説明

多色ルシフェラーゼの抽出方法

【課題】本発明は、ルシフェリン−ルシフェラーゼの発光反応を用いた、サンプル中のルシフェラーゼを検出するための安定した抽出方法に関する。さらに詳しくは、複数の発光スペクトル特性を有する甲虫由来のルシフェラーゼをノニデット(登録商標)P40またはポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ならびに、グリセロールを含む抽出試薬を用いて同時抽出する方法ならびにそのための試薬に関する。
【解決手段】イリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼ、鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの群から選択される1ないし2以上のルシフェラーゼを発現する細胞からルシフェラーゼ酵素を抽出する工程であって、(a)ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルまたはノニデット(登録商標)P40、ならびに、グリセロールを混合する工程、(b)該混合液を細胞に接触させてルシフェラーゼ酵素を抽出する工程、からなる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルシフェリン−ルシフェラーゼの発光反応を用いた、サンプル中のルシフェラーゼを検出するための安定した抽出方法に関する。さらに詳しくは、複数の発光スペクトル特性を有する甲虫由来のルシフェラーゼをノニデット(登録商標)P40またはポリオキシエチレン(20)セチルエーテルならびにグリセロールを含む抽出試薬を用いて同時抽出する方法ならびにそのための試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
レポーター遺伝子を用いた遺伝子発現制御解析は、レポーター遺伝子に連結されたシス作用性塩基配列要素(プロモーター、エンハンサー、サイレンサーなどの遺伝子発現制御配列)を含むプラスミドを細胞に導入して、ある条件下において発現されるレポーター酵素の活性を指標に遺伝子発現制御を評価する手法である。これまで多くのレポーター酵素がこの評価に用いられてきたが、ホタルルシフェラーゼの発光を利用したシステムは感度が高く、活性測定が簡便なことから、現在広く用いられている。
【0003】
しかしながら、レポーター活性をサンプル間で評価する際には、トランスフェクション効率、細胞数、生育状態、細胞死等、遺伝子発現制御とは関係しない、レポーター酵素の絶対量の変化をもたらす要因が存在する。このため、被験配列に連結されたレポーター遺伝子とあわせて、一定発現(コントロール)プロモーターに連結された基質特異性、あるいは反応性の異なるレポーター分子を内部標準として加え、サンプル間で標準化処理を行う必要がある。このように2つ以上の遺伝子発現を同時に測定するために、これまで種々の遺伝子、特にホタルルシフェラーゼと異なった基質特異性を示すウミシイタケルシフェラーゼ(Renilla luciferase)がクローニングされ用いられてきた。しかし、この方法では発光の機構が異なるため、複数の反応及び測定を行わなければならず煩雑であった。
【0004】
一方、ホタルルシフェラーゼ遺伝子から発光色の異なる変異体を見つける研究(非特許文献1)や、発光色の異なる4種類のヒカリコメツキムシ由来ルシフェラーゼの単離(非特許文献2)、2色の鉄道虫由来のルシフェラーゼの研究(非特許文献3)、イリオモテボタル由来ルシフェラーゼの変異体の研究(非特許文献4)などが進められてきた。これらのルシフェラーゼは同じ基質で異なった発光色を示すことで注目された。特に、ホタルルシフェラーゼ変異体はpHにより発光スペクトルが変動してしまうことから、多色測定においてはコメツキムシ、鉄道虫、イリオモテボタル由来ルシフェラーゼなどのようにpHに対して発光スペクトルが変動しないルシフェラーゼが好ましく、3色の発光ルシフェラーゼを用いたアッセイシステムが実用化されている(近江谷ら、マルチ遺伝子転写活性測定システム、特許文献1)。しかし、これらのルシフェラーゼの安定性が異なるため、特に複数のルシフェラーゼを同時に検出しようとする際、いずれのルシフェラーゼも細胞から安定して効率よく抽出し、発光反応を行える検出試薬の開発が望まれていた。
【非特許文献1】Contag C. et al, Red Shifted luciferase, United Sates Patent 6,495,355 (2002)
【非特許文献2】Wood K.V., Lam Y.A., Seliger H.H., and McElroy W.D. 1989, Science, 244, 700−702:Complementary DNA Coding Click Beetles Luciferases Can Elicit Bioluminescence of Different Colors
【非特許文献3】Viviani V.R., Bechara E.J.H., Ohmiya Y. 1999, Biochemistry, 38, 8271−8279
