説明

大断面トンネルの構築方法および大断面トンネル

【課題】地中内においてトンネルの頂版および底版にプレストレスを有効に導入することができ、これにより部材使用の低減および緊張材の合理化を図ることを可能とした大断面トンネルの構築方法および大断面トンネルを提案する。
【解決手段】複数本の小断面トンネル10同士を連結することで形成された頂版2、底版3および左右の側壁4,4のうち、頂版2および底版3のみに緊張材30が配設された大断面トンネル1であって、頂版2または底版3に対応する複数本の小断面トンネル10,10,…に跨って緊張材30を配設する工程と、緊張材30が配設された複数本の小断面トンネル10,10,…内にコンクリート20を充填する工程と、緊張材30に緊張力を導入する工程と、緊張力が導入された頂版2および底版3を側壁4に連結する工程とにより構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大断面トンネルの構築方法および大断面トンネルに関する。
【背景技術】
【0002】
大断面トンネルを構築する場合において、掘削土量の低減化を目的として、トンネルの断面形状を矩形状にする場合がある(例えば特許文献1参照)。
ところが、矩形トンネルは、一般的に部材仕様が大規模となり、不経済となる場合が多い。
【0003】
そのため、矩形トンネルの覆工の部材仕様の低減化を目的として、頂版部分、底版部分および左右の側壁部分のそれぞれに複数の緊張材を配設し、プレストレスを導入する場合がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−073686号公報
【特許文献2】特開2001−003691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記従来のトンネルは、トンネル覆工全体に亘って緊張材を配設し、一体にプレストレスを導入しているためや、地山により側壁が拘束されているために、プレストレスを導入する際に、側壁の抵抗力により、プレストレスを有効に導入することができない場合があった。
【0006】
そのため、本発明は、地中内においてトンネルの頂版および底版にプレストレスを有効に導入することができ、これにより部材使用の低減および緊張材の合理化を図ることを可能とした大断面トンネルの構築方法および大断面トンネルを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、複数本の小断面トンネル同士を連結することで頂版、底版および左右の側壁を形成し、前記頂版および前記底版のみに緊張材を配設する大断面トンネルの構築方法であって、トンネル軸方向に沿って鋼殻を推進工法により連設して前記小断面トンネルを構築する工程と、隣り合う前記各小断面トンネルの鋼殻のうち、他の前記小断面トンネルに面する部分の外殻を撤去する工程と、前記頂版または前記底版に対応する複数本の前記小断面トンネルに跨って緊張材を配設する工程と、緊張材が配設された前記複数本の小断面トンネル内にコンクリートを充填する工程と、前記緊張材に緊張力を導入する工程と、緊張力が導入された前記頂版および前記底版を前記側壁に連結する工程と、を備え、前記頂版および前記底版の一方の端部に配設される小断面トンネルの少なくとも一部を、一方の前記側壁よりも外側に張り出すように配設し、前記小断面トンネルの張り出し部分を利用して、その内部空間において前記緊張材に緊張力を導入することを特徴としている。
【0008】
かかる大断面トンネル構築方法によれば、プレストレス導入時に側壁からの拘束力を受けることがないため、頂版および底版に有効にプレストレスを導入することが可能となる。これにより、外殻の部材厚の低減化を図ることが可能となり、施工費用の低減化を図ることができる。
また、小断面トンネルの張り出し部分を利用して緊張材に緊張力を導入するため、施工性に優れている。
【0009】
前記鋼殻が断面長方形であって、前記頂版または前記底版に対応する小断面トンネルは横長断面に形成し、前記左右の側壁に対応する小断面トンネルは縦長断面に形成してもよい。
【0010】
また、本発明の大断面トンネルは、頂版、底版および左右の側壁を備えてなる大断面トンネルであって、前記頂版および前記底版は複数の小断面トンネルを並設して構成したものであり、前記頂版および前記底版のみに、前記複数本の小断面トンネルに跨って配設された緊張材を介して緊張力が導入されていることを特徴としている。
【0011】
かかる大断面トンネルは、頂版および底版に、プレストレスが有効に導入されているため、部材厚の低減化を実現することができる。
