大粒径骨材を使用した排水性アスファルト舗装
【課題】長期の耐久性を持続し、空隙つぶれ、空隙詰りにより騒音低減の効果の低下を防止する。
【解決手段】路床1、路盤2上に、アスファルト混合物からなる基層3、表層4を順に設けたアスファルト舗装構造である。その表層4を、38〜2.36mm粒径の粗骨材と石粉及びアスファルトからなる混合物で形成する。この表層4構成であると、路面に降った雨水は表層内を伝って円滑に側溝へ排水される。また、大型車交通量が多い場合においても長期間の耐久性を保ち、また空隙つぶれや空隙詰りが起こりにくく、施工後長期に渡って排水機能、騒音低減効果を維持する。表層4のアスファルトは、混合物に対する重量比で2〜4%、砕砂が含まれれば、その砕砂及び石粉の粒径:2.36mmに満たないものは、混合物に対する重量比で10%以下とする。
【解決手段】路床1、路盤2上に、アスファルト混合物からなる基層3、表層4を順に設けたアスファルト舗装構造である。その表層4を、38〜2.36mm粒径の粗骨材と石粉及びアスファルトからなる混合物で形成する。この表層4構成であると、路面に降った雨水は表層内を伝って円滑に側溝へ排水される。また、大型車交通量が多い場合においても長期間の耐久性を保ち、また空隙つぶれや空隙詰りが起こりにくく、施工後長期に渡って排水機能、騒音低減効果を維持する。表層4のアスファルトは、混合物に対する重量比で2〜4%、砕砂が含まれれば、その砕砂及び石粉の粒径:2.36mmに満たないものは、混合物に対する重量比で10%以下とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大粒径骨材を使用した排水性アスファルト舗装用アスファルト混合物及びその混合物を用いた排水性アスファルト舗装構造に関し、特に、大型車交通量が多い場合においても耐久性が高く、空隙詰りや空隙つぶれによる透水性の機能低下がなく、かつ騒音低減の効果が長期にわたり維持される混合物及びその排水性舗装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
道路におけるアスファルト舗装は、図1に示すように、路床1上に、路盤2、基層3及び表層4を順に設けた構造であり、従来、雨水による酸化および劣化、あるいはストリッピング現象の防止などを防ぐために、基層3及び表層4をアスファルト混合物を用いた不透水性として表面排水することに主眼がおかれてきた。
しかし、近年、車道用透水性舗装に耐え得る高品質のアスファルトが開発され、アスファルト舗装においても試行錯誤を繰り返しながらも、その排水性舗装が普及しつつある。
その排水性舗装は、周知の通り、雨天時の水はね防止、ハイドロプレーニングの防止、夜間および雨天時の視認性の向上、また、車両の走行騒音の低減など、高機能を有する特徴を持っている。
【0003】
しかし、排水性舗装は、大型車交通量が多い場合に2〜4年で空隙つぶれを引き起こし、排水機能および騒音低減の効果が低下すること、また、空隙率が大きいため、雨水、日光および空気等による劣化を受けやすく、密粒度アスコン等に比べて耐久性がやや劣る難点がある。さらに、従来の密粒度アスファルト舗装に比べて工費は1.3倍程度かかるといわれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その従来の排水性舗装における表層4に使用している排水性アスファルト混合物の最大粒径は13mm以下であり、その混合物の安定度は骨材の噛合せに依存している。
【0005】
また、路面に降った雨水を路盤2及び路床1に浸透させる透水性舗装を行った例では、3層あるいはそれ以上の多層構造の舗装が行われている(特許文献1、非特許文献1参照)。この舗装構造も、最大粒径:20mm以下の骨材に細骨材(砂)を混合して使用している。
【特許文献1】特開2001−11811号公報
【非特許文献1】「二層構造式排水性の機能特性について」土木学会平成10年度関西支部年次学術講演会講演集第V部、V-33-1-2、1998
【0006】
この発明は、排水性アスファルト舗装において、従来の欠点である耐久性が低いこと、空隙つぶれや空隙詰りにより排水性能が低下すること及び空隙つぶれや空隙詰りにより騒音低減の効果が低下するのに対して、耐久性が高く、排水性能や騒音低減効果を長期間維持でき、また路面に降った雨水を表層、基層の舗装上面を伝い側溝へ円滑に排水できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
アスファルト舗装要綱に示されている排水性舗装用アスファルト混合物の粒度で施工した場合、その表層に使用しているこれまでのアスファルト混合物の最大粒径は、上述のように、20mm以下が一般的であり、交通解放後に生じる空隙つぶれや空隙詰まりによる機能低下や耐久性がしばしば問題になっている。
【0008】
これらの防止策の一つとして、まず、一般に排水性舗装に用いられている13mm〜10mmの最大粒径の骨材より、さらに大きい骨材を用いた方が期待できるのではないだろうか、と本願発明者らは考えた。
つぎに、一般的に、混合物の安定度は骨材の噛合わせに依存しており、その噛合せ強度は、従来から、大、中、小の粒子が混じっている粒度、すなわち連続粒度が良いとされている。
しかし、本願発明者らは、大粒径骨材を使用し、その大粒径骨材間に、従来の砂のような丸い小さい粒子が存在すれば、その小さい粒子が、大粒径の骨材を滑らすベアリングのような役目をして、強度が小さくなるのではないか、と考えた。また、砂のような丸い小さい粒子を存在させないことにより、空隙つぶれや空隙詰まりが生じなくなるのではないか、と考えた。
【0009】
その考えを裏付けるため、実際の現場施工を想定し、プラントの性能や施工機械を考慮して、最大粒径38mm以下について検討することとした。因みに、これまでのアスファルト混合物は全て2.36mm以下の細骨材も混入されている。上述の過去の研究や施工例をみても2.36mm以下の細骨材を使用していないものは見当たらない。
【0010】
従って、この発明では、最大粒径38mm以下のアスファルト混合物について、以下に示すように、細骨材を使用した場合と細骨材を使用しない場合の両者について比較実験を行ったところ、細骨材を使用しない場合において、空隙詰りが少なく、透水機能や騒音低減の効果が低下しない結果を得た。
