説明

多結晶シリコン製造装置および多結晶シリコンの製造方法

【課題】シリコン芯線の初期通電時の通電傷の発生を防止し、反応初期段階におけるシリコン芯線の倒壊トラブルを防止すること。
【解決手段】2対のシリコン芯線12の間にはバイパス回路17が設けられており、スイッチ16をB端子側に接続することにより、2対のシリコン芯線12を直列に電源15に接続可能である。スイッチ16をA端子側に切り替えることで、1対のシリコン芯線(左側)のみを電源15に接続することもできる。先ず、カーボンヒーター13からの輻射Rにより2対のシリコン芯線を200℃〜400℃に加熱してする。その後、左側のシリコン芯線12のみに通電する状態(半通電状態)として初期印加電圧を加える。このような通電開始により左側のシリコン芯線は自己発熱してその温度が上昇し抵抗率は低下する。この通電開始の後に、左側のシリコン芯線と右側のシリコン芯線を直列に接続し(全通電状態)、2対のシリコン芯線に通電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンの製造技術に関し、特に、加熱したシリコン芯線の表面に原料ガスを供給し多結晶シリコンを析出させて多結晶シリコン棒を製造するための装置およびこれを用いた多結晶シリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体用単結晶シリコンあるいは太陽電池用シリコンの原料となる多結晶シリコンの製造方法として、シーメンス法が知られている。シーメンス法は、クロロシランを含む原料ガスを加熱されたシリコン芯線に接触させることにより、該シリコン芯線の表面に多結晶シリコンをCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて気相成長させる方法である。
【0003】
シーメンス法により多結晶シリコンを気相成長する際、ベルジャーと呼ばれる上部構造体とベースプレートと呼ばれる下部構造体(底板)により構成される反応空間内に、シリコン芯線を鉛直方向2本、水平方向1本の鳥居型に組み立て、該鳥居型のシリコン芯線の両端を一対のカーボン製の芯線ホルダを介してベースプレート上に配置した一対の金属製の電極に固定する。なお、通常は、工業的生産性を考慮して、反応炉内に上述の対を10〜30組設ける。このような構成は、例えば、特開2006−206387号公報(特許文献1)に開示されている。
【0004】
電極は絶縁物を挟んでベースプレートを貫通し、配線を通して別の電極に接続されるか、反応炉外に配置された電源に接続される。気相成長中に多結晶シリコンが析出することを防止するために、電極とベースプレートとベルジャーは水などの冷媒を用いて冷却される。
【0005】
電極から電流を導通させてシリコン芯線を水素雰囲気中で900℃以上1200℃以下の温度範囲に加熱しながら、原料ガスとして例えばトリクロロシランと水素の混合ガスをガスノズルから反応炉内に供給すると、シリコン芯線上にシリコンが気相成長し、所望の直径の多結晶シリコン棒が逆U字状に形成される。
【0006】
ところで、シリコン芯線は多結晶又は単結晶のシリコンで作製されるが、高純度多結晶シリコン製造のために用いられるシリコン芯線は不純物濃度の低い高純度なものである必要があり、具体的には、比抵抗が500Ωcm程度以上の高抵抗のものであることが求められる。一般に、このような高抵抗のシリコン芯線の通電は常温では開始できないため、予めシリコン芯線を200〜400℃程度に初期加熱して比抵抗を下げて(導電性を高めて)から通電する必要がある。
【0007】
このような初期加熱のために、反応炉の中央または内周面に初期加熱用のカーボンヒーター等の加熱源を設けておき、反応開始時には、先ずこのカーボンヒーターを通電により発熱させ、その際に発生する輻射熱によってカーボンヒーター周辺に配置されているシリコン芯線を所望の温度にまで加熱する。そして、かかる加熱によりシリコン芯線の温度が200℃〜400℃に達した時点で、長さ当たり2.0V/cm〜8.0V/cmの電圧をシリコン芯線に印加すると、シリコン芯線への連続的通電が可能となる。その後は、段階的に所要の電流量まで電流量を上昇させ、シリコン芯線の自己発熱によりシリコン芯線の表面温度を反応に必要な温度である900℃以上1200℃以下の範囲に保つ。
【0008】
一旦シリコン芯線への通電が開始されれば、その後はカーボンヒーターを用いた加熱を利用しなくとも、シリコン芯線の表面温度が維持されるため、その後のシランソースガスを導入しての析出反応は持続的に進行する。そのため、上述のシリコン芯線への通電開始後は、カーボンヒーターの電源はOFFされる。
