状態尺度(EDSS)、EDSS評点の変化または磁気共鳴影像法(MRI)評価によって定義される1以上の個体の集団からなる、方法。
(項目41)
前記試験サンプルが生物学的液体である、項目36に記載の方法。
(項目42)
前記生物学的液体が、全血、血清、血漿、脊髄液、尿または唾液である、項目41に記載の方法。
(項目43)
前記生物学的液体が血清である、項目41に記載の方法。
(項目44)
前記被験体が雌性である、項目36に記載の方法。
(項目45)
前記被験体が雄性である、項目36に記載の方法。
(項目46)
項目36に記載の方法であって、さらに、多発性硬化症を処置する治療薬剤を選択する工程を包含し、該方法は、以下;
前記試験サンプルが抗グルコースα抗体を含有するか否かを決定する工程;および
前記被験体サンプルおよび前記コントロールサンプル中の該抗体の相対レベルに基いて治療薬剤および投与計画を選択する工程
を包含する、方法。
(項目47)
項目46に記載の方法であって、ここで前記方法がさらに以下、
前記試験サンプルが抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体を含有するか否かを決定する工程;および
該試験サンプル中の該抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体のレベルを、本質的に多発性硬化症状態が公知である1以上の個体からなるコントロールサンプル中の抗体のレベルと比較する工程
を包含する、方法。
(項目48)
多発性硬化症と関連する症状を診断するためのキットであって、該キットは以下:
抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体を特異的に検出する第一薬剤
抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体を特異的に検出する第二薬剤;および
該キットを使用するための指示書
を含む、キット。
(項目49)
IgM型抗体を特異的に検出する薬剤をさらに含む、項目48に記載のキット。
【0008】
MSと疑われる患者の血液におけるこれらの抗体のレベルをモニタリングすることは、MS患者の迅速かつ費用効果的な初期診断および疾患緩和薬物の初期の処方を容易にする。明確なMS患者の血液中のこれらの抗体をモニタリングすることはまた、所定の薬物の効果の迅速かつ費用効果的なモニタリングならびに初期の予防的な処置を可能にする発作の早期検出を可能にする。
【0009】
本発明のさらなる利点には、患者の症状が他の多くのMS様疾患に似ている場合、患者におけるMSの存在が疾患の初期段階と決定され得ることが挙げられる。初期診断は、医師が疾患の経過の初期でMSを処置することを可能にし、その結果、ミエリンの破壊によって引き起こされる損傷およびこの破壊によってもたらされる障害を最小化するかまたは予防する。さらに、本明細書中で開示された方法は、疾患の重篤度を評価するため、治療をモニタリングするため、および発作が起きる徴候が見られたら処置を変更するために、医師がMS患者を定期的に追跡することを可能にする。例えば、MS発作を示す生物マーカーにおける増加は、メチルプレドニゾロン(methylpredisone)(これは、発作の間に一般的に投与される一般的な抗炎症剤である)の患者への投与を保証し得る。
【0010】
本明細書中で開示された方法はまた、特定の患者に対する最も良い薬物処置を選択するために使用され得る。例えば、患者は、特定の薬物を用いる処置過程を開始し得、そしてマーカーのレベルにおける変化は、薬物の有効性を示す。マーカーレベルの減少状態への逆転は、薬物が効果を失ったことを示し、この薬物は短時間後に第2薬物で置換され得る。さもなければ、薬物がその特定の患者に対して有効である場合、医師は、決定するために次の発作を待たなければならない。
【0011】
本明細書で開示された生物マーカーはさらに、費用効果的な方法における試験薬物に対する患者の反応を評価するための代理終点として作用し得る。血清学試験に基づいた代理終点は、新規の潜在的なMS薬物の有効な試験を容易にする。
【0012】
1つの局面では、本発明は被験体の多発性硬化症を診断する方法を特徴とする。この方法は、被験体から試験サンプルを提供する工程および試験サンプル中のグリカン構造に特異的に結合する抗体である少なくとも1つの生物マーカーを検出する工程を包含する。その抗体は、例えば、抗Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(β)抗体、抗Glc(β)抗体、抗Gal(β)抗体;抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体、抗GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)抗体、抗L−Araf(α)抗体、抗L−Rha(α)抗体、抗Gal(β1−3)[GlcNAc(β1−6)]GalNAc(α)抗体、抗Gal(β1−4)GlcNAc(α)抗体、抗Gal(β1−3)GalNAc(α)、抗Gal(β1−3)GlcNAc(β)、抗GlcA(β)抗体または抗GlcA(β)抗体または抗Xyl(α)抗体であり得る。試験サンプル中の抗体のレベルは、コントロールサンプルと比較され、このコントロールサンプルは、多発性硬化症症状を示し、かつ公知の多発性硬化症状態を伴う多発性硬化症症状を有する1以上の個体に由来するか、または多発性硬化症症状を示さない個体に由来する。MS状態は例えば、悪化、発作、回復および疾患の安定な段階を含み得る。
【0013】
種々の実施形態では、これらの抗体の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18個が検出される。いくつかの実施形態において、試験サンプル中で検出される抗体は、抗Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体または、抗Glc(α)抗体と抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体の両方である。
【0014】
いくつかの実施形態において、コントロールサンプルは、多発性硬化症の症状を示さない1以上の個体の集団から本質的になる。他の実施形態において、コントロールサンプルは、多発性硬化症の症状を示す集団から本質的になる。コントロールサンプル中のMSの存在は、当該分野で公知の技術(例えば、拡大障害状態尺度(EDSS)評価もしくは磁気共鳴映像法(MRI)評価またはその両方)を使用して決定され得る。
【0015】
試験サンプルは、例えば、生物学的液体であり得る。生物学的液体の例としては、例えば、全血、血清、血漿、脊髄液、尿または唾液が挙げられる。
【0016】
被験体は、雌性または雄性のいずれかであり得る。
【0017】
検出された抗体は、例えば、IgM型抗体またはIgA型抗体またはIgG型抗体であり得る。
【0018】
いくつかの実施形態において、検出された多発性硬化症の型は、初期多発性硬化症である。
【0019】
被験体の多発性硬化症の悪化を診断する方法もまた、本発明により提供される。本方法は、被験体由来の試験サンプルを提供する工程、ならびに抗Glc(α)IgM型抗体および/または抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体を試験サンプル中で検出する工程を包含する。試験サンプル中の抗体レベルは、コントロールサンプルと比較され、そのコントロールサンプルはその多発性硬化症状態が既知である1以上の個体に由来する。
【0020】
いくつかの実施形態において、コントロールサンプルは、多発性硬化症の悪化症状を示さず、かつその多発性硬化症状態が回復状態にある1以上の個体の集団から本質的になる。コントロールサンプルより試験サンプルに、抗Glc(α)抗体または抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体が多く存在する場合、多発性硬化症の悪化が被験体で診断される。他の実施形態では、コントロールサンプルは、多発性硬化症の悪化の症状を示す1以上の個体の集団から本質的になり、そして、抗Glc(α)IgM型抗体および/または抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体のレベルが試験サンプル中およびコントロールサンプル中で類似した量で存在する場合、多発性硬化症の悪化は、被験体において診断される。
【0021】
試験サンプルは、例えば、生物学的液体であり得る。生物学的液体の例としては、例えば、全血、血清、血漿、脊髄液、尿または唾液が挙げられる。
【0022】
被験体は、雌性または雄性のいずれかであり得る。
【0023】