これは、大粒径の骨材を使用した場合、砂のような丸い粒子が存在することによって、大粒径の骨材を滑らすベアリングのような役目して、その大粒径の骨材が回って移動して、空隙つぶれの原因になり、また砂粒子により空隙詰りの原因になり、透水機能や騒音低減の効果が低下する、と考えられ、上記考えの裏付けと言える。
【0011】
このような点から、この発明は、排水性アスファルト舗装用アスファルト混合物を、粒径:38〜2.36mmの粗骨材、石粉及びアスファルトからなる構成としたのである。石粉としては、石灰石粉末等が考えられ、その添加量は、混合物に対し、4〜8(重量%)、好ましくは6%である。
【0012】
このとき、砕砂が含まれる場合には、その砕砂及び石粉の粒径:2.36mmに満たないものの合計が上記粗骨材、石粉及び前記砕砂の合計重量比で10%以下とする。また、上記アスファルトは、高粘度型改質アスファルト、改質アスファルトIIなどを使用し、混合物全体に対する重量比で2〜4%、好ましくは3%にすることができる。
【0013】
従来と同様に、路盤上に、アスファルト混合物からなる基層及び表層を順に設けたアスファルト舗装構造において、これらの排水性アスファルト舗装用アスファルト混合物により、その表層を構成すれば、所要の作用効果(目的)を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、路面に降った雨水を舗装面を伝って容易に側溝へ排水することができ、大型車交通量が多い場合においても長期間の耐久性を保つことが可能であり、また空隙つぶれや空隙詰りが起こりにくくなり、施工後長期に渡って排水機能、騒音低減効果を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1.室内実験の概要
(1)使用材料
使用した粗骨材は、大阪府高槻市産の硬質砂岩の砕石で、表1に示す品質のものを使用した。
【表1】
【0016】
細骨材は、大阪淀川産の天然砂で2.36mm以下のものを使用し、比重は2.581、吸水率は0.96%である。フィラーは石灰岩粉末で比重2.714である。
バインダーは改質アスファルトII型で、針入度54,密度1.036g/cm3 (15℃)、軟化点62℃のものである。
【0017】
(2)骨材粒度
粗骨材の粒度配合は無数に設定することができる。大粒径混合物の粒度については、国土交通省の推奨値はあるが排水性用の粒度でないため、独自に設定することとした。
この実施形態で設定した混合物の骨材粒度とその呼び名は、表2に示すとおりで、フラー曲線を参考に決定した。すなわち、骨材の最大粒径を37.5mm、31.5および26.5mmとし、2.36mm以下の細骨材を使用する場合および使用しない場合の7種類(N38、N32、N27、S38、S32、S27、S13)を設定した。フィラー量は全て6%とした。なお、表中の呼び名は、Sが細骨材を使用した粒度を、Nは細骨材を使用しない粒度を表す。設定したそれぞれの粒度は、その最大粒径を使用した時の最適粒度であるかどうかは明らかでないが、最適から極端にかけ離れた粒度でないと考える。
【表2】
【0018】
(3)最適アスファルト量の推定
最適アスファルト量は、排水性混合物の付着試験(JHS234-1992)およびカンタブロ試験(JHS232-1992)から検討した。
図2は、混合物:N38、N32、N27、S38、S32、S27において、アスファルト量2.0%〜4.0%まで変化させた時の付着試験の結果を示したものである。いずれの混合物においても、アスファルト量の増加に伴い付着損失率は増加し、アスファルト量3.0%を境に急激な変化が見られる。
【0019】
同様に、図3は、カンタブロ試験の結果を示したものである。カンタブロ損失率は、アスファルト量の増加に伴って減少し、アスファルト量2.5〜3.0%で損失率の変化が急激に小さくなることがわかる。
また、この図におけるS38とN27のカンタブロ損失率は、他の混合物と比較して、非常に大きくなっており、S38においては最適アスファルト量を推定できるような結果が得られなかった。
【0020】
両者の試験結果より、S38を除く混合物の最適アスファルト量はいずれも3.0%程度である。試験開始前には、細骨材混入の有無によって最適アスファルト量は多少違うのではと予想していたが、同一アスファルト量となった。アスファルト量3.0%は通常の排水性混合物の3〜6%よりもはるかに少ない。この要因は、大粒径骨材を使用しているために骨材表面積、つまりアスファルトの付着面積が極端に小さくなったためと考えられる。
【0021】
表3は、付着試験およびカンタブロ試験から最適と思われるアスファルト量3.0%の損失率、および参考データとして大型マーシャル安定度試験結果などを一括表示したものである。
【表3】
【0022】
この表に示しているアスファルト量3%での付着損失率は最大粒径が大きいほど大きい。一方、カンタブロ損失率は細骨材を含む粒度では最大粒径の大きい方が大きい。逆に、細骨材を含まない粒度では最大粒径の大きい方がその損失率は小さい。この試験法は、もともと排水性混合物の飛散抵抗性を評価する方法として考案されたもので、この見地からすると多少のバラツキはあるものの細骨材を含まない粒度の方が骨材の飛散抵抗が優れている。
【0023】
これらの最適アスファルト量推定結果から、以後の試験ではS38とN27を除く混合物、すなわち、細骨材を含むS32とS27,および細骨材を含まないN38とN32の大粒径骨材を使用した混合物について検討する。さらに、従来からの13mm排水性混合物(以後、S13と呼ぶ)とも比較することとした。S13の粒度配合は舗装要綱に示されているほぼ中央の粒度を使用し、室内試験からの最適アスファルト量は4.5%である。
【0024】
(4)吸音性に関する試験
吸音率試験はそれぞれ同一配合のものを2個づつφ9.80cm×6.53cmの供試体を標準マーシャル突固め機で作成し、管内法による2マイクロホン法(JIS A 1405)によって垂直入射吸音率を測定した。煩雑を避けるため本報告では図示していないが、いずれの供試体も吸音率と周波数の関係から約630Hzでピークを持つ曲線を描き、排水性舗装の特徴を有していた。
【0025】