【0009】
以上のようなカーボンヒーターによる加熱操作から析出反応開始操作までの間において、シリコン芯線表面に電流を通電することによる傷(通電傷)が発生することが知られている。このシリコン芯線表面の通電傷はその後の析出反応中のシリコン芯線の倒壊の原因となり、シリコン芯線の倒壊は析出反応の中断を余儀なくし、生産性を低下させる。特に、バッチ式で行われるシーメンス法による多結晶シリコンの製造工程では、析出反応の中断は生産性を顕著に低下させてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−206387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
シーメンス法による多結晶シリコンの製造を行う場合、シリコン芯線への初期通電を開始するためには高電圧の印加を必要とする。そのため、シリコン芯線への通電開始時にシリコン芯線表面に通電傷が発生しやすい。上述のとおり、通電開始時に発生する通電傷はシリコン芯線の強度を低くし、反応工程の時間の経過に伴って増大するシリコン芯線上の析出多結晶シリコンの重量により、鳥居型のシリコン芯線そのものの倒壊が発生する。
【0012】
このようなシリコン芯線の通電開始時に発生するシリコン芯線表面の通電傷の発生防止対策として、通電開始時のシリコン芯線の温度をできるだけ高くすることや、シリコン芯線の表面酸化膜を除去するなどによりシリコン芯線の電気比抵抗を低下させるといった手法も考えられるが、通電傷発生を十分に抑制し得る対策であるとはいえない。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、シリコン芯線への通電傷の発生を抑制し、シリコン芯線の倒壊に起因する生産性の低下を防止するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を解決するために、本発明の多結晶シリコン製造装置は、通電加熱されたn対(nは2以上の整数)の鳥居型のシリコン芯線の表面に原料ガスを供給して多結晶シリコンを析出させる多結晶シリコン製造装置であって、前記シリコン芯線への通電用電源と、スイッチの切り替えにより前記n対のシリコン芯線のうちの第1番目から第m番目(mはn以下の整数)のシリコン芯線を直列接続状態として前記通電用電源からの電力を供給するバイパス回路とを備えている。
【0015】
好ましくは、前記バイパス回路のスイッチは、前記直列接続状態とされるシリコン芯線の数を1ずつ増やし得るように設けられている。
【0016】
また、好ましくは、前記シリコン芯線の表面を輻射により加熱するヒータを備えている。
【0017】
本発明の多結晶シリコンの製造方法は、本発明の多結晶シリコン製造装置を用い、前記n対のシリコン芯線を、第1番目のシリコン芯線からn番目のシリコン芯線に順次通電して予備加熱し、前記n番目のシリコン芯線の通電加熱終了後に前記n対のシリコン芯線をさらに通電加熱して所定温度とし、原料ガスを供給して前記n対のシリコン芯線の表面に多結晶シリコンを析出させる。
【0018】
好ましくは、前記予備加熱から前記所定温度に至るまでの一連の通電加熱工程において、前記バイパス回路に流す電流値の増大量を所定値以下に抑える。
【0019】
この場合、前記所定値は20アンペアであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、初期加熱工程によりシリコン芯線への通電開始時の印加電圧が低く抑えられ、電流値上昇幅を低く抑えることが可能となり、シリコン芯線への通電傷の発生が防止できる。印加電圧を低く抑えると、電流値を増大させる際に生じるオーバーシュートの幅も小さく抑えられる。そして、瞬間的な電流値変動であるオーバーシュートの幅を小さく抑えることは、シリコン芯線表面への通電傷の発生抑制に寄与する。
これにより、
【0021】
また、本発明では、一連の通電シーケンスでのバイパス回路に流す電流値の増大量を所定値以下に抑える。電流値の上昇幅(増大量)は、シリコン芯線加熱の為の設定電流値とオーバーシュート分の電流値の和となるが、通電傷の発生を防止するためには、電流値の上昇幅は、全ての通電工程において、瞬間的な変動を含め、所定値以下であることが好ましい。このような電流値制御は、シリコン芯線表面への通電傷の発生抑制に寄与する。
【0022】