検出された抗体は、例えば、IgM型抗体またはIgA型抗体またはIgG型抗体であり得る。
【0024】
いくつかの実施形態において、診断は、多発性硬化症の悪化の初期診断である。
【0025】
いくつかの実施形態において、被験体は皮下投与されるMS治療薬剤(例えば、インターフェロンβまたは酢酸グラチラマー(glitamerer acetate))を用いて処置されている。
【0026】
被験体の多発性硬化症の重篤度を評価するための方法もまた本発明の範囲内である。その方法は、被験体由来の試験サンプルを提供する工程、および試験サンプルが抗Glc(α)IgM型抗体および/または抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM型抗体を含有するか否かを決定する工程を包含する。試験サンプル中の抗体の量は、コントロールサンプル中の抗体の量と比較され、このコントロールサンプルは、多発性硬化症疾患の重篤度が既知である1以上の個体に由来する。
【0027】
いくつかの実施形態において、コントロールサンプルは、1以上の個体の集団から本質的になり、その個体の多発性硬化症疾患の重篤度は、拡大障害状態尺度(EDSS)、EDSSスコアの変化または磁気共鳴映像法(MRI)評価によって規定される。
【0028】
試験サンプルは、例えば、生物学的液体であり得る。生物学的液体の例としては、例えば、全血、血清、血漿、脊髄液、尿または唾液が挙げられる。
【0029】
所望の場合、この方法はさらに、試験サンプルおよびコントロールサンプル中の抗体の相対レベルに基づいて、治療剤および投薬レジメンを選択することによって、多発性硬化症を処置するための治療剤を選択する工程を包含し得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、コントロールサンプルと比較して、より高い試験サンプルの抗体レベルは、治療剤および投薬レジメンの選択(すなわち、インターフェロンβ(BETAFERON(登録商標)、AVONEX(登録商標)、REBIF(登録商標))の皮下投与または酢酸グラチラマー(glitamerer acetate)(COPAXONE(登録商標)の皮下投与)を示す。
【0031】
被験体は、雌性または雄性のいずれかであり得る。
【0032】
多発性硬化症に付随する症状を診断するためのキットがまた、本発明により提供される。このキットは、抗Glc(α)抗体を特異的に検出する第1試薬、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体を特異的に検出する第2試薬およびこのキットを使用するための指示書を備える。このキットは、必要に応じて、IgM型抗体を特異的に検出する試薬を備える。
【0033】
本明細書で開示される抗体(例えば、抗Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(β)抗体、抗Glc(β)抗体、抗Gal(β)抗体;抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体、抗GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)抗体、抗L−Araf(α)抗体、抗L−Rha(α)抗体、抗Gal(β1−3)[GlcNAc(β1−6)]GalNAc(α)抗体、抗Gal(β1−4)GlcNAc(α)抗体、抗Gal(β1−3)GalNAc(α)、抗Gal(β1−3)GlcNAc(β)、抗GlcA(β)抗体または抗GlcA(β)抗体または抗Xyl(α)抗体)を特異的に検出する試薬を含む基板もまた本発明の範囲内である。その基板は、例えば、平面であり得る。
【0034】
さらなる局面では、本発明は、多発性硬化症を処置するための治療剤を選択する方法を提供する。この方法は、多発性硬化症を診断される被験体または多発性硬化症の危険性のある被験体から試験サンプルを提供する工程および試験サンプルが抗Glc(α)抗体を含有するか否かを決定する工程を包含する。試験サンプルの抗体レベルをコントロールサンプルの抗体レベルと比較し、このコントロールサンプルは、多発性硬化症疾患の重篤度が既知である1以上の個体から本質的になる。治療剤および投薬レジメンは、被験体サンプルおよびコントロールサンプル中の抗体の相対レベルに基づいて選択される。
【0035】
いくつかの実施形態において、この方法はさらに、試験サンプルが抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体を含有するか否かを決定する工程および試験サンプル中の抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体のレベルをコントロールサンプル中の抗体のレベルと比較する工程を包含し、ここでこのコントロールサンプルは、多発性硬化症疾患の重篤度が既知である1以上の個体から本質的になる。
【0036】
いくつかの実施形態において、コントロールサンプルは、その状態が多発性硬化症ではないかまたは安定な多発性硬化症である1以上の個体から本質的になる。
【0037】
他に定義されない場合、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で記載される方法および材料と類似しているかまたはそれらと等価なものが、本発明の実施および試験において使用され得るが、適切な方法および材料は以下に記載される。全ての出版物、特許出願、特許および本明細書で述べた他の参考文献は、参考としてその全体が援用される。抵触する場合には、定義を含む本明細書が制御する。さらに、材料、方法および実施例は、例示的なもののみであって、制限することを意図しない。
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、MSが疑われる患者が実際にMSを有することを決定するための決定樹を示す。
【図2】図2は、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体またはGlc(α)抗体のレベルに基づいて、MS患者に対する薬物および投薬量を選択するための決定樹を示す。
【図3】図3は、MS患者における発作の予測および初期診断のための決定樹を示す。
【図4】図4は、MS患者ならびに正常な個体の種々の抗グリカン抗体の結合に由来する相対的な蛍光を示す表である。グリカン構造は、表の上部の行に、LINEARCODE(登録商標)シンタックスに示される。
【図5】図5は、MS患者から抽出される血清対正常なコントロール血清に由来する種々のグリカンに対する抗グリカン抗体の平均シグナルおよび中央値シグナルを示す。グリカン構造は、LINEARCODE(登録商標)シンタックスに示される。
【図6】図6は、MS個体と健常な個体との間の平均シグナルの違いを示すグラフであって、線は、標準偏差を示す。グリカン構造は、LINEARCODE(登録商標)シンタックスに示される。
【図7】図7Aは、MS集団および健常な集団における抗Glc(α)、(グリカン#11)とGlc(α1−4)Glc(α)、(グリカン#12)IgMとの結合に由来する平均シグナルを示すグラフである。図7Bは、発作状態のMS患者集団、安定なMS患者集団および健常な集団における抗Glc(α)グリカン#11とGlc(α1−4)Glc(α)グリカン#12IgMとの結合に由来する平均シグナルを示すグラフである。
【図8】図8は、抗Glc(α)ポジティブMS患者(左の囲み)サンプルおよびネガティブMS患者(右の囲み)サンプルにおける抗グルコースαIgM抗体の接着に由来する相対的な蛍光とそれらのEDSSレベルとの間の関係を示すグラフである。
【図9】図9は、7の健常な個体における13週にわたるIgM抗グリカン抗体、IgGグリカン抗体およびIgA抗グリカン抗体の結合に由来するシグナルの一時的な安定性を示すグラフである。
【図10】図10A〜10Eは、グリカンアレイ、化学構造、レクチン相互作用の特異性および再現性を示す。図10Aは、リンカーを介してその還元末端で固体表面に共有結合したp−アミノフェニルP−サッカライドを示す。 図10Bは、グリカンアレイに対するビオチン化WGAの結合のバッチ間の再現性を示す。アレイの3つの別のバッチを、ビオチン化WGAを使用して同時にアッセイした。 図10Cは、Man(α)に結合するConAを用いた競合アッセイを示す。可溶性マンノースまたはGal(β1−4)Glcの濃度を増加させて、ビオチン化ConA(1.5μg/ml)とともに1時間インキュベートし、ユーロピウムに結合したストレプトアビジンを使用して検出した。 図10Dは、種々のアノマーに結合するレクチンの特異性を示す。ConAは、ネガティブコントロールであるGlycerol(19)、Man(α)(26)およびMan(β)(27)に結合する。GSIは、Gal(α)(1)、Gal(β)(2)、GalNAc(α)(7)およびGalNac(β)(8)に結合する。 図10Eは、グリカンアレイのプレート間の再現性を示す。GlcNac(β)を示す5つの同一のプレートを、ビオチン化WGAでプローブした。
