多量体アディポネクチンの分別測定方法
生体試料中で種々の多量体を形成して存在しているアディポネクチンを分別して免疫学的に測定する方法の提供、さらに、分別測定することによりアディポネクチンの総量測定のみでは得られない情報を得、疾病とアディポネクチンの関係をより正確に評価する方法を提供する。
測定対象の多量体アディポネクチンを、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定することを特徴とする、生体試料中の多量体アディポネクチンの分別測定方法。
測定対象の多量体アディポネクチンを、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定することを特徴とする、生体試料中の多量体アディポネクチンの分別測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中に含まれる種々の多量体アディポネクチンを分別して免疫学的に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アディポネクチンは、脂肪細胞から特異的に分泌されるインスリン感受性ホルモンであり、血中に比較的高濃度(5〜10μg/mL)存在している。アディポネクチンの生理的な作用については、本発明者らにより、アディポネクチンの量的な減少が、肥満による2型糖尿病や脂肪萎縮性糖尿病における糖・脂質代謝異常を引き起こす原因の一つであることが報告され(非特許文献1)、医学的な利用については、糖代謝異常の診断、特にインスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体の治療効果のモニタリングへの利用(特許文献1)、肝星細胞の活性化及び増殖の抑制、細胞外マトリックス産生の抑制などの作用を利用した肝繊維化抑制剤(特許文献2)が提案されている。
【0003】
アディポネクチンは、構造上C1q(Complement 1q)ファミリーに属し、C1qファミリーの特徴であるコラーゲン様ドメインを有していることから、3量体を基本とした多量体を形成して存在していることが報告されている(非特許文献2、3)。
【0004】
アディポネクチンの構造上の相違と生理的作用、活性等との関係に関しては、Tsaoらが、NF−κBの活性化作用について、3量体を超える多量体アディポネクチンにのみ活性が認められ、3量体やコラーゲン様ドメインが欠落したグロブラー(globular:球状)ドメインには、活性化作用が認められなかったことを報告している。また、Utpalらは、インスリンやグルコース投与により、高分子画分アディポネクチンのみが有意に低下することや、血糖降下作用は、コラーゲン様ドメインのシステインをセリンに変換したアディポネクチンや還元処理したアディポネクチンで強く、還元未処理及びglobular アディポネクチンではほとんど示さなかったことを報告している(非特許文献4)。
【0005】
しかしながら、これらの報告で検討に使用されたアディポネクチンは、大腸菌等における遺伝子組換えにより発現されたものであり、生体内で分泌されたアディポネクチンの挙動や作用を正確に反映していない可能性が考えられる。また、血中アディポネクチン濃度には性差があることが知られており、女性は男性と比較して有意に高値化している(非特許文献5)ことが報告される一方、マウス血清での成績ではあるが、特に高分子画分アディポネクチンの含量が高いことも報告されている(非特許文献4)。
【0006】
このように、アディポネクチンの構造上の相違と生理的作用や、疾病とアディポネクチンとの関係について、アディポネクチンの総量のみの測定によっては得ることができない情報があるため、生体試料中に存在する種々のアディポネクチン多量体を分別して測定することができる方法が要望されていた。
【0007】
アディポネクチンを測定する方法としては、測定用の試料を予めドデシル硫酸ナトリウム(SDS)存在下に煮沸処理した後、免疫学的に測定をする方法が開示(特許文献3)されている。この方法は立体構造上隠れている、抗体の認識部位を前記処理により露出させて免疫学的にアディポネクチンの総量を測定しようとする方法であり、種々の多量体を分別して測定することはできない。
【0008】
また、測定試料中のアディポネクチンを、SDS変性処理や熱変性処理を行わずに測定する方法(特許文献2では天然型の測定と称している)が開示されている(特許文献2)が、分別測定に関する記載はなく、利用できるものではない。
【特許文献1】国際公開 WO 03/016906公報
【特許文献2】特開2002−363094公報
【特許文献3】特開2000−304748公報
【非特許文献1】Yamauchi T., et al., Nat Med., 7, 941−946, 2001
【非特許文献2】Nakano Y., et al., J. Biochem., 120, 803−812, 1996
【非特許文献3】Tsao T−S., et al., J. Biol. Chem., 277, 29359−29362, 2002
【非特許文献4】Utpal B., et al., J. Biol. Chem., 278, 9073−9085, 2003
【非特許文献5】Yamamoto Y., et al., Clin. Sci., 103, 137−142, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、生体試料中で種々の多量体を形成して存在しているアディポネクチンを分別して測定する方法を提供することを目的とし、さらに、分別測定することによりアディポネクチンの総量測定のみでは得られない情報を得、アディポネクチンの生理的作用や、疾病とアディポネクチンとの関係をより正確に評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究したところ、血液中のアディポネクチンは、ゲルろ過クロマトグラフィーにより見積もられる分子量から、150kDa以上200kDa以下(主として160kDa付近)(以下、LMW−Adと表記する。)、200kDa超400kDa未満(主として260kDa付近)(以下、MMW−Adと表記する。)及び400kDa以上800kDa以下(主として450kDa付近)(以下、HMW−Adと表記する。)で区別できる3種が存在することを確認し、さらに検討を続けたところ、人血液中から4種の多量体アディポネクチンの分別精製標品を得ることに成功した。これら4種は、非変性系のポリアクリルアミド(2−15%)による電気泳動(以降、「PAGE(2−15%)」のように表記することがある)にて分離可能であり、移動度の大きい側から順に、ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adと表記して区別した。これら4種のうちLMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adは前記血清中の3種のアディポネクチンにそれぞれ対応していた。そしてLMW−Adが、3量体アディポネクチンにアルブミンがジスルフィド結合したものであること、及び、少なくともアディポネクチンに対する抗体とアルブミンに対する抗体を組合わせて使用することで、LMW−Adを分別測定できることを見出し、又、分子内架橋後のSDS−ポリアクリルアミド(2−15%)による電気泳動(以降、方法について「SDS−PAGE」と表記することがある)での分子量算出から、ULMW−Adが、アディポネクチンの3量体であることを解明し、MMW−Adは6〜9量体程度、HMW−AdはMMW−Adの2倍以上の会合体を形成していることを推測するに至った。
【0011】
さらにこれらの知見に基づき、アディポネクチンが含まれる試料に適当なプロテアーゼを作用させることによって、HMW−Ad以外のアディポネクチンを消化しうることを見出し、プロテアーゼによる消化処理の後、残ったHMW−Adを、抗アディポネクチン抗体を用いて分別測定できることを見出した。
【0012】
さらに、試料中のMMW−Ad量を、ULMW−Ad及びLMW−Adをプロテアーゼ処理し、残存するHMW−Ad量及びMMW−Ad量の合計量を算出し、該合計量からさらにHMW−Ad量を差し引くことで、算出できること、試料中のULMW−Ad量を、ULMW−Ad及びLMW−Adをプロテアーゼ処理し、残存するHMW−Ad量及びMMW−Ad量の合計量を算出し、別に測定したアディポネクチン総量から、該合計量及びLMW−Ad量を差し引くことで、算出できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0013】
すなわち、本発明は、多量体アディポネクチンを、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定することを特徴とする、生体試料中の多量体アディポネクチンの分別測定方法を提供するものである。
さらに本発明は、人血中由来多量体アディポネクチンが下記の4種であり、その内の1種又は2種を、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定することを特徴とする、生体試料中のアディポネクチンの測定方法を提供するものである。
(1)ULMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、最も移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が100kDa付近にあるアディポネクチン。
(2)LMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、ULMW−Adの次に移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が150kDa付近にあり、さらにアルブミンがジスルフィド結合しているアディポネクチン。
(3)MMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、LMW−Adの次に移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が250kDa付近にあるアディポネクチン。
(4)HMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、最も移動度が小さく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が少なくとも300kDa以上であるアディポネクチン。
【0014】
また本発明は、上記の4種のアディポネクチンのうちの1種又は2種を、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定し、その結果を基に、疾病又は病態に関する情報を得ることを特徴とする、疾病又は病態の評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adを分別して測定できることから、アディポネクチンの生理的作用や、疾病又は病態、特に2型糖尿病、動脈硬化性疾患、腎疾患、肝疾患、肥満症、メタボリックシンドロームの発症、診断、進展、予知及び治療効果をより正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1における多量体アディポネクチンのゲルろ過クロマトグラムである。
【図2】実施例1において、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−AdをそれぞれPAGE(2−15%)し、CBB蛋白染色した、泳動像の図である。
【図3】実施例2において、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−AdをそれぞれSDS−PAGE(2−15%)し、CBB蛋白染色した、泳動像の図である。
【図4】実施例5において、ヒト血清中のアディポネクチンを、ウェスタンブロッティング法により解析した図である。
【図5】実施例6において、LMW−Ad(アルブミン結合型アディポネクチン)を免疫測定法により測定した結果を示す図である。
【図6】実施例3において、ヒト由来ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adの精製品をそれぞれPAGE(2−15%)し、CBB蛋白染色した、泳動像の図である。
【図7】実施例4において、ヒト由来ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adの精製品をそれぞれ非還元条件でSDS−PAGE(2−15%)し、CBB蛋白染色した、泳動像の図である。
【図8】実施例4において、ヒト由来ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adの精製品をそれぞれ分子内架橋後、SDS−PAGE(2−15%)し、ウェスタンブロッティング法により解析した図である。
【図9】実施例7において、LMW−Ad(アルブミン結合型アディポネクチン)を免疫測定法により測定した結果を示す図である。
【図10】実施例13におけるプロテイナーゼKの多量体アディポネクチンに対する消化特異性を示す図である。
【図11】実施例13におけるプロテアーゼA「アマノ」の多量体アディポネクチンに対する消化特異性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において使用できる生体試料としては、多量体アディポネクチンを含有するものであれば、すべて対象となり、ヒト、サル、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット及びその他の哺乳類の動物から得られた血液、尿などの体液、組織抽出液や組織由来の細胞の培養上清液などが挙げられる。これらのうち、アディポネクチンの生理的作用や、疾病又は病態の正確な評価のための試料としては、血液(血清、血漿)が好適である。試料の採取方法は、分別測定するという目的を考慮し、試料中に存在するアディポネクチンに影響を与えない方法であれば使用可能である。例えば、ヒト血液を試料とする場合、評価の目的により、空腹時採血、薬物投与後採血など適宜選択することが好ましい。
【0018】
LMW−Adを分別して免疫測定するための方法について説明する。LMW−Adを認識する抗体によりLMW−Adを捕捉、検出する方法である。
【0019】
LMW−Adを認識する抗体によりLMW−Adを捕捉、検出する方法に使用される抗体は、LMW−Adが3量体アディポネクチンとアルブミンとの複合体であることから、当該複合体を認識して捕捉・検出し得るものであれば、特に制限を受けることなく使用できる。このような抗体の好適な例として、アディポネクチンを認識する抗体とアルブミンを認識する抗体の組み合わせ、あるいは、アディポネクチンとアルブミンとの複合体を特異的に認識する抗体が挙げられる。アディポネクチン、アルブミン、アディポネクチンとアルブミンとの複合体をそれぞれ認識するポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体は、公知の手法によって適当な動物に免疫して得ることができる。これらの抗体は、市販品として入手することも可能であり、本発明に使用できる。例えば、抗ヒトアディポネクチン抗体としては、Goatαhuman Acrp30 antibody(コスモバイオ社、GT社)、rabbitαhu adiponectin−PoAb(コスモバイオ社、chemicon社)、hu Acrp30−MoAb(藤沢薬品工業社、BD社)、Mouseαhu Adiponectin MoAb(コスモバイオ社、chemicon社)、抗ヒトACRP30モノクローナル抗体(AX773、AX741、Ne,Na、和光純薬工業社)などが挙げられる。抗ヒトアルブミン抗体としては、GoatαAlbumin,human antibody(コスモバイオ社、BET、ACD、BMD)、MouseαAlbumin,human antibody(コスモバイオ社、NBT、ZYM、MED)、RabbitαAlbumin,human antibody(コスモバイオ社、CL、ACM)、GoatαAlbumin,human antibody(フナコシ社、ANT)などが挙げられる。
【0020】
本発明の具体的な免疫学的測定方法としては、ELISA(酵素免疫測定法)、CLEIA(化学発光酵素免疫測定法)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、LTIA(ラテックス免疫比濁法)などの公知の方法を使用することができる。ELISAの場合、例えば、アディポネクチンを認識する抗体を結合させた不溶性担体とアルブミンを認識する抗体を酵素標識抗体として組み合せる方法、アディポネクチンとアルブミンの複合体を認識する抗体を結合させた不溶性担体によりアディポネクチンとアルブミンの複合体を捕捉し、アディポネクチンを認識する抗体あるいはアルブミンを認識する抗体を酵素標識抗体として組み合せる方法が挙げられる。測定工程に従ってさらに説明する。アディポネクチンを認識する抗体を結合させた不溶性担体と、アディポネクチンとアルブミンの複合体を含む試料を接触、混合させ、前記不溶性担体にアディポネクチンとアルブミンの複合体を捕捉する。次いで、酵素標識したアルブミンを認識する抗体を接触、混合することにより、不溶性担体−アディポネクチンとアルブミンの複合体−酵素標識抗体の三元複合体が形成される。この後、標識抗体中の酵素と適当な該酵素の基質を反応させ、その結果生じる反応生成物に由来する吸光度変化を光学的に測定することでアディポネクチンとアルブミンの複合体を定性的または定量的に測定する。LTIAの場合、アディポネクチンとアルブミンの複合体に特異的に結合する抗体を担持させた不溶性担体とアディポネクチンとアルブミンの複合体とを混合することによりアディポネクチンとアルブミンの複合体を介した不溶性担体の架橋(凝集)が起こり、その結果生じる濁りを光学的に測定することでアディポネクチンとアルブミンの複合体を定性的または定量的に測定することができる。LTIAは、アディポネクチンとアルブミンの複合体を簡便、迅速かつ正確に測定するには好適である。
