説明

多重円筒型水蒸気改質器

【課題】固体高分子形燃料電池(PEFC)の燃料処理装置として好適な多重円筒型水蒸気改質器を提供する。
【解決手段】原料ガス及び水は、予熱層9上部で混合しつつ伝熱促進体9aに沿って螺旋状に流下していく。その際、燃焼排ガスからの熱(Q1)、及び、シフト反応により生じる熱(Q2)を回収する。予熱層9を通過した混合ガスは、第一熱交換室8aに導入され、さらにシフト触媒層7側から熱回収(Q3)して、混合ガス中の水の蒸発がさらに進行する。未蒸発の液水は下端の水トラップ部8cに貯留するが、ここでシフト触媒層7流入前の改質ガスから熱回収(Q4)し、蒸発が促進される。これにより、液水が連通孔10dを通過することを防止することができる。連通孔10dを通過した混合ガスは、第二熱交換室8bにおいて燃焼排ガスから熱回収(Q5)し、さらに改質触媒層出ガスからも熱回収(Q6)して、約400℃に昇温して改質触媒層6に流入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系燃料から水素を主成分とするガスを生成する多重円筒型水蒸気改質器に関し、特に、固体高分子形燃料電池(PEFC)の燃料処理装置として好適な多重円筒型水蒸気改質器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市ガス等の炭化水素系燃料から燃料電池の発電に必要な水素を作り出す燃料処理装置として、図9に示す多重円筒型水蒸気改質器100がある。改質器100は、多重円筒体の各隔壁101乃至104間に形成される空間に配置される、燃焼室105、予熱層106、改質触媒層107、CO変成触媒層(以下、シフト触媒層という)108、選択酸化触媒層(以下、PROX触媒層という)109、改質ガス流路113、燃焼排気流路112等を主要構成としている。装置内において、原料ガス供給管110,水供給管111を介して供給される原料ガス及び水は、各触媒層における触媒化学反応を経て、最終的にH2約75%、CO<10ppmの改質ガスとなり、燃料電池セルスタック(図示せず)に送られ発電に供される。
【0003】
改質器設計に際しては、各触媒層につき触媒の耐熱性、作動温度を考慮して、改質触媒層:380−670℃、シフト触媒層:300−200℃、PROX触媒層:200−120℃の温度範囲となるように配置することが求められる。また、燃焼排熱及び発熱反応であるシフト触媒層やPROX触媒層で生じる反応熱を、水の蒸発、原料ガス及び水蒸気加熱用、また吸熱反応である改質触媒層における反応維持のために回収し、装置全体の熱バランスを保つことが必要である。さらに、上記各条件を満たして上で、機器の小型化、コストダウンが要求されている。
【0004】
このうち、予熱層106と改質触媒層107の境界部(同図A部分)について見ると、予熱層106出口において水が完全に蒸発し、約400℃程度の混合ガスとなって改質触媒層107に導入され、一方、改質触媒層107を出てシフト触媒層108に導入される改質ガスは、約300℃に冷却される必要がある。このような境界部Aにおける各部温度条件を維持するため、図10に示すように、(a)改質触媒層107とシフト触媒層108間の長さ(D)を長くする、(b)両触媒層間の流路幅(d)を細くする、又は、(c)シフト触媒層108入口近傍に水管113を巻いて改質ガス冷却する、等により熱交換を促進する技術が提案されている。
【0005】
さらに文献1には、シフト触媒層に導入する改質ガスの温度管理に関して、改質ガス流路部の外側に空冷装置を取り付けて制御する技術が提案されている。
なお、同文献には、予熱層と改質触媒層の境界部に水トラップ部を備えた技術についても開示されている。同様の提案は、文献2においても開示されている。この技術は、未蒸発の液水が改質触媒に流入することによる改質反応の阻害や触媒破壊の防止、又は、トラップした液水と改質触媒層出ガスとの熱交換促進を目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−107876号公報
