説明

大容量モジュールの周辺回路用の回路基板、及び当該回路基板を用いる周辺回路を含む大容量モジュール

【課題】パワー回路上へのドライブ回路等の周辺回路の積層により小型軽量化、低サージ化、及び低損失化を図ろうとする大容量モジュールにおいて、パワー回路上に配設されるパワー半導体素子の端子と周辺回路の電極との位置合わせが不十分であることに起因するパワー半導体素子の端子と周辺回路の電極との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部間での絶縁耐圧の低下等を防止する手段を提供する。
【解決手段】周辺回路基板10の表面に段差11を設け、当該段差とパワー半導体素子21の側面との接触によりパワー回路と周辺回路との積層時に周辺回路基板の電極16とパワー半導体素子の端子との位置合わせをより正確に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大容量モジュールの周辺回路用の回路基板に関する。より詳細には、本発明は、例えば、ハイブリッドカーや電気自動車において使用されるインバータ等のパワーモジュールを始めとする大容量モジュールにおいて、パワー半導体素子を含む回路と積層される周辺回路用の回路基板に関する。更に、本発明は、当該回路基板を用いる周辺回路を含む大容量モジュールにも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インバータ等のパワーモジュールを始めとする大容量(大電力)モジュールにおいては、例えば、スイッチング素子(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)等)等のパワー半導体素子を含む回路(以降、「パワー回路」とも称する)と、例えば、かかるパワー半導体素子を制御する周辺回路(以降、「ドライブ回路」とも称する)とが平面的に配置されることや、これらの回路を接続するための配線(ワイヤ)を配置するための面積が必要であることが、大容量モジュールの小型軽量化を妨げる要因となってきた。
【0003】
尚、本明細書において、大容量モジュールとは、200V以上の電圧又は10A以上の大電力を扱うモジュールを指す。かかる大容量モジュールの具体例としては、例えば所謂「パワーモジュール」等を挙げることができる。
【0004】
また、上記のような大容量モジュールを構成する各種回路を接続するワイヤの引き回しにより配線長が長くなり、モジュール全体としての損失が大きく、ワイヤの等価インダクタンスに起因してスイッチング時に発生するサージ電圧が大きくなる等の懸念点が認められていた。過大なサージ電圧は、例えば、ドライブ回路の半導体素子等を損傷させる虞がある。
【0005】
ところで、近年では、例えば、ハイブリッドカーや電気自動車の普及等に伴い、インバータ等のパワーモジュールを始めとする大容量(大電力)モジュールにおいても、例えば、小型軽量化、低サージ化(サージ抑制)、及び高効率化(低損失化)等の更なる性能向上が求められるようになってきている。
【0006】
そこで、上記のような大容量モジュールを構成する各種回路の基板を積層して大容量モジュールの小型軽量化を図ると共に、大容量モジュールを構成する各種回路基板間の接続形態を改良して低サージ化や低損失化を図る試みが提案されている(例えば、特許文献1乃至特許文献3を参照)。
【0007】
上記のように大容量モジュールを構成する各種回路基板を積層して当該モジュールを小型軽量化する場合、配線(ワイヤ)による接続(ワイヤボンド)の代わりに、配線基板の表面に設けられた表面電極やリードフレーム端子に半導体素子の端子を直接接続する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0008】
しかしながら、上記方法には、半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子との位置合わせが難しいという問題があった。半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子との位置合わせが不十分である場合、半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子とによって構成される接合部において電気抵抗が大きくなったり、隣り合う接合部の間における絶縁耐圧が不十分になったりする問題が生ずる場合があった。
【0009】
具体的には、半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子との位置合わせが不十分である場合、接合部における半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子との接触面積が小さくなる。その結果、当該接合部における電気抵抗が大きくなり、大容量モジュールに必要とされる大きさの電流を流すことができなくなる場合がある。また、接合部における半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子との配置がずれることにより、隣り合う接合部の間の間隔が小さくなる。その結果、これらの接合部において、大電流、高電圧の電流を流すのに必要とされる絶縁耐圧を確保することができなくなる場合がある。
【0010】
即ち、大容量モジュールを構成する各種回路基板を積層して当該モジュールを小型軽量化する場合、パワー半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子とによって構成される接合部において電気抵抗が大きくなったり、隣り合う接合部の間における絶縁耐圧が不十分になったりする問題を回避するためには、パワー半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子との位置合わせを正確に行うことが極めて重要である。
【0011】
しかしながら、当該技術分野においては、大容量モジュールを構成する各種回路基板を積層して当該モジュールを小型軽量化する場合、パワー半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子とによって構成される接合部におけるパワー半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子との位置合わせを正確に行うことができる有効な技術は未だ提案されておらず、かかる技術に対する継続的な要求が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−303006号公報
【特許文献2】特許第3410696号公報
【特許文献3】特開2011−23654号公報
【特許文献4】特開2007−012831号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】郎 豊群、林 祐輔、仲川 博、青柳 昌宏、大橋 弘通、「アルミ電極を有するSiCパワー素子の三次元実装技術」、第18回マイクロエレクトロニクスシンポジウム、2008年9月、p.219−222
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述のように、当該技術分野においては、大容量モジュールを構成する各種回路基板を積層して当該モジュールを小型軽量化する場合、パワー半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子とによって構成される接合部におけるパワー半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子との位置合わせを正確に行うことができる有効な技術は未だ提案されておらず、かかる技術に対する継続的な要求が存在する。
【0015】
本発明は、かかる要求に応えるために為されたものである。より具体的には、本発明は、パワー回路上へのドライブ回路等の周辺回路の積層により小型軽量化、低サージ化、及び低損失化を図ろうとする大容量モジュールにおいて、パワー回路上に配設されるパワー半導体素子の端子と周辺回路の電極との位置合わせが不十分であることに起因するパワー半導体素子の端子と周辺回路の電極との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部の間での絶縁耐圧の低下等の問題を軽減することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的は、
パワー半導体素子を含む第1電子回路の前記パワー半導体素子が配設されている側に前記パワー半導体素子を介して積層される第2電子回路に用いられる第2電子回路基板である基板であって、
前記基板が、誘電体層からなる基材と、前記基材の内部に埋設された内層電極と、前記基板の前記第1電子回路側の表面である第1表面に形成された第1表面電極と、前記第1表面に設けられた少なくとも1つの段差と、を含んでなり、
前記内層電極及び前記第1表面電極の少なくとも一部の前記第1表面に直交する方向における厚みが50μm以上であり、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子及び前記基板が前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する側面と前記段差の前記第1表面に交差する側面との接触によって規定される相対的な位置関係にある場合に、前記パワー半導体素子の個々の端子と個々の前記第1表面電極とが対向するように、前記段差が形成されている、
基板によって達成される。
【発明の効果】
【0017】
前述のように、本発明に係る基板は、例えばインバータ等のパワーモジュールを始めとする大容量モジュール等の小型軽量化を目的として、パワー半導体素子を含む(第1)電子回路(例えば、パワー回路)と積層して使用される(第2)電子回路(例えば、ドライブ回路等の周辺回路)において用いられる。
【0018】
本発明に係る基板においては、上記のように、第2電子回路基板の表面に段差を設け、当該段差とパワー半導体素子の側面との接触により第1電子回路と第2電子回路との積層時に第2電子回路基板の電極とパワー半導体素子の端子との位置合わせをより正確に行うことにより、パワー半導体素子の端子と周辺回路の電極との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部間での絶縁耐圧の低下等の問題を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1表面に設けられた窪み(凹部)によって形成された段差を有する本発明の1つの実施態様に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成を示す模式図である。
【図2】第2電子回路基板上にヒートシンクが配設された、図1に示す実施態様の変形例に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成を示す模式図である。
【図3】第1表面に設けられた突起によって形成された段差を有する本発明の1つの実施態様に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成を示す模式図である。
【図4】第1表面電極がリードフレームによって形成された、図3に示す実施態様の変形例に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成を示す模式図である。
【図5】従来技術に係る基板を周辺回路基板(第2電子回路基板)として用いる大容量モジュールにおける充填材料の充填状況を示す模式図である。
【図6】本発明の1つの実施態様に係る基板を周辺回路基板(第2電子回路基板)として用いる大容量モジュールにおける充填材料の充填状況を示す模式図である。
【図7】本発明の実施態様に係る基板を周辺回路基板(第2電子回路基板)として用いる大容量モジュールにおける第2電子回路基板の第1表面に設けられた窪み(凹部)へのパワー半導体素子の嵌合状況を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前述のように、本発明は、パワー回路上へのドライブ回路等の周辺回路の積層により小型軽量化、低サージ化、及び低損失化を図ろうとする大容量モジュールにおいて、パワー回路上に配設されるパワー半導体素子の端子と周辺回路の電極との位置合わせが不十分であることに起因するパワー半導体素子の端子と周辺回路の電極との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部の間での絶縁耐圧の低下等の問題を軽減することを1つの目的とする。
