説明

多管式熱交換器

【課題】現状の仕様を変更せずに、気柱共鳴による騒音、振動の発生を抑制することができる多管式熱交換器を提供する。
【解決手段】鉛直軸方向に配設され、被加熱流体が流入される複数の管群を収納する筒型容器13と、前記筒型容器13の上部側と下部側に設けられ、管群の周囲に導入される熱媒ガス14を導入及び排出するガス導入手段15及びガス排出手段16とを有する熱交換器であって、前記ガス導入手段15側の上部ガス空間ベルト部17A内側において、筒型容器13の上部側壁13aの全周囲に、熱媒ガスのガス流入用の小径孔31を複数設けると共に、前記ガス排出手段16側の下部ガス空間ベルト部17B内側において、筒型容器13の下部側壁13bの全周囲に、熱媒ガス14のガス排出用の小径孔31を複数設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気柱共鳴による騒音、振動の発生を抑制することができる多管式熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばメタノール等の流体を管群に導入して、管群の外部を加熱ガスにより加熱する多管式熱交換器が用いられている。
この多管式熱交換器は、筒状の容器の側面にガスの流入口及び排出口が、断面円の直径方向に対向するように設けており、それを覆う様に熱交換器より径の大きいガス空間ベルト部が設置されている。
ガス空間ベルト部への外部からの配管の接続部と、熱交換器側面のガス出入口は断面円の円周方向に約90度ずれており、配管からの流体が直接熱交換器内の管群に当接するのを避けるようにしている。
【0003】
このような多管式熱交換器を用いて、熱交換する場合、熱交換器内の管群を直交する方向に流れる熱媒ガスにより、管群後縁に発生するカルマン渦周波数が、熱交換器のガス出入口を横断しガス空間ベルト部の外径を波長とする気柱共鳴の周波数と一致すると、気柱共鳴による騒音、振動が発生する、という問題がある。
【0004】
気柱共鳴の発生を防止する手段として、例えば多孔部材を配置することの提案がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−174390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えばメタノール等の溶媒を加熱する管群は1500本以上の管を筒状容器内部に充填しており、多孔部材を設置する余裕はないのが実情である。
また、既設の多管式熱交換器の場合、現状の熱媒ガスの流速や筒状容器を変更することは困難であるので、現状の仕様を変更せずに、気柱共鳴による騒音、振動の発生を抑制する対策が切望されている。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑み、現状の仕様を変更せずに、気柱共鳴による騒音、振動の発生を抑制することができる多管式熱交換器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、鉛直軸方向に配設され、被加熱流体が流入される複数の管群を収納する筒型容器と、前記筒型容器の上部側と下部側に設けられ、管群の周囲に導入される熱媒ガスを導入及び排出するガス導入手段及びガス排出手段とを有する熱交換器であって、前記ガス導入手段及びガス排出手段が、筒型容器の直径よりも大きな直径の上部ガス空間ベルト部及び下部ガス空間ベルト部とを各々有し、前記ガス導入手段側の上部ガス空間ベルト部の側壁に、外部から熱媒ガスを導入するガス導入部を対向するように設け、前記ガス排出手段側の下部ガス空間ベルト部の側壁に、外部へ熱媒ガスを排出するガス排出部を対向するように設け、前記ガス導入手段側の上部ガス空間ベルト部内側において、筒型容器の上部側壁の全周囲に、熱媒ガスのガス流入用の小径孔を複数設けると共に、前記ガス排出手段側の下部ガス空間ベルト部内側において、筒型容器の下部側壁の全周囲に、熱媒ガスのガス排出用の小径孔を複数設けることを特徴とする多管式熱交換器にある。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記ガス導入部の開口部に対向する側壁に形成する小径孔の開口率を低減すると共に、前記ガス排出部の開口部に対向する側壁に形成する小径孔の開口率を低減することを特徴とする多管式熱交換器にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガス空間ベルト部の外径を波長とする気柱共鳴による騒音、振動の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例1に係る多管式熱交換器の正面概略図である。
【図2】図2は、図1の筒型容器内部に管群を配置した図である。
【図3】図3は、図1のA−A断面図である。
【図4】図4は、図3における気柱共鳴の状態を示す図である。
【図5】図5は、実施例2に係る多管式熱交換器の正面概略図である。
【図6】図6は、従来技術に係る多管式熱交換器の正面概略図である。