【特許文献2】特開2008−19159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記いずれの先行技術によっても、機器の大型化、コストアップの課題については解消されていないのが現状である。
また、狭スペースの中に境界部が設けられているため、原料ガスと水との混合が不十分となりがちとなり、特にシフト触媒層において周方向の温度差が顕著となるという問題もある。
また、シフト触媒層が予熱層と接しているため、シフト触媒層における内周側の温度低下を招き、反応を阻害するという問題もある。なお、文献1、2の水トラップ部の設置に関しては、上述のようにシフト触媒層の適正化に寄与するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、予熱層と改質触媒層の境界部構造について鋭意研究を進め、熱交換性能に優れ、かつ、装置の小型化に有効な技術を考案し、試験により確認して完成した。
本発明は以下の内容を要旨とする。すなわち、
(1)炭化水素系燃料を水蒸気改質して水素を主成分とする改質ガスを生成する水蒸気改質器において、同一中心軸の多重円筒体を構成する複数の隔壁により区画される間隙に、以下の構成要素を配置するものであって、円筒体内側中心部に、燃料ガスを燃焼させて燃焼排ガスを生成する燃焼室と、第一隔壁の内側に沿って形成される燃焼排ガスの排気流路と、第一隔壁と第二隔壁上段部の間隙に形成され、供給される原料ガス又は水のいずれか一方又は両方を、第一隔壁を介して燃焼排ガスと熱交換させる予熱層と、原料ガス供給手段及び水供給手段と、第一隔壁と第二隔壁下段部の間隙に形成され、予熱層を通過した混合ガスを、水素含有ガスに改質する改質触媒層と、第二隔壁上段部と第三隔壁中段部の間隙に形成され、改質触媒層を出た改質ガスを変成するシフト触媒層と、予熱層と改質触媒層との境界部に形成される熱交換促進部と、を備えて成り、該熱交換促進部は、連通孔を備えた仕切板により区画される第一熱交換室と、第二熱交換室と、を含んで構成され、第一熱交換室は、該仕切板と第二隔壁との間隙に形成され、かつ、予熱層から流入する混合ガスが、第二隔壁を介してシフト触媒層と熱交換可能に構成し、第二熱交換室は、第一隔壁と該仕切板との間隙に形成され、かつ、第一熱交換室から連通孔を介して流入する混合ガスが、第一隔壁を介して燃焼排ガスと熱交換可能に構成し、たことを特徴とする。
【0009】
本発明において、「混合ガス」とは、(水+原料ガス)、(水+水蒸気+原料ガス)、(水蒸気+原料ガス)のいずれかの状態を総称する概念である。
本発明において、燃焼排ガスの「排気流路」については、第一隔壁が最内側の隔壁であり、排気流路が第一隔壁の内側開放空間に形成されるタイプと、燃焼隔壁の内側にさらに隔壁(後述する燃焼隔壁2)を備え、排気流路が燃焼隔壁と第一隔壁の隙間空間に形成されるタイプの両方を含む。
本発明において、「第二隔壁上段部」、「同下段部」とは、後述する図1の天地方向を想定した場合の相対位置関係を意味する概念である。改質器設置時の天地方向は、必ずしも図1の向きに限定されるものではなく、天地逆(180度回転)、横向き(90度回転)等、任意に選択することができる。従って、例えば図1と天地逆に設置した場合には、「上段部」が「下段部」の下側に位置する相対関係となる。第三隔壁についても同様である。
(2)上記(1)の発明において、前記原料ガス供給手段及び前記水供給手段を、前記予熱層上流端部に備えたことを特徴とする。
(3)上記(2)の発明において、前記原料ガス供給手段を、前記予熱層上端部に替えて、前記第一熱交換室に備えたことを特徴とする。