【0021】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、パワー回路上へのドライブ回路等の周辺回路の積層により小型軽量化、低サージ化、及び低損失化を図ろうとする大容量モジュール(例えばインバータを始めとするパワーモジュール等)において、周辺回路基板の表面に段差を設け、当該段差とパワー半導体素子の側面との接触によりパワー回路と周辺回路との積層時に周辺回路基板の電極とパワー半導体素子の端子との位置合わせをより正確に行うことにより、パワー半導体素子の端子と周辺回路の電極との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部間での絶縁耐圧の低下等の問題を軽減することを想到するに至ったものである。
【0022】
即ち、本発明の第1の実施態様は、
パワー半導体素子を含む第1電子回路の前記パワー半導体素子が配設されている側に前記パワー半導体素子を介して積層される第2電子回路に用いられる第2電子回路基板である基板であって、
前記基板が、誘電体層からなる基材と、前記基材の内部に埋設された内層電極と、前記基板の前記第1電子回路側の表面である第1表面に形成された第1表面電極と、前記第1表面に設けられた少なくとも1つの段差と、を含んでなり、
前記内層電極及び前記第1表面電極の少なくとも一部の前記第1表面に直交する方向における厚みが50μm以上であり、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子及び前記基板が前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する側面と前記段差の前記第1表面に交差する側面との接触によって規定される相対的な位置関係にある場合に、前記パワー半導体素子の個々の端子と個々の前記第1表面電極とが対向するように、前記段差が形成されている、
基板である。
【0023】
前述のように、例えばインバータ等のパワーモジュールを始めとする大容量(大電力)モジュールの小型軽量化を行おうとする際に、例えばドライブ回路等の周辺回路(第2電子回路)を構成する基板として本実施態様に係る基板を用いて、当該第2電子回路を、パワー半導体素子を含む電子回路(第1電子回路)の当該パワー半導体素子が配設されている側に当該パワー半導体素子を介して積層することにより、当該モジュールの小型軽量化、低サージ化、及び低損失化を達成するのみならず、上記のように、第2電子回路基板である本実施態様に係る基板の第1表面に段差を設け、当該段差の側面とパワー半導体素子の側面との接触により第1電子回路と第2電子回路との積層時に第2電子回路基板の電極とパワー半導体素子の端子との位置合わせをより正確に行うことにより、パワー半導体素子の端子と周辺回路の電極との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部間での絶縁耐圧の低下等の問題を軽減することができる。
【0024】
ここで、第2電子回路基板である本実施態様に係る基板の第1表面に設けられた段差の側面とパワー半導体素子の側面との接触により第1電子回路と第2電子回路との積層時に第2電子回路基板の電極とパワー半導体素子の端子との位置合わせを行うとは、当該段差の側面とパワー半導体素子の側面とが直接接触することによって第2電子回路基板の電極とパワー半導体素子の端子との位置合わせを行う実施態様のみならず、パワー半導体素子の端子と周辺回路の電極との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部間での絶縁耐圧の低下等の問題を軽減する本発明の効果が損なわれない範疇において、当該段差の側面とパワー半導体素子の側面との間に空隙が存在する実施態様をも含む概念である。
【0025】
例えば、本発明に係る基板においては、後述するように、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子が複数の段差の間に挟まれる又は囲まれる実施態様、あるいは第1電子回路と第2電子回路との積層時に段差の側面と第1表面とによって画定される窪み(凹部)にパワー半導体素子が嵌合される実施態様が想定される。かかる実施態様において、複数の段差によって挟まれる又は囲まれる空間あるいは段差の側面と第1表面とによって画定される窪みへのパワー半導体素子の嵌合を容易なものとすることを目的として、かかる空間又は窪みの第1表面に平行な平面による断面がパワー半導体素子の第1表面に平行な平面による断面よりも若干大きくなるように構成してもよい。この場合、第2電子回路基板とパワー半導体素子との相対的な位置関係において、上記空間又は窪みとパワー半導体素子の外形との寸法差に起因する変動が生じ得る。しかしながら、当該寸法差が十分に小さくなるように段差を構成することにより、上述のような本発明の効果の損失を回避することができる。
【0026】
尚、上記大容量モジュールは、上記のように、例えばインバータ等のパワーモジュールであってもよく、あるいは大電力を扱う他の大容量モジュールであってもよい。また、上記のように、上記大容量モジュールがインバータ等のパワーモジュールである場合、上記パワー半導体素子としては、例えばスイッチング素子等を挙げることができるが、本実施態様におけるパワー半導体素子はスイッチング素子に限定されるものではなく、大容量モジュールにおいて大容量の電力を扱う何れの素子であってもよい。更に、上記パワー半導体素子がスイッチング素子である場合、スイッチング素子としては、例えばIGBTやMOSFET等を挙げることができるが、本実施態様におけるスイッチング素子はIGBTやMOSFETに限定されるものではなく、当該技術分野において知られている何れのスイッチング素子であってもよい。
【0027】
本実施態様に係る基板は、上記のように、パワー半導体素子を含む第1電子回路の前記パワー半導体素子が配設されている側に前記パワー半導体素子を介して積層される第2電子回路に用いられる第2電子回路基板である基板であって、誘電体層からなる基材と、当該基材の内部に埋設された内層電極と、当該基板の第1電子回路側の表面である第1表面に形成された第1表面電極と、第1表面に設けられた少なくとも1つの段差と、を含んでなる。
【0028】
上記誘電体層の材質は特に限定されるものではなく、例えば、樹脂、ガラス、セラミック等の絶縁材料を含んでなる誘電体材料を用いることができる。上記内層電極及び第1表面電極は、例えば、金属等の導体のめっき、エッチング加工、導体パターンの埋設、導体ペーストの印刷等、当該技術分野において周知の種々の手法により、上記基板の表面及び/又は内部に設けることができる。また、上記第1表面電極は、第1表面に配設されたリードフレームによって形成されていてもよい。尚、何れの場合であっても、上記内層電極及び第1表面電極は、小さい電気抵抗を有する良導体からなることが望ましい。
【0029】
また、上記段差は、例えば、第1表面に設けられた突起の側面(第1表面に交差する面)によって形成されていてもよく、積層時にパワー半導体素子の側面を取り囲むように設けられたフランジ状の構造によって形成されていてもよく、あるいは積層時にパワー半導体素子が嵌合するように設けられた窪み(凹部)によって形成されていてもよい。
【0030】
上記突起やフランジ状の構造や窪みは、パワー半導体素子の形状や第1電子回路における配置、第1電子回路と第2電子回路とを積層する製造ラインの構成等に応じて、適切な大きさ、形状、位置に配設することができる。例えば、パワー半導体素子の第1表面に平行な平面による断面の形状が方形である場合、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子の(第1表面に対向する表面に交差する)4つの側面のうちの何れか又は全ての側面と突起やフランジ状の構造や窪みによって形成される段差の(第1表面に交差する)側面との接触により、パワー半導体素子の個々の端子と個々の第1表面電極とが対向するように、1つ以上の突起やフランジ状の構造や窪みを第1表面上に配設してもよい。
【0031】
上記において、突起やフランジ状の構造や窪みによって形成される段差の側面は、必ずしもパワー半導体素子の全ての側面に接触し得るように形成する必要が無い場合もあり得る。例えば、第1電子回路と第2電子回路とを積層する製造ラインの構成により、積層時におけるパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置がずれ得る方向が特定の方向に限定される場合がある。かかる場合においては、当該方向に交わるパワー半導体素子の側面と段差の側面とが接触し得るように少なくとも1つの段差を設けることにより、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置がずれることを防止することができる。一方、1つの段差によっては、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子の端子と第1表面電極との相対的な位置関係を一意に定めることができない場合には、本実施態様に係る基板の第1表面に複数の段差を設けて、積層時におけるパワー半導体素子の端子と第1表面電極との相対的な位置関係を一意に定めることができる。
【0032】
一方、本実施態様に係る基板におけるようにパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置がずれることを防止することができない場合は、前述のように、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との位置合わせが不十分(不正確)となり、パワー半導体素子の端子と第1表面電極とによって構成される接合部において電気抵抗が大きくなったり、隣り合う接合部の間における絶縁耐圧が不十分になったりする問題が生ずる虞がある。
【0033】
具体的には、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との位置合わせが不十分である場合、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との接合部において、パワー半導体素子の端子と第1表面電極とが正しく対向せず、互いにずれた状態となり、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との接触面積が小さくなる。その結果、当該接合部における電気抵抗が大きくなり、大容量モジュールに必要とされる大きさの電流を流すことができなくなる虞がある。また、接合部におけるパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置がずれることにより、例えば、隣り合う2つの接合部の間において、一方の接続部を構成するパワー半導体素子の端子と、他方の接続部を構成する第1表面電極との間隔が、位置合わせが正確に行われた場合と比較して小さくなる。その結果、これら2つの接合部の間において、大電流、高電圧の電流を流すのに必要とされる絶縁耐圧を確保することができなくなる虞がある。
【0034】
しかしながら、本実施態様に係る基板においては、パワー半導体素子の側面と段差の側面との接触によってパワー半導体素子と第2電子回路基板である当該基板との位置合わせが正確に行われ、パワー半導体素子の個々の端子と個々の第1表面電極とが正しく対向する。その結果、パワー半導体素子の端子と第1表面電極とによって構成される接合部において電気抵抗が大きくなったり、隣り合う接合部の間における絶縁耐圧が不十分になったりする問題が低減される。
【0035】
尚、例えば、本実施態様に係る基板が用いられる大容量モジュールの設計仕様や構成によっては、必ずしもパワー半導体素子の全ての端子と全ての第1表面電極とが電気的に接続されていなくてもよい場合があり得る。換言すれば、本実施態様は、パワー半導体素子の全ての端子と全ての第1表面電極とが電気的に接続されていることを要件とするものではないことを、念の為、申し述べておく。
【0036】
