説明

多細胞配列を安定、静的かつ再現可能な空間配置に拘束する方法及び装置

本発明は、安定、静的かつ再現可能な空間配置にあり、場合によっては制御された内部細胞構成を有する多細胞配列を得るための方法及び装置、そのような装置を調製する方法、細胞の細胞形状、細胞構造、細胞機械的平衡状態、細胞・細胞相互作用、細胞の動き及び移動、細胞分化、全体的内部細胞構成、細胞極性及び分裂及び/又は任意の機能を研究する方法、特定の細胞機能を増強又は阻害する対象化合物をスクリーニングする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞生物学の分野に関し、バイオチップ、対象化合物のスクリーニング、診断及び細胞/遺伝子治療において役立つことができる。特に、本発明は、安定、静的かつ再現可能な空間配置にある多細胞配列を得るための方法及び装置に関する。
する。
【背景技術】
【0002】
培養中の細胞は、細胞の位置決めが予見不可能であるランダムな空間的構成をとる。細胞は恒久的に引っ張られ、押される。したがって、細胞は、細胞間相互作用の変動にしたがって動く。このような多細胞配列内の細胞の位置及び形状を制御することを可能にするために利用可能なツールは存在しない。
【0003】
細胞を互いに隔離し、それらの形状を制御する(マイクロパターニング)ためのツールはいくらか存在する。したがって、細胞外マトリックスタンパク質を固体支持体上にグラフトすることにより、接着パターンを調製することができる。このようなタンパク質は、細胞付着を誘発し、固体支持体への細胞付着及び平坦化を促進する。その結果、細胞は、正方形、円形、三角形又はより複雑な形に閉じ込められることができ、それらのサイズは細胞のサイズに対応する。すると、細胞はすべて同じ形状を有し、非常に再現可能な内部構成をとることさえできる。適当なマイクロパターンがPCT出願WO2005/026313に開示されている。しかし、このように拘束された細胞は、隔離されており、他の細胞と直に接触していない。したがって、支持体上に固定化された細胞間の接触を避けるために、各細胞は、接着パターン上、細胞非親和性の周辺領域によって他の細胞から隔離されている。接着パターンのサイズは、1個の細胞が延展することができるようなサイズである。これがこの技術の最大の欠点である。
【0004】
実のところ、細胞のサイズ、形状及び位置を調整することによって組織の機械的及び機能的干渉性を制御する生物学的機構は、細胞外マトリックスによる細胞固定に依存するだけではなく、隣接細胞への細胞の付着にも依存する。細胞・細胞相互作用は、それらの機械的役割に加えて、増殖、分化及びアポトーシスと同じくらい重要な細胞活動を調整する生化学的信号伝達経路にも寄与する。したがって、組織中の細胞の状態を細胞培養物中で再現するためには、二つのタイプの接触、すなわち細胞外マトリックスとの接触及び細胞間の接触が必要である。
【0005】
ある個別の細胞からいくつかの細胞の群の形状制御に達するためのもっとも簡単な解決手段は、より大きなマイクロパターンを使用することである(Nelson and Chen, 2002, FEBS Letters, 514, 238-242)。
【0006】
しかし、これに関して、マイクロパターニング技術はその限界に達する。実のところ、2個の細胞が同じパターンで拘束されている場合、それらは、二つのタイプの接触(接着パターンとの細胞・マトリックス接触及び隣接細胞との細胞・細胞接着)を確立することができるが、動き、たとえば、他方の細胞に代わることもできる。したがって、互いの周囲を動き回る傾向にある。一つの静的な配置で安定化することを許す機械的平衡をとることはない。いくつかの科学文献がマイクロパターン上の細胞対の動きに当てられている(Brangwynne et al, 2000, In Vitro Cell Dev Biol Anim, 36, 563-5、Huang et al, 2005, Cell Motil Cytoskeleton, 61, 201-213)。加えて、細胞位置、細胞・細胞接触ゾーンの位置及びサイズは、極性及び内部構成と同じく、制御されない(Nelson and Chen, 2002)。Huang et al, 2005において、著者らは、正方形パターン上の2個のNIH3T3細胞が互いの周囲を動き回らず、正方形の対角の間を斜めに延びるまっすぐな細胞・細胞境界線を形成することを観察した。
【0007】
Nelsonらは、細胞及び細胞・細胞接触の位置を制御するためのもう一つのシステムを開発している(Nelson and Chen, 2002, supra、Nelson and Chen, 2003, J Cell Science, 116, 3571-3581)。細胞は、深さ約10μmのアガロースマイクロウェル中に拘束される。マイクロウェルは蝶ネクタイの形状を有する。アガロースがタンパク質吸着及び細胞接着を阻止する。2個の細胞がマイクロウェル中に存在するとき、各細胞が蝶ネクタイ形状の二つの三角形の一つの中に位置する。マイクロウェルの深さ及びそれらのアガロース組成が三角形の中への細胞の拘束を可能にし、細胞は、つなぎ目をまたいで他方の三角形半分の中に移動することはできない。しかし、そのような蝶ネクタイ形状のマイクロウェルにおいては、アクチンの構造が十分に制御されるとは思われない。加えて、細胞間の接触ゾーンが二つの三角形の間でボトルネックまで狭まり、ボトルネックは、細胞が他方の三角形半分の中に移動することを阻止するために狭くなければならない。加えて、細胞は機械的平衡状態にはない。実のところ、細胞位置は、蝶ネクタイ形状のマイクロウェルの形態によって拘束される。したがって、細胞配置は、細胞間の機械的相互作用に基づくものではない。したがって、コンホメーションは人為的であり、組織中の細胞の生理学的状態を再現するものではない。
【0008】
したがって、安定、静的かつ再現可能な空間配置にあり、場合によっては制御された内部細胞構成を有する多細胞配列を得るための方法及び装置への強い要望がある。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、多細胞配列内で機械的平衡状態を得るための方法及び装置を提供する。特に、本発明は、細胞の回転動を阻止し、細胞に空間的接着状態を与えて機械的平衡状態及び静的かつ再現可能なコンホメーションの達成を可能にする特定の形を有する接着パターンを提供する。実のところ、パターン形は、細胞・マトリックス固定点を制御して、このような固定点の移動、ひいてはパターン上での細胞移動を防ぐことを可能にする。加えて、パターン形は、細胞・細胞接触を安定かつ再現可能な方法で方向付けする。特に、本発明の方法及び装置によって大きな細胞・細胞接触を得ることができる。マトリックスと細胞との間及び細胞と細胞との間の固定点の空間的分散が機械的平衡状態を招き、細胞は動かない。加えて、本発明の方法及び装置はまた、再現可能な内部細胞構成を得ることを可能にする。
【0010】
したがって、本発明は、少なくとも2個の細胞を、機械的に安定かつ再現可能なコンホメーションを有する多細胞配列に接着する方法及び装置に関する。
【0011】
本発明は、少なくとも2個の相互作用する細胞を、機械的に安定かつ再現可能なコンホメーションを有する細胞配列に接着するための装置の使用であって、
平坦面を画定するプレート、及び
少なくとも二つの接着パターンのセット
を含み、少なくとも二つの接着パターンが、第一の接着パターン上の細胞が別の接着パターンに到達することを阻止するための本質的に非接着性の介在区域によって互いから十分に分けられており、少なくとも二つの接着パターン及び介在区域によって被覆される面積が、少なくとも2個の動物細胞を接着するのに十分であり、少なくとも二つの接着パターンのセットが非細胞親和性の周辺領域によって隔離されている装置の使用に関する。
【0012】
特に、本発明はまた、少なくとも2個の相互作用する細胞を、機械的に安定かつ再現可能なコンホメーションを有する細胞配列に接着するための、又はそのために適した装置であって、
平坦面を画定するプレート、及び
少なくとも二つの接着パターンのセット
を含み、少なくとも二つの接着パターンが、第一の接着パターン上の細胞が別の接着パターンに到達することを阻止するための本質的に非接着性の介在区域によって互いから十分に分けられており、少なくとも二つの接着パターン及び介在区域によって被覆される面積が、少なくとも2個の動物細胞を接着するのに十分であり、少なくとも二つの接着パターンのセットが非細胞親和性の周辺領域によって隔離されている装置に関する。
【0013】
好ましくは、二つの接着パターンの間の距離は、約2/3D〜約4/3D(Dは、前記表面Sを有する円板の直径である)、好ましくは約3/4D〜約5/4D、より好ましくは約Dである。
【0014】
