説明

大気中の霧水量を測定する方法および装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は大気中の水分が過飽和となって霧状に浮遊する霧水の量を測定する方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】大気中の水分量の測定は、その含有水分量が未飽和領域の場合は大気中の温度および相対湿度を測定することによって求めることができる。しかし、大気中の含有水分量が増し過飽和領域になると霧という液体状態が存在するために、含有水分量の測定は容易ではない。しかし、霧水の量を測定する事は、例えば、がいしなどを霧中法によって人工的汚損試験を行う場合、その雰囲気の霧水量を所要の値に設定するのに非常に重要である。
【0003】図4は従来の大気中の霧水量の測定装置の構成例を示す斜視図である。霧を含む被測定大気1の中に風洞2が配され、この風洞2には管壁を貫通する2つの穴3が明けられている。この穴3に直径200μmのステンレス製のワイヤ4が通され、このワイヤ4は2つの回転軸5とピン6とによって三角状に張られている。ピン6にはピン穴7が貫通しており、このピン穴7にワイヤ4が通されている。一方、ピン6はその下方端が記録紙8に接するように配されており、図示されていない支持装置によってピン6が固定されている。記録紙8は2つの巻取り軸9によって矢印Bの方向に巻き取り可能になっている。
【0004】図4において、被測定大気1を霧水とともに風洞2内の図示されていない吸い込みファンによって矢印C方向に吸い込む。吸引された霧水は風洞2内のワイヤ4に付着する。回転軸5によって、ワイヤ4を矢印D方向に一定時間動かすと、その際にワイヤ4はピン穴7でしごかれるのでワイヤ4に付着した霧水は水滴となって記録紙8上に溜る。記録紙8はウオータブルー処理紙が用いられ、水が付着すると染色する性質を備えている。図4の10は染色部を示し、この染色部10の面積が、ワイヤ4に付着した霧水量に比例する。この染色部10の面積を求め、あらかじめその測定装置の構成によって決まる比例定数を校正によって調べておくことにより、被測定大気1の霧水量に換算することができる。次の測定を行うときには、記録紙8をB方向に所定距離ずらし、未染色な部分にピン6の下端部が来るようにする。この操作を繰り返すことによって、何回も霧水量の測定を行うことができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前述したような従来の装置は霧水の粒径が小さいものほどワイヤへの付着性が悪いという問題点があった。
【0006】一般に近接する物体間には分子間引力に起因するファンデルワールス力が働き、水滴のワイヤへの付着力はこの力によるものである。水滴がワイヤに接触したときの付着力はその粒径が大きいものほど強い。すなわち、水滴がワイヤに接触した場合に水滴自体が球形から偏平状に変形し、その粒径が大きいほどワイヤへの接触面積が大きくなる。単位面積あたりに働くファンデルワールス力の合成が付着力となるので、水滴の粒径が大きいほどその付着力は増す。したがって、霧はその粒径が小さいと、ワイヤに付着しにくくなる。図4のようにワイヤに霧を付着させる方法は、小さい粒径の霧が存在する大気の場合、その霧水量の測定値がどうしても小さ目になるという問題点があった。また、水滴の付着状態がワイヤの移動中に変わらないように風洞とピンとの間をできるだけ近づける必要があり、測定装置の設置場所にも制限があった。
【0007】図4の例のようなワイヤ方式以外に、大気中の浮遊粒子を測定する方法として、光散乱法やβ線吸収法などがある。しかし、これらの方法はサンプリングをチューブ状のもので行う必要があるので、霧の場合にはそのチューブへ付着したり、途中で気化しやすく測定精度が極めて悪い。
【0008】この発明の目的は、霧の粒径に関係なく測定精度を高めるとともにその設置場所に何らの制限もない大気中の霧水量の測定方法および装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、この発明による方法は、霧水を含有する被測定大気を所定温度に加熱し含有霧水をすべて水蒸気にした状態で測定容器内へ導き、この測定容器内の温度と相対湿度とから被測定大気中の水蒸気量を算出し、この水蒸気量から前記被測定大気の温度によって決まる飽和水蒸気量を差し引くことによって大気中の霧水量を求めるものとする。
【0010】さらに、この発明による装置は、霧水を含有する被測定大気の温度を検出して出力する大気温度センサと、ヒータを備え前記被測定大気を所定温度に加熱する導入部と、この導入部を通して前記被測定大気がその含有霧水をすべて水蒸気にした状態で導入される測定容器と、この測定容器内の温度を検出して出力する容器温度センサと、前記測定容器内の相対湿度を検出して出力する湿度センサと、前記大気温度センサ、前記容器温度センサおよび前記湿度センサの出力信号をそれぞれ受け被測定大気の霧水量を算出して出力する演算部と、この演算部の出力信号を受け被測定大気の霧水量を表示する表示部とにより構成され、前記演算部が測定容器内の温度と相対湿度とから被測定大気中の水蒸気量を算出し、この水蒸気量から前記被測定大気の温度によって決まる飽和水蒸気量を差し引くことによって大気中の霧水量を算出するものとする。