図4は、測定で得られたピーク時の吸音率と空隙率との関係を図示したものである。この図によると、S27を除く大粒径骨材では空隙率20%付近で、吸音率が約0.85と最も高くなっている。ところで、この図に示している13mm排水性混合物の吸音率は約0.60で小さい値を示している。この原因は作成した供試体の空隙率が約13.5%であり、大粒径のそれに比べて空隙率が小さかったためと思われる。筆者らと同一試験法で測定した前野ら)の吸音率は約0.70,川眞田ら)のそれは空隙率13.8%で約0.20,空隙率21.0%で約0.73を報告している。
【0026】
周知のとおり、路面の走行騒音測定から13mmより10mm、 10mmより8mmと最大粒径が小さいほど低騒音になることが報告されている。これらの報告を踏まえ、本実験開始前までは、大粒径骨材を使用した場合、13mm排水性と比べてどの程度の吸音率を示すか、また騒音が大きくなるかに関心があった。走行による騒音はともかく、吸音率に限定するならば、大粒径を使用しても配合しだいでそれほど遜色のないアスファルト混合物ができるのではという感触を得た。
【0027】
(5)透水性に関する試験
a)変位透水試験
大粒径排水性混合物の透水機能を評価するためにφ15.24cm×9.53cmの供試体を大型マーシャル突固め機によって作成し、変位透水試験を実施した。
試験方法は、供試体をモールドから取り出さず、その上部にカラーを取り付け、カラー内に水を入れて供試体表面から水位が5cmから0cmになるまでの時間を測定し、透水係数を算出した。
【0028】
各混合物の透水係数は図5に示すとおりで、大粒径混合物の透水係数は排水性混合物の目標値である1.0×10-2cm/sec以上であり、13mm(S13)の排水性と比較しても非常に透水機能に優れている。
【0029】
b)空隙詰まり透水試験
13mm排水性混合物(S13)は、しばしば、空隙詰まりおよび空隙つぶれによる排水機能の低下が問題になっている。本実験は、この空隙詰まりを強制的に引き起こさせるために10%石膏水溶液を流し込み、水溶液乾燥後の変位透水試験を実施したものである。
図6は、この空隙詰まりと透水試験の結果である。大粒径混合物は、空隙詰まりを引き起こした後でも、透水係数の目標値以上の透水係数が得られている。
【0030】
上述のa)およびb)の変位透水試験結果からは多少のバラツキはあるものの、総じて、細骨材粒子が入っていないN混合物より、入っているS混合物の方が透水性能は良いように思われる。
【0031】
c)空隙つぶれ透水試験
空隙つぶれ透水試験は、30×30×10cmのWT試験用供試体を作成し、道路保全技術センター開発のものと同型の現場透水試験器によって実施した。 WT試験のトラバース無走行時およびトラバース走行(1回の走行時間は1時間)5回までの転圧した供試体の透水試験を実施し、得られた結果を示したものが図7である。
この図によると、変位透水試験の結果とは逆で、細骨材を使用しないN32およびN38はトラバース転圧を5回実施した後も、他の混合物の処女供試体時における透水量と遜色のない透水性能が確保されている。一方、細骨材を使用したS27およびS32では転圧回数3回で透水量は低下し、ほとんど透水機能を失った状態になっている。また、S13においては転圧回数2回でその機能を消失した。一般に、アスファルト混合物は、一定の骨材粒度を保持するために細骨材(砂)を用いるが、この試験結果から細骨材を入れた混合物の方が空隙つぶれし易く、いわゆる有効空隙の確保が難しくなると推測される。 言い換えるなら、繰返し荷重によって粗骨材の粒子間に存在する丸い細骨材粒子がベアリングの役割をしているためと思われる。
【0032】
(6)耐久性に関する試験
a)ホイールトラッキング試験
大粒径混合物の耐久性を検討するためにWT試験を実施した。試験は処女供試体と上述の空隙つぶれ透水試験で使用した供試体(トラバース転圧後のもの)を使用した。
図8は処女供試体とトラバース転圧によって空隙つぶれを引き起こした供試体の動的安定度を図示したものである。S13を除く処女供試体の動的安定度は、各混合物にやや差はあるものの、トラバース転圧後のそれはほぼ同じ値となっている。すなわち、転圧前と転圧後の動的安定度はS13で約10倍、大粒径骨材では約2.5倍〜約4倍となっており、排水機能を失うまでのS13は大粒径骨材よりも転圧の影響が顕著であったことを示している。13mm排水性舗装を施工する場合、所定の空隙率を保持せんがために、十分締め固めない場合もあるようだが、耐久性を考慮するならば十分締め固めることが肝要であることを示している。
【0033】
b)ラベリング試験
排水性舗装を寒冷地に施工すると、タイヤチェーンなどの使用により、路面が削られる際に生じる塵埃などが空隙詰まりを起こし、機能低下の進行が通常より早いと言われている。特に、大粒径骨材を使用した時の耐摩耗性や飛散抵抗が、さらに今回使用しているアスファルト量が極端に少ないためにS13に比べて劣るのではないかという懸念がある。これらを検討するために、30×15×5cmの供試体を用い、往復チェーン型ラベリング試験を実施した。試験温度は−10℃である。
【0034】
図9はラベリング試験における磨耗量を示したもので、S32およびS27の磨耗量は少なく、S13と細骨材を使用しないN38、N32とは、ほぼ同程度の磨耗量である。この結果から、細骨材を使用しない大粒径骨材を使用した排水性混合物は、13mmの排水性混合物に比べて遜色がないと思われる。
【0035】
以上の種々の室内試験の結果から総合判断すると、N32とS27が最も良くほぼ同程度の品質の混合物で、次いでN27、S32であると思われる。
ところで、N32とS27であるが、両者の全ての供試体を作成時の表面を観察するとN32のほうが一様にきめ深さがあり、特にタンパーで締固め時の場合は顕著な差があった。実際、大粒径骨材を使用した排水性舗装を施工する場合、耐久性、排水性および低騒音性等を考慮すると、本試験の範囲内では最適と思われる粒度配合は、最大粒径32mmで細骨材を使用しない粒度であるという結論が得られた。
【0036】
2.プラント試験
上述の室内試験結果をふまえ、試験施工で実施する骨材の最大粒径は32mmを使用した粒度、すなわち、2.36mm以下の細骨材を使用しないN32をベースにした粒度配合を設定する。ただ、プラントでN32の粒度配合をする場合、細粒分は7号砕石で調整するので、多少の2.36mm以下の細骨材(砕砂)が含まれることになる。