好ましくは、各細胞のための接着パターンによって被覆される面積は、細胞表面Sの80、70、60又は50%未満である。好ましくは、本質的に非接着性の介在区域は、細胞が別の接着パターンに到達することを許さないために適した一つの接着ゾーンを含む。より好ましくは、一つの接着ゾーンは、二つの接着パターンの間に位置する、1/2D未満、好ましくは1/3D未満、より好ましくは1/4D未満の幅を有するゾーンである。好ましくは、一つの接着ゾーンが二つの接着パターンを接続し、それにより、二つの接着パターンのセットは、二つの接着パターンを接続する一つの接着ゾーンを含む。好ましい実施態様において、二つの接着パターンのセットは、以下の形態、すなわちC、X、H、Z及びΠの一つを有する。特に、接着パターンは、一つの接続された接着面及び/又はいくつかの不連続な接着面で形成されることができる。好ましくは、装置は、少なくとも二つの接着パターン少なくとも2セットを含む。あるいはまた、装置は、少なくとも4、8、16又は32の接着パターン少なくとも2セットを含む。特に、接着パターンの各セットは、2個以上の細胞を有する多細胞配列のために設計されることができ、2500μm2を超える、好ましくは2600〜50000μm2、たとえば2600、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10000、20000、30000、40000又は50000μm2の面積を被覆する。実のところ、32個の細胞のための接着パターンのセットは、特定の細胞タイプに関して32000μm2及び50000μm2の表面を被覆することができる。
【0015】
本発明はまた、対象化合物をスクリーニングする、対象遺伝子を特定する、又は細胞機能不全を診断するための、本発明の装置の使用に関する。
【0016】
本発明は、少なくとも2個の相互作用する細胞を、機械的に安定かつ再現可能なコンホメーションを有する多細胞配列に接着する方法であって、
接着する細胞を選択すること、
本発明の適切な装置を選択すること、及び
選択された装置上で細胞を培養すること
を含む方法に関する。
【0017】
好ましくは、方法は、拘束なしに支持体上で細胞によって被覆された表面を測定して、細胞のサイズを測定し、細胞のサイズに基づいて装置を選択することを含む。
【0018】
本発明はさらに、少なくとも2個の細胞を、平面上、機械的平衡状態を有する多細胞配列に固定化する方法であって、
本発明の装置を提供すること、及び
細胞が、接着パターンの前記セット上で少なくとも2個の細胞に分裂し、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも1個の細胞に暴露すること
を含む方法に関する。
【0019】
あるいはまた、本発明は、少なくとも2個の細胞を、平面上、機械的平衡状態を有する多細胞配列に固定化する方法であって、
本発明の装置を提供すること、及び
細胞が、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも2個の細胞に暴露すること
を含む方法に関する。
【0020】
加えて、本発明は、多細胞配列中の細胞の細胞形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、細胞分化、細胞極性、全体的内部細胞構成、細胞分裂及び/又は任意の機能を研究する方法であって、
本発明の装置を提供すること、
細胞が、接着パターンの前記セット上で少なくとも2個の細胞に分裂し、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも1個の細胞に暴露すること、又は細胞が、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも2個の細胞に暴露すること、
接着パターンのセット上で細胞を多細胞配列に増殖させること、及び
多細胞配列中の細胞の細胞形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、細胞分化、細胞極性、全体的内部細胞構成、細胞分裂及び/又は任意の機能を観察し、計測すること
を含む方法に関する。
【0021】
本発明はまた、生物学的に活性な化合物を選択する方法であって、
本発明の装置を提供すること、
細胞が、接着パターンの前記セット上で少なくとも2個の細胞に分裂し、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも1個の細胞に暴露すること、又は細胞が、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも2個の細胞に暴露すること、
試験化合物を多細胞配列中の前記細胞と接触させること、
接着パターン上で細胞を多細胞配列に増殖させること、及び
多細胞配列中の前記細胞の形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、全体的内部細胞構成、細胞分化、細胞極性、細胞分裂及び/又は任意の機能を観察すること
を含む方法に関する。
【0022】
あるいはまた、本発明はさらに、生物学的に活性な化合物を選択する方法であって、
本発明の装置を提供すること、
試験化合物を細胞と接触させること、
細胞が、接着パターンの前記セット上で少なくとも2個の細胞に分裂し、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを前記細胞の少なくとも1個に暴露すること、又は細胞が、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを前記細胞の少なくとも2個に暴露すること、
接着パターン上で細胞を多細胞配列に増殖させること、及び
多細胞配列中の前記細胞の形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、全体的内部細胞構成、細胞分化、細胞極性、細胞分裂及び/又は任意の機能を観察すること
を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】介在区域(IA)を有する二つの接着パターン(AP)のセットの略図。灰色が接着区域を示す。(d)は、二つの接着パターン(AP)間の距離を画定する。介在区域(IA)は接着ゾーン(灰色)を含み、(w)はこの接着ゾーンの幅を画定する。この図は非限定的であり、その目的は用語を明確に定義することであることに留意されたい。たとえば、介在区域(AI)の接着ゾーンは、パターンの中央又は左もしくは右側にあることができ、一つ又は両方の接着パターンに接続することもできるし、接続しないこともできる。
【図2】正方形の接着パターン上の分裂後のMCF10A上皮娘細胞の低速度撮影の位相差顕微鏡検査法。細胞は次の分裂まで何時間も互いの周囲を動き回り続ける。
【図3】H形接着パターン上の分裂後のMCF10A上皮娘細胞の低速度撮影の位相差顕微鏡検査法。細胞は互いの周囲を動き回らない。細胞は、機械的平衡状態をとり、次の分裂まで動かない。
【図4】H形フィブロネクチン接着パターン上で機械的平衡状態にある2個のMCF10A上皮娘細胞。細胞・細胞接触は常に、H形の中央の棒を二分する平面に位置する。細胞核は常に細胞・細胞相互作用面に近い。
【図5−1】支持体上の細胞の五つの異なる挙動。(1)細胞は、互いの周囲を一方向に動き、より正確には、互いの周囲を一方向又は他方向(右回り又は左回り)に持続的に動く。(2)細胞は互いの周囲を二方向に動く(換言するならば、細胞は、停止することなく動き、方向を変えることができる)。(3)細胞は互いの周囲を動き回り、停止し、再び互いの周囲を動き回り始める。(4)細胞は、同じ位置を中心に振動し、ほぼ平衡状態にある。(5)細胞は一つの位置で安定である。平衡状態に達することを許すパターンは、細胞の大多数が挙動(4)及び(5)で見られるパターンである。平衡状態に達することを許さないパターンは、細胞の大多数が挙動(1)及び(2)で見られる、好ましくは挙動(1)、(2)及び(3)で見られるパターンである。接着パターンの様々な形状に関して2個のMCF10A上皮娘細胞の挙動を位相差顕微鏡検査法によって観察(モニタ)した。
【図5−2】支持体上の細胞の五つの異なる挙動。(1)細胞は、互いの周囲を一方向に動き、より正確には、互いの周囲を一方向又は他方向(右回り又は左回り)に持続的に動く。(2)細胞は互いの周囲を二方向に動く(換言するならば、細胞は、停止することなく動き、方向を変えることができる)。(3)細胞は互いの周囲を動き回り、停止し、再び互いの周囲を動き回り始める。(4)細胞は、同じ位置を中心に振動し、ほぼ平衡状態にある。(5)細胞は一つの位置で安定である。平衡状態に達することを許すパターンは、細胞の大多数が挙動(4)及び(5)で見られるパターンである。平衡状態に達することを許さないパターンは、細胞の大多数が挙動(1)及び(2)で見られる、好ましくは挙動(1)、(2)及び(3)で見られるパターンである。接着パターンの様々な形状に関して2個のMCF10A上皮娘細胞の挙動を位相差顕微鏡検査法によって観察(モニタ)した。