【0012】
また、前記大断面トンネルにおいて、前記頂版または前記底版を構成する小断面トンネルの一部が、一方の前記側壁よりも外側に張り出していれば、この張り出し部分にプレストレスを導入するための装置等を配置することができるため、地中での作業でありながらも、作業性に優れている。
【0013】
また、前記緊張材が、前記頂版または前記底版の端部において地山側に配置されており、前記頂版または前記底版の中央部において内空側に配置されていれば、大断面トンネルに作用する応力に対して、効果的にプレストレスを導入することができる。
【0014】
前記小断面トンネルが、トンネル軸方向に沿って連接された複数の鋼殻により形成されており、前記鋼殻は、前記頂版、前記底版または前記側壁に作用する応力が引張りとなる部分に配置される増強部と、圧縮となる部分に配置される一般部と、を備えており、前記増強部の断面積が前記一般部の断面積よりも大きくなるように、前記増強部の鋼材量が前記一般部の鋼材量よりも多く配分されていれば、鋼材量の低減化が可能となり、経済的である。
【0015】
隣り合う前記小断面トンネル同士の接合部の地山側に、止水部材が配置されていれば、接合部に対応する地山への薬液注入等の止水工を省略することが可能となり、施工性、経済性に優れている。
【0016】
前記止水部材は、一方の前記小断面トンネルに固定された断面V字状の止水板と、他方の前記小断面トンネルの前記止水板に対応する位置に固定された止水ブロックと、により構成されており、前記止水板と前記止水ブロックとが互いに当接しているものであってもよい。
【0017】
また、前記側壁の地山側の接合部に、前記小断面同士を接合する接合部材が配置されており、前記接合部材が、前記小断面トンネル同士の境界に跨って配設された接続鉄筋と、前記接続鉄筋の両端部において互いに対峙するように各小断面トンネルに固定されたエンドプレートと、を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の大断面トンネルの構築方法および大断面トンネルによれば、地中内においてトンネルの頂版および底版にプレストレスを有効に導入することができ、これにより部材使用の低減および緊張材の合理化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好適な実施の形態に係る大断面トンネルを示す断面図である。
【図2】小断面トンネルを構成する鋼殻を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図3】(a)は図2(a)のB−B断面図、(b)は同C−C断面図である。
【図4】鋼殻同士の接合部を示す拡大断面図である。
【図5】(a)および(b)は大断面トンネルの構築方法の各施工段階を示す断面図である。
【図6】(a)および(b)は図5に続く大断面トンネルの構築方法の各施工段階を示す断面図である。
【図7】大断面トンネルの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の好適な実施形態について説明する。
本実施形態では、図1に示すように、頂版2、底版3および左右の側壁4,4を備えてなる断面矩形の大断面トンネル1について説明する。
【0021】
頂版2は、横方向(左右方向)に並設された5本の小断面トンネル10,10,…を連結し、内部にコンクリート20を充填することにより構成されている。なお、頂版2を構成する小断面トンネル10の本数は限定されるものではなく、計画された大断面トンネル1の大きさに応じて適宜設定することが可能である。
【0022】
頂版2には、横方向に並設された小断面トンネル10,10,…に跨って配設された緊張材30,30,…を介して緊張力が導入されている。なお、本実施形態では、緊張材30として、PC鋼線を使用するものとするが、緊張材30を構成する材料は限定されるものではない。
【0023】
緊張材30は、頂版2の端部において地山G側(上側)に配置されており、頂版2の中央部において大断面トンネル1の内空側(下側)に配置されることで、下向きに凸となるように弧状に配置されている。
【0024】
頂版2を構成する小断面トンネル10のうち、一方の端部(図1では右端)に配設された小断面トンネル10’は、その一部が側壁4よりも地山側(右側)に張り出した状態で形成されている。つまり、頂版2を構成する複数の小断面トンネル10,10,…の全幅は、完成時の頂版2の幅(一方の側壁4の外面から他方の側壁4の外面までの幅)よりも大きく、小断面トンネル10’の一部が頂版2から張り出している。