【0011】
【作用】この発明の構成によれば、ヒータを備えた導入部によって霧水を含有する被測定大気を所定温度に加熱し含有霧水をすべて水蒸気にした状態で測定容器内へ案内する。測定容器内の容器温度センサと湿度センサとにより測定容器内に導入された被測定大気の温度と相対湿度を求める。演算部によって、この温度と相対湿度とから被測定大気中の水蒸気量を算出する。さらに、この演算部によって、その水蒸気量から被測定大気の温度によって決まる飽和水蒸気量を差し引けば、この値は空間内で過飽和により霧水状態となっていた量、すなわち、被測定大気中の霧水量に相当する。
【0012】
【実施例】以下この発明を実施例に基づいて説明する。図1はこの発明の実施例にかかる大気中の霧水量を測定する装置の構成を示す断面図である。霧水を含有する被測定大気11の温度を空間12に設けた大気温度センサ13が検出し、その出力信号13Sが増幅器13Aを介して演算部14へ送られている。導入部15が空間12と測定空間16との間に介装されるとともに、導入部15の途中にはダイヤフラムなどのポンプ17が介装され、被測定大気11が矢印Eの方向に吸引されて測定容器16内に送られ出口19より排気される。導入部15、ポンプ17および測定容器16は断熱材18で覆われている。測定容器16には容器温度センサ20および湿度センサ21が設けられ、吸引された大気の温度および相対湿度を検出し、その出力信号20S, 21Sがそれぞれ増幅器20A, 21Aを介して演算部14へ送られている。演算部14は出力信号13S, 20Sおよび21Sを受け出力信号14Sを出力し、表示部22がその出力信号14Sを受けてタイムチャートなどに表示する。
【0013】図2は図1のA−A断面図であり、導入部15の構成を示す拡大断面図である。被測定大気11を送る金属管23の外壁面に絶縁体27を介してリード線25, 26に接続されたヒータ24が配されている。最外周には断熱材18が被されている。リード線25, 26は導入部15の長手方向に並設され、両者から給電することによってヒータ24に導入部15の周方向に電流を流す構成となっている。ヒータ24, 絶縁体27およびリード線25, 26は、一体のものとして例えば、米国Raychem 社より「オートトレース」の商品名で一般に市販されている。このヒータ24は高分子に導電粒子を混在させたものであり、自己温度制御性を備えている。すなわち、ヒータ24は温度が高くなるとその抵抗値を増して温度を下げ、温度が低くなるとその抵抗値を減らして温度を高める機能を有する。したがって、金属管23の長手方向のいずれの個所も温度を均一に保つことができる。金属管23はステンレス製で外径8mmのもの、断熱材18としてはポリウレタン発泡管を使用している。
【0014】図1に戻り、導入部15によって被測定大気11が所定温度(含有霧水がすべて水蒸気になる温度以上) に加熱され測定容器16内へ送られる。前述したように、被測定大気11は図2のヒータ24によって、所定の一定温度に設定されるので導入部15やポンプ17、測定容器16において結露することはない。測定容器16内の温度と相対湿度とから被測定大気11中の水蒸気量を演算部14が算出し、この水蒸気量から空間12の温度によって決まる飽和水蒸気量を差し引くことによって空間12内の霧水量を求めることができる。
【0015】次に、図1の演算部14において、霧水量を算出する方法について述べる。空間12, 測定容器16の温度をそれぞれT1 , T2 〔°K〕, 測定容器16内の相対湿度をHR 〔%〕とし、これらの値が各センサによって検出される。空間12, 測定容器16のそれぞれの飽和水蒸気量〔kg/m3 〕(その温度において水蒸気として存在し得る最大の水蒸気密度) をY1 , Y2 とすると、 Yi =Xi /{0.004555 (Xi +0.662)Ti } …… (1) となる。ここで、i=1または2とし、 Xi =0.622 P (Ti ) /{760 −P (Ti ) } …… (2)
【0016】
【数1】


【0017】(3) 式のP (Ti ) は、その温度Ti における飽和水蒸気圧曲線が近似式にて表わされたものであり、その誤差は0℃から70℃の範囲で+3%から−1.7%以内である。したがって、空間12内の単位体積あたりの霧水量F (kg/m3 ) は、 F=Y2 ・ (HR /100)−Y1 …… (4) となる。すなわち、(4) 式の第一項は測定容器16内に実際に存在する水蒸気密度 (絶対湿度HA ) に対応し、空間12内に実際に存在する単位体積あたりの水分量 (水蒸気と霧水との和) に等しい。したがって、この絶対湿度HA から空間12の飽和水蒸気量Y1 を差し引けば空間12内の霧水量Fとなり、霧の粒径がどんなに小さくても漏らさず測定することができる。さらに、空間12内のセンサが大気温度センサ13のみであり、導入部15も長手方向に10m以上も張ることができるので、測定装置の設置場所の制限は全く受けない。
