説明

大型建造物支承センサシステム

【課題】電力線による電力供給をせず、通信線を介した統括局との通信が可能であり、長期間にわたる保守点検作業を必要としない大型建造物支承センサシステムを提供する。
【解決手段】規定以上の強度の地震を検出した時および橋桁が規定以上の大きさの変位を生じた時にのみ支承センサ1a等を起動し、それ以外はスリープモードにしておく。支承センサ1a等は、統括局20から通知される時間を基準に時計13を較正することによって、予め定められた時間に統括局20と無線通信を行う。大型建造物支承センサシステム5で共通の時間を持つことにより、各支承センサ1a等と統括局20との間で定期的に通信をすることを可能にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型建造物の健全性を監視する大型建造物支承センサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
社会資本、特に、橋梁、道路、港湾および教育施設等の大型建造物は、建造および整備されてから年数を経ると老朽化、陳腐化していくことは免れない。近い将来、これらの大型建造物に対する維持補修および更新等の費用は、建造等に対する全投資額の半分を超えるものと言われている。このため、上記大型建造物については、壊して新規に造る方法から既存の大型建造物に予防的な補修を行って、耐用年数の延長、すなわち長寿命化を図る方法に変更することにより、財政負担の軽減を図る必要性が高まってきている。
【0003】
社会資本の中でも橋梁は大規模建造物であるだけでなく、一旦、橋梁に不具合が起こったときのインパクトは交通網の遮断に繋がるため、経済的、社会的にも非常に大きい。橋梁は、ほとんどが鉄筋コンクリート製または鉄骨製であり、その設計耐用年数は50年〜60年である。2010年頃には半数以上の橋梁が架設後40年以上経過することになり、2020〜2030年頃には耐用年数50年を越える橋梁が急増することとなるため、これらの橋梁を更新しなければならないと言われている。本来、コンクリートは耐久性に富んだ材料であるため、良質な材料および高度な技術を適用すれば、1000年コンクリートの製造も不可能ではないと考えられている。その一方で、橋梁建設後20年も経たないうちに橋梁に劣化が顕在化する等といった事例があることも事実である。これらの事例の原因は、建設当時には知られていなかった劣化現象、過去の設計技術レベルが現在の状況に対応していなかったこと等が考えられている。車の大型化、交通量の増大に伴って、過去の設計時に想定した橋梁の積載重量に対して過積載となってしまっていること、大半の橋梁で採用されている鉄筋コンクリート構造には一時期塩分を規定値以上に含む砂利が使用されていたこと、橋梁の設置場所が海岸に近い場合は潮風にさらされること等を考慮すると、橋梁の耐用年数は過去の設計値よりも短縮される可能性がある。河川に架かる橋梁の場合、橋脚部分の基礎を川底に埋設して固定することにより全体の強度を出している。しかし、河川流域の開発等により森林の保水力が減少することに伴って、河川流域に降雨後の河川流速が上がるため、橋脚基礎部分の潜掘が進みやすくなっている。このため、橋梁の強度劣化を早めているケースも生じている。以上より明らかなように、今後、維持管理し補修を要する橋梁の数は急激に増大していくものと考えられる。
【0004】
従来から実施されている、橋梁、トンネル、ダム、擁壁等道路構造物、樋門・樋管等河川構造物、港湾構造物、上下水道施設等のコンクリート構造物の維持管理および診断方法は、管理者によって異なるものの、一般には以下のような方法が採用されている(非特許文献1〜5参照)。
1.定期点検・調査(一次検査):劣化程度の把握、劣化原因の推定
調査・検査方法を列挙すると、損傷・変状調査、構造物調査・点検、外観変状調査、健全度調査、外観目視検査、打音検査、赤外線法、X線法、非破壊検査、腐食調査、耐荷力調査、ひび割れ調査、コア採取、シュミットハンマー等がある。
2.劣化試験・評価・予測(二次検査):劣化の経時変化の予測、要求性能と比較して評価
(1)試験・測定方法を列挙すると、静的載荷試験、耐久性試験、応力頻度測定、材料試験、圧縮強度試験、劣化試験、非破壊試験、変位測定、疲労試験等がある。
(2)評価・判定方法を列挙すると、健全度診断(ひび割れの発生原因究明と対策の検討)、耐久性評価(中性化、塩害、アルカリ骨材反応、錆・腐食)、耐荷力評価(活荷重、疲労、温度、地震)、変位・変形検討(基礎沈下・傾斜、クリープ、側方流動、振動)等がある。
(3)予測方法を列挙すると、劣化予測(コンクリート片落下の可能性)、ライフサイクルコスト予測、耐用年数予測等がある。
3.対策の判定・選定: 補修工法、補強工法
(1)補修工法を列挙すると、表面塗布、ひび割れ注入・充填、断面修復、表面被覆、電気防食等がある。
(2)補強工法を列挙すると、打ち換え、コンクリート巻立て、鋼板接着、支持点増設等がある。