【0021】
本発明に使用される不溶性担体としては、通常の免疫学的測定試薬に使用され工業的に大量生産可能な有機系の不溶性担体が使用される。ELISAにおいては抗体の吸着性に優れかつ生物学的活性を長期間安定的に保持できるポリスチレン等の96穴のマイクロプレート、LTIAにおいてはポリスチレン系のラテックス粒子が好ましい。
【0022】
上記不溶性担体の表面に抗体を担持させる手法は種々知られており、本発明において適宜利用できる。例えば、担持(感作)方法として不溶性担体表面に抗体を物理的に吸着させる方法や、官能基を有する不溶性担体表面に既知の方法である物理結合法や化学結合法により抗体を効率的に感作する方法が挙げられる。
【0023】
抗体を担持させた抗体不溶性担体及び/又は酵素標識抗体とアディポネクチンとアルブミンの複合体との反応は、抗原抗体反応が起こりえる条件であれば、その反応条件は特に限定されない。反応液としては、アディポネクチンとアルブミンの複合体との抗原抗体反応が起こり得る溶液であればどのようなものでも良い。例えば、pHを制御するためのリン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液等の緩衝成分、非特異反応を回避するための界面活性剤や塩化ナトリウムなど、安定化剤としてのウシ血清アルブミン(BSA)、ショ糖、高分子多糖類など、反応性を制御する前記物質の他にデキストランなどの水溶性多糖類、酵素の阻害剤等の添加剤を適宜溶解させても良い。
【0024】
ELISAにおける酵素標識抗体は、公知の方法によって調製することができる。例えば、石川らの方法(マレイミド法:「酵素免疫測定法 第3版 医学書院」)等に従い、抗体をそのまま、あるいは必要に応じて抗体を適当なプロテアーゼで限定分解してF(ab’)2又はFab’とした後、酵素で標識することができる。標識に使用する酵素としてはペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼなどが挙げられる。さらに、酵素活性を測定するために基質、必要により発色剤が用いられる。酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合には、基質として過酸化水素を用い、発色剤としてo−フェニレンジアミン、3,3’,5,5’−テトラメチルベンチジン、2,2’−アジノジ−(3−エチルベンズチアゾリンスルホン酸)アンモニウム塩等を用いることができ、酵素にアルカリフォスファターゼを用いる場合は、基質としてp−ニトロフェニルフォスフェート等を、酵素にβ−D−ガラクトシダーゼを用いる場合は、基質としてβ−D−ガラクトピラノシド等を、酵素にグルコースオキシダーゼを用いる場合は、ペルオキシダーゼの共存下で、グルコースオキシダーゼの基質としてβ−D−グルコース、発色剤として酵素がペルオキシダーゼである場合に使用した発色剤等を用いることができる。
【0025】
ELISAにおける酵素標識抗体の酵素活性に由来する基質と酵素の反応生成物を測定する方法は特に限定されない。例えば、酵素がペルオキシダーゼ、基質が過酸化水素、発色剤がo−フェニレンジアミンの場合、酵素反応生成物固有の波長、492nmにおける吸光度として96穴マイクロプレートリーダーで読み取ることが可能である。
【0026】
LTIAにおける不溶性担体の凝集程度を測定する方法は特に限定されない。例えば、凝集を定性的ないし半定量的に測定する場合は、既知濃度試料の濁度程度と測定試料の濁度程度との比較から、凝集の程度を目視によって判定することも可能である。また、該凝集を定量的に測定する場合は、簡便性及び精度の点からは、光学的に測定することが好ましい。凝集の光学的測定法としては、公知の方法が利用可能である。より具体的には、例えば、いわゆる比濁法(凝集塊の形成を濁度の増加として捕らえる)、粒度分布による測定法(凝集塊の形成を粒度分布ないしは平均粒径の変化として捕らえる)、積分球濁度法(凝集塊の形成による前方散乱光の変化を積分球を用いて測定し、透過光強度との比を比較する)などの種々の方式が利用可能である。
【0027】
HMW−Adを分別して免疫測定するための方法について説明する。アディポネクチンが含まれる試料に適当なプロテアーゼを作用させ、HMW−Ad以外のアディポネクチンを消化し、プロテアーゼによる消化処理の後、残ったHMW−Adを、抗アディポネクチン抗体を用いて測定する。HMW−Adを分別測定するのに使用されるプロテアーゼとしては、HMW−Adを消化せず、それ以外のアディポネクチンを消化するものであればいずれも制限することなく使用することができる。プロテアーゼの起源も、微生物由来、動物由来、植物由来など、特に制限はないが、好適には、トリチラチウム(Tritirachium)属由来のプロテイナーゼK、アスペルギルス属、バチルス属等の微生物由来のプロテアーゼが使用される。アスペルギルス属由来のプロテアーゼの市販品の例として、プロテアーゼP「アマノ」、プロテアーゼA「アマノ」、ウマミザイム(いずれもアマノエンザイム社)、スミチームMP、スミチームFP(新日本化学工業社)などが挙げられ、バチルス属由来のプロテアーゼの市販品の例としては、プロテアーゼN「アマノ」(アマノエンザイム社)、プロチンPC(大和化成社)などが挙げられる。これらのプロテアーゼは遺伝子組換え技術により得られたものであっても差し支えない。また化学修飾を施されていてもよい。プロテアーゼ処理の条件は、用いるプロテアーゼによって異なるが、リン酸、トリス、グッド等の緩衝液中、4〜60℃で5分〜24時間行うことが好ましい。プロテアーゼの使用濃度は、プロテアーゼの比活性、反応温度及び反応時間等を考慮して決定されるが、概ね0.01〜100u/mLあるいは0.01〜100mg/mLの範囲で使用される。
【0028】
生体試料をこれらのプロテアーゼで処理し、残存するHMW−Adを測定するための抗体としてはアディポネクチンを認識する抗体を使用することができる。抗アディポネクチン−ポリクローナル抗体やモノクローナル抗体は、公知の手法によって適当な動物に免疫し得ることができるが、市販品として入手することも可能であり、本発明に使用できる。例えば、抗ヒトアディポネクチン抗体は、Goatαhuman Acrp30 antibody(コスモバイオ社、GT社)、rabbitαhu adiponectin−PoAb(コスモバイオ社、chemicon社)、hu Acrp30−MoAb(藤沢薬品工業社、BD社)、Mouseαhu Adiponectin MoAb(コスモバイオ社、chemicon社)、抗ヒトACRP30モノクローナル抗体(AX773、AX741、Ne,Na、和光純薬工業社)などが挙げられる。また、市販のアディポネクチン総量を測定するキットも使用することが出来、例えば、「ヒトアディポネクチンELISAキット」(大塚製薬社)等が挙げられる。さらに、生体試料に、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤及びプロテアーゼの内の少なくともひとつを加えてアディポネクチンに作用させ、多量体アディポネクチンを一定の形態に変換させて免疫学的に測定する本発明者らの開発した方法(特願2003−354715を優先権主張してなされた国際出願)も利用できる。
【0029】
MMW−Adを分別して免疫測定するための方法について説明する。MMW−Adは、ULMW−Ad及びLMW−Adを特異的に消化するプロテアーゼを作用させ、消化されずに残存するMMW−Ad及びHMW−Adの総量を求め、その総量からHMW−Ad量を差し引くことで算出することが可能である。この方法で使用されるプロテアーゼとしては、ULMW−Ad及びLMW−Adのみを特異的に消化できるものであればいずれも制限することなく使用することができる。プロテアーゼの起源も、微生物由来、動物由来、植物由来など、特に制限はないが、好適には、バチルス属、アスペルギルス属、スタフィロコッカス属等の微生物由来のプロテアーゼが使用され、例えば、プロテアーゼS「アマノ」、プロテアーゼA「アマノ」(いずれもアマノエンザイム社)、スミチームFP、スミチームLP50D(新日本化学工業社)、プロテアーゼV8(生化学工業社)などの市販されているものも利用できる。これらのプロテアーゼは、遺伝子組換え技術により得られたものでもよい。また化学修飾を施したものでもよい。残存するMMW−Ad及びHMW−Adの総量は、市販のアディポネクチン総量を測定するキット等を使用することで求められる。差し引くHMW−Ad含量は、上記に挙げた方法により測定できる。
【0030】
生体試料のプロテアーゼ処理方法は、用いるプロテアーゼによって異なるが、リン酸、トリス、グッド等の緩衝液中、4〜60℃で5分〜24時間行うことが好ましい。プロテアーゼの使用濃度は、プロテアーゼの比活性、反応温度及び反応時間等を考慮して決定されるが、概ね0.01〜100u/mLあるいは0.01〜100mg/mLの範囲で使用される。免疫測定法は、前述したLMW−Adを分別測定する方法についての記載を参考に、ELISAやLTIAが実施できる。
【0031】
さらにまた、ULMW−Ad、LMW−Ad及びMMW−Adの総量を、HMW−Adの分別測定方法の項において述べたプロテアーゼを用いて、変換物の総量として算出し、この量から、先に述べたULMW−Ad、LMW−Adを特異的に消化できるプロテアーゼを作用させ、変換物の総量として算出される量を差し引くことで、MMW−Adの量を算出することも可能である。免疫測定法は、前述したLMW−AdあるいはHMW−Adを分別測定する方法についての記載を参考に、ELISAやLTIAが実施できる。
【0032】
ULMW−Adを分別して免疫測定するための方法について説明する。ULMW−Adは、アディポネクチン総量から、前記で測定したLMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adの合計量を差し引くことにより算出できる。具体例としは、ULMW−Ad及びLMW−Adを特異的に消化するプロテアーゼを作用させ、消化されずに残存するMMW−Ad及びHMW−Adの合計量を求め、別に測定したアディポネクチン総量から、該合計量及びLMW−Ad量を差し引くことで算出することが可能である。
【0033】
本発明によれば、ヒト血液中に存在する4種のヒトアディポネクチンが各々分別して測定できる。その結果、2型糖尿病、動脈硬化性疾患、腎疾患、肝疾患、肥満症、メタボリックシンドロームの発症、診断、進展、予知及び治療効果が評価可能となる。評価の方法としては、ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adのうちの1種以上の量の変動あるいはULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Ad及びアディポネクチン総量のうち少なくとも2つの量の比を基準値を設けて観察する方法、同一個体における経時的な変動を観察する方法が挙げられる。さらに特定の疾病や病態において公知の他の指標(例えば、2型糖尿病におけるインスリン、動脈硬化性疾患におけるHDLコレステロールなど)とULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adのうちの1種以上の量、あるいはULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Ad及びアディポネクチン総量のうち少なくとも2つの量の比を関連付けることにより評価を行う方法も挙げることができる。
【実施例】
【0034】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0035】
<試薬及び材料>
実施例及び参考例で用いた試薬及び材料は以下の通りである。
a.抗体結合樹脂用洗浄液:0.5M NaCl を含む 0.1M NaHCO3−NaOH(pH8.3)。
b.抗体結合樹脂用溶出液:0.1M Glycine−HCl(pH2.5)。
c.抗体結合樹脂用中和液:2M Tris−HCl(pH8.0)。
d.ELISA用プレート:96穴マイクロプレート(NUNC社)。
e.ELISA用抗体感作溶液:PBS(pH7.4)。
f.ELISA用緩衝液:1% ウシ血清アルブミン、0.1% Tween 20 を含む PBS(pH7.4)。
g.Vector ABC kit(Mouse):フナコシ社、Cat No.PK−6102。
h.DAB基質キット(ウエスタンブロティング発色基質):フナコシ社、Cat No.SK−4100。
i.抗ヒトアディポネクチン−モノクローナル抗体(hu Acrp30−MoAb):藤沢薬品工業社、BD Transduction Laboratories社、商品コードA12820。
j.ヤギ抗ヒトアディポネクチン−ポリクローナル抗体(Goatαhuman Acrp30 antibody):コスモバイオ社、GT社、Cat No.421065。
k.ヤギ抗マウスIgG HRP標識抗体:コスモバイオ社、capple社。
l.ELISA用洗浄液:0.05% Tween20 を含むPBS
m.ELISA用緩衝液2:1% BSA,0.05% Tween20を含むPBS。
n.ヤギ抗ヒトアルブミン−ポリクローナルHRP標識抗体(HRP−Gt抗HSA抗体):PARIS社。
o.HRP−Avidin:PIERCE社。
【0036】
参考例1. 大腸菌リコンビナント マウスグロブラーアディポネクチン(rMgAd)の調製
マウスアディポネクチンの遺伝子配列(NCBI accession #U37222)のグロブラードメイン配列(104−247残基相当)を6×Hisタグを含むpQE30ベクターのBamHI、HindIIIに挿入し、大腸菌に組み込んだ。リコンビナント マウスグロブラーアディポネクチン(rMgAd)を発現した大腸菌からのrMgAdの精製は、以下の操作により行った。すなわち、大腸菌の可溶画分をNi−NTAアガロース(QIAGEN社)に4℃、16時間添加してrMgAdを結合させた後、イミダゾールにより段階的に溶出させ、アディポネクチンを含む画分を回収し、3日間PBS(pH7.4)で透析を行なった。得られたrMgAdの蛋白質濃度は、Bio−Rad DC protein assay kit を用いて求めた。
【0037】
参考例2. 抗rMgAd抗体の作製
参考例1で調製したrMgAdの50μgを等量のフロイドのコンプリートアジュバントと混合して、2匹のウサギに2週間おきに6回免疫して抗血清を作製した。抗血清中の特異抗体(IgG)の精製は、Protein A樹脂を用いて常法により行なった(抗rMgAd抗体)。
【0038】
参考例3. ヒト血中由来多量体アディポネクチン(mAd)の精製
参考例2で作製した抗rMgAd抗体500mgをCNBr−activated Sepharose 4B(Amersham Bioscience社)50mLに結合させ抗rMgAd抗体結合Sepharose 4B樹脂を作製した。ヒト血清2.5Lを抗rMgAd抗体結合Sepharose 4B樹脂に添加し、抗体結合樹脂用洗浄液で十分量洗浄した後、抗体結合樹脂用溶出液でヒト血清アディポネクチン画分(mAd)を溶出し、溶出画分に抗体結合樹脂用中和液を1/10量添加して中和した。さらに、中和した溶出画分を、Protein A樹脂に添加し、Protein A樹脂への非吸着画分を精製mAdとして回収し、「ヒトアディポネクチンELISAキット」(大塚製薬社)によりアディポネクチン含量を測定した。
【0039】
参考例4. 抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体の作製
参考例3で得た精製mAd 20μgを等量のフロイドのコンプリートアジュバントと混合して、2匹のマウスに2週間おきに3又は4回免疫を行った後、さらに細胞融合3日前に再投与した。免疫したマウスより脾臓細胞を摘出し、ポリエチレングリコールを用いた常法により、P3U1ミエローマ細胞と細胞融合を行った。抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体産生融合細胞の選択は、ELISA法によりmAdとの反応性の高いウエルを選択し、ついで限界希釈法にて選択する常法により行なった。抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体は、選択した融合細胞をプリスタン処理したマウス腹空内に投与し腹水として回収した。腹水からの特異抗体(IgG)の精製は、Protein A樹脂を用いて常法により行なった。上記により認識番号;64401〜64411で識別される11の抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体産生融合細胞とモノクローナル抗体が得られた。
【0040】
実施例1 ヒト血中由来の多量体アディポネクチンの分別精製(1)
