説明

大型モールドコイル含浸用樹脂組成物、及びそれを用いた大型モールドコイル

【課題】超寿命であって、モールドの際の樹脂たれを防止し、さらに大型コイルをモールドする際に、大型コイルに対する電流の流入に起因した加熱及び電流の停止に起因した冷却による熱サイクルによって、クラックが発生し、剥離することがない、モールド性に優れた大型モールドコイル含浸用樹脂組成物、及びこれを用いた大型モールドコイルを提供する。
【解決方法】30質量部〜70質量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂及び70質量部〜30質量部の可撓性エポキシ樹脂からなる樹脂成分と、酸無水物硬化剤と、粒度分布に関係したロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配が1.5〜2.0である結晶性シリカとを具えるようにして大型モールドコイル含浸用樹脂組成物を調整する。大型モールドコイルは、前記含浸樹脂組成物を大型コイルに含浸させることによって得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型モールドコイル含浸用樹脂組成物、及びそれを用いた大型モールドコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
高圧大型回転機用のコイル含浸用樹脂組成物としては、一般的にエポキシ樹脂組成物が使用されており、集成マイカテープを巻き回した絶縁コイルに真空含浸されている。その後加熱硬化、成形加工されて回転機のステータ用鉄心に装着されている。
【0003】
上述のようなエポキシ樹脂組成物を上記絶縁コイルに含浸させるには、例えば本体含浸方式によってコイルをステータに装着した後、コイルをステータごとエポキシ樹脂組成物が入れられた含浸タンク中に浸漬して含浸させる。一方、コイルを含浸させた後においては、含浸タンク中にエポキシ樹脂組成物が残存するようになる。このエポキシ樹脂組成物は、次回の含浸時に不足分の樹脂を加えて再使用することとなるので、使用しきるまで長時間を要する。
【0004】
このような含浸用樹脂組成物の使用の観点を考慮すると、含浸用樹脂組成物はできるだけ経時変化が少なく、非加熱の状態で増粘しにくいものであることが要求される。
【0005】
一方、コイル含浸を終了したコイル中の含浸樹脂組成物は、硬化加熱したときにはコイル中でできるだけ早くゲル化して硬化しなければならない。樹脂粘度は加熱によって下がるので、加熱して早急に硬化しないと樹脂がたれ落ちてしまう。
【0006】
このような観点から、硬化触媒としてアミンやイミダゾール等が用いられているが、これらの触媒は、室温においてもエポキシ樹脂組成物との反応が少なからず進行しており、上述のような貯蔵寿命に影響を与えている。
【0007】
また、エポキシ樹脂組成物は空気中の水分を吸収しやすい点も増粘に影響している。したがって、これらの欠点を除き、長寿命で耐熱性を損なわない安価な樹脂が求められている。
【0008】
このような観点から、エポキシ樹脂組成物に代わる新規な含浸用樹脂組成物の開発が盛んになされている。例えば、特許文献1には、ポリエステル樹脂20〜50質量部、エポキシ樹脂1〜25質量部、ポリイミド樹脂1〜15質量部を含む含浸用樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含有する混合樹脂に対して、エポキシアクリレートを添加してなる含浸用樹脂組成物が開示されている。
【0009】
しかしながら、上述のような含浸用樹脂組成物は、ポリエステル樹脂を含んでいるため、特に熱伝導性に劣る。一方、上記含浸用樹脂組成物を含浸させた後の大型のコイルにおいては、使用時にコイルに対して大電流が流されるようになる。このような大電流の印加が繰り返し行われるようになると、電流の印加及び停止という繰り返しの作業によって、含浸させた樹脂組成物に対して熱サイクルに伴う熱応力が作用するようになる。この結果、樹脂組成物においてクラックが発生し、剥離してしまうなどの問題が生じ、上記大型のコイルに対するモールド性が劣化してしまうという問題を生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3141057号
【特許文献2】特開2005−263855号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、超寿命であって、モールドの際の樹脂たれを防止し、さらに大型コイルをモールドする際に、大型コイルに対する電流の流入に起因した加熱及び電流の停止に起因した冷却による熱サイクルによって、クラックが発生し、剥離することがない、モールド性に優れた大型モールドコイル含浸用樹脂組成物、及びこれを用いた大型モールドコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく、本発明は、