本発明によれば、シリコン芯線の通電傷に起因するシリコン芯線の倒壊を防ぐことができ、シーメンス法による多結晶シリコン製造の生産性低下が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明者らが考える通電傷の発生メカニズムを説明するための図である。
【図2】本発明の多結晶シリコン製造装置の反応炉の構成の一例を示す概略説明図である。
【図3】多結晶シリコンの析出反応開始までの手順を説明するための図である。
【図4】シリコン芯線の対数が3の場合のバイパス回路の構成例を説明するための図である。
【図5】初期通電工程(半通電状態から全通電状態まで)から析出反応を開始するために必要な温度となるまでの通電後加熱工程までの、シリコン芯線に供給する電流値を概念的に説明するための図である。
【図6】シリコン芯線の曲げ強度の測定方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。なお、本明細書において、バイパス回路なる用語は、バイパス部分の回路を意味する用語としてではなく、複数のシリコン芯線を直列に接続可能に構成された回路であって、これらのシリコン芯線の直列接続状態を切り替えるためのバイパス部を含む回路全体、すなわち、バイパス部を含む回路を意味するものとして用いる。
【0025】
図1は、本発明者らが考える通電傷の発生メカニズムを説明するための図である。シリコン芯線12は、カーボン製の芯線ホルダ14の中央の孔部に挿し込まれた状態で固定される。初期通電時に発生する通電傷40は、図1(A)に示したように、芯線ホルダ14の先端部分に接触するシリコン芯線12の表面に発生する。
【0026】
芯線ホルダ14は冷媒Cにより冷却された金属製の電極10に固定されており、シリコン芯線12、芯線ホルダ14、電極10は、カーボンヒーター(不図示)からの輻射Rによって加熱されている。そのため、シリコン芯線12の温度は、上部側で高く下部側で低い。換言すれば、シリコン芯線12の抵抗率は、上部側で低く下部側では高い。特に、芯線ホルダ14により輻射Rが遮られている部分のシリコン芯線12の温度は上昇し難い。
【0027】
このため、通電初期において、相対的に抵抗率が低いカーボン製の芯線ホルダ14(電気抵抗率0.0010〜0.0015Ωcm)から相対的に抵抗率が高いシリコン芯線12(300℃において約6Ωcm、400℃において約1Ωcm)へと電流50が流れる際には、芯線ホルダ14の先端部近傍から、すなわち、シリコン芯線12の上部側から流れ込む(図1(B))。
【0028】
このような局所的な電流50の流入により当該流入部分での電流密度は顕著に高いものとならざるを得ないため、通電傷40が発生することとなると推測される。
【0029】
つまり、通電初期においてシリコン芯線12への通電量を増大する際、シリコン芯線12に供給する電流値を急激に(瞬間的に)高めると、上述したような局所的な電流50の流入が生じて通電傷が生じやすい。事実、本発明者らの行った実験によると、急激に増大させた電流量の大きさ(電流値の増大量)とシリコン芯線12の表面に発生する通電傷との間には、明らかな相関が確認されている。なお、シリコン芯線12に通電されて自己発熱による温度上昇が始まった後では、シリコン芯線12の温度と抵抗率は概ね均一化し、局所的な電流50の流入はなくなる。
【0030】
本発明は、このような検討に基づいてなされたもので、初期通電時の瞬間的な電流値の増大を抑え、シリコン芯線12に発生する通電傷の発生を抑制するものである。
【0031】
図2は、本発明の多結晶シリコン製造装置の反応炉100の構成の一例を示す概略説明図である。反応炉100は、シーメンス法によりシリコン芯線12の表面に多結晶シリコンを気相成長させ、多結晶シリコン棒11を得る装置であり、ベースプレート5とベルジャー1により構成される。
【0032】
ベースプレート5には、シリコン芯線12に電流を供給する金属電極10と、窒素ガス、水素ガス、トリクロロシランガスなどのプロセスガスを供給するガスノズル9と、排気ガスを排出する反応排ガス出口8が配置されている。
【0033】
ベルジャー1には、これを冷却するための冷媒入口3と冷媒出口4および内部を目視確認するためののぞき窓2が設けられている。また、ベースプレート5にも、これを冷却するための冷媒入口6と冷媒出口7が設けられている。
【0034】
金属電極10の頂部にはシリコン芯線12を固定するためのカーボン製の芯線ホルダ14を設置する。図2では、2対の鳥居型に組まれたシリコン芯線12を1台の電源(通電用電源)15から電気を供給する構成例を示したが、シリコン芯線12の対数はこれに限定されるものではない。
【0035】