【図5−3】支持体上の細胞の五つの異なる挙動。(1)細胞は、互いの周囲を一方向に動き、より正確には、互いの周囲を一方向又は他方向(右回り又は左回り)に持続的に動く。(2)細胞は互いの周囲を二方向に動く(換言するならば、細胞は、停止することなく動き、方向を変えることができる)。(3)細胞は互いの周囲を動き回り、停止し、再び互いの周囲を動き回り始める。(4)細胞は、同じ位置を中心に振動し、ほぼ平衡状態にある。(5)細胞は一つの位置で安定である。平衡状態に達することを許すパターンは、細胞の大多数が挙動(4)及び(5)で見られるパターンである。平衡状態に達することを許さないパターンは、細胞の大多数が挙動(1)及び(2)で見られる、好ましくは挙動(1)、(2)及び(3)で見られるパターンである。接着パターンの様々な形状に関して2個のMCF10A上皮娘細胞の挙動を位相差顕微鏡検査法によって観察(モニタ)した。
【図5−4】支持体上の細胞の五つの異なる挙動。(1)細胞は、互いの周囲を一方向に動き、より正確には、互いの周囲を一方向又は他方向(右回り又は左回り)に持続的に動く。(2)細胞は互いの周囲を二方向に動く(換言するならば、細胞は、停止することなく動き、方向を変えることができる)。(3)細胞は互いの周囲を動き回り、停止し、再び互いの周囲を動き回り始める。(4)細胞は、同じ位置を中心に振動し、ほぼ平衡状態にある。(5)細胞は一つの位置で安定である。平衡状態に達することを許すパターンは、細胞の大多数が挙動(4)及び(5)で見られるパターンである。平衡状態に達することを許さないパターンは、細胞の大多数が挙動(1)及び(2)で見られる、好ましくは挙動(1)、(2)及び(3)で見られるパターンである。接着パターンの様々な形状に関して2個のMCF10A上皮娘細胞の挙動を位相差顕微鏡検査法によって観察(モニタ)した。
【図5−5】支持体上の細胞の五つの異なる挙動。(1)細胞は、互いの周囲を一方向に動き、より正確には、互いの周囲を一方向又は他方向(右回り又は左回り)に持続的に動く。(2)細胞は互いの周囲を二方向に動く(換言するならば、細胞は、停止することなく動き、方向を変えることができる)。(3)細胞は互いの周囲を動き回り、停止し、再び互いの周囲を動き回り始める。(4)細胞は、同じ位置を中心に振動し、ほぼ平衡状態にある。(5)細胞は一つの位置で安定である。平衡状態に達することを許すパターンは、細胞の大多数が挙動(4)及び(5)で見られるパターンである。平衡状態に達することを許さないパターンは、細胞の大多数が挙動(1)及び(2)で見られる、好ましくは挙動(1)、(2)及び(3)で見られるパターンである。接着パターンの様々な形状に関して2個のMCF10A上皮娘細胞の挙動を位相差顕微鏡検査法によって観察(モニタ)した。
【図5−6】支持体上の細胞の五つの異なる挙動。(1)細胞は、互いの周囲を一方向に動き、より正確には、互いの周囲を一方向又は他方向(右回り又は左回り)に持続的に動く。(2)細胞は互いの周囲を二方向に動く(換言するならば、細胞は、停止することなく動き、方向を変えることができる)。(3)細胞は互いの周囲を動き回り、停止し、再び互いの周囲を動き回り始める。(4)細胞は、同じ位置を中心に振動し、ほぼ平衡状態にある。(5)細胞は一つの位置で安定である。平衡状態に達することを許すパターンは、細胞の大多数が挙動(4)及び(5)で見られるパターンである。平衡状態に達することを許さないパターンは、細胞の大多数が挙動(1)及び(2)で見られる、好ましくは挙動(1)、(2)及び(3)で見られるパターンである。接着パターンの様々な形状に関して2個のMCF10A上皮娘細胞の挙動を位相差顕微鏡検査法によって観察(モニタ)した。
【図6】多細胞配列の接着パターンの例。
【図7】接着パターンの二つの異なる形状に関して2個のMDCK及びMFCA上皮娘細胞の挙動を位相差顕微鏡検査法によって観察(モニタ)した。支持体上の細胞の五つの挙動の意味は図5の説明文で開示されている。二つのパターン上のMCF10A及びDMCK細胞挙動は同じ傾向、すなわちHでは安定化及び「枠」では不安定化をたどる。
【図8】WO2005/026313に開示されているL接着パターン上の2個の娘Hela細胞の挙動を示す画像。培養HeLa細胞をG2段階になるように同期化した。その後、細胞をトリプシン処理し、マイクロパターンで平板培養し、10分間の時間フレームで30時間録画した。各パターン上、細胞は急速に有糸分裂に入った。分裂後、2個の娘細胞は、安定な多細胞平衡状態に達することなく、互いの周囲を動き回ることが認められた。表示される22の画像は、細胞分裂及び分裂後の細胞の動きを簡潔に示すために、全時系列から選択し、抜粋したものである。これらの動きの再現性及び細胞対における安定な状態の不在を示すために二つの例が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
定義
「凸状エンベロープ」とは、接着パターンを含む最小凸状多角形をいう。「凸状エンベロープによって画定される面積」とは、凸状エンベロープに含まれるゾーンによって被覆される面積をいう。「S」とは、拘束なしに支持体上で真核細胞(たとえばペトリ皿又はカバーガラス上の細胞)によって被覆される表面をいう。「D」とは、前記表面Sを有する円板の直径をいう。
【0025】
「二つの接着パターンの間の距離」とは、二つの接着パターンの二つのより近い点の間の距離をいう。
【0026】
「約」とは、5%よりも多い又は少ない値をいう。
【0027】
「機械的平衡状態」又は「機械的に安定」とは、細胞が同じ位置を中心に振動し、ほぼ平衡状態にあること(図5及び実施例で定義する挙動4)及び細胞が一つの位置を中心に安定であること(図5及び実施例で定義する挙動5)をいう。特に、細胞挙動は、たとえば、一つの細胞分裂期間(たとえば約24〜48時間)中、5分ごとに記録することができる。あるいはまた、「機械的平衡状態」又は「機械的に安定」はまた、考慮される2個の細胞の核に接合する軸がマイクロパターン上の固定基準軸に対して45°未満、好ましくは40°、35°、30°又は20°未満しか変化しない細胞の割合80%によって定義されることができる。これらの計測は、好ましくは、考慮される細胞の培養温度、たとえば37℃で実施される。「再現可能なコンホメーション」とは、考慮されるパターンのセットに関して細胞が多細胞配列中で同じコンホメーションをとることをいう。
【0028】
本発明者らは、少なくとも2個の細胞を、機械的に安定かつ再現可能なコンホメーションを有する多細胞配列に接着するための装置の設計を可能にする規則を提供する。いくつかの細胞を機械的に安定かつ再現可能なコンホメーションを有する多細胞配列に接着するための装置の設計は新規な概念である。規則は以下のとおりであり、実験データ、特に図5に示す実験データ(多細胞配列の各細胞に一つの接着パターン)から演繹されたものである。少なくとも二つの接着パターンの間のゾーンは介在区域と呼ばれている。接着パターンは、第一の接着パターン上の細胞が別の接着パターンに到達することを阻止するための本質的に非接着性の介在区域によって互いから十分に分けられている。当然、接着パターンどうしはまた、細胞間の相互作用を許すのに十分に近くなければならない。介在区域は細胞表面の直径(D)約一つ分であることが確立されている。接着パターンは、好ましくは、細胞の表面積(S)よりも小さい。このような小さな接着パターンは、細胞が互いに対して押し入ることを可能にするのに十分な自由度を細胞に提供する(非接着区域によって)ため、重要である。これらの二つの拘束(接着パターン及び他方の相互作用細胞)の間の平衡状態が、相互作用する細胞を安定化し、それらが自然な位置、ひいては安定かつ再現可能な位置をとることを許す。十分な自由度を細胞に提供するために、介在区域は本質的に非接着性である。しかし、介在区域は、接着区域、より好ましくは一つの接着区域を含むことができ、それにより、細胞が互いに突き合い、相互作用接触を確立することを支援する。介在ゾーンのこの接着区域の幅は狭くなければならない(細胞直径の1/2未満)。実のところ、この面積が大きすぎるならば、細胞が他方の接着パターンに到達することを許してしまう。介在区域を有する二つの接着パターンの面積は2個の動物細胞を接着するのに十分である。当然、周囲細胞(多細胞配列に含まれない)によって多細胞配列が乱されることを防ぐために、パターンの各セットは細胞非親和性領域によって包囲される。
【0029】
本発明の装置は、表面を画定するプレート、及び第一の接着パターン上の細胞が別の接着パターンに到達することを阻止するための本質的に非接着性の介在区域によって互いから十分に分けられている少なくとも二つの接着パターンのセットを含み、介在区域を有する少なくとも二つの接着パターンの面積は2個の動物細胞を接着するのに十分である。換言するならば、少なくとも二つの接着パターン及び介在区域によって被覆される面積は、2個の動物細胞を接着するのに十分であり、各細胞は一つの個別の接着パターンに接着する。特に、プレートは平坦面を画定する。特に、少なくとも二つの接着パターン及び介在区域によって被覆される面積は、1個の細胞によって被覆されるには大きすぎる。したがって、この面積は1Sよりもはるかに大きく、x個の細胞からなる多細胞配列の場合、この面積は約xSである。たとえば、2個の細胞からなる多細胞配列の場合、この面積は約2Sである。
【0030】