【図11】図11は、健常なヒト集団のグリカン結合プロフィールを示す。72個体に由来する血清サンプル中の類別されたグリカン(グリカン構造については、表5を参照のこと)に結合する抗炭水化物抗体を、ビオチン化タンパク質Aで測定した。各点は、2つの実験の平均を示し、それぞれは、4連でなされた。この四角は、集団の50%のシグナルを含む。四角中の太い線および細い線は、それぞれ平均値および中央値を表す。最も0に近い四角の境目は、25%の点を示し、0から最も遠い四角の境目は、75%の点を示す。四角の上のひげおよび下のひげは、90%の点および10%の点を示す。測定した非特異的なシグナルのレベルを、実験的に規定した。抗体のレベルが比較的低く、実験間で大きく変動することが見出されたグリカンを、バックグランドレベルを定義するために指定した(示さず)。これらのグリカンに対する平均シグナル値を、各血清サンプルおよび特定のグリカンから得たシグナルから計算し、減算した。平均バックグランドは、3×105RFUであった。TBSTは、Tween−20を含むTris緩衝生理食塩水である(実験プロトコルを参照のこと。)。
【図12】図12は、一連のグリカンに対する個々の血清のシグナルを示す。相対蛍光単位(RFU)で測定した抗グリカン抗体結合を、単調で、非直線的なマッピングを用いるヒストグラム均等化様の方法(histogram equalization−like method)を使用して変換した。この方法で、RFU値を0(青)と255(赤)との間の範囲で再評価した。このデータを、シミュレートしたアニーリングアルゴリズムを使用して、クラスター形成した。
【図13】図13A〜13Cは、(A)精製された抗L−Rha(α)抗体の、33グリカンのアレイに対する親和性の結合プロフィール、(B)精製された抗GlcNAc(α)および抗GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)の、33グリカンのアレイに対する親和性の結合プロフィール、ならびに(C)精製された抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体および抗GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)抗体の、33グリカンアレイに対する親和性の結合プロフィールを示す。
【図14A】図14Aは、抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体の特異性を示す。(A)抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体結合の競合阻害。親和性の結合の阻害は、Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc濃度またはGal(β1−4)Glc濃度の関数としての、ウェル表面に固定化されたp−アミノフェニル−β−Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)に対する精製抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体の結合親和性の阻害であった。ビオチン化ヤギ抗ヒトIgG抗体を使用して、結合した抗体の量を測定した。
【図14B】図14Bは、抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体の特異性を示す。(B)結晶性セルロースまたは非晶質セルロースとインキュベーションした後の同系の糖類に対する抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)(A)抗体および抗L−Rha(α)(B)抗体の結合。ビオチン化したヤギ抗ヒトIgG抗体を使用して、結合した抗体の量を測定した。
【図15】図15A〜図15Cは、示したグリカンに対する健常な個体のIgGアイソタイプ、IgAアイソタイプおよびIgMアイソタイプの結合のグラフによる表示である。
【図16】図16Aは、不安定なアンギナまたは安定なアンギナを罹患したアテローム性動脈硬化症患者の血清を試験するために使用されたグリカンのマトリックス表示である。種々の患者群で測定した、対する抗体レベルが有意に異なるグリカンを、四角形にうめて標識した。グリカンは、表4に列挙する。図16Bは、3つの患者群:不安定なアテローム性動脈硬化症群、安定なアテローム性動脈硬化症群、および非アテローム性動脈硬化症群におけるグリカン#2およびグリカン#29に対する抗体のレベルを示すグラフによる表示である。四角は、集団の50%に由来するシグナルを含む。四角中の太い線および細い線は、それぞれ平均値および中央値を表す。0に最も近い四角の境目は、25%の点を示し、0から最も遠い四角の境目は、75%の点を示す。四角の上のひげおよび下のひげは、90%の点および10%の点を示す。
【図17】図17は、グリカン#2またはグリカン#29に対する抗IgA抗体に対してポジティブである3つの患者群のサンプルの数を示すヒストグラムである。
【図18A】図18Aは、3つの患者群におけるグリカン#2およびグリカン#15に対する抗体レベルの分布を示すヒストグラムである。四角は、集団の50%に由来するシグナルを含む。四角中の太い線および細い線は、それぞれ平均値および中央値を表す。0に最も近い四角の境目は、25%の点を示し、0から最も遠い四角の境目は、75%の点を示す。四角の上のひげおよび下のひげは、90%の点および10%の点を示す。
【図18B】図18Bは、グリカン#2またはグリカン#15に対する抗IgA抗体に対してポジティブである3つの患者群のサンプルの数を示すヒストグラムである。
【図19】図19は、グリカン#2、グリカン#15、グリカン#17およびグリカン#49に対する抗IgA抗体レベルに基づいた特異度および感度のグラフによる表示である。A−アテローム性動脈硬化症;S−安定;US;不安定;NA−非アテローム性動脈硬化症。
【図20】図20は、単一の個体に由来するCD4+細胞の種々のグリカンに対する結合プロフィールを示すヒストグラムである。グリカン構造は、LINEARCODE(登録商標)シンタックスに示される。
【図21A】図21Aは、LINEARCODE(登録商標)シンタックスに示されるグリカン構造に対する、7の個体のそれぞれに由来するCD4+細胞についての相対的な蛍光の中央値を示すグラフである。
【図21B】図21Bは、一連のグリカンに対する個々の血清のシグナルを示す。相対蛍光単位(RFU)で測定した抗グリカン抗体結合を、単調で、非直線的なマッピングを用いるヒストグラム均等化様の方法を使用して変換した。この方法で、RFU値を0(青)と255(赤)との間の範囲で再評価した。このデータを、シミュレートしたアニーリングアルゴリズムを使用して、クラスター形成した。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(発明の詳細な説明)
本明細書中に提供される方法は、客観的に評価された生物マーカーレベルを使用して、初期の多発性硬化症および再発性多発性硬化症の早期診断を可能にする。MSを有する患者を診断するための現在の決定樹は、図1に記載される。最初に神経性機能が急性的に悪化した患者は、明確なMS患者として診断された後に、疾患改変薬物で処置するために適格となるべきである。医師は、患者がMS様症状(例えば、若年性発作、狼瘡、ビタミンB−12欠損症、抗リン脂質症候群、重篤な偏頭痛)を有するか否か、または患者が実際にMSを有するか否かを決定しなければならない。患者は、MS患者として診断される前に、神経機能の第2急性悪化(発作)に直面しなければならず、そして、MS治療薬剤(例えば、インターフェロンβまたは酢酸グラチラマー(glatiramer acetate))で長期的な処置を開始し得る
現在、医師は、MRIを使用して脳傷害の存在を同定し、そして/または、オリゴクローナルバンド(OCB)について脳脊髄液(CSF)を試験する。MRIが、CSFにおける、脳傷害の存在またはOCBの存在に関して明確な結果を示す場合、医師は、無症状の脳傷害を予防するために、処置をただちに開始し得る。完全なMS診断の診断は現在、第2発作の後にのみ行なわれている。MRIが明確な結果を与えない場合、または患者CSFにOCBが存在しない場合、MSとは診断されず、第2発作が次に起こるまで処置が遅延する。
【0040】