また、プラントで使用する骨材およびアスファルトの品質が室内試験のものと違っているので、現場施工に先立ち、最適アスファルト量の設定をはじめ種々の実験を実施した。
【0037】
(1)合成粒度
プラントの試験練りで、実施された合成粒度は図10に示すとおりである。同図には、7号砕石のうち2.36mm以下の細骨材量は3.2%、石粉は6%含まれている。
【0038】
(2)最適アスファルト量の決定
図10の粒度を用いて、高粘度改質アスファルト量を2.0〜4.0%の範囲でアスファルトモルタルのダレ量を求めたものが図11である。このアスファルト量―ダレ損失量の関係曲線から、混合物静的状態で保持しうる最大アスファルト量、すなわち、最適アスファルト量を求めると3%である。このアスファルト量3%は、室内試験で実施したアスファルト量と一致している。
【0039】
(3)混合物の物性試験
アスファルト量3%の動的安定度およびマーシャル試験結果を一括表示したものが表4である。これらの試験値は室内試験とほぼ同様の値を示している。
【表4】
【0040】
(4)骨材のセグリゲーション
上記プラントで試験練りした混合物は、従来のアスファルト混合物と違って大粒径骨材の使用でほとんど細骨材を含まず、しかも極端にアスファルト量が少ないためにダンプトラックから練り落した時、大粒径骨材がどのように飛散するかを確かめるために、その混合物をダンプトラックから排出した。
【0041】
目視による観察であるが、やや周囲に飛散するように思われ、この時点では懸念材料の一つでもあった。しかしながら、実際、現場施工時にフィニッシャーで敷き均した時、まったくこの懸念は払拭され大粒径骨材が端に飛散することなく、ほぼ均一に敷き均すことができた。また、この混合物はダレ防止用の植物性繊維を添加していないため、アスファルトが実際にどの程度ダレるかについても関心があったが、この点についても杞憂であった。
【実施例】
【0042】
図1に示すように、路床1及び路盤2上の既設アスファルト舗装10cmのうち7cmを切削し、その既設アスファルト舗装3cmを基層3とし、その切削部に仕上げ厚さ7cmのこの発明に係る排水性舗装を施工した。なお、この舗装の比較検討のために、既設アスファルト舗装において、表層5cm厚の密粒度アスコン、基層には5cmの粗粒度アスコンも舗設した。
その排水性舗装に使用したアスファルト混合物の合成粒度は、図10に示すとおりである。また、アスファルト量は高粘度改質アスファルト3%を加えたものとした。
【0043】
公団型現場透水試験器による透水性試験結果では、最大1085ml/15sec、最小1015ml/15sec、6回の平均値は1050ml/15secであった。排水性舗装技術指針(案)では、900ml/15sec、舗装の構造に関する技術基準では1000ml/15sec以上とされていて、十分な透水性能を有することを確認した。
【0044】
測定車を用いた騒音測定の結果は、表5に示すとおりで、今回の大粒径排水性舗装では81.4dBであったのに対して、比較のために施工した密粒度舗装(13mm骨材を使用)では85.4dB、参考までに測定した他の地点の密粒度舗装(13mm骨材を使用)では86.1dB、他の地点の排水性舗装(13mm骨材を使用)では84.3dBであり、本発明による大粒径骨材を用いた排水性舗装では騒音低減効果が高いことが確認できた。
【表5】
【0045】
つぎに、この大粒径排水性混合物の透水性を評価するために直径15.24cm×9.53cmの供試体を大型マーシャル突固め機によって作成し、変位透水試験を実施した。試験方法は、供試体をモールドから取り出さず、その上部にカラーを取り付け、カラー内に水を入れて供試体表面から水位が5cmから0cmになるまでの時間を測定し、透水係数を算出した。
【0046】
さらに、この大粒径排水性混合物の透水性の目標値は1.0×10-2cm/sec以上であるのに対して、32mmの粗骨材を用いた大粒径混合物(空隙率24.1%)の透水係数は2.7×10-2cm/secであり、これに対して13mmの骨材を用いた排水性混合物(空隙率18.9%)では目標値と同程度の1.0×10-2cm/secであった。
【0047】
この大粒径排水性混合物の空隙詰りを強制的に引き起こさせるために、10%石膏水溶液を流し込み、水溶液乾燥後の変位透水試験を行った結果、この大粒径混合物は空隙詰りを引き起こした後でも目標値以上の透水係数が得られた。
空隙つぶれ透水試験は、30×30×10cmのホイールトラッキング(WT)試験用供試体を作成し、道路保全技術センター開発のものと同型の現場透水試験機によって実施した。
【0048】
この大粒径排水性混合物において、WT試験のトラバース無走行時およびトラバース走行(1回の走行時間は1時間)5回までの転圧した透水試験を実施したところ、要求される透水性能が確保されていた。
【0049】
また、WT試験においても、転圧前と転圧後の動的安定度は、約2.5倍〜約4倍であった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】一実施例の断面図
【図2】付着試験によるバインダー量と損失率の関係図
【図3】カンタブロ試験によるバインダー量と損失率の関係図
【図4】吸音率と空隙率の関係図
【図5】変水位透水試験図
【図6】空隙詰り透水試験図
【図7】空隙潰れ透水試験図
【図8】WT試験による動的安定度図
【図9】ラベリング試験による摩耗量図
【図10】実施例の合成粒度図
【図11】ダレ試験図
【符号の説明】
【0051】
1 路床
2 路盤
3 不透水性アスファルト舗装(基層)
4 粗骨材を用いた排水性アスファルト舗装(表層)
【技術分野】
【0001】
この発明は、大粒径骨材を使用した排水性アスファルト舗装用アスファルト混合物及びその混合物を用いた排水性アスファルト舗装構造に関し、特に、大型車交通量が多い場合においても耐久性が高く、空隙詰りや空隙つぶれによる透水性の機能低下がなく、かつ騒音低減の効果が長期にわたり維持される混合物及びその排水性舗装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