【0025】
小断面トンネル10’の張り出し部分は、コンクリート20を充填することなく、空間5を確保しておくことで、緊張材30に緊張力を導入する際の作業空間として使用する。
【0026】
小断面トンネル10は、断面長方形の鋼殻11をトンネル軸方向に沿って連設することにより構築されている。
【0027】
鋼殻11は、鋼製部材を組み合わせることにより角筒状に形成された部材である。本実施形態の鋼殻11は、図2および図3に示すように、トンネル軸方向に所定の間隔をあけて並設された複数の主桁12,12,12と、隣り合う主桁12,12同士の間においてトンネル軸方向に沿って配置された複数の縦リブ13と、主桁12,12,12および縦リブ13,13,…の外周囲を覆う外殻14と、主桁補強部材15とを備えて構成されている。
【0028】
主桁12は、鋼材を矩形状に組み合わせることにより枠状に形成されており、地中に配置された状態で、小断面トンネル10に作用する外力(土圧、地下水圧等)に対して十分な耐力を有している。本実施形態では、1体の鋼殻11に対して3つの主桁12,12,12を配置するが、主桁12の数量は限定されるものではない。また、主桁12を形成する鋼材は限定されるものではなく、H形鋼、L形鋼、溝形鋼、鋼管等が使用することが可能であるが、本実施形態では、鋼板を使用するものとする。また、本実施形態では、鋼材を組み合わせることにより矩形状の主桁12を形成するものとしたが、その形成方法は限定されるものではない。
【0029】
縦リブ13は、隣り合う主桁12,12の間に配置されて、主桁12同士の間隔を保持するとともに、推進時に作用する軸力に対して、十分な耐力を発現するように構成されている。
なお、本実施形態では、縦リブ13として、主桁12と同種の鋼板を使用するが、縦リブ13を構成する材料は限定されるものではなく、H形鋼、L形鋼、溝形鋼、鋼管等、適宜他の鋼材を使用することが可能である。また、縦リブ13の数量は限定されるものではない。
【0030】
外殻14は、複数の主桁12,12,12を覆うように各筒状に形成されており、複数枚のスキンプレートを溶接により接合することで形成されている。
【0031】
主桁補強部材15は、鋼殻11の前後に配設された主桁12,12に固定された溝型鋼であって、断面長方形状の小断面トンネル10に作用する外力に対して、主桁12を補強することが可能となるように配置されている。
【0032】
主桁補強部材15は、主桁12の上下の長辺12a,12aに跨って配置されている。本実施形態では、主桁12に対して2本ずつ主桁補強部材15を配置するが、主桁補強部材15の本数は限定されるものではない。また、主桁補強部材15を構成する材料は限定されるものではなく、適宜公知の鋼材の中から選定して使用することが可能である。また、主桁補強部材15は、必要に応じて配置すればよく、省略することも可能である。
【0033】
底版3は、横方向(左右方向)に並設された5本の小断面トンネル10,10,…を連結し、内部にコンクリート20を充填することにより構成されている。なお、底版3を構成する小断面トンネル10の本数は限定されるものではなく、計画された大断面トンネル1の大きさに応じて適宜設定することが可能である。
【0034】
底版3には、横方向に並設された小断面トンネル10,10,…に跨って配設された緊張材30,30,…を介して緊張力が導入されている。
【0035】
緊張材30は、底版3の端部において地山G側(下側)に配置されており、底版3の中央部において大断面トンネル1の内空側(上側)に配置されることで、上向きに凸となるように弧状に配置されている。
【0036】
底版3を構成する小断面トンネル10のうち、一方の端部(図1では右端)に配設された小断面トンネル10’は、その一部が側壁4よりも地山側(右側)に張り出した状態で形成されている。つまり、底版3を構成する複数の小断面トンネル10,10,…の全幅は、完成時の底版3の幅(一方の側壁4の外面から他方の側壁4の外面までの幅)よりも大きく、小断面トンネル10’の一部が底版3から張り出している。
【0037】
小断面トンネル10’の張り出し部分は、コンクリート20を充填することなく、空間5を確保しておくことで、緊張材30に緊張力を導入する際の作業空間として使用する。
【0038】
側壁4は、頂版2と底版3との間に配置された小断面トンネル10の内部にコンクリート20を充填することにより構成されている。なお、側壁4は、縦方向(上下方向)に並設された複数本の小断面トンネル10を連結することにより構成してもよい。
【0039】