【非特許文献4】Viviani V., Uchida A., Suenaga N., Ryufuku M., and Ohmiya Y. 2001, Biochem. Biophys. Res. Commun. 280, 1286−1291
【特許文献1】WO2004/099421
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、複数色の発光酵素に対し、細胞試料からルシフェラーゼを安定して効率よく抽出し、発光反応を行える検出試薬に関する。さらに詳しくは、複数色の発光酵素を同時に安定して効率よく抽出し、発光反応を行える検出試薬に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため、界面活性剤としてポリオキシエチレン(20)セチルエーテルまたはノニデット(登録商標)P40を含有する抽出剤にグリセロール、を混合することによって、安定して抽出・発光反応を行うことができることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
[項1]
イリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼおよび鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの群から選択される1ないし2以上のルシフェラーゼを発現する細胞からルシフェラーゼ酵素を含む画分を抽出する方法であって、
(a)ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルまたはノニデット(登録商標)P40、ならびにグリセロールを混合する工程、および
(b)(a)の工程で得られた混合液を細胞に接触させてルシフェラーゼ酵素を抽出する工程、
を含む方法。
[項2]
前記(a)の工程で得られた混合液のグリセロールの濃度が20〜25%である、項1に記載の方法。
[項3]
前記混合液が、さらに10〜50mMの硫酸アンモニウムを含む、項1または2に記載の方法。
[項4]
項1〜3のいずれかに記載の方法で抽出されたルシフェラーゼ酵素を含む画分の発光を測定する工程をさらに含む、イリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼおよび鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの群から選択される1ないし2以上のルシフェラーゼを発現する細胞からルシフェラーゼを検出する方法。
[項5]
項1〜3のいずれかに記載の方法で抽出されたルシフェラーゼ酵素を含む画分を静置する工程をさらに含む、イリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼおよび鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの群から選択される1ないし2以上のルシフェラーゼを保持する方法。
[項6]
項1〜5のいずれかに記載の方法に用いるための試薬であって、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルまたはノニデット(登録商標)P40、ならびにグリセロールを含む試薬。
[項7]
試薬中のグリセロールの濃度が20〜25%である、項6に記載の方法。
[項8]
試薬中に、10〜50mMの硫酸アンモニウムを含む、項6または7に記載の試薬。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、複数色のルシフェラーゼを含む検体からそれぞれのルシフェラーゼを安定に抽出できるため、この発光量を測定することによって、複数の遺伝子の転写活性を同時にモニターするなど、複数のレポーターを用いた種々の生命現象の定量が可能となった。さらに、本発明の方法によりプレートリーダーを用いて多検体を一度により安定して測定することが可能となり、創薬スクリーニング、化学物質の毒性評価などに広く応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の抽出方法の抽出対象となるルシフェラーゼは、イリオモテボタルRagophthalmidae Ohbai由来の緑色発光ルシフェラーゼ(非特許文献5)、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼ(非特許文献4)、鉄道虫Phrixothrix hirtus由来の赤色発光ルシフェラーゼ(非特許文献3)などが挙げられる。これらルシフェラーゼは野生型の配列、あるいは1ないし2以上のアミノ酸残基の置換、挿入、欠失があってもよい。これらは通常、発現可能な遺伝子構築物の形で細胞に導入されるが、ルシフェラーゼ遺伝子はcDNA由来などの天然の遺伝子を使用してもよいが、試験に使用される細胞種において翻訳効率が向上するように遺伝子工学的に改変された遺伝子を用いることがより好ましく、近江谷らのルシフェラーゼが例示される(マルチ遺伝子転写活性測定システム、特許文献1)。
【非特許文献5】Ohmiya Y.,Mina Y.,Viviani V.R.,Ohba N.2000,Sci.Rep.Yokosuka City Mus.47,31−38