本明細書で開示された方法は、神経学的機能が急に悪化し、MSを有すると疑われる患者から血液を抽出することにより行われ得る。この方法は、抗Glc(α)レベルおよび抗Glc(α1−4)Glc(α)IgMレベルを測定することにより、MSの存在を同定し得る。これらの抗体の少なくとも1つのレベルが、健常な個体の血清のこれらの抗体の平均レベルより有意に高い場合、その患者は、第2発作を待つ必要なく、MS患者と診断される。さらに、迅速な診断は、ただちに処置を開始することを可能にする。
【0041】
MSに対する一連の処置の第1は、インターフェロンB(例えば、INFβ−1aおよびINFβ−1b)である。現在の効果の評価および必要な薬物の投薬量は、いくつかの臨床スコアの継続したモニタリングに基づく。現在、EDSSスコアおよび時間の経過によるその変化(例えば、3〜6ヶ月毎に、EDSSの違いを比較することによる)は、疾患の管理についての主要な臨床パラメーターである。評価の重要な要素は、患者が経験した疲労のレベルおよびうつ状態のレベルである。疲労およびうつ状態は、(自己免疫疾患としての)MSの症状であり得るかまたはインターフェロンβの使用から生じる副作用であり得る。疲労の原因を同定することは、処置を管理するために重要である。例えば、疲労がインターフェロンの副作用の結果である場合、医師は投薬量を下げることを考え得るかまたは、別の薬物に交換することさえ考える。しかし、その疲労がMS症状に起因する場合、医師は薬物投薬量を増加させることを考えなければならない(図2を参照のこと)。
【0042】
患者の血液をスクリーニングすること、および本明細書で開示された生物マーカー(例えば、本明細書中のIgM抗体、抗Glc(α)および抗Glc(α1−4)Glc(α))のレベルを決定することは、治療の正確なモニタリングを可能にする。抗体レベルの有意な減少は、その患者が投与された薬物によく反応していることを示す。
【0043】
(発作の早期の検出)
現在、MS患者における発作の開始を予測する方法はない。MRIおよび患者の臨床的評価は、既に生じた損傷を明らかにし得るのみである。本明細書中に記載された方法に従って、患者の血液中の少数の抗グリカン抗体(例えば、抗Glc(α)IgMまたは抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM)のレベルを定期的に測定することは、医師がこれらの抗体のレベルの増加に基づいて、次の発作を同定することを可能にする。MS発作状態の患者の血液のこれらの抗体のレベルは、安定な状態の患者に対して有意に高い(図7を参照のこと)。これらの抗体の増加の検出に基づいて、炎症を軽減するためおよびミエリンに対する損傷を予防するために、医師は積極的なステロイド処置を開始し得る(図3を参照のこと)。
【0044】
グリカンに特異的な抗体生物マーカーを使用して、アテローム性動脈硬化の危険性のある個体を、安定なアンギナおよび不安定なアンギナに関して同定する方法、および評価する方法、ならびに目的の細胞を検出するための固定化したグリカンの使用もまた、本明細書中で提供される。
【0045】
種々のグリカン構造が、本出願中で議論される。グリカンは、糖質の表示についての国際純正および応用化学連合(IUPAC)の要約された形式か、またはLINEARCODE(登録商標)シンタックスのどちらかで表示される。ここで、LINEARCODEシンタックスの原理については、Banin E.Neuberger Y.Altshuler Y.Halevi A.Inbar O.Dotan N.およびDukler A.(2002) A Noval Liner Code Nomenclature for complex Carbohydrates.Trends in Glycoscience and Glycotechnology Vol.14 No.77 pp127〜137を参照のこと。LINEARCODE表示からIUPAC表示への変換は、表1に示す。本開示で議論される全てのグリカン構造は、他に言及しない限り、図10Aに記載されるように、リンカーを介して、示したアノマーαまたはアノマーβを区別して固相に結合する。
【0046】
本発明は、以下の非限定的な実施例に例証される。
【実施例】
【0047】
(実施例1.多発性硬化症(MS)患者集団と健常な集団との間の血清中の抗グリカン抗体の比較)
GlycoChip(登録商標)アレイ(Glycominds,Ltd.,Lod、Israel、カタログ番号9100)を使用して、抗グリカン抗体(Igs)プロフィールを得た。WO00/49412に記載される手順を使用して、アレイを構築した。40の多発性硬化症患者の抗グリカン抗体プロフィールと、性別および年齢の一致する40の健常な血液ドナーの抗グリカン抗体プロフィールとを比較した。
【0048】
GlycoChip(登録商標)プレート(Glycominds,Ltd.,Lod、Israel、カタログ番号9100)(これは、体積を減じた384ウェルマイクロタイタープレートに共有結合した単糖およびオリゴ糖のアレイである)を使用して、全ての血清サンプルを試験した。アレイ上に提示された単糖およびオリゴ糖を、図4に列挙する。グリカン構造を記載するために使用したLinearCode(登録商標)シンタックスの、IUPAC命名法への転換は、表1に見出され得る。
【0049】
インフォームドコンセントに署名した健常な志願者およびMS患者志願者の血清を、空にしたシリコーン被覆ゲル含有チューブ(Estar Technologies カタログ番号 616603 GLV)中に回収した。その血清を血液細胞から分離し、使用するまで、−25℃で凍結保存した。それらを2つの別々の実験で分析し、それぞれの試験は、別の日に2回繰り返した。
【0050】
Tecan Genesis Workstation 200 ロボットを使用して、志願者からの血清をTBSTに希釈(1:20)し、GlycoChip(登録商標)プレート中(10μL/ウェル)に分配し、25℃で30分間インキュベートした。プレート上の各グリカンおよび血清サンプルについて4回繰り返した。
【0051】
このプレートを、自動プレート洗浄器(Tecan、PowerWasherTM中で、250μL/ウェルの高塩濃度緩衝液(0.15M KNa pH7.2、NaCl 2M、MgSO4 0.085M、0.05% Tween20)を使用して洗浄した。10μl/ウェルのTBST中1μg/mlのビオチン化タンパク質A(ICN62−265)を、手動で分配し、このプレートを25℃で、30分間インキュベートした。このプレートを、高塩濃度緩衝液で再度洗浄した。
【0052】
ストレプトアビジン結合ユーロピウム(Wallac、AD0062、1μ/ml、10μl/ウェル)を手動で添加し、その後暗所で、25℃で30分間インキュベートした。このプレートの高塩濃度緩衝液での洗浄を繰り返した。DelfiaTM増強緩衝液(Wallac、730232、10μl/ウェル)をウェルに添加し、このプレートを暗所で、少なくとも30分間インキュベートした。発光612nmおよび励起340nmの時間分解蛍光設定を使用して、ウェルの蛍光をVictor1420(Wallac)で読み取った。
【0053】
試験した全ての患者のプロフィールを図4に示す。上部の40列(MS)は、MSサンプルの抗炭水化物レベルを表し、下部の40列(NC)は、健常なコントロール集団からのサンプルの抗炭水化物レベルを表す。示した値は、バックグラウンド減算を行なわない、絶対値である。結合した抗体の検出は、ビオチン化したタンパク質A(IgG、IgAおよびIgMに結合する)を用いて行なったので、このシグナルは、全てのサブタイプIgG、IgAおよびIgMからの抗体の総結合を表わす。
【0054】
MS集団と健常な集団との間の抗炭水化物抗体の平均値および中央値の比較は、MS患者由来のサンプルと健常な集団由来のサンプルとの間の顕著な違いを明らかにする(表5を参照のこと)。2つの群間で観察された主要な差の一例は、グリカンGa4Gbに対する平均シグナルである。t検定は、この差が非常に統計的に有意である(α=0.05;p<0.001)ことを示す。別の例は、Ab3(GNb6)ANa(α=0.05;p<0.001)である。以下のグリカンに結合する抗体に関して、MS集団と健常な集団との間のシグナルの中央値に有意な差が存在する:Glc(α)、Glc(α1−4)Glc(α)、Glc(α1−4)Glc(β)、Glc(β)、Gal(β)、Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)、GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)、L−Araf(α)、L−Rha(α)、Gal(β1−3)[GlcNAc(β1−6)]GalNAc(α)、Gal(β1−4)GlcNAc(α)、Gal(β1−3)GalNAc(α)、Gal(β1−3)GlcNAc(β)、GlcA(β)、GlcA(β)、Xyl(α)。MS群における結合した抗体からのシグナルは、通常のコントロール群のシグナルより高い。