各接着パターンの凸状エンベロープによって画定される面積は約1/2S〜約3/2Sである(Sは、拘束なしで細胞によって被覆される面積である)。好ましい実施態様において、各接着パターンの凸状エンベロープによって画定される面積は約3/4S〜約5/4S、より好ましくは約Sである。たとえば、Sは、1〜2,500μm2、より好ましくは1〜1,000μm2、さらに好ましくは1〜500μm2又は500〜900μm2であることができる。Sは細胞タイプに依存することができる。しかし、各接着パターンの凸状エンベロープによって画定される面積は、高い割合の非接着区域、たとえば少なくとも20、30、40又は50%、好ましくは20〜70%、30〜60%又は40〜50%の非接着区域を含む。あるいはまた、各細胞のための接着パターンによって被覆される面積は細胞表面Sの80、70、60又は50%未満である。たとえば、各接着パターンの面積は細胞表面Sの30〜80%、40〜70%又は50〜60%である。この面積はまた、ひとたび機械的平衡状態に達したのち1個の細胞によって被覆される表面と定義されることもできる。
【0031】
各接着パターンの凸状エンベロープは、任意の形態(たとえば円板、正方形、長方形、台形、円板の断片、楕円など)を有することができる。この凸状エンベロープにおいて、それは長軸及び短軸によって画定されることができる。
【0032】
接着パターンは、一つの接続された接着面及び/又はいくつかの不連続な接着面で形成されることができる。「一つの接続された接着面」とは、好ましくは、実線又は曲線をいう。「不連続な接着面」とは、好ましくは、点線もしくは破線又は不連続な点もしくは区域をいう。好ましい実施態様において、接着パターンは、線、曲線及び点から選択される接着要素の組み合わせからなる。接着点、線、曲線又は縁の幅は、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは約8μmである。
【0033】
好ましい実施態様において、二つの接着パターンの間の距離は約2/3D〜約4/3Dである。好ましい実施態様において、二つの接着パターンは、約3/4D〜約5/4D、より好ましくは約Dの距離によって分けられている。
【0034】
好ましい実施態様において、本質的に非接着性の介在区域は一つの接着ゾーンを含む。一つの接着ゾーンは、細胞が別の接着パターンに到達することを許さないのに適している。すなわち、この一つの接着ゾーンは狭くなければならない。実のところ、接着パターンの長軸に対して平行な長くて細い接着ラインは、細胞が別の接着パターンに到達することを許してしまうため、不適当である。たとえば、接着ゾーンは、二つの接着パターンの間に位置する、D未満、好ましくは1/2D未満、好ましくは1/3D未満、より好ましくは1/4D未満の幅を有するゾーンである。一つの実施態様において、接着ゾーンは、二つの接着パターン、たとえば線又は曲線を接続することができる。もう一つの実施態様において、接着ゾーンは、二つの接着パターンの間に、それらと接続することなく存在することができる。理論によって束縛されることを望まないが、この接着ゾーンが、2個の細胞が細胞・細胞相互作用を確立することを支援する。好ましい実施態様において、本質的に非接着性の介在区域の50%、より好ましくは60、75、80、85又は90%が非接着性である。一つの接着ゾーンは、接着ゾーンを形成する一つの接続された接着面及び/又はいくつかの不連続な接着面で構成されることができる。
【0035】
もっとも好ましい実施態様において、本発明の装置は、二つの接着パターンの間の距離が約2/3D〜約4/3D、好ましくは約3/4D〜約5/4D、より好ましくは約Dであり、本質的に非接着性の介在区域が一つの接着ゾーンを含み、前記一つの接着ゾーンが二つの接着パターンの間に位置し、D未満、好ましくは1/2D未満、好ましくは1/3D未満、より好ましくは1/4D未満の幅を有し、各細胞のための接着パターンによって被覆される面積が細胞表面Sの80、70、60又は50%未満であるような装置である。
【0036】
特定の実施態様において、二つの接着パターンのセットは、以下の形態、すなわちC、X、H、Z及びΠをとることができる。実のところ、実験(図5)は、これらの形態が機械的平衡状態に達するために適切であることを実証する。
【0037】
本発明はまた、二つ以上の接着パターンを有する装置を考慮する。2個の細胞の配列のために確立された規則は、2個以上の細胞を有する多細胞配列にも当てはまる。この場合、パターンのセットの輪郭(the outline)は、接着区域と非接着区域とで交互に形成されて、細胞が接着区域上に位置し、非接着区域上の隣接細胞との接触を確立するようになっている。各接着パターンは本質的に非接着性の区域によって他のパターンから分けられている。二つの接着パターンの間の距離は約2/3D〜約4/3Dである。好ましい実施態様において、二つの接着パターンは、約3/4D〜約5/4D、より好ましくは約Dの距離によって分けられている。しかし、本質的に非接着性の介在区域は一つの接着ゾーンを含む。たとえば、接着ゾーンは、二つの接着パターンの間に位置する、D未満、好ましくは1/2D未満、好ましくは1/3D未満、より好ましくは1/4D未満の幅を有するゾーンである。一つの実施態様において、接着ゾーンは、二つの接着パターン、たとえば線又は曲線を接続することができる。特に、装置は、同じ規則、すなわち各接着パターンの間の距離及び接着パターンの各対の間の任意の狭い一つの接着ゾーンを有する4、8、16又は32の接着パターンのセットを有することができる。図6は、4、8、16又は32の接着パターンのセットを示す。2個以上の細胞を有する多細胞配列のために設計されたこのような接着パターンのセットは、2500μm2を超える、好ましくは2600〜50000μm2、たとえば2600、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10000、20000、30000、40000又は50000μm2の面積を被覆する。
【0038】
好ましくは、前記装置は、細胞が接着しない細胞非親和性領域によって互いから隔離された少なくとも二つの接着パターンの複数のセットを含む。より具体的には、前記装置は、少なくとも二つの接着パターン少なくとも2セット、好ましくは少なくとも二つの接着パターン少なくとも5、10、100、1000、10000又は100000セットを含む。好ましい実施態様において、前記装置は、1cm2あたり少なくとも二つの接着パターン5〜25000セット、より好ましくは1cm2あたり少なくとも二つの接着パターン5000〜10000セット、さらに好ましくは1cm2あたり少なくとも二つの接着パターン約7500セットを含む。
【0039】
接着パターン又はゾーンは、細胞付着を促進する分子を含む。このような分子は、組織培養処理されたポリスチレン皿におけるような酸化ポリスチレンのように非特異的であることができる。分子はまた、特異的付着分子、たとえば当業者に周知である、抗原、抗体、細胞接着分子、細胞外マトリックス分子、たとえばラミニン、フィブロネクチン、合成ペプチド、炭水化物などであることもできる。好ましくは、前記接着パターンは、細胞外マトリックス分子、より好ましくはフィブロネクチンを含む。
【0040】
非接着面は不活性面である。適切な不活性面は、ポリ(エチレングリコール)の誘導体によって被覆された表面である。
【0041】
プレートは、共焦点、光学及び/又は蛍光顕微鏡検査法に好都合な支持体である。より好ましい実施態様において、プレートは、おそらくは酸化ポリスチレンの薄い層で被覆されたガラスである。たとえば、本発明の好都合なプレートはカバーガラス(coverslip)又はスライドである。また、組織培養処理されたペトリ皿であることもできる。本発明において、プレートとは、穴を有しない平坦面をいうものと理解されよう。
【0042】
本発明の装置は、各群を異なる培地中でインキュベートすることができるよう、同じプレート上で互いから分けられた接着パターンのセットのいくつかの群を含むことができる。たとえば、接着パターンのセットのある群を試験化合物と接触させ、別の群を、別の試験化合物と接触させる、又はいかなる試験化合物とも接触させないことができる。この分離は、テフロンシールのような物理的バリヤによって提供することができる。たとえば、SPI TeflonR of SPI Supplies、TeflonR Printed Slides of Anameを参照すること。
【0043】
接着パターン及びゾーンを有する本発明の装置ならびに細胞非親和性領域はマイクロパターニングによって形成される。マイクロコンタクトプリンティング又はUVパターニングを使用することができる。標準の方法は当業者には周知である。検討する場合には、Whitesidesら(Annu. Rev. Biomed. Eng., 2001, p. 335-373、特にp. 341-345)を参照すること。特に、装置は、
少なくとも一つの接着パターンを有するマスタ鋳型を調製すること、
前記マスタ鋳型からスタンプを調製すること、
前記スタンプを、細胞付着を促進する分子でインク付けすること、
前記インク付けされたスタンプをプレートと接触させること、
プレートの非プリント面を細胞非親和化すること
を含む方法によって調製することができる。
【0044】