頂版2または底版3と側壁4との接合部は、図1に示すように、接合部材40および追加鉄筋45を介して一体に接合されている。なお、頂版2および底版3を構成する小断面トンネル10同士の接合部についても接合部材40を介して接合してもよい。
【0040】
本実施形態では、側壁4の引張側(側壁4の地山側)に支圧式の接合部材40を配設し、圧縮側(側壁4の内空側)には追加鉄筋45を配筋する。
【0041】
接合部材40は、図4に示すように、隣り合う小断面トンネル10同士の境界に跨って配設された接続鉄筋41,41,…と、接続鉄筋41,41,…の両端部を巻きたてるように配設された複数本のフープ筋42,42,…と、主桁13に固定されたエンドプレート43,43と、主桁13に固定されてエンドプレート43の固定度を補強する支持板44,44,…と、を備えている。
なお、接合部材40の構成は限定されるものではなく適宜設定することが可能である。
【0042】
追加鉄筋45は、側壁4と頂版2または底版3との間に跨って配筋された鉄筋であって、頂版2および底版3において十分な定着長が確保できるように側壁4の上端および下端から突出した状態で配筋されている。
【0043】
また、各小断面トンネル10同士の接合部には、止水部材50がトンネル軸方向に沿って配設されており、隣り合う鋼殻11,11の隙間から、地下水や土砂が流入することが防止されている。
【0044】
本実施形態では、止水部材50として、断面V字状の止水板51を一方の鋼殻11の地山側角部に配設し、他方の鋼殻11の止水板51に対応する位置に止水ブロック52を配設している。止水板51は、その一部が鋼殻11の側面から突出した状態で鋼殻11に固定されており、隣接する小断面トンネル10の鋼殻11に埋設された止水ブロック52に止水板51の突出部分が密着していることで、接合部における止水性を維持している。
なお、止水部材50の構成は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。また、本実施形態では止水板51および止水ブロック52として、クロロブレン系の止水ゴムを採用するが、高水圧下に耐えうる止水性を発現することができれば、止水板51および止水ブロック52を構成する材料は限定されるものではない。
【0045】
本実施形態では、鋼殻11を構成する鋼材を大断面トンネル構造の鋼材として使用する。そして、大断面トンネル構造に作用する応力に対して、圧縮側よりも引張り側の断面を厚く(すなわち鋼材量を多く)し、大断面トンネル1の本体(鋼殻11内)に配筋する引張り側の鉄筋の本数(鉄筋量)を減らしている。鉄筋量を減らすことで、施工時の内部作業空間をより大きく確保することが可能となり、作業性が向上するとともに、安全性が向上する。
すなわち、小断面トンネル10を構成する鋼殻11について、頂版2、底版3または側壁4,4に作用する応力が引張りとなる部分に配置される増強部に対して、応力が圧縮となる部分に配置される一般部よりも鋼材量を多く配分させる。
なお、増強部における鋼材量の増加方法は、例えば、縦リブ13の本数の増加、外殻14の部材厚を増加、主桁12や縦リブ13の断面積を大きくしたり、補助的に鋼材量を増加させたりするなど、限定されるものではない。
【0046】
次に、本実施形態に係る大断面トンネル1の構築方法について説明する。
かかる大断面トンネルの構築方法は、小断面トンネル構築工程と、小断面トンネル連結工程と、緊張材配設工程と、コンクリート打設工程と、緊張力導入工程と、側壁連結工程と、内部掘削工程と、を備えている。
【0047】
小断面トンネル構築工程は、図5(a)に示すように、複数本の小断面トンネル10,10,…を地中に形成する工程である。本実施形態では、断面長方形の鋼殻11を推進工法によりトンネル軸方向に沿って連設することで各小断面トンネル10を形成する。
小断面トンネル10,10,…は、大断面トンネル1の内空となる領域(地山G’)を囲むように配置する。
【0048】
本実施形態では、まず、底版3の中央部に配設される第一小断面トンネル10aを形成する。第一小断面トンネル10aの施工が終了或いは所定延長進行したら、第一小断面トンネル10aに隣接する第二小断面トンネル10bおよび第三小断面トンネル10cを形成する。次に、第四小断面トンネル10d、第五小断面トンネル10eを形成する。ここで、第二小断面トンネル10bと第三小断面トンネル10cの施工および第四小断面トンネル10dと第五小断面トンネル10eの施工は、同時に行ってもよいし、いずれか一方を先行して行ってもよい。
なお、底版3に対応する小断面トンネル10a〜10eは、断面長方形の鋼殻11により横長断面に形成する。