【0055】
図6は、集団間の抗グリカン抗体の平均結合値の間の差異を示す。
【0056】
(実施例2.発作状態のMS患者集団、安定なMS患者集団および健常な集団間の血清における抗Glc(α)抗体、抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体、IgM抗体のレベルの差異)
健常な集団と多発性硬化症(MS)患者の群との間を識別するため、および悪化したMS患者と回復段階のMS患者との間を識別するための生物マーカーを、ヒト血清グリカン結合抗体レパートリーの中から探索するために、グリカンアレイを使用した。この実施例は、2個のIgM抗体(抗Glc(α)および抗Glc(α1−4)Glc(α))が、健常な人に比べてMS患者で有意に高いレベルで見出され(それぞれ、60%の感度および93%の特異度)、回復段階の患者に比べて悪化状態の患者で有意に高いレベルで見出される(それぞれ、89%の感度および71%の特異度)。13週の休止期間の間の変動の範囲を含む健常な集団に対する抗グリカン抗体プロフィールもまた提供される。
【0057】
明らかに健康な個体における13週より長い抗グリカン抗体プロフィールの一時的な安定性は高かった。健常な集団の抗Glc(α)および抗Glc(α1−4)Glc(α)IgMの低いレベル、MS患者におけるそれらの高いレベルならびに抗グリカン抗体の一時的な高い安定性は、抗Glc(α)および抗Glc(α1−4)Glc(α)IgMが、早期診断、薬物の早期処方、薬物の効果のモニタリングおよび発作の早期検出に対する生物マーカーとしての役目を果たし得ることを示唆する。
【0058】
GlycoChip(登録商標)(Glycominds Ltd.、Lod、Israel)を使用して、全ての血清サンプルを試験した。グリカンは、以前に記載された(WO02/064556)ように、リンカーを介してプラスチック表面に共有結合していた。試験した単糖およびオリゴ糖を記載する一覧表は、表1に提供される。
【0059】
IsraelのTel−AvivのHelsinki Human Studies Ethical committees of the Belinson Medical CenterおよびIsraelのHaifaのCarmel Medical Centerによって承認されたインフォームドコンセントプロトコルの下で、明らかに健常な血液ドナーから血液サンプルを得た。IsraelのHaifaのCarmel Medical CenterのMultiple sclerosis Clinicに認められたMS患者から血液サンプルを回収した。凝血塊から血清を分離するために、血液サンプルを、空にしたシリコーン被覆ゲル含有チューブ中に回収した(Estar Technologies)。血液の凝固の後、血清を遠心により分離し、回収した。サンプルは使用するまで、−25℃で凍結保存した。
【0060】
グリカンアレイに添加した全容液の体積は、10μl/ウェルであった。血清を、1%BSA(Sigma)を含有する0.15M Tris−HCl pH7.2、0.085M Mg2SO4、0.05% Tween20(TBST)中に希釈(1:20;飽和濃度)し、Tecan Genesis Workstation 200自動処理システムを使用してグリカンアレイプレートに分配し、37℃で60分間インキュベートした。次いで、プレートを自動プレート洗浄器(Tecan、PowerWasherTM)中で、0.05%Tween20(PBST、Sigma)を含む250μL/ウェルのリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した。この時点で、1%BSAを含むTBSTに希釈した以下の試薬を、Multidrop384分配器(Thermo Labsystems)を使用して添加し、そして、37℃で60分間インキュベートした:IgG、IgAおよびIgMの決定については、それぞれのサブクラスの特定のビオチン化ヤギ抗ヒトIg抗体(Jackson、PA、USA)をそれぞれ2.8μg/ml、3μg/mlおよび0.9μg/ml;総Igの決定については、ビオチン化タンパク質A(1μg/ml、ICN Biomedicals)。PBSTで洗浄した後、1%BSAを含むTBST中に希釈したストレプトアビジン結合ユーロピウム(0.1μg/ml)を各ウェルに添加し、その後37℃で暗所で、30分間インキュベートし、そしてPBSTで洗浄した。次いで、DelfiaTM増強溶液を各ウェルに添加し、その後プレートを室温で暗所で、30〜45分間インキュベートした。ウェルの蛍光を、340/612nm(励起/発光)の時間分解蛍光設定を使用するVictor 1420(Wallac、Finland)プレートリーダーで読み取った。
【0061】
(抗Glc(α)IgM抗体および抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM抗体の血清中のレベルにおける、発作中のMS患者と安定MS患者と健常集団との間の相違)
血清サンプルを、定期試験のために外来診療所を訪れたMS患者から、彼らがインフォームドコンセント書類に署名した後で入手した。患者群は、80%が女性であった。これは、一般的なMS人口における男女比をほぼ反映している。公表されたデータ(Ritchieら,J.Clin.Lab.Anal.12:363−70,1998)に従い、男性と比較した場合、健常女性およびMS女性の両方由来の血清において、著しく高いレベルのIgM抗体が観察された(しかし、IgGまたはIgAでは観察されなかった)(示さず)。従って、分析を、MS女性部分集団および健常女性部分集団のみに限定した。MSとしての1つの急性脱髄性事象を有する患者を確認するマーカー、および疾患の悪化期にある患者と回復期にある患者とを識別するマーカーを同定する目的で、始めにMS患者の血清を、54のグリカン(表1)においてIgG抗グリカン抗体、IgM抗グリカン抗体およびIgA抗グリカン抗体の存在についてスクリーニングした。54のグリカンのうちの5つを用い、最初の回において見出された群の間の幾つかの相違について実験を2回繰り返した。
【0062】
これらの研究において、IgM抗Glc(α)抗体のレベルおよび抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体のレベルにおける再現性がありかつ統計的に有意な相違が、健常群とMS群との間に見出された(図7A)が、IgGレベルまたはIgAレベルにおいて有意な相違は見出されなかった(示さず)。MS患者の両群の血清において、IgM抗Glc(α)および抗Glc(α1−4)Glc(α)のレベルは、健常集団におけるより有意に高かった。抗体セット最適カットオフ値(「健常」集団のシグナルの百分率97%)を使用し、カットオフ値より上の陽性サンプルおよびカットオフ値より下の陰性サンプルを同定した。従って、抗Glc(α)結合シグナルは、42のMSサンプルから19(45%感度)を、および44の明らかに健常な血清サンプルから42(96%特異度)を、正確に同定した。抗マルトース結合の測定は、MS血清の48%および明らかに健常な血清サンプルの95%を正確に同定した。抗Glc(α)アッセイまたは抗Glc(α1−4)Glc(α)アッセイのどちらかにおいて、シグナルがカットオフ値を上回るサンプルを陽性と定義することにより、感度を60%まで改善し、かつ93%の特異度を保つ(表2)。疾患の悪化期および回復期にある患者における抗Glc(α)抗体および抗Glc(α1−4)Glc(α)抗体の差次的分布は、前者の群において有意に高かった(図7B)。未処置患者とインターフェロンβで処置した患者との間に、相違は見出されなかった(示さず)。「安定」MS集団の百分率80%のカットオフ値として使用して、抗Glc(α)結合シグナルが、18の「発作」サンプルから15(83%感度)を、24の「安定な」サンプルから19(無徴候である安定に関して79%特異度)を、そして44の「健常」サンプルから42(95%特異度)を正確に同定したことを決定した。抗マルトース結合の測定は、発作血清の72%、「安定」血清の79%、および「健常血清」の97%を正確に同定した。Glc(α)アッセイまたはマルトースアッセイにおいてシグナルがカットオフ値を上回るサンプルを陽性と定義することにより、「安定」サンプルまたは「健常」サンプルに関連して、それぞれ89%の感度ならびに71%および95%の特異度を得る(表3)。抗Glc(α)IgM抗体および抗Glc(α1−4)Glc(α)IgM抗体の高い特異度および感度は、これらの抗体を、MS患者の早期の診断および決定のための効率的なツールにする。MS発作状況におけるこれらの抗体のレベルが、安定状態より高いという事実は、これらの抗体を、再発回復MS患者における発作の早期の同定および予測のためのツールにする。