上記のように、本実施態様に係る基板においては、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子の個々の端子と個々の第1表面電極とが正確に対向するように、第1電子回路上に配設されるパワー半導体素子と第2電子回路基板である本実施態様に係る基板との位置合わせが正確に行われる。これにより、本実施態様に係る基板を用いる大容量モジュールにおいては、ワイヤボンド等の従来技術と比較して、パワー半導体素子と第2電子回路とをより短い距離で接続することができる。その結果、パワー半導体素子を含む第1電子回路(例えばパワー回路)と本実施態様に係る基板を含む第2電子回路(例えば、ドライブ回路等の周辺回路)との間のインダクタンスをより小さくすることができる。これにより、これらの回路を含む大容量モジュール(例えば、パワーモジュール等)において、例えばスイッチング時のサージ電圧を抑制(低サージ化)することができる。
【0037】
尚、本実施態様に係る基板の第1表面に配設された第1表面電極とパワー半導体素子の端子との電気的接続は、例えば、はんだ付けによって達成することができるが、これらの接続方法は特定の手法に限定されるものではなく、第1表面電極を構成する導体とパワー半導体素子の端子との電気的接続は、当該技術分野において知られている何れの手法を用いて達成されてもよい。
【0038】
本実施態様に係る基板は、前述のように、パワー半導体素子を含む第1電子回路の前記パワー半導体素子が配設されている側に前記パワー半導体素子を介して積層される第2電子回路に用いられる第2電子回路基板である。従って、当該基板が備える内層電極や第1表面電極には大電流が流れることが想定される。従って、本実施態様に係る基板においては、内層電極及び第1表面電極の少なくとも一部の(第1表面に直交する方向における)厚みは50μm以上、より好ましくは100μm以上であることが望ましい。これにより、本実施態様に係る基板を使用する電子回路を含むモジュール全体としての損失を小さくすることができる。
【0039】
前述のように、本実施態様に係る基板における第1表面電極は、本実施態様に係る基板を含む第2電子回路(例えば、ドライブ回路等の周辺回路)と第1電子回路(例えば、パワー回路)に含まれるパワー半導体素子とを電気的に接続する。従って、第1表面電極には大電流が流れることが想定されるため、第1表面電極における損失をより小さくするには、パワー半導体素子と第1表面電極との接続面積をより大きくすることが望ましい。同様に、第1表面電極を構成する導体の厚みもまた、より大きくすることが望ましい。
【0040】
尚、前述のように、本実施態様に係る基板は、例えばインバータ等のパワーモジュールを始めとする大容量モジュール等の小型軽量化を目的として、パワー半導体素子を介して、パワー半導体素子を含む第1電子回路(例えば、パワー回路)と積層して使用される第2電子回路(例えば、ドライブ回路等の周辺回路)において用いられる基板である。従って、本実施態様に係る基板(第2電子回路基板)の第1電子回路とは反対側の表面(第2表面)には、例えば、ドライブ回路等の周辺回路を構成する種々の回路素子を配設することができる。
【0041】
上記のように、本実施態様に係る基板を用いる大容量モジュールにおいては、第1電子回路基板と第2電子回路基板との間にパワー半導体素子が挟まれた構成を有する。このような構成においては、一般的に、パワー半導体素子からの発熱を外部に放出することが困難になりがちである。しかしながら、本実施態様に係る基板においては、前述のように、パワー半導体素子の端子と第1表面電極とが、ワイヤ等を介すること無く、直接的に接続される。これにより、本実施態様に係る基板においては、パワー半導体素子からの発熱を効率良く伝達することができるので、例えば、本実施態様に係る基板の第2表面側にヒートシンク等の放熱機構を配設して、パワー半導体素子からの発熱を効率良く放出させることができる。この場合、本実施態様に係る基板を用いる大容量モジュールにおいては、第1電子回路基板の第2電子回路とは反対側の表面のみならず、第2電子回路基板である本実施態様に係る基板の第2表面にも、ヒートシンク等の放熱機構を配設して、これらの両方の表面から、パワー半導体素子からの発熱を、より効率良く放出することもできる。
【0042】
また、前述のように、本実施態様に係る基板においては、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子及び基板がパワー半導体素子の側面と段差の側面との接触によって規定される相対的な位置関係にある場合に、パワー半導体素子の個々の端子と個々の第1表面電極とが対向するように、段差が形成されている。このようにパワー半導体素子の側面と段差の側面との接触によってパワー半導体素子と第2電子回路基板である本実施態様に係る基板との相対的な位置関係を確実且つ容易に規定し、パワー半導体素子と第2電子回路基板との位置合わせを正確に行うためには、前記第1表面に直交する方向における段差の高さがある程度大きいことが必要である。
【0043】
一方、前記第1表面に直交する方向における段差の高さが過大であると、パワー半導体素子の端子の第2電子回路側の表面と第2電子回路基板が備える第1表面電極との間に空隙が生じ、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との間の電気的接続を確保することが困難となる虞がある。従って、本実施態様に係る基板においては、段差の第1表面に直交する方向における高低差が適切な範囲に入っていることが必要である。
【0044】
即ち、本発明の第2の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る基板であって、
前記第1表面に直交する方向における前記段差の高さと前記第1表面電極の表面との間の高低差が、10μm以上であり、且つ前記第1表面に直交する方向における前記パワー半導体素子の端子の前記第2回路側の表面と前記第1回路に用いられる第1回路基板の前記第2回路側の表面との間の高低差以下である、
基板である。
【0045】
上記のように、本実施態様に係る基板において、第1表面に直交する方向における段差の高さと第1表面電極の表面との間の高低差(以降、単に「段差の高低差」と称する場合がある)は10μm以上、より好ましくは20μm以上であることが望ましい。段差の高低差が10μm未満であると、パワー半導体素子の(第1表面に対向する表面に交差する)側面と段差の(第1表面に交差する)側面とが接触したかどうかの確認が困難となり、パワー半導体素子と第2電子回路基板との位置合わせを容易に行うことができるという、本発明の利点を十分に発揮することが困難となる虞があるので望ましくない。
【0046】
一方、本実施態様に係る基板において、段差の高低差は、パワー半導体素子の端子の第2電子回路側の表面と第1電子回路に用いられる第1電子回路基板の第2電子回路側の表面との第1表面に直交する方向における高低差以下であることが望ましい。段差の高低差が、パワー半導体素子の端子の第2電子回路側の表面と第1電子回路に用いられる第1電子回路基板の第2電子回路側の表面との高低差を超えると、段差の第1表面から遠い側の端部が第1電子回路基板の表面に接触するまで第1電子回路基板と第2電子回路基板とを近付けてもパワー半導体素子の端子の第2電子回路側の表面と第2電子回路基板が備える第1表面電極とを接触させることができず、これらの間に空隙が生じ、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との間の電気的接続を確保することが困難となる虞があるので望ましくない。
【0047】
ところで、前述のように、本発明に係る基板の第1表面に形成される段差の側面は、必ずしもパワー半導体素子の全ての側面に接触し得るように形成する必要が無い場合もあり得る。例えば、前述のように、積層時にパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置がずれ得る方向が特定の方向に限定される場合は、当該方向に交わるパワー半導体素子の側面と段差の側面とが接触し得るように段差を設けることにより、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置がずれることを防止することができる。
【0048】
上記のような場合においては、パワー半導体素子の側面と段差の側面とが、点接触又は線接触によって互いに接触し得るように形成されていても、パワー半導体素子と本発明に係る基板との位置合わせを正確に行うことができる。しかしながら、一般的には、積層時におけるパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置のずれは、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との接触面に平行な面内における種々の方向において起こり得る。また、積層時におけるパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置のずれは、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との接触面に垂直な軸を中心とする回転方向にも起こり得る。
【0049】
従って、パワー半導体素子と本発明に係る基板との位置合わせを正確且つ確実に行うには、複数の点又は線においてパワー半導体素子の側面と段差の側面とが接触し得るように構成することが望ましい。より好ましくは、パワー半導体素子の側面と段差の側面とが、面接触によって、互いに接触し得るように構成することが望ましい。
【0050】
従って、本発明の第3の実施態様は、
本発明の前記第1又は前記第2の実施態様の何れかに係る基板であって、
前記段差のうち少なくとも一部の段差において、前記段差の前記第1表面に交差する側面が、前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する側面に平行な面として形成されている、
基板である。
【0051】
上記のように、本実施態様に係る基板においては、第1表面に設けられた少なくとも1つの段差のうち少なくとも一部の段差において、前記段差の前記第1表面に交差する側面が、パワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する側面に平行な面として形成されている。これにより、本実施態様に係る基板によれば、パワー半導体素子の側面と段差の側面とが、面接触によって、互いに接触し得るので、パワー半導体素子と本発明に係る基板との位置合わせを正確且つ確実に行うことができる。
【0052】
ところで、前述のように、本発明に係る基板の第1表面に設けられる段差は、例えば、第1表面に設けられた突起の側面(第1表面に交差する面)によって形成されていてもよく、積層時にパワー半導体素子の側面を取り囲むように設けられたフランジ状の構造によって形成されていてもよく、あるいは積層時にパワー半導体素子が嵌合するように設けられた窪み(凹部)によって形成されていてもよい。また、かかる突起やフランジ状の構造や窪みは、パワー半導体素子の形状や第1電子回路における配置、第1電子回路と第2電子回路とを積層する製造ラインの構成等に応じて、適切な大きさ、形状、位置に配設することができる。
【0053】
更に、上記突起やフランジ状の構造や窪みによって形成される段差の側面は、第1電子回路と第2電子回路との積層時に、少なくともパワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する側面と対向する領域において、少なくとも1つの微小突起が設けられていてもよい。
【0054】
即ち、本発明の第4の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第3の実施態様の何れか1つに係る基板であって、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に、前記段差の前記側面の少なくとも前記パワー半導体素子の前記側面と対向する領域において、少なくとも1つの微小突起が設けられており、
前記パワー半導体素子の前記側面と前記突起との接触によって、前記パワー半導体素子と前記基板との相対的な位置関係が規定される、
基板である。
【0055】