【0005】
まず、定期点検・調査の一次検査が行われ、その結果に基づき、更に詳細な二次検査を行うか否かを決める。二次検査を行う場合、劣化試験・評価・予測等を含めた破壊試験(コンクリートコアの切り出しによる断面検査等)、非破壊試験(橋脚基礎部分の洗掘の進み方の推定に用いられる衝撃振動法等)も併用される。その結果、補修、補強を施すほうが良いかどうかという判定が行われる。補修・補強を施すと判定された場合、どのような補修工法、補強工法を選定するべきかを決める。
【0006】
【非特許文献1】谷川恭雄著、「コンクリート構造物の非破壊検査・診断方法」、セメントジャーナル社、2004年9月17日発行。
【非特許文献2】小林一輔著、「コア採取によるコンクリート構造物の劣化診断法」、森北出版株式会社、2001年12月28日発行。
【非特許文献3】鈴木一孝、野尻陽一、松岡康訓共著、「コンクリートの組織構造の診断」、森北出版株式会社、1003年9月30日発行。
【非特許文献4】片脇清士著、「最新のコンクリート防食と補修技術」、山海堂株式会社、1999年9月16日発行。
【非特許文献5】魚本健人監修、「コンクリート構造物の検査・診断−非破壊検査ガイドブック」、理工図書株式会社、2003年8月11日。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の橋脚上に設置される支承センサは、電力線による電力供給や通信線を介した統括局との通信が必要であったが、支承センサはその設置される環境から電力線による電力供給や通信線を介した統括局との通信が困難であるという問題があった。さらに、従来の橋脚上に設置される支承センサは、長期間にわたる保守点検作業を必要としていたが、支承センサはその設置される環境から長期間にわたる保守点検作業が困難であるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解決するためになされたものであり、電力線による電力供給をせず、通信線を介した統括局との通信が可能であり、長期間にわたる保守点検作業を必要としない大型建造物支承センサシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の大型建造物支承センサシステムは、大型建造物の健全性を監視する大型建造物支承センサシステムであって、大型建造物の支承に装着された複数の支承センサと、該支承センサにより測定されデータを収集して管理する統括局とを備えており、前記支承センサは、前記統括局と時間を共有する時間共有手段と、支承センサをスリープモードにするスリープモード手段と、所定以上の振動により起電力を発生する起電力発生器と、スリープモードにある支承センサを前記起電力発生器による起電力で起動し、前記統括局に所定の情報を送信する情報送信手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
ここで、この発明の大型建造物支承センサシステムにおいて、前記起電力発生器はセラミック圧電素子とすることができる。
【0011】
この発明の大型建造物支承センサシステムは、大型建造物の健全性を監視する大型建造物支承センサシステムであって、大型建造物の支承に装着された複数の支承センサと、該支承センサにより測定されデータを収集して管理する統括局とを備えており、前記支承センサは、前記統括局と時間を共有する時間共有手段と、支承センサをスリープモードにするスリープモード手段と、支承の所定以上の移動を検出する移動検出器と、スリープモードにある支承センサを前記移動検出器による検出に基づき起動し、前記統括局に所定の情報を送信する情報送信手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
ここで、この発明の大型建造物支承センサシステムにおいて、前記移動検出器は支承の変位量を機械的に計測するセンサとすることができる。
【0013】
ここで、この発明の大型建造物支承センサシステムにおいて、前記大型建造物は橋梁でとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の大型建造物支承センサシステムによれば、規定以上の強度の地震を検出した時および橋桁が規定以上の大きさの変位を生じた時にのみ支承センサを起動し、それ以外はスリープモードにあるようにしている。さらに、大型建造物支承センサシステムで共通の時間を持つことにより、各支承センサと統括局との間で定期的に通信をすることを可能にしている。このため、電力線による電力供給をせず、通信線を介した統括局との通信が可能であり、長期間にわたる保守点検作業を必要としない大型建造物支承センサシステムを提供することができるという効果がある。すなわち、長期間にわたり保守点検を必要としない支承センサと、システムの健全性を定常的に確認できる、信頼性の高い橋梁支承センサを提供することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、各実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