(4)上記(2)の発明において、前記第二隔壁上段部の外側に第四隔壁を、さらに備え、前記原料ガス供給手段を、前記予熱層上端部に替えて、第四隔壁と前記第二隔壁の間隙に形成される原料ガス流路の上端部に備え、かつ、予熱層を通過する水と、該原料ガス流路を通過する原料ガスとを、前記第一熱交換室で混合させるように構成したことを特徴とする。
(5)上記各発明において、前記連通孔を、前記仕切板の一箇所に集中させて設けたことを特徴とする。
本発明において、「一箇所に集中」とは、単一の連通孔、又は、複数の連通孔を一箇所に配設の両方を含む。
(6)上記各発明において、前記第一熱交換室の下端部に、残留する液水を捕捉する水トラップ部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、予熱層と改質触媒層との境界部に熱交換促進部を設けたため、シフト触媒層に導入される改質ガスと、熱交換促進部を通過する混合ガスとの熱交換が効率よく行われ、これにより境界部長さの短縮、装置全体の小型化が可能となった。
【0011】
シフト触媒層の内側に原料ガス流路を設ける発明にあっては、シフト触媒の反応温度低下を抑制することができ、触媒層内の径方向の温度分布均一化が実現できた。
【0012】
第一熱交換室と第二熱交換室を区画する仕切板に、単一の連通孔を設けた発明にあっては、原料ガスと水との混合が促進され、改質触媒層出口温度の周方向温度差を低減することができた。
【0013】
また、第一熱交換室の下端部に水トラップ部を設けた発明にあっては、貯留した液水が、蒸発に際して改質触媒層出の改質ガスから蒸発潜熱として熱回収するため、反応適正温度に低下した改質ガスをシフト触媒に導入することが可能になった。
さらに、液水による連通孔閉塞を防止でき、原料ガス及び水の入口圧力変動の抑制が可能となった。これにより、改質ガスの安定供給が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第一の実施形態に係る多重円筒型水蒸気改質器1の断面構成を示す図である。
【図2】水蒸気改質器1の熱交換促進部8近傍の詳細構成を示す図である。
【図3】水蒸気改質器1の熱交換促進部近傍における熱交換の態様を示す図である。
【図4】第二の実施形態に係る多重円筒型水蒸気改質器20の断面構成を示す図である。
【図5】第三の実施形態に係る多重円筒型水蒸気改質器30の断面構成を示す図である。
【図6】水蒸気改質器30の熱交換促進部近傍の詳細構成を示す図である。
【図7】本発明構造(a)及び従来構造(a)の温度測定箇所を示す図である。
【図8】第一の実施形態において、排気流路に関する他のバリエーションを示す図である。
【図9】従来の多重円筒型水蒸気改質器100の断面構成を示す図である。
【図10】従来の多重円筒型水蒸気改質器における境界部バリエーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る水蒸気改質器の各実施形態について、さらに詳細に説明する。なお、本発明の範囲は特許請求の範囲記載のものであって、以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。
(第一の実施形態)
図1を参照して、本発明の第一の実施形態に係る水蒸気改質器1は、同一中心軸の多重円筒型の金属隔壁2乃至5の各隔壁間隙に、原料ガスを目的組成に改質するために必要な各要素(燃焼室、触媒層、ガス流路等)を配置して構成されている。燃焼隔壁2の内側空間には燃焼室2aが形成され、上蓋2eにバーナ2bが下向きに固定されている。燃料ガスは燃料ガス供給管2cを介して供給され、バーナ2bにおいて燃焼して燃焼排ガスとなる。
燃焼隔壁2と第一隔壁3の間隙には、燃焼排ガスの排気流路3aが形成されている。燃焼室出口2dから排出される燃焼排ガスは、排気流路3aを上昇して、排気出口管3bを介して外部に排出されるように構成されている。