好ましくは、マスタ鋳型は、接着パターンがデザインされているマスクを介するUV照射によってフォトレジスト層でコートされたシリコンウェーハから調製される。スタンプは、好ましくは、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)又は他のシロキサン系ポリマーである。好ましくは、プレートの前記非プリント面は、ポリエチレングリコールの誘導体のような不活性材料とのインキュベーションによって細胞非親和化される。
【0045】
本発明のプレートの調製の具体例が実施例部分で詳述されている。
【0046】
マイクロパターニングは、ミクロンスケールでの細胞位置の正確な制御を可能にする。金又は他の金属のコーティングを有しないカバーガラス(glass coverslip)の使用は、あらゆる光学イメージング技術、特にビデオ顕微鏡検査法のための倒立顕微鏡での落射蛍光に適合性がある。多くの4D取得(微速度3D)の自動化は非常に容易であり、すなわち、電動XYステージを用いて最初の細胞のXY位置を記録するだけでよく、他すべては、公知の反復並進(interactive translation)によって最初の細胞から演繹することができる。セラミック圧電装置上の100×対物レンズ(objective)が3Dスタック取得を非常に速やかに行う。カバーガラス及びマイクロパターニングが、落射蛍光だけでなく透過光も使用して高スループット3D細胞スクリーニングを高倍率で実施することを可能にする。播種の前に細胞が同期化される場合、必要なだけの数の細胞の観察を合計することによって「平均細胞」の記述に到達することができる。細胞は、同一ではないにしても非常に似ているため、これは、細胞構成又は挙動の非常に正確な記述を提供する。そのような「平均細胞」記述から、特定の細胞機能又は不活性化がそのような機能を損なう遺伝子に対して有効な薬物をスクリーニングするための適切なしきい値を設定することができる。
【0047】
本発明の装置は、多様な細胞生物学用途において、基本分野及び応用研究分野の両方、たとえば細胞培養、組織エンジニアリング、細胞数測定、毒物学、薬物スクリーニング、細胞固定化、細胞治療及び生検細胞診において有用であることができる。特に、本発明の装置は、細胞群を再現可能な配列又は配置に制御又は拘束するための装置として有用である。また、組織様細胞培養装置中で細胞位置を編成又は制御するためにも有用である。実のところ、装置は、培養中の細胞群又は多細胞配列内の個々の細胞位置の制御を可能にする。装置は、培養中の多細胞アイランド内の再現可能な細胞位置決め及び編成、特に、多細胞配列/細胞群内の細胞・細胞外マトリックス及び細胞・細胞接着空間位置決めに対する完全な制御を得ることを可能にする。本発明の装置は、培養中の細胞群との細胞位置決めの正規化を再現可能なやり方で可能にするため、応用研究分野を対象とする。より具体的には、多細胞構造内の制御され、方向付けされた細胞極性をこのような装置によって得ることができる。したがって、本発明の装置は、細胞・細胞接合部の制御位置決めによって多種多様な再現可能な多細胞群を得るために使用することができる。3D多細胞配列の違いにおいて、装置は、「平坦な胚様体」のように見える平坦な多細胞内の規則的かつ再現可能な細胞位置決めに適切である。
【0048】
本発明は、少なくとも2個の相互作用する細胞を、機械的に安定かつ再現可能なコンホメーションを有する多細胞配列に接着する方法であって、
接着する細胞を選択すること、
本発明の適切な装置を選択すること、及び
選択された装置上で細胞を培養すること
を含む方法に関する。
【0049】
方法は、拘束なしに支持体上で細胞によって被覆された表面を測定して、細胞のサイズを測定し、細胞のサイズに基づいて装置を選択することを含む。x個の細胞からなる多重配列の場合、適切な装置は、介在区域を有するx個の接着パターンの面積がx個の細胞を接着するのに十分であるように選択される。
【0050】
したがって、本発明は、表面上又は表面上の培地中で少なくとも2個の細胞を培養する方法であって、
本発明の表面及び少なくとも二つの接着パターンを画定するプレート、好ましくは本発明の装置を提供すること、及び
接着パターンの前記セット上又は前記接着パターン上の培地中で細胞を培養すること
を含む方法に関する。
【0051】
培地は、細胞培養に好都合な任意の培地であることができる。たとえば、培地は、10%子ウシ血清、50μg/mLペニシリン及びストレプトマイシンならびに2mMグルタミンを含むダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco Modified Eagle Medium)であることができる。
【0052】
本発明はまた、少なくとも2個の相互作用する細胞を機械的平衡状態で表面に固定化する方法であって、
本発明の表面及び少なくとも二つの接着パターンを画定するプレート、好ましくは本発明の装置を提供すること、及び
細胞が、接着パターンの前記セット上で少なくとも2個の細胞に分裂し、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも1個の細胞に暴露すること
を含む方法に関する。
【0053】
あるいはまた、本発明は、少なくとも2個の相互作用する細胞を機械的平衡状態で表面に固定化する方法であって、
本発明の表面及び少なくとも二つの接着パターンを画定するプレート、好ましくは本発明の装置を提供すること、及び
細胞が、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも2個の細胞に暴露すること
を含む方法に関する。
【0054】
本発明はさらに、細胞の形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、細胞分化、細胞極性、全体的内部細胞構成、細胞分裂及び/又は任意の機能を研究する方法であって、
本発明の表面及び少なくとも二つの接着パターンを画定するプレート、好ましくは本発明の装置を提供すること、
細胞が、接着パターンの前記セット上で少なくとも2個の細胞に分裂し、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも1個の細胞に暴露すること、又は細胞が、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも2個の細胞に暴露すること、
接着パターン上で細胞を増殖させること、及び
細胞の細胞形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、細胞分化、細胞極性、全体的内部細胞構成、細胞分裂及び/又は任意の機能を観察すること
を含む方法に関する。
【0055】
特定の実施態様において、全体的細胞構成及び細胞極性は、これらに限定されないが、中心体及び一次絨毛位置、細胞核位置、ゴルジ体構造(すなわちCGN及びTGN)、細胞接着の局在(たとえばカドヘリン及びインテグリン)、アクチン(たとえばアクチンフィラメントの空間分布)及び/又はチューブリン及び/又は中間径フィラメントのネットワーク、分子の内部輸送経路の観察を通して評価される。
【0056】
もう一つの実施態様において、細胞移動は、細胞核運動及び細胞・細胞接触面変位を追跡することによって定量される。
【0057】
もう一つの実施態様において、細胞・細胞相互作用は、免疫組織化学によってタンパク質組成(たとえばカドヘリン又はベータカテニン)及び細胞・細胞接触の位置を解析することによって定量される。
【0058】
もう一つの実施態様において、細胞構造は、細胞骨格要素、たとえばアクチン繊維、微小管及び中間径フィラメントのサイズ及び位置を計測することによって記述される。
【0059】
もう一つの実施態様において、細胞分化は、細胞分化に影響することができる特定の決定因子、たとえば細胞核中の転写因子又は細胞質中もしくは細胞表面のメッセンジャRNAもしくはマイクロRNA又は特異的受容体の存在を検出することによって評価される。
【0060】
もう一つの実施態様において、細胞分裂は、有糸分裂紡錘体極の数、紡錘体形成中の紡錘体極の動き、有糸分裂紡錘体のサイズ、細胞・細胞及び細胞・細胞外マトリックス接着に対する紡錘体極の向き、紡錘体極位置決めに影響する細胞膜中の特異的タンパク質の局在、マイクロパターンに対する娘細胞の最終位置又は娘細胞のサイズ及びおそらくは不等なタンパク質含量を定量することによって解析される。
【0061】
もう一つの実施態様において、方法は、そのような解析のために設計されたアルゴリズムを使用する特定のソフトウェアを含む画像解析装置を使用する前記細胞の自動化解析を含む。より具体的には、特定のソフトウェアは、上記自動化方法を実施することを可能にする。
【0062】
任意の種の動物細胞を本発明で使用することができる。細胞は、動物、哺乳動物又はヒトからの細胞であることができる。細胞は、たとえば、繊維芽細胞、内皮細胞及び上皮細胞であることができる。好ましい実施態様において、細胞は上皮細胞である。細胞は、健康又は病的な組織又は生物に由来することができる。細胞は、野生型又は修飾細胞であることができる。特定の例において、細胞は腫瘍細胞であることができる。たとえば、遺伝子を不活性化することができ、これらの方法は、細胞形状、細胞骨格構造、細胞移動、細胞接着、分子の内部細胞輸送、全体的内部構成、区画化、紡錘体形成又は方向付け、分化などに関与する遺伝子の特定を可能にする。