30質量部〜70質量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂及び70質量部〜30質量部の可撓性エポキシ樹脂からなる樹脂成分と、酸無水物硬化剤と、粒度分布に関係したロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配が1.5〜2.0である結晶性シリカとを具えることを特徴とする、大型モールドコイル含浸用樹脂組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、上記大型コイル含浸用樹脂組成物によって含浸されたことを特徴とする、大型モールドコイルに関する。
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべき鋭意検討を実施した。その結果、エポキシ樹脂がポリエステル樹脂等に比較して熱伝導率が高いことに着目し、このエポキシ樹脂に種々の工夫を加えることで上記課題の解決を試み、以下のような事実を見出すに至った。すなわち、エポキシ樹脂をビスフェノールA型エポキシ樹脂及び可撓性エポキシ樹脂の混合物とすることによって、硬化剤としての酸無水物によって前記混合物を比較的短時間で硬化させることができ、モールドの際に樹脂たれを抑制することができる。
【0015】
なお、上記樹脂成分において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の含有割合は30質量部〜70質量部であることが必要であり、可撓性エポキシ樹脂の含有割合は70質量部〜30質量部であることが必要である。特に、可撓性エポキシ樹脂の含有割合が70質量部を超えると硬化時間が長くなり、硬化物のガラス転移温度(Tg)が低くなって、耐熱性が劣る結果となる。30質量部未満ではコイル中にクラックが発生しやすくなる。
【0016】
また、アミンやイミダゾール等の硬化触媒を用いないので、貯蔵時に硬化するようなことがなく、上記含浸用樹脂組成物の貯蔵時における長寿命化を図ることができる。
【0017】
さらに、上述したように、エポキシ系樹脂は比較的熱導電率が高く、また可撓性に優れているので、大型コイルに電流が流入した際に熱サイクルを受けても、熱を比較的容易に外部に発散させることができる。この結果、含浸用樹脂組成物において熱応力が発生しにくくなり、クラックの発生や剥離を防止することができ、モールド性に優れた大型モールドコイル含浸用樹脂組成物を提供することができる。
【0018】
また、可撓性エポキシ樹脂を含んでいることによって、熱サイクルを受けた際にも、熱に応じて比較的容易に変形することができるので、熱応力が緩和される。したがって、この点からも、含浸用樹脂組成物において熱応力が発生しにくくなり、クラックの発生や剥離を防止することができ、モールド性に優れた大型モールドコイル含浸用樹脂組成物を提供することができる。
【0019】
一方、熱硬化性樹脂のみから含浸用樹脂組成物を構成した場合、強度的に不十分となる。しかしながら、本発明においては、上述した熱硬化性樹脂に対して無機充填材としての結晶性シリカを含有させるようにしているので、上述した問題を回避することができる。また、結晶性シリカは、溶融シリカに比較して熱伝導性が優れるので、含浸用樹脂組成物全体の熱伝導性の向上に寄与するようになる。
【0020】
また、結晶性シリカは、ロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配が1.5〜2.0の範囲である。結晶性シリカが、かかる要件を満足することにより、結晶性シリカの粒度分布が十分に狭小化されるようになるので、目的に応じて選択した結晶性シリカの大きさに起因する高熱伝導性を安定的に呈することができるようになる。
【0021】
ロジンラムラープロットの式は、
R(Dp)=100exp(−bDp)
(式中、R(Dp)は最大粒径から粒径Dpまでの累積重量%、Dpは粒径、b及びnは定数である)で表され、上記勾配とは、上式に基づいた最大粒径からの累積重量%が25重量%と75重量%との2点を結ぶ線の勾配を意味する。
【0022】
本発明の一例において、前記樹脂成分100質量部に対して、前記酸無水物硬化剤が80質量部〜120質量部、前記結晶性シリカが200質量部〜350質量部の割合とすることができる。これによって、上述した本発明の作用効果をより効果的に奏することができるようになる。
【0023】
また、本発明の一例において、上記含浸用樹脂組成物は、例えば上記樹脂成分100質量部に対して、5質量部〜30質量部の割合で水酸化アルミニウムを具えることができる。水酸化アルミニウムは、結晶性シリカ同様に、含浸用樹脂組成物の強度向上と熱伝導性向上に寄与し、かつ難燃性を与える。なお、水酸化アルミニウムの大きさは、例えば平均粒子径で0.3μm〜2μmとする。
【0024】
なお、本発明における“大型コイル”及び“大型モールドコイル”とは、コイル芯の外周周りに導線を巻回した状態のコイル構造体、さらには含浸用樹脂組成物を含浸させて得たコイル構造体の直径が50cm以上の大きさのものを意味する。
【発明の効果】
【0025】