2対のシリコン芯線12の間にはバイパス回路17が設けられており、スイッチ16をB端子側に接続することにより、2対のシリコン芯線12を直列に電源15に接続可能である。なお、スイッチ16をA端子側に切り替えることで、1対のシリコン芯線(左側)のみを電源15に接続することもできる。
【0036】
図2に示した構成例では、1つのスイッチ16のみを設けているが、バイパス回路17中のスイッチを、シリコン芯線対毎に設けるようにしてもよい。また、図2に示した例では、直列接続状態とされるシリコン芯線の数を1つずつ増やし得るようにバイパス回路17が設計されているが、シリコン芯線対が3以上である場合には、直列接続状態とされるシリコン芯線の数を2つ以上増やし得るようにバイパス回路17を設計してもよい。ただし、後述するように、瞬間的な電流値の上昇幅を所定値以下となるように設定して通電傷の発生を防止することを容易なものとする観点からは、バイパス回路17のスイッチ16は、直列接続状態とされるシリコン芯線12の数を1つずつ増やし得るように設けられていることが好ましい。なお、シリコン芯線12の表面を輻射により加熱するためのカーボンヒーター13は、シリコン芯線12とは別の電源から電力供給される。
【0037】
つまり、本発明の多結晶シリコン製造装置は、通電加熱されたn対(nは2以上の整数)の鳥居型のシリコン芯線の表面に原料ガスを供給して多結晶シリコンを析出させる多結晶シリコン製造装置であって、シリコン芯線12への通電用電源15と、スイッチ16の切り替えにより上記n対のシリコン芯線12のうちの第1番目から第m番目(mはn以下の整数)のシリコン芯線を直列接続状態として通電用電源15からの電力を供給するバイパス回路17とを備えている。
【0038】
好ましくは、バイパス回路17のスイッチ16は、直列接続状態とされるシリコン芯線12の数を1ずつ増やし得るように設けられる。
【0039】
以下に、図2および図3を用いて、多結晶シリコンの析出反応開始までの手順を説明する。析出反応を開始するためには、まず、反応炉内をガス供給ノズル9から供給する水素ガスにより置換する。次いで、カーボンヒーター13に通電してシリコン芯線12を輻射Rによって加熱する。
【0040】
本発明では、初期通電時のシリコン芯線12への印加電圧を低く抑えるのを目的に、図3(A)〜(C)に示すような通電方法がとられる。先ず、カーボンヒーター13からの輻射Rにより2対のシリコン芯線を200℃〜400℃に加熱してする(図3(A))。その後、左側のシリコン芯線12のみに通電する状態(半通電状態)として初期印加電圧を加える(図3(B))。このような通電開始により左側のシリコン芯線は自己発熱してその温度が上昇し抵抗率は低下する。この通電開始の後に、左側のシリコン芯線と右側のシリコン芯線を直列に接続し(全通電状態)、2対のシリコン芯線に通電する(図3(C))。
【0041】
半通電状態下での1対目のシリコン芯線の予備加熱を行わない場合には、直列接続された2対のシリコン芯線に通電するために必要な電圧は、1対のシリコン芯線への通電に必要な電圧の2倍となる。
【0042】
しかし、本発明では、半通電状態で既に1対目のシリコン芯線の抵抗値は自己発熱によって低下しているため、2対のシリコン芯線に同時に通電開始する場合に比較して低い印加電圧での通電が開始可能となる。
【0043】
なお、図4に示したように、シリコン芯線の対数が3(以上)である場合も、加熱の手順は上述と同様である。図4に示したようなシリコン芯線の対数が3である態様の場合、初期通電の工程は、先ず、左側のシリコン芯線に通電し、次いで左側のシリコン芯線と中央のシリコン芯線を直列接続して通電し、その後に左側のシリコン芯線と中央のシリコン芯線と右側のシリコン芯線を直列接続して通電することとなる。
【0044】
本発明の多結晶シリコンの製造方法では、上述した構成の装置を用い、n対(nは2以上の整数)のシリコン芯線を、第1番目のシリコン芯線からn番目のシリコン芯線に順次通電して予備加熱し、n番目のシリコン芯線の通電加熱終了後にn対のシリコン芯線をさらに通電加熱して所定温度とし、原料ガスを供給してn対のシリコン芯線の表面に多結晶シリコンを析出させる。
【0045】
ところで、シリコン芯線に急激な電力供給を行うと、シリコン芯線12と芯線ホルダ14の間の導通状態の急激な変化により、瞬間的に大きな電流が流れるという現象(オーバーシュート)が起こり、これも通電傷の原因となる。このオーバーシュート幅は印加電圧が高いほど大きな値となるが、本発明では、上述した手順により、初期通電時のシリコン芯線への供給電力を従来に比較して低く抑えることができるため、オーバーシュートは抑制される。
