説明

多結晶シリコン棒の製造方法

【課題】高い心棒温度、中間貯蔵から堆積までの間での清浄化された心棒の取り扱いによる汚染、及び取り付けられた心棒の表面の不十分な清浄化作用を回避し、かつ上記先行技術を改善すること
【解決手段】反応器中で少なくとも1つの心棒にシリコンを堆積させることによる多結晶シリコン棒の製造方法において、前記シリコンの堆積の前に、ハロゲン化水素を400〜1000℃の心棒温度で、少なくとも1つの心棒を有する前記反応器内へ導入し、UV光を照射し、それによりハロゲンラジカル及び水素ラジカルを生じさせ、生成された揮発性のハロゲン化物及び水素化物を前記反応器から取り除く、多結晶シリコン棒の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、多結晶シリコン棒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコン(省略して:ポリシリコン)は、坩堝引き上げ法(チョクラルスキー法又はCZ法)又はゾーンメルティング(フロートゾーン又はFZ法)を用いる単結晶シリコンの製造の際の出発材料として利用される。この単結晶シリコンは、ウェハ(Wafer)の形で切り出され、多数の機械的、化学的及び化学機械的加工の後で、半導体工業における電子素子(チップ)の作成のために使用される。
【0003】
特に、多結晶シリコンは、引き上げ法又はキャスト法を用いた単結晶シリコン又は多結晶シリコンの製造のために、単結晶又は多結晶シリコンの製造のために大量に必要とされ、その際、この単結晶又は多結晶シリコンは、光起電力用の太陽電池の作製のために利用される。
【0004】
この多結晶シリコン(しばしば省略してポリシリコンともいわれる)は、通常ではシーメンスプロセスを用いて製造される。この場合、鐘状の反応器(シーメンス反応器)中で、シリコンからなる心棒に直接電流を通すことにより加熱し、ケイ素を含有する成分及び水素を含有する反応ガスを導入する。
【0005】
このシリコン心棒は、通常では3〜15mmの辺の長さを有する。
【0006】
ケイ素を含有する成分として、例えばケイ素ハロゲン化合物、例えばケイ素塩素化合物、特にクロロシランが挙げられる。このケイ素を含有する成分は、水素と一緒に反応器中へ導入される。1000℃を超える温度で、この心棒上にシリコンを堆積させる。この場合に、最終的に多結晶シリコンを有する棒が生じる。DE 1 105 396中で、シーメンスプロセスの基本原理が記載されている。
【0007】
この心棒の製造に関して、DE 1 177 119からは、シリコンからなるキャリアボディ(=心棒)上にシリコンを堆積させ、引き続き、この心棒から一部分を取り出し、この取り出された部分をまたシリコンの堆積のためのキャリアボディとして使用することが公知である。この取り出しは、機械的に、例えば鋸断装置を用いるか、又は液体噴流を用いて電解的に行うことができる。
【0008】
この心棒の機械的な取り出しの場合には、心棒の表面は、金属で並びにホウ素化合物、リン化合物、アルミニウム化合物及びヒ素化合物で汚染される。B、P、Al及びAsによる平均的な負荷は、60〜700ppta(parts per trillion atomic)の範囲内にある。この汚染された心棒表面は、この心棒の表面上のドーパントのB、P、Asが、心棒表面上に多結晶シリコンの最初の層を堆積させる間に成長するSi棒内へ組み込まれることにより、最初の熱的に堆積されたSi層を損なう。
【0009】
従って、通常では、心棒を表面清浄化する必要があり、その後で、この心棒はシリコンの堆積のために使用することができる。DE 1 177 119は、これに関して、機械的手法で、例えばサンドブラストによるか、又は化学的手法でエッチングにより清浄化することが開示されている。
【0010】
汚染の少ない材料、例えばプラスチックからなるエッチング槽中で、HF及びHNO3からなる混合物を用いてこの心棒を処理することにより、この表面汚染は、B、P、Al及びAsの場合に15pptw未満に明らかに低下させることができる。この純度は、しかしながら高抵抗FZ棒のためには十分ではない。
【0011】
EP 0 548 504 A2では、同様に、シリコンの清浄化のためにHF及びHNO3を使用する清浄化法が記載されている。
【0012】
他の清浄化法はDE 195 29 518 A1から公知である。この場合、多結晶シリコンを、まず、王水(HCl及びHNO3からなる混合物)で清浄化し、次いでさらにHFを用いた清浄化を行う。
【0013】
ゾーンメルティングのための出発材料としての多結晶Si棒の堆積のために使用される心棒に関して、特に高い純度の要求がなされる。FZ心棒は、US 6,503,563 B1によると、機械的処理の後に、まずHF−HNO3でエッチングされ、純粋で洗浄し、乾燥させ、引き続き加圧下で閉鎖された不活性ガス容器(N2、He、有利にAr)中で貯蔵する。後の段階で、結晶シリコンをプラズマCVDでこの心棒に堆積させる。
【0014】
しかしながら、HF/HNO3エッチング装置から不活性ガス容器への輸送及び前記エッチング装置からCVD反応器への輸送の際のこの心棒の取り扱いによって、再びドーパントがこの心棒表面に堆積する。
【0015】
DE 27 25 574 A1からは、シリコンキャリアを、加熱媒体(水素、アルゴン又はヘリウム)で予熱することが公知である。このガス(高純度の状態で使用される)は、ケイ素の汚染を抑制する。このシリコンキャリアは、この場合、約400℃の温度に加熱される。この温度からシリコンは導電性になり、電流の導通による電気的加熱が可能となるが、この条件下では、この心棒表面上での清浄化効果は達成できない。