参考例3で得た精製mAdを、20mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて透析して脱塩した後、これをGelatin−Cellulofine(生化学工業社)カラムに吸着させ、0、100、200、300及び500mMのNaClをそれぞれ含む20mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて、段階的に溶出させた。得られた各NaCl濃度の溶出画分中には、分子量の異なるアディポネクチンが混在していた。得られた各溶出画分を濃縮し、それぞれの溶出画分についてSephacryl S−300(分画分子量;10〜1500kDa、平均粒子径47μm、Amersham Bioscience社)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーをさらに実施した。溶離液には、150mMのNaClを含む20mM リン酸緩衝液(pH7.0)を使用した。Sephacryl S−300カラムの分子量較正はGel filtration calibration Kit(Amersham Bioscience社)を用いて行った。各クロマトグラフィーにおけるアディポネクチンの検出は、「ヒトアディポネクチンELISAキット」(大塚製薬社)により行った。
【0041】
ゲルろ過クロマトグラフィーのクロマトグラムを図1に示した。得られた溶出フラクションを、150kDa以上200kDa以下(主として160kDa付近)、200kDa超400kDa未満(主として260kDa付近)、400kDa以上800kDa以下(主として450kDa付近)の3画分に区別して収集し、多量体アディポネクチン分別精製品とした。なお、各多量体アディポネクチン分別精製品は、150kDa以上200kDa以下(主として160kDa付近)のものをLMW−Ad、200kDa超400kDa未満(主として260kDa付近)のものをMMW−Ad、400kDa以上800kDa以下(主として450kDa付近)のものをHMW−Adと呼ぶこととした。
【0042】
前工程で得られた3種の多量体アディポネクチン分別精製品、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adそれぞれを、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(ポリアクリルアミド濃度2−15%)(以下、PAGE(2−15%)のように表記する)にて分離し、CBB(クマシーブリリアントブルー)による蛋白染色を行なった。染色した泳動像を図2に示した。
【0043】
LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adのいずれについても主たる染色バンド以外のバンドが認められたが、主たる染色バンドに対して検出の程度は僅かであり、分別、精製が達成されていることが確認された。なお、前述したとおりアディポネクチンは、3量体を基本として多量体を形成しているため、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adのいずれについても、PAGEで見積もられる分子量とゲルろ過での分子量は必ずしも一致していない。
【0044】
実施例2 ヒト血中由来の多量体アディポネクチン(LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Ad)の構造解析
1)SDS−PAGEによる解析
実施例1で得られた多量体アディポネクチン分別精製品を、非還元条件でSDS−PAGE(2−15%)にて分離し、CBB蛋白染色を行なった。染色した泳動像を図3に示した。
【0045】
LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adともに60kDa付近に、明確な染色バンドが認められた。当該染色バンドは、報告されているアディポネクチンの構造及び分子量から、2量体のアディポネクチンと推定された。LMW−Adについては、前記60kDa以外に、90kDa付近に、未同定の明確な染色バンドが認められた。
【0046】
2)SDS−PAGE(2−15%)で90kDa付近に泳動される未同定アディポネクチンの分析
前記1)で検出された90kDa付近の未同定染色バンドのゲルを切り出し、エレクトロエリューターModel422(バイオラッド社)を用いて蛋白を抽出した。抽出された蛋白を2−メルカプトエタノールを含む処理液により煮沸、還元処理し、再度SDS−PAGE(2−15%)にて分離後、PVDF膜へ転写し、CBB蛋白染色を行なったところ、60kDa付近と30kDa付近に2本の染色バンドが確認された。
【0047】
前記60kDa付近及び30kDaのバンド中の蛋白それぞれについて、N末端アミノ酸配列を分析したところ、60kDa付近のバンド中の蛋白のN末端アミノ酸配列は、ヒトアルブミンのN末端アミノ酸配列と一致した。一方、30kDa付近のバンド中の蛋白のN末端アミノ酸配列は、アディポネクチンのアミノ酸配列の19番目からの配列と一致した。
【0048】
以上の事実より、LMW−AdをSDS−PAGE(2−15%)した際に検出される90kDa付近の蛋白は、アルブミン1分子とアディポネクチン1分子がジスルフィド結合したヘテロダイマーであることが判明した。従って、LMW−Ad画分のアディポネクチンの構造は、3量体アディポネクチンとアルブミンがジスルフィド結合した構造を有していることが判明した。
【0049】
実施例3 ヒト血中由来の多量体アディポネクチンの分別精製(2)
参考例3の方法に準じて、再度調製された精製mAdを、20mM リン酸緩衝液(pH7.0)にて透析して脱塩した後、これをGelatin−Cellulofine(生化学工業社)カラムに吸着させ、0、100、200及び500mMのNaClをそれぞれ含む20mM リン酸緩衝液(pH7.0)にて、段階的に溶出させた。得られた100mM NaCl溶出画分には、ULMW−Ad、LMW−Ad及びMMW−Adが混在し、200mM NaCl溶出画分には、MMW−Ad及びHMW−Adが混在したが、500mM NaCl画分は、HMW−Adのみであったことから、500mM NaCl溶出画分を、HMW−Ad分別精製品とした。次に、上記参考例3の方法に準じて、Goatαhuman ALB antibody結合Sepharose4B樹脂を作製後、100mM NaCl溶出画分を添加し、非吸着画分及び吸着画分を得た。非吸着画分には、ULMW−Ad及びMMW−Adが混在していたが、吸着画分にはLMW−Adのみであったことから、これをLMW−Ad分別精製品とした。さらに、非吸着画分を濃縮し、Sephacryl S−300(分画分子量;10〜1500kDa、平均粒子径47μm、Amersham Bioscience社)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより、ULMW−Ad及びMMW−Adを分離した。得られたそれぞれの画分を、ULMW−Ad分別精製標品及びMMW−Ad分別精製品とした。
実施例1の分別精製で得られた情報を基に、さらに分別精製条件を改良した結果、この方法では、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adの3種以外に、もう1種(ULMW−Adとした)新たに分離された。
【0050】
前工程で得られた4種の多量体アディポネクチン分別精製品、ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adそれぞれを、非変性条件下、PAGE(2−15%)にて分離し、CBB蛋白染色を行なった。染色した泳動像を図6に示した。
【0051】
実施例4 ヒト血中由来の多量体アディポネクチン(ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Ad)の構造解析
1)SDS−PAGEによる解析
実施例3で得られた各多量体アディポネクチン分別精製品を、非還元条件でSDS−PAGE(2−15%)にて分離し、CBB蛋白染色を行なった。染色した泳動像を図7に示した。
【0052】
ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adともに60kDa付近に、明確な染色バンドが認められた。当該染色バンドは、報告されているアディポネクチンの構造及び分子量から、2量体のアディポネクチンと推定された。LMW−Adについては、前記60kDa以外に、90kDa付近に、未同定の明確な染色バンドが認められた。又、ULMW−Adについては、2量体以外に1量体の染色バンドが認められたことから、3量体と推測された。尚、図7の泳動像から、LMW−Adの染色バンドが2本確認されるが、共にアルブミンが結合したアディポネクチンであることを確認している。
【0053】
2)分子内架橋による分子量の推定
実施例3で得られた各アディポネクチン多量体分別精製品を、100mMリン酸緩衝液(pH8.0)にて、5〜10μg/mL程度に希釈し、別に架橋剤であるBis(sulfosuccinimidyl)suberate(商品名BS3:PIERCE社製)を20mg/mLとなるように精製水で希釈した液と、等量混合後、室温にて30分間放置した。さらに、100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を混合液に等量添加し、室温で15分間放置した。これらの各処理液を非還元条件でSDS−PAGE(2−15%)にて分離し、セミドライブロッティングによりPVDF膜に転写後、免疫染色を行なった。手順は、転写膜を5% スキムミルク及び0.1% NaN3を含むPBSでブロッキング後、0.1% Tween 20を含むPBSで洗浄し、抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(hu Acrp30−MoAb)1μg/mLを室温で1時間反応させた。0.1% Tween 20を含むPBSで十分に洗浄した後、Vector ABC kit (Mouse) 及びDAB基質キットを用いて発色させた。
【0054】
その結果を図8に示した。分子量マーカーより分子量較正した結果、ULMW−Adは、約100kDa付近に染色バンドが認められ、報告されているアディポネクチンの構造及び分子量から、3量体であることが確認された。LMW−Adは、約150kDa付近に染色バンドが認められ、上記で得られたアルブミンが結合した3量体であることが、分子量からも確認された。MMW−Adは、250kDa付近に染色バンドが認められ、6又は9量体を形成しているものと推測された。HMW−Adは、非常に高分子位置に染色バンドが確認され、かなり分子量が大きく、少なくとも、300kDa以上はあるものと推測され、12量体又は18量体程度と推定されるが、正確な形態は不明である。
【0055】
実施例5 ヒト血清中のアディポネクチンのウェスタンブロッティング解析
健常者8名の血清0.2μL分を、PAGE(2−15%)にて分離し、セミドライブロッティングによりPVDF膜に転写後、免疫染色を行なった。手順は、転写膜を5%スキムミルク及び0.1%NaN3を含むPBS液(pH7.4)でブロッキング後、0.1%Tween20を含むPBS液(pH7.4)で洗浄し、抗アディポネクチン−モノクローナル抗体(hu Acrp30−MoAb;藤沢薬品工業社、BD Transduction Laboratories社)1μg/mLを室温で1時間反応させた。0.1%Tween20を含むPBS液(pH7.4)で十分に洗浄した後、Vector ABC kit (Mouse) 及びDAB基質キット(フナコシ社)を用いて発色させた。
【0056】
実施例1で調製したLMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Ad画分と同じ位置にメインバンドとして発色を認めたことから、この3種のアディポネクチンが血中に存在する主なものであることが判明した(図4)。
又、ULMW−Adについては、存在量が少ない為か不明であるが、ほとんど染色バンドが認められなかった(図4)。
【0057】
実施例6 アルブミン結合型アディポネクチンの測定(1)
ELISA用プレートにヤギ抗ヒトアディポネクチンポリクローナル抗体(Goatαhuman Acrp30 antibody)をELISA用抗体感作溶液で1μg/mLに希釈した後、感作した。ELISA用緩衝液でブロッキング後、実施例1で調製したLMW−AdをELISA用緩衝液で1、0.1、0.01μg/mL(Ad含量として)の濃度に希釈し室温で1時間反応させた。ELISA用緩衝液でプレートを洗浄後、ELISA用緩衝液で1/2000倍希釈した抗ヒトアルブミン−モノクローナル抗体(特開2001−337092)液を室温で1時間反応させた後、ELISA用緩衝液でプレートを洗浄、ELISA用緩衝液で1/1000倍希釈したヤギ抗マウス(Goatαmouse) IgG HRP標識抗体液を室温で1時間反応させた。ELISA用緩衝液でプレートを洗浄後、TMB(テトラメチルベンチジン)と過酸化水素の基質を用いたHRPの酵素反応により発色させ、2N硫酸を添加して反応を停止させた後、450nmの吸収を測定した。測定結果を図5に示す。
【0058】
濃度依存的な吸光度の増加が観察され、サンドイッチ免疫測定法が成立したことより、LMW−Adは、アディポネクチンにアルブミンが結合したもの(アルブミン結合型アディポネクチン)であることがわかった。また、本実施例の方法によりLMW−Adを分別測定できることもわかった。
【0059】
実施例7 アルブミン結合型アディポネクチンの測定(2)
(1)希釈直線性
ELISA用プレートに、ELISA用抗体感作溶液で5μg/mLに希釈した抗アディポネクチンモノクローナル抗体(64402)を、感作した。次に、20%ヤギ血清を含むELISA用緩衝液でブロッキング後、実施例3で調製したLMW−Ad精製品をELISA用緩衝液で0〜20ng/mL(Ad含量として)の濃度範囲に希釈し、に希釈し室温で1時間反応させた。ELISA用洗浄液でプレートを洗浄後、ELISA用緩衝液で1000倍希釈したHRP標識ヤギ抗ヒトアルブミン(HRP−Gt抗HSA)抗体液を室温で1時間反応させた後、ELISA用洗浄液でプレートを洗浄し、OPD発色液(2mg/mL オルトフェニレンジアミン塩酸塩、0.02% 過酸化水素を含む、250mMクエン酸緩衝液、pH5.0)により発色させ、停止液(1.5N 硫酸、1mM EDTA−2Na)を添加して反応を停止させた後、492nmの吸収を測定した。測定結果を図9に示す。
【0060】
濃度依存的な吸光度の増加が観察され、サンドイッチ免疫測定法が成立したことより、LMW−Adは、アディポネクチンにアルブミンが結合したもの(アルブミン結合型アディポネクチン)であることが再度確認された。
【0061】
(2)添加回収試験
人血清を、ELISA用緩衝液2で100〜800倍希釈したものに、実施例3で調製したLMW−Ad精製品を0〜50ng/mLの濃度範囲で添加し、前記(1)と同様のELISA系にて測定後、添加量と実測値からの回収率を求めた。その結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
いずれの場合も、良好な回収率が得られ、本実施例の方法によりLMW−Adを分別測定できることもわかった。
【0064】
実施例8 プロテアーゼ処理(1)
50mMリン酸緩衝液(pH8.0)に、参考例3で得た精製mAd及び各種市販プロテアーゼを添加し、37℃で60分間加温した。その処理液をPAGE(2−15%)にて分離し、プロテアーゼ非添加試料を対照として、各画分への作用を、CBB蛋白染色像にて比較した(表2)。
【0065】
処理条件1〜2に使用のプロテアーゼ処理では、LMW−Ad画分は消失するが、MMW−Ad及びHMW−Adは残存することが確認された。さらに、明確な変換物は確認されなかった。一方、処理条件3〜4に使用のプロテアーゼ処理では、LMW−Adは消失し、MMW−Ad画分及びHMW−Adは残存することが確認され、さらに、低分子量領域にLMW−Ad由来の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。さらに、処理条件5〜6に使用のプロテアーゼ処理では、LMW−Ad及びMMW−Ad画分は消失し、HMW−Adは残存することが確認され、さらに、低分子量領域にLMW−Ad由来の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。これら変換物のPAGE(2−15%)での染色バンドの検出位置は、用いるプロテアーゼにより、若干異なる場合があるものの、30−42kDaの範囲で検出された。この結果より、処理条件1及び2での処理により、MMW−Ad及びHMW−Adの総量、処理条件3及び4での処理により、LMW−Adのみ又はMMW−Ad及びHMW−Adの総量、処理条件5及び6での処理により、HMW−Adのみ又はMMW−Ad及びHMW−Adの総量を測定可能となることがわかった。
【0066】
【表2】
【0067】
実施例9 プロテアーゼ処理(2)
50mM リン酸緩衝液(pH8.0)に、実施例3で解析された精製mAd及び各種市販プロテアーゼを1mg/mLとなるように添加し、37℃で30分間加温した。その処理液をPAGE(2−15%)にて分離し、プロテアーゼ非添加試料を対照として、各画分へのプロテアーゼの作用を、CBB蛋白染色像にて比較した(表3)。
【0068】