道路におけるアスファルト舗装は、図1に示すように、路床1上に、路盤2、基層3及び表層4を順に設けた構造であり、従来、雨水による酸化および劣化、あるいはストリッピング現象の防止などを防ぐために、基層3及び表層4をアスファルト混合物を用いた不透水性として表面排水することに主眼がおかれてきた。
しかし、近年、車道用透水性舗装に耐え得る高品質のアスファルトが開発され、アスファルト舗装においても試行錯誤を繰り返しながらも、その排水性舗装が普及しつつある。
その排水性舗装は、周知の通り、雨天時の水はね防止、ハイドロプレーニングの防止、夜間および雨天時の視認性の向上、また、車両の走行騒音の低減など、高機能を有する特徴を持っている。
【0003】
しかし、排水性舗装は、大型車交通量が多い場合に2〜4年で空隙つぶれを引き起こし、排水機能および騒音低減の効果が低下すること、また、空隙率が大きいため、雨水、日光および空気等による劣化を受けやすく、密粒度アスコン等に比べて耐久性がやや劣る難点がある。さらに、従来の密粒度アスファルト舗装に比べて工費は1.3倍程度かかるといわれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その従来の排水性舗装における表層4に使用している排水性アスファルト混合物の最大粒径は13mm以下であり、その混合物の安定度は骨材の噛合せに依存している。
【0005】
また、路面に降った雨水を路盤2及び路床1に浸透させる透水性舗装を行った例では、3層あるいはそれ以上の多層構造の舗装が行われている(特許文献1、非特許文献1参照)。この舗装構造も、最大粒径:20mm以下の骨材に細骨材(砂)を混合して使用している。
【特許文献1】特開2001−11811号公報
【非特許文献1】「二層構造式排水性の機能特性について」土木学会平成10年度関西支部年次学術講演会講演集第V部、V-33-1-2、1998
【0006】
この発明は、排水性アスファルト舗装において、従来の欠点である耐久性が低いこと、空隙つぶれや空隙詰りにより排水性能が低下すること及び空隙つぶれや空隙詰りにより騒音低減の効果が低下するのに対して、耐久性が高く、排水性能や騒音低減効果を長期間維持でき、また路面に降った雨水を表層、基層の舗装上面を伝い側溝へ円滑に排水できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
アスファルト舗装要綱に示されている排水性舗装用アスファルト混合物の粒度で施工した場合、その表層に使用しているこれまでのアスファルト混合物の最大粒径は、上述のように、20mm以下が一般的であり、交通解放後に生じる空隙つぶれや空隙詰まりによる機能低下や耐久性がしばしば問題になっている。
【0008】
これらの防止策の一つとして、まず、一般に排水性舗装に用いられている13mm〜10mmの最大粒径の骨材より、さらに大きい骨材を用いた方が期待できるのではないだろうか、と本願発明者らは考えた。
つぎに、一般的に、混合物の安定度は骨材の噛合わせに依存しており、その噛合せ強度は、従来から、大、中、小の粒子が混じっている粒度、すなわち連続粒度が良いとされている。
しかし、本願発明者らは、大粒径骨材を使用し、その大粒径骨材間に、従来の砂のような丸い小さい粒子が存在すれば、その小さい粒子が、大粒径の骨材を滑らすベアリングのような役目をして、強度が小さくなるのではないか、と考えた。また、砂のような丸い小さい粒子を存在させないことにより、空隙つぶれや空隙詰まりが生じなくなるのではないか、と考えた。
【0009】
その考えを裏付けるため、実際の現場施工を想定し、プラントの性能や施工機械を考慮して、最大粒径38mm以下について検討することとした。因みに、これまでのアスファルト混合物は全て2.36mm以下の細骨材も混入されている。上述の過去の研究や施工例をみても2.36mm以下の細骨材を使用していないものは見当たらない。
【0010】
従って、この発明では、最大粒径38mm以下のアスファルト混合物について、以下に示すように、細骨材を使用した場合と細骨材を使用しない場合の両者について比較実験を行ったところ、細骨材を使用しない場合において、空隙詰りが少なく、透水機能や騒音低減の効果が低下しない結果を得た。
これは、大粒径の骨材を使用した場合、砂のような丸い粒子が存在することによって、大粒径の骨材を滑らすベアリングのような役目して、その大粒径の骨材が回って移動して、空隙つぶれの原因になり、また砂粒子により空隙詰りの原因になり、透水機能や騒音低減の効果が低下する、と考えられ、上記考えの裏付けと言える。
【0011】
このような点から、この発明は、排水性アスファルト舗装用アスファルト混合物を、粒径:38〜2.36mmの粗骨材、石粉及びアスファルトからなる構成としたのである。石粉としては、石灰石粉末等が考えられ、その添加量は、混合物に対し、4〜8(重量%)、好ましくは6%である。
【0012】
このとき、砕砂が含まれる場合には、その砕砂及び石粉の粒径:2.36mmに満たないものの合計が上記粗骨材、石粉及び前記砕砂の合計重量比で10%以下とする。また、上記アスファルトは、高粘度型改質アスファルト、改質アスファルトIIなどを使用し、混合物全体に対する重量比で2〜4%、好ましくは3%にすることができる。
【0013】
従来と同様に、路盤上に、アスファルト混合物からなる基層及び表層を順に設けたアスファルト舗装構造において、これらの排水性アスファルト舗装用アスファルト混合物により、その表層を構成すれば、所要の作用効果(目的)を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、路面に降った雨水を舗装面を伝って容易に側溝へ排水することができ、大型車交通量が多い場合においても長期間の耐久性を保つことが可能であり、また空隙つぶれや空隙詰りが起こりにくくなり、施工後長期に渡って排水機能、騒音低減効果を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1.室内実験の概要
(1)使用材料
使用した粗骨材は、大阪府高槻市産の硬質砂岩の砕石で、表1に示す品質のものを使用した。
【表1】
【0016】
細骨材は、大阪淀川産の天然砂で2.36mm以下のものを使用し、比重は2.581、吸水率は0.96%である。フィラーは石灰岩粉末で比重2.714である。