第二隔壁4は、下段部4bが上段部4aより大口径に構成されている。第一隔壁3と第二隔壁上段部4a間には、予熱層9が形成されている。予熱層9内には両隔壁間に螺旋状に巻かれた伝熱促進体9aが配設されており、原料ガス供給管9b、水供給管9cからそれぞれ供給される原料ガス及び水が、伝熱促進体9aに沿って螺旋状に流下可能に構成されている。
【0016】
図2をも参照して、予熱層9下側の第一隔壁3と第二隔壁下段部4bの間隙には、熱交換促進部8及び改質触媒層6が形成されている。
熱交換促進部8は、仕切板10により区画される2つのリング形状空間(外周側の第一熱交換室8a及び内周側の第二熱交換室8b)により構成されている。仕切板10は、筒状部10a及び上下の折返部10b、10cにより断面クランク形状構成され、筒状部10aには周方向に複数の連通孔10dが設けられている。第一熱交換室8a下端部は風刺されており、後述するように未蒸発の水を貯留可能とする水トラップ部8cが形成されている。
【0017】
改質触媒層6には、原料ガスを水蒸気改質する触媒、例えばRu系金属触媒が充填されており、原料ガス+水蒸気混合ガスを改質反応(1)により、水素を主成分とするガスに改質する。
CH+H2O →CO+3H・・・・(1)
【0018】
最外側の第三隔壁5は、口径の異なる2つの円筒体(下段部5a、上段部5b)を、上下に接合して構成されている。第二隔壁下段部4bと第三隔壁下段部5aの間隙には、改質触媒層6を出た改質ガスをシフト触媒層7に導く改質ガス流路5cが形成されている。上側の第二隔壁上段部4aと第三隔壁上段部5bの間隙には、シフト触媒層7が形成されている。シフト触媒層7には白金触媒が充填されており、改質ガス中に含まれるCOガスをシフト反応(2)によりCOに変成する。
CO+HO→CO+H・・・・(2)
【0019】
図示を省略するが、シフト触媒層7を出たシフト出ガスは、シフト出管7aを介して別置のPROX触媒に導入され、改質ガス中のCO除去後に、燃料電池セルスタックに供給されるように構成されている。また、第三隔壁5、上蓋2e、下蓋5eの外側周囲は断熱材により覆われており、装置全体としては円筒形状に構成されている。
【0020】
水蒸気改質器1は以上のように構成されており、次に、図1乃至3を参照して、定常運転時における水蒸気改質器1の改質ガス生成フローについて説明する。
燃焼室2a内で燃料ガスの燃焼により生成した燃焼排ガスは、下端部の燃焼室出口2dから排気流路3aに導かれ、流路内を上昇して排気出口管3bを介して外部に排出される。
一方、原料ガス供給管9b及び水供給管9cから予熱層9内に供給される原料ガス(メタンを主成分とする都市ガス)及び水は、予熱層9上部で混合しつつ伝熱促進体9aに沿って螺旋状に流下していく。その際、排気流路3aを上昇する燃焼排ガスからの熱(Q1)、及び、シフト反応(2)により生じる熱(Q2)を回収する。これにより、水の蒸発及び混合ガスの昇温が行われる。なお、本実施形態において、「混合ガス」とは、(水+原料ガス)、(水+水蒸気+原料ガス)、(水蒸気+原料ガス)のいずれかの状態を総称する概念として用いている(以下の実施形態についても同様)。予熱層9を通過した混合ガスは、熱交換促進部8の第一熱交換室8aに導入される。
【0021】
第一熱交換室8a内では、さらにシフト触媒層7側から熱回収(Q3)して、混合ガス中の水の蒸発がさらに進行する。未蒸発の液水は下端の水トラップ部8cに貯留するが、ここで、第二隔壁下段部4bを介してシフト触媒層7流入前の改質ガスから熱回収(Q4)し、蒸発が促進される。これにより、液水が連通孔10dを通過することを防止することができる。連通孔10dを通過した混合ガスは、第二熱交換室8bにおいて燃焼排ガスから熱回収(Q5)し、さらに改質触媒層出ガスからも熱回収(Q6)して、約400℃に昇温して改質触媒層6に流入する。
【0022】
改質触媒層6内において、混合ガスは触媒反応によりHとCOを主成分とする改質ガスに改質される。改質ガス反応(1)は吸熱反応であり、第一隔壁3を介して燃焼排ガスから熱供給(Q7)を受けて、許容温度範囲内で反応が進む。改質触媒層6下端部では改質ガスの温度は約670℃に上昇して、触媒層出口4cを出て改質ガス流路5cに導かれる。