処理条件7〜9に使用のプロテアーゼ処理では、ULMW−Ad及びLMW−Ad画分は消失するが、MMW−Ad及びHMW−Adは残存することが確認された。さらに、低分子量領域にULMW−Ad及びLMW−Ad由来の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。さらに、処理条件10〜12に使用のプロテアーゼ処理では、ULMW−Ad及びLMW−Ad及びMMW−Ad画分は消失し、HMW−Adは残存することが確認され、さらに、低分子量領域にULMW−Ad、LMW−Ad及びMMW−Ad由来の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。これら変換物のPAGE(2−15%)での染色バンドの検出位置は、用いるプロテアーゼにより、若干異なる場合があるものの、30−40kDa付近で検出された。この結果より、処理条件7〜9で使用のプロテアーゼを用いることにより、残存するMMW−Ad及びHMW−Adの総量若しくは、新たに生成するAd変換生成物を測定することにより、ULMW−Ad及びLMW−Adの総量の分別測定が可能となることがわかった。又、処理条件10〜12で使用のプロテアーゼを用いることにより、残存するHMW−Ad量、若しくはULMW−Ad、LMW−Ad及びMMW−Adの総量も分別測定が可能である。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例10 HMW−Adの測定用のプロテアーゼ処理
参考例3で得られた、抗体結合樹脂非吸着画分(以下、「Ad除去血漿」という)に、実施例3で得られた各アディポネクチン多量体分別精製品を、最終濃度で10μg/mL程度となるように添加したものを検討用試料とした。又、50mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、プロテイナーゼKを5〜10u/mLとなるように溶解したものを前処理用酵素液とした。各検討用試料10μLに前処理用酵素液90μLを加え、37℃で10〜30分間反応させた後、100mM クエン酸緩衝液(pH3.0、2% SDS含有)を400μL加え、酵素反応(前処理)を停止させた。この反応液20μLに、ELISA用緩衝液2を1.0mL添加して希釈し、前処理済み試料とした。この前処理済み試料を用いて、後述するアディポネクチン測定用ELISA系にて、残存するアディポネクチン含量を算出した。
【0071】
実施例11 MMW−Ad及びHMW−Ad合計量測定用のプロテアーゼ処理
実施例10と同様に、Ad除去血漿に、実施例3で得られた各アディポネクチン多量体分別精製品を、最終濃度で10μg/mL程度となるように添加したものを検討用試料とした。又、50 mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、プロテアーゼA「アマノ」を0.6〜1.0mg/mLとなるように溶解したものを前処理用酵素液とした。各検討用試料10μLに前処理用酵素液90μLを加え、37℃で10〜30分間反応させた後、100mM クエン酸緩衝液(pH3.0、2% SDS含有)を400μL加え、酵素反応(前処理)を停止させた。この反応液20μLに、ELISA用緩衝液2を1.0mL添加して希釈し、前処理済み試料とした。この前処理済み試料を用いて、後述するアディポネクチン測定用ELISA系にて、残存するアディポネクチン含量を算出した。
【0072】
実施例12 アディポネクチン総量測定用試料の調製
生体試料に、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤及びプロテアーゼの内の少なくともひとつを加え、アディポネクチンに作用させ、多量体アディポネクチンを一定の形態に変換させて免疫学的に測定する本発明者らの開発した方法(特願2003−354715を優先権主張してなされた国際出願)から、酸と界面活性剤で前処理する方法を使用した。すなわち、人血漿又は人血清10μLに、100mM クエン酸緩衝液(pH3.0、2%SDS含有)を490μL加え十分に攪拌し、当該混液20μLに、ELISA用緩衝液2を1.0mL添加して希釈し、前処理済み試料として。この前処理済み試料を用いて、後述するアディポネクチン測定用ELISA系にて、アディポネクチン総量を算出した。
【0073】
実施例13 アディポネクチン測定用ELISA系
ELISA用プレートにPBSで5μg/mLに希釈した抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64405)を感作した。次に、ELISA用緩衝液2でブロッキング後、実施例10又は11で調製された各前処理済み試料を添加し、室温で1時間反応させた。ELISA用洗浄液でプレートを洗浄後、ELISA用緩衝液2で2000倍希釈したBiotin標識抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64404)を室温で1時間反応させた後、さらに、ELISA用緩衝液2で2000倍希釈したHRP−Avidinを添加し、室温で30分間反応させた。ELISA用洗浄液でプレートを洗浄し、OPD発色液(2mg/mLオルトフェニレンジアミン塩酸塩、0.02%過酸化水素を含む、250mMクエン酸緩衝液、pH5.0)により発色させ、停止液(1.5N硫酸、1mM EDTA−2Na)を添加して反応を停止させた後、492nmの吸収を測定した。前処理用酵素液90μLと100mM クエン酸緩衝液(pH3.0、2% SDS含有)400μLの混液に検討用試料10μLを加えたものを標準試料として同様にELISA測定を行い、得られた発色値を100%として、実施例10及び11の各検討試料の発色値を%換算した。換算された%発色値を各条件毎に平均し、実施例10の試料について図10、実施例11の試料について図11に示した。
【0074】
図10の結果から、プロテイナーゼKによるプロテアーゼ処理により、血漿中のHMW−Ad以外の多量体Adが消化され、HMW−Adが特異的に測定できることが判明した。又、図11の結果から、プロテアーゼA「アマノ」によるプロテアーゼ処理により、血漿中のMMW−Ad及びHMW−Ad以外の多量体Adが消化され、MMW−Ad及びHMW−Adの合計量が特異的に測定できることが判明した。MMW−Adの濃度については、MMW−Ad及びHMW−Adの合計量から、HMW−Adの濃度を差し引くことで、算出することが可能である。
【0075】
以上の事実より、実施例12の前処理を行ったのち試料中のアディポネクチン総量を測定し、実施例6又は7の方法で求められるLMW−Ad濃度及び実施例11及び13の方法で求められるMMW−Ad及びHMW−Adの合計量を、アディポネクチン総量から差し引くことにより、ULMW−Ad濃度も算出することが可能であることも分かる。これらのことから、人血中に存在する4種の多量体Adの総量及び分別測定は、可能となった。
【0076】
実施例14 動脈硬化性疾患との関係
インスリン治療を行っていない2型糖尿病患者298名中、冠動脈造影検査(CAG)により器質的病変を認めた90名を冠動脈疾患(CAD)群、残りの208名を非冠動脈疾患(NCAD)群に分け、前記実施例で挙げた方法を用いて、患者血漿中の総アディポネクチン(T.Ad)含量測定及び各多量体アディポネクチンの分別測定を実施した。即ち、T.Ad含量は実施例12及び13の方法、HMW−Ad含量は実施例10及び13の方法、MMW−Ad含量は実施例11及び13の方法でMMW−Ad及びHMW−Ad合計量を算出し、さらにHMW−Ad含量を差し引くことで求めた。ULMW−Ad及びLMW−Adの合計量は、T.Ad含量からMMW−Ad及びHMW−Ad合計量を差し引くことによって求めた。求められたそれぞれの値で、CAD群及びNCAD群間の有意差検定を、t検定を用いて行った。
【0077】
その結果を表4に示す。T.Ad含量では、CAD群とNCAD群間で、有意差は認められなかったが、HMW−Ad含量では、有意差を認め(p<0.05)。さらに、T.Ad含量に対するHMW−Ad含量比(%)でも、明確な有意差を認めた(p<0.0001)。この結果から、T.Ad含量よりも、HMW−Ad含量や特にそのT.Ad含量に占める割合(%)が、CADを正確に反映することが示された。
【0078】
【表4】
【0079】
実施例15 メタボリックシンドロームとの関係
実施例14で挙げた298名について、総アディポネクチン量(T.Ad)及びT.Ad量に占めるHMW−Ad量の割合、すなわちHMW−Ad/T.Ad×100%(HMW−R)を基に、次に示す基準で、4群に分類した。まず、T.Adの平均値及びHMW−Rの平均値をそれぞれ算出した結果、それぞれ9.8μg/mL及び32%であった。次にT.Ad値及びHMW−R値がともに平均値未満の患者をA群、T.Ad値が平均値未満で、HMW−R値が平均値以上である患者をB群、T.Ad値が平均値以上で、HMW−R値が平均値未満である患者をC群及びT.Ad値及びHMW−Ad値がともに平均値以上である患者をD群に分類した。さらに、各群内において、米国のAdult Treatment Panel III(ATPIII)によって提唱されているメタボリックシンドロームの診断基準(JAMA,285:2486,2001)に照らし合わせ、5項目のリスクファクターの内、2項目以上基準値を超える患者と2項目未満の患者の2グループに分けた(本来、ATPIIIの診断基準では、3項目以上基準値を超える場合をメタボリックシンドロームとしているが、今回はより厳しい条件とした)。その結果を、表5に示す。
【0080】
「メタボリックシンドローム診断基準項目数とT.Ad値及びHMW−R値には統計学的に有意な関係がある」ことがクラスカル・ワーリス検定の結果、判明した(p値=0.001)。さらに、HMW−R値が平均値以下であるA群及びC群において、メタボリックシンドローム診断基準項目数が2項目以上である患者割合が多いことが判明した。この結果は、T.Ad値に比較して、HMW−R値の方が、メタボリックシンドロームとの関係を表す上でより好適な指標となることを示している。即ち、HMW−R値を測定し、メタボリックシンドロームの指標として用いる事がメタボリックシンドロームの予知や予防にとって有効であることを、今回初めて見出した。
【0081】
【表5】
【0082】
以上の結果から、総アディポネクチン含量を指標としただけでは、疾病や病態の評価が出来ない場合においても、多量体Adの特定の画分を測定することや総アディポネクチン含量に占める特定の画分の割合を見ることによって、疾病の予知や予防、病態の把握が可能となることが判った。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中に含まれる種々の多量体アディポネクチンを分別して免疫学的に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アディポネクチンは、脂肪細胞から特異的に分泌されるインスリン感受性ホルモンであり、血中に比較的高濃度(5〜10μg/mL)存在している。アディポネクチンの生理的な作用については、本発明者らにより、アディポネクチンの量的な減少が、肥満による2型糖尿病や脂肪萎縮性糖尿病における糖・脂質代謝異常を引き起こす原因の一つであることが報告され(非特許文献1)、医学的な利用については、糖代謝異常の診断、特にインスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体の治療効果のモニタリングへの利用(特許文献1)、肝星細胞の活性化及び増殖の抑制、細胞外マトリックス産生の抑制などの作用を利用した肝繊維化抑制剤(特許文献2)が提案されている。
【0003】
アディポネクチンは、構造上C1q(Complement 1q)ファミリーに属し、C1qファミリーの特徴であるコラーゲン様ドメインを有していることから、3量体を基本とした多量体を形成して存在していることが報告されている(非特許文献2、3)。
【0004】
アディポネクチンの構造上の相違と生理的作用、活性等との関係に関しては、Tsaoらが、NF−κBの活性化作用について、3量体を超える多量体アディポネクチンにのみ活性が認められ、3量体やコラーゲン様ドメインが欠落したグロブラー(globular:球状)ドメインには、活性化作用が認められなかったことを報告している。また、Utpalらは、インスリンやグルコース投与により、高分子画分アディポネクチンのみが有意に低下することや、血糖降下作用は、コラーゲン様ドメインのシステインをセリンに変換したアディポネクチンや還元処理したアディポネクチンで強く、還元未処理及びglobular アディポネクチンではほとんど示さなかったことを報告している(非特許文献4)。
【0005】
しかしながら、これらの報告で検討に使用されたアディポネクチンは、大腸菌等における遺伝子組換えにより発現されたものであり、生体内で分泌されたアディポネクチンの挙動や作用を正確に反映していない可能性が考えられる。また、血中アディポネクチン濃度には性差があることが知られており、女性は男性と比較して有意に高値化している(非特許文献5)ことが報告される一方、マウス血清での成績ではあるが、特に高分子画分アディポネクチンの含量が高いことも報告されている(非特許文献4)。
【0006】
このように、アディポネクチンの構造上の相違と生理的作用や、疾病とアディポネクチンとの関係について、アディポネクチンの総量のみの測定によっては得ることができない情報があるため、生体試料中に存在する種々のアディポネクチン多量体を分別して測定することができる方法が要望されていた。
【0007】
アディポネクチンを測定する方法としては、測定用の試料を予めドデシル硫酸ナトリウム(SDS)存在下に煮沸処理した後、免疫学的に測定をする方法が開示(特許文献3)されている。この方法は立体構造上隠れている、抗体の認識部位を前記処理により露出させて免疫学的にアディポネクチンの総量を測定しようとする方法であり、種々の多量体を分別して測定することはできない。
【0008】
また、測定試料中のアディポネクチンを、SDS変性処理や熱変性処理を行わずに測定する方法(特許文献2では天然型の測定と称している)が開示されている(特許文献2)が、分別測定に関する記載はなく、利用できるものではない。
【特許文献1】国際公開 WO 03/016906公報
【特許文献2】特開2002−363094公報
【特許文献3】特開2000−304748公報
【非特許文献1】Yamauchi T., et al., Nat Med., 7, 941−946, 2001
【非特許文献2】Nakano Y., et al., J. Biochem., 120, 803−812, 1996
【非特許文献3】Tsao T−S., et al., J. Biol. Chem., 277, 29359−29362, 2002
【非特許文献4】Utpal B., et al., J. Biol. Chem., 278, 9073−9085, 2003
【非特許文献5】Yamamoto Y., et al., Clin. Sci., 103, 137−142, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、生体試料中で種々の多量体を形成して存在しているアディポネクチンを分別して測定する方法を提供することを目的とし、さらに、分別測定することによりアディポネクチンの総量測定のみでは得られない情報を得、アディポネクチンの生理的作用や、疾病とアディポネクチンとの関係をより正確に評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究したところ、血液中のアディポネクチンは、ゲルろ過クロマトグラフィーにより見積もられる分子量から、150kDa以上200kDa以下(主として160kDa付近)(以下、LMW−Adと表記する。)、200kDa超400kDa未満(主として260kDa付近)(以下、MMW−Adと表記する。)及び400kDa以上800kDa以下(主として450kDa付近)(以下、HMW−Adと表記する。)で区別できる3種が存在することを確認し、さらに検討を続けたところ、人血液中から4種の多量体アディポネクチンの分別精製標品を得ることに成功した。これら4種は、非変性系のポリアクリルアミド(2−15%)による電気泳動(以降、「PAGE(2−15%)」のように表記することがある)にて分離可能であり、移動度の大きい側から順に、ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adと表記して区別した。これら4種のうちLMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adは前記血清中の3種のアディポネクチンにそれぞれ対応していた。そしてLMW−Adが、3量体アディポネクチンにアルブミンがジスルフィド結合したものであること、及び、少なくともアディポネクチンに対する抗体とアルブミンに対する抗体を組合わせて使用することで、LMW−Adを分別測定できることを見出し、又、分子内架橋後のSDS−ポリアクリルアミド(2−15%)による電気泳動(以降、方法について「SDS−PAGE」と表記することがある)での分子量算出から、ULMW−Adが、アディポネクチンの3量体であることを解明し、MMW−Adは6〜9量体程度、HMW−AdはMMW−Adの2倍以上の会合体を形成していることを推測するに至った。
【0011】
さらにこれらの知見に基づき、アディポネクチンが含まれる試料に適当なプロテアーゼを作用させることによって、HMW−Ad以外のアディポネクチンを消化しうることを見出し、プロテアーゼによる消化処理の後、残ったHMW−Adを、抗アディポネクチン抗体を用いて分別測定できることを見出した。
【0012】
さらに、試料中のMMW−Ad量を、ULMW−Ad及びLMW−Adをプロテアーゼ処理し、残存するHMW−Ad量及びMMW−Ad量の合計量を算出し、該合計量からさらにHMW−Ad量を差し引くことで、算出できること、試料中のULMW−Ad量を、ULMW−Ad及びLMW−Adをプロテアーゼ処理し、残存するHMW−Ad量及びMMW−Ad量の合計量を算出し、別に測定したアディポネクチン総量から、該合計量及びLMW−Ad量を差し引くことで、算出できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0013】