【0049】
次に、側壁4,4に対応する小断面トンネル10,10のうち、第六小断面トンネル10fおよび第七小断面トンネル10gの施工を行う。なお、側壁4部分に対応する小断面トンネル10の施工は、右側の小断面トンネル10fを先行してもよいし、左側の小断面トンネル10gを先行してもよい。このとき、第七小断面トンネル10gは、第五小断面トンネル10eの上面中央部に沿って形成されており、第五小断面トンネル10eの地山側端部(第三小断面トンネル10cと反対側の端部)が突出するように構築する。
なお、側壁4に対応する小断面トンネル10f、10gは、断面長方形の鋼殻11により縦長断面に形成する。
【0050】
側壁4に対応する小断面トンネル10f,10gの施工が完了したら(或いは小断面トンネル10f,10gの施工が所定延長進行したら)頂版2に対応する小断面トンネル10の施工を開始する。本実施形態では、頂版2の他方の端部の第八小断面トンネル10hから順に小断面トンネル10i〜10lの施工を行うものとする。このとき、第十二小断面トンネル10lは、その地山側端部(第十一小断面トンネル10kと反対側の端部)が第七小断面トンネル10gの外面よりも突出するように構築する。頂版2に対応する小断面トンネル10h〜10lは、断面長方形の鋼殻11により横長断面に形成する。
なお、側壁4に対応する小断面トンネル10と、頂版2または底版3に対応する小断面トンネル10とは、この段階においては未連結とする。
【0051】
後行して構築される小断面トンネル10は、先行して構築された隣接するトンネル10に接した状態、或いはわずかな隙間を有した状態で並設する。このとき、頂版2および底版3を構成する小断面トンネル10は、必要に応じて仮止めを行うが、隣接する他の小断面トンネル10と固定することなく、配設する(図5(b)参照)。
小断面トンネル10の構築に伴い、鋼殻11の周囲に充填される裏込め材として、周辺地盤Gの粘着力よりも粘着力が低い材料を使用するものとし、緊張力導入工程において緊張力を導入する際に滑剤として機能させるものとする。
【0052】
小断面トンネル連結工程は、頂版2および底版3に対応する位置に配設された小断面トンネル10同士を連結する工程である。
小断面トンネル10同士の連結は、各小断面トンネル10の鋼殻11のうち、他の小断面トンネル10に面する部分の外殻14を撤去することにより行う。
これにより、頂版2および底版3に対応する複数の小断面トンネル10,10,…により連続した空間が形成される。
【0053】
緊張材配設工程は、底版に対応する小断面トンネル10a〜10eの構築後、および、頂版に対応する小断面トンネル10h〜10lの構築後に、図5(b)に示すように、小断面トンネル10a〜10eおよび小断面トンネル10h〜10lに跨ってそれぞれ緊張材30,30,…を配設する工程である。
【0054】
緊張材30,30,…は、複数の小断面トンネル10,10,…により形成された空間を横断するように配設するものとし、両端部が地山側、中央部が内空側となるように弧状に配設する。なお、鋼殻11の縦リブ13に、予め緊張材30のシース用の孔を設けておくことで、緊張材30の配置作業をより容易に行うものとしてもよい。また、必要に応じて補強用の鋼材を配設してもよい。
【0055】
本実施形態では、緊張材30の一端は第四小断面トンネル10dまたは第八小断面トンネル10hにおいて定着されており、他端は第五小断面トンネル10eまたは第十二小断面トンネル10lに配設されている。
なお、本実施形態では緊張材30をシース管(図示省略)に収容した状態で配置するものとするが、シース管は必要に応じて配置すればよく、省略してもよい。
【0056】
コンクリート打設工程は、図6(a)に示すように、緊張材が配設された複数本の小断面トンネル10,10,…内にコンクリート20を充填する工程である。
このとき、第五小断面トンネル10eおよび第十二小断面トンネル10lの地山側端部の突出部分には、コンクリートを充填せずに、空間5を確保しておく。
【0057】
本実施形態では、高強度コンクリートを充填するものとする。また、本実施形態では、鋼殻11を構成する主桁12や縦リブ13等を本体利用することで、圧縮鉄筋および引張鉄筋の削減を図るものとする。
【0058】
緊張力導入工程は、頂版2および底版3に充填されたコンクリート20に強度が発現した後、頂版2および底版3に配設された緊張材30,30,…に緊張力を導入する工程である(図6(a)参照)。
【0059】