【0016】
DE 1 202 771は、シーメンスプロセスの範囲内で、最初の段階でのガス混合物中のハロゲン化水素の割合の調節によりこのキャリアボディの上側層を除去し、第2の段階でシリコンを堆積させる方法を開示している。第1の段階で、このキャリアボディは、酸化皮膜を低減するまで、約1150℃の温度で加熱される。
【0017】
US 6,107,197から、塩素ガス又は水素ガスを、加熱したフィラメントを通過するように案内することにより塩素ラジカル及び水素ラジカルを生成させ、炭素で汚染されたシリコン層を塩素ラジカル又は水素ラジカルにさらすことにより、この汚染された層を除去することは既に公知である。これらのラジカルは、UV放射線によるよりもより効果的に生成される。心棒の清浄化のために十分な水素ラジカル及び塩素ラジカルの生成のために、DE 1 202 771により開示されたような1000℃を超える高い分解温度が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】DE 1 105 396
【特許文献2】DE 1 177 119
【特許文献3】EP 0 548 504 A2
【特許文献4】DE 195 29 518 A1
【特許文献5】US 6,503,563 B1
【特許文献6】DE 27 25 574 A1
【特許文献7】DE 1 202 771
【特許文献8】US 6,107,197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、本発明の課題は、上記の欠点、つまり高い心棒温度、中間貯蔵から堆積までの間での清浄化された心棒の取り扱いによる汚染、及び取り付けられた心棒の表面の不十分な清浄化作用を回避し、かつ上記先行技術を改善することにあった。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題は、反応器中で少なくとも1つの心棒にシリコンを堆積させることによる多結晶シリコン棒の製造方法において、前記シリコンの堆積の前に、ハロゲン化水素を400〜1000℃の心棒温度で、少なくとも1つの心棒を有する前記反応器内へ導入し、UV光を照射し、それによりハロゲンラジカル及び水素ラジカルを生じさせ、生成された揮発性のハロゲン化物を前記反応器から取り除く、多結晶シリコン棒の製造方法により解決される。
【0021】
有利に、前記心棒へのシリコンの堆積はハロゲンラジカル及び水素ラジカルを用いた清浄化工程の直後に開始する。
【0022】
しかしながら、この堆積を後の時点で初めて実施することを意図する場合には(これは同様に有利である)、この心棒を不活性雰囲気中で貯蔵する。このためには例えばCO2雰囲気が適している。同様に、不活性ガスとしてN2又はArが適している。
【0023】
この貯蔵は、有利に、石英、HDPE又はPPからなる気密に閉鎖された管中で、加圧下で行われる。
【0024】
上記のハロゲンラジカル及び水素ラジカルは、本発明の範囲内で、UV光を用いたハロゲン化水素の分解により生成される。
【0025】
有利に、本発明による方法では、空気有害物質で負荷された心棒表面を、堆積の前に、制御された条件下で清浄化することが事実である。
【0026】
ドーパントは、ラジカル反応により、揮発性のハロゲン化物(例えば、PCl3、BCl3、AsCl3)及び水素化物(PH3、BH3、B26、AsH3)として、この反応器から取り除かれる。例えば、HBr−HCl又はHI−HClからなる混合物に、低い温度でH2雰囲気中でUV(例えば、波長200〜400nm、有利に254nm)を照射し、この心棒を堆積の前に清浄化し、かつパッシベーションする。
【0027】
この塩素ラジカル及び水素ラジカルは、シリコン表面から微量のホウ素、リン、アルミニウム及びヒ素の最終的な残りを除去する。
【0028】
この清浄化された心棒を引き続きすぐには使用しない場合には、堆積されるシリコン棒のわずかなドーパント汚染を達成するために、この種の清浄化された心棒は、石英、HDPE又はPPからなる気密に密閉された管中で、不活性ガスの加圧下で、例えばCO2、N2又はアルゴンの加圧下で貯蔵される。
【0029】
堆積されるシリコン棒中の低いドーパント濃度は、無転位の単結晶を得るためにゾーンメルティング法及び坩堝引き上げ法によりこのシリコン棒を更に加工するための重要な品質基準である。
【0030】
特にシリコン棒中での低いドーパント濃度は、適切に調節された一定の抵抗値を有する単結晶を製造するために必要である。
【0031】
さらに、最高純度の心棒は、高い抵抗を有する高い無転位FZ歩留まりのために重要である。
【0032】
この生成されたハロゲンラジカル及び水素ラジカルと、アルミニウム、ホウ素、リン及びヒ素を有する表面不純物とを反応させて揮発性のハロゲン化物及び水素化物にすることは、本発明の成功のために重要である。
【0033】
シーメンスプロセスの基礎は、DE 10 2006 037 020 A1に詳細に記載されていて、これは全体の範囲が参照され、本発明の開示の一部である。
【0034】
DE 10 2006 037 020 A1によると、堆積されたシリコンを有する第1のキャリアボディの構築のために堆積反応器を開放するときから、第2のキャリアボディ上にシリコンを堆積するためにこの反応器を閉鎖するまでに、不活性ガスが供給管及び排出管を通してこの開放された反応器中へ導入される。
【0035】