【0063】
IgM抗Glc(α)抗体の保有について陽性であると(上述のように)定義された、臨床的に診断された女性(再発−回復)MS患者におけるIgM抗Glc(α)抗体血清レベルと、女性のEDSS(拡大障害状態尺度)スコアとの間に、高い相関関係が観察された(図8、左側のボックスを参照)。EDSSと、IgM抗Glc(α)抗体の保有について陰性であると定義された、臨床的に診断された女性(再発−回復)MS患者の血清におけるIgM抗Glc(α)抗体レベルとの間に、相関関係はなかった(図8、左側のボックスを参照)。この高い相関関係は、血清におけるIgM抗Glc(α)のレベルが、疾患の活性の評価のための分子代替生物マーカー(molecular surrogate biomarker)として作用し得ることを示す。
【0064】
(抗グリカン抗体レベルの時間的な範囲)
代替の生物マーカーとして使用するためのなんらかの生物学的パラメータを考慮する場合、正常集団において生物マーカーが時間における変数ではないことは、明らかに必要条件である。従って、7人の健常な志願者における、IgG、IgAおよびIgMの抗−L−Rha(α)抗体、抗GlcNAc(α)抗体、および抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)(βセロトリオース(Cellotriose))抗体の血清レベルを、13週間にわたって追跡した(図9)。一般に、血清抗体濃度は、別々の個体間で異なるが、時間にわたって極めて安定であることが見出される。例えば、血清番号9161および番号9162は、それぞれIgA抗GlcNAc(α)抗体およびGlc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β)抗体の非常に高くかつ時間的に安定な相対レベルを有するが、IgA抗L−Rha(α)抗体ならびにIgG抗体およびIgM抗体の比較的正常なレベルを有する。抗体レベルにおける変化が起こる場合、これらは、しばしば漸進的であり、そして数週間にわたって続く(例えば、血清番号9162;IgA抗Glc(β1−4)Glc(β1−4)Glc(β))が、急激でもまたあり得る(例えば、4週目と5週目との間で急激に上昇し、次いで再びその基本レベルまでゆっくりと戻る、血清番号9172;IgM抗−L−Rha(α))。
【0065】
(実施例4.正常ヒト集団における抗グリカン抗体プロフィール(AGAP))
34の単糖類およびオリゴ糖類への72の独立した血清の総Ig抗体の結合(タンパク質Aで検出される)(図11および表5)、ならびに6の単糖類および多糖類への200の血清のIgG、IgAおよびIgMの結合(図15A〜C)を、測定した。抗体について、GlcNAc(α)およびL−Rha(α)に対して最強のシグナルが記録され、一方で、グルコースのβ4連結多糖類、GlcNAc(β)、GlcNAC(β1−4)GlcNAC(β)、Gal(α)およびGal(α1−3)Gal(β1−4)GlcNAc(β)に対して、最低のレベルが観察された。これは、以前に公開されたデータとよく一致する。このデータは、市販のヒト血清プールにおける抗グリカン抗体の分布を示す(WO02/064556)。IgGサブクラスおよびIgAサブクラスのAGAPは、総Ig AGAPに類似し、一方で、IgMのAGAPは、より低くかつ異なったグリカンの間でより均一である。集団の抗グリカン抗体は、対数正規分布に適合する傾向があった(図15A〜15Cを参照)。試験した集団内の個体の間で抗グリカン抗体レベルのかなりの変動があることは明白であり、実際に独立したAGAPの存在を示唆するが、少量で存在する抗グリカン抗体に対するマーカーの検索を制限する。
【0066】
グリカンをビーズ上に固定化し、また、アフィニティビーズは、グルコースおよびL−Rha(α)のβ4連結オリゴ糖類に対する抗体を精製するために使用されている。これらの結合プロフィールおよび特異度を、図13、図14Aおよび図14Bに記載する。
【0067】
(実施例8.受攻(vulnerable)プラークを有する高危険度アテローム硬化症患者と安定プラークを有する低危険度アテローム硬化症患者との間を区別するための抗グリカン抗体の使用)
受攻プラークを有するアテローム硬化症患者の血清中の抗グリカン抗体のレベルを、安定プラークを有するアテローム硬化症患者の血清およびアテローム硬化症でない個体の血清中の抗グリカン抗体のレベルと比較した。
【0068】
アテローム硬化症は、先進国における有病率および死亡率の主要な原因である。これは、血管壁の全身性障害であり、血管壁上にアテローム硬化性プラークの発生をもたらす。これらのプラークの幾つかは、後に破裂しやすくなり(become vulnerable to rupture)、心臓発作や卒中をもたらす凝血塊を生じる。
【0069】
アテローム硬化性プラークの主成分は、プロテオグリカン、脂質、筋細胞および白血球(T細胞およびマクロファージ)である。さらに、アテローム硬化症は、自己免疫疾患として認知され、ここで、その発動因子の1つが細菌抗原に対する抗体と血管壁上の抗原との間で交差反応性である。
【0070】
アテローム硬化症の発達における重要な点は、低危険度を有する安定プラーク(SP)から、高危険度を有する炎症性受攻プラーク(VP)への転換である。SPとVPとの間の識別は、臨床的に不確かであり、決定的な区別は、死後の死体解剖によってのみ行われ得る。
【0071】
血清サンプルの入手は、Tel Aviv Medical Center(Israel)の循環器科のJacob George博士による。全ての患者は、30〜69の範囲の年齢の、非糖尿病男性であった。以下の型からの患者の39の血清サンプルを、試験した:
不安定アンギナ−急性冠動脈症候群(Q波心筋梗塞または非Q波心筋梗塞)を有すると特徴付けた13人のアテローム硬化症患者。両者は、受攻プラークの破裂から発達すると考えられる。不安定アンギナ群のメンバーに、胸部疼痛およびEGG変化または心臓マーカー上昇を有すると認めた急性冠動脈症候群患者を含めた。彼らは、アンギナの最近(<3日)の発症を訴え、入院の間に連続の心電図(ECG)遠隔測定モニタリングを受けた。静止アンギナの少なくとも1つの発症または最近の48時間の間に20分を超えて続く発症を、クレアチンキナーゼの上昇、MBレベルまたはトロポニンレベルと共に検出した。この群のメンバーは、冠動脈造影を受けており(カテーテル法)、これは、冠動脈アテローム硬化症の存在を実証した。
【0072】
安定アンギナ−13人のアテローム硬化症患者を、安定アンギナを有すると特徴付けた。安定アンギナ群のメンバーは、冠動脈造影を受けており(カテーテル法)、これは、冠動脈アテローム硬化症の存在を実証した。EGG変化もなく、クレアチンキナーゼの上昇、MBレベルまたはトロポニンレベルも検出されなかった。
【0073】
プラーク無し−正常な冠動脈を有する13人の患者。「プラーク無し」群のメンバーは、カテーテル後の冠動脈アテローム硬化症の証拠を示さなかった。
【0074】
GlycoChip(登録商標)アレイ(Glycominds,Ltd.,Lod,Israel,カタログ番号9100)を使用して、WO00/49412に記載の手順を用いて構築した抗グリカン抗体プロフィールを得た。単糖類およびオリゴ糖類に共有的に結合したアレイを含む、GlycoChip(登録商標)プレート(Glycominds,Ltd.,Lod,Israel,カタログ番号9100)を使用して、換算体積384ウェルマイクロタイタープレートで、全ての血清サンプルを試験した。アレイ上に提示した単糖類およびオリゴ糖類ならびにその整理番号のリストを、表4に示す。
【0075】
血清を、TBST中で希釈し(1:20)、Tecan Genesis Workstation 200ロボットを使用して、GlycoChip(登録商標)プレート中に分配し(10μL/ウェル)、そして摂氏25度で、30分間インキュベートした。プレート上の各グリカンサンプルおよび血清サンプルを、8回試験した。
【0076】
このプレートを、自動プレート洗浄機(Tecan,PowerWasherTM)中で、250μL/ウェルの高塩緩衝液(0.15M KNa(pH7.2)、NaCl 2M、MgSO4 0.085M、0.05% Tween20)で洗浄した。10μL/ウェルのビオチン標識ヤギ抗ヒトIgG、IgMまたはIgA(Jackson,PA,USA)(TBST中1μg/ml)を、手動で分配し、そしてプレートを、25℃で30分間インキュベートした。プレートを、高塩緩衝液で再び洗浄した。
【0077】