上記のように、本実施態様に係る基板においては、第1電子回路と第2電子回路との積層時に、第1表面に設けられた少なくとも1つの段差の第1表面に交差する側面の少なくともパワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する側面と対向する領域において、少なくとも1つの微小突起が設けられている。本実施態様に係る基板においては、かかる構成により、段差の側面とパワー半導体素子の側面との接触面積を小さくすることができるので、例えば、後述するように、第1電子回路と第2電子回路との積層時に、パワー半導体素子が複数の段差の間に挟まれる実施態様、あるいは段差の側面と第1表面とによって画定される窪み(凹部)にパワー半導体素子が嵌合される実施態様において、パワー半導体素子を段差の間の空間や窪みに挿入する際の摩擦抵抗を低減することができる。
【0056】
ところで、前述のように、積層時におけるパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置がずれ得る方向が上記特定の方向における一方の向きにのみ限定される場合は、第2電子回路基板とパワー半導体素子との位置合わせが不十分であることに起因する、パワー半導体素子の端子と第2電子回路基板の第1表面電極との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部間での絶縁耐圧の低下等の問題を軽減するには、当該一方の向きへのパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置のずれを防止すれば十分である。従って、かかる場合においては、上記特定の方向に交わるパワー半導体素子の側面のうち、当該一方の向きに向いている側面と接触し得るように、少なくとも1つの段差を設ければ十分である。
【0057】
一方、積層時におけるパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置が、上記特定の方向における当該一方の向きのみならず、他方の向き(当該一方の向きとは逆の向き)にもずれ得る場合は、上記特定の方向に交わるパワー半導体素子の側面のうち、当該一方の向きに向いている側面と接触し得る少なくとも1つの段差に加えて、他方の向き(当該一方の向きとは逆の向き)に向いている側面と接触し得る少なくとも1つの段差を更に設ける必要がある。即ち、かかる場合においては、上記特定の方向において、少なくとも2つの段差を第2電子回路基板の第1表面上に設けて、第1電子回路と第2電子回路との積層時に、これらの段差によりパワー半導体素子を挟むように構成する必要がある。但し、この場合、これら少なくとも2つの段差は、上記特定の方向に平行な同一の線上に設けられていてもよく、あるいは、上記特定の方向に平行な個別の線上にそれぞれ設けられていてもよい。
【0058】
更に、積層時におけるパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置がずれ得る方向が上記特定の方向に限定されない場合(即ち、積層時におけるパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置が、上記特定の方向のみならず、上記特定の方向以外の別の方向においてもずれ得る場合)においては、上記特定の方向以外の別の方向に交わるパワー半導体素子の側面と段差の側面とが接触し得るように更なる段差を設けることにより、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置がずれることを防止することができる。
【0059】
上記の場合においても、上記特定の方向以外の別の方向においてパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置がずれ得る方向が上記特定の方向以外の別の方向における一方の向きにのみ限定される場合は、上述のように、上記特定の方向以外の別の方向に交わるパワー半導体素子の側面のうち、当該一方の向きに向いている側面と接触し得るように、少なくとも1つの段差を設ければ十分である。
【0060】
一方、積層時におけるパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置が、上記特定の方向以外の別の方向における当該一方の向きのみならず、他方の向き(当該一方の向きとは逆の向き)にもずれ得る場合は、上述のように、上記特定の方向以外の別の方向に交わるパワー半導体素子の側面のうち、当該一方の向きに向いている側面と接触し得る少なくとも1つの段差に加えて、他方の向き(当該一方の向きとは逆の向き)に向いている側面と接触し得る少なくとも1つの段差を更に設ける必要がある。即ち、かかる場合においては、上記特定の方向以外の別の方向において、少なくとも2つの段差を第2電子回路基板の第1表面上に設けて、第1電子回路と第2電子回路との積層時に、これらの段差によりパワー半導体素子を挟むように構成する必要がある。但し、この場合、これら少なくとも2つの段差は、上記特定の方向以外の別の方向に平行な同一の線上に設けられていてもよく、あるいは、上記特定の方向以外の別の方向に平行な個別の線上にそれぞれ設けられていてもよい。
【0061】
従って、上記の場合は、結果として、上記特定の方向及び上記特定の方向以外の別の方向において、それぞれ少なくとも2つ(1対)の段差を第2電子回路基板の第1表面上に設けて、第1電子回路と第2電子回路との積層時に、これらの少なくとも4つ(2対)の段差によりパワー半導体素子を囲むように構成する必要がある。但し、この場合、これら少なくとも2対の段差のぞれぞれの対を構成する少なくとも2つの段差は、上記特定の方向又は上記特定の方向以外の別の方向に平行な同一の線上に設けられていてもよく、あるいは、上記特定の方向又は上記特定の方向以外の別の方向に平行な個別の線上にそれぞれ設けられていてもよい。
【0062】
尚、上記説明においては、積層時におけるパワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置がずれ得る方向が特定の方向における一方の向きに限定されない場合に、第2電子回路基板とパワー半導体素子との位置合わせを十分に行い、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置のずれを防止して、パワー半導体素子の端子と第2電子回路基板の第1表面電極との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部間での絶縁耐圧の低下等の問題を軽減するための手法の具体例として、2つ(1対)又は4つ(2対)の段差によりパワー半導体素子を挟む又は囲む構成を例示した。
【0063】
しかしながら、第2電子回路基板とパワー半導体素子との位置合わせを十分に行い、パワー半導体素子の端子と第1表面電極との配置のずれを防止するための手法は上記例示に限定されるものではない。例えば、第2電子回路基板の第1表面に3つの段差を設けて、第1電子回路と第2電子回路との積層時に、これら3つの段差の側面によってパワー半導体素子が囲まれるように構成することにより、パワー半導体素子と第2電子回路基板との相対的な位置関係を一意に規定することもできる。あるいは、5つ以上の段差によって、パワー半導体素子と第2電子回路基板との相対的な位置関係を規定してもよい。
【0064】
従って、本発明の第5の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第4の実施態様の何れか1つに係る基板であって、
前記基板が複数の段差を含んでなり、
前記複数の段差により、前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に、前記パワー半導体素子及び前記基板の相対的な位置関係が一意に規定される、
基板である。
【0065】
本実施態様に係る基板において、第1表面に設けられる複数の段差は、パワー半導体素子の形状や第1電子回路における配置、第1電子回路と第2電子回路とを積層する製造ラインの構成等に応じて、第1電子回路と第2電子回路との積層時に、これら複数の段差の側面とパワー半導体素子の側面との接触により、パワー半導体素子と第2電子回路基板との相対的な位置関係が一意に規定されるように、適切な位置に配設することができる。
【0066】
より好ましい態様において、本発明に係る基板の第1表面に形成される段差の側面は、第1電子回路と第2電子回路との積層時に、パワー半導体素子の全ての側面と連続的に接触し得るように構成されていることが望ましい。
【0067】
即ち、本発明の第6の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第4の実施態様に係る基板であって、
前記段差の前記第1表面に交差する側面が、前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する全ての側面に平行な連続する面として形成されている、
基板である。
【0068】
上記のように、本実施態様に係る基板においては、第1表面に設けられた段差の第1表面に交差する側面が、パワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する全ての側面に平行な連続する面として形成されている。換言すれば、本実施態様に係る基板によれば、パワー半導体素子の全ての側面と段差の側面が、面接触によって、互いに接触し得る。更に換言すれば、本実施態様に係る基板においては、第1電子回路と第2電子回路との積層時に、段差の側面と第1表面とによって画定される窪み(凹部)にパワー半導体素子が嵌合する。これにより、積層時におけるパワー半導体素子と第2電子回路基板である本実施態様に係る基板との相対的な位置関係を一意に定めることができるので、パワー半導体素子と第2電子回路基板との位置合わせを、より正確且つ確実に行うことができる。
【0069】
ところで、各種電子回路モジュールにおいては、基板上に実装された半導体素子等の回路素子の電気的接合部が、外力や応力によって破断したり、周囲環境における湿度によって腐食したりすることを防止することを目的として、電気的接合部の周囲を充填材料によって封止することが広く行われている。また、大容量モジュールにおいては、パワー半導体素子の端子と基板の電極との電気的接合部の間での絶縁耐圧を高めることを目的として、電気的接合部の周囲を充填材料によって封止することが広く行われている(例えば、特許文献4を参照)。かかる充填材料としては、例えば、樹脂やガラス等を用いることができる。また、かかる樹脂としては、例えばエポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の液状硬化性樹脂を用いることができる。更に、かかる樹脂は、例えば酸化ケイ素等のフィラーを含有するコンポジットレジンであってもよい。尚、大容量モジュールにおいては、パワー半導体素子からの発熱による温度上昇が想定されるので、高い耐熱性を有するポリイミド樹脂やガラス等が充填材料として望ましい。
【0070】
尚、従来技術に係る基板は、本実施態様に係る基板とは異なり、段差の側面と第1表面とによって画定される窪み(凹部)を備えていない。従って、上記のようにパワー半導体素子の端子と基板の電極との電気的接合部の周囲を充填材料によって封止する場合、第2電子回路基板として従来技術に係る基板を用いる大容量モジュールにおいては、パワー半導体素子の端子と当該基板の電極との電気的接合部の周囲のみならず、第1電子回路の基板と第2電子回路の基板とによって挟まれる領域全体を充填材料によって封止せざるを得ない。その結果、従来技術に係る基板を用いる大容量モジュールにおいては、比較的大量の充填材料が必要とされる。
【0071】
一方、第2電子回路に用いられる基板として本実施態様に係る基板を用いる大容量モジュールにおいては、前述のように、本実施態様に係る基板の第1表面に形成される段差の側面と第1表面とによって画定される窪み(凹部)にパワー半導体素子が嵌合する。従って、当該窪みとパワー半導体素子との間の空隙のみを充填材料によって充填することにより、パワー半導体素子の端子と基板の電極との電気的接合部の周囲を封止することができる。これにより、封止に使用される充填材料の量を低減することができ、結果として、大容量モジュールの製造コストを削減することができる。特に、高い耐熱性を有するポリイミド樹脂は高価であるため、本実施態様に係る基板が段差の側面と第1表面とによって画定される窪みを備えることに起因するコスト削減効果は大きい。
【0072】