バインダーは改質アスファルトII型で、針入度54,密度1.036g/cm3 (15℃)、軟化点62℃のものである。
【0017】
(2)骨材粒度
粗骨材の粒度配合は無数に設定することができる。大粒径混合物の粒度については、国土交通省の推奨値はあるが排水性用の粒度でないため、独自に設定することとした。
この実施形態で設定した混合物の骨材粒度とその呼び名は、表2に示すとおりで、フラー曲線を参考に決定した。すなわち、骨材の最大粒径を37.5mm、31.5および26.5mmとし、2.36mm以下の細骨材を使用する場合および使用しない場合の7種類(N38、N32、N27、S38、S32、S27、S13)を設定した。フィラー量は全て6%とした。なお、表中の呼び名は、Sが細骨材を使用した粒度を、Nは細骨材を使用しない粒度を表す。設定したそれぞれの粒度は、その最大粒径を使用した時の最適粒度であるかどうかは明らかでないが、最適から極端にかけ離れた粒度でないと考える。
【表2】
【0018】
(3)最適アスファルト量の推定
最適アスファルト量は、排水性混合物の付着試験(JHS234-1992)およびカンタブロ試験(JHS232-1992)から検討した。
図2は、混合物:N38、N32、N27、S38、S32、S27において、アスファルト量2.0%〜4.0%まで変化させた時の付着試験の結果を示したものである。いずれの混合物においても、アスファルト量の増加に伴い付着損失率は増加し、アスファルト量3.0%を境に急激な変化が見られる。
【0019】
同様に、図3は、カンタブロ試験の結果を示したものである。カンタブロ損失率は、アスファルト量の増加に伴って減少し、アスファルト量2.5〜3.0%で損失率の変化が急激に小さくなることがわかる。
また、この図におけるS38とN27のカンタブロ損失率は、他の混合物と比較して、非常に大きくなっており、S38においては最適アスファルト量を推定できるような結果が得られなかった。
【0020】
両者の試験結果より、S38を除く混合物の最適アスファルト量はいずれも3.0%程度である。試験開始前には、細骨材混入の有無によって最適アスファルト量は多少違うのではと予想していたが、同一アスファルト量となった。アスファルト量3.0%は通常の排水性混合物の3〜6%よりもはるかに少ない。この要因は、大粒径骨材を使用しているために骨材表面積、つまりアスファルトの付着面積が極端に小さくなったためと考えられる。
【0021】
表3は、付着試験およびカンタブロ試験から最適と思われるアスファルト量3.0%の損失率、および参考データとして大型マーシャル安定度試験結果などを一括表示したものである。
【表3】
【0022】
この表に示しているアスファルト量3%での付着損失率は最大粒径が大きいほど大きい。一方、カンタブロ損失率は細骨材を含む粒度では最大粒径の大きい方が大きい。逆に、細骨材を含まない粒度では最大粒径の大きい方がその損失率は小さい。この試験法は、もともと排水性混合物の飛散抵抗性を評価する方法として考案されたもので、この見地からすると多少のバラツキはあるものの細骨材を含まない粒度の方が骨材の飛散抵抗が優れている。
【0023】
これらの最適アスファルト量推定結果から、以後の試験ではS38とN27を除く混合物、すなわち、細骨材を含むS32とS27,および細骨材を含まないN38とN32の大粒径骨材を使用した混合物について検討する。さらに、従来からの13mm排水性混合物(以後、S13と呼ぶ)とも比較することとした。S13の粒度配合は舗装要綱に示されているほぼ中央の粒度を使用し、室内試験からの最適アスファルト量は4.5%である。
【0024】
(4)吸音性に関する試験
吸音率試験はそれぞれ同一配合のものを2個づつφ9.80cm×6.53cmの供試体を標準マーシャル突固め機で作成し、管内法による2マイクロホン法(JIS A 1405)によって垂直入射吸音率を測定した。煩雑を避けるため本報告では図示していないが、いずれの供試体も吸音率と周波数の関係から約630Hzでピークを持つ曲線を描き、排水性舗装の特徴を有していた。
【0025】
図4は、測定で得られたピーク時の吸音率と空隙率との関係を図示したものである。この図によると、S27を除く大粒径骨材では空隙率20%付近で、吸音率が約0.85と最も高くなっている。ところで、この図に示している13mm排水性混合物の吸音率は約0.60で小さい値を示している。この原因は作成した供試体の空隙率が約13.5%であり、大粒径のそれに比べて空隙率が小さかったためと思われる。筆者らと同一試験法で測定した前野ら)の吸音率は約0.70,川眞田ら)のそれは空隙率13.8%で約0.20,空隙率21.0%で約0.73を報告している。
【0026】
周知のとおり、路面の走行騒音測定から13mmより10mm、 10mmより8mmと最大粒径が小さいほど低騒音になることが報告されている。これらの報告を踏まえ、本実験開始前までは、大粒径骨材を使用した場合、13mm排水性と比べてどの程度の吸音率を示すか、また騒音が大きくなるかに関心があった。走行による騒音はともかく、吸音率に限定するならば、大粒径を使用しても配合しだいでそれほど遜色のないアスファルト混合物ができるのではという感触を得た。
【0027】
(5)透水性に関する試験
a)変位透水試験
大粒径排水性混合物の透水機能を評価するためにφ15.24cm×9.53cmの供試体を大型マーシャル突固め機によって作成し、変位透水試験を実施した。
試験方法は、供試体をモールドから取り出さず、その上部にカラーを取り付け、カラー内に水を入れて供試体表面から水位が5cmから0cmになるまでの時間を測定し、透水係数を算出した。
【0028】
各混合物の透水係数は図5に示すとおりで、大粒径混合物の透水係数は排水性混合物の目標値である1.0×10-2cm/sec以上であり、13mm(S13)の排水性と比較しても非常に透水機能に優れている。
【0029】
b)空隙詰まり透水試験
13mm排水性混合物(S13)は、しばしば、空隙詰まりおよび空隙つぶれによる排水機能の低下が問題になっている。本実験は、この空隙詰まりを強制的に引き起こさせるために10%石膏水溶液を流し込み、水溶液乾燥後の変位透水試験を実施したものである。
図6は、この空隙詰まりと透水試験の結果である。大粒径混合物は、空隙詰まりを引き起こした後でも、透水係数の目標値以上の透水係数が得られている。