ストレプトアビジン結合ユーロピウム(Wallac,AD0062)(1μ/ml、10μl/ウェル)を手動で加え、その後、暗所で25℃で30分間インキュベートした。高塩緩衝液でのプレートの洗浄を繰り返した。DelfiaTM強化緩衝液(Wallac、730232、10μl/ウェル)をウェルに添加し、暗所で少なくとも30分間プレートをインキュベートした。ウェルの蛍光を、発光612nmおよび励起340nmの時間分解蛍光設定を用いて、Victor 1420(Wallac)で測定した。
【0078】
「プラーク無し」群について得られたグリカン結合シグナルを使用して、各グリカンについてのカットオフ値を計算した。このカットオフ値より上の患者を、陽性と見なした。これらのカットオフ値を、「プラーク無し」群+1または2標準偏差の平均シグナルとして定義した。この定義に従い、患者群間のある程度の分離力を有する多くのグリカンを同定した(以下を参照)。特定のグリカンに基づく「分離」を、「不安定アンギナ」群または「安定アンギナ」群における少なくとも50%(7/13)陽性のサンプルおよび「プラーク無し」群における2以下の陽性サンプルとして定義した。
【0079】
図16Aは、不安定アンギナまたは安定アンギナを罹患する患者の血清を試験するために使用されたグリカンの行列の図である。このグリカン構造を、表4に記載する。有意に異なる抗体レベルに対するグリカンを、別々の患者群において測定し、塗りつぶした四角(filled square)で印をつけた。平均+2標準偏差のカットオフレベルにおいて、「分離」は、IgAの2つの異なったグリカンへの結合によって達成された。IgG抗体間を分離し得たが、IgM抗体間を分離し得なかった。
【0080】
最高の分離を示した1つのグリカンを、以下に示す:
【0081】
【化1】
「分離」と定義されなかった幾つかのグリカンは、まだある程度の分離を示す。組み合わせて使用される場合、分離は、1つのグリカンの分離を超えて改善され得る。グリカンを以下に示す。
【0082】
【化2】
図16Bは、3患者群における、グリカン番号2および番号29に対する抗体のレベルを示すグラフの図である。ボックスは、集団の50%のシグナルを含む。ボックス内の太線および細線は、それぞれ平均および中央値を表す。0に最も近いボックスの境界は、25%を示し、そして0から最も遠いボックスの境界は、75%を示す。ボックスの上下のひげは、90%および10%を示す。
【0083】
図17は、3患者群におけるグリカン番号2またはグリカン番号29に対する抗IgA抗体について陽性な、サンプルの数を示す棒グラフである。
【0084】
図18Aは、3患者群における、グリカン番号2およびグリカン番号15に対する抗体レベルの分布を示す棒グラフである。ボックスは、集団の50%のシグナルを含む。ボックス内の太線および細線は、それぞれ平均および中央値を表す。0に最も近いボックスの境界は、25%を示し、そして0から最も遠いボックスの境界は、75%を示す。ボックスの上下のひげは、90%および10%を示す。
【0085】
図18Bは、3患者群における、グリカン番号2またはグリカン番号15に対する抗IgA抗体について陽性なサンプルの数を示す棒グラフである。平均+1標準偏差のカットオフレベルにおいて、「分離」は、IgAの6つの異なったグリカンへの結合によって達成された。IgGおよびIgM抗体レベルは、3群で異ならなかった。
【0086】
組み合わせで得られた分離を、以下に示す(「安定アンギナ」群における陽性サンプルの数はAbを用いるより低く、従って「不安定アンギナ」群に対する分離を改善するので、Aaを用いた):
【0087】
【化3】
従って、AaおよびGNb4GNbを用いて「不安定アンギナ」を検出する試験の特異度および感度は、それぞれ62%(8/13)および88%(23/26)であった。
【0088】
3つのグリカン(Aa、GNb4GNb、およびFb)の組み合わせにより、「安定アンギナ」群についてもまた、75%(9/13)の特異度を決定することが可能になった。これは、Fbが主に「安定アンギナ」を検出する事実に由来する。組み合わせアッセイの特異度および感度を、図19にまとめる。
【0089】
これらの結果は、グリカン(Gal(α)、GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)およびFu(β))の組み合わせを使用して、安定アンギナ集団と不安定アンギナ集団との間を、62%の特異度および88%の感度で首尾よく識別し得ることを実証する。この結果は、不安定アンギナ患者と安定アンギナ患者との間を識別するIgA抗体に結合するグリカンに基づく生物マーカーを開発し得ることを示す。
【0090】
(実施例9.受攻プラークを有する高危険度アテローム硬化症患者と安定プラークを有する低危険度アテローム硬化症患者との間を区別するための抗グリカン抗体の使用)
受攻プラークを有するアテローム硬化症患者の血清中の抗グリカン抗体のレベルを、安定プラークを有するアテローム硬化症患者の血清およびアテローム硬化症でない個体の血清中の抗グリカン抗体のレベルと比較した。
【0091】
アテローム硬化症は、先進国における有病率および死亡率の主要な原因である。これは、血管壁の全身性障害であり、血管壁上にアテローム硬化性プラークの発生をもたらす。これらのプラークの幾つかは、後に破裂しやすくなり(become vulnerable to rupture)、心臓発作や卒中をもたらす凝血塊を生じる。
【0092】
アテローム硬化性プラークの主成分は、プロテオグリカン、脂質、筋細胞および白血球(T細胞およびマクロファージ)である。さらに、アテローム硬化症は、自己免疫疾患として認知され、ここで、その発動因子の1つが細菌抗原に対する抗体と血管壁上の抗原との間で交差反応性である。
【0093】
アテローム硬化症の発達における重要な点は、低危険度を有する安定プラーク(SP)から、高危険度を有する炎症性受攻プラーク(VP)への転換である。SPとVPとの間の識別は、臨床的に不確かであり、決定的な区別は、死後の死体解剖によってのみ行われ得る。
【0094】
血清サンプルの入手は、Tel Aviv Medical Center(Israel)の循環器科のJacob George博士による。全ての患者は、30〜69の範囲の年齢の、非糖尿病男性であった。以下の型からの患者の72の血清サンプルを、試験した:
不安定アンギナ−急性冠動脈症候群(Q波心筋梗塞または非Q波心筋梗塞)を有すると特徴付けた24人のアテローム硬化症患者。両者は、受攻プラークの破裂から発達すると考えられる。不安定アンギナ群のメンバーに、胸部疼痛およびEGG変化または心臓マーカー上昇を有すると認めた急性冠動脈症候群患者を含めた。彼らは、アンギナの最近(<3日)の発症を訴え、入院の間に連続の心電図(ECG)遠隔測定モニタリングを受けた。静止アンギナの少なくとも1つの発症または最近の48時間の間に20分を超えて続く発症を、クレアチンキナーゼの上昇、MBレベルまたはトロポニンレベルと共に検出した。この群のメンバーは、冠動脈造影を受けており(カテーテル法)、これは、冠動脈アテローム硬化症の存在を実証した。
【0095】
安定アンギナ−24人のアテローム硬化症患者を、安定アンギナを有すると特徴付けた。安定アンギナ群のメンバーは、冠動脈造影を受けており(カテーテル法)、これは、冠動脈アテローム硬化症の存在を実証した。EGG変化もなく、クレアチンキナーゼの上昇、MBレベルまたはトロポニンレベルも検出されなかった。
【0096】
プラーク無し−正常な冠動脈を有する24人の患者。「プラーク無し」群のメンバーは、カテーテル後の冠動脈アテローム硬化症の証拠を示さなかった。
【0097】
GlycoChip(登録商標)アレイ(Glycominds,Ltd.,Lod,Israel,カタログ番号9100)を使用して、WO00/49412に記載の手順を用いて構築した抗グリカン抗体プロフィールを得た。単糖類およびオリゴ糖類に共有的に結合したアレイを含む、GlycoChip(登録商標)プレート(Glycominds,Ltd.,Lod,Israel,カタログ番号9100)を使用して、換算体積384ウェルマイクロタイタープレートで、全ての血清サンプルを試験した。アレイ上に提示した単糖類およびオリゴ糖類ならびにその整理番号のリストを、表4に示す。
【0098】
血清を、TBST中で希釈し(1:20)、Tecan Genesis Workstation 200ロボットを使用して、GlycoChip(登録商標)プレート中に分配し(10μL/ウェル)、そして摂氏25度で、30分間インキュベートした。プレート上の各グリカンサンプルおよび血清サンプルを、8回試験した。
【0099】