【0018】図3は図1の霧水量測定装置による実測結果を示す特性線図である。横軸に時刻tを、縦軸に温度, 絶対湿度または霧水量を目盛ってある。外径8mm, 長さ10mのステンレス製の金属管23よりなる導入部15によって、被測定大気11を40℃ないし60℃ (=T2 )に加熱し、空間12に霧を噴霧したときの霧水量Fの時間変化を求めた。時刻t1 に噴霧開始し、時刻t2 に噴霧を停止させた。特性曲線28は空間12の温度T1 、特性曲線29は被測定大気11の絶対湿度HA 、特性曲線30が空間12の霧水量Fである。霧水量または絶対湿度が負となるのは、空間12に霧水が存在していない状態であり、水蒸気が未飽和であることを示す。図4の従来の測定装置が、未飽和のときの水蒸気量を求めることができないのに比べ、この発明による装置では未飽和のときの水蒸気密度も求めることができるという利点もある。
【0019】
【発明の効果】この発明の方法は前述のように、ヒータを備えた導入部によって被測定大気を加熱して測定容器に案内する。測定容器の温度と相対湿度、および被測定大気の空間温度を測定し、演算部にてこれらの測定値から空間の霧水量を算出するようにした。この方法により被測定大気中の霧を細かい粒径のもの全てを含めて計測することができ、測定精度を向上させることができる。
【0020】また、空間に大気温度センサを設置し、導入部を介して空間から10m以上離れて計測することができるので、測定装置の設置場所の制限も受けない。
【0021】さらに、水蒸気が未飽和状態の空間の水蒸気量も求めることができるので、この方法による霧水量測定装置は絶対湿度計としても使え、計測範囲の広い測定器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例にかかる霧水量測定装置の構成を示す断面図
【図2】図1のA−A断面図
【図3】図1の霧水量測定装置による実測結果を示す特性線図
【図4】従来の霧水量測定装置の構成例を示す斜視図
【符号の説明】
11 被測定大気
12 空間
13 大気温度センサ
14 演算部
13A 増幅器
20A 増幅器
21A 増幅器
15 導入部
16 測定容器
17 ポンプ
18 断熱材
19 出口
20 容器温度センサ
21 湿度センサ
22 表示部
23 金属管
24 ヒータ
25 リード線
26 リード線
27 絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】霧水を含有する被測定大気を所定温度に加熱し含有霧水をすべて水蒸気にした状態で測定容器内へ導き、この測定容器内の温度と相対湿度とから被測定大気中の水蒸気量を算出し、この水蒸気量から前記被測定大気の温度によって決まる飽和水蒸気量を差し引くことによって大気中の霧水量を求めることを特徴とする大気中の霧水量を測定する方法。
【請求項2】霧水を含有する被測定大気の温度を検出して出力する大気温度センサと、ヒータを備え前記被測定大気を所定温度に加熱する導入部と、この導入部を通して前記被測定大気がその含有霧水をすべて水蒸気にした状態で導入される測定容器と、この測定容器内の温度を検出して出力する容器温度センサと、前記測定容器内の相対湿度を検出して出力する湿度センサと、前記大気温度センサ、前記容器温度センサおよび前記湿度センサの出力信号をそれぞれ受け被測定大気の霧水量を算出して出力する演算部と、この演算部の出力信号を受け被測定大気の霧水量を表示する表示部とにより構成され、前記演算部が測定容器内の温度と相対湿度とから被測定大気中の水蒸気量を算出し、この水蒸気量から前記被測定大気の温度によって決まる飽和水蒸気量を差し引くことによって大気中の霧水量を算出することを特徴とする大気中の霧水量を測定する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】第2783393号
【登録日】平成10年(1998)5月22日
【発行日】平成10年(1998)8月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−178532
【出願日】平成3年(1991)7月19日
【公開番号】特開平5−26828
【公開日】平成5年(1993)2月2日
【審査請求日】平成8年(1996)8月14日
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【参考文献】
【文献】特開 昭61−164141(JP,A)
【文献】特開 昭53−23679(JP,A)