【0030】
上述のa)およびb)の変位透水試験結果からは多少のバラツキはあるものの、総じて、細骨材粒子が入っていないN混合物より、入っているS混合物の方が透水性能は良いように思われる。
【0031】
c)空隙つぶれ透水試験
空隙つぶれ透水試験は、30×30×10cmのWT試験用供試体を作成し、道路保全技術センター開発のものと同型の現場透水試験器によって実施した。 WT試験のトラバース無走行時およびトラバース走行(1回の走行時間は1時間)5回までの転圧した供試体の透水試験を実施し、得られた結果を示したものが図7である。
この図によると、変位透水試験の結果とは逆で、細骨材を使用しないN32およびN38はトラバース転圧を5回実施した後も、他の混合物の処女供試体時における透水量と遜色のない透水性能が確保されている。一方、細骨材を使用したS27およびS32では転圧回数3回で透水量は低下し、ほとんど透水機能を失った状態になっている。また、S13においては転圧回数2回でその機能を消失した。一般に、アスファルト混合物は、一定の骨材粒度を保持するために細骨材(砂)を用いるが、この試験結果から細骨材を入れた混合物の方が空隙つぶれし易く、いわゆる有効空隙の確保が難しくなると推測される。 言い換えるなら、繰返し荷重によって粗骨材の粒子間に存在する丸い細骨材粒子がベアリングの役割をしているためと思われる。
【0032】
(6)耐久性に関する試験
a)ホイールトラッキング試験
大粒径混合物の耐久性を検討するためにWT試験を実施した。試験は処女供試体と上述の空隙つぶれ透水試験で使用した供試体(トラバース転圧後のもの)を使用した。
図8は処女供試体とトラバース転圧によって空隙つぶれを引き起こした供試体の動的安定度を図示したものである。S13を除く処女供試体の動的安定度は、各混合物にやや差はあるものの、トラバース転圧後のそれはほぼ同じ値となっている。すなわち、転圧前と転圧後の動的安定度はS13で約10倍、大粒径骨材では約2.5倍〜約4倍となっており、排水機能を失うまでのS13は大粒径骨材よりも転圧の影響が顕著であったことを示している。13mm排水性舗装を施工する場合、所定の空隙率を保持せんがために、十分締め固めない場合もあるようだが、耐久性を考慮するならば十分締め固めることが肝要であることを示している。
【0033】
b)ラベリング試験
排水性舗装を寒冷地に施工すると、タイヤチェーンなどの使用により、路面が削られる際に生じる塵埃などが空隙詰まりを起こし、機能低下の進行が通常より早いと言われている。特に、大粒径骨材を使用した時の耐摩耗性や飛散抵抗が、さらに今回使用しているアスファルト量が極端に少ないためにS13に比べて劣るのではないかという懸念がある。これらを検討するために、30×15×5cmの供試体を用い、往復チェーン型ラベリング試験を実施した。試験温度は−10℃である。
【0034】
図9はラベリング試験における磨耗量を示したもので、S32およびS27の磨耗量は少なく、S13と細骨材を使用しないN38、N32とは、ほぼ同程度の磨耗量である。この結果から、細骨材を使用しない大粒径骨材を使用した排水性混合物は、13mmの排水性混合物に比べて遜色がないと思われる。
【0035】
以上の種々の室内試験の結果から総合判断すると、N32とS27が最も良くほぼ同程度の品質の混合物で、次いでN27、S32であると思われる。
ところで、N32とS27であるが、両者の全ての供試体を作成時の表面を観察するとN32のほうが一様にきめ深さがあり、特にタンパーで締固め時の場合は顕著な差があった。実際、大粒径骨材を使用した排水性舗装を施工する場合、耐久性、排水性および低騒音性等を考慮すると、本試験の範囲内では最適と思われる粒度配合は、最大粒径32mmで細骨材を使用しない粒度であるという結論が得られた。
【0036】
2.プラント試験
上述の室内試験結果をふまえ、試験施工で実施する骨材の最大粒径は32mmを使用した粒度、すなわち、2.36mm以下の細骨材を使用しないN32をベースにした粒度配合を設定する。ただ、プラントでN32の粒度配合をする場合、細粒分は7号砕石で調整するので、多少の2.36mm以下の細骨材(砕砂)が含まれることになる。
また、プラントで使用する骨材およびアスファルトの品質が室内試験のものと違っているので、現場施工に先立ち、最適アスファルト量の設定をはじめ種々の実験を実施した。
【0037】
(1)合成粒度
プラントの試験練りで、実施された合成粒度は図10に示すとおりである。同図には、7号砕石のうち2.36mm以下の細骨材量は3.2%、石粉は6%含まれている。
【0038】
(2)最適アスファルト量の決定
図10の粒度を用いて、高粘度改質アスファルト量を2.0〜4.0%の範囲でアスファルトモルタルのダレ量を求めたものが図11である。このアスファルト量―ダレ損失量の関係曲線から、混合物静的状態で保持しうる最大アスファルト量、すなわち、最適アスファルト量を求めると3%である。このアスファルト量3%は、室内試験で実施したアスファルト量と一致している。
【0039】
(3)混合物の物性試験
アスファルト量3%の動的安定度およびマーシャル試験結果を一括表示したものが表4である。これらの試験値は室内試験とほぼ同様の値を示している。
【表4】
【0040】
(4)骨材のセグリゲーション
上記プラントで試験練りした混合物は、従来のアスファルト混合物と違って大粒径骨材の使用でほとんど細骨材を含まず、しかも極端にアスファルト量が少ないためにダンプトラックから練り落した時、大粒径骨材がどのように飛散するかを確かめるために、その混合物をダンプトラックから排出した。
【0041】
目視による観察であるが、やや周囲に飛散するように思われ、この時点では懸念材料の一つでもあった。しかしながら、実際、現場施工時にフィニッシャーで敷き均した時、まったくこの懸念は払拭され大粒径骨材が端に飛散することなく、ほぼ均一に敷き均すことができた。また、この混合物はダレ防止用の植物性繊維を添加していないため、アスファルトが実際にどの程度ダレるかについても関心があったが、この点についても杞憂であった。
【実施例】
【0042】