【0010】
本発明の抽出方法の抽出対象となるルシフェラーゼは、さらに、天然の発光酵素と同一のアミノ酸配列を有しても、また1又は2以上のアミノ酸の置換、付加、欠失または挿入が含まれるものであってもよいし、N末端またはC末端に第2のタンパク質が結合した融合タンパク質であってもよい。
【0011】
本発明の別の態様として、前記の方法により抽出されたルシフェラーゼを、ホタルルシフェラーゼと同様D−ルシフェリンを発光基質として検出する方法が例示される。すなわち、ルシフェラーゼを含むサンプル溶液を発光反応に十分な濃度のD−ルシフェリン、アデノシン三リン酸(ATP)、マグネシウム塩などを含む発光試薬を混合し、この反応によって生じる発光量を測定し、各サンプル中のルシフェラーゼの相対的な存在量を決定する。
【0012】
前記ルシフェラーゼの検出方法は、D−ルシフェリンを細胞に浸透させることによっても発光を生じせしめることができるが、より高感度な検出を行うにはルシフェラーゼを発現する細胞を物理的に破砕あるいは化学的に溶解し、その処理液の全部または一部と発光反応に十分な濃度のMgイオン、ATP、ルシフェリンなどを含む発光反応液を調製し、前記反応液の発光量をもとに各サンプル中のルシフェラーゼの相対的な存在量を決定することが好ましい。細胞を物理的に破砕する方法としては、超音波破砕法が挙げられる。化学的に溶解する手法としては、細胞を界面活性剤を含む溶液と接触させる方法である。この破砕/溶解された細胞抽出液を前記試薬と混合し、発光を測定することによってルシフェラーゼの存在量を調べることができる。このような細胞で発現するルシフェラーゼの検出においては、発光試薬に界面活性剤を添加することによって、細胞を溶解しながら発光反応を行う方法は操作性がよく、サンプル数が多い場合に最適である。しかしながら、抗原抗体反応等によって、同じ細胞サンプル中に存在する調べたいタンパク質の存在量や、リン酸化などの修飾の状態を解析したい場合には、細胞溶解、発光を別々のステップで進められることが好ましい。
【0013】
また、本発明の別の態様として、前記の方法により抽出されたルシフェラーゼを、静置し、保持する方法が例示される。
【0014】
前記、細胞を溶解してルシフェラーゼを抽出するための方法に添加される界面活性剤としては、ルシフェラーゼを失活させたり、その活性をできるだけ阻害しない種類、濃度でなければならない。本発明に用いられるルシフェラーゼの抽出には非イオン性界面活性剤の使用が好ましい。一般に、ホタルPhotinus Pyralis由来ルシフェラーゼを細胞から抽出する界面活性剤としてTriton X100(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル)が用いられる(非特許文献6)。また、特許文献2では、緑色発光ルシフェラーゼ、橙色発光ルシフェラーゼ、赤色発光ルシフェラーゼの細胞抽出にもTriton X100を使用することが報告されている。
【非特許文献6】実験医学別冊バイオマニュアルシリーズ(4)遺伝子導入と発現・解析法(1994年4月20日発行、羊土社)p.89−98
【特許文献2】WO2006/061985
【0015】
これに対し、本発明のルシフェラーゼの抽出方法では、Nonidet P40(NP40、ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル)(CAS 9036−19−5)、または、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(ブリジ(登録商標)−58)(CAS 9004−95−9)を使用する。
Nonidet P40(NP40)の使用濃度の下限としては0.005%が好ましく、さらに好ましくは0.05%である。上限としては1%が好ましく、さらに好ましくは0.25%である。
また、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルの使用濃度の下限としては0.005%が好ましく、さらに好ましくは0.05%である。上限としては1%が好ましく、さらに好ましくは0.25%である。
【0016】
本発明のルシフェラーゼの抽出方法では、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルとノニデットP40の両方が含まれる構成であってもよい。両方入れることにより、ロット間差によるリスクを分散させることができる。
【0017】
本発明の抽出方法には、ルシフェラーゼの安定化のため、さらにグリセロールを添加する。好ましい濃度の下限としては10%であり、さらに好ましくは20%である。好ましい濃度の上限は30%であり、さらに好ましくは25%である。
この際、Triton X100においてもグリセロールの安定化効果が認められるが、Nonidet P40、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルはさらに高い安定化が可能である。
【0018】
本発明の抽出方法には、ルシフェラーゼの安定化のため、さらに硫酸アンモニウムを添加することができる。好ましい濃度の下限としては10mMである。好ましい濃度の上限は50mMであり、さらに好ましくは20mMである。