以上より、本発明によれば、超寿命であって、モールドの際の樹脂たれを防止し、さらに大型コイルをモールドする際に、大型コイルに対する電流の流入に起因した加熱及び電流の停止に起因した冷却による熱サイクルによって、クラックが発生し、剥離することがない、モールド性に優れた大型モールドコイル含浸用樹脂組成物、及びこれを用いた大型モールドコイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態におけるコイル部品の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のその他の特徴及び利点について、発明を実施するための形態に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1は、本実施形態における大型モールドコイルの概略構成を示す斜視図である。
図1に示すように、本実施形態の大型モールドコイル10は、コイル芯11の外周周りに電気的良導体、例えば銅、銀、金、アルミニウムなどの金属からなる導線12が巻回されるとともに、以下に説明する含浸用樹脂組成物13によって導線12がモールドされている。なお、モールドは、真空含浸等の公知の方法を用いて行うことができる。
【0029】
なお、コイル芯11の略中央部には開口部11Aが形成されている。開口部11Aは、主としてコイル芯11を所定の巻回装置に取り付けて巻回させることにより、導線12を図1に示すようにコイル芯11の外周周りに巻回させるためのものである。さらに、コイル芯11の軽量化を図ることができるとともに、用途によっては開口部11Aを介して所定の機器に取り付けるようにすることもできる。
【0030】
このようにコイル芯11は所定の装置に取り付けられて機械的に扱われることから、例えばナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等のポリエステル、ポリメチルメタクリル酸樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂等、軽量かつ高強度の樹脂から構成することが好ましい。
【0031】
また、コイル芯11は、導線12を巻回する本体部111と、両端において本体部111より外方に突出した庇部112とを有している。庇部112は、巻回した導線12が、コイル芯11の外方へ巻き崩れてしまうのを防止するために設けられているものである。なお、図1から明らかなように、本実施形態では、含浸用樹脂組成物13によるモールドがコイル芯11の庇部112の突出部分の高さと同程度となるようにしている。これは、コイル芯11の庇部112及びモールドされた含浸用樹脂組成物13のいずれか一方が突出して機械的応力を受けた際に破損するのを防止するためである。
【0032】
含浸用樹脂組成物13は、30質量部〜70質量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂及び70質量部〜30質量部の可撓性エポキシ樹脂からなる樹脂成分と、酸無水物硬化剤と、粒度分布に関係したロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配が1.5〜2.0である結晶性シリカとを含む。含浸用樹脂組成物13が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び可撓性エポキシ樹脂を、上記の割合で含有することによって、硬化剤としての酸無水物によって比較的短時間で硬化させることができ、モールドの際に樹脂たれを抑制することができる。
【0033】
また、アミンやイミダゾール等の硬化触媒を用いないので、貯蔵時に硬化するようなことがなく、含浸用樹脂組成物13の貯蔵時における長寿命化を図ることができる。
【0034】
さらに、含浸用樹脂組成物13はエポキシ系の樹脂成分を含むので比較的熱導電率が高く、また可撓性に優れているので、図1に示すように、モールド後に、大型コイルに電流が流入した際の熱サイクルを受けても、熱を比較的容易に外部に発散させることができる。この結果、含浸用樹脂組成物13において熱応力が発生しにくくなり、クラックの発生や剥離を防止することができる。
【0035】
また、可撓性エポキシ樹脂を含んでいることによって、熱サイクルを受けた際にも、熱に応じて比較的容易に変形することができるので、熱応力が緩和されるようになる。したがって、この点からも、含浸用樹脂組成物13において熱応力が発生しにくくなり、クラックの発生や剥離を防止することができ、良好なモールド特性を得ることができる。
【0036】
さらに、含浸用樹脂組成物13は、無機充填材としての結晶性シリカを含有するようにしているので、上述した問題を回避することができる。また、結晶性シリカは、高い熱伝導性を呈するので、含浸用樹脂組成物13全体の熱伝導性の向上に寄与するようになる。したがって、モールド後の含浸用樹脂組成物13における熱応力の発生をより効果的に抑制することが可能となり、クラックの発生や剥離を防止することができ、良好なモールド特性を得ることができる。