本発明による方法は、この製品特性を、反応器の不活性化後の心棒の付加的な表面清浄化により向上させる。
【0036】
本発明を、次に図面により具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この方法を実施するための装置の構造を示す。
【0038】
これはシーメンス反応器の典型的な構造である。
【0039】
このような反応器は、遮断弁8を備えた反応ガス用の供給管1と、排ガス6用の排出管とを有し、前記供給管は供給口2を介して底板3を通して反応器4中へ案内され、前記排出管は前記反応器4の底板3中の排出口5を通して遮断弁7を介して外へ又は排出管へ案内され、前記管1には前記遮断弁8の後方で、遮断弁10により調節可能な不活性ガス管11が接続し、かつ前記排出管6には、前記遮断弁6の前方で、遮断弁9により調節可能な不活性ガス管11が接続していることを特徴とする。
【実施例】
【0040】
比較例
チャージ交換並びに心棒の組立の間に、供給管及び排出管、並びに鐘状反応器を開放状態で不活性ガス(窒素)でパージした。
【0041】
この堆積自体は、DE 12 09 113又はDE 196 08 885(「イグニション」)に記載のように、トリクロロシラン(TCS)により行った。
【0042】
多結晶棒が所望の目標直径に成長した後に、トリクロロシランの供給を停止し、反応器を室温に冷却しかつ不活性化した。
【0043】
取り外しの後に、製造された多結晶棒からにSEMI MF 1723-1104 (23.10.2003)従って試料を作成し、SEMI MF 397-02 (比抵抗, 22.10.2003)及びSEMI MF 1389-0704 (フォトルミネッセンスによるP含有率, 22.10.2003)の規格に応じてドーパントについて試験した。
【0044】
この比抵抗は、33pptaのP含有率で980 Ohmcmである。勾配mrhoは、150 Ohmcm/mmであった(定義mrhoは、DE 10 2006 037 020 A1 [0010]- [0012]参照)。
【0045】
実施例
反応器を、実施例1と同様に準備した。
【0046】
反応器4を再び密に組み立てた後に、UVランプ(例えばRen-Ray 3SC-9又はHanovia SC2537)を、フランジ12を通して又はのぞき窓13を通して気密に導入する。
【0047】
引き続き、弁9を閉鎖し、弁8を開放した後で、開放した弁10で、反応ガス管1を介して、HBr−HCl−H2の混合物を、0.00001:0.1:0.9〜0.01:0.09:0.9の体積比で、大気圧で、85m3/hの体積流で導入し、かつ排ガス管6を介して排気した。
【0048】
この流動するHX−H2混合物を、上記UVランプで照射し、この心棒表面を30分間、室温で照射した混合物を用いて処理する。
【0049】
この処理の後に弁8を閉じ、UVランプをN2不活性ガス流の下で反応器4から取り外し、この反応器4を不活性ガス管11及び排出管6を介して再び不活性化する。
【0050】
この状態で、次に、実施例1に記載したのと同様に堆積を実施する。
【0051】
この取り外した棒は、<26pptaのP含有率で>1100 Ohmcmの比抵抗を示した。この勾配値mrhoは、>150 Ohmcm/mmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器中で少なくとも1つの心棒にシリコンを堆積させることによる多結晶シリコン棒の製造方法において、前記シリコンの堆積の前に、ハロゲン化水素を400〜1000℃の心棒温度で、少なくとも1つの心棒を有する前記反応器内へ導入し、UV光を照射し、それによりハロゲンラジカル及び水素ラジカルを生じさせ、生成された揮発性のハロゲン化物及び水素化物を前記反応器から取り除く、多結晶シリコン棒の製造方法。
【請求項2】
前記揮発性のハロゲン化物及び水素化物の除去後にシリコンを少なくとも1つの前記心棒に堆積させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記揮発性のハロゲン化物及び水素化物の除去後に、まず少なくとも1つの前記心棒を反応器から取り出し、不活性雰囲気を有する気密に密閉された管中で貯蔵し、後の時点で、少なくとも1つの心棒にシリコンを堆積させるために再び反応器中に導入する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
反応器及び反応器中のガス供給管及び排出管を、ハロゲン化水素を導入する前に、不活性ガスを用いてパージする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記照射をUVランプを用いて行い、このUVランプをフランジ又はのぞき窓を通して気密に反応器内へ導入する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記揮発性のハロゲン化物及び水素化物を前記反応器から除去した後でかつ少なくとも1つの心棒にシリコンを堆積させる前に、反応器及びガス導管を不活性ガスを用いてパージする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−92008(P2012−92008A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231289(P2011−231289)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】