すなわち、本発明は、多量体アディポネクチンを、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定することを特徴とする、生体試料中の多量体アディポネクチンの分別測定方法を提供するものである。
さらに本発明は、人血中由来多量体アディポネクチンが下記の4種であり、その内の1種又は2種を、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定することを特徴とする、生体試料中のアディポネクチンの測定方法を提供するものである。
(1)ULMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、最も移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が100kDa付近にあるアディポネクチン。
(2)LMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、ULMW−Adの次に移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が150kDa付近にあり、さらにアルブミンがジスルフィド結合しているアディポネクチン。
(3)MMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、LMW−Adの次に移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が250kDa付近にあるアディポネクチン。
(4)HMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、最も移動度が小さく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が少なくとも300kDa以上であるアディポネクチン。
【0014】
また本発明は、上記の4種のアディポネクチンのうちの1種又は2種を、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定し、その結果を基に、疾病又は病態に関する情報を得ることを特徴とする、疾病又は病態の評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adを分別して測定できることから、アディポネクチンの生理的作用や、疾病又は病態、特に2型糖尿病、動脈硬化性疾患、腎疾患、肝疾患、肥満症、メタボリックシンドロームの発症、診断、進展、予知及び治療効果をより正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1における多量体アディポネクチンのゲルろ過クロマトグラムである。
【図2】実施例1において、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−AdをそれぞれPAGE(2−15%)し、CBB蛋白染色した、泳動像の図である。
【図3】実施例2において、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−AdをそれぞれSDS−PAGE(2−15%)し、CBB蛋白染色した、泳動像の図である。
【図4】実施例5において、ヒト血清中のアディポネクチンを、ウェスタンブロッティング法により解析した図である。
【図5】実施例6において、LMW−Ad(アルブミン結合型アディポネクチン)を免疫測定法により測定した結果を示す図である。
【図6】実施例3において、ヒト由来ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adの精製品をそれぞれPAGE(2−15%)し、CBB蛋白染色した、泳動像の図である。
【図7】実施例4において、ヒト由来ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adの精製品をそれぞれ非還元条件でSDS−PAGE(2−15%)し、CBB蛋白染色した、泳動像の図である。
【図8】実施例4において、ヒト由来ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adの精製品をそれぞれ分子内架橋後、SDS−PAGE(2−15%)し、ウェスタンブロッティング法により解析した図である。
【図9】実施例7において、LMW−Ad(アルブミン結合型アディポネクチン)を免疫測定法により測定した結果を示す図である。
【図10】実施例13におけるプロテイナーゼKの多量体アディポネクチンに対する消化特異性を示す図である。
【図11】実施例13におけるプロテアーゼA「アマノ」の多量体アディポネクチンに対する消化特異性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において使用できる生体試料としては、多量体アディポネクチンを含有するものであれば、すべて対象となり、ヒト、サル、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット及びその他の哺乳類の動物から得られた血液、尿などの体液、組織抽出液や組織由来の細胞の培養上清液などが挙げられる。これらのうち、アディポネクチンの生理的作用や、疾病又は病態の正確な評価のための試料としては、血液(血清、血漿)が好適である。試料の採取方法は、分別測定するという目的を考慮し、試料中に存在するアディポネクチンに影響を与えない方法であれば使用可能である。例えば、ヒト血液を試料とする場合、評価の目的により、空腹時採血、薬物投与後採血など適宜選択することが好ましい。
【0018】
LMW−Adを分別して免疫測定するための方法について説明する。LMW−Adを認識する抗体によりLMW−Adを捕捉、検出する方法である。
【0019】
LMW−Adを認識する抗体によりLMW−Adを捕捉、検出する方法に使用される抗体は、LMW−Adが3量体アディポネクチンとアルブミンとの複合体であることから、当該複合体を認識して捕捉・検出し得るものであれば、特に制限を受けることなく使用できる。このような抗体の好適な例として、アディポネクチンを認識する抗体とアルブミンを認識する抗体の組み合わせ、あるいは、アディポネクチンとアルブミンとの複合体を特異的に認識する抗体が挙げられる。アディポネクチン、アルブミン、アディポネクチンとアルブミンとの複合体をそれぞれ認識するポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体は、公知の手法によって適当な動物に免疫して得ることができる。これらの抗体は、市販品として入手することも可能であり、本発明に使用できる。例えば、抗ヒトアディポネクチン抗体としては、Goatαhuman Acrp30 antibody(コスモバイオ社、GT社)、rabbitαhu adiponectin−PoAb(コスモバイオ社、chemicon社)、hu Acrp30−MoAb(藤沢薬品工業社、BD社)、Mouseαhu Adiponectin MoAb(コスモバイオ社、chemicon社)、抗ヒトACRP30モノクローナル抗体(AX773、AX741、Ne,Na、和光純薬工業社)などが挙げられる。抗ヒトアルブミン抗体としては、GoatαAlbumin,human antibody(コスモバイオ社、BET、ACD、BMD)、MouseαAlbumin,human antibody(コスモバイオ社、NBT、ZYM、MED)、RabbitαAlbumin,human antibody(コスモバイオ社、CL、ACM)、GoatαAlbumin,human antibody(フナコシ社、ANT)などが挙げられる。
【0020】
本発明の具体的な免疫学的測定方法としては、ELISA(酵素免疫測定法)、CLEIA(化学発光酵素免疫測定法)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、LTIA(ラテックス免疫比濁法)などの公知の方法を使用することができる。ELISAの場合、例えば、アディポネクチンを認識する抗体を結合させた不溶性担体とアルブミンを認識する抗体を酵素標識抗体として組み合せる方法、アディポネクチンとアルブミンの複合体を認識する抗体を結合させた不溶性担体によりアディポネクチンとアルブミンの複合体を捕捉し、アディポネクチンを認識する抗体あるいはアルブミンを認識する抗体を酵素標識抗体として組み合せる方法が挙げられる。測定工程に従ってさらに説明する。アディポネクチンを認識する抗体を結合させた不溶性担体と、アディポネクチンとアルブミンの複合体を含む試料を接触、混合させ、前記不溶性担体にアディポネクチンとアルブミンの複合体を捕捉する。次いで、酵素標識したアルブミンを認識する抗体を接触、混合することにより、不溶性担体−アディポネクチンとアルブミンの複合体−酵素標識抗体の三元複合体が形成される。この後、標識抗体中の酵素と適当な該酵素の基質を反応させ、その結果生じる反応生成物に由来する吸光度変化を光学的に測定することでアディポネクチンとアルブミンの複合体を定性的または定量的に測定する。LTIAの場合、アディポネクチンとアルブミンの複合体に特異的に結合する抗体を担持させた不溶性担体とアディポネクチンとアルブミンの複合体とを混合することによりアディポネクチンとアルブミンの複合体を介した不溶性担体の架橋(凝集)が起こり、その結果生じる濁りを光学的に測定することでアディポネクチンとアルブミンの複合体を定性的または定量的に測定することができる。LTIAは、アディポネクチンとアルブミンの複合体を簡便、迅速かつ正確に測定するには好適である。
【0021】
本発明に使用される不溶性担体としては、通常の免疫学的測定試薬に使用され工業的に大量生産可能な有機系の不溶性担体が使用される。ELISAにおいては抗体の吸着性に優れかつ生物学的活性を長期間安定的に保持できるポリスチレン等の96穴のマイクロプレート、LTIAにおいてはポリスチレン系のラテックス粒子が好ましい。
【0022】
上記不溶性担体の表面に抗体を担持させる手法は種々知られており、本発明において適宜利用できる。例えば、担持(感作)方法として不溶性担体表面に抗体を物理的に吸着させる方法や、官能基を有する不溶性担体表面に既知の方法である物理結合法や化学結合法により抗体を効率的に感作する方法が挙げられる。
【0023】
抗体を担持させた抗体不溶性担体及び/又は酵素標識抗体とアディポネクチンとアルブミンの複合体との反応は、抗原抗体反応が起こりえる条件であれば、その反応条件は特に限定されない。反応液としては、アディポネクチンとアルブミンの複合体との抗原抗体反応が起こり得る溶液であればどのようなものでも良い。例えば、pHを制御するためのリン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液等の緩衝成分、非特異反応を回避するための界面活性剤や塩化ナトリウムなど、安定化剤としてのウシ血清アルブミン(BSA)、ショ糖、高分子多糖類など、反応性を制御する前記物質の他にデキストランなどの水溶性多糖類、酵素の阻害剤等の添加剤を適宜溶解させても良い。
【0024】
ELISAにおける酵素標識抗体は、公知の方法によって調製することができる。例えば、石川らの方法(マレイミド法:「酵素免疫測定法 第3版 医学書院」)等に従い、抗体をそのまま、あるいは必要に応じて抗体を適当なプロテアーゼで限定分解してF(ab’)2又はFab’とした後、酵素で標識することができる。標識に使用する酵素としてはペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼなどが挙げられる。さらに、酵素活性を測定するために基質、必要により発色剤が用いられる。酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合には、基質として過酸化水素を用い、発色剤としてo−フェニレンジアミン、3,3’,5,5’−テトラメチルベンチジン、2,2’−アジノジ−(3−エチルベンズチアゾリンスルホン酸)アンモニウム塩等を用いることができ、酵素にアルカリフォスファターゼを用いる場合は、基質としてp−ニトロフェニルフォスフェート等を、酵素にβ−D−ガラクトシダーゼを用いる場合は、基質としてβ−D−ガラクトピラノシド等を、酵素にグルコースオキシダーゼを用いる場合は、ペルオキシダーゼの共存下で、グルコースオキシダーゼの基質としてβ−D−グルコース、発色剤として酵素がペルオキシダーゼである場合に使用した発色剤等を用いることができる。
【0025】
ELISAにおける酵素標識抗体の酵素活性に由来する基質と酵素の反応生成物を測定する方法は特に限定されない。例えば、酵素がペルオキシダーゼ、基質が過酸化水素、発色剤がo−フェニレンジアミンの場合、酵素反応生成物固有の波長、492nmにおける吸光度として96穴マイクロプレートリーダーで読み取ることが可能である。
【0026】
LTIAにおける不溶性担体の凝集程度を測定する方法は特に限定されない。例えば、凝集を定性的ないし半定量的に測定する場合は、既知濃度試料の濁度程度と測定試料の濁度程度との比較から、凝集の程度を目視によって判定することも可能である。また、該凝集を定量的に測定する場合は、簡便性及び精度の点からは、光学的に測定することが好ましい。凝集の光学的測定法としては、公知の方法が利用可能である。より具体的には、例えば、いわゆる比濁法(凝集塊の形成を濁度の増加として捕らえる)、粒度分布による測定法(凝集塊の形成を粒度分布ないしは平均粒径の変化として捕らえる)、積分球濁度法(凝集塊の形成による前方散乱光の変化を積分球を用いて測定し、透過光強度との比を比較する)などの種々の方式が利用可能である。
【0027】
HMW−Adを分別して免疫測定するための方法について説明する。アディポネクチンが含まれる試料に適当なプロテアーゼを作用させ、HMW−Ad以外のアディポネクチンを消化し、プロテアーゼによる消化処理の後、残ったHMW−Adを、抗アディポネクチン抗体を用いて測定する。HMW−Adを分別測定するのに使用されるプロテアーゼとしては、HMW−Adを消化せず、それ以外のアディポネクチンを消化するものであればいずれも制限することなく使用することができる。プロテアーゼの起源も、微生物由来、動物由来、植物由来など、特に制限はないが、好適には、トリチラチウム(Tritirachium)属由来のプロテイナーゼK、アスペルギルス属、バチルス属等の微生物由来のプロテアーゼが使用される。アスペルギルス属由来のプロテアーゼの市販品の例として、プロテアーゼP「アマノ」、プロテアーゼA「アマノ」、ウマミザイム(いずれもアマノエンザイム社)、スミチームMP、スミチームFP(新日本化学工業社)などが挙げられ、バチルス属由来のプロテアーゼの市販品の例としては、プロテアーゼN「アマノ」(アマノエンザイム社)、プロチンPC(大和化成社)などが挙げられる。これらのプロテアーゼは遺伝子組換え技術により得られたものであっても差し支えない。また化学修飾を施されていてもよい。プロテアーゼ処理の条件は、用いるプロテアーゼによって異なるが、リン酸、トリス、グッド等の緩衝液中、4〜60℃で5分〜24時間行うことが好ましい。プロテアーゼの使用濃度は、プロテアーゼの比活性、反応温度及び反応時間等を考慮して決定されるが、概ね0.01〜100u/mLあるいは0.01〜100mg/mLの範囲で使用される。
【0028】
生体試料をこれらのプロテアーゼで処理し、残存するHMW−Adを測定するための抗体としてはアディポネクチンを認識する抗体を使用することができる。抗アディポネクチン−ポリクローナル抗体やモノクローナル抗体は、公知の手法によって適当な動物に免疫し得ることができるが、市販品として入手することも可能であり、本発明に使用できる。例えば、抗ヒトアディポネクチン抗体は、Goatαhuman Acrp30 antibody(コスモバイオ社、GT社)、rabbitαhu adiponectin−PoAb(コスモバイオ社、chemicon社)、hu Acrp30−MoAb(藤沢薬品工業社、BD社)、Mouseαhu Adiponectin MoAb(コスモバイオ社、chemicon社)、抗ヒトACRP30モノクローナル抗体(AX773、AX741、Ne,Na、和光純薬工業社)などが挙げられる。また、市販のアディポネクチン総量を測定するキットも使用することが出来、例えば、「ヒトアディポネクチンELISAキット」(大塚製薬社)等が挙げられる。さらに、生体試料に、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤及びプロテアーゼの内の少なくともひとつを加えてアディポネクチンに作用させ、多量体アディポネクチンを一定の形態に変換させて免疫学的に測定する本発明者らの開発した方法(特願2003−354715を優先権主張してなされた国際出願)も利用できる。
【0029】
MMW−Adを分別して免疫測定するための方法について説明する。MMW−Adは、ULMW−Ad及びLMW−Adを特異的に消化するプロテアーゼを作用させ、消化されずに残存するMMW−Ad及びHMW−Adの総量を求め、その総量からHMW−Ad量を差し引くことで算出することが可能である。この方法で使用されるプロテアーゼとしては、ULMW−Ad及びLMW−Adのみを特異的に消化できるものであればいずれも制限することなく使用することができる。プロテアーゼの起源も、微生物由来、動物由来、植物由来など、特に制限はないが、好適には、バチルス属、アスペルギルス属、スタフィロコッカス属等の微生物由来のプロテアーゼが使用され、例えば、プロテアーゼS「アマノ」、プロテアーゼA「アマノ」(いずれもアマノエンザイム社)、スミチームFP、スミチームLP50D(新日本化学工業社)、プロテアーゼV8(生化学工業社)などの市販されているものも利用できる。これらのプロテアーゼは、遺伝子組換え技術により得られたものでもよい。また化学修飾を施したものでもよい。残存するMMW−Ad及びHMW−Adの総量は、市販のアディポネクチン総量を測定するキット等を使用することで求められる。差し引くHMW−Ad含量は、上記に挙げた方法により測定できる。