【0037】
また、結晶性シリカは、ロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配が1.5〜2.0の範囲であるので、結晶性シリカの粒度分布が十分に狭小化され、目的に応じて選択した結晶性シリカの大きさに起因する高熱伝導性を安定的に呈することができるようになる。
【0038】
なお、結晶性シリカの大きさは、平均粒子径が2μm〜12μmの範囲とすることができる。特には、平均粒子径が1μm〜3μmの範囲にあるものと、平均粒子径が5μm〜20μmの範囲にあるものとの2種類を混合して用いることができる。この場合、前者の平均粒子径の結晶性シリカは、主として含浸用樹脂組成物13の機械的特性の改善に効果があり、後者の平均粒子径の結晶性シリカは比較的大きいので、主として含浸用樹脂組成物13の高熱伝導性に寄与する。
【0039】
また、含浸用樹脂組成物13における樹脂成分100質量部に対して、酸無水物硬化剤が80質量部〜120質量部、結晶性シリカが200質量部〜350質量部の割合とすることができる。これによって、上述した本発明の作用効果をより効果的に奏することができるようになる。
【0040】
さらに、含浸用樹脂組成物13は、例えば上記樹脂成分100質量部に対して、5質量部〜30質量部の割合で水酸化アルミニウムを具えることができる。水酸化アルミニウムは、結晶性シリカ同様に、含浸用樹脂組成物13の強度向上と熱伝導性向上に寄与する。なお、水酸化アルミニウムの大きさは、例えば平均粒子径で0.3μm〜2μmとする。
【0041】
なお、結晶性シリカ及び/又は水酸化アルミニウムは、樹脂成分との密着性を向上させる観点から表面処理することができる。表面処理剤としては、例えば有機シラン化合物、有機チタネート化合物、または有機アルミネート化合物が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0042】
有機シラン化合物としては、例えばビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタアクリロキシプロピルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0043】
有機チタネート化合物としては、例えばテトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラステアリルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセトネート、チタニウムラクチート、オクチレングリコールチタネート、イソプロピル(N−アミノエチルアミノエチル)チタネート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。また、有機アルミネート化合物としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピネート等が挙げられる。
【0044】
また、含浸用樹脂組成物13には、上述した樹脂成分等に加えて、かつ本発明の趣旨に反しない限度において、その他の成分、例えば、シランカップリング剤、消泡剤、着色剤、硬化促進剤、離型剤、形状維持剤等を含有させることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
含浸用樹脂組成物の調整
(実施例1)
最初に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DER-383J、ダウケミカル社製)40質量部及び可撓性エポキシ樹脂(EP-4000、(株)アデカ社製)60質量部からなる樹脂成分100質量部に対し、平均粒子径6.6μmの結晶性シリカ(CMC-12S、(株)龍森社製)290質量部、水酸化アルミニウム(H42M、昭和電工株式会社製)10質量部、シランカップリング剤(A-187、日本ユニカー株式会社製)1質量部、消泡剤(TSA720、(株)ハイメック電子社製)0.1質量部、硬化剤としての酸無水物(MTHPA、HN-2000、日立化成工業社製)100質量部及びカチオン系硬化促進剤(M2-100R、宇津商事株式会社製)0.3質量部を溶融混錬して、含浸用樹脂組成物を調整した。
【0047】
なお、混錬は、温度120℃、60rpmで10分間実施した。また、結晶性シリカのロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配は1.7であった。
【0048】
(実施例2)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DER-383J、ダウケミカル社製)に代えて、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(R-140P、ジャパンエポキシレジン株式会社製)とした以外は、実施例1と同様にして含浸用樹脂組成物を調整した。結晶性シリカのロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配は1.7であった。