【0019】
本発明の抽出方法では、さらにイオン強度やpHを維持するために、緩衝成分を含んでもよい。緩衝成分としては、HEPES、Tricine、Tris、MOPS、グリシルグリシンなどが挙げられ、通常は20〜100mMの使用が好ましい。好ましいpH範囲は7.0〜8.5である。pH7.8〜8.0で最大発光を得ることができるが、pHを7.8以下にすることによって発光持続性を高めることができる。本発明ではさらにルシフェラーゼの活性を増強するタンパク質性材料、例えば、ウシなどの哺乳類血清アルブミン、ラクトアルブミンなどを存在させることもできる。
【0020】
本発明の抽出方法では、さらにサンプル中に存在して、ルシフェラーゼやATPなどに悪影響を及ぼす可能性のある金属含有プロテアーゼやホスファターゼの活性を抑制するため、EDTAまたはCDTA、EGTAなどのキレート剤などを含有させることができる。好ましい濃度としては1〜5mMである。
【0021】
さらに、本発明の抽出方法では、ルシフェラーゼのタンパク質の安定性を保護する作用が考えられる還元剤を含んでもよい。還元剤としてはジチオトレイトールや2−メルカプトエタノールなどのスルフィドリル化合物が挙げられる。
【0022】
本発明の抽出方法では、前記方法の細胞抽出液の全部、または一部を、D-ルシフェリン、アデノシン三リン酸(ATP)、マグネシウムイオンを含む発光試薬と接触させて発光量を測定することによって、当該サンプル中に含まれるルシフェラーゼの相対的存在量を決定する。発光試薬には、さらに補酵素A、DTTなどを含んでもよい。
【0023】
本発明の一つの態様としては、前記ルシフェラーゼをコードする遺伝子の上流に転写調節配列を連結し、この遺伝子構築物を細胞に導入することによって発現するルシフェラーゼを検出する方法が例示される。これによって、ルシフェラーゼの発現量を指標に前記細胞における前記転写制御配列の転写制御を解析することが可能である。
【0024】
本発明に用いられる細胞とは真核生物、原核生物など由来を問わないが、好ましくは動物由来の細胞であり、特に好ましくは哺乳類由来の細胞であって、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ブタなどの細胞が挙げられる。大腸菌などの原核生物を用いる場合は、本発明の抽出・維持方法とさらに物理的な細胞破砕手段を組み合わせることが好ましい。
【0025】
本発明の別の態様としては、前記ルシフェラーゼを試験対象となる第2のタンパク質との融合タンパク質の形で発現させ、その存在量を発光を検出(測定)することによって、試験対象となったタンパク質量の調節をモニターする方法である。例えば、IκBとの融合タンパク質として細胞内で発現させることによって、TNFα、IL−1など刺激によってIκBが分解され、転写因子NFκBの活性化される経路の活性化されるが、一定発現プロモーターに連結されたIκBとの融合タンパク質の分解の程度を測定することによって、この活性化を定量的にモニターすることができる。
【0026】
さらに、本発明の別の態様としては、前記の抽出方法、検出方法および保持方法のいずれか1以上の方法に用いるための試薬である。
試薬とは、これら検出に必要な成分をすべて含有する試薬であってもよいし、別個のパーツからなるキットであってもよい。実験室等で本願発明の方法を使用するためにその都度調製した試薬組成物、あるいは、本願発明の方法に使用しやすいように予め必要な試薬等をキット化したものを含む。さらに、本発明の試薬をすべて混合した水溶液の他、2倍以上の高濃度品(使用時に希釈して用いる)などが挙げられる。
前記試薬には、界面活性剤としてノニデット(登録商標)P40またはポリオキシエチレン(20)セチルエーテルを含む。さらにグリセロールを含むことが好ましい。あるいは、さらに硫酸アンモニウムを含むことが好ましい。
1つのこのような組成物は、0.05〜0.25%のノニデット(登録商標)P40またはポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ならびに、10〜25%グリセロールを含む水溶液である。好ましくはさらに10〜50mMの硫酸アンモニウムを含む組成物である。
本発明の試薬における各構成成分あるいはそれらの組み合わせについて、より好ましい条件は、本願発明の方法に関して説明した上記各項に記載の内容に準ずる。
該試薬は、イリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼ、鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの群から選択される1ないし2以上のルシフェラーゼを発現する細胞と混合して、該細胞からルシフェラーゼを抽出したり、該ルシフェラーゼ試料を該試薬と混合し、該ルシフェラーゼの保存液として用いてもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を例示することによって、本発明の効果をより一層明確なものとする。
【0028】
実施例1 ルシフェラーゼの抽出剤へのグリセロール/硫酸アンモニウムの添加効果の確認