ところで、本発明に係る基板においては、前述のように、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子が複数の段差の間に挟まれる又は囲まれる実施態様、あるいは第1電子回路と第2電子回路との積層時に段差の側面と第1表面とによって画定される窪み(凹部)にパワー半導体素子が嵌合される実施態様が想定される。これらの実施態様において、複数の段差によって挟まれる又は囲まれる空間あるいは段差の側面と第1表面とによって画定される窪みへのパワー半導体素子の嵌合を容易なものとするには、かかる空間又は窪みの第1表面に平行な平面による断面が、パワー半導体素子の第1表面に平行な平面による断面よりも若干大きいことが望ましい。但し、上記空間又は窪みとパワー半導体素子の外形との寸法差は、かかる実施態様に係る基板とパワー半導体素子との位置合わせを正確に行うことが困難となる程度にまで過大なものではないことが望ましい。
【0073】
具体的には、上記寸法差によって生ずるパワー半導体素子の側面と段差の側面との間の空隙の大きさ(第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子と第2電子回路基板との相対的な位置関係を規定するパワー半導体素子の側面と段差の側面又は側面に設けられた突起との距離)は、10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、且つ500μm未満、より好ましくは100μm未満であることが望ましい。換言すれば、当該空隙の大きさは、パワー半導体素子の第1表面に平行な平面による断面の等価円直径の0.1%以上、より好ましくは0.2%以上であり、且つ10%未満、より好ましくは2%未満であることが望ましい。
【0074】
従って、本発明の第7の実施態様は、
本発明の前記第5又は前記第6の実施態様の何れか1つに係る基板であって、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子と前記基板との相対的な位置関係を規定する前記パワー半導体素子の前記側面と前記段差の前記側面又は前記側面に設けられた前記突起との距離が、10μm以上であり、且つ500μm未満である、
基板である。
【0075】
上述のように、本実施態様に係る基板において、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子と第2電子回路基板との相対的な位置関係を規定するパワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する側面と段差の第1表面に交差する側面又は当該側面に設けられた突起との距離は10μm以上である。当該距離が10μm未満であると、複数の段差によって挟まれる又は囲まれる空間あるいは段差の側面と第1表面とによって画定される窪みへのパワー半導体素子の嵌合が困難となるので望ましくない。より好ましくは、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子と第2電子回路基板との相対的な位置関係を規定するパワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する側面と段差の第1表面に交差する側面又は当該側面に設けられた突起との距離は20μm以上である。
【0076】
一方、本実施態様に係る基板において、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子と第2電子回路基板との相対的な位置関係を規定するパワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する側面と段差の第1表面に交差する側面又は当該側面に設けられた突起との距離は500μm未満である。当該距離が500μm以上であると、第2電子回路基板とパワー半導体素子との位置合わせを正確に行うことが困難となるので望ましくない。より好ましくは、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子と第2電子回路基板との相対的な位置関係を規定するパワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する側面と段差の第1表面に交差する側面又は当該側面に設けられた突起との距離は100μm未満である。
【0077】
また、本発明の第8の実施態様は、
本発明の前記第5又は前記第6の実施態様の何れか1つに係る基板であって、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子と前記基板との相対的な位置関係を規定する前記パワー半導体素子の前記側面と前記段差の前記側面又は前記側面に設けられた前記突起との距離が、前記パワー半導体素子の前記第1表面に平行な平面による断面の等価円直径の0.1%以上であり、且つ10%未満である、
基板である。
【0078】
上述のように、本実施態様に係る基板において、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子と第2電子回路基板との相対的な位置関係を規定するパワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する側面と段差の第1表面に交差する側面又は当該側面に設けられた突起との距離は、パワー半導体素子の第1表面に平行な平面による断面の等価円直径の0.1%以上である。当該距離が当該等価円直径の0.1%未満であると、複数の段差によって挟まれる又は囲まれる空間あるいは段差の側面と第1表面とによって画定される窪みへのパワー半導体素子の嵌合が困難となるので望ましくない。より好ましくは、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子と第2電子回路基板との相対的な位置関係を規定するパワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する側面と段差の第1表面に交差する側面又は当該側面に設けられた突起との距離は、当該等価円直径の0.2%以上である。
【0079】
一方、本実施態様に係る基板において、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子と第2電子回路基板との相対的な位置関係を規定するパワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する側面と段差の第1表面に交差する側面又は当該側面に設けられた突起との距離は、パワー半導体素子の第1表面に平行な平面による断面の等価円直径の10%未満である。当該距離が当該等価円直径の10%以上であると、第2電子回路基板とパワー半導体素子との位置合わせを正確に行うことが困難となるので望ましくない。より好ましくは、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子と第2電子回路基板との相対的な位置関係を規定するパワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する側面と段差の第1表面に交差する側面又は当該側面に設けられた突起との距離は、当該等価円直径の2%未満である100μm未満である。
【0080】
ところで、前述のように、大容量モジュールを構成する各種回路基板を積層して当該モジュールを小型軽量化する場合、スイッチング素子等のパワー半導体素子からの発熱により、大容量モジュールの温度が著しく上昇する場合がある。また、周辺回路基板(第2電子回路基板)の電極とパワー半導体素子の端子との電気的接続を形成する際にも、大容量モジュールの温度が著しく上昇する場合がある。このような場合、大きい熱膨張係数を有する材料(例えば、樹脂等)を第2電子回路基板の基材として使用すると、比較的小さい熱膨張係数を有する材料(例えば、シリコン等)によって構成されるパワー半導体素子との熱膨張の程度の違いにより、周辺回路基板(第2電子回路基板)の電極とパワー半導体素子の端子との接合部に応力が作用したり、周辺回路基板(第2電子回路基板)の電極とパワー半導体素子の端子との位置合わせの精度が低下したりする問題が生ずる虞がある。
【0081】
一方、当該技術分野においては、IGBTやMOSFET等を含むパワー半導体素子の損失改善策として、従来使用されてきたシリコン(Si)ウェーハに代えて、シリコンカーバイド(SiC)ウェーハを使用することが提案されている。このSiCウェーハは、従来のSiウェーハと比較して、高温での動作が可能であるという特徴を有している(例えば、非特許文献1を参照)。これにより、従来のSiウェーハを使用するパワーモジュールにおいては必須であった冷却機構(例えば、ヒートシンクや水冷機構等)を大幅に簡略化することができる。その結果、SiCウェーハを使用することにより、パワーモジュールの小型軽量化を図ることができる。しかしながら、SiCウェーハの使用に伴うパワーモジュールの動作温度の上昇により、前述のようなパワー半導体素子からの発熱に起因する種々の問題がより一層厳しいものとなる傾向にある。
【0082】
以上のような背景から、大容量モジュールにおいて、パワー半導体素子を含む第1電子回路のパワー半導体素子が配設されている側にパワー半導体素子を介して積層される第2電子回路に用いられる第2回路基板の基材は、小さい熱膨張係数を有する材料によって構成されることが望ましい。具体的には、第2電子回路基板として使用される本発明に係る基板の基材を構成する誘電体層は、主としてセラミックを含んでなることが望ましい。
【0083】
従って、本発明の第9の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第8の実施態様の何れかに係る基板であって、
前記誘電体層が、主としてセラミックを含んでなる、
基板である。
【0084】
上記のように、本実施態様に係る基板においては、当該基板の基材を構成する誘電体層が主としてセラミックを含んでなる。セラミックは、例えば樹脂等の従来の基板の基材と比較して、より小さい熱膨張係数を有する材料である。従って、本実施態様に係る基板においては、前述のように、当該基板を用いる大容量モジュールの温度が著しく上昇した場合においても、パワー半導体素子との熱膨張の程度の違いが過大となることが抑制される。その結果、本実施態様に係る基板によれば、周辺回路基板(第2電子回路基板)の電極とパワー半導体素子の端子との接合部に応力が作用したり、周辺回路基板(第2電子回路基板)の電極とパワー半導体素子の端子との位置合わせの精度が低下したりする問題を低減することができる。
【0085】
ところで、本実施態様に係る基板を製造する方法は、上記要件を満たす限り、如何なる方法であってもよく、当該技術分野においてセラミック製の基板の製造に使用される種々の方法から適宜選択することができる。本実施態様に係る基板を製造する方法の具体例としては、例えば、所謂「ゲルキャスト法」や「ドクターブレード法」等を挙げることができる。
【0086】
上記ゲルキャスト法を採用する場合は、例えば、フィルム状または薄板状の保護基材の表面に、例えばスクリーン印刷法等の印刷法によって導体パターンを配設し、導体パターンが配設されなかった部分にはセラミック等の誘電体材料のスラリーを注入し、当該スラリーを固化させて得られる導体パターンが埋設された誘電体材料のシートを必要な枚数だけ積層して、導体パターンを表面電極や内層電極として構成し、焼成することによって、本実施態様に係る基板を得ることができる。
【0087】
上記保護基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等の樹脂フィルムを用いることが望ましく、また樹脂フィルム以外にも、ガラス板や紙、金属などのフィルム状または板状の種々の材料を用いることができる。但し、保護基材としては、剥離操作の容易性の観点から、可撓性を備えたものを用いることが好ましい。
【0088】
また、例えば、上記誘電体材料のシートを保護基材から容易に剥離することができるようにすること等を目的として、上記保護基材の表面には、例えば、剥離剤等が塗布されていてもよい。かかる剥離剤には、例えば、当該技術分野において離型剤として知られている各種薬剤が含まれる。より具体的には、かかる剥離剤としては、公知のシリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤等を使用することができる。
【0089】