【0063】
本発明は、細胞の細胞形状、細胞の動き及び移動、細胞構造、細胞の全体的内部構成、細胞極性、有糸分裂又は細胞分裂、細胞分化、細胞・細胞相互作用又は任意の機能を変化させる対象化合物をスクリーニングするための本発明の装置の使用に関する。本発明はまた、細胞の細胞形状、細胞骨格構造、細胞移動、細胞接着、細胞の全体的内部構成、有糸分裂、細胞分化、細胞・細胞相互作用又は任意の機能に関与する対象遺伝子を特定するための本発明の装置の使用に関する。
【0064】
本発明はさらに、本発明の装置を使用して対象化合物をスクリーニングする方法に関する。実のところ、細胞は静的かつ再現可能なコンホメーション、機械的平衡状態及び場合によっては制御された細胞の全体的内部構成を有するため、この装置は高スループットスクリーニングを可能にする。この装置は、細胞の細胞形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、細胞分化、細胞極性、全体的内部細胞構成、細胞分裂及び/又は任意の機能に対する試験化合物の効果の観察を可能にする。より具体的には、本発明は、生物学的に活性な化合物を選択する方法であって、
本発明の装置を提供すること、
細胞が、接着パターンの前記セット上で少なくとも2個の細胞に分裂し、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも1個の細胞に暴露すること、又は細胞が、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも2個の細胞に暴露すること、
試験化合物を前記細胞と接触させること、
接着パターン上で細胞を増殖させること、及び
細胞の細胞形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、細胞分化、細胞極性、全体的内部細胞構成、細胞分裂及び/又は任意の機能を観察すること
を含む方法に関する。
【0065】
スクリーニング法の代替態様においては、細胞を、接着パターン上で増殖させたのち、試験化合物と接触させることができる。したがって、既存の形状、既存の細胞・細胞接触及び細胞の構成に対する化合物の効果を評価することが可能である。
【0066】
もう一つの代替態様において、細胞を、試験化合物と接触させたのち、プレートに接着する。したがって、方法は、
本発明の装置を提供すること、
試験化合物を細胞と接触させること、
細胞が、接着パターンの前記セット上で少なくとも2個の細胞に分裂し、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態に達することを許すのに十分な期間、プレートを前記細胞の少なくとも1個に暴露すること、又は細胞が、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態に達することを許すのに十分な期間、プレートを前記細胞の少なくとも2個に暴露すること、
接着パターン上で細胞を増殖させること、及び
前記細胞の形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、全体的内部細胞構成、細胞分化、細胞極性、細胞分裂及び/又は任意の機能を観察すること
を含む。
【0067】
好ましくは、方法は、細胞の細胞形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、細胞分化、細胞極性、全体的内部細胞構成、細胞分裂及び/又は任意の機能を、前記試験化合物と接触していない細胞とで比較するさらなるステップを含む。場合によっては、前記対照細胞は、既知の効果を有する参照化合物と接触させることもできる。
【0068】
試験化合物は、様々な起源、性質及び組成のものであることができる。単離された状態又は他の物質と混合した状態にある有機又は無機物質、たとえば脂質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、小分子などであることができる。たとえば、試験化合物は、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はRNAiであることができる。たとえば、化合物は、すべて又は一部がコンビナトリアルライブラリの産物であることができる。
【0069】
当然、上述の方法において、細胞は、特に機械的平衡状態を有する多細胞配列にある。実のところ、本発明の装置の目的は、相互作用する細胞に関して細胞を研究又はスクリーニングすることができることであり、高スループットデータ取得及び高サンプリングに適するためには、機械的平衡状態及び再現性が必要である。
【0070】
例示的であると見なされるべきであり、本出願の範囲を限定するものではない以下の実施例部分で本発明のさらなる局面及び利点を開示する。
【0071】
実施例
本発明に記載されるマイクロパターンを作製するためには、いくつかのパターニング法を使用することができる。二つの主要な方法、すなわちマイクロコンタクトプリンティング又はUVパターニングが適合される。マイクロコンタクトプリンティングは、スタンプを用いての接着分子の付着及び細胞非親和性成分による埋め戻し(backfilling)に依存する。UVパターニング法は、基質を細胞非親和性成分でコーティングしたのち、さらに、レーザ又は光学マスクを用いてUV光によって特定のパターンに酸化させることに依存する。ここでは、マイクロコンタクトプリンティング法を詳細に説明する。
【0072】
マイクロコンタクトプリンティング法
使用される方法は、好みの基質の上にタンパク質をプリントするためのマイクロフィーチャを有するエラストマースタンプの使用に基づく。プロセス全体は、三つの主要部分に細分することができる。第一の部分は、スタンプを製造するために使用されるシリコンマスタの製作を記載する。第二の部分は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)スタンプの製作及び使用を記載する。スタンプを細胞外マトリックスタンパク質でインク付けし、乾燥させる。その後、タンパク質を、組織培養ポリスチレン皿又はポリスチレン(PS)の薄い層で被覆されたガラススライド上にプリントする。非プリント区域はポリ−L−リシン−ポリエチレングリコール(PLL−PEG)で埋め戻される(back-filled)。
【0073】
I マスタ製作
材料
試薬
アセトン
現像液LDD26W(Shipley, Coventry, UK)
クロロトリメチルシラン(Sigma-Aldrich, Saint Quentin Fallavier, France)
光学マスク(Deltamask, Netherlands)
フォトレジストSPR220-7.0(Shipley)
シリコンウェーハ100mm(MEMC Spa, Italia, ref GPHVXB6F)
【0074】
方法
フォトレジスト層コーティング
1.シリコンウェーハを、アセトン中10分間の音波処理によって清浄し、ろ過空気流又は窒素流で乾燥させた。
2.シリコンウェーハをスピンコータに配置した。表面の2/3をフォトレジストで被覆した。その後、フォトレジストを毎分2000回転で1分間スピンコートした。
3.ウェーハ及びフォトレジストを、ホットプレート上、115℃で3分間ベーキングした。室温に戻すため、ウェーハをベンチ上で15分間放置した。これらの三つの工程の結果、シリコンウェーハ上に厚さ9ミクロンのフォトレジスト層が得られた。
【0075】
フォトレジストリソグラフィー
4.フォトレジスト層及び光学マスクをマスク露光装置(mask aligner)とで接触状態に配置し、UV灯(UV光源405nm、UV出力6mW/cm2)で45秒間照射した。
5.純粋な現像液中、フォトレジストを2分間現像し、蒸留水浴に移してすすぎ、露光を止めた。照射区域は現像液に溶解した(選択したフォトレジストがポジであったため。ネガのレジストであれば反対の結果が得られたであろう)。これがマイクロフィーチャ(micro-features)を創製した。その後、得られたレジストマスタ型をろ過空気流で乾燥させた。
【0076】
フォトレジストマスタ表面コーティング
6.スタンプ製作中のPDMSの強力な接着を防ぐため、レジストマスタをシラン化した。レジストマスタを、クロロトリメチルシラン数滴を含む小さなビーカの近くで真空乾燥機に入れた。クロロトリメチルシラン蒸気が形成しやすくなるよう、真空を30分間加えた。その後、乾燥機を閉じ、レジストマスタを蒸気の存在下に夜通し放置した。
7.レジストマスタを100℃のオーブンに30分間入れて、マスタ表面におけるシラン編成を完了させた。
【0077】
II マイクロパターニングされた基質の製作
マイクロパターニングのために二つの基質、すなわち、最高の光学的品質を保証するガラススライド及び組織培養処理されたポリスチレン(TCPS)皿を提供した。タンパク質接着はガラス上よりも酸化PS上のほうがはるかに良好であるため、ガラススライドを薄いPS層でコートした。