24ウェルプレートにCHO細胞を播種し(1×10 cells/ウェル)、10%FCSを含むHam‘s F12培地(日水製薬)1ml/ウェル中で培養した。翌日、イリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼ、鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの発現プラスミド(それぞれ、東洋紡績製、MultiReporter Assay System −Tripluc(登録商標)− SV40コントロールベクターの、pSLG−SV40 control、pSLO−SV40 control、pSLR−SV40 control)をGeneJuice Transfection Reagent(Novagen社)を用いて、トランスフェクションした。24時間培養後、20mM Hepes pH7.4、1mM EDTA、1mM DTT、0.1% ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルまたはNonidet P40、0、10、または20%グリセロール、0または10mM硫酸アンモニウムからなる混合液を調製し、細胞から培地を除去した後、200μl/ウェルになるように細胞に加えた。10分後に細胞抽出液75μlを抜き取り、発光試薬MultiReporter Assay System −Tripluc(登録商標)− Tripluc(登録商標) Luciferase Assay Reagent(東洋紡績製)75μlと混合し、発光量を測定した。さらに、室温に放置して2時間後に細胞抽出液75μlを抜き取り、同様に発光量を測定した。
【0029】
図1は、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、Nonidet P40を含む細胞抽出剤にグリセロール、硫酸アンモニウムを添加して抽出処理をした際の抽出液の発光強度と室温に2時間放置した後の酵素の残存活性を示す図である。それぞれ棒グラフは、細胞抽出処理直後(0hr)と2時間放置後(2hr)の発光強度、折れ線グラフは細胞抽出処理直後(0hr)を100として、2時間放置後の相対発光強度の変化を示した。横軸の(−)は硫酸アンモニウム無添加、(+)は10mM硫酸アンモニウム含有を示す。これら条件下では、イリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ(SLG)はほとんど差異は認められず、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼ(SLO)においても界面活性剤としてポリオキシエチレン(20)セチルエーテルを選択した方が発光強度が高いが、安定性については差異は認められなかった。一方、鉄道虫赤色ルシフェラーゼ(SLR)は安定性が低く、抽出処理中に酵素が不活性化してしまうが、5〜10%程度のグリセロール添加によって有意な発光強度の上昇が認められた。また、10mMの硫酸アンモニウムを添加することによっても安定化の傾向が認められた。
【0030】
実施例2 ルシフェラーゼの抽出剤へのグリセロール/硫酸アンモニウムの添加量の最適化
前記同様、24ウェルプレートに播種したCHO細胞に、pSLG−SV40 control、pSLO−SV40 control、pSLR−SV40 control)をGeneJuice Transfection Reagent(Novagen社)を用いて、トランスフェクションした。24時間培養後、20mM Hepes pH7.4、1mM EDTA、1mM DTT、0.1% ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、10、15、20または25%グリセロール、0、10、または20mM硫酸アンモニウムからなる混合液を調製し、細胞から培地を除去した後、200μl/ウェルになるように細胞に加えた。10分後に細胞抽出液75μlを抜き取り、発光試薬MultiReporter Assay System −Tripluc(登録商標)− Tripluc(登録商標) Luciferase Assay Reagent(東洋紡績製)75μlと混合し、発光量を測定した。さらに、室温に放置して2時間後に細胞抽出液75μlを抜き取り、同様に発光量を測定した。
【0031】
図2は、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルを含む細胞抽出剤に、グリセロールを0〜25%、硫酸アンモニウムを0〜20mM添加して抽出処理をした際の抽出液の発光強度と室温に2時間放置した後の酵素の残存活性を示す図である。それぞれ棒グラフは、細胞抽出処理直後(0hr)と2時間放置後(2hr)の発光強度、折れ線グラフは細胞抽出処理直後(0hr)を100として、2時間放置後の相対発光強度の変化を示した。横軸の0、10、20は硫酸アンモニウム濃度(mM)、Glyはグリセロールを示す。この結果、グリセロールの添加によってSLRの顕著な安定化が認められ、硫酸アンモニウムの添加によって、さらに上昇が認められた。一方、SLG、SLOにおいては硫酸アンモニウムの添加によって若干の発光強度の低下が認められるが、測定に支障をきたすものではない。