【0049】
(実施例3)
平均粒子径6.6μmの結晶性シリカ(CMC-12S、(株)龍森社製)290質量部に代えて、同じ平均粒子径6.6μmの結晶性シリカ(CMC-12S、(株)龍森社製)150質量部と平均粒子径10μmの結晶性シリカ(AA-C、(株)龍森社製)140質量部とを混合して用いた以外は、実施例1と同様にして含浸用樹脂組成物を調整した。結晶性シリカのロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配は1.9であった。
【0050】
(実施例4)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DER-383J、ダウケミカル社製)60質量部及び可撓性エポキシ樹脂(EP-4000、(株)アデカ社製)40質量部とした以外は、実施例1と同様にして含浸用樹脂組成物を調整した。結晶性シリカのロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配は1.7であった。
(比較例1)
酸無水物(MTHPA、HN-2000、日立化成工業社製)100質量部及びカチオン系硬化促進剤(M2-100R、宇津商事株式会社製)0.3質量部に代えて、アミン(TONEX 22((株)トノックス社製)25質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして含浸用樹脂組成物を調整した。結晶性シリカのロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配は1.7であった。
【0051】
(比較例2)
平均粒子径6.6μmの結晶性シリカ(CMC-12S、(株)龍森社製)290質量部に代えて、平均粒子径10μmの結晶性シリカ(AA-C、(株)龍森社製)290質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして含浸用樹脂組成物を調整した。結晶性シリカのロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配は2.3であった。
【0052】
(比較例3)
平均粒子径6.6μmの結晶性シリカ(CMC-12S、(株)龍森社製)290質量部に代えて、同じ平均粒子径6.6μmの結晶性シリカ(CMC-12S、(株)龍森社製)70質量部と平均粒子径1.4μmの結晶性シリカ(5X、(株)龍森社製)70質量部とを混合して用いた以外は、実施例1と同様にして含浸用樹脂組成物を調整した。結晶性シリカのロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配は1.2であった。
【0053】
(比較例4)
平均粒子径6.6μmの結晶性シリカ(CMC-12S、(株)龍森社製)290質量部に代えて、平均粒子径2.5μmの溶融シリカ(E-2、(株)龍森社製)290質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして含浸用樹脂組成物を調整した。結晶性シリカのロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配は1.7であった。
【0054】
(比較例5)
可撓性エポキシ樹脂(EP-4000、(株)アデカ社製)を用いることなく、樹脂成分をビスフェノールA型エポキシ樹脂(DER-383J、ダウケミカル社製)100質量部とした以外は、実施例1と同様にして含浸用樹脂組成物を調整した。結晶性シリカのロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配は1.7であった。
(比較例6)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DER-383J、ダウケミカル社製)20質量部及び可撓性エポキシ樹脂(EP-4000、(株)アデカ社製)80質量部とした以外は、実施例1と同様にして含浸用樹脂組成物を調整した。結晶性シリカのロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配は1.7であった。
(比較例7)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DER-383J、ダウケミカル社製)80質量部及び可撓性エポキシ樹脂(EP-4000、(株)アデカ社製)20質量部とした以外は、実施例1と同様にして含浸用樹脂組成物を調整した。結晶性シリカのロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配は1.7であった。
【0055】
評価
次いで、上述のようにして得た含浸用樹脂組成物に対して、流動性試験を行ってその流動性を調べるとともに、ガラス転移温度(Tg)、熱伝導率及び比誘電率を測定することによって、上記含浸用樹脂組成物の物理特性を評価した。また、冷熱サイクル試験、クラック発生試験及び剥離試験を行うことにより、上記含浸用樹脂組成物の製品としての実用特性を評価した。