【0078】
材料
試薬
ポリジメチルシロキサン(PDMS)(Sylgard 184キット、1kg、Dow Corning)
フィブロネクチン(F1141、Sigma)
AP6000
ポリスチレン(Acros)
トルエン
ガラススライド
TCPS
自家製レジストマスタ(前記部分を参照)又はカスタム市販マスタ(Biotray, Lyon, France)

ファルコンチューブ
PLL−g−PEG(SurfaceSolutions, Switzerland)
パラフィルム
【0079】
方法
スタンプ製作
1.PDMS及び硬化剤(いずれもSylgard 184キットに含まれる)を、プラスチックビーカ中、10/1の比で混合した。これが気泡形成を誘発した。
2.PDMSミックスを真空下にガス抜きして気泡を除去した。期間は真空度によって異なった。
3.厚さ2mmのガス抜きしたPDMSミックス層をレジストマスタ上に流し込み、オーブン中60℃で2時間硬化させた。
4.PDMS層をやさしく剥離させた。
5.選択されたマイクロパターン形を含む対象領域は、簡単な顕微鏡の下、透過光を用いて視覚的に見つけることができる。外科用メス(scalpel)を用いて約1cm2のスタンプを手作業でくり抜いた。
【0080】
スタンプは、ほこりを避けるため、密封パッケージ中に貯蔵されなければならない。スタンプは、使用されるまで何ヶ月間か保存することができる。
【0081】
基質調製
ここで記載される基質は、ポリスチレン(PS)で被覆されなければならないガラススライドであった。TCPS皿はそのままの状態で使用することができる。
6.ガラススライドをエタノールで洗浄した。場合によっては、エタノール中で音波処理して除塵を最適化することもできる。ろ過空気流で乾燥させるか、フードの下で乾燥させた。
7.ガラススライドをスピンコータ上に配置した。接着促進剤AP6000数滴をガラスに付着させ、100rpmで10秒間スピンコートし(スライドを被覆するため)、次いで1000rpmで20秒間スピンコートした(薄層を形成するため)。スピンコートののち、AP6000層は乾燥していた。
8.PSのトルエン溶液(2%)数滴を、AP6000で被覆されたガラスに付着させ、100rpmで10秒間スピンコートし(スライドを被覆するため)、次いで1000rpmで20秒間スピンコートした(薄層を形成するため)。スピンコートののち、AP6000層は乾燥していた。
【0082】
マイクロコンタクトプリンティング
9.PBS中50μg/mLのフィブロネクチン1滴20μLを1cm2スタンプのマイクロ構造化面に付着させた。PDMSは、疎水性であるため、ピペットマンの先端を用いて滴をスタンプの各隅まで動かすことによって強制的に滴を延展させる必要があった。スタンプの表面には優しく触れた。インク付けを30分間実施して、フィブロネクチンをPDMSに吸着させた(この期間はおそらく短縮される)
10.この工程は、工程9におけるタンパク質吸着の間に実施することができる。PS層を有するガラススライドを基質として使用する場合、スライドをプラズマクリーナに入れる。ポンプを起動してチャンバ中に真空を発生させた。弱い酸素流を開放した。振動する電場を30Wで10秒間印加した。TCPS皿を基質として使用する場合、皿は、絶対的なプラズマ酸化を要さず、そのままの状態でプリントすることができるが、ガラススライドに関して記載したものと同じプラズマ処理がプリント及びパシベーション効率を大きく改善した。
11.工程9ののち、フィブロネクチンの滴を吸い取り、PBSの大きな滴を表面に加えたのち、乾燥させた。この工程を2回繰り返して未吸着フィブロネクチンを除去した。
12.PBSの滴を吸い取り、フードの気流の下、スタンプを数秒〜1分間乾燥させた。反射光で見て表面が乾燥状態に見えると、そのスタンプはプリント準備完了状態であった。
13.ひとたび乾燥すると、スタンプをピンセットでとり、ひっくり返して、マイクロ構造化面が基質(TCPS皿又はPS層を有するガラス)と接触するように配置した。ピンセットで手早く軽い圧を加えて、スタンプと基質との間の良好な接触を保証した。スタンプを基質と接触させて1分間放置した。
14.スタンプを取り出し、ファルコンチューブ中で水に浸漬した。
15.プリントした基質をPLL−PEG溶液、Hepes中0.1mg/mL、10mM、pH7.4に30分間浸漬した。PLL−PEGの量を最小限にするために、100μLの滴を基質上に配置し、パラフィルム片で被覆した。
16.PLL−Pegグラフト中、スタンプを清浄した。スタンプを入れたチューブを60℃に加熱し、超音波浴中で15分間音波処理した。その後、スタンプを純粋なアルコール中で15分間音波処理した。
17.清浄なスタンプをフード下で1時間乾燥させたのち、そのパッケージに戻した。
18.PLL−PEGグラフト基質をPBSで2分間及び10分間の2回洗浄した。
【0083】
基質は細胞付着の準備ができた。乾燥状態で(可能ならば、アルゴン下)4℃で少なくとも1週間は貯蔵することができる。
【0084】
III 細胞付着
材料
試薬
PBS
トリプシンEDTA
DMEM又はDMEM−F12
SVF
ペニシリン
ストレプトマイシン
【0085】
方法
1.接着細胞をPBS中で洗浄し、トリプシンEDTAによってフラスコから剥離させた。
2.完全培地(DMEM又はDMEM−F12+10%SVF+1%ペニシリン及びストレプトマイシン)をフラスコに加え、捕集した細胞を1500rpmで3分間遠心分離処理した。
3.上澄みを除去し、細胞を培地中に50000個/mLで再懸濁した。
4.細胞溶液をマイクロパターニングされた基質(ガラススライド又はTCPS皿)に加えた。最終密度は1cm2あたり約10000個であるべきである。全体をインキュベータに入れた。
5.細胞株ごとに異なる所与の時間(HeLa−B及びMDCKの場合は1時間)ののち、細胞の十分に大きな割合がマイクロパターンに付着していることを顕微鏡下で確認した。
6.皿の片側から培地を流し、他方の側で吸引することによって非接着細胞を除去した。
7.付着した細胞をインキュベータに戻して完全に延展させた。
8.1時間後、細胞を固定又は録画することができる。
【0086】
結果
MCF10A細胞、乳房上皮細胞を、それらを培養したフラスコから剥離させ、マイクロパターンのアレイ上で平板培養した。様々な形のマイクロパターンを試験した。その上に付着した細胞を有するマイクロパターニングされた基質を、インキュベータに入れた倒立電動顕微鏡に配置して細胞を37℃に維持する。個々の細胞を選択し、それらの位置を記録した。5分ごとに位相差で画像を撮影することによって細胞挙動を録画した。細胞分裂後は、娘細胞の挙動を観察した。目的は、細胞が安定かつ再現可能な構成をとる形を特定し、下にあるマイクロパターンに対する細胞接触面の向きを計測することであった。
【0087】
細胞挙動は、画定されたパターン上で非常に再現可能であった。正方形のマイクロパターン上では、娘細胞は互いの周囲を恒久的に動き回った(図2)。H形のマイクロパターン上では、娘細胞は移動せず、安定な配置をとった(図3)。この場合、細胞・細胞接触は、非接着区域上の同じ位置で再現可能に確立された。H形のマイクロパターン上の細胞対は、メタノール中、−20℃で固定し、細胞・細胞接着を明らかにするためのE−カドヘリンに対する抗体ならびにアクチンフィラメント及びDNAに対する二つの蛍光色素で標識した(図4)。
【0088】
本発明者らは、マイクロパターン上の細胞配列の安定性をさらに定量化するための五つの挙動を区別するために任意のクラスを定義した。(1)細胞は互いの周囲を一方向に動く。(2)細胞は互いの周囲を二方向に動く。(3)細胞は互いの周囲を動き回り、停止し、再び互いの周囲を動き回り始める。(4)細胞は、同じ位置を中心に振動し、ほぼ平衡状態にある。(5)細胞は一つの位置で安定である。平衡状態に達することを許すパターンは、細胞の大多数が挙動(4)及び(5)で見られるパターンである。平衡状態に達することを許さないパターンは、細胞の大多数が挙動(1)及び(2)で見られるパターンである。何百もの動画を視覚的に解析し、五つのクラスにしたがって分類した。円、円板、正方形及び三角形のような形は、細胞移動及び細胞対の不安定性を促進すると思われる。挙動(4)及び(5)が優勢(dominent)であるU、C、V、X又はHのような他の形は、細胞対を安定化させ、機械的平衡状態を促進すると思われた(図5)。
【0089】
図6は、MDCK細胞(腎上皮細胞であるMadin-Darby Canine Kidney Cells)の挙動を示す。
【0090】
図7は、WO2005/026313で定義されているようなL形態を有する接着パターン上のHela細胞の挙動を示す。2個の細胞が互いの周囲を回転することを観察することができる。実のところ、この文献は、1個の細胞の接着を可能にするように設計された接着パターンを画定する。細胞は、このパターン上で分裂することができるとしても、小さすぎるため、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することには適さない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個の相互作用する細胞を、機械的に安定かつ再現可能なコンホメーションを有する細胞配列に接着するための装置の使用であって、