【0032】
実施例3 ルシフェラーゼの抽出剤への硫酸アンモニウムの添加量の確認
前記同様、24ウェルプレートに播種したCHO細胞に、pSLG−SV40 control、pSLO−SV40 control、pSLR−SV40 control)をGeneJuice Transfection Reagent(Novagen社)を用いて、トランスフェクションした。24時間培養後、20mM Hepes pH7.4、1mM EDTA、1mM DTT、0.1% ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、20%グリセロール、0〜50mM硫酸アンモニウムからなる混合液を調製し、細胞から培地を除去した後、200μl/ウェルになるように細胞に加えた。10分後に細胞抽出液75μlを抜き取り、発光試薬MultiReporter Assay System −Tripluc(登録商標)− Tripluc(登録商標) Luciferase Assay Reagent(東洋紡績製)75μlと混合し、発光量を測定した。さらに、室温に放置して2時間後に細胞抽出液75μlを抜き取り、同様に発光量を測定した。
【0033】
図3は、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルを含む細胞抽出剤に、グリセロールを20%、硫酸アンモニウムを0〜50mM添加して抽出処理をした際の抽出液の発光強度と室温に2時間放置した後の酵素の残存活性を示す図である。それぞれ棒グラフは、細胞抽出処理直後(0hr)と2時間放置後(2hr)の発光強度、折れ線グラフは細胞抽出処理直後(0hr)を100として、2時間放置後の相対発光強度の変化を示した。この結果、SLRについては10mMないし20mMの硫酸アンモニウムの添加で有意な安定化の上昇が認められ、それ以上添加量を増やしてもほとんど変化は認められない。一方、SLG、SLOについては発光量が低下する傾向があることから、添加量としては10〜20mM程度が好ましいといえる。
【0034】
実施例4 ルシフェラーゼの抽出剤へのポリオキシエチレン(20)セチルエーテルの添加量の確認(1)
前記同様、24ウェルプレートに播種したCHO細胞に、pSLG−SV40 control、pSLO−SV40 control、pSLR−SV40 control)をGeneJuice Transfection Reagent(Novagen社)を用いて、トランスフェクションした。24時間培養後、20mM Hepes pH7.4、1mM EDTA、1mM DTT、0.1〜3% ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、20%グリセロール、10mM硫酸アンモニウムからなる混合液を調製し、細胞から培地を除去した後、200μl/ウェルになるように細胞に加えた。10分後に細胞抽出液75μlを抜き取り、発光試薬MultiReporter Assay System −Tripluc(登録商標)− Tripluc(登録商標) Luciferase Assay Reagent(東洋紡績製)75μlと混合し、発光量を測定した。さらに、室温に放置して2時間後に細胞抽出液75μlを抜き取り、同様に発光量を測定した。
【0035】
図4は、0.1〜3%ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルを含む細胞抽出剤(20%グリセロール、10mM硫酸アンモニウムを含む)で抽出処理をした際の抽出液の発光強度と室温に2時間放置した後の酵素の残存活性を示す図である。それぞれ棒グラフは、細胞抽出処理直後(0hr)と2時間放置後(2hr)の発光強度、折れ線グラフは細胞抽出処理直後(0hr)を100として、2時間放置後の相対発光強度の変化を示した。この結果、いずれのルシフェラーゼにおいても1%以上のポリオキシエチレン(20)セチルエーテルの添加で不活性化してしまうことが確認された。
【0036】
実施例5 ルシフェラーゼの抽出剤へのポリオキシエチレン(20)セチルエーテルの添加量の確認(2)
前記同様、24ウェルプレートに播種したCHO細胞に、pSLG−SV40 control、pSLO−SV40 control、pSLR−SV40 control)をGeneJuice Transfection Reagent(Novagen社)を用いて、トランスフェクションした。24時間培養後、20mM Hepes pH7.4、1mM EDTA、1mM DTT、0.001〜0.5% ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、25%グリセロール、10mM硫酸アンモニウムからなる混合液を調製し、細胞から培地を除去した後、200μl/ウェルになるように細胞に加えた。10分後に細胞抽出液75μlを抜き取り、発光試薬MultiReporter Assay System −Tripluc(登録商標)− Tripluc(登録商標) Luciferase Assay Reagent(東洋紡績製)75μlと混合し、発光量を測定した。さらに、室温に放置して2時間後に細胞抽出液75μlを抜き取り、同様に発光量を測定した。