【図7】図7は、図6のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではなく、また、実施例が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0013】
本発明による実施例1に係る多管式熱交換器について、図面を参照して説明する。図1は、本実施例に係る多管式熱交換器の正面概略図である。ここで、図1においては、内部に配置する管群を省略している。図2は、図1の筒型容器内部に管群を配置した図であり、図3は、図1のA−A断面図である。図4は、図3における気柱共鳴の状態を示す図である。なお、図1及び2は、図3のX方向からみた図である。
【0014】
図1乃至図4に示すように、本実施例に係る多管式熱交換器10Aは、鉛直軸方向に配設され、被加熱流体11が流入される複数の管群12を収納する筒型容器13と、前記筒型容器13の上部側と下部側に設けられ、管群の周囲に導入される熱媒ガス14を導入及び排出するガス導入手段15及びガス排出手段16とを有する熱交換器であって、前記ガス導入手段15及びガス排出手段16が、筒型容器13の直径よりも大きな直径の上部及び下部ガス空間ベルト部17A、17Bを各々有している。
なお、図中、符号20は被加熱流体11の流入口、21は被加熱流体11の排出口を図示する。
そして、前記ガス導入手段15側の上部ガス空間ベルト部17Aの側壁17aに、外部から熱媒ガス14を導入するガス導入部18、18を対向するように設けると共に、前記ガス排出手段16側の下部ガス空間ベルト部17Bの側壁17bに、外部へ熱媒ガス14を排出するガス排出部19、19を対向するように設けている。
【0015】
本実施例では、前記ガス導入手段15側の上部ガス空間ベルト部17A内側において、筒型容器13の上部側壁13aの全周囲に、熱媒ガスのガス流入用の小径孔31を複数設けると共に、前記ガス排出手段16側の下部ガス空間ベルト部17B内側において、筒型容器13の下部側壁13bの全周囲に、熱媒ガス14のガス排出用の小径孔31を複数設けるものである。
なお、本実施例では、円筒型の筒型容器としているが、断面形状が矩形状の筒容器としてもよい。
【0016】
次に、図2において、筒型容器13内部に複数の管群12を配置した際における熱交換について説明する。
図2に示すように、本実施例に係る筒型容器13は、例えばメタノール(CH3OH)等の被加熱流体11が容器下部側から導入され、管板32に垂下された管群12内部を通過・上昇して容器上部側から排出されている。
そして、管群12を通過する際に、被加熱流体11と異なる方向から導入され、流下された熱媒ガス14により、被加熱流体11が加熱されて熱交換がなされる。
【0017】
図3に示すように、複数の小径孔31は、上部ガス空間ベルト部17A内において、筒型容器13の上部側壁13aの全周囲に亙って複数形成している。なお、下部ガス空間ベルト部17B内においも同様であるので、図示は省略する。
これにより、図6及び図7に示す従来のような多管式熱交換器100における筒型容器13の側壁の一部に長方形型のガス流入口101A、102A(101B、102B)を対向するように設けた場合に比べ、ガス空間ベルト部の外径を波長とする気柱共鳴が発生することがなくなる。なお、図6中、符号111A、112Aはガス排出口を図示する。
【0018】
図4及び図7にガス流入側のガス空間ベルト部の断面を示す。
図4は、本実施例にかかる断面図であり、図7は従来例にかかる断面図である。
先ず、図4に示すように、本実施例にかかる多管式熱交換器では、筒型容器13の上部側壁13aの周囲に亙って小径孔31を複数形成しているので、対向する小径孔31との径D2は、筒型容器13の内径D1と、略同じようなみかけ状の内径とすることができる。
すなわち、本実施例は、所定孔径の小径孔31を複数設けることにより、気柱共鳴の波長λ1は、筒型容器13の内径D1と同じ径D2となる。この結果、筒型容器13の内径D1において、設計当初から気柱共鳴対策を施しているので、気柱共鳴による騒音、振動が発生することが抑制される。
【0019】
これに対し、図7に示すように、従来例では、長方形型の開口の大きいガス流入口101A、102A(101B、102B)を対向するように設けた場合には、ガス流入口102A、101Bの開口を突き抜け、ガス空間ベルト部17の直径D3を半波長とする定在波が発生し、気柱共鳴による騒音、振動が発生することとなる。
【0020】
ここで、側壁13aに設ける複数の小径孔31は大きすぎると、その孔31を通過した気柱共鳴が発生してしまうため、あまり大きすぎるのは好ましくない。小径孔31の直径は、筒型容器13内に設置される複数の管群12における管と管との隙間の半分以下程度とするのが好ましい。
例えば管と管の隙間が例えば20mm程度であれば、小径孔31の直径は、例えば5〜10mm程度とするのが良い。
【0021】
また、ガス導入の開口率は、従来技術における流入及び流出口の開口率(約30%程度)と同じとなるように、小径孔31の設置割合を調整している。
【0022】