緊張材30への緊張力の導入は、空間5に配設された治具やジャッキ等を利用して行う。緊張力の導入後、空間5に面する緊張材30の定着部の防錆処理作業を行う。
【0060】
側壁連結工程は、図6(a)に示すように、緊張力が導入された頂版2および底版3を側壁4,4に連結して、一体に連結された大断面トンネル1の外殻を構築する工程である。
【0061】
本実施形態では、頂版2と側壁4との接合、および底版3と側壁4との接合を、接合部材40および追加鉄筋45を介して行うものとする。接合部材40および追加鉄筋45の配設作業は、側壁4側の小断面トンネル10から行うものとする。
【0062】
頂版2および底版3と側壁4,4との連結が完了したら、側壁4,4内へのコンクリートの充填を行う。なお、側壁4へのコンクリートの充填は、コンクリート打設工程において、頂版2および底版3へのコンクリート充填を行う際に行ってもよい。
【0063】
内部掘削工程は、図6(b)に示すように、頂版2、底版3および側壁4,4に囲まれた大断面トンネル1の内部空間の地山G’を掘削する工程である。
【0064】
以上、本実施形態の大断面トンネル1およびその構築方法によれば、頂版2および底版3と側壁4との接合を、プレストレス(緊張力)導入後に行うため、プレストレス導入時に側壁4と内部土砂の抵抗力が作用することがない。そのため、プレストレスの損失が少なく、有効にプレストレスを導入することができる。
【0065】
また、頂版2および頂版3にプレストレスを導入することで、大深度、高水圧下に大断面トンネルを構築する場合であっても、作用応力に対して十分な耐力を発現することができる。
また、プレストレスを導入することで頂版2および底版3の耐力を増加させることが可能となるため、頂版2および底版3の部材使用の低減化が可能となる。
【0066】
また、各小断面トンネル10を構成する鋼殻11を本体構造として見込むことが可能なため、鉄筋量の大幅な削減が可能となり、費用の削減が可能となるとともに、配筋作業に要する手間を削減することが可能となる。
【0067】
頂版2および底版3の端部に沿って空間5,5を形成しているため、地中において頂版2および底版3にプレストレスを導入することが可能となる。また、大断面トンネル構築後は、点検通路として利用することができる。
【0068】
また、裏込め材として、周辺地盤の粘着力よりも粘着力が低い材料を採用しているため、プレストレス導入時に、摩擦抵抗により発生するプレストレスの損失を少なくすることが可能となる。
【0069】
また、止水部材50として、断面V字状の止水板51と止水ブロック52とを組み合わせて使用しているため、小断面トンネル10同士の接合部における止水性に優れている。そのため、周辺地山への薬液注入等の補助的な止水工事を省略することも可能である。また、施工誤差により小断面トンネル10同士の間隔が開いたり狭まったりしても、断面V状の止水板51が追従することが可能である。
【0070】
また、接続鉄筋41を断続的に配筋しているため、鉄筋使用量の大幅な削減が可能となる。接続鉄筋41とエンドプレート43との組み合わせにより、応力の伝達性に優れているため、小断面トンネル10同士が一体に固定される。
【0071】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能であることはいうまでもない。
例えば、前記実施形態では、小断面トンネルを長方形断面の鋼殻により構築する場合について説明したが、鋼殻の断面形状は限定されるものではなく、例えば正方形であってもよい。
【0072】
また、前記実施形態では、端部に配設された小断面トンネル10の一部が側壁4から突出するように構築することで、空間5を形成する場合について説明したが、空間5は必要に応じて形成すればよく、必ずしも形成する必要はない。
また、頂版2および底版3の両端にそれぞれ空間5を形成することで、両側から緊張力を導入する構成としてもよい。
【0073】
小断面トンネル10の本数や配置は限定されるものではなく、計画された大断面トンネルの形状に応じて適宜設定すればよい。
また、小断面トンネル10の施工順序は前記の順番に限定されるものではない。
【0074】
また、複数の小断面トンネル10,10,…の施工は、複数の掘削機械を用いて同時に行ってもよいし、1台の掘削機械を利用して順番に行ってもよい。
【0075】
また、前記実施形態では、コンクリート打設後にプレストレスを導入する場合について説明したが、プレストレスの導入はコンクリート打設前に行ってもよい。
【0076】