【0037】
図5は、0.1〜3%ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルを含む細胞抽出剤(25%グリセロール、10mM硫酸アンモニウムを含む)で抽出処理をした際の抽出液の発光強度と室温に2時間放置した後の酵素の残存活性を示す図である。それぞれ棒グラフは、細胞抽出処理直後(0hr)と2時間放置後(2hr)の発光強度、折れ線グラフは細胞抽出処理直後(0hr)を100として、2時間放置後の相対発光強度の変化を示した。
【0038】
この結果、いずれのルシフェラーゼにおいても0.001%以下のポリオキシエチレン(20)セチルエーテルの添加では十分な細胞抽出が行えないことがわかる。しかし、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルが0.005%、0.01%の場合は、溶解までに時間を要するが抽出処理時間の延長によって2hr後であれば抽出でき測定可能であることがわかる。また、0.05%以上であれば、処理直後すみやかに測定できることがわかる。したがって、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルの使用濃度の下限としては0.005%が好ましく、さらに実用上好ましくは0.05%である。
【0039】
一方、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルの使用濃度が0.5%を超えると2時間の残存活性が下がり気味になることがわかる。したがって、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルの使用濃度の上限としては、実施例4(図4)において使用濃度が1%を超えると極端にルシフェラーゼ活性が低下することと合わせて考えると、好ましくは1%、さらに好ましくは0.25%である。
【0040】
実施例6 ルシフェラーゼの抽出剤の界面活性剤の比較
前記同様、24ウェルプレートに播種したCHO細胞に、pSLG−SV40 control、pSLO−SV40 control、pSLR−SV40 control)をGeneJuice Transfection Reagent(Novagen社)を用いて、トランスフェクションした。24時間培養後、20mM Hepes pH7.4、1mM EDTA、1mM DTT、20または25%グリセロール、10mMまたは20mM硫酸アンモニウム、0.1% ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ノニデットP40、またはTriton X−100からなる混合液を調製し、細胞から培地を除去した後、200μl/ウェルになるように細胞に加えた。10分後に細胞抽出液75μlを抜き取り、発光試薬MultiReporter Assay System −Tripluc(登録商標)− Tripluc(登録商標) Luciferase Assay Reagent(東洋紡績製)75μlと混合し、発光量を測定した。さらに、室温に放置して2時間後に細胞抽出液75μlを抜き取り、同様に発光量を測定した
【0041】
図6は、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(図中記号:PEC)、ノニデットP40(図中記号:NP40)、Triton X−100(図中記号:TX100)を含む細胞抽出剤で抽出処理をした際の抽出液の発光強度と室温に2時間放置した後の酵素の残存活性の比較結果を示す図である。それぞれ棒グラフは、細胞抽出処理直後(0hr)と2時間放置後(2hr)の発光強度、折れ線グラフは細胞抽出処理直後(0hr)を100として、2時間放置後の相対発光強度の変化を示した。この結果、いずれのルシフェラーゼにおいてもTriton X−100では他の2つの界面活性剤に比べ発光強度が低い。一方、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルではいずれのルシフェラーゼにおいても高い発光強度、残存活性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明における多色発光ルシフェラーゼの測定方法は、近年注目される多色発光酵素を用いたアッセイ系の測定に用いられ、このアッセイ系は複雑な細胞内転写制御解析、遺伝子転写を指標としたシグナル伝達系などの解析、さらには化合物スクリーニングの系として利用することができ、創薬・医療などの産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】哺乳類細胞で発現したイリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼ、鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの細胞抽出におけるグリセロール、硫酸アンモニウムの効果を示す図である。