また、小径孔31による開口面積及び設置個数の調整により、従来例のような長方形型の流入口及び流出口よりも、ガス通過面積を広げることが可能となる。この結果、従来よりガス流速を下げることができる。この流速を下げることにより、管群後流で発生するカルマン渦周波数を低下させることができることとなる。
【0023】
また、本実施例によれば、複数の小径孔31は側壁の周囲に亙って、均等に設けるので、周囲から熱媒ガス14の導入が均一となり、従来のような対向する大きな開口の大きいガス流入口101A、102A(101B、102B)の場合よりも、熱交換の偏りが防止され、熱交換効率の向上を図ることができる。
【0024】
本実施例によれば、上部ガス空間ベルト部17A及び下部ガス空間ベルト部17B内において、筒型容器13の上部側壁13a及び下部側壁の全周囲に亙って小径孔31を複数形成することにより、ガス空間ベルト部17の径に対して波の進行を妨げるため、ガス空間ベルト部17の径での定在波の発生を妨げることができ、現状の仕様を変更せずに、気柱共鳴による騒音、振動の発生を防止することとなる。
【0025】
本実施例では、複数の小径孔を上部側壁13a、下部側壁13bの周囲に設けるようにしているが、小径孔の代わりに、複数のスリット部を周囲に亙って形成するようにしてもよい。
【実施例2】
【0026】
本発明による実施例2に係る多管式熱交換器について、図面を参照して説明する。図5は、実施例2に係る多管式熱交換器の概略図である。ここで、図5は、図3のY方向からみた図である。なお、実施例1に係る多管式熱交換器10Aと同一の構成については、同一符号を付して重複した説明は省略する。
本実施例に係る多管式熱交換器10Bでは、実施例1と同様に、流入口及び流出口は多数の小径孔31により構成するが、熱交換器に入るガス導入管であるガス導入部18の開口部に対向する側壁に形成する小径孔の開口率を低減すると共に、
前記ガス排出管であるガス排出部19の開口部に対向する側壁に形成する小径孔の開口率を低減するようにしている。
【0027】
実施例1のように、側壁の全周囲に亙って小径孔31を周方向に同じ割合で開けた場合、熱交換器に入るガス管に最も近い周方向位置の小径孔からのガス通過流量が最も多くなり、熱交換効率が偏ってしまう。これに対し、実施例2のように、ガス管差込位置の小径孔31の設置割合を減らすことにより、周方向の流入量の偏りが緩和され、熱交換効率が均一化され、熱交換効率が向上する。
【0028】
具体的には、ガス管がある付近の開口率はガス管がない位置の約1/4とするのが好ましい。これは、ガス管がある付近の流速はないところに比べ約4倍程度速く、開口率を1/4に減少することで、ガス流量がガス管のある箇所と無い箇所とで略同等となる。これにより、分散効果が発揮されることとなる。
【0029】
このように、実施例2によれば、ガス流入排出口を通過して、ガス空間ベルト部のベルト外径で発生する気柱共鳴の周波数を高くすることができると共に、熱交換効率の向上も図ることができる。
【符号の説明】
【0030】
10A、10B 多管式熱交換器
11 被加熱流体
12 管群
13 筒型容器
13a 上部側壁
13b 下部側壁
14 熱媒ガス
15 ガス導入手段
16 ガス排出手段
17A 上部ガス空間ベルト部
17B 下部ガス空間ベルト部
18 ガス導入部
19 ガス排出部
31 小径孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直軸方向に配設され、被加熱流体が流入される複数の管群を収納する筒型容器と、
前記筒型容器の上部側と下部側に設けられ、管群の周囲に導入される熱媒ガスを導入及び排出するガス導入手段及びガス排出手段とを有する熱交換器であって、
前記ガス導入手段及びガス排出手段が、筒型容器の直径よりも大きな直径の上部ガス空間ベルト部及び下部ガス空間ベルト部とを各々有し、
前記ガス導入手段側の上部ガス空間ベルト部の側壁に、外部から熱媒ガスを導入するガス導入部を対向するように設け、
前記ガス排出手段側の下部ガス空間ベルト部の側壁に、外部へ熱媒ガスを排出するガス排出部を対向するように設け、
前記ガス導入手段側の上部ガス空間ベルト部内側において、筒型容器の上部側壁の全周囲に、熱媒ガスのガス流入用の小径孔を複数設けると共に、
前記ガス排出手段側の下部ガス空間ベルト部内側において、筒型容器の下部側壁の全周囲に、熱媒ガスのガス排出用の小径孔を複数設けることを特徴とする多管式熱交換器。
【請求項2】
請求項1において、
前記ガス導入部の開口部に対向する側壁に形成する小径孔の開口率を低減すると共に、
前記ガス排出部の開口部に対向する側壁に形成する小径孔の開口率を低減することを特徴とする多管式熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−100937(P2013−100937A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244695(P2011−244695)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】