【0056】
なお、各試験は以下のような条件で実施した。
・流動性試験:80℃の温度で、幅2mmの流路中に溶融した含浸用樹脂組成物を流し、0.5m流動時のラップタイムを測定した。
・ガラス転移温度:硬化後の含浸用樹脂組成物をTMA法にて実施した。温度は室温から200℃まで、5℃/分の速度で昇温させた。
・熱伝導率:硬化後の含浸用樹脂組成物を京都エレクトロニクス社製の熱伝導率測定器を用いて測定した。
・比誘電率:硬化後の含浸用樹脂組成物をSOKEN社製の熱伝導率測定器を用いて測定した。
・冷熱サイクル試験:直径3mmのステンレスボールを貼り付けた外径3cm、内径1.5cmのワッシャーを、含浸用樹脂組成物中に埋め込んで、高さ1cm、直径6cmの円柱状の試験片を作製した後、この試験片をー55℃〜155℃の冷熱サイクルにかけ、クラック発生までのサイクル数を求めた。
・クラック発生試験:5mm×5mmの平角銅線を、直径600mmのFRP芯に300回巻回してなるコイル構造体に、含浸用樹脂組成物を塗布して硬化させ、樹脂硬化物の表面を観察することにより、クラックの数をカウントした。
・剥離試験:クラック発生試験と同様にしてコイル構造体を作製し、含浸用樹脂組成物を塗布して硬化させ、樹脂硬化物の表面を観察することにより、剥離の有無をカウントした。
【0057】
以上、コイル部品封止用樹脂組成物の作製条件及び評価結果を表1(実施例)及び表2(比較例)に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1から明らかなように、本発明に従った実施例においては、冷熱サイクル試験においてもクラック発生までに31回以上の熱サイクルを必要とし、クラック発生試験及び剥離試験から、含浸用樹脂組成物をコイル構造体に塗布したのみでは、クラックの発生及び剥離の発生が認められないことが確認された。また、この結果に呼応して熱伝導率も0.92W/m・Kと高いことが分かる。また、比誘電率も低く、良好な電気特性を示すことが分かる。
【0061】
一方、本発明と異なる比較例においては、冷熱サイクル試験においてクラック発生までの熱サイクルの数が25回以下であり、クラック発生試験及び剥離試験から、含浸用樹脂組成物をコイル構造体に塗布したのみでも、1断面当たり2〜20のクラックが発生し、2〜10箇所において剥離の発生が認められた。特に、可撓性エポキシ樹脂を含まない比較例5の場合において、クラックの発生等が顕著であった。また、熱伝導率も0.5W/m・K〜0.9W/m・Kと、実施例に比較して低下しており、熱伝導性に劣ることが分かる。
【0062】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 大型モールドコイル
11 コイル芯
12 導線
13 含浸用樹脂組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30質量部〜70質量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂及び70質量部〜30質量部の可撓性エポキシ樹脂からなる樹脂成分と、酸無水物硬化剤と、粒度分布に関係したロジンラムラープロットの式に従う粒度線図の勾配が1.5〜2.0である結晶性シリカとを具えることを特徴とする、大型モールドコイル含浸用樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂成分100質量部に対して、前記酸無水物硬化剤が80質量部〜120質量部、前記結晶性シリカが200質量部〜350質量部の割合であることを特徴とする、請求項1に記載の大型モールドコイル含浸用樹脂組成物。
【請求項3】
水酸化アルミニウムを具えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の大型モールドコイル含浸用樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂成分100質量部に対して、前記水酸化アルミニウムが5質量部〜30質量部の割合で含有されていることを特徴とする、請求項3に記載の大型モールドコイル含浸用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一に記載の大型コイル含浸用樹脂組成物によって含浸されたことを特徴とする、大型モールドコイル。

【図1】
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【公開番号】特開2011−119605(P2011−119605A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277806(P2009−277806)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】