上記導体パターンは、主成分として、例えば、金、銀、銅等から選ばれる少なくとも1種類以上の金属と熱硬化性樹脂前駆体を含んでなる導体ペーストを、例えば、スクリーン印刷等の方法により上記保護基材の表面上に形成することによって配設されることが望ましい。かかる熱硬化性樹脂前駆体としては、フェノール樹脂、レゾール樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等を使用することができる。これらの中では、フェノール樹脂、レゾール樹脂であることが特に好ましい。かかる導体ペーストを上記保護基材の表面上に印刷した後、この導体ペーストに含まれるバインダーを硬化させることによって、導体パターンを得ることができる。
【0090】
上記誘電体材料のスラリーとしては、例えば、樹脂、セラミック粉末、及び溶剤を含んでなるスラリーを挙げることができる。ここで、樹脂は所謂「バインダー」として機能するものであり、例えば、フェノール樹脂、レゾール樹脂、若しくはポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂、又はポリオール及びポリイソシアネートを含んでなるポリウレタン前駆体等を使用することができる。これらの中では、ポリオール及びポリイソシアネートを含んでなる熱硬化性樹脂前駆体が特に好ましい。
【0091】
セラミック粉末として使用されるセラミック材料としては、酸化物系セラミック又は非酸化物系セラミックの何れを使用してもよい。例えば、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、酸化バリウム(BaO)、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ネオジム(Nd)等を使用することができる。また、これらの材料は、1種類単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。更に、スラリーを調製可能な限りにおいて、セラミック材料の粒子径は特に限定されない。
【0092】
また、上記溶剤としては、上記バインダーとしての樹脂(及び、使用する場合には分散剤)を溶解するものであれば特に限定されない。溶剤の具体例としては、例えば、多塩基酸エステル(例えば、グルタル酸ジメチル等)、多価アルコールの酸エステル(例えば、トリアセチン(グリセリルトリアセテート)等)等の、2以上のエステル結合を有する溶剤を挙げることができる。
【0093】
更に、上記誘電体材料のスラリーは、上述の樹脂、セラミック粉末、及び溶剤以外に、分散剤を含んでいてもよい。分散剤の具体例としては、例えば、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩等を挙げることができる。かかる分散剤を添加することにより、成形前のスラリーを低粘度とし、且つ高い流動性を有するものとすることができる。
【0094】
ところで、前述のように、本発明は、大容量モジュールの周辺回路用の回路基板に関する。より詳細には、本発明は、例えば、ハイブリッドカーや電気自動車において使用されるインバータ等のパワーモジュールを始めとする大容量モジュールにおいて、パワー半導体素子を含む回路と積層される周辺回路用の回路基板に関する。更に、本発明は、当該回路基板を用いる周辺回路を含む大容量モジュールにも関する。
【0095】
ここで、大容量モジュールとは、前述のように、例えば、インバータ等のパワーモジュールを始めとする、大電力を扱うモジュールを指す。かかる大容量モジュールは、前述のように、例えば、ハイブリッドカーや電気自動車等の普及に伴い、従来よりも更なる小型軽量化及び高効率化が益々強く求められている。
【0096】
上述の要求に応えるには、大容量モジュールに含まれる周辺回路において、本発明に係る基板を用いることが望ましい。これにより、大容量モジュールを構成する各種回路基板を積層して当該モジュールを小型軽量化する際に、パワー半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子とによって構成される接合部におけるパワー半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子との位置合わせを正確に行い、パワー半導体素子の端子と配線基板の表面電極やリードフレーム端子とによって構成される接合部において電気抵抗が大きくなったり、隣り合う接合部の間における絶縁耐圧が不十分になったりする問題を低減することができる。従って、本発明の前述の各種実施態様及びその他の多種多様な変形例に係る基板を用いる周辺回路を含む大容量モジュールもまた、本発明の範囲に含まれる。
【0097】
即ち、本発明の第10の実施態様は、
パワー半導体素子を含む第1電子回路、
前記第1電子回路の前記パワー半導体素子が配設されている側に前記パワー半導体素子を介して積層される第2電子回路、
を含んでなる大容量モジュールであって、
前記第2電子回路に用いられる第2回路基板である基板が、誘電体層からなる基材と、前記基材の内部に埋設された内層電極と、前記基板の前記第1電子回路側の表面である第1表面に形成された第1表面電極と、前記第1表面に設けられた少なくとも1つの段差と、を含んでなり、
前記内層電極及び前記第1表面電極の少なくとも一部の前記第1表面に直交する方向における厚みが50μm以上であり、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子及び前記基板が前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する側面と前記段差の前記第1表面に交差する側面との接触によって規定される相対的な位置関係にある場合に、前記パワー半導体素子の個々の端子と個々の前記第1表面電極とが対向するように、前記段差が形成されている、
大容量モジュールである。
【0098】
また、本発明の第11の実施態様は、
本発明の前記第10の実施態様に係る大容量モジュールであって、
前記第1表面に直交する方向における前記段差の高さと前記第1表面電極の表面との間の高低差が、10μm以上であり、且つ前記第1表面に直交する方向における前記パワー半導体素子の端子の前記第2回路側の表面と前記第1回路に用いられる第1回路基板の前記第2回路側の表面との間の高低差以下である、
大容量モジュールである。
【0099】
更に、本発明の第12の実施態様は、
本発明の前記第10又は前記第11の実施態様の何れか1つに係る大容量モジュールであって、
前記段差のうち少なくとも一部の段差において、前記段差の前記第1表面に交差する側面が、前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する側面に平行な面として形成されている、
大容量モジュールである。
【0100】
加えて、本発明の第13の実施態様は、
本発明の前記第10乃至前記第12の実施態様の何れか1つに係る大容量モジュールであって、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に、前記段差の前記側面の少なくとも前記パワー半導体素子の前記側面と対向する領域において、少なくとも1つの微小突起が設けられており、
前記パワー半導体素子の前記側面と前記突起との接触によって、前記パワー半導体素子と前記基板との相対的な位置関係が規定される、
大容量モジュールである。
【0101】
上記のように、本実施態様に係る大容量モジュールにおいては、第1電子回路と第2電子回路との積層時に、第1表面に設けられた少なくとも1つの段差の第1表面に交差する側面の少なくともパワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する側面と対向する領域において、少なくとも1つの微小突起が設けられている。本実施態様に係る基板においては、かかる構成により、段差の側面とパワー半導体素子の側面との接触面積を小さくすることができるので、例えば、後述するように、第1電子回路と第2電子回路との積層時に、パワー半導体素子が複数の段差の間に挟まれる実施態様、あるいは段差の側面と第1表面とによって画定される窪み(凹部)にパワー半導体素子が嵌合される実施態様において、パワー半導体素子を段差の間の空間や窪みに挿入する際の摩擦抵抗を低減することができる。加えて、段差の間の空間や窪みにおけるパワー半導体素子の位置を更に正確且つ確実に固定することができる。
【0102】
更に、段差の側面と第1表面とによって画定される窪みにパワー半導体素子が嵌合される実施態様においては、前述のように、パワー半導体素子の端子と第2電子回路基板の第1表面電極との電気的接合部の周囲を充填材料によって封止して、当該電気的接合部が外力や応力によって破断したり、周囲環境における湿度によって腐食したりすることを防止することができる。かかる場合において、本実施態様に係る大容量モジュールによれば、段差の側面に設けられた微小突起により、段差の側面と第1表面とによって画定される窪みとパワー半導体素子との間の空隙を確実且つ均一に確保することができる。
【0103】
また、本発明の第14の実施態様は、
本発明の前記第10乃至前記第13の実施態様の何れか1つに係る大容量モジュールであって、
前記基板が複数の段差を含んでなり、
前記複数の段差により、前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に、前記パワー半導体素子及び前記基板の相対的な位置関係が一意に規定される、
大容量モジュールである。
【0104】
更に、本発明の第15の実施態様は、
本発明の前記第10乃至前記第13の実施態様の何れか1つに係る大容量モジュールであって、
前記段差の前記第1表面に交差する側面が、前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する全ての側面に平行な連続する面として形成されている、
大容量モジュールである。
【0105】
ところで、上記のように、本実施態様に係る大容量モジュールにおいては、第1表面に設けられた段差の第1表面に交差する側面が、パワー半導体素子の第1表面に対向する表面に交差する全ての側面に平行な連続する面として形成されている。換言すれば、本実施態様に係る大容量モジュールにおいては、第2電子回路基板の第1表面に形成される段差の側面と第1表面とによって画定される窪み(凹部)にパワー半導体素子が嵌合している。従って、当該窪みとパワー半導体素子との間の空隙のみを充填材料によって充填することにより、パワー半導体素子の端子と基板の電極との電気的接合部の周囲を封止することができる。これにより、封止に使用される充填材料の量を低減することができ、結果として、大容量モジュールの製造コストを削減することができる。特に、高い耐熱性を有するポリイミド樹脂は高価であるため、本実施態様に係るモジュールに用いられる第2電子回路基板が段差の側面と第1表面とによって画定される窪みを備えることに起因するコスト削減効果は大きい。
【0106】
従って、本発明の第16の実施態様は、
本発明の前記第15の実施態様に係る大容量モジュールであって、
前記段差の前記第1表面に交差する側面及び前記第1表面によって画定される凹部と当該凹部に嵌合された前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面及び当該表面に交差する側面との間の空隙に絶縁材料が充填されている、
大容量モジュールである。
【0107】
また、本発明の第17の実施態様は、
本発明の前記第14又は前記第15の実施態様の何れか1つに係る大容量モジュールであって、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子と前記基板との相対的な位置関係を規定する前記パワー半導体素子の前記側面と前記段差の前記側面又は前記側面に設けられた前記突起との距離が、10μm以上であり、且つ500μm未満である、
大容量モジュールである。
【0108】
更に、本発明の第18の実施態様は、
本発明の前記第14又は前記第15の実施態様の何れか1つに係る大容量モジュールであって、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子と前記基板との相対的な位置関係を規定する前記パワー半導体素子の前記側面と前記段差の前記側面又は前記側面に設けられた前記突起との距離が、パワー半導体素子の第1表面に平行な平面による断面の等価円直径の0.1%以上であり、且つ10%未満である、
大容量モジュールである。
【0109】
加えて、本発明の第19の実施態様は、
本発明の前記第10乃至前記第18の実施態様の何れか1つに係る大容量モジュールであって、