【0046】
上述した初期通電の完了後、析出反応を開始するために必要な温度となるまで直列接続された状態でシリコン芯線に電流を流して加熱することとなるが、この工程では、初期通電時よりも多くの電流を流す必要がある。シリコン芯線の抵抗値は初期通電工程での加熱により低下しているため、初期通電後の加熱工程では、相対的に低い電圧で電流供給が可能であるが、急激に電流値を増大することは好ましくないため、段階的に電流値を高める。
【0047】
図5は、初期通電工程(半通電状態から全通電状態まで)から析出反応を開始するために必要な温度となるまでの通電後加熱工程までの、シリコン芯線に供給する電流値を概念的に説明するための図である。
【0048】
初期通電工程では、半通電状態および全通電状態ともに、シリコン芯線を自己発熱させるために必要な最低限の電流値が選定されることが好ましく、初期通電工程の完了後には、析出反応開始に必要な温度となるまで段階的に電流値を上昇させる。このようなシーケンスでの電流値の上昇幅(増大量)は、シリコン芯線加熱の為の設定電流値とオーバーシュート分の電流値の和となる。通電傷の発生を防止するためには、電流値の上昇幅は、全ての通電工程において、瞬間的な変動を含め、所定値以下であることが好ましい。本発明者らの検討によれば、この所定値は好ましくは20アンペアである。
【0049】
つまり、本発明では、予備加熱から原料ガスを供給してシリコン芯線の表面に多結晶シリコンを析出させるための所定温度に至るまでの一連の通電加熱工程において、バイパス回路に流す電流値の増大量を所定値以下に抑え、好ましくは電流値の上昇幅の最大値が20A以下となるように設定する。
【0050】
なお、本発明では、初期加熱工程により印加電圧を低く抑えることができるため、電流値を増大させる際に生じるオーバーシュートの幅も小さく抑えられる。瞬間的な電流値変動であるオーバーシュートの幅を小さく抑えることは、シリコン芯線表面への通電傷の発生抑制に寄与する。
【0051】
上述したようなプロセスでシリコン芯線に通電する電流値を上昇させていき、シリコン芯線の表面温度が900〜1200℃になった時点で原料ガスを供給して多結晶シリコンの析出反応を開始する。
【実施例】
【0052】
[実験例1]
半通電、全通電における瞬間的な電流値上昇幅によるシリコン芯線表面への通電傷の発生を確認するための実験を行った。反応炉に7mm□の1800mm長さのシリコン芯線2本とそれをつなぐ7mm□の330mm長さのシリコン芯線を組み合わせて鳥居型のシリコン芯線対として設置し、カーボンヒーターにて初期加熱を行い、シリコン芯線対を350℃に加熱した。次に、シリコン芯線に通電する電流値を電流制御により、それぞれ5A、10A、15Aの幅で0Aから50Aまで上昇させた。なお、電流値以外の条件は、全て同一の条件とした。通電テスト終了後、シリコン芯線対を取り出し、通電傷の観察を行った後に曲げ強度テストを行った。
【0053】
図6は、シリコン芯線の曲げ強度の測定方法の概略図である。曲げ強度は、それぞれの電流値制御で通電させたシリコン芯線それぞれを、試験装置に適合するよう通電傷を含み、かつ、長さが100mmとなるように切り、通電傷が発生している部分を下部中心にして、中心上部から荷重をかけて行う3点曲げ強度試験で測定した。それぞれの結果を表1に示す。なお、表1に示した電流実上昇幅は、オーバーシュートも含めて0A〜50Aにするまでの間でに発生した最大の瞬時上昇幅の値である。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示した結果より、電流値実上昇幅が大きいほど、シリコン芯線表面に発生するキズの深さは深く曲げ強度が低下することが判明した。また、電流値実上昇幅(電流値の上昇幅最大値)を20A以下とすることで、通電傷の実質的発生を抑制できることが判明した。
【0056】
[実施例2]
反応炉に7mm□の1800mm長さのシリコン芯線2本とそれをつなぐ7mm□の330mm長さのシリコン芯線を組み合わせて鳥居型のシリコン芯線対として4つの電極にカーボン電極を介して2対の鳥居型シリコン芯線対を固定した。これら2対のシリコン芯線対に、図3に示したような態様でバイパス回路にスイッチを設置した。
【0057】