平坦面を画定するプレート、及び
少なくとも二つの接着パターンのセット
を含み、少なくとも二つの接着パターンが、第一の接着パターン上の細胞が別の接着パターンに到達することを阻止するための本質的に非接着性の介在区域によって互いから十分に分けられており、少なくとも二つの接着パターン及び介在区域によって被覆される面積が、少なくとも2個の動物細胞を接着するのに十分であり、少なくとも二つの接着パターンのセットが非細胞親和性の周辺領域によって隔離されている装置の使用。
【請求項2】
少なくとも2個の相互作用する細胞を、機械的に安定かつ再現可能なコンホメーションを有する細胞配列に接着するための装置であって、
平坦面を画定するプレート、及び
少なくとも二つの接着パターンのセット
を含み、少なくとも二つの接着パターンが、第一の接着パターン上の細胞が別の接着パターンに到達することを阻止するための本質的に非接着性の介在区域によって互いから十分に分けられており、少なくとも二つの接着パターン及び介在区域によって被覆される面積が、少なくとも2個の動物細胞を接着するのに十分であり、少なくとも二つの接着パターンのセットが非細胞親和性の周辺領域によって隔離されている装置。
【請求項3】
二つの接着パターンの間の距離が約2/3D〜約4/3D(Dは、表面Sを有する円板の直径である)、好ましくは約3/4D〜約5/4D、より好ましくは約Dである、請求項1記載の使用又は請求項2記載の装置。
【請求項4】
各細胞のための接着パターンによって被覆される面積が細胞表面Sの80、70、60又は50%未満である、請求項1〜3のいずれか1項記載の使用又は装置。
【請求項5】
本質的に非接着性の介在区域が、細胞が別の接着パターンに到達することを許さないために適した一つの接着ゾーンを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の使用又は装置。
【請求項6】
一つの接着ゾーンが、二つの接着パターンの間に位置する、1/2D未満、好ましくは1/3D未満、より好ましくは1/4D未満の幅を有するゾーンである、請求項5記載の使用又は装置。
【請求項7】
前記一つの接着ゾーンが二つの接着パターンを接続する、請求項6記載の使用又は装置。
【請求項8】
二つの接着パターンのセットが、以下の形態、すなわちC、X、H、Z及びΠの一つを有する、請求項1〜7のいずれか1項記載の使用又は装置。
【請求項9】
接着パターンが、一つの接続された接着面及び/又はいくつかの不連続な接着面で形成されている、請求項1〜8のいずれか1項記載の使用又は装置。
【請求項10】
装置が、少なくとも二つの接着パターン少なくとも2セットを含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の使用又は装置。
【請求項11】
装置が、少なくとも4、8、16又は32の接着パターン少なくとも2セットを含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の使用又は装置。
【請求項12】
接着パターンの各セットが、2個以上の細胞を有する多細胞配列のために設計され、2500μm2を超える、好ましくは2600〜50000μm2、たとえば2600、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10000、20000、30000、40000又は50000μm2の面積を被覆する、請求項11項記載の使用又は装置。
【請求項13】
対象化合物をスクリーニングする、対象遺伝子を特定する、又は細胞機能不全を診断するための、請求項2〜12のいずれか1項記載の装置の使用。
【請求項14】
少なくとも2個の相互作用する細胞を、機械的に安定かつ再現可能なコンホメーションを有する多細胞配列に接着する方法であって、
接着する細胞を選択すること、
請求項2〜12のいずれか1項記載の適切な装置を選択すること、及び
選択された装置上で細胞を培養すること
を含む方法。
【請求項15】
拘束なしに支持体上で細胞によって被覆された表面を測定して、細胞のサイズを測定し、細胞のサイズに基づいて装置を選択することを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
少なくとも2個の細胞を、平面上、機械的平衡状態を有する多細胞配列に固定化する方法であって、
請求項2〜12のいずれか1項記載の装置を提供すること、及び
細胞が、接着パターンの前記セット上で少なくとも2個の細胞に分裂し、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも1個の細胞に暴露すること
を含む方法。
【請求項17】
少なくとも2個の細胞を、平面上、機械的平衡状態を有する多細胞配列に固定化する方法であって、
請求項2〜12のいずれか1項記載の装置を提供すること、及び
細胞が、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも2個の細胞に暴露すること
を含む方法。
【請求項18】
多細胞配列中の細胞の細胞形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、細胞分化、細胞極性、全体的内部細胞構成、細胞分裂及び/又は任意の機能を研究する方法であって、
請求項2〜12のいずれか1項記載の装置を提供すること、
細胞が、接着パターンの前記セット上で少なくとも2個の細胞に分裂し、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも1個の細胞に暴露すること、又は細胞が、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも2個の細胞に暴露すること、
接着パターンのセット上で細胞を多細胞配列に増殖させること、及び
多細胞配列中の細胞の細胞形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、細胞分化、細胞極性、全体的内部細胞構成、細胞分裂及び/又は任意の機能を観察し、計測すること
を含む方法。
【請求項19】
生物学的に活性な化合物を選択する方法であって、
請求項2〜12のいずれか1項記載の装置を提供すること、
細胞が、接着パターンの前記セット上で少なくとも2個の細胞に分裂し、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも1個の細胞に暴露すること、又は細胞が、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを少なくとも2個の細胞に暴露すること、
試験化合物を多細胞配列中の前記細胞と接触させること、
接着パターン上で細胞を多細胞配列に増殖させること、及び
多細胞配列中の前記細胞の形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、全体的内部細胞構成、細胞分化、細胞極性、細胞分裂及び/又は任意の機能を観察すること
を含む方法。
【請求項20】
生物学的に活性な化合物を選択する方法であって、
請求項2〜12のいずれか1項記載の装置を提供すること、
試験化合物を細胞と接触させること、
細胞が、接着パターンの前記セット上で少なくとも2個の細胞に分裂し、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを前記細胞の少なくとも1個に暴露すること、又は細胞が、前記接着パターンそれぞれに接着し、機械的平衡状態を有する多細胞配列に達することを許すのに十分な期間、プレートを前記細胞の少なくとも2個に暴露すること、
接着パターン上で細胞を多細胞配列に増殖させること、及び
多細胞配列中の前記細胞の形状、細胞の動き及び移動、細胞・細胞相互作用、細胞構造、全体的内部細胞構成、細胞分化、細胞極性、細胞分裂及び/又は任意の機能を観察すること
を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5−1】
image rotate

【図5−2】
image rotate

【図5−3】
image rotate

【図5−4】
image rotate

【図5−5】
image rotate

【図5−6】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2012−506247(P2012−506247A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532642(P2011−532642)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/063947
【国際公開番号】WO2010/046459
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)
【Fターム(参考)】