図1に示すように、路床1及び路盤2上の既設アスファルト舗装10cmのうち7cmを切削し、その既設アスファルト舗装3cmを基層3とし、その切削部に仕上げ厚さ7cmのこの発明に係る排水性舗装を施工した。なお、この舗装の比較検討のために、既設アスファルト舗装において、表層5cm厚の密粒度アスコン、基層には5cmの粗粒度アスコンも舗設した。
その排水性舗装に使用したアスファルト混合物の合成粒度は、図10に示すとおりである。また、アスファルト量は高粘度改質アスファルト3%を加えたものとした。
【0043】
公団型現場透水試験器による透水性試験結果では、最大1085ml/15sec、最小1015ml/15sec、6回の平均値は1050ml/15secであった。排水性舗装技術指針(案)では、900ml/15sec、舗装の構造に関する技術基準では1000ml/15sec以上とされていて、十分な透水性能を有することを確認した。
【0044】
測定車を用いた騒音測定の結果は、表5に示すとおりで、今回の大粒径排水性舗装では81.4dBであったのに対して、比較のために施工した密粒度舗装(13mm骨材を使用)では85.4dB、参考までに測定した他の地点の密粒度舗装(13mm骨材を使用)では86.1dB、他の地点の排水性舗装(13mm骨材を使用)では84.3dBであり、本発明による大粒径骨材を用いた排水性舗装では騒音低減効果が高いことが確認できた。
【表5】
【0045】
つぎに、この大粒径排水性混合物の透水性を評価するために直径15.24cm×9.53cmの供試体を大型マーシャル突固め機によって作成し、変位透水試験を実施した。試験方法は、供試体をモールドから取り出さず、その上部にカラーを取り付け、カラー内に水を入れて供試体表面から水位が5cmから0cmになるまでの時間を測定し、透水係数を算出した。
【0046】
さらに、この大粒径排水性混合物の透水性の目標値は1.0×10-2cm/sec以上であるのに対して、32mmの粗骨材を用いた大粒径混合物(空隙率24.1%)の透水係数は2.7×10-2cm/secであり、これに対して13mmの骨材を用いた排水性混合物(空隙率18.9%)では目標値と同程度の1.0×10-2cm/secであった。
【0047】
この大粒径排水性混合物の空隙詰りを強制的に引き起こさせるために、10%石膏水溶液を流し込み、水溶液乾燥後の変位透水試験を行った結果、この大粒径混合物は空隙詰りを引き起こした後でも目標値以上の透水係数が得られた。
空隙つぶれ透水試験は、30×30×10cmのホイールトラッキング(WT)試験用供試体を作成し、道路保全技術センター開発のものと同型の現場透水試験機によって実施した。
【0048】
この大粒径排水性混合物において、WT試験のトラバース無走行時およびトラバース走行(1回の走行時間は1時間)5回までの転圧した透水試験を実施したところ、要求される透水性能が確保されていた。
【0049】
また、WT試験においても、転圧前と転圧後の動的安定度は、約2.5倍〜約4倍であった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】一実施例の断面図
【図2】付着試験によるバインダー量と損失率の関係図
【図3】カンタブロ試験によるバインダー量と損失率の関係図
【図4】吸音率と空隙率の関係図
【図5】変水位透水試験図
【図6】空隙詰り透水試験図
【図7】空隙潰れ透水試験図
【図8】WT試験による動的安定度図
【図9】ラベリング試験による摩耗量図
【図10】実施例の合成粒度図
【図11】ダレ試験図
【符号の説明】
【0051】
1 路床
2 路盤
3 不透水性アスファルト舗装(基層)
4 粗骨材を用いた排水性アスファルト舗装(表層)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径:38〜2.36mmの粗骨材、石粉及びアスファルトからなる排水性アスファルト舗装用アスファルト混合物。
【請求項2】
砕砂が含まれる場合には、その砕砂及び石粉の粒径:2.36mmに満たないものの合計が上記粗骨材、石粉及び前記砕砂の合計重量比で10%以下であることを特徴とする請求項1の排水性アスファルト舗装用アスファルト混合物。
【請求項3】
上記アスファルトは、混合物全体に対する重量比で2〜4%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排水性アスファルト舗装用アスファルト混合物。
【請求項4】
路盤2上に、アスファルト混合物からなる基層3及び表層4を順に設けたアスファルト舗装構造において、
上記表層4を、請求項1乃至3の何れかに記載のアスファルト混合物により形成したことを特徴とする排水性アスファルト舗装構造。
【請求項1】
粒径:38〜2.36mmの粗骨材、石粉及びアスファルトからなる排水性アスファルト舗装用アスファルト混合物。
【請求項2】
砕砂が含まれる場合には、その砕砂及び石粉の粒径:2.36mmに満たないものの合計が上記粗骨材、石粉及び前記砕砂の合計重量比で10%以下であることを特徴とする請求項1の排水性アスファルト舗装用アスファルト混合物。
【請求項3】
上記アスファルトは、混合物全体に対する重量比で2〜4%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排水性アスファルト舗装用アスファルト混合物。
【請求項4】
路盤2上に、アスファルト混合物からなる基層3及び表層4を順に設けたアスファルト舗装構造において、
上記表層4を、請求項1乃至3の何れかに記載のアスファルト混合物により形成したことを特徴とする排水性アスファルト舗装構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−28828(P2006−28828A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207454(P2004−207454)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(591141784)学校法人大阪産業大学 (49)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(591141784)学校法人大阪産業大学 (49)
【Fターム(参考)】
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