【図2】哺乳類細胞で発現したイリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼ、鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの細胞抽出におけるグリセロール、硫酸アンモニウムの最適濃度を示す図である。
【図3】哺乳類細胞で発現したイリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼ、鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの細胞抽出における硫酸アンモニウムの有効濃度を示す図である
【図4】哺乳類細胞で発現したイリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼ、鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの細胞抽出におけるポリオキシエチレン(20)セチルエーテルの有効濃度を示す図である。
【図5】哺乳類細胞で発現したイリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼ、鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの細胞抽出におけるポリオキシエチレン(20)セチルエーテルの有効濃度を示す図である。
【図6】哺乳類細胞で発現したイリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼ、鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの細胞抽出におけるポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ノニデットP40、Triton X−100の比較結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼおよび鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの群から選択される1ないし2以上のルシフェラーゼを発現する細胞からルシフェラーゼ酵素を含む画分を抽出する方法であって、
(a)ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルまたはノニデット(登録商標)P40、ならびにグリセロールを混合する工程、および
(b)(a)の工程で得られた混合液を細胞に接触させてルシフェラーゼ酵素を抽出する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記(a)の工程で得られた混合液のグリセロールの濃度が20〜25%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合液が、さらに10〜50mMの硫酸アンモニウムを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で抽出されたルシフェラーゼ酵素を含む画分の発光を測定する工程をさらに含む、イリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼおよび鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの群から選択される1ないし2以上のルシフェラーゼを発現する細胞からルシフェラーゼを検出する方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で抽出されたルシフェラーゼ酵素を含む画分を静置する工程をさらに含む、イリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の変異体型橙色発光ルシフェラーゼおよび鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼの群から選択される1ないし2以上のルシフェラーゼを保持する方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法に用いるための試薬であって、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルまたはノニデット(登録商標)P40、ならびにグリセロールを含む試薬。
【請求項7】
試薬中のグリセロールの濃度が20〜25%である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
試薬中に、10〜50mMの硫酸アンモニウムを含む、請求項6または7に記載の試薬。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−142188(P2009−142188A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321745(P2007−321745)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】