前記誘電体層が、主としてセラミックを含んでなる、
大容量モジュールである。
【0110】
以下、本発明の幾つかの実施態様に係る基板及び大容量モジュールの構成等につき、添付図面等を参照しつつ説明する。但し、以下に述べる説明はあくまでも例示を目的とするものであり、本発明の範囲が以下の説明に限定されるものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0111】
実施例1.本発明の実施態様に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成
前述のように、図1は、第1表面に設けられた窪み(凹部)によって形成された段差を有する本発明の1つの実施態様に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施例に係る大容量モジュールにおいては、本発明の1つの実施態様に係る基板である第2電子回路基板10の第1表面に設けられた窪み(凹部)によって段差11が形成されている。また、第1電子回路基板10は、誘電体層からなる基材14と、基材14の内部に埋設された内層電極15と、基板の第1電子回路側の表面である第1表面に形成された第1表面電極16と、を含んでなる。本実施例においては、第1表面電極16は、基材14の内部に埋設され、パワー半導体素子21の端子に対向する面が第1表面において露出している。
【0112】
第2電子回路基板10の第1表面電極16とは反対側の表面である第2表面上には、3つの回路素子12が配設されている。回路素子12は、第1電子回路基板10の基材14の内部に埋設された内層電極15を介して、第1表面電極16と電気的に接続されている。一方、第1電子回路基板20のパワー半導体素子21が配設されている表面とは反対側の表面には、パワー半導体素子21から発生する熱を放出するためのヒートシンク22が設けられている。更に、ヒートシンク22及び第2電子回路基板10の外縁部には、ヒートシンク22と第2電子回路基板10とを接続するケース30が設けられている。
【0113】
第1表面電極16は、第1電子回路20と第2電子回路10との積層時に、段差11を形成する窪み(凹部)に第1電子回路基板20上に配設されたパワー半導体素子21が嵌合することによって第2電子回路基板10とパワー半導体素子21との位置合わせが行われた状態においてパワー半導体素子21の端子と対向するように、段差11を形成する窪み(凹部)の底面に配設されている。かかる構成により、本実施例に係る大容量モジュールにおいては、第2電子回路基板10とパワー半導体素子21との位置合わせを正確且つ容易に行うことができる。即ち、本実施例に係る大容量モジュールにおいては、第2電子回路基板10の第1表面電極16とパワー半導体素子21の端子との位置合わせをより正確に行うことができる。その結果、本実施例に係る大容量モジュールにおいては、パワー半導体素子21の端子と第2電子回路基板10の第1表面電極16との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部間での絶縁耐圧の低下等の問題を軽減することができる。
【0114】
実施例2.本発明の実施態様に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成
前述のように、図2は、第2電子回路基板上にヒートシンクが配設された、図1に示す実施態様の変形例に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成を示す模式図である。図2に示すように、本実施例に係る大容量モジュールは、第2電子回路基板10の第2表面上に配設された3つの回路素子12のうち、中央の回路素子12がヒートシンク13に置き換えられている点を除き、図1に示す大容量モジュールと同じ構成を有する。
【0115】
本実施例に係る大容量モジュールにおいては、パワー半導体素子21の端子と第1表面電極16とが、ワイヤ等を介すること無く、直接的に接続されているので、パワー半導体素子21から発生する熱を、第2電子回路基板10の第2表面側に配設されたヒートシンク13に効率良く伝達することができる。従って、本実施例に係る基板を用いる大容量モジュールにおいては、第1電子回路基板20の第2電子回路とは反対側の表面及び第2電子回路基板10の第2表面に、ヒートシンク22及び13がそれぞれ配設されており、これらの両方のヒートシンクにより、パワー半導体素子21から発生する熱を、より効率良く放出することができる。
【0116】
実施例3.本発明の実施態様に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成
前述のように、図3は、第1表面に設けられた突起によって形成された段差を有する本発明の1つの実施態様に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成を示す模式図である。図3に示すように、本実施例に係る大容量モジュールは、第1表面に設けられた突起によって段差11が形成されている点、及び第1表面電極16が、第2電子回路基板10の(基材14の内部に埋設されているのではなく)第1表面上に配設されている点を除き、図1に示す大容量モジュールと同様の構成を有する。
【0117】
本実施例に係る大容量モジュールにおいても、図1に示す実施態様と同様に、段差11を形成する突起の間にパワー半導体素子21が嵌合することによって第2電子回路基板10とパワー半導体素子21との位置合わせが行われる。これにより、本実施例に係る大容量モジュールにおいては、第2電子回路基板10とパワー半導体素子21との位置合わせを正確且つ容易に行うことができる。即ち、本実施例に係る大容量モジュールにおいては、第2電子回路基板10の第1表面電極16とパワー半導体素子21の端子との位置合わせをより正確に行うことができる。その結果、本実施例に係る大容量モジュールにおいては、パワー半導体素子21の端子と第2電子回路基板10の第1表面電極16との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部間での絶縁耐圧の低下等の問題を軽減することができる。
【0118】
実施例4.本発明の実施態様に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成
前述のように、図4は、第1表面電極がリードフレームによって形成された、図3に示す実施態様の変形例に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成を示す模式図である。図4に示すように、本実施例に係る大容量モジュールは、第1表面電極16が第2電子回路基板10の第1表面上に配設されたリードフレーム17に置き換えられている点、及び段差11を形成する突起の高さ(高低差)がより大きい点を除き、図3に示す大容量モジュールと同様の構成を有する。
【0119】
本実施例に係る大容量モジュールにおいては、第1表面電極16がリードフレーム17に置き換えられている(リードフレーム17が第1表面電極16を構成している)しており、パワー半導体素子21の端子との接触面が、第2電子回路基板10の第1表面から大きく突出している。従って、第2電子回路基板10とパワー半導体素子21との位置合わせを正確且つ容易に行うためには、本実施例に係る大容量モジュールにおけるように、段差111を形成する突起の高さ(高低差)をより大きくすることが望ましい。
【0120】
比較例1.従来技術に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成
前述のように、図5は、従来技術に係る基板を周辺回路基板(第2電子回路基板)として用いる大容量モジュールにおける充填材料の充填状況を示す模式図である。図5に示すように、従来技術に係る基板には段差11が形成されていない。従って、従来技術に係る基板は、本発明に係る基板とは異なり、第2電子回路基板10とパワー半導体素子21との正確且つ容易な位置合わせを可能とすることはできない。その結果、本比較例に係る大容量モジュールにおいては、第2電子回路基板10とパワー半導体素子21との位置合わせが不十分であることに起因する、パワー半導体素子21の端子と第2電子回路基板10の第1表面電極16との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部間での絶縁耐圧の低下等の問題が生ずる虞がある。
【0121】
また、本比較例に係る大容量モジュールにおいて第2電子回路基板10として用いられる従来技術に係る基板は、第1電子回路基板20との積層時にパワー半導体素子21を嵌合させる窪み(凹部)を備えていない。従って、前述のように第2電子回路基板10の第1表面電極16とパワー半導体素子21の端子との電気的接合部の破断や腐食の防止及び絶縁耐圧の向上を目的として、電気的接合部の周囲を充填材料によって封止しようとする場合は、図5に示すように、第2電子回路基板10、第1電子回路基板20、及びケース30によって囲まれる領域に含まれる全ての空隙全体を充填材料31によって封止せざるを得ない。その結果、従来技術に係る基板を用いる本比較例に係る大容量モジュールにおいては、比較的大量の充填材料が必要とされる。
【0122】
実施例5.本発明の実施態様に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成
前述のように、図6は、本発明の1つの実施態様に係る基板を周辺回路基板(第2電子回路基板)として用いる大容量モジュールにおける充填材料の充填状況を示す模式図である。図6に示すように、本実施例に係る大容量モジュールは、段差11を形成する第2電子回路基板10の第1表面に設けられた窪み(凹部)の内壁面と当該窪み(凹部)に嵌合しているパワー半導体素子21の外壁面との間の空隙に充填材料31が充填されている点を除き、図2に示す大容量モジュールと同様の構成を有する。
【0123】
図6に示すように、第2電子回路基板10として本発明の1つの実施態様に係る基板を用いる本実施例に係る大容量モジュールにおいては、前述の比較例1に係る大容量モジュールとは異なり、第2電子回路基板10の第1表面に形成される窪み(凹部)とパワー半導体素子21との間の空隙のみを充填材料31によって充填することにより、パワー半導体素子21の端子と第2電子回路基板10の第1表面電極16との電気的接合部の周囲を封止することができる。これにより、封止に使用される充填材料31の量を低減することができ、結果として、大容量モジュールの製造コストを削減することができる。
【0124】
実施例6.本発明の実施態様に係る基板及び当該基板を含む大容量モジュールの構成
前述のように、図7は、本発明の実施態様に係る基板を周辺回路基板(第2電子回路基板)として用いる大容量モジュールにおける第2電子回路基板の第1表面に設けられた窪み(凹部)へのパワー半導体素子の嵌合状況を示す模式図である。より詳しくは、図7(a)は、図1に示す大容量モジュールの線A−A’による横断面図である。また、図7(b)は、第2電子回路基板の第1表面に設けられた窪みによって形成された段差の側面に突起を有する本発明の1つの実施態様に係る基板を含む大容量モジュールの横断面図である。尚、図7においては、(a)及び(b)の何れにおいても、第2電子回路基板10の内部に埋設された内層電極は省略されている。
【0125】
図7(a)に示す実施例に係る大容量モジュールにおいては、第2電子回路基板10の第1表面に設けられた段差によって画定される窪みにパワー半導体素子21が嵌合している。本実施例においては、第2電子回路基板10の第1表面に設けられた段差によって画定される窪みへのパワー半導体素子21の嵌合を容易なものとするために、当該窪みの第1表面に平行な平面による断面が、パワー半導体素子21の第1表面に平行な平面による断面よりも若干大きくなるように構成されている。本実施例におけるパワー半導体素子21の側面と段差の側面との間の空隙の大きさは、前述のように、10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、且つ500μm未満、より好ましくは100μm未満である。換言すれば、当該空隙の大きさは、パワー半導体素子21の第1表面に平行な平面による断面の等価円直径の0.1%以上、より好ましくは0.2%以上であり、且つ10%未満、より好ましくは2%未満である。
【0126】