改質ガス流路5dを上昇する改質ガスは、この間に改質触媒層6側(Q8)及び第二熱交換室8b側(Q6、Q4)に放熱して、シフト触媒層7入口近傍では約400℃に温度低下して触媒層内に導入される。
このように、熱交換促進部8及び水トラップ部8cの設置により、水蒸気のみ含む混合ガスをシフト触媒層7に導入させることができ、さらにシフト触媒層7に流入する改質ガスの温度を適温に低下させることができる。
【0023】
シフト触媒層7において、改質ガスはCO成分がシフト反応(2)によりCOに変成され、CO濃度0.5%程度に低下する。シフト反応は発熱反応であるため、第二隔壁4を介して予熱層9側に放熱(Q2)して反応許容温度を維持し、200℃程度のシフト出ガスとなって触媒層を出る。
シフト触媒層7を出たシフト出ガスは、別置のPROX触媒(図示せず)に導入され、ここで改質ガス中のCO濃度を10ppm以下に下げられた後に、水蒸気改質器1を出て燃料電池セルスタック(図示せず)に供給される。
【0024】
なお、本実施形態ではPROX触媒層を別置とする例を示したが、一体に組み込む構成としてもよい。
また、連通孔10dについて、仕切板10の周方向に沿って複数設ける例を示したが、単一連通孔、又は複数の連通孔を一箇所に集中させる形態とすることも可能である。
また、本実施形態では第一隔壁3の内側に燃焼隔壁2を備え、燃焼排ガスが燃焼隔壁2に沿って下降し、燃焼隔壁2と第一隔壁3の間隙の排気流路3aを上昇して、排気出口管3bから外部に排出される例を示したが、図8に示すように、燃焼隔壁を備えることなく、燃焼排ガスが燃焼室内を下降し、反転して第一隔壁3に沿って上昇して、上蓋に設けた排気出口管3bから外部に排出される態様とすることもできる。
【0025】
(第二の実施形態)
次に図4を参照して、本発明の他の実施形態について説明する。本実施に係る水蒸気改質器20の本体部分の構成が上述の水蒸気改質器1と相違している点は、原料ガスの供給位置である。すなわち、水蒸気改質器1では原料ガス、水ともに予熱層9の上部から供給しているのに対して、水蒸気改質器20では原料ガス供給管21は、熱交換促進部8の第一熱交換室8a上部に接続されており、ここから原料ガスが供給される。本実施形態は、原料ガスと混合させる前に水単独の状態で蒸発させたい場合(予熱層構造により発生)に、特に有効となる。
その他の構成については水蒸気改質器1と同一であるので重複説明を省略する。
【0026】
次に、定常運転時における水蒸気改質器20の改質ガス生成フローについて説明する。
水供給管9cから予熱層9内上部に供給される水は、伝熱促進体9aを伝って流下していき、この間に第一隔壁3を介して燃焼排ガス側から熱回収して一部水蒸気となり、流入口22を通過して第一熱交換室8aに流入する。ここで原料ガス供給管21を介して供給される原料ガスと混合し、シフト触媒層7側及び改質ガス流路5cを上昇する改質ガス側から熱回収して、混合ガスの昇温及び水の蒸発が進行する。水トラップ部8cに貯留する未蒸発の液水は、シフト触媒層7流入前の改質ガスから熱回収して、蒸発が促進される。水蒸気のみ含む混合ガスは、連通孔10dを通過して第二熱交換室8bに流入し、燃焼排ガス側から熱回収し、約670℃程度に昇温して改質触媒層6に流入する。
バーナ2b、改質触媒層6、シフト触媒層7等の作動については第一の実施形態と同一であるので、重複説明を省略する。
【0027】
(第三の実施形態)
さらに、図5、6を参照して、本発明の他の実施形態について説明する。