また、前記実施形態では、側壁4の引張側に接続部材40を配設し、圧縮側に追加鉄筋45を配筋することにより、頂版2および底版3と側壁4,4との接続を行うものとしたが、図7に示すように、圧縮側にも接続部材40を配設してもよく、その接続方法は限定されるものではない。
【符号の説明】
【0077】
1 大断面トンネル
2 頂版
3 底版
4 側壁
5 空間
10 小断面トンネル
11 鋼殻
20 コンクリート
30 緊張材
40 接合部材
41 接続鉄筋
43 エンドプレート
50 止水部材
51 止水板
52 止水ブロック
G 地山

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の小断面トンネル同士を連結することで頂版、底版および左右の側壁を形成し、前記頂版および前記底版のみに緊張材を配設する大断面トンネルの構築方法であって、
トンネル軸方向に沿って鋼殻を推進工法により連設して前記小断面トンネルを構築する工程と、
隣り合う前記各小断面トンネルの鋼殻のうち、他の前記小断面トンネルに面する部分の外殻を撤去する工程と、
前記頂版または前記底版に対応する複数本の前記小断面トンネルに跨って緊張材を配設する工程と、
緊張材が配設された前記複数本の小断面トンネル内にコンクリートを充填する工程と、
前記緊張材に緊張力を導入する工程と、
緊張力が導入された前記頂版および前記底版を前記側壁に連結する工程と、を備え、
前記頂版および前記底版の一方の端部に配設される小断面トンネルの少なくとも一部を、一方の前記側壁よりも外側に張り出すように配設し、前記小断面トンネルの張り出し部分を利用して、その内部空間において前記緊張材に緊張力を導入することを特徴とする、大断面トンネルの構築方法。
【請求項2】
前記鋼殻が断面長方形であって、前記頂版または前記底版に対応する小断面トンネルは横長断面に形成し、
前記左右の側壁に対応する小断面トンネルは縦長断面に形成することを特徴とする、請求項1に記載の大断面トンネルの構築方法。
【請求項3】
頂版、底版および左右の側壁を備えてなる大断面トンネルであって、
前記頂版および前記底版は複数の小断面トンネルを並設して構成したものであり、
前記頂版および前記底版のみに、前記複数本の小断面トンネルに跨って配設された緊張材を介して緊張力が導入されていることを特徴とする大断面トンネル。
【請求項4】
前記頂版または前記底版を構成する小断面トンネルの一部が、一方の前記側壁よりも外側に張り出していることを特徴とする請求項3に記載の大断面トンネル。
【請求項5】
前記緊張材が、前記頂版または前記底版の端部において地山側に配置されており、前記頂版または前記底版の中央部において内空側に配置されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の大断面トンネル。
【請求項6】
前記小断面トンネルが、トンネル軸方向に沿って連接された複数の鋼殻により形成されており、
前記鋼殻は、前記頂版、前記底版または前記側壁に作用する応力が引張りとなる部分に配置される増強部と、圧縮となる部分に配置される一般部と、を備えており、前記増強部の断面積が前記一般部の断面積よりも大きくなるように、前記増強部の鋼材量が前記一般部の鋼材量よりも多く配分されていることを特徴とする、請求項3乃至請求項5のいずれか1項に記載の大断面トンネル。
【請求項7】
隣り合う前記小断面トンネル同士の接合部の地山側に、止水部材が配置されていることを特徴とする、請求項3乃至請求項6のいずれか1項に記載の大断面トンネル。
【請求項8】
前記止水部材が、一方の前記小断面トンネルに固定された断面V字状の止水板と、
他方の前記小断面トンネルの前記止水板に対応する位置に固定された止水ブロックと、により構成されており、
前記止水板と前記止水ブロックとが互いに当接していることを特徴とする、請求項7に記載の大断面トンネル。
【請求項9】
前記側壁の地山側の接合部に、前記小断面同士を接合する接合部材が配置されており、
前記接合部材が、前記小断面トンネル同士の境界に跨って配設された接続鉄筋と、前記接続鉄筋の両端部において互いに対峙するように各小断面トンネルに固定されたエンドプレートと、を備えることを特徴とする、請求項3乃至請求項8のいずれか1項に記載の大断面トンネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−58298(P2011−58298A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210800(P2009−210800)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】