この反応装置を用い、反応炉内を水素置換し、図3(A)に示すとおりカーボンヒーターにて初期加熱を行い、シリコン芯線対を350℃に加熱した。その後図3(B)に示すように電流回路をバイパス側にして1対のみに電流が流れる状態として、シリコン芯線に通電する電流設定値を5Aとし、初期電圧を印加し半通電状態とした。この時の通電に必要な印加電圧は1322V、オーバーシュート電流(電流値実上昇幅)は20Aであった。その後通電を停止して、図3(C)に示すようにバイパス回路を全通電側に切り替え、シリコン芯線に通電する電流値を5Aとして、初期電圧を印加し全通電状態とした。このときの通電に必要な印加電圧は1533V、オーバーシュート電流値(電流値実上昇幅)は20Aであった。
【0058】
その後、設定電流値を5Aずつ上昇させて全通電状態にて50Aまで電流値を上昇させてから原料ガス供給ノズルより原料ガスを供給し反応開始、その後暫時原料ガス、通電電流値を増加させて予定通り、直径120mmのシリコン棒を得た。
【0059】
[参考例]
反応炉に7mm□の1800mm長さのシリコン芯線2本とそれをつなぐ7mm□の330mm長さのシリコン芯線を組み合わせて鳥居型のシリコン芯線対として4つの電極にカーボン電極を介して2対の鳥居型シリコン芯線対を固定した。2対のシリコン芯線対は電源に直列に接続した。
【0060】
この反応装置を用い、反応炉内を水素置換し、カーボンヒーターにて初期加熱を行い、シリコン芯線対を350℃に加熱した。その後シリコン芯線に通電する電流設定値を5Aとし、初期電圧を印加し2対のシリコン芯線に対して全通電状態にした。この時の通電に必要な印加電圧は2026V、オーバーシュート電流(電流値実上昇幅)は36Aであった。その後、設定電流値を5Aずつ上昇させて全通電状態にて50Aまで電流値を上昇させてから原料ガス供給ノズルより原料ガスを供給し反応開始したが、シリコン棒が直径23mmφになった時点でシリコン棒は倒壊、反応中断してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、シーメンス法における反応初期のシリコン芯線の倒壊といったトラブルを防止することが出来るため、多結晶シリコン製造装置の稼働率を向上させることが可能となり、製造する多結晶シリコンの製造コストを低減させることが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1 ベルジャー
2 のぞき窓
3 冷媒入口(ベルジャー)
4 冷媒出口(ベルジャー)
5 ベースプレート
6 冷媒入口(ベースプレート)
7 冷媒出口(ベースプレート)
8 反応排ガス出口
9 原料ガス供給ノズル
10 電極
11 シリコン棒
12 シリコン芯線
13 カーボンヒーター
14 芯線ホルダ
15 電源
100 反応炉
40 通電傷
50 電流の流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電加熱されたn対(nは2以上の整数)の鳥居型のシリコン芯線の表面に原料ガスを供給して多結晶シリコンを析出させる多結晶シリコン製造装置であって、
前記シリコン芯線への通電用電源と、
スイッチの切り替えにより前記n対のシリコン芯線のうちの第1番目から第m番目(mはn以下の整数)のシリコン芯線を直列接続状態として前記通電用電源からの電力を供給するバイパス回路とを備えている、多結晶シリコン製造装置。
【請求項2】
前記バイパス回路のスイッチは、前記直列接続状態とされるシリコン芯線の数を1ずつ増やし得るように設けられている、請求項1に記載の多結晶シリコン製造装置。
【請求項3】
前記シリコン芯線の表面を輻射により加熱するヒータを備えている、請求項1又は2に記載の多結晶シリコン製造装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の装置を用い、前記n対のシリコン芯線を、第1番目のシリコン芯線からn番目のシリコン芯線に順次通電して予備加熱し、前記n番目のシリコン芯線の通電加熱終了後に前記n対のシリコン芯線をさらに通電加熱して所定温度とし、原料ガスを供給して前記n対のシリコン芯線の表面に多結晶シリコンを析出させる、多結晶シリコンの製造方法。
【請求項5】
前記予備加熱から前記所定温度に至るまでの一連の通電加熱工程において、前記バイパス回路に流す電流値の増大量を所定値以下に抑える、請求項4に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項6】
前記所定値は20アンペアである、請求項5に記載の多結晶シリコンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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