以下の実施例1では、大型建造物として橋梁を例にとり説明する。しかし、本発明の大型建造物支承センサシステムは橋梁以外の大型建造物に対して適用可能であることは勿論である。
【0017】
図1は、本発明の橋梁支承センサシステム5を示す。図1に示されるように、橋脚支承部6a、6b、6c、6d、6e(以下、「橋脚支承部6a等」と言う。)に設置した支承センサ1a、1b、1c(以下、「支承センサ1a等」と言う。)は、内蔵する電池14(後述)で動作する。図1の橋脚支承部6bの拡大図Aに示されるように、支承センサ1bはアンテナ2bにより統括局20と無線で測定データ等を交換することができる。他の橋脚支承部6a等に設置された支承センサ1a等もアンテナ(不図示)を有しており、同様に統括局20と無線で測定データ等を交換することができる。
【0018】
図1に示されるように、統括局20は電力線30から電力の供給を受けている。統括局20は支承センサ1a等と無線機21により送受信可能となっており、さらに、通信インタフェース23により公共通信回線または専用通信回線(いずれも不図示)を介して遠隔地の端末(不図示)と通信する機能を備えている。以上の機能は制御装置22により制御されている。
【0019】
図2は、本発明の実施例1における支承センサ1a等の構成を示すブロック図である。図2に示されるように、マイクロプロセッサMPU10は無線機11を制御し、アンテナ12を介して統括局20と通信すると共に、時計RTC(Real Time Clock)13の時刻を較正する。時計13には電池14から常に電力が供給されている。
【0020】
時計13は予め定められた時刻にゲート回路15にゲート信号を出力し、電子スイッチ16を駆動することによって、マイクロプロセッサ10および無線機11等の電源をオンにする。支承センサ1a等は、統括局20から通知される時間を基準に時計13を較正することによって、予め定められた時間に統括局20と無線通信を行う時間共有手段を備えている。
【0021】
センサ14(移動検出器)は橋桁(または橋脚支承部6a等)の変位量を機械的に計測する。橋桁の変位量が所定以上の大きさを超えた場合、ゲート回路15にゲート信号を出力し、電子スイッチ16を駆動することによって、マイクロプロセッサ10、無線機11等の電源をオンにする。すなわち、支承センサ1a等は規定以上の橋桁の変位を検出した時、統括局20と無線通信を行うことができる。
【0022】
セラミック圧電素子17(起電力発生器)は印加された振動の加速度に比例する起電力を発生する。フィルタ18により発生した起電力から地震波の特徴成分を抽出してゲート信号を出力し、電子スイッチ16を駆動することによって、マイクロプロセッサ10、無線機11等の電源をオンにする。すなわち、支承センサ1a等は所定以上の地震による振動を検出した時、統括局20と無線通信を行うことができる。
【0023】
各支承センサ1a等は、通常、微小電力で動作する時計13にのみ電池14から電力を供給して消費電力を制限したスリープモードにある。すなわち、支承センサ1a等は支承センサ1a等をスリープモードにするスリープモード手段を備えている。各支承センサ1a等は、予め定められた時間に、時計13により無線機11等の電子回路を起動して橋桁の変位量をセンサ14により測定し、統括局20に通信報告することにより、橋梁支承センサシステム5が正常に機能していることを示す。支承センサ1a等の時計13の消費電流を1マイクロアンペア、無線機11等の消費電流を60ミリアンペア、1日あたりの起動時間を30秒、搭載する電池の容量を2,200ミリアンペア時と仮定すると、支承センサ1a等は11.5年間動作可能であり、電池14の自己放電による消耗を考慮しても、5年以上の動作が可能である。各支承センサ1a等は、スリープモードにある支承センサ1a等をセラミック圧電素子17による起電力で起動し、統括局20に橋桁の所定以上の移動を検出して変位量(所定の情報)を送信する情報送信手段を備えている。
【0024】
一方、地震を感知する手段としてセラミック圧電素子17を用いることによって、電力消費を必要とせず、電子回路を起動する起電力を得ることができる。細長い板状のバネの一端を固定し、他端にセラミック圧電素子17と重りとを装着し、バネの長さあるいは重りの重量を適当に設定することによって、加わる振動の大きさとセラミック圧電素子17の出力起電力との関係を調節する。セラミック圧電素子17の出力起電力を地震波の特徴に合わせてフィルタ18によりフィルタリングすることによって、電力消費なしで電子スイッチ16をゲートすることができる。各支承センサ1a等は、スリープモードにある支承センサ1a等をセラミック圧電素子17による起電力またはセンサ14による検出に基づき起動し、統括局20に橋桁の所定以上の移動を検出して変位量(所定の情報)を送信する情報送信手段を備えている。情報送信手段は、上述のような機械的な構造および電子スイッチ16で実現できるので、電力消費を伴わない。