このプレートを、自動プレート洗浄機(Tecan,PowerWasherTM)中で、250μL/ウェルの高塩緩衝液(0.15M KNa(pH7.2)、NaCl 2M、MgSO4 0.085M、0.05% Tween20)で洗浄した。10μL/ウェルのビオチン標識ヤギ抗ヒトIgA(Jackson,PA,USA)(TBST中1μg/ml)を、手動で分配し、そしてプレートを、25℃で30分間インキュベートした。プレートを、高塩緩衝液で再び洗浄した。
【0100】
ストレプトアビジン結合ユーロピウム(Wallac,AD0062)(1μ/ml、10μl/ウェル)を手動で加え、その後、暗所で25℃で30分間インキュベートした。高塩緩衝液でのプレートの洗浄を繰り返した。DelfiaTM強化緩衝液(Wallac、730232、10μl/ウェル)をウェルに添加し、暗所で少なくとも30分間プレートをインキュベートした。ウェルの蛍光を、発光612nmおよび励起340nmの時間分解蛍光設定を用いて、Victor 1420(Wallac)で測定した。
【0101】
正常集団の80%から、カットオフを計算した。この区別に従い、患者群間のある程度の分離力を有する多くのグリカンを同定した(以下を参照)。特定のグリカンに基づく「分離」を、「不安定アンギナ」群または「安定アンギナ」群における少なくとも50%(12/24)陽性のサンプルおよび「プラーク無し」群における5以下の陽性サンプルとして定義した。
【0102】
【化4】
これらの結果は、Glc(α1−4)Glc(α)、Glc(β)、GalNAc(α)、GalNAc(β)、GlcNAc(β1−4)GlcNAc(β)およびキシロース(α)のグリカンの組み合わせを使用し、安定アンギナ集団と不安定アンギナ集団との間を首尾よく識別し得ることを実証する。この結果は、不安定アンギナ患者と安定アンギナ患者との間を識別するIgA抗体に結合するグリカンに基づく生物マーカーを開発し得ることを示す。
【0103】
(実施例10.固体基材に固定化された多数のグリカンへのCD4+細胞の結合)
7人の健常個体からのCD4+細胞の、マイクロアレイ上に固定化された47の異なったグリカンフラグメントへの結合を試験した。
【0104】
(材料および方法)
10ml EDTA−バキュテイナー(Vaccutainer)を使用して、7個体のそれぞれから20mlの新鮮血を採取した。抹消細胞サンプルを、遠心分離した(230×g、900RPM、室温で10分間)。次いで、血漿を分離し、そして細胞画分の上部2mlを15mlチューブに移した。CD4+細胞の富化のために、100μlのRosetteSep試薬をチューブに加え、室温で20分間インキュベートした。次いで、このサンプルをPBS/2% FCS中で2倍に希釈し、そしてガラスパスツール(Pasteur)ピペットを用いて、5mlのFicollを細胞懸濁液の下に層状に入れた。
【0105】
チューブを、遠心分離機のブレーキを切って、2400RPM(約700×g)で、30分間室温で遠心分離した。遠心分離後、遠心分離機からチューブを注意深く取り出した。滅菌したピペットを用いて上層をゆっくりと吸い出し、境界を乱さないようにリンパ球層を残した。滅菌ピペットを用い、白血球層を清潔なチューブに移し、そしてチューブをPBS/2% FCSで完全に満たした。細胞を、230×g(1000RPM)で10分間遠心分離することにより2回洗浄し、PBS/2% FSCに再懸濁した。遠心分離後、細胞を、500μl PRMI/1640 2% FCS中に再懸濁した。
【0106】
細胞を、Tuerk溶液中で1:10に希釈し、計数した。計数後、細胞を、RPMI/1640 2% FCS中5×106細胞/mlの濃度で希釈し、次いで、24ウェルプレート中に1ml/ウェルで入れた。細胞懸濁液を、95%湿度、37℃、5% CO2インキュベーター内で一晩インキュベートした。
【0107】
細胞分離効率(cell separation yield)をFACS分離によって決定するため、250,000個の細胞を1mlのFACS緩衝液中に懸濁し、次いで2000RPM、4℃で10分間遠心分離した。上清をデカントした。細胞を、50μlのFACS緩衝液中に再懸濁し、5μlの抗CD4抗体で標識した。細胞を、氷上で30分間インキュベートし、光から保護した。1mlの氷冷FACS緩衝液を添加し、そして2000RPM、4℃で10分間遠心分離した。次いで、細胞を、300μlのFACS緩衝液中に再懸濁し、氷上で保存し、そしてFACS機器でスコアを記録した。
【0108】
GlycoChipTMをスライドホルダーに置き、湿度を保つため、プラスチック容器内に湿らせた紙と共に入れた。細胞懸濁液を、GlycoChipTM上に1.2μl/ウェルで置き、次いで、5% CO2インキュベーター(95%湿度、37℃)内で1時間インキュベートした。インキュベートした後、PBS中に浸した遠心分離チャンバー内に、スライドをゆっくりと裏返して置いた。GlycoChipTMを、700RPM(最小g力、約50×g)で2分間遠心分離した。スライドを、顕微鏡で観察し、そしてPBS/3.7% ホルムアミド中で、室温で少なくとも30分間固定した。次いで、スライドを、DDW中でゆっくりと3回洗浄し、そして風乾した。
【0109】
ヨウ化プロピジウム溶液をPBS中で調製し、そして1.2μl/ウェルで入れた。GlycoChipTMを、湿潤条件下で15分間インキュベートし、次いで、DDW中に浸すことによって穏やかに3回リンスした。スライドを暗所で風乾し、ヨウ化プロピジウム設定(励起535nm、発光655nm)で、アレイスキャナでスキャンした。画像を分析し、細胞密度を決定した。
【0110】
(結果)
結合研究に使用したグリカンおよびコントロールを、以下の図20に示す。構造は、LinearCode(登録商標)シンタックスに記載される。変換については、表1を参照のこと。
【0111】
種々のグリカンに対する単一個体由来のCD4+細胞の結合プロフィールを示す棒グラフを、図20に示す。各グリカンまたはコントロールについて、結合をDLU/mm2で示す。グリカンまたはコントロールに結合する、7人の個体由来のCD4+細胞を、図21Aに示す。図21Aは、7人の各個体由来のCD4+細胞についての相対蛍光中央値を示す。
【0112】
これらの結果は、CD4+細胞の結合が、種々のグリカンの間で異なることを実証する。最強の結合は、以下のグリカンに対してその相対的親和性の順番で観察された:CD4+細胞は、LinearCode(登録商標)に提供された以下のグリカンを結合する;NNa3Ab4(Fa3)GNb>Mb4Gb>GNb4GNb>Ma3Ma>Ab6Ab。また、末端マンノース残基を有するグリカンまたはSialyl Lewis X残基を有するグリカンへのCD4+細胞の結合を、検出した。また、特定のグリカンへのCD4+結合の変動を、種々の個体間で検出した。
【0113】
(他の実施形態)
本発明はその詳細な記載に関連して記載されているが、上記の記載は例証を意図し、本発明の範囲を限定することを意図しないことが理解され、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲の範囲によって定義されることが理解される。他の局面、利点、および改変は、特許請求の範囲の範囲内である。
【0114】
【表1−1】
【0115】
【表1−2】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
【表4−1】
【0119】
【表4−2】
【0120】
【表5】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図19】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図19】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【公開番号】特開2009−258138(P2009−258138A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187527(P2009−187527)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【分割の表示】特願2004−527245(P2004−527245)の分割
【原出願日】平成15年8月4日(2003.8.4)
【出願人】(502418365)グリコマインズ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【分割の表示】特願2004−527245(P2004−527245)の分割
【原出願日】平成15年8月4日(2003.8.4)
【出願人】(502418365)グリコマインズ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】
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