【0030】
生体試料のプロテアーゼ処理方法は、用いるプロテアーゼによって異なるが、リン酸、トリス、グッド等の緩衝液中、4〜60℃で5分〜24時間行うことが好ましい。プロテアーゼの使用濃度は、プロテアーゼの比活性、反応温度及び反応時間等を考慮して決定されるが、概ね0.01〜100u/mLあるいは0.01〜100mg/mLの範囲で使用される。免疫測定法は、前述したLMW−Adを分別測定する方法についての記載を参考に、ELISAやLTIAが実施できる。
【0031】
さらにまた、ULMW−Ad、LMW−Ad及びMMW−Adの総量を、HMW−Adの分別測定方法の項において述べたプロテアーゼを用いて、変換物の総量として算出し、この量から、先に述べたULMW−Ad、LMW−Adを特異的に消化できるプロテアーゼを作用させ、変換物の総量として算出される量を差し引くことで、MMW−Adの量を算出することも可能である。免疫測定法は、前述したLMW−AdあるいはHMW−Adを分別測定する方法についての記載を参考に、ELISAやLTIAが実施できる。
【0032】
ULMW−Adを分別して免疫測定するための方法について説明する。ULMW−Adは、アディポネクチン総量から、前記で測定したLMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adの合計量を差し引くことにより算出できる。具体例としは、ULMW−Ad及びLMW−Adを特異的に消化するプロテアーゼを作用させ、消化されずに残存するMMW−Ad及びHMW−Adの合計量を求め、別に測定したアディポネクチン総量から、該合計量及びLMW−Ad量を差し引くことで算出することが可能である。
【0033】
本発明によれば、ヒト血液中に存在する4種のヒトアディポネクチンが各々分別して測定できる。その結果、2型糖尿病、動脈硬化性疾患、腎疾患、肝疾患、肥満症、メタボリックシンドロームの発症、診断、進展、予知及び治療効果が評価可能となる。評価の方法としては、ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adのうちの1種以上の量の変動あるいはULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Ad及びアディポネクチン総量のうち少なくとも2つの量の比を基準値を設けて観察する方法、同一個体における経時的な変動を観察する方法が挙げられる。さらに特定の疾病や病態において公知の他の指標(例えば、2型糖尿病におけるインスリン、動脈硬化性疾患におけるHDLコレステロールなど)とULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adのうちの1種以上の量、あるいはULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Ad及びアディポネクチン総量のうち少なくとも2つの量の比を関連付けることにより評価を行う方法も挙げることができる。
【実施例】
【0034】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0035】
<試薬及び材料>
実施例及び参考例で用いた試薬及び材料は以下の通りである。
a.抗体結合樹脂用洗浄液:0.5M NaCl を含む 0.1M NaHCO3−NaOH(pH8.3)。
b.抗体結合樹脂用溶出液:0.1M Glycine−HCl(pH2.5)。
c.抗体結合樹脂用中和液:2M Tris−HCl(pH8.0)。
d.ELISA用プレート:96穴マイクロプレート(NUNC社)。
e.ELISA用抗体感作溶液:PBS(pH7.4)。
f.ELISA用緩衝液:1% ウシ血清アルブミン、0.1% Tween 20 を含む PBS(pH7.4)。
g.Vector ABC kit(Mouse):フナコシ社、Cat No.PK−6102。
h.DAB基質キット(ウエスタンブロティング発色基質):フナコシ社、Cat No.SK−4100。
i.抗ヒトアディポネクチン−モノクローナル抗体(hu Acrp30−MoAb):藤沢薬品工業社、BD Transduction Laboratories社、商品コードA12820。
j.ヤギ抗ヒトアディポネクチン−ポリクローナル抗体(Goatαhuman Acrp30 antibody):コスモバイオ社、GT社、Cat No.421065。
k.ヤギ抗マウスIgG HRP標識抗体:コスモバイオ社、capple社。
l.ELISA用洗浄液:0.05% Tween20 を含むPBS
m.ELISA用緩衝液2:1% BSA,0.05% Tween20を含むPBS。
n.ヤギ抗ヒトアルブミン−ポリクローナルHRP標識抗体(HRP−Gt抗HSA抗体):PARIS社。
o.HRP−Avidin:PIERCE社。
【0036】
参考例1. 大腸菌リコンビナント マウスグロブラーアディポネクチン(rMgAd)の調製
マウスアディポネクチンの遺伝子配列(NCBI accession #U37222)のグロブラードメイン配列(104−247残基相当)を6×Hisタグを含むpQE30ベクターのBamHI、HindIIIに挿入し、大腸菌に組み込んだ。リコンビナント マウスグロブラーアディポネクチン(rMgAd)を発現した大腸菌からのrMgAdの精製は、以下の操作により行った。すなわち、大腸菌の可溶画分をNi−NTAアガロース(QIAGEN社)に4℃、16時間添加してrMgAdを結合させた後、イミダゾールにより段階的に溶出させ、アディポネクチンを含む画分を回収し、3日間PBS(pH7.4)で透析を行なった。得られたrMgAdの蛋白質濃度は、Bio−Rad DC protein assay kit を用いて求めた。
【0037】
参考例2. 抗rMgAd抗体の作製
参考例1で調製したrMgAdの50μgを等量のフロイドのコンプリートアジュバントと混合して、2匹のウサギに2週間おきに6回免疫して抗血清を作製した。抗血清中の特異抗体(IgG)の精製は、Protein A樹脂を用いて常法により行なった(抗rMgAd抗体)。
【0038】
参考例3. ヒト血中由来多量体アディポネクチン(mAd)の精製
参考例2で作製した抗rMgAd抗体500mgをCNBr−activated Sepharose 4B(Amersham Bioscience社)50mLに結合させ抗rMgAd抗体結合Sepharose 4B樹脂を作製した。ヒト血清2.5Lを抗rMgAd抗体結合Sepharose 4B樹脂に添加し、抗体結合樹脂用洗浄液で十分量洗浄した後、抗体結合樹脂用溶出液でヒト血清アディポネクチン画分(mAd)を溶出し、溶出画分に抗体結合樹脂用中和液を1/10量添加して中和した。さらに、中和した溶出画分を、Protein A樹脂に添加し、Protein A樹脂への非吸着画分を精製mAdとして回収し、「ヒトアディポネクチンELISAキット」(大塚製薬社)によりアディポネクチン含量を測定した。
【0039】
参考例4. 抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体の作製
参考例3で得た精製mAd 20μgを等量のフロイドのコンプリートアジュバントと混合して、2匹のマウスに2週間おきに3又は4回免疫を行った後、さらに細胞融合3日前に再投与した。免疫したマウスより脾臓細胞を摘出し、ポリエチレングリコールを用いた常法により、P3U1ミエローマ細胞と細胞融合を行った。抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体産生融合細胞の選択は、ELISA法によりmAdとの反応性の高いウエルを選択し、ついで限界希釈法にて選択する常法により行なった。抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体は、選択した融合細胞をプリスタン処理したマウス腹空内に投与し腹水として回収した。腹水からの特異抗体(IgG)の精製は、Protein A樹脂を用いて常法により行なった。上記により認識番号;64401〜64411で識別される11の抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体産生融合細胞とモノクローナル抗体が得られた。
【0040】
実施例1 ヒト血中由来の多量体アディポネクチンの分別精製(1)
参考例3で得た精製mAdを、20mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて透析して脱塩した後、これをGelatin−Cellulofine(生化学工業社)カラムに吸着させ、0、100、200、300及び500mMのNaClをそれぞれ含む20mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて、段階的に溶出させた。得られた各NaCl濃度の溶出画分中には、分子量の異なるアディポネクチンが混在していた。得られた各溶出画分を濃縮し、それぞれの溶出画分についてSephacryl S−300(分画分子量;10〜1500kDa、平均粒子径47μm、Amersham Bioscience社)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーをさらに実施した。溶離液には、150mMのNaClを含む20mM リン酸緩衝液(pH7.0)を使用した。Sephacryl S−300カラムの分子量較正はGel filtration calibration Kit(Amersham Bioscience社)を用いて行った。各クロマトグラフィーにおけるアディポネクチンの検出は、「ヒトアディポネクチンELISAキット」(大塚製薬社)により行った。
【0041】
ゲルろ過クロマトグラフィーのクロマトグラムを図1に示した。得られた溶出フラクションを、150kDa以上200kDa以下(主として160kDa付近)、200kDa超400kDa未満(主として260kDa付近)、400kDa以上800kDa以下(主として450kDa付近)の3画分に区別して収集し、多量体アディポネクチン分別精製品とした。なお、各多量体アディポネクチン分別精製品は、150kDa以上200kDa以下(主として160kDa付近)のものをLMW−Ad、200kDa超400kDa未満(主として260kDa付近)のものをMMW−Ad、400kDa以上800kDa以下(主として450kDa付近)のものをHMW−Adと呼ぶこととした。
【0042】
前工程で得られた3種の多量体アディポネクチン分別精製品、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adそれぞれを、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(ポリアクリルアミド濃度2−15%)(以下、PAGE(2−15%)のように表記する)にて分離し、CBB(クマシーブリリアントブルー)による蛋白染色を行なった。染色した泳動像を図2に示した。
【0043】
LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adのいずれについても主たる染色バンド以外のバンドが認められたが、主たる染色バンドに対して検出の程度は僅かであり、分別、精製が達成されていることが確認された。なお、前述したとおりアディポネクチンは、3量体を基本として多量体を形成しているため、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adのいずれについても、PAGEで見積もられる分子量とゲルろ過での分子量は必ずしも一致していない。
【0044】
実施例2 ヒト血中由来の多量体アディポネクチン(LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Ad)の構造解析
1)SDS−PAGEによる解析
実施例1で得られた多量体アディポネクチン分別精製品を、非還元条件でSDS−PAGE(2−15%)にて分離し、CBB蛋白染色を行なった。染色した泳動像を図3に示した。
【0045】
LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adともに60kDa付近に、明確な染色バンドが認められた。当該染色バンドは、報告されているアディポネクチンの構造及び分子量から、2量体のアディポネクチンと推定された。LMW−Adについては、前記60kDa以外に、90kDa付近に、未同定の明確な染色バンドが認められた。
【0046】
2)SDS−PAGE(2−15%)で90kDa付近に泳動される未同定アディポネクチンの分析
前記1)で検出された90kDa付近の未同定染色バンドのゲルを切り出し、エレクトロエリューターModel422(バイオラッド社)を用いて蛋白を抽出した。抽出された蛋白を2−メルカプトエタノールを含む処理液により煮沸、還元処理し、再度SDS−PAGE(2−15%)にて分離後、PVDF膜へ転写し、CBB蛋白染色を行なったところ、60kDa付近と30kDa付近に2本の染色バンドが確認された。
【0047】
前記60kDa付近及び30kDaのバンド中の蛋白それぞれについて、N末端アミノ酸配列を分析したところ、60kDa付近のバンド中の蛋白のN末端アミノ酸配列は、ヒトアルブミンのN末端アミノ酸配列と一致した。一方、30kDa付近のバンド中の蛋白のN末端アミノ酸配列は、アディポネクチンのアミノ酸配列の19番目からの配列と一致した。
【0048】
以上の事実より、LMW−AdをSDS−PAGE(2−15%)した際に検出される90kDa付近の蛋白は、アルブミン1分子とアディポネクチン1分子がジスルフィド結合したヘテロダイマーであることが判明した。従って、LMW−Ad画分のアディポネクチンの構造は、3量体アディポネクチンとアルブミンがジスルフィド結合した構造を有していることが判明した。
【0049】
実施例3 ヒト血中由来の多量体アディポネクチンの分別精製(2)
参考例3の方法に準じて、再度調製された精製mAdを、20mM リン酸緩衝液(pH7.0)にて透析して脱塩した後、これをGelatin−Cellulofine(生化学工業社)カラムに吸着させ、0、100、200及び500mMのNaClをそれぞれ含む20mM リン酸緩衝液(pH7.0)にて、段階的に溶出させた。得られた100mM NaCl溶出画分には、ULMW−Ad、LMW−Ad及びMMW−Adが混在し、200mM NaCl溶出画分には、MMW−Ad及びHMW−Adが混在したが、500mM NaCl画分は、HMW−Adのみであったことから、500mM NaCl溶出画分を、HMW−Ad分別精製品とした。次に、上記参考例3の方法に準じて、Goatαhuman ALB antibody結合Sepharose4B樹脂を作製後、100mM NaCl溶出画分を添加し、非吸着画分及び吸着画分を得た。非吸着画分には、ULMW−Ad及びMMW−Adが混在していたが、吸着画分にはLMW−Adのみであったことから、これをLMW−Ad分別精製品とした。さらに、非吸着画分を濃縮し、Sephacryl S−300(分画分子量;10〜1500kDa、平均粒子径47μm、Amersham Bioscience社)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより、ULMW−Ad及びMMW−Adを分離した。得られたそれぞれの画分を、ULMW−Ad分別精製標品及びMMW−Ad分別精製品とした。
実施例1の分別精製で得られた情報を基に、さらに分別精製条件を改良した結果、この方法では、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adの3種以外に、もう1種(ULMW−Adとした)新たに分離された。
【0050】
前工程で得られた4種の多量体アディポネクチン分別精製品、ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adそれぞれを、非変性条件下、PAGE(2−15%)にて分離し、CBB蛋白染色を行なった。染色した泳動像を図6に示した。
【0051】
実施例4 ヒト血中由来の多量体アディポネクチン(ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Ad)の構造解析
1)SDS−PAGEによる解析
実施例3で得られた各多量体アディポネクチン分別精製品を、非還元条件でSDS−PAGE(2−15%)にて分離し、CBB蛋白染色を行なった。染色した泳動像を図7に示した。
【0052】
ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Adともに60kDa付近に、明確な染色バンドが認められた。当該染色バンドは、報告されているアディポネクチンの構造及び分子量から、2量体のアディポネクチンと推定された。LMW−Adについては、前記60kDa以外に、90kDa付近に、未同定の明確な染色バンドが認められた。又、ULMW−Adについては、2量体以外に1量体の染色バンドが認められたことから、3量体と推測された。尚、図7の泳動像から、LMW−Adの染色バンドが2本確認されるが、共にアルブミンが結合したアディポネクチンであることを確認している。
【0053】
2)分子内架橋による分子量の推定