本実施に係る水蒸気改質器30の構成が上述の水蒸気改質器20と相違する点は、予熱層の外側に原料ガス専用の流路が設けられていることである。すなわち、第二隔壁上段部4aの外側周囲に第四隔壁31を備えており、両隔壁の間隙に原料ガス流路(予熱層)32が形成されている。また、第一熱交換室8aと第二熱交換室8bとが複数の連通孔ではなく、単一の連通孔36を介して連通していることである。さらに、原料ガス流路32と第一熱交換室8aの境界部に、伝熱促進体34を備えていることである。その他の構成については水蒸気改質器1と同一であるので、重複説明を省略する。
【0028】
次に、水蒸気改質器30の定常運転時における改質ガス生成フローについて説明する。
水供給管9cから予熱層9内上部に供給される水は、伝熱促進体9aを伝って流下していき、この間に第一隔壁3を介して燃焼排ガス側から熱回収して昇温し、第一熱交換室8aの合流部35に流入する。一方、原料ガスは原料ガス供給管31を介して供給され、原料ガス流路32を流下し、この間シフト触媒層7側から回収して昇温し、熱合流部35に流入する。原料ガスと水とは第一熱交換室8a内で混合し、未蒸発の水分は下端の水トラップ部8cに貯留するが、シフト触媒層7流入前の改質ガスから熱回収し、蒸発が促進される。これにより、水蒸気のみを含む混合ガスが単一の連通孔36を通過して第二熱交換室8bに流入する。第二熱交換室8bにおいて、第一隔壁3を介して燃焼排ガスから吸熱して約670℃程度に昇温して、改質触媒層6に流入する。
【0029】
なお、バーナ2b、改質触媒層6、シフト触媒層7等の作動については第一の実施形態と同一であるので、重複説明を省略する。
以上のように、本実施形態では予熱層9の外側に原料ガス専用の予熱層として機能する原料ガス流路32を設け、比熱大の水は燃焼排ガス側から、比熱小の原料ガスはシフト触媒層側から、それぞれ熱回収する形態とした。これにより、シフト触媒層側からの放熱量は小となるため、触媒層内周側の温度低下を抑制することができ、発熱反応であるシフト反応を効率的に進行させることができる。
【実施例1】
【0030】
本発明の効果を確認するために、本発明による水蒸気改質器(第三の実施形態のタイプ)と、従来構造の水蒸気改質器を用いて、熱交換促進部における温度条件の比較を行った。
図7に、本発明構造(a)及び従来構造(b)の温度測定ポイントを示す。
A点(改質触媒層入口)温度が380−390℃、B点(シフト触媒層入口)温度が270−300℃となるようにバーナの燃焼条件等を設定し、触媒層内各部温度を測定した。表1に具体的試験条件を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表2は、測定結果を比較したものである。同表より、本発明構造によれば、シフト触媒層下端と改質触媒層上端の距離(E)が10mm短いにも関わらず、B点(シフト触媒層入口)温度については同等の良好な結果が得られた。シフト触媒層に入る(下から上昇する)改質ガスと予熱層を通過する(上から流下する)原料ガスと水、さらに水トラップにたまった水との熱交換が効率的に行われるためである。
さらに、シフト触媒層中央部(C点)については、従来構造では内周側C1で温度低下が生じているのに対して、本発明構造では温度均一化が達成されている。シフト触媒層の内側に原料ガス流路を設けたことにより、シフト触媒層の反応温度低下を抑制できたためである。
さらに、本発明構造では原料ガス及び水の入口圧力変動を±1kPa以下に抑えられた。水トラップ部を設けたことにより、圧力脈動が抑制できたためである。
なお、連通孔を周方向に8個配設したタイプでは、改質触媒層出口温度が周方向で最大70℃の温度差が生じたが、単一タイプでは、最大20℃の温度差に止めることができた。単一にすることにより、原料ガスと水の混合が促進されたためである。
【0033】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、PEFC燃料電池用の改質器としてのみならず、炭化水素系燃料から水素を生成する燃料処理装置として汎用的に適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1、20,30・・・・・多重円筒型水蒸気改質器