【0025】
上述した時間共有手段、スリープモード手段および情報送信手段は、支承センサ1a等が有するハードウェアとして実現することができる。あるいは、支承センサ1a等が有する記録装置(不図示)に記録された上記各手段の機能を実行するプログラムをMPU10が実行することにより実現することもできる。以上、説明したように、本発明の橋梁支承センサシステム5によれば、規定以上の強度の地震を検出した時、および橋桁が規定以上の大きさの変位を生じた時にのみ支承センサ1a等を起動し、それ以外は支承センサ1a等をスリープモードにあるようにしている。橋梁支承センサシステム5(支承センサ1a等および統括局20)で共通の時間を持つことによって、各支承センサ1a等と統括局20との間で定期的に通信をすることを可能にしている。このため、電力線による電力供給をせず、通信線を介した統括局との通信が可能であり、長期間にわたる保守点検作業を必要としない大型建造物(好適には橋梁)支承センサシステム5を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の活用例として、大型構造物、例えば橋梁、ビル、トンネル、ダム、擁壁等道路構造物、桶門・桶管等河川構造物、港湾構造物、上下水道施設等自体およびこれらの構成要素への適用が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の橋梁支承センサシステム5を示す図である。
【図2】本発明の実施例1における支承センサ1a等の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0028】
1a、1b、1c、1d、1e 支承センサ、 2b アンテナ、 5 橋梁支承センサシステム、 6a、6b、6c、6d、6e 橋脚支承部、 10 MPU、 11 無線機、 12 アンテナ、 13 時計、 14 電池、 15 ゲート回路、 16 電子スイッチ、 17 セラミック圧電素子、 18 フィルタ、 20 統括局、 21 無線機、 22 制御装置、 23 通信インタフェース、 30 電力線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型建造物の健全性を監視する大型建造物支承センサシステムであって、大型建造物の支承に装着された複数の支承センサと、該支承センサにより測定されデータを収集して管理する統括局とを備えており、
前記支承センサは、
前記統括局と時間を共有する時間共有手段と、
支承センサをスリープモードにするスリープモード手段と、
所定以上の振動により起電力を発生する起電力発生器と、
スリープモードにある支承センサを前記起電力発生器による起電力で起動し、前記統括局に所定の情報を送信する情報送信手段とを備えたことを特徴とする大型建造物支承センサシステム。
【請求項2】
請求項1記載の大型建造物支承センサシステムにおいて、前記起電力発生器はセラミック圧電素子であることを特徴とする大型建造物支承センサシステム。
【請求項3】
大型建造物の健全性を監視する大型建造物支承センサシステムであって、大型建造物の支承に装着された複数の支承センサと、該支承センサにより測定されデータを収集して管理する統括局とを備えており、
前記支承センサは、
前記統括局と時間を共有する時間共有手段と、
支承センサをスリープモードにするスリープモード手段と、
支承の所定以上の移動を検出する移動検出器と、
スリープモードにある支承センサを前記移動検出器による検出に基づき起動し、前記統括局に所定の情報を送信する情報送信手段とを備えたことを特徴とする大型建造物支承センサシステム。
【請求項4】
請求項3記載の大型建造物支承センサシステムにおいて、前記移動検出器は支承の変位量を機械的に計測するセンサであることを特徴とする大型建造物支承センサシステム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の大型建造物支承センサシステムにおいて、前記大型建造物は橋梁であることを特徴とする大型建造物支承センサシステム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−255572(P2008−255572A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95821(P2007−95821)
【出願日】平成19年3月31日(2007.3.31)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】