実施例3で得られた各アディポネクチン多量体分別精製品を、100mMリン酸緩衝液(pH8.0)にて、5〜10μg/mL程度に希釈し、別に架橋剤であるBis(sulfosuccinimidyl)suberate(商品名BS3:PIERCE社製)を20mg/mLとなるように精製水で希釈した液と、等量混合後、室温にて30分間放置した。さらに、100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を混合液に等量添加し、室温で15分間放置した。これらの各処理液を非還元条件でSDS−PAGE(2−15%)にて分離し、セミドライブロッティングによりPVDF膜に転写後、免疫染色を行なった。手順は、転写膜を5% スキムミルク及び0.1% NaN3を含むPBSでブロッキング後、0.1% Tween 20を含むPBSで洗浄し、抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(hu Acrp30−MoAb)1μg/mLを室温で1時間反応させた。0.1% Tween 20を含むPBSで十分に洗浄した後、Vector ABC kit (Mouse) 及びDAB基質キットを用いて発色させた。
【0054】
その結果を図8に示した。分子量マーカーより分子量較正した結果、ULMW−Adは、約100kDa付近に染色バンドが認められ、報告されているアディポネクチンの構造及び分子量から、3量体であることが確認された。LMW−Adは、約150kDa付近に染色バンドが認められ、上記で得られたアルブミンが結合した3量体であることが、分子量からも確認された。MMW−Adは、250kDa付近に染色バンドが認められ、6又は9量体を形成しているものと推測された。HMW−Adは、非常に高分子位置に染色バンドが確認され、かなり分子量が大きく、少なくとも、300kDa以上はあるものと推測され、12量体又は18量体程度と推定されるが、正確な形態は不明である。
【0055】
実施例5 ヒト血清中のアディポネクチンのウェスタンブロッティング解析
健常者8名の血清0.2μL分を、PAGE(2−15%)にて分離し、セミドライブロッティングによりPVDF膜に転写後、免疫染色を行なった。手順は、転写膜を5%スキムミルク及び0.1%NaN3を含むPBS液(pH7.4)でブロッキング後、0.1%Tween20を含むPBS液(pH7.4)で洗浄し、抗アディポネクチン−モノクローナル抗体(hu Acrp30−MoAb;藤沢薬品工業社、BD Transduction Laboratories社)1μg/mLを室温で1時間反応させた。0.1%Tween20を含むPBS液(pH7.4)で十分に洗浄した後、Vector ABC kit (Mouse) 及びDAB基質キット(フナコシ社)を用いて発色させた。
【0056】
実施例1で調製したLMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Ad画分と同じ位置にメインバンドとして発色を認めたことから、この3種のアディポネクチンが血中に存在する主なものであることが判明した(図4)。
又、ULMW−Adについては、存在量が少ない為か不明であるが、ほとんど染色バンドが認められなかった(図4)。
【0057】
実施例6 アルブミン結合型アディポネクチンの測定(1)
ELISA用プレートにヤギ抗ヒトアディポネクチンポリクローナル抗体(Goatαhuman Acrp30 antibody)をELISA用抗体感作溶液で1μg/mLに希釈した後、感作した。ELISA用緩衝液でブロッキング後、実施例1で調製したLMW−AdをELISA用緩衝液で1、0.1、0.01μg/mL(Ad含量として)の濃度に希釈し室温で1時間反応させた。ELISA用緩衝液でプレートを洗浄後、ELISA用緩衝液で1/2000倍希釈した抗ヒトアルブミン−モノクローナル抗体(特開2001−337092)液を室温で1時間反応させた後、ELISA用緩衝液でプレートを洗浄、ELISA用緩衝液で1/1000倍希釈したヤギ抗マウス(Goatαmouse) IgG HRP標識抗体液を室温で1時間反応させた。ELISA用緩衝液でプレートを洗浄後、TMB(テトラメチルベンチジン)と過酸化水素の基質を用いたHRPの酵素反応により発色させ、2N硫酸を添加して反応を停止させた後、450nmの吸収を測定した。測定結果を図5に示す。
【0058】
濃度依存的な吸光度の増加が観察され、サンドイッチ免疫測定法が成立したことより、LMW−Adは、アディポネクチンにアルブミンが結合したもの(アルブミン結合型アディポネクチン)であることがわかった。また、本実施例の方法によりLMW−Adを分別測定できることもわかった。
【0059】
実施例7 アルブミン結合型アディポネクチンの測定(2)
(1)希釈直線性
ELISA用プレートに、ELISA用抗体感作溶液で5μg/mLに希釈した抗アディポネクチンモノクローナル抗体(64402)を、感作した。次に、20%ヤギ血清を含むELISA用緩衝液でブロッキング後、実施例3で調製したLMW−Ad精製品をELISA用緩衝液で0〜20ng/mL(Ad含量として)の濃度範囲に希釈し、に希釈し室温で1時間反応させた。ELISA用洗浄液でプレートを洗浄後、ELISA用緩衝液で1000倍希釈したHRP標識ヤギ抗ヒトアルブミン(HRP−Gt抗HSA)抗体液を室温で1時間反応させた後、ELISA用洗浄液でプレートを洗浄し、OPD発色液(2mg/mL オルトフェニレンジアミン塩酸塩、0.02% 過酸化水素を含む、250mMクエン酸緩衝液、pH5.0)により発色させ、停止液(1.5N 硫酸、1mM EDTA−2Na)を添加して反応を停止させた後、492nmの吸収を測定した。測定結果を図9に示す。
【0060】
濃度依存的な吸光度の増加が観察され、サンドイッチ免疫測定法が成立したことより、LMW−Adは、アディポネクチンにアルブミンが結合したもの(アルブミン結合型アディポネクチン)であることが再度確認された。
【0061】
(2)添加回収試験
人血清を、ELISA用緩衝液2で100〜800倍希釈したものに、実施例3で調製したLMW−Ad精製品を0〜50ng/mLの濃度範囲で添加し、前記(1)と同様のELISA系にて測定後、添加量と実測値からの回収率を求めた。その結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
いずれの場合も、良好な回収率が得られ、本実施例の方法によりLMW−Adを分別測定できることもわかった。
【0064】
実施例8 プロテアーゼ処理(1)
50mMリン酸緩衝液(pH8.0)に、参考例3で得た精製mAd及び各種市販プロテアーゼを添加し、37℃で60分間加温した。その処理液をPAGE(2−15%)にて分離し、プロテアーゼ非添加試料を対照として、各画分への作用を、CBB蛋白染色像にて比較した(表2)。
【0065】
処理条件1〜2に使用のプロテアーゼ処理では、LMW−Ad画分は消失するが、MMW−Ad及びHMW−Adは残存することが確認された。さらに、明確な変換物は確認されなかった。一方、処理条件3〜4に使用のプロテアーゼ処理では、LMW−Adは消失し、MMW−Ad画分及びHMW−Adは残存することが確認され、さらに、低分子量領域にLMW−Ad由来の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。さらに、処理条件5〜6に使用のプロテアーゼ処理では、LMW−Ad及びMMW−Ad画分は消失し、HMW−Adは残存することが確認され、さらに、低分子量領域にLMW−Ad由来の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。これら変換物のPAGE(2−15%)での染色バンドの検出位置は、用いるプロテアーゼにより、若干異なる場合があるものの、30−42kDaの範囲で検出された。この結果より、処理条件1及び2での処理により、MMW−Ad及びHMW−Adの総量、処理条件3及び4での処理により、LMW−Adのみ又はMMW−Ad及びHMW−Adの総量、処理条件5及び6での処理により、HMW−Adのみ又はMMW−Ad及びHMW−Adの総量を測定可能となることがわかった。
【0066】
【表2】
【0067】
実施例9 プロテアーゼ処理(2)
50mM リン酸緩衝液(pH8.0)に、実施例3で解析された精製mAd及び各種市販プロテアーゼを1mg/mLとなるように添加し、37℃で30分間加温した。その処理液をPAGE(2−15%)にて分離し、プロテアーゼ非添加試料を対照として、各画分へのプロテアーゼの作用を、CBB蛋白染色像にて比較した(表3)。
【0068】
処理条件7〜9に使用のプロテアーゼ処理では、ULMW−Ad及びLMW−Ad画分は消失するが、MMW−Ad及びHMW−Adは残存することが確認された。さらに、低分子量領域にULMW−Ad及びLMW−Ad由来の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。さらに、処理条件10〜12に使用のプロテアーゼ処理では、ULMW−Ad及びLMW−Ad及びMMW−Ad画分は消失し、HMW−Adは残存することが確認され、さらに、低分子量領域にULMW−Ad、LMW−Ad及びMMW−Ad由来の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。これら変換物のPAGE(2−15%)での染色バンドの検出位置は、用いるプロテアーゼにより、若干異なる場合があるものの、30−40kDa付近で検出された。この結果より、処理条件7〜9で使用のプロテアーゼを用いることにより、残存するMMW−Ad及びHMW−Adの総量若しくは、新たに生成するAd変換生成物を測定することにより、ULMW−Ad及びLMW−Adの総量の分別測定が可能となることがわかった。又、処理条件10〜12で使用のプロテアーゼを用いることにより、残存するHMW−Ad量、若しくはULMW−Ad、LMW−Ad及びMMW−Adの総量も分別測定が可能である。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例10 HMW−Adの測定用のプロテアーゼ処理
参考例3で得られた、抗体結合樹脂非吸着画分(以下、「Ad除去血漿」という)に、実施例3で得られた各アディポネクチン多量体分別精製品を、最終濃度で10μg/mL程度となるように添加したものを検討用試料とした。又、50mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、プロテイナーゼKを5〜10u/mLとなるように溶解したものを前処理用酵素液とした。各検討用試料10μLに前処理用酵素液90μLを加え、37℃で10〜30分間反応させた後、100mM クエン酸緩衝液(pH3.0、2% SDS含有)を400μL加え、酵素反応(前処理)を停止させた。この反応液20μLに、ELISA用緩衝液2を1.0mL添加して希釈し、前処理済み試料とした。この前処理済み試料を用いて、後述するアディポネクチン測定用ELISA系にて、残存するアディポネクチン含量を算出した。
【0071】
実施例11 MMW−Ad及びHMW−Ad合計量測定用のプロテアーゼ処理
実施例10と同様に、Ad除去血漿に、実施例3で得られた各アディポネクチン多量体分別精製品を、最終濃度で10μg/mL程度となるように添加したものを検討用試料とした。又、50 mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、プロテアーゼA「アマノ」を0.6〜1.0mg/mLとなるように溶解したものを前処理用酵素液とした。各検討用試料10μLに前処理用酵素液90μLを加え、37℃で10〜30分間反応させた後、100mM クエン酸緩衝液(pH3.0、2% SDS含有)を400μL加え、酵素反応(前処理)を停止させた。この反応液20μLに、ELISA用緩衝液2を1.0mL添加して希釈し、前処理済み試料とした。この前処理済み試料を用いて、後述するアディポネクチン測定用ELISA系にて、残存するアディポネクチン含量を算出した。
【0072】
実施例12 アディポネクチン総量測定用試料の調製
生体試料に、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤及びプロテアーゼの内の少なくともひとつを加え、アディポネクチンに作用させ、多量体アディポネクチンを一定の形態に変換させて免疫学的に測定する本発明者らの開発した方法(特願2003−354715を優先権主張してなされた国際出願)から、酸と界面活性剤で前処理する方法を使用した。すなわち、人血漿又は人血清10μLに、100mM クエン酸緩衝液(pH3.0、2%SDS含有)を490μL加え十分に攪拌し、当該混液20μLに、ELISA用緩衝液2を1.0mL添加して希釈し、前処理済み試料として。この前処理済み試料を用いて、後述するアディポネクチン測定用ELISA系にて、アディポネクチン総量を算出した。
【0073】
実施例13 アディポネクチン測定用ELISA系
ELISA用プレートにPBSで5μg/mLに希釈した抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64405)を感作した。次に、ELISA用緩衝液2でブロッキング後、実施例10又は11で調製された各前処理済み試料を添加し、室温で1時間反応させた。ELISA用洗浄液でプレートを洗浄後、ELISA用緩衝液2で2000倍希釈したBiotin標識抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64404)を室温で1時間反応させた後、さらに、ELISA用緩衝液2で2000倍希釈したHRP−Avidinを添加し、室温で30分間反応させた。ELISA用洗浄液でプレートを洗浄し、OPD発色液(2mg/mLオルトフェニレンジアミン塩酸塩、0.02%過酸化水素を含む、250mMクエン酸緩衝液、pH5.0)により発色させ、停止液(1.5N硫酸、1mM EDTA−2Na)を添加して反応を停止させた後、492nmの吸収を測定した。前処理用酵素液90μLと100mM クエン酸緩衝液(pH3.0、2% SDS含有)400μLの混液に検討用試料10μLを加えたものを標準試料として同様にELISA測定を行い、得られた発色値を100%として、実施例10及び11の各検討試料の発色値を%換算した。換算された%発色値を各条件毎に平均し、実施例10の試料について図10、実施例11の試料について図11に示した。
【0074】
図10の結果から、プロテイナーゼKによるプロテアーゼ処理により、血漿中のHMW−Ad以外の多量体Adが消化され、HMW−Adが特異的に測定できることが判明した。又、図11の結果から、プロテアーゼA「アマノ」によるプロテアーゼ処理により、血漿中のMMW−Ad及びHMW−Ad以外の多量体Adが消化され、MMW−Ad及びHMW−Adの合計量が特異的に測定できることが判明した。MMW−Adの濃度については、MMW−Ad及びHMW−Adの合計量から、HMW−Adの濃度を差し引くことで、算出することが可能である。
【0075】
以上の事実より、実施例12の前処理を行ったのち試料中のアディポネクチン総量を測定し、実施例6又は7の方法で求められるLMW−Ad濃度及び実施例11及び13の方法で求められるMMW−Ad及びHMW−Adの合計量を、アディポネクチン総量から差し引くことにより、ULMW−Ad濃度も算出することが可能であることも分かる。これらのことから、人血中に存在する4種の多量体Adの総量及び分別測定は、可能となった。
【0076】
実施例14 動脈硬化性疾患との関係
インスリン治療を行っていない2型糖尿病患者298名中、冠動脈造影検査(CAG)により器質的病変を認めた90名を冠動脈疾患(CAD)群、残りの208名を非冠動脈疾患(NCAD)群に分け、前記実施例で挙げた方法を用いて、患者血漿中の総アディポネクチン(T.Ad)含量測定及び各多量体アディポネクチンの分別測定を実施した。即ち、T.Ad含量は実施例12及び13の方法、HMW−Ad含量は実施例10及び13の方法、MMW−Ad含量は実施例11及び13の方法でMMW−Ad及びHMW−Ad合計量を算出し、さらにHMW−Ad含量を差し引くことで求めた。ULMW−Ad及びLMW−Adの合計量は、T.Ad含量からMMW−Ad及びHMW−Ad合計量を差し引くことによって求めた。求められたそれぞれの値で、CAD群及びNCAD群間の有意差検定を、t検定を用いて行った。
【0077】
その結果を表4に示す。T.Ad含量では、CAD群とNCAD群間で、有意差は認められなかったが、HMW−Ad含量では、有意差を認め(p<0.05)。さらに、T.Ad含量に対するHMW−Ad含量比(%)でも、明確な有意差を認めた(p<0.0001)。この結果から、T.Ad含量よりも、HMW−Ad含量や特にそのT.Ad含量に占める割合(%)が、CADを正確に反映することが示された。
【0078】
【表4】
【0079】
実施例15 メタボリックシンドロームとの関係
実施例14で挙げた298名について、総アディポネクチン量(T.Ad)及びT.Ad量に占めるHMW−Ad量の割合、すなわちHMW−Ad/T.Ad×100%(HMW−R)を基に、次に示す基準で、4群に分類した。まず、T.Adの平均値及びHMW−Rの平均値をそれぞれ算出した結果、それぞれ9.8μg/mL及び32%であった。次にT.Ad値及びHMW−R値がともに平均値未満の患者をA群、T.Ad値が平均値未満で、HMW−R値が平均値以上である患者をB群、T.Ad値が平均値以上で、HMW−R値が平均値未満である患者をC群及びT.Ad値及びHMW−Ad値がともに平均値以上である患者をD群に分類した。さらに、各群内において、米国のAdult Treatment Panel III(ATPIII)によって提唱されているメタボリックシンドロームの診断基準(JAMA,285:2486,2001)に照らし合わせ、5項目のリスクファクターの内、2項目以上基準値を超える患者と2項目未満の患者の2グループに分けた(本来、ATPIIIの診断基準では、3項目以上基準値を超える場合をメタボリックシンドロームとしているが、今回はより厳しい条件とした)。その結果を、表5に示す。