一方、図7(b)に示す実施例に係る大容量モジュールにおいては、第2電子回路基板10の第1表面に設けられた段差の側面に設けられた複数の微小突起18によって画定される空間にパワー半導体素子21が嵌合している。本実施例においては、第2電子回路基板10の第1表面に設けられた段差の側面に設けられた微小突起18によって画定される空間へのパワー半導体素子21の嵌合を容易なものとするために、当該空間の第1表面に平行な平面による断面が、パワー半導体素子21の第1表面に平行な平面による断面よりも若干大きくなるように構成されている。本実施例においては、パワー半導体素子21の側面と段差の側面に設けられた微小突起18との間の空隙の大きさが、前述のように、10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、且つ500μm未満、より好ましくは100μm未満である。換言すれば、当該空隙の大きさは、パワー半導体素子21の第1表面に平行な平面による断面の等価円直径の0.1%以上、より好ましくは0.2%以上であり、且つ10%未満、より好ましくは2%未満である。
【0127】
図7(a)及び(b)に示す何れの実施例に係る大容量モジュールにおいても、第2電子回路基板10の第1表面に設けられた段差によって画定される窪み又は第2電子回路基板10の第1表面に設けられた段差の側面に設けられた複数の微小突起18によって画定される空間にパワー半導体素子21が嵌合することによって、第2電子回路基板10とパワー半導体素子21との位置合わせが正確且つ確実に行われる。これにより、これらの実施例に係る大容量モジュールにおいても、第2電子回路基板とパワー半導体素子21との位置合わせを正確且つ容易に行うことができる。その結果、これらの実施例に係る大容量モジュールにおいては、パワー半導体素子21の端子と第2電子回路基板10の第1表面電極との接合部における電気抵抗の増大や隣り合う接合部間での絶縁耐圧の低下等の問題を軽減することができる。
【0128】
また、図7(b)に示す実施例に係る大容量モジュールにおいては、第2電子回路基板10の第1表面に設けられた段差の側面に設けられた複数の微小突起18により、第1電子回路と第2電子回路との積層時にパワー半導体素子21と第2電子回路基板10との接触面積を低減するので、パワー半導体素子21を第2電子回路基板10に挿入する際の摩擦抵抗を低減することができる。
【0129】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施態様について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることができることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0130】
10…第2電子回路基板、11…段差、12…回路素子、13…ヒートシンク、14…基材、15…内層電極、16…第1表面電極、17…リードフレーム、18…微小突起、20…第1電子回路基板、21…パワー半導体素子、22…ヒートシンク、30…ケース、及び31…充填材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体素子を含む第1電子回路の前記パワー半導体素子が配設されている側に前記パワー半導体素子を介して積層される第2電子回路に用いられる第2回路基板である基板であって、
前記基板が、誘電体層からなる基材と、前記基材の内部に埋設された内層電極と、前記基板の前記第1電子回路側の表面である第1表面に形成された第1表面電極と、前記第1表面に設けられた少なくとも1つの段差と、を含んでなり、
前記内層電極及び前記第1表面電極の少なくとも一部の前記第1表面に直交する方向における厚みが50μm以上であり、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子及び前記基板が前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する側面と前記段差の前記第1表面に交差する側面との接触によって規定される相対的な位置関係にある場合に、前記パワー半導体素子の個々の端子と個々の前記第1表面電極とが対向するように、前記段差が形成されている、
基板。
【請求項2】
請求項1に記載の基板であって、
前記第1表面に直交する方向における前記段差の高さと前記第1表面電極の表面との間の高低差が、10μm以上であり、且つ前記第1表面に直交する方向における前記パワー半導体素子の端子の前記第2回路側の表面と前記第1回路に用いられる第1回路基板の前記第2回路側の表面との間の高低差以下である、
基板。
【請求項3】
請求項1又は2の何れか1項に記載の基板であって、
前記段差のうち少なくとも一部の段差において、前記段差の前記第1表面に交差する側面が、前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する側面に平行な面として形成されている、
基板。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の基板であって、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に、前記段差の前記側面の少なくとも前記パワー半導体素子の前記側面と対向する領域において、少なくとも1つの微小突起が設けられており、
前記パワー半導体素子の前記側面と前記突起との接触によって、前記パワー半導体素子と前記基板との相対的な位置関係が規定される、
基板。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の基板であって、
前記基板が複数の段差を含んでなり、
前記複数の段差により、前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に、前記パワー半導体素子及び前記基板の相対的な位置関係が一意に規定される、
基板。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の基板であって、
前記段差の前記第1表面に交差する側面が、前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する全ての側面に平行な連続する面として形成されている、
基板。
【請求項7】
請求項5又は6の何れか1項に記載の基板であって、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子と前記基板との相対的な位置関係を規定する前記パワー半導体素子の前記側面と前記段差の前記側面又は前記側面に設けられた前記突起との距離が、10μm以上であり、且つ500μm未満である、
基板。
【請求項8】
請求項5又は6の何れか1項に記載の基板であって、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子と前記基板との相対的な位置関係を規定する前記パワー半導体素子の前記側面と前記段差の前記側面又は前記側面に設けられた前記突起との距離が、前記パワー半導体素子の前記第1表面に平行な平面による断面の等価円直径の0.1%以上であり、且つ10%未満である、
基板。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の基板であって、
前記誘電体層が、主としてセラミックを含んでなる、
基板。
【請求項10】
パワー半導体素子を含む第1電子回路、
前記第1電子回路の前記パワー半導体素子が配設されている側に前記パワー半導体素子を介して積層される第2電子回路、
を含んでなる大容量モジュールであって、
前記第2電子回路に用いられる第2回路基板である基板が、誘電体層からなる基材と、前記基材の内部に埋設された内層電極と、前記基板の前記第1電子回路側の表面である第1表面に形成された第1表面電極と、前記第1表面に設けられた少なくとも1つの段差と、を含んでなり、
前記内層電極及び前記第1表面電極の少なくとも一部の前記第1表面に直交する方向における厚みが50μm以上であり、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子及び前記基板が前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する側面と前記段差の前記第1表面に交差する側面との接触によって規定される相対的な位置関係にある場合に、前記パワー半導体素子の個々の端子と個々の前記第1表面電極とが対向するように、前記段差が形成されている、
大容量モジュール。
【請求項11】
請求項10に記載の大容量モジュールであって、
前記第1表面に直交する方向における前記段差の高さと前記第1表面電極の表面との間の高低差が、10μm以上であり、且つ前記第1表面に直交する方向における前記パワー半導体素子の端子の前記第2回路側の表面と前記第1回路に用いられる第1回路基板の前記第2回路側の表面との間の高低差以下である、
大容量モジュール。
【請求項12】
請求項10又は11の何れか1項に記載の大容量モジュールであって、
前記段差のうち少なくとも一部の段差において、前記段差の前記第1表面に交差する側面が、前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する側面に平行な面として形成されている、
大容量モジュール。
【請求項13】
請求項10乃至12の何れか1項に記載の大容量モジュールであって、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に、前記段差の前記側面の少なくとも前記パワー半導体素子の前記側面と対向する領域において、少なくとも1つの微小突起が設けられており、
前記パワー半導体素子の前記側面と前記突起との接触によって、前記パワー半導体素子と前記基板との相対的な位置関係が規定される、
大容量モジュール。
【請求項14】
請求項10乃至13の何れか1項に記載の大容量モジュールであって、
前記基板が複数の段差を含んでなり、
前記複数の段差により、前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に、前記パワー半導体素子及び前記基板の相対的な位置関係が一意に規定される、
大容量モジュール。
【請求項15】
請求項10乃至13の何れか1項に記載の大容量モジュールであって、
前記段差の前記第1表面に交差する側面が、前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面に交差する全ての側面に平行な連続する面として形成されている、
大容量モジュール。
【請求項16】
請求項15に記載の大容量モジュールであって、
前記段差の前記第1表面に交差する側面及び前記第1表面によって画定される凹部と当該凹部に嵌合された前記パワー半導体素子の前記第1表面に対向する表面及び当該表面に交差する側面との間の空隙に絶縁材料が充填されている、
大容量モジュール。
【請求項17】
請求項14又は15の何れか1項に記載の大容量モジュールであって、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子と前記基板との相対的な位置関係を規定する前記パワー半導体素子の前記側面と前記段差の前記側面又は前記側面に設けられた前記突起との距離が、10μm以上であり、且つ500μm未満である、
大容量モジュール。
【請求項18】
請求項14又は15の何れか1項に記載の大容量モジュールであって、
前記第1電子回路と前記第2電子回路との積層時に前記パワー半導体素子と前記基板との相対的な位置関係を規定する前記パワー半導体素子の前記側面と前記段差の前記側面又は前記側面に設けられた前記突起との距離が、パワー半導体素子の第1表面に平行な平面による断面の等価円直径の0.1%以上であり、且つ10%未満である、
大容量モジュール。
【請求項19】
請求項10乃至18の何れか1項に記載の大容量モジュールであって、
前記誘電体層が、主としてセラミックを含んでなる、
大容量モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−84897(P2013−84897A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−128625(P2012−128625)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)