2・・・・・燃焼隔壁
2a・・・・燃焼室
2b・・・・バーナ
3・・・・・第一隔壁
3a・・・・排気流路
4・・・・・第二隔壁
4a・・・・第二隔壁上段部
4b・・・・第二隔壁下段部
5・・・・・第三隔壁
5a・・・・第三隔壁下段部
5b・・・・第三隔壁上段部
5c・・・・改質ガス流路
6・・・・・改質触媒層
7・・・・・シフト触媒層
8・・・・・熱交換促進部
8a・・・・第一熱交換室
8b・・・・第二熱交換室
8c・・・・水トラップ部
9・・・・・予熱層
9a、34・・・・伝熱促進体
9b、21・・・・原料ガス供給管
9c・・・・水供給管
10・・・・仕切板
10d、36・・・・連通孔
31・・・・第四隔壁
32・・・・原料ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系燃料を水蒸気改質して水素を主成分とする改質ガスを生成する水蒸気改質器において、同一中心軸の多重円筒体を構成する複数の隔壁により区画される間隙に、以下の構成要素を配置するものであって、
円筒体内側中心部に、燃料ガスを燃焼させて燃焼排ガスを生成する燃焼室と、
第一隔壁の内側に沿って形成される燃焼排ガスの排気流路と、
第一隔壁と第二隔壁上段部の間隙に形成され、供給される原料ガス又は水のいずれか一方又は両方を、第一隔壁を介して燃焼排ガスと熱交換させる予熱層と、
原料ガス供給手段及び水供給手段と、
第一隔壁と第二隔壁下段部の間隙に形成され、予熱層を通過した混合ガスを、水素含有ガスに改質する改質触媒層と、
第二隔壁上段部と第三隔壁中段部の間隙に形成され、改質触媒層を出た改質ガスを変成するシフト触媒層と、
予熱層と改質触媒層との境界部に形成される熱交換促進部と、を備えて成り、
該熱交換促進部は、連通孔を備えた仕切板により区画される第一熱交換室と、第二熱交換室と、を含んで構成され、
第一熱交換室は、該仕切板と第二隔壁との間隙に形成され、かつ、予熱層から流入する混合ガスが、第二隔壁を介してシフト触媒層と熱交換可能に構成し、
第二熱交換室は、第一隔壁と該仕切板との間隙に形成され、かつ、第一熱交換室から連通孔を介して流入する混合ガスが、第一隔壁を介して燃焼排ガスと熱交換可能に構成し、
たことを特徴とする多重円筒型水蒸気改質器。
【請求項2】
前記原料ガス供給手段及び前記水供給手段を、前記予熱層上流端部に備えたことを特徴とする請求項1に記載の多重円筒型水蒸気改質器。
【請求項3】
請求項2において、前記原料ガス供給手段を、前記予熱層上流端部に替えて、前記第一熱交換室に備えたことを特徴とする記載の多重円筒型水蒸気改質器。
【請求項4】
請求項2において、前記第二隔壁上段部の外側に第四隔壁を、さらに備え、
前記原料ガス供給手段を、前記予熱層上流端部に替えて、第四隔壁と前記第二隔壁の間隙に形成される原料ガス流路の上流端部に備え、かつ、
予熱層を通過する水と、該原料ガス流路を通過する原料ガスとを、前記第一熱交換室で混合させるように構成したことを特徴とする多重円筒型水蒸気改質器。
【請求項5】
前記連通孔を、前記仕切板の一箇所に集中させて設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水蒸気改質器。
【請求項6】
前記第一熱交換室の下端部に、残留する液水を捕捉する水トラップ部を備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の多重円筒型水蒸気改質器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−178620(P2011−178620A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45254(P2010−45254)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】