【0080】
「メタボリックシンドローム診断基準項目数とT.Ad値及びHMW−R値には統計学的に有意な関係がある」ことがクラスカル・ワーリス検定の結果、判明した(p値=0.001)。さらに、HMW−R値が平均値以下であるA群及びC群において、メタボリックシンドローム診断基準項目数が2項目以上である患者割合が多いことが判明した。この結果は、T.Ad値に比較して、HMW−R値の方が、メタボリックシンドロームとの関係を表す上でより好適な指標となることを示している。即ち、HMW−R値を測定し、メタボリックシンドロームの指標として用いる事がメタボリックシンドロームの予知や予防にとって有効であることを、今回初めて見出した。
【0081】
【表5】
【0082】
以上の結果から、総アディポネクチン含量を指標としただけでは、疾病や病態の評価が出来ない場合においても、多量体Adの特定の画分を測定することや総アディポネクチン含量に占める特定の画分の割合を見ることによって、疾病の予知や予防、病態の把握が可能となることが判った。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の多量体アディポネクチンを、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定することを特徴とする、生体試料中の多量体アディポネクチンの分別測定方法。
【請求項2】
プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別する方法が、分別して測定する対象以外のアディポネクチンにプロテアーゼを作用させ、残存する測定対象のアディポネクチンを免疫学的に測定することを特徴とする、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別する方法が、分別して測定する対象のアディポネクチンにプロテアーゼを作用させ、その消化産物を免疫学的に測定することを特徴とする、請求項1に記載の測定方法。
【請求項4】
多量体アディポネクチンが、人血中由来である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
人血中由来多量体アディポネクチンが下記の4種であり、その内の1種又は2種を、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分別測定方法。
(1)ULMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、最も移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が100kDa付近にあるアディポネクチン。
(2)LMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、ULMW−Adの次に移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が150kDa付近にあり、さらにアルブミンがジスルフィド結合しているアディポネクチン。
(3)MMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、LMW−Adの次に移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が250kDa付近にあるアディポネクチン。
(4)HMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、最も移動度が小さく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が少なくとも300kDa以上であるアディポネクチン。
【請求項6】
抗体が、抗アルブミン抗体及び/又は抗アディポネクチン抗体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
分別して測定する対象が、ULMW−Ad及び/又はLMW−Adである、請求項5又は6に記載の測定方法。
【請求項8】
分別して測定する対象が、MMW−Ad、HMW−Ad、又は該2種の組合わせである、請求項5又は6に記載の測定方法。
【請求項9】
分別して測定する対象がHMW−Adであって、分別して測定するための手段が、HMW−Ad以外の3種のアディポネクチンにプロテアーゼを作用させることである、請求項5、6又は8に記載の測定方法。
【請求項10】
HMW−Adの測定に先立って、HMW−Ad以外の3種のアディポネクチンにプロテアーゼを作用させる、請求項5、6、8又は9に記載の測定方法。
【請求項11】
分別して測定する対象がMMW−Adであって、分別して測定する手段が、ULMW−Ad及びLMW−Adをプロテアーゼ処理し、残存するHMW−Ad量及びMMW−Ad量の合計量を算出し、該合計量からさらにHMW−Ad量を差し引くことで算出する、請求項5、6又は8に記載の測定方法。
【請求項12】
分別して測定する対象がLMW−Adであって、分別して測定する手段が、抗アルブミン抗体及び抗アディポネクチン抗体を組合わせる、請求項5〜7のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項13】
分別して測定する対象がULMW−Adであって、分別して測定する手段が、ULMW−Ad及びLMW−Adをプロテアーゼ処理し、残存するHMW−Ad量及びMMW−Ad量の合計量を算出し、別に測定したアディポネクチン総量から、該合計量及びLMW−Ad量を差し引くことで算出する、請求項5〜7のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項14】
人血中由来多量体アディポネクチンが下記の4種であり、その内の1種又は2種を、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定し、その結果を基に、疾病又は病態に関する情報を得ることを特徴とする、疾病又は病態の評価方法。
(1)ULMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、最も移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が100kDa付近にあるアディポネクチン。
(2)LMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、ULMW−Adの次に移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が150kDa付近にあり、さらにアルブミンがジスルフィド結合しているアディポネクチン。
(3)MMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、LMW−Adの次に移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が250kDa付近にあるアディポネクチン。
(4)HMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、最も移動度が小さく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が少なくとも300kDa以上であるアディポネクチン。
【請求項15】
ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adのうちの1種以上の量の変動により評価を行うものである、請求項14に記載の評価方法。
【請求項16】
ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Ad及びアディポネクチン総量のうちの少なくとも2つの量の比を求めて評価を行うものである、請求項14に記載の評価方法。
【請求項17】
他の指標とULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adのうちの1種以上の量、あるいはULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Ad及びアディポネクチン総量のうちの少なくとも2つの量の比を関連付けることにより評価を行うものである、請求項14に記載の評価方法。
【請求項18】
疾病又は病態が、2型糖尿病、動脈硬化性疾患、腎疾患、肝疾患又は肥満症、メタボリックシンドロームである、請求項14に記載の評価方法。
【請求項19】
2型糖尿病、動脈硬化性疾患、腎疾患、肝疾患又は肥満症、メタボリックシンドロームの発症、診断、進展、予知及び治療効果を評価する、請求項14に記載の評価方法。
【請求項1】
測定対象の多量体アディポネクチンを、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定することを特徴とする、生体試料中の多量体アディポネクチンの分別測定方法。
【請求項2】
プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別する方法が、分別して測定する対象以外のアディポネクチンにプロテアーゼを作用させ、残存する測定対象のアディポネクチンを免疫学的に測定することを特徴とする、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別する方法が、分別して測定する対象のアディポネクチンにプロテアーゼを作用させ、その消化産物を免疫学的に測定することを特徴とする、請求項1に記載の測定方法。
【請求項4】
多量体アディポネクチンが、人血中由来である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
人血中由来多量体アディポネクチンが下記の4種であり、その内の1種又は2種を、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分別測定方法。
(1)ULMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、最も移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が100kDa付近にあるアディポネクチン。
(2)LMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、ULMW−Adの次に移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が150kDa付近にあり、さらにアルブミンがジスルフィド結合しているアディポネクチン。
(3)MMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、LMW−Adの次に移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が250kDa付近にあるアディポネクチン。
(4)HMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、最も移動度が小さく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が少なくとも300kDa以上であるアディポネクチン。
【請求項6】
抗体が、抗アルブミン抗体及び/又は抗アディポネクチン抗体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
分別して測定する対象が、ULMW−Ad及び/又はLMW−Adである、請求項5又は6に記載の測定方法。
【請求項8】
分別して測定する対象が、MMW−Ad、HMW−Ad、又は該2種の組合わせである、請求項5又は6に記載の測定方法。
【請求項9】
分別して測定する対象がHMW−Adであって、分別して測定するための手段が、HMW−Ad以外の3種のアディポネクチンにプロテアーゼを作用させることである、請求項5、6又は8に記載の測定方法。
【請求項10】
HMW−Adの測定に先立って、HMW−Ad以外の3種のアディポネクチンにプロテアーゼを作用させる、請求項5、6、8又は9に記載の測定方法。
【請求項11】
分別して測定する対象がMMW−Adであって、分別して測定する手段が、ULMW−Ad及びLMW−Adをプロテアーゼ処理し、残存するHMW−Ad量及びMMW−Ad量の合計量を算出し、該合計量からさらにHMW−Ad量を差し引くことで算出する、請求項5、6又は8に記載の測定方法。
【請求項12】
分別して測定する対象がLMW−Adであって、分別して測定する手段が、抗アルブミン抗体及び抗アディポネクチン抗体を組合わせる、請求項5〜7のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項13】
分別して測定する対象がULMW−Adであって、分別して測定する手段が、ULMW−Ad及びLMW−Adをプロテアーゼ処理し、残存するHMW−Ad量及びMMW−Ad量の合計量を算出し、別に測定したアディポネクチン総量から、該合計量及びLMW−Ad量を差し引くことで算出する、請求項5〜7のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項14】
人血中由来多量体アディポネクチンが下記の4種であり、その内の1種又は2種を、プロテアーゼ及び/又は抗体を使用して、他のアディポネクチンと分別して免疫学的に測定し、その結果を基に、疾病又は病態に関する情報を得ることを特徴とする、疾病又は病態の評価方法。
(1)ULMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、最も移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が100kDa付近にあるアディポネクチン。
(2)LMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、ULMW−Adの次に移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が150kDa付近にあり、さらにアルブミンがジスルフィド結合しているアディポネクチン。
(3)MMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、LMW−Adの次に移動度が大きく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が250kDa付近にあるアディポネクチン。
(4)HMW−Ad:人血清又は人血漿から精製したアディポネクチンを、非変性条件下、ポリアクリルアミドゲル(2−15%)で電気泳動した際に、主要な染色バンドとして検出される4種のバンドのうち、最も移動度が小さく、さらに、分子内架橋後のSDS−PAGEによる分子量が少なくとも300kDa以上であるアディポネクチン。
【請求項15】
ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adのうちの1種以上の量の変動により評価を行うものである、請求項14に記載の評価方法。
【請求項16】
ULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Ad及びアディポネクチン総量のうちの少なくとも2つの量の比を求めて評価を行うものである、請求項14に記載の評価方法。
【請求項17】
他の指標とULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad及びHMW−Adのうちの1種以上の量、あるいはULMW−Ad、LMW−Ad、MMW−Ad、HMW−Ad及びアディポネクチン総量のうちの少なくとも2つの量の比を関連付けることにより評価を行うものである、請求項14に記載の評価方法。
【請求項18】
疾病又は病態が、2型糖尿病、動脈硬化性疾患、腎疾患、肝疾患又は肥満症、メタボリックシンドロームである、請求項14に記載の評価方法。
【請求項19】
2型糖尿病、動脈硬化性疾患、腎疾患、肝疾患又は肥満症、メタボリックシンドロームの発症、診断、進展、予知及び治療効果を評価する、請求項14に記載の評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【図8】
【国際公開番号】WO2005/038457
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514796(P2005−514796)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015260
【国際出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(390037327)第一化学薬品株式会社 (111)
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/015260
【国際出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(390037327)第一化学薬品株式会社 (111)
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
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